説明

重合性液晶化合物、重合性液晶組成物及びこれの重合体

【課題】 室温でスメクチックA相を呈する重合性液晶組成物において、窒素置換することなく光重合することを可能にし、さらに光学異方体として高い耐熱性を実現するのに有用な重合性液晶化合物を提供する。
【解決手段】 一般式(I)
【化1】


で表される重合性液晶化合物であって、Yが−COO−又は−OCO−を表すことに特徴を有する。本願発明の重合性化合物を構成部材とする光学異方体は、耐熱性が高いことから位相差フィルム等に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位相差フィルム等の光学異方体を製造するのに有用な重合性液晶化合物及び組成物、これを用いた重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
重合性液晶材料を基板に塗布した後、配向させた状態で光重合させることにより位相差フィルムなどの光学異方体を製造する方法が知られている。重合性液晶材料がスメクチックA相を呈する状態で、光重合させるとスメクチック相の層構造が光学異方体中に固定化されることになりフォトニック素子等の新しい光機能素子としての応用が期待される。このスメクチックA相は、不必要な熱重合の誘起を抑制し、均一性に優れる光学異方体を製造するために、室温で呈することが好ましい。このような室温でスメクチックA相を呈する重合性液晶材料は特許文献1に記載されているが、単官能液晶性アクリレートを中心に構成されているため、空気中で光重合させることは困難で、窒素置換する必要があり、製造工程において取り扱いが煩雑になり、製造コストを増大させるという問題があった。
【0003】
また、重合性液晶材料がネマチック相を呈する状態で、光重合させて得られる光学異方体も位相差フィルム用として有用である。このようなフィルムは膜厚が数μmと薄くできるため、液晶セルの内部に位相差フィルムを設ける「In-cell」タイプ位相差フィルムが有望な用途であり、フィルムとして高い耐熱性が求められる。しかしながら、高い耐熱性を持つフィルムが得られる重合性液晶材料はなかった。
【0004】
【特許文献1】特開平8-283718
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、室温でスメクチックA相を呈する重合性液晶組成物において、窒素置換することなく光重合することを可能にし、さらに光学異方体として高い耐熱性を実現するのに有用な化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、重合性液晶化合物について検討した結果、課題を解決するに至った。すなわち、本発明は一般式(I)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、W及びWはそれぞれ独立的に単結合、−O−、−COO−又は−OCO−を表し、Yは−COO−又は−OCO−を表し、p及びqはそれぞれ独立的に2〜18の整数を表し、式中に存在する3種の1,4−フェニレン基の水素原子はそれぞれ独立的に、炭素原子数1〜7のアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、シアノ基又はハロゲン原子で一つ以上置換されていても良い。)で表される重合性液晶化合物を提供する。アクリロイルオキシ基を分子内に2つ有しているため、光重合時の反応性が高く、窒素置換する必要性が無い。さらに、分子内にビフェニル骨格を有しているため、スメクチックA相を呈しやすい。また、光学異方体として高い耐熱性を実現できる理由は必ずしも明確ではないが、ビフェニル骨格が分子間相互作用を強めていること関係していると考えられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の化合物を使用すると、室温でスメクチックA相を呈し、かつ窒素置換することなく光重合が可能になる重合性液晶組成物を調製できる。また、光学異方体として高い耐熱性を実現可能な重合性液晶組成物を調製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の一例について説明する。本発明の重合性液晶化合物は、紫外線または電子線などの活性エネルギー線により重合し、分子配列状態を保ったまま重合体(高分子)となる。化合物単体として使用しても良いし、他の化合物を混合して組成物として用いても良い。
一般式(I)は次に記載する一般式(Ia)
【0011】
【化2】

(式中、W及びWはそれぞれ独立的に単結合、−O−、−COO−又は−OCO−を表し、Yは−COO−又は−OCO−を表し、p及びqはそれぞれ独立的に2〜18の整数を表し、X及びXはそれぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1〜7のアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、シアノ基又はハロゲン原子を表す。)で表される重合性液晶化合物が好ましく、更に具体的には以下の化合物が好ましい。
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、p、qは一般式(I)における意味と同じ。)
このような化合物の中でも耐熱性や耐久性の点から、一般式(I-2)、一般式(I-5)、一般式(I-6)、一般式(I-9)又は一般式(I-10)の化合物が好ましく、一般式(I-2)の化合物が特に好ましい。
本発明の化合物は、通常の有機合成で用いられる手法で合成することができる。例えば、以下のような合成例を挙げることができる。
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、p、qは一般式(I)における意味と同じ)
(S-1)のアルコール誘導体を酸触媒下でアクリル酸と反応させて(S-2)を得る。(S-2)と(S-3)の2-(4-ヒドロキシフェニル)エタノールを炭酸カリウム等の塩基触媒を用いて反応させて(S-4)のフェネチルアルコール誘導体を得る。次に、(S-5)の4-ヒドロキシ-4’-カルボキシメチルビフェニルと(S-6)を反応させて(S-7)を得て、さらに加水分解して(S-8)を得る。さらに(S-8)を酸触媒下でアクリル酸と反応させて(S-9)を得る。最後に、(S-9)と(S-4)をジシクロヘキシルカルボジイミド等の縮合剤を用いて反応させて(S-10)のような本発明の化合物を合成することができる。
【0016】
次に本発明の重合性液晶組成物について説明する。本発明の重合性液晶組成物は、室温でスメクチックA相またはネマチック相を呈するように調製するのが好ましい。具体的には35℃以下、このましくは30℃以下、さらに好ましくは25℃以下でもスメクチックA相またはネマチック相が保たれるようにするのが好ましい。また、スメクチックA相を示す温度より高い温度域においてネマチック相を呈するように設計するのが好ましい。このようにするとネマチック相状態で配向させた後に、スメクチックA相に転移させることによって良好な配向状態を容易に得ることが可能になる。
【0017】
本発明の重合性液晶組成物には、一般式(I)で表される本発明の化合物の他に、この技術分野で重合性液晶化合物と認識されるものであれば特に制限無く添加することができる。しかしながら、本発明の重合性液晶組成物を窒素置換することなく、光重合可能にするためには、重合性官能基を分子内に2つ以上持つ化合物を添加することが好ましい。このような2官能以上の化合物としては、上記液晶温度範囲を実現する観点から、一般式(II)
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、W、Wはそれぞれ独立的に単結合、−O−、−COO−、−OCO−を表し、Y、Yはそれぞれ独立的に−COO−、−OCO−を表し、r、sはそれぞれ独立的に2〜18の整数を表し、1,4−フェニレン基は炭素原子数1〜7のアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、又はシアノ基、ハロゲン原子で一つ以上置換されていても良い)で表される化合物が好ましい。一般式(II)で表される化合物の中でも、(II-1)〜(II-8)で表される化合物が特に好ましい。
【0020】
【化6】

【0021】
(式中、r、sは一般式(II)における意味と同じ)
r、sはそれぞれ独立的に3〜6の整数が特に好ましい。
【0022】
この他にも、2官能液晶性アクリレートとしては、化合物(a−1)〜(a―10)のような化合物を含有させることができる。
【0023】
【化7】

【0024】
(式中、u、vは独立して2〜18の整数を表す)
u、vは3〜18が好ましく、4〜16が好ましく、6〜12がさらに好ましい。
【0025】
さらに、液晶温度範囲や複屈折率の調節、粘度低減を目的として本発明の目的を損なわない範囲で一般式(III)
【0026】
【化8】

【0027】
(式中、mは0〜18の整数を表し、mが0または1のときnは0を表し、mが2〜18のとき、nは0又は1の整数を表し、iは0〜2の整数を表し、6員環A、B、Cはそれぞれ独立的に、1,4-フェニレン基、1,4-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキセニル基、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル基、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル基、テトラヒドロチオピラン-2,5-ジイル基、1,4-ビシクロ(2,2,2)オクチレン基、デカヒドロナフタレン-2,6-ジイル基、ピリジン-2,5-ジイル基、ピリミジン-2,5-ジイル基、ピラジン-2,5-ジイル基、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基、2,6-ナフチレン基、フェナントレン-2,7-ジイル基、9,10-ジヒドロフェナントレン-2,7-ジイル基、1,2,3,4,4a,9,10a-オクタヒドロフェナントレン2,7-ジイル基、フルオレン2,7-ジイル基を表し、該1,4-フェニレン基、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基、2,6-ナフチレン基、フェナントレン-2,7-ジイル基、9,10-ジヒドロフェナントレン-2,7-ジイル基、1,2,3,4,4a,9,10a-オクタヒドロフェナントレン2,7-ジイル基及びフルオレン2,7-ジイル基は非置換であるか又は置換基として1個又は2個以上のF、Cl、CF3、OCF3又はCH3を有することができ、Y4 及びY5はそれぞれ独立的に、単結合、-COO-、-OCO-、-CH=N-、-N=CH-、-C≡C-、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2O-、-OCH2CH2CH2-、-CH2O-、-OCH2-、-CF2O-、-OCF2-、-CH=N-N=CH-、-CF=CF-、-CH=CH-、-CH2CH2CH=CH-、-CH=CHCH2CH2-、-CH2CH=CHCH2-、-CH=CHCOO-、-OCOCH=CH-、-CH2CH2OCO-、-COOCH2CH2-を表し、Y6はそれぞれ独立的に、単結合、-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、-CH2-、-CH2O-、-OCH2-、-CONH-、-NHCO-、-CH2COO-又は-CH2OCO-を表し、Z1は炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数2〜18のアルケニル基、ハロゲン原子、CN又はNCSを表し、該アルキル基又はアルケニル基は非置換であるか又は置換基として1個又は2個以上のF、Cl、CN、CH3又はCF3を有することができ、該アルキル基又はアルケニル基中に存在する1個又は2個以上のCH2基は、O原子が相互に直接結合しないものとして、O、CO又はCOOで置換されていてもよい)で表される単官能の重合性液晶化合物を添加することもできる。その添加量は50質量%以下が好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下が特に好ましい。一般式(III)で表される化合物の中でも、(III-1)〜(II-11)で表される化合物が特に好ましい。
【0028】
【化9】

【0029】
(式中、m、nは一般式(III)における意味と同じ、Rは炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数2〜12のアルケニル基を表す)
さらに本発明の重合性液晶組成物には、重合性官能基を有する化合物であって、液晶性を示さない化合物を添加することもできる。このような化合物としては、通常、この技術分野で高分子形成性モノマーあるいは高分子形成性オリゴマーとして認識されるものであれば特に制限なく使用することができるが、その添加量は組成物として液晶性を呈するように調整する必要がある。
【0030】
本発明の重合性液晶組成物には、その重合反応性を向上させることを目的として、光重合開始剤を添加することができる。光重合開始剤としては、ベンゾインエーテル類、ベンゾフェノン類、アセトフェノン類、ベンジルケタール類、アシルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。その添加量は、液晶組成物に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.02〜1質量%がさらに好ましく、0.03〜1質量%の範囲が特に好ましい。
【0031】
また、本発明の重合性液晶組成物には、その保存安定性を向上させるために、安定剤を添加することもできる。使用できる安定剤としては、例えば、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノアルキルエーテル類、第三ブチルカテコール類、ピロガロール類、チオフェノール類、ニトロ化合物類、β−ナフチルアミン類、β−ナフトール類、ニトロソ化合物等が挙げられる。安定剤を使用する場合の添加量は、液晶組成物に対して0.005〜1質量%の範囲が好ましく、0.02〜0.5質量%がさらに好ましく、0.03〜0.1質量%が特に好ましい。
【0032】
また、本発明の重合性液晶組成物を偏光フィルムや配向膜の原料、又は印刷インキ及び塗料、保護膜等の用途に利用する場合には、その目的に応じて金属、金属錯体、染料、顔料、色素、蛍光材料、燐光材料、界面活性剤、レベリング剤、チキソ剤、ゲル化剤、多糖類、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、抗酸化剤、イオン交換樹脂、酸化チタン等の金属酸化物等を添加することもできる。
【0033】
次に本発明の重合体について説明する。本発明の重合性液晶化合物または重合性液晶組成物を重合させることによって製造される重合体は種々の用途に利用できる。例えば、本発明の重合性液晶組成物を、配向させない状態で重合させた場合、光散乱板、偏光解消板、モアレ縞防止板として利用可能である。また、本発明の重合性液晶化合物または重合性液晶組成物を配向させた状態において、重合させることにより製造された重合体は、物理的性質に異方性を有しており、有用である。このような重合体は、例えば、本発明の重合性液晶化合物又は重合性液晶組成物表面を、布等でラビング処理した基板、もしくは有機薄膜を形成した基板表面を布等でラビング処理した基板、あるいはSiOを斜方蒸着した配向膜を有する基板上に担持させるか、基板間に挟持させた後、本発明の液晶を重合させることによって製造することができる。
【0034】
重合性液晶化合物または重合性液晶組成物を基板上に担持させる際の方法としては、スピンコーティング、ダイコーティング、エクストルージョンコーティング、ロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、グラビアコーティング、スプレーコーティング、ディッピング、プリント法等を挙げることができる。またコーティングの際、重合性液晶組成物に有機溶媒を添加しても良い。有機溶媒としては、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘキサン、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、塩化メチレン、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、セロソルブ類を挙げることができる。これらは単独でも、組み合わせて用いても良く、その蒸気圧と重合性液晶組成物の溶解性を考慮し、適宜選択すれば良い。また、その添加量は90重量%以下が好ましい。添加した有機溶媒を揮発させる方法としては、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥、減圧加熱乾燥を用いることができる。重合性液晶材料の塗布性をさらに向上させるためには、基板上にポリイミド薄膜等の中間層を設けることや、重合性液晶材料にレベリング剤を添加するのも有効である。基板上にポリイミド薄膜等の中間層を設けるのは、重合性液晶材料を重合させて得られる重合体と基板の密着性が良くない場合に、密着性を向上させる手段としても有効である。
【0035】
重合性液晶化合物または重合性液晶組成物を基板間に挟持させる方法としては、毛細管現象を利用した注入法が挙げられる。基板間に形成された空間を減圧し、その後、重合性液晶材料を注入する手段も有効である。
【0036】
ラビング処理、あるいはSiOの斜方蒸着以外の配向処理としては、液晶材料の流動配向の利用や、電場又は磁場の利用を挙げることができる。これらの配向手段は単独で用いても、また組み合わせて用いても良い。さらに、ラビングに代わる配向処理方法として、光配向法を用いることもできる。この方法は、例えば、ポリビニルシンナメート等の分子内に光二量化反応する官能基を有する有機薄膜、光で異性化する官能基を有する有機薄膜又はポリイミド等の有機薄膜に、偏光した光、好ましくは偏光した紫外線を照射することによって、配向膜を形成するものである。この光配向法に光マスクを適用することにより配向のパターン化が容易に達成できるので、重合体内部の分子配向も精密に制御することが可能となる。
【0037】
基板の形状としては、平板の他に、曲面を構成部分として有していても良い。基板を構成する材料は、有機材料、無機材料を問わずに用いることができる。基板の材料となる有機材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリアリレート、ポリスルホン、トリアセチルセルロース、セルロース、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられ、また、無機材料としては、例えば、シリコン、ガラス、方解石等が挙げられる。
【0038】
これらの基板を布等でラビングすることによって適当な配向性を得られない場合、公知の方法に従ってポリイミド薄膜又はポリビニルアルコール薄膜等の有機薄膜を基板表面に形成し、これを布等でラビングしても良い。また、通常のツイステッド・ネマチック(TN)素子又はスーパー・ツイステッド・ネマチック(STN)素子で使用されているプレチルト角を与えるポリイミド薄膜は、重合体内部の分子配向構造を更に精密に制御することができることから、特に好ましい。
また、電場によって配向状態を制御する場合には、電極層を有する基板を使用する。この場合、電極上に前述のポリイミド薄膜等の有機薄膜を形成するのが好ましい。
【0039】
本発明の重合性液晶化合物または重合性液晶組成物を重合させる方法としては、迅速な重合の進行が望ましいので、紫外線又は電子線等の活性エネルギー線を照射することによって重合させる方法が好ましい。紫外線を使用する場合、偏光光源を用いても良いし、非偏光光源を用いても良い。また、液晶組成物を2枚の基板間に挟持させて状態で重合を行う場合には、少なくとも照射面側の基板は活性エネルギー線に対して適当な透明性が与えられていなければならない。また、光照射時にマスクを用いて特定の部分のみを重合させた後、電場や磁場または温度等の条件を変化させることにより、未重合部分の配向状態を変化させて、さらに活性エネルギー線を照射して重合させるという手段を用いても良い。また、照射時の温度は、本発明の液晶組成物の液晶状態が保持される温度範囲内であることが好ましい。特に、光重合によって重合体を製造しようとする場合には、意図しない熱重合の誘起を避ける意味からも可能な限り室温に近い温度、即ち、典型的には25℃での温度で重合させることが好ましい。活性エネルギー線の強度は、0.1mW/cm〜2W/cmが好ましい。強度が0.1mW/cm以下の場合、光重合を完了させるのに多大な時間が必要になり生産性が悪化してしまい、2W/cm以上の場合、重合性液晶化合物または重合性液晶組成物が劣化してしまう危険がある。
【0040】
重合によって得られた本発明の重合体は、初期の特性変化を軽減し、安定的な特性発現を図ることを目的として熱処理を施すこともできる。熱処理の温度は50〜250℃の範囲で、また熱処理時間は30秒〜12時間の範囲が好ましい。
このような方法によって製造される本発明の重合体は、基板から剥離して単体で用いても、剥離せずに用いても良い。また、得られた重合体を積層しても、他の基板に貼り合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
(実施例1)
重合性化合物の合成(1)
200mlの水に、水酸化ナトリウム8g、テトラブチルアンモニウムブロミド2.2g、4-(4-ヒドロキシフェニル)安息香酸42.8gを加えて撹拌し、50℃に加熱した。この反応液に、100mlのトルエンに溶解させた32.6gの6-クロロ-1-ヘキサノールを滴下し、14時間加熱還流させた。室温まで冷却後、反応液に5%塩酸水溶液を加えてpHを2〜3に調節し、結晶を析出させ、ろ取した。ろ取した結晶を水で洗浄し、更に風乾しての式(1)の粗生成物を64g得た。
【0042】
【化10】

粗生成物(1)64g、アクリル酸57.6g、p-メトキシフェノール1g、p-トルエンスルホン酸2.2g、トルエン800mlの混合物を生成してくる水を留去しながら10時間還流させた。反応液を室温まで冷却後、反応液に500mlのTHFを加え、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を水洗した後、有機溶媒を減圧留去して式(2)
【0043】
【化11】

【0044】
粗生成物55gを得た。得られた粗生成物を150mlのTHFに溶解させた後、水300mlを加え、析出物をろ取した。これを風乾して式(2)の精製物を43g得た。
ヘキサン475ml、6-クロロ-1-ヘキサノール63.2g、ヒドロキノン0.5g、p-トルエンスルホン酸4.4gの混合物を生成してくる水を留去しながら6時間還流させた。室温まで冷却後300mlのTHFを加え、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、ついで飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を水洗した後、有機溶媒を減圧留去して式(3)
【0045】
【化12】

の粗生成物を100g得た。
2-(4-ヒドロキシフェニル)エチルアルコール200g、式(3)の化合物44g、炭酸カリウム32g、2,4-ジ-tertブチルフェノール0.4g、DMF200mlの混合物を80℃で16時間加熱撹拌した。室温まで冷却後、有機層を希塩酸水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、有機溶媒を減圧留去して式(4)
【0046】
【化13】

の粗生成物6gを得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、式(4)の精製物を4.0g得た。
【0047】
ジクロロメタン200mlに、式(2)の化合物5.4g、ジメチルアミノピリジン0.18g、式(4)の化合物4.0g、ジシクロヘキシルカルボジイミド3.0gを加えて室温で8時間撹拌した。有機層を希塩酸水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、有機溶媒を減圧留去して本発明の式(5)
【0048】
【化14】

の粗生成物6.4gを得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、式(5)の精製物を0.9g得た。得られた本発明の化合物(5)は、69〜105℃でスメクチックA相を示した。
(実施例2)
実施例1と同様の方法を用いて、式(6)
【0049】
【化15】

の化合物を合成した。得られた本発明の化合物(6)は、66〜103℃でスメクチックA相を示し、103〜105℃でネマチック相を示した。
(実施例3)
実施例1と同様の方法を用いて、式(7)
【0050】
【化16】

の化合物を合成した。得られた本発明の化合物(7)は、80〜97℃でスメクチックA相を示し、97〜98℃でネマチック相を示した。
(実施例4)
実施例1と同様の方法を用いて、式(8)
【0051】
【化17】

の化合物を合成した。得られた本発明の化合物(8)は、77〜102℃でスメクチックA相を示し、102〜104℃でネマチック相を示した。
【0052】
(実施例5)
以下に示す組成の重合性液晶組成物(A)を調製した。重合性液晶組成物(A)は、一度、等方性液体相まで加熱してから冷却すると、75℃でネマチック相に相転移した。このネマチック相は室温においても保たれた。
【0053】
【化18】

【0054】
この重合性液晶組成物(A)93%、光重合開始剤ルシリンTPO(BASF社製)0.5%、イルガキュアー907(チバスペシャリティケミカルズ社製)6%、界面活性剤エフトップEF-122B(ジェムコ社製)0.5%からなる重合性液晶組成物(A’)を調製した。さらに、重合性液晶組成物(A’)30%、キシレン70%から成る組成物を調製した。これをラビングしたポリイミド付きガラス基板にスピンコート(3000回転/分で30秒)した。キシレンを乾燥後に観察したところ、塗布した重合性液晶は、ネマチック相を示しており、ラビング方向にホモジニアス配向していた。この基板に空気中で100mW/cm2の紫外線を10秒間照射して、重合性液晶組成物を重合させた。得られた硬化膜の位相差をR0、硬化膜を230℃で4時間加熱した時の位相差をRとした時、R/R0の値は0.82であった。つまり、硬化膜を230℃で4時間加熱した際に位相差は18%減少することがわかった。
(比較例1)
以下に示す組成の重合性液晶組成物(B)を調製した。重合性液晶組成物(A)は、一度、等方性液体相まで加熱してから冷却すると、72℃でネマチック相に相転移した。
【0055】
【化19】

【0056】
この重合性液晶組成物(B)93%、光重合開始剤ルシリンTPO(BASF社製)0.5%、イルガキュアー907(チバスペシャリティケミカルズ社製)6%、界面活性剤エフトップEF-122B(ジェムコ社製)0.5%からなる重合性液晶組成物(B’)を調製した。さらに、重合性液晶組成物(B’)30%、キシレン70%から成る組成物を調製した。これをラビングしたポリイミド付きガラス基板にスピンコート(3000回転/分で30秒回転)した。キシレンを乾燥後に観察したところ、塗布した重合性液晶組成物は、ネマチック相を示しており、ラビング方向にホモジニアス配向していた。この基板に空気中で100mW/cm2の紫外線を10秒間照射して、重合性液晶組成物を重合させた。得られた硬化膜の位相差をR0、硬化膜を230℃で4時間加熱した時の位相差をRとした時、R/R0の値は0.70であった。つまり、硬化膜を230℃で4時間加熱した際に位相差は30%減少することがわかった。
【0057】
実施例5と比較例1の比較から、本発明の化合物を含有する重合性液晶組成物の硬化物は230℃という高い温度に保った際の位相差の減少が、本発明の化合物を含有しない重合性液晶組成物の硬化物と比較して小さいことがわかる。つまり、本発明の重合性液晶化合物の少量の添加により、耐熱性が大きく改善できたことがわかる。
(実施例6)
以下に示す組成の重合性液晶組成物(C)を調製した。
【0058】
【化20】

【0059】
重合性液晶組成物(C)は、一度、等方性液体相まで加熱してから冷却すると、79℃でネマチック相に相転移し、43℃でスメクチックA相に相転移した。このスメクチックA相は室温においても保たれた。本組成物(C)に光重合開始剤イルガキュアー907(チバスペシャリティケミカルズ製)3%添加して、組成物(C’)を調製した。
【0060】
次に組成物(C’)を濃度が30%となるようにキシレンに溶解させた。これを、ラビングしたポリイミド配向膜付きガラス基板にスピンコートした(3000回転/分で30秒回転)。塗布厚は約1μmであった。塗布後、60℃に加熱した後、室温まで冷却することにより、ガラス基板上に塗布された組成物(C’)がスメクチックA相を呈する状態にした。この状態で、空気中で高圧水銀ランプを光源とする40mW/cm2の強度の紫外線を2分間照射すると、組成物(C’)は硬化してポリマー化した。ポリマー中にはスメクチックA相の構造が固定化されているのが顕微鏡で確認できた。また均一性も優れていた。
(比較例2)
以下に示す組成の重合性液晶組成物(D)を調製した。
【0061】
【化21】

【0062】
重合性液晶組成物(D)は、一度、等方性液体相まで加熱してから冷却すると、97℃でネマチック相に相転移し、45℃でスメクチックA相に相転移した。このスメクチックA相は室温においても保たれた。組成物(D)に光重合開始剤イルガキュアー907(チバスペシャリティケミカルズ製)3%添加して、組成物(D’)を調製した。次に組成物(C’)を濃度が30%となるようにキシレンに溶解させた。これを、ラビングしたポリイミド配向膜付きガラス基板にスピンコートした(3000回転/分で30秒回転)。塗布厚は約1μmであった。塗布後、60℃に加熱した後、室温まで冷却することにより、ガラス基板上に塗布された組成物(C’)がスメクチックA相を呈する状態にした。この状態で、空気中で高圧水銀ランプを光源とする40mW/cm2の強度の紫外線を2分間照射しても、組成物(D’)は硬化せずポリマーにならなかった。
【0063】
実施例6と比較例2の比較から、本発明の重合性液晶組成物は、スメクチックA相を示し、かつ窒素置換することなく光重合可能であることがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、W及びWはそれぞれ独立的に単結合、−O−、−COO−又は−OCO−を表し、Yは−COO−又は−OCO−を表し、p及びqはそれぞれ独立的に2〜18の整数を表し、式中に存在する3種の1,4−フェニレン基の水素原子はそれぞれ独立的に、炭素原子数1〜7のアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、シアノ基又はハロゲン原子で一つ以上置換されていても良い。)で表される重合性液晶化合物。
【請求項2】
一般式(Ia)
【化2】

(式中、W及びWはそれぞれ独立的に単結合、−O−、−COO−又は−OCO−を表し、Yは−COO−又は−OCO−を表し、p及びqはそれぞれ独立的に2〜18の整数を表し、X及びXはそれぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1〜7のアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、シアノ基又はハロゲン原子を表す。)で表される重合性液晶化合物。
【請求項3】
請求項1記載の重合性液晶化合物を含有し、ネマチック相またはスメクチックA相を呈することを特徴とする重合性液晶組成物。
【請求項4】
請求項1記載の重合性液晶化合物、もしくは請求項2記載の重合性液晶組成物の重合体。

【公開番号】特開2007−191442(P2007−191442A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12395(P2006−12395)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】