説明

重合性組成物、架橋体および架橋樹脂複合体

【課題】粘度が低く、成形性、密着性および冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れた重合性組成物、これを用いて得られる架橋体および架橋樹脂複合体を提供すること。
【解決手段】(1)で表される表面処理剤で処理された充填剤、を含む重合性組成物。


(上記一般式(1)中、Mは、Ti、Si、AlまたはZrを表し、X,Xはそれぞれ独立して加水分解性基、水酸基またはアルキル基を表し、Xは加水分解性基または水酸基を表し、Yは、窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を含む置換基を有していても良い炭素数1〜30の直鎖、分岐もしくは環状の脂肪族炭化水素基、または窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を含む置換基を有していても良い芳香族炭化水素基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性組成物、架橋体および架橋樹脂複合体に関し、さらに詳しくは、粘度が低く、かつ、成形性、支持体に対する密着性および冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れた架橋体および架橋樹脂複合体を与える重合性組成物、ならびに、これを用いて得られる架橋体および架橋樹脂複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板は、一般に誘電体層と導体層とから構成される。近年、高度情報化時代を迎え、情報伝送は高速化・高周波化に向かって動き出し、マイクロ波通信やミリ波通信が現実になってきている。これらの高周波化時代の回路基板の誘電体層は、高周波におけるノイズや伝送ロスを極限まで軽減する必要があり、そのためこのような誘電体層を形成する材料として、誘電正接(tanδ)の小さい誘電体材料の選定が重要な課題となってきている。
【0003】
このような誘電正接の小さい樹脂材料としてシクロオレフィンモノマーを塊状重合して得られるシクロオレフィンポリマーが注目されている。たとえば、特許文献1には、シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、架橋剤、連鎖移動剤、および特定の液状のジエン系ゴムを含有する重合性組成物が開示されている。この特許文献1では、電気回路基板に使用する電気材料等として好適な架橋性樹脂を与えることができる重合性組成物を得ることを目的としている。なお、この特許文献1においては、重合性組成物に、シランカップリング剤で処理されたシリカを添加してもよい点が記載されている一方で、シランカップリング剤で処理されたシリカを添加する目的について全く記載されておらず、さらには、シリカを処理するために用いるシランカップリング剤の具体例についても全く記載されていない。
【0004】
また、特許文献2には、メタセシス重合可能なシクロオレフィン類モノマー、充填剤、含金属カップリング剤およびメタセシス重合触媒を含むシクロオレフィン組成物が開示されている。なお、この特許文献2では、充填剤添加時における機械特性を向上させることを目的としている。また、この特許文献2では、含金属カップリング剤の具体例として、単核のカップリング剤(金属元素を1つのみ含有するカップリング剤)のみが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−133417号公報
【特許文献2】特開2000−309628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、特許文献1に記載の重合性組成物においては、得られる成形体の機械特性等を向上させるために、単にシランカップリング剤で処理されたシリカを高濃度で添加すると、重合性組成物の粘度が増加してしまい、成形が困難になり、回路基板への適用が制限されてしまうという問題が認められた。さらに、特許文献1に記載の重合性組成物を用いて得られる成形体は、回路基板の使用想定環境下での繰り返し使用時の耐クラック性や、成形性、支持体に対する密着性に劣るという問題も認められた。また、特許文献2に記載のシクロオレフィン組成物を用いて得られる成形体は、回路基板の使用想定環境下での繰り返し使用時の耐クラック性および支持体に対する密着性に劣るという問題が認められた。
【0007】
本発明の目的は、粘度が低く、かつ、成形性、支持体に対する密着性および冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れた架橋体および架橋樹脂複合体を与える重合性組成物、ならびに、これを用いて得られる架橋体および架橋樹脂複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討の結果、塊状重合可能なモノマー、重合触媒および充填剤を含む重合性組成物において、充填剤として、特定の表面処理剤で表面処理された充填剤を用いることにより、粘度が低く、かつ、成形性、支持体に対する密着性および冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れた架橋体および架橋樹脂複合体を与える重合性組成物が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、
〔1〕下記一般式(1)で表される表面処理剤(A)で表面処理された充填剤、重合触媒、および塊状重合可能なモノマーを含む重合性組成物、
【化1】

(上記一般式(1)中、Mは、Ti、Si、AlまたはZrを表し、X,Xはそれぞれ独立して加水分解性基、水酸基またはアルキル基を表し、Xは加水分解性基または水酸基を表し、Yは、窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を含む置換基を有していても良い炭素数1〜30の直鎖、分岐もしくは環状の脂肪族炭化水素基、または窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を含む置換基を有していても良い芳香族炭化水素基を表す。)
〔2〕前記充填剤が、さらに下記一般式(2)で表される表面処理剤(B)で表面処理されたものである前記〔1〕に記載の重合性組成物、
【化2】

(上記一般式(2)中、Mは、Ti、Si、AlまたはZrを表し、Rは末端に二重結合、メルカプト基またはアミノ基を有する炭化水素基を表し、X,Xはそれぞれ独立して加水分解性基、水酸基またはアルキル基を表し、Xは加水分解性基または水酸基を表す。)
〔3〕前記充填剤の表面処理に用いられる前記表面処理剤(A)と、前記表面処理剤(B)との比率が、重量比で、表面処理剤(A)/表面処理剤(B)=0.001〜2.0である前記〔2〕に記載の重合性組成物、
〔4〕前記塊状重合可能なモノマーがシクロオレフィンモノマーである前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の重合性組成物、
〔5〕架橋剤をさらに含む前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の重合性組成物、
〔6〕前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の重合性組成物を塊状重合してなる架橋性樹脂、
〔7〕前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の重合性組成物を支持体に塗布または含浸し、塊状重合してなる架橋性樹脂複合体、
〔8〕前記〔7〕に記載の架橋性樹脂を架橋してなる架橋体、ならびに、
〔9〕前記〔8〕に記載の架橋体と支持体とを含む架橋樹脂複合体、
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粘度が低く、かつ、成形性、支持体に対する密着性および冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れた架橋体および架橋樹脂複合体を与える重合性組成物、ならびに、これを用いて得られる架橋体および架橋樹脂複合体が提供される。本発明の架橋体および架橋樹脂複合体は、成形性、支持体に対する密着性および冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れているため、通信機器用途等のマイクロ波またはミリ波等の高周波回路基板に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の重合性組成物は、後述する表面処理剤(A)で表面処理された充填剤、重合触媒、および塊状重合可能なモノマーを含有してなる。
【0012】
(塊状重合可能なモノマー)
本発明に用いる塊状重合可能なモノマーは、塊状重合可能なものであれば良く、特に限定されない。このような塊状重合可能なモノマーとしては、たとえば、エポキシ化合物、アクリレート化合物、スチレン類、シクロオレフィンモノマーなどが挙げられる。これらのなかでも、得られる架橋体および架橋樹脂複合体の誘電正接を低くできることから、非極性のモノマーであるスチレン類およびシクロオレフィンモノマーが好ましく、シクロオレフィンモノマーが特に好ましい。
【0013】
シクロオレフィンモノマーは、炭素原子で形成される環構造を有し、かつ該環構造中に重合性の炭素−炭素二重結合を1つ有する化合物である。なお、本明細書において「重合性の炭素−炭素二重結合」とは、連鎖重合(開環重合)可能な炭素−炭素二重結合をいう。開環重合には、イオン重合、ラジカル重合、メタセシス重合など種々の形態のものが存在するが、本発明においては、通常、メタセス開環重合をいう。
【0014】
シクロオレフィンモノマーの環構造としては、単環、多環、縮合多環、橋かけ環およびこれらを組み合わせた多環などが挙げられる。各環構造を構成する炭素数に特に限定はないが、通常、4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個である。
シクロオレフィンモノマーは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基などの炭素数1〜30の炭化水素基や、カルボキシル基または酸無水物基などの極性基を置換基として有していてもよいが、得られる架橋体および架橋樹脂複合体を低誘電正接とする観点から、極性基を持たないもの、すなわち、炭素原子および水素原子のみで構成されるものが好ましい。
【0015】
シクロオレフィンモノマーとしては、単環のシクロオレフィンモノマーと多環のシクロオレフィンモノマーのいずれをも用いることができる。得られる架橋体および架橋樹脂複合体の誘電特性、および耐熱性の特性を高度にバランスさせる観点から、多環のシクロオレフィンモノマーが好ましい。多環のシクロオレフィンモノマーとしては、特にノルボルネン環構造を分子内に有するノルボルネン系モノマーが好ましい。ノルボルネン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、テトラシクロドデセン類などが挙げられる。
【0016】
ここで、シクロオレフィンモノマーは、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないものと、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するものとに分けられる。本明細書において「架橋性の炭素−炭素不飽和結合」とは、開環重合には関与せず、架橋反応に関与可能な炭素−炭素不飽和結合をいう。架橋反応とは橋架け構造を形成する反応であり、縮合反応、付加反応、ラジカル反応、メタセシス反応など種々の形態のものが存在するが、本発明においては、通常、ラジカル架橋反応またはメタセシス架橋反応、特にラジカル架橋反応をいう。架橋性の炭素−炭素不飽和結合としては、芳香族炭素−炭素不飽和結合を除く炭素−炭素不飽和結合、すなわち、脂肪族炭素−炭素二重結合または脂肪族炭素−炭素三重結合が挙げられ、本発明においては、通常、脂肪族炭素−炭素二重結合をいう。架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマー中、不飽和結合の位置は特に限定されるものではなく、炭素原子で形成される環構造内の他、該環構造以外の任意の位置、例えば、側鎖の末端や内部に存在していてもよい。
【0017】
架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、シクロペンテン、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3,5−ジメチルシクロペンテン、3−クロロシクロペンテン、シクロへキセン、3−メチルシクロへキセン、4−メチルシクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロヘキセン、3−クロロシクロヘキセン、シクロへプテンなどの単環シクロオレフィンモノマー;ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−プロピル−2−ノルボルネン、5,6−ジメチル−2−ノルボルネン、1−メチル−2−ノルボルネン、7−メチル−2−ノルボルネン、5,5,6−トリメチル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、テトラシクロドデセン、1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2,3−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−ヘキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチリデン−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−フルオロ−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,5−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−シクロへキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2,3−ジクロロ−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−イソブチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,2−ジヒドロジシクロペンタジエン、5−クロロ−2−ノルボルネン、5,5−ジクロロ−2−ノルボルネン、5−フルオロ−2−ノルボルネン、5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメチル−2−ノルボルネン、5−クロロメチル−2−ノルボルネン、5−メトキシ−2−ノルボルネン、5,6−ジカルボキシル−2−ノルボルネンアンハイドレート、5−ジメチルアミノ−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができ、好ましくは架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないノルボルネン系モノマーである。
【0018】
架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、3−ビニルシクロヘキセン、4−ビニルシクロヘキセン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロへキサジエン、1,4−シクロへキサジエン、5−エチル−1,3−シクロへキサジエン、1,3−シクロへプタジエン、1,3−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィンモノマー;5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチリデン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−アリル−2−ノルボルネン、5,6−ジエチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、2,5−ノルボルナジエンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができ、好ましくは架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するノルボルネン系モノマーである。
これらのシクロオレフィンモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
本発明に使用されるシクロオレフィンモノマーとしては、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマーを含むものが、得られる架橋体および架橋樹脂複合体の耐クラック性等の信頼性を向上させることができ、好適である。
本発明の重合性組成物に配合するシクロオレフィンモノマー中における、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマーと架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとの配合割合は所望により適宜選択されるが、重量比(架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマー/架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマー)で、通常、0.01/99.9〜100/0、好ましくは1/90〜90/10、より好ましくは5/95〜80/20の範囲である。これらの配合割合がこのような範囲にある場合に、得られる架橋体および架橋樹脂複合体の支持体に対する密着性および冷熱衝撃試験での耐クラック性等の特性を高度に向上させることができ、好適である。
【0020】
(充填剤)
本発明に用いる充填剤は、後述する表面処理剤(A)で表面処理されてなるものである。
【0021】
充填剤としては、塊状重合可能なモノマーおよび必要に応じ使用される溶剤に不溶な粒子であれば良く、無機系充填剤および有機系充填剤のいずれも用いることができ、使用する用途に応じて適宜選択すれば良い。また、充填剤の形状も特に限定はされず、球状、粒状、不定形状、樹枝状、針状、棒状、扁平状、中空状等のいかなる形状であってもよい。
【0022】
無機系充填剤としては、例えば、鉄、銅、ニッケル、金、銀、アルミニウム、鉛、タングステン等の金属粒子;カーボンブラック、グラファイト、活性炭、炭素バルーン等の炭素粒子;シリカ、シリカバルーン、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化すず、酸化ベリリウム、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等の無機酸化物粒子;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム等の無機炭酸塩粒子;硫酸カルシウム等の無機硫酸塩粒子;タルク、クレー、マイカ、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ケイ酸カルシウム、ガラス、ガラスバルーン等の無機ケイ酸塩粒子;チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛等のチタン酸塩粒子;窒化アルミニウム、炭化ケイ素粒子、窒化ホウ素等の窒化物粒子;やウィスカー等が挙げられる。有機系充填剤としては、例えば、木粉、デンプン、有機顔料、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、塩化ビニル、廃プラスチック等の化合物粒子が挙げられる。これらの充填剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらのなかでも、無機系充填剤が好ましく、無機酸化物粒子、チタン酸塩粒子、窒化物粒子がより好ましく、シリカ、アルミナなど無機酸化物粒子やチタン酸カルシウム、チタン酸バリウムなどチタン酸塩粒子が電気絶縁性に優れ特に好ましい。
【0023】
充填剤の平均粒子径も特に限定はされないが、レーザー散乱回折式粒度分布計で測定した全粒子の50体積%が含まれるメディアン径で通常0.001〜70μm、好ましくは0.01〜50μm、より好ましくは0.05〜15μm、特に好ましくは0.1〜5μmである。
【0024】
本発明に用いる充填剤の表面処理に用いられる表面処理剤(A)は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【化3】

【0025】
上記一般式(1)中、Mは、Ti,Si,AlまたはZrであり、好ましくはSiである。X,Xは、それぞれ独立して加水分解性基、水酸基またはアルキル基であり、Xは、加水分解性基または水酸基であり、これらX,X,Xは、加水分解性基であることが好ましく、加水分解速度を調整し易いという点より、アルコキシル基であることがより好ましい。また、Yは、炭素数1〜30の直鎖、分岐もしくは環状の脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基であり、炭素数2〜15の直鎖の脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基であることが好ましい。なお、これら脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基は、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を含む置換基を有していても良い。また、Yが芳香族炭化水素基である場合には、芳香族炭化水素基が直接Mに結合しているものであっても良いし、あるいは、炭素数1〜10のアルキレン基を介して、Mに結合しているものであっても良い。充填剤を、上記一般式(1)で表される表面処理剤(A)で表面処理することにより、重合性組成物中における充填剤量を比較的高濃度なものとした場合でも、重合性組成物を低粘度化することができ、さらには、得られる架橋体および架橋樹脂複合体を、成形性、支持体に対する密着性および冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れたものとすることができる。特に、重合性組成物の粘度を低くできることにより、成形性を良好にすることができ、さらには、粘度を低くできることにより、流動性に優れるものとすることができ、これにより、支持体表面への埋め込み性を良好なものとすることができる。すなわち、たとえば、支持体として凹凸を有する基板を用いた場合でも埋め込み性を良好なものとすることができる。
【0026】
上記一般式(1)で表される表面処理剤(A)の具体例としては、ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、ビス(トリプロポキシシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリプロポキシシリル)メタン、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリメトキシシリル)オクタン、ビス(トリエトキシシリル)オクタン、ビス(トリエトキシシリル)ノナン、ビス(トリエトキシシリル)オクタジエン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)デカン、1,3−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリエトキシシリルメチル)ベンゼン、1,4−ビス(トリエトキシシリルエチル)ベンゼン、ビス〔(3−メチルジメトキシシリル)プロピル〕ポリプロピレンオキサイド、ビス〔3-(トリエトキシシリル)プロピル〕ジスルフィド、ビス〔m−(2-トリメトキシシリルエチル)トリル〕ポリスルフィド、ビス〔3-(トリエトキシシリル)プロピル〕チオウレア、ビス(トリエトキシシリルエチル)ビニルメチルシラン、ビス(トリエトキシシリル)エチレン、1,3−〔ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリエチレンオキシ〕−2−メチレンプロパン、ビス(4-トリエトキシシリルプロピル−3−メトキシフェニル)−1,6−ヘプタンなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
また、本発明に用いる充填剤は、上記一般式(1)で表される表面処理剤(A)に加え、下記一般式(2)で表される表面処理剤(B)で表面処理されていることが好ましい。すなわち、本発明に用いる充填剤は、表面処理剤(A)および表面処理剤(B)で表面処理されていることが好ましい。表面処理剤(A)と表面処理剤(B)とを併用し、これらを用いて充填剤の表面処理を行うことにより、本発明の作用効果をより顕著なものとすることができる。
【化4】

【0028】
上記一般式(2)中、Mは、Ti,Si,AlまたはZrであり、好ましくはSiである。Rは、末端に二重結合、メルカプト基またはアミノ基を有する炭化水素基であり、反応性が良好であるという点より、末端に二重結合を有する炭化水素基であることがより好ましく、ビニル基またはスチリル基であることがより好ましい。また、X,Xは、それぞれ独立して加水分解性基、水酸基またはアルキル基であり、Xは、加水分解性基または水酸基であり、これらX,X,Xは、加水分解性基であることが好ましく、アルコキシル基であることがより好ましい。なお、上記一般式(2)で表される表面処理剤(B)は、ラジカル反応性を有する表面処理剤として作用する。
【0029】
上記一般式(2)で表される表面処理剤(A)の具体例としては、アリルトリメトキシシラン、3−ブテニルトリメトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン、N−β−(N−(ビニルベンジル)アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランおよびその塩、アリルトリクロロシラン、アリルメチルジクロロシラン、スチリルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリクロロシラン、β−メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、β−メタクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、δ−メタクリロキシブチルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
表面処理剤(A)と表面処理剤(B)とを併用する場合における、表面処理剤(A)と表面処理剤(B)との比率は、「表面処理剤(A)/表面処理剤(B)」の重量比で、好ましくは0.001〜2.0であり、より好ましくは0.01〜1.0、さらに好ましくは0.05〜0.5、特に好ましくは0.1〜0.3である。表面処理剤(A)/表面処理剤(B)の値が低すぎても、また、高すぎても、得られる架橋体および架橋樹脂複合体の成形性、支持体に対する密着性および冷熱衝撃試験での耐クラック性が低下する傾向にある。
【0031】
充填剤を処理する方法は特に限定されない。例えば乾式、湿式または塊状重合可能なモノマーに表面処理剤(A)と表面処理剤(B)とを添加することにより充填剤を処理してよい。好ましくは処理の簡便性と均一性の点で乾式がよい。
乾式で充填剤の表面処理を行う場合には、表面処理剤(A)および必要に応じて用いられる表面処理剤(B)に少量の水または有機溶媒を添加しても良い。あるいは、湿式で充填剤を表面処理する際には、表面処理剤(A)および必要に応じて用いられる表面処理剤(B)を、水または有機溶媒中に分散あるいは溶解することにより、処理剤含有溶液を調製し、調製した処理剤含有溶液を用いて、充填剤表面の処理をしてもよい。これらの場合に用いる有機溶媒としては、たとえば、アルコール類、ケトン類,ピロリドン類、フラン類、アミン類、およびカルボン酸類などが挙げられ、これらのなかでも、アルコール類およびケトン類が好ましく、アルコール類がより好ましく、メタノールおよびエタノールが特に好ましい。
これらの溶剤の使用量は、使用する充填剤の種類に応じて適宜選択すれば良い。充填剤の表面処理を乾式で行う場合には、これらの溶剤の使用量は、表面処理剤(A)および必要に応じて用いられる表面処理剤(B)の合計100重量部に対して、通常、0.01重量部以上、100重量部未満である。また、充填剤の表面処理を湿式で行う場合には、これらの溶剤の使用量は、表面処理剤(A)および必要に応じて用いられる表面処理剤(B)の合計100重量部に対して、100〜5000重量部である。
表面処理剤(A)および必要に応じて用いられる表面処理剤(B)の添加順序等は特に限定されない。表面処理する雰囲気は特に限定されない。窒素、空気、真空中など適時選択すればよいが、空気中が簡便であり好ましい。
また表面処理は、加熱条件下において行うことが好ましい。加熱することで、表面処理剤と充填剤とをより密接に結合させることができ、これにより、密着性、信頼性が向上する。また水や有機溶剤を使う場合は、加熱によりこれらを除去することができ、塊状重合可能なモノマーと配合後、水や有機溶剤を除去する必要などが無くなるため操作が簡便となる。加熱する際における条件は、適宜選択すればよく、表面処理剤(A)および必要に応じて用いられる表面処理剤(B)の添加中、添加後など特に限定されない。加熱温度は、用いる表面処理剤によって適宜選択すればよいが通常50〜300℃、好ましくは80〜200℃である。加熱時間は、表面処理剤添加後、通常0.01〜10時間、好ましくは0.05〜5時間、より好ましくは0.1〜3時間である。表面処理に用いる装置としては、特に限定されず、ヘンシェルミキサー、ボールミル、ポットミル、リボンミキサー、すり鉢等適宜選択すればよいが、これらのなかでも、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー等が好ましい。
【0032】
また、表面処理後の充填剤中における、表面処理剤(A)および表面処理剤(B)の合計の含有割合は、表面処理後の充填剤全体に対して、好ましくは0.01〜20重量%であり、より好ましくは0.01〜10重量%、より好ましく0.05〜5重量%、0.1〜3重量%である。表面処理剤(A)および表面処理剤(B)の合計の含有割合が低すぎると、充填剤の表面処理が不十分となり、重合性組成物の粘度が高くなったり、得られる架橋体および架橋樹脂複合体の機械強度が低下する場合がある。一方、含有割合が高すぎると、未反応の表面処理剤(A)および/または表面処理剤(B)がブリードしてしまい、得られる架橋体および架橋樹脂複合体の耐熱性が低下する場合がある。
【0033】
重合性組成物中における充填剤の配合量は、塊状重合可能なモノマー100重量部に対して、好ましくは1〜1,000重量部、より好ましくは10〜500重量部、さらに好ましくは50〜350重量部の範囲である。充填剤の配合量が少なすぎると、充填剤の添加効果が得られなくなる傾向にある。一方、充填剤の配合量が多すぎると、配合液が増粘して成形し難くなる傾向にある。
【0034】
(重合触媒)
重合触媒は、上述の塊状重合可能なモノマーの種類および重合反応形態に応じて適宜選択することができる。たとえば、塊状重合可能なモノマーがシクロオレフィンモノマーである場合には、メタセシス重合触媒が好適な重合触媒として選択できる。メタセシス重合触媒としては、遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオンおよび/または化合物が結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、5族、6族および8族(長周期型周期表、以下同じ)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、5族の原子としては例えばタンタルが挙げられ、6族の原子としては、例えばモリブデンやタングステンが挙げられ、8族の原子としては、例えばルテニウムやオスミウムが挙げられる。これらの中でも、8族のルテニウムやオスミウムの錯体をメタセシス重合触媒として用いることが好ましく、ルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性が優れるため、架橋性樹脂の生産性に優れ、得られる架橋性樹脂の未反応のモノマーに由来する臭気が少なく作業性に優れる。ルテニウムカルベン錯体は、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活し難いので、これを用いることにより、大気下での生産を可能とすることができる。
【0035】
ルテニウムカルベン錯体としては、下記一般式(3)または一般式(4)で表されるものが挙げられる。
【化5】

【0036】
上記一般式(3)および一般式(4)において、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい炭素数1〜20の炭化水素基を表す。
【0037】
1およびZ2は、それぞれ独立して任意のアニオン性配位子を示す。アニオン性配位子とは、中心金属原子から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子であり、例えば、ハロゲン原子、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、カルボキシル基などを挙げることができる。これらの中でもハロゲン原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0038】
1およびL2はそれぞれ独立して、ヘテロ原子含有カルベン化合物または中性電子供与性化合物を表す。ヘテロ原子とは、周期律表第15族および第16族の原子を意味し、具体的には、N、O、P、S、As、Se原子などを挙げることができる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、N、O、P、S原子などが好ましく、N原子が特に好ましい。
【0039】
ヘテロ原子含有カルベン化合物としては、下記一般式(5)または一般式(6)で示される化合物が挙げられる。
【化6】

【0040】
式中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい炭素数1〜20個の炭化水素基を表す。また、R〜Rは任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。
【0041】
中性の電子供与性化合物は、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子であればいかなるものでもよい。その具体例としては、ホスフィン類、エーテル類およびピリジン類などが挙げられ、トリアルキルホスフィンがより好ましい。
【0042】
なお、上記式(3)および(4)において、RとRは互いに結合して環を形成してもよく、さらに、R,R,Z1,Z2,L1およびL2は、任意の組合せで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成してもよい。
【0043】
本発明においては、メタセシス重合触媒としてヘテロ環構造を有する化合物を配位子として有するルテニウム触媒を用いることが、得られる複合材料の高周波特性、および耐熱性の各特性を高度にバランスさせることができるため、好ましい。ヘテロ環構造を構成するヘテロ原子としては、例えば、O原子、N原子等が挙げられ、好ましくはN原子である。また、ヘテロ環構造としては、イミダゾリン構造やイミダゾリジン構造が好ましい。
【0044】
このようなヘテロ環構造を有する化合物を配位子として有するルテニウム触媒としては、上記式(3)または(4)で表され、L1またはL2としてヘテロ原子含有カルベン化合物からなる配位子を有するルテニウム触媒を好適に用いることができる。ヘテロ原子含有カルベン化合物を構成するヘテロ原子としては、N原子が好ましい。このようなヘテロ原子含有カルベン化合物の具体例としては、例えば、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0045】
また、ヘテロ原子含有カルベン化合物からなる配位子を有するルテニウム触媒の具体例としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリドなどの、配位子としてヘテロ原子含有カルベン化合物と中性電子供与性化合物とが結合したルテニウム錯体化合物が挙げられる。
【0046】
これらのメタセシス重合触媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。メタセシス重合触媒の使用量は、(触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)のモル比で、通常1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0047】
メタセシス重合触媒は必要に応じて、少量の不活性溶剤に溶解または懸濁して使用することができる。このような溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、ミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;インデン、テトラヒドロナフタレンなどの脂環と芳香環とを有する炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、および脂環と芳香環とを有する炭化水素の使用が好ましい。
【0048】
(重合性組成物)
本発明の重合性組成物は、上記塊状重合可能なモノマーおよび充填剤を含有してなるものである。また、本発明の重合性組成物には、所望により、架橋剤、連鎖移動剤、重合調整剤、重合反応遅延剤、老化防止剤、その他の配合剤などを添加することができる。
【0049】
架橋剤としては、本発明の重合性組成物を塊状重合することにより得られる架橋性樹脂において、架橋反応を誘起する目的で使用される。そのため、架橋剤を使用することで、本発明の重合性組成物を塊状重合することにより得られる架橋性樹脂を、後架橋可能な熱可塑性樹脂とすることができる。本発明において架橋剤としては、通常、ラジカル発生剤が好適に用いられる。ラジカル発生剤としては、例えば、有機過酸化物、ジアゾ化合物、および非極性ラジカル発生剤などが挙げられ、好ましくは有機過酸化物、および非極性ラジカル発生剤である。
【0050】
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキシド類;3,3,5,7,7−ペンタメチル−1,2,4−トリオキセパン、3,6,9−トリエチル−3,6,9−トリメチル−1,4,7−トリパーオキソナン、3,6−ジエチル−3,6−ジメチル−1,2,4,5−テトロキサンなどの環状パーオキサイド類;が挙げられる。これらのなかでも、重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシド類、ペルオキシケタール類、および環状パーオキサイド類が好ましい。
【0051】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0052】
非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
【0053】
架橋剤として、ラジカル発生剤を使用する場合、1分間半減期温度は、硬化(本発明の重合性組成物を塊状重合することにより得られる架橋性樹脂および架橋性樹脂複合体の架橋)の条件により適宜選択されるが、通常、100〜300℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは160〜230℃の範囲である。ここで1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。例えば、ジ−t−ブチルペルオキシドでは186℃、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシンでは194℃である。
【0054】
これらの架橋剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の重合性組成物への架橋剤の配合量は、塊状重合可能なモノマー100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0055】
連鎖移動剤としては、メタセシス開環重合に関与できるものであれば良く特に限定されないが、本発明の重合性組成物を重合反応させることにより得られる架橋性樹脂の末端に結合可能な脂肪族炭素−炭素二重結合を1つ有する化合物が好ましい。このような結合可能な脂肪族炭素−炭素二重結合の例としては、末端ビニル基が挙げられる。また、連鎖移動剤は、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有していてもよい。
【0056】
このような連鎖移動剤の具体例としては、1−ヘキセン、2−ヘキセン、スチレン、ビニルシクロヘキサン、アリルアミン、アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、エチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、4−ビニルアニリンなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たない連鎖移動剤;ジビニルベンゼン、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、アクリル酸アリル、メタクリル酸ウンデセニル、アクリル酸スチリル、エチレングリコールジアクリレートなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1つ有する連鎖移動剤;アリルトリビニルシラン、アリルメチルジビニルシランなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を2以上有する連鎖移動剤などが挙げられる。これらのなかでも、得られる架橋体および架橋樹脂複合体の成形性、支持体に対する密着性および冷熱衝撃試験での耐クラック性を高度にバランスさせることができるという観点から、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するものが好ましく、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1つ有するものがより好ましい。特に、このような連鎖移動剤の中でも、ビニル基とメタクリル基とを1つずつ有する連鎖移動剤が好ましく、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、メタクリル酸ウンデセニルなどが特に好ましい。
【0057】
これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の重合性組成物への連鎖移動剤の配合量は、塊状重合可能なモノマー100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部である。
【0058】
重合調整剤は、重合活性を制御したり、重合反応率を向上させたりする目的で配合されるものである。重合調整剤としては、例えば、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。これらの重合調整剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合調整剤を用いる場合における、重合調整剤の配合量は、モル比(重合触媒中の金属原子:重合調整剤)で、好ましくは1:0.05〜1:100、より好ましくは1:0.2〜1:20、さらに好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0059】
重合反応遅延剤は、本発明の重合性組成物の重合反応の進行に起因する粘度増加を抑制し得るものである。重合反応遅延剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン、ビニルジフェニルホスフィン、アリルジフェニルホスフィン、トリアリルホスフィン、スチリルジフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物;アニリン、ピリジンなどのルイス塩基;等を用いることができる。重合反応遅延剤を用いる場合における、重合反応遅延剤の配合量は、所望により適宜調整すればよい。
【0060】
老化防止剤としては、たとえば、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、リン系老化防止剤、イオウ系老化防止剤などが挙げられ、これらの老化防止剤を配合することにより、架橋反応を阻害しないで、得られる架橋体および架橋樹脂複合体の耐熱性を高度に向上させることができるため、好適である。これらの中でも、フェノール系老化防止剤およびアミン系老化防止剤が好ましく、フェノール系老化防止剤がより好ましい。これらの老化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。老化防止剤を使用する場合における、老化防止剤の使用量は、塊状重合可能なモノマー100重量部に対して、好ましくは0.0001〜10重量部、より好ましくは0.001〜5重量部、さらに好ましくは0.01〜2重量部の範囲である。
【0061】
また、本発明の重合性組成物には、上記した配合剤以外のその他の配合剤を配合することができる。その他の配合剤としては、顔料や染料などの着色剤、光安定剤、発泡剤などを用いることができる。着色剤としては、種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。これらのその他の配合剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択される。
【0062】
本発明の重合性組成物は、上記成分を混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従えばよく、例えば、重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(触媒液)を調製し、塊状重合可能なモノマーおよび充填剤などの必須の成分、ならびに所望によりその他の配合剤を配合した液(モノマー液)を調製し、該モノマー液に触媒液を添加し、攪拌することによって調製することができる。
【0063】
(架橋性樹脂、架橋性樹脂複合体)
本発明の架橋性樹脂は、上述の本発明の重合性組成物を塊状重合することによって得られる。重合性組成物を塊状重合する方法としては、(a)重合性組成物を支持体に注ぐか、あるいは塗布し、塊状重合する方法、(b)重合性組成物を型内に注ぎこみ、塊状重合する方法、(c)重合性組成物を繊維材からなる支持体に含浸し、塊状重合する方法などが挙げられる。
【0064】
上記(a)の方法によれば、架橋性樹脂と支持体とから形成される架橋性樹脂複合体が得られる。支持体としては、特に限定されないが、金属箔または樹脂フィルムが好ましい。金属箔を構成する材料としては、たとえば、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、金、銀などが挙げられる。また、樹脂フィルムを構成する材料としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ナイロンなどが挙げられる。支持体として、金属箔または樹脂フィルムを用いる場合における、これらの厚さは、作業性などの観点から、好ましくは1〜150μm、より好ましくは2〜100μm、さらに好ましくは3〜75μmである。これらの支持体の表面は平滑であることが好ましい。また、これらの支持体表面は、スチリルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤などで表面処理をしてあることが好ましい。
【0065】
上記(a)の方法において、重合性組成物を支持体上へ塗布する方法は特に制限されず、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法などの公知の塗布方法が挙げられる。
【0066】
上記(a)の方法において、塊状重合は、塊状重合可能なモノマーが重合を開始する温度(重合触媒を用いる場合には、重合触媒が機能する温度)まで重合性組成物を加熱することによって開始される。重合性組成物を所定温度に加熱する方法としては特に制約されず、加熱プレート上に載せて加熱する方法、プレス機を用いて加圧しながら加熱(熱プレス)する方法、加熱したローラーで押圧する方法、加熱炉を用いる方法などが挙げられる。
【0067】
また、上記(b)の方法によれば、任意の形状の架橋性樹脂の成形体を得ることができる。その形状としては、シート状、フィルム状、柱状、円柱状、多角柱状等が挙げられる。ここで用いる型としては、従来公知の成形型、例えば、割型構造、すなわちコア型とキャビティー型とを有する成形型を用いることができ、それらの空隙部(キャビティー)に重合性組成物を注入して塊状重合させる。コア型とキャビティー型とは、目的とする成形品の形状にあった空隙部を形成するように作製される。また、成形型の形状、材質、大きさなどは特に制限されない。あるいは、ガラス板や金属板などの板状成形型と所定の厚さのスペーサーとを用意し、スペーサーを2枚の板状成形型で挟んで形成される空間内に重合性組成物を注入することにより、シート状またはフィルム状の架橋性樹脂の成形体を得ることができる。
【0068】
上記(b)の方法において、重合性組成物を成形型のキャビティー内に充填する際の充填圧力(注入圧)は、通常0.01〜10MPa、好ましくは0.02〜5MPaである。充填圧力が低すぎると、キャビティー内周面に形成された転写面の転写が良好に行われない傾向にある。一方、充填圧が高すぎると、成形型の剛性を高くしなければならいため、経済的ではない。型締圧力は通常0.01〜10MPaの範囲内である。
【0069】
上記(c)の方法によれば、架橋性樹脂が強化繊維に含浸されてなる架橋性樹脂複合体であるプリプレグを得ることができる。強化繊維としては、特に限定されないが、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維、アラミド繊維、超高分子ポリエチレン繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、液晶ポリエステル繊維などの有機繊維;ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、タングステン繊維、モリブデン繊維、ブデン繊維、チタン繊維、スチール繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、シリカ繊維などの無機繊維;などを挙げることができる。これらの中でも、有機繊維やガラス繊維が好ましく、特にアラミド繊維、液晶ポリエステル繊維、ガラス繊維が好ましい。ガラス繊維としては、Eガラス、NEガラス、Sガラス、Dガラス、Hガラス等の繊維を好適に用いることができる。
これらの強化繊維は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、所望により適宜選択されるが、プリプレグ(架橋性樹脂複合体)中において、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは20〜80重量%、さらに好ましくは30〜70重量%の範囲である。強化繊維の使用量がこの範囲にある場合に、得られるプリプレグの誘電特性と機械強度とが高度にバランスされるため、好適である。
【0070】
上記(c)の方法において、重合性組成物の強化繊維への含浸は、例えば、重合性組成物の所定量を、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法等の公知の方法により繊維材に塗布し、必要に応じてその上に保護フィルムを重ね、上側からローラーなどで押圧することにより行うことができる。重合性組成物を繊維材に含浸させた後、含浸物を所定温度に加熱することにより、重合性組成物を塊状重合させることができ、それによって架橋性樹脂が含浸されたプリプレグが得られる。また、含浸を型内で行う場合は、型内に強化繊維を設置し、該型内に重合性組成物を注ぎ込んで行う。なお、この場合に用いる型としては、上記(b)の方法で用いるものと同様なものが使用でき、また、重合性組成物を成形型のキャビティー内に充填する際の充填圧力も上記(b)の方法と同様とすれば良い。
【0071】
上記(c)の方法において、含浸物の加熱方法は特に限定されず、上記(a)の方法と同様の方法が採用でき、含浸物を基材上に設置して加熱してもよい。また、繊維材を設置した型内に重合性組成物を注入し、重合性組成物を含浸させてから上記(b)の方法に従い塊状重合してもよい。本発明の重合性組成物は、低粘度であり、強化繊維に対する含浸性に優れるので、強化繊維に架橋性樹脂を均一に含浸させることができる。また、本発明の重合性組成物は、反応に関与しない溶媒等の含有量が少ないため、強化繊維に含浸させた後に溶媒を除去するなどの工程が不要であり、生産性に優れ、残存溶媒による臭気やフクレ等も生じない。
【0072】
なお、上記(c)の方法により得られるプリプレグの厚さは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常、0.001〜10mm、好ましくは0.005〜1mm、より好ましくは0.01〜0.5mmの範囲である。この範囲にあれば、積層時の賦形性、また、架橋して得られる架橋樹脂複合体の機械強度や靭性などの特性が充分に発揮されるため、好適である。上記(c)の方法により得られるプリプレグの揮発成分量は、200℃で1時間加熱したときに揮発する量で、通常、30重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。プリプレグの揮発成分量が過度に多いと、プリプレグのベタつきが発生し操作性および保存安定性が不良化する傾向がある。
【0073】
上記(a)、(b)および(c)のいずれの方法においても、重合性組成物を重合させるための加熱温度は、通常、50〜250℃、好ましくは80〜200℃、より好ましくは90〜150℃の範囲であって、架橋剤、通常、ラジカル発生剤の1分間半減期温度以下、好ましくは1分間半減期温度の10℃以下、より好ましくは1分間半減期温度の20℃以下である。また、重合時間は適宜選択すればよいが、通常、10秒間から60分間、好ましくは20分間以内である。重合性組成物を上記条件で加熱することにより、未反応モノマーの少ない架橋性樹脂および架橋性樹脂複合体が得られるため、好適である。
【0074】
本発明の架橋性樹脂、および本発明の架橋性樹脂複合体を構成する架橋性樹脂部分は、実質的に架橋構造を有さず、例えば、トルエンに可溶であり、その分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(溶離液:トルエン)で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常、1,000〜1,000,000、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜100,000の範囲である。
【0075】
(架橋体)
本発明の架橋体は、上記本発明の架橋性樹脂を架橋してなるものである。
架橋性樹脂の架橋は、例えば、本発明の架橋性樹脂を加熱溶融するなどして、架橋性樹脂が架橋反応を起す温度以上に維持することによって行うことができる。架橋性樹脂を架橋させる際の加熱温度は、例えば、架橋剤としてラジカル発生剤を使用する場合、通常、ラジカル発生剤の1分間半減期温度以上、好ましくは1分間半減期温度より5℃以上高い温度、より好ましくは1分間半減期温度より10℃以上高い温度である。具体的には、100〜300℃、好ましくは150〜250℃の範囲である。加熱時間は、0.1〜180分、好ましくは1〜120分、より好ましくは2〜60分の範囲である。
【0076】
なお、架橋性樹脂がシート状またはフィルム状の成形体である場合には、必要に応じて、架橋性樹脂を基材上に積層し、熱プレスする方法が好ましい。熱プレスする際の圧力は、通常0.5〜20MPa、好ましくは3〜10MPaである。熱プレスは、真空または減圧雰囲気下で行ってもよい。熱プレスは、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて行なうことができる。
【0077】
(架橋樹脂複合体)
本発明の架橋樹脂複合体は、架橋体と支持体とを含有してなるものであり、上記(a)の方法または(c)の方法により製造された架橋性樹脂複合体を架橋することにより得られる。あるいは、本発明の架橋樹脂複合体は、上記(a)の方法または(c)の方法により製造された架橋性樹脂複合体を、別の支持体に熱プレスによって積層させ、該支持体上で加熱して架橋することによっても得ることができる。さらには、本発明の架橋樹脂複合体は、上記(b)の方法により製造された架橋性樹脂を支持体に熱プレスによって積層させ、該支持体上で加熱して架橋することによっても得ることができる。なお、架橋樹脂の複合体は複数積層したものであっても良い。
【0078】
この場合に用いられる支持体としては、銅箔、アルミ箔、ニッケル箔、クロム箔、金箔、銀箔などの金属箔;プリント配線板;導電性ポリマーフィルム、他の樹脂フィルムなどのフィルム類;などが挙げられる。また、支持体としてプリント配線板を用いると、多層プリント配線板を製造することができる。銅箔などの金属箔やプリント配線板上の導電層は、その表面が、シランカップリング剤、チオール系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、各種接着剤などで処理されているものが好ましい。これらのうちシランカップリング剤で処理されているものが特に好ましい。
【0079】
このようにして得られる本発明の架橋体および架橋樹脂複合体は、成形性、支持体に対する密着性および冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れるものであるため、高周波基板材料として広く好適に用いることができる。具体的には、本発明の架橋体および架橋樹脂複合体は、通信機器用途等のマイクロ波またはミリ波等の高周波回路基板に好適に用いることができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例、および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、および比較例における「部」および「%」は、特に断りのない限り重量基準である。
また、試験、評価は下記によった。
【0081】
(1)重合性組成物の粘度
重合性組成物の粘度は、ハイシェアレート粘度計(型式CAP2000+L、ブルックフィールド社製)を用いて、回転数10rpm/25℃時の粘度を測定し、以下の基準に従って評価した。
A:0.01Pa・sを超えて、1Pa・s以下
B:1Pa・sを超えて、2Pa・s以下
C:2Pa・sを超えて、3Pa・s以下
D:3Pa・sを超えて、5Pa・s以下
【0082】
(2)成形性(成形体の表面形状)
積層板の厚みをマイクロメーターで10点測定し、測定した厚みから、銅箔の厚さを差し引くことにより、各点における厚さを求めた。そして、厚さの平均値からの最大バラツキ量を百分率(%)で求め、以下の基準に従って、成形性の評価を行った。
A:5%以下
B:5%を超えて、10%以下
C:10%を超えて、20%以下
D:20%超
【0083】
(3)ピール強度(密着性)
積層板から銅箔を引き剥がすときの強度を、JIS C6481に準拠して測定し、以下の基準に従って、ピール強度(密着性)の評価を行った。
A:0.6kN/m超
B:0.4kN/mを超えて、0.6kN/m以下
C:0.2kN/mを超えて、0.4kN/m以下
D:0.2kN/m以下
【0084】
(4)耐クラック性
積層板について、−40℃〜+150℃の温度範囲で所定回数の冷熱衝撃試験を行い、冷熱衝撃試験後の積層板の外観観察を目視にて行い、以下の基準に従って耐クラック性を評価した。なお、冷熱衝撃試験は、冷熱衝撃試験装置(エスペック社製、型番;TSA−71H−W)により行った。
A:300サイクル終了後のサンプルにおいて、クラックの発生が確認されなかった。
B:300サイクル終了後のサンプルにおいて、クラックの発生が確認された。
C:200サイクル終了後のサンプルにおいて、クラックの発生が確認された。
D:100サイクル終了後のサンプルにおいて、クラックの発生が確認された。
【0085】
実施例1
上記一般式(1)で示される表面処理剤(A)としてのビス(トリメトキシシリル)オクタン(SIB1824.0、アズマックス社製)1部、上記一般式(2)で示される表面処理剤(B)としてのp-スチリルトリメトキシシラン(KBM-1403、信越化学工業社製)10部、およびメタノール11部を混合することにより、処理剤含有溶液を調製した(「ビス(トリメトキシシリル)オクタン」/「p-スチリルトリメトキシシラン」=0.10(重量比))。そして、ヘンシェルミキサー中に、充填剤としてのシリカ(SO−C2、アドマテックス社製、平均粒子径0.5μm)500部を入れ、これに、上記にて調製した処理剤含有溶液10部を加え、120℃で30分間処理することにより、表面処理シリカを得た。
【0086】
上記とは別に、ガラス製フラスコ中で、ベンジリデン(1,3−ジメチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド51部と、トリフェニルホスフィン79部とを、トルエン952部に溶解させて触媒液を調製した。
【0087】
さらに、上記とは別に、ポリエチレン製の瓶に、シクロオレフィンモノマーとしてのテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン(TCD)80部、および同じくシクロオレフィンモノマーとしてのテトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(MTF)20部を入れ、ここに連鎖移動剤としてアリルメタクリレート2.5部、架橋剤としてジ−t−ブチルペルオキシド(1分間半減期温度186℃)1.2部、上記にて調製した表面処理シリカ150部を加えて混合することによりモノマー液を調製した。そして、得られたモノマー液に、上記にて調製した触媒液を、シクロオレフィンモノマー100g当たり0.12mLの割合で加えて攪拌し、重合性組成物を調製した。
【0088】
次いで、得られた重合性組成物100部をポリエチレンナフタレートフィルム(タイプQ51、厚み75μm、帝人デュポンフィルム社製)の上に流延し、その上にガラスクロス(品番2116、厚み92μm)を敷いて、さらにその上に上記重合性組成物80部を流延した。そして、その上からさらにポリエチレンナフタレートフィルムを被せて、ローラーを用いて重合性組成物をガラスクロス全体に含侵させた。次いで、これを145℃に熱した加熱炉中で、1分間加熱し、重合性組成物を塊状重合させることにより、厚さ0.13mmのプリプレグを得た。
【0089】
次いで、得られたプリプレグを100mm角の大きさに切り出し、ポリエチレンナフタレートフィルムを剥離し、これを8枚重ねて、熱プレスにて、3MPa、200℃の条件で15分間加熱圧着し、積層板を作製した。そして、得られた積層板について、上記方法に従い、成形性(成形体の表面形状)、ピール強度(密着性)および耐クラック性の各評価を行った。また、得られた重合性組成物について、上記方法に従い、粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0090】
実施例2〜4
表面処理シリカを調製する際に、表面処理剤(A)としてのビス(トリメトキシシリル)オクタン、および表面処理剤(B)としてのp-スチリルトリメトキシシランの比率を、重量比で、それぞれ、「ビス(トリメトキシシリル)オクタン」/「p-スチリルトリメトキシシラン」=0.20(実施例2)、0.33(実施例3)、0.50(実施例4)とした以外は、実施例1と同様にして、重合性組成物および積層板を得て、同様に評価を行った。なお、実施例2〜4においても、実施例1と同様に、表面処理剤(A)としてのビス(トリメトキシシリル)オクタン、および表面処理剤(B)としてのスチリルトリメトキシシランの合計量は11部とした。結果を表1に示す。
【0091】
実施例5
表面処理シリカを調製する際に、表面処理剤(B)として、p-スチリルトリメトキシシランの代わりに、ビニルトリメトキシシラン(KBM−1003、信越化学工業社製)を用い、表面処理剤の比率を、「ビス(トリメトキシシリル)オクタン」/「ビニルトリメトキシシラン」=0.20(重量比)とした以外は、実施例1と同様にして、重合性組成物および積層板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
実施例6
表面処理シリカを調製する際に、表面処理剤(A)として、ビス(トリメトキシシリル)オクタンの代わりに、1,4−ビス(トリエトキシシリルエチル)ベンゼン(SIB1831.0、アズマックス社製)を用い、表面処理剤の比率を、「1,4−ビス(トリエトキシシリルエチル)ベンゼン」/「p-スチリルトリメトキシシラン」=0.20(重量比)とした以外は、実施例1と同様にして、重合性組成物および積層板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
実施例7
p-スチリルトリメトキシシランの代わりに、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩(KBM−575、信越化学工業社製、メタノール含有、有効成分60%)を用い、表面処理剤の比率を、「ビス(トリメトキシシリル)オクタン」/「N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩」=0.30(重量比)とした以外は、実施例1と同様にして、重合性組成物および積層板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
実施例8
表面処理シリカを調製する際に、表面処理剤(A)として、ビス(トリメトキシシリル)オクタン1部の代わりに、ビス(トリエトキシシリル)ビニルメチルシラン(SIB1818.0、アズマックス社製)11部を用い、表面処理剤(B)としてのp-スチリルトリメトキシシランを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、重合性組成物および積層板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
比較例1
表面処理シリカを調製する際に、表面処理剤(A)としてのビス(トリメトキシシリル)オクタンを用いず、表面処理剤(B)としてのp-スチリルトリメトキシシラン11部を使用した以外は、実施例1と同様にして、重合性組成物および積層板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
比較例2
表面処理シリカを調製する際に、表面処理剤(A)としてのビス(トリメトキシシリル)オクタンを用いず、表面処理剤(B)としてのビニルトリメトキシシラン11部を使用した以外は、実施例1と同様にして、重合性組成物および積層板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
比較例3
表面処理シリカを調製する際に、表面処理剤(A)としてのビス(トリメトキシシリル)オクタンおよび表面処理剤(B)としてのp-スチリルトリメトキシシランを用いず、その代わりに、オクタデシリルトリメトキシシラン(SIB1824.0、アズマックス社製)11部を使用した以外は、実施例1と同様にして、重合性組成物および積層板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
比較例4
表面処理シリカを調製する際に、表面処理剤(A)としてのビス(トリメトキシシリル)オクタンおよび表面処理剤(B)としてのp-スチリルトリメトキシシランを用いず、その代わりに、チタネート系カップリング剤(プレンアクト−TTS、味の素ファインテクノ社製)11部を使用した以外は、実施例1と同様にして、重合性組成物および積層板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
表1に示すように、本発明所定の表面処理剤(A)を用いて表面処理された充填剤を用い、該充填剤を配合して得られた重合性組成物は、粘度が低く、また、該重合性組成物を用いて得られる積層板は、成形性、支持体に対する密着性(ピール強度)および冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れる結果となった(実施例1〜8)。
これに対し、本発明所定の表面処理剤(A)を用いなかった場合には、重合性組成物の粘度が高くなる結果となった(比較例1,2)。
また、表面処理剤として、本発明所定の表面処理剤(A)および表面処理剤(B)の代わりに、オクタデシルトリメトキシシランを用いた場合には、重合性組成物の粘度が高くなり、さらには、得られる積層板は、成形性、支持体に対する密着性(ピール強度)および冷熱衝撃試験での耐クラック性に劣る結果となった(比較例3)。
さらに、表面処理剤として、本発明所定の表面処理剤(A)および表面処理剤(B)の代わりに、チタネート系カップリング剤を用いた場合には、得られる積層板は、支持体に対する密着性(ピール強度)および冷熱衝撃試験での耐クラック性に劣る結果となった(比較例4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される表面処理剤(A)で表面処理された充填剤、重合触媒、および塊状重合可能なモノマーを含む重合性組成物。
【化7】

(上記一般式(1)中、Mは、Ti、Si、AlまたはZrを表し、X,Xはそれぞれ独立して加水分解性基、水酸基またはアルキル基を表し、Xは加水分解性基または水酸基を表し、Yは、窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を含む置換基を有していても良い炭素数1〜30の直鎖、分岐もしくは環状の脂肪族炭化水素基、または窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を含む置換基を有していても良い芳香族炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記充填剤が、さらに下記一般式(2)で表される表面処理剤(B)で表面処理されたものである請求項1に記載の重合性組成物。
【化8】

(上記一般式(2)中、Mは、Ti、Si、AlまたはZrを表し、Rは末端に二重結合、メルカプト基またはアミノ基を有する炭化水素基を表し、X,Xはそれぞれ独立して加水分解性基、水酸基またはアルキル基を表し、Xは加水分解性基または水酸基を表す。)
【請求項3】
前記充填剤の表面処理に用いられる前記表面処理剤(A)と、前記表面処理剤(B)との比率が、重量比で、表面処理剤(A)/表面処理剤(B)=0.001〜2.0である請求項2に記載の重合性組成物。
【請求項4】
前記塊状重合可能なモノマーがシクロオレフィンモノマーである請求項1〜3のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項5】
架橋剤をさらに含む請求項1〜4のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の重合性組成物を塊状重合してなる架橋性樹脂。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の重合性組成物を支持体に塗布または含浸し、塊状重合してなる架橋性樹脂複合体。
【請求項8】
請求項7に記載の架橋性樹脂を架橋してなる架橋体。
【請求項9】
請求項8に記載の架橋体と支持体とを含む架橋樹脂複合体。

【公開番号】特開2010−168484(P2010−168484A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13233(P2009−13233)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】