説明

重合溶液の揮発成分除去装置、その方法、および、重合装置

【課題】効率よく良好に揮発成分を除去できる重合溶液の揮発成分除去装置を提供する。
【解決手段】溶液重合により得られた重合溶液を、重合体濃度が90質量%以上となるまで脱揮手段で未反応のオレフィンや揮発成分を除去する。圧力調整バルブ225により気泡が発生しない状態で重合溶液を加圧し熱交換手段224で加熱する。重合溶液を脱揮手段の減圧した脱溶剤槽221内に流入させ、多孔部材226の複数の流路を流通させる。脱溶剤槽221に流入した重合溶液は、残留する揮発成分が発泡し、多孔部材226の複数の流路を流通する際に破泡する。破泡にて残留する発泡した揮発成分を分離回収し、常圧に戻した時に重合溶液に再び揮発成分が溶け込むことを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ポリオレフィンの重合溶液中に混在する未反応の単量体や溶剤などの揮発成分を除去する重合溶液の揮発成分除去装置、その方法、および、重合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、溶液重合や塊状重合によってオレフィン単量体を重合させる場合、未反応の単量体や、溶液重合の場合では溶剤など、揮発成分が重合溶液中に残留する。これら揮発成分は、臭気などとして製品の品質を悪化する原因となることから、品質に影響しない程度まで除去する必要がある。
そして、重合体の熱可塑性樹脂の製造設備の最終工程において、重合溶液から未反応の単量体や溶剤などの揮発成分を連続的に除去する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載のものは、重合溶液を加熱するための熱交換器の下方に、真空装置に接続された脱揮発槽を連結している。さらに、熱交換器と脱揮発槽との間には、直径3〜5mmの円形の開口を複数有する分割器を設けている。そして、この特許文献1では、熱交換器で加熱された重合溶液が分割器を介して脱揮発槽に流入する際に、重合溶液中の揮発成分が発泡し、脱揮発槽で重合溶液と発泡した気相分とを分離する構成が採られている。
【0003】
また、揮発性物質を除去する方法として、揮発性物質を含む重合溶液を加熱工程と、この加熱工程に続く減圧下の気液分離工程とで処理する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
この特許文献2に記載のものは、加熱工程として複数の加熱帯に分割している。そして、重合溶液の入口側から出口側に向けた温度勾配を設定し、入口加熱帯で揮発性物が実質的に気化しない温度に加熱し、第二加熱帯以降で揮発生物質が気化する温度に加熱している。そして、この特許文献2では、加熱工程後の気液分離工程でフラッシュさせて気液分離する構成が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−209902号公報
【特許文献2】特開平2−232205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、重合溶液における粘度や揮発成分の残留量などの溶液性状により、分割器の上流側における熱交換器で揮発成分の一部が発泡し、熱交換器における総括伝熱係数が低下して重合溶液が十分に加熱されなくなるおそれがある。このことにより、揮発成分を十分に発泡させて除去することができず、製造された重合体に揮発成分臭があるなどの不都合がある。
このため、重合溶液を十分に加熱するために伝熱面積を大きくするなどにより装置が大型化する不都合を生じるおそれがある。さらに、加熱に必要なエネルギー量が増大してエネルギー効率が低下する不都合を生じるおそれがある。
【0006】
一方、特許文献2では、加熱帯を複数に分割してそれぞれ異なる温度で制御するため、構成が複雑となるおそれがある。また、重合溶液の粘度や残留揮発分量などの性状が変動すると、各加熱帯の温度を調整する必要があり、制御も煩雑となるおそれがある。そして、各加熱帯における下流側では徐々に揮発性物質が気化し、次第に総括伝熱係数が低下することとなる。このため、重合溶液を十分に加熱するために伝熱面積を大きくする必要があり、装置が大型化する不都合を生じるおそれがある。さらに、加熱に必要なエネルギー量が増大してエネルギー効率が低下する不都合を生じるおそれがある。
【0007】
本発明は、このような点に鑑み、効率よく良好に揮発成分を除去できる重合溶液の揮発成分除去装置、その方法、および、重合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に記載の重合溶液の揮発成分除去装置は、溶媒を用いてオレフィンを重合した重合溶液を加圧する加圧手段と、この加圧手段にて加圧された前記重合溶液を加圧下で加熱する加熱手段と、前記加圧かつ加熱された前記重合溶液が流入される減圧された減圧空間を有した減圧手段と、前記重合溶液を流通可能な流路を複数有し、前記減圧手段の減圧空間内に流入された前記重合溶液を前記流路に流通させる状態に前記減圧空間内に配設された多孔部材と、を具備したことを特徴とする。
【0009】
そして、本発明では、前記加圧手段は、前記加熱手段にて前記重合溶液を加熱した際に発泡しない圧力に加圧する構成とすることが好ましい。
また、本発明では、前記多孔部材は、前記流路のピッチ寸法(L)に対する前記流路の孔径(D)の割合(D/L)が0.4以下である構成とすることが好ましい。
そして、本発明では、前記加熱手段で加熱する重合溶液は、ポリオレフィン濃度が90質量%以上のものである構成とすることが好ましい。
さらに、本発明では、前記加熱手段は、230℃以上250℃以下に加熱する構成とすることが好ましい。
また、本発明では、前記減圧手段は、0.5kPa以下に減圧する構成とすることが好ましい。
そして、本発明では、前記加圧手段は、前記加熱手段と前記減圧手段との間に配設された圧力調整バルブを備えた構成とすることが好ましい。
また、本発明では、前記加圧手段は、前記減圧手段に近接して配設された構成とすることが好ましい。
そして、本発明では、前記重合溶液は、極限粘度が0.5dL/g以上15.0dL/g以下のものである構成とすることが好ましい。
さらに、本発明では、前記ポリオレフィンは、アイソタクティックペンタッド分率が20モル%以上60モル%以下のものである構成とすることが好ましい。
特に、本発明では、前記ポリオレフィンは、低分子量低規則性のポリプロピレンである構成とすることが好ましい。
そして、本発明では、重合溶液を加圧する前段加圧手段と、この前段加圧手段で加圧された前記重合溶液を加圧下で加熱する前段加熱手段と、前記加圧かつ加熱された前記重合溶液が流入される減圧された減圧空間を有した前段減圧手段とを備え、前記前段減圧手段で減圧された前記重合溶液を前記加圧手段へ供給する前段処理手段を具備した構成とすることが好ましい。
【0010】
本発明に記載の重合溶液の揮発成分除去方法は、溶媒を用いてオレフィンを重合した重合溶液から揮発成分を除去する重合溶液の揮発成分除去方法であって、前記重合溶液を加圧下で加熱する加圧・加熱工程と、この加圧・加熱工程で加圧かつ加熱された重合溶液を、減圧下で多孔部材に設けられた複数の流路を流通させる発泡・破泡工程と、を実施することを特徴とする。
【0011】
本発明に記載の重合装置は、溶媒中でオレフィンを重合させる重合手段と、この重合手段で前記オレフィンを重合した重合溶液から揮発成分を除去する本発明に記載の重合溶液の揮発成分除去装置と、この重合溶液の揮発成分除去装置で揮発成分が除去された重合溶液を造粒する造粒手段と、を具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶媒を用いてオレフィンを重合した重合溶液を加圧下で加熱し、減圧手段の減圧空間に流入させて発泡させ多孔部材の複数の流路に流通させて破泡させるので、加熱時に発泡しない圧力に加圧することで効率よく加熱でき、適切に加熱された重合溶液を減圧下で多孔部材の複数の流路に流通させて破泡するので、減圧により発泡した揮発成分を効率よく重合容器から分離でき、容易で高度に揮発成分を除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る一実施形態のオレフィンの重合装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態における脱気手段の概略構成を示すブロック図である。
【図3】本実施形態における多孔部材を示す斜視図である。
【図4】本実施形態における重合溶液の蒸気圧と温度と濃度との関係を示すグラフである。
【図5】本実施形態における重合溶液のポリマー濃度毎の蒸気圧と温度との関係を示すグラフである。
【図6】本実施形態における重合溶液の温度毎の蒸気圧とポリマー濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るオレフィンの重合装置について図面を参照して説明する。
図1は、オレフィンの重合装置の概略構成を示すブロック図である。図2は、重合装置の脱気手段の概略構成を示すブロック図である。図3は、脱気手段における多孔部材を示す斜視図である。
【0015】
[オレフィンの重合装置の構成]
図1において、100はオレフィンの重合装置で、この重合装置100は、各種オレフィンを単独重合もしくは異なるオレフィンを共重合させてポリオレフィンを製造する装置である。
ここで、オレフィンとしては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレンなど、各種オレフィンを対象とすることができる。なお、特に、低分子量低規則性のポリプロピレンを製造する場合に本発明は好適である。
【0016】
特に、重合装置100として、重量平均分子量(Mw)が2以上40万以下のもの、好ましくは4以上10万以下の重合体の重合に好適である。
すなわち、低分子量を製造する場合、重合温度を高くする必要があり、重合温度が高いと、触媒活性が低下してしまい、生産効率が低下するおそれがある。一方、高分子量を製造する場合、重合体の粘度が高くなるため、重合する重合反応を実施する重合槽からの抜き出し不良が懸念されるため、抜き出し不良を回避するために重合体の濃度を上げる必要があり、生産効率が低下するおそれがあるためである。
【0017】
さらに、数平均分子量をMnとした場合、Mw/Mnは好ましくは1.8以上4以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2.4以下とするものが好適である。
すなわち、Mw/Mnが4より大きな値では、分子量分布が広くなって低分子量成分が増大し、製品表面にいわゆるブリードしてべたつきを生じるおそれがあるためである。
【0018】
そして、製造するポリオレフィンとしては、DSC測定において、融点(Tm(℃))を示さないか、あるいはTmを示す場合はTmと融解吸熱量ΔH(J/g)が下記の関係式(1)を満たすものが好ましい。
(関係式1)
ΔH≧6×(Tm−140) …(1)
すなわち、特に、後述する触媒を用いて低分子量低規則性のポリプロピレンを製造する場合には、融点が50℃以上110℃以下、好ましくは60℃以上80℃以下のものが好適である。
【0019】
また、重合溶液の極限粘度が0.5dL/g以上15.0dL/g以下、好ましくは0.3dL/g以上1.2dL/g以下、より好ましくは0.4dL/g以上0.95dL/g以下となる分子量のものが好適である。
極限粘度が0.5dL/gより小さい値の重合体を製造する場合、重合温度を高くする必要がある。この重合温度を高くすることにより、触媒活性が低下し、生産効率が低下する不都合を生じるおそれがある。一方、極限粘度が15.0dL/gより大きい値の重合体を製造する場合、重合体の粘度が高くなるため、重合反応を実施する重合槽からの抜き出し不良を生じるおそれがある。このため、重合体の吹き出し不良を回避するために重合溶液における重合体の濃度を下げる必要があり、生産効率が低下するおそれがある。これらのことから、極限粘度を上述した所定の範囲に設定する。
【0020】
さらに、製造するポリオレフィンとしては、アイソタクティックペンタッド分率が20モル%以上60モル%以下、好ましくは40モル%以上55モル%以下、より好ましくは44モル%以上51モル%以下となるものが好適で、特に低分子量低規則性のポリプロピレンの製造に最適である。
アイソタクティックペンタッド分率が20モル%より小さい値では得られたポリオレフィンにべたつきが生じ、後工程での造粒時に粒子同士が再付着して生産性が低下するおそれがある。一方、アイソタクティックペンタッド分率が60モル%より大きい値では触媒性能を上回ることはなく、製造できないおそれがあるためである。
【0021】
ここで、立体規則性の指標として用いたアイソタクティックペンタッド分率の測定は、A.Zambelliにより開示された13C−NMR法(Macromolecules,6925,1973)に準拠して行った。具体的には、まず、i−PP試料220mgを10mm径NMR試料管に採取し、1,2,4−トリクロロベンゼン/重ベンゼン混合溶液(90/10vol%)を2.5ml加え140℃で均一に混合物を溶解させた後、JNM−EX400(商品名:日本電子株式会社製)を用いて13C−NMRスペクトルを測定した。13C−NMRスペクトル測定条件を以下に示す。
・パルス幅 :7.5μs/45度
・観測周波数の範囲 :25,000Hz
・パルス繰り返し時間:4秒
・測定温度 :130℃
・積算回数 :10,000回
【0022】
そして、アイソタクティックペンタッド分率とは、プロピレン5分子の結合パターントータル9種類(「mmmm」、「mmmr」、「rmmr」、「mmrr」、「rmrr+mrmm」、「rmrm」、「rrrr」、「mrrr」、「mrrm」)のそれぞれに対応して13C−NMRスペクトルとして観測される9本のピークすべての面積に対して、「mmmm」に対応するピーク面積の相対比率として定義され、具体的には以下の式(2)により算出した。ここで、2つのピークに重なりがある場合、2つのピークの谷からベースラインまで垂直に垂線を引き、両者のピークを分割した(垂直分割法)。
(式2)
アイソタクティックペンタッド分率(mol%)
={A(mmmm)/A(トータル)}×100 …(2)
ここで、A(mmmm)はmmmmピークの面積であり、A(トータル)は9本のピーク面積の合計を意味する。
なお、2つのピークに重なりがある場合、上記垂直分割法の他に各ピークをローレンツ型ピークの集合体として波形分離を行う方法も知られており、解析ソフト(日本電子(株)のALICE 2)を用いて求めた値を用いてもよい。
【0023】
そして、重合装置100は、重合設備200と、この重合設備200の動作を制御する制御手段としての制御装置300と、を備えている。
重合設備200は、溶媒を用いてオレフィンを重合(溶液重合)してポリオレフィンを製造するプラント設備である。この重合設備200は、重合手段210と、重合溶液の揮発成分除去装置としての脱揮手段220と、造粒手段230と、を備えている。
【0024】
重合手段210は、重合反応を実施する装置で、図示しない重合槽を備えている。この重合槽は、例えば、蒸発潜熱除熱方式が好ましく用いられる。この蒸発潜熱除熱方式は、例えばモノマーの蒸発潜熱を利用するもので、除熱系1系列当たりの除熱量を大きく確保でき、経済的に優れている。さらに、蒸発潜熱除熱方式は、重合により重合槽内の重合溶液の粘度が増大するなどしても効率よく良好に冷却できるので好ましい。
なお、全体的に冷却できる程度に製造量が比較的に少ない場合には重合槽の小型化が図れる重合槽の外部から冷却するジャケット除熱方式や、重合溶液の粘度が高くない場合には重合溶液を循環させて冷却する外部循環方式、重合温度に分子量が大きく依存しない触媒系を用いる場合には原料や溶剤を事前に冷却してから供給する原料顕熱除熱方式などとしてもよい。
そして、この重合手段210には、原料のオレフィンであるプロピレンを重合槽に供給する原料供給手段211が接続されている。また、重合手段210には、溶媒、例えばプロピレンを溶液重合する場合にはヘプタンを重合槽に供給する溶媒供給手段212が接続されている。さらに、重合手段210には、触媒を供給する触媒供給手段213が接続されている。また、重合手段210には、触媒を活性化させてプロピレンの重合を開始させる水素ガス(H2)を供給する水素ガス供給手段214が接続されている。さらに、重合手段210には、助触媒や第3成分を供給する第3成分供給手段215が接続されている。
【0025】
そして、重合槽では、例えば低分子量低規則性のポリプロピレンを重合する場合、溶液重合時の圧力は0.5MPa以上3MPa以下が好ましい。
すなわち、圧力を上げれば重合溶液中の重合体の濃度が増えて生産効率が向上する。ただし、3MPaより高い圧力では、重合溶液中の重合体の濃度はほとんど増えず生産効率の向上は望めず、圧力増大による設備の大型化や消費エネルギーの増大などの不都合を生じるおそれがある。一方、0.5MPaより低い圧力では、立体規則性が発現せず、目的とする重合体が得られなくなるためである。
【0026】
ここで、触媒としては、オレフィンの重合に利用される各種触媒を利用可能である。特に、温度依存性が高いメタロセン系の触媒、具体的には(A)遷移金属化合物と、(B)遷移金属化合物とイオン対を形成する固体有機ホウ素化合物と、(C)有機アルミニウム化合物と、(D)α−オレフィン、内部オレフィン、ポリエンから選択される一種または二種以上の化合物を接触されてなる触媒(特願2007−514550号に記載の触媒)、あるいは、(A)遷移金属化合物と、(B)遷移金属化合物とイオン対を形成する固体有機ホウ素化合物と、(C)有機アルミニウム化合物を接触されてなる触媒が、高効率で安定してポリオレフィンが得られることから好ましい。例えば、(1,2’−ジメチルシリレン)(2,1’ジメチルシリレン)−ビス(3−トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロライドが好適に利用できる。
【0027】
脱揮手段220は、重合手段210に接続され、重合手段210の重合槽から流出する重合溶液から揮発性成分を除去する装置である。脱揮手段220は、図示しない脱モノマー槽と、図2に示す脱溶剤槽221とを備えている。
脱モノマー槽は、重合槽に接続され、重合溶液が流入される。この脱モノマー槽には、重合溶液から揮発する未反応の原料のプロピレンおよび溶媒である揮発成分を回収する揮発成分ガス回収手段222が接続されている。
揮発成分ガス回収手段222は、脱モノマー槽内を減圧する減圧装置と、この減圧装置にて吸気した気相から、揮発成分を分集する回収装置と、この回収装置にて回収した揮発成分を各成分に精製する例えば蒸留塔を備えた精製装置と、などを備えている。
この脱モノマー槽では、重合溶液中の重合体の濃度が90質量%以上、好ましくは95質量%以上となる程度まで、揮発成分を除去する構成とする。すなわち、製品中に残留する揮発成分の量は、その揮発成分を分離除去する槽内での温度と圧力条件により決定されるポリオレフィンと揮発成分との気液平衡の状態で決まる。そして、重合溶液中の重合体の濃度が低い場合、後段での脱溶剤槽221における揮発成分の蒸発潜熱により温度が低下する割合が大きくなる。このため、脱溶剤槽221で所望とする気液平衡が得られなくなり、蒸発潜熱による温度低下分の熱量を別途補う必要があり、十分に揮発成分を蒸発させて分離させることが困難となるので、重合体の濃度が90質量%以上となるようにあらかじめ揮発成分を分離除去する。
この重合体の濃度が90質量%以上に分離除去する条件として、上述したようにポリオレフィンと揮発成分との気液平衡の条件である温度と圧力とにより決まるが、例えば低分子量低規則性のポリプロピレンを製造する場合で、揮発成分ガス回収手段222での減圧する能力が脱モノマー槽内の圧力0.02MPaである場合、重合溶液の温度は188℃以上(脱モノマー槽における重合溶液の流入時の温度としては200〜220℃程度)に設定する。
なお、脱モノマー槽は、1槽のみならず、例えば前段で未反応のモノマーを分離除去し、後段で溶剤の大半を分離除去する多段構成とすることが好ましい。すなわち、より揮発成分ガス回収手段222や槽などの構成の小型化が図れ、回収後の揮発成分の精製処理も容易となるためである。
【0028】
脱溶剤槽221は、図2に示すように、重合溶液流入路223を介して脱モノマー槽に接続され、脱モノマー槽である程度の揮発成分が除去された重合溶液が流入される。この脱溶剤槽221には、重合溶液が流入される内部の減圧空間221Aを減圧する図示しない減圧装置が設けられ、脱溶剤槽221は耐減圧構造に構築されている。この減圧装置と脱溶剤槽221とにより、本発明の減圧手段が構成される。この減圧装置は、揮発成分ガス回収手段222の減圧装置との共用としてプラント設備の簡略化を図ることが好ましい。
そして、減圧装置は、好ましくは0.5kPa以下(4torr以下)に脱溶剤槽221内をフルバキュームできる構成が好ましい。すなわち、揮発成分の臭気による製品の品質悪化を防止すべく残留する揮発成分の量を200質量ppm以下、好ましくは100質量ppm以下とする必要がある。このことにより、ポリオレフィンと揮発成分との気液平衡値に基づき、ポリオレフィンが変質しない温度条件である230℃に設定した場合、0.5kPa以下(4torr以下)に設定する。
【0029】
また、重合溶液流入路223には、脱モノマー槽内の重合溶液を脱溶剤槽221へ送り出す図示しない送出ポンプと、加熱手段としての熱交換手段224と、この熱交換手段224の下流側となる脱溶剤槽221側に加圧手段としての圧力調整バルブ225が設けられている。
熱交換手段224は、例えば、蒸発潜熱除熱方式の重合手段210との熱交換、すなわち重合反応時に除去した熱を利用して重合溶液を加熱する。具体的には、プロピレンを単独重合した場合、230℃〜250℃程度に加熱するとよい。すなわち、重合体が変質せず、かつ後段での減圧時に揮発成分が十分に発泡できる蒸気圧が得られる高い温度に加熱すればよい。具体的には、残留する揮発成分量は、温度と圧力との条件によるポリオレフィンと揮発成分との気液平衡により決まるため、温度が低くなるほど処理する槽内での真空度を高くする必要がある。このことから、230℃より低くすると工業設備的に設定することが困難な高い真空度に設定する必要があり、250℃より高く加熱すると重合体が分解して分子量が低下したり色目が悪化したりするなどの重合体の変質を招くおそれがあるためである。
圧力調整バルブ225は、重合溶液流入路223内を流過する重合溶液が、熱交換手段224で加熱された際に発泡しない圧力で流通する状態に圧力調整する。すなわち、重合溶液の組成により蒸気圧が異なるので、重合溶液の発泡しない圧力も蒸気圧に応じて設定すればよく、蒸気圧より高い圧力に調整することで発泡を防止できる。
【0030】
また、脱溶剤槽221の重合溶液流入路223が接続する上部には、ドーム部221Bが設けられている。このドーム部221Bにおける減圧空間221Aに臨む底面には、多孔部材226が設けられている。この多孔部材226は、図3に示すように、円板状で厚さ方向に沿った軸方向を有する複数の流路226Aが貫通形成されている。
これら流路226Aは、例えば、重合溶液の粘度が重合体としてプロピレンを単独重合したポリプロピレンである場合の粘度程度である場合、直径が2mm以上15mm以下、好ましくは3mm以上7mm以下で形成するとよい。流路226Aの直径が2mmより小さくなると、重合溶液が流通しにくくなり、圧力損失が増大して製造効率の向上が得られにくくなるおそれがあるためである。一方、流路226Aの直径が15mmより大きくなると、流路226Aを流通する重合溶液中に揮発成分が発泡した際に、発泡が重合溶液の外面側まで到達しなくなり、破泡できずに重合溶液内に再び溶け込むおそれがあるためである。すなわち、効率よく破泡するためには重合溶液の表面積を増大させる必要があるが、流路226Aの直径が15mmより大きくなると、表面積の増大による破泡の効果が得られにくいためである。
さらに、流路226Aのピッチは、7mm以上16mm以下で形成するとよい。流路226Aのピッチが7mmより狭くなると、粘性が比較的に高い重合溶液の場合、流路226Aの下流側端部で気泡が風船のように膨らんで破泡する前に隣の気泡とくっついて良好に破泡できなくなるおそれがある。さらに、強度が低下しないように多孔部材226の厚さ寸法を厚くする必要があり、装置の大型化や多孔部材226のコストの増大などの不都合を生じるおそれがある。一方、流路226Aのピッチが16mmより広くなると、多孔部材226の通過時の重合溶液の表面積が減少し、十分に破泡できなくなるおそれがある。さらに、重合溶液の表面積が少なくならないように流路226Aを複数設ける必要があり、多孔部材226の径寸法が増大して装置の大型化や多孔部材226のコストの増大などの不都合を生じるおそれがある。これらのことから、流路226Aのピッチは、7mm以上16mm以下で設計する。
そして、流路226Aのピッチ寸法に対する流路226Aの孔径の割合、すなわち流路226Aの直径(D)とピッチ(L)との関係(D/L)は、0.4以下、特にプロピレン単独重合の場合では0.3とすることが好ましい。ここで、Dに対してLの値が小さすぎると隣接する流路226Aを流通した重合溶液とくっついて重合体を分散させる効果がほとんど得られなくなり、Dに対してLの値が大きすぎると多孔部材226が大きくなって設備が大型化し、設備コストが増大するおそれがあるためである。すなわち、多孔部材226は、単に破泡のみを目的とする場合に限らず、重合体の分散も目的としているためである。
そして、脱溶剤槽221の底部には、揮発成分が高度に除去された重合溶液を次工程の造粒手段230へ送る移送ポンプ227Aを備え流出路227が接続されている。
【0031】
造粒手段230は、図示しない冷却器と、造粒機と、冷却槽と、などを備えている。
冷却器は、脱溶剤槽221から移送された重合溶液を、造粒可能なある程度の粘性を有する温度以下まで冷却する。
造粒機は、冷却器で冷却された重合体を、金型ノズルから流出させるとともに水を噴霧し、金型ノズルの流出口から所定の間隙で離間する回転切断刃にてペレット状に切断する。
冷却槽は、造粒機で造粒されたペレット状の重合体を、造粒時に噴霧した水とともに撹拌しつつ十分に冷却する。すなわち、冷却槽は、造粒時では完全に固化していないため、造粒後にペレット同士が付着してしまう不都合を防止するため、撹拌しつつ互いに付着しない温度まで十分に冷却し、オレフィンの重合体が製造される。
この製造されたオレフィンの重合体は、貯蔵ホッパなどに適宜貯留される。
【0032】
制御装置300は、例えばコンピューターが用いられ、重合設備200の運転条件を制御する。具体的には、原料供給手段211からの原料の供給量、溶媒供給手段212からの溶媒の供給量、触媒供給手段213からの触媒の供給量、水素ガス供給手段214からの水素ガスの供給量、第3成分供給手段215からの第3成分の供給量、重合槽内の気相分を循環させて重合溶液の温度を制御したり、脱揮手段220における減圧する圧力、熱交換手段224での加熱する温度、圧力調整バルブ225で加圧する圧力、移送ポンプ227Aの駆動制御による流量制御、造粒手段230における冷却する温度や回転切断刃の回転速度などを制御したりする。
ここで、コンピューターとは、1台のパーソナルコンピューターに限らず、複数のコンピューターをネットワーク状に組み合わせた構成、CPU(Central Processing Unit)やマイクロコンピューターなどの素子、あるいは複数の電子部品が搭載された回路基板などをも含むものである。
また、制御装置300は、ポリオレフィンの濃度、重合溶液の温度、重合溶液の蒸気圧および減圧処理の時間長に基づいて、減圧処理後の重合溶液中の揮発成分含有量を200質量ppm以下とするあらかじめ設定された条件、すなわち圧力調整バルブ225により加圧する圧力、熱交換手段224により加熱する温度、減圧手段により減圧する圧力および重合溶液の流量などを制御する。
具体的には、図4に示すように、重合溶液の重合物の濃度における揮発成分の蒸気圧および温度には所定の関係があることから、重合溶液の組成に基づく蒸気圧の特性に基づいて、減圧する圧力、熱交換手段224で加熱する温度、減圧処理の時間長となる脱モノマー槽や脱溶剤槽221の大きさに対する流量などが設定され、設定された数値に従って重合設備200を制御する。なお、図4は、脱溶剤槽221における重合溶液流入路223が接続する位置での熱交換計算による重合物の濃度、揮発成分の蒸気圧および温度の関係を示すグラフである。
【0033】
ここで、重合溶液の気液平衡は、混合物の気相と液相との間の平衡状態であり、温度、圧力、気相組成、液相組成の因子である気液平衡データに依存する。重合溶液の液相は、蒸気圧をもたない重合物であるポリマーと、揮発性の溶質との混合物である。
溶質に不揮発性物質を溶かすと、溶液の蒸気圧Pは、純溶媒の蒸気圧P0に比べて低くなる。理想溶液の場合、蒸気圧降下は、ラウール(Laoult)則(P=P0×(1−x);xはモル分率)によりモル分率と蒸気圧とに比例する。ところが、不揮発性物質がポリマーの場合、ラウール則から外れて極めて大きい蒸気圧降下を起こす。
重合溶液の気液平衡は、重合物、揮発性物質の溶質性状により異なるため、後述するように、実験に基づいて気液平衡データを算出した。なお、重合物中の溶質の収量の相関、推算には一般的にフローリー・ハギンズ(Flory-Huggins)式が用いられるが、多成分系の拡張性の点、プロセス全体が1つの溶液モデルで表現できる点から、NRTL(Non Random Two-Liquid)式(H. Renon, and J. N. Prausnitz, AIChE J. 14. (1), 135-144 (1968)参照)を用いる。この場合、重合物をそのまま取り扱うことはできないので、n−C36でポリマーを代用する。なお、n−C36での代替は分子量のみで、比容積はポリマーの値を使用する。
【0034】
具体的には、相関の手順として、まずパラメーターをフローリー・ハギンズ式(P.J.Flory,J.Chem.Phys.10,51(1942)、および、M.L.Huggins,J.Phys.Chem.46,151(1942);Ann.N.Y.Acad.Sci.41,1(1942);J.Am.Chem.Soc.64,1712(1942)参照)に適用し、有限濃度域での溶質分圧と溶解度との関係を求める。この後、NRTLのパラメーターを最適化する。この最適化に際して、広い温度領域で使用できるように、以下の式(3)に示す温度依存型で表現した。
(式3)
τij=aij+bij/T
T:温度
そして、相関したパラメーターの結果をフローリー・ハギンズ式による計算と比較し、NRTLでもポリマー−溶質系の気液平衡を表現できることが確認できる。
【0035】
このような推算方法により、運転時の重合溶液の組成における温度と蒸気圧との関係を推算した。
なお、本実施形態における各工程の熱交換で気液平衡を推算する場合、重合手段210の重合槽の出口の組成、脱揮手段220の脱モノマー槽の出口の組成について計算する必要がある。このため、重合条件、脱モノマー槽の運転条件により、各出口における重合物の濃度、組成が異なるので、それぞれ異なる条件毎に計算する必要がある。
【0036】
そして、本実施形態において、重合溶液(ポリオレフィン、プロピレン、ヘプタン)での重合物の濃度(ポリオレフィン/(ポリオレフィン+プロピレン+ヘプタン))について、上述した推算方法で計算した気液平衡の結果を、図5,6に示す。これら図5,6は、重合槽で温度78℃、圧力1.6MPaで重合物の濃度30質量%まで重合した重合溶液を、脱モノマー槽で各濃度まで濃縮した重合溶液における気液平衡の結果を示したものである。
【0037】
[オレフィンの重合体の製造]
制御装置300は、あらかじめ取得した生産計画データに基づいて原料などの必要量を認識し、原料供給手段211、溶媒供給手段212、触媒供給手段213、水素ガス供給手段214、第3成分供給手段215をそれぞれ制御して、必要量の原料、溶媒、触媒、水素ガス、および第3成分を重合手段210の重合槽へ供給させる。
そして、制御装置300は、重合槽内の気相成分を図示しない冷却器で適宜冷却しつつ循環させて重合槽内の重合溶液の温度を制御して重合反応を進行させる。
【0038】
この後、制御装置300は、重合槽内の重合溶液を脱揮手段220の脱モノマー槽に移送し、別途駆動制御している揮発成分ガス回収手段222にて、重合溶液から揮発成分を除去する。この揮発成分ガス回収手段222の運転制御としては、重合溶液中の重合体の濃度が90質量%以上となる程度まで、所定の圧力に減圧した脱モノマー槽内に滞留させる。すなわち、重合溶液の重合物の濃度における揮発成分の蒸気圧および温度の関係に基づいて、減圧する圧力や流量などを制御する。
そして、制御装置300は、脱モノマー槽で重合溶液中の重合体の濃度が90質量%以上に揮発成分を除去した重合溶液を、重合溶液流入路223を介して脱溶剤槽221へ流入させる。この重合溶液が重合溶液流入路223を流通する際、制御装置300にて制御された重合溶液流入路223の圧力調整バルブ225により、所定の圧力すなわち加熱中に発泡しない圧力まで加圧された状態となる。さらに、重合溶液は、制御装置300にて制御された熱交換手段224により所定の温度まで熱交換により加熱される。そして、加圧状態で加熱された重合溶液は、圧力調整バルブ225を流通した後、直ちに、制御装置300にて所定の圧力に減圧された脱溶剤槽221のドーム部221Bに発泡しつつ流入する。
この発泡した重合溶液は、多数の気泡が破泡せずに混入する状態となっている。そして、この気泡が混入する重合溶液は、多孔部材226の複数の流路226Aを流通する。この流通の際、重合溶液はさらに発泡が進行して気泡径が大きくなるとともに、重合溶液内に混入する気泡が流路226Aの内面となる重合溶液の外面に現れる状態となり、気泡が破泡する。すなわち、重合溶液が複数の流路226Aを流通することにより、表面積が増大させられる状態となる。このことにより、内部に混入する気泡が重合溶液の外表面に現れる状態となり、破泡する。そして、破泡により分離された揮発成分は、重合溶液内に再溶解しないように脱溶剤槽221の上部より揮発成分ガス回収手段222にて回収される。
【0039】
そして、脱揮手段220で揮発成分が十分に分離、例えば残留する揮発成分が200ppm以下まで分離された重合溶液である重合体は、造粒手段230へ移送ポンプ227Aを備え流出路227を介して移送される。
この造粒手段230では、制御装置300にて制御された冷却器にて移送された重合体を冷却し、造粒機にてペレット状に造粒する。造粒後のペレット状の重合体は、互いに付着しないように直ちに冷却槽にて十分に冷却固化され、ペレット状のオレフィンの重合体が製造される。
この冷却固化された重合体は、適宜水分を除去した後、貯蔵ホッパなどに移送されて適宜貯留される。
【0040】
[実施形態の作用効果]
上述した実施形態では、圧力調整バルブ225にて加圧された状態で熱交換手段224にて重合溶液を加熱した後、減圧された脱溶剤槽221へ流入させて残留する揮発成分を発泡させ、脱溶剤槽221内に配設した多孔部材226の複数の流路226Aを流通させて破泡させている。
このため、熱交換手段224にて加熱する際に残留する揮発成分が発泡しないように、重合溶液の性状に応じて適宜調整した圧力調整バルブ225にて十分に加圧すればよく、圧力調整バルブ225にて圧力を調整する簡単な処理で、損失無く効率よく重合溶液を加熱できる。したがって、残留する揮発成分を十分に発泡させるのに必要な蒸気圧となる温度に効率よく加熱された重合溶液は、十分に発泡して多孔部材226で破泡されるので、脱溶剤槽221を流出して大気圧の状態に戻っても、揮発成分が再び溶け込んで十分に分離できなくなるという不都合を防止でき、揮発成分を高度に分離除去できる。
【0041】
そして、本実施形態では、熱交換手段224にて重合溶液を加熱する際に発泡しない圧力に圧力調整バルブ225にて調整している。
このため、加熱中の発泡により伝熱係数が低下して重合溶液を十分に加熱できずに残存する揮発成分を十分に発泡できなくなる不都合を防止できる。したがって、残留する揮発成分を十分に発泡させるのに必要な蒸気圧となる温度に重合溶液を効率よく加熱でき、揮発成分を高度に分離除去できる。
【0042】
また、本実施形態では、多孔部材226の流路226Aのピッチ寸法(L)に対する流路226Aの孔径(D)の割合(D/L)を0.4以下としている。
このため、流通抵抗の増大を抑制しつつ、流通の際に重合溶液中の気泡が表面に位置して破泡する状態が得られやすくなる表面積が増大する状態にすることができ、効率よく破泡でき、脱溶剤槽221を流出して大気圧の状態に戻っても、気泡の揮発成分が再び溶け込んで十分に分離できなくなるという不都合を防止でき、揮発成分を高度に分離除去できる。
【0043】
さらに、本実施形態では、加圧下で熱交換手段224により加熱して減圧した多孔部材226を備えた脱溶剤槽221で揮発成分を発泡させて破泡にて分離する前に、重合溶液中の重合体の濃度を90質量%以上となる状態まで、揮発成分を除去しておく。
すなわち、一動作で揮発成分を除去する場合に多量に揮発する揮発成分を分離して回収しつつ、高度に揮発成分を除去するために十分に減圧するための設備が大型となる。このため、設備の大型化に制約がある場合は、本実施形態のように、あらかじめ重合体の濃度が90質量%以上に揮発成分を除去した重合溶液を、加圧下で加熱して脱溶剤槽221で減圧する構成とすることで、設備が大型化することなく高度に揮発成分を分離除去できる。
【0044】
また、一動作で揮発成分を除去するためには、熱交換手段224で高温にする必要があり、さらに高温に加熱した重合溶液中の揮発成分が気化しない高い圧力に維持する必要があり、装置の大型化や複雑化するおそれがある。また、高温にすることで、重合体が分解したり、分子量が低下したり、色目が悪化するなどの不都合を生じるおそれがある。
このため、脱モノマー槽であらかじめ揮発成分の一部を除去する多段構成、さらには重合溶液を加圧・加熱した後に減圧し揮発成分の一部を除去する前段処理手段で処理した後に脱溶剤槽221で処理する多段構成とする。これらの構成により、装置の簡略化や重合体が変質するなどの不都合も防止できる。
特に、前処理として、脱モノマー槽の処理後に、加熱・加圧した後に減圧して揮発成分を除去する前段処理手段を設ける多段構成とすることが好ましい。具体的には、重合溶液を加圧する前段加圧手段と、加圧された重合溶液を加圧下で加熱する前段加熱手段と、加圧かつ加熱された重合溶液を減圧する前段減圧手段を備えた前段処理手段を脱モノマー槽と、脱溶剤槽の熱交換手段224との間に設ける。この構成により、熱交換手段224、圧力調整バルブ225および脱溶剤槽221の構成が多段に接続する状態となる。この構成により、一動作で揮発成分を除去する場合に比して、装置の大型化や複雑化を抑えつつ、重合物を変質させずに揮発成分を高度に除去できる。
【0045】
そして、本実施形態では、230℃以上250℃以下に加熱している。
このため、重合体が変性することなく、脱溶剤槽221における減圧時に重合溶液中の揮発成分が十分に発泡できる蒸気圧となる高い温度で加熱するので、揮発成分を高度に分離除去できる。
【0046】
また、本実施形態では、脱溶剤槽221で0.5kPa以下に減圧している。
このため、重合溶液中の揮発成分が十分に発泡できる蒸気圧となる温度を低くすることができ、効率よく高度に揮発成分を分離除去できる。
【0047】
そして、本実施形態では、重合溶液を加圧する構成として、熱交換手段224と脱溶剤槽221との間に圧力調整バルブ225を配設している。
このため、粘度や温度が変わるなどの重合溶液の性状が変わっても、熱交換手段224で発泡しない加圧状態に調節することが容易にでき、残留する揮発成分を十分に発泡させて高度に除去することが簡単な構成で容易にできる。
【0048】
また、本実施形態では、圧力調整バルブ225を脱溶剤槽221に近接して配設している。
このため、加圧状態の重合溶液を減圧された脱溶剤槽221へ流入させる経路が短い、もしくは、ほとんどない状態となるので、圧力が開放された時点で脱溶剤槽221に流入する前に発泡しても、脱溶剤槽221への移送に影響がなく、安定して処理できる。
【0049】
そして、低分子量低規則性のポリプロピレンの製造に好適である。
低分子量低規則性のポリプロピレンは、重合体中の溶剤が短時間で発泡し、破泡するので、重合体が脱溶剤槽で脱揮処理される間に重合体中の溶剤量平行に達しやすく、容易に脱揮処理できるとともに、装置の小型化が容易に図れ、好適である。
【0050】
[実施形態の変形例]
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な構造および形状などは、本発明の目的および効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状などとしても適用できる。
【0051】
すなわち、制御装置300により重合設備200の運転条件を制御して重合装置100を自動運転する構成を例示したが、この構成に限らない。例えば、運転条件を適宜手動により設定して運転させる手動運転とする構成としてもよい。
さらには、製造に関しても連続式に限らず、バッチ式としてもよい。
また、制御装置300で制御する際の条件として上述した式1に基づいて制御したが、制御条件としても式1の条件に限られるものではない。
【0052】
そして、オレフィンとして、エチレン、プロピレン、ブチレンなど、各種オレフィンを対象とすることができる。
さらに、製造するポリオレフィンとしては、ポリエチレンやポリプロピレンなどの単独重合体に限らず、エチレンとプロピレンとの共重合体を製造させる場合にも適用できる。
【0053】
そして、脱揮手段220としては、脱モノマー槽と脱溶剤槽221との2段構成を例示したが、1段のみあるいは3段以上の多段構成とするなどしてもよい。
特に、加圧しつつ熱交換手段224で加熱する際に発泡しない構成が好ましいことから、この加圧・加熱する際にある程度、例えば重合体の濃度が90質量%以上のものとしておくことが好ましい。したがって、多段の構成とすることで効率よく容易に高度に揮発成分を分離除去できる。なお、脱モノマー槽で重合体の濃度が90質量%以上まで揮発成分を除去していなくてもよい。すなわち、加熱時に発泡しないように圧力を掛ければよい。
そして、加圧手段としては、圧力調整バルブ225に限らず、例えば、ポンプなどを用いて容器内に圧入して重合溶液を加圧するなど、各種加圧する構成を利用できる。
同様に、加熱する構成についても、熱交換手段224に限らず、重合溶液を貯留する容器の外部をヒーターなどにて加熱するなど、各種加熱方法を利用できる。なお、重合手段210で生じる熱を利用する熱交換により、エネルギーを有効利用でき、効率よく製造できるので好ましい。
【0054】
また、プロピレンを単独重合させる構成において、例えば、脱溶剤槽221における減圧する圧力が0.5kPa以下に高度に減圧できる場合などでは、熱交換手段224で230〜250℃に加熱しなくてもよい。
さらに、減圧する圧力も0.5kPa以下に限られない。
【0055】
そして、多孔部材としては、D/L≦0.4に限られるものではなく、破泡および分散効果が得られるものであればいずれのものが適用できる。
また、多孔部材としては、例えば軽石などのように、流路が直線状ではなく屈曲したり枝分かれ状であったりする多孔質部材、あるいはメッシュ状部材などでもよい。
【0056】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造および手順は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構成に変更するなどしてもよい。
【実施例】
【0057】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は実施例などの内容に何ら限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
上述した重合装置を用い、ヘプタン17kg/h、トリイソブチルアルミニウム28mmol/h、水素37NL/h、プロピレン10kg/h、触媒((1,2’−ジメチルシリレン)(2,1’ジメチルシリレン)−ビス(3−トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロライド)9μmol/hで連続的に供給して、温度70℃、圧力0.9MPaで重合した。
重合溶液は、エタノールを添加して触媒を失活させ、脱モノマー槽で未反応プロピレンを除去した後、熱交換器で加熱し、脱溶剤槽で温度135℃、圧力20kPaAの状態で重合体の濃度96質量%まで事前脱揮させた。
この事前脱揮させた重合溶液を、管内径7mm、長さ1.2mのチューブ13本を備えた多管環式熱交換器を使用して、出口バルブで圧力を0.5MPaに調整して230℃に加熱した。厚さ寸法が3mm、孔径が3mm、ピッチが7mmの流路を複数有した多孔部材を備え、圧力0.5kPaAの脱溶剤槽に流入させた。脱揮後の重合体の温度は226℃で、脱溶剤槽の底に設置したギアポンプで抜き出し、残留揮発性物質を分析した。この残留揮発性物質の分析方法は、ガスクロマトグラムである。
残留揮発性物質は、100質量ppmであった。
(実施例2)
実施例1における事前脱揮における脱溶剤槽の圧力を140kPaAとして、得られた重合体の濃度が87質量%のものを用いた以外は、実施例1と同様に脱揮処理した。脱揮後の重合体の温度は、218℃であった。
残留揮発性物質は、150質量ppmであった。
(実施例3)
実施例1における脱揮処理時の多孔部材の孔径が15mmのものを用いた以外は、実施例1と同様に脱揮処理した。脱揮後の重合体の温度は、226℃であった。
残留揮発性物質は、120質量ppmであった。
(比較例1)
実施例1における脱溶剤槽に多孔部材を用いず、事前脱揮処理した重合溶液を11/2Bの配管を介して脱溶剤槽に流入させて処理した以外は、実施例1と同様に脱揮処理した。
残留揮発性物質は、200質量ppmであった。多管環式熱交換器の出口における温度は190℃までしか上昇しなかった。
【0059】
上記実施例の結果から、特に脱揮処理の入口における重合溶液の重合体の濃度が90質量%以上で規定の孔径の多孔部材に重合溶液を流通させることで、残留揮発性物質を効率よく除去できた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、溶媒を用いてオレフィンを単独もしくは共重合によりポリオレフィンを製造する際の重合溶液から揮発成分を除去するための重合溶液の揮発成分除去装置、さらにはこの揮発成分除去装置を備えた重合装置に利用できる。
【符号の説明】
【0061】
100……重合装置
210……重合手段
220……揮発成分除去装置としての脱揮手段
221……減圧手段を構成する脱溶剤槽
221A…減圧空間
224……加熱手段としての熱交換手段
225……加圧手段としての圧力調整バルブ
300……制御手段としての制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒を用いてオレフィンを重合した重合溶液を加圧する加圧手段と、
この加圧手段にて加圧された前記重合溶液を加圧下で加熱する加熱手段と、
前記加圧かつ加熱された前記重合溶液が流入される減圧された減圧空間を有した減圧手段と、
前記重合溶液を流通可能な流路を複数有し、前記減圧手段の減圧空間内に流入された前記重合溶液を前記流路に流通させる状態に前記減圧空間内に配設された多孔部材と、
を具備したことを特徴とした重合溶液の揮発成分除去装置。
【請求項2】
請求項1に記載の重合溶液の揮発成分除去装置であって、
前記加圧手段は、前記加熱手段にて前記重合溶液を加熱した際に発泡しない圧力に加圧する
ことを特徴とした重合溶液の揮発成分除去装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の重合溶液の揮発成分除去装置であって、
前記多孔部材は、前記流路のピッチ寸法(L)に対する前記流路の孔径(D)の割合(D/L)が0.4以下である
ことを特徴とした重合溶液の揮発成分除去装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の重合溶液の揮発成分除去装置であって、
前記加熱手段で加熱する重合溶液は、ポリオレフィン濃度が90質量%以上のものである
ことを特徴とした重合溶液の揮発成分除去装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の重合溶液の揮発成分除去装置であって、
前記加熱手段は、230℃以上250℃以下に加熱する
ことを特徴とした重合溶液の揮発成分除去装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の重合溶液の揮発成分除去装置であって、
前記減圧手段は、0.5kPa以下に減圧する
ことを特徴とした重合溶液の揮発成分除去装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の重合溶液の揮発成分除去装置であって、
前記加圧手段は、前記加熱手段と前記減圧手段との間に配設された圧力調整バルブを備えた
ことを特徴とした重合溶液の揮発成分除去装置。
【請求項8】
請求項7に記載の重合溶液の揮発成分除去装置であって、
前記加圧手段は、前記減圧手段に近接して配設された
ことを特徴とした重合溶液の揮発成分除去装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の重合溶液の揮発成分除去装置であって、
前記重合溶液は、極限粘度が0.5dL/g以上15.0dL/g以下のものである
ことを特徴とした重合溶液の揮発成分除去装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の重合溶液の揮発成分除去装置であって、
前記ポリオレフィンは、アイソタクティックペンタッド分率が20モル%以上60モル%以下のものである
ことを特徴とした重合溶液の揮発成分除去装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載の重合溶液の揮発成分除去装置であって、
前記ポリオレフィンは、低分子量低規則性のポリプロピレンである
ことを特徴とした重合溶液の揮発成分除去装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載の重合溶液の揮発成分除去装置であって、
重合溶液を加圧する前段加圧手段と、この前段加圧手段で加圧された前記重合溶液を加圧下で加熱する前段加熱手段と、前記加圧かつ加熱された前記重合溶液が流入される減圧された減圧空間を有した前段減圧手段とを備え、前記前段減圧手段で減圧された前記重合溶液を前記加圧手段へ供給する前段処理手段を具備した
ことを特徴とした重合溶液の揮発成分除去装置。
【請求項13】
溶媒を用いてオレフィンを重合した重合溶液から揮発成分を除去する重合溶液の揮発成分除去方法であって、
前記重合溶液を加圧下で加熱する加圧・加熱工程と、
この加圧・加熱工程で加圧かつ加熱された重合溶液を、減圧下で多孔部材に設けられた複数の流路を流通させる発泡・破泡工程と、を実施する
ことを特徴とする重合溶液の揮発成分除去方法。
【請求項14】
溶媒中でオレフィンを重合させる重合手段と、
この重合手段で前記オレフィンを重合した重合溶液から揮発成分を除去する請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載の重合溶液の揮発成分除去装置と、
この重合溶液の揮発成分除去装置で揮発成分が除去された重合溶液を造粒する造粒手段と、
を具備したことを特徴とした重合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−74373(P2011−74373A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196038(P2010−196038)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】