説明

重水素化フィンゴリモド

【課題】本発明はフィンゴリモドの重水素化誘導体である新規化合物および薬剤的に受容可能なその塩を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明はフィンゴリモドの重水素化誘導体である新規化合物および薬剤的に受容可能なその塩に関する。本発明はまた、本発明の1以上の化合物およびキャリアを含む組成物、ならびにフィンゴリモドのようなリゾリン脂質edg1(S1P1)受容体アゴニストを投与することによって有益に処置される疾患および状態を処置する方法における開示された化合物および組成物の使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願
本出願は2007年11月2日に出願された、米国仮出願番号第61/001,569号の利益を主張する。
【0002】
スフィンゴシン−1−リン酸受容体アゴニストであるフィンゴリモドは2−アミノ−2−[2−(4−オクチルフェニル)エチル]−1,3−プロパンジオール塩酸塩としても知られ、循環するリンパ球を二次リンパ組織に隔離することによってリンパ球減少を誘導し、それゆえ移植された組織または他の病気に冒された組織にリンパ球が移動することを妨げることにより免疫調節剤として作用する(Chiba,Kら,Transplant Proc.,2005,Jan−Feb,37(1):102−6)。
【背景技術】
【0003】
フィンゴリモドは現在多発性硬化症(MS)の第III相臨床試験中である。
一般に、フィンゴリモドは安全で十分に耐えられることが見出されている(Kahan,BDら,Transplantation,2003,76(7):1079;Budde,Kら,Journal of the American Society of Nephrology,2002,13(14):1073−1083;およびFerguson,RMら,American Journal of Transplantation,2003,3(311):(Abs 624))。しかし、フィンゴリモドが腎臓移植患者に投与された臨床試験の1つ(Tedesco−Silva Hら,Transplantation,2004,77(12):1826)は、処置を中止すると元に戻る、フィンゴリモド処置に関連した軽度で一過性の心拍数の減少を示した。
【0004】
フィンゴリモドの有益な活性にもかかわらず、前述の疾患および状態を処置するための新規な化合物に対する継続した必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
本発明はフィンゴリモドの重水素化誘導体である新規化合物および薬剤的に受容可能なその塩に関する。本発明はまた、本発明の1以上の化合物およびキャリアを含む組成物、ならびにフィンゴリモドのようなリゾリン脂質edg1(S1P1)受容体アゴニストを投与することによって有益に処置される疾患および状態を処置する方法における、開示された化合物および組成物の使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
“改良する(ameliorate)”および“処置する(treat)”という用語は相互に交換可能に使用され、治療的処置および予防的処置(発症の可能性を軽減する)の両方を含む。両方の用語は、疾患(たとえば、本明細書で詳細に説明する疾患または障害)の発症または進行を減少させる(decrease)、抑制する(suppress)、弱める(attenuate)、減らす(diminish)、阻む(arrest)、もしくは安定させる(stabilize)、疾患の重症度を緩和する(lessen)または疾患に関連する症状を改善する(improve)ことを意味する。
【0007】
“疾患”は、細胞、組織、または器官の正常な機能を損なうか、または妨げるいずれかの状態または障害を意味する。
合成に使用される化学物質の起源に依存して、合成された化合物に天然の同位体存在比の多少の変動が起こることは認められるであろう。従って、フィンゴリモドの調製物は固有に少量の重水素化アイソトポローグ(isotopologue)を含むことになる。この変動にもかかわらず、天然に存在する安定水素同位体および安定炭素同位体の濃度は低く、本発明の化合物の安定同位体置換の程度に比較して取るに足らない。たとえば、Wada,Eら,Seikagaku,1994,66:15;Ganes,LZら,Comp Biochem Physiol Mol Integr Physiol,1998,119:725を参照されたい。
【0008】
本発明の化合物では、特有の位置が重水素を有すると明示される場合、その位置における重水素の存在比は、0.015%である天然の重水素の存在比より実質的に大きい。特記しない限り、ある位置が特に“D”または“重水素”と明示される場合、その位置は0.015%である天然の重水素の存在比より少なくとも3340倍大きい存在比で重水素を有すると理解される(すなわち、少なくとも50.1%の重水素の取り込み)。
【0009】
本発明の化合物では、特有の同位体として特に明示されないいずれかの原子は、特記しない限り、その原子のいずれかの安定同位体を表すことを意味する。特記しない限り、ある位置が特に“H”または“水素”と明示される場合、その位置はその天然の存在比の同位体組成において水素を有すると理解される。
【0010】
本明細書で使用する“同位体濃縮係数”という用語は、同位体存在比とその同位体の天然の存在比間の比を意味する。
他の態様では、本発明の化合物は化合物の潜在的な重水素化部位として明示された部位に存在するそれぞれの重水素に対して、少なくとも3500(52.5%重水素取り込み)少なくとも4000(60%重水素取り込み)、少なくとも4500(67.5%重水素取り込み)、少なくとも5000(75%重水素取り込み)、少なくとも5500(82.5%重水素取り込み)、少なくとも6000(90%重水素取り込み)、少なくとも6333.3(95%重水素取り込み)、少なくとも6466.7(97%重水素取り込み)、少なくとも6600(99%重水素取り込み)、または少なくとも6633.3(99.5%重水素取り込み)の同位体濃縮係数を有する。
【0011】
“アイソトポローグ”という用語は、その同位体組成においてだけ本発明の特定の化合物と異なる化学種を表す。アイソトポローグは1以上の位置における同位体濃縮のレベルにおいて、および/または同位体濃縮の位置において異なることが可能である。
【0012】
本発明の化合物に言及する場合、“化合物”という用語は分子の構成原子間に同位体変動が存在してもよいことを除いて、同一の化学構造を有する分子の集まりを表す。従って、示された重水素原子を含む特有の化学構造によって表される化合物が、その構造中の1以上の明示された重水素位置に水素原子を有する、より少ない量のアイソトポローグを同様に含むであろうことは当業者には明らかであろう。本発明の化合物におけるそのようなアイソトポローグの相対量は、化合物を作るために使用される重水素化試薬の同位体純度、および化合物を調製するために使用される種々の合成ステップにおける重水素の取り込みの効率を含むいくつかの因子に依存するであろう。しかし、先に説明したように、そのようなアイソトポローグの相対量は全体として化合物の49.9%未満であろう。他の態様では、そのようなアイソトポローグの相対量は全体として化合物の47.5%未満、40%未満、32.5%未満、25%未満、17.5%未満、10%未満、5%未満、3%未満、1%未満、または0.5%未満であろう。
【0013】
本明細書で詳述した構造式は、ある位置の原子が同位体濃縮されているかどうかを示してもよく、示さなくてもよい。最も一般的な態様では、特有の位置が同位体濃縮されているかどうかに関して構造式から判断できない場合、特有の位置における安定同位体が天然の存在比で存在するか、あるいはまた、その特有の位置が1以上の天然に存在する安定同位体に関して濃縮されていると理解すべきである。より特定の態様では、同位体濃縮されていると特に明示されない化合物のすべての位置において安定同位体は天然の存在比で存在する。
【0014】
本発明はまた、本発明の化合物の塩、溶媒和物および水和物を提供する。
本発明の化合物の塩は、酸と化合物の塩基性基、たとえばアミノ官能基、または塩基と化合物の酸性基、たとえばカルボキシル官能基の間で形成される。別の態様に従って、該化合物は薬剤的に受容可能な酸付加塩である。
【0015】
本明細書で使用する“薬剤的に受容可能”という用語は、適切な医学的判断の範囲内で過度な毒性、痛み、アレルギー反応などを起こさずにヒトおよび他の哺乳動物の組織と接触する使用に適し、そして適当な利益/リスク比に対応する成分を表す。“薬剤的に受容可能な塩”は、受容者への投与時に、本発明の化合物を直接または間接のいずれかで提供することが可能ないずれかの非毒性塩を意味する。“薬剤的に受容可能なカウンターイオン”は、受容者への投与時に塩から遊離した場合に毒性でない、塩のイオン性部分である。
【0016】
薬剤的に受容可能な塩を形成するために一般に利用される酸には、二硫化水素、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸およびリン酸のような無機酸、およびパラ−トルエンスルホン酸、サリチル酸、酒石酸、ビ酒石酸、アスコルビン酸、マレイン酸、ベシル酸、フマル酸、グルコン酸、グルクロン酸、ギ酸、グルタミン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、乳酸、蓚酸、パラ−ブロモフェニルスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸のような有機酸、ならびに関連する無機酸および有機酸が挙げられる。そのような薬剤的に受容可能な塩には、従って硫酸塩、ピロ硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、クロリド、ブロミド、ヨージド、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソブチル酸塩、カプリン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオン酸塩、蓚酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、ズベレート、セバケート、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン−1,4−ジオエート、ヘキシン−1,6−ジオエート、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、テレフタル酸塩、スルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、β−ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン−1−スルホン酸塩、ナフタレン−2−スルホン酸塩、マンデル酸塩および他の塩が挙げられる。一態様では、薬剤的に受容可能な酸付加塩には、塩酸および臭化水素酸のような鉱酸と共に形成されるもの、およびとりわけマレイン酸のような有機酸と共に形成されるものが挙げられる。
【0017】
本明細書で使用する“水和物”という用語は、非共有結合分子間力によって結合した化学量論的、または非化学量論的量の水をさらに含む化合物を意味する。
本明細書で使用する“溶媒和物”という用語は、非共有結合分子間力によって結合した化学量論的、または非化学量論的量の溶媒、たとえば水、アセトン、エタノール、メタノール、ジクロロメタン、2−プロパノールなどをさらに含む化合物を意味する。
【0018】
本発明の化合物(たとえば、式Iの化合物)は、たとえば重水素置換または別の方法の結果として、非対称炭素原子を含んでいてもよい。そのようなものとして本発明の化合物は別個のエナンチオマー、または2つのエナンチオマーの混合物のいずれかとして存在することができる。従って、本発明の化合物は両方のラセミ混合物、そしてさらに別の可能性のある立体異性体を実質的に含まない別個のそれぞれの立体異性体を含むことになる。本明細書で使用する“実質的に他の立体異性体を含まない”という用語は他の立体異性体の25%未満、好ましくは他の立体異性体の10%未満、より好ましくは他の立体異性体の5%未満、そしてもっとも好ましくは他の立体異性体の2%未満、または他の立体異性体の“X”%未満(ここでXは0〜100までの間の数である)が存在することを意味する。与えられた化合物の別個のエナンチオマーを得るか、または合成する方法は当該技術分野で公知であり、最終化合物に、または出発物質もしくは中間体に実行可能なものとして適用されてもよい。
【0019】
本明細書で使用する“安定な化合物”という用語は、それらの工業的合成を可能にするために十分な安定性を有し、そして本明細書で詳細に記載された目的(たとえば治療薬に反応性の疾患または状態を処置するための治療用製品、治療用化合物の生産における使用のための中間体、分離可能または貯蔵可能な中間体化合物への製剤)に対して有用であるように十分な期間完全性を維持する化合物を表す。
【0020】
“D”は重水素を表す。“立体異性体”はエナンチオマーとジアステレオマーの両方を表す。
本明細書を通して、可変記号は一般的に(たとえば“それぞれのY”)表されてもよく、あるいは明確に(たとえば、R、Y、Y、Yなど)表されてもよい。特記しない限り、可変記号が一般的に表される場合、その特有の可変記号のすべての特定の態様を含むことを意味する。
【0021】
治療用化合物
本発明は式Iの化合物:
【0022】
【化1】

【0023】
または薬剤的に受容可能なその塩を提供し、式中:
それぞれのYは独立してHおよびDから選択され;
は−(CH−CHであり、式中1から15までの水素原子は場合により重水素原子によって置換され;
はHおよび−P(O)(OH)から選択され;そして
それぞれのYがHである場合、Rは少なくとも1つの重水素原子を含む。
【0024】
式Iの化合物の一態様では、Rのそれぞれのメチレン炭素は独立して2つの水素原子または2つの重水素原子のいずれかを持つ。Rの特定の例としては、−(CH−CD、−(CH−CDCD、および−(CD−CDが挙げられる。
【0025】
式Iの化合物の他の態様には以下のものが挙げられる:
a)Y、Y、YおよびYのそれぞれが同じである;
b)YおよびYのそれぞれが同じである;
c)YおよびYのそれぞれが同じである;
d)YおよびY10のそれぞれが同じである;および
e)Rが−(CH−CDであり、式中、1から12までの水素原子は場合により重水素原子によって置換される。
【0026】
さらに他の態様には、先のa)からe)までにおいて説明した特性の2つ以上を有する式Iの化合物が挙げられる。そのような組み合わせには以下のものが挙げられるが、それらに限定されない:a)とb);a)とc);a)とd);b)とc);b)とd);d)とc);a)、b)とc);a)、b)とd);a)、c)とd);b)、c)とd);およびa)、b),c)とd)が挙げられる。
【0027】
特定の態様の1つでは、Rは−P(O)(OH)であり;そしてY、Y、YおよびYのそれぞれは同じである。さらにより特定の態様では、Rは−P(O)(OH)であり;Y、Y、YおよびYのそれぞれは同じであり;そして化合物は先のb)からe)までに説明した特性の1以上を有する。たとえば、Rは−P(O)(OH)であり;Y、Y、YおよびYのそれぞれは以下の1つとの組み合わせにおいて同じである:b);c);d);b)とc);b)とd);c)とd);およびb)、c)とd)。
【0028】
別の特定の態様では、Rは、−(CH−CDおよび−(CD−CDから選択される。いっそう特定の態様では、Rは、−(CH−CDおよび−(CD−CDから選択され、そして化合物は先のa)からd)までに説明した1以上の特性を有する。たとえば、Rは以下の1つと組み合わせた−(CH−CDおよび−(CD−CDから選択される:a);b);c);a)とb);a)とc);b)とc);a)、b)とc);a)とd);b)とd);a)、b)とd);d)とc);a)、c)とd);b),c)とd);およびa)、b)、c)とd)。
【0029】
さらにいっそう特定の態様では、Rは、−(CH−CDおよび−(CD−CDから選択され、Rは−P(O)(OH)であり;そしてY、Y、YおよびYのそれぞれは同じである。さらに別のより特定の態様では、Rは、−(CH−CD、および−(CD−CDから選択され、Rは−P(O)(OH)であり;Y、Y、YおよびYのそれぞれは同じであり;そして化合物は先のb)からd)までに説明した特性の1以上を有する。
【0030】
別の態様では、Rは−(CH−CDおよび−(CD−CDから選択され、そしてRは水素である。この態様の一側面では、Y、Y、YおよびYのそれぞれは同じであり、YおよびYのそれぞれは同じであり、YおよびYのそれぞれは同じであり、そしてYおよびY10のそれぞれは同じである。この態様の別の側面では、それぞれのYは重水素である。この態様のさらに別の側面では、それぞれのYは水素である。
【0031】
別の態様のセットでは、先に説明した態様のいずれかにおいて、NH基を持つ炭素において化合物は(S)コンフィギュレーションを有する。
【0032】
特定の態様では、化合物は:
【0033】
【化2】

【0034】
【化3】

【0035】
【化4】

【0036】
または薬剤的に受容可能な前述のいずれかの塩から選択される。
別の特定の態様では、化合物は:
【0037】
【化5】

【0038】
または薬剤的に受容可能なその塩である。
別の態様のセットでは、先に説明した態様のいずれかにおいて重水素として明示されないいずれかの原子はその天然の同位体存在比で存在する。
【0039】
式Iの化合物の合成は通常の技術の合成化学者によって容易に達成することができる。そのような方法は、本明細書で詳細に説明した化合物を合成するための、対応する重水素化され、そして場合により他の同位体を含む試薬および/または中間体を利用することにより、あるいは化学構造に同位体原子を導入するための当該技術分野で公知の標準合成プロトコルを実施することにより実行することができる。適切な手順および中間体はたとえば以下に開示される:Chiba,Kら,Drugs Fut 1997,22(1):18;Adachi,Kら,Bioorg Med Chem Lett,1995,5(8):853;Durand,Pら,Synthesis,(Stuttgart) 2000,4:505;Kalita,Bら,Syn Lett,(Stuttgart) 2001,9:1411;Kim,Sら,Synthesis,2006,5:753−755;Lu,Xら,Tetrahedron Letters,2006,47(5):825−827;Takeda,Sら,Tetrahedron Letter,s 2005,46(31):5169−5172;Albert,Rら,J Med Chem,2005,48(16):5373−5377;Kiuchi,Mら,Bioorg Medi Chem,2005,13(2):425−432;Hale,J et al.,Bioorg Med Chem,2004,12(18):4803−4807;およびPCT特許公開WO 1994008943およびWO 2000053569。
以下のスキームは本発明の化合物がどのように調製されうるかを例示する。
【0040】
スキーム1.式Iの化合物を調製するための一般経路。
【0041】
【化6】

【0042】
スキーム1は式Iの化合物を調製するための一般経路を示す。先に引用したフィンゴリモド文献において一般的に記載されているように、適切に重水素化された酢酸塩1は、AlClの存在下で適切に重水素化されたアシルクロリド2とフリーデル−クラフトアシル化を行い、ケトン3を与える。ケトン3はトリエチルシランまたは市販のトリエチル(シラン−d)のいずれかにより還元されて酢酸塩4を提供する。酢酸塩の加水分解はアルコール5を生じ、5はメタンスルホニルクロリドによりメシレートに変換され、ヨウ化ナトリウムにより置換されてヨージド6を与える。
【0043】
ナトリウムエトキシド存在下でのヨージド6と市販のジエチルアセトアミドマロネートの反応はエステル7を生じる。LiAlHまたはLiAlDのいずれかによる還元、その後の無水酢酸によるアシル化は酢酸塩8を提供する。水酸化リチウムによる酢酸塩基の加水分解は式Iの化合物を提供し、式中Rは水素であり、YとYは同じであり、;そして、Y、Y、Y、およびYのそれぞれは同じである。
【0044】
スキーム1b.中間体4の代わりの調製。
【0045】
【化7】

【0046】
スキーム1bは中間体4の代わりの合成を表し、4はスキーム1に示された経路に従ってさらに式Iの化合物に変換されうる。この代わりの合成はSeidel,G;ら、JOC,2004,69(11),3950−3952の一般法に従う。適切に重水素化されたアルコールXはアセチル化されてXIを与える。無水トリフル酸による処置はトリフラートXIIを提供する。適切に重水素化されたグリニャール試薬XIIIの鉄に触媒されたカップリングは中間体4を生じる。
【0047】
スキーム1c:中間体7の代わりの調製。
【0048】
【化8】

【0049】
スキーム1cは中間体7の合成を表し、7はスキーム1に示された経路に従ってさらに式Iの化合物に変換されうる。この代わりの合成はDurand,Pら,Synthesis 2000,4,505−506の一般法、およびFoss,FWら,BMCL 2005,15,4470−4474によるその後の改変に従う。適切に重水素化されたXIVは適切に重水素化されたXVによりアシル化されてXVIを与える。ナトリウムエトキシド存在下でのXVIと市販のジエチルアセトアミドマロネートの反応はXVIIを生じる。トリエチルシランまたは市販のトリエチル(シラン−d)のいずれかによる処理は中間体7を与える。
【0050】
スキーム2.重水素化酢酸塩中間体1の調製。
【0051】
【化9】

【0052】
スキーム1における使用のための重水素化酢酸塩1はスキーム2で説明したように合成することができる。Reddy,TSら,Tet Lett,2006,47(38):6825−6829に見出される一般法に従って、重水素化アルコール9はLa(NO・6HOの存在下で、無水酢酸によりアシル化され、中間体1を与える。あるいは、Martinez−Pascual,Rら,Synth Comm,2004,34(24):4591−4596の方法に従って、アルコール9は無水酢酸とBF・OEt、続いて水により処理され、中間体1を与える。アルコール9として使用されることになる市販のアルコールの1例としては、2−フェニルエタン−1,1,2,2−d−オール(PhCDCDOH)が挙げられる。このアルコールはY、Y、YおよびY10が同時に重水素である式Iの化合物を生み出すために使用される。
【0053】
スキーム3.重水素化アシルクロリド中間体2の調製
【0054】
【化10】

【0055】
スキーム1における使用のための重水素化アシルクロリド2はスキーム3で説明したように合成することができる。Chaudhari,SSら,Syn Lett,1999,11:1763−1765に見出される方法に従って、重水素化カルボン酸10はCHCl中のチオニルクロリドとベンゾトリアゾールの1:1混合物により処理され、アシルクロリド2を与える。市販の重水素化カルボン酸の1例としては、オクタノン−d15酸(CD(CDCOOH)が挙げられ、そしてそれはスキーム3においてカルボン酸10として使用されて、最終的にRがCD(CDである式Iの化合物を生み出すことができる。別の例としては市販のオクタノン−8,8,8−d酸(CD(CHCOOH)が挙げられ、そしてそれはスキーム3においてカルボン酸10として使用され、最終的にRがCD(CHである式Iの化合物を生み出すことができる。
【0056】
スキーム4.式Iの化合物(RはP(O)(OH)である)の調製。
【0057】
【化11】

【0058】
スキーム4は、RがP(O)(OH)である式Iの化合物への一般合成経路を示す。Albert,Rら,J Med Chem,2005,48:5373−5377に一般的に記載されるように、Y、Y、YおよびYが同じ(11)である重水素化された式Iの化合物はクロロギ酸ベンジルと水酸化ナトリウムにより処理されてラセミ体オキサゾリジノン12を与える。市販のO−キシリレンN,N−ジエチルホスホロアミダイトによる残存するヒドロキシル基のリン酸化、続く過酸化水素による酸化は保護されたリン酸塩ラセミ体13を生じる。
【0059】
キラルHPLCによるRエナンチオマーおよびSエナンチオマーの分離、その後のHおよびPd/Cによるそれぞれのエナンチオマーのリン酸塩保護基の開裂、続くLiOHによるオキサゾリジノンの加水分解は、RがP(O)(OH)である式Iの別個のエナンチオマー化合物を提供する。
【0060】
スキーム5.重水素化中間体Xの調製。
【0061】
【化12】

【0062】
スキーム5はスキーム1bの重水素化中間体Xの調製を表す。所望する場合、市販のメチル4−ヒドロキシフェニルアセテートXVIIIの水素/重水素交換は、Sabot,Cら,JOC,2007,72(13):5001−5004の方法に従って、NaOMe/MeOD,またはトリアザビシクロ[4.4.0]dec−5−エン“TBD”とCDClのいずれかにより実施され、エステルXIXを提供する。LiAlHまたはLiAlDによるXIXの還元は、YとYが重水素であるXを与える。あるいは、メチル4−ヒドロキシフェニル酢酸XVIIIは直接LiAlHまたはLiAlDにより還元されてYとYが水素であるXを与える。
【0063】
スキーム6.重水素化中間体XIVの調製。
【0064】
【化13】

【0065】
スキーム6は適切に重水素化されたXX(式中、XはCl、Br、またはIである)を重水素化中間体XIVに変換するための3種の方法を表す(スキーム1cを参照されたい)。これらの3種の研究方法は以下の一般的な文献方法に従う:
(1)Terao,Jら,Angewandte Chemie,国際版,2007,46(12):2086−2089.
(2)Frisch,A.Cら,Journal of Organometallic Chemistry,2003,687(2):403−409.
(3)Ohmiya,Hら,J.Am.Chem.Soc.,2006,128(6):1886−1889.
有用な重水素化ハライドXXの例としては、市販のCD(CDCDBr;CD(CDCDI;およびCD(CHCHBrが挙げられるが、それらに限定されない。別の有用な化合物XXはCD(CDCHBrであり、それはBoden,Nら,JCS Perkins Trans I,1983,3:543−551の一般的な方法に従って、LiAlHとHBrを使用して市販のCD(CDCOOHから合成してもよい。
【0066】
スキーム7.重水素化中間体XVの調製。
【0067】
【化14】

【0068】
スキーム7は、YとY10が共に重水素である中間体XV(スキーム1cを参照されたい)の有用な重水素化型の調製を表す。市販の酢酸−d4は、Goerger,MMら,J.Org.Chem.,1988,53(14):3148−53の手順に従って、赤リンと臭素によって処理され、YとY10が共に重水素であるXVを提供する。
【0069】
先に示した特定の研究方法および化合物は限定することを意図しない。本明細書のスキームにおける化学構造は、同じ可変記号名(すなわち、R、R、Rなど)によって確認されるかどうかにかかわらず、本明細書の化合物式の対応する位置の化学基の定義(部分、原子など)と同一基準でここに定義された可変記号を表す。別の化合物の合成における使用のための化合物構造における化学基の適合性は当業者の知識の範囲内である。
【0070】
適用可能な化合物を合成することに有用な、合成化学変換および保護基方法論(保護および脱保護)は当該技術分野で公知であり、たとえばLarock R,Comprehensive Organic Transformations,VCH Publishers(1989);Greene TWら,Protective Groups in Organic Synthesis,3版,John Wiley and Sons(1999);Fieser Lら,Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis,John Wiley and Sons(1994);ならびにPaquette L編,Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis,John Wiley and Sons(1995)およびその続版に記載されたものが挙げられる。
【0071】
本発明によって想像される置換基および可変記号の組み合わせは安定な化合物の形成に帰着するものだけである。
組成物
本発明はまた、有効量の式Iの化合物(たとえば、本明細書の式のいずれかを含む)、または該化合物の薬剤的に受容可能な塩;および受容可能なキャリアを含む発熱物質を含まない組成物を提供する。好ましくは、本発明の組成物は薬剤的な使用(“医薬組成物”)のために製剤され、ここでキャリアは薬剤的に受容可能なキャリアである。キャリアは製剤の他の成分と適合するという意味において、そして薬剤的に受容可能なキャリアの場合において“受容可能”であって、薬剤に使用される量においてその受容者に有害でない。
【0072】
薬剤的に受容可能なキャリアには、本発明の医薬組成物において使用してもよいアジュバントおよびベヒクルが挙げられる。薬剤的に受容可能なキャリアには、1以上の塩、電解質、可溶化剤、溶媒、バッファー、乳化剤、香味剤、着色剤、甘味剤、フィラー、潤滑剤、希釈剤、懸濁化剤、増粘剤、分散剤、湿潤剤、生物学的利用能促進剤、および吸収促進剤が挙げられる。特定の薬剤的に受容可能なキャリアには、1,3−ブタンジオール、2−オクチルデカノール、アラビアゴム、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、蜜蝋、ベンジルアルコール、リン酸塩、セルロースを基礎にした物質、セテアリルアルコール、セチルエステルワックス、ココアバター、コロイド状シリカ、コーンスターチ、リン酸水素二ナトリウム、乳化ワックス、エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロックコポリマー、ゼラチン、グリセリン、グリシン、ヒト血清アルブミン、イオン交換剤、等張性塩化ナトリウム、ラクトース、レシチン、液化石油、長鎖アルコール、LUTROL(登録商標)、ステアリン酸マグネシウム、三ケイ酸マグネシウム、マンニトール、鉱物油、オレイン酸およびそのグリセリド誘導体、オリーブオイルまたはとりわけポリオキシエチル化された型のひまし油、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、PLURONIC(登録商標)、ポリアクリレート、ポリエチレングリコール、ポリエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロックポリマー、ポリソルベート60、ポリビニルピロリドン、リン酸水素カリウム、ソルビン酸カリウム、プロピレングリコール、硫酸プロタミン、リンゲル液、血清蛋白質、カルボキシメチルセルロースナトリウム、塩化ナトリウム、ソルビン酸、モノステアリン酸ソルビタン、スクロース、トラガカント、Tween80、水、ワックス、白色ワセリン、羊毛脂、および亜鉛塩が挙げられるが、それらに限定されない。
【0073】
本発明の医薬組成物には、経口、直腸内、鼻腔内、局所(口腔内および舌下を含む)、膣内、非経口(皮下、筋肉内、静脈内および皮内を含む)および経皮投与に適したものが挙げられる。それぞれの組成物の型と共に利用するための適切な薬剤的に受容可能なキャリアの選択は当該技術分野で公知である。同様に、本発明の種々の医薬組成物の単位剤形を作製するための活性成分とキャリアを結び合わせるための方法も当該技術分野で公知である。たとえば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Philadelphia,PA(17版,1985)を参照されたい。
【0074】
別の態様では、本発明の組成物はさらに第2治療薬を含む。第2治療薬は、フィンゴリモドと同じ作用機序を有する化合物と一緒に投与された場合、好都合な特性を有することが公知であるか、またはそのような特性を証明するいずれの化合物または治療薬から選択されてもよい。そのような薬剤には、限定するものではないが、WO 1994008943、WO 2003097028、WO 2005105146、およびWO 2007041368に記載されたものを含む、フィンゴリモドとの組み合わせにおいて有用であると示されたものが挙げられる。
【0075】
好ましくは、第2治療薬は器官もしくは骨髄移植後の拒絶反応、多発性硬化症、炎症性腸疾患、癌、潰瘍性大腸炎から選択される疾患もしくは状態、または免疫抑制を必要とする別の疾患の処置または予防に有用な薬剤である。
【0076】
一態様では、第2治療薬はタクロリムス、コルチコステロイド、およびシクロスポリンから選択される。
別の態様では、本発明は本発明の化合物および1以上の先に記載の第2治療薬のいずれかの別個の剤形を提供し、ここで該化合物および第2治療薬はお互いに関連する。本明細書で使用する“お互いに関連する”という用語は、別個の剤形が一緒に売られ、(お互いに24時間以内に連続して、または同時に)投与されることを意図していることが容易に明らかであるように、別個の剤形が一緒に包装されるか、または他の方法でお互いに結びつけられていることを意味する。
【0077】
本発明の医薬組成物では、本発明の化合物は有効量で存在する。本明細書で使用する“有効量”という用語は、適切な投与計画で投与される場合、標的障害を(治療的に、または予防的に)処置するために十分である量を表す。たとえば、有効量は処置されることになる障害の重症度、持続期間または進行を軽減するか、もしくは改良する、処置されることになる障害の退行を引き起こす、または別の療法の予防もしくは治療効果を高めるか、もしくは改善するために十分である。
【0078】
動物およびヒトの投薬量(ミリグラム/m体表面積に基づく)の相互関係はFreireichら,(1966)Cancer Chemother.Rep50:219に記載される。体表面積は患者の身長および体重から概算で決定されてもよい。たとえば、Scientific Tables,Geigy Pharmaceuticals,Ardsley,N.Y.,1970,537を参照されたい。
【0079】
一態様では、本発明の化合物の有効量は処置毎に約1.25μgから約50mgまでの範囲で変化しうる。より特定の態様では、範囲は処置毎に約12.5μgから25mgまで、または25μgから10mgまで、または最も明確には約0.125mgから5mgまでである。処置は典型的には1日に1回投与される。
【0080】
有効服用量はまた、当業者に認識されているように、処置される疾患、疾患の重症度、投与経路、患者の性、年齢および健康状態、賦形剤の使用、他の薬剤の使用のような他の治療的処置との同時使用の可能性および処置する医師の判断に依存して変化することになる。たとえば、有効服用量を選択するための指針はフィンゴリモドに関する処方情報を参照することによって決定することができる。
【0081】
第2治療薬を含む医薬組成物の場合、第2治療薬の有効量はその薬剤だけを使用するモノテラピー計画において通常利用される投薬量の約20%〜100%の間である。好ましくは、有効量は通常のモノテラピー量の約70%〜100%の間である。これらの第2治療薬の通常のモノテラピー投薬量は当該技術分野で公知である。たとえば、Wellsら編,Pharmacotherapy Handbook,2版,Appleton and Lange,Stamford,Conn.(2000);PDR Pharmacopoeia,Tarascon Pocket Pharmacopoeia 2000,デラックス版,Tarascon Publishing,Loma Linda,Calif.(2000)を参照されたい。これらの参考文献のそれぞれはそのまま参照として本明細書に援用される。
【0082】
先に参照した第2治療薬のいくつかは本発明の化合物と相乗的に作用することが期待される。このことが起こる場合、第2治療薬および/または本発明の化合物の有効投薬量はモノテラピーにおいて必要とされる量から軽減されることが可能になるであろう。このことは、第2治療薬または本発明の化合物のいずれかの毒性副作用の最少化、効力の相乗的改善、投与または使用のたやすさの改善、および/または化合物調製または製剤の全体費用の軽減という利点を有する。
【0083】
処置の方法
別の態様では、本発明は、本明細書の1以上の式Iの化合物と細胞、あるいは明確にはリンパ球または内皮細胞を接触させることを含む、そのような細胞におけるS1P1受容体の活性を調節する方法を提供する。
【0084】
別の態様に従って、本発明はフィンゴリモドによって有益に処置される疾患を処置する方法を提供し、該方法は有効量の本発明の化合物または組成物をそのような処置が必要な患者に投与するステップを含む。そのような疾患は当該技術分野で公知であり、限定はしないが以下の特許および公開された特許出願に開示されている:WO 1994008943、WO 2001001978、WO 2003009836、WO 2003035068、WO 2003097028、WO 2004010987、WO 2004028521、WO 2004110421、WO 2005002559、WO 2005025553、WO 2005058295、WO 2005105146、WO 2006010630、WO 2006072562、WO 2006094705、およびWO 2006102611。そのような疾患には以下のものが挙げられるが、それらに限定されない:器官もしくは骨髄移植後の拒絶反応(たとえば、抗拒絶反応療法)、免疫抑制維持療法、ベーチェット病およびブドウ膜炎のような眼疾患、ならびに乾癬、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎およびアレルギー性皮膚炎を含む皮膚炎;器官および組織移植(たとえば、心臓、腎臓、肝臓、肺、骨髄、角膜、膵臓、小腸、肢、筋肉、神経、脂肪髄、十二指腸、皮膚および膵島細胞の移植、ならびに異種移植)における抵抗または拒絶反応、骨髄または小腸移植による移植片対宿主(GvH)疾患、自己免疫疾患、たとえばリウマチ性関節炎、全身性エリテマトーデス、ネフローゼ症候群狼瘡、橋本甲状腺炎、多発性硬化症、重症筋無力症、I型糖尿病、II型成人発症型糖尿病、ブドウ膜炎、ネフローゼ症候群、ステロイド−依存性およびステロイド−抵抗性ネフローゼ、掌蹠膿疱症、アレルギー性脳脊髄炎、糸球体腎炎など、および病原性微生物によって引き起こされる感染性疾患;炎症性、増殖性および超増殖性皮膚疾患ならびに免疫学的に媒介される病気の皮膚発現、たとえば乾癬、乾癬性関節炎、アトピー性湿疹(アトピー性皮膚炎)、接触皮膚炎およびさらに湿疹性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、偏平苔癬、天疱瘡、類天疱瘡、表皮水疱症、蕁麻疹、血管浮腫、脈管炎、紅斑、皮膚好酸球性炎症、ニキビ、円形脱毛症、好酸球性筋膜炎、およびアテローム性動脈硬化、女性型もしくは男性型脱毛症、または老人性脱毛症におけるような毛髪活性化;呼吸器疾患、たとえば、サルコイドーシス、肺線維症、突発性間質性肺炎、および気管支喘息、小児喘息、アレルギー性喘息、内因性喘息、外因性喘息およびダニ喘息、とりわけ慢性または常習性喘息(たとえば、遅発性喘息および気道反応性亢進)を含む喘息、気管支炎などのような状態を含む可逆性閉塞性気道疾患、虚血に関連する肝臓損傷を処置すること、ある種の眼疾患、たとえば結膜炎、角結膜炎、角膜炎、春季カタル、ベーチェット病に関連するブドウ膜炎、ヘルペス性角膜炎、円錐角膜、角膜上皮ジストロフィー、角膜白斑、眼天疱瘡、モーレン潰瘍、強膜炎、グレーブス眼症、重篤な眼内炎症など、粘膜または血管の炎症(たとえば、ロイコトリエンB4−媒介疾患、胃潰瘍、虚血性疾患および血栓症によって引き起こされる血管障害、虚血性腸疾患、炎症性腸疾患(たとえば、クローン病および潰瘍性大腸炎)、壊死性腸炎)、または熱傷に関連する腸病変、間質性腎炎、グッドパスチャー症候群、溶血性尿素症候群および糖尿病性腎症を含む腎臓疾患;多発性硬化症、ギランバレー症候群、メニエール病および神経根症から選択される神経疾患;甲状腺機能亢進症およびバセドー病を含む内分泌疾患;真性血球無形成症、再生不良性貧血(apalstic anemia)、再生不良性貧血(hypoplastic anemia)、突発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性溶血性貧血、無顆粒球症およびアネリスロプラシア(anerythroplasia)を含む血液疾患;;骨粗鬆症を含む骨疾患;サルコイドーシス、肺線維症および突発性間質性肺炎を含む呼吸器疾患;多発性筋炎、尋常性白斑、尋常性魚鱗癬、光アレルギー性過敏および皮膚T細胞リンパ腫を含む皮膚疾患;動脈硬化症、動脈炎、結節性多発動脈炎および心筋症を含む循環器系疾患;強皮症、ウェゲナー肉芽腫およびシェーグレン症候群を含む膠原病;脂肪症;好酸球筋膜炎;歯周病;ネフローゼ症候群;溶血性尿毒性症候群;および筋ジストロフィー、小腸炎またはセリアック病のようなアレルギー、直腸炎、好酸球性胃腸炎、肥満細胞症、クローン病または潰瘍性大腸炎を含む疾患;および消化器から離れた症候性症状を有する食物関連アレルギー性疾患、たとえば偏頭痛、鼻炎および湿疹;慢性心疾患、鬱血性心不全、心臓血管手術後の合併症、周術期高血圧、不安定狭心症、および急性心筋梗塞を含む心臓疾患;ウイルス性心筋炎およびウイルス性心筋炎によって誘発されるウイルス性疾患;認知症または脳変性、アルツハイマー病のようなベータ−アミロイド関連炎症性疾患または障害、アミロイドーシス、レビー小体病、多発脳梗塞性認知症、ピック病または頭蓋内アテローム性動脈硬化症;血管透過性障害および望ましくない血管内皮細胞アポトーシス、ならびに内皮損傷、血小板減少症、アテローム性動脈硬化症、虚血性心臓血管病および虚血性末梢血管病または障害を含む血管新生の促進、たとえば糖尿病に関連するもの、デング出血熱、急性呼吸促迫症候群、毛細血管流出症候群、敗血症または自己免疫脈管炎;疼痛;固形腫瘍、たとえば腫瘍侵襲、およびとりわけ脱制御血管新生を阻害することまたは制限すること;眼科障害、とりわけ前部虚血性視神経症のような虚血性網膜症、視神経炎、浸出型および乾燥型加齢黄斑変性症、糖尿病性網膜症、糖尿病性および嚢胞状黄斑浮腫、増殖性糖尿病性網膜症ならびに網膜剥離を含むアポトーシス−誘発網膜/角膜細胞変性;パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄虚血、虚血発作、脊髄損傷、癌−関連脳または脊髄損傷、シェイ−ドレーガー症候群、および進行性核上性麻痺を含む神経系損傷または疾患の処置における神経新生(非胚性幹細胞および前駆細胞活性)の制御;真菌感染;慢性脊髄性白血病(CML)、とりわけCMLの急性転化期、フィラデルフィア−陽性急性リンパ性白血病(Ph′―ALL)、および難治性白血病を含むBCR/ABL−媒介白血病;ならびにC型肝炎または慢性C型肝炎(HCV)の処置が挙げられるがそれらに限定されない。
【0085】
特有の一態様では、本発明の方法は多発性硬化症(MS)、炎症性腸疾患、癌、および潰瘍性大腸炎から選択される疾患もしくは状態を処置するために、または腎臓移植後の拒絶反応を予防することが必要な患者においてそのような拒絶反応を予防するために使用される。
【0086】
そのような処置が必要な患者を確認することは患者またはヘルスケア専門家の判断に属してよく、そして主観的(たとえば、意見)または客観的(たとえば、試験または診断法によって測定可能)でありうる。
【0087】
別の態様では、上記の処置方法のいずれかは、1以上の第2治療薬を患者に同時投与するステップをさらに含む。第2治療薬の選択は、フィンゴリモドとの同時投与に有用であることが公知のいずれかの第2治療薬から行われてもよい。第2治療薬の選択はまた、処置されることになる特有の疾患または状態に依存する。本発明の方法において利用されてもよい第2治療薬の例としては、本発明の化合物および第2治療薬を含む組み合わせ組成物における使用のために先に説明したものが挙げられる。
【0088】
とりわけ、本発明の併用療法は腎臓移植後の拒絶反応を予防する方法を含み、該方法は式Iの化合物を含む医薬組成物、およびタクロリムス、コルチコステロイド、およびシクロスポリンから選択される第2治療薬を含む医薬組成物を、そのような拒絶反応を予防することが必要な患者に同時投与するステップを含む。
【0089】
本明細書で使用する“同時投与された”という用語は、単一剤形(たとえば本発明の化合物と先に記載の第2治療薬を含む本発明の組成物)の一部として、または別個の複数の剤形として、第2治療薬が本発明の化合物と一緒に投与されてもよいことを意味する。あるいは、本発明の化合物の投与の前に、投与と連続して、または投与後に付加的な薬剤が投与されてもよい。そのような併用療法処置では、本発明の化合物と第2治療薬の両方が慣用の方法によって投与される。本発明の化合物と第2治療薬の両方を含む本発明の組成物の患者への投与は、処置の経過中の別の時期における該患者への同じ治療薬、いずれか他の第2治療薬または本発明のいずれかの化合物の別個の投与を除外しない。
【0090】
これらの第2治療薬の有効量は当業者に公知であり、投薬のための指針は本明細書で参照した特許および公開された特許出願において、ならびにWellsら編,Pharmacotherapy Handbook,2版,Appleton and Lange,Stamford,Conn.(2000);PDR Pharmacopoeia,Tarascon Pocket Pharmacopoeia 2000,デラックス版,Tarascon Publishing,Loma Linda,Calif.(2000、)および他の医学教科書の中に見出すことができる。しかし、第2治療薬の最適有効量の範囲を決定することはまさに当業者の権限内にある。
【0091】
第2治療薬が対象に投与される本発明の一態様では、本発明の化合物の有効量は、第2治療薬が投与されない場合の本発明の化合物の有効量より少ない。別の態様では、第2治療薬の有効量は本発明の化合物が投与されない場合の第2治療薬の有効量より少ない。このようにして、いずれかの薬剤の高服用量に伴う望ましくない副作用が最少化されてもよい。他の潜在的な利点(限定しないが、改善された投薬計画および/または軽減された薬物費用を含む)は当業者に明らかであろう。
【0092】
さらに別の側面では、本発明は先に説明した疾患、障害または症状の患者における処置または予防のための、単一組成物、または別個の剤形としてのいずれかの医薬品の工業的製造における、式Iの化合物単独、または1以上の先に記載の第2治療薬と一緒の使用を提供する。本発明の別の側面は、本明細書で詳細に説明した疾患、障害または症状の患者におけるその処置または予防における使用のための式Iの化合物である。
【0093】
薬剤キット
本発明はまた、多発性硬化症(MS)、炎症性腸疾患、癌、または潰瘍性大腸炎を処置するか、または腎臓移植後の拒絶反応を予防するための使用の目的にあったキットを提供する。これらのキットは、(a)包装体に入った式Iの化合物またはその塩を含む医薬組成物;および(b)多発性硬化症(MS)、炎症性腸疾患、癌、または潰瘍性大腸炎を処置するか、または腎臓移植後の拒絶反応を予防するための医薬組成物を使用する方法を記載する説明書を含む。
【0094】
包装体(container)は該医薬組成物を保持することができるいずれかの容器、または他の密閉もしくは密閉可能な器具であってもよい。例としては、瓶、アンプル、それぞれの区画またはチャンバーが該組成物の単一服用量を含む、分割された、もしくは複数のチャンバーを持つホルダー瓶、それぞれの区画が該組成物の単一服用量を含む分割されたホイルパケット、または該組成物の単一服用量を分配するディスペンサーが挙げられる。包装体は、薬剤的に受容可能な材料、たとえば紙もしくは段ボール箱、ガラスもしくはプラスチック瓶もしくはジャー、(たとえば、異なる包装体への配置のための錠剤の補充品を保持するための)再密封可能な袋、または治療スケジュールに従ってパックから押し出すための個々の服用量の入ったブリスターパックから作られる当該技術分野で公知のいずれの形状または形態でもありうる。利用される包装体は含まれる剤形そのものに依存してよく、たとえば慣用の段ボール箱は一般に液体懸濁液を保持するために使用されないであろう。単一剤形を市販するための単一パッケージの中で1つ以上の包装体が一緒に使用されうることは蓋然性がある。たとえば、錠剤が瓶に含まれ、その瓶が今度は箱の中に含まれてもよい。一態様では、包装体はブリスターパックである。
【0095】
本発明のキットはまた、医薬組成物の単位服用量を投与するため、または計り取るための装置を含んでいてもよい。そのような装置は、該組成物が吸入可能な組成物である場合のインヘラー;該組成物が注射可能な組成物である場合のシリンジと針;該組成物が経口液体組成物である場合の容量目盛りの付いた、または付かないシリンジ、スプーン、ポンプ、もしくは容器;またはキットに存在する組成物の投薬製剤に適切ないずれか他の測定もしくは送達装置を含んでいてもよい。
【0096】
ある態様では、本発明のキットは、本発明の化合物との同時投与用への使用のための、先に挙げたものの1つのような第2治療薬を含む医薬組成物を別個の包装体の中の容器に含んでいてもよい。
【0097】
代謝安定性の評価
ある種のin vitroでの肝臓代謝研究は以下の参考文献に以前に記載されていて、それらのそれぞれはそのまま参照として本明細書に援用される:Obach,RS,Drug Metab Disp,1999,27:1350;Houston,JBら,Drug Metab Rev,1997,29:891;Houston,JB,Biochem Pharmacol,1994,47:1469;Iwatsubo,Tら,Pharmacol Ther,1997,73:147;およびLave,Tら,Pharm Res,1997,14:152。
【0098】
ミクロソームアッセイ:式Iの化合物の代謝安定性はプールされた肝臓ミクロソームインキュベーションを使用して試験される。次に主要代謝産物を検出するためにフルスキャンLC−MS分析が実施される。プールされたヒト肝臓ミクロソームに暴露された試験化合物の試料はHPLC−MS(またはMS/MS)検出を使用して分析される。代謝安定性を測定する場合、試験化合物の消失を測定するために多重反応モニタリング(MRM)が使用される。代謝産物検出の場合、主要代謝産物を検出するためのサーベイスキャンとしてQ1フルスキャンが使用される。
【0099】
ヒト肝臓ミクロソーム(20mg/mL)はXenotech,LLC(Lenexa,KS)から得られる。β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸還元型(NADPH)、塩化マグネシウム(MgCl)およびジメチルスルホキシド(DMSO)はSigma−Aldrichから購入される。インキュベーション混合物は表に従って調製される:
【0100】
【表1】

【0101】
代謝安定性の測定:この反応混合物の2アリコートは本発明の化合物のために使用される。アリコートは37℃で3分間、振盪水浴中でインキュベーションされる。その後それぞれのアリコートに試験化合物が最終濃度0.5μMで添加される。反応は1アリコート(NADPHを欠如する他のアリコートは陰性対照として役立つ)への補因子(NADPH)の添加により開始される。その後両アリコートは振盪水浴中、37℃でインキュベーションされる。インキュベーション混合物50マイクロリットル(μL)は0、5、10、20、および30分においてそれぞれのアリコートからトリプリケートで採取され、50μLの氷冷したアセトニトリルと合わせて反応を停止する。フィンゴリモドおよび適切な陽性対照に対しても同じ手順が行われる。試験はトリプリケートで行われる。
【0102】
データ解析:試験化合物のin vitro半減期(t1/2)は親化合物の残存パーセント(In)対インキュベーション時間の関係の直線回帰の傾きから計算される。
in vitro t1/2=0.693/k
k=−[親化合物残存%(In)対インキュベーション時間の直線回帰の傾き]
データ解析はマイクロソフトエクセルソフトウェア(Microsoft Excel Software)を使用して実施される。
【0103】
SUPERSOMES(登録商標)アッセイ。種々のヒトシトクロムP450−特異的SUPERSOMES(登録商標)はGentest(Woburn,MA,USA)から購入される。100mMリン酸カリウムバッファー(pH7.4)中25pmoleのSUPERSOMES(登録商標)、2.0mM NADPH、3.0mM MgCl、および1μMの試験化合物を含む1.0mLの反応混合物は、37oC、トリプリケートでインキュベーションされた。陽性対照は試験化合物のかわりに1μMのフィンゴリモドを含む。陰性対照はGenTest(Woburn,MA,USA(50μL)から購入したControl Insect Cell Cytosol(ヒト代謝酵素をいずれも欠如する昆虫細胞ミクロソーム)を使用した。アリコート(50μM)はそれぞれの試料から採取され、種々の時点(たとえば、0、2、5、7、12、20、および30分)でマルチ−ウェルプレートのウェルに入れられ、反応を停止するために内部標準としての3μMハロペリドールを含む氷冷アセトニトリル50μLがそれぞれのアリコートに添加される。
【0104】
採取したアリコートを含むプレートは冷却するために−20℃のフリーザーに15分間入れられる。冷却後、100μLの脱イオン水がプレート中のすべてのウェルに添加される。その後、プレートは3000rpmで10分間、遠心分離される。次に上清の一部(100μL)が採取され、新しいプレートに入れられて質量分析法を使用して分析される。
【実施例】
【0105】
実施例1.d15−オクタノイルクロリド(21)の合成。 中間体21は以下のスキーム8に概説するように調製した。合成の詳細は以下に記載する。
スキーム8.中間体21の調製。
【0106】
【化15】

【0107】
(オクタノイル−d15)クロリド(21)の合成。 オクタノン−d15酸(4.00g、25.2mmol、1当量、CDN、98.7atom%D)およびチオニルクロリド(2.1mL、28.7mmol、1.4当量)は手際よく(neat)、2時間、加熱還した。反応混合物は室温(rt)に冷やし、そして過剰なチオニルクロリドは減圧下で除去して粗生成物21を得て、それを精製せずに使用した。
【0108】
実施例2.2−アミノ−2−(4−(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−d15−オクチル)フェネチル)プロパン−1,3−ジオール(112)の合成。 化合物112は以下のスキーム9に概説したように調製した。合成の詳細は以下に説明する。
【0109】
スキーム9.化合物112の調製。
【0110】
【化16】

【0111】
4−(オクタノイル−d15)フェネチルアセテート(23)の合成。 1,2−ジクロロエタン(75mL)中の塩化アルミニウム(5.35g、40.1mmol、1.6当量)の懸濁液は氷水浴中で0℃に冷やした。市販のフェニルアセテート22(4.0mL、25.2mmol、1当量)および粗生成物21(25.2mmol、1当量)は、1,2−ジクロロエタン(30mL)中の溶液として10分間(min)かけて一緒に滴下して加え、その間に、色合いは暗赤色/茶色になった。反応物はrtに戻し、一晩攪拌した。反応はDO(100mL、Cambridge Isotope Labs、99atom%D)の添加により停止した。生じた混合物は分液漏斗に移し、MTBE(2x,全部で350mL)で抽出し、そして有機層を合わせた。有機溶液はブライン(300mL)で洗浄し、NaSOで乾燥し、濾過し、そして減圧下で留去し、茶色オイルを得た。粗反応生成物は、10%EtOAc/ヘプタンから50%EtOAc/ヘプタンまでのグラジエントにより45分間かけて溶出するAnalogix自動クロマトグラフィーシステムを使用して精製した。生成物を含む画分は減圧下で濃縮し、透明な、無色オイルとして5.12g(66%)の23を得た。
【0112】
4−(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−d15−オクチル)フェネチルアセテート(24)の合成。
TFA(60mL)中の23(3.0g、8mmol、1当量)の溶液に、シリンジによりトリエチルシラン(3.2mL、19.7mmol、2当量)を10分間かけて滴下して加えた。反応物はrtで2時間攪拌し、その後減圧下で濃縮して揮発性物質の大部分を除去した。残渣はEtOAc(100mL)に溶解し、生じた溶液は1N NaOH(100mL)続いてブライン(100mL)で洗浄した。有機層はNaSOで乾燥し、濾過し、そして減圧下で濃縮して、透明で、わずかに黄色のオイルとして2.86g(100%)の粗生成物24を得た。粗生成物24はそれ以上精製せずに使用した。
【0113】
4−(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−d15−オクチル)フェニルエタノール(25)の合成
MeOH(200mL)中の粗生成物24(2.50g、8.6mmol、1当量)の溶液にエーテル中の2N HCl(50mL、100mmol、11.6当量)の溶液を10分間かけて添加した。反応混合物はrtで3時間攪拌し、その後減圧下でおよそ10mLの容量まで濃縮した。残渣はEtOAc(100mL)で濃縮し、生じた溶液はsatd.aq.NaHCO(2x、全部で200mL)、続いてブライン(100mL)で洗浄した。有機層はNaSOで乾燥し、濾過し、そして減圧下で濃縮して、透明でわずかに黄色のオイルとして2.10g(98%)の粗生成物25を得た。粗生成物25はそれ以上精製せずに使用した。
【0114】
1−(2−ヨードエチル)−4−(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−d15−オクチル)ベンゼン(26)の合成。
CHCl(10mL)中のメタンスルホニルクロリド(1.03g、8.2mmol、1.2当量)の溶液はCHCl(40mL)中の粗生成物25(1.70g、6.8mmol、1当量)およびトリエチルアミン(1.17g、10.9mmol、1.6当量)の溶液に15分間かけて滴下して加えた。添加中、反応温度は25℃から31℃に上昇し、黄色の色合いが強まった。反応混合物はrtで1.5時間攪拌し、その後飽和水性(satd.aq.)NaHCO(50mL)の添加により反応を停止した。二相性混合物は分液漏斗に移し、相を分離した。有機相はNaSOで乾燥し、濾過し、そして減圧下で濃縮して黄色/茶色オイルを得た。粗オイルはTHF(50mL)に溶解し、LiI(2.73g、20.4mmol、3当量)を添加した。反応混合物は暗所で4時間攪拌し、その後減圧下で濃縮した。生じた白色固体はペンタン(100mL)に懸濁し、30分間激しく攪拌した。混合物は小さなCeliteパッドで覆われた小さなシリカゲルパッドを通して濾過し、パッドはヘキサン(100mL)で洗浄した。濾液は減圧下で濃縮し、透明な無色オイルとして粗生成物26を1.93g(79%)得た。粗生成物26はそれ以上精製せずに使用した。
【0115】
ジエチル2−アセタミド−2−(4−(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−d15−オクチル)フェネチル)マロネート(27)の合成。 N,N−ジメチルアセタミド“DMAc”(38mL)中のジエチルアセタミドマロネート(2.85g、13.3mmol、6当量)の溶液に、60%水素化ナトリウム(0.53g、13.3mmol、6当量)を数回に分けて添加した。反応物はHの発生が停止するまで30分間攪拌した。攪拌中、反応温度の若干の上昇が観察された。26(0.75g、2.2mmol、1当量)を添加し、反応物は90℃で18時間加熱した。反応物をrtに冷やし、HO(50mL)で反応を停止し、MTBE(4x、全部で300mL)で抽出した。合わせた有機物はブライン(250mL)で洗浄し、NaSOで乾燥し、濾過し、そして減圧下で濃縮して黄色オイルを得た。粗生成物は10% EtOAc/ヘプタンで8分間、その後10% EtOAc/ヘプタンから60% EtOAc/ヘプタンまでのグラジエントにより40分間かけて溶出するAnalogix自動クロマトグラフィーシステムを使用して精製した。生成物を含む画分は減圧下で濃縮して、透明な無色オイルとして550mg(56%)の27を得た。
【0116】
N−(1−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−4−(4−(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−d15−オクチル)フェニル)ブタン−2−イル)アセタミド(28)の合成。THF中の1M LiAlH(3.3mL、3.3mmol、3当量)の溶液は別のTHF(8mL)により希釈し、その後0℃に冷やした。該LiAlH溶液にTHF(4mL)中の27(0.50g、1.1mmol、1当量)の溶液をシリンジにより15分間かけて滴下して加えた。反応混合物はrtに温め、その後2時間攪拌した。生じた混合物は0℃に冷やし、satd.aq.NaSO(10mL)の添加により反応を停止した。生じた濁った溶液はCeliteパッドを通して濾過し、パッドはMeOH(100mL)で洗浄し、濾液はおよそ10mLの容量にまで減圧下で濃縮した。残った水性溶液はEtOAc(3x、全部で150mL)により抽出した。合わせた有機物はブライン(150mL)で洗浄し、NaSOで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮して灰色がかった白色の固体を得た。粗反応生成物は初めにCHCl、その後CHCl中0〜5%のMeOHのグラジエントで溶出するシリカゲルクロマトグラフィーにより精製した。生成物を含む画分は減圧下で濃縮し、白色固体として0.35g(88%)の28を得た。
【0117】
2−アミノ−2−(4−(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−d15−オクチル)フェネチル)プロパン−1,3−ジオール(112)の合成。 MeOH(10mL)中の28(0.35g、0.96mmol、1当量)と2N aq.LiOH(2.1mL、4.2当量)の溶液は2時間加熱還流した。反応混合物はrtに冷やし、溶媒は減圧下で除去した。残渣はHO(10mL)とEtOAc(100mL)に分配した。相を分離し、水相はEtOAc(2x、全部で200mL)で抽出した。合わせた有機物はNaSOで乾燥し、濾過し、そして減圧下で留去して黄色固体を得た。固体はEtOAc(5mL)から結晶化させた。結晶を集めて、冷EtOAc(10mL)で洗浄し、真空下で乾燥して、白色固体、mp117.8−118.3℃として0.11g(36%)の112を得た。H−NMR(300MHz,CDCl):δ1.67−1.73(m、HOにより部分的に不明瞭,2H),2.54(s,2H),2.59−2.64(m,2H),3.51(d,J=10.8,2H),3.61(d,J=10.8,2H),7.10(s,4H)。HPLC(方法:Waters Atlantis T3 2.1x50mm 3μmC18−RPカラム−グラジエント法 14分間で5〜95%ACN+0.1%ギ酸(1.0mL/分)、95% ACNで4分間保持;波長:210nm):保持時間:6.38分;純度97%。MS(M+H):323.4.
特記しない限り、当業者は先の説明および例証となる実施例を使用して、本発明の化合物を作り、利用し、そして主張された方法を実行することができると考えられる。前述の検討および実施例は単にある種の好ましい態様の詳細な説明を提示するだけであることを理解すべきである。本発明の意図および範囲から逸脱することなく、種々の改変物および等価物が作製されうることは当業者には明らかであろう。先に検討した、または引用したすべての特許、雑誌記事、および他の文書は参照として本明細書に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
【化1】

の化合物、または薬剤的に受容可能なその塩であって、式中:
それぞれのYはHおよびDから独立して選択され;
は−(CH−CHであり、ここで1から15までの水素原子は場合により重水素原子によって置換され、;
はHおよび−P(O)(OH)から選択され;そして
それぞれのYがHの場合、Rは少なくとも1つの重水素原子を含む、前記化合物。
【請求項2】
、Y、YおよびYのそれぞれが同じであり;YとYのそれぞれが同じであり;YとYのそれぞれが同じであり、そしてYとY10のそれぞれが同じである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
が−(CH−CDおよび−(CD−CDから選択される、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
が−P(O)(OH)である、請求項1から3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
NHを持つ炭素において(S)コンフィギュレーションを有する、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
が水素である、請求項1から3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
以下:
【化2】

【化3】

のいずれか1つから選択される請求項1に記載の化合物、または薬剤的に受容可能な上記の化合物のいずれかの塩。
【請求項8】
式:
【化4】

を有する、請求項1に記載の化合物、または薬剤的に受容可能なその塩。
【請求項9】
重水素と明示されないいずれかの原子がその天然の同位体存在比で存在する、請求項1から8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の化合物;および薬剤的に受容可能なキャリアを含む、発熱物質を含まない医薬組成物。
【請求項11】
タクロリムス、コルチコステロイド、およびシクロスポリンから選択される第2治療薬を付加的に含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
多発性硬化症(MS)、炎症性腸疾患、癌、および潰瘍性大腸炎から選択される疾患もしくは状態を処置すること、または腎臓移植後の拒絶反応を予防することが必要な患者における、そのような処置または予防の方法であって、該患者に有効量の請求項10に記載の組成物を投与するステップを含む、前記方法。
【請求項13】
腎臓移植後の拒絶反応を予防するために使用される請求項12に記載の方法であって、タクロリムス、コルチコステロイド、およびシクロスポリンから選択される第2治療薬を、そのような拒絶反応を予防することが必要な患者に同時投与する付加的なステップを含む、前記方法。

【公表番号】特表2011−502986(P2011−502986A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532064(P2010−532064)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【国際出願番号】PCT/US2008/012390
【国際公開番号】WO2009/061374
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(509049012)コンサート ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (24)
【Fターム(参考)】