説明

重金属固定化効果の判定方法

【課題】キレート系重金属処理剤で処理した重金属含有物質の重金属固定化効果を簡便、迅速、安価、正確、かつ定量的に判定する方法を提供する。
【解決手段】キレート系重金属処理剤で処理した重金属含有物質と水とを混合して得られる溶出液に酸を添加し、余剰のキレート系重金属処理剤と酸とが反応することにより生じる当該溶液の濁度変化を測定することにより、余剰キレート系重金属処理剤の有無を検出する。余剰キレート系重金属処理剤が検出された場合、重金属固定化効果が十分であると判定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属含有物質に重金属処理剤を加えて重金属を不溶化処理した重金属含有物質の重金属固定化効果が十分であるかを判定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
都市ゴミ焼却工場などから排出される飛灰は重金属含有率が高く、重金属の溶出を抑制する処理を施すことが必要である。その様な処理方法のひとつとして薬剤処理法があり、キレート系薬剤などの重金属処理剤を添加して重金属を不溶化する方法が用いられている。このような薬剤処理方法において、重金属処理剤で処理された重金属含有物質の重金属固定化が十分でない場合には、直ちに再処理を行う必要があることから、重金属処理剤で処理された重金属含有物質の重金属固定化が十分であるかをオンサイトで迅速かつ正確に判定する必要がある。
【0003】
これまで重金属処理剤の重金属固定化効果を判定するには昭和48年2月17日環境庁告示第13号法で定められている方法で重金属の溶出試験を行い、その溶出液中の重金属濃度を測定する方法が用いられていた。しかし環境庁告示第13号法(以下「13号試験」と表記)で重金属固定化効果を判定する方法では、時間がかかりなおかつ分析費用が高くつくことが問題であった。
【0004】
その様な中で、キレート系重金属処理剤で処理した重金属含有物質の溶出液中の余剰のキレート剤をキレート剤に特異的な吸収波長の吸光度を測定することで判定する方法が提案されている。(例えば特許文献1)しかし、この様な方法では、キレート剤に特有かつ特定の吸収波長を検出できる高価な光学装置が必要であるという問題があった。また、飛灰の様な重金属以外の成分を含むものを、特定の波長の測定で判断する方法では、ばらつきが出ることがあり、必ずしも十分な方法とはいえなかった。さらに、飛灰の溶出液の様な塩濃度の高い溶出液を用いることが必要なため、測定に用いるセルが汚染され易く、メンテナンスも大変であった。
【0005】
他にもキレート系重金属処理剤で処理した重金属含有物質と水とのスラリー中の遊離キレート濃度を測定することで、判定する方法が提案されている。(特許文献2)しかし、これらの方法も、スラリー中のキレート剤に特有な波長を測定する方法であったため、共存する固体粒子が妨害因子となり、測定にばらつきが出易く、必ずしも十分な方法とはいえなかった。
【0006】
さらに、キレート系重金属処理剤で処理した重金属含有物質の溶出液中に金属イオンを添加することにより金属イオンと余剰のキレート剤とで錯体を形成させ、着色変化により判定する方法が提案されている。(例えば特許文献3)しかし、これらの方法では着色変化という定性的な判定のため、必ずしも十分な方法とはいえなかった。
【0007】
他に、重金属処理剤で処理した重金属含有物質と水とのスラリーの酸化還元電位(ORP)を測定する方法(例えば特許文献4)、或いはORPとは異なる電位を検知する金属イオン電極により測定する方法(例えば特許文献5)が提案されている。しかし、これらの電位測定も妨害イオンの影響を強く受けるため、必ずしも十分な方法とはいえなかった。
【0008】
本発明者等は先に上記の様な問題点を解決する方法として濁度法を用いた安価で簡便な重金属処理剤の必要量決定方法を提案している。(特許文献6)濁度法は従来技術に比して優れているが、対象とする重金属含有物によってはまだ測定誤差を含む場合があった。
【0009】
【特許文献1】特開平10−337550号
【特許文献2】特開2003−290742
【特許文献3】特開2003−190916
【特許文献4】特開2000−70902
【特許文献5】特開2003−334513
【特許文献6】特開2006−829
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
飛灰等の重金属含有物質を重金属処理剤で処理した重金属含有物質の固定化効果が十分であるかの判定を、簡便、迅速、安価、正確かつ定量的にする方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、飛灰等の重金属含有物質をキレート系重金属処理剤で処理した重金属含有物質の重金属固定化効果が十分であるかを判定する方法について鋭意検討を重ねた結果、キレート系重金属処理剤で処理した重金属含有物質の溶出液に酸を添加し、当該溶液中の余剰のキレート系重金属処理剤と酸との反応による濁度変化を測定することにより重金属固定化効果が十分であるかを判定する方法によれば、安価でコンパクトな装置を用いて、オンサイトで迅速、簡便、正確かつ定量的に重金属固定化効果を判定できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明はキレート系重金属処理剤で処理した重金属含有物質と水とを混合して得られる溶出液に酸を添加し、当該溶液の濁度変化を測定することで、キレート系重金属処理剤で処理した重金属含有物質が適正に処理できているかどうか、即ち、重金属固定化効果が十分であるかどうかの判定する方法である。
【0014】
本発明における重金属含有物質は特に限定されるものではないが、飛灰、主灰、土壌、その他廃棄物等が例示できる
本発明における重金属の種類も特に限定はされないが、例えば、鉛、銅、カドミウム、亜鉛、水銀、クロム、ひ素他、環境保全上溶出が規制される金属成分が例示される。
【0015】
本発明における濁度とは、溶液中に存在する懸濁物量を溶液の単位容量または単位重量あたりで表される一般的な指標である。
【0016】
本発明における濁度変化とはキレート系重金属処理で処理した重金属含有物質の溶出液中に存在する余剰のキレート系重金属処理剤と酸とが反応することで起きる濁度変化である。例えばピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩は酸と反応し、不溶性のピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸を生成するため、濁度変化が起こる。濁度変化が起こる場合は、キレート系重金属処理剤で処理した重金属含有物質の溶出液中に余剰のキレート系重金属処理剤が存在し、重金属固定化効果が十分であると判定される。濁度変化が起こらない場合は溶出液中に余剰のキレート系重金属処理剤が存在しておらず、重金属固定化効果が十分でないと判定される。
【0017】
本発明では、余剰のキレート系重金属処理剤の測定において、金属イオン試薬ではなく酸を用いるところが特に重要である。従来の様に、金属イオンを用いる方法では、キレート系重金属処理剤で処理した重金属含有物質の溶出液中には余剰のキレート系重金属処理剤以外に多種多量の金属イオンおよびアニオンが存在するため、余剰のキレート系重金属処理剤が存在しないにもかかわらず金属炭酸塩等の沈殿浮遊物が生成し、あたかも余剰のキレート系重金属処理剤があるという誤った結果を示す場合があった。特に、重金属含有物質が飛灰の場合、多くはアルカリ性であるため、飛灰の処理状態によらず、濁度や着色を示す沈殿物ができ易い。本発明では判定試薬に酸を用いることにより、溶出液を中性から酸性にすることもあいまって、その様な測定誤差を極力なくした判定をすることができる。
【0018】
本発明では用いる酸は特に限定はないが、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸等が例示でき、安全性および取り扱い性の観点から特にリン酸が好ましい。
【0019】
本発明におけるキレート系重金属処理剤は酸と反応し、濁度変化が起きるキレート系重金属処理剤であれば特に限定はされないが、例えばエチレンアミン系カルボジチオ酸塩があり、特に濁度変化の大きいピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩を用いることが好ましい。
【0020】
本発明における濁度の測定方法は特に限定はなく、例えば、透過光法、吸光光度法、散乱光強度測定法、半導体レーザー法、懸濁物をろ別した重量測定法等が例示できるが、測定試料の調整から測定までの時間、測定装置の価格等の観点から透過光法が好ましい。透過光法では懸濁溶液のままで、ろ過、乾燥等をすることなく短時間に測定結果が得られる。
【0021】
また、本発明の方法では必ずしも濁度の絶対値を測定する必要はなく、溶液中の濁度の変化が測定できればよい。
【0022】
本発明の方法では濁度(濁度変化)の検出にレーザーセンサーを用いることが特に好ましい。レーザーセンサーを用いることで、幅広い濁度の測定に対応することができる。レーザーセンサーを用いる方法では、溶液を攪拌しながらの連続測定が可能であり、また、吸光度測定方式の水質分析計のように高価な専用セルを必要とせず、一般的な安価なガラスビーカー等を測定容器として用いることができる。さらに、レーザーセンサーを用いる方法では、試料との接触がないため汚染の心配がなく、メンテナンスの面でも優れており、コストの面でも安価である。
【0023】
本発明において、濁度の測定にレーザーセンサーを初めとした透過光法を用いる場合、透過光法による測定が安定するように、懸濁物が沈降しないようにすることが好ましい。例えば、攪拌しながら、もしくは攪拌後すみやかに測定することが好ましい。
【0024】
本発明の方法では、例えば、キレート系重金属処理剤で処理した重金属含有物質の溶出液に酸を添加し、濁度変化を透過光強度等から測定し、予め各濃度のキレート系重金属処理剤と酸との濁度変化を測定して作成した検量線をもとに余剰のキレート系重金属処理剤を求めることができる。参考として図1にピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩の濃度と透過光強度から測定したピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩とリン酸との反応により起こる濁度変化の関係を示す。
【発明の効果】
【0025】
キレート系重金属処理剤で処理した重金属含有物質の溶出液に酸を添加し、当該溶液の濁度変化を測定することにより、コンパクトで安価な装置を用い、オンサイトで迅速、簡便、正確、かつ定量的にキレート系重金属処理剤で処理した重金属含有物質の重金属固定化効果を判定できる。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明を実施例にて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1
ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩を主成分とするキレート系重金属処理剤(TS−275 東ソー(株)製)で処理を行った処理飛灰Aを50g秤り取り、500gの純水と1分間攪拌し、溶出液を得た。当該スラリーを1μmのグラスファイバーろ紙(ADVANTEC社製)でろ過した後、当該溶液200mLを200mLガラスビーカーに入れた。次に、そのガラスビーカーを図1のよう投光器と受光器よりなるレーザーセンサーの間に設置した。レーザーセンサーはセンサー部としてLX2−02T(キーエンス社製)、コントロール部としてLX2−60(キーエンス社製)を使用した。
【0028】
測定間隔を10秒とし、測定回数を10回とした。その溶液を攪拌しながら、測定を開始し、酸を加えないで1回目の測定が終了した時点で75wt%リン酸(東ソー(株)製)1mLを添加した。測定10回が終了した後、濁度変化を開始と終了の受光量差より検出した。受光量差は755mV、即ちリン酸の添加によって濁度変化が認められ、溶出液中には余剰のキレート剤があることが認められたため、重金属含有物質の重金属固定化効果は十分であると判定された。
【0029】
処理飛灰Aについて13号試験を行った結果、基準値以下に処理されている結果となり、本発明の方法と13号試験の方法で得られる結果とで一致した。
【0030】
実施例2
キレート系重金属処理剤(TS−275 東ソー(株)製)で処理を行った処理飛灰Bを実施例1と同様の測定を行った。受光量差は0mVであり、即ちリン酸の添加によって濁度変化がなく、溶出液中には余剰のキレート剤はなかったことが認められたため、重金属固定化効果は十分でないと判定された。
【0031】
処理飛灰Bについて13号試験を行った結果、基準値以下に処理されていない結果となり、本発明の方法と13号試験の方法で得られる結果とで一致した。
【0032】
実施例3
エチレンアミン系カルボジチオ酸塩を主成分とするキレート系重金属処理剤(TS−500 東ソー(株)製)で処理を行った処理飛灰Cを実施例1と同様の測定を行った。受光量差は2595mVであり、重金属固定化効果は十分であると判定された。
【0033】
処理飛灰Cについて13号試験を行った結果、基準値以下に処理されている結果となり、実施例1と異なるキレート系重金属処理剤の場合においても、本発明の方法と13号試験の方法で得られる結果とで一致した。
【0034】
実施例4
エチレンアミン系カルボジチオ酸塩を主成分とするキレート系重金属処理剤(TS−600 東ソー(株)製)で処理を行った処理飛灰Dを実施例1と同様の測定を行った。受光量差は645mVであり、重金属固定化効果は十分であると判定された。
【0035】
処理飛灰Dについて13号試験を行った結果、基準値以下に処理されている結果となり、実施例1および実施例2と異なるキレート系重金属処理剤においても、本発明の方法と13号試験の方法で得られる結果とで一致した。
【0036】
実施例5
キレート系重金属処理剤(TS−275 東ソー(株)製)で処理を行った処理飛灰Eについて75wt%リン酸を60wt%硝酸に変えて、実施例1と同様の測定を行った。受光量差は1784mVであり、重金属固定化効果は十分であると判定された。
【0037】
処理飛灰Eについて13号試験を行った結果、基準値以下に処理されている結果となり、実施例1と異なる酸においても、本発明の方法と13号試験の方法で得られる結果とで一致した。
【0038】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】濁度変化と余剰キレート系重金属処理剤の相関
【図2】重金属固定化効果判定装置検出部の概略
【符号の説明】
【0040】
1 受光器
2 投光器
3 センサーコントロール部
4 スターラー
5 測定容器(ガラスビーカー)
6 攪拌子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キレート系重金属処理剤で処理した重金属含有物質と水とを混合して得られる溶出液に酸を添加し、当該溶液の濁度変化を測定することを特徴とするキレート系重金属処理剤で処理した重金属含有物質の重金属固定化効果の判定方法。
【請求項2】
濁度変化が当該溶液中の余剰のキレート系重金属処理剤と酸とが反応することにより起きる濁度変化である請求項1に記載の重金属固定化効果の判定方法。
【請求項3】
キレート系重金属処理剤がエチレンアミン系カルボジチオ酸塩及び/又はピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩を主成分とすることを特徴とする請求項1〜請求項2に記載の重金属固定化効果の判定方法。
【請求項4】
濁度変化の測定方法が透過光法によることを特徴とする請求項1〜請求項3に記載の重金属固定化効果の判定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−183204(P2007−183204A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−2328(P2006−2328)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】