説明

重金属成分の回収方法

【課題】 重金属化合物等で汚染された重金属成分含有液から容易に且つ効率よく重金属成分を除去、回収することができ、更にランニングコストも安く、発生するスラッジの量も少なくすることができる重金属成分の除去・回収方法を提供すること。
【解決手段】 重金属成分含有液から重金属成分を回収するにあたり、該重金属成分含有液に平均粒子径10〜150nm、比表面積10〜100m2 /g及び負荷磁場398kA/mにおける飽和磁化量50〜90Am2 /kgのマグネタイト粒子を分散させ、該重金属成分含有液を弱酸性からアルカリ性にして、重金属成分を該マグネタイト粒子の表面に吸着させた後、磁気的な力でマグネタイト粒子を回収し、重金属成分をマグネタイト粒子と共に液中から分離し、更に分離したマグネタイト粒子を水に分散させ、該分散液を酸性に調整することにより、重金属成分を液中に再溶出し、重金属成分を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネタイト粒子を用いて、重金属成分を含有する水溶液中から銅、鉛、カドミウム、クロム、マンガン、白金、パラジウム、ロジウム等の重金属成分を効率よく回収する方法及び重金属成分を含有する排水を効率よく処理する方法、並びにこれらの回収方法及び排水処理方法に用いて好適なマグネタイト粒子を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、重金属成分含有排水における処理技術は大別して、金属イオンを水酸化物や硫化物として難溶性の塩として沈殿除去する凝集沈殿法と、イオン状態あるいは錯体のままイオン交換樹脂や活性炭等の吸着剤で処理する吸着法がある。凝集沈殿法としては、重金属成分含有排水に第二鉄イオンまたはアルミニウムイオンを添加し、次いでアルカリ剤を加えて水酸化第二鉄又は水酸化アルミニウムを生成せしめて重金属成分を除去する水酸化物共沈法、鉄(II) イオンを含む溶液にアルカリを加え、酸化処理を行い強磁性であるフェライトを生成させるフェライト化処理法、鉄片を酸性溶液に接触させ共存重金属のイオン化傾向の差により鉄粉表面に析出させる鉄粉法等が提唱され、実用化されている。
また吸着法としては、水中の重金属イオンを樹脂中の官能基で交換吸着するイオン交換法、水中の重金属イオンを活性炭、亜炭、ゼオライト、活性アルミナ等の吸着剤で吸着する方法が提唱され、実用化されている。
【0003】
上述した鉄(II) イオンを含む溶液にアルカリを加え、酸化処理を行い強磁性であるフェライトを生成させるフェライト化処理法は、非特許文献1に記載されているように、重金属イオンを含む排水中に第一鉄塩を適量加え、アルカリで中和した後、60〜70℃に加熱した状態で空気酸化を行う。このことよりスピネルフェライトの結晶に変化し、スピネルフェライトの構造MOFe23 中のMの部分に取り込まれ強磁性を示す。上記方法で生成した強磁性のスピネルフェライト粒子を磁石を用いて分離(磁気分離)すれば排水中から重金属を分離することができる。しかし、このフェライト化処理法では、前述したようにフェライト構造中に重金属イオンが取り込まれるため、重金属単独での回収が困難であり、大量の重金属を含むスラッジが副生してしまう問題がある。また、このフェライト化処理法では、フェライト化反応に60〜70℃の反応温度が必要となるため、大量の排水から重金属成分を回収するために多大なエネルギーが必要となる問題がある。
【0004】
また、重金属イオンと浮遊固形分の両者を含む排水の浄化において、上記フェライト化処理法で得られたフェライト粒子を排水とよく混合し、磁気分離を行うことで、非磁性の固形浮遊物質も同時に除去される現象が見出されたこととが非特許文献1に記載されているが、フェライトの粒子サイズが大きく、重金属の回収効果が小さいものである。
【0005】
また、上記のような下水等の浄化を目的とした高勾配磁気分離の例が、非特許文献2に示されている。該非特許文献2には、フェライト粒子が微細になると磁気力が低下してしまうため、除去不能になると記載されている。
【0006】
吸着法としては、イオン交換樹脂を使用し水溶液から重金属イオンを除去し、また酸によって再生し、重金属成分を濃縮して回収する方法がある。これらのイオン交換樹脂は高価であり、イオン交換能が小さい等の問題がある。結果、対象イオン濃度が低く、排水量が大きいときに有利となる。また可溶性のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が重金属塩と共存する場合、イオン交換樹脂の官能基とアルカリ金属イオン、アルカリ土類イオンが吸着してしまうため、共存塩類が存在する場合、使用できない等の問題がある。
【0007】
吸着法のひとつに鉄粉を用いるダライコ法があり、多くの処方が提案されている(例えば、特許文献1〜6等を参照)。これらダライコ法の原理として鉄片を酸性溶液に接触させると表面の酸化物が溶解し、新鮮な金属面が現れる。この金属面は活性に富んでおり、共存重金属はイオン化傾向の差により還元析出する。鉄粉法は重金属含有排水の処理に上記還元作用と溶出する鉄イオンの共沈作用を応用したものであり、酸性サイドの還元・吸着工程とアルカリサイドでの凝集沈殿効果からなる。この手法は、沈降特性が良い、有害物質の一括処理が可能等の特徴があるが、重金属単独での回収が困難であり、大量の重金属成分を含むスラッジが副生してしまう問題がある。また先に述べたフェライト化処理法と同様に多量の排水からの重金属成分の回収には適さない問題がある。
【非特許文献1】公害と対策Vol13,No.1 p37〜p41
【非特許文献2】水処理技術Vol.22,No.6 p475〜p491
【特許文献1】特開昭50−36370号公報
【特許文献2】特開昭50−133654号公報
【特許文献3】特開昭50−154164号公報
【特許文献4】特開昭52−45665号公報
【特許文献5】特開昭54−11614号公報
【特許文献6】特開昭57−7795号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、前述した従来の重金属成分含有液の処理法の問題点を解消し、重金属成分含有液から容易に且つ効率よく重金属成分を除去、回収することができる重金属成分の除去・回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、重金属成分含有液から重金属成分を回収するにあたり、該重金属成分含有液に平均粒子径10〜150nm、比表面積10〜100m2 /g及び負荷磁場398kA/mにおける飽和磁化量50〜90Am2 /kgのマグネタイト粒子を分散させ、該重金属成分含有液を弱酸性からアルカリ性にして、重金属成分を該マグネタイト粒子の表面に吸着させた後、磁気的な力でマグネタイト粒子を回収し、重金属成分をマグネタイト粒子と共に液中から分離し、更に分離したマグネタイト粒子を水に分散させ、該分散液を酸性に調整することにより、重金属成分を液中に再溶出し、重金属成分を回収することを特徴とする重金属成分の回収方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、重金属化合物等で汚染された重金属成分含有液から、容易に且つ効率よく、しかもランニングコストも安く、重金属成分を除去できるほか、重金属成分を水中に再溶出させて回収することができる。また、重金属成分を水中に再溶出させたマグネタイト粒子は再使用できるため、処理に伴うスラッジを大幅に削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
重金属成分含有液中の重金属、例えば銅、鉛、カドミウム、クロム、マンガン等は、金属イオン又は錯体イオンの状態で存在している。これらの重金属の濃度は、例えば排水では1〜1000ppm程度である。
本発明では、まず、重金属成分含有液にマグネタイト粒子を分散させる。
【0012】
上記マグネタイト粒子としては、平均粒子径が10〜150nm、好ましくは10〜100nmであり、比表面積が10〜100m2 /g、好ましくは20〜100m2 /gであり、負荷磁場398kA/mにおける飽和磁化量が50〜90Am2 /kg、好ましくは55〜86Am2 /kgである特性を有するマグネタイト粒子が用いられる。
上記マグネタイト粒子の平均粒子径が150nmより大きく、比表面積が10m2 /gより小さい場合、重金属成分含有液中でマグネタイト粒子が沈降してしまい均一な分散が困難になる他、マグネタイト粒子表面の吸着サイトが減少し、目的とする重金属吸着の十分な効果が得られない。即ち、平均粒子径が150nmより大きく、比表面積が10m2 /gより小さいマグネタイト粒子で十分な吸着効果を得ようとすると、マグネタイト粒子が多量に必要になる他、機器及び攪拌機が大型化してしまう等の問題が生じる。また、平均粒子径が10nmより小さく、比表面積が100m2 /gを超えるようなマグネタイト粒子では、重金属吸着の効果は大きいが、負荷磁場398kA/mにおける飽和磁化量が50Am2 /kgより小さくなるため、磁気的な力での回収が困難になる。
【0013】
本発明で用いられる上記マグネタイト粒子の製造法について述べる。製造方法は特に制限を受けないが、湿式酸化法が望ましい。その一例として、第一鉄塩水溶液と、該第一鉄塩水溶液中の第一鉄塩に対し所定当量の水酸化アルカリ及び/又は炭酸アルカリを含む水溶液とを混合し、水酸化第一鉄コロイド及び/又は炭酸第一鉄コロイドを含む懸濁液を得る。次いで、この懸濁液(第一鉄塩反応水溶液)を60〜100℃の温度範囲に加熱しながら酸素含有ガスを通気して酸化反応を行いマグネタイト粒子を生成させる。また、第一鉄塩水溶液と、該第一鉄塩水溶液中の第一鉄塩に対し5〜20at%の第二鉄塩を含む水溶液とを混合し、次いで該第一鉄塩と第二鉄塩を含む混合水溶液中の第一鉄及び第二鉄に対し、所定当量の水酸化アルカリ及び/又は炭酸アルカリを含む水溶液を混合し、水酸化第一鉄と水酸化第二鉄コロイド及び/又は炭酸第一鉄と水酸化第二鉄コロイドを含む懸濁液を得る。次いで、この懸濁液(第一鉄塩反応水溶液)を60〜100℃の温度範囲に加熱しながら酸素含有ガスを通気して酸化反応を行いマグネタイト粒子を生成させる方法等がある。このとき第一鉄塩と第二鉄塩に対する水酸化アルカリ及び/又は炭酸アルカリの当量比、反応温度を調整することにより、本発明の平均粒子径10〜150nm、比表面積10〜100m2 /g及び負荷磁場398kA/mにおける飽和磁化量50〜90Am2 /kgのマグネタイト粒子を得ることができる。前記第一鉄塩水溶液としては、塩化第一鉄水溶液、硫酸第一鉄水溶液、硝酸第一鉄水溶液等を使用することができる。第二鉄塩を含む水溶液としては、塩化第二鉄水溶液、硫酸第二鉄水溶液、硝酸第二鉄水溶液等を使用することができる。水酸化アルカリを含む水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を含むアルカリ金属水溶液及びアンモニア水等を使用することができる。炭酸アルカリを含む水溶液としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム等を含む炭酸アルカリ水溶液を使用することができる。
【0014】
反応温度は60〜100℃の温度範囲で本発明のマグネタイト粒子を製造することができるが、平均粒子径が10〜150nm、好ましくは10〜100nmのマグネタイト粒子を得ようとする場合、反応温度は60〜70℃の温度範囲が望ましい。第一鉄塩と第二鉄塩の和に対する水酸化アルカリ及び/又は炭酸アルカリの当量比は、前記第一鉄塩と第二鉄塩の和に対し合計で1.00〜1.50当量が好ましく、更に好ましくは1.10〜1.25当量である。また、第一鉄塩と第二鉄塩の和に対する水酸化アルカリの当量比としては0.7〜1.5当量が好ましく、第一鉄塩と第二鉄塩の和に対する炭酸アルカリの当量比としては0.3〜0.8当量が好ましい。第一鉄塩と第二鉄塩の和に対する水酸化アルカリ及び/又は炭酸アルカリの当量比が1.00当量より小さい場合、生成するマグネタイト粒子に未反応の鉄化合物、ゲーサイトが混在し、また当量比1.5当量を超えると、αオキシ水酸化鉄が混在してしまう。これらの化合物は非磁性であるため、溶液中からの磁気的な分離ができないので好ましくない。
【0015】
ここで、Al、Si、Mn、Zn,Ca,Mg等の各種金属塩を原料中又は酸化反応中に添加することにより、これら各種金属原子を本発明のマグネタイト粒子に含有させることができる。
【0016】
得られた本発明のマグネタイト粒子を重金属成分含有液中に分散させ、重金属成分を該マグネタイト粒子の表面に吸着させるpHは、弱酸性からアルカリ性であり、好ましいpH域は4.5〜12である。該pHが4.5より低い場合には望まれる吸着効果が得られず、該pHが12超では添加するアルカリの添加量が多くなり、処理コストが高くなる。該pHを4.5〜12に調整するには水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の水酸化アルカリ、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸アルカリもしくは塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸類、シュウ酸、酢酸等の有機酸類を適量添加すればよく、pH計を使用してpHを調整すればよい。
【0017】
重金属を吸着したマグネタイト粒子を溶液から磁気的な力で回収する方法は特に制限されないが、ソレノイド電磁石、希土類磁石、フェライト磁石等を使用した方法により磁気的な力で回収することができる。
【0018】
重金属を吸着させたマグネタイト粒子から重金属を回収する方法は、回収したマグネタイト粒子を水に分散させ、該分散液のpHを酸性に調整することにより、マグネタイト粒子に吸着した重金属成分を溶液中に抽出することができ、好ましいpH域は1〜4.5であり、更に好ましいpH域は2〜3である。pHが4.5より高い場合、望まれる重金属の抽出の効果が得られない。またpHが1より小さい場合には、添加する酸の量が多大になるほかマグネタイト粒子が酸に溶解し、Feが溶出するためマグネタイト粒子の再使用のサイクルが短くなる。該pHを1〜4.5に調整するためには塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸類、シュウ酸、酢酸等の有機酸類を適量加えることで可能となる。
【0019】
本発明の方法では重金属成分含有液の液温について特に制限を受けないが、5〜40℃の常温で重金属成分を回収することができる。常温で重金属成分を回収できるため、重金属成分の回収に要するエネルギーを低減させることができる。
【0020】
また、本発明の方法を使用することにより重金属成分を含む希薄水溶液中の重金属成分を濃縮することも可能となる。本発明は、重金属成分含有希薄排水の重金属成分を濃縮し、排水処理に伴うコストを低減させることが可能な他、分析操作の前処理の成分の濃縮にも利用が可能である。
本発明の回収方法の対象となる好適な重金属成分としては、銅、鉛、カドミウム、クロム、マンガン、白金、パラジウム、ロジウム等があげられる。
【作用】
【0021】
本発明の重金属成分の回収方法は、平均粒子径10〜150nm、比表面積10〜100m2 /g及び負荷磁場398kA/mにおける飽和磁化量50〜90Am2 /kgのマグネタイト粒子を吸着材と使用して、効率よく重金属成分を回収するものである。
【0022】
即ち、本発明の重金属成分の回収法では、使用するマグネタイトの粒子サイズが非常に微細であるため水溶液中で良好に分散すること、高い比表面積を有することから重金属に対して高い吸着特性を有していること、また使用するマグネタイト粒子が非常に微細でありながら高い磁気能力を有することを利用し、重金属成分を効率よく吸着、回収するものである。この高い重金属の吸着特性は、マグネタイト粒子表面に存在する水酸基の数が通常市販されている平均粒径200nmを超えるマグネタイトより多いため、重金属成分が効率よく吸着されるものと本発明者らは推測している。
【実施例】
【0023】
次に本発明の実施例及び比較例をあげ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に制限を受けるものではない。
【0024】
<マグネタイト粒子の製造法>
本発明のマグネタイト粒子の製造法の一例を45nmのマグネタイト粒子(マグネタイト2)を例に説明する。
80リットルの反応器に10リットル/minの窒素ガスを吹き込みながら、0.6mol/minの塩化第一鉄水溶液40リットルと該塩化第一鉄に対し4.8molの塩化第二鉄を添加し、水溶液を良く混合した。次いで、該塩化第一鉄と塩化第二鉄を含む水溶液中の塩化第一鉄及び塩化第二鉄に対し0.6当量の水酸化アルカリ及び0.6当量の炭酸アルカリを含む水溶液20リットルを混合し、水酸化第一鉄と水酸化第二鉄コロイド及び炭酸第一鉄と水酸化第二鉄コロイドを含む懸濁液を得た。次いで、この懸濁液(第一鉄塩反応水溶液)を60℃に加熱し、60℃の反応温度を維持しながら,窒素ガスの流通を停止し、空気を20リットル/min通気して酸化反応を行った。得られたマグネタイト粒子をろ過し、60℃の脱イオン水200リットルで水洗した。水洗したマグネタイト粒子の一部を窒素気流下、120℃で乾燥した。得られたマグネタイト粒子(マグネタイト2)の平均粒子径は45nmであり、比表面積は25.5m2 /gであり、保磁力は13.30kA/mであり、負荷磁場398kA/mにおける飽和磁化量は78.1Am2 /kgであった。
下記表1に示す製造条件とした以外はマグネタイト2の製造法と同様にしてマグネタイト1及び3〜5をそれぞれ製造した。マグネタイト1、2及び3が本発明のマグネタイト粒子(実施例)であり、マグネタイト4及び5は比較例である。
得られたマグネタイト1〜5の諸特性を下記表2に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
上記マグネタイト1〜5の諸特性の測定は以下の測定法で実施した。
〔平均粒子径〕
マグネタイト粒子の平均粒子径は「透過型電子顕微鏡 H−7600」(日立製作所(株)社製)で撮影された写真より測定した。
〔比表面積〕
マグネタイト粒子の比表面積は「マルチソーブ−12」(ユアサアイオニックス)を使用し、BET法にて測定した。
〔pH〕
JIS(Z−8802)に準じて測定を行った。マグネタイト粒子試料5gに純水105mlを入れ、5分間煮沸し、ろ過後、溶液のpHを「pHメーターHM−30G」(東亜DKK(株)社製)で測定を行った。
〔磁気特性〕
マグネタイト粒子の磁気特性は「振動試料磁力計VSM−3S」(東英工業(株)社製)を使用し、外部磁場398kA/m(5kOe)で測定した。
【0028】
<重金属成分含有液中からの重金属成分の吸着及び回収>
各種重金属イオンを1×10-5moldm-3含む水溶液100ml中に含水率50%のマグネタイト粒子を0.1〜2g加え、リン酸塩でpHを7に調整し、30分間攪拌した。マグネタイト粒子をネオジ鉄ボロン磁石で沈降させた。このときの液温は20℃であった。上澄み液をシリンジフィルターでろ過後、「偏光ゼーマン原子吸光分光光度計 Z-6100」(日立製作所(株)社製)を用い重金属イオンを測定した(測定結果A)。また、回収したマグネタイト粒子を0.1Nの硝酸100mlで30分間水洗後、ネオジ鉄ボロン磁石でマグネタイト粒子を沈降させた。上澄み液のpHは1.2であった。この上澄み液をシリンジフィルターでろ過後、「偏光ゼーマン原子吸光分光光度計 Z-6100」(日立製作所(株)社製)を用い重金属イオンを測定した(測定結果B)。
【0029】
実施例1
<Cu2+
重金属イオンとしてCu2+を用い各マグネタイトについて試験を行った。各マグネタイトの吸着挙動並びに回収挙動を表3〜表7に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
【表5】

【0033】
【表6】

【0034】
【表7】

【0035】
表8に各マグネタイトの吸着率を示す。
【0036】
【表8】

【0037】
図1にマグネタイトの粒子サイズとCu2+吸着率との関係を示す。
【0038】
平均粒子径45nmのマグネタイト2でのCu2+イオンの吸着率と攪拌時間との関係を図2に示す。
【0039】
上記結果より、平均粒子径150nm以下のマグネタイト粒子では、溶液中のCu2+イオンがマグネタイト表面に効率よく吸着していることが確認される。平均粒子径が150nmより大きなマグネタイト粒子では、平均粒子径150nm以下のマグネタイト粒子に比べて吸着能力が低下しており、マグネタイト粒子の添加量が少ない場合吸着率が劣ることが確認された。図2の吸着率と攪拌時間との関係から、マグネタイト粒子混合後、直ちに重金属成分がマグネタイト粒子に吸着されていることがわかる。このことからも150nm以下のマグネタイト粒子は重金属成分を含む溶液中から重金属成分を効率よく吸着することが確認できる。
また、0.1N硝酸で洗浄した場合、マグネタイトの粒子径にかかわらずCu2+イオンを効率よく回収できることがわかる。
【0040】
平均粒子径45nmのマグネタイト2でのCu2+イオンの吸着率と共存するNaClの濃度との関係を図3に示す。磁性粉の使用量は0.5gであり、攪拌時間は30分間、吸着率は先の実験と同様に算出した。
図3に示す結果より、本発明のマグネタイト粒子は、NaClが共存する場合でも溶液中のCu2+イオンを効率よく吸着していることがわかる。
【0041】
実施例2
次にマグネタイト2を使用した各重金属の吸着挙動を表9〜表11に示す。
【0042】
【表9】

【0043】
【表10】

【0044】
【表11】

【0045】
表12に各重金属イオンの吸着率を示す。
【0046】
【表12】

【0047】
表4及び表9〜表12の結果より、マグネタイト2は重金属イオンを効率よく吸着することがわかる。
【0048】
実施例3
〔pHによる影響〕
マグネタイト2を0.5g添加し、30分間攪拌したときのCu2+、Pb2+、Cd2+、Cr6+の吸着挙動に対するpHの影響を図4〜図7にそれぞれ示す。
【0049】
図4〜図6に示されるように、Cu2+、Pb2+,Cd2+はpH7以上で吸着し、pH4.5以下で吸着した重金属成分を溶液中に再度溶出させることがわかる。
図7に示されるように、Cr6+は弱酸性即ちpH4.5〜6.5の範囲で効率よく吸着されている。これは弱酸性でマグネタイト成分中のFe2+が還元剤として作用し、Cr6+がCr3+に還元されるためと考えられる。
【0050】
図8にpHによる鉄イオンの溶出量(単位;10-5mol/ dm3 )を示す。
【0051】
本発明では、pHを調整することでマグネタイト成分に水溶液中の重金属成分を吸着させ、容易に水溶液中から重金属成分を除去できるほか、溶液中に再溶出させ、重金属成分を回収することができる。また液を酸性に調整し重金属成分を溶出させたマグネタイト粒子は、再度重金属回収に使用できるため、処理に伴うスラッジを大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】マグネタイトの粒子サイズとCu2+吸着率との関係を示すグラフである。
【図2】平均粒子径45nmのマグネタイト2でのCu2+イオンの吸着率と攪拌時間との関係を示すグラフである。
【図3】平均粒子径45nmのマグネタイト2でのCu2+イオンの吸着率と共存するNaClの濃度との関係を示すグラフである。
【図4】マグネタイト2のCu2+の吸着挙動に対するpHの影響を示すグラフである。
【図5】マグネタイト2のPb2+の吸着挙動に対するpHの影響を示すグラフである。
【図6】マグネタイト2のCd2+の吸着挙動に対するpHの影響を示すグラフである。
【図7】マグネタイト2のCr6+の吸着挙動に対するpHの影響を示すグラフである。
【図8】pHによる鉄イオンの溶出量(単位;10-5mol/ dm3 )を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属成分含有液から重金属成分を回収するにあたり、該重金属成分含有液に平均粒子径10〜150nm、比表面積10〜100m2 /g及び負荷磁場398kA/mにおける飽和磁化量50〜90Am2 /kgのマグネタイト粒子を分散させ、該重金属成分含有液を弱酸性からアルカリ性にして、重金属成分を該マグネタイト粒子の表面に吸着させた後、磁気的な力でマグネタイト粒子を回収し、重金属成分をマグネタイト粒子と共に液中から分離し、更に分離したマグネタイト粒子を水に分散させ、該分散液を酸性に調整することにより、重金属成分を液中に再溶出し、重金属成分を回収することを特徴とする重金属成分の回収方法。
【請求項2】
重金属成分含有排水から重金属成分を除去するにあたり、該重金属成分含有排水に平均粒子径10〜150nm、比表面積10〜100m2 /g及び負荷磁場398kA/mにおける飽和磁化量50〜90Am2 /kgのマグネタイト粒子を分散させ、該重金属成分含有排水を弱酸性からアルカリ性にして、重金属成分を該マグネタイト粒子の表面に吸着させた後、磁気的な力でマグネタイト粒子を回収し、重金属成分を排水から除去することを特徴とする排水処理方法。
【請求項3】
請求項1記載の重金属成分の回収方法又は請求項2記載の排水処理方法に用いられる、平均粒子径10〜150nm、比表面積10〜100m2 /g及び負荷磁場398kA/mにおける飽和磁化量50〜90Am2 /kgの重金属回収用又は排水処理用のマグネタイト粒子。
【請求項4】
重金属成分をマグネタイト粒子の表面に吸着させるときの重金属成分含有液のpHが4.5〜12であり、重金属成分を液中に再溶出するときの分散液のpHが1〜4.5である請求項1記載の重金属成分の回収方法。
【請求項5】
重金属成分をマグネタイト粒子の表面に吸着させるときの重金属成分含有排水のpHが4.5〜12である請求項2記載の排水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−206952(P2006−206952A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19778(P2005−19778)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000157119)関東電化工業株式会社 (68)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】