説明

重金属類含有物質の焙焼処理方法及び焙焼設備

【課題】灰を溶融することなく重金属類を揮散分離することを可能とした焼却灰の処理方法及び焙焼設備を提供する。
【解決手段】還元性雰囲気に保持され、重金属類を含有した被処理物を塩素含有物質の存在下にて融点以下の温度で加熱することにより該重金属類を揮散分離する焙焼炉2を備えた焙焼設備において、前記焙焼炉2より前段若しくは該焙焼炉の上流側で、前記被処理物に塩基度調整剤を添加する塩基度調整剤添加手段を備え、該塩基度調整剤添加手段を、塩基度調整剤添加後の被処理物の塩基度が0.4以下若しくは1.1以上となる量の塩基度調整剤を添加する手段とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属類を含む灰、土壌等の被処理物を還元性雰囲気下にて加熱処理し、該重金属類を揮散分離して無害化する重金属類含有物質の焙焼処理方法及び焙焼設備に関し、特に、被処理物に塩素含有物質を添加して重金属類を塩化物化して揮散分離する重金属類含有物質の焙焼処理方法及び焙焼設備に関する。
【背景技術】
【0002】
一般廃棄物、産業廃棄物を焼却処理することにより発生する焼却灰、飛灰中には様々な種類の重金属類が含有されている。また、重金属類の処理設備を具備しない焼却設備からは大気、土壌、地下水に重金属類含有物質が漏出する惧れがあり、他にも工場跡地、廃棄物埋立地等の土壌中には環境基準で定められた濃度以上の重金属類が存在していることがある。重金属類は毒性が強いものが多く、環境に悪影響を与えるのみならず生体内に蓄積され害を及ぼす。近年は、焼却灰、飛灰、土壌等に含有される重金属類の環境基準が制定されるなど、重金属類に対する規制が厳しくなる傾向にある。特に焼却灰由来の資源化物として、該焼却灰を溶融スラグ化して再利用する方法があるが、溶融スラグ中の重金属類に関しては、従来の溶出の規制に加えて含有量の規制が新たに設定された。
【0003】
重金属類を含有する物質を無害化する方法の一つとして、融点以下に保持した焙焼炉にて被処理物を還元性雰囲気下で加熱し、重金属類を揮散させて分離除去する方法がある。また、重金属類の中でも特にPbが問題となるが、Pbを含む重金属類の除去効率を向上させる方法として、焙焼炉に塩素を供給して加熱処理することにより重金属類を塩化物化して揮散分離する方法が提案されている。
【0004】
図9に、焙焼炉を用いて重金属類を無害化する装置構成を示す。同図に示すように本装置においては、灰や土壌等の重金属類を含有した被処理物をホッパ51から焙焼キルン52内に投入し、還元性雰囲気下にて950〜1050℃の高温で加熱処理し、重金属類を揮散分離する。重金属類が分離された焙焼灰は冷却された後、再利用又は埋め立て等に供される。一方、焙焼キルン52にて発生した排ガスは、重金属類が濃縮された飛灰を含んだ状態で焙焼キルン52から排出され、後段に設けられた排ガス処理設備54にて処理される。
【0005】
例えば特許文献1(特開2004−181323号公報)には、廃棄物焼却炉から排出される塩化水素を含む燃焼排ガスを、焼却灰の処理を行う灰処理炉に導入し、焼却灰中に含まれる重金属類を塩化物として揮散させて除去する方法が開示されている。
また、特許文献2(特開2005−288433号公報)には、ロータリーキルンに塩素含有物質或いは塩素系排ガスを導入し、被処理物中の重金属類を塩化物化して沸点を低下させた後、該重金属類を揮散分離して除去する方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−181323号公報
【特許文献2】特開2005−288433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載されるように、被処理物に塩素を添加して重金属類を塩化物化しても、その塩化物の沸点は大幅に下降することはなく、重金属類を揮散分離するには高い温度に設定する必要がある。例えば、Pbの塩化物であるPbClの沸点は950℃であり、従来の溶出防止法以上に厳しい温度管理が必要となる。
また、被処理物に塩酸を添加して焙焼する方法では、塩酸添加により灰の融点降下をもたらし、灰が溶融し易くなってしまう。
さらに、灰の溶融がおきない状況での焙焼処理を実施しようとした場合、従来の処理温度でのPbの除去が困難となり、Pb除去性能の低下を引き起こす。
また、焙焼灰中の細かい灰(飛灰)は排ガスに同伴し処理設備へ排出されるが、灰の粒径によっては飛散しきれずに焙焼灰に混入する可能性があり、焙焼灰のPb除去性能が低下する惧れがある。飛灰は粒径が細かいほど高いPb濃度を示す傾向がある。
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、灰を溶融することなく重金属類を揮散分離でき、重金属類の除去性能を向上させることを可能とした焙焼炉の灰処理方法及び焙焼設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、
重金属類を含有する被処理物を、塩素含有物質とともに還元性雰囲気に保持された焙焼炉にて融点以下の温度で加熱し、前記重金属類を塩化物化した後に揮散させて分離除去する重金属類の焙焼処理方法において、
前記焙焼炉より前段若しくは該焙焼炉の上流側で、前記被処理物に塩基度調整剤を添加するようにし、前記塩基度調整剤の添加量を、塩基度調整剤添加後の被処理物の塩基度が0.4以下若しくは1.1以上となる添加量としたことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、被処理物の塩基度を0.4以下若しくは1.1以上とすることにより被処理物の融点を高くすることができ、被処理物を溶融することなく重金属類を揮散分離する焙焼処理を行うことが可能となる。即ち、融点の低い被処理物に対しても溶融することなく、例えば950℃以上に加熱することができ、Pb等の重金属類を低減することが可能となる。また、それ以外の被処理物に対しては、例えば1200℃以上の高い温度域での焙焼処理が可能となり、焙焼灰の重金属類除去性能を向上させることが可能となる。
また、本発明によれば、被処理物の融点を高温側に移行させることができるため、焙焼温度範囲が広がるため、温度管理が容易となる。
【0010】
また、前記塩基度調整剤が、SiOを含有する砂若しくは砂利であることを特徴とする。このように、塩基度調整剤としてSiOを含有する砂若しくは砂利を用いることにより、塩基度調整剤が残留する焙焼灰をセメント原料等の資源化材として好適に再利用することが可能となる。
さらに、前記被処理物が焼却灰であり、前記塩基度調整剤が前記被処理物とは異なる塩基度を有する焼却灰であることを特徴とする。このように、異なる塩基度を有する焼却灰を混合して上記塩基度の範囲に調整することにより、灰の処理量を増加させることができるとともに、外部から塩基度調整剤を添加する必要がなくなりコスト低減が図れる。
【0011】
また、前記塩基度調整剤の少なくとも一部が、硬質の塩基度調整剤であることを特徴とする。このように、被処理物に対して硬質の塩基度調整剤を添加することにより、焙焼炉内で焙焼灰が硬質の塩基度調整剤と接触して粉砕し、微細化するため、重金属類が飛灰側に移行して排ガスとともに排出されるため、重金属類の除去性能が向上する。微細化には硬質の塩基度調整剤を用いているため、外部から新たに微細化材を添加する必要がない。
また、前記塩基度調整剤とともに硬質の微細化材を前記被処理物に添加することを特徴とする。これにより、上記と同様に焙焼灰が粉砕して微細化し、重金属類の除去性能が向上する。
【0012】
さらに、前記塩基度調整剤が、前記被処理物の平均粒径以下の粒径範囲を有することを特徴とする。このように、塩基度調整剤として被処理物の平均粒径以下の粒径範囲を有する塩基度調整剤を用いることにより、被処理物に対して塩基度調整剤が均一に混ざり合い、被処理物の融点を確実に高温側へ移行させることが可能となる。
さらにまた、前記硬質の塩基度調整剤若しくは前記硬質の微細化材が、前記被処理物と略同等の粒径範囲及び粒度分布を有することを特徴とする。これにより、被処理物の粉砕性能を向上させることが可能である。
【0013】
また、還元性雰囲気に保持され、重金属類を含有した被処理物を塩素含有物質の存在下にて融点以下の温度で加熱することにより該重金属類を揮散分離する焙焼炉を備えた焙焼設備において、
前記焙焼炉より前段若しくは該焙焼炉の上流側で、前記被処理物に塩基度調整剤を添加する塩基度調整剤添加手段を備え、該塩基度調整剤添加手段が、塩基度調整剤添加後の被処理物の塩基度が0.4以下若しくは1.1以上となる量の塩基度調整剤を添加する手段であることを特徴とする。
さらに、前記焙焼炉が、ロータリーキルンであることが好適である。
【発明の効果】
【0014】
以上記載のごとく本発明によれば、被処理物の塩基度を0.4以下若しくは1.1以上とすることにより被処理物の融点を高くすることができ、被処理物を溶融することなく重金属類を揮散分離する焙焼処理を行うことが可能となる。即ち、融点の低い被処理物に対しても溶融することなく、例えば950℃以上に加熱することができ、Pb等の重金属類を低減することが可能となる。また、それ以外の被処理物に対しては、例えば1200℃以上の高い温度域での焙焼処理が可能となり、焙焼灰の重金属類除去性能を向上させることが可能となる。
また、本発明によれば、被処理物の融点を高温側に移行させることができるため、焙焼温度範囲が広がるため、温度管理が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
図1は本発明の実施形態に係る焙焼設備の概略構成図、図2〜図4は灰の塩基度と溶融性に関する実測データを示す図、図5は焙焼キルン内の温度分布を示すグラフ、図6〜図8は灰の粒径に関する実測データを示す図である。
本実施形態はPb、Zn、As、Cd、Cr、Se、Hg、Sb、Cuなどの重金属類を分離除去する技術であり、特にPbの除去に好適に用いられる。また、被処理物としては、例えば汚染土壌、焼却灰、飛灰等の重金属類を含有する物質が挙げられる。
(実施形態)
【0016】
図1を参照して、本実施形態に係る装置構成につき説明する。
本実施形態に係る焙焼設備は、重金属類を含有する被処理物を受け入れ、焙焼キルン(焙焼炉)2に供給するホッパ1と、該ホッパ1に接続されて被処理物を還元性雰囲気下にて融点以下の温度で加熱し、該被処理物中に含まれる重金属類を揮散分離する焙焼炉2と、該焙焼炉2のホッパ1とは他端側に設けられた灰排出シュート3と、前記焙焼炉2の排ガス出口23に接続された排ガス処理設備5と、を備えている。
【0017】
前記焙焼キルン2は、回転式のロータリーキルンが好適に用いられ、円筒横置型の炉本体21と、該炉本体21の一端側に設けられ、ホッパ1から被処理物を炉本体内に投入する被処理物投入口22と、ホッパ1に対して炉本体21の他端側に設けられた灰排出シュート3と、炉本体21の灰排出シュート3側に設けられたバーナ24と、被処理物投入口22側に設けられ、炉本体21内で発生した排ガスを排出する排ガス出口23とを備えた構成を有する。前記炉本体21は、被処理物投入口22から灰排出シュート3に向けて軸方向に被処理物を移送する移送手段(図示略)を備えており、焙焼キルン2内に導入された被処理物は、灰排出シュート3に向けて移送されながら、バーナ24の火炎によって焙焼される。このとき、焙焼キルン2内は、酸素不足状態若しくは無酸素状態の還元性雰囲気とし、被処理物が酸化燃焼されないようになっている。また、焙焼キルン2内は、温度が500〜1200℃程度、好適には950〜1050℃程度であるとともに、負圧に維持される。また、
【0018】
一方、バーナ24からの熱により被処理物が熱反応して発生した排ガスは、被処理物の移送方向とは逆に、灰排出シュート3から被処理物投入口22側に向けて搬送され、被処理物の移送方向と対向する向流流れを形成し、排ガス出口23より排出される。焙焼キルン2より排出される排ガス中には、高濃度の重金属類を含有する飛灰が存在するため、該排ガスは後段側の排ガス処理設備5にて処理される。該排ガス処理設備5は、排ガスの性状、成分に基づき、適宜処理装置を選択して排ガスを無害化するために最適な構成に設定される。一例として排ガス処理設備は、排ガス中に含まれるダイオキシン類等の分解を行う再燃焼室と、該再燃焼室から排出される高温排ガスを熱交換により冷却する熱交換器(又は減温塔)と、該冷却された排ガス中の飛灰を捕集するバグフィルタと、を備えた構成が挙げられる。
【0019】
また、前記焙焼設備は、塩素含有物質(塩素源)を炉本体21内に供給する塩素源供給手段を備えている。図1にはホッパ1から被処理物とともに供給する構成につき示しているが、これに限定されるものではない。塩素源供給手段は、予め被処理物に供給して混合した後ホッパ1から被処理物とともに炉本体21内に供給する手段、ホッパ1に塩素含有物質を直接投入して炉本体21内に供給する手段、又は炉本体21の何れかの部位から塩素含有物質を直接炉本体21内に供給する手段等が挙げられる。塩素含有物質は固体でも気体でもよく、例えば塩素ガス、塩化水素ガス等の塩素系ガス又は該塩素系ガスを含有した排ガスが好適に用いられるが、該塩素系ガスの他に、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の塩素系溶剤、若しくは固体の塩素ガス発生物質等のように、高温下で塩素系ガスを発生する液体、固体も好適に用いることができる。
【0020】
さらに本実施形態では、上記構成に加えて、被処理物の塩基度を調整する塩基度調整剤を供給する塩基度調整剤添加手段を備えている。
塩基度調整剤添加手段は、少なくとも炉本体21の被処理物投入口22側で被処理物と塩基度調整剤が接触する位置に該塩基度調整剤を供給する手段とする。好適には、ホッパ1の前段側で被処理物に塩基度調整剤を供給し、混合した後ホッパ1に混合物を投入する構成とする。また、ホッパ1に被処理物とともに塩基度調整剤を供給する構成としてもよい。
塩基度調整剤としては、SiOを含む砂や砂利等のSiを多く含む物質、消石灰(Ca(OH))等のCaを多く含む物質、重金属を多く含まないSi又はCaを主とする灰、土壌などが用いられる。
【0021】
このような焙焼設備において、重金属類を含有する被処理物は、ホッパ1前段又は該ホッパ1内にて塩基度調整剤が添加され、被処理物投入口22を介して焙焼キルン2の炉本体21内に投入される。該塩基度調整剤は、直接焙焼キルン2の上流側に供給してもよい。
また、被処理物と同時に、塩素源供給手段により塩素含有物質が炉本体21内に供給される。焙焼キルン2の炉本体21内は、還元性雰囲気に保持されるとともに、塩基度調整剤により塩基度調整された被処理物の融点以下の温度となるように加熱される。
被処理物は、被処理物投入口22から灰排出シュート3に向けて混合されながら移送され、還元性雰囲気下にて前記温度で加熱されることにより、被処理物中に含まれる重金属類と塩素含有物質とが反応して塩化物を生成し、該塩化物化した重金属類は揮散して排ガスに伴送されて排ガス出口23より排出され、排ガス処理設備5にて処理される。揮散した重金属類のうち飛灰に濃縮された重金属類は、排ガスに伴送されて排ガス処理設備5に送られる。また発生した焙焼灰は、灰排出シュート3より排出されて灰冷却装置(図示略)に送られる。
【0022】
本実施形態において、前記塩基度調整剤添加手段は、被処理物の塩基度が0.4以下若しくは1.1以上となるように塩基度調整剤を供給する手段とする。
これは、被処理物のSi、Ca濃度をX線(蛍光X線分析装置)やレーザ(LIBS:レーザー誘導分光分析装置)等の成分分析装置にて検出し、該検出された数値に応じて、被処理物の塩基度が上記範囲内となるように塩基度調整剤の添加量を調整する。
【0023】
ここで、一例として灰を用いて、塩基度と溶融性の関係を測定した実験結果を図2〜図4に示す。図2は主灰に塩基度調整剤を供給した時の溶融性試験の結果を示す表で、図3は塩基度に対する各温度を示すグラフである。これらの図において、主灰はごみ焼却炉から回収された主灰を用い、融点調整剤にはSiOを主成分とする珪砂を用いている。CaO、SiO、塩基度(CaO/SiO)は夫々蛍光X線検量線法により測定した半定量分析値データである。塩基度0.94の主灰に対して珪砂を添加して塩基度調整し、異なる塩基度33%、50%における溶融性について試験を行った。溶融性を表す測定項目として、軟化点、融点、溶流点を測定した。
図2及び図3に示されるように、珪砂を添加しない主灰の融点が1190℃であるのに対して、塩基度0.31(珪砂33%添加)の灰は融点が1210℃となり、塩基度0.19(珪砂50%添加)の灰は融点が1295℃となった。また、軟化点及び溶流点の何れにおいても、珪砂を添加することにより温度が上昇することがわかる。
【0024】
図4に、灰の塩基度と融点の関係を示す。同図は実測データである。
同図から、灰の塩基度と融点の間には、下に凸の二次曲線的な関係があることがわかる。即ち、ある塩基度以上の灰は融点が高くなっていき、一方ある塩基度以下の灰も同様に融点が高くなっていく。重金属類が好適に揮散する温度として1200℃以上となるとき、同図から灰の塩基度は0.4以下、又は1.1以上となる。
従って、被処理物の塩基度を0.4以下若しくは1.1以上とすることにより融点を高くすることができ、被処理物を溶融することなく重金属類を揮散分離する加熱処理を行うことが可能となる。即ち、融点の低い被処理物に対しても溶融することなく、例えば950℃以上に加熱することができ、Pb等の重金属類を低減することが可能となる。また、それ以外の被処理物に対しては、例えば1200℃以上の高い温度域での焙焼処理が可能となり、焙焼灰の重金属類除去性能を向上させることが可能となる。
また、本実施形態によれば、被処理物の融点を高温側に移行させることができるため、焙焼温度範囲が広がるため、温度管理が容易となる。
【0025】
図5に、焙焼キルン2内の温度分布を示す。これは、焼却灰の焙焼処理において、灰層各部位における温度を熱電対により計測した結果である。同図に示されるように、キルン内気相部と焙焼灰内部の間には約150℃の温度差が生じている。従って、十分な重金属類の揮散効果を得るためには、灰の融点付近への温度確保が必要となる。
本実施形態では、上記した構成により被処理物の融点を高温側に移行させることができるため、被処理物を焙焼処理するときに、被処理物表面温度が、塩基度調整により高温側に移行した融点の近傍となるように加熱することが好ましい。これにより、被処理物内部においても重金属類を揮散させる温度域まで加熱することができ、重金属類の除去性能を向上させることが可能となる。
【0026】
また本実施形態において、塩基度調整剤の最適粒度は、被処理物の平均粒径以下の粒径域とすることが好ましい。
一例として、焼却灰の粒径分布を図6に示す。この焼却灰は粒径0.2mm〜5mmの粒径範囲を有するが、その平均粒径を求め、該平均粒径以下の粒径域の塩基度調整剤を用いる。
被処理物に添加する塩基度調整剤の粒径が大きいと、融点が上がらない場合が想定されるが、上記したように、塩基度調整剤として被処理物の平均粒径以下の粒径域を有する塩基度調整剤を用いることにより、被処理物に対して塩基度調整剤が均一に混ざり合い、被処理物の融点を確実に高くすることが可能となる。
【0027】
さらに、本実施形態において塩基度調整剤のうち少なくとも一部を、硬質の塩基度調整剤とすることが好ましい。飛灰の粒径は約0.6〜30μmの範囲で分布しており、この粒径分布の中で特に細かい粒径を有する飛灰にPb等の重金属類が濃縮されやすい傾向にあるため、硬質の塩基度調整剤を添加することにより被処理物を粉砕して微細化し、重金属類を飛灰側に移行させ易くする。
【0028】
図7に、灰粒径とPb濃度の関係を示す。同グラフは実測データである。これによれば、灰粒径が2μmを超えると灰中のPb濃度が極めて低くなる。従って、灰中にPbが高濃度で含有される場合は、10μm以下の細かい粒径の飛灰であり、10μmより粒径が大きい灰には殆どPbが含まれていないことがわかる。
本実施形態ではこの結果に基づき、焙焼キルン2内にて焙焼灰の微細化を図り、重金属類をより飛灰側へ移行させやすくする。
そこで、被処理物に対して硬質の塩基度調整剤を添加することにより、焙焼キルン内で焙焼灰は硬質の塩基度調整剤と接触して粉砕し、微細化するため、重金属類が飛灰側に移行して排ガスとともに排出されるため、重金属類の除去性能が向上する。
また別の方法として、塩基度調整剤とは別に、被処理物を微細化するための硬質の微細化材を添加してもよい。該微細化材としては砂利、砂等が好適に用いられる。
【0029】
さらに、前記硬質の塩基度調整剤又は前記硬質の微細化材の最適粒度は、被処理物と同等レベルの粒径範囲、分布であることが好ましい。
図8に、焼却灰の粒径分布に対する硬質の塩基度調整剤又は前硬質の微細化材の最適粒度範囲を示す。
このように、硬質の塩基度調整剤又は前硬質の微細化材を、被処理物と同等レベルの粒径範囲且つ粒径分布とすることにより、被処理物の粉砕性が向上し、重金属類の除去性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る焙焼設備の概略構成図である。
【図2】主灰に塩基度調整剤を供給したときの溶融性試験の結果を示す表である。
【図3】図2の溶融性試験の結果をグラフ化した図で、塩基度に対応した溶融性を示すグラフである。
【図4】灰の塩基度と融点の関係を示すグラフである。
【図5】焙焼キルン内の温度分布を示すグラフである。
【図6】灰の粒径分布に対する塩基度調整剤の最適粒度を示す図である。
【図7】灰の粒径とPb濃度の関係を示すグラフである。
【図8】灰の粒径分布に対する硬質材の最適粒度を示す図である。
【図9】従来の焙焼炉を備えた処理装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ホッパ
2 焙焼炉(焙焼キルン)
3 灰排出シュート
4 排ガス処理設備
21 炉本体
22 被処理物投入口
23 排ガス出口
24 バーナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属類を含有する被処理物を、塩素含有物質とともに還元性雰囲気に保持された焙焼炉にて融点以下の温度で加熱し、前記重金属類を塩化物化した後に揮散させて分離除去する重金属類の焙焼処理方法において、
前記焙焼炉より前段若しくは該焙焼炉の上流側で、前記被処理物に塩基度調整剤を添加するようにし、前記塩基度調整剤の添加量を、塩基度調整剤添加後の被処理物の塩基度が0.4以下若しくは1.1以上となる添加量としたことを特徴とする重金属類含有物質の焙焼処理方法。
【請求項2】
前記塩基度調整剤が、SiOを含有する砂若しくは砂利であることを特徴とする請求項1記載の重金属類含有物質の焙焼処理方法。
【請求項3】
前記被処理物が焼却灰であり、前記塩基度調整剤が前記被処理物とは異なる塩基度を有する焼却灰であることを特徴とする請求項1記載の重金属類含有物質の焙焼処理方法。
【請求項4】
前記塩基度調整剤の少なくとも一部が、硬質の塩基度調整剤であることを特徴とする請求項1記載の重金属類含有物質の焙焼処理方法。
【請求項5】
前記塩基度調整剤とともに硬質の微細化材を前記被処理物に添加することを特徴とする請求項1記載の重金属類含有物質の焙焼処理方法。
【請求項6】
前記塩基度調整剤が、前記被処理物の平均粒径以下の粒径範囲を有することを特徴とする請求項1記載の重金属類含有物質の焙焼処理方法。
【請求項7】
前記硬質の塩基度調整剤若しくは前記硬質の微細化材が、前記被処理物と略同等の粒径範囲及び粒度分布を有することを特徴とする請求項1記載の重金属類含有物質の焙焼処理方法。
【請求項8】
還元性雰囲気に保持され、重金属類を含有した被処理物を塩素含有物質の存在下にて融点以下の温度で加熱することにより該重金属類を揮散分離する焙焼炉を備えた焙焼設備において、
前記焙焼炉より前段若しくは該焙焼炉の上流側で、前記被処理物に塩基度調整剤を添加する塩基度調整剤添加手段を備え、該塩基度調整剤添加手段が、塩基度調整剤添加後の被処理物の塩基度が0.4以下若しくは1.1以上となる量の塩基度調整剤を添加する手段であることを特徴とする焙焼設備。
【請求項9】
前記焙焼炉が、ロータリーキルンであることを特徴とする請求項7記載の焙焼設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−172495(P2009−172495A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12274(P2008−12274)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(501370370)三菱重工環境エンジニアリング株式会社 (175)
【Fターム(参考)】