説明

量子暗号通信装置と量子暗号通信方法および量子暗号通信システム

【課題】携帯用の電子機器等に搭載可能で量子暗号通信を行うことができるようにする。
【解決手段】光源部21で発生された光パルスの偏光状態が可変波長板、例えば液晶リターダを用いた偏光変調部22によって、制御部26の制御のもと予め設定した複数の偏光基底のいずれかにランダムに切り替えられる。光学部31は、偏光変調後の光パルスを偏光基底毎に振り分ける。受光部32は、偏光基底毎に振り分けられた光パルスを偏光基底毎に検出する。制御部36は、受光部32の検出結果から共通鍵を生成する。液晶リターダを用いることにより、簡単な構成で偏光変調が行われた光パルスを送信側から受信側に出射できるので暗号化通信装置を小型化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、量子暗号通信装置と量子暗号通信方法および量子暗号通信システムに関する。詳しくは、量子暗号通信を行う量子暗号通信装置の小型化を図り、携帯型の電子機器等に搭載可能とする。
【背景技術】
【0002】
従来、インターネットなどを通じて行う通信におけるセキュリティは、暗号技術によって守られている。暗号方式は、大別して共通鍵暗号と公開鍵暗号の二つの方式がある。例えば共通鍵暗号方式ではAES(Advanced Encryption Standard)など、公開鍵暗号方式ではRSAなどが現在よく使われている。
【0003】
共通鍵暗号方式は、通信を行う二者が共通の秘密鍵を保持する。送信者は、秘密鍵を用いて平文を暗号化して暗号文を作成し、受信者は暗号文を同じ秘密鍵を用いて復号化して元の平文を得る。
【0004】
共通鍵暗号方式において、セキュリティ保持の要は、鍵の秘密を保つことにある。共通鍵暗号方式は、鍵を総当たりで調べる所謂「総当たり攻撃」が行われると、高い確率で鍵が明らかになる。もちろん、現時点で用いられている共通鍵暗号方式においては、この総当たり攻撃を行うためのリソース(計算機の性能や数)が現実的ではないほど多く必要であると見積もられている。したがって、現時点においては安全であると言える。しかし、将来、計算機の性能の向上等によって総当たり攻撃が現実的になることが予想され、実際、従来から用いられている2−key TDES(Triple DES)と呼ばれる方式は、AESへの移行が推奨されている。
【0005】
総当たり攻撃を含む攻撃に対しては、共通鍵を頻繁に更新する方法を用いることで、セキュリティを強化することができる。つまり、仮に攻撃者は通信を盗聴して鍵を得たとしても、鍵が頻繁に更新されているならば、その鍵で解読できる暗号文の量は少なくなり、全体として攻撃者が得る情報は相対的に少なくなる。
【0006】
共通鍵を頻繁に更新する一つの方法として、特許文献1に示すように、量子暗号通信を用いて量子鍵配布(QKD:Quantum Key Distribution)を行う方法が提案されている。量子鍵配布は、量子状態を送ることができる通信路と通常の通信路とにより結ばれた二者間で、共通の秘密鍵を生成するプロトコルである。このプロトコルは量子力学の原理に基づいており、たとえ通信路が攻撃者により盗聴されたとしても、生成された秘密鍵の情報が、攻撃者には漏れないとされている。この量子鍵配布プロトコルを用いれば、離れた二者間においても、秘密鍵を安全に共有できるので、量子鍵配布プロトコルを用いて随時鍵を生成することにより、先に述べた共通鍵の更新を頻繁に行うことができる。このように、量子鍵配布と共通鍵暗号を組み合わせることにより、共通鍵暗号方式のセキュリティを強化することができる。
【0007】
量子鍵配布では、例えばBB84プロトコルや非特許文献2に示されているようにB84プロトコルを拡張した6状態方式のプロトコルが用いられている。また、特許文献2に示されているように、光パルスの強度変調を行うことにより量子鍵配布の暗号的な強度をより強めることができるデコイ法を用いることも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4015385号
【特許文献2】特開2007−286551号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】松本隆太郎, IEICE Technical Report IT2007-43, ISEC20070140, WBS2007-74 (2008-02)「Secret key can be obtained from both compatible and incompatible measurements in the six-state QKD protocol」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、従来の量子暗号通信では、光ケーブルを用いた長距離通信を想定して位相変調器等が用いられることから通信装置が大がかりとなっている。例えば、通信装置はラックに収納されるような大きさであるため、携帯用電子機器、例えば携帯電話、PDA、タブレット型PC、電子書籍リーダー、ノートパソコンなどに導入することが困難である。
【0011】
そこで、本発明は、携帯用の電子機器等に搭載可能で量子暗号通信を行うことができる量子暗号通信装置と量子暗号通信方法および量子暗号通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の第1の側面は、量子暗号に基づく通信処理を実行する送信側の量子暗号通信装置であって、光パルスを発生する光源部と、可変波長板を用いて前記光パルスの偏光変調を行う偏光変調部と、前記可変波長板を駆動して、前記光パルスの偏光状態を予め設定した複数の偏光基底のいずれかにランダムに切り替える制御部とを有する量子暗号通信装置にある。
【0013】
この発明においては、例えば半導体発光素子を用いて構成された光源部で光パルスを発生させる。偏光変調部では可変波長板として液晶リターダを用いて、光パルスの偏光変調が行われる。制御部は、液晶リターダを駆動して、光パルスの偏光状態を予め設定した複数の偏光基底のいずれかに切り替える。このようにして、送信側の量子暗号通信装置は、偏光変調された光パルスを出力する。また、液晶リターダにおける光パルスの入射面側には偏光子が一体に設けられる。また、液晶リターダの出射面側に、該液晶リターダの光学軸に対して光学軸を45度傾けた第2の液晶リターダが設けられて、この2つの液晶リターダが制御部によって駆動されて6状態方式のプロトコルを用いた量子暗号通信が行われる。また、偏光子と液晶リターダとの間に強度変調部、例えば液晶リターダと偏光子で構成した強度変調部が設けられて、光パルスの強度の切り替えが行われて量子暗号通信が行われる。
【0014】
この発明の第2の側面は、量子暗号に基づく通信処理を実行する送信側の量子暗号通信装置における量子暗号通信方法であり、光源部で光パルスを発生させる工程と、可変波長板を用いて前記光パルスの偏光変調を行う工程と、制御部で前記可変波長板を駆動して、前記光パルスの偏光状態を予め設定した複数の偏光基底のいずれかにランダムに切り替える工程とを設けた量子暗号通信方法にある。
【0015】
この発明の第3の側面は、量子暗号に基づく通信処理を行う量子暗号通信システムであって、送信側の量子暗号通信装置は、光パルスを発生する光源部と、可変波長板を用いて前記光パルスの偏光変調を行い、偏光変調後の光パルスを前記通信路に出射する偏光変調部と、前記可変波長板を駆動して前記光パルスの偏光状態を予め設定した複数の偏光基底のいずれかにランダムに切り替える制御部とを備え、受信側の量子暗号通信装置は、前記送信側の量子暗号通信端末から出射された光パルスを、偏光基底毎に振り分ける光学部と、前記偏光基底毎に振り分けられた光パルスを偏光基底毎に検出する受光部とを有する量子暗号通信システムにある。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、光源部で発生された光パルスの偏光状態を可変波長板、例えば液晶リターダによって、予め設定した複数の偏光基底のいずれかにランダムに切り替えることができる。したがって、簡単な構成で偏光変調が行われた光パルスを送信側から受信側に出射できるので量子暗号通信装置やシステムを小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】量子暗号通信システムの全体構成を示す図である。
【図2】第1の実施の形態の構成を示す図である。
【図3】液晶リターダ221による偏光の変調を説明するための図である。
【図4】第2の実施の形態の構成を示す図である。
【図5】第2の実施の形態の他の構成を示す図である。
【図6】液晶リターダ221と1/4波長板222による偏光の変調を説明するための図である。
【図7】第3の実施の形態の構成を示す図である。
【図8】液晶リターダ221,223による偏光の変調を説明するための図である。
【図9】第4の実施の形態の構成を示す図である。
【図10】第5の実施の形態の構成を示す図である。
【図11】量子暗号通信装置を携帯電話に組み込んだ状態を示す図である。
【図12】量子暗号通信装置をノートパソコンに組み込んだ状態を示す図である。
【図13】ノートパソコンに組み込んだ状態の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明を実施するための形態について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.量子暗号通信システムの全体構成
1.第1の実施の形態
2.第2の実施の形態
3.第3の実施の形態
4.第4の実施の形態
5.第5の実施の形態
【0019】
<1.量子暗号通信システムの全体構成と動作>
図1は、量子暗号通信システムの全体構成を示す図である。量子暗号通信システム10は、送信側の量子暗号通信装置(以下「送信側通信装置」という)20と受信側の量子暗号通信装置(以下「受信側通信装置」という)30を有している。送信側通信装置20と受信側通信装置30は、量子通信路51と古典通信路55を介して接続されている。
【0020】
送信側通信装置20は、光源部21、偏光変調部22、鍵メモリ23、暗号化/復号化部24、通信部25、制御部26を有している。
【0021】
光源部21は、レーザダイオードやLEDなどの半導体発光素子と、その半導体発光素子から出射された光パルスをコリメートするレンズ等で構成されている。光源部21は、制御部26によって発光の制御が行われる。
【0022】
偏光変調部22は、光源部21から出射された光パルスの偏光状態を、予め設定した複数の偏光基底のいずれかに切り替える。偏光変調部22は、可変波長板例えば液晶リターダを用いて構成されている。偏光変調部22は、制御部26からの制御信号に基づいて偏光変調を行い、光源部21から出射された光パルスの偏光状態を、制御信号に基づき予め設定した複数の偏光基底のいずれかに高速に切り替えて、量子通信路51を介して受信側通信装置30に出射する。
【0023】
鍵メモリ23は、制御部26で生成された共通鍵KYcを記憶する。また、暗号化/復号化部24は、鍵メモリ23に記憶されている共通鍵KYcを用いて、暗号を用いる通信文DVaの暗号化や、暗号化されている通信文DVaeの復号化を行う。
【0024】
通信部25は、暗号を用いない通信文DVbや暗号化/復号化部24で暗号化された通信文DVaeを、古典通信路55を介して受信側通信装置30に送信する。また、通信部25は古典通信路55を介して受信側通信装置30から送信された通信文を受信する。通信部25は、受信した通信文が暗号化されていない場合、受信した通信文DVbを信号処理部(図示せず)に供給する。また、通信部25は、受信した通信文が暗号化されている場合、受信した通信文DVaeを暗号化/復号化部24に供給する。したがって、復号化がなされた通信文DVaが暗号化/復号化部24から信号処理部に供給される。
【0025】
制御部26は、量子暗号通信を行うために、光源部21からの光パルスの出射制御や、出射された光パルスに対して偏光変調部22で行う偏光変調の制御を行う。また、制御部26は、通信部25や古典通信路55を介して受信側通信装置30と通信を行い、量子暗号通信の通信結果から共通鍵を生成する処理、通信文の通信制御や共通鍵を用いた暗号化や復号化の制御等を行う。
【0026】
受信側通信装置30は、光学部31、受光部32、鍵メモリ33、暗号化/復号化部34、通信部35、制御部36を有している。
【0027】
光学部31は、送信側通信装置20から量子通信路51を介して供給された偏光変調後の光パルスを、偏光基底毎に振り分ける。受光部32は、偏光基底毎に振り分けられた光パルスを偏光基底毎に検出して、検出結果を制御部36に出力する。
【0028】
鍵メモリ33は、制御部36で受光部32からの検出結果に基づいて生成された共通鍵KYcを記憶する。また、暗号化/復号化部34は、鍵メモリ33に記憶されている共通鍵KYcを用いて、暗号を用いる通信文DVaの暗号化や、暗号化されている通信文DVaeの復号化を行う。
【0029】
通信部35は、暗号を用いない通信文DVbや暗号化/復号化部34で暗号化された通信文DVaeを、古典通信路55を介して送信側通信装置20に送信する。また、通信部35は古典通信路55を介して送信側通信装置20から送信された通信文を受信する。通信部35は、受信した通信文が暗号化されていない場合、受信した通信文DVbを信号処理部(図示せず)に供給する。また、通信部35は、受信した通信文が暗号化されている場合、受信した通信文DVaeを暗号化/復号化部34に供給する。したがって、復号化がなされた通信文DVaが暗号化/復号化部34から信号処理部に供給される。
【0030】
制御部36は、受光部32の検出結果を用いて、通信部35や古典通信路55を介して送信側通信装置20と通信を行い、量子暗号通信の通信結果から共通鍵を生成する処理、通信文の通信制御や共通鍵を用いた暗号化や復号化の制御等を行う。
【0031】
このように構成された量子暗号通信システムでは、送信側通信装置20の制御部26で独立に乱数を生成して、生成した乱数を偏光変調部22に供給して、量子通信路51を通過する光信号の偏光変調を行う。また、受信側通信装置30の制御部36は、受光部32の受光結果に基づき受信信号を生成して、受信信号に対するエラー訂正やプライバシー増幅等を行い、送信側通信装置20と受信側通信装置30で共通の共通鍵の生成や更新を行う。さらに、制御部36は、鍵メモリ23,33に共通の共通鍵を記憶させる。
【0032】
<2.第1の実施の形態>
第1の実施の形態では、2種類の直線偏光と2種類の円偏光の合わせて4種類の偏光状態を用い、BB84プロトコルにしたがって、自由空間を伝播する光パルスを利用して量子鍵配布を実行する。
【0033】
<2−1.第1の実施の形態の構成>
図2は、第1の実施の形態の構成を示している。なお、図2では、図1に示す光源部21と偏光変調部22および光学部31と受光部32の構成を示している。
【0034】
送信側通信装置20の光源部21は、レーザダイオードやLEDなどの半導体発光素子211と、その半導体発光素子211から出射された光パルスをコリメートするレンズ212を用いて構成されている。
【0035】
偏光変調部22は、コリメートされた光パルスの偏光状態を、4種類の偏光状態のいずれかに変換する液晶リターダ221が用いられている。液晶リターダ221は、光源部21から出射された光パルスの直線偏光の向きに対して、光学軸を45度傾けて設けられる。液晶リターダ221は、制御部26からの制御信号に応じて、そのFAST軸とSLOW軸に沿う偏光成分に生じる位相差を変化させる。
【0036】
また、偏光変調部22は、光源部21から出射された光が直線偏光でない場合、または、直線偏光でも偏光方向を液晶リターダ221の光学軸に対して精密に制御することが難しい場合、液晶リターダ221における光パルスの入射面側に偏光子225を設ける。例えば、偏光子225は、液晶リターダ221における光パルスの入射面側であって、偏光子225から出射される直線偏光に対して液晶リターダ221の光学軸が45度傾くように設定して液晶リターダ221と一体化する。このように偏光変調部22を構成すれば、光源部21に対して偏光変調部22の位置を精密に制御しなくとも、偏光方向と液晶リターダ221の光学軸を所望の角度とすることができる。
【0037】
受信側通信装置30の光学部31は、無偏光ビームスプリッタ311、偏光ビームスプリッタ312,315、1/4波長板313を有している。無偏光ビームスプリッタ311は、送信側通信装置20から出射された光パルスの偏光状態を変化させることなく分割する。偏光ビームスプリッタ312は、無偏光ビームスプリッタ311で分割された光パルスの一方を偏光分離する。1/4波長板313は、無偏光ビームスプリッタ311で分割された他方の光パルスの偏光状態を、直線偏光の場合は円偏光に、円偏光の場合は直線偏光に変換する。偏光ビームスプリッタ315は、1/4波長板313により偏光状態が変更された光パルスを偏光分離する。
【0038】
受光部32は、受光素子321H,321V,321R,321Lを有している。受光素子321Hは、偏光ビームスプリッタ312で偏光分離された一方の光パルスの検出を行い、受光素子321Vは、偏光ビームスプリッタ312で偏光分離された他方の光パルスの検出を行う。同様に、受光素子321Rは、偏光ビームスプリッタ315で偏光分離された一方の光パルスの検出を行い、受光素子321Lは、偏光ビームスプリッタ315で偏光分離された他方の光パルスの検出を行う。
【0039】
<2−2.第1の実施の形態の動作>
[量子通信動作]
BB84プロトコルの量子通信において、送信側通信装置20は次の動作を行う。
【0040】
制御部26は、光源部21の半導体発光素子211をパルス電流により駆動し、光パルスを発生させる。その際、1パルス当たりの光子数は1以下にすることが望ましい(半導体発光素子211からの光パルスの強度が強い場合、図には示していないが、NDフィルタなどの減光手段を用いることにより、1パルス当たりの光子数を1以下にすることができる)。
【0041】
光源部21で発生された光パルスは、偏光変調部22の液晶リターダ221に入射する。なお、偏光子225が設けられている場合は、偏光子225を介して液晶リターダ221に入射する。
【0042】
液晶リターダ221は、光パルスの到来するタイミングに合わせて、FAST軸とSLOW軸に沿う偏光成分に生じる位相差φが、0度、90度、180度、270度のいずれかになるように、制御部26によってランダムに制御される。
【0043】
液晶リターダ221を通過した光パルスの偏光状態は、位相差φが0度の場合は入射した際の直線偏光のままであり、180度の場合は入射した直線偏光に直交する直線偏光に変化し、90度,270度の場合は互いに向きが異なる円偏光に変化する。なお、90度,270度の場合が、左円偏光と右円偏光となるか、右円偏光と左円偏光となるかは、配置する液晶リターダの光学軸(SLOW軸、FAST軸)の向きによって決まる。
【0044】
図3は、液晶リターダ221による偏光の変調を示している。図3に示すx方向の直線偏光を垂直偏光する。また、液晶リターダ221のFAST軸を、x方向の軸に対して45度傾いた位置とする。なお、液晶リターダ221のFAST軸を「F」、SLOW軸を「S」として示している。
【0045】
この場合、液晶リターダ221のFAST軸とSLOW軸に沿う偏光成分に生じる位相差φを0度とすると、液晶リターダ221を通過した光パルスは垂直偏光となる。また、位相差φを90度とした場合は左円偏光、位相差φを180度とした場合は水平偏光、位相差φを270度とした場合は右円偏光となる。
【0046】
このように、制御部26によって偏光状態が4つの偏光状態のいずれかにランダムに制御された光パルスが送信側通信装置20から出力される。
【0047】
受信側通信装置30は、送信側通信装置20から出射された光パルスを、光学部31の無偏光ビームスプリッタ311で分割する。無偏光ビームスプリッタ311で分割された光パルスの一方は、偏光ビームスプリッタ312に入射されて、その偏光成分によって分割され、受光素子321Hまたは受光素子321Vに入射される。
【0048】
無偏光ビームスプリッタ311で分割された光パルスの他方は、1/4波長板313を通過して、偏光状態が変化させられた後、偏光ビームスプリッタ315に入射されて、その偏光成分によって分割され、受光素子321Rまたは受光素子321Lに入射される。なお、上述の説明では、光パルスを分割すると記載したが、実際には(ただし、ノイズがないとすれば)、一つの光パルスをすべての受光素子が検出することはない。なぜなら、光パルスの強度は、1パルス当たりの光子数を1以下となるように設定されているので、4つの受光素子のうち、いずれか一つで光子が検出されて電気信号に変換されるからである。
【0049】
表1は、偏光状態毎の受光素子の光パルス検出確率を示している。なお、表1では1パルス当たりの光子数が「1」、無偏光ビームスプリッタ311の分割比率がp:(1−p)(ただし0<p<1)、光損失や盗聴がない理想的な場合の値を示している。
【0050】
【表1】

【0051】
垂直偏光Vまたは水平偏光Hの光パルスが、受光素子321Hまたは受光素子321Vの方に、無偏光ビームスプリッタ311で振り向けられる場合、その確率は「p」であり、これらは対応する受光素子によってそれぞれ検出される。すなわち、光パルスが垂直偏光Vである場合、受光素子321Vで検出される確率は「p」となり、受光素子321Hで検出される確率は「0」となる。また、光パルスが水平偏光Hである場合、受光素子321Vで検出される確率は「0」となり、受光素子321Hで検出される確率は「p」となる。
【0052】
また、垂直偏光Vあるいは水平偏光Hの光パルスが、受光素子321Lまたは受光素子321Rの方に、無偏光ビームスプリッタ311において、振り向けられる場合、その確率は「1−p」である。また、光パルスは、いずれも等しい確率「0.5」で受光素子によって検出されるから、受光素子321L,321Rで検出される確率は、光パルスが垂直偏光Vあるいは水平偏光Hのいずれであっても「0.5(1−p)」の確率となる。
【0053】
同様に、光パルスが左円偏光Lの場合、光パルスが受光素子321Lで検出される確率は「1−p」、受光素子321Rで検出される確率は「0」となる。また、光パルスが右円偏光Rの場合、光パルスが受光素子321Lで検出される確率は「0」、受光素子321Rで検出される確率は「1−p」となる。さらに、光パルスが受光素子321V,321Hで検出される確率は、光パルスが左円偏光Lあるいは右円偏光Rのいずれであっても「0.5p」の確率となる。BB84プロトコルにおける、量子通信を行う部分は、以上の動作を繰り返し行い、受光素子321V,321H,321L,321Rでの受光結果を制御部36に出力する。
【0054】
[古典通信動作]
次に、BB84プロトコルにおける量子通信の後に、古典通信が実行される。送信側通信装置20と受信側通信装置30は公開通信路(すなわち、通信内容は暗号化されておらず、盗聴者も通信内容をすべて知ることができる)を用いて、以下のプロトコルを実行する。
【0055】
(1)基底交換
受信側通信装置30は、公開通信路例えば古典通信路55を介して送信側通信装置20と通信を行い、量子通信の受信結果のうち、直線偏光を検出したのか、円偏光を検出したのかという情報だけを制御部36から通信部35と送信側通信装置20の通信部25を介して制御部26に送信する。例えば、垂直偏光Vを検出した場合は、「垂直偏光Vを検出した」という情報を送信するのではなく、「直線偏光を検出した」という情報だけを送信する。送信側通信装置20の制御部26は、受信結果においていずれの時刻の受信結果が正しいか検出して検出結果を受信側通信装置30の制御部36に通知する。受信側通信装置30の制御部36は、通知された検出結果に基づき正しいデータのみを選択する。すなわち、送信側通信装置20が直線偏光(垂直偏光Vまたは水平偏光H)の光パルスを送り、受信側通信装置30が円偏光(左円偏光Lまたは右円偏光R)を検出した場合は、共有秘密情報を生成することができない。また、送信側通信装置20が円偏光(LまたはR)の光パルスを送り、受信側通信装置30が直線偏光(VまたはH)を検出した場合も、共有秘密情報を生成することができない。したがって、これらのデータは捨てる。また、残ったデータから、例えば、直線偏光の場合、垂直偏光Vを「0」、水平偏光Hを「1」とし、円偏光の場合、左円偏光Lを「0」、右円偏光Rを「1」とすれば、送信装置と受信装置で相関のあるランダムなビット列を共有できる。このランダムなビット列を元にして、送信側通信装置20と受信側通信装置30で共通鍵を生成する。
【0056】
また、逆に送信側通信装置20が「直線偏光を送信したのか、円偏光を送信したのか」という情報だけを制御部26から通信部25と送信側通信装置30の通信部35を介して制御部36に送信し、受信側通信装置30の制御部36は、通知された基底に基づき正しいデータのみを選択することにしても良い。
【0057】
しかしながら、送信側通信装置と受信側通信装置で共有したビット列には量子通信路51に起因する誤りや送受信時に生じた誤りが含まれている場合がある。また、量子通信路51の途中に存在する盗聴者が光子情報を覗き見た場合にも共有ビット列に誤りが発生する。したがって、エラーレートの見積もりやエラー訂正、プライバシー増幅(Privacy Amplification)を行う。
【0058】
(2)エラーレートの見積り
エラーレートの見積りでは、基底交換で得られたビット列の中から、送信側通信装置20が直線偏光(VまたはH)の光パルスを送り、受信側通信装置30が直線偏光(VまたはH)を検出した場合と、送信側通信装置20が円偏光(LまたはR)の光パルスを送り、受信側通信装置30が円偏光(LまたはR)を検出した場合とから、それぞれ、半分程度のデータをランダムに選び出す。さらに、ランダムに選び出されたデータの値を照合し、エラーレートを見積もる。なお、エラーレートの見積りに用いたデータは、ビット列から削除する。
【0059】
(3)エラー訂正
エラー訂正では、エラーレートの見積りに用いたデータが除かれたビット列に対してエラー訂正を行う。例えば、エラー訂正では、ビット列を複数のブロックに分割して、各ブロックのパリティを照合することによって誤りを含むブロックを特定し、当該ブロックに関してハミング符号等を適用して誤り訂正を行う。
【0060】
(4)プライバシー増幅
プライバシー増幅では、エラー訂正後のビット列に対して、見積もったエラーレートに応じてプライバシー増幅を行う。このとき、エラーは、盗聴者が存在しなくても、送信側通信装置20、受信側通信装置30、あるいは量子通信路中の雑音の影響により発生する可能性があるが、安全性を高めるために、すべてのエラーの起源は盗聴に伴うものであると考える。つまり、盗聴によりエラーが生じたとみなして、盗聴者に漏れた情報量を、エラーレートから推定して、その情報量分だけビット列を短くするような変換を行って、その短くしたビット列に関しては、盗聴者の情報量が無視できるようにする。
【0061】
このような処理を行うと、例えばエラーレートが小さい(例えばBB84の場合は約11%以下なら)と1より長いビット列が得られる。得られたビット列は、共通鍵として送信側通信装置20の鍵メモリ23および受信側通信装置30の鍵メモリ33に保存する。エラーレートが大きく、ビット列の長さが0になってしまう場合は、鍵配布は失敗したことになる。
【0062】
なお、上述の説明では、理解を容易とするために、量子通信の部分と、古典通信の部分を順番に行うように説明した。しかし、実際には、量子通信の部分を継続的に実行し、ある程度のデータが蓄積されたところで、間欠的に随時、古典通信の部分を行うようにすることが望ましい。なぜなら、単位時間当たりに得られる共通鍵の量が多くなるからである。
【0063】
送信側通信装置20と受信側通信装置30に蓄えられた共通鍵は、通信の暗号化が必要な際に随時使用される。例えば、共通鍵暗号方式を用いて暗号通信を行う際に、一つの共通鍵を用いて暗号化する平文の量を予め決めておく。ここで、通信量がその設定された通信量を超えたら、送信側通信装置と受信側通信装置が同時に、それぞれの鍵メモリから共通鍵を取り出し、共通鍵暗号に用いる鍵を更新する。あるいは、通信量がほぼ一定で、大きく変動しないのであれば、予め定められた時間間隔毎に、送信側通信装置20と受信側通信装置30が同時に、それぞれの鍵メモリから共通鍵を取り出し、共通鍵暗号方式に用いる鍵を更新する。
【0064】
このように、送信側通信装置20は、可変波長板例えば液晶リターダを用いて偏光変調部を構成していることから、従来の量子暗号通信のように位相変調器等を用いた通信装置に比べて、小型化が容易であり携帯用の電子機器等に搭載することができるようになる。
【0065】
また、偏光子は、液晶リターダの入射面側であって、偏光子から出射される直線偏光に対して液晶リターダの光学軸が45度傾くように、液晶リターダと一体化して設けられる。したがって、光源部に対して偏光変調部の位置を精密に制御しなくとも、偏光方向と液晶リターダの光学軸を容易に所望の角度とすることができる。
【0066】
<3.第2の実施の形態>
第2の実施の形態では、4種類の直線偏光の偏光状態を用い、BB84プロトコルにしたがって、自由空間を伝播する光パルスを利用して量子鍵配布を実行する。
【0067】
<3−1.第2の実施の形態の構成>
図4は、第2の実施の形態の構成を示している。なお、図4では、図1に示す光源部21と偏光変調部22および光学部31と受光部32の構成を示している。
【0068】
送信側通信装置20の光源部21は、レーザダイオードやLEDなどの半導体発光素子211と、その半導体発光素子211から出射された光パルスをコリメートするレンズ212を用いて構成されている。
【0069】
偏光変調部22は、コリメートされた光パルスの偏光状態を、4種類の偏光状態のいずれかに変換する液晶リターダ221が設けられている。液晶リターダ221は、光源部21から出射された光パルスの直線偏光の向きに対して、光学軸を45度傾けて設けられる。液晶リターダ221は、制御部26からの制御信号に応じて、そのFAST軸とSLOW軸に沿う偏光成分に生じる位相差を変化させる。
【0070】
1/4波長板222は、液晶リターダ221における光パルスの出射面側に、液晶リターダ221の光学軸に対して45度傾けて設けられている。1/4波長板222は、入射された光パルスが直線偏光の場合は直線偏光のまま出射する。また、1/4波長板222は、入射された光パルスが円偏光の場合、入射された光パルスが直線偏光の場合における直線偏光とは45度傾いた直線偏光に変化させて出射する。
【0071】
また、偏光変調部22では、光源部21から出射された光が直線偏光でない場合、または、直線偏光でも偏光方向を液晶リターダ221の光学軸に対して精密に制御することが難しい場合、液晶リターダ221における光パルスの入射面側に偏光子225を設ける。例えば、偏光子225は、液晶リターダ221における光パルスの入射面側であって、偏光子225から出射される直線偏光に対して液晶リターダ221の光学軸が45度傾くように設定して液晶リターダ221と一体化する。このように偏光変調部22を構成すれば、光源部21に対して偏光変調部22の位置を精密に制御しなくとも、偏光方向と液晶リターダ221の光学軸を所望の角度とすることができる。
【0072】
受信側通信装置30の光学部31は、無偏光ビームスプリッタ311、偏光ビームスプリッタ312,315を有している。無偏光ビームスプリッタ311は、送信側通信装置20から出射された光パルスの偏光状態を変化させることなく分割する。偏光ビームスプリッタ312は、無偏光ビームスプリッタ311で分割された光パルスの一方を偏光分離する。偏光ビームスプリッタ315は、例えば偏光ビームスプリッタ312が設置されている面に対して、入射光の光軸を中心として45度回転させて設置されており、無偏光ビームスプリッタ311で分割された光パルスの他方を偏光分離する。
【0073】
また、図5に示すように、無偏光ビームスプリッタ311と偏光ビームスプリッタ315との間に1/2波長板314を設けて、直線偏光の向きを45度回転させる。このようにすれば、偏光ビームスプリッタ315を偏光ビームスプリッタ312が設置されている面に対して45度回転させる必要がない。
【0074】
受光部32は、受光素子321H,321V,321+,321-を有している。受光素子321Hは、偏光ビームスプリッタ312で偏光分離された一方の光パルスの検出を行い、受光素子321Vは、偏光ビームスプリッタ312で偏光分離された他方の光パルスの検出を行う。同様に、受光素子321+は、偏光ビームスプリッタ315で偏光分離された一方の光パルスの検出を行い、受光素子321-は、偏光ビームスプリッタ315で偏光分離された他方の光パルスの検出を行う。
【0075】
<3−2.第2の実施の形態の動作>
[量子通信動作]
BB84プロトコルの量子通信においては、送信側通信装置20は次の動作を行う。
【0076】
制御部26は、光源部21の半導体発光素子211をパルス電流により駆動し、光パルスを発生させる。その際、1パルス当たりの光子数は1以下にすることが望ましい(半導体発光素子211からの光パルスの強度が強い場合、図には示していないが、NDフィルタなどの減光手段を用いることにより、1パルス当たりの光子数を1以下にすることができる)。
【0077】
光源部21で発生された光パルスは、偏光変調部22の液晶リターダ221に入射する。なお、偏光子225が設けられている場合は、偏光子225を介して液晶リターダ221に入射する。
【0078】
液晶リターダ221は、光パルスの到来するタイミングに合わせて、FAST軸とSLOW軸に沿う偏光成分に生じる位相差φが、0度、90度、180度、270度のいずれかになるように、制御部26によってランダムに制御される。
【0079】
液晶リターダ221を通過した光パルスの偏光状態は、位相差φが0度の場合は入射した際の直線偏光のままであり、180度の場合は入射した直線偏光に直交する直線偏光に変化し、90度,270度の場合は互いに向きが異なる円偏光に変化する。なお、90度,270度の場合が、左円偏光と右円偏光となるか、右円偏光と左円偏光となるかは、配置する液晶リターダの光学軸(SLOW軸、FAST軸)の向きによって決まる。液晶リターダ221を通過した光パルスは、1/4波長板222に入射される。
【0080】
1/4波長板222は液晶リターダ221の光学軸に対して45度傾けて設けられている。したがって、入射した光パルスは、直線偏光の場合は直線偏光のまま、円偏光の場合は、光パルスが直線偏光である場合に対して45度傾いた直線偏光に変化する。
【0081】
図6は、液晶リターダ221と1/4波長板222による偏光の変調を示している。図6に示すx方向の直線偏光を垂直偏光する。また、液晶リターダ221のFAST軸を、x方向の軸に対して45度傾いた位置とする。さらに、1/4波長板222は、液晶リターダ221の光学軸に対して45度傾いた位置とする。なお、液晶リターダ221,1/4波長板222のFAST軸を「F」、SLOW軸を「S」として示している。
【0082】
この場合、液晶リターダ221のFAST軸とSLOW軸に沿う偏光成分に生じる位相差φを0度とすると、液晶リターダ221を通過した光パルスは垂直偏光となる。また、位相差φを90度とした場合は左円偏光、位相差φを180度とした場合は水平偏光、位相差φを270度とした場合は右円偏光となる。
【0083】
ここで、直線偏光の偏光方向を表す角度は垂直(x軸方向)が0度で、そこからy軸方向へ回転する方向を正とした。そして1/4波長板222を通過した後では、それぞれ、液晶リターダ221の位相差が0度の場合、垂直偏光V、90度の場合+45度傾いた直線偏光+、180度の場合水平偏光H、270度の場合−45度傾いた直線偏光−となる。
【0084】
このように、制御部26によって偏光状態が4つの偏光状態のいずれかにランダムに制御された光パルスが送信側通信装置20から出力される。
【0085】
受信側通信装置30は、送信側通信装置20から出射された光パルスを、光学部31の無偏光ビームスプリッタ311で分割する。無偏光ビームスプリッタ311で分割された光パルスの一方は、偏光ビームスプリッタ312に入射されて、その偏光成分によって分割され、受光素子321Hまたは受光素子321Vに入射される。
【0086】
無偏光ビームスプリッタ311で分割された光パルスの他方は、偏光ビームスプリッタ315に入射されて、その偏光成分によって分割され、受光素子321+または受光素子321-に入射される。
【0087】
偏光状態毎の受光素子の光パルス検出確率は、表1の左円偏光Lを直線偏光+、右円偏光Rを直線偏光−、受光素子321Lを受光素子321+、受光素子321Rを受光素子321-と読み替えた表2となる。なお、表2においても、1パルス当たりの光子数が「1」、無偏光ビームスプリッタ311の分割比率がp:(1−p)(ただし0<p<1)、光損失や盗聴がない理想的な場合の値を示している。
【0088】
【表2】

【0089】
垂直偏光Vまたは水平偏光Hの光パルスが、受光素子321Hまたは受光素子321Vの方に、無偏光ビームスプリッタ311で振り向けられる場合、その確率は「p」であり、これらは対応する受光素子によってそれぞれ検出される。すなわち、光パルスが垂直偏光Vである場合、受光素子321Vで検出される確率は「p」となり、受光素子321Hで検出される確率は「0」となる。また、光パルスが水平偏光Hである場合、受光素子321Vで検出される確率は「0」となり、受光素子321Hで検出される確率は「p」となる。
【0090】
また、垂直偏光Vあるいは水平偏光Hの光パルスが、受光素子321+または受光素子321-の方に、無偏光ビームスプリッタ311において、振り向けられる場合、その確率は「1−p」である。また、光パルスはいずれも等しい確率「0.5」で受光素子によって検出されるから、受光素子321+,321-で検出される確率は、光パルスが垂直偏光Vあるいは水平偏光Hのいずれであっても「0.5(1−p)」の確率となる。
【0091】
同様に、光パルスが+45度直線偏光+の場合、光パルスが受光素子321+で検出される確率は「1−p」、受光素子321-で検出される確率は「0」となる。また、光パルスが−45度直線偏光−の場合、光パルスが受光素子321+で検出される確率は「0」、受光素子321-で検出される確率は「1−p」となる。さらに、光パルスが受光素子321V,321Hで検出される確率は、光パルスが+45度直線偏光+あるいは−45度直線偏光−のいずれであっても「0.5p」の確率となる。BB84プロトコルにおける、量子通信を行う部分は、以上の動作を繰り返し行う。
【0092】
[古典通信動作]
次に、BB84プロトコルにおける量子通信の後に、古典通信が実行される。送信側通信装置20と受信側通信装置30は公開通信路(すなわち、通信内容は暗号化されておらず、盗聴者も通信内容をすべて知ることができる)を用いて、以下のプロトコルを実行する。
【0093】
(1)基底交換
受信側通信装置30は、公開通信路例えば古典通信路55を介して送信側通信装置20と通信を行い、量子通信の受信結果の受信結果のうち、直線偏光(垂直偏光Vまたは水平偏光H)を検出したのか、45度傾いた直線偏光(+45度直線偏光+または−45度直線偏光−)を検出したのかという情報だけを制御部36から通信部35と送信側通信装置20の通信部25を介して制御部26に送信する。例えば、垂直偏光Vを検出した場合は、「垂直偏光Vを検出した」という情報を送信するのではなく、「直線偏光を検出した」という情報だけを送信する。送信側通信装置20の制御部26は、受信結果においていずれの時刻の受信結果が正しいか検出して検出結果を受信側通信装置30の制御部36に通知する。受信側通信装置30の制御部36は、通知された検出結果に基づき正しいデータのみを選択する。すなわち、送信側通信装置20が直線偏光(VまたはH)の光パルスを送り、受信側通信装置30が45度傾いた直線偏光(+または−)を検出した場合は、共有秘密情報を生成することができない。また、送信側通信装置20が45度傾いた直線偏光(+または−)の光パルスを送り、受信側通信装置30が直線偏光(VまたはH)を検出した場合も共有秘密情報を生成することができない。したがって、これらのデータは捨てる。また、残ったデータから、例えば、直線偏光の場合、垂直偏光Vを「0」、水平偏光Hを「1」とし、直線偏光+を「0」、直線偏光−を「1」とすれば、送信装置と受信装置で相関のあるランダムなビット列を共有できる。このランダムなビット列を元にして、送信側通信装置20と受信側通信装置30で共通鍵を生成する。
【0094】
また、逆に送信側通信装置20が「直線偏光を送信したのか、45度傾いた直線偏光を送信したのか」という情報だけを制御部26から通信部25と送信側通信装置30の通信部35を介して制御部36に送信し,受信側通信装置30の制御部36は、通知された基底に基づき正しいデータのみを選択することにしても良い。
【0095】
さらに、送信側通信装置と受信側通信装置で共有したビット列には量子通信路51に起因する誤りや送受信時に生じた誤りが含まれている場合がある。したがって、この誤りを訂正するエラー訂正やエラーレートの見積り、見積もったエラーレートに基づいて、盗聴されたと想定し得る情報量を削減するプライバシー増幅を、第1の実施の形態と同様に行う。
【0096】
送信側通信装置20と受信側通信装置30に蓄えられた共通鍵は、通信の暗号化が必要な際に随時使用される。例えば、共通鍵暗号方式を用いて暗号通信を行う際に、一つの共通鍵を用いて暗号化する平文の量を予め決めておく。ここで、通信量がその設定された通信量を超えたら、送信側通信装置と受信側通信装置が同時に、それぞれの鍵メモリから共通鍵を取り出し、共通鍵暗号に用いる鍵を更新する。あるいは、通信量がほぼ一定で、大きく変動しないのであれば、予め定められた時間間隔毎に、送信側通信装置20と受信側通信装置30が同時に、それぞれの鍵メモリから共通鍵を取り出し、共通鍵暗号方式に用いる鍵を更新する。
【0097】
このように、第2の実施の形態では、液晶リターダに1/4波長板が組み合わされているので、コリメートされた光パルスの偏光状態を、4種類の直線偏光状態のいずれかに変換する偏光変調を行う。このような第2の実施の形態においても、従来の位相変調器等を用いた通信装置に比べて、小型化が容易であり携帯用の電子機器等に搭載することができるようになる。
【0098】
<4.第3の実施の形態>
量子暗号通信では、例えば非特許文献1等に示されているように、B84プロトコルを拡張した6状態方式のプロトコル(以下、6状態プロトコルと呼ぶ)を用いることも可能である。したがって、第3の実施の形態では、4種類の直線偏光と2種類の円偏光の合わせて6種類の偏光状態を用いて量子鍵配布を実行する場合について説明する。
【0099】
<4−1.第3の実施の形態の構成>
図7は、第3の実施の形態の構成を示している。なお、図7では、図1に示す光源部21と偏光変調部22および光学部31と受光部32の構成を示している。
【0100】
送信側通信装置20の光源部21は、レーザダイオードやLEDなどの半導体発光素子211と、その半導体発光素子211から出射された光パルスをコリメートするレンズ212を用いて構成されている。
【0101】
偏光変調部22は、コリメートされた光パルスの偏光状態を、4種類の直線偏光状態と2種類の円偏光状態のいずれかに変換する液晶リターダ221,223が設けられている。液晶リターダ221は、光源部21から出射された光パルスの直線偏光の向きに対して、光学軸を45度傾けて設けられる。また、液晶リターダ223は、液晶リターダ223に対して、光学軸を45度傾けて設けられる。
【0102】
液晶リターダ221,223は、制御部26からの制御信号に応じて、そのFAST軸とSLOW軸に沿う偏光成分に生じる位相差を変化させる。
【0103】
また、偏光変調部22では、光源部21から出射された光が直線偏光でない場合、または、直線偏光でも偏光方向を液晶リターダ221の光学軸に対して精密に制御することが難しい場合、液晶リターダ221における光パルスの入射面側に偏光子225を設ける。例えば、偏光子225は、液晶リターダ221における光パルスの入射面側であって、偏光子225から出射される直線偏光に対して液晶リターダ221の光学軸が45度傾くように設定して液晶リターダ221と一体化する。このように偏光変調部22を構成すれば、光源部21に対して偏光変調部22の位置を精密に制御しなくとも、偏光方向と液晶リターダ221の光学軸を所望の角度とすることができる。
【0104】
受信側通信装置30の光学部31は、無偏光ビームスプリッタ310,311、偏光ビームスプリッタ312,315,316、1/4波長板313を有している。無偏光ビームスプリッタ310は、送信側通信装置20から出射された光パルスの偏光状態を変化させることなく分割する。無偏光ビームスプリッタ311は、無偏光ビームスプリッタ310で分割された光パルスの一方を偏光状態を変化させることなく分割する。偏光ビームスプリッタ312は、無偏光ビームスプリッタ311で分割された光パルスの一方を偏光に偏光分離する。1/4波長板313は、無偏光ビームスプリッタ311で分割された他方の光パルスの偏光状態を、直線偏光の場合は円偏光に、円偏光の場合は直線偏光に変換する。偏光ビームスプリッタ315は、1/4波長板313により偏光状態が変更された光パルスを偏光分離する。
【0105】
偏光ビームスプリッタ316は、例えば、偏光ビームスプリッタ312が設置されている面に対して、入射光を軸として回転させ、45度傾けて設置されており、偏光ビームスプリッタ312とは45度傾いた方向の二つの直線偏光に分離する。なお、無偏光ビームスプリッタ310と偏光ビームスプリッタ316との間に1/2波長板317を設けて、直線偏光の向きを45度回転させれば、偏光ビームスプリッタ316を45度傾けて設置する必要がなくなる。なお、無偏光ビームスプリッタ310,311で3つに分けた光パルスのどれをどの偏光ビームスプリッタで偏光分離するかは、図示したとおりでなくても良い。
【0106】
受光部32は、受光素子321H,321V,321L,321R,321+,321-を有している。受光素子321Hは、偏光ビームスプリッタ312で偏光分離された一方の光パルスの検出を行い、受光素子321Vは、偏光ビームスプリッタ312で偏光分離された他方の光パルスの検出を行う。同様に、受光素子321Lは、偏光ビームスプリッタ315で偏光分離された一方の光パルスの検出を行い、受光素子321Rは、偏光ビームスプリッタ315で偏光分離された他方の光パルスの検出を行う。さらに、受光素子321+は、偏光ビームスプリッタ316で偏光分離された一方の光パルスの検出を行い、受光素子321-は、偏光ビームスプリッタ316で偏光分離された他方の光パルスの検出を行う。
【0107】
<4−2.第3の実施の形態の動作>
[量子通信動作]
6状態プロトコルの量子通信においては、送信側通信装置20は次の動作を行う。
【0108】
制御部26は、光源部21の半導体発光素子211をパルス電流により駆動し、光パルスを発生させる。その際、1パルス当たりの光子数は1以下にすることが望ましい(半導体発光素子211からの光パルスの強度が強い場合、図には示していないが、NDフィルタなどの減光手段を用いることにより、1パルス当たりの光子数を1以下にすることができる)。
【0109】
光源部21で発生された光パルスは、偏光変調部22の液晶リターダ221に入射する。なお、偏光子225が設けられている場合は、偏光子225を介して液晶リターダ221に入射する。
【0110】
液晶リターダ221は、光パルスの到来するタイミングに合わせて、FAST軸とSLOW軸に沿う偏光成分に生じる位相差φが、0度、90度、180度、270度のいずれかになるように、制御部26によってランダムに制御される。
【0111】
液晶リターダ221を通過した光パルスの偏光状態は、位相差φが0度の場合は入射した際の直線偏光のままであり、180度の場合は入射した直線偏光に直交する直線偏光に変化し、90度,270度の場合は互いに向きが異なる円偏光に変化する。なお、90度,270度の場合が、左円偏光と右円偏光となるか、右円偏光と左円偏光となるかは、配置する液晶リターダの光学軸(SLOW軸、FAST軸)の向きによって決まる。液晶リターダ221を通過した光パルスは、液晶リターダ223に入射される。
【0112】
液晶リターダ223は液晶リターダ221の光学軸に対して45度傾けておかれており、液晶リターダ223のFAST軸とSLOW軸に沿う偏光成分に生じる位相差θが、0度、90度のいずれかになるように、制御部26によってランダムに制御される。
【0113】
液晶リターダ223を通過した光パルスの偏光状態は、液晶リターダ223の位相差θが0度の場合は変化することがない。また、液晶リターダ223の位相差θが90度の場合は、入射した光パルスが、直線偏光の場合は直線偏光のまま、円偏光の場合は、その直線偏光とは45度傾いた直線偏光に変化する。
【0114】
図8は、液晶リターダ221,223による偏光の変調を示している。図8に示すx方向の直線偏光を垂直偏光する。また、液晶リターダ221のFAST軸を、x方向の軸に対して45度傾いた位置とする。さらに、液晶リターダ223は、液晶リターダ221の光学軸に対して45度傾いた位置とする。なお、液晶リターダ221,223のFAST軸を「F」、SLOW軸を「S」として示している。
【0115】
この場合、液晶リターダ221のFAST軸とSLOW軸に沿う偏光成分に生じる位相差φを0度とすると、液晶リターダ221を通過した光パルスは垂直偏光となる。また、位相差φを90度とした場合は左円偏光、位相差φを180度とした場合は水平偏光、位相差φを270度とした場合は右円偏光となる。
【0116】
ここで、直線偏光の偏光方向を表す角度は垂直(x軸方向)が0度で、そこからy軸方向へ回転する方向を正とした。液晶リターダ223を通過した後では、液晶リターダ2の位相差θが0度の場合、偏光状態が変化しない。したがって、液晶リターダ221の位相差φが0度であった場合は垂直偏光、90度の場合は左円偏光、180度の場合は水平偏光、270度の場合は右円偏光となる。
【0117】
また、液晶リターダ223の位相差θが90度の場合は、液晶リターダ221の位相差φが0度であった場合は、垂直偏光、90度の場合+45度傾いた直線偏光、180度の場合水平偏光、270度の場合−45度傾いた直線偏光となる。なお、表3は、液晶リターダ221の位相差φと液晶リターダ223の位相差θと偏光変調後の偏光状態の関係を示している。
【0118】
【表3】

【0119】
このように、制御部26によって偏光状態が6つの偏光状態のいずれかにランダムに制御された光パルスが送信側通信装置20から出力される。
【0120】
受信側通信装置30は、送信側通信装置20から出射された光パルスを、光学部31の無偏光ビームスプリッタ310で分割する。無偏光ビームスプリッタ310で分割された光パルスの一方は、無偏光ビームスプリッタ311に入射されてさらに分割される。無偏光ビームスプリッタ311で分割された光パルスの一方は、偏光ビームスプリッタ312に入射されて、その偏光成分によって分割され、受光素子321Hまたは受光素子321Vに入射される。
【0121】
無偏光ビームスプリッタ311で分割された光パルスの他方は、1/4波長板313を通過して、偏光状態を変化させられた後、偏光ビームスプリッタ315によって分割される。分割された光パルスは、偏光ビームスプリッタ315に入射されて、その偏光成分によって分割され、受光素子321Lまたは受光素子321Rに入射される。
【0122】
無偏光ビームスプリッタ310で分割された光パルスの他方は、45度傾いた方向の二つの直線偏光に分離する偏光ビームスプリッタ316に入射されて、その偏光成分によって分割され、受光素子321+または受光素子321-に入射される。
【0123】
説明の都合上、上の記述において、「光パルスが分割される」と表現したが、実際には一つの光パルスをすべての受光素子が検出することはない。なぜなら、光パルスの強度は、1パルス当たりの光子数を1以下となるように設定されているので、6つの受光素子のうち、どれか一つが光子を検出し、それが電気信号に変換されるからである。
【0124】
偏光状態毎の受光素子の光パルス検出確率は、第1の実施の形態や第2の実施の形態と同様に考えると表4となる。なお、表4は、1パルス当たりの光子数が「1」、無偏光ビームスプリッタ310の分割比率がp:(1−p)(ただし0<p<1)、無偏光ビームスプリッタ311の分割比率がq:(1−q)(ただし0<q<1)である。また、表4は、光損失や盗聴がない理想的な場合の値を示している。
【0125】
【表4】

【0126】
垂直偏光Vまたは水平偏光Hの光パルスが、受光素子321Hまたは受光素子321Vの方に、無偏光ビームスプリッタ311で振り向けられる場合、その確率は「pq」であり、これらは対応する受光素子によってそれぞれ検出される。すなわち、光パルスが垂直偏光Vである場合、受光素子321Vで検出される確率は「pq」となり、受光素子321Hで検出される確率は「0」となる。また、光パルスが水平偏光Hである場合、受光素子321Vで検出される確率は「0」となり、受光素子321Hで検出される確率は「pq」となる。
【0127】
また、垂直偏光Vあるいは水平偏光Hの光パルスが、受光素子321Lまたは受光素子321Rの方に、無偏光ビームスプリッタ311において、振り向けられる場合、その確率は「p(1−q)」である。また、光パルスはいずれも等しい確率「0.5」で受光素子によって検出されるから、受光素子321L,321Rで検出される確率は、光パルスが垂直偏光Vあるいは水平偏光Hのいずれであっても「0.5p(1−q)」の確率となる。
【0128】
また、垂直偏光Vあるいは水平偏光Hの光パルスが、受光素子321+または受光素子321-の方に、無偏光ビームスプリッタ310において、振り向けられる場合、その確率は「1−p」である。また、光パルスはいずれも等しい確率「0.5」で受光素子によって検出されるから、受光素子321+,321-で検出される確率は、光パルスが垂直偏光Vあるいは水平偏光Hのいずれであっても「0.5(1−p)」の確率となる。
【0129】
同様に、光パルスが左円偏光Lの場合、光パルスが受光素子321Lで検出される確率は「p(1−q)」、受光素子321Rで検出される確率は「0」となる。また、光パルスが右円偏光Rの場合、光パルスが受光素子321Lで検出される確率は「0」、受光素子321Rで検出される確率は「p(1−q)」となる。さらに、光パルスが受光素子321V,321Hで検出される確率は、光パルスが左円偏光Lあるいは右円偏光Rのいずれであっても「0.5pq」の確率となる。したがって、光パルスが受光素子321+,321-で検出される確率は、光パルスが左円偏光Lあるいは右円偏光Rのいずれであっても「0.5(1−p)」の確率となる。
【0130】
さらに、光パルスが直線偏光+の場合、光パルスが受光素子321+で検出される確率は「1−p」、受光素子321-で検出される確率は「0」となる。また、光パルスが直線偏光−の場合、光パルスが受光素子321+で検出される確率は「0」、受光素子321-で検出される確率は「1−p」となる。さらに、光パルスが受光素子321V,321Hで検出される確率は、光パルスが直線偏光+あるいは直線偏光−のいずれであっても「0.5pq」の確率となる。したがって、光パルスが受光素子321L,321Rで検出される確率は、光パルスが直線偏光+あるいは直線偏光−のいずれであっても「0.5p(1−q)」の確率となる。6状態プロトコルにおける、量子通信を行う部分は、以上の動作を繰り返し行う。
【0131】
[古典通信動作]
次に、6状態における量子通信の後に、古典通信が実行される。送信側通信装置20と受信側通信装置30は公開通信路(すなわち、通信内容は暗号化されておらず、盗聴者も通信内容をすべて知ることができる)を用いて、以下のプロトコルを実行する。
【0132】
(1)基底交換
受信側通信装置30は、公開通信路例えば古典通信路55を介して送信側通信装置20と通信を行い、量子通信の受信結果のうち、直線偏光(垂直偏光Vまたは水平偏光H)、45度傾いた直線偏光(+45度直線偏光+または−45度直線偏光−)および円偏光(左円偏光Lまたは右円偏光R)のいずれを検出したのかという情報だけを制御部36から通信部35と送信側通信装置20の通信部25を介して制御部26に送信する。例えば、垂直偏光Vを検出した場合は、「垂直偏光Vを検出した」という情報を送信するのではなく、「直線偏光を検出した」という情報だけを送信する。送信側通信装置20の制御部26は、受信結果においていずれの時刻の受信結果が正しいか検出して検出結果を受信側通信装置30の制御部36に通知する。受信側通信装置30の制御部36は、通知された検出結果に基づき正しいデータのみを選択する。すなわち、送信側通信装置20が直線偏光(VまたはH)の光パルスを送り、受信側通信装置30が円偏光(LまたはR)または45度傾いた直線偏光(+または−)を検出した場合は、共有秘密情報を生成することができないので、これらのデータは捨てる。また、送信側通信装置20が円偏光(LまたはR)の光パルスを送り、受信側通信装置30が直線偏光(VまたはH)または45度傾いた直線偏光(+または−)を検出した場合も、共有秘密情報を生成することができないので、これらのデータは捨てる。さらに、送信側通信装置20が45度傾いた直線偏光(+または−)の光パルスを送り、受信側通信装置30が直線偏光(VまたはH)または円偏光(LまたはR)を検出した場合も共有秘密情報を生成することができないので、これらのデータは捨てる。
【0133】
また、残ったデータから、例えば、直線偏光の場合、垂直偏光Vを「0」、水平偏光Hを「1」とし、円偏光の場合、左円偏光Lを「0」、右円偏光Rを「1」とし、45度傾いた直線偏光の場合、+45度直線偏光+を「0」、−45度直線偏光−を「1」とする。このようにすれば、送信側通信装置と受信側通信装置で相関のあるランダムなビット列を共有できる。このランダムなビット列を元にして、送信側通信装置20と受信側通信装置30で共通鍵を生成する。
【0134】
また、逆に送信側通信装置20が直線偏光、45度傾いた直線偏光、円偏光の何れで送信したのかという情報だけを制御部26から通信部25と送信側通信装置30の通信部35を介して制御部36に送信し、受信側通信装置30の制御部36は、通知された基底に基づき正しいデータのみを選択することにしても良い。
【0135】
(2)エラーレートの見積り
基底交換で得られたビット列の中から、送信側通信装置20が直線偏光(VまたはH)の光パルスを送り、受信側通信装置30が直線偏光(VまたはH)を検出した場合と、送信側通信装置20が円偏光(LまたはR)の光パルスを送り、受信側通信装置30が円偏光(LまたはR)を検出した場合と、送信側通信装置20が45度傾いた直線偏光(+または−)の光パルスを送り、受信側通信装置30が45度傾いた直線偏光(+または−)を検出した場合とから、それぞれ、半分程度のデータをランダムに選び出し、送信側通信装置20と受信側通信装置30でその値を照合し、エラーレートを見積もる。この際に用いたデータは捨てる。
【0136】
(3)エラー訂正
エラー訂正では、エラーレートの見積りに用いたデータが除かれたビット列に対して、第1の実施の形態等と同様にエラー訂正を行う。
【0137】
(4)プライバシー増幅
プライバシー増幅では、エラー訂正後のビット列に対して、見積もったエラーレートに応じてプライバシー増幅を、第1の実施の形態等と同様に行う。ここで、エラーレートが大きく、ビット列の長さが0になってしまう場合は、鍵配布は失敗したことになる。また、エラーレートが小さくて(例えば6状態プロトコルの場合は約12.6%以下なら)1より長いビット列が得られる。得られたビット列は、共通鍵として、送信側通信装置20の鍵メモリ23および受信側通信装置30の鍵メモリ33に保存される。
【0138】
このように、第3の実施の形態では、液晶リターダ221の出射面側に、液晶リターダ221の光学軸に対して光学軸を45度傾けた液晶リターダ223が設けられている。したがって、液晶リターダ221,223による位相差を可変させることで、コリメートされた光パルスの偏光状態を6種類の偏光状態のいずれかに変換することができる。このため、6状態方式のプロトコルを用いる場合でも、小型化が容易であり携帯用の電子機器等に搭載することができるようになる。
【0139】
<5.第4の実施の形態>
量子暗号通信では、例えば特許文献2に示されているように、強度変調された光パルスを送信することにより、量子鍵配布の暗号的な強度をより強めることができるデコイ法が用いられている。したがって、第4の実施の形態では、2種類の直線偏光と2種類の円偏光の合わせて4種類の偏光状態を用いたBB84プロトコルにデコイ法を用いて量子鍵配布を実行する場合について説明する。
<5−1.第4の実施の形態の構成>
図9は、第4の実施の形態の構成を示している。なお、図9では、図1に示す光源部21と偏光変調部22および光学部31と受光部32の構成を示している。
【0140】
送信側通信装置20の光源部21は、レーザダイオードやLEDなどの半導体発光素子211と、その半導体発光素子211から出射された光パルスをコリメートするレンズ212を用いて構成されている。
【0141】
偏光変調部22は、コリメートされた光パルスの偏光状態を、4種類の偏光状態のいずれかに変換する液晶リターダ221を有している。液晶リターダ221は、後述する強度変調部224の偏光子224bの偏光軸に対して、光学軸を45度傾けて設けられる。液晶リターダ221は、制御部26からの制御信号に応じて、そのFAST軸とSLOW軸に沿う偏光成分に生じる位相差を変化させる。
【0142】
液晶リターダ221の入射面側には、光パルスの強度変調を行う強度変調部224が設けられている。強度変調部224は、液晶リターダ224aと偏光子224bを用いて構成されている。液晶リターダ224aは、入射する光パルスの直線偏光の向きに対して、液晶リターダ224aの光学軸を45度傾けて設置される。偏光子224bの偏光軸は、光源部21から出射した光が直線偏光の場合は、その偏光方向に直交する方向に設定されている。
【0143】
液晶リターダ224aは、制御部26からの制御信号に応じて、そのFAST軸とSLOW軸に沿う偏光成分に生じる位相差を変化させる。このように、位相差を変化させることで偏光子224bを介して出力される光パルスの強度を調整する。
【0144】
なお、第4の実施の形態では、強度変調部224を液晶リターダ224aと偏光子224bからなる光学系により実現したが、半導体発光素子211を駆動する電流値を変調することにより強度変調してもよい。また、非線形光学結晶を用いた光強度変調器等を用いることも可能である。
【0145】
また、偏光変調部22は、光源部21から出射された光が直線偏光でない場合、または、直線偏光でも偏光方向を液晶リターダ224aの光学軸に対して精密に制御することが難しい場合、液晶リターダ224aにおける光パルスの入射面側に偏光子225を設ける。例えば、強度変調部224における光パルスの入射面側に偏光子225を設けて、偏光子225の位置を、液晶リターダ224aの光学軸が直線偏光に対して45度傾くように設定して、液晶リターダ221と強度変調部224および偏光子225を一体化する。このように偏光変調部22を構成すれば、光源部21に対して偏光変調部22の位置を精密に制御しなくとも、偏光方向と液晶リターダ224a等の光学軸を所望の角度とすることができる。
【0146】
受信側通信装置30の光学部31は、無偏光ビームスプリッタ311、偏光ビームスプリッタ312,315、1/4波長板313を有している。無偏光ビームスプリッタ311は、送信側通信装置20から出射された光パルスの偏光状態を変化させることなく分割する。偏光ビームスプリッタ312は、無偏光ビームスプリッタ311で分割された光パルスの一方を偏光分離する。1/4波長板313は、無偏光ビームスプリッタ311で分割された他方の光パルスの偏光状態を、直線偏光の場合は円偏光に、円偏光の場合は直線偏光に変換する。偏光ビームスプリッタ315は、1/4波長板313により偏光状態が変更された光パルスを偏光分離する。
【0147】
受光部32は、受光素子321H,321V,321R,321Lを有している。受光素子321Hは、偏光ビームスプリッタ312で偏光分離された一方の光パルスの検出を行い、受光素子321Vは、偏光ビームスプリッタ312で偏光分離された他方の光パルスの検出を行う。同様に、受光素子321Rは、偏光ビームスプリッタ315で偏光分離された一方の光パルスの検出を行い、受光素子321Lは、偏光ビームスプリッタ315で偏光分離された他方の光パルスの検出を行う。
【0148】
<5−2.第4の実施の形態の動作>
[量子通信動作]
デコイ法を組み合わせたBB84プロトコルの量子通信においては、送信側通信装置20は次の動作を行う。
【0149】
制御部26は、光源部21の半導体発光素子211をパルス電流により駆動し、光パルスを発生させる。光源部21で発生された光パルスは、偏光変調部22の強度変調部224に入射する。なお、偏光子225が設けられている場合は、偏光子225を介して強度変調部224に入射する。
【0150】
強度変調部224の液晶リターダ224aは、光パルスの到来するタイミングに合わせて、FAST軸とSLOW軸に沿う偏光成分に生じる位相差αが、複数の予め定めた値の中の一つの値にランダムに制御される。
【0151】
液晶リターダ224aを通過した光パルスは偏光子224bに入射する。位相差αが0度の場合は、液晶リターダ224aは、入射した光パルスの偏光に影響をおよぼすことはないので、液晶リターダ224aから出射した光パルスの偏光状態は入射したときの直線偏光のまま、偏光子224bに入射する。
【0152】
偏光子224bの偏光軸は、光源部21から出射した光が直線偏光の場合は、その偏光方向に直交する方向、偏光子225が設けられている場合は、偏光子225の偏光軸に直行するように設定されている。したがって、液晶リターダ224aにおける位相差αが0度の場合は、光パルスは偏光子224bを通過することができず、光パルスの強度は0となる。
【0153】
位相差αが0度でない場合は、液晶リターダ224aは、入射した光パルスの偏光に影響をおよぼし、液晶リターダ224aから出射した光パルスの偏光状態は、一般的には、楕円偏光となり、偏光子224bに入射する。
【0154】
偏光子224bに入射した光パルスは、直線偏光になって出射するが、そのとき出射した光パルスの強度は、入射する際の楕円偏光の偏光状態、つまりは位相差αに依存して変化する。例えば位相差αが90度であれば、液晶リターダ3を通過した光パルスは円偏光になっており、これが偏光子224bを通過すると光パルスの強度は、元の強度の1/2となる。
【0155】
例えば位相差αが180度であれば、液晶リターダ3を通過した光パルスは入射した直線偏光に直交する方向に偏光した直線偏光になっており、これは偏光子224bをそのまま通過するので光パルスの強度は変化しない。
【0156】
すなわち、液晶リターダ224aと偏光子224bを組み合わせた光学系からなる強度変調部224は、液晶リターダ224aのFAST軸とSLOW軸に沿う偏光成分に生じる位相差をαとする場合、[sin(α/2)]^2倍に、入射した光パルスの強度を変化させる。
【0157】
位相差αにおける複数の予め定めた値は、強度変調部224を通過後の光パルス一つに含まれる光子数の平均値が、例えば、0個、1個、10個となるように定めれば良い。強度変調部224を通過した光パルスは、液晶リターダ221に入射する。液晶リターダ221は第1の実施の形態と同様な動作を行い、制御部26によって偏光状態が4つの偏光状態のいずれかにランダムに制御された光パルスを送信側通信装置20から出力させる。
【0158】
受信側通信装置30は、第1の実施の形態と同様な動作を行う。
【0159】
[古典通信動作]
次に、デコイ法を組み合わせたBB84プロトコルにおける量子通信の後に、古典通信が実行される。送信側通信装置20と受信側通信装置30は公開通信路を用いて、第1の実施の形態と同様に(1)基底交換や(3)エラー訂正および(4)プライバシー増幅を行う。また、(2)エラーレートの見積りは、以下のように行う。
(2)エラーレートの見積り
基底交換で得られたビット列の中から、送信側通信装置20が直線偏光(VまたはH)の光パルスを送り、受信側通信装置30が直線偏光(VまたはH)を検出した場合と、送信側通信装置20が円偏光(LまたはR)の光パルスを送り、受信側通信装置30が円偏光(LまたはR)を検出した場合とから、それぞれ、半分程度のデータをランダムに選び出し、送信側通信装置20と受信側通信装置30でその値を照合し、エラーレートを見積もる。
【0160】
このとき、送信側通信装置20の強度変調部224により、異なる強度に変調された光パルス毎に、それぞれのエラーレートを見積もる。例えば、光パルス一つに含まれる光子数の平均値が、0個、1個、10個となるようにした場合は、光子数の平均値が0個のパルスにおけるエラーレート、1個の場合のエラーレート、10個の場合のエラーレートをそれぞれ見積もる。この際に用いたデータは捨てる。このエラーレートは(4)のプライバシー増幅に必要なパラメータである。
【0161】
エラーレートは、含まれる平均光子数が異なる光パルスそれぞれに関して見積もっているから、エラーがすべて盗聴によって生じると仮定した場合の、盗聴者に漏れた相互情報量を、第1の実施の形態の場合より厳しめに見積もることができる。したがって、他の条件が同じであれば、第1の実施の形態よりも、より多くの共通鍵を生成することができる。
【0162】
なお、第4の実施の形態では、4種類の直線偏光の偏光状態を用いたBB84プロトコルや、4種類の直線偏光と2種類の円偏光の偏光状態を用いた6状態プロトコルに、デコイ法を組み合わせてもよい。
【0163】
このように、第4の実施の形態では、液晶リターダ221の入射面側に、液晶リターダ224aと偏光子224bで構成された強度変調部224が設けられる。したがって、液晶リターダ224aを制御して光パルスの強度の切り替えを行い、液晶リターダ221を制御して偏光状態の切り替えを行うことにより、量子鍵配布の暗号的な強度をより強めることができる。すなわち、デコイ法を用いる場合でも小型化が容易であり携帯用の電子機器等に搭載することができるようになる。
【0164】
<6.第5の実施の形態>
上述の第1〜第4の実施の形態では、自由空間を量子通信路51として用いて量子暗号通信を行う場合に説明した。このように、自由空間を量子通信路51として用いる場合、送信側通信装置20から出射された光パルスを、受信側通信装置30で正しく受光できるように位置合わせが必要となる。しかし、量子通信路として光ファイバを用いれば、送信側通信装置20と受信側通信装置30の位置合わせが不要となり、量子暗号通信を容易に行うことができる。第5の実施の形態では、量子通信路として光ファイバ52を用いる場合について説明する。
【0165】
なお、第5の実施の形態では、2種類の直線偏光と2種類の円偏光の合わせて4種類の偏光状態を用いたBB84プロトコルにデコイ法を用いて量子鍵配布を行う場合について説明する。
<6−1.第5の実施の形態の構成>
図10は、第5の実施の形態の構成を示している。なお、図10では、図1に示す光源部21と偏光変調部22および光学部31と受光部32の構成等を示している。
【0166】
送信側通信装置20の光源部21は、レーザダイオードやLEDなどの半導体発光素子211と、その半導体発光素子211から出射された光パルスをコリメートするレンズ212を用いて構成されている。
【0167】
偏光変調部22は、コリメートされた光パルスの偏光状態を、4種類の偏光状態のいずれかに変換する液晶リターダ221を有している。液晶リターダ221は、後述する強度変調部224の偏光子224bの偏光軸に対して、光学軸を45度傾けて設けられる。液晶リターダ221は、制御部26により制御され、制御部26によって印加される電圧に応じて、そのFAST軸とSLOW軸に沿う偏光成分に生じる位相差を変化させる。
【0168】
液晶リターダ221の入射面側には、光パルスの強度変調を行う強度変調部224が設けられている。強度変調部224は、液晶リターダ224aと偏光子224bを用いて構成されている。液晶リターダ224aは、入射する光パルスの直線偏光の向きに対して、液晶リターダ224aの光学軸を45度傾けて設置される。偏光子224bの偏光軸は、光源部21から出射した光が直線偏光の場合は、その偏光方向に直交する方向に設定されている。
【0169】
液晶リターダ224aは、制御部26からの制御信号に応じて、そのFAST軸とSLOW軸に沿う偏光成分に生じる位相差を変化させる。このように、位相差を変化させることで偏光子224bを介して出力される光パルスの強度を調整する。
【0170】
液晶リターダ221から出射された光パルスは、レンズ226によって集光されて、光ファイバコネクタ27に接続された光ファイバ52に入射される。
【0171】
なお、第5の実施の形態では、強度変調部224を液晶リターダ224aと偏光子224bからなる光学系により実現したが、半導体発光素子211を駆動する電流値を変調することにより強度変調してもよい。また、非線形光学結晶を用いた光強度変調器等を用いることも可能である。
【0172】
また、偏光変調部22は、光源部21から出射された光が直線偏光でない場合、または、直線偏光でも偏光方向を液晶リターダ224aの光学軸に対して精密に制御することが難しい場合、液晶リターダ224aにおける光パルスの入射面側に偏光子225を設ける。例えば、強度変調部224における光パルスの入射面側に偏光子225を設けて、偏光子225の位置を、液晶リターダ224aの光学軸が直線偏光に対して45度傾くように設定して、液晶リターダ221と強度変調部224および偏光子225を一体化する。このように偏光変調部22を構成すれば、光源部21に対して偏光変調部22の位置を精密に制御しなくとも、偏光方向と液晶リターダ224a等の光学軸を所望の角度とすることができる。
【0173】
受信側通信装置30の光学部31は、無偏光ビームスプリッタ311、偏光ビームスプリッタ312,315、1/4波長板313を有している。また、受信側通信装置30には、自動偏波制御部37、レンズ319が設けられている。
【0174】
無偏光ビームスプリッタ311は、送信側通信装置20から出射された光パルスの偏光状態を変化させることなく分割する。偏光ビームスプリッタ312は、無偏光ビームスプリッタ311で分割された光パルスの一方を偏光分離する。1/4波長板313は、無偏光ビームスプリッタ311で分割された他方の光パルスの偏光状態を、直線偏光の場合は円偏光に、円偏光の場合は直線偏光に変換する。偏光ビームスプリッタ315は、1/4波長板313により偏光状態が変更された光パルスを偏光分離する。
【0175】
受光部32は、受光素子321H,321V,321R,321Lを有している。受光素子321Hは、偏光ビームスプリッタ312で偏光分離された一方の光パルスの検出を行い、受光素子321Vは、偏光ビームスプリッタ312で偏光分離された他方の光パルスの検出を行う。同様に、受光素子321Rは、偏光ビームスプリッタ315で偏光分離された一方の光パルスの検出を行い、受光素子321Lは、偏光ビームスプリッタ315で偏光分離された他方の光パルスの検出を行う。
【0176】
自動偏波制御部37は、光ファイバ52を通して送られてきた光パルスの偏光状態を修正する。レンズ319は、自動偏波制御部37を通過し光ファイバ52から出射した光パルスをコリメートして、無偏光ビームスプリッタ311に入射させる。
【0177】
なお、第5の実施の形態では、自動偏波制御部37を通過した後、光パルスを光ファイバ52から自由空間に取り出す光学系を示している。しかし、光学系は、無偏光ビームスプリッタや偏光ビームスプリッタなどを、光ファイバ素子により構成して、光パルスを自由空間に取り出さずに光ファイバで分離する構成も可能である。
【0178】
<6−2.第5の実施の形態の動作>
[量子通信動作]
制御部26は、光源部21の半導体発光素子211をパルス電流により駆動し、光パルスを発生させる。光源部21で発生された光パルスは、偏光変調部22の強度変調部224に入射する。なお、偏光子225が設けられている場合は、偏光子225を介して強度変調部224に入射する。
【0179】
強度変調部224の液晶リターダ224aは、光パルスの到来するタイミングに合わせて、FAST軸とSLOW軸に沿う偏光成分に生じる位相差αが、複数の予め定めた値の中の一つの値にランダムに制御される。偏光子224bの偏光軸は、光源部21から出射した光が直線偏光の場合は、その偏光方向に直交する方向、偏光子225が設けられている場合は、偏光子225の偏光軸に直行するように設定されている。したがって、制御部26によって液晶リターダ224aにおける位相差αを複数の予め定めた値に制御することで、強度変調部224を通過後の光パルスは、強度変調がなされた光パルとなる。強度変調部224を通過した光パルスは、液晶リターダ221に入射する。液晶リターダ221は第1の実施の形態と同様な動作を行い、制御部26によって偏光状態が4つの偏光状態のいずれかにランダムに制御された光パルスをレンズ226に出射する。
【0180】
レンズ226は、液晶リターダ221から出射した光パルスを集光して、光ファイバコネクタ27に接続されている光ファイバ52に入射させる。
【0181】
受信側通信装置30は、レンズ319でコリメートされた光パルスを、光学部31の無偏光ビームスプリッタ311で分割する。無偏光ビームスプリッタ311で分割された光パルスの一方は、偏光ビームスプリッタ312に入射されて、その偏光成分によって分割され、受光素子321Hまたは受光素子321Vに入射される。
【0182】
無偏光ビームスプリッタ311で分割された光パルスの他方は、1/4波長板313を通過して、偏光状態が変化させられた後、偏光ビームスプリッタ315に入射されて、その偏光成分によって分割され、受光素子321Rまたは受光素子321Lに入射される。以上の動作を繰り返し行い、受光素子321V,321H,321L,321Rでの受光結果を制御部36に出力する。
【0183】
また、送信側通信装置20と受信側通信装置30は、量子暗号通信を行う前に、光ファイバ52を光パルスが伝搬する途中で不可避的に生じる偏光状態の変化を打ち消すことができるように自動偏波制御部37の動作の設定を行う。例えば、予め定められたタイミングにおいて、送信側通信装置20が予め定められた偏光状態の光パルスを送信し、受信側通信装置30がその光パルスを受光素子で検出する。制御部36は、受光素子における検出結果に基づいて、予め定められた偏光状態の光パルスが所定の受光素子で検出されるように、自動偏波制御部37を制御する。すなわち、自動偏波制御部37は、光パルスの伝搬途中で生じた偏光状態の変化を打ち消す。
【0184】
[古典通信動作]
この後、デコイ法を組み合わせたBB84プロトコルにおける、古典通信を行う部分が実行される。送信側通信装置20と受信側通信装置30は公開通信路を用いて、第4の実施の形態と同様に(1)基底交換や(2)エラーレートの見積り、(3)エラー訂正、(4)プライバシー増幅を行う。
【0185】
なお、第5の実施の形態では、4種類の直線偏光の偏光状態を用いたBB84プロトコルや、4種類の直線偏光と2種類の円偏光の偏光状態を用いた6状態プロトコルに、デコイ法を組み合わせてもよい。
【0186】
このように、第5の実施の形態では、液晶リターダ221や強度変調部224等で偏光変調部22が構成されており、偏光変調部22から出射された光パルスがレンズ226によって光ファイバ52に入射される構成となっている。このように、量子通信路として光ファイバを用いる場合でも、量子暗号通信装置やシステムの小型化ができるので携帯機器に搭載することが可能である。また、量子通信路に光ファイバ52を用いることで、送信側通信装置と受信側通信装置の位置合わせが不要となり、量子暗号通信を容易に行うことができるようになる。
【0187】
<7.電子機器に適用した状態>
次に、図11〜図13を参照しながら、量子暗号通信装置を電子機器に適用した場合について説明する。図11は、携帯電話への適用例を示している。
【0188】
携帯電話へ適用する場合、半導体発光素子211、レンズ212、液晶リターダ221が搭載される。半導体発光素子211から出射された光パルスは、レンズ212によって、液晶リターダ221に入射するように収束される。そして、液晶リターダ221は、入射した光パルスの偏光変調を行い携帯電話の外部に出射する。
【0189】
このように、量子暗号通信装置では、液晶リターダを用いて偏光変調を行う構成とされている。したがって、量子暗号通信装置の小型化が可能であり、図に示すように、携帯電話に量子暗号通信装置を内蔵することができる。
【0190】
図12、図13は、ノート型コンピュータへの適用例を示している。ノート型コンピュータへ適用する場合、例えば、図12に示すような配置で、半導体発光素子211、レンズ212、液晶リターダ221、光学部31,32、フィルタ41,光ファイバコネクタ42が搭載される。これらノート型コンピュータに搭載される部品の構成は図13のようになる。半導体発光素子211から出射された光パルスは、レンズ212によって、液晶リターダ221に入射するように収束される。そして、液晶リターダ221は、入射した光パルスの偏光変調を行い、偏光変調後の光パルスをフィルタ41に入射する。
【0191】
フィルタ41は、光源装置1から出力された光パルスを光ファイバコネクタ42に導光し、一方で、光ファイバコネクタ42を通じて外部から入射した光パルスを光学部31に導光する光分離器の役割を果たすものである。そのため、偏光変調後の光パルスは、フィルタ41を通じて光ファイバコネクタ42に入射する。光ファイバコネクタ42に入射した光パルスは、光ファイバコネクタ42に接続された光ケーブルを通じて外部に取り出される。一方、光ファイバコネクタ42に接続された光ケーブルを通じて外部から入射した光パルスは、フィルタ41を通じて光学部31に入射する。光学部31は、入射した光パルスを受光する。光学部31は、受光した光パルスを偏光毎に分離して例えばフォトダイオード等の半導体受光素子を用いて構成された受光部32に出力する。
【0192】
なお、ここでは一本の光ケーブルで双方向に通信する状況を想定した。通常、光ケーブルによる双方向通信において、送信に用いる光パルスの波長と受信に用いる光パルスの波長は異なる。そのため、上記のようにフィルタ41を利用して波長の異なる光パルスを分離することができる。もちろん、ノート型コンピュータに搭載する通信機能の種類や形態に応じて、フィルタ41、光ファイバコネクタ42、光学部31、受光部32の構成を適宜変形してもよい。また、レンズ212を光源装置に組み込んでしまう等、一部設計を変更することも許容される。
【0193】
この場合にも、量子暗号通信装置では、液晶リターダを用いて偏光変調を行う構成とされていることから小型化が可能であり、図に示すように、ノート型コンピュータに量子暗号通信装置を内蔵することができる。また、ノート型コンピュータは、携帯電話よりもサイズが大きいことから、量子暗号通信における送信機能だけでなく受信機能も容易に設けることができる。例えば、図に示すように光学フィルタを設けて、偏光変調された光パルスは、光コネクタソケット側に通過させて、光コネクタソケット側からの光パルスは、光学部31側に反射させる。このような構成とすれば、ノート型コンピュータに量子暗号通信の送信機能と受信機能を設けることができる。
【0194】
なお、本発明は、上述した発明の実施の形態に限定して解釈されるべきではない。この発明の実施の形態は、例示という形態で本発明を開示しており、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が実施の形態の修正や代用をなし得ることは自明である。すなわち、本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0195】
この発明の量子暗号通信装置と量子暗号通信方法および量子暗号通信システムでは、光源部で発生された光パルスの偏光状態が可変波長板、例えば液晶リターダによって、予め設定した複数の偏光基底のいずれかにランダムに切り替えられる。したがって、簡単な構成で偏光変調が行われた光パルスを送信側から受信側に出射できるので暗号化通信装置を小型化できるため、携帯用電子機器、例えば携帯電話、PDA、タブレット型PC、電子書籍リーダー、ノートパソコンなどで、量子暗号化通信を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0196】
10・・・量子暗号通信システム、20・・・送信側通信装置、21・・・光源部、22・・・偏光変調部、23,33・・・鍵メモリ、24,34・・・暗号化/復号化部、25,35・・・通信部、26,36・・・制御部、27,42・・・光ファイバコネクタ、30・・・受信側通信装置、31・・・光学部、32・・・受光部、37・・・自動偏波制御部、フィルタ41、51・・・量子通信路、52・・・光ファイバ、55・・・古典通信路、211・・・半導体発光素子、212,226,319・・・レンズ、221,223,224a・・・液晶リターダ、222,313・・・1/4波長板、224・・・強度変調部、224b,225・・・偏光子、310,311・・・無偏光ビームスプリッタ、312,315,316・・・偏光ビームスプリッタ、314,317・・・1/2波長板、321V,321H,321L,321R,321+,321-・・・受光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子暗号に基づく通信処理を実行する送信側の量子暗号通信装置であって、
光パルスを発生する光源部と、
可変波長板を用いて前記光パルスの偏光変調を行う偏光変調部と、
前記可変波長板を駆動して、前記光パルスの偏光状態を予め設定した複数の偏光基底のいずれかにランダムに切り替える制御部と
を有する量子暗号通信装置。
【請求項2】
前記可変波長板として液晶リターダを用いた請求項1記載の量子暗号通信装置。
【請求項3】
前記液晶リターダにおける前記光パルスの入射面側に偏光子を一体に設けた請求項2記載の量子暗号通信装置。
【請求項4】
前記液晶リターダの出射面側に、該液晶リターダの光学軸に対して光学軸を45度傾けた第2の液晶リターダを設けた請求項3記載の量子暗号通信装置。
【請求項5】
前記偏光子と前記液晶リターダとの間に強度変調部を設けた請求項3記載の量子暗号通信装置。
【請求項6】
前記強度変調部は液晶リターダと偏光子で構成した請求項5記載の量子暗号通信装置。
【請求項7】
量子暗号に基づく通信処理を実行する送信側の量子暗号通信装置における量子暗号通信方法であり、
光源部で光パルスを発生させる工程と、
可変波長板を用いて前記光パルスの偏光変調を行う工程と、
制御部で前記可変波長板を駆動して、前記光パルスの偏光状態を予め設定した複数の偏光基底のいずれかにランダムに切り替える工程とを
設けた量子暗号通信方法。
【請求項8】
量子暗号に基づく通信処理を行う量子暗号通信システムであって、
送信側の量子暗号通信装置は、
光パルスを発生する光源部と、
可変波長板を用いて前記光パルスの偏光変調を行い、偏光変調後の光パルスを前記通信路に出射する偏光変調部と、
前記可変波長板を駆動して前記光パルスの偏光状態を予め設定した複数の偏光基底のいずれかにランダムに切り替える制御部とを備え、
受信側の量子暗号通信装置は、
前記送信側の量子暗号通信端末から出射された光パルスを、偏光基底毎に振り分ける光学部と、
前記偏光基底毎に振り分けられた光パルスを偏光基底毎に検出する受光部と
を有する量子暗号通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−80496(P2012−80496A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226628(P2010−226628)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】