説明

金含有めっき層の回収方法及び分析方法

【課題】銅を含有する基材上に、金含有めっき層が形成された試料から金含有めっき層を効率よく回収し、更には金含有めっき層をより正確に分析する。
【解決手段】銅を含有する基材上に、金含有めっき層が形成された試料を、硝酸と過酸化水素とを含有する第1水溶液と接触させて前記基材のみを溶解した後、前記金含有めっき層を回収し、金含有めっき層を定量分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅を含有する基材上、またはニッケル含有下地層を介して金含有めっき層を形成してなる試料から金含有めっき層のみを回収、もしくは金含有めっき層を分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器や電子機器の電極や端子として銅や黄銅が広く使用されており、耐食性の向上や、接触抵抗の低減、挿入力の低減等の目的で金や金合金からなる金含有めっき層で被覆されることが多い。また、金含有めっき層の密着性を高めるために、ニッケル含有下地層を介して金めっき層を形成する場合もある。しかし、金めっき層には、水銀や鉛、カドミウム、クロム等の環境負荷物質が混入していることがあり、それらの含有量を定量する必要がある。
【0003】
金めっき層を分析するには、基材や下地層のみを選択的に溶解して金めっき層のみを回収する必要があるが、これまで基材の銅や銅合金を溶解するために、溶解液として硝酸、または硝酸と塩酸等の他の酸との混合酸使用されている。また、特許文献1に記載されているように、アンモニア水溶液と過酸化水素水との混合物も使用されている。
【0004】
しかしながら、従来の溶解液では基材の銅または銅合金の分解反応が激しすぎ、金含有めっき層も損傷して粉々になり、金含有めっき層の回収効率が低い。金含有めっき層に混入している環境負荷物質は、通常は数ppmと極く微量であるため、回収量が少ないと正確な定量分析ができないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−224423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、銅を含有する基材上に、金含有めっき層が形成された試料から金含有めっき層を効率よく回収し、更には金含有めっき層をより正確に分析することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は下記の金含有めっき層の回収方法及び分析方法
を提供する。
(1)銅を含有する基材上に、金含有めっき層が形成された試料から前記金含有めっき層を剥離して回収する方法であって、前記試料を、硝酸と過酸化水素とを含有する第1水溶液と接触させて前記基材のみを溶解した後、前記金含有めっき層を回収することを特徴とする金含有めっき層の回収方法。
(2)銅を含有する基材上に、ニッケル含有下地層を介して金含有めっき層が形成された試料から前記金含有めっき層を剥離して回収する方法であって、前記試料を、硝酸と過酸化水素とを含有する第1水溶液と接触させて前記基材のみを溶解した後、塩化第二銅と有機酸とを含有する第2水溶液と接触させて前記ニッケル含有下地層のみを溶解し、その後、前記金含有めっき層を回収することを特徴とする金含有めっき層の回収方法。
(3)上記(1)または(2)に記載の回収方法で回収した金含有めっき層を分析することを特徴とする金含有めっき層の分析方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、硝酸と過酸化水素とを含有する第1水溶液を用いることにより、金含有めっき層に損傷を与えることなく、銅を含有する基材のみを選択的に溶解するため、金含有めっき層の回収効率が高く、更には混入している環境負荷物質を分析する場合にもより正確に行なうことができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に関して詳細に説明する、
【0010】
本発明では、銅を含有する基材上に直接金含有めっき層が形成された試料、あるいは銅を含有する基材上に、ニッケル含有下地層を介して金含有めっき層が形成された試料から、金含有めっき層を回収し、分析する。
【0011】
このような試料としては、導電性を高めるために金含有めっき層を形成した電極や端子が一般的である。また、基材としては純銅の他に黄銅等が挙げられ、下地層としては純ニッケルまたはニッケル錫合金等が一般的である。
【0012】
先ず、試料を、硝酸と過酸化水素との混合物からなる第1水溶液に浸漬して基材のみを溶解する。第1水溶液は、60〜65%硝酸を1〜5部、30〜35%過酸化水素を1〜5部及び水1〜5部の混合物とすることができる。硝酸及び過酸化水素の各濃度がこの範囲から外れると、基材の残存、金含有めっき層の損傷が起こる。
【0013】
第1水溶液により基材を溶解する時間は、上記の硝酸及び過酸化水素の各濃度とすることにより、3〜10分程度である。尚、溶解状態は目視で確認することができる。
【0014】
第1水溶液により基材を溶解した後、固液分離して固形分を水洗する。この固形分は、金含有めっき層、あるいは試料がニッケル含有下地層を含む場合は、ニッケル含有下地層と金含有めっき層との積層体である。
【0015】
従って、試料がニッケル含有下地層を含む場合は、固形分からニッケル含有下地層のみを選択的に溶解して除去する必要があり、本発明では、上記で回収した固形分を塩化第二銅と有機酸とを含む第2水溶液、あるいは更に硝酸を加えた溶液に浸漬する。第2水溶液としては、例えば、メルテックス株式会社製の「エンストリップ92液」が知られており、塩化第二銅を5質量%、有機酸を40〜50質量%含有する水溶液である。硝酸を加える場合は、第2水溶液1部に対し、60〜65%硝酸を10部以下、水1〜10部とする。そして、ニッケル含有下地層を溶解した後、固液分離することにより、固形分として金めっき層を回収することができる。
【0016】
このようにして回収した金めっき層を分析するが、湿式分析の場合、例えば60〜65%硝酸1部と35%塩酸1部との混合酸により溶解し、ICP−AESにて定量分析を行なう。尚、ICP−AESについては、例えば「ICP−AES、及びXRFによるSnめっき層中のPb定量分析方法の検討」(山本信雄、久留須 一彦、第67回分析化学討論会講演要旨集 p.189)を参照することができる。この定量分析により、金めっき層中の水銀や鉛、カドミウム、クロム等の環境負荷物質の含有量を定量することができる。
【実施例】
【0017】
以下に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0018】
(実施例1)
黄銅製基材にニッケル下地めっき層を介して、金めっき層を形成して試料を作製した。尚、試料における金めっき層の重量は約0.7gである。
【0019】
先ず、試料を、60%硝酸2部、100%過酸化水素1部及び水1部の混合物ならなる水溶液に浸漬して黄銅製基材を溶解させた。溶解の完了は、目視にて確認した。そして、固液分離して固形分を水洗、乾燥した。また、液相を分析したところ、金の含有量は6.8ppmであり、金めっき層に損傷を与えることなく、黄銅製基材を選択的に溶解していることが確認された。
【0020】
次いで、固形分(ニッケル下地めっき層及び金めっき層)をメルテックス株式会社製「メルストリップ92液」1部と、硝酸10部及び水10部に浸漬してニッケル下地めっき層を溶解させた。溶解の完了は、目視にて確認した。そして、固液分離して固形分を水洗、乾燥した。また、液相を分析したところ、金の含有量は199.6ppmであり、金めっき層を大部分残してニッケル下地めっきを選択的に溶解していることが確認された。
【0021】
次いで、固形分(金めっき層)を、60%硝酸1部と35%塩酸1部との混合酸に溶解し、水で希釈した後、ICP−AESにて定量分析を行なった。結果を表1に示すが、Cu、Ni及びZnは、黄銅製基材またはニッケル下地めっき層に由来する成分であり、上記の溶解工程により、ほぼ完全に選択的に溶解されている。
【0022】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を含有する基材上に、金含有めっき層が形成された試料から前記金含有めっき層を剥離して回収する方法であって、
前記試料を、硝酸と過酸化水素とを含有する第1水溶液と接触させて前記基材のみを溶解した後、前記金含有めっき層を回収することを特徴とする金含有めっき層の回収方法。
【請求項2】
銅を含有する基材上に、ニッケル含有下地層を介して金含有めっき層が形成された試料から前記金含有めっき層を剥離して回収する方法であって、
前記試料を、硝酸と過酸化水素とを含有する第1水溶液と接触させて前記基材のみを溶解した後、塩化第二銅と有機酸とを含有する第2水溶液と接触させて前記ニッケル含有下地層のみを溶解し、その後、前記金含有めっき層を回収することを特徴とする金含有めっき層の回収方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の回収方法で回収した金含有めっき層を分析することを特徴とする金含有めっき層の分析方法。

【公開番号】特開2010−256214(P2010−256214A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107801(P2009−107801)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】