説明

金型装置及び成形品の製造方法

【課題】ダイスライドインジェクション成形においてスライドコアによって成形品にアンダーカット部を成形しても、成形品の変形を抑制することが可能な金型装置及び成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】ダイスライドインジェクション成形に用いる金型装置は、型開閉可能に構成された可動型17及び固定型を有し、可動型17が型開閉方向と直交する方向に沿って第1位置と第2位置との間で移動可能に構成されている。そして、可動型17にはケース部材にアンダーカット部を成形するためのスライドコア30が設けられ、該スライドコア30は可動型17とともに第1位置と第2位置との間で移動可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、アンダーカット部を有する成形品を成形するための金型装置及びアンダーカット部を有する成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、成形品の射出成形に用いる金型としては、特許文献1や特許文献2に記載されたものが知られている。特許文献1には、金型を用いたダイスライドインジェクション成形による成形方法が開示されている。ダイスライドインジェクション成形では、一次射出で射出した溶融樹脂で複数の成形部品を一度に成形し、次に金型の可動型を移動させて二つの成形部品を互いの接合箇所を対向させた後に型締めし、二次射出で射出した溶融樹脂で両成形部品を接合することで一つの樹脂製品を製造する。そして、この成形サイクルを繰り返すことで、樹脂製品が連続的に製造される。
【0003】
また、特許文献2には、成形品にアンダーカット部を成形するためのスライドコアを有する金型が開示されている。スライドコアには金型のキャビティ内に挿入可能なアンダーカット成形部と金型に設けられたアンギュラピンが挿通可能なアンギュラピン挿通孔とが設けられている。そして、スライドコアは、金型が閉じた状態ではアンギュラピン挿通孔にアンギュラピンが挿通されてアンダーカット成形部がキャビティ内に挿入されるとともに、金型が開いた状態ではアンギュラピン挿通孔からアンギュラピンが退避されてアンダーカット成形部がキャビティ内から退避するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−87315号公報
【特許文献2】特開2003−311791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載のダイスライドインジェクション成形において、成形品に例えば筒状のアンダーカット部を成形する場合に特許文献2に記載のスライドコアを用いると、一次射出後の型開き時に金型のキャビティ内からスライドコアのアンダーカット成形部が退避される。このため、二次射出を行うときには一次射出で折角成形したアンダーカット部が二次射出で射出する溶融樹脂の射出圧によって潰れてしまい、成形品が変形してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、ダイスライドインジェクション成形においてスライドコアによって成形品にアンダーカット部を成形しても、成形品の変形を抑制することが可能な金型装置及び成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の金型装置は、互いに対向するように配置されるとともに型開閉可能に構成された第1型及び第2型を有し、前記第1型が型開閉方向と交差する方向に沿って第1位置と第2位置との間で移動可能に構成され、前記第1型が前記第1位置にある状態で該第1型と前記第2型との型締めを行って溶融樹脂を一次射出することにより複数種の成形部材をそれぞれ一度に成形し、前記第1型が前記各成形部材のうちの第1成形部材を保持するとともに前記第2型が前記各成形部材のうちの第2成形部材を保持した状態で前記第1型を前記第1位置から前記第2位置に移動させて前記第1成形部材と前記第2成形部材とが対向する状態で前記第1型と前記第2型との型締めを行った後、前記第1成形部材と前記第2成形部材との接合箇所に形成される接合用キャビティに溶融樹脂を二次射出して前記第1及び第2成形部材を接合するダイスライドインジェクション成形に用いる金型装置において、前記第1型には前記第1成形部材にアンダーカット部を成形するためのスライドコアが設けられ、前記スライドコアは前記第1型とともに前記第1位置と前記第2位置との間で移動可能に構成されている。
【0008】
この発明によれば、スライドコアを第1成形部材のアンダーカット部に挿入した状態で溶融樹脂の二次射出を行うことができるので、二次射出で射出する溶融樹脂の射出圧で第1成形部材のアンダーカット部が潰れることがなくなる。したがって、ダイスライドインジェクション成形においてスライドコアによって成形品にアンダーカット部を成形しても、成形品の変形を抑制することが可能となる。
【0009】
本発明の金型装置において、前記第1型が前記第1位置にある状態で前記スライドコアを保持する第1保持手段と、前記第1型が前記第2位置にある状態で前記スライドコアを保持する第2保持手段とを備えた。
【0010】
この発明によれば、第1保持手段及び第2保持手段により、第1型が第1位置にあっても第2位置にあってもスライドコアを第1型と第2型とで形成されるキャビティ内に保持することが可能となる。
【0011】
本発明の金型装置において、前記第1保持手段は前記第1型が前記第1位置にある状態で前記スライドコアと係合する第1係合部材を備えるとともに、前記第2保持手段は前記第1型が前記第2位置にある状態で前記スライドコアと係合する第2係合部材を備える。
【0012】
この発明によれば、スライドコアが第1係合部材及び第2係合部材とそれぞれ係合することで、第1型が第1位置にあっても第2位置にあってもスライドコアの位置決めを行うことが可能となる。
【0013】
本発明の金型装置において、前記第1型が前記第1位置にある状態で該第1型と前記第2型との型締めを行う際に、前記第1係合部材を介して前記スライドコアを挿入側へ押圧する係合押圧手段を備えている。
【0014】
この発明によれば、第1型と第2型との型締めを行う際に係合押圧手段によってスライドコアを挿入側へ押圧することで、第1型と第2型とで形成されるキャビティ内に溶融樹脂を一次射出する際の射出圧によって該キャビティ内からスライドコアが押し出されることを抑制することが可能となる。
【0015】
本発明の金型装置において、前記係合押圧手段は、前記第1型が前記第1位置にある状態で該第1型と前記第2型との型締めを行う際に前記第1係合部材と係合して該第1係合部材を介して前記スライドコアを挿入側へ押圧する係合押圧部によって構成されている。
【0016】
この発明によれば、第1型と第2型との型締めにともなって係合押圧部がスライドコアを挿入側へ押圧するので、第1型と第2型とで形成されるキャビティ内に溶融樹脂を一次射出する際の射出圧によって該キャビティ内からスライドコアが押し出されることを抑制することが可能となる。
【0017】
本発明の金型装置において、前記第1保持手段は、前記第1係合部材を、前記第1型が前記第1位置に移動したときに前記スライドコアと係合可能な位置に保持している。
この発明によれば、第1型の第1位置への移動により、スライドコアと第1係合部材とを確実に係合させることが可能となる。
【0018】
本発明の金型装置において、前記第2保持手段は、前記第1及び第2成形部材を接合した後、前記第1型と前記第2型との型開きを行う際に、前記第1成形部材から前記スライドコアを引き抜く機能を有している。
【0019】
この発明によれば、接合後の第1及び第2成形部材を第1型から容易に取り出すことが可能となる。
本発明の成形品の製造方法は、ダイスライドインジェクション成形による成形品の製造方法であって、第1型を第1位置にある状態で該第1型と第2型との型締めを行うことで形成される複数種のキャビティのうちのアンダーカット部を成形する部分にスライドコアを配置した状態で溶融樹脂を一次射出することにより複数種の成形部材をそれぞれ一度に成形する一次射出ステップと、前記第1型に前記各成形部材のうちの前記スライドコアが挿入された第1成形部材を保持させるとともに前記第2型に前記各成形部材のうちの前記スライドコアが挿入されていない第2成形部材を保持させた状態で、前記第1成形部材と前記第2成形部材とが互いに対向する第2位置まで前記第1型を前記スライドコアとともに型開閉方向と交差する方向に沿って移動させて前記第1型と前記第2型との型締めを行う移動型締めステップと、前記第1成形部材と前記第2成形部材との接合箇所に形成される接合用キャビティに、前記第1成形部材に前記スライドコアが挿入された状態で、溶融樹脂を二次射出して前記第1成形部材と前記第2成形部材とを接合する二次射出ステップとを備えた。
【0020】
この発明によれば、上記と同様の作用効果を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態の射出成型機において、(a)は金型を開いたときの状態を示す模式平断面図、(b)は金型を閉じたときの状態を示す模式平断面図。
【図2】実施形態の金型装置の固定盤において、可動型が第1位置にあるときの状態を示す正面図。
【図3】実施形態の金型装置の固定盤において、可動型が第2位置にあるときの状態を示す正面図。
【図4】実施形態の金型装置の固定盤において、可動型が第2位置にあり、かつスライドコアが可動型の第1可動キャビティ面上から退避したときの状態を示す正面図。
【図5】実施形態の金型装置の可動盤を示す正面図。
【図6】実施形態において、(a)は第1スライドブロックにスライドコアが係合したときの状態を示す要部拡大断面図、(b)は(a)の状態において第1スライドブロックにさらに係合押圧部が係合したときの状態を示す要部拡大断面図。
【図7】実施形態において、第2スライドブロックにスライドコアが係合したときの状態を示す要部拡大断面図。
【図8】実施形態において、(a)は成形品の平面図、(b)は(a)の側面図。
【図9】実施形態の射出成形機の電気的構成を示すブロック図。
【図10】実施形態の射出成型機において、(a)は金型の1次型締めを行ったときの状態を示す模式平断面図、(b)は金型のキャビティに溶融樹脂を一次射出したときの状態を示す模式平断面図。
【図11】実施形態の射出成型機において、(a)は金型の1次型開き行ったときの状態を示す模式平断面図、(b)は金型の可動型を第1位置から第2位置に移動させてフィルターをセットするときの状態を示す模式平断面図。
【図12】実施形態の射出成型機において、(a)は金型の2次型締めを行ったときの状態を示す模式平断面図、(b)は金型の接合用キャビティに溶融樹脂を二次射出したときの状態を示す模式平断面図。
【図13】実施形態の射出成型機において、(a)は金型の2次型開き行ったときの状態を示す模式平断面図、(b)は成形品からスライドコアを引き抜いたときの状態を示す模式平断面図。
【図14】実施形態の射出成型機において、金型から成形品を取り出したときの状態を示す模式平断面図。
【図15】実施形態の射出成型機において、金型のキャビティに溶融樹脂を一次射出することによって成形されたケース部材及び各針部材を示す斜視図。
【図16】実施形態の射出成型機において、金型のキャビティに溶融樹脂を一次射出することによって成形されたケース部材に各フィルターをセットしたときの状態を示す斜視図。
【図17】実施形態の射出成型機において、金型の2次型締めを行った際に、ケース部材と各針部材とによって各フィルターを挟んだときの状態を示す斜視図。
【図18】実施形態の射出成型機において、金型の接合用キャビティに溶融樹脂を二次射出してケース部材と各針部材とを接合したときの状態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した第一実施形態を図1〜図18に従って説明する。
図1(a)、(b)は射出成形機の構成を示す模式平断面図である。図1(a)に示すように、射出成形機11は、金型装置12と、該金型装置12に熱可塑性の溶融樹脂を射出するための射出装置13(押出機)とを備えている。金型装置12は互いに対向するように配置された直方体状の固定盤14及び可動盤15を備えており、可動盤15は油圧シリンダーなどで構成される可動盤用アクチュエーター20(図9参照)により固定盤14に対して近接及び離間する方向(型開閉方向)へ移動可能になっている。
【0023】
固定盤14には金型装置12を構成する金型16の第1型としての可動型17が取着されるとともに、可動盤15には金型装置12を構成する金型16の第2型としての固定型18が取着されている。すなわち、可動型17と固定型18とは互いに対向している。
【0024】
図1(b)に示すように、可動型17と固定型18とが当接した型閉状態では、金型16の内部にはキャビティ16aが形成される。本実施形態の金型装置12はダイスライドインジェクション成形用のものであり、可動型17は固定型18に対して型開閉方向(図1では上下方向)と直交する方向(図1では左右方向)へのスライド移動が可能となっている。
【0025】
図2に示すように、固定盤14の可動盤15との対向面上における上下方向の中央部には可動型17のスライド移動方向(図2では左右方向)に延びるガイド溝21が設けられており、該ガイド溝21内には可動型17がガイドされた状態で摺動可能に収容されている。ガイド溝21は、右側が閉塞されているとともに、左側が開口している。固定盤14の左側面におけるガイド溝21の左側の開口を挟んだ上下両側には、略L字状をなすガイドブロック22が対をなすように設けられている。両ガイドブロック22は、左右方向においてガイド溝21の開口と一部が重なるように該開口側に突出している。
【0026】
固定盤14におけるガイド溝21の右側には該ガイド溝21内と固定盤14の右側面とを連通する連通溝23が形成されている。固定盤14の右側面には、エアシリンダーなどで構成されてダイスライドに用いられる可動型用アクチュエーター24が連通溝23と対応するように設けられている。可動型用アクチュエーター24は突出及び退避自在に構成されたロッド24aを備えており、該ロッド24aは連通溝23に挿通されてその先端が可動型17の右側面に接続されている。
【0027】
したがって、図1(a)、(b)及び図2に示すように、金型16が開いた状態で可動型用アクチュエーター24がロッド24aを突出又は退避させる方向(伸縮させる方向)に駆動して、可動型17の固定型18に対する左右方向の相対位置を変化させることで、型閉状態で金型16内に形成されるキャビティ16aの形状、すなわち成形対象を変更できるようになっている。
【0028】
そして、可動型17の右面がガイド溝21の右面に当接したときの該可動型17の位置(図2に示す位置)は第1位置とされ、可動型17の左面が両ガイドブロック22に当接したときの該可動型17の位置(図3に示す位置)は第2位置とされている。したがって、可動型17は、可動型用アクチュエーター24により、ガイド溝21内を第1位置と第2位置との間で往復移動可能になっている。
【0029】
図1(b)及び図2に示すように、固定盤14の可動盤15との対向面上におけるガイド溝21の下側には、射出装置13から延びるスプルー25が開口している。さらに、固定盤14の可動盤15との対向面上には、一端側がスプルー25の開口と連通するとともに他端側がガイド溝21と連通する1次ランナー26が設けられている。固定盤14におけるスプルー25及び1次ランナー26の周囲にはヒーター(図示略)が埋設されており、該ヒーターからの熱によりスプルー25及び1次ランナー26を流れる熱可塑性の溶融樹脂がスプルー25及び1次ランナー26において固化しないようになっている。
【0030】
可動型17における固定型18との対向面17aには、該可動型17の移動方向(図2では左右方向)に沿って並ぶように、第1可動キャビティ面27及び第2可動キャビティ面28が形成されている。第1可動キャビティ面27は第2可動キャビティ面28よりも可動型用アクチュエーター24に近い位置に位置している。また、可動型17の対向面17aにおける上端部は、該対向面17aにおける他の部位よりも高さの低い段差部17bが形成されている。
【0031】
可動型17の対向面17aにおける第1可動キャビティ面27の上側には段差部17bと第1可動キャビティ面27とを連通するスライドコア収容溝29が形成されており、該スライドコア収容溝29内にはスライドコア30が摺動可能に配置されている。スライドコア30の下端部には該スライドコア30における他の部位よりも幅狭のアンダーカット形成部30aが形成されており、該アンダーカット形成部30aは第1可動キャビティ面27上に突出している。
【0032】
可動型17の対向面17aにおける第1可動キャビティ面27と第2可動キャビティ面28との間には、可動型17が第1位置にある場合に1次ランナー26と連通する2次ランナー31が上下方向に延びるように設けられている。2次ランナー31の上端部は、第1可動キャビティ面27の上端及び第2可動キャビティ面28の上端よりも若干上側まで達している。また、第2可動キャビティ面28の上部には下側が2つに分岐した2次ランナー32が設けられており、該2次ランナー32の上端部は第2可動キャビティ面28の上端よりも若干上側まで達している。
【0033】
図3に示すように、可動型17の対向面17aにおける第1可動キャビティ面27の右側には、可動型17が第2位置にある場合に1次ランナー26と連通する2次ランナー33が上下方向に延びるように設けられている。2次ランナー33の上端部は第1可動キャビティ面27の上端よりも若干下側まで達している。そして、2次ランナー33は、その上端部において第1可動キャビティ面27と連通している。
【0034】
図2に示すように、固定盤14の可動盤15との対向面上におけるガイド溝21の上側であって可動型17が第1位置にある場合のスライドコア30と対応する位置には、上下方向に延びる第1ブロック収容溝34が形成されている。第1ブロック収容溝34は、上側が閉塞されているとともに、下側がガイド溝21と連通している。第1ブロック収容溝34の上面にはコイルばね35を介して第1係合部材としての第1スライドブロック36が該第1ブロック収容溝34内を摺動可能に支持されている。なお、本実施形態ではコイルばね35と第1スライドブロック36とにより第1保持手段が構成されている。
【0035】
図2及び図6(a)に示すように、第1スライドブロック36の上面は第1ブロック収容溝34の底面に向って上昇するように傾斜した傾斜面36aになっており、第1スライドブロック36の下端部には断面視略L字状をなす鉤状部36bが形成されている。第1スライドブロック36の鉤状部36bは、ガイド溝21内に突出しているとともに、可動型17が第1位置にある場合におけるスライドコア30の上端部に形成された鉤状部30bと可動型17の段差部17b上において係合している。なお、第1スライドブロック36は、通常、可動型17が第2位置から第1位置へ移動するときに、その鉤状部36bがスライドコア30の鉤状部30bと摺接しながら係合する位置にコイルばね35によって保持されている。
【0036】
また、図3に示すように、固定盤14の可動盤15との対向面上におけるガイド溝21の上側であって可動型17が第2位置にある場合のスライドコア30と対応する位置には、上下方向に延びる第2ブロック収容溝37が形成されている。第2ブロック収容溝37は、上側が開口しているとともに、下側がガイド溝21と連通している。第2ブロック収容溝37内には第2係合部材としての第2スライドブロック38が摺動可能に配置されている。
【0037】
固定盤14の上側であって第2ブロック収容溝37と対応する位置には、エアシリンダーなどで構成されるスライドコア用アクチュエーター39が設けられている。スライドコア用アクチュエーター39は突出及び退避自在に構成されたロッド39aを備えており、該ロッド39aは第2ブロック収容溝37に挿通されてその先端が第2スライドブロック38の上面に接続されている。
【0038】
したがって、第2スライドブロック38は、スライドコア用アクチュエーター39がロッド39aを突出または退避させることで、第2ブロック収容溝37に沿って上下に摺動するようになっている。なお、本実施形態ではスライドコア用アクチュエーター39と第2スライドブロック38とにより第2保持手段が構成されている。
【0039】
図3及び図7に示すように、第2スライドブロック38の下端部には断面視略L字状をなす鉤状部38aが形成されている。第2スライドブロック38の鉤状部38aは、ガイド溝21内に突出しているとともに、可動型17が第2位置にある場合におけるスライドコア30の鉤状部30bと可動型17の段差部17b上において係合している。なお、第2スライドブロック38は、通常、可動型17が第1位置から第2位置へ移動するときに、その鉤状部38aがスライドコア30の鉤状部30bと摺接しながら係合する位置にスライドコア用アクチュエーター39によって保持されている。
【0040】
また、図4に示すように、スライドコア用アクチュエーター39は、可動型17が第2位置にある場合においてロッド39aを退避させることで、第2スライドブロック38を介してスライドコア30を上昇させて、該スライドコア30のアンダーカット形成部30aを可動型17の第1可動キャビティ面27上から退避させることが可能になっている。
【0041】
図1(a)、図2及び図5に示すように、可動盤15の固定型18における可動型17との対向面18aには、第1位置にある状態の可動型17の第1可動キャビティ面27及び第2可動キャビティ面28と対応するように、第1固定キャビティ面40及び第2固定キャビティ面41がそれぞれ形成されている。固定型18の対向面18aにおける第1固定キャビティ面40及び第2固定キャビティ面41の上側には、左右方向に延びる2次ランナー42が形成されている。
【0042】
2次ランナー42は、第1位置にある状態の可動型17と固定型18との型閉めを行った場合に、中央部において可動型17の2次ランナー31の上端部と連通するようになっている。この場合、図5における固定型18の2次ランナー42の左端部は可動型17の第1可動キャビティ面27と固定型18の第1固定キャビティ面40とで形成されるキャビティと連通するとともに、図5における固定型18の2次ランナー42の右端部は可動型17の2次ランナー32の上端部と連通するようになっている。また、図3及び図5に示すように、可動型17が第2位置にある状態では、可動型17の第1可動キャビティ面27と固定型18の第2固定キャビティ面41とが対向するようになっている。
【0043】
図2及び図5に示すように、可動盤15の固定盤14との対向面上における第1スライドブロック36と対向する位置には、係合押圧手段としてのブロック状の係合押圧部43が突設されている。係合押圧部43の下面は第1スライドブロック36の傾斜面36aと対応する傾斜面43aになっている。
【0044】
そして、図6(a)、(b)に示すように、可動型17と固定型18との型閉めを行う際には、第1スライドブロック36の傾斜面36a上を係合押圧部43の傾斜面43aが摺動することで、係合押圧部43が第1スライドブロック36を介してスライドコア30を挿入側である下側に向かって押圧するようになっている。この押圧により、第1スライドブロック36の鉤状部36bとスライドコア30の鉤状部30bとの間の僅かな隙間が埋められて、鉤状部36bと鉤状部30bとのがたつきが解消されるようになっている。
【0045】
図8は、本実施形態の射出成形機11によって成形される成形品(製品)の一例を示している。図8(a)は成形品の平面図であり、同図(b)は成形品の側面図である。本実施形態の成形品50は、プリンターの記録ヘッドが取り付けられるプリンター用の部品であり、第1成形部材としてのケース部材51と、4つのフィルター52(図16参照)と、第2成形部材としての4つのインク供給用の針部材53とから構成されている。ケース部材51は、図8(b)に示すように、略三角筒状をなすアンダーカット部51aを有している。
【0046】
図9に示すように、射出成形機11は、その可動状態を制御するための制御部44と、可動盤15の位置を検出するための可動盤用位置センサー45と、可動型17の位置を検出するための可動型用位置センサー46と、スライドコア30の位置を検出するためのスライドコア用位置センサー47とを備えている。
【0047】
制御部44は、可動盤用位置センサー45、可動型用位置センサー46、スライドコア用位置センサー47、可動盤用アクチュエーター20、可動型用アクチュエーター24、及びスライドコア用アクチュエーター39とそれぞれ電気的に接続されている。そして、制御部44は、可動盤用位置センサー45、可動型用位置センサー46、及びスライドコア用位置センサー47から送信されるそれぞれの信号に基づいて、可動盤用アクチュエーター20、可動型用アクチュエーター24、及びスライドコア用アクチュエーター39の駆動をそれぞれ制御するようになっている。
【0048】
次に、射出成形機11を用いたダイスライドインジェクション成形による成形品50の製造方法について説明する。また、図10〜図14では、ダイスライドインジェクション成形を分かり易く説明するため、成形品の形状及びキャビティの形状は、実際の記録ヘッド用製品の形状とは異なる模式図で描いている。
【0049】
成形品50を製造するには、まず、可動型17が第1位置にある状態で可動盤15を可動盤用アクチュエーター20により型閉方向へ移動させて金型16(可動型17及び固定型18)の1次型締めを行う(図10(a)参照)。このとき、金型16のキャビティ16aのうちケース部材51のアンダーカット部51aを成形する部分には、スライドコア30のアンダーカット形成部30aが挿入されている。
【0050】
続いて、射出装置13から金型16に対しケース部材51と針部材53とを1ショットで成形可能な形状を有するキャビティ16aに溶融樹脂を一次射出する(図10(b)参照;一次射出ステップ)。このとき、スライドコア30には溶融樹脂の射出圧がかかるが、スライドコア30は射出圧に抗して係合押圧部43により第1スライドブロック36を介してキャビティ16aへの挿入側に押圧されているため、スライドコア30の位置がずれることはない。
【0051】
そして、キャビティ16a内の溶融樹脂が冷えて固化することで、図15に示すように、1つのケース部材51及び4つの針部材53が一度に成形される。続いて、可動盤15を可動盤用アクチュエーター20により型開方向へ移動させて金型16の1次型開きを行う(図11(a)参照)。このとき、ケース部材51は可動型17に保持されるとともに、各針部材53は固定型18に保持される。さらにこのとき、2次ランナー31,32,42によって成形された不要部分Aは取り除かれる。
【0052】
続いて、可動型17を可動型用アクチュエーター24によりスライドコア30とともに第1位置から第2位置へとスライド移動させる(図11(b)参照)。これにより、可動型17側のケース部材51と固定型18側の各針部材53とがそれぞれの接合箇所を対向させた状態で配置される。このとき、スライドコア30は第2スライドブロック38と係合する。さらにこのとき、図15及び図16に示すように、4つのフィルター52を、ケース部材51の4つの供給路の供給口54を覆うように該各供給口54上にそれぞれ1つずつセット(インサート)する。
【0053】
続いて、可動盤15を可動盤用アクチュエーター20により型閉方向へ移動して金型16の2次型締めを行う(図12(a)参照;移動型締めステップ)。このとき、ケース部材51と各針部材53との接合箇所が各フィルター52を挟むように突き合わせられ、かつ接合箇所の外周に沿って溝状のキャビティ(接合用キャビティ)が形成される(図12(a)及び図17参照)。
【0054】
続いて、射出装置13から金型16に対しケース部材51と各針部材53との接合箇所の外周に沿って延びる溝状のキャビティに溶融樹脂を二次射出して、この二次射出した溶融樹脂によりケース部材51と各針部材53とを接合する(図12(b)参照;二次射出ステップ)。これにより、成形品50(製品)が成形される(図18参照)。このとき、二次射出した溶融樹脂の射出圧がケース部材51のアンダーカット部51aにかかるが、スライドコア30のアンダーカット形成部30aはケース部材51のアンダーカット部51aに挿入されたままなので、該射出圧によりアンダーカット部51aが潰れたり変形したりすることはない。
【0055】
続いて、可動盤15を可動盤用アクチュエーター20により型開方向へ移動させて金型16の2次型開きを行う(図13(a)参照)。続いて、スライドコア30をスライドコア用アクチュエーター39により第2スライドブロック38を介してケース部材51から引き抜く(図13(b)参照)。すなわち、ケース部材51のアンダーカット部51aからスライドコア30のアンダーカット形成部30aを退避させる。
【0056】
続いて、可動盤15を可動盤用アクチュエーター20により型開方向へさらに移動させて金型16の型開き量を大きくする(図14参照)。その後、成形品50(製品)を金型16から取り外す。このとき、2次ランナー33によって成形された不要部分Bは取り除かれる。
【0057】
以上、詳述した実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
(1)金型装置12の可動型17にはケース部材51にアンダーカット部51aを成形するためのスライドコア30が設けられ、該スライドコア30は可動型17とともに第1位置と第2位置との間で移動可能に構成されている。このため、溶融樹脂の一次射出によってケース部材51を成形した後に、スライドコア30のアンダーカット形成部30aをケース部材51のアンダーカット部51aに挿入した状態で溶融樹脂の二次射出を行うことができるので、二次射出で射出する溶融樹脂の射出圧でケース部材51のアンダーカット部51aが潰れたり変形したりすることがなくなる。したがって、ダイスライドインジェクション成形においてスライドコア30によって成形品50にアンダーカット部51aを成形しても、成形品50の変形を抑制することができる。
【0058】
(2)金型装置12は、可動型17が第1位置にある状態でスライドコア30と係合する第1スライドブロック36と、可動型17が第2位置にある状態でスライドコア30と係合する第2スライドブロック38とを備えている。このため、スライドコア30が第1スライドブロック36及び第2スライドブロック38とそれぞれ係合することで、可動型17が第1位置にあっても第2位置にあってもスライドコア30を位置決め状態で保持することができる。
【0059】
(3)金型装置12の可動盤15には、可動型17が第1位置にある状態で金型16(可動型17及び固定型18)の型締めを行う際に第1スライドブロック36と係合して該第1スライドブロック36を介してスライドコア30を挿入側へ押圧する係合押圧部43が設けられている。このため、金型16の型締めにともなって係合押圧部43がスライドコア30を挿入側へ押圧するので、金型16のキャビティ16a内に溶融樹脂を一次射出する際の射出圧によって該キャビティ16a内からスライドコア30のアンダーカット形成部30aが押し出されることを抑制することができる。
【0060】
(4)第1スライドブロック36は、可動型17が第2位置から第1位置へ移動するときに、その鉤状部36bがスライドコア30の鉤状部30bと摺接しながら係合する位置にコイルばね35によって保持されている。このため、可動型17の第1位置への移動により、スライドコア30の鉤状部30bと第1スライドブロック36の鉤状部36bとを確実に係合させることができる。
【0061】
(5)スライドコア用アクチュエーター39は、成形品50が成形された後、金型16の型開きを行う際に、第2スライドブロック38を介してスライドコア30を成形品50から引き抜くことが可能になっているため、金型16から成形品50を容易に取り出すことができる。
(変更例)
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0062】
・成形品50が成形された後、金型16の型開きを行う際に、第2スライドブロック38を介してスライドコア30を手動によって成形品50から引き抜くように構成してもよい。
【0063】
・第1スライドブロック36は、可動型17が第2位置から第1位置へ移動した後にスライドコア30と係合するように構成してもよい。この場合、コイルばね35の代わりに、第1スライドブロック36をスライドコア30と係合する係合位置とスライドコア30と係合しない非係合位置との間で移動させることが可能なアクチュエーターを設ける必要がある。
【0064】
・コイルばね35を省略し、第1スライドブロック36を第1ブロック収容溝34に沿って往復移動可能なアクチュエーター(例えばエアシリンダーや油圧シリンダーなど)を係合押圧手段として用いてもよい。このようにすれば、可動型17が第1位置にある状態で金型16の型締めを行う際に、アクチュエーターによって第1スライドブロック36を介してスライドコア30を挿入側へ押圧することができる。このため、可動盤15から係合押圧部43を省略することができる。
【0065】
・第1保持手段及び第2保持手段のうち少なくとも一方を省略してもよい。
・金型装置12は、金型16を複数個取りの構造とし、1回の成形サイクルで複数個ずつ成形品50(製品)を製造するように構成してもよい。
【0066】
さらに、上記実施形態から把握できる技術的思想を以下に記載する。
(イ)請求項1〜請求項7のうちいずれか一項に記載の金型装置と、該金型装置に溶融樹脂を射出するための射出装置とを備えたことを特徴とする射出成形機。
【符号の説明】
【0067】
11…射出成型機、12…金型装置、13…射出装置、16a…キャビティ、17…第1型としての可動型、18…第2型としての固定型、30…スライドコア、35…第1保持手段を構成するコイルばね、36…第1保持手段を構成する第1係合部材としての第1スライドブロック、38…第2保持手段を構成する第2係合部材としての第2スライドブロック、39…第2保持手段を構成するスライドコア用アクチュエーター、43…係合押圧手段としての係合押圧部、50…成形品、51…第1成形部材としてのケース部材、51a…アンダーカット部、53…第2成形部材としての針部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向するように配置されるとともに型開閉可能に構成された第1型及び第2型を有し、前記第1型が型開閉方向と交差する方向に沿って第1位置と第2位置との間で移動可能に構成され、前記第1型が前記第1位置にある状態で該第1型と前記第2型との型締めを行って溶融樹脂を一次射出することにより複数種の成形部材をそれぞれ一度に成形し、前記第1型が前記各成形部材のうちの第1成形部材を保持するとともに前記第2型が前記各成形部材のうちの第2成形部材を保持した状態で前記第1型を前記第1位置から前記第2位置に移動させて前記第1成形部材と前記第2成形部材とが対向する状態で前記第1型と前記第2型との型締めを行った後、前記第1成形部材と前記第2成形部材との接合箇所に形成される接合用キャビティに溶融樹脂を二次射出して前記第1及び第2成形部材を接合するダイスライドインジェクション成形に用いる金型装置において、
前記第1型には前記第1成形部材にアンダーカット部を成形するためのスライドコアが設けられ、
前記スライドコアは前記第1型とともに前記第1位置と前記第2位置との間で移動可能に構成されていることを特徴とする金型装置。
【請求項2】
前記第1型が前記第1位置にある状態で前記スライドコアを保持する第1保持手段と、前記第1型が前記第2位置にある状態で前記スライドコアを保持する第2保持手段とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の金型装置。
【請求項3】
前記第1保持手段は前記第1型が前記第1位置にある状態で前記スライドコアと係合する第1係合部材を備えるとともに、前記第2保持手段は前記第1型が前記第2位置にある状態で前記スライドコアと係合する第2係合部材を備えることを特徴とする請求項2に記載の金型装置。
【請求項4】
前記第1型が前記第1位置にある状態で該第1型と前記第2型との型締めを行う際に、前記第1係合部材を介して前記スライドコアを挿入側へ押圧する係合押圧手段を備えていることを特徴とする請求項3に記載の金型装置。
【請求項5】
前記係合押圧手段は、前記第1型が前記第1位置にある状態で該第1型と前記第2型との型締めを行う際に前記第1係合部材と係合して該第1係合部材を介して前記スライドコアを挿入側へ押圧する係合押圧部によって構成されていることを特徴とする請求項4に記載の金型装置。
【請求項6】
前記第1保持手段は、前記第1係合部材を、前記第1型が前記第1位置に移動したときに前記スライドコアと係合可能な位置に保持していることを特徴とする請求項3〜請求項5のうちいずれか一項に記載の金型装置。
【請求項7】
前記第2保持手段は、前記第1及び第2成形部材を接合した後、前記第1型と前記第2型との型開きを行う際に、前記第1成形部材から前記スライドコアを引き抜く機能を有していることを特徴とする請求項2〜請求項6のうちいずれか一項に記載の金型装置。
【請求項8】
ダイスライドインジェクション成形による成形品の製造方法であって、
第1型を第1位置にある状態で該第1型と第2型との型締めを行うことで形成される複数種のキャビティのうちのアンダーカット部を成形する部分にスライドコアを配置した状態で溶融樹脂を一次射出することにより複数種の成形部材をそれぞれ一度に成形する一次射出ステップと、
前記第1型に前記各成形部材のうちの前記スライドコアが挿入された第1成形部材を保持させるとともに前記第2型に前記各成形部材のうちの前記スライドコアが挿入されていない第2成形部材を保持させた状態で、前記第1成形部材と前記第2成形部材とが互いに対向する第2位置まで前記第1型を前記スライドコアとともに型開閉方向と交差する方向に沿って移動させて前記第1型と前記第2型との型締めを行う移動型締めステップと、
前記第1成形部材と前記第2成形部材との接合箇所に形成される接合用キャビティに、前記第1成形部材に前記スライドコアが挿入された状態で、溶融樹脂を二次射出して前記第1成形部材と前記第2成形部材とを接合する二次射出ステップと
を備えたことを特徴とする成形品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2010−173107(P2010−173107A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15758(P2009−15758)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】