説明

金属−炭素含有体を調製する方法

本発明は、金属-炭素含有体の生成を対象とし、本方法は、セルロース体、セルロース類似体または炭水化物体を、少なくとも1つの金属化合物の水溶液に含浸した後、含浸体を不活性で実質的に無酸素の雰囲気中で加熱し、これにより、少なくとも1つの金属化合物の少なくとも一部を還元して、その対応する金属または金属合金にすることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属-炭素含有体、より特定すれば、鉄、ニッケルおよびコバルトもしくはこれらの金属合金などの強磁性金属のコアであって、表面が黒鉛炭素の層もしくはこのような強磁性粒子の凝集体によって被覆されたコアを備える、強磁性体を生成する方法、または還元するのが難しい金属の粒子を含む触媒活性金属粒子を表面上に有する黒鉛体を生成する方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
一般に、触媒活性材料は、多少とも微細に分布するようにして高多孔質材料に施用される。これは、一方で、多数の触媒活性材料が、触媒を前処理または使用しなければならない温度で迅速に焼結するために、なされる。他方で、貴金属、例えば、白金、パラジウム、またはルテニウムなどの非常に高価な触媒活性材料の場合、担体材料を使用しなければならない。この場合、目的は、触媒活性成分の最大原子数を触媒活性粒子の表面上に得ることである。従って、これらの触媒活性材料は、しばしば、約1nmのサイズの粒子として使用される。貴金属などの高価な触媒活性材料を使用する場合、炭素系担体は、非常に魅力的である。触媒が失活したとき、貴金属は、炭素担体を酸化することによって容易に回収できる。酸化後には貴金属が残留しており、再び使用することができる。
【0003】
触媒担体の機械的強度は、その用途に非常に重要である。これは、先ず第一に、液相中に懸濁された触媒を使用することに当てはまる。触媒活性粒子を液体中によく分散したままにするためには、液体を激しく撹拌しなければならない。さらに、触媒は反応の完了時に、例えばろ過または遠心分離により、液体から分離しなければならない。この間に、機械的強度の低い担体粒子は、崩壊して、極めて小さな粒子が生じよう。現状の技術では、このような粒子は、ろ過または遠心分離によって容易に分離できない。特に、貴金属が触媒活性材料として使用される場合、高価な貴金属が許容できないほど失われようから、これは許されることではない。機械的強度は、触媒が固定床触媒として使用される場合も、非常に重要である。触媒体を反応器内に導入する間、事実上、摩耗またはダスト生成は許容されない。ダスト生成により触媒床前後に大きな圧力損失が起きる一方、摩耗で生じた小さな粒子は、反応器を通過する反応物流によって同伴される。摩耗による小さな粒子の形成は、やがては、不安定な性能を示す触媒も生じる。大抵の場合は選択性が低下する。安定な性能が制御および安全性の面から必要であるため、どちらの効果も望ましくない。
【0004】
一般的な現状技術によれば、活性炭が炭素担体として使用される。活性炭は、木材や泥炭などの天然材料から製造される。これは、一般にこのような材料から得られた活性炭の特性を制御することが困難であるため、好ましくない。従って、一定で調節性良好な特性を有する活性炭を含む物体を提供することは、これまでに満足に解決されていない既知の課題である。さらなる難点は、触媒粒子を分散しなければならない液体中に、洗浄剤などの(少量の)界面活性剤が存在するとき、活性炭から生成した触媒体が、急速に崩壊してしまう恐れがあることである。
【0005】
摩耗が許容されない固定触媒床用の物体の場合、最も明らかにあり得ることは、ココナツ殻の熱処理によって得られた炭素の使用である。これにより、非常に強靱で機械的に強固な物体が提供される。しかし、ココナツ殻の熱分解によって得られた炭素の接触可能表面が小さいことが、欠点である。結果として、単位体積当たりに得られる触媒活性表面は、比較的小さい。
【0006】
天然出発材料から生成された担体材料の最後の欠点は、その化学組成である。天然材料は、しばしば、カリウム、マグネシウム、カルシウム、および硫黄などの元素を含有しており、これらは、触媒として使用されている間、または貴金属を再利用している間に、問題を引き起こし得る。従って、高い機械的強度と極めてよく制御された化学組成とを有し、その結果、泥炭および木材の出発材料より良好にその特性を制御できる原料から生成できる炭素系担体に対して、強い技術的必要性が存在する。
【0007】
このような触媒担体を、炭素ナノファイバーまたはナノチューブから製造することが提案されてきた。WO93/24214(Hyperion)では、黒鉛層がフィラメント軸に対して本質的に並列に配向された触媒担体として、炭素ナノファイバーまたはナノチューブを使用することが提案されている。このような比較的長く、直線状の炭素フィラメントを、制御可能な寸法を有する物体として使用することは、困難である。
【0008】
固定触媒床内に使用する触媒体は、最小サイズが約1mmでなければならない。より小さな粒子に伴う圧力損失は、高過ぎて技術的応用が難しい。上述の炭素ナノファイバーまたはナノチューブから、これらのサイズの機械的に強固な物体を製造することは、非常に困難であることが判明した。
【0009】
実際、触媒に関して、寸法および多孔度は非常に重要である。固定触媒床では、担体の寸法は、圧力損失と、触媒体を介した反応物および反応生成物の輸送とを決定する。液体に懸濁された触媒の場合、反応物および反応生成物の輸送は、非常に重要である。上記に示したように、触媒体の寸法は、これらの輸送、ならびに例えばろ過または遠心分離による触媒体の分離に対して、非常に重要である。別の欠点は、炭素ナノファイバーまたはナノチューブが、二酸化ケイ素または酸化アルミニウムなどの担体に施用された金属粒子から成長しなければならないことである。これらの担体は、しばしば、液相反応中における得られた炭素担体の施用を妨害し得る。
【0010】
WO2007/131795(Glatt)では、微結晶性セルロースの球体を熱分解することにより、炭素系担体を製造することが提案されている。このような球体は、医薬化合物の制御放出(「徐放」)に関する現状技術では、既知である。非常に高い機械的強度を有する炭素球体を、この方法によって生成できることが見出された。約0.1〜0.7mmの寸法の微結晶性セルロース球体が工業的に生産されていることを考慮すると、上記炭素球体は一定品質で製造できる。
【0011】
微結晶性セルロースの欠点は、価格が高いことである。微結晶性セルロース球体の熱処理中に、その重量は80%減少する。これは、担体の単位重量当たりの費用が、現状技術に従って得られる炭素球体と比較して、非常に高くなることを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO93/24214
【特許文献2】WO2007/131795
【特許文献3】WO99/46782
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Bo Hu, Shu-Hong Yu, Kan Wang, Lei LiuおよびXue-Wei Xu Dalton Trans. 2008, 5414〜5423頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、金属および炭素に基づく物体の生成を対象とし、この物体は、容易に生成でき、特に触媒用途に有利な特性を有し得る。
【0015】
本発明は、使用する1つまたは複数の金属の特質に応じて、様々な種類の金属-炭素体を生成できることが見出されたことに、基づいている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1における黒鉛繊維の強磁性ガーゼの顕微鏡写真。
【図2】実施例2において走査型電子顕微鏡内で後方散乱電子によって撮影した顕微鏡写真。
【図3】実施例2において銅-炭素体の粉砕試料上で、透過型電子顕微鏡を用いて撮影した顕微鏡写真。
【図4】実施例3において走査型電子顕微鏡内で後方散乱電子によって撮影された顕微鏡写真。
【図5】実施例4において金属コバルト粒子が炭素質マトリックス上に存在する、機械粉砕した試料。
【図6】実施例4において同じ材料を高い倍率で撮影した顕微鏡写真。
【図7】実施例5においてエタノール中に超音波分散した後の粉砕試料から撮影した顕微鏡写真。
【図8】実施例5において高い倍率で撮影した顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の最も一般的な形態では、本発明は、金属-炭素含有体を生成する方法に関し、本方法は、セルロース体、セルロース類似体または炭水化物体を、少なくとも1つの金属化合物の水溶液に含浸した後、含浸体を不活性で実質的に無酸素の雰囲気中で加熱し、これにより、少なくとも1つの金属化合物の少なくとも一部を還元して、その対応する金属または金属合金にすることを含む。
【0018】
本発明の第1の実施形態では、黒鉛層によって封入されていない、または部分的にしか封入されていない金属粒子によって表面が被覆された、炭素担持体を生成することが目的である。遊離金属の表面を有するこのような金属粒子は、触媒活性である。反応して(不安定な)金属炭化物になり得ない金属を用いれば、当初のセルロース含有体を、施用しようとする金属の化合物の溶液に含浸することで十分である。このような含浸体の温度を、セルロースの分解温度まで上昇させるだけで、炭素体の表面上に金属粒子が析出した物体が得られる。炭化物を形成しない金属の例は、銅および銀である。この現状技術によれば、通常の銅触媒の還元は、水素によって実施される。工業用反応器では、銅化合物の還元は、還元反応の高い発熱量のため、困難なプロセスである。従って、水素還元は、非常に少ない含有量(例えば0.5vol.%)の水素を含有する不活性ガス流によって実行され、不活性ガス流は、反応器の外へ熱エネルギーを輸送しなければならない。本発明の第1の実施形態による触媒前駆体を用いれば、驚くべきことに水素が必要とされず、これは、水素の広範囲な爆発限界を考慮すると、技術的に非常に魅力的である。さらに、セルロースの吸熱分解が銅の発熱還元と釣り合い、これにより、銅化合物の還元にかかる時間を著しく短縮できる。
【0019】
モリブデンや鉄など、炭化物を形成できる金属もまた、当初のセルロース含有体を含浸することによって析出する。通常、これにより、金属粒子が封入されることになる。驚くべきことに、本発明者らは、このような物体を水素含有ガス流中で、約350から600℃までの温度に保持することにより、(一部の)封入している黒鉛層を除去することを確立した。
【0020】
本発明の第2の実施形態では、1つまたは複数の金属は強磁性である。鉄、ニッケルおよびコバルトなどのこうした金属またはこれらの合金を使用する場合、本方法により、黒鉛炭素層によって金属が封入されて、金属(合金)のコアおよび炭素のシェル、または、いくつかもしくは多数のこのような封入金属粒子の凝集体が得られることが、見出された。触媒活性成分は、現状技術による熱処理の後に施用される。
【0021】
本発明の別の実施形態では、少なくとも1つの金属は、コバルト、モリブデン、鉄またはこれらの組合せなど、還元するのが難しい金属または金属化合物に基づく。セルロースまたは関連材料の熱分解中に発生する還元ガスは、非常に効率的に金属イオンを金属材料に還元し、該材料は、加熱によって同時に生成される黒鉛炭素上に析出することが、見出された。
【0022】
驚くべきことに、還元時に反応して、セルロースの熱分解中に、強磁性材料を形成する元素の化合物によって、セルロース体またはセルロース類似体を含浸すると、強力な強磁性体を生じることが見出された。強磁性金属粒子は、熱分解の後に黒鉛層によって封入されるので、金属は、(強)酸によって処理されたときに溶解しない。従って、本発明は、強磁性炭素体にも関する。明らかに、本発明は、低保磁力の強磁性材料を炭素体に担持させることにも関する。
【0023】
本発明の別の態様は、本発明による担体を分離すること、または該担体を懸濁液中に保持することに関する。強磁性担体の応用は、これまでにすでに提案されてきた。このような物体は液体から容易に分離できる。WO99/46782では、強磁性粒子を含有する炭素ナノファイバーまたはナノチューブを使用することが提案されている。この特許は、小さな保磁力の強磁性粒子を有する担体を応用して、担体の再分散を可能にすることにも言及している。
【0024】
炭素体、特に、微結晶性セルロースから生成された炭素体の使用に伴って時々起こる問題は、球体の外面が、比較的少数の細孔を含有することである。微結晶性セルロースから生成された炭素体の表面の多孔度が低いことは、WO2007/131795(Glatt)で言及された。急速に進行する触媒反応を伴う液相法の場合、輸送限界は明らかではなく、このような反応は、ほぼ触媒体の外面においてのみ起きる。しかし、より緩やかに進行する反応の場合、触媒体の内側に存在する触媒粒子が、反応物に容易に接触できないため、それは欠点である。それにも関わらず、炭素質体の表面からの触媒活性粒子の摩耗は、容易に進行する。
【0025】
本発明のさらなる一態様は、セルロース含有化合物の熱分解によって得られた炭素球体の外面の多孔度を向上させることに関する。驚くべきことに、酸性化合物によって処理すると、セルロース含有化合物の加水分解が起きて、後続の熱処理時に、炭素体の外面の多孔度がはるかに増大することが見出された。
【0026】
この本発明の好ましい実施形態によれば、該物体の比表面積は、黒鉛炭素の多孔度を増大させることによって大きくなる。本発明によれば、これは、熱炭化する前に該粒子を酸性材料によって処理することによって起きる。これにより、多孔度が増大し、増大した多孔度が乾燥および炭化中に維持され、一般に100〜1750m2/gの範囲で表面積が増大した黒鉛材料が得られる。
【0027】
このため、黒鉛コーティングを有する強磁性体または粒子は、黒鉛炭素によって触媒される反応に対してそのままで触媒活性である。
【0028】
さらなる好ましい実施形態では、強磁性体または粒子には、卑金属または貴金属などの触媒活性材料を担持できる。担持のために、触媒活性材料を施用する通常の現状技術法を使用し得る。炭素質担持体は疎水性であるので、金属への還元に対する水の普通は強い遅延効果が、示されない、またはほとんど示されない。
【0029】
代替の実施形態では、金属を担持させた黒鉛炭素粒子または物体は、触媒として使用でき、例えば、金属がコバルトおよびモリブデンの場合は、水素化処理用の触媒として使用でき、または、コバルトもしくは鉄の場合は、フィッシャー・トロプシュ反応用の触媒として使用できる。
【0030】
驚くべきことに、大豆かす、米、フルフラールおよび2-ヒドロキシフルフラールなどのその誘導体、糖、ヒドロキシルエチルセルロース、ならびに、セルロースおよびその誘導体など、セルロースおよび/または炭水化物を含有する代替材料からは、熱分解したときに、やはり機械的に強固な炭素球体を生じる球体を生成できることが、さらに見出された。大豆かすは、非常に純粋な微結晶性セルロースと比較すると、はるかに安価であることを考慮すると、これは、本質的な利点である。
【0031】
炭素球体を生成するのに適した別の出発材料は、糖、または、糖と微結晶性セルロースもしくは大豆かすとの混合物である。糖を主に含む、または糖のみを含む球体の熱分解中は、加熱中に、糖が溶融する温度を非常に迅速に通過して、溶融プロセスが進行する前に、糖が、分解すると見込まれることに注意すべきである。温度を熱分解温度まで上昇させる前に、水熱処理によって糖を脱水することも、効果的であることが見出された。低価格の糖および他のセルロース含有材料を考慮すると、本発明は、機械的に強固な炭素粒子の技術的応用に対して非常に重要である。
【0032】
一般に、セルロース系または炭水化物出発材料は、不活性条件下における熱分解時に、還元性を有するガスが得られるという特性を有する、一般に再生可能資源の有機材料を含むことになろう。本発明による好ましい手順によれば、本発明者らは、糖、デンプン、大豆かす、(ヘミ)セルロースなど、農耕によって生産された材料の水熱処理、ならびに、フルフラールや2-ヒドロキシフルフラールなど、上記化合物を部分的に脱水した生成物の水熱処理により、生成された炭素質体から出発する。好ましくは、上記化合物の脱水は、Bo Hu, Shu-Hong Yu, Kan Wang, Lei LiuおよびXue-Wei Xu Dalton Trans. 2008, 5414〜5423頁およびその中で言及された参考資料において記載されたように実施される。水熱処理された物体の含浸の後、本発明の手順に従った熱処理が実行される。あるいは、金属化合物の溶液を、水熱処理に使用した水の中に混合することもできる。
【0033】
従って、さらなる好ましい実施形態によれば、(強磁性)担持体を生成するのに、大豆粉、糖、またはより一般的な炭水化物だけでなく、微結晶性セルロースを含めたセルロースおよびセルロース類似材料、ならびにこれらの2つ以上の混合物など、比較的安価な材料を使用することが可能である。
【0034】
本発明による強磁性炭素球体は、鉄やニッケルなどの強磁性金属のメッシュに容易に接着できる。このメッシュは、永久磁石または電磁石によって磁化できる。メッシュのフィラメントの周囲で有意に変化する磁場により、強磁性炭素球体がメッシュに対して強固に結合することになる。金属製メッシュを二酸化ケイ素層によって被覆することにより、金属製メッシュを不活性化できる。強磁力による付着の主要な利点は、炭素球体が、メッシュを消磁することにより、メッシュから容易に除去できることである。
【0035】
当初のセルロース含有材料の成形は、現状技術に従って行うことができる。所望であれば、リング、または例えば三葉体への、押出成形を実行できる。必要であれば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールの添加を用いて、押出成形を容易にし、未焼結押出成形物の機械的特性を向上させることができる。液体中に懸濁された触媒のために使用される小さな球体は、好ましくは、Bo Hu, Shu-Hong Yu, Kan Wang, Lei LiuおよびXue-Wei Xu Dalton Trans. 2008, 5414〜5423頁およびその中で言及された参考資料において記載されるように、水熱処理によって生成される。
【0036】
典型的には、泥炭または木材から生成された活性炭は、いくつかの黒鉛平面の他に、非晶質炭素の非常に小さなクラスター粒子を含有する。活性炭の表面積は非常に大きく、BETの表面積は、1グラム当たり約1200m2である。しかし、非晶質炭素の小さな粒子は、液体またはガスのバルク流による接触を制限する非常に細い細孔を取り囲む。
【0037】
活性炭の別の欠点は、酸化しやすいことである。約90℃の温度で活性炭を硝酸によって処理すると、二酸化炭素が生成される。さらに、熱処理中の大気による酸化は、急速に進行する。従って、活性炭の再生は、一般に不可能である。しかし、活性炭の急速な酸化は、活性炭の酸化後には金属のみが残るので、炭素担持貴金属触媒によって貴金属を回収するのに有利である。
【0038】
しかし、黒鉛炭素などのより安定な炭素触媒担持体は、非常に魅力的であると思われる。従って、活性炭を黒鉛炭素に転換することは、非常に魅力的であると思われる。特に、活性炭の成形体が、この活性炭体の機械的強度に悪影響を与えずに、反応して黒鉛炭素にすることができる方法。活性炭から生成された黒鉛炭素体の重要な特性は、黒鉛炭素体の細孔サイズ分布が、はるかに好ましいことである。黒鉛炭素の広い内面への輸送は、はるかに急速に進行する。本発明の別の実施形態は、炭素が、大きな表面積の黒鉛材料としてほぼ完全に存在する金属-炭素体を含む。
【0039】
驚くべきことに、本発明者らは、本発明によるこのような炭素体の生成が、炭素前駆体または炭素に、金属炭化物を形成できる金属の粒子を担持させて、このような担持炭素体を、不活性ガス雰囲気中において約700℃を超える温度で熱処理することにより、可能となることを認めた。この熱処理により、非晶質炭素の黒鉛炭素への再結晶が本質的に完了する。好ましくは、この処理は、窒素雰囲気中で実行される。より好ましくは、窒素雰囲気は、還元銅触媒の固定床を通すことにより、酸素から精製される。さらにより好ましくは、窒素は、約0.5 vol.%の水素と混合して使用され、窒素を、室温において、担持パラジウム触媒上を通過させる。
【0040】
非晶質炭素の再結晶は、ニッケル、コバルト、鉄、タングステンまたはモリブデンを、本発明による炭素-金属体の活性炭上または前駆体上に施用することにより、達成できる。最も好ましいのは、鉄の入手しやすさおよび価格を考慮すると、鉄である。驚くべきことに、クエン酸鉄アンモニウムを鉄前駆体として使用すると、硝酸鉄(III)より低い温度で炭素が再結晶することが見出された。従って、クエン酸鉄アンモニウムは、鉄前駆体として好ましい。
【0041】
この効果の実際の機構はわかっていないが、非晶質炭素の反応は、金属炭化物に至る中間反応に起因していると推定される。非晶質炭素は、金属炭化物中の炭素に対して、熱力学的に不安定である。対照的に、黒鉛炭素は、金属炭化物中の炭素より熱力学的に安定である。非晶質炭素の転換を達成するためには、金属粒子が黒鉛表面上を移動できることが必要であり、非晶質炭素の転換後には、金属粒子が、非晶質炭素が依然存在している場所まで、黒鉛表面上を移動する。
【0042】
ニッケルやニッケル-鉄合金など、比較的低い温度で還元できる金属および合金を用いれば、小さな金属粒子が、非晶質炭素上に担持されて得られる。金属炭化物中の炭素原子は、約350℃の温度においてすでに移動可能なので、金属炭化物を形成できる金属は、しばしば、黒鉛層内に封入される。黒鉛層の数は、熱処理の具体的な条件と金属の還元しやすさとに依存して変動するが、3から約10が通常である。
【0043】
本発明の特定の実施形態では、黒鉛層は、純粋な水素中の熱処理によって除去される。純粋な水素中では、熱力学的平衡がメタンに移行して、金属粒子を封入する黒鉛層が、メタンとして除去される。従って、黒鉛の熱力学的安定性と黒鉛層の除去速度との間で、折り合いをつけなければならない。従って、金属または合金粒子を触媒活性成分として有する触媒として、金属-炭素体を使用しようとする場合、本発明の特別な実施形態による黒鉛よりメタンが熱力学的に安定である温度における、純粋な水素中の熱処理。
【0044】
驚くべきことに、本発明者らは、本発明による手順を使用することにより、従来の活性炭を黒鉛炭素に転換できることも認めた。本発明の特別な実施形態によれば、本発明者らは、金属炭化物を形成できるニッケルなどの金属の前駆体を、活性炭の表面上に施用し、700℃を超える温度の不活性ガス雰囲気中で、担持活性炭を熱処理する。
【0045】
金属粒子の封入度は、金属粒子を塩酸などの強酸によって処理して、水素の発生を測定することにより、決定される。金属粒子は、上述の非晶質炭素の再結晶機構によりすでに示唆されているように、完全に封入されてはいないことが認められた。本発明のこの実施形態による金属-炭素体が、金属粒子を触媒活性成分として有する触媒として使用される場合、不完全な封入は好ましい。しかし、金属-炭素体が、強磁性担持体として使用される場合、完全な封入が前提条件となる。本発明によれば、本発明者らは、約350から約600℃までの温度において、黒鉛化した金属-炭素体を、トルエン、メタンまたは一酸化炭素などの炭素送達用ガス流に水素と共に曝露することにより、完全な封入を達成できる。
【0046】
次に、本発明をいくつかの実施例に基づいて説明するが、これらの実施例は、本発明の範囲を制限することを意図してはいない。
【実施例1】
【0047】
1×1cm2の1枚の綿布を、クエン酸鉄アンモニウム水溶液に湿式含浸した。次に、含浸した布を、周囲条件下の空気中で乾燥した。続いて、この布を、不活性窒素ガス流中で800℃に保った。これにより、添付の顕微鏡写真(図1)から明らかなように、直径約10〜20nmの鉄粒子が緻密に担持された、直径0.2mmの黒鉛繊維の強磁性ガーゼが得られた。この顕微鏡写真は、走査型電子顕微鏡内の後方散乱電子によって撮影された画像を表している。後方散乱電子は、炭素の核電荷と比較すると鉄原子の比較的高い核電荷を考慮して、高輝度で鉄粒子を結像している。
【実施例2】
【0048】
粒径範囲が100〜200μmである市販の微結晶性セルロース(MCC)球体(Syntapharm GmbH, Mulheim an der Ruhr, Germanyの中性ペレットであるCellets)に、該球体を硝酸銅の溶液中に含浸することにより、硝酸銅を担持させた。この球体を24時間、該溶液中に放置して、この間、溶液を時々撹拌した。続いて、含浸した球体を、ガラスフィルター付きブフナー漏斗を使用してろ過することにより、溶液から分離した。次に、この球体を真空下、室温において恒量になるまで乾燥した。続いて、含浸した球体を、停滞した不活性窒素ガス雰囲気中で、石英管反応器(Thermolyne 21100炉)内で熱処理することにより、熱分解した。加熱速度は5℃/分であり、球体は、3時間800℃に保った。この熱処理により、約70μmのサイズの金属-炭素が得られた。
【0049】
この次の顕微鏡写真(図2)は、走査型電子顕微鏡内で後方散乱電子によって撮影した画像を表している。後方散乱電子は、好ましくは重元素を結像しており、このように生成された金属-炭素体を用いて、銅粒子は、比較的高輝度で結像されている。金属-炭素体の外面は、多数の小さな金属銅粒子を含有することがわかる。
【0050】
上記顕微鏡写真(図3)は、上述のように調製した銅-炭素体の粉砕試料上で、透過型電子顕微鏡を用いて撮影した。透過電子により、炭素体の全容積が、多数の小さな銅粒子を含有することが示されている。金属銅の存在は、元素分析によって確認された。証拠は、顕微鏡写真の中心に存在する1個の大きな銅の板状晶である。重要なことに、炭素種も、顕微鏡写真中に見ることができる。該炭素は、極めて小さな非晶質炭素粒子として存在する。従って、800℃においてさえ、非晶質炭素は、黒鉛炭素になるまで完全には再結晶していない。
【実施例3】
【0051】
脱塩水中1Mのショ糖水溶液を、テフロン(登録商標)ライニングしたオートクレーブ内に入れた。この溶液を4時間、160℃に保った。続いて、固体生成物を、遠心分離によって液体から分離して、エタノール、アセトンおよび脱塩水の混合物により、無色溶液が得られるまで洗浄した。得られた黒色粉末を真空下、室温において恒量になるまで乾燥した。親水性コロイド状炭素球体には、球体を硝酸ニッケル水溶液中に浸漬することにより、担持させた。この球体を該溶液中に24時間置いて、この間、溶液を時々撹拌した。次に、含浸した球体を、ガラスフィルター付きブフナー漏斗を使用して、溶液から分離した。このようにして得られた球体を真空下、室温において恒量になるまで乾燥した。続いて、含浸した球体を、停滞した不活性窒素ガス雰囲気中で、石英管反応器(Thermolyne 21100炉)内で熱処理することにより、熱分解した。加熱速度は5℃/分であり、球体は3時間、800℃で処理した。
【0052】
次の顕微鏡写真(図4)は、走査型電子顕微鏡内で後方散乱電子によって撮影された画像を表している。後方散乱電子は、ニッケル粒子を比較的高輝度で結像している。金属-炭素体の外縁部は、多数の小さなニッケル粒子を含有する。金属-炭素体の粉砕試料に対する透過型電子顕微鏡により、金属-炭素体の容積も多数の小さなニッケル粒子を含有することが示されている。
【実施例4】
【0053】
粒径範囲が100〜200μmである市販の微結晶性セルロース(MCC)球体(Syntapharm GmbH, Mulheim an der Ruhr, Germanyの中性ペレットであるCellets)を、該球体を硝酸コバルト水溶液中に含浸することによって担持させた。この球体を24時間、該溶液中に放置して、この間、溶液を時々撹拌した。次に、含浸した球体を、ガラスフィルター付きブフナー漏斗を使用して、液体から分離した。分離した球体を真空下、室温において恒量になるまで乾燥した。続いて、含浸した球体を、停滞した不活性窒素ガス雰囲気中で、石英管反応器(Thermolyne 21100炉)内で熱処理することにより、熱分解した。加熱速度は5℃/分であり、試料は3時間700℃に保った。これにより、約70μmのサイズの強磁性特性を有する金属-炭素含有体が得られた。添付の顕微鏡写真(図5)は、金属コバルト粒子が炭素質マトリックス上に存在する、機械粉砕した試料を示す。この画像は、透過型電子顕微鏡によって撮影された。
【0054】
担持されたコバルト種を金属コバルトに還元することは、水蒸気が還元を強く阻害するため、比較的難しいプロセスである。金属コバルトへの還元が、本発明による手順を用いて円滑に進行することを明示するため、次の顕微鏡写真(図6)は、1.2×106という非常に高い倍率で、同じ材料から撮影した。高い倍率では、コバルトの格子面を結像することができる。画像中に示された四角形のフーリエ変換から、格子面間の距離を計算した。格子面間の距離は、0.191nmであり、これは、0,192nmに達する六方晶系コバルトの格子間距離と、非常によく一致する。
【実施例5】
【0055】
粒径範囲が100〜200μmである市販の微結晶性セルロース(MCC)球体(Syntapharm GmbH, Mulheim an der Ruhr, Germanyの中性ペレットであるCellets)を、該球体をクエン酸鉄アンモニウム水溶液中に含浸することにより、担持させた。この球体を溶液中に24時間放置して、この間、溶液を時々撹拌した。次に、含浸した球体を、ガラスフィルター付きブフナー漏斗を使用して、液体から分離した。分離した球体を真空下、室温において恒量になるまで乾燥した。続いて、含浸および乾燥した球体を、停滞した不活性窒素雰囲気中において、石英管反応器(Thermolyne 21100炉)内で熱処理することにより、熱分解した。加熱速度は5℃/分であり、試料は3時間、700℃で処理した。これにより、サイズが約70μmの強磁性特性を有する金属-炭素含有体が得られた。添付の顕微鏡写真(図7)は、エタノール中に超音波分散した後の粉砕試料から撮影した。黒鉛層によって封入された鉄粒子(一部が部分的に)は、明瞭である。不完全な封入は、塩酸中に浸漬したときに水素の発生を定量的に測定することにより、確立された。金属炭化物を形成できる金属である鉄の存在効果は、明らかである。非晶質炭素は見えず、黒鉛炭素の繊維だけが見える。実施例2の透過型電子顕微鏡写真(図3)との違いは顕著であり、実施例2の試料に採用した800℃に比べると低い700℃の温度にも関わらず、炭素は完全に再結晶した。完全に再結晶して黒鉛炭素になった炭素の存在を確認するため、次の顕微鏡写真(図8)は、920k×の高倍率で撮影しており、この倍率では、黒鉛炭素の原子層を見ることができる。黒鉛層は、この顕微鏡写真中では明らかである。黒鉛炭素への完全な再結晶が、金属炭化物を形成できる金属粒子の存在により、700℃の比較的低い温度において実現できることは、非常に驚くべきことである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属−炭素含有体を生成する方法であって、セルロース体、セルロース類似体、または炭水化物体を、少なくとも1つの金属化合物の水溶液に含浸する段階と、その後含浸体を不活性で実質的に無酸素の雰囲気中で加熱し、これにより、少なくとも1つの金属化合物の少なくとも一部を還元して、対応する金属または金属合金にする段階とを含む、方法。
【請求項2】
金属が、強磁性金属または合金から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
強磁性粒子が、強磁性金属または金属合金のコアを備え、該コアの表面が、黒鉛炭素の層またはこのような強磁性粒子の凝集体によって被覆されている、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
強磁性コアが軟磁性材料である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
強磁性コアが、ニッケルまたはニッケル合金である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
金属−炭素含有体が、還元するのが難しい金属、より特定すれば、コバルト、モリブデン、鉄およびこれらの2つ以上の組合せの粒子を含む、触媒活性金属粒子を表面上に有する黒鉛粒子である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記粒子形態が、大豆、糖などの炭水化物、セルロース系材料、微結晶性セルロースまたはこれらの2つ以上の混合物から選択される、請求項1から6に記載の方法。
【請求項8】
前記材料が、大豆粉、または大豆粉と糖との混合物である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
物体形態の前記材料が、1ミクロンから1mmの間の平均サイズを有する、請求項1から8に記載の方法。
【請求項10】
前記含浸粒子が、乾燥および熱炭化の前に、酸性化合物によって処理される、請求項1から9に記載の方法。
【請求項11】
熱炭化が、5分から4時間の間の期間、400℃から1250℃の間の温度で加熱することを含む、請求項1から10に記載の方法。
【請求項12】
強磁性体に触媒活性材料を担持させる、請求項1から5に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から5に記載の方法によって得ることができる、強磁性体。
【請求項14】
触媒として使用するための、請求項6に記載の方法によって得ることができる金属−炭素含有体。
【請求項15】
コバルトとモリブデンの合金を金属として有する、水素化処理用の触媒としての請求項14に記載の金属−炭素含有体。
【請求項16】
表面積が、100から1750m/gの間である(窒素吸着によって決定した場合)、請求項13から15に記載の金属−炭素含有体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−519233(P2012−519233A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551997(P2011−551997)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【国際出願番号】PCT/NL2010/050099
【国際公開番号】WO2010/098668
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(500586141)ビーエーエスエフ コーポレーション (12)
【Fターム(参考)】