説明

金属の分離方法、および金属の回収方法

【課題】本発明は、新規な金属の分離方法および回収方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の金属の分離方法は、ポリチオアミドにより、溶液中の水銀を吸着して分離することにより達成することができる。ここで、溶液中に他の金属が含まれていてもよく、例えば、銅、鉄、亜鉛、マンガン、鉛、カドミウムの群から選ばれる1種以上の金属が含まれている場合でも水銀を分離できる。前記ポリチオアミドに吸着した水銀は、還元剤により脱離され回収される。還元剤として特にスズ(II)の化合物を挙げることができる。また、本発明ではポリチオアミドを再利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリチオアミドにより溶液中の水銀を吸着する新規な金属の分離方法に関する。また、本発明は、還元剤により、前記ポリチオアミドに吸着した水銀を脱離して回収する新規な金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水銀は、有毒な元素であり、環境中に排出された場合には食物連鎖を経て生物濃縮され、その結果として人の健康に悪影響を及ぼすおそれがある。よって、水銀は事業所等からの環境への排出が厳しく規制されている。
【0003】
現在、工場廃水に含まれる水銀の除去には様々なキレート樹脂やイオン交換樹脂などの機能性高分子が用いられている。しかし、このような機能性高分子は、水銀吸着に対する選択性が低いため他の元素も同時に吸着されることが多い。また、機能性高分子上に吸着した水銀は一般に溶出剤等を用いる脱離が困難であることから、水銀吸着後の機能性高分子は埋め立て処分される場合が多い。
【0004】
一方、水銀を吸着した機能性高分子を800℃以上の高温で加熱し、吸着した水銀を水銀蒸気として回収する方法も用いられている。しかし、この方法においては処理コストの問題があり、加えて吸着剤の再利用も困難である。
【0005】
上記の問題を克服する試みとして、水銀を吸着捕集でき、かつ塩酸酸性溶液を用いることで水銀を溶出できる、再利用可能な機能性高分子が調製されてきている(例えば、特許文献1)。しかし、この機能性高分子には水銀以外の元素も吸着され、それらが溶出の際に水銀とともに溶出することから、水銀を高純度で回収することは難しい。
【0006】
一方、固体及び液体の水銀含有廃棄物を過剰の還元剤を添加して還元雰囲気とし、水銀を還元気化させた後冷却することにより水銀を金属水銀として回収する技術が提案されている(例えば、特許文献2)。この技術では、高純度の水銀を得ることができる利点がある一方、水銀含有廃棄物中の水銀含有量が少ない場合には処理効率が低下するという問題点を有する。
【0007】
そのため、この改良案として水銀含有廃棄物を還元雰囲気下とし、水銀を還元気化させ吸着物質により水銀化合物として捕集し、その吸着した水銀を再び還元させた後冷却することによって金属水銀として回収する技術が考案された(例えば、特許文献3)。しかし、この技術においては操作が煩雑であるという問題点がある。
【0008】
発明者らは、ポリチオアミドを使用したパラジウム等の金属の分離と回収について発表している(例えば、非特許文献1〜8)。
【0009】
【特許文献1】特開平9−99238号公報
【特許文献2】特開2001−11548号公報
【特許文献3】特開2001−140026号公報
【非特許文献1】佐藤恵美,河合自立,加賀谷重浩,神原貴樹,長谷川淳,1PB076ポリチオアミドの重金属吸着特性,日本化学会第79春季年会,平成13年3月
【非特許文献2】佐藤恵美,加賀谷重浩,神原貴樹,長谷川淳,2PC-106ポリチオアミドを用いた有機廃液中の重金属の沈殿回収,日本化学会第81春季年会,平成14年3月
【非特許文献3】加賀谷重浩,真草嶺郁美,佐藤恵美,神原貴樹,長谷川淳,P-18廃液中の有価金属の選択的回収剤の開発,富山工業高等専門学校第9回エコテクノロジーに関するアジア国際シンポジウム−富山(ASET9),平成14年12月
【非特許文献4】加賀谷重浩,真草嶺郁美,佐藤恵美,神原貴樹,長谷川淳,1PB-133ポリチオアミドによる有機廃液中のパラジウム及びニッケルの回収,日本化学会第83春季年会,平成15年3月
【非特許文献5】S. Kagaya, E. Sato, I. Masore, K. Hasegawa, and T. Kanbara, Polythioamide as a Collector for Valuable Metals from Aqueous and Organic Solutions, Chemistry Letters, Vol. 32, No. 7, pp. 622 - 623(平成15年7月)
【非特許文献6】加賀谷重浩,河合信宏,真草嶺郁美,佐藤恵美,神原貴樹,長谷川淳,P-92ポリチオアミドに吸着したパラジウムの溶出:有機廃液中パラジウムの分離・回収への応用,富山工業高等専門学校第10回エコテクノロジーに関するアジア国際シンポジウム−富山(ASET10),平成15年11月
【非特許文献7】加賀谷重浩,田中絵梨佳,河合信宏,真草嶺郁美,佐藤恵美,神原貴樹,長谷川淳,ニッケル及び白金を含む溶液からのパラジウムの分離,日本分析化学会中部支部「分析中部ゆめ21」若手交流会第4回高山フォーラム,平成16年11月26日・27日
【非特許文献8】加賀谷重浩,田中絵梨佳,河合信宏,真草嶺郁美,佐藤恵美,神原貴樹,長谷川淳,Paper#25ニッケル及び白金を含む有機溶液からのパラジウムの分離,富山工業高等専門学校第11回エコテクノロジーに関するアジア国際シンポジウム−富山(ASET11),平成16年12月3日・4日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、溶液中の水銀を分離して回収する方法は報告されていない。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規な金属の分離方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、新規な金属の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
新規な金属の分離は、以下の[1]〜[10]により、新規な金属の回収は、以下の[11]〜[13]により解決される。
【0013】
[1]一般式化13で表されるポリチオアミドの群から選ばれるいずれか1種またはいずれか2種以上の組み合わせにより、溶液中の水銀を吸着する、金属の分離方法である。
【0014】
[2]溶液中での、水銀に対する他の金属のモル比が、0.1〜1000の範囲内にある前記[1]記載の金属の分離方法である。
【0015】
[3]他の金属が、銅、鉄、亜鉛、マンガン、鉛、カドミウム、クロム、コバルト、ニッケル、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムの群から選ばれる1種以上の金属である、前記[2]記載の金属の分離方法である。
【0016】
[4]一般式化14で表されるポリチオアミドの群から選ばれるいずれか1種またはいずれか2種以上の組み合わせにより、溶液中の水銀を吸着する、金属の分離方法である。
【0017】
[5]溶液中での、水銀に対する他の金属のモル比が、0.1〜1000の範囲内にある、前記[4]記載の金属の分離方法である。
【0018】
[6]他の金属が、銅、鉄、亜鉛、マンガン、鉛、カドミウム、クロム、コバルト、ニッケル、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムの群から選ばれる1種以上の金属である、前記[5]記載の金属の分離方法である。
【0019】
[7]化学式化18で表されるポリチオアミドにより、溶液中の水銀を吸着する、金属の分離方法である。
【0020】
[8]溶液中での、水銀に対する他の金属のモル比が、1〜500の範囲内にある、前記[7]記載の金属の分離方法である。
【0021】
[9]他の金属が、銅、鉄、亜鉛、マンガン、鉛、カドミウムの群から選ばれる1種以上の金属である、前記[8]記載の金属の分離方法である。
【0022】
[10]ポリチオミドを再利用する、前記[7]記載の金属の分離方法である。
【0023】
[11]一般式化13で表されるポリチオアミドの群から選ばれるいずれか1種またはいずれか2種以上の組み合わせにより吸着された水銀を、還元剤により脱離する、金属の回収方法である。
【0024】
[12]一般式化14で表されるポリチオアミドの群から選ばれるいずれか1種またはいずれか2種以上の組み合わせにより吸着された水銀を、スズ(II)化合物または水素化ホウ素化合物により脱離する、金属の回収方法である。
【0025】
[13]化学式化18で表されるポリチオアミドにより吸着された水銀を、塩化スズ(II)により脱離する、金属の回収方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明[1]〜[10]によれば、新規な金属の分離方法を提供することができる。
また、本発明[11]〜[13]によれば、新規な金属の回収方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0028】
最初に、ポリチオアミドにより、溶液中の水銀を吸着する方法を説明する。ポリチオアミドは、化学式化13で表すことができる。
【0029】
【化13】

【0030】
ここで、R,Rは二官能性の芳香族ユニット、二官能性の複素環ユニット、または二官能性の脂肪族炭化水素ユニットを示す。二官能性の芳香族ユニットは、二官能性のフェニレン、ナフチレン、フェナントリレン、アントリレン、またはビフェニルを示す。水素原子の1つまたは2つをアルキル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、エステル基、アシル基、またはアミド基に置き換えた置換基を有していても良い。二官能性の複素環ユニットは、二官能性のピリジルジイル、チエニレン、フリレン、ピロリレン、またはキノリンジイルを示す。水素原子の1つまたは2つをアルキル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、エステル基、アシル基、またはアミド基に置き換えた置換基を有していても良い。二官能性の脂肪族炭化水素ユニットは、炭素数が2〜10の直鎖状または分岐状の二官能性の脂肪族炭化水素を示す。炭化水素の炭素−炭素結合間に酸素原子、硫黄原子、窒素原子、ケイ素原子、またはリン原子のヘテロ原子を有していても良い。炭化水素の炭素−炭素結合間にフェニレンまたはナフチレンの二官能性の芳香族ユニットを有していても良い。
【0031】
ここで、Rは水素原子、脂肪族炭化水素基、芳香族置換基、または複素環置換基を示す。脂肪族炭化水素基は、炭素数が1〜8の直鎖状または分岐状脂肪族置換基を示す。芳香族置換基は、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基、またはビフェニル基を示す。水素原子の1つまたは2つをアルキル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、エステル基、アシル基、またはアミド基に置き換えた置換基を有していても良い。複素環置換基は、ピリジル基、チエニル基、またはフリル基を示す。水素原子の1つまたは2つをアルキル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、エステル基、アシル基、またはアミド基に置き換えた置換基を有していても良い。
【0032】
また、RとRが脂肪族炭化水素ユニットから形成されている場合、結合して環状化合物を形成していても良い。
【0033】
ポリチオアミドは、具体的には化学式化14で表すことができる。
【0034】
【化14】

【0035】
ここで、R,Rは化学式化15に示す二官能性のユニットが挙げられる。また、nは2〜10の整数を表す。
【0036】
【化15】

【0037】
ここで、Rは水素原子または化学式化16に示す置換基が挙げられる。また、nは0〜7の整数を表す。
【0038】
【化16】

【0039】
また、RとRが結合している場合、環状構造を形成した化学式化17に示すユニットが挙げられる。
【0040】
【化17】

【0041】
ポリチオアミドの添加量は、水銀量(mmol−Hg)あたりのポリチオアミドユニット量(mmol−unit)として2〜20000mmol−unit/mmol−Hgの範囲内にあることが好ましい。また、ポリチオアミドの添加量は、20〜2000mmol−unit/mmol−Hgの範囲内にあることがさらに好ましい。添加量が2mmol−unit/mmol−Hg以上であると、溶液に含まれる水銀を100%吸着できるという利点がある。添加量が20mmol−unit/mmol−Hg以上であると、この効果がより顕著になり、100%吸着に達する時間も短縮される。添加量が20000mmol−unit/mmol−Hg以下であると、経済的であるという利点がある。添加量が2000mmol−unit/mmol−Hg以下であると、この効果がより顕著になる。
【0042】
溶液のpHは、0.5〜14の範囲内にあることが好ましい。また、pHは1.7〜10.1の範囲内にあることがさらに好ましい。pHが0.5以上であると、水銀を効率よく吸着できるという利点がある。pHが1.7以上であると、この効果がより顕著になる。pHが14以下であると、共存する他の重金属類の吸着を抑制できるという利点がある。pHが10.1以下であると、この効果がより顕著になる。
【0043】
溶液の攪拌時間は、1分間〜24時間の範囲内にあることが好ましい。また、攪拌時間は、10分間〜2時間の範囲内にあることがさらに好ましい。攪拌時間が1分間以上であると、溶液中の水銀の70%以上を吸着できるという利点がある。攪拌時間が10分間以上であると、この効果がより顕著になる。攪拌時間が24時間以下であると、水銀吸着捕集時間が短縮できるという利点がある。攪拌時間が2時間以下であると、この効果がより顕著になる。
【0044】
水銀の濃度は、0.0005〜5mmol/lの範囲内にあることが好ましい。また、水銀の濃度は、0.001〜0.1mmol/lの範囲内にあることがさらに好ましい。水銀の濃度が0.0005mmol/l以上であると、溶液中の水銀を迅速に吸着回収できるという利点がある。水銀の濃度が0.001mmol/l以上であると、この効果がより顕著になる。水銀の濃度が5mmol/l以下であると、水銀を迅速に吸着捕集できるという利点がある。水銀の濃度が0.1mmol/l以下であると、この効果がより顕著になる。
【0045】
本発明の金属の分離方法は、水銀以外の他の金属が共存する場合に適用することができる。他の金属としては、銅、鉄、亜鉛、マンガン、鉛、カドミウム、クロム、コバルト、ニッケル、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムを挙げることができる。
【0046】
溶液中での、水銀に対する他の金属のモル比は0.1〜1000の範囲内にあることが好ましい。また、水銀に対する他の金属のモル比は1〜500の範囲内にあることがさらに好ましい。他の金属のモル比が0.1以上であると、水銀と他の金属との分離における効率が向上し、他の金属が混入することなく水銀のみを分離できるという利点がある。他の金属のモル比が1以上であると、この効果がより顕著になる。他の金属のモル比が1000以下であると、水銀の吸着率の低下を防ぐことができ、他の金属の混入を実用範囲で抑制して、水銀を分離できるという利点がある。他の金属のモル比が500以下であると、この効果がより顕著になる。
【0047】
ポリチオアミドによる、溶液中の水銀の吸着は、チオアミド基のチオカルボニルユニットの配位結合能力に起因する。
【0048】
ポリチオアミドに吸着した水銀を回収する方法において、ポリチオアミドが存する溶液に、スズ(II)化合物を添加することが好ましい。スズ(II)化合物としては、例えば、塩化スズ(II)、臭化スズ(II)、フッ化スズ(II)を挙げることができる。特に、塩化スズ(II)が好ましく、例えば、塩化スズ(II)二水和物が入手しやすく好ましい。
【0049】
そのほかに、水銀を回収する方法には、ポリチオアミドが存する溶液に、スズ(II)化合物の代わりに水素化ホウ素化合物を添加する方法などがある。
ことができる。
【0050】
ポリチオアミドの再利用の回数は100回以下の範囲内にあることが好ましい。再利用の回数が100回以下であると、水銀を高効率で分離回収でき、ポリチオアミドを水銀捕集剤として実用範囲で再生利用できるという利点がある。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0052】
参考例1[ポリチオアミドの合成]
ここでは、ポリチオアミドを以下の参考文献の記載方法に基づき合成した。
【0053】
参考文献:T. Kanbara, Y. Kawai, K. Hasegawa, H. Morita, T. Yamamoto, J. Polym. Sci. : PartA: Polym. Chem. Vol. 39, 3739-3750 (2001)
【0054】
窒素雰囲気下にした50mlシュレンク管にヘキサメチレンジアミン0.2324g(2 mmol)と硫黄0.1601g(5mmol)を入れ、DMAc(脱水)10mlを添加し、室温で10分間撹拌させた。この反応溶液にイソフタルアルデヒド0.2683g(2mmol)を加え、115℃で6時間攪拌した。反応溶液を300mlのメタノールが入った三角フラスコに添加し、洗浄した。生成した沈殿物を吸引ろ過により回収した後、DMAc10mlに再溶解させ、再び300mlのメタノールで洗浄した。その後、吸引ろ過により回収した沈殿物をDMF5mlに溶解させた。この溶液をガラスフィルターに通し、未反応の硫黄を除去した後、このDMF溶液を約3mlまで濃縮した。濃縮後、このDMF溶液をメタノール300mlに再沈殿させ、吸引ろ過により沈殿物を回収した。この沈殿物をDMF5mlに再溶解させ、約3mlまで濃縮した後、メタノール300mlに再沈殿させた。生成した沈殿物を吸引ろ過により回収した後、真空下で乾燥させ、目的のポリチオアミド化18を得た。目的の化合物は、ベージュ色で収量0.373g、収率67%で得られた。
なお、ポリチオアミド1gあたりのポリチオアミドユニット量は、3.591(mmol−unit/g)である。ポリチオアミドユニット量とはポリチオアミドを構成する繰り返し単位を1分子とみなした場合、ポリマー1g当たりに含まれる繰り返し単位の数を分子数(モル単位)で表したものである。
【0055】
【化18】

【0056】
実施例1[水銀吸着に及ぼすpHの影響]
硝酸水銀溶液に1MNaOH、1MHNO3を添加してpHの異なる水銀(Hg(II))溶液(2mg/l)を調製した。各溶液のpHの値は1.7〜10.1の範囲であった。各溶液を5ml分取し、ポリチオアミド5mgを添加して室温で1時間攪拌した。その後、孔径0.2μmのディスポーサブルフィルターを用いてろ過し、ろ液中の水銀残存濃度を還元気化−原子吸光分析で測定し、それぞれの残存濃度を求めた。残存濃度と撹拌前の初濃度とから、Hg(II)の吸着率を求めた。結果は図1に示すように、いずれのpHの溶液からもHg(II)を100%吸着できた。よって、ポリチオアミドはpHの影響を受けることなく水銀を捕集できる。なお、吸着率とは、吸着前の溶液に含まれていた水銀量に対するポリチオアミドに吸着した水銀量を百分率で示したものである。
【0057】
実施例2[攪拌時間の影響]
1〜10mg/lの硝酸水銀溶液5mlに対してそれぞれポリチオアミドを5mg添加し室温で攪拌した。攪拌終了後、孔径0.2μmのディスポーサブルフィルターを用いてろ過し、ろ液中の水銀残存濃度を還元気化−原子吸光分析で測定した。結果は表1に示す。これらの結果から、本発明のポリチオアミドは、いずれの濃度においても水銀を攪拌開始1分後に76%以上、60分後では100%吸着することができる。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例3[共存元素の影響]
水銀(A:2mg/l=0.01mmol/l)と銅、鉄、亜鉛、マンガン、鉛あるいはカドミウム(B:0.01〜5.0mmol/l)とを含む溶液(pH1〜3)5mlにポリチオアミド5mgを添加し、室温で1時間攪拌した。その後、孔径0.2μmのディスポーサブルフィルターを用いてろ過し、ろ液中の水銀残存濃度を還元気化−原子吸光分析で測定した。結果は表2に示す。いずれの元素が共存した場合においても、ポリチオアミドは水銀を100%吸着した。また、共存元素のポリチオアミドへの吸着率は、共存元素Zn(初濃度1mmol/lおよび5mmol/l)で0.2%であり、また共存元素Cd(初濃度5mmol/l)で0.06%であった以外、すべての共存元素で0%であった。これらの結果から、本発明のポリチオアミドはこれらの元素が共存しても水銀を捕集できる。
【0060】
【表2】

【0061】
実施例4[ポリチオアミドに吸着したHg(II)の還元気化脱離実験]
5mg/lの硝酸水銀溶液5mlにポリチオアミド5mgを添加し、1時間攪拌した。静置後、上澄み液を分取し、水銀残存濃度を還元気化−原子吸光分析で測定した。次いで静置したポリチオアミドを含む溶液に15%w/v塩化スズ(II)溶液(0.5M HSO)を5ml加え、1時間エアレーションすることにより吸着した水銀を還元気化させた。気化した水銀は過マンガン酸溶液で捕集し、還元終了後過マンガン酸溶液中の水銀濃度を還元気化−原子吸光分析により測定した。
結果は、吸着率はすべて100%であり、還元気化脱離させた水銀の回収率は108±10%(5回の実験における平均値±標準偏差で表示)であった。なお回収率が100%を越えているのは、測定誤差などによるものである。よって、本操作により、本発明のポリチオアミドに吸着した水銀は還元気化脱離できる。なお、回収率とは、吸着前の溶液に含まれていた水銀量に対する還元気化により回収した水銀量を百分率で示したものである。
【0062】
実施例5[ポリチオアミドの再利用性]
実施例4と同様にして、1mg/l硝酸水銀溶液を用いて水銀吸着率および還元気化による回収率を求めた。還元気化後のポリチオアミドを孔径0.2μmのディスポーサブルフィルターを用いて回収し真空乾燥した。その後乾燥済みポリチオアミドをサンプル瓶に入れ秤量した。このポリチオアミドを用いて、再度吸着、脱離実験を行った。この操作を繰り返し行った。結果は、表3に示す。少なくとも5回の繰り返し使用において、本発明のポリチオアミドにより、100%の吸着率で、還元気化脱離による94〜126%の回収率で水銀が得られた。なお、一部の結果において回収率が100%を越える場合が認められたが、これは溶出工程において一部ポリチオアミド上に残存した水銀の溶出、測定誤差などによるものである。
【0063】
【表3】

【0064】
以上のことから、本実施例によれば、水銀に対して他の重金属が共存する溶液においても、水銀のみを定量的に吸着捕集でき、かつ、塩化スズ(II)溶液により定量的に分離回収することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、重金属が共存する水銀廃液等から水銀を効率的に選択的に分離できる。また、分離した後回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】水銀吸着に及ぼすpHの影響について示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式化1で表されるポリチオアミドの群から選ばれるいずれか1種またはいずれか2種以上の組み合わせにより、溶液中の水銀を吸着する、金属の分離方法。
【化1】

ここで、R,Rは二官能性の芳香族ユニット、二官能性の複素環ユニット、または二官能性の脂肪族炭化水素ユニットを示す。二官能性の芳香族ユニットは、二官能性のフェニレン、ナフチレン、フェナントリレン、アントリレン、またはビフェニルを示す。水素原子の1つまたは2つをアルキル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、エステル基、アシル基、またはアミド基に置き換えた置換基を有していても良い。二官能性の複素環ユニットは、二官能性のピリジルジイル、チエニレン、フリレン、ピロリレン、またはキノリンジイルを示す。水素原子の1つまたは2つをアルキル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、エステル基、アシル基、またはアミド基に置き換えた置換基を有していても良い。二官能性の脂肪族炭化水素ユニットは、炭素数が2〜10の直鎖状または分岐状の二官能性の脂肪族炭化水素を示す。炭化水素の炭素−炭素結合間に酸素原子、硫黄原子、窒素原子、ケイ素原子、またはリン原子のヘテロ原子を有していても良い。炭化水素の炭素−炭素結合間にフェニレンまたはナフチレンの二官能性の芳香族ユニットを有していても良い。
ここで、Rは水素原子、脂肪族炭化水素基、芳香族置換基、または複素環置換基を示す。脂肪族炭化水素基は、炭素数が1〜8の直鎖状または分岐状脂肪族置換基を示す。芳香族置換基は、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基、またはビフェニル基を示す。水素原子の1つまたは2つをアルキル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、エステル基、アシル基、またはアミド基に置き換えた置換基を有していても良い。複素環置換基は、ピリジル基、チエニル基、またはフリル基を示す。水素原子の1つまたは2つをアルキル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、エステル基、アシル基、またはアミド基に置き換えた置換基を有していても良い。
また、RとRが脂肪族炭化水素ユニットから形成されている場合、結合して環状化合物を形成していても良い。
【請求項2】
溶液中での、水銀に対する他の金属のモル比が、0.1〜1000の範囲内にある、請求項1記載の金属の分離方法。
【請求項3】
他の金属が、銅、鉄、亜鉛、マンガン、鉛、カドミウム、クロム、コバルト、ニッケル、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムの群から選ばれる1種以上の金属である、請求項2記載の金属の分離方法。
【請求項4】
一般式化2で表されるポリチオアミドの群から選ばれるいずれか1種またはいずれか2種以上の組み合わせにより、溶液中の水銀を吸着する、金属の分離方法。
【化2】

ここで、R,Rは化学式化3に示す二官能性のユニットが挙げられる。また、nは2〜10の整数を表す。
【化3】

ここで、Rは水素原子または化学式化4に示す置換基が挙げられる。また、nは0〜7の整数を表す。
【化4】

また、RとRが結合している場合、環状構造を形成した化学式化5に示すユニットが挙げられる。
【化5】

【請求項5】
溶液中での、水銀に対する他の金属のモル比が、0.1〜1000の範囲内にある、請求項4記載の金属の分離方法。
【請求項6】
他の金属が、銅、鉄、亜鉛、マンガン、鉛、カドミウム、クロム、コバルト、ニッケル、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムの群から選ばれる1種以上の金属である、請求項5記載の金属の分離方法。
【請求項7】
化学式化6で表されるポリチオアミドにより、溶液中の水銀を吸着する、金属の分離方法。
【化6】

【請求項8】
溶液中での、水銀に対する他の金属のモル比が、1〜500の範囲内にある、請求項7記載の金属の分離方法。
【請求項9】
他の金属が、銅、鉄、亜鉛、マンガン、鉛、カドミウムの群から選ばれる1種以上の金属である、請求項8記載の金属の分離方法。
【請求項10】
ポリチオミドを再利用する、請求項7記載の金属の分離方法。
【請求項11】
一般式化7で表されるポリチオアミドの群から選ばれるいずれか1種またはいずれか2種以上の組み合わせにより吸着された水銀を、還元剤により脱離する、金属の回収方法。
【化7】

ここで、R,Rは二官能性の芳香族ユニット、二官能性の複素環ユニット、または二官能性の脂肪族炭化水素ユニットを示す。二官能性の芳香族ユニットは、二官能性のフェニレン、ナフチレン、フェナントリレン、アントリレン、またはビフェニルを示す。水素原子の1つまたは2つをアルキル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、エステル基、アシル基、またはアミド基に置き換えた置換基を有していても良い。二官能性の複素環ユニットは、二官能性のピリジルジイル、チエニレン、フリレン、ピロリレン、またはキノリンジイルを示す。水素原子の1つまたは2つをアルキル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、エステル基、アシル基、またはアミド基に置き換えた置換基を有していても良い。二官能性の脂肪族炭化水素ユニットは、炭素数が2〜10の直鎖状または分岐状の二官能性の脂肪族炭化水素を示す。炭化水素の炭素−炭素結合間に酸素原子、硫黄原子、窒素原子、ケイ素原子、またはリン原子のヘテロ原子を有していても良い。炭化水素の炭素−炭素結合間にフェニレンまたはナフチレンの二官能性の芳香族ユニットを有していても良い。
ここで、Rは水素原子、脂肪族炭化水素基、芳香族置換基、または複素環置換基を示す。脂肪族炭化水素基は、炭素数が1〜8の直鎖状または分岐状脂肪族置換基を示す。芳香族置換基は、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基、またはビフェニル基を示す。水素原子の1つまたは2つをアルキル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、エステル基、アシル基、またはアミド基に置き換えた置換基を有していても良い。複素環置換基は、ピリジル基、チエニル基、またはフリル基を示す。水素原子の1つまたは2つをアルキル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、エステル基、アシル基、またはアミド基に置き換えた置換基を有していても良い。
また、RとRが脂肪族炭化水素ユニットから形成されている場合、結合して環状化合物を形成していても良い。
【請求項12】
一般式化8で表されるポリチオアミドの群から選ばれるいずれか1種またはいずれか2種以上の組み合わせにより吸着された水銀を、スズ(II)化合物または水素化ホウ素化合物により脱離する、水銀の回収方法。
【化8】

ここで、R,Rは化学式化9に示す二官能性のユニットが挙げられる。また、nは2〜10の整数を表す。
【化9】

ここで、Rは水素原子または化学式化10に示す置換基が挙げられる。また、nは0〜7の整数を表す。
【化10】

また、RとRが結合している場合、環状構造を形成した化学式化11に示すユニットが挙げられる。
【化11】

【請求項13】
化学式化12で表されるポリチオアミドにより吸着された水銀を、塩化スズ(II)により脱離する、金属の回収方法。
【化12】


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−297653(P2007−297653A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124268(P2006−124268)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(304020948)国立大学法人富山大学 (3)
【Fターム(参考)】