説明

金属の吸収を促進する金属−酸性アミノ酸キレートを含有する組成物

金属−酸性アミノ酸キレートを有効成分として含む、金属の吸収を促進するための組成物を提供する。本発明の組成物は、個々の金属に薬効を発揮させることができるように、標的臓器への薬剤の送達および吸収を改善する、優れた効果を示す金属−酸性アミノ酸キレートを利用することによって、金属の欠乏または不足によって引き起こされる様々な疾患の予防および治療に治療効果を示す。特に、前立腺内の有効成分としての亜鉛含有量を増大させる亜鉛−アスパラギン酸キレートを含む医薬品組成物は、前立腺および精巣疾患の予防および治療に非常に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属−酸性アミノ酸キレートを有効成分として含む、金属の吸収を促進するための組成物に関する。より具体的には、本発明は、酸性アミノ酸と金属との錯体(キレート)を有効成分として含む、金属の吸収を促進するための組成物であって、個々の金属が薬効を発現するように、標的臓器内への金属の送達および吸収を大幅に改善したことによって、キレートが優れた活性を示す組成物並びにこれを含む医薬品、栄養、または化粧料組成物に関する。本発明の組成物の中でも、特に、前立腺内における有効成分である亜鉛の含有量を増大させることが可能な亜鉛−アスパラギン酸キレートを含む医薬品組成物は、前立腺および精巣疾患の予防および治療に非常に有効である。
【背景技術】
【0002】
前立腺は男性性器の一部であり、粘性のある流体を作り出す。その大きさや形状はクルミに似ていて、尿道と呼ばれる管を取り囲んでおり、膀胱の真下に位置している。前立腺は、精子に栄養を与えたり保持したりする精液を射精時に供給する機能を果たす。前立腺が年齢とともに成長して肥大化することは一般に知られている。ほとんどの哺乳類においては、尿道、即ち尿を通過させて膀胱を空にするための管は、前立腺の中を通っている。前立腺がこのような解剖学的特徴を有することから、男性は年齢を重ねるにつれて排尿に伴う問題に悩まされることが多くなってくる。
【0003】
男性の前立腺は、前立腺炎や前立腺の肥大化(前立腺肥大症など)等の前立腺疾患を含む様々な疾患の病因を招く主要な臓器である。前立腺疾患としては、前立腺炎、前立腺肥大症、および前立腺癌が挙げられるであろう。前立腺炎とは、通常は細菌によって引き起こされる前立腺の感染または炎症と定義される。前立腺炎によって起こる高熱、疲労からくる不調、および凝りは、急性の場合もあるとしても、これらの症状は慢性的であるのが普通である。従って、前立腺炎は、たとえ標準的な療法で治療したとしても比較的再発の多い難治性の疾患であると言える。統計学的調査によれば、20〜50歳前後の男性の30%超が前立腺疾患を患っており、このような前立腺疾患は、泌尿器疾患を持つ外来患者の症例の25%超を占めている。即ち、前立腺疾患は、全快させるのが非常に難しい一般的な疾患であり、そのため、前立腺患者の約80〜90%がこの疾患の再発に関連する非常に深刻な問題に悩まされている。
【0004】
これまでに解明および理解されている前立腺疾患の病因としては、細菌感染(症例全体の約10%を占める)および明確に判定されていない非細菌性の病因がある。前立腺疾患の治療は、特定の抗生物質および抗炎症剤の投与並びに理学療法によって行われるのが普通である。
【0005】
前立腺炎は前立腺組織の炎症によって起こり、頻尿、尿勢低下および尿線細小、排尿痛、腹部および会陰部の不快な痛み、激しい睾丸痛、腰痛などの症状が出現するという特徴がある。更に、これらの症状は飲酒や過度の労働の後に悪化し、これが性機能障害、早漏、肉体疲労といった全身症状を引き起こす場合がある。
【0006】
特に、慢性前立腺炎は、成人男性に非常に一般的である。前立腺癌には必ず前立腺炎が実質的に関連しており、また、たとえ他に明らかな徴候や症状などの医学的所見が認められなくても、前立腺炎の病巣組織を検査すると炎症が見つかる場合がある。慢性前立腺炎は、男性に重大かつ致命的な症状を与えない場合もあるとはいえ、前立腺炎患者の生活の質に大きく影響する根深い疾患である。更に、慢性前立腺炎を正確に診断することは難しく、その治療を達成することは更に困難である。
【0007】
慢性前立腺炎に冒されると、骨盤痛から始まり、排尿困難、インポテンス、不妊等の症状が伴うのが一般的である。排尿困難は前立腺炎によって起こる典型的な状態であり、夜間頻尿による睡眠不足、尿勢の低下、尿線途絶による間欠排尿等の様々な症状が現れる。更に、前立腺炎はまた、インポテンス、勃起不全、男性不妊等の状態も伴う。
【0008】
このことに関し、前立腺炎およびそれに関連する疾患を治療するための様々な方法が紹介されているが、前立腺炎の治療に効果を示すことがわかっているものはその中の半数以下に過ぎず、その効果も限られている。更に、前立腺の健康状態を改善するような標準的な療法も投薬計画も存在しない。
【0009】
前立腺肥大は、50歳を過ぎた男性のほとんどがよく冒される病気である。男性が年齢を重ねると、前立腺内のアンドロゲン、即ちテストステロンがジヒドロキシテストステロン(DHT)に変換される割合が高くなる。テストステロンからDHTへの変換は、主として、レダクターゼ、即ちテストステロンからDHTへの変換を媒介する酵素の濃度が年齢を重ねるにつれて高くなることに起因する。DHTは、前立腺細胞の受容体に効果的に結合し、そして今度は、前立腺の肥大を引き起こす。前立腺肥大症(BPH)等の前立腺肥大を発症すると、様々な不都合や耐え難い症状が伴い、深刻な場合は外科手術が必要になることもある。年間約400,000人の患者が前立腺肥大症の外科手術を受けていると見積もられている。
【0010】
前立腺炎の治療の取り組みとして、バート・L(Baert,L.)らは、ゲンタマイシンを前立腺内に直接注射することによって前立腺液中の抗生物質濃度を高くして、優れた治療効果を達成したことを報告している(非特許文献1)。
【0011】
マサノリ・ヤマモト(Masanori Yamamoto)らは、患者25人の前立腺内にアミカシンおよびセファゾリンを直接注射して、この種の薬剤の慢性細菌性前立腺炎に対する効果を調査し、56%の被験者に治療効果があったことを確認している(非特許文献2)。特許文献1においては、抗生物質および抗炎症剤を徐放性製剤の形態で前立腺に直接注射することによって薬剤の治療効果を最大にする方法を提案している。
【0012】
上述したように、前立腺炎の治療には、通常、抗生物質および抗炎症剤が用いられている。前立腺炎の治療を助けるために、精神面を安定させるための心理療法または抗うつ剤の投与も同時に行われる場合もある。前立腺炎の治療に必要な期間は少なくとも約6〜8週間であるが、長期間を要し得る症例もある。更に深刻な問題は、全快させることが難しいため、患者を完治させられないことにある。
【0013】
前立腺肥大を治療するための主要な方法は、薬物治療により前立腺領域の緊張を和らげることによって排尿を容易にすることに重点が置かれている。しかしながら、このような薬物治療が有効でない場合は、内視鏡を用いた前立腺切除が行われる場合がある。
【0014】
前立腺肥大の治療薬の多くはα−レダクターゼ阻害剤である。例えば、ハイトリン(HYTRIN)(テラゾシンHCl、アボット・ラボラトリーズ(Abbot Laboratories))、カルデュラ(CARDURA)(メシル酸ドキサゾシン、ローリグ(Roerig))、フロマックス(FLOMAX)(タムスロシンHCl、ベーリンガー・インゲルハイム・ファーマスーティカルズ・インコーポレーテッド(Boehringer Ingelheim Pharmaceuticals,Inc.))等が市販されている。これらの薬剤は、前立腺の筋肉の緊張を和らげることによって尿道からの排尿を改善するものである。残念なことに、これらの薬剤は不都合な副作用を引き起こし、対象とする疾患の再発を阻止できない場合がある。前立腺肥大の治療に用いられる他の薬剤であるプロスカール(PROSCAR)(メルク(Merck)より入手可能なフィナステリド)は、前立腺組織を収縮させることによって尿の排出を促す役割を果たす。しかしながら、この種の薬剤が実際に前立腺炎の治療に有益であるかどうかは依然として明らかになっていない。
【0015】
更に、アロプリノールも前立腺炎治療のための治療薬として使用されている。この薬剤は、生体内の尿酸の濃度を低下させることによって、前立腺内で尿酸が形成されることにより起こり得る炎症の発生を防ぐものである。更に、逆症療法として、前立腺領域を温水でマッサージすると前立腺炎の症状が和らげられるが、この疾患を根本的に治療するには限界がある。
【0016】
前立腺癌を治療する場合は、前立腺癌細胞がアンドロゲンの影響下で大幅に増殖することから、アンドロゲンの産生プロセスを抑制するかまたは前立腺上でのアンドロゲンの作用を阻害するためにホルモン療法が採用されている。更には、ホルモン療法が有効でない症状の場合またはホルモン療法の治療効果が減弱されたりなくなった場合には放射線療法も用いられる場合がある。
【0017】
上述したように、前立腺疾患を治療するために抗生物質を前立腺内に直接注射することは、標的となる病巣内に薬剤が直接注射されるため、全身性の副作用を引き起こすことなく高濃度の薬剤を直接送達するのに有利であるが、薬剤の作用時間が短いことに関連する欠点が悩みである。
【0018】
一方、前立腺疾患の治療に用いられる天然成分の代表的な例に亜鉛がある。一般に、亜鉛は、前立腺肥大の緩和に好ましい効果があることが認められている。
【0019】
前立腺疾患の治療における亜鉛の実際の有効性に関する従来技術を再調査すると、特許文献2、特許文献3および特許文献4においては、亜鉛を前立腺炎または前立腺肥大の患者の前立腺に注射経路から直接投与することにより、亜鉛が抗菌活性および前立腺細胞の増殖抑制効果を示すことが確認されている。
【0020】
更に、チョウ(Cho)らは、動物の前立腺内に亜鉛を注射経路から投与した後の亜鉛の抗炎症効果および前立腺内の亜鉛濃度の変化を調査することにより、炎症を誘発したラットにおける炎症の発生が有効に阻止されたことを様々な実験によって確認している(非特許文献3参照)。
【0021】
レスリー(Leslie)らは、前立腺細胞内への亜鉛の流入に関与するトランスポータータンパク質が、メタロチオネインではない別のトランスポータータンパク質によって吸収されることを実証した(非特許文献4)。
【0022】
コステロ(Costello)らは、前立腺組織および疾患の状態に応じたクエン酸および亜鉛濃度分布を確認し、それによって、個々の疾患に応じたクエン酸−亜鉛の関係を明らかにした(非特許文献5)。
【0023】
上述したように、亜鉛には前立腺疾患を治療する効果があることが知られている。このような事実があるにも拘わらず、前立腺が身体の深部に位置することや、前立腺細胞が薬剤を通過させにくい独特な外被を有しているという理由から、利用可能な治療薬は限られている。更に、薬剤を前立腺に吸収させることは容易でないため、有効な治療を達成することが困難である。特に、前立腺炎の治療は、抗生物質を長期投与することによって望ましくない薬剤耐性をもたらす可能性があるだけでなく、正常な細菌数が減少することによって生体内のバランスが崩れ得るという問題に悩まされる場合もある。
【0024】
換言すれば、亜鉛の経口投与は、亜鉛が前立腺に吸収されにくいという理由から容易なことではなく、そのため、亜鉛を注射する以外の亜鉛を利用した前立腺疾患の有効な治療方法は依然として存在しない。しかしながら、注射経路を介した亜鉛の注入には、感染のリスク、注射の難しさ、患者の不快感および痛みなどの様々な問題点があるため、実使用上の制限があることが難点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】韓国特許出願第1998−0020895号明細書
【特許文献2】米国特許第5,234,698号明細書
【特許文献3】米国特許第5,071,658号明細書
【特許文献4】米国特許第4,946,688号明細書
【特許文献5】韓国特許出願第2003−0088214号明細書
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】Urology、第21巻、370頁、1983年
【非特許文献2】J.Urol.Nephrol.、第30巻、199〜202頁、1996年
【非特許文献3】International Journal of Antimicrobial Agents、第19巻、576〜582頁、2002年
【非特許文献4】J.Inorg.Biochem.、第98巻、2004年、664〜666頁
【非特許文献5】Prostate Cancer&Prostatic Diseases、2004年、第7巻、111〜117頁
【非特許文献6】コステロ・L・C(Costello L C)ら、BMC Biochemistry、2006年、第7巻、10頁
【非特許文献7】Int.Urol.Nephrol.、1997年、第29巻、565〜74頁
【非特許文献8】Biol.TraceElem.Res.、1997年、第59巻、145〜152頁
【非特許文献9】Andrologia、1993年、第25巻、369〜375頁
【非特許文献10】第41回年次会議、2001年
【非特許文献11】Br.J.Urol.、1990年、第66巻、47〜54頁
【非特許文献12】Korean Journal of Urology(2001年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
従って本発明の目的は、上述の問題点および依然として解決すべき他の技術的な問題点を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上述した問題点および欠点を解消するべく広範囲にわたる様々な研究および実験を徹底的に行った結果、本発明者らは、金属−酸性アミノ酸キレートが自身を標的臓器内に吸収させる作用に極めて優れており、従って、金属の欠乏若しくは不足によって引き起こされる様々な疾患または金属の供給を必要とする様々な疾患の予防および治療に非常に有効であることを確認した。これらの知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0029】
即ち本発明は、上述の問題点に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、金属の欠乏若しくは不足によって引き起こされる様々疾患または金属の供給を必要とする様々な疾患の予防および治療効果を有する金属−酸性アミノ酸キレートを有効成分として含む組成物並びにこれを含む医薬品、栄養、または化粧料組成物を提供することにある。
【0030】
本発明の他の目的は、生殖器の正常な発達、前立腺機能の維持、性腺ホルモン(例えば、ゴナドトロピン)の産生および活動、インスリンの産生、核酸およびタンパク質の合成、味覚中枢および末梢に対する特定の作用、乳幼児の成長および発育、並びに免疫機能の増進のため、または亜鉛等の特定の金属の欠乏によって引き起こされ得る、乳幼児の発育不全、性機能の後退、食欲不振、前立腺障害、甲状腺機能亢進、病気への抵抗力の低下、味覚障害、グルコース代謝異常、糖尿病、脱毛症等の様々な疾患および状態に対する治療効果を発揮させるために、金属−酸性アミノ酸キレート、特に亜鉛−アスパラギン酸キレートを有効成分として含む医薬品組成物を提供することにある。
【0031】
本発明の更なる目的は、前立腺および/または精巣の疾患を予防および治療するための、上述の亜鉛−アスパラギン酸キレートを有効成分として含む医薬品組成物を提供することにある。
【0032】
本発明の上述および他の目的、特徴、および他の利点は、以下の詳細な説明を添付の図面と一緒に解釈することによってより明確に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】クエン酸の合成プロセスにおけるアスパラギン酸および亜鉛の作用を示す概略図である。
【図2】亜鉛−アスパラギン酸キレート投与群、対照群、および正常群の前立腺組織の染色結果を示す写真である。
【図3】亜鉛−アスパラギン酸キレート投与群および対照群の前立腺組織の染色結果を示す拡大写真(×200)である。
【図4】血漿中亜鉛濃度の経時変化を亜鉛の投与形態ごとに示すグラフである。
【図5】亜鉛投与から8時間後の様々な臓器内における亜鉛濃度を亜鉛の投与形態ごとに示すグラフである。
【図6】前立腺内における亜鉛濃度の経時変化を亜鉛の投与形態ごとに示すグラフである。
【図7】精巣内における亜鉛濃度の経時変化を亜鉛の投与形態ごとに示すグラフである。
【図8】ZnT−2、ZnT−4、およびG3PDHのmRNAの発現レベルを亜鉛の投与形態ごとに示す写真である。
【図9】亜鉛−アスパラギン酸キレート投与群および対照群の前立腺癌細胞の重量変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の態様によれば、上述および他の目的は、金属−酸性アミノ酸キレートを有効成分として含む、金属の吸収を促進する組成物を提供することによって達成することができる。
【0035】
本発明による金属の吸収を促進する組成物は、金属の欠乏若しくは不足によって引き起こされる様々な疾患または金属の供給を必要とする様々な疾患の予防および治療に優れた効果を示す。
【0036】
上述の酸性アミノ酸に特に制限はない。酸性アミノ酸の例としては、グルタミン酸やアスパラギン酸等が挙げられるであろう。これらのアミノ酸は、単独で使用してもよいし、任意の組合せで使用してもよい。アスパラギン酸が特に好ましい。
【0037】
上述の金属は、カルシウム、銅、亜鉛、鉄、クロム、コバルト、マンガン、マグネシウム等の2価以上の金属であってもよい。好ましくは、金属は、2価の金属から選択される任意の1種である。亜鉛が特に好ましい。
【0038】
金属−酸性アミノ酸キレートを調製する方法に特に制限はない。従って、この種のキレートの調製には、当該技術分野において周知の様々な方法を用いてもよい。特に好ましくは、所望のキレートを、本出願人に譲渡された特許文献5の方法によって調製してもよく、この開示内容全体を、参照により本明細書に援用する。
【0039】
本発明の組成物は、1種以上の医薬的に許容可能な担体を更に含んでいてもよい。この種の医薬品組成物は、所望の用途に応じて様々な剤形で処方してもよい。従って、本発明は更に、上述の金属吸収促進組成物を含む医薬品組成物および製剤を提供する。
【0040】
医薬品組成物を調製するためには、有効成分としての金属−酸性アミノ酸キレートを調製すべき所望の処方に応じて適切に選択してもよい様々な医薬品許容担体と混合する。例えば、本発明による医薬品組成物は、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤等の従来の希釈剤または賦形剤を更に含んでいてもよく、また、所望の用途に応じて注射剤や経口製剤等の様々な製剤に処方してもよい。経口製剤が特に好ましい。
【0041】
経口投与用固形製剤としては、例えば、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、およびカプセル剤が挙げられ、本発明の組成物またはキレートを、1種以上のショ糖、乳糖、デンプン等の不活性希釈剤、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、および崩壊剤、結合剤等の他の担体と混合することによって調製される。更に、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤等の液体製剤も、更に様々な補形薬、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、および防腐剤に加えて、水、流動パラフィン等の希釈剤を更に含んでいてもよい。
【0042】
非経口投与用製剤としては、滅菌水性液剤、非水性溶媒、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、および坐剤が挙げられるであろう。非水性溶媒および懸濁溶媒としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、オレイン酸エチル等の注射剤用エステル(injectable ester)を使用してもよい。坐剤の基剤としては、ウイテプゾール(Witepsol)、マクロゴール、トゥイーン(Tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロール、またはゼラチンを使用してもよい。
【0043】
医薬品組成物の好適な投与量は、配合方法、投与方式、患者の年齢、体重、および性別、病態、食事、投与時間、投与経路、排泄率、応答の感度等の様々な要素に応じて変化させてもよい。
【0044】
医薬品組成物の投与単位は、個々の投与量の1、2、3、若しくは4倍量または個々の投与量の1/2、1/3、若しくは1/4倍量を含んでいてもよい。好ましくは、個々の投与量は、1度に投与される量の有効な薬剤を含み、典型的には、1日の投与量の全量またはその1/2、1/3、または1/4倍量に相当する。
【0045】
成人の場合、亜鉛−アスパラギン酸キレートとしての亜鉛の投与量は、好ましくは、15mg/日/kg体重を超え、より好ましくは、20mg/日/kg体重を超える範囲であってもよく、1日1回〜6回投与してもよい。
【0046】
本発明による金属吸収促進組成物は、1種以上の栄養学的および/または化粧的に許容可能な担体を更に含んでいてもよい。
【0047】
例えば、栄養学的に許容可能な担体を含む組成物は、健康食品として使用しても、或いはその中に添加してもよい。本明細書において用いる「健康食品」という用語は、一般的な食品に本発明の組成物が添加され、それによってその機能を向上させた食品を指す。金属−酸性アミノ酸キレート含有組成物は、一般的な食品に添加してもよいし、カプセル剤、散剤、懸濁剤等の形態で調製してもよい。金属−酸性アミノ酸キレートを含むこのような健康食品は原料として食品が用いられているので、従来の薬剤とは異なり、これを摂取しても薬剤の長期連用によって起こり得る副作用がないという利点がある。
【0048】
本発明の金属−酸性アミノ酸キレートを食品添加物として使用することが所望される場合は、キレートを単独で添加してもよいし、或いは他の食品または食品成分と一緒に用いてもよいし、或いは任意の従来法に従い適宜使用してもよい。有効成分の混合量は使用目的(予防、健康、または治療目的の処置)に応じて適宜決定してもよい。
【0049】
通常、本発明のキレートを混合する食品または飲料を製造する際は、金属−酸性アミノ酸キレートは、原料の総重量を基準として、0.0001〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%の量で添加してもよい。しかしながら、健康および衛生目的または健康管理のための長期摂取を意図する場合は、キレートの量を上に規定した範囲未満に調整してもよい。更に、本発明の組成物を上述したような医薬品組成物として用いる場合、この医薬品組成物は、好ましくは、既定の毒性域に収まる量の金属−酸性アミノ酸キレートを含む。
【0050】
上述した食品の種類に特に制限はない。金属−酸性アミノ酸キレートを添加することができる食品の例としては、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディー、スナック、菓子類、ピザ、ラーメン、他の麺類、ガム、乳製品(アイスクリームを含む)、各種スープ、飲料(beverage)、茶、飲み物(drink)、アルコール飲料、および総合ビタミン製剤が挙げられるであろう。より具体的には、金属−酸性アミノ酸キレートを主成分として作られた健康食品および搾汁(squeezed liquid)、茶、ゼリー、ジュース等の嗜好食品(special favorite food)が挙げられるであろう。
【0051】
更に本発明は、亜鉛の含有量を効果的に増大させることによって活性を示す亜鉛−アスパラギン酸キレートを含み、生殖器の発達異常、性腺ホルモンの産生異常または異常な活動、インスリンの産生異常、免疫機能の低下、性機能の後退、食欲不振、前立腺障害、甲状腺機能亢進、病気への抵抗力の低下、味覚障害、グルコース代謝異常、脱毛症等の予防および治療を目的とする組成物を提供する。
【0052】
これまで明らかになった事実により、亜鉛は、生体内において、生殖器の正常な発達、前立腺の機能維持、性腺ホルモン(例えば、ゴナドトロピン)の産生および活動、インスリンの産生、核酸およびタンパク質の合成、味覚中枢および末梢の特定の活動、乳幼児の成長および発達、免疫機能の向上等に関する様々な薬理作用を示すことがわかっている。従って、亜鉛の欠乏は、乳幼児の発育不全、性機能の後退、食欲不振,前立腺障害、甲状腺機能亢進、病気への抵抗力の低下、味覚障害、グルコース代謝異常、糖尿病、脱毛症等の疾患および状態を引き起こす場合がある。
【0053】
本発明による亜鉛−アスパラギン酸キレートは標的臓器内への亜鉛の送達および吸収が大幅に改善されているので、このようなキレートを含む上述の組成物は、亜鉛を生体内において効果的に送達することによって上述したような亜鉛の様々な薬理作用を発揮させ、従って、亜鉛の不足または欠乏によって起こり得る上述の疾患および障害の予防および治療に非常に有効である。
【0054】
他の好ましい実施形態においては、本発明は、前立腺および/または精巣の疾患を予防および治療するための亜鉛−アスパラギン酸キレートを有効成分として含む医薬品組成物を提供する。
【0055】
本発明者らにより実施された実験により、上述の亜鉛−アスパラギン酸キレートが亜鉛を効果的に送達し、それによって前立腺および/または精巣の疾患の予防および治療に著しい効果を発揮することが確認された。前立腺疾患とは、前立腺炎、前立腺の肥大化(前立腺肥大症等)または前立腺癌であり得る。
【0056】
このことに関連する、前立腺の最も重要な生物学的機能の1つは、クエン酸の合成および分泌である。以下の反応1に示すように、クエン酸合成は、アスパラギン酸を基質として用いることによって起こる。
グルコース+2アスパラギン酸+2O→2クエン酸+2CO+14ATP (1)
【0057】
図1は、クエン酸合成プロセスにおけるアスパラギン酸および亜鉛の働きを示すものであり、これを参照すると、前立腺内でクエン酸が合成されるにはアスパラギン酸が高濃度で存在することが必要であり、そして、他の組織細胞とは異なり、アスパラギン酸は前立腺細胞内において不可欠なアミノ酸であるため、血液から供給されることが必要である。高親和性L−アスパラギン酸トランスポーターであるEAAT3が前立腺中に存在することが最近になって発見された(非特許文献6)。
【0058】
ザイキック(Zaichick)らの研究により、前立腺内では、他の組織や臓器と比較して、亜鉛濃度が非常に高水準に維持されており、正常、BPH、および癌性の前立腺の乾燥重量に対する亜鉛濃度は、それぞれ、1018±124、1142±77、および146±10μg/gであったと分析されている(非特許文献7)。
【0059】
ブライス(Brys)らによる前立腺肥大症(BPH)または前立腺肥大化および前立腺癌患者の組織中における亜鉛およびカドミウム濃度の分析から、BPH患者の亜鉛濃度が増大している一方で、前立腺癌患者の亜鉛濃度は減少しており、両群でカドミウム濃度が高いことがわかった(非特許文献8)。これらの結果から、カドミウムが前立腺内における亜鉛の機能を阻害しており、それによって前立腺の変化に重要な役割を果たしていると報告されている。
【0060】
ファヒム・MS(Fahim MS)らは、前立腺のステロイド内分泌に亜鉛が関連していることを報告している(非特許文献9)。即ち、5アルファ−ジヒドロテストステロン(DHT)が前立腺におけるアンドロゲン性応答を誘起すると考えられている。ラットにおける亜鉛の作用を調査した実験結果から、処理された前立腺組織内においては、5−アルファ−レダクターゼ活性、前立腺重量、総タンパク量、およびDNA濃度が有意に低下しており、また、精巣、精巣上体、および精嚢の組織学的構造には有意な変化がなかったことが示された。これらの発見は、前立腺に対する亜鉛の効果を示す直接的な結果である。即ち、これらの結果は、前立腺に亜鉛を直接適用することによって、精子形成に影響を与えることなく前立腺炎等の前立腺疾患を治療する新たな様式を提供できることを示唆するものである。
【0061】
ペイ・フェン(Pei Feng)らの研究によれば、正常な前立腺には体内の他の任意の臓器の3〜10倍多い亜鉛が蓄積されている(非特許文献10)。それとは対照的に、前立腺癌細胞内の亜鉛量は非常に低い。悪性の前立腺癌細胞は、前立腺内に亜鉛を蓄積する能力を失ってしまっている。高濃度亜鉛を用いて前立腺癌細胞を処理すると、細胞の成長が阻害され、その結果としてアポトーシスまたはプログラム細胞死が起こる。従って、これらの結果は、亜鉛がミトコンドリアに作用してチトクロームCの放出量を増大させ、その結果として悪性および肥大化内でのアポトーシスに至らせることによって、前立腺組織の細胞増殖と細胞死とのバランスを維持していることをはっきりと裏付けるものである。
【0062】
しかしながら、このような研究結果があるにも拘わらず、亜鉛を無機鉱物として摂取しても亜鉛は実質的に前立腺組織内には移動せず、従って、前立腺および精巣疾患に対し亜鉛の治療効果を達成することができないことがわかっている。即ち、前立腺および精巣疾患の治療には、前立腺組織内への亜鉛の移行を容易にすることが非常に重要である。
【0063】
従って本発明は、亜鉛含有量を有効に増大させることによりその活性を示す亜鉛−アスパラギン酸キレートを含む、前立腺および精巣疾患を予防および治療するための医薬品組成物を提供する。好ましくは、前立腺疾患としては、前立腺炎、前立腺の肥大化(前立腺肥大症)および前立腺癌が挙げられる。
【0064】
上述の亜鉛−アスパラギン酸キレートは自身を標的臓器内に送達する機能に優れており、従って、前立腺内に亜鉛を有効に送達することができる。更に、亜鉛の摂取量を高めることにより細胞内亜鉛量を有効に増大させることによって精巣疾患および前立腺炎(細菌性および非細菌性前立腺炎を含む)、前立腺肥大症、前立腺癌等の前立腺疾患を非常に有効に予防および治療することが可能である。
【0065】
このような事実を確認するために、本発明者らは以下に示す様々な実験を実施した。実験動物の前立腺組織に大腸菌(E.coli)を接種することによって炎症を起こし、動物には生理食塩水を与える(対照群)かまたは亜鉛−アスパラギン酸キレートを経口投与(実験群)した。その後、前立腺組織を回収して染色した。その結果、亜鉛−アスパラギン酸キレートの投与が優れた抗炎症効果を示すことが確認された。
【0066】
更に、人間の被験者に以下の実験を実施した。一方の群には抗生物質および抗炎症剤を投与し(対照群)、もう一方の群には亜鉛−アスパラギン酸キレートを投与した(実験群)。NIH慢性前立腺炎症状スコア(Chronic Prostatitis Symptom Index)(NIH−CPSI)に基づき、1)痛みおよび不快感、2)排尿症状、および3)生活の質への影響の3つの分野に着目して、被験者に9項目からなるアンケートを行うことにより統計分析を行った。その結果、亜鉛−アスパラギン酸キレートを投与することによって、対照群よりも非常に優れた効果が得られることが確認された。
【0067】
従って、亜鉛−アスパラギン酸キレートを有効成分として含む、前立腺および精巣疾患を予防および治療するための医薬品組成物は、前立腺内の亜鉛濃度を増大させることによって前立腺および精巣疾患を予防および治療することが可能であり、従って、このような亜鉛−アスパラギン酸キレート含有組成物を、前立腺および精巣疾患に伴う様々な疾患の様々な治療薬として発展させることができると期待される。
【0068】
上述したように、本発明による前立腺および精巣疾患を予防および治療するための医薬品組成物は、注射剤以外の様々な剤形でも処方してもよい。従って、従来の薬剤組成物が注射経路によってしか投与できなかったという制限および不便さによって起こり得る、感染、注射の難しさ、並びに患者の不快感および痛みというリスクに伴う様々な問題を解消することが可能である。
【実施例】
【0069】
ここで、以下の実施例を参照しながら本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は本発明のあくまで例示を目的として提供するものであって、本発明の範囲および主旨を限定するものと解釈すべきではない。
【0070】
実施例1:慢性細菌性前立腺炎の白ラットモデルにおける亜鉛アスパラギン酸キレートの効果
1.材料
実験動物として、12〜16週齢、体重250〜300gのスプレーグ・ドーリー(Sprague−Dawley)雄性ラット(韓国忠清北道(Chungchongbuk−do,Korea)のデハン・バイオリンク・コーポレーション・リミテッド(Daehan Biolink Co.,Ltd.))を1週間基本食に訓化した後、本実験に用いた。これらのラットを、正常対照群、生理食塩水投与群、および亜鉛−アスパラギン酸キレート投与群にランダムに分けた。
【0071】
2.慢性細菌性前立腺炎モデルおよび亜鉛−アスパラギン酸キレートの投与
ニッケル(Nickel)ら(非特許文献11)の方法に従い、白ラットを用いて慢性細菌性前立腺炎モデルを構築した。前立腺炎の病原として知られている大腸菌(Escherichia coli)ATCC 25922を前立腺の尿道に1×10cells/mLの濃度で注射した。
【0072】
生理食塩水に溶解した亜鉛−アスパラギン酸キレート15mg/kg/日を前立腺炎を誘発したラットに所定の時点で経口投与した。対照群として、亜鉛−アスパラギン酸キレートを含まない生理食塩水を動物に投与した。投与を30日間継続した。30日後、各群の動物を解剖して前立腺を取り出し、そこから前葉および後側葉(posterior lateral lobe)を分離した。その後、前立腺膜を完全に取り除き、前立腺のみにした。各群からの前葉および後側葉の試料を10%中性ホルマリンで固定し、パラフィンに包理し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した後、パラフィン包理切片を顕微鏡観察した。
【0073】
図2および3に示すように、対照群の感染した前立腺には腺房および間質内への顕著なリンパ球浸潤が見られた。一方、亜鉛−アスパラギン酸キレート投与群では、腺組織内および周辺への炎症細胞の浸潤は見られず、腺房の大きさが回復しており、また、間質内にはリンパ球が見られず、線維増殖は実質的に進行しなかった。その結果、亜鉛−アスパラギン酸キレート投与群では、正常群に匹敵する正常な組織形態が見られた。
【0074】
実施例2:亜鉛−アスパラギン酸キレートの前立腺および精巣組織への選択的移行
実験動物として、12〜16週齢、体重250〜300gの雄性スプレーグ・ドーリー・ラット(韓国忠清北道のデハン・バイオリンク・コーポレーション・リミテッド)を1週間基本食に訓化した後、本実験に用いた。これらの実験動物を、硫酸亜鉛投与群、アルギニン亜鉛投与群、および亜鉛−アスパラギン酸キレート投与群にランダムに分けた。動物を12時間絶食させた後、各亜鉛試料を、試料中の亜鉛濃度が40mg/kgとなるようにラットに投与した。試料の投与が完了した後、0.5、1、2、4、および8時間経過した時点でそれぞれ血液を採取し、ヘパリンで処理した。次いで、血漿を冷蔵庫に保管し、亜鉛濃度の分析に用いた。一方、組織内の亜鉛の分布を調査する目的で、各亜鉛試料をラットに投与した。8時間後、動物を屠殺して臓器を取り出した。ジンキン(Zinquin)を用いた蛍光光度分析により血漿および組織中の亜鉛濃度を決定した。
【0075】
図4に示すように、硫酸亜鉛、アルギニン亜鉛、およびアスパラギン酸亜鉛のいずれに関しても、血漿中亜鉛濃度が時間に依存して増大していることが確認された。更に、アルギニン亜鉛およびアスパラギン酸亜鉛投与群は、硫酸亜鉛投与群と比較して、血漿中亜鉛濃度が有意に増大していることが確認された。更に、アルギニン亜鉛投与群は、血中亜鉛量が亜鉛試料投与後1〜2時間経過した時点で最大になるのに対し、硫酸亜鉛およびアスパラギン酸亜鉛投与群は、薬剤投与後から2時間経過した時点で血中亜鉛量が最大となった。
【0076】
一方、図5に示すように、様々な臓器内の亜鉛の分布を各試料の投与から8時間経過した後に比較すると、亜鉛の分布プロファイルはほとんどの臓器で似通ったものになった。しかしながら、アスパラギン酸亜鉛投与群は、前立腺組織および精巣内の亜鉛濃度が有意に高かった(p<0.001)。更に、図6および7は、各試料の投与から4および8時間経過した後の前立腺内および精巣内のそれぞれの亜鉛量を示すグラフである。これらの図を参照すると、アスパラギン酸亜鉛投与群は、硫酸亜鉛およびアルギニン亜鉛投与群と比較すると、前立腺組織および精巣のいずれにおいても有意に高い亜鉛濃度を示すことがわかる。これらの結果に基づき、亜鉛−アスパラギン酸キレートを用いることによって、前立腺および精巣組織内に亜鉛イオンが選択的に吸収されることを確認することができる。
【0077】
実施例3:亜鉛トランスポータータンパク質mRNAの発現に対する亜鉛−アスパラギン酸錯体の効果
亜鉛トランスポータータンパク質として周知のZnT−2およびZnT−4の発現に対する亜鉛−アスパラギン酸錯体の効果を調査するために、以下の手順に従い実験を実施した。
【0078】
トリゾール(Trizol)試薬(米国インビトロジェン(Invitrogen,USA))を用いて、前立腺組織0.1gから全RNAを抽出した。M−MLV逆転写酵素(米国インビトロジェン)を用いて、抽出された全RNA5μgからcDNAを合成した。プライマー20pmolをcDNA3μLに加えて体積を20μLにし、PCRを以下のように実施した:初期変性を95℃で5分間、次いで、94℃で1分間の変性を26サイクル、アニーリングを各プライマーの状態に対応するアニーリング温度で1分間、伸長を72℃で1分間、最終伸長を72℃で10分間。
【0079】
PCRに用いたプライマーの配列およびアニーリング温度を以下の表1に記載する。
【0080】
【表1】

【0081】
PCR産物を、EtBrを含む1.5%アガロースゲル電気泳動にかけた後、UV照射によって産物を確認した。
【0082】
ZnT−2、ZnT−4、およびG3PDHのmRNAの発現に対する亜鉛−アスパラギン酸錯体、硫酸亜鉛、およびアルギニン亜鉛の効果を調査した。こうして得られた結果を図8に示す。
【0083】
図8を参照すると、亜鉛を経口投与したどの群も、亜鉛を経口投与する前(0h)と比較すると、ZnT−2の発現レベルが増大しており、特にアスパラギン酸亜鉛投与群は、ZnT−2の発現レベルの増大が最も大きかったことがわかる。
【0084】
実施例4:前立腺癌に対する亜鉛−アスパラギン酸キレートの効果
10週齢の雄性COPラット(日本国静岡(Shizuoka,Japan)の日本エスエルシー(Japan SLC))を温度22±2℃、湿度55±5%に維持された繁殖室に収容して、12時間の明/暗(L/D)サイクル(明期8:00a.m.〜8:00p.m.)で、7日間新しい環境に訓化した後、実験を行った。
【0085】
前立腺癌細胞株(R3327 AT−3.1)5×10cells/headを動物の前立腺内に注射し、癌細胞の成長を測定した。こうして得られた結果を図9に示す。薬剤および投与方法を以下の表2に記載する。
【0086】
【表2】

【0087】
図9を参照すると、本発明による亜鉛−アスパラギン酸キレートを投与した群は、対照群と比較すると、腫瘍塊の重量が有意に低下しており、また、市販の前立腺癌治療薬、例えばタキセル(Taxel)を投与した群と比較すると、腫瘍塊の重量が非常に小さいことがわかる。従って、本発明によるアスパラギン酸亜鉛は、前立腺癌の治療に利用可能であることを確認することができる。
【0088】
実施例5:亜鉛アスパラギン酸キレートの臨床試験
5年を超える慢性前立腺炎の病歴を持つ34人の患者に亜鉛−アスパラギン酸キレートを50mg/日の投与量で8週間投与した。高麗大学医学部泌尿器学科(Department of Urology,College of Medicine,Korea University)(韓国ソウル(Seoul,Korea))において臨床試験を実施した。前立腺炎の分類および症状の緩和は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)の慢性前立腺炎症状スコア(NIH−CPSI、NIHにより1995年に発案)に従い分析した。従来の療法による臨床効果として、成均館大学医学部(Sungkyunkwan University School of Medicine)(韓国ソウル(Seoul,Korea))の非特許文献12に発表された臨床研究のデータを引用した。亜鉛−アスパラギン酸キレートを1日50mg投与した患者に注目すべき副作用を示す報告はなく、有意な治療効果が検定された。
【0089】
以下の表3および4に、慢性前立腺炎患者に従来の治療薬として抗生物質および抗炎症剤を投与した結果および亜鉛−アスパラギン酸キレートを投与した結果をそれぞれ対照群の結果と併せて示す。
【0090】
【表3】

【0091】
【表4】

【0092】
表3および4に示すように、本発明による亜鉛−アスパラギン酸キレートを投与した結果、たとえ従来の薬物療法および理学療法を併用した効果と比較しても、それとほぼ同水準の治療効果が得られることが示された。従って、亜鉛−アスパラギン酸キレートを含む組成物は、抗生物質の乱用による不都合な副作用を軽減するかまたは患者の不快感や不便さを軽減する、慢性前立腺炎の治療に有効な経口用組成物であり、従来の療法と併用可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0093】
上の説明から明らかなように、本発明による金属の吸収を促進する組成物は、個々の金属に薬効を発揮させることができるように、薬剤(例えば、特定の金属)の標的臓器への送達および吸収を改善する、優れた効果を示す金属−酸性アミノ酸キレートを利用することによって、金属の欠乏または不足によって引き起こされる様々な疾患の予防および治療に治療効果を示すものである。特に、前立腺内の有効成分としての亜鉛含有量を増大させる亜鉛−アスパラギン酸キレートを含む医薬品組成物は、前立腺および精巣疾患の予防および治療に非常に有効である。
【0094】
本発明の好ましい実施形態を例示目的で開示してきたが、添付の特許請求の範囲に開示した本発明の範囲および主旨を逸脱することなく様々な変形、追加、置き換えが可能であることが当業者に理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属−酸性アミノ酸キレートを有効成分として含むことを特徴とする金属の吸収を促進するための組成物。
【請求項2】
前記アミノ酸が、アスパラギン酸、グルタミン酸およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記金属が、2価の金属から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記金属が亜鉛であり、前記酸性アミノ酸がアスパラギン酸であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
薬学的に許容される担体を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
栄養学的に許容される担体を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
化粧品学的に許容される担体を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
亜鉛−アスパラギン酸キレートを有効成分として含む、疾患を予防および治療するための医薬品組成物であって、前記疾患が、生殖器の発達異常、性腺ホルモンの産生および活性異常、インスリンの産生異常、免疫機能の低下、性機能の後退、食欲不振、前立腺障害、甲状腺機能亢進、病気への抵抗力の低下、味覚障害、グルコース代謝異常および脱毛症からなる群から選択されることを特徴とする組成物。
【請求項8】
亜鉛−アスパラギン酸キレートを有効成分として含むことを特徴とする前立腺および/または精巣疾患を予防および治療するための医薬品組成物。
【請求項9】
前記前立腺疾患が、前立腺炎、前立腺の肥大化(前立腺肥大症)および前立腺癌からなる群から選択されることを特徴とする請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の組成物を含むことを特徴とする医薬品製剤。
【請求項11】
経口投与用であることを特徴とする請求項10に記載の製剤。
【請求項12】
亜鉛−アスパラギン酸キレート含有組成物を有効成分として含む医薬品製剤であって、15mg/日を超える量の亜鉛が投与されるように設計されていることを特徴とする製剤。
【請求項13】
亜鉛−アスパラギン酸キレート含有組成物を有効成分として含む医薬品製剤であって、前立腺または性腺を標的としていることを特徴とする製剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2009−542800(P2009−542800A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519363(P2009−519363)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【国際出願番号】PCT/KR2007/003179
【国際公開番号】WO2008/007868
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(509010436)マゼンス インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】