説明

金属の拡散接合方法

【課題】大きな接合強度が得られる、硬度の異なる金属同士の接合方法を提供すること。
【解決手段】第1の金属で形成された第1の部材110と、第1の金属より硬度の高い第2の金属で形成された第2の部材120との拡散接合方法であって、第1の部材の接合面112と、第2の部材の接合面126とを摺動し、少なくとも一方の接合面に形成されている酸化膜を除去する工程と、第1の部材と第2の部材とを押し付ける力を加えながら、第1の部材と第2の部材との間に通電し、第1の部材と第2の部材とを接合する工程とを備える、金属の拡散接合方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬度の異なる金属同士の拡散接合方法に関する。特に、接合部の接合強度の大きい金属の拡散接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械部品においては、軽量化の要求が厳しくなり、高強度を要求される部分にだけ高強度の金属を使用し、その他の部分には軽量の金属を用いて、軽量化を図っている。たとえば、自動車部品に代表されるように、大きな強度が要求される部分や摺動部には鉄系材料を用い、その他の部分をアルミニウム系材料で構成する機械部品が使用されている。このように強度あるいは硬度の異なる金属同士を接合する要求が増加している。
【0003】
ところで、たとえばアルミニウム系材料は溶接が難しく、これまでは主に抵抗スポット溶接により行われてきた。抵抗スポット溶接によると、ナゲットが形成されるので、外観上好ましくはなかった。そこで、被溶接物の双方にプロジェクションを形成したプロジェクション溶接により溶接する方法が提案されている(特許文献−1参照)。
【特許文献1】特開2002−103056(第3−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、鉄系材料にアルミニウム系材料のような硬度の異なる金属を溶接する場合には、充分な溶接強度が得られない場合がほとんどである。そこで、本発明は、大きな接合強度が得られる、硬度の異なる金属同士の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係る金属の拡散接合方法は、たとえば図1に示すように、第1の金属で形成された第1の部材110と、第1の金属より硬度の高い第2の金属で形成された第2の部材120との拡散接合方法であって;第1の部材110の接合面112と、第2の部材120の接合面126とを摺動し、少なくとも一方の接合面112、126に形成されている酸化膜を除去する工程と;第1の部材110と第2の部材120とを押し付ける力を加えながら、第1の部材110と第2の部材120との間に通電し、第1の部材110と第2の部材120とを接合する工程とを備える。なお、「拡散接合方法」とは、固相の被接合材料同士の接合面で原子間の結合を起こさせる固相接合方法をいうが、接合面において被接合材料に僅かな溶融が生ずる場合をも含む。また、「硬度」とは材料の塑性変形に対する抵抗の大小をいい、「硬度の高い」とは、例えばビッカース硬さ、ブリネル硬さ、ショア硬さ、ビアバウム硬さなど、工業的に用いられるいずれか一の測定方法により測定された硬さが高い値を示すことをいう。
【0006】
このように構成すると、金属同士が接している界面を電流が流れることにより発熱し、発熱により軟化した金属表面が摺動されることにより塑性流動し、表面酸化膜が除去されて清浄な表面が得られ、金属原子が拡散して拡散接合されるので、接合強度の大きな金属の接合方法となる。
【0007】
また、請求項2に記載の発明に係る金属の拡散接合方法では、請求項1に記載の金属の拡散接合方法において、たとえば図1に示すように、第1の部材110または第2の部材120の内、いずれか一つの部材110に孔111が形成され、他の部材120は孔111より少なくとも一部が大きな外形126を有し;摺動する力P1を、孔111を貫通する方向に加えて、他の部材120を孔111に嵌入するようにしてもよい。
【0008】
このように構成すると、他の部材が少なくとも一部が孔より大きな外形を有しているので、孔より大きな外形を孔に嵌入するときに、孔の面と他の部材の外形とが摺動されることにより塑性流動し、そこに形成されている酸化膜は除去される。また、孔に他の部材を嵌入することにより、孔の面と他の部材の外形とは密着し、拡散接合され易くなる。
【0009】
また、請求項3に記載の発明に係る金属の拡散接合方法では、例えば図6(a)に示すように、請求項2に記載の金属の拡散接合方法において、孔71は、他の部材80と摺動する第1の面72と、第1の面72から孔の内側に延びる第2の面76とを含んで形成され;第2の面76、あるいは、孔71に嵌入する他の部材80の第2の面76と相対する面82に突起77が形成され;他の部材80を、第2の面76とほぼ接するまで嵌入してもよい。
【0010】
このように構成すると、他の部材が孔に嵌入するときに孔の面と他の部材の外形とが摺動し塑性流動した金属は、第2の面から流れる出ることが突起により防止される。その結果、一の部材と他の部材との接合部分の端部がきれいな仕上がりになる。
【0011】
また、請求項4に記載の発明に係る金属の拡散接合方法では、例えば図8(a)に示すように、請求項2に記載の金属の拡散接合方法において、孔71の他の部材80と摺動する面72あるいは他の部材80の孔71の面72と摺動する面86の少なくともいずれか一方に、他の部材80が嵌入する方向と交差する方向の溝78が形成され;他の部材80は、溝78を越えてあるいは溝が孔71に嵌入するまで、孔71に嵌入してもよい。
【0012】
このように構成すると、他の部材が孔に嵌入するときに孔の面と他の部材の外形とが摺動し塑性流動した金属は、溝に流れ込むので、接合部分の周囲に流れる出ることが防止される。その結果、一の部材と他の部材との接合部分の端部がきれいな仕上がりになる。
【0013】
また、請求項5に記載の発明に係る金属の拡散接合方法では、例えば図8(b)に示すように、請求項2に記載の金属の拡散接合方法において、孔71は、他の部材80と摺動する第1の面72と、第1の面72から孔71の内側に延びる第2の面76とを含んで形成され;第2の面76、あるいは、孔71に嵌入する他の部材80の第2の面76と相対する第3の面82に周囲より窪んだ凹部96が形成され;他の部材80を、第2の面76と第3の面82とがほぼ接するまで嵌入してもよい。
【0014】
このように構成すると、他の部材が孔に嵌入するときに孔の面と他の部材の外形とが摺動し塑性流動した金属は、凹部に流れ込むので、接合部分の周囲に流れる出ることが防止される。その結果、一の部材と他の部材との接合部分の端部がきれいな仕上がりになる。
【0015】
また、請求項6に記載の発明に係る金属の拡散接合方法では、例えば図7(a)に示すように、請求項2に記載の金属の拡散接合方法において、他の部材80は、孔71に嵌入しない部分を有し、孔71に嵌入しない部分の周囲に、孔に嵌入する部分より大きな外形の張り出しであって、孔71に嵌入した後に他の部材80が嵌入した孔71の入口の周囲を、一つの部材70と共に覆う張り出し88を有し;他の部材80を、張り出し88が、一つの部材70にほぼ接するまで孔71に嵌入してもよい。
【0016】
このように構成すると、他の部材が孔に嵌入するときに孔の面と他の部材の外形とが摺動し塑性流動した金属は、張り出しにより覆われることにより流出することが防止される。その結果、一の部材と他の部材との接合部分の端部がきれいな仕上がりになる。
【0017】
また、請求項7に記載の発明に係る金属の拡散接合方法では、請求項2ないし請求項6のいずれか1項に記載の金属の拡散接合方法において、たとえば図1に示すように、孔が円形断面の孔111であり;他の部材120の外形126が円形断面であるように構成してもよい。
【0018】
このように構成すると、孔も他の部材の外形も円形であるので、広く均一に拡散接合される面が得られ、接合強度の大きな金属の接合方法となり易い。
【0019】
また、請求項8に記載の発明に係る金属の拡散接合方法では、請求項2ないし請求項7のいずれか1項に記載の金属の拡散接合方法において、たとえば図1に示すように、他の部材120の外形126の大きな部分が孔111の形成された部材110と重なり合う重ね合わせ代Wが、0.2mmないし1mmであるように構成してもよい。
【0020】
このように構成すると、重ね合わせ代が0.2mmないし1mmであるので、他の部材を孔に嵌入させ易く、かつ、嵌入させるときに表面に形成されている酸化膜が除去され易い。
【0021】
更に、請求項9に記載の発明に係る金属の拡散接合方法では、請求項2ないし請求項8のいずれか1項に記載の金属の拡散接合方法において、たとえば図4に示すように、接合した他の部材160に、接合する前よりも接合面166の法線方向に張り出し、孔151の形成された部材150に食い込む膨らみ部Sが形成されるように構成するとよい。
【0022】
このように構成すると、接合した箇所において、他の部材が孔の形成された部材に食い込む膨らみ部が形成され、膨らみ部により更に強固に接合されるので、接合強度が一層大きくなる。
【0023】
また、請求項10に記載の発明に係る金属の拡散接合方法では、請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の金属の拡散接合方法において、第1の金属がアルミニウム系材料であり;第2の金属が鉄系材料であり;酸化被膜が、少なくとも第2の部材の接合面に形成されているように構成してもよい。
【0024】
このように構成すると、強度の得られにくかったアルミニウム系材料と鉄系材料との接合において、アルミニウム系材料と鉄系材料とが接している界面を電流が流れることにより発熱し、鉄系材料の酸化膜も摺動されることにより塑性流動して除去され清浄な面が得られ、そのためにアルミニウムあるいは鉄原子が拡散して拡散接合されるので、接合強度の大きなアルミニウム系材料と鉄系材料との接合方法となる。ここで、鉄系材料とは、鉄鋼を始めとして鉄を主成分とする合金を含み、アルミニウム系材料とは、アルミニウムあるいはアルミニウムを主成分とする合金を含む。なお、「主成分とする」とは、構成する成分中最も重量%の大きいこと、典型的には当該成分を50重量%以上含むことをいう。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る金属の拡散接合方法によれば、第1の部材の接合面と、第2の部材の接合面とを摺動し、少なくとも一方の接合面に形成されている酸化膜を除去する工程と、第1の部材と第2の部材とを押し付ける力を加えながら、第1の部材と第2の部材との間に通電し、第1の部材と第2の部材とを接合する工程とを備えるので、金属同士が接している界面を電流が流れることにより発熱し、発熱により軟化した金属表面が摺動されることにより塑性流動し、表面酸化膜が除去されて清浄な表面が得られ、そのために金属原子が拡散して拡散接合されるので、接合強度の大きな金属の接合方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、互いに同一または相当する装置には同一符号を付し、重複した説明は省略する。
【0027】
図1を参照して、本発明の実施の形態であるリングマッシュ溶接による鉄系材料とアルミニウム系材料との拡散接合方法を説明する。図1は、アルミニウム系材料で形成された部材110(以下、単に「アルミニウム系部材110」という。)と鉄系材料で形成された部材120(以下、単に「鉄系部材120」という。)との接合方法の概念を説明する上面図および断面図であり、(a)は接合前の鉄系部材120とアルミニウム系部材110との上面図、(b)は同じく接合前の断面図、そして、(c)は接合後の断面図である。ここで、リングマッシュ溶接とは、アルミニウム系部材110の接合部または鉄系部材120の接合部のいずれか一つが該材料に形成された孔111の内周面112を含み、アルミニウム系部材110の接合部または鉄系部材120の接合部のいずれか一つとは別の一つが、形成された孔111よりも少なくとも一部が大きな外形の外周面126を含み、形成された孔111を貫通する方向に内周面112と外周面126とを摺動する力を有する押込み力P1が加えられ、形成された孔111に外周面126が嵌合するようにしながら、すなわち内周面112と外周面126とに押し付ける力を発生しながら、アルミニウム系部材110と鉄系部材120との間に通電し接合する固相接合としての拡散接合方法をいう。
【0028】
図1(a)に示すように、アルミニウム系部材110は、平板に断面形状が円形の孔111が形成されている。孔111の形状は、円形には限られず、楕円形、四角形を始めとする多角形等、任意の形状でよい。孔111の内周面112は、平板の表面に垂直に形成されている。なお、内周面112は、平板の表面に必ずしも垂直である必要はないが、垂直であると、後述の押込み力P1(図1(b)参照)を平板と垂直方向に加えるのが容易で、かつ、押込み力P1の方向が内周面112の方向と一致するので、嵌合させ易い。アルミニウム系部材110は、下部電極(不図示)上に載置される。
【0029】
鉄系部材120は、孔111の直径よりも大きな外形の外周面126を有する円板である。なお、鉄系部材120の形状は、孔111の形状に適合させる。すなわち、図1に示す実施の形態では、孔111の断面形状が円形であるので、円形断面すなわち円板としているが、孔の形状が楕円形であれば鉄系部材120の断面形状も楕円形とし、孔の形状が四角形であれば鉄系部材120の断面形状も四角形とするのがよい。鉄系部材120は、その接合部にアルミニウム系部材110に形成された孔111より少なくとも一部が大きな外形の外周面126を有していればよい。
【0030】
外周面126が内周面112より大きく、孔111に嵌入するためにアルミニウム系部材110に鉄系部材120を重ねたときに、鉄系部材120とアルミニウム系部材110とが重なり合い、鉄系部材120が孔111に入り込めなくしている部分が重ね合わせ代Wとなる。ここで、「大きな」とは、孔111よりも僅かに大きければよく、重ね合わせ代Wを0.2mm以上、1mm以下とすると鉄系部材120を孔111に嵌入するときに外周面126と内周面112との間で摺動が生じ、外周面126あるいは内周面112に形成されている酸化膜が除去されるので好ましく、また、鉄系部材120を孔111に嵌入させやすい。好ましくは重ね合わせ代Wを0.3mm以上、0.5mm以下とすると熱ひずみが小さな拡散接合が可能となり、溶接箇所の外観も損なわれず好適である。特に、外周面126の直径が、10mm〜100mm程度の部材を用いるときには、前述の大きさの重ね合わせ代Wとするのがよい。
【0031】
鉄系部材120は、孔111に外周面126を重ね合わせ代Wを持って同心に、アルミニウム系部材110の上に載置される。このときに、図1(b)に示すように、鉄系部材120にいわゆる面取りが形成されていると、孔111と外周面126との位置合わせが容易になる。すなわち、鉄系部材120の外周面126を含む接合部に、孔111よりも小さな径の端部(下端)122が形成され、端部122から、孔111よりも大きな外形の外周面126に至るテーパ面(面取り面)124が形成されるとよい。すると、端部122は穴111に挿入され、面取り面124が内周面112に当たった状態となる。なお、面取り面124は、いわゆる面取りといわれるよりも大きくとってもよい。極端には、端部122が尖端をなして、端部122から外周面126に至る、円錐形をしていてもよい。
【0032】
なお、図2の断面図に示すように、鉄系部材120と接するアルミニウム系部材110の内周面112に、面取り面114を形成すると、面取り面114、124同士で接触するようになるので、好適である。あるいは、面取り面114だけを形成し、面取り面124を形成しなくても、位置合わせが容易になる。なお、面取り面114、124は形成されていなくてもよい。
【0033】
鉄系部材120をアルミニウム系部材110上に載置したら、図1(b)に示すように、鉄系部材120を下方に、すなわち、孔111を貫通する方向に、よって力を加える方向を接合面に平行方向に、押込み力P1を加える。鉄系材料120は、その上部から上部電極(不図示)により押込み力P1を付加される。ここで、押込み力P1の方向は、必ずしも鉛直下方でなくてもよく、内周面112あるいは外周面126の法線方向より下向きの方向であればよい。つまり、外周面126が内周面112内に嵌入する方向の、すなわち接合面に平行な方向の力ベクトルを有していれば、内周面112と外周面126とが摺動され、鉄系部材120は孔111に嵌入される。また、押込み力P1は、重ね合わせ代W、その長さ、および拡散接合の深さ、すなわち、アルミニウム系部材110の厚さあるいは鉄系部材120の外周面126の高さなどにより決まる接合体積に応じた大きさが必要となる。また、材料の硬度によっても変わる。
【0034】
下部電極と上部電極(共に、不図示)との間には、パルス電流を流すための電源供給装置(不図示)が接続されている。電源供給装置は、例えば30ms以下、好ましくは15ms以下の時間幅を有するパルス電流を通電する装置であればよい。装置例については、実施例1のところで後に説明する。
【0035】
上部電極には、鉄系部材120を下方へ押込み力P1で加圧する加圧機構(不図示)が備えられている。また、上部電極から鉄系部材120、アルミニウム系部材110を伝わった押込み力P1が作用するので、下部電極は押込み力P1に充分に耐えるだけの強度を有している。
【0036】
押込み力P1を加えながら、アルミニウム系部材110と鉄系部材120との間に、1または複数のパルス電流を流す。すると、アルミニウム系部材110と鉄系部材120との接触部に、押込み力P1とパルス電流とが集中する。ここでパルス電流は、孔の内周面112、外周面126および近傍の材料を溶融させてナゲットを形成する電流ピーク値や電流量よりは小さく、孔の内周面112および外周面126の表面付近の材料を融点以下で塑性流動させる程度の温度まで上昇させる程度のパルス電流である。
【0037】
パルス電流が通電されると、温度上昇により接触部および近傍で材料の軟化が起きる。先ずは、融点が低くかつ硬度の低いアルミニウム系部材110での軟化が生ずる。軟化することにより変形し易くなった接触部近傍のアルミニウム系部材110は、押込み力P1を受けた鉄系部材120により押しのけられる。すなわち、アルミニウム系部材110の表面に酸化膜が形成されていても、除去される。鉄系部材120は、アルミニウム系部材110を押しのけながら、内周面112と摺動しながら孔111に入り込む。
【0038】
アルミニウム系部材110が軟化するのに僅かに遅れて、融点の高い鉄系部材120でも軟化が生ずる。軟化することにより変形し易くなった接触部近傍の鉄系部材120は、押込み力P1を受け、孔111に嵌入していく。そのときに、軟化した接触部近傍が、アルミニウム系部材110と摺動し、塑性流動を生ずる。すなわち、鉄系部材120の表面に酸化膜が形成されていても、除去される。
【0039】
内周面112と外周面126とが塑性流動しながら、鉄系部材120が孔111に嵌入し、鉄系部材120の清浄な面とアルミニウム系部材110の清浄な面との間で、拡散接合が行われる。なお、押込み力P1を付加しながらパルス電流を通電することにより、上記の鉄系材料120の孔111への嵌入および拡散接合は一挙に、例えば30ms以下の短時間で行われる。
【0040】
このように、接合部において、その表面が塑性流動し、酸化膜が除去されることにより、アルミニウム系部材110と鉄系部材120との接合が、清浄な面同士で行われることになる。また、鉄系部材120を孔111に嵌入することにより、内周面112と外周面126とには押し付ける力が生じている。したがって、金属原子の拡散が起き易く、接合強度の大きな接合方法となる。この拡散接合は、外周面126と内周面112との間で全周にわたってほぼ均一に行われる。ただし、拡散接合は、全周にわたって行われなくてもよく、一部が接合されなかったり、一部が接合されずに機械的に嵌合されてもよい。
【0041】
上記の接合方法によると、アルミニウム系部材110と鉄系部材120とを、僅かな重ね合わせを持って配置し、通常のコンデンサ蓄勢式抵抗溶接と同様に、これらを上部電極と下部電極(共に、不図示)の間に挟んで、一つ以上のパルス電流を流し、一挙に拡散接合するので、熱ひずみが小さく、かつ、短時間で溶接が完了する。また、ナゲットが形成されないので、外観も損なわず好適である。特に、清浄な面同士で拡散接合が行われるので、機械的結合力が強く、接合強度の十分な、鉄系材料とアルミニウム系材料との拡散接合方法となる。
【0042】
なお、鉄系部材120が炭素を2重量%以上含有する高炭素鋼からなる場合には、パルス電流の通電による拡散接合で、焼入れが行われてしまう。そこで、パルス電流の通電後、ある程度の時間経過後にパルス状の後熱用電流を流して焼き戻しを行う。ここで、ある程度の時間経過後に後熱用電流を流すのは、一般的にパルス電流を供給する電源供給装置では、パルス電流を通電した後に、再度パルス電流を流すのに充電するための時間が必要なためである。なお、パルス電流とパルス状の後熱用電流とを共通の電流供給装置から供給するように構成すると、装置が少なくて済むので好適である。
【0043】
これまでは、アルミニウム系部材110に孔111が形成され、鉄系部材120の外周面126を孔111に嵌入するものとして説明したが、鉄系部材120に孔が形成され、アルミニウム系部材110の外周面を孔に嵌入するようにして、拡散接合してもよい。また、孔が形成された板状材料を上に、孔に嵌入する材料を下に置いて、押込み力を加えながら通電し、拡散接合してもよい。
【0044】
また、図3の概念図に示すように、孔141、142が複数形成され、それぞれの孔141、142に複数の突起131、132(図1の外周面126を有する鉄系部材120に相当)が嵌入するように構成してもよい。また、図3(b)の断面図に示すように、突起131、132が形成された材料130を下に配置し、その上に孔141、142の形成された材料140を載置し、押込み力P2を加えながらパルス電流を流して、接合してもよい。ただし、押込み力P2は材料140の各孔141、142の周囲に均等に加えられるようにすることが好ましい。
【0045】
あるいは、孔に嵌入することなく、例えば平板の鉄系部材と平板のアルミニウム系部材とを、押し付けながら摺動し通電することにより拡散接合してもよい。なお、接合面に垂直な方向の力である押し付ける力と、接合する面に平行な方向の摺動する力とが作用する。この場合にも、押し付けられながら通電されることにより界面での温度が上昇し、界面付近の鉄系部材とアルミニウム系部材が軟化し変形し易くなり、摺動されることにより塑性流動し、鉄系部材あるいはアルミニウム系部材の表面に形成された酸化膜は除去され、清浄な面の間で原子拡散が起こり、拡散接合される。なお、押し付ける力および通電される電流を集中させるため、平板同士が一様に接触するよりは、例えば微小な凹凸を形成し、接触面を小さくすることが好ましい。
【0046】
図4に接合した後の鉄系材料とアルミニウム系材料との境界の様子を説明する拡大断面図を示す。図4は、アルミニウム系部材150としてアルミニウム製の平板に円形の孔151を形成したものを用い、鉄系部材160として鉄製のボスを用い、鉄系部材160をアルミニウム系部材150の孔に嵌入させて、拡散接合した後の、アルミニウム系部材150と鉄系部材160との境界部の拡大断面図である。図4の上方から、鉄系部材160をアルミニウム系部材150の孔151に嵌入して、孔151を貫通せずに、孔の途中で嵌入を終わらせたものである。
【0047】
鉄系部材160は、その先端部162付近では、孔151の径とほぼ同径となり、アルミニウム系部材150の上面155付近では、接合前の径とほぼ同径となっている。これは、鉄系部材160が嵌入されるにつれ、アルミニウム系部材150と摺動され、その外周面166が除去され細くなるが、僅かに嵌入した上面155付近では、鉄系部材160の方がアルミニウム系部材150より融点が高く、かつ、硬度が高いので、主としてアルミニウム系部材150が塑性流動し、孔の内周面152が削られるものと考えられる。その間で、鉄系部材160が、接合面の方向に張り出し、エラをはったような状態となっている膨らみ部Sが形成されている。
【0048】
この膨らみ部Sは、次のような現象により形成されるものと考えられる。すなわち、
(1)接合の初めには、融点が低くかつ硬度の低いアルミニウム系部材150に、鉄系部材160が食い込んで、すなわち、孔の内周面152が塑性流動し、削られる。
(2)遅れて、鉄系部材160が発熱し、発熱により軟化が始まり、外周部が塑性流動する。鉄系部材160が孔151に嵌入されるにつれ、その先端部162の近くの外周面166から塑性流動し、アルミニウム系部材150との摺動により、アルミニウム系部材150の上面155方向に流れる。
(3)先端部162より上面155に寄った箇所で、塑性流動化した鉄系部材160の圧力が高くなり、外側に広がろうとする。そこで、上面155方向に流れる塑性流動した鉄系部材160の一部は、軟化したアルミニウム系部材150に食い込む。したがって、接合面の法線方向に張り出す。
【0049】
鉄系部材160の先端部162から膨らみ部Sまでの間には、鉄系部材160とアルミニウム系部材150との接合面に、鉄系部材160の原子とアルミニウム系部材150の原子とが幅広く拡散した拡散部Bが形成されている。拡散部Bの幅は、例えば0.2μm程度であり、この拡散部Bが形成されることにより、接合強度の大きな拡散接合が行われる。
【0050】
膨らみ部Sが塑性流動により形成され、より強固に接合され、強度の充分に大きな拡散接合となる。なお、図4に示す実施の形態とは反対に、硬度の高い鉄系部材に形成された孔に、硬度の低いアルミニウム系部材を嵌入させて接合するときにも、膨らみ部は形成される。
【0051】
鉄系部材160を孔151に嵌入する際に、貫通せず、その途中で止める用途も多い。そこで、例えば、図5(a)の部分断面図に示すように、孔つき平板70の孔71を段差76付きにして、ストッパとしての段差76で棒鋼80の嵌入を止めることにより、嵌入深さを所定量に調整することが可能となる。すなわち、孔つき平板70の孔71の内周面は、2つの径の内周面72、73で形成される。2つの径の違いにより、段差76が形成される。大きな内径の内周面72側から、棒鋼80を嵌入させる。すなわち、孔71は、棒鋼80が嵌入する第1の面としての内周面72と、内周面72から孔71の内側に延びる第2の面としての段差76とを有している。棒鋼80が孔71に嵌入し、第3の面としての棒鋼80の端部82が内周面72の深さと同じ深さにまで達すると、重ね合わせ代が大きくなりすぎるので小さな径の内周面73には嵌入することができず、段差76の深さに止まる。
【0052】
あるいは、図5(b)の部分断面図に示すように、下部電極30に突起31を設け、突起31を孔つき平板90の孔91に挿入してもよい。このとき、突起31の高さを、棒鋼80が嵌入する深さに一致させておく。そこで、棒鋼80が孔91に嵌入すると、その端部82が、ストッパとしての突起31の先端32に当接し、それ以上嵌入しなくなる。さらに、棒鋼80が、下部電極30に直接接触することにより、余剰な電流は、孔付き平板90に流れることがなくなり、孔付き平板90の温度上昇による歪が防止される。
【0053】
さらに、図6の部分断面図に示すように、図5(a)に示すストッパとしての段差付きの孔71を有する孔付き平板70と棒鋼80との接合において、塑性流動した金属が接合部から押し出され、段差76から内周面73側に流出して固化したはみ出し部を形成させないためにチリ防止溝を形成してもよい。図6(a)は、段差76にチリ防止溝を形成した孔付き平板70を説明する部分断面図である。段差76と小さな径の内周面73との交わりに内周面73を延長する縁である突起77を形成すると、段差76の面全体が、溝のようになる。棒鋼80と内周面72とが摺動し、塑性流動した金属(孔つき平板70の素材および/または棒鋼80の素材、孔付き平板70と棒鋼80との高速の摺動により飛散した金属を含む。)が、段差76から内周面73に流れるのが防止され、塑性流動した金属は溝のように形成された段差76に留まる。棒鋼80の嵌入が深くなり、突起77が棒鋼80の端部82で押しつぶされるときに、段差76に留まった金属は中に封じ込められる。棒鋼80は、突起77に接して、若しくは、突起77の一部をつぶしてほぼ段差76の深さに止まることになる。なお、摺動することにより塑性流動した金属が突起77を越えて内周面73側に流れるとすると突起77と相対する棒鋼80の端部82に接触するくらいの深さまで棒鋼80が孔71に嵌入することにより、塑性流動した金属が内周面73側に流れる抵抗が大きくなるので、突起77のチリ防止溝としての効果は十分に得られる。このように突起77に接するもしくは突起77をつぶす程度まで、あるいは、塑性流動した金属が突起77を越えて流れにくくなる程度まで棒鋼80が嵌入する場合を、ほぼ接する程度まで嵌入するという。はみ出し部が形成されなくなることにより、外観が損なわれずきれいな仕上がりとなる。
【0054】
なお、図6(b)の部分断面図に示すように、突起77の溝側の面79は、段差76と垂直に形成されてもよい(段差と突起とが垂直と呼ぶ)。段差と突起とを垂直にすると、図6(a)に示すような滑らかな傾斜を持って突起77が形成され場合に比べ、塑性流動して流れた金属が段差76から突起77を越えて内周面73側に流れにくくなる。さらに、図6(c)の部分断面図に示すように、突起77の溝側の面79は、段差76との交線より、その先端部を内周面72側に、すなわち、孔71の外側寄りに位置するように形成される(段差と突起とが鋭角と呼ぶ)と、塑性流動して流れた金属が段差76から突起77を越えて内周面73側により流れにくくなるので好ましい。この場合に、突起77の溝側の面79は、図6(c)に示す断面において直線(面としては円錐の一部分)である必要はなく、曲線(例えば弧、面としては楕円球の一部分)であってもよい。孔71に嵌入する棒鋼80の移動速度が速く、孔71内で段差76上に外側から内側に向け、さらに、内周面73で囲まれた径の小さな孔を通って外部に抜ける、流速の大きな空気の流れが生じ、そのために、例えば図6(a)に示すような形状の突起77では、塑性流動した金属が突起77を越えて流れ易いことが考えられる。しかし、段差と突起とを鋭角にすることにより、段差76上の空気の流れの向きが突起77の溝側の面79で逆向きに変えられ、塑性流動した金属を突起77を越えて流す力が弱まるため、塑性流動して流れた金属が突起77を越えて流れにくくなるものと考えられる。なお、段差と突起とが鋭角の場合に比べ、段差と突起とが垂直であると、製作加工がし易い。図6(a)に示すような形状を含め、いかなる形状の突起であっても、塑性流動した金属が内周面73側に流れることを防ぐ効果を有するのは前述の通りである。
【0055】
あるいは、図7(a)の部分断面図に示すように、棒鋼80にはみ出し部の形成を防止するチリ防止壁を形成してもよい。棒鋼80の端部82の段差76と相対する部分で、小さな径の内周面73寄りの位置に、突出した縁である突起84を形成する。棒鋼80と内周面72とが摺動し、塑性流動した金属が、段差76に流れると、棒鋼80の嵌入に伴い突起84が段差76に当接するので、内周面73側に流れるのが防止される。さらに棒鋼80の嵌入が深くなり、突起84が段差76で押しつぶされるようになると、段差76に流れた金属は中に封じ込められる。さらに、突起84の内側(孔71の中心寄り)の端部に溝を形成し、突起84を越えた金属を捕捉する構成としてもよい。突起84と段差76とが接しなくても、突起84の下を流れて内周面73側に流れ出ようとする塑性流動した金属が、突起84の先端に接触する程度に近接すれば、金属は突起84を越えて流れにくくなるので、チリ防止壁としての機能は果たせる。このような状態あるいは前述のように突起84の先端が段差76に接しあるいは押しつぶされる状態を、突起84が段差76にほぼ接するという。
【0056】
また、棒鋼80の外周面86に、半径方向外向きに張り出す張り出しであって下向きの鉤形の張り出し88を設けることにより、孔付き平板70と張り出し88を含む棒鋼80とで覆われた溝87を形成してもよい。溝87が形成されると、孔付き平板70の上面75、すなわち入口箇所に流れた塑性流動した金属は、張り出し88の鉤形の先端部が上面75と当接することによりそれより外側に流れるのが防止され、棒鋼80の孔71へ嵌入する入口付近に流出して固化し、はみ出し部を形成しなくなる。すなわち、溝87は、はみ出し部の形成を防止するチリ防止溝として機能する。あるいは飛散したチリは張り出し88に捕捉される。そして、棒鋼80の嵌入が深くなり、張り出し88の鉤形に折れた先端が上面75で押しつぶされるときに、入口箇所に流れた金属やチリは溝87の中に封じ込められる。すなわち、張り出し88は、棒鋼80の孔71に嵌入されない位置に形成される。また、張り出し88の鉤形の先端部は、上面75に接しなくても、先端部の下を外側に流れ出ようとする塑性流動した金属が、鉤形の先端部に接触する程度に近接すれば、金属は鉤形を越えて広がりにくくなるので、チリ防止溝の機能は果たせる。このような状態あるいは前述のように鉤形の先端が上面75に接しあるいは押しつぶされる状態を、張り出し88が孔付き平板70にほぼ接するという。前述のように段差76に突起77を形成し、鉤形の張り出し88を棒鋼80に設置する構成としてもよい。
【0057】
また、図7(b)の部分断面図に示すように、棒鋼80の張り出しは鉤形でなくてもよく、棒鋼80は、外周が大きくなるだけの張り出し89を備え、孔付き平板70の上面75から突起98が突出する構造として、突起98を含む孔付き平板70と張り出し89を含む棒鋼80とで覆われた溝87を形成してもよい。この場合にも、孔付き平板70の上面75に流れた塑性流動した金属は、突起89により外側に流れるのが防止され、張り出し89と突起98とが当接することによりチリ防止の機能は果たせる。張り出し89と突起98とが接しなくても、突起98を越えて外側に流れ出ようとする塑性流動した金属が、張り出し89に接触する程度に近接すれば、塑性流動した金属は突起98を越えて広がりにくくなるので、チリ防止の機能は果たせる。このような状態あるいは前述のように突起98が張り出し89に接しあるいは押しつぶされる状態を、張り出し98が孔付き平板70にほぼ接するという。なお、図7(a)および(b)に示すように、突起84、張り出し88および突起98の形状は、先端が細く形成されても、同じ太さで形成されてもよく、あるいは、他の形状であってもよい。あるいは、図7(b)に示す例において、張り出し89が形成され、突起98が形成されていなくても、上面75に流れた塑性流動した金属が、張り出し89と上面75とで覆われ(間に挟まれ)、チリ防止としての機能、すなわち、きれいな仕上がりが得られる。
【0058】
また、図8(a)の部分断面図に示すように、孔付き平板70の内周面72と棒鋼80の外周面86とが摺動し塑性流動した金属が、摺動している面72、86から逃げる逃げ溝78を、摺動する孔付き平板70の接合面72に形成してもよい。逃げ溝78は、典型的には棒鋼80が嵌入する方向に垂直な平面上に配置されるが、棒鋼80が嵌入する方向に交差する平面上(内周面72の円周上)、さらに平面上ではなく例えば波型など、任意な形状に配置されてもよい。また、逃げ溝78の断面形状は、矩形、台形、半円形など、任意の形状でよい。金属が逃げ溝78に流れるので、塑性流動した金属が棒鋼80の端部に押し出され、あるいは、押しのけられて嵌入した入口箇所の棒鋼80の周囲に流れて固化したはみ出し部が形成されなくなる。逃げ溝78は、孔付き平板70の内周面72に形成するのが好ましく、逃げ溝78は、前述の膨らみ部および拡散部が形成される位置の近くに配置するのが好適である。よりこの詳しくは、逃げ溝78は、前述の膨らみ部および拡散部が形成される部分より僅かに孔71の入口(上面75側)に形成することが好ましい。逃げ溝78を前述の膨らみ部および拡散部が形成される位置の近くに配置することにより、塑性流動して流れた金属が逃げ溝78に流れ易くなる。
【0059】
ここで、逃げ溝78の上部の内周面74を内周面72より多少大きな径で形成し、棒鋼80の外周面86と僅かなクリアランスCを有する構成としてもよい。図8では誇張して示されているが、僅かなクリアランスCは、例えば、0.1mmから0.3mm程度である。このように構成することにより、クリアランスCより大きな径の金属のチリは、上面75には流出しなくなる。この場合、逃げ溝78が形成されず、クリアランスCだけが形成されていても、大きなチリの流出を防ぐことができる。また、クリアランスCを有することにより、孔付き平板70と棒鋼80との接触箇所が、摺動する箇所に限定される。したがって、通電するときの電流を、摺動する箇所に集中させることができ、通電による材料の軟化、塑性流動化、そして、接合が所定の場所で生ずる。
【0060】
また、図8(b)の部分断面図に示すように、逃げ溝78に加えてあるいは代えて段差76に逃げ溝96を形成してもよい。逃げ溝96は、他の段差76の面より窪んだ凹部であり、その周囲が他の段差76の面で囲まれる。すなわち、逃げ溝96は、段差76上で閉じた形状をしており、内周面73側に通じてはいない。逃げ溝96は、典型的には内周面73より大きな直径の同心円形状に配置され、好ましくは、内周面73より僅かに大きな同心円形状に配置されるが、逃げ溝96の配置は、これらには限られない。また、逃げ溝96の断面形状は、矩形、台形、半円形など、任意の形状でよい。段差76に逃げ溝96が形成されることにより、内周面72と外周面86とが摺動し塑性流動した金属は、段差76上を流れると逃げ溝96に捕捉されそこで滞留することにより、内周面73側には流出しなくなる。そこで、端面82が段差76に当接し、あるいは、段差76上を塑性流動した金属が流れるとすると、相対する端面82に接触するくらいに近接すると、段差76上を塑性流動した金属が流れず、逃げ溝96内で冷却され固化する。このように、端面82が段差76と当接しあるいは近接する状態を、ほぼ接するという。
【0061】
また、図8(c)に示すように、棒鋼80にも逃げ溝を形成してもよい。棒鋼80の外周面86に逃げ溝92を形成してもよいし、端面82に逃げ溝93を形成してもよいし、その両方を形成すれば、尚よい。外周面86の逃げ溝92は、典型的には棒鋼80が嵌入する方向に垂直な平面上に配置されるが、棒鋼80が嵌入する方向に交差する平面上、さらに平面上ではなく例えば波型など、任意な形状に配置されてもよい。ただし、棒鋼80が孔71に嵌入した後には、逃げ溝92の総てが孔71に嵌入する位置に配置する。また、逃げ溝92の断面形状は、矩形、台形、半円形など、任意の形状でよい。このような逃げ溝92を形成することにより、塑性流動した金属が、逃げ溝78にだけではなく逃げ溝92にも流れるので、逃げ溝78、92で塑性流動した金属をより捕捉し易くなり、塑性流動した金属が棒鋼80の端部に押し出され、あるいは、押しのけられて嵌入した入口箇所の棒鋼80の周囲に逃げて固化したはみ出し部が形成されなくなる。逃げ溝92は、逃げ溝78と同様に、前述の膨らみ部および拡散部が形成される部分より僅かに孔71の入口(上面75側)に形成することが好ましい。なお、逃げ溝78が形成されなくてもよい。端面82の窪んだ凹部である逃げ溝93は、端面82と段差76とが当接する位置に配置される。その形状は、逃げ溝96あるいは凹部97と同様であり、また、作用および効果も同様であるので、重複する説明は省略する。
【0062】
さらに、図9(a)に示すように、孔付き平板70に形成された逃げ溝78、96、あるいは、図9(b)に示すように、棒鋼80に形成された逃げ溝92、93に、Oリング100を挿入してもよい。挿入するOリング100は、通常のシール等に用いられる市販のOリングでよく、ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム、シリコンゴムなど、材質は各種ゴム材料その他の材質でよい。このように、逃げ溝78、96、92、93にOリング100を挿入することにより、塑性流動した金属をより捕捉し易くなり、はみ出し部の形成が抑えられる。特に図9(b)に示すように、逃げ溝92にOリング100を挿入すると、塑性流動した金属は、逃げ溝78に流れ込み、さらに高速の摺動により飛散した金属を逃げ溝92に挿入されたOリング100で捕捉するので、好ましい。
【0063】
以上説明したように、チリ防止溝、チリ防止壁あるいは逃げ溝を形成することにより、はみ出し部が形成されなくなるので、外観がきれいで好ましい接合を行うことができる。なお、上述の、突起77、84、98、張り出し88、89および逃げ溝78、96、92、93ならびにOリング100は、単独で用いても、あるいは、適宜組み合わせて用いてもよい。
【0064】
これまでは、アルミニウム系部材と鉄系部材との拡散接合について説明したが、接合される部材は、他の金属で形成されていてもよい。上述の拡散接合方法は、例えば、アルミニウム系材料と銅系材料、アルミニウム系材料とチタン系材料など、硬度が異なる異種金属に適用するときに特にその効果が現れる。また、明らかで断るまでもないが、鉄系材料には、ステンレス鋼などの合金鋼も含まれている。
【実施例1】
【0065】
本発明の拡散接合方法について、実施例を用いてさらに詳しく説明する。
(使用材料)
図10(a)の斜視図に示すように、アルミニウム系部材として、アルミニウム−マグネシウム−シリコン系合金A6061材(1.0%マグネシウム、0.6%シリコン、0.25%銅、0.25%クロム含有、アルミニウム合金)の厚さ20mmの平板を、直径60mmの円板とし、鉄系材料に応じた孔11を形成した。このアルミニウム系部材を、以降、孔付き平板10と称する。
図10(b)の斜視図に示すように、鉄系部材として、機械構造用炭素鋼材S10C材を外径30mm、長さ15mmの円筒形に加工し、その端部に1mmの面取りを施した。この鉄系部材を、以降、鋼棒20と称する。
そこで、孔11の直径は、重ね合わせ代Wを所定の値とするために、鋼棒20の外径30mmよりも僅かに小さく形成する。すなわち、重ね合わせ代Wを0.3mm、0.4mmおよび0.5mmとすべく、孔11の直径を、30mm−0.6mm、30mm−0.8mmおよび30mm−1.0mmとする。ここで、0.6mm、0.8mmおよび1.0mmは、重ね合わせ代0.3mm、0.4mmおよび0.5mmの2倍である。
【0066】
(接合方法)
図11に、使用した接合装置50の模式的ブロック図を示す。下部電極33は、平坦な上面を有し、上部電極34は、その中心に鉄系部材としての鋼棒20を挿入する孔を有する。図11では、鋼棒20が該孔にぴったりと嵌るように示されているが、孔は鋼棒20の軸直角方向の動きを止め、かつ、接合する側と反対側の端部を下方に押し込むことができればよい。上部電極34は、不図示の駆動装置により、鋼棒20を下方に押込み力P3で押す。
【0067】
アルミニウム部材としての孔付き平板10を、下部電極33上のほぼ中心の位置に載置し、鋼棒20を上部電極34の孔に挿入する。孔付き平板10の孔11の上縁に、鋼棒20の端部が当接する。
【0068】
電源供給装置として、直流電源41、コンデンサ42、スイッチング回路43、溶接トランス44とを備える。直流電源41は、図示しない制御型の半導体スイッチまたは整流用ダイオードなどからなる整流回路を備え、不図示の商用交流電源または交流発電機からの交流電力を直流電力に変換する。コンデンサ42は、複数の並列接続された電解コンデンサからなり、直流電源41からの直流電力を充電する。スイッチング回路43は、半導体スイッチ、インバータ回路などであり、コンデンサ42に蓄えられた電気エネルギを急峻な波形のパルスとして、溶接トランス44の1次巻線N1に選択的に放電する。溶接トランス44の1次巻線N1にパルス電流が流れると、2次巻線N2を通して、溶接トランス44の2次巻線N2に接続された上部電極34、鋼棒20、孔付き平板10、下部電極33に溶接電流が流れる。なお、溶接トランス44の2次巻線N2は、1ターンであっても2ターンであってもよい。
【0069】
図10(c)の概略断面図に示すように、棒鋼20を下方に押し込みながらパルス電流を流すことにより、棒鋼20は孔11に嵌入する。本実施例においては、棒鋼20は孔11に総て嵌入することはない。嵌入する深さを大きくするためには、高電流を確保するための高電流トランス装置などの追加の装置が必要になることもある。孔つき平板10の厚さは、例えば平板として要求される剛性から定まり、嵌入する深さは、接合部の強度等の設計条件などにより定められる。嵌入する深さは、例えば、ストッパ(不図示)により上部電極が棒鋼20を下方に押し込みながら下方に移動する移動量を調整することにより制御してもよいし、パルス電流の電流値、時間または下方に押込み力を調節することにより、あるいは、これらを組み合わせて調節することにより制御してもよい。このように、本発明による拡散接合方法では、大きな強度が得られると共に、接合部の変形が小さく抑えられ、また、パルス電流も小さく、かつ、押込み力も小さくてよいので、装置も小さくて済む。
【0070】
再び実施例の説明に戻り、図10(d)に、接合した孔付き平板10と棒鋼20との接合部分の断面観察した詳細断面図を示す。接合部には、嵌入した深さ方向において、その中央より浅い箇所、すなわち、嵌入した深さのおおよそ1/4から1/5の深さの箇所に、膨らみ部Sが形成されていた。また、棒鋼20の端部、面取りした部分には、はみ出し部15が、また、嵌入した入口箇所(すなわち、孔つき平板10の表面)の棒鋼20の周囲にもはみ出し部16が形成されていた。これらのはみ出し部15、16は、重ね合わせ代Wの部分に見合う金属(孔つき平板10の素材であるA6061材および/または棒鋼20の素材であるS10C材)が接合部から押し出され除去されたもので、一部は棒鋼20の端部に押し出されて止まり、残りは棒鋼20に押しのけられて入口箇所に逃げて止まったものと考えられる。
【0071】
(評価方法)
本発明の接合方法の効果を確認するために、上記の方法により接合した部品の接合部の引張強度を計測する。
【0072】
(引張強さの測定方法)
上記の方法で接合した接合物を、株式会社東京試験機製作所製トーシ式自動チャック式30tfTU型多能材料引張試験機(TU−30−DE)により引張試験を行い、引張強度(破断に至るまでの最大引張力)を計測した。
【0073】
(測定結果)
図12に、上記使用材料で説明した鉄系材料とアルミニウム系材料を上記接合方法にて接合した部品毎に測定した破断強度をまとめて示す。図12には、重ね合わせ代毎に、パルス電流を流すための充電電圧、押込み力も併せて示す。
【0074】
図12で明らかなように、重ね合わせ代を0.3mmから0.4mm、0.5mmと増やすことにより、大きな押込み力が必要となるが、引張強度は増加する。いずれの重ね合わせ代においても、引張強度は30kN以上であった。この値は、実用に耐える大きさであり、充分に大きな接合強度が得られたことになる。
【0075】
(高温強度の確認)
アルミニウム系材料に関する異種金属接合においては、接合する金属の材質に拘らず、温度上昇により接合面に酸化化合物が析出し、脆化により強度が低下することが指摘されている。そこで、上記の方法で接合した部品を高温下に保持した後の強度を実測した。ここでは、重ね合わせ代を0.3mmとし、150℃から350℃まで、50℃刻みの温度を設定し、各温度下で2時間保持した後に、引張強度を計測した。なお、各温度毎に、2回の計測を行い、引張強度の平均値を求めた。
【0076】
計測した結果を図13にまとめて示す。温度を上げるにしたがって、引張強度が低下することがわかる。ところが、例えば150℃としても、引張強度は30kN以上であり、実用に耐える充分な引張強度を維持していることがわかる。ただし、例えば、350℃とすると、常温のままの場合に比べ、引張強度は半分以下となっており、本発明の拡散接合により大きな接合強度が得られた場合においても、例えば350℃のような高温下で使用する場合には、充分な注意が必要となることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施の形態である、鉄系部材とアルミニウム系部材との拡散接合方法の概念を説明する上面図および断面図であり、(a)は接合前の鉄系部材とアルミニウム系部材との上面図、(b)は同じく接合前の断面図、そして、(c)は接合後の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態である、鉄系部材とアルミニウム系部材との拡散接合方法において、内周面に面取り面を形成した断面を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態である、鉄系部材とアルミニウム系部材との拡散接合方法において、複数の孔に複数の突起が嵌入する場合の概念図であり、(a)は上面図、(b)は断面図である。
【図4】接合した後の鉄系部材とアルミニウム系部材との境界の様子を説明する拡大断面図である。
【図5】棒鋼の嵌入する深さを調整するストッパの例を説明する部分断面図である。(a)は、孔つき平板の孔を段差付きにした例で、(b)は、下部電極に突起を設け、突起を孔つき平板の孔に挿入した例である。
【図6】図5(a)に示すストッパとしての段差付きの孔を有する孔付き平板と棒鋼との接合において、はみ出し部を形成させないようにチリ防止溝を形成した例の孔の付近の部分断面図である。(a)は段差にチリ防止溝を形成した孔付き平板の例を、(b)は段差と突起とが垂直の例を、(c)は段差と突起とが鋭角の例を示す。
【図7】図5(a)に示すストッパとしての段差付きの孔を有する孔付き平板と棒鋼との接合において、棒鋼にチリ防止壁/溝を形成した例を示す部分断面図である。(a)は棒鋼にチリ防止壁/溝を形成した例を示し、(b)は棒鋼と孔付き平板とにチリ防止壁/溝を形成した例を示す。
【図8】図5(a)に示すストッパとしての段差付きの孔を有する孔付き平板と棒鋼との接合において、孔付き平板と棒鋼とが摺動する部分あるいはその近くに溝を形成した例を示す部分断面図である。(a)は、孔付き平板の内周面に、(b)は孔付き平板の内周面と段差に、(c)は棒鋼にも溝を形成した例を示す。
【図9】図8に示す孔付き平板と棒鋼とが摺動する部分あるいはその近くに溝を形成した例において、溝にOリングを挿入した例を示す部分断面図である。(a)は孔付き平板に形成された溝にOリングを挿入した例を、(b)は棒鋼に形成された溝にOリングを挿入した例を示す。
【図10】実施例1で用いた、部材の形状と寸法を示す図である。(a)はアルミニウム系部材の孔付き平板の斜視図、(b)は鉄系部材の斜視図、(c)は接合後のアルミニウム系部材と鉄系部材との位置を説明する概略断面図、および、(d)は接合部の断面観察の詳細断面である。
【図11】実施例1で使用した接合装置の模式的ブロック図である。
【図12】実施例1における引張強度をまとめて示す図である。
【図13】実施例1において、高温強度を確認した計測結果をまとめて示す図である。
【符号の説明】
【0078】
10、70、90、110、150 アルミニウム系部材
11、71、111、151 孔
15、16 はみ出し部
20、80、120、160 鉄系部材
30、33 下部電極
31 下部電極の突起
32 下部電極の突起の先端
34 上部電極
41 直流電源
42 コンデンサ
43 スイッチング回路
44 溶接トランス
50 接合装置
72 孔の大きな径の内周面(第1の面)
73 孔の小さな径の内周面
74 溝の上部の内周面
75 孔付き平板の上面
76 段差(第2の面)
77、84、98 突起
78 逃げ溝
79 突起の溝側の面
82 端部
83 端部の溝
86 外周面
87 溝
88、89 張り出し
92、93、96 逃げ溝
100 Oリング
112、152 孔の内周面
114、124 面取り面
122、162 端部
126、166 外周面
130、140 鉄系またはアルミニウム系部材
131、132 突起
141、142 孔
155 アルミニウム系部材の上面
B 拡散部
C クリアランス
N1 1次巻線
N2 2次巻線
P1、P2、P3 押付け力
S 膨らみ部
W 重ね合わせ代

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属で形成された第1の部材と、該第1の金属より硬度の高い第2の金属で形成された第2の部材との拡散接合方法であって;
前記第1の部材の接合面と、前記第2の部材の接合面とを摺動し、少なくとも一方の接合面に形成されている酸化膜を除去する工程と;
前記第1の部材と前記第2の部材とを押し付ける力を加えながら、前記第1の部材と前記第2の部材との間に通電し、前記第1の部材と前記第2の部材とを接合する工程とを備える;
金属の拡散接合方法。
【請求項2】
前記第1の部材または第2の部材の内、いずれか一つの部材に孔が形成され、他の部材は前記孔より少なくとも一部が大きな外形を有し;
摺動する力を、前記孔を貫通する方向に加えて、前記他の部材を前記孔に嵌入する;
請求項1に記載の金属の拡散接合方法。
【請求項3】
前記孔は、前記他の部材と摺動する第1の面と、該第1の面から孔の内側に延びる第2の面とを含んで形成され;
前記第2の面、あるいは、前記孔に嵌入する前記他の部材の前記第2の面と相対する第3の面に突起が形成され;
前記他の部材を、前記第2の面とほぼ接するまで嵌入する;
請求項2に記載の金属の拡散接合方法。
【請求項4】
前記孔の前記他の部材と摺動する面あるいは前記他の部材の前記孔の面と摺動する面の少なくともいずれか一方に、前記他の部材が嵌入する方向と交差する方向の溝が形成され;
前記他の部材を、前記溝を越えてあるいは前期溝が前記孔に嵌入するまで、前記孔に嵌入する;
請求項2に記載の金属の拡散接合方法。
【請求項5】
前記孔は、前記他の部材と摺動する第1の面と、該第1の面から孔の内側に延びる第2の面とを含んで形成され;
前記第2の面、あるいは、前記孔に嵌入する前記他の部材の前記第2の面と相対する第3の面に周囲より窪んだ凹部が形成され;
前記他の部材を、前記第2の面と前記第3の面とがほぼ接するまで嵌入する;
請求項2に記載の金属の拡散接合方法。
【請求項6】
前記他の部材は、前記孔に嵌入しない部分を有し、該孔に嵌入しない部分の周囲に、前記孔に嵌入する部分より大きな外形の張り出しであって、前記孔に嵌入した後に前記他の部材が嵌入した前記孔の入口の周囲を、前記一つの部材と共に覆う張り出しを有し;
前記他の部材を、前記張り出しが、前記一つの部材にほぼ接するまで前記孔に嵌入する;
請求項2に記載の金属の拡散接合方法。
【請求項7】
前記孔が円形断面の孔であり;
前記他の部材の外形が円形断面である;
請求項2ないし請求項6のいずれか1項に記載の金属の拡散接合方法。
【請求項8】
前記他の部材の外形の大きな部分が前記孔の形成された部材と重なり合う重ね合わせ代が、0.2mmないし1mmである;
請求項2ないし請求項7のいずれか1項に記載の金属の拡散接合方法。
【請求項9】
前記接合した他の部材に、接合する前よりも接合面の法線方向に張り出し、前記孔の形成された部材に食い込む膨らみ部が形成される;
請求項2ないし請求項8のいずれか1項に記載の金属の拡散接合方法。
【請求項10】
前記第1の金属がアルミニウム系材料であり;
前記第2の金属が鉄系材料であり;
前記酸化被膜が、少なくとも前記第2の部材の接合面に形成されている;
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の金属の拡散接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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