説明

金属の接合方法

【課題】工具への機械的負荷を低減し、接合時間を短縮できる接合技術の提供。
【解決手段】第1金属部材W1と第2金属部材W2とを重ね合わせ、融点の低い方の金属部材の表面部位に軸心周りに回転する円筒状の回転工具1を押圧し、回転工具1の回転により第1及び第2金属部材の接合部分を非溶融の状態で摩擦により撹拌させて非溶融撹拌層を形成することにより、第1及び第2金属部材をスポット接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金製鋳物や板材等の金属の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、摩擦撹拌接合により異種材料を重ね合わせて接合する技術が記載され、特に特許文献1にはアルミニウム合金製材料側から回転するプローブを挿入して連続接合する技術、特許文献2には軟質材料側からプローブを挿入して連続接合する技術が夫々記載されている。
【特許文献1】特開平10−071479号公報
【特許文献2】特開平10−328855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1,2において、工具先端がまだ充分軟化していない高融点金属部材と接触するおそれがあるため工具への機械的負荷が大きい。また、高融点金属部材が充分軟化するまで待つとそれだけ接合時間が長くなる。
【0004】
更に、工具を両部材の合わせ面部分に並進させるものであるため、接合部材の長さに応じて接合時間が長くなる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされ、その目的は、工具への機械的負荷を低減し、接合時間を短縮できる金属の接合方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決し、目的を達成するために、本発明の金属の接合方法は、第1金属部材と第2金属部材とを重ね合わせて、非溶融の状態で摩擦により撹拌させて接合する金属の接合方法であって、前記第1金属部材と第2金属部材のうち、融点の低い方の金属部材の表面部位に軸心周りに回転する円筒状の回転工具を押圧し、前記回転工具の回転により、前記第1及び第2金属部材の接合部分を非溶融の状態で摩擦により撹拌させて非溶融撹拌層を形成することにより、該第1及び第2金属部材をスポット接合する。
【0007】
また、好ましくは、前記第1金属部材はアルミニウム、前記第2金属部材は鉄を夫々主成分とする材料であり、該第1及び第2金属部材の接合部分に亜鉛を主成分とする合金材料を介在させて接合する。
【発明の効果】
【0008】
以上説明のように、請求項1の発明によれば、融点の低い方から回転工具を押圧して摩擦により撹拌させることにより、工具への機械的負荷を低減し、接合時間を短縮できる。
【0009】
請求項2の発明によれば、異種のアルミニウムと鉄とを高い接合強度で接合可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
尚、以下に説明する実施の形態は、本発明の実現手段としての一例であり、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で下記実施形態を修正又は変形したものに適用可能である。
【0012】
図1は、本発明に係る実施形態の重ね合わせ接合方法を説明する回転工具付近の拡大図である。
【0013】
本実施形態の接合方法は、アルミニウム合金製の板材や予め3次元形状にプレス成形された金属部材の接合に適用され、少なくとも2枚の金属部材を重ね合わせて、最外表面の第1金属部材W1に回転工具1を押圧することにより、重ね合わされた第1及び第2金属部材W1、W2間の金属組織を摩擦熱により非溶融で撹拌して接合するものである。
【0014】
そして、非溶融で撹拌するので、電気抵抗溶接等で発生する熱歪み等の問題を解消することができる。
【0015】
ここで、非溶融で攪拌する状態とは、母材に含有される各成分或いは共晶化合物の中で最も融点が低いものよりもさらに低い温度下で摩擦熱により金属組織を軟化させて攪拌することを意味する。
【0016】
図1に示すように、摩擦撹拌による接合方法は、少なくとも2枚の金属部材W1、W2を重ね合わせ、先端部3が平面状の円筒状の回転工具1を、その軸心周りに回転させながら、先端部3を最外表面の第1金属部材W1に押し付けて、第1金属部材W1、W2を非溶融の状態で摩擦により撹拌させて非溶融撹拌層を形成すると共に、第2金属部材W2にまで非溶融摩擦撹拌層を拡大して第1及び第2金属部材W1、W2を接合する。
【0017】
従来の突き合わせ接合では、プローブにより金属組織を軟化させ、軟化した金属組織をショルダで抑えるのに対して、本実施形態の重ね合わせ接合では先端部3が金属組織を軟化させ、塑性流動させる機能を有している。
【0018】
また、第1及び第2金属部材W1、W2を挟むように回転工具1の先端部3に対向するよう受け部材4が配置されている。受け部材4の外径は、回転工具1の外径以上に設計されている。
【0019】
回転工具1は直径φ1が10〜15mm程度である。回転工具1及び受け部材4は、金属部材よりも硬度の高い鋼材(超硬合金等)で形成された非摩耗型工具であるが、金属部材は回転工具1より軟質の材質であれば、アルミニウム合金に限定されない。
【0020】
また、図2に示すように、回転工具1は、先端部3の略中央に凹部3aが形成されている。また、受け部材4の先端部5の略中央にも凹部5aが形成されている。
【0021】
尚、回転工具1の凹部3aと受け部材4の凹部5aとは、いずれか一方又は両方に設けることができる。また、凹部3aの代わりにピン状の凸部を設けることもできる。
【0022】
図3乃至図5は、回転工具1の先端部3の他の形状を例示する図であり、(a)は側面図、(b)は先端部の正面図である。
【0023】
図3に示す回転工具1は、先端部3が金属部材との接触面に対して傾斜して形成され、接触面からの高さが変化するよう構成されている。また、図4に示す回転工具1は、先端部3の高さが周方向で相異するように、平面状の先端部3に対して、その先端中心から外周に向けて放射状に複数の突出部(又は溝部)3bが形成されている。また、図5に示す回転工具1は、先端部3の高さが周方向で相異するように、平面状の先端部3に対して、その先端中心から外周に向けて少なくとも1つの溝部(又は突出部)3cが形成されている。
【0024】
尚、回転工具1は、先端部の周方向に凹凸や波状が形成できればよく、例えば、図2に示す凹部3aと図3乃至図5に示す先端部3の形状とを組み合わせて構成したり、図4及び図5に示す形状では、突出部と溝部とを組み合わせて構成することもできる。突出部の高さや溝部の深さが大きすぎる場合には、金属組織の撹拌性が悪化するため不適である。
【0025】
回転工具1は、以下に説明する多関節ロボット10のアームに回転可能に取り付られ、接合される金属部材が複雑な3次元形状の場合、複数点在する接合部分に対してスポット的に(局所的に)接合できるよう構成されている。
【0026】
図6は、回転工具を保持及び駆動する多関節ロボットの概略図である。
【0027】
図6に示すように、多関節ロボット10は、ベース11に設けられた関節12に連結されてy軸中心に揺動すると共に、関節13でz軸中心に回転する第1アーム14と、関節15を介して第1アーム14に連結されてy軸中心に揺動すると共に、関節16でx軸中心に回転する第2アーム17と、関節18を介して第2アーム17に連結されてy軸中心に揺動する第3アーム19とを有する。
【0028】
第3アーム19は、回転工具1が回転可能に取り付けられると共に、回転工具1を回転駆動するモータ20と、回転工具1の先端部3に対向するよう配置される受け部材4とを備える。回転工具1の先端部3と受け部材4の先端部との間隔はアクチュエータ22により可変となっており、接合時の金属部材に対する押圧力や3枚以上重ね合わせた金属部材でも対応できるよう設計されている。
【0029】
多関節ロボット10の各アーム、モータ、アクチュエータの動作は、予めティーチングされて制御部30がコントロールする。
【0030】
回転工具1の金属部材に対する押圧力は、金属部材の総板厚や重ね合わせ枚数等に基づいて接合部分ごとに設定され、個々の金属部材の板厚が異なる場合にも適用できる。
【0031】
また、図7に示すように、3枚以上の第1乃至第3金属部材W1〜W3を接合する場合には、同一外径を有する一対の回転工具1A,1Bで金属部材を挟み込んで接合する。この場合、図2の受け部材4に代えて回転工具1Bを回転可能に多関節ロボット10に取り付けて、互いに対向する回転工具1A,1Bの先端部3A,3Bで第1乃至第3金属部材W1〜W3を挟み込みながら、各回転工具1A,1Bを逆回転させる。
【0032】
また、第1及び第2金属部材W1、W2の板厚が異なる場合でも接合可能であるが、特に、薄肉側から回転工具1を押圧させるとより撹拌しやすくなり、均一な接合処理が実現できる。
【0033】
[接合時の金属組織の塑性流動]
図8は、回転工具の先端部が平滑な場合の金属部材内部の塑性流動状態を示す図である。図9は、回転工具の先端部に凹部を形成した場合の金属部材内部の塑性流動状態を示す図である。図10は、回転工具の先端部に突出部又は溝部を形成した場合の金属部材内部の塑性流動状態を示す図である。
【0034】
図8に示すように、先端部3が平滑な回転工具1を用いた場合(受け部材4の先端部5は、説明の便宜上平滑とする)、所定回転数で回転する回転工具1を第1金属部材W1に略垂直に押し当てていくと、回転工具1と第1金属部材W1との間に摩擦が生じて、その表面が軟化して第1及び第2金属部材W1、W2間の金属組織が非溶融の状態で回転方向に撹拌されていく。そして、更に回転工具1による第1金属部材W1に対する押圧力を高めていくと、回転工具1に非接触の金属部材W2にまで非溶融の摩擦撹拌層が拡大して、最終的に重ね合わされた第1及び第2金属部材W1、W2が溶融されることなく接合される。
【0035】
図9に示すように、先端部3に凹部3aが形成された回転工具1を用いた場合(受け部材4の先端部5は、説明の便宜上平滑とする)には、金属組織は工具1の回転方向に撹拌されると共に、凹部3aの直下及び周辺で上下方向(金属部材の接合面と交差する方向)に3次元的な縦渦の塑性流動が発生して撹拌されて、最終的に重ね合わされた第1及び第2金属部材W1、W2が溶融されることなく接合される。
【0036】
また、回転工具1の凹部3aは撹拌される金属組織の周速が略ゼロとなる凹部内での塑性流動を促進し、受け部材4の凹部5aを設けた場合には回転工具1に接触しない金属部材の塑性流動を促進する。
【0037】
更に、図10に示すように、先端部3に突出部(又は溝部)3bが形成された回転工具1を用いた場合(受け部材4の先端部5は、説明の便宜上平滑とする)には、先端部3の放射状の凹凸により、金属組織は工具1の回転方向に撹拌されると共に、第1金属部材W1と第2金属部材W2との界面にて回転応じて周期的変化する上下方向(金属部材の接合面と交差する方向)に塑性流動が加えられ、この周期的な上下方向の流動により、両金属部材の界面の拡散が促進され、最終的に重ね合わされた第1及び第2金属部材W1、W2が溶融されることなく接合される。
【0038】
上述のように、回転工具1の先端部3に凹部3aを設けた場合には、接合すべき金属組織の全てが十分に撹拌されて、接合強度が高まるのに対して、凹部3aを設けないで平滑な場合には、金属部材の接合面と交差する方向への撹拌が不十分なため、接合強度は弱いものとなる。
【0039】
また、回転工具1に放射状に凹凸を形成した場合、凹部3aを形成した場合と比較して、回転工具1の先端部の金属組織に対する当接状態が異なり、中央部で撹拌される金属組織の角速度が周辺部の角速度より小さくなるよう設定できるため、撹拌性が高いと共に、先端部の広い範囲で回転方向及び上下方向への三次元的な塑性流動を発生させやすいという利点がある。
【0040】
[試験結果]
本実施形態の接合処理では、金属部材としてJISで規格化された6000系鋼板(Al-Mg-Si鋼板)を一例として用いるが、5000系鋼板(Al-Mg鋼板)や他の金属部材でも適用可能である。
【0041】
図11は、本実施形態の非溶融摩擦撹拌による接合強度試験方法を示す図である。図12は、図11の接合強度試験方法による結果を示す図である。
【0042】
図11の接合強度試験は、接合された第1及び第2金属部材W1、W2を互いに相反する方向に引張って、接合面が剥がれた時点での引張力を接合強度として測定している。
【0043】
また、接合条件は、工具回転数が2000rpm、回転工具1の先端部3の直径がφ10mm、押圧保持時間は0.2mm押し込み後の時間、金属部材は6000系、板厚が1mmのものを用いた。
【0044】
図12に示すように、先端部3に凹部3aが形成された回転工具1を用いた方が、先端部3が平滑な工具の場合に比べて、接合強度が高くなって要求強度を満たす。
【0045】
また、先端部3が平滑な工具の場合では、図15に示すように、破壊時に金属部材の接合面から剥がれる剥離破断となるのに対して、先端部3に凹部3aが形成された工具を用いた場合には、図13及び図14に示すように、破壊時に接合面は剥がれずに、回転工具1の周囲に対応する部分Waから破断するボタン破断となるため、接合強度が高いことがわかる。
【0046】
更に、図16乃至図19に示すように、先端部3に凹部3aが形成された工具を用いて接合した場合には、金属組織の接合界面が均一になるよう十分撹拌されて接合されるため、接合強度が高くなる。
【0047】
また、回転工具1の金属部材に対する押圧保持時間が長いほど接合強度は高くなるが、約10秒以上押圧保持すると、先端部3に凹部3aが形成された回転工具1を用いた場合でも、先端部3が平滑な工具の場合でも接合強度は略同じとなる。
【0048】
[合金材料を介在させた接合]
第1及び第2金属部材は、両金属部材の間に合金材料を介在させて接合することもできる。
【0049】
図20は、合金材料を介在させた第1及び第2金属部材の接合方法を説明する図である。図21は、第1及び第2金属部材の接合部分Pにおいて合金材料が拡散していく様子を説明する図である。
【0050】
図20及び図21に示すように、例えば、第1金属部材W1はアルミニウム合金板で、第2金属部材W2は、合金材料としてZn−5Al層又はZn溶融メッキ層WcがZn−Fe−Al又はZn−Fe合金層Wdを介して形成されたFe鋼板である。Zn−5Al層は、約95重量%のZn成分と約5重量%のAl成分との共晶組成からなる。また、好ましくは、アルミニウム合金にZn−5Al合金材料を被覆したものが最適である。Zn溶融メッキ層は、一般に防錆のために金属部材に被覆された状態で市販されている。
【0051】
第1及び第2金属部材W1、W2を合金材料としてのZn−5Al層又はZn溶融メッキ層Wcを介して重ね合わせ、第1金属部材W1における第2金属部材W2との接合部分Pに相当する表面部位に回転工具1を押圧していくと、アルミニウム合金が摩擦により撹拌されて塑性流動を開始する。塑性流動が促進されると、アルミニウム合金表面の酸化被膜が破壊されて、Zn−5Al層又はZn溶融メッキ層Wcとアルミニウム合金とが相互に拡散してAl,Al−Zn,Zn−Al,Fe−Zn,Feとからなる拡散層を形成し、更に塑性流動が促進されてAl−Zn−Fe合金層Weとなってアルミニウム合金板W1と鋼板W2とがAl−Zn−Fe合金層Weを介して接合される。
【0052】
尚、Zn−5Al層又はZn溶融メッキ層Wcが被覆されていない鋼板とアルミニウム合金板とを接合する場合には、両部材の接合部分PにZn−5Al層又はZn合金箔等の合金材料を別途介在させてもよい。また、合金材料としてZn−Alの他に、Mg−Al合金材料を形成してもよい。
【0053】
回転工具1は、その先端部が平面状の他、上述した様々な形状の工具を用いることができる。また、先端部にプローブと呼ばれる突出部2を設けた回転工具を用いてもよい。
【0054】
また、回転工具1は、第1金属部材W1と第2金属部材W2のうち、融点の低い方から押圧して摩擦により撹拌させる。
【0055】
このように、アルミニウム合金と比較して融点及び高温強度が高い鋼板よりも、少ない入熱で軟化するアルミニウム合金側から回転工具を押圧することにより、短時間で接合でき、工具への熱的・機械的負荷が低減できるため、工具寿命を延長できるという利点がある。
【0056】
また、図22乃至図25に示すように、回転工具1の金属部材への回転数は、1000rpm程度で一定(図22、23)又はアルミニウム合金の酸化被膜の破壊を促進させるために周期的に変化させてもよい(図24、25)。回転数を減少させていくと接合に時間を要するため好ましくない。
【0057】
また、回転工具1の金属部材への押圧力は一定(図22、24)又は漸増させる(図23、25)。押圧力を減少させていくと塑性流動が不十分となり、十分な接合強度は得られなくなる。
【0058】
回転数と押圧力との関係は、金属組織が軟化しただけ、押圧力を高くしていくことが必要となる。
【0059】
[合金材料の拡散接合]
図26(a)〜(d)は、Zn−5Al層とアルミニウム合金とが相互に拡散してAl,Al−Zn,Zn−Al,Fe−Zn,Feとからなる拡散層を形成し、更に塑性流動が促進されてAl−Zn−Fe合金層Weとなってアルミニウム合金板W1と鋼板W2とがAl−Zn−Fe合金層Weを介して接合される様子を示す図である。
【0060】
図26(a)に示すアルミニウム合金板とFe鋼板とをZn−5Al層を介在させて重ね合わせた状態から回転工具1により非溶融で摩擦撹拌されると、図26(b)に示すようにアルミニウム合金の下層には、Al及びZn−5Al層からなる拡散層が形成されFe鋼板の上層には、Fe及びZn−5Al層からなる拡散層が形成される。
【0061】
更に、撹拌により塑性流動が進んでいくと、図26(c)に示すようにZn−5Al層のZn成分がアルミニウム合金及びFe鋼にさらに拡散し、この拡散反応により、Zn−5Al層のZn成分の割合は低下(Al成分の割合が増加)していく。
【0062】
次に、図26(c)に示す状態から、更に塑性流動が進むことにより、アルミニウム合金側の拡散層とFe鋼板側の拡散層同士の拡散反応が行われ、結果として図26(d)に示すAl−Zn−Fe合金層が形成される。
【0063】
以上のように、第1及び第2金属部材W1、W2は、Al−Zn−Feの3元素系の合金層を介して接合される。これにより、第1及び第2金属部材W1、W2は、その接合面にFe−Alという脆い金属間化合物が生成されるのを防止することができ、Fe−Al−Znの3元素系合金層により接合強度を非常に高くすることができる。
【0064】
[金属部材形状]
本実施形態では、予め3次元形状にプレス成形された金属部材の接合に適している。即ち、図27に示す自動車の車体フレームW1と補強部材W2の接合のように、プレス成形により金属部材が複雑な3次元形状を有し、回転工具1を連続して移動できないような複数点在する接合部分Pに対して、本実施形態の接合方法を用いることにより局所的に溶接でき、プレス成形後であっても接合可能となる。
【0065】
[バリ除去構造]
図28は、回転工具に切削用チップを設けた回転工具の先端部を示す図である。図29は、回転工具にバリ抑制用段差を設けた回転工具の先端部を示す図である。
【0066】
接合時に金属部材に発生するばりWb(図13参照)を取り除くために、図28及び図29に示すように、回転工具1の先端近傍の外周面に拡径する切削用チップ1a又はバリ抑制用段差1bを一体的又は後付けで形成してもよい。
【0067】
切削用チップ1bは先端部3に平行な平面状で、回転工具1の先端近傍の外周面に90°ごとに等間隔で4つ設けられている。尚、切削用チップ1bは、平面状ではなく、例えば、らせん状の切り刃状にもでき、また、チップ数は金属部材の成分や押し込み量に応じて任意に設定できる。
【0068】
また、バリ抑制用段差1cは先端部3に平行な平面状で回転工具1の先端近傍の外周面に全周に亘って形成されている。
【0069】
図31は、回転工具に切削用チップを設けた場合のバリ取り方法を説明する図である。図32は、回転工具にバリ抑制用段差を設けた場合のバリ取り方法を説明する図である。
【0070】
切削用チップ1bによりバリWbを除去する場合、図31に示すように、回転工具1の回転及び押圧により第1金属部材W1における回転工具1の周囲に発生するバリWbを切削して除去する。
【0071】
バリ抑制用段差1cによりバリWbを除去する場合、図32示すように、回転工具1の回転及び押圧により第1金属部材W1における回転工具1の周囲に発生するバリWbを押し潰して除去する。
【0072】
これら切削用チップ1b又はバリ抑制用段差1cの軸心方向の位置は、図30に示すように、金属部材W1に押し込まれる先端部3の押し込み量tだけ上方に形成される。
【0073】
切削用チップ1bでは、バリを完全に除去できる反面、切り屑Wbが発生し、硬質の切削用チップ1bを用いるため回転工具1が高価となる。それに対して、バリ抑制用段差1cでは、押し潰されたバリWbが残るために外観が若干劣るが、回転工具1が安価で切り屑が発生しないという利点がある。
【0074】
また、切削用チップ1b又はバリ抑制用段差1cを回転工具1に対して固定しないで、回転工具1の回転軸と同軸に昇降可能に構成してもよい。
【0075】
図33は、切削用チップ1b又はバリ抑制用段差1cを回転工具に対して昇降可能に設けた例及びバリ除去方法を示す図である。
【0076】
図33に示すように、切削用チップ1b又はバリ抑制用段差1cは、回転工具1の回転軸と同軸に、その外周面に対して昇降可能(回転可能としてもよい)な中空軸41の先端部に設けられている。
【0077】
この昇降式の切削用チップ1b又はバリ抑制用段差1cによりバリWbを除去する場合、図33(a)、(b)に示す接合時には上昇させて接合部分から離間させ、図33(c)、(d)に示すように、接合完了後に、切削用チップ1b又はバリ抑制用段差1cを下降してバリWbを切削又は押し潰して除去する。
【0078】
切削用チップ1b又はバリ抑制用段差1cを可動式にすることにより、固定式と比較して設備が複雑で高価となるが、金属部材に応じて回転工具の押し込み量を変える場合でも同一の工具で対応できるという利点がある。
【0079】
[変形例]
本実施形態の変形例として、金属部材の歪みを抑制するために、金属部材の接合部分を冷却しながら接合することもできる。冷却方法としては、冷却水中で接合したり、接合部分に冷却水を供給すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係る実施形態の重ね合わせ接合方法を説明する回転工具付近の拡大図である。
【図2】金属部材の接合方法を説明する図である。
【図3】回転工具の先端部の他の形状を例示する図であり、(a)は側面図、(b)は先端部の正面図である。
【図4】回転工具の先端部の他の形状を例示する図であり、(a)は側面図、(b)は先端部の正面図である。
【図5】回転工具の先端部の他の形状を例示する図であり、(a)は側面図、(b)は先端部の正面図である。
【図6】回転工具を保持及び駆動する多関節ロボットの概略図である。
【図7】3枚以上の金属部材の接合方法を説明する図である。
【図8】回転工具の先端部が平滑な場合の金属部材内部の塑性流動状態を示す図である。
【図9】回転工具の先端部に凹部を形成した場合の金属部材内部の塑性流動状態を示す図である。
【図10】回転工具の先端部に突出部又は溝部を形成した場合の金属部材内部の塑性流動状態を示す図である。
【図11】本実施形態の非溶融摩擦撹拌による接合強度試験方法を示す図である。
【図12】図11の接合強度試験方法による結果を示す図である。
【図13】本実施形態により接合された金属部材の接合部分の金属組織を示す断面図である。
【図14】接合強度試験によるボタン破断時の金属部材の状態を示す図である。
【図15】接合強度試験による剥離破断時の金属部材の状態を示す図である。
【図16】図13に対応し、本実施形態により接合された金属部材の接合部分の金属組織の断面写真を示す図である。
【図17】図16のI部の拡大写真を示す図である。
【図18】図17のII部の金属部材の金属組織の断面写真を示す図である。
【図19】図18の拡大写真を示す図である。
【図20】合金材料を介在させた第1及び第2金属部材の接合方法を説明する図である。
【図21】第1及び第2金属部材の接合部分Pにおいて合金材料が拡散していく様子を説明する図である。
【図22】金属部材の接合における回転工具の回転数及び押圧力の制御例を示す図である。
【図23】金属部材の接合における回転工具の回転数及び押圧力の制御例を示す図である。
【図24】金属部材の接合における回転工具の回転数及び押圧力の制御例を示す図である。
【図25】金属部材の接合における回転工具の回転数及び押圧力の制御例を示す図である。
【図26】Zn−5Al層とアルミニウム合金とが相互に拡散してAl,Al−Zn,Zn−Al,Fe−Zn,Feとからなる拡散層を形成し、Al−Zn−Fe合金層となって金属部材同士が接合される様子を示す図である。
【図27】予め3次元形状にプレス成形された金属部材として、自動車の車体フレームを接合する場合について示す図である。
【図28】回転工具に切削用チップを設けた回転工具の先端部を示す図である。
【図29】回転工具にバリ抑制用段差を設けた回転工具の先端部を示す図である。
【図30】切削用チップ又はバリ抑制用段差の回転工具に対する取り付け位置を説明する図である。
【図31】回転工具に切削用チップを設けた場合のバリ取り方法を説明する図である。
【図32】回転工具にバリ抑制用段差を設けた場合のバリ取り方法を説明する図である。
【図33】切削用チップ又はバリ抑制用段差を回転工具に対して昇降可能に設けた例及びバリ取り方法を示す図である。
【符号の説明】
【0081】
1 回転工具
2 突出部
3 先端部
4 受け部材
10 多関節ロボット
W1〜W3 金属部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属部材と第2金属部材とを重ね合わせて、非溶融の状態で摩擦により撹拌させて接合する金属の接合方法であって、
前記第1金属部材と第2金属部材のうち、融点の低い方の金属部材の表面部位に軸心周りに回転する円筒状の回転工具を押圧し、
前記回転工具の回転により、前記第1及び第2金属部材の接合部分を非溶融の状態で摩擦により撹拌させて非溶融撹拌層を形成することにより、該第1及び第2金属部材をスポット接合することを特徴とする金属の接合方法。
【請求項2】
前記第1金属部材はアルミニウム、前記第2金属部材は鉄を夫々主成分とする材料であり、該第1及び第2金属部材の接合部分に亜鉛を主成分とする合金材料を介在させて接合することを特徴とする請求項1に記載の金属の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図20】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図21】
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【公開番号】特開2007−90436(P2007−90436A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329883(P2006−329883)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【分割の表示】特願2000−263841(P2000−263841)の分割
【原出願日】平成12年8月31日(2000.8.31)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】