説明

金属の表面改質方法

【課題】金属の表面改質に関してイトロ処理法を更に発展させる。
【解決手段】歯科治療の前装冠の作製において、先ず、鋳造した金銀パラジウム合金2の表面に細かい凹凸を形成するためにサンドブラスト処理(S11)を行った後に、火炎を使って金銀パラジウム合金2の表面に酸化膜を生成する(S13)。次いで、シラン化合物とプロパンガスとを充填したボンベを装着したガンタイプのガスライターを使って火炎を金銀パラジウム合金2の表面に吹き付けるイトロ処理を行うことで上記酸化膜の上に水酸化ケイ素を生成する(S14)。次に、プライマー及びオペーク剤を塗布した後に硬質コンポジットレジンを築盛する(S15,S16)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属の表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は火炎を使った金属を含む固体物質の表面処理法を開示している。この特許文献1に開示の発明の概要を説明すると、シラン原子、チタン原子、アルミニウム原子を含む改質剤化合物を含む燃料ガスの火炎を固体表面に吹き付けることにより固体物質の表面処理を行うものである。
【0003】
特許文献2は、金属を含む固体物質の表面を加熱することのできる熱源を用いた固体物質の表面処理法を開示している。この特許文献2に開示の発明の概要を説明すると、少なくともシラン原子、チタン原子、アルミニウム原子を含む改質剤化合物を含む気体を熱源を介して固体物質に対して吹き付け処理するか、上記改質剤化合物を固体物質に対して吹き付け処理した後に熱源を用いて加熱することにより固体物質の表面処理を行うものである。
【0004】
上述の表面改質法は「イトロ処理法」と呼ばれており、このイトロ処理法は安価で且つ簡単な操作で固体物質の表面を改質できるため様々な分野で活用され始めている。例えばそれまで不可能とされていたシリコーンゴムの接着性を実現することができ、また、接着剤やテープ等が接着しなかった固体物質であっても、その密着性や接着性を発現させることができる。また、ガラスの表面にプライマー無しで印刷するのにも採用されている。
【0005】
ところで、歯科技工における接着の一つの技法としてロカテック(TM)が知られている。このロカテック(TM)システムは、金属の表面にシリケート層を形成することで金属とレジンとの確実な接着が実現できるため、広く採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−238710号公報(特許第3557194号)
【特許文献2】特開2005−187803号公報(特許第4097648号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ロカテック(TM)システムの原理は、シリカコーティングされた不定形アルミナ粒を使ってサンドブラスト処理することで金属表面を改質することにある。しかし、シリカコーティングされたアルミナ粒は高価であり、また、サンドブラスト処理を行う装置も高価であることから、特に価格の点からその適用が限定されてしまうという問題がある。
【0008】
本願発明者は、ロカテック(TM)の置換技術として特許文献1、2に記載の「イトロ処理法」に着目し、仮にこの表面改質技術を使って歯科用金属とレジンとの間の確実な接着が実現できれば安価で且つ簡単な操作で足りるため歯科医師及び技工士にとって朗報となると期待して実験を行った。その結果を下記の表1に示す。
【0009】
なお、実験に使用した金属は、歯科用金銀パラジウム合金(GC社製キャストウエルM.C.(金12%))であった。また、レジンとして歯冠用硬質レジン(GC社製グラディア)を使用し、また、プライマーとして3M社製のエスペ(TM)ジルを使用した。また、イトロ処理として、特許文献1の火炎を使った表面改質法を採用して金銀パラジウム合金の表面に酸化ケイ素膜を形成した。
【0010】
【表1】

【0011】
上記表1に記載した数値は、複数回の実験の平均値である。また、実験において、金銀パラジウム合金に対する前処理としてサンドブラストにより金属表面に凹凸を形成した。また、イトロ処理無しの実験、イトロ処理有りの実験、ロカテック(TM)処理の実験においてプライマー及びレジンは共通の材料を使用した。
【0012】
イトロ処理を行わない「イトロ処理無し」の剪断強さは0.65(kg/mm2)であり、これに比較してイトロ処理を行った場合には0.86(kg/mm2)と剪断強さが向上したが、ロカテック(TM)処理を行った場合の剪断強さ1.28(kg/mm2)には及ばなかった。
【0013】
本願発明者は、操作の簡便性や安価に表面改質ができるというイトロ処理の特徴を損なうことなくイトロ処理よる金属の表面改質を更に発展させる手法を探求するために様々な実験を繰り返して試行錯誤した結果、本発明を案出するに至ったものである。
【0014】
本発明の目的は、金属の表面改質に関してイトロ処理法を更に発展させることのできる金属表面改質方法を提供することにある。
【0015】
本発明の更なる目的は、これまでイトロ処理で上手く表面改質できなかった金、銀、銅、ステンレススチールなどの金属に対してイトロ処理の効果を発揮させることのできる金属表面改質方法を提供することにある。
【0016】
本発明の更なる目的は、歯科用金属や生体適合金属の表面をイトロ処理により改質することのできる金属表面改質方法を提供することにある。
【0017】
本発明の更なる目的は、歯科用金属とレジンとの間の接着において十分な耐久性を確保することのできる金属表面改質方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の技術的課題は、本発明によれば、基本的には、
大気中で金属の表面を火炎で加熱して該金属の表面に酸化膜を生成する前処理工程と、
該酸化膜を備えた金属の表面に、シラン、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、ベリリウム(Be)、ジルコニウム(Zr)を含む改質剤化合物を含む燃料ガスの火炎を吹き付ける表面改質工程とを有することを特徴とする金属の表面改質方法を提供することにより達成される。
【0019】
表面改質化合物として、引用文献1、引用文献2でも例示しているように、アルキルシラン化合物、アルコキシシラン化合物、アルキルチタン化合物、アルコキシチタン化合物、アルキルアルミニウム化合物、及びアルコキシアルミニウム化合物等を挙げることができる。また、これらの化合物のうち、アルキルシラン化合物、アルキルチタン化合物、及びアルキルアルミニウム化合物は、一般に沸点が低いものが多く、加熱により容易に気化して、空気等と均一に混合できることから好ましい改質剤化合物である。このようなアルキルシラン化合物の好適例としては、テトラメチルシラン、テトラエチルシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジフェニルシラン、ジエチルジクロロシラン、ジエチルジフェニルシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリフェニルシラン、ジメチルジエチルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、ジクロロジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、トリクロロエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン等の一種単独又は二種以上の組み合わせを挙げることができる。
【0020】
また、アルキルチタン化合物の好適例としては、テトラメチルチタン、テトラエチルチタン、ジメチルジクロロチタン、ジメチルジフェニルチタン、ジエチルジクロロチタン、ジエチルジフェニルチタン、メチルトリクロロチタン、メチルトリフェニルチタン、ジメチルジエチルチタン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、メチルトリメトキシチタン、ジメチルジメトキシチタン、フェニルトリメトキシチタン、ジクロロジメトキシチタン、ジクロロジエトキシチタン、ジフェニルジメトキシチタン、ジフェニルジエトキシチタン、トリクロロメトキシチタン、トリクロロエトキシチタン、トリフェニルメトキシチタン、トリフェニルエトキシチタン等の一種単独又は二種以上の組み合わせを挙げることができる。
【0021】
さらに、アルキルアルミニウム化合物の好適例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、ジメチルクロロアルミニウム、ジメチルフェニルアルミニウム、ジエチルクロロアルミニウム、ジエチルフェニルアルミニウム、メチルジクロロアルミニウム、メチルジフェニルアルミニウム、ジメチルエチルアルミニウム、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、メチルジメトキシアルミニウム、ジメチルメトキシアルミニウム、フェニルジメトキシアルミニウム、ジクロロメトキシアルミニウム、ジクロロエトキシアルミニウム、ジフェニルメトキシアルミニウム、ジフェニルエトキシアルミニウム、ジクロロメトキシアルミニウム、ジクロロエトキシアルミニウム、ジフェニルメトキシアルミニウム、ジフェニルエトキシアルミニウム等の一種単独又は二種以上の組み合わせを挙げることができる。
【0022】
また、シラン化合物等において、分子内又は分子末端に窒素原子、ハロゲン原子、ビニル基及びアミノ基の少なくとも一つを有する化合物であることがより好ましい。より具体的には、ヘキサメチルジシラザン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリクロロシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、3−クロロプロピルトリメトキシシランの少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
【0023】
改質剤化合物を金属に対して均一に吹き付けるとともに、改質剤化合物を容易に熱分解して、酸化させるために、かかる改質剤化合物を空気や酸素等のキャリアガスと混合することが好ましい。ただし、かかる空気や酸素とともに、別のキャリアガスとして、アルゴンや窒素、あるいは気化したフッ素炭化物等の不活性ガスを使用することも好ましい。この理由は、このようなキャリアガスを用いることにより、改質剤化合物を精度良く、かつ円滑に移送することができるためである。
【0024】
イトロ処理は、例えばシラン化合物を使ったときに金属の表面に水酸化ケイ素を生成して、親水性の表面に改質するものであるが、金属によっては、その表面に水酸化ケイ素を上手く生成することができないこともある。しかし、本発明者は、そのような金属については、予めその表面を意図的に改質しておくことによりその問題の解決を図り、鋭意努力を重ねた。そして、酸素を含む雰囲気中(典型的には大気中)で金属を高温に熱して金属の表面に酸化膜を形成し、その後にイトロ処理したところ良好な結果を得ることができた。
【0025】
イトロ処理の前に行う金属表面の酸化処理において、金属の表面に酸化膜を生成するのに大気中で火炎を使って加熱するのが最も簡便で且つ短時間に金属表面を酸化処理することができるが、金属表面を例えば不活性ガス雰囲気の中で行い、次いで、酸素を含む雰囲気の中で放冷することで金属表面に酸化膜を生成するようにしてもよい。この場合には、加熱工程の熱源は任意であり、火炎に限定されない。
【0026】
本発明に適用可能な金属は、特に制限されるものではなく、イトロ処理の前に酸化処理を行わないでもイトロ処理によって表面改質できる金属に対しても適用可能であることは言うまでもないが、金(Au)、金合金、銀(Ag)、銀合金、銅(Cu)、銅合金、金銀パラジウム合金、チタン(Ti)、コバルトクロム合金、ニッケルクロム合金、ステンレススチール、ラドン(Rn)、白金(Pt)に対して効果的である。
【0027】
ステンレススチールは広く一般的に使用されているが、矯正歯科の分野でも矯正ブラケットの材料として広く使用されている。審美的な歯列矯正治療では、天然歯の色に近づけるために金メッキを施したブラケットやプラスチックブラケット、セラミックブラケットなどが開発されているが、一般的に使用されているステンレススチールのブラケットを歯科医が手軽に着色できるのが好ましいことは勿論であり、本発明によって、これを実現することができる。例えば、ステンレススチールの矯正ブラケットに対して本発明を適用して酸化処理を行い、次いでイトロ処理を行った後にプライマーを塗布し、次いでオペーク剤を塗布して患者の天然歯の色に近い着色を施せばよい。この場合にはシラン化合物を使ってイトロ処理するのが最も合理的である。勿論、酸化処理する前に、矯正ブラケットに対してサンドブラストして表面に細かい凹凸を形成してもよい。また、イトロ処理の前の酸化処理法として火炎で矯正ブラケットを加熱して表面を酸化させる手法を採用するのが最も簡単且つ安価であり、また、短時間に矯正ブラケットの表面に酸化膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】歯科治療における前装冠の構造を説明するための図である。
【図2】前装冠の製作に適用した表面改質方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図3】火炎を使った酸化膜生成工程の具体的な手順を説明するためのフローチャートである。
【図4】オペーク剤の塗布及びこれに続くレジンの築盛の工程の具体的な手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0029】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。図1は、天然歯にコンポジットレジンを築盛した前装冠の断面図である。図1において、参照符号1は天然歯を示し、2は、鋳造した歯科用金属を示す。この歯科用金属として、金、金合金、銀、銀合金、金銀パラジウム合金、チタンなどを例示的に挙げることができる。この歯科用金属2にはプライマー及びオペーク剤3が塗布され、そして、オペーク剤3の上に硬質コンポジットレジン4が築盛される。
【0030】
図2は、鋳造した歯科用金属2に硬質コンポジットレジン4を築盛する実施例の手順を説明するためのフローチャートである。図2を参照して、鋳造した歯科用金属2の表面に細かい凹凸を形成するために歯科用金属2の表面にアルミナ粒を吹き付けるサンドブラスト処理を行い(S11)、次いで無水アルコールなどを使って歯科用金属2を超音波洗浄する(S12)。
【0031】
次のステップS13において、火炎を使って歯科用金属2の表面に酸化膜を生成する。図3は、このステップS13の火炎酸化処理に含まれる工程を説明するためのフローチャートである。図3を参照して、都市ガス、LPG、プロパンガスなどの燃料ガスを使用するガスバーナー又はガスライターを着火し(S131)、大気中で、火炎を歯科用金属2に当てて歯科用金属2を加熱する(S132)。歯科用金属2が十分に高温になったらガスバーナー又はガスライターを止め(S133)、そして歯科用金属2をそのまま放置して大気中で常温まで放冷する(S134)。これにより歯科用金属2はその表面に対して迅速に酸化膜が形成されることになるが、この酸化膜の生成は歯科用金属2の表面が変色しているか否かによって確認することができる(S135)。
【0032】
図2に戻って、歯科用金属2が冷えたら表面改質処理を行う(S14)。この表面改質処理工程は引用文献1、引用文献2に開示のイトロ処理法が採用される。イトロ処理の詳細は引用文献1、2に開示の通りであり、したがって引用文献1、2の開示の全てをここに援用する。
【0033】
この実施例では、改質剤化合物として、テトラメチルシラン、テトラメトキシシランなどのシラン化合物と、燃料ガスとしてのプロパンガスなどを充填したボンベを用意し、このシラン化合物と燃料ガスとが混在したボンベを装着した携帯ガスライターを使って火炎を歯科用金属2の表面に吹き付けるイトロ処理が行われ、これにより歯科用金属2の表面の酸化膜の上に水酸化ケイ素が生成され、これにより歯科用金属2の表面は親水性に改質される。この携帯ガスライターは既に市販されている、トリガーを備えたガンタイプのガスライターであるのが操作性の観点から好適である。
【0034】
このステップS14での表面改質処理において、作業者は片手でガンタイプのガスライターを操作して、歯科用金属2の表面に、短時間、火炎を吹き付けることで、当該金属2の表面に水酸化ケイ素を生成することができる。この水酸化ケイ素を生成する処理は熟練を必要とせず且つ極めて僅かな時間で足りる。
【0035】
イトロ処理を行った歯科用金属2に対して、レジンによる人工歯の構築が行われることになるが、この手法は従来から知られているように、先ず歯科用金属2に対するプライマーの塗布から始まる。ここに、プライマーとしてシランカップリング剤を主成分としたプライマーが採用される。プライマーを塗布した後、歯科用金属2に対して、オペーク剤の塗布及び硬質コンポジットレジンの築盛が行われる(S16)。
【0036】
このステップS16の工程の詳細を図4に示す。オペーク剤の塗布は多段階に分けて行うのがよい。第1段階のオペーク剤の塗布はファンデーションオペーク剤の塗布であり(S161)、次に色調オペーク剤(エナメルを含む)の塗布を行う(S162)。そして、その後に、前装冠用コンポジットレジン(デンティン、エナメル)の築盛(S133)を行う。ステップS16のオペーク剤の塗布、硬質コンポジットレジンの築盛の工程は従来から知られているのでこれ以上の説明を省略する。
【0037】
ちなみに、図2のステップS13(火炎酸化処理)、S14(イトロ処理による表面改質)の工程は、従来のロカテック(TM)による処理工程に代わる工程であり、ロカテック(TM)による表面改質の場合には、ステップS12の次に、シリカコーティングされた不定形アルミナ粒を使ってサンドブラスト処理するロカテック処理工程が加わり、このロカテック処理が終わったらステップ15のプライマー塗布工程に移る。
【0038】
イトロ処理を使って作製した前装冠と、ロカテック(TM)処理を使って作製した前装冠とを用意して、両者のレジン4の接着強度の違いを手で確認したところ、感覚的であるが、その違いが分からないほど実用上十分な強度を有していた。
【0039】
確認のため、歯科用金銀パラジウム合金の試験片を使って剪断強さを測定した。その測定結果を表2に示す。
【表2】

【0040】
上記表2に記載した数値は、複数回の実験の平均値である。また、表2において、「鏡面研磨のみ」は金銀パラジウム合金の試験片の表面を鏡面研磨したことを意味している。「鏡面研磨のみ」におけるイトロ処理有りでは、鏡面表面にイトロ処理を行った後に、プライマー(3M社製のエスペ(TM)ジル)を塗布し、そしてその上に歯冠用硬質レジン(GC社製 グラディア)を築盛に使用した。「鏡面研磨のみ」におけるイトロ処理無しでは、鏡面表面に対してイトロ処理を行うことなく、直接的に鏡面表面にプライマーを塗布し、そしてその上に歯冠用硬質レジンを築盛に使用した。なお、実施例に関連した火炎酸化処理及び比較例としてのロカテック処理は、その前工程で、鏡面研磨した金銀パラジウム合金の表面に対してサンドブラスト処理して細かい凹凸を形成した。なお、「鏡面研磨のみ」、「ロカテック処理」、「火炎酸化処理」の全てのサンプルに対して全て共通のプライマー及び硬質レジンを使用した。
【0041】
上記の表2から分かるように、火炎酸化処理とイトロ処理の組み合わせによって、ロカテック処理の場合の1.28(kg/mm2)に近い1.15(kg/mm2)という数値を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、歯科用金属とレジンとの接着に適用することができる。また、本発明は、イトロ処理による十分な効果が得られなかった金属に関して、効果的な前処理方法を提供することができる。具体的に適用例を例示すれば以下の通りである。
【0043】
(1)ハーネスの銅やアルミニウム電線に対して本発明を適用することで、シリコーン、ウレタン、防水又は止水剤等の密着性を改善することができる。
(2)電気誘導炉、自動販売機、空気調和装置に含まれる銅パイプに対して本発明を適用することで塗料や絶縁又は防錆剤の密着性を改善することができる。
【0044】
(3)情報機器の金属筐体に対するデジタル印刷や転写をする前に本発明を適用することにより、その密着性を改善することができる。
(4)アルミニウムなどの金属基板やフレキシブルプリント基板などに本発明を適用することにより、絶縁フィルム、絶縁コーティング、導線層(導電剤)の密着性を改善することができる。
【符号の説明】
【0045】
2 鋳造した歯科用金属
3 プライマー及びオペーク剤
4 硬質コンポジットレジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中で金属の表面を火炎で加熱して該金属の表面に酸化膜を生成する前処理工程と、
該酸化膜を備えた金属の表面に、シラン、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、ベリリウム(Be)、ジルコニウム(Zr)を含む改質剤化合物を含む燃料ガスの火炎を吹き付ける表面改質工程とを有することを特徴とする金属の表面改質方法。
【請求項2】
前記前処理工程が、前記火炎による加熱の後に放冷する工程を含む、請求項1に記載の金属の表面改質方法。
【請求項3】
前記前処理工程が、燃料ガスを空気中に拡散させることにより燃料ガスと空気とを混合して高温で燃焼させる火炎噴射手段を使って行われる、請求項1又は2に記載の金属の表面改質方法。
【請求項4】
前記火炎噴出手段がガスライター又はガスバーナーである、請求項3に記載の金属の表面改質方法。
【請求項5】
シランを含む改質剤化合物を含む燃料ガスの火炎を金属の表面に吹き付けることにより親水性表面に改質する金属の表面改質方法において、
前記改質剤化合物を含む燃料ガスの火炎を金属の表面に吹き付ける工程の前段階に、
前記金属の表面を加熱する加熱工程と、
該加熱工程の後に、酸素を含む雰囲気中で放冷して金属の表面に酸化膜を生成する工程とを有することを特徴とする金属の表面改質方法。
【請求項6】
金属の表面を加熱する加熱工程の前に、
金属の表面をサンドブラスト処理により該金属の表面に凹凸を形成する工程を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属の表面改質方法。
【請求項7】
前記金属が、金(Au)、金合金、銀(Ag)、銀合金、銅(Cu)、銅合金、金銀パラジウム合金、チタン(Ti)、コバルトクロム合金、ニッケルクロム合金、ステンレススチール、ラドン(Rn)、白金(Pt)の群から選択された一つの金属である、請求項6のいずれか一項に記載の金属の表面改質方法。
【請求項8】
金属の表面を加熱する加熱工程と、
該加熱工程の後に、酸素を含む雰囲気中で放冷して金属の表面に酸化膜を生成する工程と、
該酸化膜を備えた金属の表面に対して、シラン、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、ベリリウム(Be)、ジルコニウム(Zr)を含む改質剤化合物を含む気体を熱源を介して金属に対して吹き付け処理するか、上記改質剤化合物を金属に対して吹き付け処理した後に熱源を用いて金属の表面を加熱して前記金属の表面を改質する工程とを有することを特徴とする金属の表面改質方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−189732(P2010−189732A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36580(P2009−36580)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(305009304)株式会社デンタル・フロンティア (2)
【出願人】(000150512)株式会社仲田コーティング (40)
【Fターム(参考)】