説明

金属ナノチューブ及びその製造方法

【課題】表面積が広く、各種電池の電極等に好適に使用できる金属ナノチューブの製造方法を提供する。
【解決手段】(i)芳香環を有する化合物を酸化重合して、三次元連続構造を有するフィブリル状ポリマーを生成させる工程と、(ii)得られたフィブリル状ポリマーの表面に金属層を形成する工程と、(iii)表面に金属層が形成されたフィブリル状ポリマーを焼成してフィブリル状ポリマー部分を除去し、三次元連続構造を有する金属ナノチューブを生成させる工程とを経て金属ナノチューブを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノチューブ及び該金属ナノチューブの製造方法に関し、特に表面積が広く、各種電池の電極等に好適に使用できる金属ナノチューブの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、アルカリ2次電池においては、正極として、ニッケル電極が使用されており、一方、負極としては、カドミウム電極、亜鉛電極、水素電極等が使用されている。また、これら正極及び負極においては、ニッケル等の導電性材料からなる多孔質の集電用極板の空隙中に各種の電極活物質の粒子が充填された構造となっている。
【0003】
例えば、特開平5−38098号公報には、連結骨格を有する金属多孔体の空隙部にカーボンを充填したカーボン集電体が開示されており、該カーボン集電体は、電気抵抗が小さく、また、接触する部材を摩耗させ難いとのことである。
【0004】
また、特開2000−21415号公報には、連続気孔構造を有する合成樹脂製の多孔質体を芯材として、該芯材の表面に銀微粒子の集合体からなる導電層を形成した導電性多孔質体が開示されており、該導電性多孔質体は、生産性に優れると共に、電気抵抗が低く、電池用の極板として好適であるとのことである。なお、特開2000−21415号公報には、芯材として、ポリウレタンフォームや、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂の発泡体や、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン等からなる有機繊維等が例示されており、これらの中でも、ポリウレタンフォーム等の汎用の多孔質体が好ましいとされている。また、特開2000−21415号公報には、上記導電性多孔質体に必要に応じて熱処理を施すことで、芯材を除去できることが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−38098号公報
【特許文献2】特開2000−21415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特開2000−21415号公報に開示の方法では、芯材として、上記に例示したものが使用されるため、上記導電性多孔質体は、細くとも直径が数十μm程度であり、また、該導電性多孔質体の芯材を除去してなる金属チューブも、細くとも直径が数十μm程度となる。そのため、特開2000−21415号公報に開示の方法では、直径が1μm未満のナノオーダー、好ましくは、20nm〜500nmの金属チューブを製造することができない。一方、金属チューブは、直径が小さくなる程、表面積が増えるため、電極等により好適に使用することが可能となる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、表面積が広く、各種電池の電極等に好適に使用できるナノオーダーの金属チューブ、即ち、金属ナノチューブとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の方法で直径がナノオーダーの三次元連続構造を有するフィブリル状ポリマーを生成させ、該フィブリル状ポリマーの表面に金属層を形成した後、フィブリル状ポリマーを焼成・除去することで、高表面積の金属ナノチューブが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明の金属ナノチューブの製造方法は、
(i)芳香環を有する化合物を酸化重合して、三次元連続構造を有するフィブリル状ポリマーを生成させる工程と、
(ii)得られたフィブリル状ポリマーの表面に金属層を形成する工程と、
(iii)表面に金属層が形成されたフィブリル状ポリマーを焼成してフィブリル状ポリマー部分を除去し、三次元連続構造を有する金属ナノチューブを生成させる工程と
を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の金属ナノチューブの製造方法の好適例においては、前記酸化重合が電解酸化重合である。
【0011】
本発明の金属ナノチューブの製造方法の他の好適例においては、前記芳香環を有する化合物がベンゼン環又は芳香族複素環を有する化合物である。ここで、前記芳香環を有する化合物が、アニリン、ピロール、チオフェン及びそれらの誘導体からなる群から選択された少なくとも一種の化合物であることが更に好ましい。
【0012】
本発明の金属ナノチューブの製造方法の他の好適例においては、前記(ii)工程における金属層の形成を、電気メッキ、無電解メッキ又は蒸着で行う。
【0013】
また、本発明の金属ナノチューブは、上記の方法で製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、直径がナノオーダーの三次元連続構造を有するフィブリル状ポリマーを生成させ、該フィブリル状ポリマーの表面に金属層を形成した後、フィブリル状ポリマーを焼成・除去することで、高表面積の金属ナノチューブを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の金属ナノチューブの製造方法は、(i)芳香環を有する化合物を酸化重合して、三次元連続構造を有するフィブリル状ポリマーを生成させる工程と、(ii)得られたフィブリル状ポリマーの表面に金属層を形成する工程と、(iii)表面に金属層が形成されたフィブリル状ポリマーを焼成してフィブリル状ポリマー部分を除去し、三次元連続構造を有する金属ナノチューブを生成させる工程とを含むことを特徴とし、また、本発明の金属ナノチューブは、かかる方法で製造されたことを特徴とする。
【0016】
本発明の金属ナノチューブの製造方法では、(i)工程で、直径がナノオーダーの三次元連続構造を有するフィブリル状ポリマーを生成させた後、(ii)工程で、フィブリル状ポリマーの表面に金属層を形成し、更に、(iii)工程で、フィブリル状ポリマーを焼成・除去して、金属ナノチューブを生成させるため、最終的に得られる金属ナノチューブの内径は、(i)工程で得られるフィブリル状ポリマーの直径にほぼ対応する。そのため、最終的に得られる金属ナノチューブの内径は、ナノオーダーとなる。また、(ii)工程で形成する金属層の厚さをナノオーダーとすることで、金属ナノチューブの外径も、ナノオーダーとなる。
【0017】
本発明の金属ナノチューブの製造方法では、(i)工程で、芳香環を有する化合物を酸化重合して、三次元連続構造を有するフィブリル状ポリマーを生成させる。該フィブリル状ポリマーの原料となる芳香環を有する化合物としては、ベンゼン環を有する化合物、芳香族複素環を有する化合物を挙げることができる。ここで、ベンゼン環を有する化合物としては、アニリン及びアニリン誘導体が好まく、芳香族複素環を有する化合物としては、ピロール、チオフェン及びこれらの誘導体が好ましい。これら芳香環を有する化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上の混合物として用いてもよい。
【0018】
上記芳香環を有する化合物を酸化重合して得られるフィブリル状ポリマーは、三次元連続構造を有し、直径が1μm未満のナノオーダーであり、直径が20nm〜500nmであることが好ましい。また、該フィブリル状ポリマーは、長さが0.5μm〜100mmであることが好ましく、1μm〜10mmであることが更に好ましい。
【0019】
上記酸化重合法としては、電解酸化重合法及び化学的酸化重合法等の種々の方法が利用できるが、中でも電解酸化重合法が好ましい。なお、酸化重合においては、原料の芳香環を有する化合物と共に、酸を混在させてもよい。
【0020】
上記電解酸化重合によりフィブリル状ポリマーを得る場合には、芳香環を有する化合物を含む溶液中に作用極及び対極となる一対の電極板を浸漬し、両極間に前記芳香環を有する化合物の酸化電位以上の電圧を印加するか、または該芳香環を有する化合物が重合するのに充分な電圧が確保できるような条件の電流を通電すればよく、これにより作用極上にフィブリル状ポリマーが生成する。この電解酸化重合法によるフィブリル状ポリマーの合成方法の一例を挙げると、作用極及び対極としてステンレススチール、白金、カーボン等の良導電性物質からなる板や多孔質材等を用い、これらをH2SO4、HBF4等の酸及び芳香環を有する化合物を含む電解溶液中に浸漬し、両極間に0.1〜1000mA/cm2、好ましくは0.2〜100mA/cm2の電流を通電して、作用極側にフィブリル状ポリマーを重合析出させる方法などが例示される。ここで、芳香環を有する化合物の電解溶液中の濃度は、0.05〜3mol/Lの範囲が好ましく、0.25〜1.5mol/Lの範囲が更に好ましい。また、電解溶液には、上記成分に加え、pHを調製するために可溶性塩等を適宜添加してもよい。
【0021】
本発明の金属ナノチューブの製造方法では、(ii)工程で、上記のようにして得られたフィブリル状ポリマーの表面に金属層を形成する。ここで、金属層の形成方法としては、特に限定されるものではないが、厚さの薄い金属層を形成する観点から、電気メッキ法、無電解メッキ法及び蒸着法が好ましい。また、形成する金属層の厚さは、1〜1000nmの範囲が好ましい。
【0022】
上記電気メッキ法では、例えば、目的とする金属成分が溶解した液から、金属を電気化学的にフィブリル状ポリマーの表面に析出させることにより、金属層を形成することができ、しかも析出量を通電電荷量で正確に制御でき、また、この際、通電条件(電流密度、直流法かパルス法か、温度、金属イオン濃度、共存イオン種等)を適宜選択することで、析出させる金属の厚さ、形態、付着状況等をコントロールすることができる。
【0023】
また、上記無電解メッキ法(化学メッキ法)では、例えば、メッキしたい金属イオンと還元剤とを含む容液を調製し、該溶液に上記フィブリル状ポリマーを浸漬することで、メッキされる金属イオンが還元剤との反応で還元され金属となってフィブリル状ポリマー上に析出する。なお、メッキされる金属イオンの還元され易さに応じて、適宜還元剤を選択することが好ましく、また、上記溶液中には、更にクエン酸ナトリウム等の錯体形成剤を添加することが好ましい。無電解メッキ法では、金属イオンの種類及び濃度、還元剤の種類及び濃度、メッキ時間(浸漬時間)、メッキ浴の温度等を適宜選択することで、金属の厚さ、形態、付着状況等をコントロールすることができる。
【0024】
更に、上記蒸着法では、目的に応じて、数種類の金属を同時に、或いは、合金を担持することも可能である。なお、蒸着法では、ターゲットの種類、蒸着時間等を適宜選択することで、金属の厚さ、形態、付着状況等をコントロールすることができる。
【0025】
また、フィブリル状ポリマーの表面に形成する金属層の材質としては、使用目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、電極に使用する場合は、Ni等が好ましい。なお、本発明の方法では、Pt等の貴金属からなる金属層を形成することもでき、この場合、高価な貴金属を少量用いて、表面積が非常に大きな貴金属ナノチューブを製造することができる。
【0026】
本発明の金属ナノチューブの製造方法では、(iii)工程で、上記のようにして表面に金属層が形成されたフィブリル状ポリマーを焼成してフィブリル状ポリマー部分を除去し、三次元連続構造を有する金属ナノチューブを生成させる。ここで、フィブリル状ポリマーの焼成は、酸化性雰囲気中で行うことができ、空気中でも十分に行うことができる。ここで、フィブリル状ポリマーの焼成温度は、フィブリル状ポリマーの材質と金属層の材質に応じて適宜選択され、具体的には、200〜2000℃の範囲が好ましい。
【0027】
なお、(iii)工程における焼成で、金属層が酸化されている場合は、(iii)工程の後に、公知の方法で、酸化された金属層(金属酸化物層)を還元してもよい。還元方法としては、還元剤で還元する方法や、高温下において水素で還元する方法等が挙げられる。
【0028】
上記のようにして製造された本発明の金属ナノチューブは、チューブ状で且つ三次元連続構造を有する。ここで、該金属ナノチューブは、内径が20nm〜500nmであることが好ましく、また、外径が25nm〜2500nmであることが好ましく、外径が1μm未満のナノオーダーであることが更に好ましい。また、該金属ナノチューブは、長さが0.5μm〜100mmであることが好ましく、1μm〜10mmであることが更に好ましい。本発明の金属ナノチューブは、3次元的に連続した構造を有する上、表面積が非常に大きいため、導電性が非常に高い。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
アニリン 0.5mol/Lと硫酸 1.0mol/Lとを含む水溶液中に、作用極としてカーボンペーパー[東レ製, 厚さ150μm]を設置し、対極としてパンチングメタル[SUS316製, 厚さ0.3mm]を設置し、室温にて15mA/cm2の定電流で4分間電解酸化重合を行い(通電量3.6C)、作用極上にポリアニリンを電析させた。得られたポリアニリンを純水で十分に洗浄した後、風乾し、更に100℃のオーブンで水分を乾燥除去した。測定の結果、生成したポリアニリンの質量は、0.82g/cm2であった。また、SEMで観察したところ、三次元連続構造を有するフィブリル状のポリアニリンがカーボンペーパー上に生成していることが確認された。
【0031】
一方、塩化パラジウム 0.2g/Lと塩化スズ 20g/Lとを含み、35%の塩酸を20体積%含む混合液を調製し、該混合液を40℃に保温しつつ、上記フィブリル状ポリアニリンをカーボンペーパーごと1分間浸漬した。その後、混合液からフィブリル状ポリアニリンを取り出し、純水で十分に洗浄した。
【0032】
次に、硫酸ニッケル 20g/L、酢酸ナトリウム 5g/L、次亜リン酸ナトリウム 10g/L、クエン酸ナトリウム 5g/L及び乳酸 3mL/Lを含む混合液(無電解ニッケルメッキ浴)を調製し、該混合液を60℃に保温しつつ、上記フィブリル状ポリアニリンをカーボンペーパーごと5分間浸漬した。得られたニッケルの無電解メッキが施されたポリアニリンを純水で十分に洗浄した後、風乾し、更に100℃のオーブンで水分を乾燥除去した。
【0033】
次に、窒素/酸素混合ガス(90%/10%)の雰囲気下、500℃で、ニッケルメッキが施されたポリアニリンを3時間焼成し、金属ナノチューブを作製した。SEMで観察したところ、直径が100〜200nmで、三次元連続状の金属ナノチューブがカーボンペーパー上に生成していることが確認された。得られた金属ナノチューブのSEM写真を図1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の方法で製造された金属ナノチューブは、3次元的に連続した構造を有する上、表面積が非常に大きいため、導電性が非常に高く、各種電池の電極等に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1で得られた金属ナノチューブのSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)芳香環を有する化合物を酸化重合して、三次元連続構造を有するフィブリル状ポリマーを生成させる工程と、
(ii)得られたフィブリル状ポリマーの表面に金属層を形成する工程と、
(iii)表面に金属層が形成されたフィブリル状ポリマーを焼成してフィブリル状ポリマー部分を除去し、三次元連続構造を有する金属ナノチューブを生成させる工程と
を含むことを特徴とする金属ナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記酸化重合が電解酸化重合であることを特徴とする請求項1に記載の金属ナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記芳香環を有する化合物がベンゼン環又は芳香族複素環を有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載の金属ナノチューブの製造方法。
【請求項4】
前記芳香環を有する化合物が、アニリン、ピロール、チオフェン及びそれらの誘導体からなる群から選択された少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項3に記載の金属ナノチューブの製造方法。
【請求項5】
前記(ii)工程における金属層の形成を、電気メッキ、無電解メッキ又は蒸着で行うことを特徴とする請求項1に記載の金属ナノチューブの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法で製造された金属ナノチューブ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−152492(P2007−152492A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350984(P2005−350984)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】