説明

金属ナノ粒子分散組成物

【課題】 金属ナノ粒子が有機溶媒中に安定に分散され、高温放置後においても安定な分散性を維持できるとともに、焼成後には良好な導電性を有する膜が得られる金属ナノ粒子分散組成物を提供する。
【解決手段】 実施形態の金属ナノ粒子分散組成物は、有機溶媒と、前記有機溶媒に分散された金属含有粒子とを含有する。前記金属含有粒子は、第1の粒子と第2の粒子とを含む。前記第1の粒子は、重量平均分子量1000以上の高分子化合物を表面に有する第1の金属ナノ粒子からなり、前記第2の粒子は、重量平均分子量が500以下の低分子化合物を表面に有する第2の金属ナノ粒子からなる。前記低分子化合物の少なくとも一部は、一級アミンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、金属ナノ粒子分散組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径が100nm以下の金属ナノ粒子は、電子用配線形成材料の主成分として利用されている。分散安定性に優れた金属ナノ粒子を、工業的規模で製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
近年、金属ナノ粒子を含有するインクをインクジェット法により基板上に直接噴射して、目的の配線パターンを描画する方法が開発されている。インクジェット法に用いられるインクにおいては、金属ナノ粒子が安定に分散していることが要求される。描画されたパターンを焼成して金属ナノ粒子が焼結することにより得られる膜は、良好な導電性を有することが求められる。
【0004】
金ナノ粒子や銀ナノ粒子は、表面が酸化されにくい。こうした粒子を含有したインクを用いて回路パターンを描画し、その後、焼成することによって、導電性の良好な膜を形成することができる。しかしながら、金ナノ粒子や銀ナノ粒子は高価である。
【0005】
銅ナノ粒子は、金ナノ粒子および銀ナノ粒子と比較して安価であり、エレクトロマイグレーション耐性も高い。しかしながら、銅ナノ粒子は溶媒中での分散安定性が乏しく、凝集が生じやすい。さらには、銅ナノ粒子を焼結させて導電膜を得るには、金ナノ粒子や銀ナノ粒子の場合より高温で焼成しなければならない。しかも、銅ナノ粒子は表面が酸化されやすいために、焼成は還元性のガス雰囲気下で行なわれる。得られる導電膜においては酸化成分の還元に伴なう体積収縮が避けられないため、良好な導電性が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−177084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、金属ナノ粒子が有機溶媒中に安定に分散され、高温放置後においても安定な分散性を維持できるとともに、焼成後には良好な導電性を有する膜が得られる金属ナノ粒子分散組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の金属ナノ粒子分散組成物は、有機溶媒と、前記有機溶媒に分散された金属含有粒子とを含有する。前記金属含有粒子は、第1の粒子と第2の粒子とを含む。前記第1の粒子は、重量平均分子量1000以上の高分子化合物を表面に有する第1の金属ナノ粒子からなり、前記第2の粒子は、重量平均分子量が500以下の低分子化合物を表面に有する第2の金属ナノ粒子からなる。前記低分子化合物の少なくとも一部は、一級アミンである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】一実施形態の金属ナノ粒子分散組成物の粒度分布を示すグラフ図。
【図2】実施例の金属ナノ粒子分散組成物により形成された導電膜のSEM写真。
【図3】比較例の金属ナノ粒子分散組成物により形成された導電膜のSEM写真。
【図4】実施例の金属ナノ粒子分散組成物により形成された金属配線を示す顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0011】
本実施形態の金属ナノ粒子分散組成物においては、有機溶媒中に金属含有粒子が分散され、金属含有粒子は、第1の粒子と第2の粒子とを含む。
【0012】
第1の粒子は、重量平均分子量1000以上の高分子化合物を表面に有する第1の金属ナノ粒子からなる。第1の金属ナノ粒子の表面における高分子化合物は、この粒子を保護するとともに分散性を向上させる分散剤として作用する。高分子化合物は、第1の金属ナノ粒子の表面を被覆する機能を有する化合物を用いることができるが、必ずしも第1の金属ナノ粒子それぞれについて、その表面全体を緻密に覆っている必要はない。第1の金属ナノ粒子全体として、表面に高分子化合物が存在すれば所望の効果を得ることができる。こうした高分子化合物については後述する。
【0013】
第1の金属ナノ粒子の主成分は、例えば、銅、銀、金、鉄、白金、パラジウム、スズ、ニッケル、コバルト、ルテニウム、およびロジウムからなる群から選択される金属とすることができる。主成分とは、第1の金属ナノ粒子の質量の50%以上を占めることをさす。体積抵抗率が低い点で、銅、銀、金、および白金が好ましく、コストを考慮すると安価な銅がより好ましい。
【0014】
ここで、主成分が銅である場合を例に挙げて、銅ナノ粒子の製造方法を説明する。銅ナノ粒子の製造方法としては、ブレークダウン手法とビルドアップ手法との2つが一般的に知られている。
【0015】
ブレークダウン手法によるナノ粒子の製造においては、ボールミルなどの粉砕機によりバルクなどを粉砕してナノ粒子が生成される。このブレークダウン手法では、ナノオーダーの粒子を製造するのが困難である。一方、ビルドアップ手法によるナノ粒子の製造方法は、金属原子からナノ粒子を構成する手法である。ナノ粒子の製造にはビルドアップ的な手法が主に用いられている。本実施形態においても、ビルドアップ的な手法を用いて製造されたナノ粒子を用いることが望ましい。
【0016】
ビルドアップ手法によるナノ粒子の製造方法は、気相法、液相法、および固相法に大別される。気相法としては、CVD(Chemical Vapor Deposition)を中心とした化学的手法と、PVD(Physical Vapor Deposition)を中心とした物理的な手法がある。これらのうち、近年は、物理的な手法である「ガス中蒸発法」や「熱プラズマ法」などが、大量にナノ粒子を合成できる手法として開発されている。
【0017】
液相法は、可溶性銅塩化合物溶液中の銅イオンを、還元剤を用いて銅原子に還元する手法である。可溶性銅塩化合物溶液としては、例えば、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅、およびピロリン酸銅などが挙げられる。還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウムやヒドラジン等を用いることができる。この方法によれば、粒径分布の比較的狭い銅ナノ粒子が得られる。
【0018】
固相法とは、銅を含んだ有機金属錯体化合物を熱分解して、銅ナノ粒子を直接製造する方法である。銅を含んだ有機金属錯体化合物としては、例えばβケトカルボン酸銅塩、長鎖脂肪族カルボン酸銅塩等が挙げられる。こうした化合物は、例えば不活性ガス、アミン化合物などの触媒の存在下、100〜300℃程度に加熱して、熱分解することができる。
【0019】
本実施形態においては、いずれの手法で製造された銅ナノ粒子を用いてもよい。液相法の場合には、一般的に水系でナノ粒子が合成される。使用の際には、有機溶媒に置換される。
【0020】
銅ナノ粒子中には、銀、金、鉄、白金、パラジウム、スズ、ニッケル、コバルト、ルテニウム、およびロジウムからなる群から選択される少なくとも一種が含まれてもよい。こうした金属は、銅ナノ粒子の表面酸化を抑制する作用を有する。
【0021】
第1の金属ナノ粒子は、金属のみで構成することができる。金属のみから構成されるナノ粒子は、焼結後に導電性の高い膜が得られる点で有利である。この場合の金属は、単独でも二種以上の金属を含む合金であってもよい。酸素含有量が所定の範囲内であれば、第1の金属ナノ粒子は、金属酸化物の粒子とすることもできる。金属酸化物を含むナノ粒子は、粒子の分散性が向上するといった利点を有する。構成の異なる複数の第1の金属ナノ粒子を、組み合わせて使用してもよい。
【0022】
後述するように、第2の金属ナノ粒子も金属酸化物とすることができる。本実施形態の金属ナノ粒子分散組成物は、所定の基材上に成膜し、焼成して導電膜が形成される。過剰の酸素が金属ナノ粒子中に存在する場合には、金属ナノ粒子の焼結により導電膜を得る際の成膜性が損なわれる。金属ナノ粒子中における酸素の含有率が、第1の金属ナノ粒子と第2の金属ナノ粒子との合計質量の10%以下であれば、こうした不都合なしに導電膜を形成することができる。
【0023】
金属ナノ粒子中における酸素含有率は、例えば、次のような手法により測定することができる。まず、金属ナノ粒子分散組成物から金属含有粒子のみを分取して、真空乾燥機等により乾燥する。ここでの金属含有粒子は、表面に高分子化合物または低分子化合物を有している。その後、酸素濃度が100ppm以下の真空中で300〜500℃に加熱して、表面の高分子化合物等の脱酸素化を行ない金属ナノ粒子を得る。金属含有粒子の加熱は、アルゴンまたは窒素などの不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。最後に、赤外線吸収分析を行なって、金属ナノ粒子中における酸素含有量が求められる。
【0024】
第1の金属ナノ粒子の一次粒子径が大きすぎる場合には、第2の金属ナノ粒子と比重が違なることに起因して、組成物中での沈降が激しくなる。この場合には、安定した分散液が得られないおそれがある。ここで、金属ナノ粒子の「一次粒子径」とは「平均一次粒子径」をさし、例えば、動的光錯乱法を利用した粒度分布計測により求めることができる。
【0025】
一方、金属ナノ粒子の一次粒子径が小さすぎる場合には、組成物中での分散を維持するために多量の分散剤が必要とされる。多量の分散剤が組成物中に含まれると、焼成時における膜の体積収縮が大きくなって、良質な膜を得られないおそれがある。金、銀、白金といった貴金属が含まれる金属ナノ粒子は、一次粒子径が小さすぎると粒子の表面活性が増大して表面酸化が激しくなる。その結果、金属配線形成後における導電性の劣化が大きくなるおそれがある
一次粒子径が10nm以上100nm以下の範囲内の金属ナノ粒子であれば、こうした不都合は何等伴なうことはない。第1の金属ナノ粒子の最大粒径は、500nm以下であることが好ましく、200nm以下であることが特に好ましい。金属ナノ粒子の最大粒径とは、凝集粒子を含めた粒子径をさし、前述の粒度分布計測により求めることができる。
【0026】
一例によれば、第1の金属ナノ粒子において、一次粒子径が200nm以上の粒子の割合は、金属(または金属成分)の質量基準で5wt%以下が好ましく、1wt%以下がより好ましい。一次粒子径が200nm以上の粒子が多くなると、均一な抵抗の配線を形成するのが困難になり、ノズルの目詰まり等の不具合が生じたりするおそれがある。なお、分散径とは、金属ナノ粒子分散組成物中に存在している際の金属ナノ粒子の粒径を意味する。金属ナノ粒子の平均分散径は、例えば、動的光錯乱法を利用した粒度分布計測により求めることができる。
【0027】
上述したような第1の金属ナノ粒子は、重量平均分子量1000以上の高分子化合物を表面に有する。第1の金属ナノ粒子の表面における高分子化合物は、粒子を保護するとともに、分散安定性を高める分散剤として作用を有する。
【0028】
高分子化合物は、第1の金属ナノ粒子の表面への吸着に関与する官能基または原子を、複数有している。用いられる官能基または原子は、第1の金属ナノ粒子の表面に対して物理的又は化学的に親和性を有するか、あるいはイオン結合、配位結合などして金属表面との吸着が安定する官能基または原子である。
【0029】
高分子化合物は、こうした性質を有する官能基または原子を、その構造中に複数有している。第1の金属ナノ粒子の表面に吸着している官能基等の一部が脱離しても、高分子化合物中に存在する同様の官能基または原子、あるいは金属と相互作用する官能基または原子が、この第1の金属ナノ粒子の表面に吸着する。第1の金属ナノ粒子の表面には、高分子化合物が常に存在しているので、良好な分散安定性が示される。
【0030】
第1の金属ナノ粒子の表面に存在することができれば、高分子化合物は特に限定されない。非共有電子対を有する官能基を、繰り返し単位中に有するものが好ましい。例えば、窒素原子、酸素原子、またはイオウ原子を含む官能基が挙げられる。
【0031】
窒素原子を含む基として、例えば、アミノ基、アミド基、ニトリル基、イミン、オキシム、およびニトロ基などが挙げられる。また、酸素原子を含む基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシル基、ケトン、エステル、エーテル型のオキシ基(−O−)が挙げられる。また、イオウ原子を含む基としては、例えば、スルファニル基(−SH)、およびスルフィド型のスルファンジイル基(−S−)が挙げられる。高分子化合物中は、こうした官能基を単独で含むことができる。あるいは、複数種の異なる官能基が高分子化合物中に含まれてもよい。
【0032】
具体的には、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンなどのポリビニル系;ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、およびポリマレイン酸などのポリアクリル酸類;ポリアクリル酸類のナトリウム塩;ポリアクリル酸類のカリウム塩;ポリアクリル酸類のアンモニウム塩;デンプン、デキストリン、寒天、ゼラチン、アラビアゴム、アルギン酸、カゼイン、およびカゼイン酸ソーダ等の天然高分子類;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロース等のセルロース類などが挙げられる。
【0033】
さらに、アミノ基を有する窒素原子含有高分子化合物を用いることもできる。例えば、ポリオキシエチレンポリアミンなどのポリエーテルポリアミン、ポリアリルアミンなどである。
【0034】
上述したような高分子化合物においては、少なくとも一部の繰り返し単位中に、非共有電子対を有する原子を含む基が存在すればよい。高分子化合物中には、こうした基を含まない繰り返し単位が含まれていても問題ない。すなわち、高分子化合物は、コポリマーとすることができる。
【0035】
この場合のコポリマーは、ランダムコポリマー、交互共重合体、ブロックコポリマー、またはくし型コポリマーなどであってもよい。ブロックコポリマーの構造は、特に限定されず、ジブロック構造、またはトリブロック構造などであってもよい。ブロックコポリマーの構造は、金属ナノ粒子表面と配位する官能基、および分散させる溶媒等に応じて適宜選択することができる。
【0036】
高分子化合物は、常法により合成することができる。あるいは、高分子分散剤として市販されている化合物を用いてもよい。市販の高分子分散剤の具体例としては、例えば、ソルスパース20000、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000、およびソルスパース55000などのソルスパースシリーズ(アビシア(株)製)などが挙げられる。さらに、アジスパーPB711、アジスパーPAl11、アジスパーPB811、アジスパーPB821、およびアジスパーPW911などのアジスパーシリーズ(味の素(株)製)なども高分子分散剤として好適である。
【0037】
上述したような高分子化合物の重量平均分子量は、1000以上に規定される。第1の金属ナノ粒子の分散性を向上させるためである。高分子化合物の重量平均分子量が1000未満の場合には、後述する第2の金属ナノ粒子との関係で粒子間の凝集が起こり、保存安定性が損なわれる。高分子化合物の重量平均分子量は、3000以上であることが好ましい。
【0038】
高分子化合物の重量平均分子量が大きすぎる場合には、隣接する粒子同士が架橋されて凝集が発生するおそれがある。一般的には、高分子化合物の重量平均分子量の上限は、100000程度である。高分子化合物の重量平均分子量は、3000〜100000の範囲内であることが最も好ましい。
【0039】
高分子化合物の重量平均分子量は、例えば次のような手法により求めることができる。まず、遠心分離機などにより金属ナノ粒子分散組成物から第1の粒子を選択的に取り出す。この第1の粒子は、高分子化合物を表面に有する第1の金属ナノ粒子である。ここで、第2の粒子が混入していても差し支えない。次いで、極性溶媒中で還流を行なって、粒子表面の高分子化合物からなる有機化合物を抽出する。ここで、Cuなどの酸に易溶な金属であれば、その酸に溶解することによって有機化合物を容易に抽出できる。得られた有機化合物をテトラヒドロフラン中に再溶解させ、島津製作所製10Aシリーズなどのゲル浸透クロマトグラフィーにかけて、予め作製された分子量公知のポリスチレン検量線の換算から重量平均分子量が求められる。
【0040】
高分子化合物を表面に有する第1の金属ナノ粒子からなる第1の粒子は、任意の方法により製造することができる。例えば、湿式法により第1の粒子を製造する場合には、有機金属化合物および還元剤を含有する溶液に、所望の高分子化合物を予め加えておけばよい。
【0041】
具体的には、純水の収容されたフラスコ中に所望の高分子化合物を加えて、水溶液を調製する。得られた水溶液を攪拌しつつ、金属硝酸塩、酢酸塩などの金属塩水溶液を加えて、所定温度に昇温する。その後、還元剤を加える攪拌を続けることによって、金属ナノ粒子水溶液が得られる。引き続いて洗浄操作後、アルコール投入して粒子を凝集させ、これを回収して乾燥させる。乾燥後の粒子を所望の有機溶剤に分散して、金属ナノ粒子分散液が得られる。
【0042】
また、物理的な気相法により第1の粒子を製造する場合には、ナノ粒子が合成される過程で低分子量の有機化合物の蒸気と接触させる。ここでの「低分子量」とは、分子量100〜500程度をさす。
【0043】
こうした蒸気と接触させることによって、ナノ粒子同士の凝集を防止する有機化合物での被覆を行ないつつ、ナノ粒子を製造することができる。このナノ粒子を、所望の高分子化合物が溶解した溶液中に浸漬することによって、低分子量の有機化合物被覆の上に、さらに高分子化合物が被覆されて、第1の粒子が得られる。
【0044】
銅を主成分としたナノ粒子を作製する場合、貴な金属元素と共析させたり、メタンガスなどの導入でカーボン被覆することによって、抗酸化処理を行なうこともある。抗酸化処理された銅ナノ粒子の表面に高分子化合物を被覆させてもよい。
【0045】
本実施形態の金属ナノ粒子分散組成物においては、上述したような第1の粒子とともに第2の粒子が含有される。第2の粒子は、重量平均分子量500以下の低分子化合物を表面に有する第2の金属ナノ粒子であり、この低分子化合物の少なくとも一部は一級アミンである。
【0046】
第2の金属ナノ粒子の表面における低分子化合物は、金属ナノ粒子分散組成物中においては、この第2の金属ナノ粒子を保護して分散性を向上させる。金属ナノ粒子分散組成物を含む膜が焼成された際には、低分子化合物は第2の金属ナノ粒子の表面から容易に脱離して、膜から揮発する。低分子化合物は、第2の金属ナノ粒子の表面を被覆することができるが、必ずしも第2の金属ナノ粒子それぞれについて、その表面全体を緻密に覆っている必要はない。第2の金属ナノ粒子全体として、表面に低分子化合物が存在すれば所望の効果を得ることができる。こうした低分子化合物については、後述する。
【0047】
第2の金属ナノ粒子の主成分は、第1の金属ナノ粒子と同様、例えば、銅、銀、金、鉄、白金、パラジウム、スズ、ニッケル、コバルト、ルテニウム、およびロジウムからなる群から選択される金属とすることができる。上述したように、第2の金属ナノ粒子の表面における低分子化合物は、焼成処理によって第2の金属ナノ粒子の表面から容易に脱離する。酸化雰囲気中に曝されるので、第2の金属ナノ粒子の主成分は、酸化還元電位の貴な金属であることが好ましい。具体的には、銀、金、パラジウム、および白金からなる群から選択される貴金属が挙げられる。ナノ粒子化した際のサイズ効果による低融点化の効果が大きいことから、第2の金属ナノ粒子の主成分として銀が特に好ましい。
【0048】
第1の金属ナノ粒子と同様、第2の金属ナノ粒子も金属のみで構成することができる。この場合の金属は、単独でも二種以上の金属を含む合金であってもよい。上述したような酸素含有量の条件を満たしていれば、第2の金属ナノ粒子は金属酸化物粒子とすることもできる。さらに、構成の異なる複数の第2の金属ナノ粒子を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
第1の金属ナノ粒子の場合と同様の理由から、第2の金属ナノ粒子の一次粒子径は10nm以上100nm以下の範囲内とすることが望まれる。第2の金属ナノ粒子の最大粒径についても、第1の金属ナノ粒子の場合と同様に500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。第1の金属ナノ粒子の場合と同様の理由から、一例によれば、第2の金属ナノ粒子において、一次粒子径が200nm以上の粒子の割合は、金属または金属成分の質量基準で5wt%以下が好ましく、1wt%以下がより好ましい。
【0050】
上述したような第2の金属ナノ粒子は、分子量500以下の低分子化合物を表面に有する。分子量が500を超える化合物は沸点が高い。焼成処理によってナノ粒子表面から脱離したとしても膜中に残存し、その結果、膜の電気特性に悪影響を及ぼすおそれがある。こうした不都合を避けるために、第2の金属ナノ粒子の表面の低分子化合物の分子量は500以下に規定される。
【0051】
分子量の小さすぎる低分子化合物は、熱的に不安定であり、蒸気圧も高い。このような化合物は、金属ナノ粒子表面と脱離しやすく、結果としてナノ粒子同士の凝集といった不具合の原因となる。低分子化合物の分子量は、60以上程度とすることが望まれる。したがって、好ましい低分子化合物の分子量は、60〜500であり、より好ましくは100〜300である。
【0052】
低分子化合物の分子量は、例えば次のような手法により求めることができる。まず、遠心分離機などにより金属ナノ粒子分散組成物から第2の粒子を選択的に取り出す。この第2の粒子は、低分子化合物を表面に有する第2の金属ナノ粒子である。ここで、第1の粒子が混入していても差し支えない。第1のナノ粒子がCuなどの酸に易溶な金属であれば、その酸に溶解することで、容易に高分子化合物を分離・回収することができる。
【0053】
次いで、極性溶媒中での還流を行なって、粒子表面の低分子化合物からなる有機化合物を抽出する。得られた有機化合物を公知の質量スペクトル分析や核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)解析を行なうことで低分子化合物の分子量や構造が得られる。
【0054】
有機化合物の抽出操作において、高分子化合物と低分子化合物との分離が困難な場合であっても、上記操作で有機化合物を抽出後、公知の高速液体クロマトグラフィー(HPLC:High performance liquid chromatography)で分取操作を行なえば、低分子有機化合物の抽出は可能である。
【0055】
低分子化合物は、第2の金属ナノ粒子と相互作用する官能基または原子を有する。このような原子としては、非共有電子対を有する酸素、窒素、および硫黄などが挙げられる。また、それらを含む官能基としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エーテル型のオキシ基、チオール基、スルフィド基(−S−)などの官能基が挙げられる。用いられる低分子化合物は、こうした官能基を単独でまたは二種以上組み合わせて有することができる。
【0056】
低分子化合物の少なくとも一部は、一級アミンである。少なくとも一部が一級アミンである低分子化合物は、第2の金属ナノ粒子の表面に強固に配位することから、金属ナノ粒子分散組成物中における第2の金属ナノ粒子の分散安定性が極めて良好となる。一級アミンは、二級アミンおよび三級アミンと比較して、金属に対する結合能がより高いことが本発明者らによって見出された。
【0057】
一級アミンとしては、アルキルアミンを挙げることができる。沸点の低すぎるアルキルアミンは、熱的に不安定であり蒸気圧も高い。沸点の低すぎるアルキルアミンは、第2の金属ナノ粒子表面に配位しても脱離しやすく、ナノ粒子同士の凝集を招くおそれがある。50℃以上の沸点を有するアルキルアミンであれば、こうした不都合を回避することができる。アルキルアミンの沸点は、100℃以上であることがより好ましい。
【0058】
第2の金属ナノ粒子の表面における低分子化合物は、焼成処理後には、第2の金属ナノ粒子の表面から離脱して、最終的に分散媒とともに蒸発することが求められる。アルキルアミンの沸点が250℃以下であれば、これが容易に行なわれる。
【0059】
上述したような沸点を考慮すると、アルキルアミンにおけるアルキル基の炭素数は、4〜12であることが好ましい。こうしたアルキル鎖の末端に、アミノ基が結合したアルキルアミンが好ましく用いられる。具体的には、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、およびオレイルアミンなどが挙げられる。
【0060】
一級アミンが含まれていれば、二級アミンおよび三級アミンがさらに含まれていてもよい。また、1,2−ジアミン、および1,3−ジアミンなどのような近接する2つ以上のアミノ基が結合に関与する化合物も利用可能である。また、ポリオキシアルキレンアミン型のエーテル型のオキシ基を鎖中に含む、鎖状のアミン化合物を用いることもできる。
【0061】
アルキル鎖部分は、飽和炭化水素に限定されず、不飽和炭化水素、脂環式炭化水素、および芳香族炭化水素のいずれの炭化水素を用いることもできる。また、末端のアミノ基以外に、親水性の末端基が存在していてもよい。例えば、水酸基を有するヒドロキシアミン、例えば、エタノールアミンなどを利用することもできる。
【0062】
低分子化合物としては、例えばカルボキシル基含有化合物が挙げられ、末端にカルボン酸を有する化合物を利用することができる。カルボン酸としては、例えば、モノカルボン酸、ポリカルボン酸、およびオキシカルボン酸などが挙げられる。
【0063】
モノカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプリル酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、およびリグノセリン酸などの炭素数1〜24の脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。
【0064】
また、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、エライジン酸、アラキドン酸、エルカ酸、ネルボン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、およびドコサヘキサエン酸などの炭素数4〜24の不飽和脂肪族カルボン酸を用いてもよい。さらには、安息香酸、およびナフトエ酸などの炭素数7〜12の芳香族モノカルボン酸などを用いることもできる。
【0065】
ポリカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、およびセバシン酸などの炭素数2〜10の脂肪族ポリカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ソルビン酸、およびテトラヒドロフタル酸などの炭素数4〜14の脂肪族不飽和ポリカルボン酸;フタル酸、およびトリメリット酸などの芳香族ポリカルボン酸などが挙げられる。
【0066】
オキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、乳酸、オキシ酪酸、およびグリセリン酸などの脂肪族ヒドロキシモノカルボン酸;サリチル酸、オキシ安息香酸、および没食子酸などの芳香族ヒドロキシモノカルボン酸;酒石酸、クエン酸、およびリンゴ酸などのヒドロキシポリカルボン酸などが挙げられる。
【0067】
特に、分子内に1つの遊離のカルボキシル基を有する比較的低分子の飽和脂肪族カルボン酸が好ましい。こうしたカルボン酸は、金属ナノ粒子表面と配位し、室温環境で組成物中に存在している際には安定である。一方、所定の温度で焼成されると、こうしたカルボン酸は第2の金属ナノ粒子から脱離または消失して、導電膜の成膜性および導電性の向上につながる。
【0068】
具体的には、例えば、吉草酸、カプリル酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、およびミリスチン酸などの炭素数5〜13のアルカン酸が挙げられる。
【0069】
ヒドロキシ基を有する化合物の具体例として、アルカンジオールを挙げることができる。一例として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、およびポリエチレングリコールなどのグリコール類などを挙げることができる。
【0070】
アルカンジオールもまた、第2の金属ナノ粒子の表面と配位し、室温環境で組成物として存在している際には安定であって、所定の温度に焼成されると第2の金属ナノ粒子から脱離または消失することが望ましい。これを考慮すると、アルカンジオールの沸点は50℃以上250℃以下であることが好ましく、100℃以上150℃以下であることがより好ましい。例えば、1,2−ジオール型などの2つ以上のヒドロキシ基が結合に関与する化合物であれば、この条件を満たし、より好適である。
【0071】
チオール基を有する化合物としては、アルカンチオールを挙げることができる。好適に用いられるアルカンチオールも同様に、第2の金属ナノ粒子表面と配位し、室温環境で組成物として存在している際には安定であって、所定の温度に焼成されると第2の金属ナノ粒子から脱離または消失することが望ましい。
【0072】
これを考慮すると、アルカンチオールの沸点は50℃以上250℃以下であることが好ましく、100℃以上150℃以下であることがより好ましい。例えば、アルカンチオールとしては、炭素数4〜18のアルキル基と、そのアルキル鎖の末端に結合したチオール基とを有するものが用いられる。また、1,2−ジチオール型などの2つ以上のチオール基が結合に関与する化合物も利用可能である。
【0073】
低分子化合物を表面に有する第2の金属ナノ粒子からなる第2の粒子は、任意の方法により製造することができる。例えば、湿式法により第2の粒子を製造する場合には、有機金属化合物および還元剤を含んだ溶液に、所望の低分子化合物を予め加えておけばよい。また、物理的な気相法により第2の粒子を製造する場合には、ナノ粒子が合成される過程で所望の低分子有機化合物の蒸気と接触させる。いずれの手法を採用した場合も、所定の低分子化合物を表面に有する第2の金属ナノ粒子からなる第2の粒子を容易に製造することができる。
【0074】
第2の金属ナノ粒子の表面に存在する低分子化合物は、公知の熱分析および質量スペクトル分析によって容易に同定することができる。高分子化合物が被覆された第1の金属ナノ粒子と混合された組成物の場合でも、低分子化合物を同定することができる。まず、上述したような方法により高分子化合物を同定し、それらのフラグメントを排除する。これによって、低分子化合物が同定される。
【0075】
ここで、有機金属化合物として脂肪酸金属化合物を用いて、湿式法により第2の粒子を製造する方法について説明する。例えば、低分子化合物を表面に有する銀ナノ粒子を製造する場合には、まず、脂肪酸ナトリウムを蒸留水に溶解する。ここに、別途用意した当量の硝酸銀水溶液を滴下すれば、粉末状の脂肪酸銀が容易に得られる。脂肪酸ナトリウムとしては、例えばラウリル酸ナトリウムが挙げられる。得られた粉末をろ別し、水洗して余分なラウリン酸ナトリウムおよび副生成物の硝酸ナトリウムを取り除く。これを乾燥して、目的の第2の粒子が得られる。
【0076】
脂肪酸には、飽和炭化水素、不飽和炭化水素、または環状炭化水素のいずれが含まれていてもよい。重量平均分子量が500以下であれば、任意の脂肪酸を用いることができる。炭化水素基における炭素数が増加するにしたがって、蒸留水への溶解性が低下する傾向がある。この場合には、アルコールを添加することなどによって、適宜調整すれば問題ない。
【0077】
得られた脂肪酸銀および0.5〜1.5当量に相当するアルキルアミンを、必要に応じ還元剤とともに有機溶媒中に加える。還元剤としては、例えば、蟻酸およびヒドラジンなどが挙げられる。有機溶媒としては、例えばトルエンを用いることができる。アルキルアミンの沸点で反応させることによって、目的の第2の粒子が生成する。
【0078】
得られる第2の粒子は、一般的には、重量平均分子量500以下の脂肪酸とアルキルアミンとの2種類を表面に有する第2の金属ナノ粒子である。すなわち、少なくとも一部が一級アミンである低分子化合物を表面に有する金属ナノ粒子である。
【0079】
用いるアミンは、上述したように沸点が250℃以下の一級アミンを少なくとも含有していればよい。反応性および収率に応じて、複数のアルキルアミンを使用することができる。
得られた銀ナノ粒子分散溶液にメタノールを加えると、表面に低分子化合物を有する銀ナノ粒子を凝集沈殿させることができる。こうして、ナノ粒子のみを取り出し、その後、所望の溶媒に分散させて分散組成物を得ることが可能となる。
【0080】
なお、これらの方法は例示に過ぎなく、これらに限定されるものではない。少なくとも一部が一級アミンである重量平均分子量500以下の低分子化合物を表面に有する第2の金属ナノ粒子からなる第2の粒子が得られればよい。これが達成できる任意の方法を用いることができる。
【0081】
低分子化合物中における一級アミンの割合は、製造条件等によって任意に制御することができ、特に規定されない。必ずしも全ての第2の金属ナノ粒子において、表面の低分子化合物の少なくとも一部が一級アミンである必要はない。表面に低分子化合物を有する第2の金属ナノ粒子全体として、この低分子化合物の少なくとも一部が一級アミンであればよい。場合によっては、表面の低分子化合物の全体が一級アミンである第2の金属ナノ粒子が存在することもある。また、一級アミンを含まない低分子化合物を表面に有する第2の金属ナノ粒子が含まれることもある。
【0082】
一級アミンの存在は、例えば次のような手法により確認することができる。具体的には、前述の通り、金属ナノ粒子組成物から、遠心分離操作などで金属ナノ粒子成分を分取する。次いで、極性溶媒中での還流を行なって、粒子表面の低分子化合物からなる有機化合物を抽出する。
【0083】
得られた有機化合物を公知のIR解析やNMR解析を行なうことで、1級アミンが得られる。低分子化合物中における一級アミンの割合を求めるには、例えば、前述の方法で得られたNMR解析などのピークから、1級アミンとその他有機化合物との組成比を比較するといった手法を採用すればよい。
【0084】
本実施形態の金属ナノ粒子分散組成物においては、金属ナノ粒子が安定して有機溶媒中に分散される。有機溶媒の炭素数が大きすぎる場合には、金属ナノ粒子分散組成物の粘度が上昇するおそれがある。また、焼成後の膜中に炭素が残留しやすくなるといった問題が生じる。炭素の残留は、得られた焼結膜の導電性の低下や膜中の欠損発生といった不都合を引き起こす。有機溶媒の炭素数が18以下であれば、こうした問題を回避することができる。
【0085】
炭素数が小さすぎる有機溶媒は、容易に揮発するので乾燥が速すぎる。本実施形態の金属ナノ分散組成物をインクジェット印刷に適用する場合には、有機溶媒が乾燥するとノズルの目詰まり等の不具合の原因となる。有機溶媒の炭素数が8以上であれば、適切な速度で乾燥する。
【0086】
これらを考慮すると、本実施形態においては、次のような有機溶媒が好ましい。具体的には、ヘプタン、オクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、およびトリメチルペンタンなどの長鎖アルカン;シクロオクタンなどの環状アルカン;トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、およびドデシルベンゼンなどの芳香族炭化水素;ヘプタノール、オクタノール、デカノール、シクロヘキサノール、およびテルピネオールなどのアルコール;ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、およびジプロピレングリコールメチルエーテルなどのエチレングリコール系エーテル;こうしたエチレングリコール系エーテルのアセテート化合物などである。
【0087】
これらの溶媒は、単独でも二種以上を組み合わせて用いることもできる。例えば、長鎖アルカンの混合物であるミネラルスピリットであってもよい。
【0088】
本実施形態における金属ナノ粒子分散組成物は、例えば、第1の粒子と第2の粒子を用意し、所定の有機溶媒にこれらを分散させて製造することができる。あるいは、第1の粒子が所定の有機溶媒に分散された分散液と、第2の粒子が所定の有機溶媒に分散された分散液とを予め調製しておく。これら2つの分散液を混合することによって、金属ナノ粒子分散組成物を製造してもよい。
【0089】
金属ナノ粒子分散組成物中における金属含有粒子の濃度が低すぎる場合には、印刷されたパターンにおける金属含有粒子の密度が不足して、導電性が不十分となる。一方、金属ナノ粒子分散組成物中における金属含有粒子の濃度が高すぎる場合には、組成物の粘度が上昇するなどの不具体が生じるおそれがある。
【0090】
金属ナノ粒子分散組成物中における金属含有粒子の濃度が1〜90wt%であれば、こうした不都合を回避することができる。特に、金属含有粒子の濃度が4〜70wt%の場合には、インクジェットにて印刷する場合に、液滴の安定性や着弾時の乾燥性といった点でも好ましい。
【0091】
本実施形態の金属ナノ粒子分散組成物においては、高分子化合物を表面に有する第1の金属ナノ粒子からなる第1の粒子は、低分子化合物を表面に有する第2の金属ナノ粒子からなる第2の粒子より多量に含有されることが望まれる。第1の粒子と同程度の量で、第2の粒子が含有されると、金属ナノ粒子間の凝集が進みやすくなる。これは、ナノ粒子に対する低分子化合物の被覆安定性が、温度やその他流動など多少のエネルギーを与えるだけで低下してしまうためである。第2の粒子の量が増えると、この傾向はより顕著となり、結果として、組成物中における金属ナノ粒子の分散安定性が保たれなくなるおそれがある。
【0092】
例えば、第2の粒子の質量(w2)が、第1の粒子の質量(w1)の0.1〜30%程度となるように、第1の粒子と第2の粒子とを配合することが好ましい。
【0093】
なお、第1の金属ナノ粒子表面における高分子化合物の割合や、第2の金属ナノ粒子表面における低分子化合物の割合は、常法により測定することができる。例えば、熱分析が挙げられ、より具体的には熱質量/示差熱同時分析などである。例えば、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気、あるいは真空中で250℃までの蒸散したガスを分析することによって、こうした化合物の割合を測定することができる。
【0094】
上述した成分に加えて、本実施形態の金属ナノ粒子分散組成物には、界面活性剤、および粘度調整剤等を適宜添加しても構わない。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、およびノニオン系の界面活性剤いずれを使用してもよい。金属配線が形成される回路基板との濡れ性を考慮して、適切に選択して添加する。粘度調整剤としては、例えばポリエチレングリコール等のポリマーが挙げられる。本実施形態の金属ナノ粒子分散組成物を、インクジェットインクとして用いる際に、インクジェット吐出可能な粘度範囲に調整することができる。
【0095】
本実施形態の金属ナノ粒子分散組成物は、上述の成分を混合して製造することができる。金属ナノ粒子を有機溶媒中に分散させるには、例えば、ビーズミル、ロッキングミルやホモジナイザー等の機械的な衝撃または剪断によって分散させるといった手法を採用することができる。また、超音波や高圧ホモジナイザー等のキャビテーション力によって分散させる手法を用いてもよい。なかでも、超音波装置、特に超音波ホモジナイザーによる分散手法が特に好適である。これは、ミルのような機械的な衝撃または剪断に比べ、不純物の混入が少ないためである。
【0096】
超音波を印加して金属ナノ粒子を分散する場合、周波数は2〜100kHzの範囲であることが好ましい。周波数の範囲は、2〜50kHzの範囲であることがより好ましく、10〜40kHzの範囲であることが特に好ましい。超音波は、連続的に照射することができる。長時間にわたって連続的に超音波が照射されると、粒子が加熱されて分散性に悪影響が及ぼされるおそれがある。したがって、照射時間が長くなる場合には、超音波の照射は不連続とすることが好ましい。また、分散液を冷却することによって、長時間の連続照射に起因する加熱を抑制することができる。
【0097】
超音波照射装置は、10kHz以上の超音波を印加できる機能を有することが好ましい。例えば、超音波ホモジナイザーおよび超音波洗浄機などが挙げられる。超音波照射中に分散液の温度が上昇すると、ナノ粒子の熱凝集が起こる。これを避けるために、液温は0〜100℃とすることが好ましく、5〜60℃がより好ましい。温度の制御は、分散液の温度を制御することによって行なうことができる。あるいは、分散液を温度制御する温度調整層の温度を制御することによって、温度を制御してもよい。
【0098】
本実施形態の金属ナノ粒子分散組成物は、導電膜の形成に好適に用いられる。基材としては、例えば、シリコン;Cu,Au,およびAg等の金属基板;アルミナおよびシリカガラス等のセラミック;エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、およびPET樹脂などのプラスチック等を用いることができる。こうした基材の上に、本実施形態の金属ナノ粒子分散組成物を、例えばスピンコート法により塗布して塗膜を形成する。
【0099】
目的とされる導電膜が所定のパターンの金属配線の場合には、インクジェット法などの印刷法を利用することができる。すでに説明したように、本実施形態の金属ナノ粒子分散組成物は、金属ナノ粒子が安定に分散されているので、インクジェット法にも適した特性を有している。
【0100】
金属ナノ粒子分散組成物の塗膜は、例えば溶媒として使用している有機溶媒の沸点付近の温度で1〜10分程度乾燥させて有機溶媒を除去して、金属ナノ粒子分散膜とした後、焼成処理を施す。例えば1ppm〜30%酸素を含有した窒素雰囲気中、150〜250℃で1〜30分程度の焼成後、少なくとも1%の水素を含有した窒素雰囲気中、200〜300℃で1〜60分程度の焼成処理を施すことによって、体積抵抗率が十分に低く良好な導電性を有する導電膜が得られる。
【実施例】
【0101】
以下に、金属ナノ粒子分散組成物の具体例を示す。
【0102】
(実施例1)
まず、高分子化合物を表面に有する第1の金属ナノ粒子からなる第1の粒子の分散液を製造した。
【0103】
銀ナノ粒子として、熱プラズマ法により作製された銀ナノ粒子(日清エンジニアリング社製)を50g準備した。この銀ナノ粒子は、SEM観察による一次粒子径が約30nmであり、BET比表面積は45m2/gであった。
【0104】
高分子化合物として、ポリビニルピロリドン(重量平均分子量50000)を用意した。この高分子化合物2.5gと、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート85gと、ウンデカン10gとを混合した。得られた混合物をローリングミルにて簡単に攪拌した後、超音波ホモジナイザーにより分散を行なった。超音波の条件は、周波数20kHz、出力約3Wとした。
【0105】
三本ロールミルを通過させた後、同様の条件で超音波ホモジナイザー処理を再度施して、ポリビニルピロリドンを表面に有する銀ナノ粒子の分散液が得られた。これは、高分子化合物を表面に有する第1の金属ナノ粒子からなる第1の粒子の分散液である。また、得られた分散液を動的光散乱法のよる粒度分布計測(マルバーン社製 ゼータナノサイザー)により評価したところ、平均粒径として38nm、最大粒径は100nm以下であった。
【0106】
一方、低分子化合物を表面に有する第2の金属ナノ粒子からなる第2の粒子は、次のような手法により製造した。ラウリン酸ナトリウムと硝酸銀とを等量混合し、イオン交換によりラウリン酸銀を合成した。得られたラウリン酸銀(30g)と一級アミンとしてのヘキシルアミン(9.9g)とを、キシレン(200mL)に溶解させた。なお、ヘキシルアミンの沸点は、約131℃である。
【0107】
次いで、反応溶液を130℃まで昇温して5時間保持した。反応溶液の温度を60℃に低下させたところ、銀ナノ粒子の生成が確認された。メタノール(500mL)を加えて銀ナノ粒子を凝集させた後、吸引ろ過により回収した。得られた銀ナノ粒子の収率は73%であった。また、この銀ナノ粒子のSEM観察による一次粒子径は、約20nmであった。また、得られた分散液を動的光散乱法のよる粒度分布計測(マルバーン社製 ゼータナノサイザー)により評価したところ、平均粒径として45nm、最大粒径は100nm以下であった。
【0108】
こうして、ラウリン酸を表面に有する銀ナノ粒子が得られた。これは、低分子化合物を表面に有する第2の金属ナノ粒子からなる第2の粒子である。また、低分子化合物の少なくとも一部は、一級アミンとしてのヘキシルアミンであることが赤外分光(IR:InfraRed)分析により確認された。熱天秤による分解温度からナノ粒子を被覆している低分子化合物の存在量を測定したところ、このヘキシルアミンは、銀ナノ粒子の表面における低分子化合物の40%程度を占めていた。
【0109】
前述のように得られた第1の粒子の分散液20gと、第2の粒子1gとを混合した。混合物をローリングミルにて簡単に攪拌後、超音波分散機により分散を行なって、実施例1の金属ナノ粒子分散組成物を作製した。
【0110】
分散直後には、金属ナノ粒子分散組成物中における金属ナノ粒子の平均粒径(平均分散径)を前述の光散乱法によって計測した。その結果、分散直後の金属ナノ粒子分散組成物における金属ナノ粒子の平均粒径は、43nmであった。
【0111】
金属ナノ粒子分散組成物は、65℃の雰囲気中に放置して粒子の沈降の有無を観察した。9日経過後、金属ナノ粒子分散組成物における金属ナノ粒子の平均粒径(平均分散径)を分散直後と同様に計測したところ、60nmであった。また、65℃で9日放置後における金属ナノ粒子の最大粒径は、150nm未満であることが確認された。
【0112】
次いで、得られた金属ナノ粒子分散組成物を用いて導電膜を形成し、その特性を調べた。ポリイミド膜が設けられたシリコンウェハを用意し、前述の金属ナノ粒子分散組成物を1000rpm/60秒でスピンコート法により塗布した。金属ナノ粒子分散組成物の塗膜は、150℃/60秒で昇温して乾燥させ、金属ナノ粒子分散膜を作製した。
【0113】
得られた金属ナノ粒子分散膜を、フォーミングガス(窒素/酸素=97/3)中、200℃/60分加熱した。さらに、水素気流中、250℃/30分の焼成処理を施して導電膜を形成した。得られた導電膜を所定の寸法(縦1cm×横2cm)に切断し、四端子法により体積抵抗率を測定したところ、5.9μΩ・cmであった。
【0114】
(実施例2)
第1の金属ナノ粒子として、銅ナノ粒子(日清エンジニアリング社製)を準備した。この銅ナノ粒子は、SEM観察による一次粒子径が約50nmであり、BET比表面積は16m2/gであった。
【0115】
高分子化合物としては、実施例1と同様のポリビニルピロリドン(重量平均分子量50000)を用意した。この高分子化合物の量を1gに変更した以外は実施例1と同様にして、高分子化合物を表面に有する第1の金属ナノ粒子からなる第1の粒子の分散液を得た。
こうして得られた第1の粒子の分散液を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例2の金属ナノ粒子分散組成物を作製した。
【0116】
(実施例3)
高分子化合物として、ポリエチレングリコール(重量平均分子量1500)を準備した。この高分子化合物を用いた以外は実施例2と同様にして、高分子化合物を表面に有する第1の金属ナノ粒子からなる第1の粒子の分散液を得た。
こうして得られた第1の粒子の分散液を用いた以外は実施例2と同様にして、実施例3の金属ナノ粒子分散組成物を作製した。
【0117】
(実施例4)
高分子化合物として、ゼラチン化合物(重量平均分子量100000)を準備した。この高分子化合物を用いた以外は実施例2と同様にして、高分子化合物を表面に有する第1の金属ナノ粒子からなる第1の粒子の分散液を得た。
こうして得られた第1の粒子の分散液を用いた以外は実施例2と同様にして、実施例4の金属ナノ粒子分散組成物を作製した。
【0118】
(実施例5)
第1の金属ナノ粒子として、5wt%のニッケルを含有した銅ナノ粒子(日清エンジニアリング社製)を準備した。この金属ナノ粒子を用いた以外は実施例1と同様にして、高分子化合物を表面に有する第1の金属ナノ粒子からなる第1の粒子の分散液を得た。
こうして得られた第1の粒子の分散液を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例5の金属ナノ粒子分散組成物を作製した。
【0119】
(実施例6)
一級アミンとしてのヘキシルアミンをヘキサデシルアミンに変更した以外は、実施例1と同様の手法により、低分子化合物を表面に有する第2の金属ナノ粒子からなる第2の粒子を得た。なお、ヘキサデシルアミンの沸点は、約330℃である。この際の銀ナノ粒子の収率は、48%であった。また、低分子化合物の少なくとも一部は、一級アミンとしてのヘキサデシルアミンであることが確認された。このヘキシルアミンは、銀ナノ粒子の表面における低分子化合物の45%程度を占めていた。
こうして得られた第2の粒子を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例6の金属ナノ粒子分散組成物を作製した。
【0120】
(比較例1)
低分子化合物を表面に有する第2の金属ナノ粒子からなる第2の粒子を用いない以外は実施例1と同様にして、比較例1の金属ナノ粒子分散組成物を作製した。本比較例の金属ナノ粒子分散組成物に含有されている金属ナノ粒子は、高分子化合物としてのポリビニルピロリドンを表面に有する銀ナノ粒子(第1の粒子)のみである。
【0121】
(比較例2)
低分子化合物を表面に有する第2の金属ナノ粒子からなる第2の粒子を用いない以外は実施例2と同様にして、比較例2の金属ナノ粒子分散組成物を作製した。本比較例の金属ナノ粒子分散組成物に含有されている金属ナノ粒子は、高分子化合物としてのポリビニルピロリドンを表面に有する銅ナノ粒子(第1の粒子)のみである。
【0122】
(比較例3)
高分子化合物を表面に有する第1の金属ナノ粒子からなる第1の粒子の分散液を用いない以外は、実施例6と同様にして、比較例3の金属ナノ粒子分散組成物を作製した。具体的には、実施例6と同様の低分子化合物を表面に有する銀ナノ粒子5gをトルエン10mlに加えた。ローリングミルを用いて、これを簡単に攪拌した後、超音波ホモジナイザーにより分散を行なって分散液を得た。超音波の条件は、周波数20kHz、出力約3Wとした。
【0123】
本比較例の金属ナノ粒子分散組成物においては、含有されている金属ナノ粒子は、一級アミンとしてのヘキサデシルアミンと低分子化合物としてのラウリン酸とを表面に有する銀ナノ粒子(第2の粒子)のみである。
【0124】
(比較例4)
ラウリン酸ナトリウムと硝酸銀とを当量混合し、イオン交換によりラウリン酸銀を合成した。得られたラウリン酸銀(30g)を1−オクタノール(300mL)中に加え、窒素雰囲気下180℃まで昇温して5時間保持した。反応溶液の温度を60℃に低下させたところ、銀ナノ粒子の生成が確認された。メタノール(500mL)を加えて銀ナノ粒子を凝集させ、吸引ろ過により回収した。
【0125】
この銀ナノ粒子の収率は、33%であった。また、この銀ナノ粒子のSEM観察による一次粒径は、約15nmであった。こうして、低分子化合物としてのラウリン酸を表面に有する銀ナノ粒子が得られた。ここでの低分子化合物中には、一級アミンは含まれていない。
【0126】
作製された銀ナノ粒子を第2の粒子として用いた以外は実施例2と同様にして、比較例4の金属ナノ粒子分散組成物を作製した。
【0127】
実施例2〜6、および比較例1〜4の金属ナノ粒子分散組成物について、実施例1と同様にして、金属ナノ粒子の平均粒径および最大粒径を計測した。さらに、実施例1と同様の手法により導電膜を形成して、体積抵抗率を測定した。得られた結果を、実施例1の結果とともに下記表1および2にまとめる。
【表1】

【0128】
【表2】

【0129】
上記表1に示されるように、実施例1〜6の金属ナノ粒子分散組成物においては、金属ナノ粒子は良好に分散されており、9日間の高温放置後も顕著に凝集することない。最大粒径は200nm未満にとどまっていることから、本実施例の金属ナノ粒子分散組成物はインクジェットインクとして適用できる。
【0130】
インクジェットプリンターにおけるプリンターヘッドのノズルから吐出される液滴容量は、一般的には6pl程度である。この6plは、球体では約22.5μmの直径を有する液滴となる。したがって、インクジェットインクに含有される粒子等の固形分の最大粒径は、少なくともサブミクロンオーダーの粒径であることが望まれる。実施例の金属ナノ粒子分散組成物においては、最大粒径200nm以上の粒子は観察されず、粒子が安定に分散していることが上記表1に示されている。
【0131】
しかも、上記表2に示されるように、実施例1〜6で製造された導電膜は、いずれも良好な体積抵抗率を示している。金属配線として用いるためには、導電膜の体積抵抗率は、通常は10μΩ・cm未満であることが望まれる。実施例1〜6は、いずれも適切な体積導電率を有している。なかでも、実施例1においては、5.9μΩ・cmという十分に低い体積抵抗率が得られた。
【0132】
ここで、実施例1の金属ナノ粒子分散組成物の粒度分布を、マルバーン社製、ゼータナノサイザーにより測定した。その結果を図1に示す。図1中、縦軸は強度を表わしている。動的光散乱法による評価では、光学的な強度が最も実際にあった分布を表しているためである。曲線aは分散直後の結果である。曲線bはおよび曲線cは、それぞれ65℃で5日後および65℃で10日後の結果である。65℃で放置することによって、粒度分布は若干、大粒径側にシフトするものの、この程度であれば許容範囲内である。65℃で放置することによって、最大粒径も増大しているが、200nm以下であるので実用上問題ない。
【0133】
実施例2で形成された導電膜の表面のSEM写真を、図2に示す。ひび割れの発生がなく、良好な膜が得られたことがわかる。
【0134】
実施例においては、高分子化合物を表面に有する第1の金属ナノ粒子からなる第1の粒子と、低分子化合物を表面に有する第2の金属ナノ粒子からなる第2の粒子とが含有されているので、粒子が安定に分散された金属ナノ粒子分散組成物が得られた。しかも、かかる金属ナノ粒子分散組成物を用いることによって、良好な導電性を有する膜を形成することが可能となった。
【0135】
これに対し、比較例においては、組成物中での粒子の分散安定性と得られる膜の導電性とを両立させることができない。
【0136】
高分子化合物を表面に有する銀ナノ粒子(第1の粒子)のみを含む比較例1の場合には、焼成後に得られる導電膜の体積抵抗率が116μΩ・cmである。比較例1では、所望の導電性を有する導電膜を形成することができないことから、低分子化合物を表面に有する金属ナノ粒子(第2の粒子)が含まれない組成物は、良好に成膜できないことがわかる。
【0137】
高分子化合物を表面に有する銅ナノ粒子(第1の粒子)のみを含む比較例2の場合には、焼成後に得られる導電膜の体積抵抗率はさらに大きくなって1000μΩ・cm程度に達している。比較例1で用いた銀ナノ粒子と比較して、比較例2で用いた銅ナノ粒子は酸化されやすいことから、導電膜における体積収縮が大きい。
【0138】
比較例2で形成された導電膜の表面のSEM写真を、図3に示す。ひび割れが顕著に発生しており、これによって体積抵抗率が著しく増大したことが明らかである。
【0139】
低分子化合物を表面に有する銀ナノ粒子(第2の粒子)のみがトルエンに分散された比較例3においては、高温放置によりナノ粒子が凝集して、平均粒径は1520nmに増大している。比較例3の金属ナノ粒子分散組成物においては、銀ナノ粒子の表面の低分子化合物に、一級アミンとしてのヘキサデシルアミンが含まれている。しかしながら、高分子化合物を表面に有する金属ナノ粒子(第1の粒子)が含まれないために、比較例3の組成物においては、ナノ粒子を安定に分散させることができない。
【0140】
比較例4では、高温放置後のナノ粒子の凝集がよりいっそう顕著となっている。比較例4の組成物においては、高分子化合物を表面に有する金属ナノ粒子(第1の粒子)とともに、低分子化合物を表面に有する金属ナノ粒子(第2の粒子)が含有されている。しかしながら、第2の粒子においては、低分子化合物中に一級アミンが存在しない。高温放置後の組成物中において、ナノ粒子の分散安定性を確保できないのは、これが原因であることがわかる。
【0141】
実施例の金属ナノ粒子分散組成物は、インクジェットインクとして好適に用いることができる。東芝テック社製インクジェットヘッドCB1を用いて、実施例2の金属ナノ粒子分散組成物をポリイミド基板上に印刷した。ヘッドからの金属ナノ粒子分散組成物の吐出は、1時間以上経っても安定に継続され、ヘッドの目詰まり等は観察されなかった。
【0142】
金属ナノ粒子分散組成物の塗膜を焼成して、金属配線を得た。焼成は、ガス雰囲気を制御した焼成炉により行なった。
【0143】
得られた金属配線の状態を、図4の顕微鏡写真に示す。図4から、金属配線の印刷が高精度に行なわれたことが確認できる。
【0144】
以上説明した実施形態は例示であり、発明の範囲はそれらに限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒と、前記有機溶媒に分散された金属含有粒子とを含有し、
前記金属含有粒子は、
重量平均分子量1000以上の高分子化合物を表面に有する第1の金属ナノ粒子からなる第1の粒子と、
重量平均分子量が500以下で少なくとも一部が一級アミンである低分子化合物を表面に有する第2の金属ナノ粒子からなる第2の粒子と
を含むことを特徴とする金属ナノ粒子分散組成物。
【請求項2】
前記第2の金属ナノ粒子は、貴金属を主成分とすることを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子分散組成物。
【請求項3】
前記第1の金属ナノ粒子は、銅を主成分とすることを特徴とする請求項1または2に記載の金属ナノ粒子分散組成物。
【請求項4】
前記第2の金属ナノ粒子は、銀を主成分とすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子分散組成物。
【請求項5】
前記一級アミンの沸点は、250℃以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子分散組成物。
【請求項6】
インクであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子分散組成物。
【請求項7】
インクジェット印刷用インクであることを特徴とする請求項6に記載の金属ナノ粒子分散組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−82502(P2012−82502A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231901(P2010−231901)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】