説明

金属ピンが設けられたグラフェンシートを備える構造の製造方法、その方法により得られる構造、およびその構造の利用

【課題】高い結晶品質のグラフェンシートの製造方法を提供し、当該方法の実施コストを工業規模の利用に適合させる。
【解決手段】空気および誘電材料から選択された誘電媒体により隔離された複数の金属ピンが一方の面に設けられたグラフェンシートを備える構造を製造する方法において、a)誘電材料からなる膜上に配置されるか膜内に一体化された複数の金属ピン上に、当該金属ピンを触媒とする気相触媒成長によってグラフェンシートを合成し、b)必要に応じて前記膜を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェンシートの製造に関する。
【0002】
特に本発明は、グラフェンシートを含む構造の製造を可能にする方法に関する。当該構造においてはグラフェンシートの一方の面に複数の金属ピンが設けられ、当該複数の金属ピンは、空気および誘電材料から選択された誘電媒体によって隔離されている。
【0003】
本発明は、当該方法により得られる構造、および当該構造の利用にも関する。
【0004】
本発明に係る構造は、例えば以下に掲げる多様な技術分野において利用されうる。
・マイクロおよびナノエレクトロニクス(例えば電界効果型トランジスタまたは単一電子トランジスタの製造、もしくは集積回路構造の接続)
・マイクロおよびナノエレクトロニクスの工学応用(例えばマイクロ電気機械システム(MEMS)およびナノ電気機械システム(NEMS)と称されることの多いマイクロメトリックおよびナノメトリック電気機械共振器の製造)
・スピントロニクス
・光起電力技術
・発光ダイオードディスプレイ
【0005】
この構造における複数の金属ピンを誘電材料によって隔離すると、ある種の構造における中間製品として利用することも可能である。当該構造はグラフェンシートを備え、その一方の面に誘電材料からなる多孔質膜が設けられている。当該構造はとりわけ水素の貯蔵、燃料電池、およびマイクロバッテリにおいて有用である。
【背景技術】
【0006】
グラフェンは、ハニカム六方晶構造を備えた二次元炭素結晶である。この結晶は、現在多くの公的および私的研究所において重要視されている、非常に驚くべき特性を備えている。
【0007】
先ずグラフェンは、他に類を見ない電子の移動度を有し、室温において20m−1−1にもなる。比較すると、アンチモン化インジウムの室温における電子移動度はその1/2.5であり、シリコンは1/13であり、銀は1/2500である。
【0008】
さらにグラフェンは、その厚さが炭素原子1つ分のため透明であり、化学的に極めて安定しており、非常に軽量であるが、機械的強度は極めて高い(鋼の200倍を超える)。
【0009】
グラフェンシートを合成するための技法としては、グラファイト結晶のマイクロメカニカル剥離、酸化グラフェンの電気化学的還元、カーボンナノチューブの開放、金属基板上における触媒によるグラフェンの成長、炭化珪素の凝華等が知られている。
【0010】
これらの技法のうち金属基板上における触媒によるグラフェンの成長は、工業標準に適する最も有望な方法と目されており、産業規模でグラフェンを合成し、マイクロまたはナノ電子素子や、マイクロまたはナノ電気機械素子等への組み込みを可能にする(例えば、非特許文献1参照)。
【0011】
なぜなら当該技法によれば、高い結晶品質のグラフェンの試料を生産可能であるためである。この結晶品質は、単結晶ドメインが数百マイクロメートルにわたり広がっていること、マクロなスケールでは単一の結晶配向を呈することにより特徴付けられる。またセンチメートル単位の表面を備えるグラフェンの試料を得ることも可能であるが、これは現時点で提案されている他のグラフェン製造技法によっては不可能である。
【0012】
しかしながら、金属基板上で触媒成長させるグラフェンの製法には大きな欠点がある。それは次のような場合に、形成を行なった金属基板上から絶縁支持体へグラフェンシートを移し取ることを要する点にある。第1にこのシートに光学的な特徴や電気的な特徴を与えようとする場合(すなわちシートの光学的特性や電気的特性を研究しようとする場合)、第2にこのシートを前述の素子に組み込もうとする場合である(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】K. S. Kim他、Nature、2009年、第457巻、706〜710頁
【非特許文献2】W. Regan他、Applied Physics Letters、2010年、第96巻、113102頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところが前述のシートの移し取りには、化学的エッチング溶液および樹脂の使用が必要な一連の操作が伴い、内的すなわち結晶格子における欠陥と外的な欠陥(曲率、極性不純物等)をグラフェンに生じさせ、材料特性を大きく損なわせる。
【0015】
また前述の素子への組み込みを目的としてグラフェンシートに電気的接点を設けるためにはリソグラフィ、エッチング、および配線といった追加的操作が必要となり、シートの劣化リスクが更に高まる。
【0016】
したがって発明者らは、高い結晶品質のグラフェンシートの製法を提供しようとするものである。すなわちその後の利用、とりわけ特性解析、マイクロまたはナノ電子素子やマイクロまたはナノ電気機械素子等への組み込みのために、異なる基板間にシートを移し取ることを一切必要とせず、工業標準に適する製法である。
【0017】
また発明者らは、この方法の実施コストを産業規模の利用に適合させようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達成する本発明の態様の一つは、空気および誘電材料から選択された誘電媒体により隔離された複数の金属ピンが一方の面に設けられたグラフェンシートを備える構造を製造する方法であって、a)誘電材料からなる膜上に配置されるか膜内に一体化された複数の金属ピン上に、当該金属ピンを触媒とする気相触媒成長によってグラフェンシートを合成し、b)必要に応じて前記膜を除去することを特徴とする。
【0019】
したがって本発明によれば、グラフェンシートの一方の面に複数の金属ピンが設けられたグラフェンシートを備える構造を、グラフェンシートの基板からの移し取りを行なうことなく得ることができる。グラフェンシートが金属ピン上に直接合成されるためである。
【0020】
金属ピンは誘電材料からなる膜上に配置されるか膜内に一体化されるため、一度グラフェンシートが合成されてしまえば、当該膜は除去しても残存させても構わない。すなわち、金属ピンが空気により隔離された構造を得るのであれば膜を除去し、金属ピンが誘電材料により隔離された構造を得るのであれば膜を残存させる。
【0021】
したがってこのグラフェンシートは、光学的な特徴や電気的な特徴を与えやすい。
【0022】
当該構造は、マイクロまたはナノ電子素子や、マイクロまたはナノ電気機械素子等に直接組み込むことができる。当該構造が備える金属ピンを電気接点や電極として用いることができるためである。
【0023】
本明細書で用いる「誘電材料」という表現は、電気分野において通常与えられている意味、すなわち電流を導通しない材料を表わす(例えば、Physics Aide-Memoire: for the use of pupils in higher scientific and technical teachings、B. Yavorski、A. Detlaf共著、Mir, Moscow刊、1975年、963頁を参照)。すなわち「誘電材料」とは「電気絶縁材料」と同義である。
【0024】
上記のグラフェンシートは気相触媒成長により合成される。この技法が有する利点については前述の通りである。膜上に配置されるか膜内に一体化された金属ピンは合成時における触媒として機能する。
【0025】
本発明においては、金属ピンを気相の炭素種に曝すものであれば、以下に掲げるいかなる技法によってもグラフェンの気相触媒成長を実施できる。
・通常CVDの略称で示される化学蒸着、例えば常圧CVD(APCVD)、低圧CVD(LPCVD)、超高真空CVD(UHVCVD)、エアゾール補助CVD(AACVD)、直接液体噴射CVD(DLICVD)、急熱CVD(RTCVD)、開始CVD(i−CDV)、原子層CVD(ALCVD)、熱線CVD(HWCVD)、プラズマ促進CVD(PECVD)、遠隔プラズマ促進CVD(RPECVD)、マイクロ波プラズマ促進CVD(MWPCVD)等。
・通常PVDの略称で表示される物理蒸着、例えば陰極スパッタPVD、真空蒸発PVD、イオンビームスパッタPVD、例えば陰極のアークPVD、通常PLDの略称で示されるパルスレーザ蒸着等。
・通常HPCVDの略称で示される物理化学混成蒸着。
【0026】
しかしながらグラフェンの触媒による成長は化学蒸着によって実施されることが望ましい。この技法によれば、得られるグラフェンシートの結晶品質を特に良好に制御できるためである。
【0027】
この場合、金属ピンが設けられた誘電材料膜をCVD反応器のチャンバ内においてガス流に曝すことによりグラフェンの触媒成長が実施される。ガス流は少なくとも一種の炭化水素を含む。炭化水素は飽和であるか不飽和であるかを問わず、直鎖、分岐鎖、環状であるかを問わない。炭化水素の例としてはメタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)、ブタン(C10)、アセチレン(C)、エチレン(C)、プロピレン(C)、プロピン(C)、ブチレン(C)、ブチン(C)、ブタジエン(C)、ベンゼン(C)、トルエン(C)が挙げられる。ガス流は、必要に応じて水素や水素化合物、および/または中性ガスと混合してもよい。水素化合物の例としては金属ピンを脱酸するNHが挙げられる。中性ガスの例としては窒素、アルゴン、ヘリウムが挙げられる。化学蒸着は、200℃から2000℃の温度範囲において、また超高真空(10−6Pa以下)から大気圧(101.325kPa)の圧力範囲で行なわれる。
【0028】
こうしてガス流中に存在する炭化水素が炭素種に分解されると、金属ピンに付着してその表面全体に拡散し、グラフェンの核が形成される(核生成)。これらが拡大し結合し終えると、連続したグラフェンシートが形成される。
【0029】
上記のガス流は、少なくとも一種のC1〜C3炭化水素、より望ましくはメタン、アセチレン、エチレンのようなC1炭化水素またはC2炭化水素を含むことが望ましい。ガス流は水素と混合することが望ましい。例えば炭化水素/水素の比を1〜10とする。化学蒸着は800℃から1200℃の温度範囲で行われることが望ましい。
【0030】
また化学蒸着は、大気圧より低く10−6Paより高い圧力範囲で行なわれる低圧化学蒸着(LPCVD)を用いることが望ましい。
【0031】
チャンバ内の温度および圧力、脱酸素剤の流れ、金属ピンの脱酸素に要する時間、金属ピンの太さ、および炭化水素の流れ等の条件によるが、グラフェンシートの形成に要する時間は一般に1〜20分である。
【0032】
金属ピン上におけるグラフェンシートの形成は、ラマン分光法によってモニタすることができる。具体的には、グラフェンが有する2つの分光特性のピーク、すなわち1580cm−1におけるピークG、および2700cm−1におけるピーク2Dの出現を確認する。
【0033】
前述のように、グラフェンシートは触媒成長によって形成するのが望ましく、誘電材料膜上に配置されるか膜内に一体化された金属ピンが成長時の触媒として機能するため、金属ピンはそのメッシュパラメータがグラフェンのメッシュパラメータに一致する金属または合金からなることが望ましい。金属または合金のメッシュパラメータとグラフェンのメッシュパラメータの相違が2%を超えなければ、両者は一致しているとみなしうる。
【0034】
グラフェンのメッシュパラメータは2.45Åである。したがってメッシュパラメータが2.401Å以上2.499Å以下の金属または合金から金属ピンが形成されることが望ましい。
【0035】
このようなメッシュパラメータを有する金属の例としては、ニッケル、銅、コバルト、ルテニウム、パラジウム、イリジウム、および白金が挙げられる。
【0036】
これらの中でもニッケルが特に望ましい。コストが低く、融点が高く(1455℃)、メッシュパラメータがグラフェンとよく一致するためである。
【0037】
上記において例示した金属や合金からなる金属ピンは、上記のステップa)における触媒としての機能のみを意図して用いているものではない。グラフェンシートの形成に用いられるあらゆる技法を想定していることは明らかである。
【0038】
本発明によれば、誘電材料からなる膜上または膜内において金属ピンを任意に分布させることができる。同様に、金属ピンの寸法および間隔も任意とすることができる。
【0039】
しかしながら金属ピンの分布は規則的とすることが望ましい。特に互いに平行な複数の縦横列が直交しつつ並んでいる格子を形成することが望ましい。
【0040】
この場合、格子が等間隔であることが望ましい。すなわち隣接するピンの間隔が一定または略一定であることが望ましい。
【0041】
また誘電材料膜の面に平行な向きにおける金属ピンの最大寸法は、ナノメートルサイズであることが望ましい。この寸法は、金属ピンが円筒形状である場合の直径に相当する。隣接する金属ピンの間隔もナノメートルサイズであることが望ましい。
【0042】
本明細書において「ナノメートル」とは、少なくとも1ナノメートル以上で、1マイクロメートル未満の寸法を指す。
【0043】
本発明においては、支持体に形成された複数の開口を金属または合金で充填することにより前記金属ピンを作製することが望ましい。
【0044】
ここで上記の開口は規則的に分布していることが望ましい。特に互いに平行な複数の縦横列が直交しつつ並んでいる格子を形成することが望ましい。当該格子は等間隔であること、すなわち隣接する開口の間隔が一定または略一定であることが望ましい。
【0045】
また支持体の面に平行な向きにおける開口の最大寸法は、ナノメートルサイズであることが望ましい。隣接する開口の間隔もナノメートルサイズであることが望ましい。
【0046】
ここで上記の支持体は上記の誘電材料膜によって形成されており、複数の開口は膜に形成された複数の孔に対応しており、開口が金属または合金で充填される前において複数の孔は格子を形成しており、膜の面に平行な向きにおける孔の最大寸法はナノメートルサイズであることが望ましい。
【0047】
この膜はアルミナ、シリカ、化学式SiまたはSi(v、w、x、y、およびzは全て0ではない)で示される材料、重合体、または連鎖共重合体の膜であることが望ましい。重合体の例としては、ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレートが挙げられる。連鎖共重合体の例としては、ポリメチルアクリレートとポリエチレンオキシドの共重合体(PPMA/PEO)が挙げられる。
【0048】
この種の膜は市販されているものもある(例えば、ポリカーボネートおよびポリエチレンテレフタレートの膜)。あるいはアルミナ膜の場合、陽極酸化処理法を用いて直径が10〜500nmの孔を高密度(10〜1012個/cm)に形成し、次いでリソグラフィまたはフォトリソグラフィ、選択性エッチングやUV補助ナノプリンティング等の公知技法を実施することにより作製することができる。
【0049】
誘電材料膜に形成される孔は貫通孔であるため、孔を電着により充填することが可能である。電着は低コストでありながら高い付着選択性を有する技法である。
【0050】
化学蒸着(CVD)、原子層蒸着(ALD)、プラズマ促進原子層蒸着(PEALD)、有機金属化学蒸着(MOCVD)といった他の技法を孔の充填に用いることも可能である。
【0051】
本発明の別の態様は、上記の方法によって得られる構造である。この構造は、空気および誘電材料から選択された誘電媒体により隔離された複数の金属ピンが一方の面に規則的に配置されたグラフェンシートを備えることを特徴とする。
【0052】
本発明の別の態様は、この構造の利用である。前述のように、マイクロまたはナノ電子素子、マイクロまたはナノ電気機械素子、スピントロニクス素子、光起電素子、または発光ダイオード表示装置の製造にこの構造を利用することができる。
【0053】
金属ピンを隔離する誘電媒体が誘電材料である場合は、誘電材料からなる多孔質膜が一方の面に設けられたグラフェンシートを備える構造の製造にこの構造を利用することができる。この場合においては、上記の構造から金属ピンを除去することになる。
【0054】
こうして得られた構造は、水素の貯蔵、燃料電池、およびマイクロバッテリ用の装置を生産するにあたって特に有用である。
【0055】
本発明の他の特徴および利点については、本発明の方法に係る実施例に関連し、添付の図面を参照する以下の説明から明らかになるであろう。
【0056】
説明中で用いられている「ナノピン」、「ナノ孔」、「ナノワイヤ」という語は、円筒形状を有してその直径がナノメートルサイズであるピン、孔、ワイヤを指す。
【0057】
上記の例は本発明の趣旨を例示的に説明するものに過ぎず、当該趣旨に対する限定的な解釈を何ら与えるものではないことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】(A)〜(D)は、本発明の第1の実施形態に係る方法を模式的に示す図である。当該方法は、グラフェンシートを備える構造を製造するものであり、当該構造はグラフェンシートの一方の面に複数の金属ナノピンの格子が等間隔で設けられ、金属ナノピン同士は空気により隔離されている。
【図2】(A)〜(C)は、本発明の第2の実施形態に係る方法を模式的に示す図である。当該方法は、グラフェンシートを備える構造を製造するものであり、当該構造はグラフェンシートの一方の面に複数の金属ナノピンの格子が等間隔で設けられ、金属ナノピン同士は誘電材料により隔離されている。
【図3】グラフェンシートを備える構造を模式的に示す図である。当該構造はグラフェンシートの一方の面に誘電材料からなる多孔膜が設けられており、図2の(C)に示す構造より得られるものである。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0060】
(第1の実施形態)
まず本発明の第1の実施形態に係る方法を図1の(A)〜(D)を参照して説明する。本実施形態は図1の(D)に示すグラフェンシート11を備える構造10を製造するためのものである。グラフェンシート11は、複数の金属ナノピン12が等間隔に並んだ格子と一体化されている。具体的には、複数の金属ナノピン12はニッケルからなり、空気により隔離されている。
【0061】
本実施形態においては、本発明の方法は以下に掲げる4つのステップを備えている。
1)アルミニウムシートを陽極酸化処理することによって、ナノ貫通孔が等間隔に並んだ格子を備えるアルミナ膜を作製する。
2)電着によって上記アルミナ膜のナノ貫通孔内にニッケルナノワイヤを作製する。
3)LPCVDによって上記ナノワイヤの表面にグラフェンシートを合成する。
4)化学エッチングによってアルミナ膜を除去する。
各ステップについて、以下詳述する。
【0062】
(ナノ貫通孔を有するアルミナ膜の作製)
先ず厚さ1μmのアルミニウムシートが、中性雰囲気(アルゴン、ヘリウム、窒素)のもとで2時間にわたり500℃でアニーリングを施される。これは金属粒子の粒度を高め、後続する陽極酸化処理時においてナノ貫通孔を成長させるための均一な条件を得るためのものである。
【0063】
このシートは、次いで予め60℃まで加熱された5%ソーダ溶液に30秒間浸されて酸洗いされ、更に1.5Mの硝酸水溶液に10秒間浸されて中和される。
【0064】
次いでアルミニウムシートの一方の面が電解研磨を施される。電界研磨は、標準的な電解研磨浴槽(65%過塩素酸/エタノール/2−ブトキシエタノール/水)において、陽極となるこのアルミニウムシートとグラファイト板からなる対電極との間に40Vの直流電圧を印加することによって、常温で20秒間にわたり実施される。こうして電解研磨された面の平均粗さは、3μmの抜き取り面積について約3nmである。
【0065】
次いでこの面が第1の陽極酸化処理を施される。陽極酸化処理は、0.5Mシュウ酸の3%水溶液の浴槽において、陽極となるアルミニウムシートと白金グリルからなる対電極との間に40Vの直流電圧を印加することによって、15℃で15時間にわたり実施される。
【0066】
この陽極酸化処理中に形成されるアルミナ層は、ウェットエッチングによって除去される。ウェットエッチングは、0.2モル/lのクロム酸と0.4モル/lのリン酸を含む水溶液を用いて60℃で実施される。
【0067】
次いで陽極酸化処理を受けたアルミニウムシートの面が、第2の陽極酸化処理を施される。第2の陽極酸化処理は、第1の陽極酸化処理と同じ条件下で、5時間にわたり実施される。
【0068】
こうしてナノ貫通孔15の格子を備えるアルミナ膜14が得られる。図1の(A)にその横断面を示す。これらナノ貫通孔の平均直径は約70nmであり、ほぼ一定の距離(約110nm)だけ互いに離間している。
【0069】
(ニッケルナノワイヤの作製)
ニッケルナノワイヤは電着によって作製される。この電着を実行する前に、アルミナ膜の一方の面に現れるナノ貫通孔の端部を導電性にする必要がある。
【0070】
このため、先ず厚さ10nmの金被膜が真空蒸着によりアルミナ膜の一方の面に蒸着される。なお当該面に現れるナノ貫通孔の端部においてのみ蒸着がなされるようにマスクを用いる。
【0071】
電解浴槽中において、ナノ貫通孔の端部を被覆する金の被膜によって形成される作用電極と、ステンレス鋼板からなる対電極との間に10Vの直流電圧を印加することによって、20℃で90分間にわたり電着が実施される。電解浴槽は、塩化ニッケル(NiCL)と水の混合物(1/1、v/v)200g/lと、硫酸ニッケル(NiSO)と水の混合物(1/7、v/v)120g/lと、ホウ酸50g/lから構成され、ソーダを添加することによってそのpHが予め4に調整される。
【0072】
過剰に付着したニッケル、すなわちアルミナ膜のナノ貫通孔の外側に形成されたナノワイヤの一部に相当するニッケルは、選択的機械/化学研磨によって除去される。研磨除去は、酸化剤としての過酸化水素の0.1%溶液と、研磨剤としての平均粒径180nmのアルミナ粒子の4.6重量%懸濁液とを用いて実施される。線形研磨速度は、10cm/分であり、加えられる圧力は、5.1psi(34.47kPa)である。各パス毎の研磨時間は、除去すべきニッケルの厚さに応じて調整される。
【0073】
こうして図1の(B)に横断面が示された構造が得られる。当該構造においてアルミナ膜14はニッケルナノピン12の格子を備える。ニッケルナノピン12はアルミナ膜14と一体化されるとともに、各端部はアルミナ膜14の一方の面18と面一とされている。
【0074】
ニッケルナノピンの平均直径および間隔は、それらが形成されるナノ貫通孔と同じである(直径70nm、間隔110nm)。これらのニッケルナノピンは、次の工程において触媒として機能するのに適している。
【0075】
(グラフェンシートの合成)
図1の(B)に示した構造は、LPCVD反応器のチャンバ内に導入されるとともにプレート上に配置される。プレートの温度は50℃のステップで1000℃まで上昇され、
0.5トル(0.0666kPa)の圧力および流量200cm/分のアルゴンの下で、この温度が10分間にわたり維持される。
【0076】
次いで温度および圧力条件を一定に保ち、この構造は流量1000cm/分の脱酸素作用がある水素に2分間にわたり曝される。更に流量200cm/分のエチレンが加えられた流量1000cm/分の水素に曝される。
【0077】
その後、この構造は10℃/分で冷却される。冷却はLPCVD反応器のチャンバ内で行なってもよいし、冷却用に用意したチャンバ内で行なってもよい。また冷却は真空下で行なってもよいし、窒素、アルゴン、ヘリウムのような中性ガスの雰囲気下で行なってもよい。
【0078】
こうして図1の(C)に横断面が示された構造が得られる。この構造はグラフェンシート11を備えている。ニッケルナノピン12上にグラフェンの核が形成され、これらの核が成長してグラフェン表面となり、これらグラフェン表面が集合して形成されたグラフェンシート11は、アルミナ膜14の面18全体に広がっている。
【0079】
(アルミナ膜の除去)
図1の(C)に示した構造のアルミナ膜は、化学エッチングによって除去される。化学エッチングは、20℃の2Mのソーダ水溶液に10分間にわたって当該構造を浸すことによって実施される。当該構造は、次いで脱イオン水で数回(少なくとも5回)すすぎ洗浄され、更に300℃まで加熱されたチャンバ内において、30分間にわたって窒素流下で乾燥される。
【0080】
こうして図1の(D)に横断面が示された構造10が得られる。この構造10はグラフェンシート11を備えている。グラフェンシート11は、空気により隔離された複数のニッケルナノピン12の格子と一体化されている。
【0081】
(第2の実施形態)
次に本発明の第2の実施形態に係る方法を図2の(A)〜(C)を参照して説明する。本実施形態は、ニッケルナノピンが誘電材料(ここではSiOCH)によって隔離された構造を作製するものである点において、第1の実施形態と異なる。
【0082】
このため本実施形態においては、本発明の方法は以下に掲げる3つのステップを備えている。
1)PECVDおよびこれに続く電子ビームリソグラフィによって、ナノ貫通孔が等間隔に並んだ格子を備えるSiOCH膜を作製する。
2)電着によって上記膜のナノ貫通孔内にニッケルナノワイヤを作製する。
3)LPCVDによって上記ニッケルナノワイヤ上にグラフェンシートを合成する。
【0083】
(ナノ貫通孔を有するSiOCH膜の作製)
先ず結晶配向(100)のシリコン基板上に厚さ5nmのニッケル被膜がPVDによって蒸着される。当該基板上に次に形成されるSiOCH膜においてナノ貫通孔となる所定の位置のみにニッケル被膜が蒸着するようにマスクを用いる。
【0084】
次いで基板のニッケルで部分的に覆われた面に厚さ200nmのSiOCH被膜がPECVDによって蒸着される。
【0085】
蒸着は、Applied Materials社製のCentura(登録商標)DXZ 200nmが備える容量結合室の一つにおいて実施される。300℃に加熱された基板キャリヤ上に基板を配置し、以下に掲げる動作条件下において行なう。
・高周波プラズマ:13.56MHz
・使用圧力:5トル(666Pa)
・電力:600W
・ジエトキシメチルシラン(DEMS)流量:1000cm/分
・ヘリウム流量:1000cm/分
・付着所要時間:30秒
【0086】
冷却後、こうして形成されたSiOCHの被膜は電子ビームリソグラフィを施される。電子ビームリソグラフィについては、T. Raluca他、Microelectronic Engineering、2006年、第83巻、926頁に説明されている。このリソグラフィによってSiOCH被膜に形成されるナノ貫通孔の底部が、ニッケルで覆われた基板領域と一致するようにマスクを用いる。
【0087】
こうして図2の(A)に横断面が示された構造が得られる。この構造は、ニッケル被膜25で局所的に覆われたシリコン基板23を備えている。これらはナノ貫通孔26の格子を備えたSiOCH膜24によって覆われている。ナノ貫通孔26の平均直径は40nmであり、ほぼ一定の距離(約40nm)だけ互いに離間している。
【0088】
(ニッケルナノワイヤの作製)
ニッケルナノワイヤは電着によって作製される。ニッケル被膜25が作用電極として機能する点以外は、第1の実施形態と同様にして行なわれる。
【0089】
過剰に付着したニッケル、すなわちアルミナ膜のナノ貫通孔の外側に形成されたナノワイヤの一部に相当するニッケルは、第1の実施形態と同様に、選択的機械/化学研磨によって除去される。
【0090】
こうして図2の(B)に横断面が示された構造が得られる。当該構造においてSiOCH膜24はニッケルナノピン22の格子を備える。ニッケルナノピン22はSiOCH膜24と一体化されるとともに、各端部はSiOCH膜24の一方の面と面一とされている。
【0091】
ニッケルナノピンの平均直径および間隔は、それらが形成されるナノ貫通孔と同じである(直径40nm、間隔40nm)。これらのニッケルナノピンは、次の工程において触媒として機能するのに適している。
【0092】
(グラフェンシートの合成)
グラフェンシートは、第1の実施形態と同様に、LPCVDによって合成される。
【0093】
この工程が終了すると、図2の(C)に横断面が示された構造20が得られる。この構造20はグラフェンシート21を備えている。ニッケルナノピン22上にグラフェンの核が形成され、これらの核が成長してグラフェン表面となり、これらグラフェン表面が集合して形成されたグラフェンシート21は、SiOCH膜24のシリコン基板23と接触している面とは反対側の面28全体に広がっている。
【0094】
この構造は、例えば集積回路やナノ電気機械システム(NEMS)における相互接続構造にそのまま利用することができる。
【0095】
他の用途においては、SiOCH膜24からニッケルナノピン22をウェットエッチングにより除去してもよい。ウェットエッチングは、例えば塩化第2鉄(ClFe)の1M水溶液に構造20を数分間浸すことによって実施される。
【0096】
この種のエッチングによれば、ガス生成物や沈殿物を生じることなく、したがってグラフェンシート21に損傷を及ぼすことなく、構造20からニッケルナノピン22を除去することが可能である。
【0097】
こうして図3に横断面が示された構造30が得られる。この構造30はグラフェンシート31を備えている。グラフェンシート31は、ナノ多孔質のSiOCH膜34の一方の面38全体に広がっている。
【符号の説明】
【0098】
10:構造、11:グラフェンシート、12:金属ナノピン、14:アルミナ膜、15:ナノ貫通孔、18:膜面、20:構造、21:グラフェンシート、22:ニッケルナノピン、23:シリコン基板、24:SiOCH膜、25:ニッケル被膜、26:ナノ貫通孔、28:膜面、30:構造、31:グラフェンシート、34:多孔質SiOCH膜:38:膜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気および誘電材料から選択された誘電媒体により隔離された複数の金属ピンが一方の面に設けられたグラフェンシートを備える構造を製造する方法であって、
a)誘電材料からなる膜上に配置されるか膜内に一体化された複数の金属ピン上に、当該金属ピンを触媒とする気相触媒成長によってグラフェンシートを合成し、
b)必要に応じて前記膜を除去することを特徴とする。
【請求項2】
前記グラフェンの前記触媒成長は、化学蒸着によりなされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化学蒸着は、少なくとも一種の炭化水素を含むガス流を、必要に応じて水素、および/または少なくとも一種の中性ガスと混合して用い、200℃から2000℃の温度範囲において、超高真空から大気圧の圧力範囲で行なうことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記化学蒸着は、少なくとも一種のC1〜C3炭化水素を含むガス流を、必要に応じて水素または水素化合物、および/または少なくとも一種の中性ガスと混合して用い、800℃から1200℃の温度範囲において、大気圧より低く10−6Paより高い圧力範囲で行なうことを特徴とする、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記金属ピンは金属または金属の化合物からなり、そのメッシュパラメータとグラフェンのメッシュパラメータとの相違が2%を超えないことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記金属ピンは、ニッケル、銅、コバルト、ルテニウム、パラジウム、イリジウム、および白金から選択された金属または金属の化合物からなることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記金属ピンは、ニッケルからなることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記金属ピンは格子を形成していることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記格子は等間隔であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記誘電材料からなる膜の面に平行な向きにおける前記金属ピンの最大寸法は、ナノメートルサイズであることを特徴とする、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
隣接する前記金属ピンの間隔はナノメートルサイズであることを特徴とする、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
支持体に形成された複数の開口を金属または合金で充填することにより前記金属ピンを作製することを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記複数の開口は格子を形成していることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記格子は等間隔であることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記支持体の面に平行な向きにおける前記開口の最大寸法は、ナノメートルサイズであることを特徴とする、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
隣接する前記開口の間隔はナノメートルサイズであることを特徴とする、請求項12から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記支持体は前記誘電材料からなる膜によって形成されており、
前記複数の開口は前記膜に形成された複数の孔に対応しており、
前記開口が前記金属または合金で充填される前において前記孔は格子を形成しており、
前記膜の面に平行な向きにおける前記孔の最大寸法はナノメートルサイズであることを特徴とする、請求項12から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記誘電材料からなる膜は、アルミナ、シリカ、化学式SiまたはSi(v、w、x、y、およびzは全て0ではない)で示される材料、重合体、または連鎖共重合体の膜であることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
空気および誘電材料から選択された誘電媒体により隔離された複数の金属ピンが一方の面に規則的に配置されたグラフェンシートを備えることを特徴とする、構造。
【請求項20】
マイクロまたはナノ電子素子、マイクロまたはナノ電気機械素子、スピントロニクス素子、光起電素子、または発光ダイオード表示装置の製造への、請求項19に記載の構造の利用。
【請求項21】
請求項19に記載の構造の利用であって、
前記金属ピンを隔離する前記誘電媒体は誘電材料であり、
誘電材料からなる多孔質膜が一方の面に設けられたグラフェンシートを備える構造の製造にあたり、請求項19に記載の構造から前記金属ピンを除去することを特徴とする。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−25652(P2012−25652A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−157664(P2011−157664)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(502124444)コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ (383)
【出願人】(505243489)
【Fターム(参考)】