説明

金属フッ化物光学部品のコロイドシリカ仕上げ

【課題】光学部品において、劣化問題を解消するか、または使用期間が延びるように大幅に耐久性を高める。
【解決手段】アルカリ土類金属フッ化物の光学部品を仕上げる方法およびこの方法を用いて製造されるアルカリ土類光学部材に関する。特に、最終研磨工程において本発明の方法は、500nm未満の粒径を有するシリカ粒子を含有するコロイドシリカ研磨スラリーを使用する。さらに、コロイドシリカ研磨の後、本方法は、高pH洗剤洗浄液を用いるメガソニック清浄工程を使用して、研磨された光学部品上の一切のシリカ残留物を除去する。本方法を用いて得られた光学素子の、研磨されたがエッチングされない表面の粗さが0.5nm未満、研磨およびエッチング後の表面の粗さが0.6nm未満、およびステップ高が6nm未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ土類金属フッ化物の光学部品を仕上げる方法およびこの方法を用いて製造されるアルカリ土類光学部材に関する。本発明の方法の使用によって、耐久性および寿命が向上したアルカリ土類光学部材が製造される。
【背景技術】
【0002】
高出力レーザー、例えば、20mJ/cmを超えるパルスエネルギー密度(フルエンス)を有し、低ナノメートル範囲のパルス長を有するレーザーの使用によって、レーザーリソグラフィシステムにおいて用いられた光学素子が劣化することがある。非特許文献1に、Ar−イオンレーザーにおいての溶融シリカの表面劣化に関する記載がある。より最近では、シリカ以外の物質から製造されたウインドウ材料を使用する高ピークおよび平均出力193nmエキシマーレーザーの光学素子ウインドウの表面劣化があることが注目されている。また、既存の光学素子材料が157nmレーザーシステムにおいて用いられる時にこのような劣化はさらにひどくなるという所見もある。既存の193nmレーザーシステムのウインドウまたはレンズ材料としてMgFを使用するなど、いくつかの解決策が提案されているが、このような材料もまた、時間の経過とともに表面が劣化し、高価なウインドウを定期的に取り替える必要が生じると考えられる。さらに、ウインドウ劣化の問題は193nm未満の波長で作動するレーザーシステムの出現によって深刻になると考えられる。さらに、ウインドウ材料としてMgFを使用することは、機械的観点からは好ましいかもしれないが、レーザービームの伝送性能に有害である色中心の形成の問題を生じる。
【0003】
エキシマーレーザーは、マイクロリソグラフィ産業の好ましい照射源である。結晶MgF、BaFおよびCaFなどのイオン性材料が、それらの紫外線透明性およびそれらの大きなバンドギャップエネルギーのために、エキシマー光学部品のための好ましい材料であるが、好ましい材料はCaFである。しかしながら、CaFの結晶およびCaFから製造された光学部材は光学的に研磨するのが難しい。さらに、CaFの研磨されたがコートされない表面は、250nm未満の深紫外線(「DUV」)範囲において、例えば248および193nmにおいて作動する強力エキシマーレーザーに露光される時に劣化しやすい。193nm、2KHzまたは4KHz、20〜40mJ/cmのパルスエネルギー密度で作動するレーザーについては、これらのイオン性材料から製造された表面または光学部材は、たった数百万のレーザーパルスの後に不良になることが知られている。損傷の原因は、研磨された表面の上部表面層のフッ素消耗であると考えられる。非特許文献2および非特許文献3を参照のこと。特許文献1には、オキシフッ化ケイ素コーティング/材料の真空蒸着の使用によるCaFなどの金属フッ化物表面を劣化から保護する方法が記載されている。これが適当な溶液である間は、マイクロリソグラフィ産業では、エキシマー源、従ってエキシマーレーザーベースのシステムと共に用いられる光学部品の性能を絶えず高めることが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,466,365号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T.M.Stephenら、“Degradation of Vacuum Exposed SiO2 Laser Windows”SPIE Vol.1848、106〜110ページ(1992年)
【非特許文献2】Wangら、“Color center formation on CaF2 (111) surface investigated by using low−energy−plasma−ion surfacing”,Optical Society of America 2004,[2004_OSA_OF&T]
【非特許文献3】Wangら、“Surface assessment of CaF2 deep−ultraviolet and vacuum−ultraviolet optical components by the quasi−Brewster angle technique,”Applied Optics,Vol.45,No.22(2006年8月)、5621〜5628ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このため、レーザー性能の改良に対して産業の要求が増すことが予想されるため、光学部材劣化問題を解消するか、または既存のおよび将来の光学部品の使用期間が延びるように大幅に耐久性を高めるような解決策を見出すことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、最終コロイドシリカ研磨工程を用いる、アルカリ土類金属フッ化物の光学部品を仕上げる方法およびこの方法を用いて製造されるアルカリ土類光学部材に関する。本発明によって、最終研磨工程は、高pH溶液またはスラリー中で500nm未満(<500nm)の粒径を有するコロイドシリカを利用して、一切の初期研磨工程後に光学部材上に存在する一切のBielby層を除去し、このような初期研磨工程のために存在し得る一切の表面欠陥をさらに除く。最終コロイドシリカ研磨の後の水中のエッチングによって、0.5nm rms未満の表面の粗さを有する完成光学部材を製造した。
【0008】
一実施形態において本発明は、アルカリ土類金属フッ化物単結晶から製造されるDUV光学素子を研磨する方法を目的とし、本方法は、1.5μmのダイヤモンドグリット(すなわち、粒径)、0.25μmのダイヤモンドグリットおよび500nm未満の粒径を有するコロイドシリカで研磨する工程と、各研磨工程の後に光学素子を音波清浄(超音波またはメガソニック)する工程とを少なくとも有する。別の実施形態においてコロイドシリカの粒径は200nm未満(<200nm)である。さらなる実施形態においてコロイドシリカの粒径は30〜200nmの範囲である。さらに別の実施形態においてコロイドシリカの粒径は100〜170nmの範囲である。
【0009】
別の実施形態において本発明はDUV光学素子を研磨する方法を目的とし、前記方法は、それを通して電磁波を伝送するための第1の面および第2の面を有するアルカリ土類金属フッ化物から製造されるDUV光学素子ブランクを提供する工程と、高pH洗剤溶液を用いて光学素子を超音波清浄し、その後に、脱イオン水洗浄を行なう工程と、1.5μmのダイヤモンドグリットスラリーを用いて光学素子ブランクの両面を研磨する工程と、高pH洗剤溶液を用いて、1.5μmのダイヤモンドグリットスラリーで研磨された光学素子を超音波清浄し、その後に、脱イオン水洗浄を行なう工程と、0.25μmのダイヤモンドグリットスラリーを用いて光学素子ブランクの両面を研磨する工程と、高pH洗剤溶液を用いて、0.25μmのダイヤモンドグリットスラリーで研磨された光学素子を超音波清浄し、その後に、脱イオン水洗浄を行なう工程と、高pHコロイド粒子シリカスラリーを用いて光学素子ブランクの両面を研磨する工程と、高pH洗剤溶液を用いて、コロイドシリカスラリーで研磨された光学素子をメガソニック清浄し、その後に、脱イオン水洗浄を行なう工程と、コロイドシリカスラリーで研磨された光学素子の両面をアセトン/アルコールで拭う工程とを有する。本方法は、500nm未満のコロイドシリカ含有スラリーまたは溶液を利用する。一実施形態においてコロイドシリカの粒径は200nm未満である。さらなる実施形態においてコロイドシリカの粒径は30〜200nmの範囲である。さらに別の実施形態においてコロイドシリカの粒径は100〜170nmの範囲である。
【0010】
本発明は、アルカリ土類金属フッ化物単結晶光学素子をさらに目的とし、前記光学素子が、MgF、CaF、BaFおよびSrF、およびそれらの混合物からなる群から選択されるアルカリ土類金属フッ化物から製造される単結晶光学素子を含む。光学素子の、研磨後のエッチングされない表面の粗さは0.2nm rms未満である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】沈降層および先行技術による0.1μmのダイヤモンド研磨の後に生じた表面下損傷の干渉計の図である。
【図1B】沈降層の表面の粗さ(上の破線)および先行技術による0.1μmのダイヤモンド研磨の後に生じた表面下損傷(下の破線)を示す。
【図2】先行技術によって仕上げられた光学素子の粗さおよびステップ高を示す棒図表である。
【図3】先行技術によって仕上げられたエッチングされたおよびエッチングされない表面の粗さを示すZygo NewView画像である。
【図4】本発明によるコロイドシリカを用いて仕上げられた光学素子の粗さおよびステップ高を示す棒図表である。
【図5】本発明によって仕上げられたエッチングされたおよびエッチングされない表面の粗さを示すZygo NewView画像である。
【図6】本発明の方法を使用するピッチ研磨前の清浄の影響を示す棒図表である。
【図7A】光学素子の表面上の固まったコロイドシリカを示すZygo NewView画像の上面図である。
【図7B】光学素子の表面上の固まったコロイドシリカを示すZygo NewView画像の3D図である。
【図7C】光学素子の表面上の固まったコロイドシリカを示すZygo NewView画像の光学上面図である。
【図8】CaFゼータ電位対pHのグラフである。
【図9】CaF対pHの溶解度を示す図表である。
【図10A】本発明によって研磨された光学素子のNewView画像である。
【図10B】本発明によって研磨された光学素子のNewView画像である。
【図11】本発明によって研磨された光学素子表面のAFM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の方法は一般に、アルカリ土類金属フッ化物単結晶光学部材(MgF、CaF、BaFおよびSrF、およびそれらの混合物から製造される部材)の研磨に関し、200nm未満の波長で作動するレーザーシステム、例えば、193nmおよび158nmのレーザーシステムにおいて使用するために適したCaF光学部材の製造に特に適している。ここではCaFは、本発明を説明するための典型的な材料として使用され、本明細書において言及された光学部材は、単結晶アルカリ土類金属フッ化物材料、例えば、CaFまたはおよび上に記載されたアルカリ土類金属フッ化物の混合物から製造されることは理解されるはずである。
【0013】
高純度のDUVグレードフッ化カルシウム(CaF)は、193nmのリソグラフィレーザー部品の最も適した光学素子材料である。CaF光学素子の表面の要求条件は、高精密表面仕上げ、低表面下損傷および清浄度である。しかしながら、CaF光学部材については、研磨ガラス光学部材、例えば、溶融シリカから製造される研磨ガラス光学部材のために用いられる酸化セリウム研磨溶液などの総合化学的−機械的研磨溶液は存在しない。代わりに、例えば、CaF光学素子のための現在の工業標準は機械的研磨である。しかしながら、材料が軟質であり比較的高い熱膨張率を有するので、単結晶CaF光学部材には機械的研磨は難しい手段である。
【0014】
現在、CaF光学部材の研磨のために、ダイヤモンドスラリーを利用するダイヤモンド粒径縮小研磨工程が製造において用いられている。例として、光学部材は、1.5、1.0、0.5および0.25μmのダイヤモンド粒径を用いる複数の工程において研磨され得る。スラリー中のダイヤモンド粒子は非常に硬質で、CaF表面とのそれらの反応はごくわずかであり、それは、研磨の現在使用される製造方法は主に、著しい表面下損傷を起こすことがある機械的研磨によって行なわれているという事実につながっている。表面下損傷(SSD)は、研磨プロセス中に生じる破損および引っ掻き傷として現れる。これらの破損および引っ掻き傷は、Hedら、“Optical Glass Fabrication Technology.“The relationship between surface roughness and subsurface damage”,Applied Optics,Vol.26,No.21、4677〜4680ページに記載されたような、表面が処理されている間に流れる材料の薄い層である、研磨再堆積層(Bielby層)によって部分的にまたは完全に覆われることがある。米国特許第7,128,984号明細書(Corning Incorporated)にもまた、準−Bielby層(quasi−Bielby layer)と呼ばれる沈降層を形成する様々な汚染物質の同様な再堆積について記載されている。材料のこの沈降層は、研磨コンパウンド、例えば、表面層中に混入するかまたは破損および引っ掻き傷に堆積し得る、スラリー残留物および研磨中に除去されたCaF材料を含有する。しかしながら、この堆積された材料は、特に耐久性に関して、高出力レーザーシステムにおいて使用する間に深刻な問題をもたらす。SSDは、破損強度を低下させ、光吸収汚染物質が潜伏する部位を提供し、破損表面またはその付近において原子を容易にイオン化させ、もしくは電磁場を局所的に変化させることによってレーザー損傷閾値を低下させる。図1は、0.1μmのダイヤモンド研磨および脱イオン(「DI」)に12時間浸漬した後に光学部材に生じた表面下損傷の図解である。
【0015】
Y.Nambaら、Annals Manufacturing Technology、Vol.53、No.1(2004年)(459ページ以下参照)は、直径7nmのSiOスラリーによるフロートポリッシングを使用して低表面下損傷CaF表面を達成し、研磨された表面の粗さが7.7Å(0.77nm)rmsであり、TEM横断面画像はCaF格子に亀裂がないことを明らかにした。R.Sabiaら、[Applied Surface Science、Vol.183、No.3−4(11月28日、2001年)、264ページ以下参照、および米国特許第6,595,834号明細書]はCaF表面のコロイドシリカ研磨を調査し、ダイヤモンドスラリーで研磨された表面の90.3%と比べて、この化学的機械的研磨方法は92%の強化された光学素子透過率をもたらすことを見出している。2008年7月28日に発明者C.Hayden、J.Feng,J.らの名で出願された、“Cleaning Method for DUV Optical Elements to Extend Their Lifetime”と題された権利者が共通の米国特許出願第12/180,849号明細書は、加速レーザー損傷試験において、ダイヤモンドスラリーで研磨されたCaFレンズが10億パルスの高フルエンス(120mJ/cm、200nm未満のレーザー放射に耐え得るシステマティックな清浄プロセスを開発した。本明細書に記載された方法は、DUV光学素子の研磨中に生じる表面下の引っ掻き傷および破損を除くかまたは実質的に除くことによって、アルカリ土類金属フッ化物(「AEMF」)DUV光学素子、例えば、CaF光学素子の寿命をさらに延ばし、AEMF DUV光学素子の寿命をさらに延ばし、それらが20億パルスを超える高フルエンス、200nm未満のレーザー放射に耐えることを可能にする。
【0016】
表1は、本発明および先行技術の方法によって光学素子を清浄および研磨する方法の比較である。表1から分かるように、本発明において、
● 0.25μのダイヤモンド研磨を実施し、アセトン/アルコールで拭いた(項目6および7)後、先行技術において用いられていない超音波(「US」)清浄工程(項目8)を導入し、
● 先行技術の0.1μmダイヤモンド研磨(項目10)の代わりにコロイドシリカ研磨工程(項目11)を使用し、
● コロイドシリカ研磨の後にメガソニック(「MS」)清浄工程(項目12)を導入する。
【0017】
先行技術の方法において存在しない工程のこの組合せは、先行技術によって製造された光学素子よりも粗さが低下し、より良い性能を有する研磨された光学素子をもたらす。
【表1】

【0018】
主に機械的研磨方式である完全なダイヤモンドスラリー研磨の先行技術の方法とは対照的に、コロイドシリカ研磨は、化学的−機械的研磨方式の方法である。非常に硬質であるダイヤモンド粒子に比べて、コロイドシリカ粒子は軟質かつ球形であり、研磨される表面に傷をつける鋭いエッジはない。さらに、コロイドシリカ粒子は、狭い粒径分布範囲で獲得され得る。コロイドシリカ粒子が高pH水性スラリー中で用いられるとき、表面と流動的に反応して、高空間周波数の引っ掻き傷または表面下損傷を生じずに粒子を機械的に研磨することを可能にする軟質水和層を形成する。また、高pHコロイドシリカスラリーによる研磨によって、シリカゲルタイプの軟質化合物が形成される可能性があり、これは引っ掻き傷およびスリーク(sleeks)の形成をさらに和らげると考えられる。
【0019】
先行技術の清浄プロセスは比較的穏当である。洗剤を用いる超音波清浄は、1.5μmのダイヤモンド研磨の後にのみ使用される。0.25μmのダイヤモンド研磨および0.1μmのダイヤモンド超研磨後の清浄は、外見的劣化を懸念して溶剤浸漬および拭取りに限られている。先行技術とは対照的に、各研磨工程の後、すなわち、1.5μmダイヤモンド、0.25μmダイヤモンドおよびコロイドシリカ研磨の後の高pH洗剤超音波/メガソニック清浄は表面の美観を損なわないことが見出されたが、表面下損傷の発生を低減することが不可欠である。最終コロイドシリカ研磨工程の後、メガソニック清浄槽中で高pH洗剤による清浄を実施し、その後にDIメガソニック洗浄を実施すると、研磨残留物をかなり除去し、非常に低い粒子数を有する清浄表面を生じる。本発明の好ましい実施形態においてメガソニック清浄は、表面への影響がかなり少ないため、全ての清浄工程のために用いられる。超音波周波数を用いて約2マイクロメートル以上のキャビテーションが生じることがあり(40kHzにおいて気泡サイズは約8〜10マイクロメートルであり得る)、基材表面と衝突時にキャビテーション気泡が破裂するなどの攻撃的なプロセスをもたらす。超音波清浄中にそれが光学素子表面に衝突する時に激しく気泡が崩壊するために、表面の点蝕および荒れなどの表面損傷は普通である。メガソニック清浄方法は、より小さなキャビテーションサイズを生じ(800kHzにおいてこれは約800nmである)、超音波清浄よりも穏やかなプロセスである。メガソニック清浄の技術文献の例は、G.Galeら、How to Accomplish Effective Megasonic Particle Removal、Semiconductor International、1996年8月、133〜138ページ、およびGaleら、Roles of Cavitation and Acoustic Streaming in Megasonic Cleaning,Particulate Science and Technology,Vol.17(1999年)、229〜238ページである。
【0020】
さらなる実施形態において本発明は、研磨ピッチをその上に有さず本明細書に記載されたようにコロイドシリカと併用される軟質化学的−機械的研磨パッド(例えば、Rohm & Haas Company(ペンシルバニア州、フィラデルフィア所在)または Eminess Technologies(アリゾナ州、テンペ所在)から市販されている「CMP」パッド)を利用する任意の最終「キス研磨(kiss polishing)」工程を有する。このような軟質パッドの実施例は、ポリウレタンパッドまたは化学的および研磨剤作用のパッド等価物である。
【0021】
図1Aおよび1Bは、先行技術の方法を用いて研磨されたCaF光学素子を示し、NewView(商標)干渉計(Zygo Corporation(コネチカット州、ミドルフィールド所在))を用いて得られた。図1Aは、表1に記載されたような先行技術の方法を用いて研磨後に光学素子上に存在している沈降層10および表面下(「SSD」)損傷12を示す。[図1Aにおいて沈降層(Bielby層)は、数字10が示す角括弧によって示され、カッコ内の明るいおよび暗い領域の両方を含む。暗い領域は図1Bに示されるように画像の不均等な表面レベルによって引き起こされ、光の反射の差異によると考えられる]図1Bは、研磨後の表面の粗さ(すなわち、最後にアセトン/アルコールによって拭いた後の沈降層の粗さ)および見えるようにされたSSDの粗さを示す。沈降層の粗さは0.2nm rmsであり、見えるようにされたSSDの粗さは4.2nm rmsである。
【0022】
図2は、表1に記載されたように先行技術によって仕上げられた複数の光学素子を示す棒グラフである。図2に示されるように、エッチング前の表面の粗さ(すなわち、研磨後に存在する沈降Bielby層の粗さ)は約0.2nm rmsである。しかしながら、表面のエッチング後、粗さは2.0〜4.0nmの範囲の値に低下し、大きさの程度が増加する。ステップ高は25〜45nmの範囲であり、図2に示されるように平均は36nmである。
【0023】
図3は、表1に記載されているような先行技術によって研磨されて清浄された単一の代表的な光学素子を示す。Bielby層に関連していてBielbyの上部とエッチングされた表面との間の大体の差である「ステップ高」を定量するために表面の一部がエッチングされた。エッチング後、これにより沈降表面層24を除去してSSD22を見えるようにするが、エッチングされた表面の粗さは、上に言及されたような0.2nm rmsの粗さを有したエッチングされない表面とは対照的に、約4.2nm rmsである。「ステップ高」は、沈降Bielby層の上部とエッチング後の表面との間の差であり、約35nmである。エッチングは、沈降Bielby層を除去するだけでなく、CaF材料自体の一部を除去することもある。従って、上に記載されたように測定されたステップ高は、Bielby層よりも大きいことがある。DI水を用いてエッチングが行なわれる間、酸性溶液もまたエッチング剤として使用することができる。このような酸溶液の例には、限定せずに、HCl、HNO、HSO、HPOおよびクエン酸の0.1M溶液などがある。図3から分かるように、ダイヤモンド研磨はSSDをもたらすが、それは光学素子がエッチングされた後に見えるようにされるにすぎない。エッチング時間は、エッチング溶液の温度およびpHなどの多数のパラメータに左右される。DI水(pH=7)については、エッチングは典型的に、8〜15時間の範囲の時間、典型的に12時間室温、約18〜25℃において行なわれる。酸性溶液が使用され、および/または温度が上昇されるとき(例えば、t>25℃〜約60℃の範囲の温度まで)、エッチング時間は、酸濃度および酸溶液の温度に応じて、例えば5分〜4時間に減少され得る。
【0024】
本発明の方法を用いて、図1および3に示されたようなより薄い沈降表面層および表面下欠陥を有する光学素子を製造する。上に示したように、本発明の方法は、コロイドシリカ研磨工程と、その後に、メガソニック清浄工程とを有する。本発明によって用いられたコロイドシリカは、100〜170nmの範囲の粒径を有する。コロイドシリカ研磨は、CYCAD Products(ニューメキシコ州、ラスベガス所在)またはZophar Mills(ニューヨーク州、ノースアミティビル)から入手可能なアルミナまたはセリアなどのアルミナまたはセリアと併用するために適した市販の光学素子研磨ピッチを用いて行なわれた。
【0025】
図4は、12〜15時間Cycadピッチ上の150〜170nmのシリカを用いて本発明によって清浄および研磨された合計27個の光学素子を示す。これは、かなり少なめの表面下損傷および良い表面仕上げを有する光学素子をもたらした。次に、図1〜3に示された先行技術の光学素子と同じ時間DI水を用いて、各光学素子の表面の一部をエッチングした。図4に示された平均の結果は、本発明の方法を用いて、光学素子のエッチングされた部分とエッチングされない部分の表面の粗さの間の差が比較的実質的にないことを示す。研磨された表面の粗さは0.5nm未満であり、水エッチング後、表面の粗さの増加は0.1nmより少なく、表面下損傷が低いことを示す。ステップ高は6nm未満であり、20〜45nmの範囲のステップを有し平均約35nmである先行技術によって加工された光学素子のステップ高よりもかなり低い。図4によって示された光学素子は、好ましくはメガソニック清浄工程である最終音波清浄工程の後に沈降Bielby層を実質的に含有しない。先行技術の方法が用いられる時に存在するBielby層よりも典型的にかなり薄いが、Bielby層がいくつか存在する場合がある。
【0026】
図5は、コロイドシリカ研磨CaF表面のエッチングされた表面22およびエッチングされない表面24のZygo NewView画像である。エッチングは、DI水を用いて12時間行なわれた。研磨されたがエッチングされない領域24の粗さは0.42nm rmsであり、エッチングされた領域22の粗さは0.426nm rmsである。ステップ高は4nmであり、先行技術の光学素子の35nmの平均ステップ高の1/9の低減を示す。
【0027】
図6は、0.25μmのダイヤモンド研磨の後およびピッチ研磨(0.1μmまたは100〜170nmのコロイドシリカのどちらかを使用する)の前の超音波またはメガソニック清浄(メガソニックが好ましい)の清浄工程が、ステップ高およびエッチングされた領域の粗さによって示されるような表面下損傷に与える影響を示す。この付加的な工程は、表1の項目8である。
【0028】
図6に示された結果は、0.25μmの研磨工程の後の清浄は、清浄工程が用いられる時にステップ高の66〜75%の低減および約60%のエッチングされた領域粗さをもたらすことを示す。清浄された研磨試料と清浄されない研磨試料(棒の右側の組)との間に著しい差がないという事実は、0.25μmのダイヤモンド研磨後に溶剤で単に拭くことは0.25μmのダイヤモンド研磨スラリーを効率的に除去することができず、0.25μmのダイヤモンド粒子が0.1μmのダイヤモンドピッチ研磨中にCaF表面上にまだ残っており、過度の引っ掻き傷および表面下損傷を生じることを示す。これは、表面に圧入され押し付けられている大きめの粒子を可視化することによって容易に理解され、そこで加圧力は、サイズの勾配のために全ての研磨粒子間に均一に分散されない。大きめの0.25μmの粒子は、0.1μmの粒子よりも深い窪みを生じさせることがあり、従って、より深い引っ掻き傷をもたらし、メガソニックまたは超音波清浄されなかった試料のより深いエッチングステップ高およびより高いエッチングされた領域のRMS粗さによって明らかにされるように、より深い表面下損傷を生じる。従って、0.25μmダイヤモンドスラリー研磨の後に清浄工程を行ない、コロイドシリカを用いて仕上げする前に0.25μm粒子を除去することが必要であるのは明らかである。
【0029】
また、コロイドシリカ研磨の後の最終清浄は、コロイドシリカスラリーが研磨表面上で乾燥すると清浄するのが非常に難しいという事実のために重要である。図7は、清浄中に除去できないパッチまたは島を形成する乾燥したコロイドシリカスラリーを示すZygo NewViewである。シリカ粒子のIEP(等電点)はpH2〜3.5の間である。CaF粒子については、図8に示されるように、IEPは、CaF表面の流動電位の測定値を得ることが難しいため、ゼータ電位によって測定された場合、pH9.2である。清浄中にシリカ粒子とCaF表面との間の忌避力(repellant forces)を生じるために、従って、pHが9.26を超えるスラリーを使用することが必要である。従って、本発明の実施形態において最終メガソニック清浄(表1の項目12)は、9.5を超えるpHにおいておよび好ましくは10を超えるpHにおいて行なわれる。10を超えるpHは、研磨後にCaF表面上に残された残留したシリカをより有効に溶解し、従って清浄効率を強化する。さらに、図9に示されるようにpHが高くなればなるほどCaFの溶解度が低くなり、それは、DI水(pH=7)がエッチング剤として用いられる時よりもpH11〜12においてのCaF表面のエッチングが少ないことを意味する。結果として、高pH洗剤洗浄が最終清浄工程として用いられるとき、DI水が用いられる場合よりも清浄溶液によるエッチングのために効果を殺ぐ作用が弱まり、表面の粗さの悪化を最小にするという別の利点がある。本発明の実施において使用され得る市販の洗剤の例はSemiclean KGであり、これはしばしばガラスおよび光学素子清浄のために使用され、11〜13の範囲のpHを有する。調合された洗剤は、金属イオンおよび粉塵を除去するキレート化剤、および特定の有機残留物を除去するための界面活性剤を有する。他の高pH清浄溶液、例えばSC1(過酸化水素、アンモニアおよびDI水の混合物)またはNHOH溶液を単独で清浄溶液として使用することができる。
【0030】
図10は、洗剤洗浄後の典型的な表面であり、それから分かるように、粒子または残留コロイドシリカスラリーが表面上に残っていない。研磨および清浄後に、表面の粗さrmsは、Zygo NewView画像およびAFM画像によって示されるように0.3〜約5nmである。洗剤洗浄およびDI洗浄後、CaF試料をアセトン浸漬拭き取り材によってそっと注意深く拭き、残留水を除去して表面をより速く乾燥させる。次に、紫外線/オゾンを用いてそれらをさらに清浄し、一切の有機残留物を除去した。保護コーティングが適用される場合、非常に軽度の酸素プラズマを用いて光学素子をさらに清浄にし、取扱い中に増加したかもしれない単層有機汚染物を除去した。図11は、図10に示された同じ表面のAFM画像であり、表面の平滑性を示す。
【0031】
本発明は、一般的におよび実施例によって詳細に説明された。当業者は、本発明が、開示された特定の実施形態に必ずしも限定されないことを理解する。以下の請求項またはそれらの等価物、例えば、本発明の範囲内で使用され得る現在公知のまたは開発され得る等価の構成要素によって規定されるように、本発明の範囲から逸脱せずに改良および改変を行なってもよい。従って、他の方法による変更が本発明の範囲から逸脱しない限り、変更は本明細書に包含されるものと見なされるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DUV光学素子を研磨する方法であって、
それ自体を通して電磁波を伝送するための第1の面および第2の面を有するアルカリ土類金属フッ化物から製造されるDUV光学素子ブランクを提供する工程と、
高pH洗剤溶液を用いて前記光学素子を超音波清浄し、その後に、脱イオン水洗浄を行なう工程と、
1.5μmのダイヤモンドグリットスラリーを用いて前記光学素子ブランクの両面を研磨する工程と、
高pH洗剤溶液を用いて、前記1.5μmのダイヤモンドグリットスラリーで研磨された光学素子を超音波清浄し、その後に、脱イオン水洗浄を行なう工程と、
0.25μmのダイヤモンドグリットスラリーを用いて前記光学素子ブランクの両面を研磨する工程と、
高pH洗剤溶液を用いて、前記0.25μmのダイヤモンドグリットスラリーで研磨された光学素子を超音波清浄し、その後に、脱イオン水洗浄を行なう工程と、
500nm未満の粒径を有する高pHコロイド粒子シリカスラリーを用いて前記光学素子ブランクの両面を研磨する工程と、
高pH洗剤溶液を用いて、前記コロイドシリカスラリーで研磨された光学素子をメガソニック清浄し、その後に、脱イオン水洗浄を行なう工程と、
前記コロイドシリカスラリーで研磨された光学素子の両面をアセトン/アルコールで拭う工程と
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記コロイドシリカが200nm未満の粒径を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コロイドシリカが30〜170nmの範囲の粒径を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記洗剤洗浄液がpH≧10を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記コロイドシリカスラリー研磨が10〜15時間の範囲の時間行なわれることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
研磨ピッチコーティングをその上に有する研磨パッドを用いて前記コロイドシリカ研磨が行なわれることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記研磨パッドが、研磨ピッチコーティングをその上に有するCMP研磨パッドであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
アルカリ土類金属フッ化物単結晶光学素子であって、前記光学素子が、MgF、CaF、BaFおよびSrF、およびそれらの混合物からなる群から選択されるアルカリ土類金属フッ化物から製造される単結晶光学素子を含み、前記光学素子の、研磨されたがエッチングされない表面の粗さが0.5nm未満であり、前記研磨されたがエッチングされない表面が沈降Bielby層を実質的に含有しないことを特徴とする、アルカリ土類金属フッ化物単結晶光学素子。
【請求項9】
研磨されてエッチングされた表面の粗さが0.6nm未満およびステップ高が6nm未満であることを特徴とする、請求項8に記載の光学素子。
【請求項10】
研磨されてエッチングされた表面の粗さが0.5nm未満およびステップ高が5nm未満であることを特徴とする、請求項8に記載の光学素子。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−89251(P2010−89251A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−196686(P2009−196686)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【復代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
【Fターム(参考)】