説明

金属ベース回路基板及びその製造方法

【課題】絶縁層カケの無い、沿面放電耐圧特性及び絶縁信頼性に優れる金属ベース回路基板を提供する。
【解決の手段】プレス金型の抜き落とし箇所に最大剪断荷重の1.0倍から0.1倍の力を有するプッシュバック機構を設け、且つダイスと地面の隙間にロックウェル硬度で50〜80の硬度を有する鋼材を設けた金属ベース回路基板の製造方法であり、前記方法で得られた、絶縁層の厚みが150μm〜450μmであることを特徴とする金属ベース回路基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器、通信機、自動車等の幅広い分野で半導体搭載用の金属ベース回路基板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器、通信機、自動車等の幅広い分野で半導体素子やいろいろの電気部品を搭載した回路基板が知られているが、安価で、しかも熱放散性に優れるという理由で金属ベース回路基板が注目され、用いられている。
【0003】
金属ベース回路基板は、熱放散性に優れる金属板の一主面上に絶縁層を介して回路を設けた構造を有し、該金属板には、鉄、アルミニウムが多く使用され、絶縁層は、酸化アルミニウム等の無機充填材を含有するエポキシ樹脂等の樹脂からなり、また、回路は、いろいろな金属箔から形成され、通常は銅、アルミニウム、或いは銅とアルミニウムとの複合材が多用されている。
【0004】
前記金属ベース回路基板は、複数個の金属ベース回路基板が面付けされた金属ベース回路基板原板を個片に分割することで多量に生産されるのが一般的で、前記分割に際してはプレス金型で打抜く方法が一般的に行われている(特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開平7−142861号公報
【特許文献2】特開平11−284335号公報
【特許文献3】特開2005−166868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記プレス金型の打抜き方法において、複数個の金属ベース回路基板を一括で打抜く構造の為、打抜く際の金型にひずみが発生したり、また回路基板へ掛かる応力の不均一化が発生したりすることがあり、この為に、絶縁層端面にカケが発生し、絶縁層の機能が損なわれ、回路基板の沿面放電耐圧特性の低下及び絶縁性の低下を引起すことがあった。沿面放電耐圧特性の低下及び絶縁性の低下は、回路基板の信頼性低下、高電圧での使用不可という重大な問題を生じることとなる。
【0006】
上記問題解決を目的に、プレス金型の材料硬度を上げ、且つ研磨頻度を増やし、より高いエネルギーで回路基板を打抜く事により、絶縁層カケの発生を防止しているのが現状である。しかしこの方法では、材料の硬度を上げる程、研磨頻度を増やす程、加工価格が増大するという問題が発生する。また、上記方法では完全に絶縁層カケを防止する事が出来ないというのが現状である。
【0007】
本発明は、上記公知技術の問題を解決し、絶縁層カケのない、絶縁信頼性に優れる金属ベース回路基板と、当該金属ベース回路基板を安定して、従い生産性良く提供できる製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、金属板に複数の回路が絶縁層を介して設けられている金属ベース回路基板原板から、それぞれの回路基板をプレス金型で分割する金属ベース回路基板の製造方法であって、プレス金型で分割する際に、プレス金型の抜き落とし箇所に金属板が受ける最大剪断荷重の1.0倍から0.1倍の力を受けるプッシュバック機構を設けたプレス金型を用いることを特徴とする金属ベース回路基板の製造方法であり、好ましくは、ダイスを、ロックウェル硬度で50〜80の硬度を有する鋼材のスペーサーで支持することを特徴とする前記の金属ベース回路基板の製造方法である。
【0009】
本発明は、前記の金属ベース回路基板の製造方法で得られる金属ベース回路基板であって、絶縁層の厚みが150μm〜450μmであることを特徴とする金属ベース回路基板である。
【0010】
本発明は、前記の金属ベース回路基板の製造方法で得られる金属ベース回路基板であって、絶縁層の25℃での貯蔵弾性率が1GPa〜1TPaであることを特徴とする金属ベース回路基板である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属ベース回路基板の製造方法は、金属板に複数の回路が絶縁層を介して設けられている金属ベース回路基板原板から、それぞれの回路基板をプレス金型で分割する金属ベース回路基板の製造方法に於いて、プレス金型に特定の強度を持つプッシュバック機構と特定の硬度を持つスペーサーを設けることにより、絶縁層カケの発生の無い、絶縁信頼性の良好な金属ベース回路基板を得ることができるという効果を示す。
【0012】
本発明の金属ベース回路基板は、プレス金型で打抜く際に絶縁層端面に不均一な加圧力が加わらないため絶縁層のカケが発生しないので、耐絶縁性、耐沿面放電性、外観に優れ、信頼性が高いという特徴が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の金属ベース回路基板とそれを得るのに用いる金属ベース回路基板原板の一例を示す模式図であり、図2は、本発明に用いられるプレス金型の一例を示す模式図である。また、図3は、従来技術において用いられるプレス金型の模式図である。
【0014】
金属ベース回路基板原板は、図1(a)に平面図を、図1(b)に断面図を例示したとおりに、金属板1上に絶縁層2を介して複数の回路3が設けられている。金属ベース回路基板原板は、一般に、金属板1上に無機質充填材を含有する樹脂からなる絶縁層2を塗布し、更に金属箔を貼着し、前記樹脂層を加熱硬化した後、前記金属箔をエッチング等の方法で加工することで複数の回路3を形成する方法等によって製造される。そして、金属ベース回路基板原板をプレス金型で打抜くことで、個々の金属ベース回路基板を製造する。
【0015】
本発明では、プレス金型での打抜きに際し、特定強度のプッシュバック機構を有し、また特定硬度のスペーサーを有するプレス金型を用いることを特徴としている。本発明に用いるプレス金型を図2に例示する。プレス金型12はパンチ6と該パンチの少なくとも一部を収納できる空間を有するダイス8とからなっていることを特徴とする。一般的には、ダイス8を固定された下ダイセット9にセットし、該ダイス6上の所定の位置に金属ベース回路基板原板を載置した状態で、上下に可動なダイセット4に固定されたパンチ6を動かすことで、打抜きを行う。本発明においては、該パンチの少なくとも一部を収納できる空間に打抜き時の応力を均一化するためプッシュバック機構11を、またダイス下の空間にスペーサー10を設けることを本質的とする。
【0016】
本発明に於いては、プッシュバック11の強度を金属板が受ける最大剪断加重の1.0倍から0.1倍であることを特徴とする。プッシュバック11の強度が最大剪断加重の0.1倍未満では、支えが不十分で、打抜き時の応力不均一に繋がり、絶縁層カケが発生する可能性が出てくるし、1.0倍を超えると打抜き時に金属ベース基板へ加える応力が弱まり、金属バリの発生や打抜き不良を発生させてしまうからである。
【0017】
また、本発明に於いて、スペーサー10の硬度をロックウェル硬度で50〜80であることが好ましい。スペーサーの硬度がロックウェル硬度で50以下となると、打抜き時の金型ひずみを発生し、金属ベース基板への応力不均一化に繋がり、絶縁層カケを発生してしまうし、硬度が80以上のものは材料的に高価となるため経済的に好ましくない。
【0018】
本発明の金属ベース回路基板は、上記特定のプレス金型を用いて得られたものであって、絶縁層の厚みが150μm〜450μmであることを特徴とする金属ベース回路基板である。150μm未満では、十分な絶縁信頼性を有することができないし、450μmを超えると金属ベース回路基板の放熱性が低下するため好ましくない。
【0019】
また、本発明の金属ベース回路基板は、上記特定のプレス金型を用いて得られたものであって、絶縁層の25℃での貯蔵弾性率が1GPa〜1TPaであることを特徴とする金属ベース回路基板である。1GPa未満では、プレス金型で打抜く際の加工性が低下して金属のバリが発生するし、1TPaを超えるとプレスの圧力によって絶縁層が割れ、絶縁信頼性を大きく損なう可能性があるため好ましくない。
【0020】
尚、前記プレス金型については、前記特徴を有しさえいればどのようなものでも良く、特に、パンチ6とダイス8の組み合わせ数は1組みでも複数組みであっても差し支えないし、パンチ6とダイス8の上下位置が逆であっても、或いは、同一金型内に穴明け機能を組み込んだコンパウンドタイプであっても構わない。
【0021】
尚、本発明において、金属板1は、アルミニウム、鉄、銅等或いはこれらの合金、複合材のいずれでも構わないが、熱放散性が良く、安価で、軽量であることから純アルミニウム、アルミニウム合金が好ましく用いられる。通常の板厚は0.5〜5.0mmの範囲である。
【0022】
また、絶縁層2としては、絶縁性を有する材質であればいずれも採用でき、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂が用いられる。このうち、エポキシ樹脂は金属板1、回路3との接着性に優れることから好ましく選択される。また、樹脂は、樹脂単独で用いる他、ガラス布、粉末状或いは繊維状のいろいろな無機フィラーを充填したもの、或いは、これらを組み合わせた形態で用いることができる。
【0023】
絶縁層の作り方については、金属板上に塗布してもよいし、一旦フィルム状として、貼着することで設けることもできる。尚、前記無機フィラーに関しては、酸化アルミニウム、酸化珪素、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化硼素等の高い電気絶縁性を有し、しかも熱伝導率の高いものが好ましい。
【0024】
回路3となる金属箔は、銅箔、銅箔にNiめっき或いはAuめっきを施したもの、アルミニウム箔、或いはアルミニウム箔に銅箔を接合したもの等のいずれも採用できる。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
二酸化珪素74質量%を含有するエポキシ樹脂を、加熱硬化後に300μmの厚みとなるようにアルミニウム板(厚さ1.5mm)上に塗布し、厚さ35μmの銅箔を接着し、加熱硬化した後、前記銅箔をエッチング処理して回路形成して複数個の回路を有する金属ベース回路基板原板を作製した。このとき、絶縁層の25℃での貯蔵弾性率は9.0GPAであった。
【0026】
前記金属ベース回路基板原板から、図2に示すとおりに、一度に2個の金属ベース回路基板が打ち抜けるプレス金型を用い、個々の金属ベース回路基板を打抜き、分割した。尚、プレス金型のそれぞれの抜き落とし箇所に金属板が受ける最大剪断荷重の0.2倍の力を受けるプッシュバック機構を設け、且つロックウェル硬度60の鋼材のスペーサーをダイス下の空間に設けた。打抜き条件としては、プレス機として小松製作所製;OBS45プレス機を用い、70ストローク/毎分の打抜き速度とした。打抜いた金属ベース回路基板1個の切断総長は352mmであり、打抜く際の切断抵抗は10.8kg/mm2であった。
【0027】
得られた金属ベース回路基板について、後述する通りに、各種の特性を調べ、その結果を表1に示した。
【表1】

【0028】
<耐電圧>測定用試料として銅箔の周囲をエッチングし、直径20mmの円形部分を残し試料とした。温度121℃、湿度100%RH、2気圧、96時間の条件下に暴露した前後の耐電圧について、試験片を絶縁油中に浸漬し、室温で交流電圧を銅箔とアルミニウム板間に印加させ、JIS C2110に基づき測定した。測定器には、菊水電子工業社製、「TOS−8700」を用いた。
【0029】
<絶縁層欠け>目視にて観察した。
【0030】
<金属バリ>目視にて観察した。
【0031】
<熱抵抗値>測定用試料として試験片を3×4cmに切断し、10×15mmの銅箔を残した。銅箔上にTO−220型トランジスターを半田付けし、水冷した放熱フィン上に放熱グリースを介して固定した。トランジスターに通電し、トランジスターを発熱させ、トランジスター表面と金属基裏面の温度差を測定し、熱抵抗値を測定し、放熱グリースの熱抵抗値を補正する事により、求める試験片の熱抵抗値(A;K/W)を測定した。
【0032】
<沿面放電耐圧>測定用試料として、混成集積回路基板の沿面から2mm距離に直線の銅回路を形成した。室温で交流電圧を銅箔回路とアルミニウム板間に印加し、沿面放電の発生電圧を測定した。
【0033】
(実施例2〜7)
プッシュバックの強度、スペーサーの硬度、絶縁層の厚み、絶縁層の貯蔵弾性率を表1に示す通りに変えたこと以外は実施例1と同様の方法で樹脂組成物及び樹脂硬化体、更に基板、回路基板、混成集積回路を作製し、評価した。この結果を表1に示した。
【0034】
(比較例1)
プッシュバック機構及びスペーサーを外したこと以外は実施例1と同様の操作で回路基板を作製し、評価した。この結果を表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の金属ベース回路基板の製造方法は、特定の強度を持つプッシュバック機構と特定の硬度を持つスペーサーを設けることにより、絶縁層カケの発生の無い、信頼性の高い金属ベース回路基板を提供することが出来るので、産業上極めて有用である。
【0036】
本発明の金属ベース回路基板は、プレス金型で打抜く際に絶縁層端面に不均一な加圧力が加わらないため絶縁層のカケが発生しないので、耐絶縁性、耐沿面放電性、外観に優れ、信頼性が高いので、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施例に係る金属ベース回路基板を得るための金属ベース回路基板原板の模式図で、(a)、(b)はそれぞれ金属ベース回路基板原板の平面図と断面図。
【図2】本発明の実施例に用いたプレス金型の模式図で、金属ベース回路基板原板をセットした状態を示す断面図。
【図3】本発明の比較例に用いた従来公知のプレス金型の模式図で、金属ベース回路基板原板をセットした状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0038】
1 :金属板
2 :絶縁層
3 :回路
4 :上ダイセット
5 :板押さえ
6 :パンチ
7 :金属ベース回路基板
8 :ダイス
9 :下ダイセット
10 :スペーサー
11 :プッシュバック
12 :プレス金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板に複数の回路が絶縁層を介して設けられている金属ベース回路基板原板から、それぞれの回路基板をプレス金型で分割する金属ベース回路基板の製造方法であって、プレス金型で分割する際に、プレス金型の抜き落とし箇所に金属板が受ける最大剪断荷重の1.0倍から0.1倍の力を受けるプッシュバック機構を設けたプレス金型を用いることを特徴とする金属ベース回路基板の製造方法。
【請求項2】
プレス金型のダイスを、ロックウェル硬度で50〜80の硬度を有する鋼材のスペーサーで支持することを特徴とする請求項1記載の金属ベース回路基板の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の金属ベース回路基板の製造方法で得られる金属ベース回路基板であって、絶縁層の厚みが150μm〜450μmであることを特徴とする金属ベース回路基板。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の金属ベース回路基板の製造方法で得られる金属ベース回路基板であって、絶縁層の25℃での貯蔵弾性率が1GPa〜1TPaであることを特徴とする金属ベース回路基板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−218596(P2008−218596A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52236(P2007−52236)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】