説明

金属加工用潤滑油組成物

【課題】金属又はその合金の板あるいは箔、特に、アルミニウム等の非鉄金属の板あるいは箔を金属加工する際、加工性に優れ、圧延摩耗粉の発生量を抑制すると共に、ロールコーティング発生を抑制し、表面品質に優れる製品を得ることができる金属加工用潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】鉱油及び/又は合成油からなる基油と、組成物全量基準で、(A)一般式(I)


[式中、R1はアルキル基、アルケニル基又はアリールアルキル基、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基、A1OおよびA2Oは、それぞれ独立にオキシアルキレン基、nは0、1又は2、p+qは平均付加モル数で0〜5の数を示す。]
で表されるグリセリン誘導体0.01〜5.0質量%、及び(B)油性剤0.1〜15質量%を含む金属加工用潤滑油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属加工用潤滑油組成物、さらに詳しくは、金属又はその合金の板あるいは箔の加工、特に、アルミニウム又はアルミニウム合金等の非鉄金属の圧延,絞り,打抜き,引抜き,冷間鍛造等の塑性加工及び金属の切削,研削加工等の金属加工に有効に使用できる金属加工用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属又はその合金の板あるいは箔を圧延等の金属加工する際に用いられる金属加工用潤滑油組成物には、生産性向上の見地から、圧延性能等の金属加工性能が要求される。同時に、加工後の金属表面の品質、特に、表面仕上げが良好であることが要求される。
従来、アルミニウム又はアルミニウム合金、銅又は銅合金等の非鉄金属の板もしくは箔の圧延加工には、鉱油や合成系炭化水素油に、アルコール類,脂肪酸エステル類,脂肪酸等の油性剤や極圧剤を配合した潤滑油が用いられてきた。
【0003】
しかしながら、近年、特にアルミニウムの圧延加工品においては、電子材料への用途の拡大もあり、圧延後の板表面に残る圧延の際に発生する圧延摩耗粉が少ないことが求められるようになった。電子材料用途では高純度のアルミニウムが用いられることが多く、軟らかいため摩耗粉が生じやすい。圧延時に発生するアルミニウム等の金属摩耗粉は、圧延後に板表面に不均一な汚れを生じ、焼鈍後にステインを生じる原因となり、表面品質を低下させる。圧延時に発生する摩耗粉量が少なくなれば、製品の表面品質を向上できるとともに、さらに圧延板の洗浄工程や圧延油の浄化に費やすコストや労力を少なくすることができる。
【0004】
一方、金属材料の圧延において、圧延が正常に行われている際に圧延材が通過した部分のワークロールには、ロールコーティングと呼ばれる一定の色調で着色する現象が生じる。このロールコーティングは、該ワークロ-ルが圧延材に常に直接接触していることから、圧延性や圧延製品の表面性状と大きな関係がある。
前記ワークロールは、金属材料を圧延することにより、摩擦熱や加工熱で熱膨張するため、板幅方向の圧延圧力が不均一となり、ロールコーティングにむらが生じやすくなる。このコーティングむらは、転写により圧延板の表面にむらを生じさせて光沢むらを引き起こし、特に高い表面品質が要求される金属材料の圧延においては大きな問題となる。
【0005】
したがって、潤滑性能が良好で加工効率に優れ、圧延摩耗粉の発生量を抑制すると共に、ロールコーティングの発生を抑え、ひいてはロールコーティングむらの発生を抑制し得るアルミニウムの圧延加工に好適な金属加工用潤滑油組成物を開発することが要望されている。そこで、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、(a)1−テトラデセン等の直鎖オレフィンと(b)鉱油及び/又は合成油とからなる基油に、(c)グリセリンモノ脂肪酸エステルなどの多価アルコール部分脂肪酸エステルを配合してなる金属加工用潤滑油組成物を開発したが(特許文献1参照)、その効果の点において、まだ改良の余地があった。
【0006】
【特許文献1】特開平8−53685号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況下で、金属又はその合金の板あるいは箔、特に、アルミニウム等の非鉄金属の板あるいは箔を金属加工する際、加工性に優れ、圧延摩耗粉の発生量を抑制すると共に、ロールコーティングの発生を抑制し、表面品質に優れる製品を得ることができる金属加工用潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の好ましい性質を有する金属加工用潤滑油組成物を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、基油に、特定の構造を有するグリセリン誘導体及び油性剤を、それぞれ所定の割合で配合することにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)鉱油及び/又は合成油からなる基油と、組成物全量基準で、(A)一般式(I)
【0009】
【化1】

[式中、R1はアルキル基、アルケニル基又はアリールアルキル基、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基、A1OおよびA2Oは、それぞれ独立にオキシアルキレン基、nは0、1又は2、p+qは平均付加モル数で0〜5の数を示す。]
【0010】
で表されるグリセリン誘導体0.01〜5.0質量%、及び(B)油性剤0.1〜15質量%を含むことを特徴とする金属加工用潤滑油組成物、
(2)(A)成分のグリセリン誘導体において、一般式(I)におけるR1が炭素数12〜18のアルキル基若しくはアルケニル基、R2及びR3が、それぞれ水素原子、nは0又は1、p+q=0である上記(1)項に記載の金属加工用潤滑油組成物、
(3)(B)成分の油性剤が、アルコール類、脂肪酸類及び脂肪酸エステル類の中から選ばれる少なくとも1種である上記(1)又は(2)項に記載の金属加工用潤滑油組成物、
(4)金属加工が、非鉄金属材料の冷間圧延である上記(1)〜(3)項のいずれかに記載の金属加工用潤滑油組成物、及び
(5)非鉄金属材料がアルミニウム材又はアルミニウム合金材である上記(4)項に記載の金属加工用潤滑油組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金属又はその合金の板あるいは箔、特に、アルミニウム等の非鉄金属の板あるいは箔を金属加工する際、加工性に優れ、圧延摩耗粉の発生量を抑制すると共に、ロールコーティングの発生を抑制し、表面品質に優れる製品を得ることができる金属加工用潤滑油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の金属加工用潤滑油組成物(以下、単に潤滑油組成物と称することがある。)は、鉱油及び/又は合成油からなる基油と、(A)特定の構造を有するグリセリン誘導体及び(B)油性剤を含む潤滑油組成物である。
本発明の潤滑油組成物における基油である鉱油及び/又は合成油としては、40℃における動粘度が、通常0.5〜30mm2/s程度、好ましくは1.0〜15mm2/s、特に1.5〜5mm2/sのものが好適に用いられる。
このうち鉱油としては、種々のものを挙げることができる。例えば、パラフィン基系原油,中間基系原油あるいはナフテン基系原油を常圧蒸留するか、あるいは常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油、またはこれを常法にしたがって精製することによって得られる精製油、例えば、溶剤精製油,水添精製油,脱ロウ処理油,白土処理油等を挙げることができる。
【0013】
また、合成油としては、炭素数6〜30の直鎖オレフィン(好ましくはα−オレフィン)、分岐オレフィン(例えば、ポリブテン,ポリプロピレン等)、それらのオレフィンの水素添加物、ポリオールエステル〔例えば、TMP(トリメチロールプロパン)脂肪酸エステル,PE(ペンタエリスリトール)脂肪酸エステル等〕等のエステル系化合物などを用いることができる。特に、低分子量ポリブテン、低分子量ポリプロピレン及びこれらの水素添加物、並びに炭素数10〜16のα−オレフィンが好ましく用いられ、α−オレフィンがより好ましく用いられる。α−オレフィンを用いると、加工性をさらに向上することができる。
本発明の潤滑油組成物においては、基油として、前記鉱油を1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また前記合成油を1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、鉱油1種以上と合成油1種以上とを組み合わせて用いてもよい。なお、α−オレフィンを用いる場合には、その含有量は、コスト及び性能などの観点から、組成物全量基準で、通常1〜20質量%、好ましくは5〜15質量%の範囲が有利である。
【0014】
本発明の潤滑油組成物においては、(A)成分の添加剤として、一般式(I)
【0015】
【化2】

【0016】
で表されるグリセリン誘導体が用いられる。
この(A)成分のグリセリン誘導体は、後で説明する(B)成分の油性剤と共に作用し、加工性(圧延性)の向上、ロールコーティング生成の抑制、圧延摩耗粉の発生抑制などの効果を発揮する。
前記一般式(I)において、R1はアルキル基、アルケニル基又はアリールアルキル基、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基、A1O及びA2Oは、それぞれ独立にオキシアルキレン基、nは0、1又は2、p+qは平均付加モル数で0〜5の数を示す。
前記R1のうちのアルキル基及びアルケニル基としては、炭素数12〜18のものが好ましく、また直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。例えば各種のドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、各種のドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基などが挙げられる。
1のうちのアリールアルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、トリルメチル基、トリルエチル基、キシリルメチル基、キシリルエチル基などが挙げられる。
前記R1としては、前記効果の点から特に炭素数12〜18のアルキル基及びアルケニル基が好ましい。
【0017】
2及びR3は、それぞれ水素原子又はメチル基を示すが、本発明においては、両方共水素原子であることが、前記効果の点から好ましい。また、nは0、1又は2であるが、本発明においては、nが0又は1であることが前記効果の点から好ましい。
2及びR3が水素原子であって、nが0の場合、一般式(I)で表されるグリセリン誘導体の原料としてグリセリンが用いられ、nが1の場合、該原料としてジグリセリンが用いられ、nが2の場合、該原料としてトリグリセリンが用いられるが、本発明においては、nが0又は1であるグリセリン又はジグリセリンが好適である。
1O及びA2Oは、それぞれオキシアルキレン基を示し、このオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基及びオキシプロピレン基が、入手性及び前記効果の点から好ましい。グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリンの水酸基にアルキレンオキシドを付加させることにより、前記のA1OやA2Oを形成させることができる。アルキレンオキシドとしては、前記効果などの点から、特にエチレンオキシドが好ましい。また、このアルキレンオキシドは1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。すなわち、A1O及びA2Oは同一であっても、異なっていてもよく、A1O及びA2Oが、それぞれ複数ある場合、複数のA1Oは同一でも異なっていてもよく、複数のA2Oは同一でも異なっていてもよい。
p+qはアルキレンオキシドの平均付加モル数であり、本発明においては0〜5の範囲の数である。この平均付加モル数が5を超えると基油への溶解性が低下して、(A)成分としての効果が十分に発揮されない。p+qは、好ましくは0、すなわち、アルキレンオキシドが付加されていないグリセリン誘導体が、前記効果の点から好適である。
本発明の潤滑油組成物においては、(A)成分のグリセリン誘導体として、一般式(I−a)
【0018】
【化3】

[式中、R1aは炭素数12〜18のアルキル基又はアルケニル基、mは0又は1を示す。]
【0019】
で表されるモノ若しくはジグリセリンのモノアルキル又はモノアルケニルエーテルが好ましく用いられる。
前記一般式(I−a)で表されるグリセリンモノアルキル又はモノアルケニルエーテルとしては、例えばグリセリンモノラウリルエーテルなどの各種のグリセリンモノドデシルエーテル、グリセリンモノミリスチルエーテルなどの各種のグリセリンモノテトラデシルエーテル、グリセリンモノパルミチルエーテルなどの各種のグリセリンモノヘキサデシルエーテル、グリセリンモノステアリルエーテルなどの各種のグリセリンモノオクタデシルエーテル、グリセリンモノオレイルエーテルなどの各種のグリセリンモノオクタデセニルエーテル及びこれらのグリセリンをジグリセリンに置換した化合物等を挙げることができる。
前記一般式(I−a)で表されるモノ若しくはジグリセリンのモノアルキル又はモノアルケニルエーテルは、従来公知の方法により、製造することができる。
【0020】
本発明の潤滑油組成物においては、前記(A)成分のグリセリン誘導体として、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その含有量は、組成物全量基準で、0.01〜5.0質量%の範囲で選定される。この含有量が0.01質量%未満では、前記効果が十分に発揮されず、本発明の目的が達せられない。一方、5.0質量%を超えると基油への溶解性(均一性)が悪くなり、加工性や表面品質も低下するおそれが生じる。この(A)成分の好ましい含有量は0.05〜3.0質量%であり、特に0.1〜1.0質量%が好ましい。
本発明の潤滑油組成物において、(B)成分の添加剤として用いられる油性剤としては特に制限はなく、従来金属加工油において油性剤として慣用されているものの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。このような油性剤としては、例えばアルコール類、脂肪酸類及び脂肪酸エステル類などを挙げることができる。
【0021】
アルコール類としては、炭素数8〜18の一価の脂肪族飽和若しくは不飽和アルコールを好ましく挙げることができる。このアルコールは直鎖状のものであってもよいし、分岐鎖状のものであってもよく、その具体例としては、直鎖状又は分岐鎖状である、オクタノール、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、オクテノール、デセノール、ドデセノール、テトラデセノール、ヘキサデセノール、オクタデセノールなどが挙げられる。
また、脂肪酸類としては、例えばパルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、ダイマー酸、オレイン酸、イコサン酸などの高級飽和若しくは不飽和脂肪酸を挙げることができる。
【0022】
さらに脂肪酸エステル類としては、炭素数6〜22の脂肪族カルボン酸と炭素数1〜18の脂肪族アルコールとからなるエステルを挙げることができる。ここで、炭素数6〜22の脂肪族カルボン酸は、一塩基酸であってもよいし、二塩基酸以上の多塩基酸であってもよく、また、飽和、不飽和のいずれであってもよい。さらに、直鎖状のものであってもよく、分岐鎖状のものであってもよい。このような脂肪族カルボン酸の例としては、直鎖状又は分岐鎖状である、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、ヒドロキシオクタデカン酸、イコサン酸、オクテン酸、デセン酸、ドデセン酸、テトラデセン酸、ヘキサデセン酸、オクタデセン酸、ヒドロキシオクタデセン酸、イコセン酸、オクタン二酸、デカン二酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸、オクテン二酸、デセン二酸、ドデセン二酸、テトラデセン二酸、ヘキサデセン二酸、オクタデセン二酸、イコセン二酸などが挙げられる。
また、炭素数1〜18の脂肪族アルコールは、一価アルコールであってもよいし、多価アルコールであってもよく、また、飽和、不飽和のいずれであってもよい。さらに直鎖状のものであってもよく、分岐鎖状のものであってもよいが、通常一価のアルコールが用いられる。このようなアルコールの例としては、メタノール、エタノール、アリルアルコール、あるいは直鎖状又は分岐鎖状である、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、ブテノール、ペンテノール、ヘキセノール、オクテノール、デセノール、ドデセノール、テトラデセノール、ヘキサデセノール、オクタデセノールなどが挙げられる。これらの中で、炭素数6〜18のものが好ましく、8〜18のものがより好ましい。
【0023】
本発明の潤滑油組成物においては、この(B)成分の油性剤として、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、0.1〜15質量%の範囲で選定される。この含有量が上記の範囲にあれば、前記(A)成分のグリセリン誘導体と共に作用し、所望の効果を発揮することができる。好ましい含有量は0.5〜10質量%であり、より好ましくは1〜8質量%である。
本発明の潤滑油組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、所望により各種添加剤、例えば極圧剤、摩耗防止剤、酸化防止剤、防錆剤、腐蝕防止剤、消泡剤、粘度指数向上剤、帯電防止剤などを適宜含有させることができる。
【0024】
極圧剤としては、例えば硫化オレフィン、ジアルキルポリスルフィド、ジアリールアルキルポリスルフィド、ジアリールポリスルフィドなどの硫黄系化合物、リン酸エステル、チオリン酸エステル、亜リン酸エステル、アルキルハイドロゲンホスファイト、リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステルアミン塩などのリン系化合物等が挙げられ、摩耗防止剤としては、例えばジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、ジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)、硫化オキシジチオリン酸モリブデン(MoDTP)、硫化オキシジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)などが挙げられる。
酸化防止剤としては、例えばアルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化−α−ナフチルアミンなどのアミン系、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールなどのフェノール系、及び2,6−ジ−t−ブチル−4−[4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ]フェノール、ジラウリルチオジプロピオネートなどの硫黄系等が挙げられる。
【0025】
防錆剤や腐蝕防止剤としては、例えばソルビタンエステル、中性アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属フェネート、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属サリチレート、チアジアゾール、ベンゾトリアゾールなどが、消泡剤としては、例えばジメチルポリシロキサン、フルオロエーテルなどが挙げられる。
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)などが挙げられる。
帯電防止剤としては非金属系帯電防止剤であるアミン誘導体、コハク酸誘導体、ポリ(オキシアルキレン)グリコール又は多価アルコールの部分エステルなどが好ましく挙げられる。
【0026】
本発明の金属加工用潤滑油組成物は、金属又はその合金の板あるいは箔、特に、アルミニウム又はアルミニウム合金等の非鉄金属の圧延、絞り、打抜き、引抜き、冷間鍛造等の塑性加工及び金属の切削、研削加工等の金属加工に好適に用いられる。特にアルミニウムなどの非鉄金属の圧延加工においては、以下に示す効果を奏する。
(1)安定した圧下力での圧延が可能となり、加工性(圧延性)を向上させることができる。
(2)ワークロールへのコーティングの生成を抑制し得るため、圧延製品表面の光沢むらの発生や光沢低下を防止することができ、圧延製品の表面品質を向上させることができる。
(3)圧延摩耗粉発生抑制(圧延製品表面の摩耗粉量の減少、及び油中の圧延摩耗粉量の減少)により、圧延製品の表面品質を向上させることができる。
(4)焼鈍性が良好であり、表面品質を向上させることができる。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた潤滑油組成物(金属加工油)について、以下に示す条件にて圧延実験を行い、諸特性を求めた。また、焼鈍性を評価した。
<圧延実験条件>
(1)圧延材
アルミニウム材1N30、0.2mm×70mmコイル
(2)圧延機
形式;4段
ワークロール:径135mm、表面粗さRa0.15μm
ロールクラウン:2/100mm
(3)圧延条件
(条件a)圧延速度:150m/min、目標板厚:0.09mm、目標圧下率:55%、張力:入側245N(25kgf)、出側137N(14kgf),圧延油:30kg、給油温度:40℃
(条件b)目標板厚:0.08mm、目標圧下率:60%、とした以外は、条件aと同じ。
【0028】
<評価項目>
(1)ロールコーティング量
前記(a)の圧延条件で圧延実験終了後、上下ロールコーティングを5N水酸化ナトリウム水溶液にて、室温で溶解し、その溶液を塩酸酸性にしたのちICP分析により、アルミニウム分を測定し、ロールコーティング量を求めた。
(2)油中Al摩耗粉量
前記(a)の圧延条件で圧延実験終了後の油を、フィルターでろ過し捕捉物を塩酸で溶解したのち、ICP分析により、アルミニウム分を測定し、油中Al摩耗粉量を求めた。
(3)箔上Al摩耗粉量
前記(a)の圧延条件で得られた圧延箔2mの上下面をガーゼで拭取り後、ガーゼに付着したアルミニウム粉を塩酸に溶解してICP分析により、アルミニウム分を測定し箔上Al摩耗粉量を求めた。
<焼鈍性の評価方法>
蓋付きのアルミニウム製容器(JIS A1050製、直径80mm)中に金属加工油30mgを採取し、空気雰囲気中、330℃で30分間加熱する。室温に戻した後に,アルミニウム製容器に生成するステイン痕の有無を確認した。
【0029】
実施例1〜6及び比較例1〜5
第1表に示す組成の金属加工油を調製し、その諸特性を評価した。結果を第1表に示す。
【0030】
【表1】

[注]
1)鉱油:40℃動粘度2.2mm2/sの鉱油
2)α−オレフィン:1−テトラデセン
3)グリセリン誘導体‐I:ジグリセリンモノオレイルエーテル
4)グリセリン誘導体‐II:モノオレイン酸POE(2)グリセリル
5)グリセリン誘導体‐III:モノグリセリンモノオレイルエーテル
6)グリコール誘導体:ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール及びテトラプロピレングリコールの等量(1:1:1)混合物
【0031】
第1表から分かるように、本発明の金属加工油(実施例1〜6)は総じてロ−ルコーティング量、油中AI摩耗粉量及び箔上AI摩耗粉量が少ないとともに、圧延後の箔表面の顕微鏡観察による焼付き痕が認められず、加工性も良好である。さらに焼鈍性も良好である。
これに対し、比較例1〜4は、実施例1〜6に比較してロ−ルコーティング量、油中AI摩耗粉量及び箔上AI摩耗粉量が高く、かつ比較例1,3,4は、圧延後の箔表面の顕微鏡観察による焼付き痕が認められ、加工性が劣る。また、比較例5は、焼鈍性が不良であり表面品質が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の金属加工用潤滑油組成物は、特にアルミニウム等の非鉄金属の板あるいは箔を金属加工する際、加工性に優れ、圧延摩耗粉の発生量を抑制すると共に、ロールコーティングの発生を抑制し、表面品質に優れる圧延製品を与えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油及び/又は合成油からなる基油と、組成物全量基準で、(A)一般式(I)
【化1】

[式中、R1はアルキル基、アルケニル基又はアリールアルキル基、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基、A1OおよびA2Oは、それぞれ独立にオキシアルキレン基、nは0、1又は2、p+qは平均付加モル数で0〜5の数を示す。]
で表されるグリセリン誘導体0.01〜5.0質量%、及び(B)油性剤0.1〜15質量%を含むことを特徴とする金属加工用潤滑油組成物。
【請求項2】
(A)成分のグリセリン誘導体において、一般式(I)におけるR1が炭素数12〜18のアルキル基若しくはアルケニル基、R2及びR3が、それぞれ水素原子、nは0又は1、p+q=0である請求項1に記載の金属加工用潤滑油組成物。
【請求項3】
(B)成分の油性剤が、アルコール類、脂肪酸類及び脂肪酸エステル類の中から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の金属加工用潤滑油組成物。
【請求項4】
金属加工が、非鉄金属材料の冷間圧延である請求項1〜3のいずれかに記載の金属加工用潤滑油組成物。
【請求項5】
非鉄金属材料がアルミニウム材又はアルミニウム合金材である請求項4に記載の金属加工用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2008−88428(P2008−88428A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231889(P2007−231889)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】