説明

金属化合物含有ゲル、金属化合物含有液体、金属化合物および金属化合物膜の製造方法

【課題】金属化合物またはその金属化合物膜を製造するための金属化合物含有ゲルまたは金属化合物含有液体を効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】本金属化合物含有ゲルの製造方法は、金属酸化物および金属水酸化物の少なくともいずれかを含む金属化合物含有ゲル13の製造方法であって、金属アルコキシド11にアルコキシ基含有液体と第1の過酸化水素含有水性液体を加えて金属水酸化物12を生成させる工程と、金属水酸化物12を含水状態で母液から分離する工程と、分離された含水状態の金属水酸化物12に第2の過酸化水素含有水性液体を自己熱反応させて金属化合物含有ゲル13を生成させる工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属化合物および金属化合物膜の製造に適した金属化合物含有ゲルおよび金属化合物含有液体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒活性を有する酸化チタン、酸化亜鉛など、導電性を有する酸化ニオブ、酸化スズ、酸化インジウムなど、機能的活性を有する金属化合物およびそれらの金属化合物膜の開発が近年活発に行なわれている。かかる金属化合物はその金属化合物を含有する液体を乾燥させることにより、かかる金属化合物膜は、その金属化合物を含有する液体を母材に塗布し乾燥させることにより、一般的に得られる(たとえば、特開平10−298769号公報(特許文献1)、特開2001−342018号公報(特許文献2))。
【0003】
ここで、特開平10−298769号公報では、1種もしくは2種以上の金属アルコキシドを加水分解および重合させて金属酸化物前駆体ゾルを製造する方法において、金属アルコキシドへの水の添加を−20℃以下の温度で行なうことにより、均質な成膜が可能な高濃度かつ均質で、成膜後にゲル膜中に残存する有機物の量が少ない前駆体ゾルを製造することが提案されている。
【0004】
また、特開2001−342018号公報では、金属塩1モルに対して0.01モル以上、0.1モル未満となる量の水を含有させた芳香族化合物溶媒と金属塩とを混合させた後、加熱させ、金属水酸化物−芳香族化合物溶媒錯体と金属塩−芳香族化合物溶媒錯体との混合物含有溶液を形成させ、ついでこの混合物含有液体と水含有アルコール溶液とを混合させた後、加熱、濃縮させて得られる保存安定性に優れた金属酸化物前駆体溶液が提案されている。また、この金属酸化物前駆体溶液を付着、乾燥、熱処理させて形成されるクラックのない均質な金属酸化物薄膜が提案されている。
【0005】
しかし、これらの文献で提案された方法では、金属化合物またはその金属化合物膜を製造するための金属化合物含有液体を製造するために多くの時間を有する。また、これらの文献で提案された方法により得られた金属化合物含有液体は、この金属化合物含有液体を母材に塗布し乾燥することによりその金属化合物膜を得る場合、母材の表面が親水性または親油性のいずれか一方の母材に対しては均一に塗布して均一な膜を形成することができるが、表面が他の性質を有する母材に対してははじき現象を起こして均一に塗布することができず、均一な膜を形成することが困難である。
【特許文献1】特開平10−298769号公報
【特許文献2】特開2001−342018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、金属化合物またはその金属化合物膜を製造するための金属化合物含有ゲルまたは金属化合物含有液体を効率的に製造する方法を提供することを目的とする。さらに、表面が親水性および親油性のいずれの母材に対しても均一に塗布し乾燥させて均一な金属化合物膜を形成することができる金属化合物含有液体を効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属酸化物および金属水酸化物の少なくともいずれかを含む金属化合物含有ゲルの製造方法であって、金属アルコキシドにアルコキシ基含有液体と第1の過酸化水素含有水性液体を加えて金属水酸化物を生成させる工程と、金属水酸化物を含水状態で母液から分離する工程と、分離された含水状態の金属水酸化物に、第2の過酸化水素含有水性液体を自己熱反応させて、金属化合物含有ゲルを生成させる工程とを含む金属化合物含有ゲルの製造方法である。
【0008】
本発明にかかる金属化合物含有ゲルの製造方法において、金属水酸化物を生成させる工程では、金属アルコキシド中のアルコキシ基に対するアルコキシ基含有液体中のアルコキシ基のモル比を0.001以上10以下、金属アルコキシド中のアルコキシ基に対する第1の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素のモル比を0.001以上20以下とすることができる。また、金属化合物含有ゲルを生成させる工程は、金属水酸化物中の金属原子に配位するのに必要な水酸基に対する第2の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素のモル比を0.001以上20以下、自己熱反応の初期温度を273K以上573K以下とすることができる。
【0009】
また、本発明は、金属酸化物および金属水酸化物の少なくともいずれかを含む金属化合物含有液体の製造方法であって、上記の製造方法により得られた金属化合物含有ゲルに、第3の過酸化水素含有水性液体を1回以上自己熱反応させて、金属化合物含有液体を生成させる工程を含む金属化合物含有液体の製造方法である。
【0010】
本発明にかかる金属化合物含有液体の製造方法において、金属化合物含有液体を生成させる工程は、金属化合物含有ゲル中の金属原子に配位するのに必要な水酸基に対する第3の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素のモル比を0.001以上20以下、自己発熱反応の初期温度を273K以上573K以下とすることができる。
【0011】
また、本発明は、金属酸化物および金属水酸化物の少なくともいずれかを含む金属化合物の製造方法であって、上記の製造方法により得られた金属化合物含有ゲルを乾燥させる工程を含む金属化合物の製造方法である。ここで、金属化合物含有ゲルを乾燥させる工程は、金属化合物含有ゲル中の液体成分を沸騰させない状態で行なうことができる。
【0012】
また、本発明は、金属酸化物および金属水酸化物の少なくともいずれかを含む金属化合物の製造方法であって、上記の製造方法により得られた金属化合物含有液体を乾燥させる工程を含む金属化合物の製造方法である。ここで、金属化合物含有液体を乾燥させる工程は、金属化合物含有液体中の液体成分を沸騰させない状態で行なうことができる。
【0013】
また、本発明は、金属酸化物および金属水酸化物の少なくともいずれかを含む金属化合物膜の製造方法であって、上記の製造方法により得られた金属化合物含有液体を含む塗料を母材に塗布する工程と、母材に塗布された塗料を乾燥させる工程を含むことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属化合物またはその金属化合物膜を製造するための金属化合物含有ゲルまたは金属化合物含有液体を効率的に製造する方法が提供される。さらに、表面が親水性および親油性のいずれの母材に対しても均一に塗布し乾燥させて均一な金属化合物膜を形成することができる金属化合物含有液体を効率的に製造する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(実施形態1)
本発明にかかる金属化合物含有ゲルの製造方法の一実施形態は、図1を参照して、金属酸化物および金属水酸化物の少なくともいずれかを含む金属化合物含有ゲルの製造方法であって、金属アルコキシド11にアルコキシ基含有液体と第1の過酸化水素含有水性液体を加えて金属水酸化物12を生成させる工程S1と、金属水酸化物12を含水状態で母液から分離する工程S2と、分離された含水状態の金属水酸化物12に第2の過酸化水素含有水性液体を自己熱反応させて金属化合物含有ゲル13を生成させる工程S3と、を含む。
【0016】
本実施形態の金属化合物含有ゲルの製造方法は、金属アルコキシド11にアルコキシ基含有液体と第1の過酸化水素含有水性液体を加えて金属水酸化物を生成させる工程S1を備える。かかる工程により、短時間で効率よく、金属アルコキシド11が加水分解されて金属水酸化物12が得られる。
【0017】
ここで、アルコキシ基含有液体の存在下、金属アルコキシドを加水分解させることにより、金属水酸化物にアルコキシ基を含ませることができる。ここで、たとえば、液体中で4価のTiイオンの配位数は6であり、液体中のTi(OH)4においては、4価のTi(チタン)イオンの6つの配位サイトの内の4つにはOH基が入り、残りの2つにはOR基(アルコシキ基)またはOH2が入ると考えられる。また、液体中で5価のNb(ニオブ)イオンの配位数は6であり、液体中のNb(OH)5においては、6つの配位サイトの内の5つにはOH基が入り、残りの1つにはOR基(アルコシキ基)またはOH2が入ると考えられる。
【0018】
また、第1の過酸化水素含有水性液体の過酸化水素の存在下、金属アルコキシドを加水分解させることにより、得られる金属水酸化物の液体中における凝集粒子の大きさを小さく(すなわち、凝集粒子の粒径を小さく)することができる。また、金属アルコキシドを構成する金属の種類によっては、金属アルコキシドの加水分解に過酸化水素が必要な場合がある。このような金属としては、ニオブ(Nb)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)などが挙げられる。
【0019】
ここで、金属アルコキシド11は、特に制限はないが、金属アルコキシドの金属としては、その金属の化合物が光触媒活性、導電性などの機能特性を有する観点から、チタン、亜鉛、ニオブなどの遷移金属、スズ、インジウムなどの卑金属、アンチモンなどの半金属などが好ましく、金属アルコキシドのアルコキシ基としては、反応性が高い観点から、炭素数が10以下のものが好ましい。
【0020】
また、アルコキシド基含有液体は、アルコキシ基を含む液体であれば特に制限はないが、金属アルコキシドおよび金属水酸化物に配位し得る観点から、アルコール類、多価アルコール類、エーテル類、エステル類などが好ましく用いられる。ここで、アルコキシ基は、金属アルコキシドおよび金属水酸化物に配位するのが容易な観点から、炭素数が10以下のものが好ましい。
【0021】
また、第1の過酸化水素含有水性液体は、溶質として過酸化水素を含み溶媒として水を含む液体であれば特に制限はないが、金属アルコキシドの加水分解を促進させる観点から、過酸化水素水が好ましく用いられる。
【0022】
金属水酸化物を生成させる工程S1において、金属アルコキシド中のアルコキシ基ORMに対するアルコキシ基含有液体中のアルコキシ基ORAのモル比ORA/ORMは、0.001以上10以下であることが好ましく、0.01以上5以下であることがより好ましい。かかるモル比ORA/ORMが、0.001より小さいと金属水酸化物がアルコシキ基を保持することが困難となり、10より大きいと金属に配位しない無駄なアルコキシ基が多くなる。
【0023】
また、金属アルコキシド中のアルコキシ基ORMに対する第1の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素HPAのモル比HPA/ORMは、0.001以上20以下であることが好ましく、0.01以上10以下であることがより好ましい。かかるモル比HPA/ORMが、0.001より小さいと金属アルコキシドの加水分解が不十分となり金属水酸化物の生成が少なくなり、20より大きいと急激な酸化が起こる。
【0024】
また、金属アルコキシドにアルコキシ基含有液体および第1の過酸化水素含有水性液体を加えて、金属アルコキシドを加水分解させる初期温度は、特に制限はないが、263K(−10℃)以上373K(100℃)以下が好ましく、273K(0℃)以上323K(50℃)以下がより好ましい。加水分解の初期温度が、263Kより小さいと金属アルコキシドが凝固して反応性が低減し、373Kより大きいと過酸化水素が分解してしまう。
【0025】
また、本実施形態の金属化合物含有ゲルの製造方法は、金属水酸化物12を含水状態で母液から分離する工程S2を備える。かかる分離工程により、金属水酸化物を単離することができる。ここで、金属水酸化物を含水状態で母液から分離するのは、金属水酸化物に含まれるアルコキシ基を保つためである。また、金属水酸化物を母液から分離する方法は、特に制限はなく、濾過、遠心分離などの各種の方法を用いることができる。また、分離した金属水酸化物を、純水、蒸留水、イオン交換水などで水洗いすることにより、精製することも好ましい。
【0026】
また、本実施形態の金属化合物含有ゲルの製造方法は、分離された含水状態の金属水酸化物12に第2の過酸化水素含有水性液体を自己熱反応させて、金属化合物含有ゲル13を生成させる工程S3を備える。かかる工程により、短時間で効率よく、金属酸化物および金属水酸化物の少なくともいずれかを含む金属化合物含有ゲル13が得られる。ここで、自己熱反応とは、複数の化学種の自己熱により起こる反応をいう。
【0027】
本実施形態の自己熱反応は、たとえば、分離された含水状態の金属水酸化物12に特定の初期温度で第2の過酸化水素含有水性液体を加えることにより起こる。また、金属水酸化物中の水酸基に対する第2の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素のモル比を大きくして、金属水酸化物の酸化を促進することにより、金属酸化物を含有する金属化合物含有ゲルが得られる。
【0028】
ここで、第2の過酸化水素含有水性液体は、第1の過酸化水素含有水性液体と同様に、溶質として過酸化水素を含み溶媒として水を含む液体であれば特に制限はないが、金属水酸化物の酸化を促進させるとともに反応温度の上昇を抑制する観点から、過酸化水素水が好ましく用いられる。
【0029】
金属化合物含有ゲル13を生成させる工程S3において、金属水酸化物12中の水酸基OHMに対する第2の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素HPBのモル比HPB/OHMは、0.001以上20以下であることが好ましく、0.01以上10以下であることがより好ましい。かかるモル比HPB/OHMが、0.001より小さいと反応時間が長くなり、20より大きいと急激な反応が起こる。
【0030】
また、金属水酸化物に第2の過酸化水素含有水性液体を加えて、金属水酸化物と第2の過酸化水素含有水性液体とを自己熱反応を開始させる初期温度は、273K(0℃)以上573K(300℃)以下が好ましく、293K(20℃)以上473K(200℃)以下がより好ましい。自己熱反応の初期温度が、293Kより小さいと自己熱反応が起こりにくく、573Kより大きいと水性液体が急激に失われ急激な反応が起こる。また、かかる初期温度の好ましい範囲は、金属水酸化物の金属種によって異なり、チタン水酸化物の場合は、300K(27℃)以上315K(42℃)以下が好ましく、ニオブ水酸化物の場合は、310K(37℃)以上365K(92℃)以下が好ましい。
【0031】
(実施形態2)
本発明にかかる金属化合物含有液体の製造方法の一実施形態は、図1を参照して、金属酸化物および金属水酸化物の少なくともいずれかを含む金属化合物含有液体の製造方法であって、実施形態1の製造方法により得られた金属化合物含有ゲル13に第3の過酸化水素含有水性液体を1回以上自己熱反応させて、金属化合物含有液体14を生成させる工程S4を含む。かかる工程により、金属酸化物および金属水酸化物の少なくともいずれかを含む金属化合物含有液体が得られる。ここで、自己熱反応とは、実施形態1における自己熱反応と同様に、複数の化学種の自己熱により起こる反応をいう。
【0032】
本実施形態の自己熱反応は、たとえば、金属化合物含有ゲル13に特定の初期温度で第3の過酸化水素含有水性液体を加えることにより起こる。本実施形態の自己熱反応においては、第3の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素の作用により、水性液体中における金属化合物の凝集粒子の大きさが小さく(すなわち、凝集粒子の粒径が小さく)され、金属化合物含有ゲルが水性液体中に分散または溶解される。ここで、第3の過酸化水素含有水性液体は、第2の過酸化水素含有水性液体に比べて、過酸化水素の含有量を増やすことが好ましい。
【0033】
本実施形態において、金属化合物含有ゲルを第3の過酸化水素含有水性液体中に均一に分散または溶解させるのに必要な自己熱反応の回数は、金属化合物含有ゲル中の金属の種類によって異なる。たとえば、ニオブ化合物ゲルの場合は1回の自己熱反応で足りるが、チタン化合物ゲルの場合は少なくとも2回の自己熱反応が必要である。金属化合物含有ゲル13に、1回目の過酸化水素含有水性液体を加えることにより1回目の自己熱反応が起こり、さらに2回目の過酸化水素含有水性液体を加えることにより2回目の自己熱反応が起こり、そしてk回目(k≧2)の過酸化水素含有水性液体を加えることによりk回目の自己熱反応が起こる。このようにして、金属化合物含有ゲルに過酸化水素含有水性液体を1回以上自己熱反応させることができる。ここで、k回目の過酸化水素含有水性液体は、k−1回目の過酸化水素含有水性液体に比べて、過酸化水素の含有量を増やすことが好ましい。
【0034】
また、金属化合物含有ゲル中の金属に配位するのに必要な水酸基OHGに対する第3の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素HPCのモル比HPC/OHGを大きくし、金属化合物含有ゲルの酸化を促進することにより、金属酸化物を含有する金属化合物含有液体が得られる。
【0035】
ここで、第3の過酸化水素含有水性液体は、第1および第2の過酸化水素含有水性液体と同様に、溶質として過酸化水素を含み溶媒として水を含む液体であれば特に制限はないが、金属化合物含有ゲルの酸化および凝集粒子の微細化を促進させるとともに反応温度の上昇を抑制する観点から、過酸化水素水が好ましく用いられる。
【0036】
金属化合物含有液体を生成させる工程S4において、金属化合物含有ゲル中の金属原子に配位するのに必要な水酸基OHGに対する第3の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素HPCのモル比HPC/OHGは、0.001以上20以下であることが好ましく、0.01以上10以下であることがより好ましい。かかるモル比が、0.001より小さいと反応時間が長くなり、20より大きいと急激な反応が起こる。
【0037】
また、金属化合物含有ゲルに第3の過酸化水素含有水性液体を加えて自己熱反応を開始させる初期温度は、273K(0℃)以上573K(300℃)以下が好ましく、293K(20℃)以上493K(200℃)以下がより好ましい。自己熱反応の初期温度が、293Kより小さいと自己熱反応が起こりにくく、573Kより大きいと水性液体が急激に失われ急激な反応が起こる。また、かかる初期温度の好ましい範囲は、金属水酸化物の金属種によって異なり、チタン水酸化物の場合は、300K(27℃)以上315K(42℃)以下が好ましく、ニオブ水酸化物の場合は、310K(37℃)以上365K(92℃)以下が好ましい。
【0038】
こうして得られる金属化合物含有液体は、セラミックス、金属、その他の無機材料など表面が親水性の母材、および、樹脂、その他の有機材料など表面が親油性の母材のいずれに対しても、いわゆるはじき現象を起こすことなく、均一の厚さで薄く塗布することができる。これは、金属化合物含有液体中に、親水性および親油性の両方の性質を有する官能基であるアルコキシ基が含まれていることによるものと考えられる。すなわち、含水状態の金属水酸化物に含まれるアルコキシ基が、金属水酸化物と第2の過酸化水素含有水性液体との反応により得られる金属化合物含有ゲルにも含まれ、金属化合物含有ゲルに含まれているアルコキシ基が、金属化合物含有ゲルと第3の過酸化水素含有水性液体との反応によって得られた金属化合物含有液体に含まれているものと考えられる。
【0039】
(実施形態3)
本発明にかかる金属化合物の製造方法の一実施形態は、図1を参照して、金属酸化物および金属水酸化物の少なくともいずれかを含む金属化合物の製造方法であって、実施形態1の製造方法により得られた金属化合物含有ゲル13を乾燥させる工程S11を含む。かかる工程により、金属化合物含有ゲル13の液体成分が蒸発して、第1の金属化合物31が得られる。かかる第1の金属化合物には、金属化合物含有ゲル13を乾燥させる工程において形成される金属化合物の結晶が含まれる。
【0040】
本実施形態において、金属化合物含有ゲルを乾燥させる工程は、金属化合物含有ゲル中の液体成分を沸騰させない状態で行なうことが好ましい。金属化合物含有ゲル中の液体成分を、沸騰させないで、穏やかに蒸発させることにより、乾燥工程における金属化合物の結晶の形成が阻害されず、結晶化率の高い金属化合物が得られる。
【0041】
ここで、金属化合物含有ゲル中の液体成分を沸騰させない状態とは、金属化合物含有ゲルの乾燥の際の雰囲気圧力が液体成分の蒸気圧よりも高い状態をいう。また、金属化合物含有ゲルの乾燥を促進させる観点から、金属化合物含有ゲルの乾燥の際の雰囲気圧力と液体成分の蒸気圧との差が小さいことが好ましい。
【0042】
乾燥の際の雰囲気圧力と液体成分の蒸気圧との差を小さくする方法には、特に制限はないが、たとえば、乾燥の際の雰囲気圧力を低減する方法(減圧乾燥方法)、乾燥の際の雰囲気圧力を増大するとともに乾燥温度を高める方法(高圧乾燥方法)などを用いることができる。また、金属化合物含有ゲル中の液体成分には、アルコキシ基含有液体であるアルコール類と過酸化水素含有水性液体である過酸化水素水が含まれており、アルコール類と水とには極小共沸点があるため、乾燥の際の雰囲気圧力と液体成分の蒸気圧との差を小さくすることができる。
【0043】
ここで、金属化合物含有ゲルの乾燥条件は、金属化合物含有ゲル中の液体成分を沸騰させない条件であれば特に制限はない。たとえば、減圧乾燥方法においては、たとえば、雰囲気圧力1Pa〜100kPaにおいて乾燥温度193K(−80℃)〜373K(100℃)の条件が好ましく用いられる。
【0044】
(実施形態4)
本発明にかかる金属化合物の製造方法の他の実施形態は、図1を参照して、金属酸化物および金属水酸化物の少なくともいずれかを含む金属化合物の製造方法であって、実施形態2の製造方法により得られた金属化合物含有液体14を乾燥させる工程S21を含む。かかる工程により、金属化合物含有液体14の液体成分が蒸発して、第2の金属化合物41が得られる。かかる第2の金属化合物には、金属化合物含有液体14を乾燥させる工程において形成される金属化合物の結晶が含まれる。
【0045】
ここで、金属化合物含有液体14においては、第3の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素の作用により、金属化合物含有液体中の金属化合物の凝集粒子の大きさは、金属化合物含有ゲル中の金属化合物の凝集粒子の大きさに比べて、小さくなっていると考えられる。
【0046】
本実施形態において、金属化合物含有液体を乾燥させる工程は、金属化合物含有液体中の液体成分を沸騰させない状態で行なうことが好ましい。金属化合物含有液体中の液体成分を、沸騰させないで、穏やかに蒸発させることにより、乾燥工程における金属化合物の結晶の形成が阻害されず、結晶化率の高い金属化合物が得られる。
【0047】
ここで、金属化合物含有液体中の液体成分を沸騰させない状態とは、金属化合物含有液体の乾燥の際の雰囲気圧力が液体成分の蒸気圧よりも高い状態をいう。また、金属化合物含有液体の乾燥を促進させる観点から、金属化合物含有液体の乾燥の際の雰囲気圧力と液体成分の蒸気圧との差が小さいことが好ましい。
【0048】
乾燥の際の雰囲気圧力と液体成分の蒸気圧との差を小さくする方法には、特に制限はなく、実施形態3の場合と同様の方法を用いることができる。ここで、金属化合物含有液体の乾燥条件は、金属化合物含有液体中の液体成分を沸騰させない条件であれば特に制限はない。たとえば、減圧乾燥方法においては、雰囲気圧力1Pa〜100kPaにおいて乾燥温度193K(−80℃)〜373K(100℃)の条件が好ましく用いられる。
【0049】
(実施形態5)
本発明にかかる金属化合物膜の製造方法の他の実施形態は、図1を参照して、金属酸化物および金属水酸化物の少なくともいずれかを含む金属化合物膜の製造方法であって、実施形態2の製造方法により得られた金属化合物含有液体14を含む塗料を母材に塗布する工程S31と、母材に塗布された塗料を乾燥させる工程S32と、を含む。かかる工程により、母材に塗布された金属化合物含有液体14を含む塗料の液体成分が蒸発して、金属化合物膜42が得られる。かかる金属化合物膜には、塗料に含まれる金属化合物含有液体14を乾燥させる工程において形成される金属化合物の結晶が含まれる。
【0050】
こうして得られる金属化合物含有液体14を含む塗料は、実施形態2における金属化合物含有液体14についての説明から明らかなように、セラミックス、金属、その他の無機材料など表面が親水性の母材、および、樹脂、その他の有機材料など表面が親油性の母材のいずれに対しても、塗料に含まれる金属化合物含有液体を、いわゆるはじき現象を起こすことなく、均一の厚さで薄く塗布することができる。かかる厚さが均一な金属化合物含有液体の膜を乾燥させることにより、厚さが均一な第2の金属化合物膜が得られる。
【0051】
ここで、金属化合物含有液体14を含む塗料とは、金属化合物膜42を形成することができる金属化合物液体14を含む塗料をいう。かかる塗料は、金属化合物含有液体14からなるものであってもよいが、塗布および乾燥中における塗料中の金属化合物の凝集を防止して厚さが小さく均一な金属化合物膜42を形成させる観点から、金属化合物含有液体に加えて、金属化合物凝集防止剤および希釈溶媒をのいずれかを含んでいてもよい。ここで、金属化合物凝集防止剤は、塗料の溶媒に任意の割合で溶解しかつ塗料の溶媒に比べて沸点の高いものが好ましく用いられる。たとえば、金属化合物含有液体が水性液体の場合は、金属化合物凝集防止剤は、水に任意の割合で溶解しかつ水に比べて沸点が高いものが好ましく、たとえば、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが好ましい。また、希釈溶媒は、塗料の溶媒に任意の割合で溶解するものが好ましく用いられる。たとえば、金属化合物含有液体が水性液体の場合は、水に任意の割合で溶解するものが好ましく、たとえば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどが好ましい。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
1.チタン化合物含有ゲルの製造
100gのチタンイソプロポキシド(金属アルコキシド)に、171gのイソプロピルアルコール(アルコキシ基含有液体)と25gの35質量%の過酸化水素水(第1の過酸化水素含有水性液体)を加えて1分間混合すると、チタンイソプロポキシドが激しく加水分解して黄色のスラリー状のチタン水酸化物が得られた。ここで、チタンイソプロポキシド中のイソプロポキシ基(アルコキシ基)ORMに対するイソプロピルアルコールのイソプロポキシ基(アルコキシ基)ORAのモル比ORA/ORMは2.0であり、チタンイソプロポキシド中のイソプロポキシ基(アルコキシ基)ORMに対する35質量%の過酸化水素含有水性液体(第1の過酸化水素含有水性液体)中の過酸化水素HPAのモル比HPA/ORMは0.18であり、雰囲気温度は室温293K(20℃)であった。
【0053】
次に、このスラリー状のチタン水酸化物を含水状態のまま濾別して、黄色のペースト状のチタン水酸化物が得られた。
【0054】
次に、得られたペースト状のチタン水酸化物に、初期温度300K(27℃)で、35質量%の過酸化水素水(第2の過酸化水素含有水性液体)を544g加えて20秒間自己熱反応させると、チタン酸化物およびチタン水酸化物を含むチタン化合物含有ゲル(金属化合物含有ゲル)が得られた。ここで、チタン水酸化物中のチタン原子に配位するのに必要な水酸基OHMに対する35質量%の過酸化水素含有水性液体(第2の過酸化水素含有水性液体)中の過酸化水素HPBのモル比HPB/OHMは4.0であった。なお、チタン水酸化物中のチタン原子は4価であるため、1モルのチタン原子に配位するのに必要な水酸基は4モルである。
【0055】
このようにして、本実施例においては、10分間でチタンイソプロポキシドからチタン化合物含有ゲルが得られた。本実施例のチタン化合物含有ゲルの製造時間は、チタンイソプロポキシドからチタン化合物含有液体を得るのに720時間を要する従来の方法に比べて、約1/4320の時間に短縮された。
【0056】
2.第1のチタン化合物の製造
上記1.で得られたチタン化合物含有ゲル(金属化合物含有ゲル)を、凍結真空乾燥装置(日本真空技術社製DF−01H)を用いて、雰囲気圧力51kPa、乾燥温度355K(82℃)で30分間乾燥させて、第1のチタン化合物(第1の金属化合物)が得られた。本実施例の第1のチタン化合物の製造時間は、チタン化合物含有液体からチタン化合物を得るのに5時間を要する従来の方法に比べて、約1/10の時間に短縮された。
【0057】
このようにして得られた第1のチタン化合物は、酸素窒素同時分析装置(LECO社製TR−436)を用いて酸素組成比を分析したところTi23の組成を有する酸化チタンあった。以下、実施例において、第1のチタン化合物を第1の酸化チタンという。また、この第1の酸化チタンの粉末について、フーリエ変換IR(赤外線)吸収スペクトル測定装置(日本電子社製JIR−7000)を用いて、IRスペクトルの測定を行なったところ、図2に示すIRスペクトルが得られた。また、第1の酸化チタンの粉末について、X線回折機(PANALYTICAL社製XPELT−PRO)を用いて、粉末X線回折を行なったところ、図3に示すX線回折ピークが得られた。複数のX線回折ピークの半値幅およびパターンの解析から、この第1の酸化チタンには、アナターゼ型結晶が61%、ルチル型結晶が8%、非結晶が31%の確率で含まれていた。したがって、この第1の酸化チタンは、光触媒活性を有すものと考えられる。
【0058】
また、この第1の酸化チタンは、赤色をしていた。本実施例で得られた第1の酸化チタン(Ti23)について、白色酸化チタン(TiO2、アナターゼ型結晶、石原産業社製ST−01)に対する色差を、測色機(マクベス社製Color−Eye3100)を用いて測定した。その結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1を参照して、白色酸化チタンに対して、第1の酸化チタンは、総合色差が32.42と明らかな色差があった。また、L***座標系において、a*値が+方向に1.57、b*値が+方向に32.15移動した。ここで、a*軸の+方向は赤色方向であり−方向は緑色方向である。また、b*軸の+方向は黄色方向であり−方向は赤色方向である。したがって、白色酸化チタンに比べて赤色に着色している第1の酸化チタンの赤色の色差が確認された。
【0061】
また、第1の酸化チタンの粉末における400nm〜700nmの波長の光の反射率を、測色機(マクベス社製Color−Eye3100)を用いて測定した。このとき、比較のために、白色酸化チタン(TiO2、アナターゼ型結晶、石原産業社製ST−01)の粉末における400nm〜700nmの波長の光の反射率を測定した。これらの結果を図4に示した。図4において、Rは白色酸化チタンについての反射率曲線を示し、Sは第1の酸化チタンについての反射率曲線を示す。
【0062】
図4を参照して、白色酸化チタンは、450nm未満の波長の光の反射率がわずかに低減するのみで、450nm以上の波長の光は80%程度の高い反射率を示した。これに対して、第1の酸化チタンは、600nm〜700nmの波長の光の反射率は85〜90%程度と高いが、600nmから400nmにかけて波長が小さくなるにつれてその波長の光の反射率が大きく低減した。具体的には、550nmの波長の光の反射率は約75%、500nmの波長の光の反射率は約55%、450nmの波長の光の反射率は約35%、400nmの波長の光は約25%であった。このように、550nm以下の波長の光の反射率が小さい、すなわち、550nm以下の波長の光が大きく吸収されることにより、第1の酸化チタンが赤色に着色したことがわかる。また、従来の白色酸化チタンが略450nm以下の波長の光を吸収して光触媒活性を示すのに対し、第1の酸化チタンは略550nm以下の波長の光を吸収して光触媒活性を示すものと考えられる。
【0063】
3.チタン化合物含有液体の製造
上記1.で得られたチタン化合物含有ゲル(金属化合物含有ゲル)に、初期温度300K(27℃)で、35質量%の過酸化水素水(第3の過酸化水素含有水性液体)を1088g加えて40秒間自己熱反応させると、チタン酸化物およびチタン水酸化物を含むチタン化合物含有液体(金属化合物含有液体)が得られた。ここで、チタン化合物ゲル中のチタン原子に配位するのに必要な水酸基OHGに対する35質量%の過酸化水素含有水性液体(第3の過酸化水素含有水性液体)中の過酸化水素HPCのモル比HPC/OHGは8.0であった。なお、チタン化合物ゲル中のチタン原子は4価であるため、1モルのチタン原子に配位するのに必要な水酸基は4モルである。しかし、このチタン化合物含有液体は、チタン化合物が液体に均一に分散または溶解していなかった。
【0064】
そこで、このチタン化合物含有液体に、初期温度300K(27℃)で、さらに、35質量%の過酸化水素水(第3の過酸化水素含有水性液体)を1360g加えて1分間自己熱反応させた。ここで、チタン化合物ゲル中のチタン原子に配位するのに必要な水酸基OHGに対する35質量%の過酸化水素含有水性液体(第3の過酸化水素含有水性液体)中の過酸化水素HPCのモル比HPC/OHGは10.0であった。このように、チタン化合物含有ゲルに、35質量%の過酸化水素水(第3の過酸化水素含有水性液体)を、2回自己熱反応させた。こうして、チタン化合物が液体に均一に分散または溶解したチタン化合物含有液体(金属化合物含有液体)が得られた。
【0065】
このようにして、本実施例においては、10分間でチタン化合物含有ゲルからチタン化合物含有液体が得られた。すなわち、20分間でチタンイソプロポキシドからチタン化合物含有液体が得られた。本実施例のチタン化合物含有液体の製造時間は、チタンイソプロポキシドからチタン化合物含有液体を得るのに720時間を要する従来の方法に比べて、約1/2160の時間に短縮された。
【0066】
4.第2のチタン化合物の製造
上記3.で得られたチタン化合物含有液体(金属化合物含有液体)を、凍結真空乾燥装置(日本真空技術社製DF−01H)を用いて、雰囲気圧力51kPa、乾燥温度355K(82℃)で4時間乾燥させて、第2のチタン化合物(第2の金属化合物)が得られた。本実施例の第2のチタン化合物の製造時間は、チタン化合物含有液体からチタン化合物を得るのに5時間を要する従来の方法に比べて、約4/5の時間に短縮された。
【0067】
このようにして得られた第2のチタン化合物は、第1のチタン化合物と同様に、Ti23の化学組成を有する赤色の酸化チタンであった。以下、実施例において、第2のチタン化合物を第2の酸化チタンという。また、この第2の酸化チタンの粉末について、図5に示すIR(赤外線)スペクトルが得られた。図2に示す第1の酸化チタンのIRスペクトルには3393cm-1に幅広い大きな吸収ピークPが現われたが、図5に示す第2の酸化チタンのIRスペクトルには吸収ピークPに対応する吸収ピークが現われなかった。しかし、かかる差異の理由については不明である。また、第2の酸化チタンの粉末について、図6に示すX線回折ピークが得られた。複数のX線回折ピークの半値幅およびパターンの解析から、この第2の酸化チタンには、アナターゼ型結晶が54%、非結晶が46%の確率で含まれていた。したがって、この第2の酸化チタンも、光触媒活性を有すものと考えられる。
【0068】
5.チタン化合物膜の製造
上記3.で得られたチタン化合物含有液体(液体中にチタン化合物が均一に分散または溶解している液体)5質量%に、チタン化合物凝集防止剤として1質量%のプロピレングリコールと、希釈溶媒として94質量%の水と、を加えて均一に混合分散させることにより、チタン化合物含有液体を含む塗料を作製した。
【0069】
スプレーガンを用いて、ガラス板およびアクリル樹脂板の表面の一部に、上記塗料を、均一の厚さに塗布(目付け量:60g/m2)して、雰囲気温度353K(80℃)で3時間乾燥させた。こうして、表面の一部にチタン化合物含有液体を含む塗料が塗布されたガラス板およびアクリル樹脂板に、板の表面から10cmの距離から50Wのブラックライトの光(光のピーク波長は360nm)を2時間照射した。光照射後、ガラス板およびアクリル樹脂板の表面を水洗いして、表面の親水性を評価した。表面の親水性の評価においては、ガラス板およびアクリル樹脂板を垂直に立てて、水洗い後の水滴が表面に残らないものを親水性、水洗い後の水滴が表面に残るものを撥水性とした。結果を表2にまとめた。
【0070】
【表2】

【0071】
ガラス板およびアクリル樹脂板いずれの場合も、チタン化合物含有液体を含む塗料が塗布されていない表面は撥水性であったのに対し、チタン化合物含有液体を含む塗料が塗布された表面は親水性であった。このことは、ガラス板およびアクリル樹脂板に塗布された塗料に含まれるチタン化合物含有液体は乾燥されてチタン化合物膜(これは、上記の結果から第2の酸化チタンの膜と考えられる)が形成され、波長360nmの光の照射により、チタン化合物膜(第2の酸化チタンの膜)の光触媒活性作用により、ガラス板およびアクリル樹脂板の表面を親水性にしたものと考えられる。
【0072】
(実施例2)
1.ニオブ化合物含有ゲルの製造
100gのニオブイソプロポキシド(金属アルコキシド)に、50gのイソプロピルアルコール(アルコキシ基含有液体)と150gの35質量%の過酸化水素水(第1の過酸化水素含有水性液体)を加えて2分間混合すると、ニオブイソプロポキシドが激しく加水分解して黄色のスラリー状のニオブ水酸化物が得られた。ここで、ニオブイソプロポキシド中のイソプロポキシ基(アルコキシ基)ORMに対するイソプロピルアルコールのイソプロポキシ基(アルコキシ基)ORAのモル比ORA/ORMは0.65であり、ニオブイソプロポキシド中のイソプロポキシ基(アルコキシ基)ORMに対する35質量%の過酸化水素含有水性液体(第1の過酸化水素含有水性液体)中の過酸化水素HPAのモル比HPA/ORMは1.2であり、雰囲気温度は353K(80℃)であった。
【0073】
次に、このスラリー状のニオブ水酸化物を含水状態のまま濾別して、黄色のペースト状のニオブ水酸化物が得られた。
【0074】
次に、得られたペースト状のニオブ水酸化物に、初期温度353K(80℃)で、35質量%の過酸化水素水(第2の過酸化水素含有水性液体)を120g加えて40分間自己熱反応させると、ニオブ酸化物およびニオブ水酸化物を含むニオブ化合物含有ゲル(金属化合物含有ゲル)が得られた。ここで、ニオブ水酸化物中のニオブ原子に配位するのに必要な水酸基OHMに対する35質量%の過酸化水素含有水性液体(第2の過酸化水素含有水性液体)中の過酸化水素HPBのモル比HPB/OHMは1.0であった。なお、ニオブ水酸化物中のニオブ原子は5価であるため、1モルのニオブ原子に配位するのに必要な水酸基は5モルである。
【0075】
このようにして、本実施例においては、1時間でニオブイソプロポキシドからニオブ化合物含有ゲルが得られた。
【0076】
2.ニオブ化合物含有液体の製造
上記1.で得られたニオブ化合物含有ゲル(金属化合物含有ゲル)に、初期温度353K(80℃)で、35質量%の過酸化水素水(第3の過酸化水素含有水性液体)を1200g加えて2時間自己熱反応させると、ニオブ酸化物およびニオブ水酸化物を含むニオブ化合物が液体中に均一に分散または溶解したニオブ化合物含有液体(金属化合物含有液体)が得られた。すなわち、実施例1のチタンの場合と異なり、ニオブ化合物含有ゲルに過酸化水素水を1回自己熱反応させることにより、ニオブ化合物が液体中に均一に分散または溶解したニオブ化合物含有液体が得られた。
【0077】
ここで、ニオブ化合物ゲル中のニオブ原子に配位するのに必要な水酸基OHGに対する35質量%の過酸化水素含有水性液体(第3の過酸化水素含有水性液体)中の過酸化水素HPCのモル比HPC/OHGは8.7であった。なお、ニオブ化合物ゲル中のニオブ原子は5価であるため、1モルのニオブ原子に配位するのに必要な水酸基は5モルである。
【0078】
このようにして、本実施例においては、2時間でニオブ化合物含有ゲルからニオブ化合物含有液体が得られた。すなわち、3時間でニオブイソプロポキシドからニオブ化合物含有液体が得られた。
【0079】
3.ニオブ化合物膜の製造
上記2.で得られたニオブ化合物含有液体(液体中にニオブ化合物が均一に分散または溶解している液体)5質量%に、ニオブ化合物凝集防止剤として1質量%のプロピレングリコールと、希釈溶媒として94質量%の水と、を加えて均一に混合分散させることにより、ニオブ化合物含有液体を含む塗料を作製した。
【0080】
温度293K(20℃)および相対湿度30%の雰囲気中で100mm×200mmのガラス板に上記塗料を塗布した後、393K(120℃)の雰囲気中で5分間乾燥させた。ここで、上記塗料の目付け量は30g/m2と60g/m2の2種類のサンプルを作製した。塗料を乾燥した直後、乾燥から12時間後、24時間後および36時間後のそれぞれの時点で、テックジャム社製テックジャムハンディ表面抵抗計ST−3を用いて、2種類のサンプルのニオブ化合物含有液体を含む塗料が塗布された表面の表面抵抗を測定した。また、ニオブ化合物含有液体の乾燥から36時間後に、ニオブ化合物含有液体を含む塗料が塗布された表面を水洗いした後、水洗いした表面の表面抵抗を測定した。結果を表3にまとめた。
【0081】
【表3】

【0082】
表3を参照して、ニオブ化合物含有液体を含む塗料の乾燥直後の未塗布表面、塗布表面I(目付け量:30g/m2)および塗布表面II(目付け量:60g/m2)の表面抵抗は、それぞれ1×1012Ω、1×108Ωおよび1×106Ωであった。ここで、酸化ニオブなどのニオブ化合物は、表面抵抗が小さいことが知られている。また、塗料の乾燥から12時間、24時間および36時間後においても、未塗布表面、塗布表面Iおよび塗布表面IIの表面抵抗は、乾燥直後とほぼ同じであった。さらに、塗料の乾燥から36時間後に、ニオブ化合物含有液体を含む塗料が塗布された表面を水洗いした後であっても、塗布表面Iおよび塗布表面IIの表面抵抗は、水洗い前の値と同じであった。
【0083】
これらのことから、ガラス板(母材)に塗布されたニオブ化合物含有液体を含む塗料を乾燥させることにより、ニオブ化合物膜(金属化合物膜)が形成されていることがわかる。また、かかるニオブ化合物膜(金属化合物膜)は、水洗いによっても除去されないほど強固な膜であることがわかる。
【0084】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明にかかる金属化合物含有ゲル、金属化合物含有液体、金属化合物および金属化合物膜の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】第1の酸化チタンのIRスペクトルを示す図である。
【図3】第1の酸化チタンのX線回折ピークを示す図である。
【図4】第1の酸化チタンにおける波長400nm〜700nmの光の反射率を示す図である。
【図5】第2の酸化チタンのIRスペクトルを示す図である。
【図6】第2の酸化チタンのX線回折ピークを示す図である。
【符号の説明】
【0086】
11 金属アルコキシド、12 金属水酸化物、13 金属化合物含有ゲル、14 金属化合物含有液体、31 第1の金属化合物、41 第2の金属化合物、42 金属化合物膜、S1 金属水酸化物を生成させる工程、S2 金属水酸化物を含水状態で母液から分離する工程、S3 金属化合物含有ゲルを生成させる工程、S4 金属化合物含有液体を生成させる工程、S11 金属化合物含有ゲルを乾燥させる工程、S21 金属化合物含有液体を乾燥させる工程、S31 金属化合物含有液体を含む塗料を母材に塗布する工程、S32 母材に塗布された塗料を乾燥させる工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物および金属水酸化物の少なくともいずれかを含む金属化合物含有ゲルの製造方法であって、
金属アルコキシドに、アルコキシ基含有液体と第1の過酸化水素含有水性液体を加えて、金属水酸化物を生成させる工程と、
前記金属水酸化物を含水状態で母液から分離する工程と、
前記分離された含水状態の前記金属水酸化物に、第2の過酸化水素含有水性液体を自己熱反応させて、前記金属化合物含有ゲルを生成させる工程と、を含む金属化合物含有ゲルの製造方法。
【請求項2】
前記金属水酸化物を生成させる工程は、前記金属アルコキシド中のアルコキシ基に対する前記アルコキシ基含有液体中のアルコキシ基のモル比が0.001以上10以下、前記金属アルコキシド中のアルコキシ基に対する前記第1の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素のモル比が0.001以上20以下であることを特徴とする請求項1に記載の金属化合物含有ゲルの製造方法。
【請求項3】
前記金属化合物含有ゲルを生成させる工程は、前記金属水酸化物中の金属原子に配位するのに必要な水酸基に対する前記第2の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素のモル比が0.001以上20以下であり、前記自己熱反応の初期温度が273K以上573K以下であることを特徴とする請求項1に記載の金属化合物含有ゲルの製造方法。
【請求項4】
金属酸化物および金属水酸化物の少なくともいずれかを含む金属化合物含有液体の製造方法であって、
請求項1の製造方法により得られた金属化合物含有ゲルに、第3の過酸化水素含有水性液体を1回以上自己熱反応させて、前記金属化合物含有液体を生成させる工程を含む金属化合物含有液体の製造方法。
【請求項5】
前記金属化合物含有液体を生成させる工程は、前記金属化合物含有ゲル中の金属原子に配位するのに必要な水酸基に対する前記第3の過酸化水素含有水性液体中の過酸化水素のモル比が0.001以上20以下、前記自己熱反応の初期温度が273K以上573K以下であることを特徴とする請求項4に記載の金属化合物含有液体の製造方法。
【請求項6】
金属酸化物および金属水酸化物の少なくともいずれかを含む金属化合物の製造方法であって、
請求項1の製造方法により得られた金属化合物含有ゲルを乾燥させる工程を含む金属化合物の製造方法。
【請求項7】
前記金属化合物含有ゲルを乾燥させる工程は、前記金属化合物含有ゲル中の液体成分を沸騰させない状態で行なうことを特徴とする請求項6に記載の金属化合物の製造方法。
【請求項8】
金属酸化物および金属水酸化物の少なくともいずれかを含む金属化合物の製造方法であって、
請求項4の製造方法により得られた金属化合物含有液体を乾燥させる工程を含む金属化合物の製造方法。
【請求項9】
前記金属化合物含有液体を乾燥させる工程は、前記金属化合物含有液体中の液体成分を沸騰させない状態で行なうことを特徴とする請求項8に記載の金属化合物の製造方法。
【請求項10】
金属酸化物および金属水酸化物の少なくともいずれかを含む金属化合物膜の製造方法であって、
請求項4の製造方法により得られた金属化合物含有液体を含む塗料を母材に塗布する工程と、
前記母材に塗布された前記塗料を乾燥させる工程と、を含む金属化合物膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−107906(P2009−107906A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284233(P2007−284233)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(507054951)長宗産業株式会社 (2)
【出願人】(306022546)
【出願人】(599067879)稀産金属株式会社 (2)
【Fターム(参考)】