説明

金属回収方法

【課題】大量の金属溶解液からレアメタルを回収する場合でも、回収処理に用いる薬液の使用量を低減することができ、廃棄物の発生量が少なく、経済性に優れた金属回収方法を提供する。
【解決手段】実施形態の金属回収方法は、金属イオン吸着体2に金属溶解液1中の金属イオンを吸着させて回収する金属イオン吸着工程3と、金属イオン吸着体2に吸着させた前記金属イオンを溶離剤5によって溶離させる金属イオン溶離工程6と、前記金属イオンを含む溶離剤5を電気分解して金属成分を回収する電気分解工程8と、金属成分が回収された溶離剤5を回収する溶離剤回収工程10と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、金属回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属資源の需要が高まっており、特に、一部の希少金属(レアメタル)は、半導体レーザーや電池材料、各種特殊鋼の製造に必須材料とされていることから、その需要が急増している。
【0003】
一方、希少金属(レアメタル)は、埋蔵量が少なく、供給量が制限されていることから、需給が逼迫した状況にある。このため、レアメタルを高濃度で含む高品位鉱石からだけでなく、レアメタル濃度の低い低品位鉱石や、従来は廃棄していた残渣からのレアメタル回収が試みられている。
【0004】
例えば、航空機タービン用の耐高温材料であるNi基スーパーアロイの原料として、レニウムの需要が高まっている。
【0005】
レニウムは、一般にモリブデン鉱や銅鉱石中に微少量含まれており、これらの鉱石を、酸成分等により溶解させて過レニウム酸イオン(ReO)を含む金属溶解液とした後、この溶解液に各種処理を施して、レニウム成分が回収されている。
【0006】
具体的には、まず金属溶解液に含まれる不純物元素から過レニウム酸イオン(ReO)を分離した後、溶媒抽出法やイオン交換法により、過レニウム酸イオン(ReO)を含む液を精製濃縮する工程が行われている。
【0007】
最終的な金属レニウムの回収は、金属溶解液の精製濃縮処理により得られた過レニウム酸イオン溶液に、さらに塩化カリウム等の電解質を添加し、溶液中に過レニウム酸カリウム等の金属塩を析出させた後、これを濾過、さらに水素還元して行われている(化学便覧応用編改訂3版参照)。
【0008】
このようなレアメタル成分の回収処理を、低品位鉱石や残渣等を原料として行う場合には、大量の金属溶解液を処理し、その処理液からレアメタル成分を濃縮することが必要となる。このため、レアメタル成分の分離や精製濃縮に用いる薬液や有機溶媒の使用量が増大し、処理コストが高くなりやすく、廃棄物の量が増大するという問題があった。
【0009】
廃液処理に伴う廃棄物量の増大を解決するための手法として、テトラアルキルアンモニウムイオンを含有する現像廃液を、陽イオン交換樹脂に接触させてテトラアルキルアンモニウムイオンを吸着させることにより、該テトラアルキルアンモニウムイオンを回収した後の処理廃液を、工水として再利用する技術が提案されている。
【0010】
しかしながら、このような技術でも、処理後に生じる廃棄物量を十分に低減することは困難であった。例えば上述した手法では、廃液処理にイオン交換樹脂を用いており、被処理液量の増大に伴い、イオン交換樹脂から吸着イオンを溶離させる溶離剤等の薬液の使用量も増大するため、その分廃棄物量が増大し、処理コストが高くなるという問題があった。
【0011】
一方、上記のように、金属溶解液を精製濃縮して得られた液に電解液を添加し、回収対象である金属成分を金属塩として析出させる手法では、被処理液量の増大に伴い濾過回数が増大し、プロセス全体として、十分な処理速度を得られないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2011−125770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、レアメタル成分の含有量が数ppm〜数十ppm程度の低品位鉱石や残渣から、経済的に採算がとれる程度の量のレアメタルの回収を試みた場合、金属溶解液の処理量の増大に伴う、廃棄物量の増大や、回収処理に使用する薬液等の使用量の増大を十分に低減できる手法は、未だ得られていないのが現状であった。
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、大量の金属溶解液からレアメタルを回収する場合でも、回収処理に用いる薬液の使用量を低減することができ、廃棄物の発生量が少なく、経済性に優れ、また、回収設備の大型化を抑制することのできる金属回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
実施形態の金属回収方法は、金属イオン回収材に金属溶解液中の金属イオンを回収させる金属イオン回収工程と、前記金属イオン回収材に回収した前記金属イオンを分離材によって分離する金属イオン分離工程と、前記分離材を電気分解して金属成分を回収する電気分解工程と、金属成分が回収された前記分離材を回収する分離材回収工程と、を有する。
【0016】
実施形態の金属回収方法は、金属イオン吸着体に金属溶解液中の金属イオンを吸着させて回収する金属イオン吸着工程と、前記金属イオン吸着体に吸着させた前記金属イオンを溶離剤によって溶離させる金属イオン溶離工程と、前記金属イオンを含む溶離剤を電気分解して金属成分を回収する電気分解工程と、金属成分が回収された前記溶離剤を回収する溶離剤回収工程と、を有するものとすることができる。
【0017】
また、実施形態の金属回収方法は、抽出剤に金属溶解液中の金属イオンを抽出させて回収する金属イオン抽出工程と、前記抽出剤に抽出させた前記金属イオンを逆抽出剤に抽出させて分離する金属イオン逆抽出工程と、前記逆抽出剤を電気分解して金属成分を回収する電気分解工程と、金属成分が回収された前記逆抽出剤を回収する逆抽出剤回収工程と、を有するものとすることもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の金属回収方法によれば、電気分解により金属成分が分離回収された残余の液を、廃棄することなく溶離剤または逆抽出剤として分離回収することで、金属回収プロセス全体としての廃棄物量を低減することができる。また、回収された溶離剤または抽出剤を、再度金属イオン分離工程に用いることで、金属回収プロセス全体での溶離剤または逆抽出剤の使用量を低減でき、プロセス全体でのコストを大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施形態に係る金属回収工程を説明するためのフロー図である。
【図2】実施形態の電気分解工程で用いる溶液電解槽の概略構成を示す図である。
【図3】第1の実施形態に係る金属回収工程を説明するためのフロー図である。
【図4】第2の実施形態に係る金属回収工程を説明するためのフロー図である。
【図5】第2の実施形態に係る金属回収工程を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施形態の金属回収方法は、金属イオン回収材に金属溶解液中の金属イオンを回収させる金属イオン回収工程(i)と、前記金属イオン回収材に回収した前記金属イオンを分離材によって分離する金属イオン分離工程と(ii)、前記分離材を電気分解して金属成分を回収する電気分解工程(iii)と、金属成分が回収された前記分離材を回収する分離材回収工程(iv)と、を有することを特徴とする。
【0021】
第1の実施形態に係る金属回収方法について説明する。
本実施形態では、金属イオン回収材として金属イオン吸着体を用い、分離材として溶離剤を用いて行う場合について説明する。
【0022】
すなわち、金属イオン回収工程(i)として、金属イオン吸着体2に金属溶解液1中の金属イオンを吸着させて回収する「金属イオン吸着工程3」を行い、金属イオン分離工程(ii)として、金属イオン吸着体2に吸着させた金属イオンを溶離剤5によって溶離させて金属濃縮液7を得る「金属イオン溶離工程6」を行い、電気分解工程(iii)として、金属イオンを含む前記金属濃縮液7を電気分解して金属成分9を回収する「電気分解工程8」を行い、分離材回収工程(iv)として、金属成分9が回収された金属濃縮液7を溶離剤5として回収する「溶離剤回収工程10」を行う場合について説明する。
【0023】
本実施形態において、金属濃縮液7は、金属イオン吸着体2から溶離した金属イオンを含む状態の溶離剤5のことをいうものとする。
【0024】
図1は、第1の実施形態に係る金属回収工程を説明するためのフロー図である。
まず、金属溶解液1を、金属イオン吸着体2を充填したカラムに通液する。(金属イオン吸着工程3)
【0025】
金属溶解液1は、金属が水や酸、アルカリ、に溶解して生成した金属イオンを含む溶液である。具体例としては、例えば白金族であるRu(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、マンガン族(7族)であるMn(マンガン)、Re(レニウム)、鉄族であるFe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、11族のCu(銅)、Ag(銀)、Au(金)、13族のGa(ガリウム)、In(インジウム)のうちの少なくとも1種以上を含む溶液のことである。
【0026】
なお、回収対象となる金属としては、上記のものに限定されず、イオン交換樹脂等の金属イオン吸着体2による回収が可能で、かつ後述する電気分解工程(iii)での電気分解により回収可能なものであれば、特に限定されない。
【0027】
金属溶解液1は、例えば、上記のような金属成分を含有する鉱石等の固体物質を、硫酸等の酸性水溶液を用いて抽出処理して得ることができる。
【0028】
具体的には、まず、金属成分を含む固体物質を水中に撹拌させて得た水分散液(水性スラリー液)に、例えばpH1.5未満、好ましくはpH1.0以下の酸性水溶液を加えてそのpH値を1.5未満に調節し、固体物質中に含まれる金属成分を、酸性水溶液中に抽出させて得ることができる。
【0029】
金属成分の抽出に用いる酸性水溶液としては、一般には濃硫酸が用いられるが、例えば硝酸、塩酸、希硫酸等の酸性水溶液を用いることもできる。
【0030】
なお、金属溶解液1に含まれる残余の個体物質は、濾過法や遠心法、沈降法等の、一般に慣用されている固液分離方法により分離することができる。
【0031】
このようにして得られた金属溶解液1を、金属イオン吸着体2として用いるイオン交換樹脂等の種類や吸着、回収させる金属イオンの種類に応じで希釈し、そのpH値を調整したうえで、金属イオン吸着体2に通液する。例えば、過レニウム酸イオンの吸着、回収を行う場合、金属イオン吸着体2に通液する金属溶解液1のpH値は0〜12であることが好ましく、濃度は0.1ppm以上であることが好ましい。
【0032】
金属イオン吸着体2としては、例えば、イオン交換樹脂やキレート樹脂を用いることができる。
【0033】
イオン交換樹脂としては、例えば、スチレン−ジビニルベンゼン共重合物、アクリル酸−ジビニルベンゼン共重合物、メタアクリル酸−ジビニルベンゼン共重合物等の基体にスルホン酸基等の強酸基を導入した強酸性陽イオン交換樹脂や、上記の基体にカルボキシル基、フェノール性ヒドロキシル基等の弱酸基を導入した弱酸性陽イオン交換樹脂、または上記と同様の基体に第4級アンモニウム基を導入した強塩基性陰イオン交換樹脂や、第1級〜第3級アミンを導入した弱塩基性陰イオン交換樹脂が挙げられる。
【0034】
イオン交換樹脂としては、具体的には、例えばピュロライトC−104(特殊ポーラス型、アクリル系、Purolite International Ltd. 製)、ピュロライトA−500C(マクロポーラス型、スチレン系、Purolite International Ltd. 製)等の商品名にて市販されているものを、
キレート樹脂としては、ピュロライトS−984(マクロポーラス型、アクリル系、Purolite International Ltd. 製)、スミキレートMC900(スチレン系、住化ケムテック株式会社製)、スミキレートMC950(スチレン系、住化ケムテック株式会社製)等の商品名にて市販されているものを、適宜に採用可能である。
【0035】
上述したイオン交換樹脂等の金属イオン吸着体2に金属溶解液1を通液することで、金属溶解液1に含まれる金属イオンが選択的に吸着、回収され、残余の液は、廃液4として排出される。
【0036】
金属イオン吸着体2に通液する金属溶解液1の温度は、特に限定されないが、吸着処理を安定して行う観点から、10〜80℃が好ましく、30〜70℃がより好ましい。金属溶解液1の流通速度は、特に限定されないが、吸着処理を安定して行う観点から、液空間速度(LHSV)で3〜50hr−1が好ましく、5〜30hr−1がより好ましい。
【0037】
なお、金属イオン吸着体2に通液する金属溶解液1としては、回収処理対象となる金属成分が0.1ppm以上含まれているものであれば、回収処理が可能である。
【0038】
次いで、金属イオンを吸着した金属イオン吸着体2に溶離剤5を通液する。(金属イオン溶離工程6)
【0039】
溶離剤5としては、金属イオン吸着体2に吸着したイオンや錯イオンを溶離できる流体であって、金属イオン吸着体2を溶解または膨潤させて圧損を増大させる流体や、イオンや錯イオンを溶解させる流体でなければ、特に制限なく用いることができる。
【0040】
溶離剤5としては、例えば、水や塩酸、硝酸、硫酸等の酸性水溶液、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液等の各種アルカリ水溶液を好適に用いることができ、金属イオン吸着体2の種類に応じて、そのpH値を適宜調整して通液する。
【0041】
金属イオン吸着体2に通液された溶離剤5は、金属イオン吸着体2から金属イオンを溶離し、この金属イオンを含有した金属濃縮液7として、イオン吸着体2から排出される。
【0042】
溶離剤5としては、入手のし易さの点から、塩酸、硝酸、希硫酸を好適に用いることができ、そのpH値は、0.5〜2.5であることが好ましい。
また、溶離剤5として用いる塩酸、硝酸、希硫酸等の酸性水溶液は、酸としての濃度が1〜30質量%のものを使用することが可能であるが、イオン交換樹脂等の金属イオン吸着体2への通液時に与える損傷を抑制する観点から、酸としての濃度が1〜10質量%のものを用いることが好ましい。
【0043】
金属イオン吸着体2に通液する溶離剤5の温度は、金属イオン吸着体2の使用可能温度範囲であればよく、好ましくは0〜100℃であり、より好ましくは20〜40℃である。溶離剤5中には、クエン酸等の錯形成剤や還元剤を添加してもよい。
【0044】
金属イオン吸着体2での溶離剤5の流動方向は、カラムに対して上昇流であってもよく、下降流であってもよい。溶離剤5の通液速度は、液空間速度(LHSV)で0.5〜30hr−1が好ましい。
【0045】
次工程の電気分解工程8において、安定した電解作用を得る観点から、金属イオン吸着体2に通液する溶離剤5は、電解質濃度が0.1mol/l以上、好ましくは0.5mol/l以上であることが好ましい。金属イオン吸着体2に通液する溶離剤5の電解質濃度が0.5mol/l未満、特に0.1mol/l未満であると、後述する電気分解工程8において、電気分解に供される金属濃縮液7の溶液抵抗が過度に高くなり、電気分解処理を安定して行えなくなるおそれがある。
【0046】
なお、イオン吸着体2に通液する溶離剤5の通液量は特に限定されないが、金属イオン吸着体2に通液した金属溶解液1が10ppm以下と低濃度であった場合には、金属イオン吸着体2に通液する溶離剤5の量もごく少量でよい。
【0047】
次いで、金属イオン溶離工程6で得られた金属濃縮液7を電気分解して金属成分を回収する(電気分解工程8)。
【0048】
電気分解工程8は、例えば図2で示す溶液電解槽100を用いて行うことができる。
溶液電解槽100は、図2で示すように、直流電源101のマイナス極に接続する陰電極102と、直流電源101のプラス極に接続する陽電極103と、陰電極102及び陽電極103が浸漬する金属濃縮液7を保持する電解槽104とから構成されている。
【0049】
陰電極102と陽電極103との間に電圧を印加して電気分解を実行すると、金属濃縮液7に溶解している金属イオンが陰電極102に金属または金属酸化物等として析出する。
【0050】
陰電極102(カソード)と陽電極103(アノード)との間に印加する電圧は、回収対象とする金属により異なるが、電気化学列が周知であるのでそれを参照して適宜決めればよい。陰電極102(カソード)の電位を所定値に制御することで、溶液電解槽100の金属濃縮液7中に存在する特定の金属イオンを陰電極102(カソード)上に析出させることができる。
【0051】
電極への電圧印加は、連続して一定電圧をかけてもよく、電圧を変動させてもよい。電極については本数を問わないが、電極を2本以上用いて電極間に電圧(電位差)を持たせてもよい。なお、電圧については別途参照電極(不図示)を用いて測定しながら電気分解するのが望ましく、電解効率を高めるため、過電圧を加えてもよい。
【0052】
金属酸化物等が析出した陰電極102を溶液電解槽100から引き上げ、金属成分9を回収する。
【0053】
例えば、過レニウム酸溶液からなる金属濃縮液7を電気分解工程8に供する場合、陰電極(カソード)102では下記式(1)〜(3)で示される反応が進行し、陽電極(アノード)103では下記式(4)で示される反応が進行する。
【0054】
陰極(カソード):
ReO4- + 2H+ + e- → ReO3 + H2O (1)
ReO4- + 4H+ + 3e- → ReO2 + 2H2O (2)
ReO4- + 8H+ + 7e- → Re + 4H2O (3)
陽極(アノード):
2H2O → O2 + 4H+ + 4e- (4)
【0055】
金属成分9が分離回収された金属濃縮液7は、溶離剤5として回収される(溶離剤回収工程10)。上記式(1)〜(4)で示すように、電気分解工程8に供された金属濃縮液7では、金属成分及び水に由来するイオンが消費され、その他の成分、すなわち溶離剤5の電解質は消費されずに概ねイオンとして残留する。このため、溶離剤回収工程10で回収された溶離剤5は、金属イオン溶離工程6に再度使用することができる。
【0056】
電気分解工程8の後、金属イオン溶離工程6に再利用する溶離剤5に含まれる金属イオンの濃度は、電気分解工程8に供する前の金属濃縮液7に含まれる金属イオンの濃度の100分の1程度まで低減されていることがよい。
【0057】
第1の実施形態によれば、電気分解工程8により、金属成分9が分離回収された金属濃縮液7の残余の液を、廃棄することなく溶離剤5として分離回収(溶離剤回収工程10)することで、金属回収プロセス全体としての廃棄物量を低減することができる。
また、溶離剤回収工程10により回収した溶離剤5を、再度金属イオン溶離工程6に用いることで、金属回収プロセス全体での溶離剤5の使用量を低減でき、プロセス全体としてのコストを大幅に低減することができる。
【0058】
上述した第1の実施形態において、溶離剤5として例えば塩酸を使用した場合、電気分解工程8では電解槽104内の金属濃縮液7に含まれる塩化物イオンが陽電極103(アノード)側に移動し、陽電極103(アノード)では下記式(5)、(6)で示す反応が進行する。
【0059】
陽極(アノード):2H2O → O2 + 4H+ + 4e- (5)
2Cl- → Cl2 + 2e- (6)
【0060】
上記式(6)で示すように、陽電極103(アノード)で塩素ガスが生成して金属濃縮液7から放出された場合には、金属濃縮液7中の塩化物イオン濃度が低減し、電気分解工程8後に回収された溶離剤5の塩化物イオン濃度、すなわち電解質濃度は、金属イオン吸着体2に通液前の溶離剤5の電解質濃度より低いものとなる。
このような溶離剤5を回収し、金属イオン溶離工程6に再利用するプロセスを継続的に行うと、金属イオン吸着体2からの金属イオンの溶離に要する溶離剤の量が次第に増大し、プロセス全体の効率が低下するおそれがある。また、電気分解工程8に供される金属濃縮液7の溶液抵抗が過度に高くなり、電気分解を安定して行えなくなるおそれもある。
【0061】
したがって、電気分解工程8の電解処理に伴い、溶離剤5に含まれる電解質濃度が低減した場合には、図3で示すように、溶離剤回収工程10の後、回収された溶離剤5を金属イオン溶離工程6に再度供する前に、溶離剤5に電解質を添加して電解質濃度を調整する、溶離剤濃度調整工程11を行うことが好ましい。
【0062】
回収された溶離剤5の電解質の濃度を調整したうえで、金属イオン溶離工程6に再利用することで、溶離剤5の電解質濃度の低下に伴う、溶離剤5の使用量が増大や、電気分解工程8での金属回収効率の低下を抑制しつつ、溶離剤5の再利用を継続的に行うことができる。
【0063】
次に、第2の実施形態に係る金属回収方法について説明する。
本実施形態では、金属イオン回収材として抽出剤を用い、分離材として逆抽出剤を用いて行う場合について説明する。
【0064】
すなわち、金属イオン回収工程(i)として、抽出剤12に金属溶解液1中の金属イオンを抽出させて回収する「金属イオン抽出工程13」を行い、金属イオン分離工程(ii)として、抽出剤12に抽出させた前記金属イオンを逆抽出剤14に抽出させて分離し、金属濃縮液7を得る「金属イオン逆抽出工程15」を行い、電気分解工程(iii)として、金属濃縮液7を電気分解して金属成分9を回収する「電気分解工程8」を行い、分離材回収工程(iv)として、金属成分が回収された金属濃縮液7を逆抽出剤14として回収する「逆抽出剤回収工程17」を行う場合について説明する。
【0065】
本実施形態において、金属濃縮液7は、抽出剤12から抽出した金属イオンを含む状態の逆抽出剤14のことをいうものとする。
【0066】
図4は、第2の実施形態に係る金属回収工程を説明するためのフロー図である。
なお、第2の実施形態において、図1及び図3に示す構成要素と同一あるいは類似の構成要素に関しては、同一の参照数字を用いて説明する。
【0067】
まず、金属溶解液1に抽出剤12を加えて、金属溶解液1に含まれる金属イオンの一部を抽出剤12側に移行させる(金属イオン抽出工程13)。
【0068】
なお、金属溶解液1は、第1の実施形態で説明したのと同様の方法により得たものを用いることができる。
【0069】
抽出剤12として用いる有機溶媒としては、例えば、ケロシン、キシレン、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、ノルマルパラフィン等の脂肪族炭化水素、1−ナフテン酸、2−ナフテン酸等のナフテン系炭化水素またはこれらの混合物を用いることができる。
【0070】
金属イオン抽出工程13での抽出剤12(有機相)と金属溶解液1(水相)との割合は、特に限定されないが、好ましくは0.5〜8.0:1.0であり、より好ましくは1.0〜5.0:1.0である。抽出時間は3〜20分とすることが好ましい。金属溶解液1のpH値は、特に限定されないが、通常、0.5〜2.5、好ましくは0.8〜1.5に調整することがよい。
【0071】
抽出剤12に金属イオンが抽出された金属溶解液1は、抽出剤12と分離され、廃液4として排出される。
【0072】
次いで、金属溶解液1から分離した抽出剤12に逆抽出剤14を加えて、抽出剤12に含まれる金属イオンを逆抽出剤14側に移行させる。(金属イオン逆抽出工程15)
【0073】
逆抽出剤14としては、例えば、水や塩酸、硝酸、硫酸等の酸性水溶液、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液等の各種アルカリ水溶液、塩化カリウム、シアン化ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム等の各種塩水溶液を用いることができる。
【0074】
抽出剤12側から移行した金属イオンを含む逆抽出剤14は、金属濃縮液7として、抽出剤12から分離される。金属濃縮液7と分離された抽出剤12は、金属イオン抽出工程13に再利用することができる(抽出剤回収工程16)。
【0075】
次工程の電気分解工程8において、安定した電気分解作用を得る観点から、抽出剤12に加える逆抽出剤14の電解質濃度は0.1mol/l以上、好ましくは0.5mol/l以上であることが好ましい。抽出剤12に加える逆抽出剤14の電解質濃度が0.5mol/l未満、特に0.1mol/l未満であると、電気分解に供される金属濃縮液7の溶液抵抗が過度に高くなり、電気分解を安定して行えないおそれがある。
【0076】
逆抽出剤14としては、入手のし易さの点から、塩酸や硝酸などの酸性水溶液を好適に用いることができ、そのpH値は、0.5〜2.5であることが好ましい。
【0077】
金属イオン逆抽出工程15における、抽出剤12(有機相)と逆抽出剤14(水相)との割合は、特に限定されないが、好ましくは0.5〜8.0:1.0であり、より好ましくは1.0〜5.0:1.0である。抽出時間は3〜20分とすることが好ましい。
【0078】
なお、金属イオン抽出工程13後に分離された抽出剤12に、複数種類の金属成分が抽出されている場合には、逆抽出剤14を添加する前に、逆抽出剤14とは異なるpH値を有する酸性水溶液や、アルカリ水溶液を添加して、目的とする金属成分以外の金属イオンを予め抽出剤12から分離したうえで、金属イオン逆抽出工程15を行うこともできる。
【0079】
次いで、金属イオン逆抽出工程15で得られた金属濃縮液7を、上述した第1実施形態と同様の方法により電気分解して、金属成分9を回収する(電気分解工程8)。
【0080】
電気分解工程8により金属成分9が分離回収された金属濃縮液7は、逆抽出剤14として回収される(逆抽出剤回収工程17)。
上記の式(1)〜(4)で示すように、電気分解工程8に供された金属濃縮液7中では、金属成分及び水に由来するイオンが消費され、その他の成分、すなわち逆抽出剤14の電解質は消費されずに概ね残留する。このため、逆抽出剤回収工程17で回収された逆抽出剤14は、金属イオン逆抽出工程15に再度使用することができる。
【0081】
電気分解工程8の後、金属イオン逆抽出工程15に再利用する逆抽出剤14に含まれる金属イオンの濃度は、電気分解工程8に供する前の金属濃縮液7に含まれる金属イオンの濃度の100分の1程度まで低減されていることがよい。
【0082】
第2の実施形態によれば、電気分解工程8により金属成分9が分離回収された金属濃縮液7の残余の液を、廃棄することなく逆抽出剤14として分離回収(逆抽出剤回収工程17)することで、金属回収プロセス全体としての廃棄物量を低減することができる。
また、逆抽出剤回収工程17により回収した逆抽出剤14を、再度、金属イオン逆抽出工程15に使用することで、金属回収プロセス全体での逆抽出剤14の使用量を低減でき、プロセス全体でのコストを大幅に低減することができる。
【0083】
第2の実施形態の電気分解工程8において、金属濃縮液7に含まれる電解質が、例えば上記式(6)で示す反応により、気体として金属濃縮液7から放出された場合には、電気分解工程8後に回収された逆抽出剤14の電解質濃度は、抽出剤12に添加される前の逆抽出剤14、すなわち初期状態の逆抽出剤14の電解質濃度よりも低いものとなる。
このような逆抽出剤14を回収し、金属イオン逆抽出工程15に再利用するプロセスを継続的に行うと、金属イオンの逆抽出に要する逆抽出剤14の量が次第に増大し、プロセス全体の効率が低下するおそれがある。また、電気分解工程8に供される金属濃縮液7の溶液抵抗が過度に高くなり、電気分解を安定して行えなくなるおそれもある。
【0084】
したがって、電気分解工程8の電解処理に伴い、逆抽出剤14に含まれる電解質濃度が低減した場合には、図5で示すように、逆抽出剤回収工程17後、回収された逆抽出剤14を金属イオン逆抽出工程15に再度供する前に、逆抽出剤14に電解質を添加して電解質濃度を調整する、逆抽出剤濃度調整工程18を行うことが好ましい。
【0085】
回収された逆抽出剤14の電解質の濃度を調整したうえで、金属イオン逆抽出工程15に再利用することで、逆抽出剤14の電解質濃度の低下に伴う、逆抽出剤14の使用量が増大や、電気分解工程8での金属回収効率の低下を抑制しつつ、逆抽出剤14の再利用を継続的に行うことができる。
【0086】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施形態について説明したが、上記の実施例は、本発明の一例として挙げたものであり、本発明を限定するものではない。
また、上記の各実施形態の説明では、金属回収方法において、本発明の説明に直接必要とされない部分等についての記載を省略したが、これらについて必要とされる各要素を適宜選択して用いることができる。
【0087】
その他、本発明の要素を具備し、本発明の趣旨に反しない範囲で当業者が適宜設計変更しうる全ての金属回収方法は、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【符号の説明】
【0088】
1…金属溶解液、2…金属イオン吸着体、3…金属イオン吸着工程、4…廃液、5…溶離剤、6…金属イオン溶離工程、7…金属濃縮液、8…電気分解工程、9…金属成分、10…溶離剤回収工程、11…溶離剤濃度調整工程、12…抽出剤、13…金属イオン抽出工程、14…逆抽出剤、15…金属イオン逆抽出工程、16…抽出剤回収工程、17…逆抽出剤回収工程、18…逆抽出剤濃度調整工程、100…溶液電解槽、101…直流電源、102…陰電極、103…陽電極、104…電解槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオン回収材に金属溶解液中の金属イオンを回収させる金属イオン回収工程と、
前記金属イオン回収材に回収した前記金属イオンを分離材によって分離する金属イオン分離工程と、
前記分離材を電気分解して金属成分を回収する電気分解工程と、
金属成分が回収された前記分離材を回収する分離材回収工程と、を有することを特徴とする金属回収方法。
【請求項2】
金属イオン吸着体に金属溶解液中の金属イオンを吸着させて回収する金属イオン吸着工程と、
前記金属イオン吸着体に吸着させた前記金属イオンを溶離剤によって溶離させる金属イオン溶離工程と、
前記金属イオンを含む溶離剤を電気分解して金属成分を回収する電気分解工程と、
金属成分が回収された前記溶離剤を回収する溶離剤回収工程と、を有する請求項1記載の金属回収方法。
【請求項3】
前記金属イオン吸着体がイオン交換樹脂またはキレート樹脂である請求項2記載の金属回収方法。
【請求項4】
前記金属イオン吸着体に通液する前記溶離剤の電解質濃度が0.1mol/l以上である請求項2または3記載の金属回収方法。
【請求項5】
前記溶離剤回収工程で回収された溶離剤の濃度を調整する溶離剤濃度調整工程を有する請求項2乃至4のいずれか1項記載の金属回収方法。
【請求項6】
抽出剤に金属溶解液中の金属イオンを抽出させて回収する金属イオン抽出工程と、
前記抽出剤に抽出させた前記金属イオンを逆抽出剤に抽出させて分離する金属イオン逆抽出工程と、
前記逆抽出剤を電気分解して金属成分を回収する電気分解工程と、
金属成分が回収された前記逆抽出剤を回収する逆抽出剤回収工程と、を有する請求項1記載の金属回収方法。
【請求項7】
前記逆抽出工程に用いる前記逆抽出剤の電解質濃度が0.1mol/l以上である請求項6記載の金属回収方法。
【請求項8】
前記逆抽出剤回収工程で回収された逆抽出剤の濃度を調整する逆抽出剤濃度調整工程を有する請求項6または7記載の金属回収方法。
【請求項9】
前記金属回収方法により回収される金属成分が、レニウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、マンガン、コバルト、銅、銀、金、ガリウム、インジウムからなる群より選択される少なくとも一である請求項1乃至8のいずれか1項記載の金属回収方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−95979(P2013−95979A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241426(P2011−241426)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】