説明

金属基複合材料を使用した積層構造体

【課題】はんだを使用せずに、より高温の環境においても、積層される上下の部材の熱応力を効果的に緩和することのできる金属基複合材料を使用した積層構造体を提供する。
【解決手段】材料A1と、材料B5と、材料A1と材料B5との間に挟まれた材料C4とからなり、材料A1および材料B5の線膨張係数が、α<αの関係を満たし(ここで、αは材料A1の線膨張係数を表し、αは材料Bの線膨張係数を表わす)、材料C4は2元素からなるマトリックス材および微粒子を含み、緻密状態2および多孔質状態3を含み、材料C4の材料A1に接する側が緻密状態2であり、材料B5に接する側が多孔質状態3であることを特徴とする積層構造体10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子などを搭載した積層構造体に関し、特に、上下の層の部材の熱応力を効果的に緩和しうる金属基複合材料を使用した積層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子を基板に搭載する際には、安定した動作のために、素子の発熱が引き起こす影響を低減するように工夫がされている。例えば、半導体素子の発生する熱を効率よく放熱するという観点から、はんだの高い熱伝導率に着目し、炭素焼結体にはんだを含浸させた放熱部材が提案されている(下記特許文献1参照)。このような部材は、半導体素子とパッケージの間に双方に接触させて配置され、半導体素子からの熱を放出する役割を果たす。はんだは熱伝導性に優れ、放熱部材としての使用は物性の点からは適当であるが、環境に有害な鉛を含んでいる。そのため、近年では環境への影響に配慮し、はんだを使用せずにすむよう代替材料が求められている。
【0003】
一方で、自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に注目が集まっている。このような電気自動車の制御用等にも半導体素子は使用されているが、半導体素子や周辺デバイスは300℃程度と従来よりも高温の使用環境となるために、これらもより耐熱性を高めることが求められている。そのため、使用される半導体材料としては、従来のシリコンからより耐熱性に優れるシリコンカーバイド(SiC)へと変化してきている。SiCはシリコンに比べ、耐熱性に優れるだけでなく、高電圧・高電流を流すことができるために、エネルギー効率向上および素子の小型化に対応できるという側面からも好適な材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−12830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、半導体材料としてSiCが使用されるようになり、半導体素子はより高温で過酷な環境で使用されるようになってきている。それゆえ、熱による新たな問題も生じている。対処の必要なそのような問題の一つとして、熱による材料のひずみ、熱応力が挙げられる。高温の環境で使用されるため、またSiCを使用した半導体素子は発熱量が増加するために、周辺部材との間に大きな熱応力が発生することがある。そのため、半導体素子と周辺の部材との間で生ずる熱応力を緩和させる手段が必要となる。
【0006】
上記従来技術のはんだを含浸させた炭素焼結体は、熱応力緩和の能力はあるものの、鉛を含むことから環境問題のために使用することが好ましくない。のみならず、はんだは通常250℃以上では融点を超えてしまうため、300℃程度の高温の使用環境では使用することができない。
【0007】
このような実情に鑑み、本発明では、はんだを使用せずに、より高温の環境においても積層される上下の部材の熱応力を効果的に緩和することのできる積層構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の提供する積層構造体は、材料Aと、材料Bと、材料Aと材料Bとの間に挟まれた材料Cとからなり、材料Aおよび材料Bの線膨張係数が、α<αの関係を満たしている。ここで、αは材料Aの線膨張係数を表し、αは材料Bの線膨張係数を表わす。材料Cは2元素からなるマトリックス材および微粒子を含み、緻密状態および多孔質状態を含み、材料Cの材料Aに接する側が緻密状態であり、材料Bに接する側が多孔質状態であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の積層構造体は、材料Cが2元素からなるマトリックス材および微粒子で構成される緻密状態と多孔質状態とを含んでおり、多孔質状態が低弾性を示し、緻密状態は低線膨張性を示す。このことにより、材料Aと材料Bとの間の熱応力を効果的に緩和でき、材料Bが熱により変形した場合に、その変形に追随しないことに起因する材料Aの損傷を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態による積層構造体を示す断面図である。
【図2】NiCu−CNT複合材料の断面の元素分析の結果を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施形態による材料Cの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した像を示す図である。
【図4】図3を拡大した図である。
【図5】図4に示す断面の多孔質状態の部分を拡大した図である。
【図6】図4に示す断面の緻密状態の部分を拡大した図である。
【図7】多孔質状態の構造を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の積層構造体について詳細に説明する。
【0012】
本発明の積層構造体は、線膨張係数が、α<αの関係を満たす材料Aと材料Bとの間に、材料Cを挟んで構成される。ここで、αは材料Aの線膨張係数を表し、αは材料Bの線膨張係数を表わす。すなわち、発熱などの温度変化が生じたときに、材料Aは線膨張係数が小さく伸びにくい、すなわち変形しにくく、材料Bは線膨張係数が大きく伸びやすい、すなわち変形しやすい素材である。材料Cは、この材料Aと材料Cとの間の熱応力を緩和するために挿入され、2元素からなるマトリックス材および微粒子を含み、緻密状態および多孔質状態を含み、材料Aに接する側が緻密状態であり、材料Bに接する側が多孔質状態である。
【0013】
材料Cの緻密状態は、マトリックス材と微粒子とが互いに強固に密着して構成され、それゆえに緻密状態部分は低線膨張性を示す。この性質は、線膨張係数の小さい材料Aに近いものである。したがって、熱変形しにくい材料Aと接する側に材料Cの緻密状態を配置することにより、高温の環境で材料Aが線膨張係数の大きい材料Bと接したための熱応力によって損傷することを防止できる。
【0014】
一方、材料Cの多孔質状態は、マトリックス材と微粒子との間に空隙が生じて多孔質となっており、同一の材料で多孔質ではないものよりも見かけの弾性が低下し、変形しやすい。したがって、線膨張係数の大きい材料Bと接する側に材料Cの多孔質状態を配置することにより、材料Cは材料Bの伸びに合わせて変形する。したがって、材料Bの熱変形が材料Aに影響することを防止する。すなわち、材料Cは、材料Aと材料Bとの間の熱応力緩和層として機能する。
【0015】
次に本発明の好ましい実施形態について説明する。図1は、本発明の好ましい実施形態の積層構造体を示した断面図である。図1中、本実施形態の積層構造体10は、材料AとしてSiCを使用した半導体素子1と、材料Bとして電子部品の配線に広く使用される銅を使用した配線電極5との間に、材料Cを挟んでいる。SiCの線膨張係数は4.5×10−6/K、銅の線膨張係数は16.6×10−6/Kであり、両者の線膨張係数は大きく異なる。そのまま積層すると、半導体素子に接している配線電極は熱変形しやすく、SiCが熱によって変形しにくいために、熱応力によって半導体素子にクラックが入ってしまう。材料Cは、ニッケルおよび銅の2元素からなるマトリックス材中に、微粒子としてカーボンナノチューブを含んだ金属基複合材料(以下、NiCu−CNT複合材料と称する)の薄膜である。NiCu−CNT複合材料4中には、緻密状態2および多孔質状態3がそれぞれの薄層を互いに重ねたような状態で含まれており、それぞれ半導体素子1および配線電極5に接している。緻密状態2は低線膨張性を示し、多孔質状態3は低弾性を示す。なお、後述するように緻密状態2と多孔質状態3とは相互に混じり合って連続しているが、図1においては、説明のために緻密状態2と多孔質状態3を区分して示した。
【0016】
ニッケルと銅は全率で固溶体を形成するが、NiCu−CNT複合材料4中、マトリックス材としてのニッケルと銅とには濃度勾配がある。図2は、NiCu−CNT複合材料4の断面を厚み方向に元素分析した結果を示すグラフである。図2において、横軸は厚み方向の距離であり、0は半導体素子1に接する表面で右端は配線電極5に接する表面である。半導体素子1に近い部分、すなわち緻密状態2はニッケルがリッチであるのに対して、Bに近い部分の多孔質状態3は銅がリッチになっている。このマトリックス材の2元素の濃度勾配により、緻密状態2と多孔質状態3とが形成される。
【0017】
NiCu−CNT複合材料4は、上記のように緻密状態と多孔質状態を含むことにより、全体としては、ヤング率が小さく線膨張係数が小さいという性質を有する。すなわち、低弾性であり外的な力による変形に追随しやすく、かつ、熱による変形もしにくい。特に、明確に区分することは難しいが、NiCu−CNT複合材料4のうち緻密状態2の側では低線膨張性が、多孔質状態3の側では低弾性が、より顕著に現れる。それぞれの特性は薄膜の表面に近くなるほど顕著である。したがって、高温の環境において、電極が熱変形した場合には、配線電極5に接する多孔質状態3がその変形に追随して変形する。一方の半導体素子1に接する緻密状態2は半導体素子1と共に形を維持したままとなる。NiCu−CNT複合材料4は、機能的な面からは、低線膨張性の層と低弾性の層とが積層されているとも言える。このように本実施形態の積層構造体は、NiCu−CNT複合材料4が熱応力緩和層としての機能を発揮し、半導体素子の実装に好適である。高温の環境や素子の発熱による熱応力に起因する半導体素子1のクラックを防止でき、信頼性の高い半導体デバイスを提供できるためである。
【0018】
NiCu−CNT複合材料4が緻密状態と多孔質状態とで構成されていることは、上記のように低線膨張性および低弾性という物性に反映され、断面を観察することと共に、ヤング率および線膨張係数の測定によって知ることができる。本発明において、緻密状態と多孔質状態とを含むとは、材料Cは線膨張係数が10〜20×10−6/Kおよびヤング率が50〜125GPaを示す。より好ましくは、線膨張係数が12〜18×10−6/K、ヤング率が50〜100GPaであり、さらに好ましくは、線膨張係数が16.5〜17.6×10−6/K、ヤング率が64〜72.1GPaである。
【0019】
NiCu−CNT複合材料4は、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察すると、緻密状態および多孔質状態を確認することができる。図3は、本実施形態のNiCu−CNT複合材料4の断面をSEMにて1000倍で観察した像を示す図であり、多孔質状態3は上側、緻密状態2は下側である。図4は、図3の拡大図であり、4000倍での観察像である。
【0020】
図5は、図4の多孔質状態3を拡大し、10000倍で観察した像である。観察像のほぼ全域にわたり空隙が観察され、特に膜表面近くの断面において、多数の細かい空孔を確認することができる。一方図6は、図4の緻密状態2を拡大し、10000倍で観察した像である。多孔質状態3に比較して空隙が少なく全体に滑らかであり、特に下側の膜表面近くの断面は空隙がなくとても滑らかであることが観察される。このように、緻密状態と多孔質状態とは、SEMにて1000〜10000倍で断面を観察することにより互いに区別される。本実施形態においては、膜の断面を上記のように観察したときにこのように状態に明確な相違が認められること、および、膜全体について上記のような物性を示すことが確認されれば、狙いとする熱応力緩和の効果が得られる。
【0021】
緻密状態2と多孔質状態3との比率は、本発明の効果を十分に発揮するためには、図3のSEMにより観察した断面において、それぞれの厚み方向の長さを計測した場合に、緻密状態:多孔質状態が5:5〜3:7である。より好ましくは4:6〜3:7である。本実施形態においては、最も好ましい比率は3:7である。
【0022】
NiCu−CNT複合材料4はそれ自身の放熱性や導電性にも優れている。したがって、半導体素子1の発生する熱を吸収することもでき、配線電極5と半導体素子1との間を電気的に接続する役割も果たしている。NiCu−CNT複合材料4が導電性を有することにより、半導体素子の動作に影響することなく、半導体実装に好適である。
【0023】
本実施形態におけるNiCu−CNT複合材料4の全体の厚さは、熱応力を効果的に緩和するために、10〜300μmであることが好ましく、より好ましくは50〜200μmである。
【0024】
NiCu−CNT複合材料4が緻密状態および多孔質状態を含んで構成されるのは、マトリックス材であるニッケルまたは銅と微粒子であるカーボンナノチューブと濡れ性の相違による。ニッケルとカーボンナノチューブとは濡れ性がよく、製造工程において互いに強固に密着するため、緻密状態となり低線膨張性を示す。一方、銅とカーボンナノチューブとは濡れ性が悪く、そのために製造工程においてカーボンナノチューブが銅をはじき、両者の界面に空孔が生じ、全体が多孔質状態となる。また、それゆえに低弾性を示す。
【0025】
図7は、多孔質状態3中の空孔の様子を模式的に示した図である。図2に示すように、マトリックス材6中にはカーボンナノチューブ7が含まれている。マトリックス材6とカーボンナノチューブ7との濡れ性の悪さから、両者の界面には、製造工程において生じた空孔8が多数存在している。
【0026】
NiCu−CNT複合材料4は、電解めっき方法によって製造することができる。例えば、銅イオンおよびニッケルイオンを含むめっき液に、カーボンナノチューブ、光沢剤および界面活性剤を混合して複合めっき液を調製し、この複合めっき液に金属電極を投入して、電解めっきを施す。その後、得られためっき膜を金属電極からはがし、NiCu−CNT複合材料の薄膜を得る。より詳細には、特開2008−163376号公報に記載の複合めっき方法を用いることができる。したがって、本実施形態のNiCu−CNT複合材料4には、電解めっきの際に使用される微量の光沢剤や滑剤が含まれていてもよい。また、カーボンナノチューブはシリコン等で被覆されていてもよい。
【0027】
本実施形態に好適なNiCu−CNT複合材料を得るには、直径0.4〜150nm、より好ましくは10〜150nm、さらに好ましくは50〜150nmのカーボンナノチューブを使用する。カーボンナノチューブの直径は、透過型電子顕微鏡(TEM)または原子間力電子顕微鏡(AFM)を用いて測定するものとする。カーボンナノチューブの長さとしては、通常数μm〜100μmである。カーボンナノチューブの添加量としては0.001〜10質量%、より好ましくは0.001〜1質量%、さらに好ましくは0.5〜1質量%である。この範囲の添加量であれば、上記の物性を示す緻密状態および多孔質状態を含むNiCu−CNT複合材料4を製造するのに適している。
【0028】
NiCu−CNT複合材料を半導体素子および配線電極と積層するには、接合剤として銀ナノペーストを使用する。銀ナノペーストは接合剤の一種であり、粒径が約10nmの銀のナノ粒子を有機保護膜でコーティングしたものを、溶媒に分散しペースト状にしたものである。銀ナノペーストが加熱により一定温度に達すると、溶媒や有機保護膜は分解して揮発し、超微粒子の銀が露出する。露出した銀ナノ粒子は互いに焼結し、接合剤として機能するものである。本実施形態では、半導体素子とNiCu−CNT複合材料との間、およびNiCu−CNT複合材料と配線電極との間に、銀ナノペーストを10〜100μmの範囲の厚さで塗布し、2つの部材を接合する。
【0029】
上記のとおり、本発明の好ましい実施形態を説明してきたが、本発明は上記の実施形態に制限されない。図1では、半導体素子1がNiCu−CNT複合材料4と接する面積は、NiCu−CNT複合材料4が配線電極5と接する面積より小さく描かれているが、逆であってもよい。また半導体素子1、NiCu−CNT複合材料4および配線電極5がすべて同じ大きさであってもよい。要は、半導体素子1と配線電極5との間の熱応力を十分緩和できる程度に、NiCu−CNT複合材料4の少なくとも一部が両者に接触していればよい。
【0030】
材料Aの半導体素子としては、SiCを使用したものに限られず、GaAs、Si等従来公知の素材の素子に本発明は適用できる。また、材料Aとしては、半導体素子(半導体チップ)以外にも、種々の表面実装素子(チップ部品)、例えば赤外線受光素子、側面発光ダイオード、水晶発振子なども利用可能である。そして、材料Aの好適な線膨張係数としては、2.6×10−6/K〜8×10−6/K、好ましくは、2.6×10−6/K〜6.8×10−6/K、より好ましくは、2.6×10−6/K〜4.5×10−6/Kの範囲にあることが望ましい。材料Aの好適な線膨張係数が上記範囲内であれば、半導体素子(半導体チップ)などの材料Aと材料Bとの間に、後述する材料Cを介在させることにより、高温動作される半導体素子の材料Aにより材料Bが変形することで発生する熱応力を、当該材料Cにより緩和することができる。その結果、積層構造体の熱応力による損傷等を防止でき、耐久信頼性を向上することができる。材料Bの配線電極材料としては、銅に限られず、アルミニウム、銅、銀、金およびモリブデン並びにこれらの合金から選ばれた少なくとも一種に本発明は適用できる。この場合、5.1×10−6/K〜23.5×10−6/Kの線膨張係数を有することが望ましい。
【0031】
材料Bの好適な線膨張係数が上記範囲内であれば、相対的に小さい線膨張係数を有する半導体素子(半導体チップ)などの材料Aと、相対的に大きな線膨張係数を有する配線電極(金属材料)の材料Bとの間に、後述する材料Cを介在させることができる。これによって、材料Cの材料Bに接している側においても材料Bにより材料Cの変形が抑えられ、あまり変形せず、材料Aに加わる熱応力を材料Bにより緩和できるためである。その結果、材料Aと材料Bとの間の熱応力を緩和することができ、積層構造体の熱応力による損傷等を防止でき、耐久信頼性を向上することができる。
【0032】
また、材料Cの好適な線膨張係数としては、12×10−6/K以上、22×10−6/K未満の範囲であり、好ましくは、12×10−6/K〜20×10−6/K、より好ましくは、16×10−6/K〜18×10−6/Kの低線膨張係数を有することが望ましい。
【0033】
材料Cの好適な線膨張係数が上記範囲内であれば、材料Aと材料Bとの間に、上記範囲の低線膨張係数の材料Cを介在させることにより、熱応力の発生を緩和することができる。その結果、積層構造体の熱応力による損傷等を防止でき、耐久信頼性を向上することができる。
【0034】
材料Cの好適なヤング率としては、50〜90GPa、好ましくは60〜80GPa、より好ましくは64〜73GPaを有することが望ましい。
【0035】
材料Cの好適なヤング率が上記範囲内であれば、材料Aと材料Bとの間に、上記範囲の低線膨張係数かつ高ヤング率の材料Cを介在させることにより、材料Cの上下に配置する材料Aないし材料Bに発生する熱応力を緩和することができる。その結果、積層構造体の熱応力による損傷等を防止でき、耐久信頼性を向上することができる。
【0036】
緻密状態および多孔質状態を形成するのに好ましい微粒子の例としては、カーボンナノチューブに限られず、ニッケルおよび銅との濡れ性の関係から、以下のものが挙げられる。すなわち、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボン繊維およびセラミックの少なくとも一種を使用することができる。しかし、2元素からなるマトリックス材と微粒子との互いの濡れ性の関係から緻密状態および多孔質状態を形成でき、低線膨張性と低弾性を実現できれば、マトリックス材および微粒子は上記のものに限られない。
【0037】
また、多孔質体に含まれる微粒子としてカーボンナノチューブ以外の材料、カーボン繊維、フラーレン等の添加量については、添加量としては0.001〜10質量%、より好ましくは0.001〜1質量%、さらに好ましくは0.1〜1質量%である。
【0038】
また、材料Aと材料Bとがα<αの関係を満たしていれば、本発明の用途は半導体デバイスに限られない。例えば、樹脂製の部品を金属板の上に固定するなど、温度変化が想定される環境で、線膨張係数差が大きい材料同士を接合する場合にも本発明は適用できる。
【0039】
また、材料Cが導電性を有するとは、上記の好ましい実施形態での配線電極と半導体素子のように電気によって駆動させる通常の用途において、配線と同等の導電性を有していることを意味する。
【0040】
以上説明してきたように、本発明は、以下のような効果を示す。
(a)緻密状態および多孔質状態を含む材料Cを、線膨張係数差のある材料AおよびBの間に挿入し、緻密状態の示す低線膨張性および多孔質状態の示す低弾性により、高温の環境においても材料AB間の熱応力を効果的に緩和できる。
(b)材料Aとして半導体素子、材料Bとして配線電極を選択すれば、半導体素子と配線電極間の熱応力を効果的に緩和できるため、高温の環境における半導体素子の損傷を防止でき、信頼性の高い半導体デバイスを実現できる。
(c)マトリックス材が導電性であることにより、半導体素子および配線電極間に本発明を適用した際、素子の動作に影響することなく、半導体実装に好適である。
(d)マトリックス材がニッケルおよび銅であると、微粒子との濡れ性の差があることにより、緻密状態および多孔質状態を含む金属基複合材料が得られる。
(e)微粒子がカーボンナノチューブ、フラーレン、カーボン繊維およびセラミックの少なくとも一種であると、2元素からなるマトリックス材との濡れ性に差があることにより、緻密状態および多孔質状態を含む金属基複合材料が得られる。
(f)電解めっきを用いることにより、熱応力緩和に好適な2元素からなるマトリックス材と微粒子を含む金属基複合材料を製造できる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例および比較例を通して説明する。
(実施例1および2)
後掲の表1に示すように、材料AとしてSiC(大きさ:5mm×5mm×0.3mm)、材料BとしてCu(大きさ:13mm×13mm×0.5mm)を準備した。材料Cとしては、銅・ニッケル合金マトリックス中にそれぞれ表1に示す添加量のマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT;直径150nm)を含む多孔質体(大きさ:7mm×7mm×0.013mm)を準備した。
【0042】
金属基複合材料は、特開2008−163376号公報に記載の電解めっき方法によって製造した。
【0043】
これらの材料の平均線膨張係数α、αおよびαを、熱機械分析装置(Thermal Mechanical Analysis; TMA)による測定で求めた。昇温、降温速度は5℃/分で、23〜300℃の平均線膨張係数を求めた。
【0044】
また、これらの材料のヤング率σ、σおよびσをJIS Z 2280:1993(金属材料の高温ヤング率試験方法)に準じ、但し高精度ビデオ伸び計を用いた引張試験により、試験速度1.0mm/min、票点間距離25mm、室温(25℃)でそれぞれ測定した。
【0045】
測定結果は、材料と共に表1に示す。これらの測定結果を基に、材料A、材料C、材料Bを積層した場合の、材料Cの熱応力緩和層としての効果について後述するように考察した。また、得られた金属基複合材料の断面をSEMにて4000倍で観察したところ、緻密状態と多孔質状態とが形成されていることが確認された。
(比較例1)
従来技術との比較のため、比較例1では材料CとしてSn−37Pbはんだを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、材料A、材料B、材料Cを準備し線膨張係数およびヤング率をそれぞれ測定した。測定結果を表1に示す。
(比較例2)
比較例2では、材料Cとして微粒子を含まないニッケルと銅との合金箔を用いた以外は、実施例1と同様にして、材料A、材料B、材料Cを準備し線膨張係数およびヤング率をそれぞれ測定した。めっき浴は、カーボンナノチューブを添加しなかった以外は、実施例1と同様のものを使用した。測定結果を表1に示す。また、得られた金属基複合材料の断面をSEMにて4000倍で観察したところ、断面は厚み方向に一様であり、緻密状態と多孔質状態とは形成されていなかった。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、SiCと銅、SiCとアルミニウムでは、SiCの線膨張係数が4.5×10−6/Kに対して、銅が16.6×10−6/K、アルミニウムが23.5×10−6/Kと、線膨張係数差が大きい。そのため、SiCと銅またはアルミニウムを直接積層すると、温度の上昇によってSiCにクラックが入るおそれがある。
【0048】
実施例1および2の材料Cは、線膨張係数が16.5×10−6/Kおよび17.6×10−6/Kであり、比較例1の従来技術のはんだの線膨張係数23.5×10−6/Kと比較して、低線膨張性が実現されていることが分かる。低線膨張性は、SEMで観察された緻密状態においてより顕著であり、線膨張係数は多孔質状態へと連続的に変化する。そのため、NiCu−CNT複合材料の膜の緻密状態の側をSiCと接するように配置すれば、高温の環境においてSiCが損傷することを防止できる。
【0049】
実施例1および2のヤング率は64.0GPaおよび72.1GPaであり、例えば銅の120GPaに比較して低弾性を示すことが分かる。低弾性は、SEMで観察された多孔質状態においてより顕著である。そのため、多孔質状態の面を配線電極である銅またはアルミニウムと接するように配置すれば、配線電極の熱変形に追随できる。したがって、実施例1および2の金属基複合材料をSiCと銅またはアルミニウム間に挿入することにより、両者の間の熱応力を緩和できることが分かる。
【0050】
比較例1では、はんだを使用しているために、ヤング率は小さく最も低弾性であるが、上述のようにはんだは融点が低いため、300℃付近の高温の環境で使用することはできない。また、線膨張係数は大きく、はんだ自身も熱変形するため、SiCとの間に応力が発生し好ましくない。CuNi箔を使用した比較例2では、線膨張係数は小さくなっているものの、ヤング率が115GPaと十分な低弾性を示してはいない。したがって、配線電極が熱により変形した際、Alのようにより線膨張係数の大きい金属の場合には特に、AlとCuNi箔の界面が割れる可能性がある。
【符号の説明】
【0051】
1 半導体素子、
2 緻密状態、
3 多孔質状態、
4 NiCu−CNT複合材料、
5 配線電極、
6 マトリックス材、
7 カーボンナノチューブ、
8 空孔、
10 積層構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料Aと、材料Bと、材料Aと材料Bとの間に挟まれた材料Cとからなり、材料Aおよび材料Bの線膨張係数が、α<αの関係を満たし(ここで、αは材料Aの線膨張係数を表し、αは材料Bの線膨張係数を表わす)、材料Cは2元素からなるマトリックス材および微粒子を含み、緻密状態および多孔質状態を含み、材料Cの材料Aに接する側が緻密状態であり、材料Bに接する側が多孔質状態であることを特徴とする積層構造体。
【請求項2】
前記材料Aが半導体素子であり、前記材料Bがアルミニウム、銅、銀、金およびモリブデン並びにこれらの合金のいずれか一種からなる配線電極である請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
前記材料Cが導電性を有する請求項1または2に記載の積層構造体。
【請求項4】
前記マトリックス材がニッケルおよび銅である請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層構造体。
【請求項5】
前記微粒子が、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボン繊維およびセラミックからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料からなる請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層構造体。
【請求項6】
前記材料Cが、電解めっきによって形成されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の積層構造体。

【図1】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−267747(P2010−267747A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116988(P2009−116988)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】