説明

金属帯の再加熱のための移動磁界インダクタのくし状スリット入り積層ヨーク

磁性薄板(4)を積み重ねることによって形成されるヨークであって、磁性薄板(4)が、互いに平行かつ開いたリップを有するエッジの切り欠き(7)を有しており、それらが少なくともインダクタの角のある端部に局在している。これらの切り欠きは、好ましくは数mmの間隔を有するが、間隔がより大きくてもよく、1cm以上であってもよく、しかしながら約5cmを超えない。切り欠きは、薄板の縁から始まり、好ましくは直線に沿って、インダクタの環境に応じて決まる距離だけ内側へと延びている。切り欠きは、材料を除去することによって生成され、渦電流の循環のための橋絡を提供することがないよう、各々の切り欠き(7)が非接触なリップ(したがって、開いたリップ)を、特に好ましくは不連続な地点に有するように生成される。本発明は、加熱インダクタの製造に適用され、単純な手段でインダクタの熱的挙動を制御し、インダクタの過熱を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体の状態で連続的に走行している金属帯、特に鋼帯の迅速な誘導加熱に関する。さらに詳しくは、本発明は、当該加熱インダクタを構成する薄板からなる形式の磁性ヨークの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタの過熱を抑えるために、インダクタのヨークを、互いに電気的に絶縁された磁性薄板の積み重ねとして製造することが、通常の実務である。積層の方向を、インダクタによって生成される磁界の方向に沿って向けることで、垂直面における渦電流の形成が防止される。さらに、薄板それ自体が、厚さ方向に沿って渦電流が有意に生じることができないように、充分に薄い。これは、インダクタを長期にわたる安定動作に適合する温度レベルに保つために、加熱対象の被加工物それ自体から到来する熱流速を相殺するために充分であると考えられる冷却よりも、はるかに強力にヨークを冷却しなければならないというリスクにおいて、そのような寄生電流を阻止すべきであるからである。
【0003】
原則として、ヨークの積層が、通常の加熱インダクタの熱レベルを制御するために充分である。しかしながら、特定の事例においては、(自然対流やファンなどによって)もたらされる冷却がもはや充分でなく、例えばヒートパイプもしくは熱伝達流体の相変化を利用し、または比較的複雑な極低温システムを利用する強制的な熱抽出システムを考えなければならず、それらが、実行すべき誘導加熱作業の経済的制約に常には適合しないことが、明らかになっている。これは、特に、いわゆる「移動」磁界を生成する強力なインダクタの場合に当てはまり、そのようなインダクタを、現時点においては、温度を数秒で摂氏数百度も上昇させるきわめて迅速な加熱速度を実現するように構成しなければならない。現時点において開発中の応用例は、連続的な焼きなましラインを通って高速(約数百メートル/分)で走行する鋼帯の誘導加熱のために、インダクタが、2つの対をなす平面状の半部品で構成され、これら2つの半部品が、強力なパルス状の磁界を生成する通路すき間を間に残すように、小さな間隔にて互いに面して配置され、加熱対象の鋼帯が前記すき間を通過するというものである。
【0004】
しかしながら、本出願の出願人の研究室において行われた本質的な過熱の原因および要因(加熱された製品から戻ってくる反射の熱放射を除く)についての詳細な分析が、運転コストを全くまたは実質的に招くことがなく、多くの場合にインダクタの熱安定性を満足できる温度レベルに維持するために通常のインダクタ冷却手段を使用すれば充分である単純であって複雑でない技術的解決策をもたらした。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的のために、本発明の主題は、平面の全体構造を有しており、磁性薄板の積み重ねから形成されており、移動する磁界を生成する加熱インダクタのヨークであって、ヨークを構成している前記薄板が、開いたリップを有する互いに平行なエッジ切り欠きを有しており、それらが少なくともインダクタの角に位置していることを特徴とするヨークである。
【0006】
これらの切り欠きは、好ましくは数mmの間隔で位置しているが、間隔がより大きくてもよく、1cm以上であってよいが、約5cmを超えることはなく、さもないと、期待される効果が失われる恐れがある。
【0007】
切り欠きは、薄板のエッジにおいて始まり、好ましくは直線に沿って、インダクタの環境に応じて決まる数cmから数dmの範囲の距離にわたって、内側に向かって延びている。切り欠きは、そこで渦電流の循環のための橋絡を提供することがないよう、各々の切り欠きが非接触のリップ(すなわち、開いたリップ)を有し、好ましくは互いの接触がなく、不連続な接触さえないように、材料を除去することによって生成される。
【0008】
したがって、理解されるとおり、本発明は、磁界を生成する加熱インダクタにおいてこの磁界の力線を案内するという従来どおりの目的の磁性ヨークであって、通常の切り欠きのない薄板に代えて、外周に部分的なスリットが形成された磁性薄板を積み重ねて製造されるヨークにある。
【0009】
その結果、ヨークが、磁界を集中させるという主たる役割を維持するとともに、誘導電流があらゆる方向に広がることを防止して、望ましくない過熱を解消し、インダクタの使用をはるかに容易にする。
【0010】
積層の方向をインダクタの電気巻線によって生成されて入射する磁界の方向に沿って向けつつ薄板から磁性ヨークを製作するという従来の原則が、この磁界の方向が知られており、安定であり、かつ良好に制御されており、すなわち積層の方向に正確に平行である場合に、上手く機能することが確認されている。しかしながら磁界の力線の伝播の方向が、磁界が占める空間内のすべての場所において同じとは限らない磁気的構成も存在する。したがって、インダクタの角(一般に、インダクタが外部物質の環境に最も接近する)において、磁界が、利用可能な経路のうちで最もリラクタンスの小さい経路に自然に従った後で、ヨークのエッジを超えて戻ることがあり得る。加熱力の大きいインダクタ(本発明は、最初はこのようなインダクタのために提案された)の場合、ヨークを構成する薄板の切り欠きのない面に生じる誘導寄生電流が、これらの条件下で、強力な局所的過熱を引き起こして、インダクタの使用を制約する可能性がある一方で、それでもなお、平均の熱レベルは、長持ちする正常な動作状態を依然として完全に満たしている。
【0011】
そのような局所的な過熱が、ヨークの磁性薄板を構成する薄板において少なくとも上述の過熱が問題を引き起こす場所に設けられ、非接触のエッジを有する開いた外周の切り欠きで単純に構成されている本発明の手段によって回避される。
【0012】
局所的な過熱の原因は、これらの特定の場所におけるインダクタの周辺の材料環境の磁気特性に起因する磁界の力線の特異な空間トポロジ(薄板の大きい面に多少なりとも垂直な方向に沿って巡る)にある。
【0013】
本発明の平行かつ間隔を空けて位置する切り欠きは、薄板のエッジから出発しているため、開いており、したがって、そのような望ましくない過熱によってインダクタの使用が制限されかねない場所において、ヨークにくし状の形状を与える。
【0014】
添付の図面を参照しつつ提示される以下の説明に照らして、本発明がより明瞭に理解され、本発明の他の態様および利点が、さらにはっきりと明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】「移動」式の磁界を生成する平面加熱インダクタの角に位置する従来の磁性ヨークの一部分を概略的に示している。
【図2】図1と同様の図であるが、本発明の手段が設けられたヨークを示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に見ることができるように、問題を簡単にするために垂直である力線Bvが、インダクタ(図示せず)の水平面ギャップに生成される磁界の主たる力線である。したがって、それらは、インダクタそれ自体によって制御されるため、強度および空間トポロジの両方に関して一様であって良好に制御される磁力の場を呈する。
【0017】
磁性鋼の薄板3を積み重ねることによって形成されるヨーク1が、この磁界Bvの伝播の方向に積層される。金属の不連続を生み出すように意図されたこの構成が、ギャップの平面、したがって、Bvに垂直な平面におけるヨーク内の渦電流の形成を防止する。この構成のおかげで、エッジのループだけが生じることができ、すなわち薄板の厚さ方向に沿った誘導電流の循環ループ5だけしか生じることができず、したがって小さな低エネルギのループしか生じることができない。
【0018】
しかしながら、他の寄生電流の循環ループ6が、まさに薄板の平面において生じる可能性がある。これらのループは、薄板の全表面がこれらの寄生電流の確立のための場所として機能するため、上述のループよりもはるかに大きなエネルギであり、結果として生じるヨークの過熱へのジュール効果が、より大きい。この状況は、インダクタによって生成されて入射する磁界の力線Btの全体または少なくとも大部分が、Bvに垂直な方向を向き、したがって図示のとおりに薄板の平面に垂直に向けられる場合に生じる。これは、インダクタが、垂直な磁力線Bvの一部分を「捕捉」し、ヨーク上の戻り回路に沿って導いて、もっぱら水平方向の向きBt、したがって、薄板3の平面に垂直な向きを与えることができる強力な異方性を呈する磁気特性を有する環境の直近(したがって、一般的にはヨークの角)に配置される場合に生じ得る。
【0019】
これは、まさに、例えば連続鋼帯の焼きなまし炉を通過して高速で走行する金属帯の迅速な加熱を目的とする移動する磁界を生成する平面構造のインダクタなど、1つ以上の大型で強力なインダクタを支持し、それらを安定な位置に保つために、かさばる金属製の下部構造および/または上部構造が必要とされる場合である。
【0020】
図2に示されるように、そのようなインダクタの状況の厄介な熱的結果を軽減するために、本発明は、単純に、ヨークの薄板(前記薄板は、図1の従来の切り欠きのない薄板3との区別のために、ここでは参照番号4によって指し示されている)にエッジ切り欠き7を設けることからなる。したがって、誘導電流の形成および広がりの可能性を切り欠きの間に得られる限られた空間だけに制限することができる補足的な金属の不連続が生み出される。例えば、切り欠きが、薄板3の厚さ(すなわち、約1から4mm)に等しい距離または薄板3の厚さに近い距離だけ互いに隔てられている場合、生じることができる正面の寄生電流ループ8は、エッジのループ5と同じ種類であって、したがってエッジのループ5と同様にエネルギが小さく、結果としてインダクタの過熱が大幅に軽減される。当然ながら、仮に最良の結果が1cm以下の間隔にて達成されるにしても、インダクタの熱的挙動への有意な結果が、最大5cmに及んでもよい切り欠き間の間隔において得られることが、経験から示されている。
【0021】
切り欠きは、薄板のエッジにおいて始まり、好ましくは直線に沿って、インダクタの環境に依存して決まる数cmから数dmの範囲の距離にわたって、内側へと延びている。
【0022】
切り欠きは、例えば丸鋸を用いた単純な切断によって材料を除去することによって生成され、渦電流の循環のための橋絡を提供することがないよう、各々の切り欠きが非接触のリップ(「開いた」リップ)を有し、かつ好ましくは互いの接触がなく、不連続な接触さえないように生成される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面の全体構造を有しており、磁性薄板(4)の積み重ね(2)から形成されており、移動する磁界を生成する加熱インダクタのヨークであって、磁性ヨーク(1)を構成している前記薄板(4)が、開いたリップを有する互いに平行なエッジ切り欠き(7)を有しており、それらが少なくともインダクタの角に位置していることを特徴とする、ヨーク。
【請求項2】
前記切り欠き(7)の間隔が、好ましくは数mm以上かつ5cmを超えないことを特徴とする、請求項1に記載のヨーク。
【請求項3】
前記切り欠き(7)が、薄板のエッジにおいて始まっていることを特徴とする、請求項1または2に記載のヨーク。
【請求項4】
前記切り欠き(7)が、各々の切り欠きが開いたリップを有するように材料を除去することによって生成されていることを特徴とする、請求項1に記載のヨーク。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2011−510476(P2011−510476A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526333(P2010−526333)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際出願番号】PCT/FR2008/001303
【国際公開番号】WO2009/071764
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(506166491)アルセロールミタル・フランス (43)
【出願人】(510080808)アルセロールミタル−ステンレス・フランス (2)
【Fターム(参考)】