説明

金属帯の連続電解洗浄方法及び連続電解洗浄装置

【課題】金属帯の表面を電解洗浄するにあたって、板幅方向に均一に電解洗浄することを可能とする。
【解決手段】連続的に搬送される金属帯1の表面を電解洗浄する金属帯1の連続電解洗浄方法において、金属帯1の電解洗浄すべき洗浄面1aと相対向してその金属帯1の搬送方向Pに順に第1電極31及び第2電極33を配設する。第1電極31及び第2電極33から金属帯1の洗浄面1aに金属帯1の板幅以上の幅をもつ層状のラミナー流Wrとしての電解液を噴射する。第1電極31及び第2電極33の何れか一方を陽極、他方を陰極としてこれらの間で電圧を印加して、噴射している電解液Wr及び金属帯1を通して通電させる。これにより、金属帯1の板幅方向端部での電流集中を抑えて、金属帯1の板幅方向に均一に電解洗浄することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的に搬送される金属帯の表面を電解洗浄する金属帯の連続電解洗浄方法及び連続電解洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、連続的に搬送される鋼帯等の金属帯の表面を電解洗浄することにより、金属帯の表面に付着した圧延油、機械油、スケール等を除去する試みが一般的になされている(例えば、特許文献1参照。)。このような金属帯の表面を電解洗浄する連続電解洗浄方法として、従来においては、以下に説明するような方法が知られている。
【0003】
図13は、従来の連続電解洗浄方法を実現するための連続電解洗浄装置103の構成の一例を概略的に示す側面図である。この連続電解洗浄装置103は、電解液Wの貯溜された電解槽161と、電解槽161の電解液Wに浸漬され、金属帯101の搬送方向Pに順に配設された複数の板状の電極131とを備えている。金属帯101は、電解液W中に浸漬されたうえで板状の電極131に相対向するように連続的に搬送される。
【0004】
そして、この連続電解洗浄装置103により金属帯101の表面を電解洗浄するうえでは、複数の板状の電極131の間に電圧を印加し、金属帯101と電解液Wとを通して複数の板状の電極131の間で通電させる。これにより、陽極となる電極131に相対向する金属帯101の表面を電解液Wの電気分解により電解洗浄することが可能となる。
【0005】
また、近年においては、方向性珪素鋼板を製造する熱処理工程において、磁気特性の良好な方向性珪素鋼板を得るため、ケイ酸塩を電解液として用いて電解洗浄を行なうことにより鋼帯の表面をより均一に清浄し、その後に脱炭焼鈍処理を行うことにより鋼帯の表面に均一な厚みのSiO2被膜を生成させる試みが進められている。このようにして、均一な厚みのSiO2被膜を生成させることによって、脱炭焼鈍処理に続く窒化焼鈍処理によって板幅方向に均一に窒素を侵入させることが可能となり、AlN等の窒化物によるインヒビター能を鋼帯の板幅方向に均一に発揮させて、仕上焼鈍後に得られる鋼帯の二次再結晶粒の粒径を均一にすることが可能となる。
【0006】
このように、方向性珪素鋼板を製造する熱処理工程においては、ケイ酸塩を電解液として用いた電解洗浄後に得られる鋼帯の表面性状が後工程に大きな影響を及ぼすため、その後の熱処理を板幅方向で均一に行ううえで、鋼帯の板幅方向で均一に電解洗浄を行なうことを可能とすることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−064798号公報(図6参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来の連続電解洗浄方法では、金属帯101を電解液Wに浸漬させた状態で電解液Wの電気分解を進行させる必要があるため、電解液Wに浸漬された金属帯101の板幅方向端部で電流集中が生じてしまっていた。このため、従来の連続電解洗浄方法では、洗浄の度合いが板幅方向で不均一になるという問題点があった。
【0009】
また、従来の連続電解洗浄方法では、金属帯101を電解液Wに浸漬させた状態で電気分解を進行させる必要があるため、電解洗浄すべき洗浄面とは反対側の片面にも電流が回り込んでしまい、その反対側の片面も電解洗浄されてしまうという問題点があった。
【0010】
また、ケイ酸塩を電解液として用いて方向性珪素鋼板を洗浄する場合、従来の連続電解洗浄方法では、洗浄の度合いが板幅方向で不均一になることに加え、金属帯端部への電流集中による金属帯表面の局部酸化を招き、その後の窒化処理が金属帯の板幅方向で不均一になるといった品質トラブルが顕在化することになっていた。
【0011】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、金属帯の表面を電解洗浄するにあたって、板幅方向に均一に電解洗浄することを可能とする金属帯の連続電解洗浄方法及び連続電解洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上述した課題を解決するために、鋭意検討の末、下記の金属帯の連続電解洗浄方法及び連続電解洗浄装置を発明した。
第1発明に係る金属帯の連続電解洗浄方法は、連続的に搬送される金属帯の表面を電解洗浄する金属帯の連続電解洗浄方法において、前記金属帯の電解洗浄すべき洗浄面と相対向して当該金属帯の搬送方向に順に配設された第1電極及び第2電極から、前記第1電極及び前記第2電極から前記金属帯の洗浄面に当該金属帯の板幅以上の幅をもつ層状のラミナー流としての電解液を噴射し、前記第1電極及び前記第2電極の何れか一方を陽極、他方を陰極としてこれらの間で電圧を印加して、前記噴射している電解液及び前記金属帯を通して通電させることを特徴とする。
第2発明に係る金属帯の連続電解洗浄方法は、第1発明において、前記金属帯は、その両面が前記洗浄面であり、前記電解液を噴射する工程では、前記金属帯の両面の洗浄面と相対向して当該金属帯の搬送方向に順に配設された第1電極及び第2電極から、前記電解液を洗浄することを特徴とする。
第3発明に係る金属帯の連続電解洗浄方法は、第1発明又は第2発明において、前記第1電極及び前記第2電極は、前記金属帯の搬送方向の最も出側が陰極であることを特徴とする。
第4発明に係る金属帯の連続電解洗浄方法は、第1発明〜第3発明の何れかにおいて、前記電解液を噴射する工程では、前記金属帯の電解洗浄すべき洗浄面と相対向して当該金属帯の搬送方向に順に複数組配設された第1電極及び第2電極の組からなる電極群から、前記電解液を噴射することを特徴とする。
第5発明に係る金属帯の連続電解洗浄方法は、第1発明〜第4発明の何れかにおいて、前記電解液は、ケイ酸塩又は苛性ソーダを含有するアルカリ性洗浄液であることを特徴とする。
第6発明に係る金属帯の連続電解洗浄方法は、第1発明〜第5発明の何れかにおいて、前記噴射している電解液及び前記金属帯を通して通電させる工程では、前記第1電極及び前記第2電極の極性を反転させつつ通電させることを特徴とする。
第7発明に係る金属帯の連続電解洗浄方法は、第6発明において、前記噴射している電解液及び前記金属帯を通して通電させる工程では、前記第1電極及び前記第2電極の極性を反転させるときに、電圧を印加しない時間を経てから極性を反転させることを特徴とする。
第8発明に係る金属帯の連続電解洗浄方法は、第1発明〜第7発明の何れかにおいて、前記金属帯は、方向性珪素鋼板又は無方向性珪素鋼板であることを特徴とする。
第9発明に係る金属帯の連続電解洗浄装置は、連続的に搬送される金属帯の表面を電解洗浄するための金属帯の連続電解洗浄装置において、前記金属帯の電解洗浄すべき洗浄面と相対向して当該金属帯の搬送方向に順に配設された第1電極及び第2電極と、前記第1電極及び前記第2電極に設けられ、当該第1電極及び当該第2電極から前記金属帯の洗浄面に当該金属帯の板幅以上の幅をもつ層状のラミナー流としての電解液を噴射するラミナーノズルと、前記第1電極及び前記第2電極の何れか一方を陽極、他方を陰極としてこれらの間で電圧を印加して、前記ラミナーノズルから噴射される電解液及び前記金属帯を通して通電させる電圧印加手段とを備えることを特徴とする。
第10発明に係る金属帯の連続電解洗浄装置において、第9発明において、前記金属帯は、その両面が前記洗浄面であり、前記第1電極及び前記第2電極の組からなる電極群が前記金属帯の両面の洗浄面に相対向して配設されていることを特徴とする。
第11発明に係る金属帯の連続電解洗浄装置において、第9発明又は第10発明において、前記第1電極及び前記第2電極は、前記金属帯の搬送方向の最も出側に配設されたものが陰極であることを特徴とする。
第12発明に係る金属帯の連続電解洗浄装置において、第9発明〜第11発明の何れかにおいて、前記第1電極及び前記第2電極の組からなる電極群が前記金属帯の搬送方向に複数配設されていることを特徴とする。
第13発明に係る金属帯の連続電解洗浄装置において、第9発明〜第12発明の何れかにおいて、前記電解液は、ケイ酸塩又は苛性ソーダを含有するアルカリ性洗浄液であることを特徴とする。
第14発明に係る金属帯の連続電解洗浄装置において、第9発明〜第13発明の何れかにおいて、前記電圧印加手段は、前記第1電極及び前記第2電極の極性を反転させつつ通電可能であることを特徴とする。
第15発明に係る金属帯の連続電解洗浄装置において、第14発明において、前記電圧印加手段は、前記第1電極及び前記第2電極の極性を反転させるときに、電圧を印加しない時間を経てから極性を反転可能であることを特徴とする。
第16発明に係る金属帯の連続電解洗浄装置において、第9発明〜第15発明の何れかにおいて、前記金属帯は、方向性珪素鋼板又は無方向性珪素鋼板であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1発明〜第16発明によれば、ラミナー流となる電解液を第1電極及び第2電極から金属帯に噴射しつつ、第1電極及び第2電極と金属帯との間で電圧を印加することとしているので、金属帯の洗浄面を電解洗浄するにあたって、金属帯を電解液に浸漬させることなく電解洗浄を進行させることが可能となる。また、ラミナー流となる電解液を用いて電解洗浄していることから、金属帯に衝突せずに板幅方向両側を通過しようとするラミナー流から金属帯に対する電流の流れがほとんど生じなくなる。これらによって、金属帯の板幅方向端部での電流集中を抑えることが可能となる。また、金属帯の板幅以上の幅をもつラミナー流を噴射することとしているので、ラミナー流を通して金属帯の全幅に亘り安定して通電させることが可能となる。これらによって、金属帯の板幅方向に均一に電解洗浄することが可能となる。また、金属帯を電解液に浸漬させることなく電解液の電気分解を進行させることが可能となることから、金属帯の洗浄面とは反対側の片面に電流が回り込むのを抑えることが可能となるうえ、陽極から陰極に電解液のみを通して流れる漏れ電流が生じるのを抑えることが可能となるうえ、電解槽に大量の電解液を貯溜させておく必要がなくなる。
第2発明、第10発明によれば、金属帯の両面の洗浄面と相対向して電極群が配設されているので、各々の電極群に対する通電量を異ならせることにより、金属帯の両面の電解洗浄量を違うものとすることが可能となる。
第3発明、第11発明によれば、電解液中の金属イオン等が陰極反応により金属帯に電着したとしても、最も出側に配設された陰極と金属帯との間での陽極反応により電着物を除去することが可能となる。
第4発明、第12発明によれば、電解洗浄量や電解洗浄速度を増大させることができ、生産性の向上を図ることが可能となる。
第6発明、第14発明によれば、電解液中の金属イオン等が陰極反応により第1電極や第2電極に電着したとしても、陽極反応によりその電着物を溶解させて除去することが可能となり、金属イオン等が電着することによる第1電極と第2電極との間の電圧上昇を防止することが可能となる。
第7発明、第15発明によれば、極性反転させてから所定の電圧値となるまでに生じる時間遅れの影響を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態に係る連続電解洗浄装置の構成を概略的に示す側面断面図である。
【図2】第1実施形態に係る電源装置により印加する電圧の例を示す図である。
【図3】第1実施形態に係る第1電極の構成を模式的に示す平面図である。
【図4】第1実施形態に係る第1電極及び第2電極の動作状態を模式的に示す側面断面図である。
【図5】第1実施形態に係る第1電極の動作状態を模式的に示す正面断面図である。
【図6】第2実施形態に係る連続電解洗浄装置の構成を概略的に示す側面断面図である。
【図7】第2実施形態に係る第1電極及び第2電極の動作状態を概略的に示す側面断面図である。
【図8】第2実施形態に係る第1電極の動作状態を模式的に示す正面断面図である。
【図9】第3実施形態に係る連続電解洗浄装置の構成を概略的に示す側面断面図である。
【図10】第4実施形態に係る連続電解洗浄装置の構成を概略的に示す側面断面図である。
【図11】第4実施形態に係る電源装置により第1電極と第2電極との間に印加される電圧の例を示す図である。
【図12】実施例1の操業条件で電解洗浄した得られた鋼帯の窒素含有量の測定結果を示す図である。
【図13】従来の連続表面処理装置の構成を概略的に示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者は、金属帯の表面を電解洗浄するにあたって、金属帯の板幅方向での洗浄の度合いを均一にすることを可能とする連続電解洗浄方法について鋭意検討した。この結果、金属帯を電解液に浸漬させない構成としたうえで、金属帯の板幅以上の幅をもつラミナー流としての電解液を一対の電極から金属帯に噴射しつつ一対の電極の間に電圧を印加して、ラミナー流と金属帯とを通して通電させて電解洗浄することによって、金属帯の板幅方向端部での電流集中を抑えつつ、板幅方向に均一に電解洗浄することが可能となることを見出した。
【0016】
本発明は、このような検討内容に基づき案出されたものであり、以下、その実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
まず、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る連続電解洗浄方法を実現するための連続電解洗浄装置3の構成を概略的に示す側面断面図である。
【0018】
本発明の適用の対象となる金属帯1は、リンガーロール81や図示しない巻取装置等により連続的に搬送されるものである。金属帯1は、その片面又は両面が電解洗浄すべき洗浄面1aとして搬送され、第1実施形態においては、上側の片面のみが洗浄面1aとして搬送されている。金属帯1は、例えば、普通鋼、ステンレス鋼、方向性珪素鋼板、無方向性珪素鋼板等の鋼材料や、純チタンや合金等の金属材料から構成される。本発明に係る連続電解洗浄方法は、金属帯1が鋼材料から構成される場合、鋼材料の製造プロセス中においてどの時点で用いられるか特に限定するものではなく、例えば、熱間圧延、冷間圧延された後に用いられる。
【0019】
連続電解洗浄装置3は、金属帯1の洗浄面1aと相対向してその金属帯1の搬送方向Pに順に配設される第1電極31及び第2電極33と、第1電極31と第2電極33との間に電圧を印加する電圧印加手段としての電源装置41とを備えている。
【0020】
第1電極31及び第2電極33は、何れか一方が陽極、他方が陰極として構成されるものであり、公知の電極材料から構成される。第1電極31及び第2電極33は、電解洗浄時や後述の極性反転時において陽極となる電極が電解エッチングされることのないようPt系等の不溶性材料から構成されるのが好ましい。
【0021】
電源装置41は、第1実施形態において、図2に示すような直流電圧を印加するものとして構成されている。電源装置41は、例えば、六相交流電源を六相半波整流して直流電圧を印加するものから構成されるが、電圧を印加できれば特にその構成について限定するものではなく、また、その方式もトランジスター方式、インバータ方式等特に限定するものではない。
【0022】
また、電源装置41は、第1実施形態において、第1電極31とその電源装置41との間に接続された開閉器43と、第2電極33とその電源装置41との間に接続された抵抗器45とを更に備えている。これにより、連続電解洗浄装置3は、開閉器43を閉にすることにより第1電極31と第2電極33との間で電圧が印加され、開閉器43を開にすることによりこれらの間での電圧の印加が中断される。また、抵抗器45の抵抗値を増減させることにより、第1電極31と第2電極33との間で通電される電流の電流値が調整される。
【0023】
図3は第1電極31の構成を模式的に示す平面図であり、図4は第1電極31及び第2電極33の動作状態を示す側面断面図であり、図5は第1電極31の動作状態を示す正面断面図である。なお、第1実施形態において第2電極33の構成は第1電極31と同様であるので、図3、図5を基に第2電極33の構成も併せて説明する。また、図5では、第2電極33に設けられたラミナーノズル39からラミナー流Wrとして噴射される電解液を省略し、その電解液の噴射される範囲のみ模式的に示している。
【0024】
第1電極31及び第2電極33は、第1実施形態において、金属帯1の搬送方向Pと略平行に配設された板状の電極プレート35と、電極プレート35の金属帯1と相対向する側に、金属帯1の搬送方向Pに間隔を空けて並列に設けられた複数の筒状のヘッダー37と、ヘッダー37に設けられたラミナーノズル39とを有している。
【0025】
電極プレート35は、第1実施形態において、電圧を印加するために、電源装置41に電気的に接続する電源用配線47が結線されている。
【0026】
ヘッダー37には、第1実施形態において、その内部に電解液Wを供給するための電解液供給枝管53がその端部に接続されている。電解液供給枝管53は、第1実施形態において、電極プレート35の板幅方向両側で金属帯1の搬送方向Pに延びるように配設される電解液供給本管51から分枝されている。電解液供給枝管53の配管途中には、第1実施形態において、ラミナーノズル39からの電解液Wの噴射量を調整するため、枝管流量調節弁55が接続されており、枝管流量調節弁55の開度を調節することにより、電解液供給本管51から電解液供給枝管53を通してヘッダー37内に供給される電解液の供給量が調整される。
【0027】
ラミナーノズル39は、第1電極31、第2電極33から金属帯1の洗浄面1aに層状のラミナー流Wrとなる電解液を噴射する電解液噴射手段として機能する。ここでいうラミナー流Wrとは、その電解液が噴射される方向に直交する方向に対して厚みと幅Lをもつ流れであって、その流れの中で電解液が充填されており、ラミナーノズル39より噴射されてから金属帯1に衝突するまでの範囲の形状が時間の経過に対してほぼ一様な流れのことをいう。ラミナーノズル39は、第1実施形態において、ラミナー流Wrを噴射するスリット状噴射口39aを有するものから構成されている。
【0028】
ラミナー流Wrは、金属帯1に対して衝突するときの幅が金属帯1の板幅L1以上の幅L2をもつものとしてラミナーノズル39から層状に噴射される。これにより、金属帯1の全幅に亘り連続したラミナー流Wrを衝突させることができ、ラミナー流Wrを通して金属帯1の全幅に亘り安定して通電させることが可能となる。
【0029】
ラミナー流Wrの幅L2は、金属帯1の板幅方向の片端1bから外側に50mm〜100mmの範囲を含むように層状に噴射されることが好ましい。50mm未満であると、金属帯1が板幅方向に蛇行したときにおいて、ラミナー流Wrを通して金属帯1の全幅に亘り安定して通電させることが困難となる。また、層状のラミナー流Wrは、幅方向両端部において乱れることにより空気等の気体を巻き込み、その幅方向両端部において電気抵抗の増減を招き易く、結果として、金属帯1の板幅方向両端部に流れる電流密度が不安定になり易い。また、金属帯1の板幅両端部より外側を流れるラミナー流Wrの幅が広くなるほど、金属帯1の板幅方向端部に流れる電流密度が増大してしまう。従って、金属帯1の板幅方向両端部に流れる電流密度の不安定化や過度の増大を抑え、金属帯1の板幅方向での電流密度分布をほぼ一定とする観点から、ラミナー流Wrの幅L2は、金属帯1の板幅方向の片端1bから外側に100mm以下の範囲を含むように噴射されることが好ましい。
【0030】
なお、金属帯1の板幅L1に対応した所定幅L2のラミナー流Wrを得る方法としては、ラミナーノズル39のヘッダー37内の内部空間を板幅方向に複数に分割し、各内部空間に供給される電解液量を流量調節弁により調整する方法が挙げられる。また、他の方法としては、ラミナーノズル39を水平方向に回転させる方法等が挙げられるが、その方法について特に限定するものではない。
【0031】
なお、第1電極31及び第2電極33は、第1実施形態において、電極プレート35、ヘッダー37及びラミナーノズル39が一体的に構成されているものを例示しているが、電極プレート35とヘッダー37及びラミナーノズル39とを別体のものとして構成してこれらを連結したものから構成されていてもよい。また、第1電極31及び第2電極33は、ラミナーノズル39から噴射される電解液に対して通電可能な構成であれば、その構成について特に限定するものではなく、例えば、ヘッダー37又はラミナーノズル39のみが前述の電極材料から構成されていてもよいし、電極プレート35を用いることなくヘッダー37及びラミナーノズル39のみから構成されていてもよい。
【0032】
また、連続表面洗浄装置3は、第1実施形態において、ラミナーノズル39から金属帯1の洗浄面1aに噴射された電解液を貯溜するための電解槽61を更に備えている。電解槽61には、ラミナーノズル39から噴射された後に、金属帯1に衝突してからその板幅方向両側から液滴Wbとなって落下する電解液や、金属帯1に衝突せずに落下する電解液が貯溜される。電解槽61には、ラミナーノズル39から噴射された電解液がその底部61aで溜まりWaとなって貯溜され、金属帯1は、電解槽61に貯溜された溜まりWaとしての電解液に浸漬されないように搬送される。
【0033】
電解槽61の底部61aで溜まりWaとなった電解液は、第1実施形態において、電解槽61に接続された排出管63を介して排出され、排出管63に接続された貯溜タンク64内で貯溜される。貯溜タンク64には、第1実施形態において、電解液を移送するための電解液供給ポンプ65と、電解液を濾過するための電解液フィルタ66と、電解液供給本管51に供給される電解液の供給量を調節するための本管流量調節弁67とが接続されている。貯溜タンク64内に貯溜された電解液は、電解液供給ポンプ65の駆動により、電解液フィルタ66を通して電解液供給本管51に移送され、その後、ヘッダー37、ラミナーノズル39を通して金属帯1に再度噴射されるよう、循環して用いられる。
【0034】
なお、電解液供給ポンプ65は、その吐出側の圧力が0.1〜0.3MPaとなるように構成されていることが好ましい。これは、ラミラー流Wrを形成するのに必要なラミラー流量を確保するのに必要な圧力に、電解液フィルタ66、電解液供給本管65、ラミナーノズル39等での圧力損失分を加えた圧力である。この圧力が0.3MPa超では、圧力が高くなりすぎることによりラミラー流Wrの板幅方向での圧力が不均一なものとなり易く、ラミナー流が途切れ易くなるうえ、無用の電力消費を招く恐れがある。また、この圧力が0.1MPa未満では、十分なラミナー流量が確保されないことから安定して所定幅L2のラミナー流Wrが連続して形成されない恐れがある。
【0035】
また、連続電解洗浄装置3は、第1実施形態において、第1電極31と第2電極33との間での放電を抑制するため、これらの間に配設されたウレタンゴム等の電気絶縁性材料からなる遮蔽板71を更に備えている。
【0036】
また、連続電解洗浄装置3は、第1実施形態において、電解槽61の入側及び出側において、金属帯1を間に挟んで配設される弾性体等からなる一対のリンガーロール81を更に備えている。これにより、電解槽61の外側へ搬送される金属帯1から電解液が搾り取られ、その電解槽61の外側への電解液の流出が抑制されている。
【0037】
また、連続電解洗浄装置3は、第1実施形態において、金属帯1を間に挟んで配設される一対のブラシロール83を更に備えており、これにより、電解洗浄された金属帯1の両面に付着している鉄粉等の異物が掻き落とされる。なお、ブラッシングされた金属帯1は、その後処理工程として、必要に応じて、スプレー噴射工程、乾燥工程を経て、その表面の水分が除去されることになる。
【0038】
電解液は、電解洗浄し得るものとして公知のものであれば特に限定するものではなく、例えば、オルソケイ酸ナトリウム、オルソケイ酸カリウム、オルソケイ酸リチウム等のケイ酸塩や、苛性ソーダの何れかを含有するアルカリ性洗浄液から構成される。このとき、電解液は、例えば、ケイ酸塩等を濃度1%〜5%で含有したものから構成される。
【0039】
なお、第1電極31、第2電極33等は、例えば、図示しない電気絶縁性材料からなる支持部材を介して電解槽61に支持された状態で配設されている。
【0040】
次に、本発明の第1実施形態に係る連続電解洗浄方法について説明する。
【0041】
まず、連続的に搬送される金属帯1の洗浄面1aに、第1電極31及び第2電極33からラミナーノズル39によりラミナー流となる電解液Wrを噴射する。
【0042】
続いて、電圧印加手段としての電源装置41により、第1電極31及び第2電極33の何れか一方を陽極、他方を陰極として電圧を印加する。第1実施形態においては、第1電極31を陽極、第2電極33を陰極として、図2に示すような定電圧を印加する。
【0043】
これにより、第1実施形態においては、電源装置41−陽極となる第1電極31−第1電極31から噴射しているラミナー流の電解液Wr−金属帯1−第2電極33から噴射しているラミナー流の電解液Wr−陰極となる第2電極33−電源装置41の閉回路が形成され、これらを通して電流が通電されることになる。
【0044】
このとき、陰極となるものの表面においては、主として下記の数式(21)で表される陰極反応が進行する。また、陽極となるものの表面においては、主として下記の数式(31)で表される陽極反応が進行する。第1実施形態においては、陰極となる第2電極33の表面や、陽極となる第1電極31に相対向する金属帯1の洗浄面1aにおいて陰極反応が進行し、陽極となる第1電極31の表面や、陰極となる第2電極33に相対向する金属帯1の洗浄面1aにおいて陽極反応が進行する。これにより、金属帯1の洗浄面1aは、その洗浄面1aから発生した水素、酸素の気泡により洗浄されることになる
2H++2e-→H2↑ ・・・(21)
2H2O→4H++2O2↑+4e- ・・・(31)
【0045】
以上の第1実施形態によれば、ラミナー流Wrとなる電解液を第1電極31及び第2電極33から金属帯1に噴射しつつ、第1電極31及び第2電極33と金属帯1との間で電圧を印加することとしているので、金属帯1の洗浄面1aを電解洗浄するにあたって、金属帯1を電解液に浸漬させることなく電解洗浄を進行させることが可能となる。このため、金属帯1の板幅方向端部での電流集中を抑えつつ、金属帯1の洗浄面1aを電解洗浄することが可能となる。
【0046】
また、第1実施形態によれば、ラミナー流Wrとなる電解液を用いて電解洗浄していることから、以下に説明するような理由によっても、金属帯1の板幅方向端部での電流集中を抑えることが可能となっている。第1実施形態においては、金属帯1の上側のラミナーノズル39からラミナー流Wrとしての電解液を噴射しているが、このように噴射されたラミナー流Wrとしての電解液は、ラミナーノズル39に対して下方に位置するものほど落下速度が速くなり、表面張力の関係でその厚みや幅が小さくなるように変形する。このとき、図5における範囲Sに位置するような、金属帯1に衝突せずにその板幅方向両側を通過しようとするラミナー流Wrは、金属帯1により拘束されていないことと、その厚みや幅が小さくなっていることとから、流れが不安定になることにより頻繁に部分的に分断される。この結果、金属帯1と衝突せずにその板幅方向両側を通過しようとするラミナーWrとしての電解液から金属帯1に対する電流の流れがほとんど生じなくなり、これによって、金属帯1の板幅方向端部での電流集中を抑えることが可能となる。
【0047】
また、第1実施形態によれば、金属帯1の板幅L1以上の幅L2をもつ層状のラミナー流Wrを噴射することとしているので、金属帯1の全幅に亘り連続したラミナー流Wrを衝突させることができ、ラミナー流Wrを通して金属帯1の全幅に亘り安定して通電させることが可能となる。
【0048】
これらによって、金属帯1の板幅方向に均一に電解洗浄することが可能となる。また、これにより、ケイ酸塩を電解液として用いた場合において、金属帯1の板幅方向端部での電流集中による局部酸化を防止することが可能となり、ひいては、その後の窒化処理等の熱処理を板幅方向で均一に行うことが可能となる。
【0049】
また、第1実施形態によれば、金属帯1の洗浄面1aを電解洗浄している間、金属帯1の洗浄面1aに新しい電解液を噴射させているため、金属帯1の洗浄面1aから遊離された圧延油等を洗い流して除去しつつ、電解洗浄を進行させることが可能となる。
【0050】
また、金属帯1の洗浄面1aにラミナー流Wrの電解液を衝突させつつ電解洗浄させているため、金属帯1を電解液に浸漬させて電解洗浄する場合と比較して、金属帯1の洗浄面1aに対する電解液のせん断力を増大させることが可能となる。このため、金属帯1の洗浄面1aに付着したものをより簡単に剥がし易くなることによって、洗浄性の向上とともに生産性の向上を図ることが可能となる。
【0051】
また、第1実施形態によれば、金属帯1を電解液に浸漬させることなく電解洗浄を進行させることが可能になることから、金属帯1の洗浄面1aとは反対側の片面に電流が回り込むのを抑えることが可能となり、これにより、金属帯1の洗浄面1aとは反対側の片面に電流が回り込むのを抑えることが可能となり、これにより、洗浄面1aとは反対側の片面が電解洗浄されるのを防止することが可能となる。また、これにより、陽極から陰極に電解液のみを通して流れる漏れ電流が生じるのを抑えることが可能となる。また、これにより、電解槽61に大量の電解液を貯溜させておく必要がなくなり、その分、処理コストの低減を図ることが可能となる。
【0052】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態以降においては、上述した構成要素と同一の構成要素について、同一の符号を付すことにより以下での説明を省略する。
【0053】
図6は、第2実施形態に係る連続電解洗浄方法を実現するための連続電解洗浄装置3の構成を概略的に示す側面断面図であり、図7は、第2実施形態に係る第1電極31及び第2電極33の動作状態を概略的に示す側面断面図であり、図8は、第2実施形態に係る上下の第1電極31に設けられたラミナーノズル39からラミナー流Wrとして噴射される電解液を省略し、下側の電解液の噴射される範囲のみ模式的に示している。
【0054】
第2実施形態に係る連続電解洗浄方法は、金属帯1の両面を洗浄面1aとして電解洗浄するものである。第2実施形態に係る連続電解洗浄装置3は、第1電極31及び第2電極33の組からなる電極群30が金属帯1の両面の洗浄面1aに相対向して配設されている。また、第2実施形態においては、各電極群30につき一つの電源装置41が接続されている。
【0055】
次に、第2実施形態に係る連続電解洗浄方法について説明する。なお、第2実施形態以降においては、第1実施形態に係る連続電解洗浄方法と異なる工程についてのみ説明し、同様の工程についてはその説明を省略する。
【0056】
第2実施形態に係る連続電解洗浄方法では、金属帯1の下側の洗浄面1aに第1電極31及び第2電極33からラミナーノズル39によりラミナー流Wrとなる電解液を噴射するときの速度等が、金属帯1の下面に衝突するのに必要かつ最小限のエネルギーとなるように予め調整されている。これにより、金属帯1の下側に位置するラミナー流Wrは、金属帯1の下面とそのラミナー流Wrの上部との間での表面張力により、金属帯1の下面に安定して接触することになる。そして、図8における範囲Sに位置するような、金属帯1に衝突させずにその板幅方向両側を通過しようとするラミナー流Wrは、金属帯1の下面の高さまで安定して到達しないことになる。この結果、金属帯1に衝突せずにその板幅方向両側を通過しようとするラミナーWrとしての電解液からは、金属帯1に対する電流の流れがほとんど生じなくなり、これによって、金属帯1の板幅方向端部での電流集中が抑えられることになる。
【0057】
なお、金属帯1の上側のラミナーノズル39からラミナー流Wrとして噴射される電解液の方が、下側のラミナーノズル39から噴射されるものより形状が安定するため、金属帯1の片面のみを洗浄面1aとする場合は、金属帯1を板幅方向に均一に洗浄するうえで、金属帯1の上側に第1電極31、第2電極33やラミナーノズル39を配設することが好ましい。
【0058】
以上の第2実施形態によれば、金属帯1の両面の洗浄面1aと相対向して電極群30が配設されているので、各々の電極群30に対する電源装置41による通電量を異ならせることにより、金属帯1の両面の電解洗浄量を違うものとすることが可能となる。
【0059】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
【0060】
図9は、第3実施形態に係る連続電解洗浄装置3の構成を概略的に示す側面断面図である。
【0061】
第3実施形態に係る連続電解洗浄装置3は、第1電極31及び第2電極33の組からなる電極群30が金属帯1の洗浄面1aに相対向して搬送方向Pに複数配設されている。また、第3実施形態においては、各電極群30につき一つの電源装置41が接続されている。
【0062】
以上の第3実施形態によれば、電極群30が金属帯1の洗浄面1aに相対向して搬送方向Pに複数配設されているので、電解洗浄量や電解洗浄速度を増大させることができ、生産性の向上を図ることが可能となる。
【0063】
また、第1実施形態〜第3実施形態においては、一つ又は複数の電極群30を構成する第1電極31及び第2電極33のうち、金属帯1の搬送方向の最も出側に配設されたものが陰極から構成されている。これにより、電解液中の金属イオン等が陰極反応により金属帯1に電着したとしても、最も出側に配設された陰極と金属帯1との間での陽極反応により電着物を除去することが可能となる。
【0064】
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
【0065】
第4実施形態に係る連続電解洗浄装置3は、電源装置41として、第1電極31と第2
電極33との間に並列に接続された電源装置41A、電源装置41Bを備えている。電源装置41A、電源装置41Bは、それぞれ極性の向きを反対にして接続されている。第1電極31と電源装置41Aとの間や、第1電極31と電源装置41Bとの間には開閉器43A、43Bが接続されており、第2電極33と電源装置41Aとの間や、第2電極33と電源装置41Bとの間には抵抗器45A、45Bが接続されている。
【0066】
第4実施形態においては、開閉器43Aを開にし、開閉器43Bを閉にすることにより、第1電極31と第2電極33との間において第1電極31を陽極とする電圧が印加され、開閉器43Aを閉にし、開閉器43Bを開にすることにより、第1電極31と第2電極33との間において第1電極31を陰極とする電圧が印加されることになる。これにより、電圧印加手段としての電源装置41A、41Bにより、第1電極31及び第2電極33の極性を反転させつつ通電可能となっていることになる。これら開閉器43A、43Bや抵抗器45A、45Bは、図示しないプロセスコンピュータ等の制御手段により操作可能とされている。
【0067】
図11は、第4実施形態に係る電源装置41により第1電極31と第2電極33との間に印加される電圧の例を示す図である。
【0068】
このように、第4実施形態においては、図11(a)に示すように、第1電極31及び第2電極33の間で電圧を印加してラミナー流Wr及び金属帯1を通して通電させているときに、第1電極31及び第2電極33の極性を反転させつつ通電させるようにしている。これにより、電解液中の金属イオン等が陰極反応により第1電極31や第2電極33に電着したとしても、陽極反応によりその電着物を溶解させて除去することが可能となり、金属イオン等が電着することによる第1電極31と第2電極33との間の電圧上昇を防止することが可能となる。
【0069】
このとき、第1電極31を陰極として電圧を印加する時間M=0.1(msec)〜10(msec)とし、第1電極31を陽極として電圧を印加する時間N=4×M(msec)〜20×M(msec)とすることが好ましい。時間M=0.1(msec)以上としたのは、これ未満であると金属帯1の表面での気体発生量が十分でなく、十分な洗浄効果が得られないためであり、時間M=10(msec)以下としたのは、これ超であると陽極反応又は陰極反応の何れかによる電解洗浄しか行なわれない部位が発生し、陰極反応より電着した電着物が陽極反応により除去されないまま搬送される恐れがあるためである。また、時間N=4×M(msec)以上としたのは、これ未満であると電源の切り替え回数が多くなりすぎ、電源・配線(ブスバー)の寿命が短くなるためであり、時間N=20×M(msec)以下としたのは、これ超であると各電極31、33での電圧上昇量が過度に大きくなるためである。
【0070】
また、このとき、図11(b)に示すように、第1電極31及び第2電極33の極性を反転させるときに、電圧を印加しない状態を経てから極性を反転させるようにすることが更に好ましい。これは、極性反転させてから所定の電圧値となるまでに生じる時間遅れの影響を抑えることが可能となるためである。このとき、電圧を印加しない状態とする時間Qは、1(msec)〜10(msec)とすることが好ましい。1(msec)以上としたのは、これ未満であると時間遅れの影響を抑えるのに十分に有効に機能し得ないためであり、10(msec)以下としたのは、これ超であると、電解洗浄速度等の低下を招くためである。なお、電解液Wとして電気伝導度が低く電気抵抗の大きいオルソケイ酸ソーダ等のケイ酸塩を用いる場合は、この効果をより顕著に得ることが可能となる。
【0071】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【実施例1】
【0072】
以下、本発明の効果を実施例により更に説明する。
【0073】
実施例1では、図1に示すような本発明に係る連続電解洗浄装置3と、図13に示すような従来の連続電解洗浄装置103とを実際に用いて金属帯1、101の表面を電解洗浄することにより、本発明の効果を確認することとした。
【0074】
実施例1での具体的な操業条件は次の通りである。
【0075】
金属帯1、101としては、材質が、質量%で、Si:3.3%、C:0.06%、酸可溶性Al:0.028%、N:0.008%、Mn:0.1%、S:0.008%、Cr:0.1%、P:0.03%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼帯を用いた。
【0076】
また、電解洗浄する対象となる鋼帯1、101を得るうえでは、上述の材質からなるスラブを1150℃の温度で加熱し、2.3mm厚に熱間圧延し、その後、1120℃の焼鈍処理と920℃の焼鈍処理とを施し、得られた熱延鋼板を0.22mm厚まで冷間圧延して、得られた冷延鋼板を電解洗浄することとした。
【0077】
電解洗浄するうえでは、濃度が3%、温度が70℃のオルソケイ酸ソーダの水溶液を用いて、ライン速度を150mpmとして電解洗浄することとした。また、洗浄時間については、金属帯1、101の水ぬれ率を板幅方向全幅で100%とするために必要最小限となる洗浄時間を予め求めておき、その求めた洗浄時間で電解洗浄することとした。
【0078】
この結果、本発明例では、0.2秒間の洗浄時間で電解洗浄を完了させることができた。また、本発明例では、洗浄後の鋼帯1の表面に光沢があり、また、板幅方向全幅に亘り均一に電解洗浄することができた。一方、比較例では、2秒間の洗浄時間で電解洗浄を完了させることができた。また、比較例では、洗浄後の鋼帯1の板幅方向両端部の表面に局部酸化が認められた。
【0079】
電解洗浄した鋼帯1、101は、830℃の温度まで加熱し、そのまま830℃の温度で90秒脱炭焼鈍した後、アンモニア雰囲気中で焼鈍する窒化処理を行い、その後に得られた鋼帯1、101の表面の窒素含有量の板幅方向での分布を測定することによって、鋼帯1、101の板幅方向での電解洗浄の度合いを評価することとした。窒化処理を行なううえでは、鋼帯1、101全体での窒素量の平均値が2.5×10-2(%)となるように窒化処理条件を調整した。
【0080】
また、窒化処理した鋼帯1、101は、マグネシア(MgO)を主成分とする焼鈍分離剤を塗布した後、二次再結晶のための仕上焼鈍処理を行い、その後に得られた鋼帯1、101の表面をエッチングし、二次再結晶粒の粒径を測定することによっても、鋼帯1、101の板幅方向での電解洗浄の度合いを評価することとした。仕上焼鈍処理では、N2:100%の雰囲気ガス中において15(℃/hr)の加熱速度で1200(℃)まで加熱した後、H2:100(%)の雰囲気ガス中において1200(℃)の温度で20時間に亘り保持した。
【0081】
図12は、実施例1の操業条件で電解洗浄した後の鋼帯1、101の板幅方向での窒素含有量の測定結果を示す図である。従来の連続電解洗浄装置103により処理したものが比較例、本発明に係る連続電解洗浄装置3により処理したものが発明例である。
【0082】
比較例では、洗浄時間が2秒と長く生産性が悪いにもかかわらず、鋼帯101の窒素含有量が板幅方向の両端部で特に小さく、その両端部での窒素含有量が2.5×10-2(%)±0.1×10-2(%)の範囲から大きく外れていることが確認できる。また、仕上焼鈍処理後に得られた鋼帯101は、その二次再結晶粒の粒径が板幅方向中央部のものより板幅方向端部のものの方が細粒化されていた。
【0083】
発明例では、洗浄時間が0.2秒と短く生産性が高いにもかかわらず、鋼帯1の窒素含有量の分布が板幅方向で概ね均一であり、鋼帯1の板幅方向の各位置での窒素含有量が2.5×10-2(%)±0.1×10-2(%)の範囲内であり、平均値に対する各位置でのばらつきが小さく良好であることが確認できる。また、仕上焼鈍処理後に得られた鋼帯1は、その二次再結晶粒の粒径が板幅方向の全幅で同程度の大きさであり、良好であった。
【0084】
以上より、本発明の適用により、金属帯1を短い洗浄時間で、板幅方向に均一に電解洗浄することが可能となることが確認された。また、本発明の適用により、板幅方向の電流密度が均一となり、金属帯の板幅方向端部への電流集中も生じないので、金属帯の板幅方向端部の局部酸化を招くこともなく、結果として、金属帯の板幅方向端部での窒化を阻害することもなく、金属帯の板幅方向全幅にわたって均一に窒化処理することが可能となり、良好な品質を安定して確保することが確認された。なお、このことは、いかなる洗浄液、焼鈍方法を用いた場合においても効果は同様である。
【符号の説明】
【0085】
1 :金属帯
1a :洗浄面
3 :連続電解洗浄装置
30 :電極群
31 :第1電極
33 :第2電極
35 :電極プレート
37 :ヘッダー
39 :ラミナーノズル
39a :スリット状噴射口
41 :電源装置
43 :開閉器
45 :抵抗器
47 :電源用配線
51 :電解液供給本管
53 :電解液供給枝管
55 :枝管流量調節弁
61 :電解槽
63 :排出管
64 :貯溜タンク
65 :電解液供給ポンプ
66 :電解液フィルタ
67 :本管流量調節弁
71 :遮蔽板
81 :リンガーロール
83 :ブラシロール
P :搬送方向
W :電解液
Wa :溜まり
Wb :液滴
Wr :ラミナー流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に搬送される金属帯の表面を電解洗浄する金属帯の連続電解洗浄方法において、
前記金属帯の電解洗浄すべき洗浄面と相対向して当該金属帯の搬送方向に順に配設された第1電極及び第2電極から、前記金属帯の洗浄面に当該金属帯の板幅以上の幅をもつ層状のラミナー流としての電解液を噴射し、
前記第1電極及び前記第2電極の何れか一方を陽極、他方を陰極としてこれらの間で電圧を印加して、前記噴射している電解液及び前記金属帯を通して通電させること
を特徴とする金属帯の連続電解洗浄方法。
【請求項2】
前記金属帯は、その両面が前記洗浄面であり、
前記電解液を噴射する工程では、前記金属帯の両面の洗浄面と相対向して当該金属帯の搬送方向に順に配設された第1電極及び第2電極から、前記電解液を噴射すること
を特徴とする請求項1記載の金属帯の連続電解洗浄方法。
【請求項3】
前記第1電極及び前記第2電極は、前記金属帯の搬送方向の最も出側が陰極であること
を特徴とする請求項1又は2記載の金属帯の連続電解洗浄方法。
【請求項4】
前記電解液を噴射する工程では、前記金属帯の電解洗浄すべき洗浄面と相対向して当該金属帯の搬送方向に順に複数組配設された第1電極及び第2電極の組からなる電極群から、前記電解液を噴射すること
を特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載の金属帯の連続電解洗浄方法。
【請求項5】
前記電解液は、ケイ酸塩又は苛性ソーダを含有するアルカリ性洗浄液であること
を特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載の金属帯の連続電解洗浄方法。
【請求項6】
前記噴射している電解液及び前記金属帯を通して通電させる工程では、前記第1電極及び前記第2電極の極性を反転させつつ通電させること
を特徴とする請求項1〜5の何れか1項記載の金属帯の連続電解洗浄方法。
【請求項7】
前記噴射している電解液及び前記金属帯を通して通電させる工程では、前記第1電極及び前記第2電極の極性を反転させるときに、電圧を印加しない時間を経てから極性を反転させること
を特徴とする請求項6記載の金属帯の連続電解洗浄方法。
【請求項8】
前記金属帯は、方向性珪素鋼板又は無方向性珪素鋼板であること
を特徴とする請求項1〜7の何れか1項記載の金属帯の連続電解洗浄方法。
【請求項9】
連続的に搬送される金属帯の表面を電解洗浄するための金属帯の連続電解洗浄装置において、
前記金属帯の電解洗浄すべき洗浄面と相対向して当該金属帯の搬送方向に順に配設された第1電極及び第2電極と、
前記第1電極及び前記第2電極に設けられ、当該第1電極及び当該第2電極から前記金属帯の洗浄面に当該金属帯の板幅以上の幅をもつ層状のラミナー流としての電解液を噴射するラミナーノズルと、
前記第1電極及び前記第2電極の何れか一方を陽極、他方を陰極としてこれらの間で電圧を印加して、前記ラミナーノズルから噴射される電解液及び前記金属帯を通して通電させる電圧印加手段とを備えること
を特徴とする金属帯の連続電解洗浄装置。
【請求項10】
前記金属帯は、その両面が前記洗浄面であり、
前記第1電極及び前記第2電極の組からなる電極群が前記金属帯の両面の洗浄面に相対向して配設されていること
を特徴とする請求項9記載の金属帯の連続電解洗浄装置。
【請求項11】
前記第1電極及び前記第2電極は、前記金属帯の搬送方向の最も出側に配設されたものが陰極であること
を特徴とする請求項9又は10記載の金属帯の連続電解洗浄装置。
【請求項12】
前記第1電極及び前記第2電極の組からなる電極群が前記金属帯の搬送方向に複数配設されていること
を特徴とする請求項9〜11の何れか1項記載の金属帯の連続電解洗浄装置。
【請求項13】
前記電解液は、ケイ酸塩又は苛性ソーダを含有するアルカリ性洗浄液であること
を特徴とする請求項9〜12の何れか1項記載の金属帯の連続電解洗浄装置。
【請求項14】
前記電圧印加手段は、前記第1電極及び前記第2電極の極性を反転させつつ通電可能であること
を特徴とする請求項9〜13の何れか1項記載の金属帯の連続電解洗浄装置。
【請求項15】
前記電圧印加手段は、前記第1電極及び前記第2電極の極性を反転させるときに、電圧を印加しない時間を経てから極性を反転可能であること
を特徴とする請求項14記載の金属帯の連続電解洗浄装置。
【請求項16】
前記金属帯は、方向性珪素鋼板又は無方向性珪素鋼板であること
を特徴とする請求項9〜15の何れか1項記載の金属帯の連続電解洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−162757(P2012−162757A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22178(P2011−22178)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】