説明

金属微粒子を含有した熱処理配位高分子金属錯体を用いた燃料電池用触媒、膜電極接合体、燃料電池、及び酸化還元触媒

【課題】燃料電池において高い触媒活性を示し、かつ、三相界面を増大させ、金属の使用量低減が可能であり、長時間安定で優れた発電特性を示す燃料電池用触媒、燃料電池用触媒を用いた膜電極接合体、及び燃料電池を提供する。
【解決手段】分子内に−NH、=NH、=N−から選択される化学構造を2個以上含有し、平面構造を有する配位子と、金属からなる高度に構造制御された金属−N4構造を含有し、かつ、多孔質であるために高い比表面積を有する配位高分子金属錯体を熱処理した熱処理配位高分子金属錯体に金属微粒子を担持した燃料電池用触媒、又は、前記燃料電池用触媒をさらに導電性担体へ担持した触媒担持導電体、又は、前記燃料電池用触媒、あるいは前記触媒担持導電体を熱処理した熱処理触媒担持導電体からなる、酸化還元触媒、並びに、ポリマー被覆燃料電池用触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度に構造制御された金属−N4構造を含有し、かつ、多孔質であるために高い比表面積を有する配位高分子金属錯体を熱処理した熱処理配位高分子金属錯体へ金属微粒子を担持してなる燃料電池用触媒、又は、前記燃料電池用触媒をさらに導電性担体へ担持してなる触媒担持導電体、又は、前記燃料電池用触媒、あるいは前記触媒担持導電体を熱処理した熱処理触媒担持導電体からなる、高活性な酸化還元触媒、特に、燃料電池において優れた発電特性を示す、前記燃料電池用触媒、又は、触媒担持導電体、熱処理触媒担持導電体をイオン伝導性のポリマーで被覆したポリマー被覆燃料電池用触媒、並びにこれら燃料電池用触媒を用いた膜電極接合体、及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー変換の高効率化や環境負荷低減を目的とした発電システムとして、水素やアルコールなどを電気化学的に反応させて電気エネルギーを直接得ることができる燃料電池が注目されている。この燃料電池は、使用される電解質などの違いにより数種類に分類され、溶融炭酸塩形(MCFC)、リン酸形(PAFC)、固体酸化物形(SOFC)、固体高分子形(PEFC)等がある。これらの中でPEFCは、常温でも動作可能であり、小型軽量化や高出力密度の実現が可能であることから、電気自動車の駆動電源、家庭定置用コジェネレーションやポータブル機器用電源として期待されている。
【0003】
電極触媒層内における電極反応は、電解質と燃料ガス、触媒層が同時に存在する三相界面において進行する。そのため、電極反応の促進を図るためには、反応ガスとイオン伝導体、電子導電体、触媒が同時に接触するような構造を作りこむ必要がある。例えば、比表面積の大きなカーボンブラックに、微粒子化、かつ、比表面積を大きくした白金や白金合金を担持させ、さらにイオン伝導性のポリマーを被覆することで、三相界面の3次元化を行うことにより、三相界面を増大させている。例えば特許文献1では、金属イオンを含む液相に担体粒子を分散させた反応系中で、前記イオンを、モル比で表して8倍以上の酢酸、又は50〜105倍の2−プロパノールで還元して、0.4〜1.5nmの微細な金属微粒子の担持体を検討している。しかし、微粒子化した白金や白金合金は表面エネルギーが非常に大きく分散不安定であるため、凝集しやすく、凝集すると三相界面が減少するため触媒活性が低下するという問題がある。
【0004】
金属ナノ粒子同士の凝集を抑制させるために、例えば特許文献2では、白金ナノ粒子表面に、無機酸化物を有する多孔質物質を配置した電極触媒を検討している。しかしながら、このような方法では、イオン伝導性のポリマーが十分に浸透しない導電性担体の微細孔内にも白金ナノ粒子が担持されてしまい、このイオン導電性ポリマーが近接していない白金ナノ粒子は活性サイトとして機能しないため、触媒利用効率が減少してしまう。
【0005】
【特許文献1】特開2007−254873号公報
【特許文献2】特開2005−276688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記事情に着目してなされたものであり、その目的は、高度に構造制御された金属−N4構造を含有し、かつ、多孔質であるために高い比表面積を有する配位高分子金属錯体を熱処理した熱処理配位高分子金属錯体に金属微粒子を担持してなる燃料電池用触媒、又は、前記燃料電池用触媒をさらに導電性担体へ担持してなる触媒担持導電体、又は、前記燃料電池用触媒、あるいは前記触媒担持導電体を熱処理した熱処理触媒担持導電体からなる、高活性な酸化還元触媒、特に、燃料電池において優れた発電特性を示す、ポリマー被覆燃料電池用触媒、並びに膜電極接合体、燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、分子内に−NH、=NH、=N−から選択される化学構造を2個以上含有し、平面構造を有する配位子と、金属からなる高度に構造制御された金属−N4構造を含有し、かつ、多孔質であるために高い比表面積を有する配位高分子金属錯体を熱処理した熱処理配位高分子金属錯体へ金属微粒子を担持してなる燃料電池用触媒、又は、前記燃料電池用触媒をさらに導電性担体へ担持してなる触媒担持導電体、又は、前記燃料電池用触媒、あるいは前記触媒担持導電体を熱処理した熱処理触媒担持導電体は、ナノサイズの金属微粒子が高度、かつ、安定に分散担持される。これにより、金属微粒子の表面積が増大し、高活性の酸化還元触媒、特に、燃料電池において高い触媒活性を示し、かつ、三相界面を増大させ、金属の使用量低減が可能であり、長時間安定で優れた発電特性を示す、前記燃料電池用触媒、又は触媒担持導電体、又は熱処理触媒担持導電体をイオン伝導性のポリマーで被覆したポリマー被覆燃料電池用触媒、並びにこれら燃料電池用触媒を用いた膜電極接合体、及び燃料電池として提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成よりなる。
1.分子内に−NH、=NH、=N−から選択される化学構造を2個以上含有し、平面構造を有する配位子と、金属からなる多孔質骨格構造を有する配位高分子金属錯体を熱処理した熱処理配位高分子金属錯体へ金属微粒子を担持してなることを特徴とする燃料電池用触媒。
2.ピラジン骨格、ビピリジル骨格、イミダゾール骨格、ビスベンゾチアゾール骨格、ビスベンゾオキサゾール骨格からなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の化学構造を含む前記1.に記載の配位子からなる配位高分子金属錯体を熱処理した熱処理配位高分子金属錯体へ金属微粒子を担持してなることを特徴とする燃料電池用触媒。
3.前記配位高分子金属錯体のBET比表面積が100〜5000m/gであることを特徴とする前記1又は2.に記載の燃料電池用触媒。
4.前記金属微粒子の粒径が10nm以下であることを特徴とする前記1〜3.のいずれかに記載の燃料電池用触媒。
5.前記金属微粒子は遷移金属であることを特徴とする前記1〜4.のいずれかに記載の燃料電池用触媒。
6.前記金属微粒子は貴金属であることを特徴とする前記1〜5.のいずれかに記載の燃料電池用触媒。
7.配位高分子金属錯体の金属が、Zn、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ruからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属である前記1〜6.のいずれかに記載の燃料電池用触媒。
8.ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、アルゴン、窒素、アンモニア、アセトニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種類の雰囲気で、300〜1200℃で熱処理してなることを特徴とする前記1〜7.のいずれかに記載の燃料電池用触媒。
9.前記1〜8.のいずれかに記載の燃料電池用触媒を導電性担体に担持してなることを特徴とする触媒担持導電体。
10.前記導電性担体のBET比表面積が200〜2000m/gであることを特徴とする前記9.に記載の触媒担持導電体。
11.前記導電性担体が炭素系担体であることを特徴とする前記9、又は、10.のいずれかに記載の触媒担持導電体。
12.前記炭素系担体が、活性炭、熱分解炭素、カーボンファイバー、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンナノクラスター、及びカーボンナノホーンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする前記11.に記載の触媒担持導電体。
13.前記1〜12.のいずれかに記載の燃料電池用触媒、又は触媒担持導電体を熱処理することを特徴とする熱処理触媒担持導電体。
14.前記燃料電池用触媒、又は触媒担持導電体、熱処理触媒担持導電体において、イオン伝導性のポリマーで被覆されることを特徴とする前記1〜13.のいずれかに記載のポリマー被覆燃料電池用触媒。
15.前記ポリマー被覆燃料電池用触媒を用いたことを特徴とする前記14.に記載の膜電極接合体。
16.前記膜電極接合体を用いたことを特徴とする前記15.に記載の燃料電池。
17.前記燃料電池用触媒を用いる前記1〜13.のいずれかに記載の酸化還元触媒。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、高度に構造制御された金属−N4構造を含有し、かつ、多孔質であるために高い比表面積を有する配位高分子金属錯体を熱処理した熱処理配位高分子金属錯体へ金属微粒子を担持してなる燃料電池用触媒、又は、前記燃料電池用触媒をさらに導電性担体へ担持してなる触媒担持導電体、又は、前記燃料電池用触媒、あるいは前記触媒担持導電体を熱処理した熱処理触媒担持導電体は、ナノサイズの金属微粒子が高度、かつ、安定に分散担持される。これにより、金属微粒子の表面積が増大し、高活性の酸化還元触媒、特に、燃料電池において高い触媒活性を示し、かつ、三相界面を増大させ、金属の使用量低減が可能であり、長時間安定で優れた発電特性を示す、前記燃料電池用触媒、又は触媒担持導電体、熱処理触媒担持導電体をイオン伝導性のポリマーで被覆したポリマー被覆燃料電池用触媒、並びにこれら燃料電池用触媒を用いた膜電極接合体、及び燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
(配位高分子金属錯体)
先ず、本発明の配位高分子金属錯体について説明する。
【0011】
本発明における配位高分子金属錯体は、分子内に−NH、=NH、=N−から選択される化学構造を2個以上含有し、平面構造を有する配位子と、金属からなることを特徴とする。
【0012】
本発明において、分子内に−NH、=NH、=N−から選択される化学構造を2種以上含有し、平面構造を有する配位子の化学構造として、特に制限されないが、ピラジン骨格、ビピリジル骨格、イミダゾール骨格、ビスベンゾチアゾール骨格、ビスベンゾオキサゾール骨格からなる群から選ばれる少なくとも1種類以上が挙げられる。これは、優れた触媒活性を有するコバルトポルフィリンが活性中心として金属−N4構造を有した平面構造の配位子を持つことに鑑みてなされたものである。
【0013】
配位高分子金属錯体の金属は目的に応じて適宜選択することができ、例えば、周期律表の3A族元素、4A族元素、5A族元素、6A族元素、7A族元素、8族元素、1B族元素、2B族元素、3B族元素及び6B族元素から選ばれる少なくとも1種の金属が挙げられる。これら金属が液相還元法における金属の還元析出反応の活性サイトと考えられるため、好ましくはZn、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ruである。また、金属は1種類の金属から構成されていても良いし、2種類以上の金属の混合状態から構成されていても構わない。
【0014】
本発明における配位高分子金属錯体は、特に制限されないが、分子内に−NH、=NH、=N−から選択される化学構造を2個以上含有し、平面構造を有する化合物に金属イオン溶液を加えることで調製することができる。また、上記溶液に塩基、及び/又は、カルボキシル誘導体を加えることでも調製できる。
【0015】
本発明における前記溶液に用いる分子内に−NH、=NH、=N−から選択される化学構造を2種以上含有し、平面構造を有する化合物としては、特に制限はないが、ピラジン、アミノピラジン、メチルピラジン、ジメチルピラジン、アセチルピラジン、フェニルピラジン、キノキサリン、テトラヒドロキノキサリン、ジメチルキノキサリン、ジヒドロキシキノキサリン、ジフェニルキノキサリン、フェナジン、ヒドロキシフェナジン、ピリミジン、ナフチリジン、キナゾリン、ビピリジン、ターピリジン、ピロロピリジン、ビキノリン、ビナフチリジン、ビピコリン、ジアミノビピリジル、イミダゾール、メチルイミダゾリン、フェニルイミダゾリン、アミノベンゾイミダゾール、メルカプトベンゾイミダゾール、ヒドロキシベンゾイミダゾール、メチルイミダゾール、ビスベンゾイミダゾール、ビスベンゾチアゾール、ビスベンゾオキサゾール等が挙げられる。
【0016】
本発明における前記溶液に用いる金属イオン溶液としては、金属の塩、例えば、酢酸塩、アセチルアセトン塩、カルボニル塩、シュウ酸塩、炭酸塩、シクロオクタジエン塩、アセトニトリル塩といった有機塩型のものや、フッ化物塩、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩といったハロゲン塩型のものや、硫酸塩、硝酸塩、アンモニア塩、過塩素酸塩、テトラフルオロボレート塩などといった無機塩型のもの、好ましくは、シュウ酸塩、酢酸塩、アセチルアセトン塩、硝酸塩、硫酸塩を溶媒に溶解させることにより得ることができる。溶媒は、金属の塩を溶解できるものであれば特に限定されないが、メタノール、エタノール、2−プロパノールといったアルコール類、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドといったアミド系溶媒、さらにはアセトニトリル、水等の溶媒が挙げられ、又、単一でも良いし、混合溶媒でも構わない。
【0017】
本発明における前記溶液に用いる塩基として、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウム、カリウムt−ブトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、ブチルリチウム、フェニルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド等が挙げられる。
【0018】
本発明における前記溶液に用いるカルボキシル誘導体は、カルボキシル基を2基以上持つものであれば特に限定されないが、例えば、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、アミノテレフタル酸、ジメチルテレフタル酸、ジヒドロキシテレフタル酸、ジカルボキシジフェニルエーテル、ピロメリット酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0019】
上記工程を行う際のガス雰囲気下は、大気中、酸素中、不活性ガス中のいずれでも可能であり、その選択は、配位高分子金属錯体の金属の目的酸化数による。用いる金属において、低酸化状態の価数を増やしたい場合は、不活性ガス中下で行うことが好ましく、逆に、高酸化状態の価数を増やしたい場合は、大気中、酸素中下で行うことが好ましい。
【0020】
反応温度には格別の制限はないが、好ましいのは、室温、又は溶媒の沸点程度に加温する方法である。反応時間にも格別の制限はないが、好ましいのは、1〜96時間である。1時間未満では反応が完結せず、96時間以上では原料および生成物の分解反応が起こる。この反応で、原料として用いた分子内に−NH、=NH、=N−から選択される化学構造を2個以上含有し、平面構造を有する化合物と金属との反応が進行し、例えば[Co(ピラジン)]や[Mn(ベンゾフェノンテトラカルボキシレート)(ピラジン)]、[Cu(ビピリジル)]、[Fe(ベンゼントリカルボキシレート)(ビピリジル)]、 [Cu(ベンゾイミダゾール)]、[Cu(ナフタレンジカルボキシレート)(イミダゾール)]、[Co(ビスベンゾイミダゾール)]、[Ni(ジメチルテレフタレート)(ビスベンゾイミダゾール)]、[Cu(ビスベンゾチアゾール)]、[Ni(ベンゼンテトラカルボキシレート)(ビスベンゾチアゾール)]、[Cu(ベンゾフェノンテトラカルボキシレート)(ビスベンゾオキサゾール)]などを基本骨格とする多孔質骨格構造を有する配位高分子金属錯体が不溶性の沈殿として析出する。この沈殿物を遠心分離や濾過など任意の方法で反応溶媒から分離し、乾燥して反応溶剤を揮発除去すると、粉末状の多孔質骨格を有する配位高分子金属錯体を得ることができる。
【0021】
前記手法で得られた配位高分子金属錯体は、ピラジン骨格、ビピリジル骨格、イミダゾール骨格、ビスベンゾチアゾール骨格、及び、ビスベンゾオキサゾール骨格からなる、一般的に平面構造を有する配位子と、金属からなる格子状の二次元構造、又は三次元構造を形成する。この二次元構造の模式図を図1に示す。前記二次元構造は平面構造同士の相互作用により、図2に示すような空孔を有した多孔質骨格構造を形成する。この空孔が、表面積の増加に寄与する。図3に三次元構造の模式図を示す。前記三次元構造は空孔を有した多孔質骨格構造を形成する。この空孔が、表面積の増加に寄与する。
【0022】
比表面積は、常法に従い、窒素吸着等温線(液体窒素温度における吸着等温線)から算出されたものであり、BET法により算出した。
【0023】
本発明における配位高分子金属錯体のBET比表面積は100〜5000m/gであり、好ましくは200〜4500m/g、より好ましくは1000〜4000m/gである。高い比表面積を有する配位高分子金属錯体を熱処理した熱処理配位高分子金属錯体へナノサイズの金属微粒子が高度に担持されるそのため、反応に寄与する金属微粒子の表面積が増大し、触媒活性、及び発電特性が向上する。加えて、金属微粒子の凝集を防ぐことが可能となるため、長時間安定な酸化還元触媒、及び燃料電池用触媒、又は、前記燃料電池用触媒をイオン伝導性のポリマーで被覆したポリマー被覆燃料電池用触媒、並びにこれら燃料電池用触媒を用いた膜電極接合体、及び燃料電池を得ることができる。BET比表面積が100m/g未満では、金属微粒子の比表面積が効果的に増大せず、逆に、5000m/gを超えると微細孔が形成され、その微細孔内部表面が反応場全体に占める割合が高くなるため、金属微粒子の高度な分散が抑制される。また、微細孔内部表面への酸素の拡散等の物質移動が律速、及び/又は、反応生成水の排出が困難となり、発電特性は劣化してしまう可能性がある。
【0024】
(熱処理配位高分子金属錯体)
次に、本発明の熱処理配位高分子金属錯体について説明する。
【0025】
本発明における配位高分子金属錯体の熱処理は、格別の制限はないが、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、アルゴン、窒素、アンモニア、アセトニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種類の雰囲気で、300〜1200℃、好ましくは400〜900℃、より好ましくは500〜700℃で30分〜4時間、好ましくは1〜3時間、より好ましくは1〜2時間行う。本発明では、熱処理を行うことにより導電性や耐久性を向上させ、高活性の酸化還元触媒、特に、優れた発電特性を示す燃料電池用触媒、並びにこの燃料電池用触媒を用いた燃料電池用電極、及び燃料電池を提供することができる。熱処理温度が300℃より低い場合や30分より短時間の場合は、導電性や耐久性の向上が不十分であり、1200℃より高い場合や4時間より長時間の場合は、触媒の熱分解が起こる。
【0026】
(燃料電池用触媒)
次に、本発明の燃料電池用触媒について説明する。
【0027】
本発明における燃料電池用触媒は、特に制限されないが、前記熱処理配位高分子金属錯体を乳鉢で粉砕した後、金属の塩を溶解した溶液に室温で30分間〜6時間、好ましくは1〜2時間、浸漬することで調製できる。これにより、熱処理配位高分子金属錯体に10nm以下、好ましくは0.5〜8nm、より好ましくは1〜5nmの粒子サイズを持つ金属微粒子が高度に分散された燃料電池用触媒が調製できる。また、上記液相に還元剤を加えても構わない。
【0028】
また、本発明における燃料電池用触媒は、特に制限されないが、乳鉢で粉砕した前記熱処理配位高分子金属錯体を分散させた液相に、金属の塩を溶解した溶液を滴下し、30分間〜6時間、溶媒の沸点程度に加温することでも調製できる。これにより、熱処理配位高分子金属錯体に10nm以下、好ましくは0.5〜8nm、より好ましくは1〜5nmの粒子サイズを持つ金属微粒子が高度に分散された燃料電池用触媒が調製できる。また、上記液相に還元剤を加えても構わない。
【0029】
反応条件には格別の制限はないが、前記温度条件より低温では反応が完結せず、高温では原料および生成物の分解反応が起こる。また、前記反応時間より短時間では反応が完結せず、長時間では原料および生成物の分解反応が起こる。
【0030】
触媒として不活性と考えられていた金属でもナノサイズのレベルまで微細化すると、活性を示すため、金属微粒子としては、特に制限されないが、遷移金属の微粒子が好ましい。遷移金属とは、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pb、Ag、Cd、In、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Ti、ランタノイド系列の元素、及びアクチノイド系列の元素等が挙げられる。この金属微粒子が活性サイトと考えられるため、より好ましくは貴金属の微粒子である。貴金属とは、Ru、Rh、Pb、Ag、Os、Ir、Pt、Auが挙げられる。特に好ましくは、Pt、Au、Agの微粒子である。また、金属微粒子は1種類の金属から構成されていても良いし、2種類以上の金属の混合状態から構成されていても構わない。
【0031】
前記溶液に用いる金属の塩としては、特に制限されないが、遷移金属の塩が好ましい。遷移金属の塩とは、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pb、Ag、Cd、In、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Ti、ランタノイド系列の元素、及びアクチノイド系列の元素等の塩が挙げられる。より好ましくは貴金属の塩であり、特に好ましくはPt、Au、Agの塩である。また、金属の塩は1種類の金属から構成されていても良いし、2種類以上の金属の混合状態から構成されていても構わない。
【0032】
前記溶液に用いる金属の塩を溶解した溶液は、前記金属の塩を溶媒に溶解させることにより得ることができる。溶媒は、金属の塩を溶解できるものであれば特に限定されないが、メタノール、エタノール、2−プロパノールといったアルコール類、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドといったアミド系溶媒、さらにはアセトニトリル、水等の溶媒が挙げられ、又、単一でも良いし、混合溶媒でも構わない。
【0033】
前記溶液に用いる還元剤として、特に制限はないが、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、2−プロパノール、エタノール、メタノール、酢酸、ビタミンC、チオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸ナトリウム、硫化ナトリウム、ハイドロサルファイトナトリウム、亜燐酸、亜燐酸塩、次亜燐酸、次亜燐酸塩水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリシアミルホウ素リチウム、水素化アルミニウムリチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ボラン、ジボラン、ジメチルスルフィド、ヒドラジン、チオエタノールアミン、システイン等が挙げられ、又、単一でも良いし、混合溶液でも構わない。
【0034】
(触媒担持導電体)
次に、本発明の触媒担持導電体について説明する。
【0035】
本発明の触媒担持導電体は、格別の制限はないが、スラリーやペースト、懸濁液にした導電性担体に燃料電池用触媒を添加し、撹拌した後、ろ過、洗浄及び乾燥することにより調製できる。
【0036】
本発明における導電性担体のBET比表面積は200〜2000m/gであり、好ましくは250〜1800m/g、より好ましくは500〜1500m/gである。本発明では、比表面積が高く、かつ、導電性が優れた担持体を用いることで、燃料電池用触媒のπ電子系との相互作用が増幅され、電子移動を向上させることができるため、優れた発電特性を示す燃料電池用触媒、並びにこの燃料電池用触媒を用いた燃料電池用電極、及び燃料電池を提供することができる。BET比表面積200m/g未満では、導電性担体表面に形成される凹凸、微細孔による炭素網面の欠陥、エッジ部分の量が不十分であり、優れた発電特性が発現しない。逆に、2000m/gを超えると微細孔が形成され、その微細孔内部表面が反応場全体に占める割合が高くなるため、酸素の拡散等の物質移動が律速、及び/又は、反応生成水の排出が困難となり、発電特性は劣化してしまう可能性がある。
【0037】
本発明における導電性担体は優れた導電性を示す担体であれば特に制限されないが、好ましくは炭素系担体、より好ましくは活性炭、熱分解炭素、カーボンファイバー、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンナノクラスター、及びカーボンナノホーンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、特に好ましくはカーボンファイバー、カーボンブラックよりなる群から選ばれる1種又は2種である。
【0038】
(熱処理触媒担持導電体)
次に、本発明の熱処理触媒担持導電体について説明する。
【0039】
本発明における燃料電池用触媒、又は触媒担持導電体の熱処理は、格別の制限はないが、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、アルゴン、窒素、アンモニア、アセトニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種類の雰囲気、又は、減圧条件下で、300〜1200℃、好ましくは400〜900℃、より好ましくは500〜700℃で30分〜4時間、好ましくは1〜3時間、より好ましくは1〜2時間行う。本発明では、熱処理を行うことにより導電性や耐久性を向上させることができる。熱処理温度が300℃より低い場合や30分より短時間の場合は、導電性や耐久性の向上が不十分であり、1200℃より高い場合や4時間より長時間の場合は、触媒の熱分解が起こる。
【0040】
本発明における燃料電池用触媒、又は触媒担持導電体の熱処理は、格別の制限はないが、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、アルゴン、窒素、アンモニア、アセトニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種類の雰囲気、又は、減圧条件下で、マイクロ波を照射し、熱処理してもよい。マイクロ波を用いることにより、前記炭素系担体が加熱され、炭素系担体が配位高分子金属錯体を内部から加熱するため、配位高分子金属錯体を高速加熱することができる。使用するマイクロ波の波長は0.1〜100cmの範囲が好ましく、周波数は300MHz〜30GHzの範囲が好ましい。また、照射条件として、格別の制限はないが、アーキングの発生を抑えるために、28GHz等の高周波で、1分〜3時間照射することが好ましい。
【0041】
(ポリマー被覆燃料電池用触媒)
次に、本発明のポリマー被覆燃料電池用触媒について説明する。
【0042】
本発明のポリマー被覆燃料電池用触媒は、特に制限されないが、前記手法により調製した燃料電池用触媒、又は、触媒担持導電体、熱処理触媒担持導電体に少量の超純水及びイソプロパノールとナフィオン(登録商標)などのイオン伝導性ポリマー溶液を加え、均一になるまで攪拌することで調製することができる。
【0043】
本発明におけるイオン伝導性ポリマーとしては、良好なイオン伝導性を示すポリマーであれば特に限定されないが、好ましくはフッ素樹脂、又は炭化水素樹脂、さらに好ましくはスルホン酸型パーフルオロカーボン重合体である。
【0044】
本発明の膜電極接合体は、前記手法により調製した燃料電池用触媒、又は、触媒担持導電体、熱処理触媒担持導電体、ポリマー被覆燃料電池用触媒ペーストをカーボンペーパーに金属付着量が0.01〜0.2mg/cmになるように、より好ましくは0.05〜0.1mg/cmになるように、アプリケーターを用いて均一に塗布、乾燥してカソード用のガス拡散層を作製し、同様の手法で、白金触媒を担持したアノード用の触媒層付ガス拡散層を作製し、前記2種類の触媒層付ガス拡散層の間に、触媒層がプロトン交換膜に接するようにプロトン交換膜を挟み、ホットプレス機により作製することができる。
【0045】
本発明の燃料電池は、前記の膜電極接合体を燃料電池セルに組み込んで、アノード側には水素ガスを、カソード側には酸素を供給することにより作製できる。
【実施例】
【0046】
以下に実例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の主旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術範囲に含まれる。
【0047】
(比表面積)
比表面積はASAP2010(micromeritics社)を用い、BET法により算出した。液体窒素温度(77K)における窒素吸着等温線の測定結果から下式(1)、(2)により単分子層吸着量を算出し、窒素の分子占有面積(0.162nm)より比表面積を算出するBET多点法により実施した。
【0048】
【数1】

【0049】
【数2】

【0050】
ここで各記号の意味は、p:平衡圧、p:飽和蒸気圧、v:平衡圧pにおける吸着量、v:単分子層吸着量、C:固体表面と吸着質との相互作用の大きさに関する定数(BET定数)、S:比表面積、およびσ:窒素単分子占有面積である。
【0051】
(粒径)
金属微粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)写真で観察される100個の粒子の平均から算出した。
【0052】
(発電特性)
デュポン社製20%ナフィオン(登録商標)溶液に、調製した燃料電池用触媒、又は、触媒担持導電体、熱処理触媒担持導電体と少量の超純水及びイソプロパノールを加え、均一になるまで攪拌し、ポリマー被覆燃料電池用触媒ペーストを調製した。このポリマー被覆燃料電池用触媒ペーストを、別途疎水化した東レ製カーボンペーパーTGPH−060に金属付着量が0.1mg/cmになるようにアプリケーターを用いて均一に塗布、乾燥して、カソード用の触媒層付ガス拡散層を作製した。同様の手法で、市販の40%白金触媒担持カーボンを用いて、別途疎水化した前記カーボンペーパー上に電極触媒層を形成することで、アノード用の触媒層付ガス拡散層を作製した(0.4mg−白金/cm)。前記2種類の触媒層付ガス拡散層の間に、触媒層がプロトン交換膜に接するように膜を挟み、ホットプレス機により180℃、3分間加熱することで膜電極接合体(以下MEAと略記する場合もある)を作製した。このMEAを用い、評価用燃料電池セルに組み込んで、アノード側には水素ガスを、カソード側には酸素を供給し、セル温度80℃、常圧、水素利用率を70%、酸素利用率を40%とし、ガス加湿は水素及び酸素を85℃のバブラーを通して行い、電流−電圧特性試験を実施した。
【0053】
(実施例1)
アルゴン雰囲気下で、ピラジン0.80gと炭酸ナトリウム1.06gにメタノール5mlを加え、しばらく撹拌した後、硝酸コバルト(II)六水和物1.46gを溶解したメタノール溶液5mlを滴下して、室温で1時間撹拌した後、粉末を吸引ろ過より取り出した。当該粉末をメタノールで十分に洗浄した後、室温で真空乾燥して配位高分子金属錯体を得た。
上記配位高分子金属錯体を窒素雰囲気、5℃/分で650℃まで加熱し、650℃で2時間熱処理した。その後、室温まで放冷し、熱処理配位高分子金属錯体を得た。乳鉢で粉砕した熱処理配位高分子金属錯体0.50gに硝酸銀(I)0.08gを溶解したメタノール溶液470mlを加え、室温で6時間浸漬した後、粉末を吸引ろ過より取り出した。当該粉末をメタノールで十分に洗浄した後、室温で真空乾燥して燃料電池用触媒を得た。透過型電子顕微鏡での金属微粒子の粒径観察の結果を表1に示す。
乳鉢で粉砕した燃料電池用触媒を導電性担体として用いるカーボンブラックの水溶液に加えて15分間撹拌した後、粉末を吸引ろ過より取り出した。当該粉末を水で十分に洗浄した後、90℃で真空乾燥して、触媒担持導電体を得た。
予め乳鉢で粉砕した上記触媒担持導電体を減圧条件下で28GHzのマイクロ波を1時間照射して熱処理し、熱処理触媒担持導電体を得た。これを用い、前記手法によりMEAを作製し、発電特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0054】
(実施例2)
アルゴン雰囲気下で、ピラジン0.80gと3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物1.61g、炭酸ナトリウム1.06gに水10mlを加え、しばらく撹拌した後、酢酸マンガン(II)四水和物2.45gを溶解した水溶液5mlを滴下して、還流反応を96時間行った。放冷した後、粉末を吸引ろ過より取り出し、水で十分に洗浄した後、100℃で真空乾燥して配位高分子金属錯体を得た。
上記配位高分子金属錯体をアルゴン雰囲気、5℃/分で600℃まで加熱し、600℃で2時間熱処理した。その後、室温まで放冷し、熱処理配位高分子金属錯体を得た。乳鉢で粉砕した熱処理配位高分子金属錯体0.50gを水10mlに分散させ、クエン酸一水和物0.06g、塩化白金(IV)酸六水和物0.13gを溶解した水溶液1000mlを加えた後、水素化ホウ素ナトリウム0.11gを溶解した水溶液30mlを滴下して、還流反応を1時間行った。放冷した後、粉末を吸引ろ過より取り出し、水で十分に洗浄した後、100℃で真空乾燥して燃料電池用触媒を得た。透過型電子顕微鏡での金属微粒子の粒径観察の結果を表1に示す。
MEAを実施例1と同様に作製し、発電特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0055】
(実施例3)
アルゴン雰囲気下で、ビピジジル0.80gに酢酸銅(II)一水和物1.02gを溶解したメタノール溶液10mlを加え、室温で1時間撹拌した後、粉末を吸引ろ過より取り出した。当該粉末をメタノールで十分に洗浄した後、60℃で真空乾燥して配位高分子金属錯体を得た。
上記配位高分子金属錯体をアンモニア雰囲気、5℃/分で600℃まで加熱し、600℃で2時間熱処理した。その後、室温まで放冷し、熱処理配位高分子金属錯体を得た。乳鉢で粉砕した熱処理配位高分子金属錯体0.50gにテトラクロロ金(III)酸四水和物0.11gを溶解したメタノール溶液260mlを加え、室温で6時間浸漬した後、粉末を吸引ろ過より取り出した。当該粉末をメタノールで十分に洗浄した後、室温で真空乾燥して燃料電池用触媒を得た。透過型電子顕微鏡での金属微粒子の粒径観察の結果を表1に示す。
乳鉢で粉砕した燃料電池用触媒を導電性担体として用いるカーボンナノホーン(管状部直径:約2〜3nm、管状部長さ:30nm)の水溶液に加えて15分間撹拌した後、粉末を吸引ろ過より取り出した。当該粉末を水で十分に洗浄した後、90℃で真空乾燥して、触媒担持導電体を得た。これを用い、前記手法によりMEAを作製し、発電特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0056】
(実施例4)
アルゴン雰囲気下で、ビピジジル0.80gとトリメシン酸0.54g、炭酸カリウム0.71gにメタノール10mlを加え、しばらく撹拌した後、塩化鉄(III)六水和物1.38gを溶解したメタノール溶液5mlを滴下して、還流反応を96時間行った。放冷した後、粉末を吸引ろ過より取り出し、メタノールで十分に洗浄した後、60℃で真空乾燥して配位高分子金属錯体を得た。
上記配位高分子金属錯体を窒素雰囲気、5℃/分で550℃まで加熱し、550℃で2時間熱処理した。その後、室温まで放冷し、熱処理配位高分子金属錯体を得た。乳鉢で粉砕した熱処理配位高分子金属錯体0.50gにジニトロジアミン白金(II)0.08gを溶解したメタノール溶液260mlを加え、室温で6時間浸漬した後、粉末を吸引ろ過より取り出した。当該粉末をメタノールで十分に洗浄した後、室温で真空乾燥して燃料電池用触媒を得た。透過型電子顕微鏡での金属微粒子の粒径観察の結果を表1に示す。
乳鉢で粉砕した燃料電池用触媒を導電性担体として用いるカーボンファイバー(平均直径:100nm)の水溶液に加えて15分間撹拌した後、粉末を吸引ろ過より取り出した。当該粉末を水で十分に洗浄した後、90℃で真空乾燥して、触媒担持導電体を得た。
予め乳鉢で粉砕した上記触媒担持導電体を減圧条件下で28GHzのマイクロ波を1時間照射して熱処理し、熱処理触媒担持導電体を得た。これを用い、前記手法によりMEAを作製し、発電特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0057】
(実施例5)
アルゴン雰囲気下で、ベンズイミダゾール0.80gと炭酸ナトリウム0.72gにN,N−ジメチルホルムアミド5mlを加え、しばらく撹拌した後、銅(II)アセチルアセトナート1.77gを溶解したN,N−ジメチルホルムアミド溶液10mlを滴下して、還流反応を36時間行った。放冷した後、粉末を吸引ろ過より取り出し、N,N−ジメチルホルムアミド、メタノールの順で十分に洗浄した後、60℃で真空乾燥して配位高分子金属錯体を得た。
上記配位高分子金属錯体をアンモニア雰囲気、5℃/分で600℃まで加熱し、600℃で2時間熱処理した。その後、室温まで放冷し、熱処理配位高分子金属錯体を得た。乳鉢で粉砕した熱処理配位高分子金属錯体0.50gを水10mlに分散させ、クエン酸一水和物0.06g、ジニトロジアミン白金(II)0.04g、硝酸ルテニウム(III)0.07gを溶解した水溶液1000mlを加えた後、水素化ホウ素ナトリウム0.11gを溶解した水溶液30mlを滴下して、還流反応を2時間行った。放冷した後、粉末を吸引ろ過より取り出し、水で十分に洗浄した後、90℃で真空乾燥して燃料電池用触媒を得た。透過型電子顕微鏡での金属微粒子の粒径観察の結果を表1に示す。
MEAを実施例1と同様に作製し、発電特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0058】
(実施例6)
アルゴン雰囲気下で、イミダゾール0.80gと2,6−ナフタレンジカルボン酸1.27gにN,N−ジメチルホルムアミド10mlを加え、しばらく撹拌した後、水素化ナトリウム0.28gを加え銅(II)アセチルアセトナート3.08gを溶解したメタノール溶液2mlを滴下して、還流反応を72時間行った。放冷した後、粉末を吸引ろ過より取り出し、N,N−ジメチルホルムアミド、メタノールの順で十分に洗浄した後、60℃で真空乾燥して配位高分子金属錯体を得た。
上記配位高分子金属錯体を窒素雰囲気、5℃/分で600℃まで加熱し、600℃で2時間熱処理した。その後、室温まで放冷し、熱処理配位高分子金属錯体を得た。乳鉢で粉砕した熱処理配位高分子金属錯体0.50g、炭酸ナトリウム0.09gにメタノール1000mlを加えた後、硝酸コバルト(II)六水和物0.02gを溶解したメタノール溶液10mlを滴下した。その後、ジニトロジアミン白金(II)0.07gを溶解したメタノール溶液10mlを滴下して、還流反応を6時間行った。放冷した後、粉末を吸引ろ過より取り出し、メタノールで十分に洗浄した後、室温で真空乾燥して燃料電池用触媒を得た。透過型電子顕微鏡での金属微粒子の粒径観察の結果を表1に示す。
MEAを実施例1と同様に作製し、発電特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0059】
(実施例7)
116%のポリリン酸59.30gに窒素雰囲気下、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン四塩酸塩4.20gと安息香酸3.60gを加え、70℃で15分間撹拌した。さらに120℃まで昇温させ、21時間撹拌した後、150℃まで昇温させ3時間撹拌した。この反応液を水1L中へ再沈して、析出してきた粉末を吸引ろ過より取り出した。得られた粉末を水で十分に洗浄した後、90℃で真空乾燥し、ビスベンゾイミダゾール誘導体を得た。
アルゴン雰囲気下で、前記ビスベンゾイミダゾール誘導体0.80gと2,5−ジメチルテレフタル酸0.25g、炭酸ナトリウム0.27gにN,N−ジメチルホルムアミド15mlを加え、しばらく撹拌した後、酢酸ニッケル(II)四水和物1.28gを溶解したメタノール溶液2mlを滴下して、還流反応を96時間行った。放冷した後、粉末を吸引ろ過より取り出し、N,N−ジメチルホルムアミド、メタノールの順で十分に洗浄した後、60℃で真空乾燥して配位高分子金属錯体を得た。
上記配位高分子金属錯体を窒素雰囲気、5℃/分で700℃まで加熱し、700℃で2時間熱処理した。その後、室温まで放冷し、熱処理配位高分子金属錯体を得た。乳鉢で粉砕した熱処理配位高分子金属錯体0.50gにテトラクロロ金(III)酸四水和物0.11gを溶解した2−プロパノール溶液260mlを加え、室温で30分間浸漬した後、粉末を吸引ろ過より取り出した。当該粉末を2−プロパノールで十分に洗浄した後、室温で真空乾燥して燃料電池用触媒を得た。透過型電子顕微鏡での金属微粒子の粒径観察の結果を表1に示す。
乳鉢で粉砕した燃料電池用触媒を導電性担体として用いるカーボンブラックの水溶液に加えて15分間撹拌した後、粉末を吸引ろ過より取り出した。当該粉末を水で十分に洗浄した後、90℃で真空乾燥して、触媒担持導電体を得た。これを用い、前記手法によりMEAを作製し、発電特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0060】
(実施例8)
116%のポリリン酸59.30gに窒素雰囲気下、2,5−ジアミノ−1,4−ベンゼンジチオール二塩酸塩4.20gと安息香酸4.20gを加え、70℃で15分間撹拌した。さらに120℃まで昇温させ、21時間撹拌した後、150℃まで昇温させ3時間撹拌した。この反応液を水1L中へ再沈して、析出してきた粉末を吸引ろ過より取り出した。得られた粉末を水で十分に洗浄した後、90℃で真空乾燥し、ビスベンゾチアゾール誘導体を得た。
アルゴン雰囲気下で、前記ビスベンゾチアゾール誘導体0.80gとピロメリット酸無水物0.25gにN,N−ジメチルホルムアミド20mlを加え、しばらく撹拌した後、水素化ナトリウム0.22gを加え、酢酸ニッケル(II)四水和物1.16gを溶解したメタノール溶液2mlを滴下して、還流反応を96時間行った。放冷した後、粉末を吸引ろ過より取り出し、N,N−ジメチルホルムアミド、メタノールの順で十分に洗浄した後、60℃で真空乾燥して配位高分子金属錯体を得た。
上記配位高分子金属錯体をアルゴン雰囲気、5℃/分で700℃まで加熱し、700℃で2時間熱処理した。その後、室温まで放冷し、熱処理配位高分子金属錯体を得た。乳鉢で粉砕した熱処理配位高分子金属錯体0.50gに硝酸銀(I)0.08gを溶解した2−プロパノール溶液1000mlを加え、還流反応を6時間行った。放冷した後、析出物を吸引ろ過より取り出し、2−プロパノールで十分に洗浄した後、70℃で真空乾燥して燃料電池用触媒を得た。透過型電子顕微鏡での金属微粒子の粒径観察の結果を表1に示す。
MEAを実施例1と同様に作製し、発電特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0061】
(比較例1)
カーボンブラック0.50gにエタノール1000mlを加えた後、酢酸ニッケル(II)四水和物0.02gを溶解したエタノール溶液10mlを滴下した。その後、ジニトロジアミン白金(II)0.07gを溶解したエタノール溶液10mlを滴下して、還流反応を6時間行った。放冷した後、析出物を吸引ろ過より取り出し、エタノールで十分に洗浄した後、70℃で真空乾燥して金属微粒子含有錯体を得た。透過型電子顕微鏡での金属微粒子の粒径観察の結果を表1に示す。
MEAを実施例1と同様に作製し、発電特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0062】
表1に示す結果の通り、本発明の配位高分子金属錯体を熱処理した熱処理配位高分子金属錯体へ金属微粒子を担持してなる燃料電池用触媒、又は、熱処理配位高分子金属錯体へ金属微粒子を担持後、さらに導電性担体へ担持してなる触媒担持導電体、又は、前記燃料電池用触媒、あるいは前記触媒担持導電体を熱処理した熱処理触媒担持導電体は、燃料電池において長時間安定で優れた発電特性を示した。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の高度に構造制御された金属−N4構造を含有し、かつ、多孔質であるために高い比表面積を有する配位高分子金属錯体を熱処理した熱処理配位高分子金属錯体に金属微粒子が担持された燃料電池用触媒、又は、熱処理配位高分子金属錯体に金属微粒子を担持後、さらに導電性担体へ担持された触媒担持導電体、又は、前記燃料電池用触媒、あるいは前記触媒担持導電体を熱処理した熱処理触媒担持導電体は、ナノサイズの金属微粒子が高度、かつ、安定に分散担持される。これにより、反応に寄与する金属微粒子の表面積が増大し、高活性で長時間安定な酸化還元触媒、特に、燃料電池において優れた発電特性を示し長時間安定な、ポリマー被覆燃料電池用触媒、並びに膜電極接合体、及び燃料電池として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】配位高分子金属錯体の二次元構造を示す模式図である。
【図2】配位高分子金属錯体の多孔質骨格構造を示す模式図である。
【図3】配位高分子金属錯体の三次元構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0066】
1 二次元格子構造
2 配位子
3 金属
4 多孔質骨格構造
5 空孔
6 三次元格子構造
7 金属−N構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に−NH、=NH、=N−から選択される化学構造を2個以上含有し、平面構造を有する配位子と、金属からなる多孔質骨格構造を有する配位高分子金属錯体を熱処理した熱処理配位高分子金属錯体へ金属微粒子を担持してなることを特徴とする燃料電池用触媒。
【請求項2】
ピラジン骨格、ビピリジン骨格、イミダゾール骨格、ビスベンゾチアゾール骨格、ビスベンゾオキサゾール骨格からなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の化学構造を含む請求項1に記載の配位子からなる配位高分子金属錯体を熱処理した熱処理配位高分子金属錯体へ金属微粒子を担持してなることを特徴とする燃料電池用触媒。
【請求項3】
前記配位高分子金属錯体のBET比表面積が100〜5000m/gであることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用触媒。
【請求項4】
前記金属微粒子の粒径が10nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池用触媒。
【請求項5】
前記金属微粒子は遷移金属であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池用触媒。
【請求項6】
前記金属微粒子は貴金属であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池用触媒。
【請求項7】
配位高分子金属錯体の金属が、Zn、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ruからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属である請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池用触媒。
【請求項8】
ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、アルゴン、窒素、アンモニア、アセトニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種類の雰囲気で、300〜1200℃で熱処理してなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の燃料電池用触媒。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の燃料電池用触媒を導電性担体に担持してなることを特徴とする触媒担持導電体。
【請求項10】
前記導電性担体のBET比表面積が200〜2000m/gであることを特徴とする請求項9に記載の触媒担持導電体。
【請求項11】
前記導電性担体が炭素系担体であることを特徴とする請求項9、又は、10のいずれかに記載の触媒担持導電体。
【請求項12】
前記炭素系担体が、活性炭、熱分解炭素、カーボンファイバー、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンナノクラスター、及びカーボンナノホーンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項11に記載の触媒担持導電体。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の燃料電池用触媒、又は触媒担持導電体を熱処理することを特徴とする熱処理触媒担持導電体。
【請求項14】
前記燃料電池用触媒、又は触媒担持導電体、熱処理触媒担持導電体において、イオン伝導性のポリマーで被覆されることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載のポリマー被覆燃料電池用触媒。
【請求項15】
前記ポリマー被覆燃料電池用触媒を用いたことを特徴とする請求項14に記載の膜電極接合体。
【請求項16】
前記膜電極接合体を用いたことを特徴とする請求項15に記載の燃料電池。
【請求項17】
前記燃料電池用触媒を用いる請求項1〜13のいずれかに記載の酸化還元触媒。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−15971(P2010−15971A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332433(P2008−332433)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】