説明

金属接合用加圧治具、金属接合方法、及び金属接合装置

【課題】 圧接・ろう接は、通常、加圧治具を用いて接合材の接合面を密着させる。加圧治具へ接合材を組み込み、加熱炉にて加熱すると、加圧治具の部品と接合材間の線膨張量に差が生じる。接合材が接合温度に達したとき、加熱前に設定した加圧力が増減する現象が生じ、。加熱時の加圧力変化を低減して高精度な金属接合が可能な金属接合用加圧治具を提供する
【解決手段】 上部にボルト穴を加工したアームを設け,ボルト穴に加圧ボルトを通し締め付けることで接合材を加圧する機構を有し,インサート材を含む接合材の上下をカーボンプレートで挟み込み,その上部に押さえ板を積層したものを加圧する構成の加圧治具において,接合材およびカーボンプレートの線膨張の合計量と,アームの線膨張量が等しくなるようにカーボンプレートの厚みを設定することで,加熱による加圧力の増減を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属接合用加圧治具に関するものである。特に、圧接・ろう接などの加圧を要する金属接合を実施する際に使用する金属接合用加圧治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の圧接では,接合部材を高圧で保持し,加熱することで部材同士を接合する。
金属のろう接では接合材の間にろう材を設置し加圧保持する。その後,加熱することでろう材を溶融させ,部材同士を接合させる。
圧接・ろう接などの金属接合では接合温度,圧力,時間が重要設定項目であり,多様な加熱方法・加圧方法がある。特に加圧方式には,モータを用いた加圧方法,圧縮空気による加圧方法,ボルトの締付力による加圧方法などがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−210074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧接・ろう接施工時は,接合面を密着させるために接合材を加圧する治具が必要となる。加圧治具へ接合材を組み込み,加熱炉にて加熱すると,加圧治具の部品と接合材間の線膨張量に差が生じる。この線膨張差が存在することで,接合材が接合温度に達したとき,加熱前に設定した加圧力が増減する現象が起こる。
【0005】
特許文献1では,この線膨張差を利用して加熱と同時に接合材を加圧する手法が記されている。しかし,本手法では接合温度全域に渡って均一の加圧力にて加圧することや,接合温度上昇に伴い加圧力を減少させることが不可能である。また,高温になるにつれ加圧力が増加する仕組みであることから,接合材の剛性低下時に加圧力が増加するため,接合材が変形するなどの問題がある。
厳しい接合精度が要求される接合や,拡散接合やろう付けなどでは,接合初期の段階では接合面の密着化のために加圧力を要するが,接合後期の段階では加熱に伴い接合材の剛性が著しく低下し,加圧力が接合材変形の要因となるため,加熱に伴って加圧力を減少させるプロセスが望ましい。
しかし,加熱時の線膨張差による加圧方法は,接合後の変形を増加させるため,高精度な接合ができないといった問題があった。
【0006】
この発明は係る課題を解決するためになされたものであり、加熱時の加圧力変化を低減して高精度な金属接合が可能な金属接合用加圧治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の金属接合用加圧治具は、積層した複数個の接合材を接合する金属接合用治具であって、前記接合材の上下を挟んで積層される圧力調整板と、積層された前記接合材と前記圧力調整板とを搭載する基盤板と、前記基盤板に取り付けられ、先端が前記基盤板上に搭載した前記接合材と前記圧力調整板の上方に延びるアームと、前記アームの先端に取り付けられ、前記積層された接合材と圧力調整板とを上方から加圧する加圧ボルトとを備え、前記圧力調整板の厚さjは、前記接合材と前記圧力調整板の線膨張の合計量と前記アームの線膨張量とが等しくなるように、下記式で求められる値に設定されるようにした。
【0008】
【数1】

ここで、
X:圧力調整板の線膨張量、
Y: 接合材の線膨張量、
Z:アームの線膨張量、
k:接合材の厚さ、である。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、加熱時の加圧力変化を低減して高精度な金属接合を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態1の加圧治具30の構成を示す図である。
【図2】実施の形態1の加圧治具30の断面を示す図である。
【図3】実施の形態3のインサート材3が挿入された場合の接合材断面を示した図の一例である。
【図4】実施の形態3の加圧に伴うアームの変形を表わした図である。
【図5】実施の形態3の加圧ボルトの締付トルクとアーム変形量の相関グラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は,実施の形態1の金属接合用加圧治具(以下、単に加圧治具という)30の構成を示す図である。図2は加圧治具30の断面図である。
加圧治具30は、上部にボルト穴を加工したアーム8を設け,ボルト穴に加圧ボルト5を通し締め付けることで接合材を加圧する機構となっている。アーム8は基盤板7に取り付けられている。
なお、材質の相異により生じる線膨張量差の影響を極力無視できるように,アーム8・加圧ボルト5・押さえ板6・基盤板7は同一の材質を用いている。
【0012】
加圧ボルト5にて接合材2を直接加圧した場合,加圧力が加圧ボルト5先端付近に集中し,接合面全体を均一に加圧できない。
対策として、実施の形態1の加圧治具30では、加圧ボルト5の加圧力を全面に分散させるための押さえ板6を接合材2の上部へ設置するようにした。また,押さえ板6と接合材2が拡散接合しないように,間に離型用のカーボンプレート1を挟み込むようにした。
このように、実施の形態1の加圧治具30は,接合材2およびインサート材3の上下をカーボンプレート1で挟み込み,その上部に押さえ板6を積層したものを加圧する構成となっている。
なお、カーボンプレート1は、圧力調整板の一例である。
【0013】
加熱時において,カーボンプレート1と接合材2とアーム8の材質がそれぞれ異なる場合には、各部材の線膨張係数が異なことから接合材2に加わる加圧力に増減が生じる。
例えば、図2のaの矢印で示した範囲では,異なる材質のカーボンプレート1と接合材2の部材が混在しているため,カーボンプレート1と接合材2の合計の線膨張量がアーム8の線膨張量を上回ると,加熱時に加圧力が増加することになる。
【0014】
以下、この線膨張差による加熱時の加圧力の変化を抑える方法について説明する。
【0015】
まず,加圧治具を構成する構成品(アーム8、加圧ボルト5、押さえ板6、基盤板7)の材質を同一とする。
次に,加圧治具の構成品の線膨張係数を、接合材の線膨張係数よりも低く,かつ、カーボンプレート1の線膨張係数よりも高い材質にする。一例として、加圧治具の構成品にステンレス鋼を、接合材にアルミニウム合金を用いることができる。
【0016】
カーボンプレート1、接合材2、アーム8の線膨張係数をそれぞれX、Y、Zと定義する。また、カーボンプレート1の厚み(接合材2を挟んだ上下のカーボンプレート厚みの和)、接合材2の厚みをj、kと定義する。
カーボンプレート1と接合材2の線膨張量合計値と、アーム8の線膨張量との差は,{Xj+Yk−Z(j+k)}T にて表すことができる。
【0017】
ここで,カーボンプレート1と接合材2の線膨張量合計値とアーム8の線膨張量の差がゼロであれば、加熱時においても接合材2に加わる加圧力は変化しない。
【0018】
【数2】

【0019】
式(1)より,カーボンプレート1の厚みjを,
【0020】
【数3】

【0021】
と設定することにより,カーボンプレート1と接合材2の線膨張量合計値と、アーム8の線膨張量を同一にできるので,各材料の加熱時の加圧力変化をゼロにすることができる。
【0022】
以下、具体例を示す。
接合材2をアルミニウム合金(A6061:Y = 線膨張係数23.5×10-6[1/℃],厚みk = 20[mm])とする。アーム8をステンレス鋼(SUS304:Z = 線膨張係数17.3×10-6[1/℃])とする。
カーボンプレート1の線膨張係数Xを、X = 線膨張係数3.1×10-6[1/℃]としたとき、加圧力変化をゼロにするカーボンプレート厚みjは、式(2)より,j = 約8.7[mm]となる。
【0023】
加圧治具30を用いた金属接合を行うにあたり、このようにして計算した厚みのカーボンプレート1を加圧治具に用いることで、その加熱工程においても接合材2に加わる加圧力の変動を抑えることができ、結果として高精度な金属接合を行うことができる。
【0024】
金属接合は、上記のようにして厚みを調整したカーボンプレート1を用い、加圧治具にカーボンプレート1と接合材2と押さえ板6を積層して設置し、加熱炉を用いて当該加圧治具を加熱する。
この加圧治具と加圧治具を加熱する加熱炉とのことをあわせて、金属接合装置という。
【0025】
なお、実施の形態1では、接合材2およびインサート材3の上下をカーボンプレート1で挟み込んでいるが、上下のカーボンプレートの各々の厚みは同じとしてもよいし、異なっていても構わない。また、接合材2およびインサート材3の上下のいずれかにカーボンプレートを設けるようにしてもよい。
【0026】
実施の形態2.
実施の形態1では、加熱工程において接合材2に加わる加圧力の変動を抑える方法について説明したが、実施の形態2では、加熱に伴い加圧力を減少させる方法について説明する。
【0027】
実施の形態2では、実施の形態1と同様の手法を用い,カーボンプレート1と接合材2の線膨張量合計値と、アーム8の線膨張量との差がマイナスになるように,式(3)によりカーボンプレートの厚みjを設定する。
【0028】
【数4】

【0029】
これよりカーボンプレートの厚みjについて、式(4)が得られる。
【0030】
【数5】

【0031】
加圧治具を用いた金像接合を行うにあたり、このようにして計算した厚みのカーボンプレート1を加圧治具に用いることで、その加熱工程においても接合材2に加わる加圧力を減少させることもできる。
【0032】
実施の形態3.
実施の形態1、2で説明した金属接合を行う際、接合材2の間に、接合用のろう材などのインサート材3を挿入する場合がある。
接合材2の間にインサート材3を挿入した場合、インサート材3の表面が平滑な平面でないこと等に起因して、溶融したインサート材3が接合材2の端からはみ出てしまい、接合不良を起こす場合がある。実施の形態3では、接合後のインサート材の厚みを適正に保つ方法を提供する。など、ろう材はインサート材3の一例である。
【0033】
図3は、実施の形態1、2において、接合材2間にインサート材3が存在する場合の接合材断面を示した図である。
実際のインサート材3の表面は平滑な平面ではないことに加えて,たわみなどの変形も存在するため,接合材2の間にインサート材3を挟み込んだとき,接合材2とインサート材3が密着しない。
このため,インサート材3の板厚(図3で示すb)と,インサート材3を挟み込んだときの接合材2間の距離(図3で示すc)に差が生じる。これをクリアランスと定義する。
また,加圧ボルト5を締め付けると,アーム8が図4のように広がる方向に変形する。アーム8の変形量(図4で示すd)は,加圧ボルト5の締付力により変動する値である。
【0034】
アーム8が変形したまま加圧治具を加熱すると,インサート材3が溶融し剛性を失うため,アーム8が元の形状に戻る。
このとき,溶融したインサート材3が接合材2の端から多量にはみ出る場合がある。また,変形量が少なすぎた場合,クリアランスが残ったままになり,接合不良になる場合がある。
【0035】
以下、実施の形態3に係る接合後のインサート材部分の厚みを適正に保つ加圧方法について説明する。
【0036】
第一に,クリアランスの測定を行う。まず,接合材2とインサート材3の厚みを個別にマイクロゲージなどで測定する。その後,接合材の間へインサート材3を挟み込んだときの全体の厚みを測定する。全体の厚みから,接合材2とインサート材3の個別に測定した厚みを減算したものがクリアランスとなる。
【0037】
第二に,加圧ボルト5の締付トルクとアーム8の変形量の相関を測定する。方法としては,任意の締付トルクを3種類ほど設定し,各締付トルクでのアーム変形量を測定し,グラフへプロットし最小2乗法にて近似曲線を作成する。
その後,クリアランス量とアーム変形量が等しくなるような締付トルクを設定する。
【0038】
以下、具体例を説明する。
ろう材と接合材間のクリアランス量が0.15[mm]であった場合の加圧ボルトの適正締付トルクを割り出す方法を以下に記す。
締付トルクとアーム変形量の相関を数値化するため,治具を組み合わせた状態で,加圧ボルトを5,30,60[N・cm]で締め付けたときのアーム変形量を測定する。図5は締付トルクに対するアーム変形量の測定結果の一例である。
図5のグラフから,0.15[mm]のクリアランスとアームの変形量が同等になるように締付トルクを定めると,約41[N・cm]が適正であることが分かる。
【0039】
このようにして適正な締付トルクを定めることにより、クリアランス量とアーム変形量が等しくすることができ、金属接合時のインサート材のはみ出しを防いで、結果として金属接合における接合の信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 カーボンプレート,2 接合材,3 インサート材,4 アーム固定用ボルト,
5 加圧ボルト,6 押さえ板,7 基盤板,8 アーム,30 金属接合用加圧治具、
a 線膨張差に関わる部位,b インサート材の厚さ,c インサート材が存在する場合の接合材間の距離,d 加圧に伴うアームの変形量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された接合材を接合する金属接合用治具であって、
前記接合材の上下少なくとも一方に積層される圧力調整板と、
前記接合材と前記圧力調整板とを搭載する基盤板と、
前記基盤板に取り付けられ、先端が前記基盤板上の前記接合材と前記圧力調整板の上方に延びるアームと、
前記アームの先端に取り付けられ、前記接合材と前記圧力調整板とを上方から加圧する加圧ボルトと、
を備え、
前記圧力調整板の厚さjは、前記接合材と前記圧力調整板の線膨張の合計量と前記アームの線膨張量とが等しくなるように、下記式(1)で求められる値に設定されることを特徴とする金属接合用治具。

ここで、
X:圧力調整板の線膨張量、
Y: 接合材の線膨張量、
Z:アームの線膨張量、
k:接合材の厚さ、である。
【請求項2】
積層された接合材を接合する金属接合用治具であって、
前記接合材の上下少なくとも一方に積層される圧力調整板と、
前記接合材と前記圧力調整板とを搭載する基盤板と、
前記基盤板に取り付けられ、先端が前記基盤板上の前記接合材と前記圧力調整板の上方に延びるアームと、
前記アームの先端に取り付けられ、前記接合材と前記圧力調整板とを上方から加圧する加圧ボルトと、
を備え、
前記圧力調整板の厚さjは、加熱に伴い前記接合材に加わる加圧力を減少させるために、前記接合材と前記圧力調整板の線膨張の合計量が前記アームの線膨張量より小さくなるように、下記式(2)で求められる値に設定されることを特徴とする金属接合用治具。

ここで、
X:圧力調整板の線膨張量、
Y: 接合材の線膨張量、
Z:アームの線膨張量、
k:接合材の厚さ、である。
【請求項3】
積層した接合材の上下少なくとも一方に圧力調整板を積層し、積層した前記接合材と前記圧力調整板とを基盤板上に載せ、
前記基盤板上の前記接合材と前記圧力調整板とを、前記基盤板に取り付けられ先端が前記接合材と前記圧力調整板の上方に延びたアームに取り付けられた加圧ボルトにより上方から加圧し、
加圧した状態で前記接合材と前記圧力調整板と前記アームとを加熱することで、前記接合材同士を接合する金属接合方法であって、
前記圧力調整板の厚さを調整することで、前記加熱時における前記接合材の圧力変動量を調整することを特徴とする金属接合方法。
【請求項4】
積層した接合材の上下少なくとも一方に圧力調整板を積層し、積層した前記接合材と前記圧力調整板とを基盤板上に載せ、
前記基盤板上の前記接合材と前記圧力調整板とを、前記基盤板に取り付けられ先端が前記接合材と前記圧力調整板の上方に延びたアームに取り付けられた加圧ボルトにより上方から加圧し、
加圧した状態で前記接合材と前記圧力調整板と前記アームとを加熱することで、前記接合材同士を接合する金属接合方法であって、
前記圧力調整板の厚さjは、前記接合材と前記圧力調整板の線膨張の合計量と前記アームの線膨張量とが等しくなるように、下記式(3)で求められる値に設定されていることを特徴とする金属接合方法。

ここで、
X:圧力調整板の線膨張量、
Y: 接合材の線膨張量、
Z:アームの線膨張量、
k:接合材の厚さ、である。
【請求項5】
前記接合材の間にインサート材を挿入した状態で、加圧し、加熱することを特徴とする請求項3、4いずれか記載の金属接合方法。
【請求項6】
請求項1、2いずれか記載の金属接合用治具と、前記金属接合用治具を加熱する加熱炉と、を備えたことを特徴とする金属接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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