説明

金属材料およびその製造方法

【課題】鉄系金属材料に対し、密着性、耐熱性、導電性、耐食性のいずれにも優れる金属材料、およびこれを実現することができる金属材料の製造方法の提供。
【解決手段】鉄系金属材料と、前記鉄系金属材料の表面に形成されている酸化物層とを有し、前記酸化物層が、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)とFeとを酸化物として含む金属材料、およびこれを製造する金属材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厳しい環境下での耐食性、密着性に優れた金属材料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属、特に炭素鋼に代表される鉄系金属材料は、高い強度や硬度が得られ、他の金属より安価であることから最も多く使用されている。
鉄系金属材料は、クロム、ニッケル、コバルトに比較して耐食性、耐熱性が劣るため錆の発生や酸化膜の成長により耐久性に問題が生じやすい。
このため、鉄系金属材料に樹脂塗装やライニングを施したものが使用される場合が多かった。
【0003】
しかし、鉄本来が持つ耐熱性や耐磨耗性、電気伝導性(帯電防止性)などを生かすためには、耐食性や導電性などの課題を解決する必要があった。
【0004】
一方、樹脂塗装やライニングが適さない用途では、クロム、ニッケル、モリブデン等を合金化したステンレス鋼がこれまで多く使用されてきた。
しかしながら、これらの合金の使用は近年、資源価格の高騰により経済的理由から採用が困難な場合が増えている。
【0005】
鉄系金属材料における耐食性、耐熱性、密着性等の問題点を補う従来技術としては、リン酸塩処理のほかクロム酸による処理が有効であった。
しかしながら、近年の世界的な環境規制によりクロム酸は使用が困難な状況となってきている。
【0006】
このような状況に対し、特許文献1には、鉄鋼又は亜鉛鍍金鋼板の燐酸塩処理工程で燐酸塩処理後、シランカップリング剤の溶液に浸漬、もしくは塗布することを特徴とする燐酸塩被膜の後処理方法が記載されている。
また、特許文献2には、鋼板、亜鉛若しくは亜鉛合金メッキ鋼板、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面をリン酸塩水溶液で皮膜化成し、その後電着塗装をするにあたり、皮膜化成後電着塗装前に、Cuイオンを1〜100ppm含有しpHが1〜4である水溶液で処理することを特徴とする金属表面処理方法が記載されている。
また、本願出願人は以前に特許文献3を提案し、特許文献3には、水、(A)Fを4原子以上有し、Ti、Zr、Hf、Si、Al、Bから選ばれる原子を1原子以上有し、選択成分としてイオン化可能な水素原子を1原子以上およびまたは酸素原子を1原子以上有するフルオロ金属酸アニオン、(B)Co,Mg,Mn,Zn,Ni,Sn,Cu,Zr,Fe,Srから選ばれる2価又は4価のカチオン、(C)Pを含有する無機オキシアニオン、ホスフォネイトアニオンの一方あるいは双方、(D)水溶性およびまたは水分散性の有機ポリマーおよびまたはポリマー生成樹脂を含有する事を特徴とする化成皮膜の後処理用組成物が記載されている。
【0007】
しかしながら、上述したいずれの方法においても、リン酸亜鉛処理皮膜の塗装後の耐食性や密着性が改善されるが、皮膜の耐熱性や密着性を実現するものではなかった。
【0008】
また、塗装時の密着性を改善する方法として、特許文献4においては、表面がりん酸塩処理液で処理された金属材料を、一般式(I)により表される1種以上の重合単位を2〜50の平均重合度で含む1種以上のフェノール化合物誘導体からなる成分を含む水溶液で処理し乾燥後、次いで粉体塗装をすることを特徴とする金属材料の塗装方法が提案されている。
しかしながら、塗装下地処理としてリン酸亜鉛処理皮膜を用いている限り、高温焼き付け時のリン酸亜鉛皮膜結晶からの脱水反応による皮膜破壊は避けられず、耐熱性において根本的な原因を解決するには至っていない。
また、特許文献4中に記載はないが、固体潤滑塗装に上記方法を適用した場合には、塗装後の使用環境下において塗膜表面が高面圧、高加重、更には高温下にさらされるため、下地であるリン酸亜鉛皮膜結晶の破壊が起こり、塗膜のはく離が生じることがある。
【0009】
上述したとおり、リン酸亜鉛処理を用いる限り、耐熱性の問題を避けて通ることはできない。
そこで、塗装焼き付けや、塗装後の使用環境において高温下にさらされる場合には、塗装下地としてリン酸鉄皮膜処理が採用されることが多い。リン酸鉄皮膜は非晶質であるため、リン酸亜鉛皮膜と比較すると耐熱性に優れており、広く用いられている。
しかしながら、リン酸鉄皮膜もまた高温での耐熱性や耐酸性が十分ではなく、塗装後の耐食性がリン酸亜鉛皮膜よりも著しく低いため、厳しい腐食環境には耐えられなかった。
【0010】
また、リン酸カルシウム皮膜結晶も、リン酸亜鉛皮膜結晶よりも耐熱性に優れ、リン酸マンガン皮膜結晶は機械的強度に優れる特性を持っている。
しかしながら、いずれの処理方法も塗装下地処理用のリン酸亜鉛処理と比較すると耐食性に劣り、密着性に関しても改良の余地を残している。また皮膜も導電性に劣り、電池、電気部品や帯電防止を要求される用途では使用できなかった。
【0011】
このように、下地金属と異なる種類の金属酸化物を高温環境下など厳しい環境下でも耐食性、密着性が良く、導電性も併せ持つ皮膜を形成した実用性のある金属材料とその製造方法はこれまで見出されていない。
【0012】
一方、酸化ジルコニウムや酸化チタンなどの特定の金属酸化物は耐熱性や耐薬品性が非常に優れている。
本願出願人は以前Ti、Zr、Hf及びSiから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物、およびAg、Al、Cu、Fe、Mn、Mg、Ni、Co及びZnから選ばれる元素の少なくとも1種を含む化合物などを含有する金属の表面処理用組成物を提案している(特許文献5、6参照)。
【0013】
【特許文献1】特開昭52−80239号公報
【特許文献2】特開平7−150393号公報
【特許文献3】特開平11−6077号公報
【特許文献4】特開2001−9365号公報
【特許文献5】国際公開第2002/103080号パンフレット
【特許文献6】特開2005−264230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本願発明者は、研究を進める中で、Ti、Zr、Hf及びSiから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物、およびAg、Al、Cu、Fe、Mn、Mg、Ni、Co及びZnから選ばれる元素の少なくとも1種を含む化合物などを含有する金属の表面処理用組成物について、鉄などの下地金属と、その表面に形成されたZrO2等の異種金属酸化物膜との密着性は必ずしも十分ではないことを見出した。この原因としては金属基材と異種金属酸化物との原子の整合性が良くないためと考えられる。
したがって、本発明は、上記従来技術の問題を解決すること、即ち、鉄系金属材料に対し、密着性、耐熱性、導電性、耐食性のいずれにも優れる金属材料、およびこれを実現することができる金属材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そして、本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究の結果、鉄系金属材料と、前記鉄系金属材料の表面に無機皮膜として形成されている酸化物層とを有し、前記酸化物層が、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)とFeとを酸化物として含む金属材料が、密着性、耐熱性、導電性、耐食性のいずれにも優れることを見出した。
また、本願発明者は、上記の金属材料を製造することができる金属材料の製造方法を見出し、本願発明を完成させた。
【0016】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(17)を提供する。
(1) 鉄系金属材料と、前記鉄系金属材料の表面に形成されている酸化物層とを有し、
前記酸化物層が、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)とFeとを酸化物として含む金属材料。
(2) 前記酸化物層が、
Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)の金属(A)酸化物を少なくとも含む上層と、
鉄酸化物を少なくとも含む下層とを有する上記(1)に記載の金属材料。
(3) 前記酸化物が、γ−Fe23、α−Fe23およびFe34からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化鉄を含む上記(1)または(2)に記載の金属材料。
(4) 前記酸化物層が、前記Feを2〜30原子パーセント含む上記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属材料。
(5) 前記下層の厚さが、0.02〜0.5μmである上記(2)〜(4)のいずれかに記載の金属材料。
(6) 前記酸化物層中に含まれる前記金属(A)の量が、AO2換算の合計として、10〜1,000mg/m2である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の金属材料。
(7) 前記酸化物層は、その接触抵抗が200Ω以下である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の金属材料。
(8) 前記酸化物層の上に、さらに、セラミックまたは樹脂を用いて形成される被覆層を有する上記(1)〜(7)のいずれかに記載の金属材料。
(9) 鉄系金属材料の表面に、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)の金属(A)酸化物またはその前駆体を塗布または電析して、前記鉄系金属材料を金属(A)酸化物の皮膜を有する鉄系金属材料とする金属(A)酸化物付着工程と、
前記金属(A)酸化物の皮膜を有する鉄系金属材料を加熱して上記(1)〜(8)のいずれかに記載の金属材料を製造する酸化処理工程とを有することを特徴とする金属材料の製造方法。
(10) 前記酸化処理工程の後、さらに、前記金属材料が有する酸化物層の上にセラミックまたは樹脂を付与する被覆工程を有する上記(9)に記載の金属材料の製造方法。
(11) 鉄系金属材料を、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)の金属(A)イオンと、30ppm以上のFeイオンと、酸化剤イオンとを含む酸性水溶液に接触させることによって上記(1)〜(8)のいずれかに記載の金属材料を製造する化成処理工程を有することを特徴とする金属材料の製造方法。
(12) 前記酸性水溶液が、さらに、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)のアモルファス水酸化物を含む上記(11)記載の金属材料の製造方法。
(13) 前記化成処理工程の後、さらに金属材料を加熱する酸化処理工程を有する上記(11)または(12)に記載の金属材料の製造方法。
(14) 前記酸化処理工程の後、さらに、前記金属材料が有する酸化物層の上にセラミックまたは樹脂の被覆層を付与する被覆工程を有する上記(13)に記載の金属材料の製造方法。
(15) 前記酸性水溶液が、さらに、フッ素を含む上記(11)〜(14)のいずれかに記載の金属材料の製造方法。
(16) 前記酸性水溶液が、さらに、水溶性有機化合物を含む上記(11)〜(15)のいずれかに記載の金属材料の製造方法。
(17) 前記鉄系金属材料が、ステンレス鋼である上記(9)〜(16)のいずれかに記載の金属材料の製造方法。
【0017】
また、本願発明者は、鉄系金属材料と、前記鉄系金属材料の表面に形成されている酸化物層とを有し、前記酸化物層が、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)とFeとを酸化物として含む金属材料が、接着剤、プライマー、塗料との密着性に優れることを見出した。
【発明の効果】
【0018】
本発明の金属材料は、密着性、耐食性、耐熱性、導電性に優れる。
本発明の金属材料の製造方法によれば、密着性、耐食性、耐熱性、導電性に優れる金属材料を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。
まず本発明の金属材料について説明する。
本発明の金属材料は、
鉄系金属材料と、前記鉄系金属材料の表面に形成されている酸化物層とを有し、
前記酸化物層が、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)とFeとを酸化物として含む金属材料である。
【0020】
鉄系金属材料について以下に説明する。
本発明の金属材料に使用される鉄系金属材料は、鉄を含有するものであれば特に制限されない。
鉄系金属材料としては、例えば、純鉄、炭素鋼、鋳鉄、合金鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。
なかでも、耐熱性に優れるという観点から、ステンレス鋼が好ましく、フェライト系ステンレス鋼がより好ましい。
鉄系金属材料の形態としては、例えば、冷間圧延鋼板、熱間圧延鋼板等の鋼板;棒綱、形綱、綱帯、鋼管、線材、鋳鍛造品、軸受綱等が挙げられる。
【0021】
本発明において鉄系金属材料として鉄系金属材料を表面処理したものを使用することができる。
鉄系金属材料を表面処理する方法は特に制限されない。例えば、酸化物層を形成する工程の前工程において、鉄系金属材料をアルカリ脱脂液で脱脂し、水洗する前処理;鉄系金属材料をエッチング液で表面粗化処理を行ったのち、皮膜剥離する前処理;リン酸マンガン系表面処理剤のようなリン酸塩で皮膜化成処理したのち、皮膜剥離して表面粗化処理する前処理を行うことができる。
【0022】
また、酸化物層を形成する工程の前工程として、物理的または化学的方法によって鉄系金属材料を表面粗化する工程をさらに加えることにより密着性を高めることもできる。物理的な表面粗化の方法としては、サンドブラスト、ショットブラスト、ウエットブラスト、電磁バレル研磨、WPC処理などがあり、何れも使用できる。衝撃に弱い部材や量産性を高めるためには、化学的方法によることが好ましく、リン酸塩や蓚酸塩などの多結晶皮膜を化成処理や陽極電解によって形成し、塩酸、硝酸等の剥離液で皮膜剥離する方法が好ましい。この場合の皮膜形成には、亜鉛イオン、マンガンイオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、カルシウムイオン等の金属イオンと、りん酸イオンを含有し、かつ水溶液のpHを1〜5の範囲に調整したものを皮膜処理液として40〜100℃で処理して皮膜とエッチング孔を形成し、次いで前記酸溶液で剥離する方法が表面粗化するのがより好ましい。鉄系金属材料(基材)がステンレス鋼の場合は、塩化第二鉄や蓚酸を含む溶液で処理したのち酸で皮膜やスマットを除去することが好ましい。
鉄系金属材料はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
酸化物層について以下に説明する。
本発明の金属材料が有する酸化物層は、鉄系金属材料の表面に形成され、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)とFeとを酸化物として含むものである。
【0024】
本発明の金属材料が有する酸化物層は、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)とFeとを酸化物として含むものであれば特に制限されない。
本発明において、酸化物は、酸化金属の他に、水酸化物、複合酸化物を含むものとする。
酸化物層が、例えば、(1)Zr、TiおよびHfの中から選ばれる少なくとも1種の金属(A)と、Feとを含み、金属(A)とFeとが酸化物として(例えば、複合酸化物、酸化金属および水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種として)実質的に同一層内に共存している場合、(2)Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)の金属(A)酸化物を少なくとも含む上層と、鉄酸化物を少なくとも含む下層とを有する場合が挙げられる。
酸化物層が上層と下層とを有する場合、上層は実質的にFeを含まないようにすることができる。
【0025】
酸化物としてのFeについて以下に説明する。
本発明の金属材料において、酸化物層は、酸化物としてのFeを含むことが必要である。
本発明において、酸化物としてのFe(以下これを「鉄酸化物」ともいう。)は、酸化鉄のほか、水酸化物、Zr、TiおよびHfの中から選ばれる少なくとも1種の金属(A)との複合酸化物を含むものとする。
Feは、酸化物層中において、化学的安定性に優れるという観点から、2価または3価のFeとして存在することが好ましい。
【0026】
鉄酸化物としては、FeO、Fe23、γ−Fe23、α−Fe23、Fe3O4のような酸化鉄;Fe(OH)2、Fe(OH)3のようなFe水酸化物;FeTiO3、FeZrO3、FeHfO3のようなZr、TiおよびHfの中から選ばれる少なくとも1種の金属(A)との複合酸化物が挙げられる。
【0027】
Feは、耐熱性、密着性、導電性により優れるという観点から、酸化鉄であるのが好ましく、γ−Fe23、α−Fe23、Fe34がより好ましい。
鉄酸化物は金属(A)酸化物結晶の結晶変態を防止して高温安定性、密着性を高め、耐熱性を付与するとともに、皮膜に導電性を与え、接触抵抗も低減させる効果を持つ。皮膜への導電性の付与は、接合相手材との間で電子伝導性を高めることにより静電気のアース性の向上や電池、燃料電池部材として使用した場合の通電性能を高める効果があるためより好ましい。
【0028】
酸化物としての金属(A)について以下に説明する。
本発明の金属材料において、酸化物層は、酸化物としての、Zr、TiおよびHfの中から選ばれる少なくとも1種の金属(A)を含む。
本発明において、酸化物としての、Zr、TiおよびHfの中から選ばれる少なくとも1種の金属(A)は、酸化金属(A)のほかに、水酸化物、Feとの複合酸化物を含むものとする。
酸化物としての金属(A)を以下「金属(A)酸化物」ということがある。
Zr、TiおよびHfの中から選ばれる少なくとも1種の金属(A)は、なかでも、導電性に優れるという観点から、Tiが好ましい。
【0029】
Zr、TiおよびHfの中から選ばれる少なくとも1種の金属(A)の金属(A)酸化物としては、TiO2、ZrO2、HfO2のような酸化金属(A);Ti(OH)2、Zr(OH)2、Hf(OH)2のような金属(A)の水酸化物;Feとの複合酸化物が挙げられる。Feとの複合酸化物の具体例は上記と同義である。
【0030】
酸化物層における組成としては、例えば、Zr(OH)4、Ti(OH)4またはHf(OH)4などとFe(OH)3などとの混合水酸化物;FeTiO3、FeZrO3などの結晶性複合酸化物;ZrO2、TiO2またはHfO2などとFe2O3またはFe3O4などとの混合酸化物;およびこれらの組合せが挙げられる。
【0031】
酸化物層は、密着性、耐熱性により優れるという観点から、緻密な結晶質であることが好ましい。
酸化物層において、密着性、耐熱性により優れるという観点から、酸化物または複合酸化物が、結晶性酸化物を含むのが好ましく、結晶性鉄酸化物であるのがより好ましい。
結晶性鉄酸化物としては、例えば、γ-Fe2O3、α−Fe23、Fe3O4が挙げられる。
鉄酸化物は、耐食性、耐熱性を向上させるとともに鉄系金属材料(鉄基材)と酸化物との結晶格子の整合性に優れるため鉄系金属材料との密着性に優れる。
また、鉄酸化物は、微細な凹凸を形成するため、投錨効果により金属(A)酸化物との接着性も優れたものとなる。
【0032】
酸化物層は、アモルファス成分を含むことができる。酸化物層における、アモルファス成分や水酸化物は、本発明の金属材料を製造する際における酸化処理工程や使用環境下で加熱されることによりしだいに結晶化が進行し、緻密化するため好ましい。
【0033】
なかでも、密着性、耐熱性、導電性により優れ、接着剤やプライマーとの密着性に優れるという観点から、酸化物層がFeを2〜30原子パーセント含むのが好ましく、3〜10原子パーセント含むのがより好ましい。
Feの量が30原子パーセント以内である場合、耐薬品性に優れる。
酸化物層中のFe含有率はXPS(X線光電子分光)による表面分析によって皮膜の深さごとに測定することができる。
【0034】
酸化物層の厚さは、密着性、耐熱性、導電性により優れ、接着剤やプライマーとの密着性に優れるという観点から、0.02〜2μmであるのが好ましく、0.05〜1μmであるのがより好ましい。
なお、本発明において、酸化物層の厚さは酸化物層の厚さの平均値とする。
本発明では、酸化物層の厚さ(平均値)は、金属材料の断面を透過型電子顕微鏡を用いて撮影し、撮影された写真において、鉄系金属材料の表面上で0.1μmごとの間隔を有する10箇所で酸化物層の厚さを測定し、10箇所の測定値の平均として得られた値である。
【0035】
また、密着性、耐熱性、導電性により優れ、接着剤やプライマーとの密着性に優れるという観点から、酸化物層の表面から深さ0.01μmの部分におけるFeの量が1〜5原子パーセントであるのが好ましく、2〜4原子パーセントであるのがより好ましい。
【0036】
本発明の金属材料において、酸化物層は、密着性、耐熱性、導電性により優れ、接着剤やプライマーとの密着性に優れるという観点から、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)の金属(A)酸化物を少なくとも含む上層と、鉄酸化物を少なくとも含む下層とを有するのが好ましい。
なおこの場合下層は上層と鉄系金属材料との間に位置する。
【0037】
酸化物層が有する上層は、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)の金属(A)酸化物を少なくとも含むものであれば特に制限されない。
金属(A)酸化物は上記と同義である。
金属(A)酸化物はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
上層の厚さは、密着性、耐熱性、導電性により優れ、接着剤やプライマーとの密着性に優れるという観点から、0.02〜2μmであるのが好ましく、0.05〜1μmであるのがより好ましい。
なお、本発明において、上層の厚さは上層の厚さの平均値とする。
本発明では、上層の厚さ(平均値)は、金属材料の断面を透過型電子顕微鏡を用いて撮影し、撮影された写真において、鉄系金属材料の表面上で0.1μmごとの間隔を有する10箇所で上層の厚さを測定し、10箇所の測定値の平均として得られた値である。
下層の厚さ(平均値)の測定方法は上層と同様である。
【0039】
酸化物層が有する下層は鉄酸化物を少なくとも含むものであれば特に制限されない。
下層に含まれる鉄酸化物によってさらに耐食性、密着性を向上させることができる。
鉄酸化物は上記と同義である。
【0040】
下層(鉄酸化物層)は、密着性、耐熱性、導電性により優れるという観点から、結晶性の鉄酸化物であることが好ましい。酸化物層(酸化物皮膜)の結晶性や構造は断面TEMやX線回折法によって判断できる。
結晶性の鉄酸化物の種類は特に限定されず、他の金属を含む複合酸化物であってもかまわない。
なかでも、密着性、耐熱性、導電性により優れるという観点から、γ-Fe2O3、α−Fe23、Fe3O4などが好ましい。
鉄酸化物は、耐食性、耐熱性を向上させるとともに鉄系金属材料(鉄基材)と酸化物との結晶格子の整合性に優れるため鉄系金属材料との密着性に優れる。
また、結晶性の鉄酸化物は、鉄系金属材料の表面で微細な凹凸を形成するため、投錨効果により金属(A)酸化物との接着性も優れたものとなる。
鉄酸化物はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
下層は、単層または2層以上とすることができる。
【0041】
酸化物層が上層および下層を有する場合、密着性、耐熱性、導電性により優れ、接着剤やプライマーとの密着性に優れるという観点から、下層におけるFeの量が2〜30原子パーセントであるのが好ましく、3〜10原子パーセントであるのがより好ましい。
【0042】
酸化物層が上層および下層を有する場合、密着性、耐熱性、導電性により優れ、接着剤やプライマーとの密着性に優れるという観点から、酸化物層の表面から深さ0.01μmの部分におけるFeの量が1〜5原子パーセントであるのが好ましく、2〜4原子パーセントであるのがより好ましい。
【0043】
下層の厚さは、密着性、耐熱性、導電性により優れ、接着剤やプライマーとの密着性に優れるという観点から、0.02〜0.5μmであるのが好ましく、0.05〜0.3μmであるのがより好ましい。
なお、本発明において、下層の厚さは下層の厚さの平均値とする。
【0044】
本発明の金属材料において、酸化物層中に含まれる金属(A)の量は、耐食性、耐熱性、密着性、導電性により優れ、皮膜の強度が高いという観点から、AO2換算の合計として、10〜1,000mg/m2であるのが好ましく、30〜300mg/m2であるのがより好ましい。
金属(A)の付着量が、AO2換算の合計として10mg/m2以上の場合、耐食性、耐熱性により優れる。また。概ね1000mg/m2以下の場合、皮膜に亀裂がはいりにくく皮膜の強度が高い。
【0045】
本発明の金属材料において、酸化物層中に鉄酸化物が存在することによって、耐熱性、密着性に優れ、電気伝導性が高くなる。
【0046】
本発明の金属材料において、鉄酸化物は、耐熱性、密着性、導電性により優れるという観点から、鉄系金属材料(基材金属)と上層(金属(A)の酸化物層)との中間にγ-Fe2O3、α−Fe23、Fe3O4などの結晶性鉄酸化物として存在することが好ましい。
鉄酸化物の存在は、X線回折や、透過型電子顕微鏡、GDS等によって確認することができる。
【0047】
本発明の金属材料において、酸化物層は、その接触抵抗が200Ω以下であるのが好ましい。
酸化物層が鉄酸化物を含有し、金属(A)の付着量が、AO2換算の合計として概ね1000mg/m2以下である場合、ほぼ200Ω以下の低い接触抵抗値を得ることができる。
接触抵抗値は、JIS K 7194:1994準拠の市販の表面抵抗計(例えば三菱化学社製MCP−T360型[2点式])を使用して測定することができる。
接触抵抗が低いことにより、電池接点、燃料電池材料などの通電部材や、潤滑塗装下地や各種機械、自動車などの帯電防止が求められる部材に使用することもできる。
【0048】
本発明の金属材料は、酸化物層の上に、さらに、セラミックまたは樹脂を用いて形成される被覆層を有することができる。
酸化物層の表面に、セラミックまたは樹脂の被覆層を設けることにより、さらに耐食性を高めたり、他の部材と接合する場合の密着性を高めることが可能である。
【0049】
セラミックまたは樹脂の被覆層の形成は、有機または無機の皮膜成分を含む液体またはペースト状の硬化性プライマーや接着剤の塗布によって行われるのが好ましい。
有機系材料としては、有機系樹脂、エラストマーが好ましく、これらにシランカップリング剤を含むものも好ましい。
有機系樹脂、エラストマーとしては特に限定されない。例えば、ゴム、合成ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ABS樹脂、メラミン樹脂、PPS樹脂、PEEK樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、導電性ポリマー等が挙げられる。
なかでも、耐熱性および密着性により優れるという観点から、エポキシ樹脂系、フェノール樹脂系、ポリイミド樹脂系、ポリアミド樹脂系、シリコーン樹脂系が好ましい。
【0050】
有機系材料が含有することができるシランカップリング剤としては、例えば、官能基として、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、メルカプト基のうち何れかを持つものが好ましく、これらのモノマーを重合したものや前記樹脂に配合したものを使用することもできる。
【0051】
無機系プライマー、接着剤としては、例えば、金属アルコキシド系(ゾル−ゲル系)、水ガラス系、リン酸塩系、ペルオキソ化合物系、ポリシラザン系などが使用でき、Zr、Ti、Al、Si、Bの何れかを成分中に含むものがより好ましい。
【0052】
セラミックまたは樹脂の被覆層は、導電性により優れるという観点から、さらに導電性粒子を含むことが好ましい。
導電性粒子としては、例えば、ニッケル、ステンレス、アンチモン、亜鉛、アルミ、グラファイト粒子、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、酸化亜鉛、酸化すず、ITO、ランタンクロマイトなどが好ましい。
【0053】
本発明の金属材料はその製造について特に制限されない。
例えば、下記(1)〜(3)に示す皮膜形成方法によって製造することができる。
(1) 鉄系金属材料表面にZr、TiおよびHfの中から選ばれる少なくとも1種の金属(A)酸化物またはその前駆体を塗布した後、乾燥後に酸化処理する、塗布法+酸化処理法、
(2) 金属(A)酸化物分散液やその前駆体溶液中で電解処理を行う電解法、
(3) 金属(A)イオンと、Feイオンと、酸化剤イオンとを含む酸性水溶液に鉄系金属材料を接触、反応させることにより皮膜を析出形成する反応法(化成処理法)
が挙げられる。
(3)化成処理法は、さらに水洗、乾燥後に金属材料を酸化雰囲気中で加熱するなどの酸化処理を行うことが好ましい。
【0054】
本発明の金属材料において酸化物層が上層と下層(鉄酸化物層)とを有する場合、その製造方法としては、例えば、化成処理法;皮膜形成後に加熱酸化などの後酸化処理をする酸化処理法が挙げられる。これらの処理により、耐食性、密着性、導電性および耐熱性に優れる金属材料を製造することができる。
具体的には、例えば、下記(1)〜(4)に示す皮膜形成方法によって製造することができる。
(1) 鉄系金属材料表面にZr、TiおよびHfの中から選ばれる少なくとも1種の金属(A)酸化物またはその前駆体を塗布した後、乾燥後に酸化処理する、塗布法+酸化処理法、
(2) 金属(A)酸化物分散液やその前駆体溶液中で電解処理をした後、乾燥後に酸化処理する、電解法+酸化処理法、
(3) 金属(A)イオンと、Feイオンと、酸化剤イオンとを含む酸性水溶液に鉄系金属材料を接触、反応させることにより皮膜を析出形成する反応法(化成処理法)、
(4) (3)化成処理法の後、さらに水洗、乾燥後に酸化雰囲気中で加熱するなどの酸化処理を行う、化成処理法+酸化処理法
が挙げられる。
【0055】
なお酸化処理法は、塗布法、電解法、化成処理法の前に行うことができる。
酸化処理法としては、例えば、空気雰囲気中で200℃以上の高温で加熱する方法、酸化剤を含む強アルカリ性水溶液中で加熱する方法、酸化性溶融塩浴で400℃以上で処理する方法が挙げられる。
酸化処理法を使用する場合、効率的に鉄系金属材料の上に鉄酸化物を含む層を形成することができる。
【0056】
本発明の金属材料が被覆層を有する場合、その製造について特に制限されない。例えば、金属材料の酸化物層の上にプライマー、硬化性プライマーおよび接着剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を塗布し、加熱硬化させて被覆層を形成し、被覆層(プライマー、硬化性プライマーや接着剤の層)と酸化物層とを密着させる方法が挙げられる。
【0057】
本発明の金属材料の使用方法については特に制限されない。本発明の金属材料に対して、例えば、高耐食塗装、潤滑塗装、ライニング、セラミックコーティング、樹脂塗装を施すことができる。
本発明の金属材料は有機/無機密着下地としても優れた性能と耐久性を発揮することができるため、その実用的価値は高い。
【0058】
本発明の金属材料は、その用途について特に制限されない。
本発明の金属材料は、従来よりも厳しい環境下でも鉄系金属材料の耐食性、密着性および導電性を保持することができる。
本発明の金属材料の用途としては、例えば、産業機械、輸送機械や搬送装置などの摺動部材や耐熱部材;電池接点等の電池部材、セパレータ、集電体、電極のような燃料電池部材、燃料電池材料などの通電部材;潤滑塗装下地や各種機械、自動車などの帯電防止が求められる部材が挙げられる。燃料電池としては例えば自動車用、家庭用、業務用、定置用、携帯機器用が挙げられる。
【0059】
本発明の金属材料が有する酸化物層は、酸やアルカリに侵されにくく、化学的に安定な性質を有している。
実際の金属の腐食環境では、金属の溶出が起こるアノード部ではpHの低下が、また、還元反応が起こるカソード部ではpHの上昇が起こる。したがって、耐酸性および耐アルカリ性に劣る表面処理皮膜は、腐食環境下で溶解しその効果が失われていく。
これに対して、本発明の金属材料が有する酸化物層は、酸やアルカリに侵されにくいため、腐食環境下においても優れた効果が持続する。
【0060】
次に本発明の金属材料の製造方法について説明する。
本発明の金属材料の製造方法は、
鉄系金属材料の表面に、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)の金属(A)酸化物またはその前駆体を塗布または電析して、前記鉄系金属材料を金属(A)酸化物の皮膜を有する鉄系金属材料とする金属(A)酸化物付着工程と、
前記金属(A)酸化物の皮膜を有する鉄系金属材料を加熱して本発明の金属材料を製造する酸化処理工程とを有するものである。
以下これを「本発明の第1の態様の金属材料の製造方法」ということがある。
【0061】
金属(A)酸化物付着工程について以下に説明する。
本発明の第1の態様の金属材料の製造方法において、金属(A)酸化物付着工程は、鉄系金属材料の表面に、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)の金属(A)酸化物またはその前駆体を塗布または電析して、前記鉄系金属材料を金属(A)酸化物の皮膜を有する鉄系金属材料とする工程である。
【0062】
金属(A)酸化物付着工程において使用される鉄系金属材料は特に制限されない。例えば、上記と同義のものが挙げられる。
なかでも耐食性に優れるという観点から、鉄系金属材料がステンレス鋼であるのが好ましい。
【0063】
鉄系金属材料について、酸化物層を形成する工程の前に前工程において、例えば、鉄系金属材料をアルカリ脱脂液で脱脂し、水洗する前処理;鉄系金属材料をエッチング液で表面粗化処理を行ったのち、皮膜剥離する前処理;リン酸マンガン系表面処理剤のようなリン酸塩で皮膜化成処理したのち、皮膜剥離して表面粗化処理する前処理を行うことができる。
【0064】
また、酸化物層を形成する工程の前工程として、物理的または化学的方法によって鉄系金属材料を表面粗化する工程をさらに加えることにより密着性を高めることもできる。物理的な表面粗化の方法としては、サンドブラスト、ショットブラスト、ウエットブラスト、電磁バレル研磨、WPC処理などがあり、何れも使用できる。衝撃に弱い部材や量産性を高めるためには、化学的方法によることが好ましく、リン酸塩や蓚酸塩などの多結晶皮膜を化成処理や陽極電解によって形成し、塩酸、硝酸等の剥離液で皮膜剥離する方法が好ましい。この場合の皮膜形成には、亜鉛イオン、マンガンイオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、カルシウムイオン等の金属イオンと、りん酸イオンを含有し、かつ水溶液のpHを1〜5の範囲に調整したものを皮膜処理液として40〜100℃で処理して皮膜とエッチング孔を形成し、次いで前記酸溶液で剥離する方法で表面粗化するのがより好ましい。鉄系金属材料(基材)がステンレス鋼の場合は、塩化第二鉄や蓚酸を含む溶液で処理したのち酸で皮膜やスマットを除去することが好ましい。
【0065】
金属(A)酸化物付着工程において使用される、Zr、TiおよびHfの中から選ばれる少なくとも1種の金属(A)の金属(A)酸化物としては、例えば、TiO2、ZrO2、HfO2のような酸化金属(A);Ti(OH)2、Zr(OH)2、Hf(OH)2のような金属(A)の水酸化物;Feとの複合酸化物が挙げられる。Feとの複合酸化物の具体例は上記と同義である。
金属(A)酸化物としては、例えば、結晶性ゾル、アモルファスゾルなどが使用できる。その粒子径は1〜200nmが好ましい。
【0066】
金属(A)酸化物付着工程において使用される、Zr、TiおよびHfの中から選ばれる少なくとも1種の金属(A)の金属(A)酸化物の前駆体としては特に限定されない。
金属(A)酸化物の前駆体(金属化合物原料)として、例えば、金属(A)のアルコキシド、塩化物、硝酸塩、フッ化物などの無機化合物;シュウ酸、酢酸、クエン酸、マレイン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、グルコン酸、β-ジケトンなどのキレートや有機塩類、過酸化水素錯体などが好ましい。より好ましい例としては塩基性炭酸ジルコニウム溶液、ペルオキソチタン酸溶液、Zr−Hfアルコキシド加水分解物アルコール溶液などが挙げられる。
【0067】
金属(A)酸化物付着工程において使用される、金属(A)酸化物またはその前駆体は酸性水溶液として使用することができる。
【0068】
金属(A)酸化物付着工程において、鉄系金属材料の表面に金属(A)酸化物またはその前駆体を塗布する方法は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。具体的にはディッピング法、スピンコーティング法が挙げられる。
【0069】
金属(A)酸化物付着工程において、鉄系金属材料の表面に金属(A)酸化物またはその前駆体を電析させる方法は特に制限されない。
電析において数V〜数十V程度の電圧の電解によって金属(A)酸化物またはその前駆体を酸化物として鉄系金属材料の表面に析出させることができる。
電解析出させる場合は、金属(A)酸化物またはその前駆体や金属(A)酸化物またはその前駆体のゾルを含有する溶液(例えば、水溶液)を必要に応じて希釈して電解槽にいれ、不溶解または溶解性の対極を設置して電解処理を行うことによって、金属(A)酸化物またはその前駆体を酸化物として鉄系金属材料の表面に電析(電解析出)させることができる。
電析は、金属(A)濃度が0.1〜5%の濃度で、10〜70℃の温度で、電流密度が0.02〜5A/dm2の範囲で行うことが好ましい。
電析において陽極電解を利用する場合、鉄系金属材料(基材)中のFeを鉄酸化物として金属(A)酸化物皮膜中に導入したり、下層(鉄酸化物層)の形成を促進して密着性をより高める効果があるため陰極電解よりも好ましい。
【0070】
金属(A)酸化物付着工程において鉄系金属材料を金属(A)酸化物の皮膜を有する鉄系金属材料とすることができる。
【0071】
酸化処理工程について以下に説明する。
本発明の第1の態様の金属材料の製造方法が有する酸化処理工程は、金属(A)酸化物の皮膜を有する鉄系金属材料を加熱して本発明の金属材料を製造するものである。
【0072】
酸化処理工程における加熱温度は、100〜700℃であるのが好ましく、200〜500℃であるのがより好ましい。加熱乾燥させることにより金属(A)酸化物をTiO2、ZrO2、HfO2のような酸化金属(A)とすることができる。
【0073】
また、酸化処理工程により、鉄系金属材料(基材金属)表面からFeイオンが酸化物層中に拡散し、鉄系金属材料(基材金属)と金属(A)酸化物の皮膜との界面に鉄酸化物層が形成されてさらに耐食性、密着性が向上する。
この場合、酸化物層は、金属(A)酸化物を含む上層と鉄酸化物とを含む下層が存在する複層構造の酸化物層となりやすい。
下層を形成するために使用することができる酸化処理方法は特に限定されない。例えば、金属(A)酸化物の皮膜の形成後に、空気中で200℃以上の高温で加熱する方法、酸化剤を含む100℃以上の強アルカリ性水溶液中で加熱する方法、酸化性溶融塩浴で400℃以上で処理する方法が挙げられる。
【0074】
酸化処理工程により、耐食性、密着性および耐熱性をさらに向上させることができる。
酸化処理工程によって得られる鉄酸化物の種類は特に限定されない。例えば、γ-Fe2O3、α−Fe23、Fe3O4のような酸化鉄が好ましい。
酸化処理工程において、本発明の金属材料を得ることができる。
得られた金属材料の表面は、必要に応じて、あらかじめ脱脂処理し清浄化することができる。その方法は、特に限定されず、常法を用いることができる。
【0075】
本発明の第1の態様の金属材料の製造方法は、酸化処理工程の後、さらに、前記金属材料が有する酸化物層の上にセラミックまたは樹脂を付与する被覆工程を有することができる。
被覆工程において使用されるセラミックまたは樹脂は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
被覆工程において、金属材料の酸化物層の上にセラミックまたは樹脂を塗布し、例えば、150〜500℃に加熱してセラミックまたは樹脂を硬化させて被覆層を形成することができる。
被覆工程において、被覆層(プライマー、硬化性プライマーや接着剤の層)と酸化物層とを密着させ、酸化物層の上にさらにセラミックまたは樹脂を用いて形成される被覆層を有する金属材料を得ることができる。
【0076】
次に、本発明の第2の態様の金属材料の製造方法について以下に説明する。
本発明の第2の態様の金属材料の製造方法は、
鉄系金属材料を、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)の金属(A)イオンと、30ppm以上のFeイオンと、酸化剤イオンとを含む酸性水溶液に接触させることによって本発明の金属材料を製造する化成処理工程を有するものである。
【0077】
本発明の第2の態様の金属材料の製造方法が有する化成処理工程において、使用される鉄系金属材料は特に制限されない。例えば、本発明の第1の態様の金属材料の製造方法において使用される鉄系金属材料と同義のものが挙げられる。また、鉄系金属材料として前処理をしたものを使用することができる。
【0078】
本発明の第2の態様の金属材料の製造方法が有する化成処理工程において、使用される酸性水溶液は、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)の金属(A)イオンと、30ppm以上のFeイオンと、酸化剤イオンとを含む。
酸性水溶液に含まれるZrイオンの供給源は、可溶性のジルコニウム化合物、または、何らかの酸成分を加えることによって水溶化が可能なジルコニウム化合物であれば特に限定されない。例えば、ZrCl4、ZrOCl2、Zr(SO42、ZrOSO4、Zr(NO34、ZrO(NO32、H2ZrF6、H2ZrF6の塩、ZrO2、ZrOBr2、ZrF4が挙げられる。
【0079】
酸性水溶液に含まれるTiイオンの供給源は、可溶性のチタン化合物、または、何らかの酸成分を加えることによって水溶化が可能なチタン化合物であれば特に限定されない。例えば、TiCl4、Ti(SO42、TiOSO4、Ti(NO3)、TiO(NO32、TiO2OC24、H2TiF6、H2TiF6の塩、TiO2、TiF4が挙げられる。
【0080】
酸性水溶液に含まれるHfイオンの供給源は、可溶性のハフニウム化合物、または、何らかの酸成分を加えることによって水溶化が可能なハフニウム化合物であれば特に限定されない。例えば、HfCl4、Hf(SO42、Hf(NO3)、HfO2OC24、H2HfF6、H2HfF6の塩、HfO2、HfF4が挙げられる。
【0081】
酸性水溶液におけるZr、Ti、およびHfから選ばれる少なくとも1種の金属元素(A)の合計濃度は、5〜5000ppm、好ましくは10〜3000ppmである。
【0082】
酸性水溶液に含まれるFeイオンの供給源としては、例えば、硝酸第二鉄、フッ化鉄、くえん酸鉄、シュウ酸鉄が挙げられる。
酸性水溶液におけるFeイオンの濃度は、密着性、導電性、耐熱性に優れるという観点から、30ppm以上である。
また、酸性水溶液におけるFeイオンの濃度が30ppm以上である場合、耐熱密着性に優れる。
また、酸性水溶液におけるFeイオンの濃度は、密着性、耐熱密着性により優れるという観点から、30〜300ppmであるのが好ましく、40〜150ppmであるのがより好ましい。
【0083】
本発明の第2の態様の金属材料の製造方法において、密着性、耐熱性、耐食性、導電性により優れるという観点から、酸性水溶液が、さらに、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)のアモルファス水酸化物を含むことが好ましい。
金属(A)のアモルファス水酸化物は、非晶質であれば特に制限されない。
金属(A)のアモルファス水酸化物としては、例えば、Ti(OH)2、Zr(OH)2、Hf(OH)2が挙げられる。
金属(A)のアモルファス水酸化物は金属(A)の析出速度を増加させ、耐食性に優れるという観点から、その形状が粒子状であるのが好ましい。
【0084】
金属(A)の水酸化物粒子が液中に存在することにより酸性水溶液(処理液)は常にこれらの金属水酸化物が飽和に近い状態に保たれ、最も酸化物層(皮膜)形成が効率良く安定して行われる状態に保つことができる。酸性水溶液(処理液)中のアモルファス水酸化物粒子はpHの変動や温度、フッ素イオン濃度の変動に対して溶解したり析出したりを可逆的に繰り返すことができるため、処理浴を安定に管理することができる。
アモルファス水酸化物粒子が浴中に全く存在しない状態で処理を行う場合、成膜や析出量が不安定となり、全く析出しない不具合が起こりうる可能性がある。
酸性水溶液(酸性溶液)中に存在する金属(A)のアモルファス水酸化物はその量やサイズは特に限定されない。
金属(A)のアモルファス水酸化物の粒子径は、密着性、耐熱性、導電性、耐食性により優れるという観点から、0.02〜10μm程度が好ましい。
金属(A)のアモルファス水酸化物の粒子の個数は密着性、耐熱性、導電性、耐食性により優れるという観点から、100個/mL以上が好ましい。
金属(A)のアモルファス水酸化物が被処理金属材料に付着する場合もあるが、析出皮膜と一体化し、密着性も良好なため、性能に悪影響を及ぼすことはない。
【0085】
金属(A)のアモルファス水酸化物の粒子を安定して得ることができ、耐食性に優れるという観点から、酸性水溶液のpHは3〜6であるのが好ましく、3.5〜5.5であるのがより好ましい。
また、金属(A)のアモルファス水酸化物の粒子を安定して得ることができ、密着性に優れるという観点から、酸性水溶液中のFeイオンの濃度は30〜150ppmであるのが好ましく、40〜120ppmであるのがより好ましい。
金属(A)のアモルファス水酸化物粒子は、金属(A)の水溶性金属塩(例えば、Zrイオン、Tiイオン、Hfイオンの供給源が挙げられる。)の溶液に、アンモニア水や、NaOH、KOHのようなアルカリ金属水酸化物の溶液を低温(0〜40℃)で添加し、良く撹拌することによって得ることができる。
【0086】
酸性水溶液に含まれる酸化剤イオンの供給源としては酸化剤を使用する。
使用することができる酸化剤としては、例えば、HClO3、HBrO3、HNO2、HMnO4、HVO3、H22、H2WO4およびH2MoO4からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸素酸、または、これらの酸素酸の塩の中から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
酸素酸またはその塩は、被処理金属材料に対する酸化剤として作用し、酸化物皮膜の析出を促進する。
この場合、酸性水溶液におけるこれらの酸素酸またはその塩の濃度は、酸化剤として十分な効果を発揮するためには、10〜5000ppm程度であるのが好ましい。
これらの中で、硝酸は、酸化力を有するため酸化物層(酸化物皮膜層)の析出を促進する作用もあるため最も好ましい酸の1種である。酸化物層(表面処理皮膜層)の析出を促進させる目的で水溶液中に含有させる際の硝酸濃度は、1000〜100000ppmであるのが好ましく、1000〜80000ppmであるのがより好ましい。
【0087】
酸性水溶液の製造は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
【0088】
酸性水溶液と鉄系金属材料(被処理金属材料)とを接触させる方法は、特に限定されず、例えば、酸性水溶液を鉄系金属材料(被処理金属材料)の表面に噴霧するスプレー処理、鉄系金属材料を酸性水溶液に浸せきさせる浸せき処理、酸性水溶液を鉄系金属材料の表面へ流しかける、流しかけ処理が挙げられる。
【0089】
酸性水溶液と鉄系金属材料(被処理金属材料)とを接触させる際、酸性水溶液の温度は、密着性に優れるという観点から、20〜80℃であるのが好ましく、30〜60℃であるのがより好ましい。
いずれの処理を用いても、酸性水溶液と鉄系金属材料とを接触させることによって、酸性水溶液と鉄系金属材料とを反応させ鉄系金属材料(被処理金属材料)の表面にZr、TiおよびHfから選ばれる少なくとも1種の金属(A)元素とFeとを酸化物として含む酸化物層が得られる。
【0090】
本発明の第2の態様の金属材料の製造方法は、化成処理工程の後、さらに金属材料を加熱する酸化処理工程を有することができる。
本発明の第2の態様の金属材料の製造方法における酸化処理工程は、本発明の第1の態様の金属材料の製造方法における酸化処理工程と同義である。
【0091】
本発明の第2の態様の金属材料の製造方法は、酸化処理工程の後、さらに、金属材料が有する酸化物層の上にセラミックまたは樹脂の被覆層を付与する被覆工程を有することができる。
本発明の第2の態様の金属材料の製造方法における被覆工程は、本発明の第1の態様の金属材料の製造方法における被覆工程と同義である。
【0092】
以下、本発明の第1の態様の金属材料の製造方法と本発明の第2の態様の金属材料の製造方法とを合わせて、本発明の金属材料の製造方法という。
本発明の金属材料の製造方法において使用することができる酸性水溶液は、さらに、フッ素を含むことができる。
酸性水溶液はフッ素をイオンまたは錯イオンとして配合することができる。例えば、フッ化水素酸(HF)、H2ZrF6、H2ZrF6の塩,H2TiF6、H2TiF6の塩、H2SiF6、H2SiF6の塩、HBF4、HBF4の塩、NaHF2、KHF2、NH4HF2、NaF、KF、NH4Fとして添加することが好ましい。
【0093】
酸性水溶液においては、金属(A)に対するフッ素のモル濃度の比[(B)/(A)]は6以上が好ましい。
金属(A)に対するフッ素(B)のモル濃度の比が6以上である場合、酸化物層を析出させやすく、酸性水溶液の安定性が高くZr、TiおよびHfから選ばれる少なくとも1種の金属(A)が酸性水溶液中で析出しにくく、実際の工業的用途における連続操業に適している。
【0094】
本発明の金属材料の製造方法に使用することができる酸性水溶液は、更に、水溶性有機化合物を含有することができる。
本発明の金属材料の製造方法によって得られる金属材料は十分な密着性、耐熱性、および耐食性等の性能を有しているが、更なる性能が必要な場合には、所望の性能に応じて水溶性有機化合物を適宜選択して水溶液に含有させ、酸化物層の物性を改質することができる。
水溶性有機化合物は、水中に溶解または分散することができる有機化合物であれば特に限定されない。例えば、金属の表面処理に常用されている高分子化合物を用いることができる。具体的には例えば、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、エチレンと(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルレート等のアクリル系単量体との共重合体、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体、ポリウレタン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、アミノ変性フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、キトサンおよびその誘導体、タンニンならびにタンニン酸およびその塩、フィチン酸が挙げられる。
【0095】
また、必要に応じて、金属(A)酸化物付着工程または化成処理工程後、被覆工程前に、酸化物層と水溶性有機化合物を含有する水溶液とを接触させる工程を行うことによって、酸化物層の上に水溶性有機化合物層を析出させることもできる。
【0096】
酸性水溶液は、さらに耐熱性、密着性を向上させることができるという観点から、さらに、アルカリ土類金属、希土類金属を含むことができる。アルカリ土類金属、希土類金属はEDTA等のキレート剤とともに添加するのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0097】
酸性水溶液は、さらに添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、界面活性剤、有機インヒビターが挙げられる。
【0098】
酸性水溶液は、pH2〜6であるのが好ましく、pH3〜5であるのがより好ましい。
水溶液のpHをアルカリ側へ調整する場合には、pH調節剤として、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;アルカリ土類金属の水酸化物や酸化物;アンモニア;アミン化合物等のアルカリ成分を用いることができる。
水溶液のpHを酸側へ調整する場合には、pH調節剤として、硝酸、硫酸、塩酸等の無機酸の1種以上および/または酢酸、シュウ酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、グルコン酸、フタル酸等の有機酸の1種以上を用いることができる。
【0099】
酸性水溶液は、更に、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等の界面活性剤を含有することができる。この場合、これらの界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する水溶液と、あらかじめ脱脂処理を行わず油分が付着した状態の鉄系金属材料(被処理金属材料)とを接触させることによって、脱脂処理と酸化物層(酸化物皮膜層)の析出とを同時に行うことが可能である。
【0100】
本発明の金属材料の製造方法によれば、酸化物層を単層または複層として有する金属材料を製造することができる。
本発明の金属材料の製造方法が酸化処理工程を有する場合、酸化物層を複層として有する金属材料を製造することができる。
【実施例】
【0101】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限られるものではない。
【0102】
1.試験板の作製
(金属材料)
試験には、金属材料基材(鉄系金属材料)として70×150mm(板厚:0.8mm)のステンレス鋼板(SUS430)および冷延鋼板(SPC)を使用した。
【0103】
(前工程)
試験に使用する鋼板は、アルカリ脱脂液(日本パーカライジング社製 FC-4360 20g/L)で60℃×120秒間脱脂し、水洗した。
実施例6および比較例2については、SUS430を、塩化第二鉄100g/Lに塩酸を10g/L添加したエッチング液にて40℃×3分間表面粗化処理を行ったのち、20%硝酸で皮膜剥離したものを金属材料基材として使用した。
また、実施例4、10および比較例1については、リン酸マンガン系表面処理剤(パルフォスM1A、日本パーカライジング社製)を水で14質量%濃度に希釈し、全酸度、酸比(全酸度/遊離酸度)および鉄分濃度をカタログ値の標準濃度に調整し、更に96℃に加温した水溶液を準備し、この水溶液を用いてSPCを皮膜化成処理したのち、5%塩酸で5分間皮膜剥離して表面粗化処理したものを金属材料基材として使用した。
【0104】
(酸化物層の形成)
以下の方法で酸化物層の形成を行った。
(実施例1)
塩化チタンを水で50%に希釈した水溶液をさらに約10倍に希釈し、アンモニア水を加えて弱アルカリ性とし、水酸化チタンの沈殿を生成した。これを脱イオン水で良く洗浄したのち、過酸化水素水で溶解して1.3%のペルオキソチタン酸溶液を調製した。
この溶液をSUS430試験板にディップコートし(金属(A)酸化物付着工程)、400℃で60分間焼成し(酸化処理工程)、金属材料を得た。
蛍光X線分析装置(システム3270、理学電気工業(株)製、以下同様。)で得られた金属材料におけるTiO2の付着量を測定したところ160mg/m2であった。また、X線回折(X線回折分析装置(X’PERT−MRD、フィリップス社製)を用いて実施。以下同様。)により得られた金属材料の酸化物層(皮膜層)からはγ-Fe2O3が検出された。
【0105】
(実施例2)
炭酸ジルコニウム溶液(ZrO2として20質量%)を水で2質量%に希釈したコーティング液を調製した。
この溶液をSPC試験板にディップコートし、180℃で20分間乾燥し金属材料を得た。
蛍光X線分析装置で得られた金属材料におけるZrO2の付着量を測定したところ220mg/m2であった。また、X線回折により得られた金属材料の酸化物層(皮膜層)からはγ-Fe2O3が検出された。また、得られた金属材料の断面のTEM観察からはγ-Fe2O3が基材とZr酸化物皮膜との境界部分に検出された。
【0106】
(実施例3)
炭酸ジルコニウム溶液(ZrO2として20質量%)に、シュウ酸ハフニウムを1/10モル添加した液を水で2質量%に希釈したコーティング液を調製した。
この溶液をSPC試験板にディップコートし、180℃で20分間乾燥し金属材料を得た。
蛍光X線分析装置で得られた金属材料におけるZrO2の付着量を測定したところ220mg/m2であった。また、X線回折により得られた金属材料の酸化物層(皮膜層)からはγ-Fe2O3が検出された。また、得られた金属材料の断面のTEM観察からはγ-Fe2O3が基材とZr−Hf酸化物皮膜との境界部分に検出された。
【0107】
(実施例4)
炭酸ジルコニウム溶液(ZrO2として20質量%)を水で2質量%に希釈したコーティング液を調製した。
この溶液を、リン酸マンガン−塩酸剥離によりあらかじめ表面粗化したSPC試験板にディップコートし、180℃で20分間乾燥し金属材料を得た。
蛍光X線分析装置で得られた金属材料におけるZrO2の付着量を測定したところ270mg/m2であった。また、X線回折により得られた金属材料の酸化物層(皮膜層)からはγ-Fe2O3が検出された。
【0108】
(実施例5)
実施例1で使用した1.3%のペルオキソチタン酸溶液を水で2倍に希釈して電解槽にいれ、白金めっきチタン板を対極とし、SUS430試験板を15V×60秒間陽極電解した。陽極電解後の試験板にはペルオキソチタン酸ゲルの析出が観察された。
陽極電解後の試験板を乾燥後に450℃で60分間焼成して酸化チタン皮膜を形成し金属材料を得た。
蛍光X線分析装置で得られた金属材料におけるTiO2の付着量を測定したところ330mg/m2であった。また、X線回折により得られた金属材料の酸化物層(皮膜層)からはγ-Fe2O3が検出された。
【0109】
(実施例6)
ヘキサフルオロチタン酸(IV)水溶液と、硝酸第二鉄と、硝酸アルミニウム溶液と、クエン酸と、フッ化水素酸とを用いて、Ti濃度が1500ppm、Fe濃度が50ppm、アルミニウム濃度が300ppm、クエン酸濃度が50ppmの化成処理液を調製した。ついで、水溶液を55℃に加温した後、アンモニア水でpH2.5に調整し化成処理液とした。
化成処理液を採取して顕微鏡観察した結果、処理液中には水酸化物粒子は観察されなかった。
化成処理工程においてこの化成処理液を使用し、あらかじめ塩化第二鉄エッチング液にて表面粗化したSUS430試験板を浸漬して120秒間反応処理し金属材料を得た。
蛍光X線分析装置で得られた金属材料におけるTiO2の付着量を測定したところ80mg/m2であった。
化成処理工程後、酸化処理工程において金属材料を450℃で60分間焼成した。
酸化処理工程後に得られた金属材料の酸化物層(皮膜層)からはX線回折によりγ-Fe2O3が検出された。
【0110】
(実施例7)
オキシ硝酸ジルコニウムと、硝酸第二鉄と塩酸を用いて、ジルコニウム濃度が5ppm、Fe濃度が35ppmの化成処理液を調製した。ついで、水溶液を45℃に加温した後、アンモニア水試薬でpH4.8に調整し化成処理液とした。化成処理液を採取して顕微鏡観察した結果、処理液中には粒子径が5〜30μmの水酸化物ジルコニウムの透明粒子が全体に観察された。
化成処理工程においてこの化成処理液を使用し、SPC試験板を浸漬して120秒間反応処理し金属材料を得た。
蛍光X線分析装置で得られた金属材料におけるZrO2の付着量を測定したところ180mg/m2であった。
化成処理工程後、酸化処理工程において金属材料を250℃で30分間焼成した。
酸化処理工程後得られた金属材料の酸化物層(皮膜層)からはX線回折によりγ-Fe2O3が検出された。
【0111】
(実施例8)
オキシ硝酸ジルコニウムと、硝酸第二鉄と、硝酸マグネシウム溶液と、フッ化水素酸とを用いて、ジルコニウム濃度が5ppm、Fe濃度が80ppm、マグネシウム濃度が300ppmの化成処理液を調製した。ついで、水溶液を45℃に加温した後、アンモニア水試薬でpH4.4に調整し化成処理液とした。化成処理液を採取して顕微鏡観察した結果、処理液中には粒子径が1〜20μmの水酸化物ジルコニウムの透明粒子が全体に観察された。
化成処理工程においてこの化成処理液を使用し、SPC試験板を浸漬して120秒間反応処理し金属材料を得た。
蛍光X線分析装置で得られた金属材料におけるZrO2の付着量を測定したところ210mg/m2であった。
化成処理工程後、酸化処理工程において金属材料を250℃で30分間焼成した。
酸化処理工程後得られた金属材料の酸化物層(皮膜層)からはX線回折によりγ-Fe2O3が検出された。
【0112】
実施例8の金属材料について、酸化物層(皮膜)の断面の構造を確認するため、実施例8で得られた金属材料の断面を透過型電子顕微鏡(倍率:10万倍、日立製作所社製 H−9000)で撮影した。結果を図1に示す。
図1は、本発明の金属材料の一例の断面を透過型電子顕微鏡で撮影した写真である。
図1に示す結果およびEDS分析等による結果から明らかなように、図1において、金属材料1は、鉄系金属材料2の表面に酸化物層3を有し、酸化物層3は上層4と下層5とを有し、下層5は酸化鉄によって形成され、上層4は酸化ジルコニウムで形成されていることが確認できた。
また、下層5における酸化鉄は、結晶性の酸化鉄であった。
図1に示す結果から、上層4は厚みが0.2〜0.3μmの金属(A)酸化物であり、下層5は厚みが0.02〜0.15μmの鉄酸化物からなることを確認した。
図1における結果から明らかなように、下層5は、鉄系金属材料2の表面(図示せず。)で微細な凹凸を形成している。このため、下層5が有する微細な凹凸による投錨効果によって、上層4と下層5との密着性が優れたものとなっている。
【0113】
(実施例9)
オキシ硝酸ジルコニウム溶液と、硝酸マグネシウム溶液と、硝酸第二鉄と、フッ化水素酸試薬とを用いて、ジルコニウム濃度が5ppm、マグネシウム濃度が300ppmであり、アスコルビン酸が50ppmであり、Fe濃度が40ppmである化成処理液を調製した。ついで、水溶液にポリアリルアミン水溶液(PAA−05、日東紡績(株)製)を50ppm添加し50℃に加温した後、アンモニア水試薬でpH4.5に調整し化成処理液とした。化成処理液を採取して顕微鏡観察した結果、処理液中には粒子径が1〜20μmの水酸化物ジルコニウムの透明粒子が全体に観察された。粒子が水酸化ジルコニウムであることの確認は、ミクロフィルターでろ過後純水で水洗し、乾燥物を蛍光X線により確認した。
化成処理工程においてこの化成処理液を使用し、SPC試験板を浸漬して120秒間反応処理し金属材料を得た。
蛍光X線分析装置で得られた金属材料におけるZrO2の付着量を測定したところ180mg/m2であった。
化成処理工程後、酸化処理工程において金属材料を250℃で30分間焼成した。
酸化処理工程後得られた金属材料の酸化物層(皮膜層)からはX線回折によりγ-Fe2O3が検出された。
【0114】
(実施例10)
ヘキサフルオロジルコン酸(IV)水溶液と、ヘキサフルオロチタン酸(IV)水溶液と、硝酸第二鉄と、クエン酸と、硝酸マグネシウム溶液とを用いて、ジルコニウム濃度が200ppm、チタン濃度が50ppm、クエン酸濃度が100ppm、Fe濃度が80ppm、マグネシウム濃度が14000ppmである化成処理液を調製した。ついで、水溶液にジアリルアミン共重合体水溶液(PAS−92、日東紡績(株)製)を50ppm添加し50℃に加温した後、アンモニア水試薬でpH4.5に調整し化成処理液とした。化成処理液を採取して顕微鏡観察した結果、処理液中には粒子径が1〜20μmの水酸化物ジルコニウムの透明粒子が全体に観察された。粒子が水酸化ジルコニウムであることの確認は、ミクロフィルターでろ過後純水で水洗し、乾燥物を蛍光X線により確認した。
化成処理工程においてこの化成処理液を使用し、リン酸マンガン−塩酸剥離によりあらかじめ表面粗化したSPC試験板にSPC試験板を浸漬して120秒間反応処理し金属材料を得た。
蛍光X線分析装置で得られた金属材料におけるZrO2およびTiO2の付着量を測定したところ、ZrO2の付着量が170mg/m2でTiO2の付着量が130mg/m2であった。
化成処理工程後、酸化処理工程において金属材料を180℃で30分間焼成した。
酸化処理工程後得られた金属材料の酸化物層(皮膜層)からはX線回折によりγ-Fe2O3が検出された。
【0115】
(比較例1)
実施例と同様に脱脂したSPC試験板を、リン酸マンガン系表面処理剤(パルフォスM1A、日本パーカライジング(株)製)を水で14質量%濃度に希釈し、全酸度、酸比(全酸度/遊離酸度)および鉄分濃度をカタログ値の標準濃度に調整し、更に96℃に加温した水溶液で皮膜化成処理したのち、5%塩酸で5分間皮膜剥離して表面粗化処理したものをそのまま金属材料として使用した。
【0116】
(比較例2)
実施例と同様に脱脂したSUS430試験板を、更に塩化第二鉄100g/Lに塩酸を10g/L添加したエッチング液にて40℃×3分間表面粗化処理を行ったのち、20%硝酸で10分間皮膜剥離して表面粗化処理したものをそのまま金属材料として使用した。
【0117】
(比較例3)
リン酸マンガン系表面処理剤(パルフォスM1A、日本パーカライジング(株)製)を水で14質量%濃度に希釈し、全酸度、酸比(全酸度/遊離酸度)および鉄分濃度をカタログ値の中心に調整し、更に96℃に加温した水溶液を表面処理用処理液とした。
脱脂後に水洗を施した炭素綱鋼材丸綱(略号S45C:JIS G 4051、φ10mm×35mm、表面粗さRzjis2μm)を、前記表面処理用処理液に120秒間浸せきさせて表面処理皮膜層を析出させた。ついで、水洗、イオン交換水洗、更に乾燥を行い、炭素綱鋼材丸綱表面の表面処理用処理液および水分を除去した。
【0118】
(比較例4)
炭酸ジルコニウム溶液(ZrO2として20質量%)を水で2質量%に希釈したコーティング液を調製した。この溶液をSUS430試験板にディップコートし、30℃で20分間乾燥し金属材料を得た。
蛍光X線分析装置で得られた金属材料におけるZrO2の付着量を測定したところ220mg/m2であった。また、X線回折およびXPSからは得られた金属材料の酸化物層(皮膜層)からFe酸化物は検出されなかった。
【0119】
(比較例5)
オキシ硝酸ジルコニウムと、硝酸マグネシウム溶液と、フッ化水素酸とを用いて、ジルコニウム濃度が5ppm、マグネシウム濃度が300ppmの化成処理液を調製した。ついで、水溶液を45℃に加温した後、アンモニア水試薬でpH3.0に調整し化成処理液とした。化成処理液を採取して顕微鏡観察した結果、処理液中には水酸化物ジルコニウムの粒子が観察されなかった。
化成処理工程においてこの化成処理液を使用し、SPC試験板を浸漬して120秒間反応処理し金属材料を得た。
蛍光X線分析装置で得られた金属材料におけるZrO2の付着量を測定したところ110mg/m2であった。
化成処理工程後、酸化処理工程において金属材料を60℃で10分間乾燥した。
酸化処理工程後の金属材料の酸化物層(皮膜層)からはX線回折およびXPSによっても皮膜層からFe酸化物が検出されなかった。
【0120】
2.酸化物層(表面処理皮膜層)の性状の分析
下記に示す方法で、酸化物層中のFeの量、金属(A)付着量、酸化物層中の酸化物の構造を分析した。
酸化物層中のFeの量、金属(A)付着量の結果を表1に示す。
金属(A)付着量、酸化物層中の酸化物の構造の結果は、各実施例において記載した。
(1)酸化物層(表面処理皮膜層)の金属(A)付着量の測定
酸化物層(表面処理皮膜層)の金属(A)付着量を蛍光X線分析装置(システム3270、理学電気工業(株)製)で測定した。
(2)酸化物層(表面処理皮膜層)の酸化物の構造解析
実施例で得られた金属材料の酸化物層(表面処理皮膜層)を、X線回折分析装置(X’PERT−MRD、フィリップス社製)を用いて、薄膜分析法(入射角0.5°)で分析し、酸化物の構造を解析した。
【0121】
(3)酸化物層中のFeの量
実施例で得られた金属材料の酸化物層中のFeの量を、島津製作所社製XPS分析装置ESCAを用いてXPS(X線光電子分光)による表面分析によって皮膜の深さごとに測定した。
なお、実施例8で得られた金属材料の酸化物層に関し、XPS(X線光電子分光)による表面分析の結果を添付の図面(図2、図3)に示す。
【0122】
図2は、本発明の金属材料の一例の酸化物層中に含まれる各元素に関し、XPS(X線光電子分光)を用いて分析された結果得られたXPSナロウスペクトルを示すグラフである。
図3は、本発明の金属材料の一例の酸化物層中に含まれる各元素に関し、XPS(X線光電子分光)を用いて分析された結果得られた各元素の量(単位:原子パーセント)をデプスプロファイルとして示すグラフである。
なお、図3に示すデプスプロファイルは、図2に示すXPSナロウスペクトルのデータをもとに作成されたものである。
【0123】
実施例8で得られた金属材料の酸化物層に関し、XPS(X線光電子分光)による表面分析は、最表面からスパッタリングを行いながら下層方向に分析することによって行った。
図3において、分析を開始してから酸化物層における酸素の原子パーセントが40%未満となる(つまり、スパッタリングが鉄系金属材料まで到達する。)までの各元素の平均パーセントを酸化物層における各元素の含有率として示した。
図3において示す結果から明らかなように、平均のFe原子パーセント(酸化物層におけるFe含有率)は酸化物層の上層と下層で異なった。
すなわち、図3において、エッチングタイム0.2分におけるFe原子パーセントは3原子%であった。エッチングタイム0.2分にあたる酸化物層の部分は上層に該当する。
また、図3において、エッチングタイム1.2分におけるFe原子パーセントは約20原子%であった。エッチングタイム1.2分にあたる酸化物層の部分は下層に該当する。
なお、上層と下層との境界は明確ではなかったが、上層と下層をあわせた酸化物層中の平均Fe原子パーセントは8.2原子%であった。
酸化物層における深さ方向における平均のFe含有率は実施例の全てにおいて2〜30原子パーセントの範囲内であった。
【0124】
3.酸化物層(皮膜)性能の評価
得られた金属材料について、接触抵抗、耐食性試験、密着性試験、耐熱密着性試験を、以下に示す方法で行い、以下に示す評価基準で評価した。結果を表1に示す。
【0125】
(接触抵抗)
処理を行ったSPC試験板及びSUS430試験板について、表面抵抗計(三菱化学(株)製MCP−T360型[2点式標準プローブ使用])を用いて得られた金属材料の接触抵抗を測定した。
【0126】
(耐食性試験)
処理を行ったSPC試験板及びSUS430試験版を塩水噴霧試験法(JIS Z 2371)で1000時間試験し、試験後の、錆発生の程度を以下の基準で評価した。
5:錆発生が認められない
4:錆面積1%未満
3:錆面積1%以上5%未満
2:錆面積5%以上20%未満
1:錆面積20%以上
【0127】
(密着性試験)
処理を行ったSPC試験板及びSPC試験板の表面に、A液およびB液を1:1で十分混合した2液型エポキシ接着剤(セメダイン社製、ハイスーパー5)を約100g/m2の塗布量で塗布し、24時間放置した。さらに、この接着剤が塗布されたSPC試験板またはSPC試験板を、60℃に加熱した5%NaOH水溶液中に60分間浸漬し、水洗乾燥してから、試料の一端を万力で固定して、接着剤の塗布面を外側にして中央部で90度の角度まで折り曲げ、折り曲げ部の剥離状態を以下のように評価した。
5:剥離なし
4:剥離なし、亀裂あり
3:剥離20%未満、亀裂あり
2:剥離20%以上50%未満、亀裂大
1:剥離50%以上
【0128】
(耐熱密着性試験)
処理を行ったSPC試験板及びSPC試験板の表面に、耐熱導電性無機接着剤(Cotronics社製Resbond954)を約100g/m2の塗布量で塗布し、室温で乾燥させたのち、電気炉で1000℃で2時間大気雰囲気下で高温酸化処理した。試験後の板は室温に冷却したのち、粘着テープを貼り付け、引き剥がして剥離の有無を評価した。
5:剥離なし
4:剥離1%未満
3:剥離1%以上5%未満
2:剥離5%以上30%未満
1:剥離30%以上
【0129】
【表1】

【0130】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1〜10は、耐食性、導電性、密着性および耐熱性(耐熱密着性)がともに従来技術である比較例1〜5よりも優れており、本発明の効果が明らかであることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】図1は、本発明の金属材料の一例の断面を透過型電子顕微鏡で撮影した写真である。
【図2】図2は、本発明の金属材料の一例の酸化物層中に含まれる各元素に関し、XPS(X線光電子分光)を用いて分析された結果得られたXPSナロウスペクトルを示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の金属材料の一例の酸化物層中に含まれる各元素に関し、XPS(X線光電子分光)を用いて分析された結果得られた各元素の量(単位:原子パーセント)をデプスプロファイルとして示すグラフである。
【符号の説明】
【0132】
1 金属材料
2 鉄系金属材料
3 酸化物層
4 上層
5 下層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系金属材料と、前記鉄系金属材料の表面に形成されている酸化物層とを有し、
前記酸化物層が、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)とFeとを酸化物として含む金属材料。
【請求項2】
前記酸化物層が、
Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)の金属(A)酸化物を少なくとも含む上層と、
鉄酸化物を少なくとも含む下層とを有する請求項1に記載の金属材料。
【請求項3】
前記酸化物が、γ−Fe23、α−Fe23およびFe34からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化鉄を含む請求項1または2に記載の金属材料。
【請求項4】
前記酸化物層が、前記Feを2〜30原子パーセント含む請求項1〜3のいずれかに記載の金属材料。
【請求項5】
前記下層の厚さが、0.02〜0.5μmである請求項2〜4のいずれかに記載の金属材料。
【請求項6】
前記酸化物層中に含まれる前記金属(A)の量が、AO2換算の合計として、10〜1,000mg/m2である請求項1〜5のいずれかに記載の金属材料。
【請求項7】
前記酸化物層は、その接触抵抗が200Ω以下である請求項1〜6のいずれかに記載の金属材料。
【請求項8】
前記酸化物層の上に、さらに、セラミックまたは樹脂を用いて形成される被覆層を有する請求項1〜7のいずれかに記載の金属材料。
【請求項9】
鉄系金属材料の表面に、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)の金属(A)酸化物またはその前駆体を塗布または電析して、前記鉄系金属材料を金属(A)酸化物の皮膜を有する鉄系金属材料とする金属(A)酸化物付着工程と、
前記金属(A)酸化物の皮膜を有する鉄系金属材料を加熱して請求項1〜8のいずれかに記載の金属材料を製造する酸化処理工程とを有することを特徴とする金属材料の製造方法。
【請求項10】
前記酸化処理工程の後、さらに、前記金属材料が有する酸化物層の上にセラミックまたは樹脂を付与する被覆工程を有する請求項9に記載の金属材料の製造方法。
【請求項11】
鉄系金属材料を、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)の金属(A)イオンと、30ppm以上のFeイオンと、酸化剤イオンとを含む酸性水溶液に接触させることによって請求項1〜8のいずれかに記載の金属材料を製造する化成処理工程を有することを特徴とする金属材料の製造方法。
【請求項12】
前記酸性水溶液が、さらに、Zr、TiおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(A)のアモルファス水酸化物を含む請求項11記載の金属材料の製造方法。
【請求項13】
前記化成処理工程の後、さらに金属材料を加熱する酸化処理工程を有する請求項11または12に記載の金属材料の製造方法。
【請求項14】
前記酸化処理工程の後、さらに、前記金属材料が有する酸化物層の上にセラミックまたは樹脂の被覆層を付与する被覆工程を有する請求項13に記載の金属材料の製造方法。
【請求項15】
前記酸性水溶液が、さらに、フッ素を含む請求項11〜14のいずれかに記載の金属材料の製造方法。
【請求項16】
前記酸性水溶液が、さらに、水溶性有機化合物を含む請求項11〜15のいずれかに記載の金属材料の製造方法。
【請求項17】
前記鉄系金属材料が、ステンレス鋼である請求項9〜16のいずれかに記載の金属材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−203519(P2009−203519A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46566(P2008−46566)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】