説明

金属材料の塑性ひずみ測定用パターン及び金属材料の塑性ひずみ測定方法

【課題】金属材料に設けたパターンに係るひずみの測定を精度よく且つ安定的に行うことができ、これにより金属材料の塑性ひずみの高精度な測定を行うことができる手段を提供する。
【解決手段】塑性変形させる金属材料の表面に配設されて、該金属材料を塑性変形させた際の塑性ひずみの測定に用いられる、金属材料の塑性ひずみ測定用のパターン1Aを、複数のエリア2,3に規則的に区画され、且つこれらの各エリア2,3が、輪郭が相互に線接触した隣接する他のエリアと相互に異なる色でそれぞれ色分けされた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板等の金属材料の成形性の評価をする際、該金属材料の塑性ひずみに測定に使用するパターン、及び金属材料の塑性ひずみ測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用部品に使用される薄鋼板等、あるいはせん断や引張、曲げ、穴拡げ、張出、深絞り、プレス等や各種試験に用いる試験片等の金属材料について、該金属材料を塑性変形させてその塑性ひずみを測定することにより、その金属材料の成形性や性能を評価することが行われている。
このような金属材料の塑性変形の測定に際しては、対象となる金属材料の表面にスクライブドサークルや格子状等の塑性ひずみ測定用のパターンを設けて、金属材料の塑性変形後の該パターンのひずみを測定することにより金属材料の塑性ひずみの分布や大きさ、方向等を測定する方法が知られている。
【0003】
上記塑性ひずみ測定用のパターンとしては、例えば特許文献1に記載されているように、複数の円を組合わせたパターンや、格子形状のパターン、あるいは複数の円と格子形状とを組合わせたパターンが存在している。また、その他にも同心円状のパターン等、様々なパターンのものが存在しており、それぞれ用途に応じて適宜使分けられている。
そして、例えばパターンが円を含むものの場合、金属材料の塑性変形により楕円に変形した際には、その楕円の長軸及び短軸の長さ、変形方向等を測定することにより、金属材料の最大ひずみ・最小ひずみ・最大ひずみの方向等を求める。また、パターンが格子形状のものを含む場合、金属材料の塑性変形により格子形状が変形した際には、その格子形状が形成する矩形の縦及び横の長さや対角線の長さ等を測定することにより、金属材料の最大ひずみ・最小ひずみ・最大ひずみの方向等を求める。
【0004】
しかしながら、上記塑性ひずみ測定用のパターンは、一定の幅(太さ)を有した線によって、各種単位図形からなる複数のエリアに区画されているため、金属材料の塑性変形後において該パターンが変形した場合においては、各エリアのひずみを測定するに際して各エリアを区画する線の幅方向のどの部分を基準にして長さ等を測定するかが問題となる。
即ち、上記パターンにおける各エリアのひずみ測定時においては、測定者によって各エリアを区画する線の取扱いが異なる可能性があり、線の幅分の誤差が生じる場合があった。また、線が変形している場合にはその線の太さも変わっていることもあり、測定者の測定の基準となる部分があいまいになることもあった。
そのため、測定者が線のどの部分を基準にして長さ等を測定するかによって測定値に差が生じているのが実情であった。この結果、各エリアのひずみに必要な測定値に誤差が生じて各エリアのひずみを正確に測定することができず、これにより、金属材料の塑性ひずみの正確且つ安定的な測定ができない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−58704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の技術的課題は、金属材料に設けたパターンに係るひずみの測定を精度よく且つ安定的に行うことができ、これにより金属材料の塑性ひずみの高精度な測定を行うことができる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の金属材料の塑性ひずみ測定用パターンは、塑性変形させる金属材料の表面に配設されて、該金属材料を塑性変形させた際の塑性ひずみの測定に用いられる、金属材料の塑性ひずみ測定用のパターンにおいて、上記パターンが、複数のエリアに規則的に区画され、且つこれらの各エリアが、輪郭が相互に線接触した隣接する他のエリアと相互に異なる色でそれぞれ色分けされていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の塑性ひずみ測定用パターンにおいては、上記パターンは、塑性ひずみの測定対象となる上記金属材料の表面の色からなるエリアと、該金属材料の表面の色とは異なる他の色により色分けされているエリアとを有しているものとすることができる。
また、本発明においては、上記パターンは、相互に異なる2つの色によりエリアが色分けされているものとすることができる。
【0009】
一方、上記課題を解決するため、本発明の金属材料の塑性ひずみ測定方法は、金属材料が塑性変形した後の塑性ひずみを、該金属材料の表面に配設したひずみ測定用のパターンのひずみを測定することにより金属材料の塑性ひずみを測定する方法において、上記パターンとして、複数のエリアに規則的に区画し、且つこれらの各エリアを、輪郭が相互に線接触した隣接する他のエリアと相互に異なる色でそれぞれ色分けした塑性ひずみ測定用パターンを用い、色分けした各エリアの境界部分を基準として該パターンのひずみを測定することを特徴とする。
【0010】
本発明の測定方法においては、上記パターンを、塑性ひずみの測定対象となる上記金属材料の表面の色と、該金属材料の表面の色とは異なる別の色とで色分けするようにすることができる。
また、本発明においては、上記パターンを、相互に異なる2つの色によりエリアを色分けするようにしてもよい。
【0011】
さらに、本発明の塑性ひずみ測定方法においては、上記パターンを、上記金属材料の塑性変形前に、該金属材料の表面に塗料によって予め印刷しておき、塑性変形後における金属材料の表面に透明な粘着テープを押し付けることにより、該粘着テープに塑性変形後のパターンを転写して該パターンのひずみを測定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属材料を塑性変形させた際の塑性ひずみの測定に用いられる塑性ひずみ測定用のパターンが、複数のエリアに規則的に区画し、且つこれらの各エリアが、輪郭が相互に線接触した隣接する他のエリアと相互に異なる色でそれぞれ色分けされているため、ひずみの算出の基準となる各エリアの境界の部分を一義的に把握でき、これにより、各エリアの境界を基準とした、ひずみの算出に必要な長さ等の正確な測定が可能となる。
したがって、従来の線のみで形成されているパターンのように、各エリアを区画する線の幅方向の取扱いの問題が排除されるため、該線の取扱いの違いによる測定値に誤差の発生を防ぐことができ、これにより、金属材料の塑性ひずみを精度よく且つ安定的に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る金属材料の塑性ひずみ測定用パターンの第1の実施の形態を示す平面図である。
【図2】金属材料にせん断力が作用した場合における、塑性ひずみ測定用パターンのエリアの境界部分の状態を模式的に示す要部拡大平面図である。ただし、(a)は金属材料が塑性変形する前の状態を、(b)は塑性変形した後の状態をそれぞれ示す。
【図3】本発明に係る金属材料の塑性ひずみ測定用パターンの第2の実施の形態を示す平面図である。
【図4】本発明に係る金属材料の塑性ひずみ測定用パターンの第3の実施の形態を示す平面図である。
【図5】本発明に係る金属材料の塑性ひずみ測定用パターンの第4の実施の形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明に係る金属材料の塑性ひずみ測定用パターンの第1の実施の形態を示すものである。
上記ひずみ測定用パターンは、該金属材料を塑性変形させた際の塑性ひずみの測定に用いられるもので、この実施の形態のひずみ測定用パターン1Aは、平面視正方形状の複数のエリアに規則的に区画された、格子形状のパターンを基本として形成されたもので、塑性変形させる金属材料の表面に、例えば、電界液を用いたシルクスクリーン法によって金属材料をパターンに合わせて酸化させる方法や、スタンプ、鋼板プリンタによる印刷等の任意の手段によって直接印刷されている。
【0015】
上記塑性ひずみ測定用パターン1Aは、いずれのエリアも同形同大の平面視正方形状となっていて、各エリアは、そのエリアの輪郭が相互に線接触した隣接する他のエリア、換言すれば、境界4が線となってあらわれている隣接する他のエリアとは、相互に異なる色でそれぞれ色分けされている。図1に示すものの場合、各エリアは、縦及び横に隣接する4つのエリアとは相互に異なる色となっている一方で、角隅で点接触している斜め方向の4つのエリアは同じ色となっている。
具体的に、上記塑性ひずみ測定用パターン1Aは、塑性ひずみの測定対象となる上記金属材料の表面の色(この実施の形態の場合は、金属材料の地色(塗装なしの色))からなる第1の色のエリア2と、該金属材料の表面の色とは異なる他の1色が着色されることにより該第1の色のエリア2と色分けされている第2の色のエリア3とで構成されている。
したがって、この塑性ひずみ測定用パターン1Aは、各エリアが、金属材料の表面の色と、それとは異なる他の1色との2色により色分けされた、全体として市松模様状の模様が形成されたものとなっている。
なお、この実施の形態においては、塑性ひずみ測定用パターン1Aの第1の色のエリア2は金属材料の表面の地色であるため、実質的には、第2の色のエリア3のみが金属材料の表面に印刷されることにより、塑性ひずみ測定用パターン1Aが金属材料の表面に設けられたものとなっている。
【0016】
上記塑性ひずみ測定用パターン1Aにおける第1の色のエリア2と第2の色のエリア3とは、隣接する他方のエリア3,2との境界4(境界線)が視覚的に明確且つ安定的に区別できるような色で色分けされている。例えば、第1の色のエリア2を白、第2の色のエリア3を黒とするように、両エリアの色のコントラストを高くするなどして、隣接するエリアとの境界4を視覚的にはっきりさせることが好ましい。
なお、図1に示すものでは、第1の色のエリア2の色(金属材料の地色)に対して、第2の色のエリア3は黒色で塗りつぶしたものとして、両エリアの境界4を視覚的に一義的に把握できるようにしている。
【0017】
ここで、塑性ひずみ測定用パターン1Aを構成する各エリア2,3を、輪郭が相互に線接触した隣接する他のエリアと相互に異なる色でそれぞれ色分けしたのは、塑性ひずみ測定用パターンにおける各エリア2,3のひずみを測定する際に、ひずみの算出に必要な長さ等の測定の起点及び終点を視覚的に一義的に確定できるようにして、金属材料の塑性ひずみの正確且つ安定的な測定を可能とするためである。
【0018】
既に述べたように、従来のような線のみで形成されている塑性ひずみ測定用パターンの場合、各エリアのひずみ測定時においては、エリアを区画する線の幅方向の取扱い、つまりは、各エリアのひずみ測定する上で必要となる長さ(この実施の形態の場合は、各エリアの縦・横の長さや対角線の長さ等)の起点と終点とを線の幅方向のどの位置を基準とするかが、測定者によって異なる可能性があった。また、線が変形している場合にはその線の太さも変わっていることもあり、測定者の測定の基準となる部分があいまいになることもあった。そのため、測定者による各エリアを区画する線の幅の取扱いの違いによって線の幅分の誤差が生じ、結果として各エリアのひずみの測定値も測定者によって誤差が発生しているのが実情であった。
このような、塑性ひずみ測定用パターンの各エリアのひずみの測定の時点での誤差の発生は、塑性変形させた金属材料の塑性ひずみの測定値にも大きな影響を与えるため、該塑性ひずみを正確且つ安定的に測定できないことになる。
【0019】
そこで、本発明においては、塑性ひずみ測定用パターンの各エリアを、輪郭が相互に線接触した隣接する他のエリアと相互に異なる色でそれぞれ色分けすることにより、従来のパターンのような各エリアを区画する線の存在をなくして、測定時における線の取扱い自体を排除し、両エリアの境界(境界線)を視覚的に明らかにしている。
これにより、塑性ひずみ測定用パターンにおける各エリアのひずみを測定する際には、各エリアを区画する線自体が存在しないため、図2(ただし、図2は金属材料をせん断する例を示す。また白抜き矢印はせん断力が作用する方向を示す)に示すように、金属材料の塑性変形前後において、隣接するエリアの境界部分を視覚的に一義的に把握、特定することができる。この結果、両エリアの境界部分を基準として、ひずみの算出に必要な長さ等の測定の起点及び終点を視覚的に一義的に確定できるため、金属材料の塑性ひずみの測定を、従来に比べて精度良く且つ安定的に行うことが可能となる。
【0020】
また、塑性ひずみ測定用パターンの各エリアの、隣接するエリアのとの境界線の長さは、1.0mm〜100mm程度とすることが適切であり、より好ましくは1.0〜50mm、さらには1.0〜10mmとするのが好ましい。
各エリアの、隣接するエリアのとの境界線の長さの下限を1.0mmとしたのは、塑性歪計測における実用上の制限からである。
一方、適切な上限を100mmとしたのは、100mmを超えると、線幅が0.2mm程度の比較的大きい線幅の従来の塑性ひずみ測定用パターンを用いた場合であっても、その測定誤差が許容範囲内に抑えられる可能性があることから、従来のものに対する本発明の優位性がそれほど発揮されない場合があるためである。
さらに、より好ましい上限を50mmとしたのは、50mmを超えると、線幅が0.1mm程度の一般的な線幅の従来の塑性ひずみ測定用パターンを用いた場合であっても、その測定誤差が許容範囲内に抑えられる場合があることから、本発明の優位性がそれほど発揮されない場合があるためである。
また、さらに好ましい上限を10mmとしたのは、この程度になると、従来の塑性ひずみ測定用パターンの場合はその線幅に関わらず測定誤差が顕著となることから、従来のものと比較した本発明の塑性ひずみの測定精度がきわめて高くなるためである。なお、この点については、本発明者らの実験によれば、従来のものの場合、約1.2%もの測定誤差が発生していることがわかっている。
【0021】
以下、上記構成を有する塑性ひずみ測定用パターン1Aを用いて、金属材料の塑性ひずみを測定する場合について説明する。
まず、金属材料を塑性変形させる前に、塑性ひずみ測定用パターン1Aを金属材料の表面に予め印刷しておく。
その後、上記塑性ひずみ測定用パターン1Aを配設した金属材料、例えば各種成形に供される薄鋼板等の金属板や、各種性能試験に使用される金属製の試験片等に対して、せん断、引張、曲げ、穴広げ、張出、深絞り、プレス等によって塑性変形させると共に、該ひずみ測定用のパターンのひずみを測定する。
【0022】
上記塑性ひずみ測定用パターン1Aに係るひずみを測定するに際しては、塑性変形させている金属材料に配設した該塑性ひずみ測定用パターン1Aをカメラで常時監視する。
そして、そのカメラからの画像を電子計算機に逐次取込み、それらの画像をモニター等に出力すると共に、それらの画像を2次元座標を有する画像データに変換する。さらに、その画像データの2次元座標に基づいて、塑性ひずみ測定用パターン1Aの平面視略正方形状の各エリア2,3の縦及び横の各長さや対角線の長さ等を測定してする。最終的には、これらの測定値に基づいて、塑性変形した金属材料の最大ひずみや最小ひずみ、最大ひずみの方向等を求める。
このようなひずみの測定方法においては、金属材料のひずみをリアルタイムで測定することができるという利点がある。
【0023】
また、金属材料が塑性変形により破断した場合等を含め、塑性変形後の金属材料の塑性ひずみを事後的に測定する際には、塑性変形後における金属材料の表面に透明な粘着テープを押し付けることにより、該粘着テープに塑性変形後の塑性ひずみ測定用パターン1Aを転写して該パターンのひずみを測定することも可能である。
例えば、金属材料が塑性変形により破断した場合は、その破断部分を挟んだ一方の半部側に位置する塑性ひずみ測定用パターンを粘着テープに転写する。その後、他方の半部側に位置する塑性ひずみ測定用パターンについては、その破断部分と、既に転写した半部側の塑性ひずみ測定用パターンの破断部分とを相互に一致させた状態で、同じ粘着テープに転写する。
これにより、金属材料の破断時における塑性ひずみ測定用パターンを得ることができる。
そして、この転写した塑性ひずみ測定用パターンの画像を電子計算機に取込み、その画像を2次元座標を有する画像データに変換する。さらに、その画像データの2次元座標に基づいて、塑性ひずみ測定用パターンの平面視略正方形状の各エリア2,3の縦及び横の長さや対角線の長さ等を測定し、これらの測定値に基づいて、塑性変形した金属材料の最大ひずみや最小ひずみ、最大ひずみの方向等を求める。
【0024】
ここで、塑性ひずみ測定用パターン1Aに係るカメラの画像を2次元座標を有する画像データに変換するにあたっては、該塑性ひずみ測定用パターン1Aにおける、平面視正方形状の各エリア2,3の境界4を基準とした座標を取得する。
上記各エリア2,3は、輪郭が相互に線接触した隣接する他のエリアと相互に異なる色、つまり、上記第1の色のエリア2と第2の色のエリア3とに色分けされているため、その色の境界線をもって各エリアの境界4を視覚的に一義的に特定することができる。
これにより、各エリア3,4のひずみの算出に必要な、各エリア3,4の縦及び横の各長さや対角線の長さ等の測定の起点及び終点となる位置も、視覚的に一義的に特定することができる。したがって、従来生じていた測定者の線の幅方向の取扱いの違いによる測定誤差が無くなり、各エリア2,3の境界4に係る二次元座標を精度良く、且つ安定的に特定し、取得することが可能となる。
この結果、塑性ひずみ測定用パターン1Aの各エリア2,3のひずみの計測を高い精度で安定的に計測することができるため、金属材料の塑性ひずみの測定も精度良く且つ安定的に行うことができることとなる。
【0025】
なお、上記カメラによる取得した画像を2次元座標を有する画像データに変換するに際しては、その画像を例えば白と黒とに二値化処理することが好ましく、これにより、色分けした各エリア2,3の境界4を視覚的により確実に特定することができ、2次元座標の特定が一層容易となる。
【0026】
以上のように、金属材料を塑性変形させた際の塑性ひずみの測定に用いられる塑性ひずみ測定用パターン1Aを、複数のエリア2,3に規則的に区画し、且つこれらの各エリア2,3が、輪郭が相互に線接触した隣接する他のエリアと相互に異なる色でそれぞれ色分けされた構成としたことにより、塑性ひずみ測定用パターン1Aにおける各エリア2,3のひずみの算出の基準となる各エリア2,3の境界4の部分を視覚的に一義的に把握し、特定することができる。これにより、各エリア2,3の境界4を基準とした、ひずみの算出に必要な長さ等の正確な測定が可能となる。
よって、従来の線のみで形成されている塑性ひずみ測定用パターンのような、各エリアを区画する線の取扱いが排除されるため、線の取扱いの違い起因する測定値の読取誤差を確実に防ぐことができ、金属材料の塑性ひずみの高精度且つ安定的な測定を行うことができる。
【0027】
上記第1の実施の形態においては、塑性ひずみ測定用パターン1Aを、全体として格子形状に形成され、平面視略正方形状の複数のエリアに区画され且つ市松模様状をなすように色分けされた構成としていた。
しかしながら、図3に示す塑性ひずみ測定用パターンは、複数の同心円を有するパターンとなっている。
【0028】
即ち、図3は本発明の第2の実施の形態に係る塑性ひずみ測定用パターン1Bを示すもので、この第2の実施の形態の塑性ひずみ測定用パターン1Bは、複数の同心円と、これらの同心円の径方向に延びる複数の直線により複数のエリア2,3に規則的に区画され、且つ、これらの各エリア2,3が、輪郭が相互に線接触した隣接する他のエリアと相互に異なる色でそれぞれ色分けされたスクライブドサークルにより形成されている。
上記複数の同心円は、径が一定の割合で異なっていて、内周側の同心円と外周側の同心円との間の間隔が相互に一定となるように設定されている。
また、上記径方向の直線は、上記複数の同心円の中心から放射状(図2の場合16方向)に延びている。
そして、上記同心円と径方向の直線とで区画された各エリア2,3は、輪郭が相互に線接触した隣接する他のエリアと相互に異なる色で、第1の色のエリア2と第2の色のエリア3とにそれぞれ色分けされ、その色分けによって、輪郭が線接触する両エリア2,3の境界4が視覚的に一義的に把握、特定できるようになっている。
なお、この実施の形態においては、上述した第1の実施の形態と同様、第1の色のエリア2の色を金属材料の地色とし、第2の色のエリア3は黒色で塗りつぶしたものとして、両エリアを2色で色分けしたものとしている。また、中央の円部分のエリアについては、塑性ひずみ測定に供しない部分として、色分けの対象とはしていない。
【0029】
この第2の実施の形態に係る塑性ひずみ測定用パターン1Bは、基本的に、上述した第1の実施の形態と同様の作用・効果を有するが、パターンの特性上、金属材料を深絞り加工する際にきわめて有用である。
【0030】
なお、上記構成を有する第2の実施の形態に係る塑性ひずみ測定用パターン1Bを用いた金属材料の塑性ひずみを測定は、基本的に、上述した第1の実施の形態における測定方法と同様の手順で行い、また、作用・効果については第1の実施の形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0031】
図3は、本発明の塑性ひずみ測定用パターンに係る第3の実施の形態を示すもので、この第3の実施の形態に係る塑性ひずみ測定用パターン1Cは、複数の円と格子形状とを組合わせたパターンである。
即ち、図3に示すように、複数の同径の円を重複させながら規則的に配置すると共に、1辺が該円の半径と同じ長さの平面視略正方形状の空間を有する格子形状をさらに重ねて配置することによって、複数のエリアに規則的に区画している。さらに、これらの各エリアを、輪郭が相互に線接触した隣接する他のエリアと相互に異なる色で、第1の色のエリア2と第2の色のエリア3とにそれぞれ色分けしたものとなっている。
したがって、各エリア2,3については、その色分けによって、輪郭が線接触するエリア3,2との境界4の部分が視覚的に一義的に把握、特定できるようになっている。
なお、この実施の形態においては、上述した第1及び第2の実施の形態と同様、第1の色のエリア2の色を金属材料の地色とし、第2の色のエリア3は黒色で塗りつぶしたものとして、両エリアを2色で色分けしたものとしている。
【0032】
この第3の実施の形態に係る塑性ひずみ測定用パターン1Cは、基本的に、上述した第1の実施の形態と同様の作用・効果を有するが、パターンの特性上、金属材料を張出成形する場合や、加工金属材料をプレス等によって比較的複雑な形状に加工・成形する場合等、金属材料の塑性ひずみの方向が多様である場合に特に有用である。
なお、上記構成を有する第3の実施の形態に係る塑性ひずみ測定用パターン1Cを用いた金属材料の塑性ひずみを測定も、基本的には上述した第1の実施の形態における測定方法と同様の手順で行い、また、作用・効果については第1の実施の形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0033】
図5は、本発明の塑性ひずみ測定用パターンに係る第4の実施の形態を示すもので、この第4の実施の形態の塑性ひずみ測定用パターン1Dは、上述した第3の実施の形態と同様に、複数の円と格子形状とを組合わせたものであるが、第3の実施の形態とは異なるパターンに形成されている。
即ち、図5に示すように、この実施の形態の塑性ひずみ測定用パターン1Dは、複数の同径の円を縦方向及び横方向に直線的に規則的に配置すると共に、各円の中心を通る直線からなる、平面視略正方形状の空間を有する格子形状をさらに重ねて配置することによって、複数のエリアに規則的に区画したスクライブドサークルを基本としている。そして、これらの各エリアを、輪郭が相互に線接触した隣接する他のエリアと相互に異なる色で、第1の色のエリア2と第2の色のエリア3とにそれぞれ色分けし、各エリア2,3は、その色分けによって、隣接するエリアとの境界4の部分が視覚的に一義的に把握、特定できるようになっている。
なお、この実施の形態においても、上述した第1〜第3の実施の形態と同様、第1の色のエリア2の色を金属材料の地色とし、第2の色のエリア3は黒色で塗りつぶしたものとして、両エリアを2色で色分けしたものとしている。
【0034】
この第4の実施の形態に係る塑性ひずみ測定用パターン1Dは、基本的に、上述した第1の実施の形態と同様の作用・効果を有するが、上記第3の実施の形態に係る塑性ひずみ測定用パターン1Cと同様に、金属材料を張出成形する場合、あるいはプレス等によって比較的複雑な形状に加工・成形する場合等、金属材料の塑性ひずみの方向が複雑である場合に有用である。
なお、上記構成を有する第4の実施の形態に係る塑性ひずみ測定用パターン1Dを用いた金属材料の塑性ひずみを測定も、基本的には上述した第1の実施の形態における測定方法と同様の手順で行い、また、作用・効果については第1の実施の形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0035】
なお、上記第2〜第4の実施の形態において塑性ひずみ測定用パターン1B〜1Dを構成する各エリアの、隣接するエリアのとの境界線の長さは、1.0mm〜100mm程度とすることが適切であり、より好ましくは1.0〜50mm、さらには1.0〜10mmとするのが好ましいことは、上記第1実施の形態と同様である。
【0036】
上記第1〜第4の実施の形態においては、図1,図3〜図5の特定の形状を有する塑性ひずみ測定用パターン1A〜1Dを用いた例について説明しているが、塑性ひずみ測定用パターンは、複数のエリアに規則的に区画され、且つこれらの各エリアが、輪郭が相互に線接触した隣接する他のエリアと相互に異なる色でそれぞれ色分けされたものであれば、第1〜第4の実施の形態で説明した塑性ひずみ測定用パターン1A〜1D以外の適当なパターンを用いることができる。
また、上記塑性ひずみ測定用パターンの各エリアの色分けについては、隣接するエリアの境界部分が視覚的に一義的に特定できるものであれば、2色に限らず、3色以上の色を使用して色分けしてもよい。
【0037】
また、上記第1〜第4の実施の形態においては、上記塑性ひずみ測定用パターン1A〜1Dを用いた金属材料の塑性ひずみの測定を、塑性ひずみ測定用パターンをカメラで監視して画像を取込み、その画像を2次元座標を有する画像データに変換し、該2次元座標に基づいて各エリアのひずみの測定に必要な長さ等を測定し、この測定値に基づいて金属材料の塑性ひずみを測定する方法を用いている。
あるいは、測定者の実測による測定値に基づいて塑性ひずみを測定するようにしてもよい。
【実施例】
【0038】
本発明の効果を確認するため、上記第1の実施の形態で説明した塑性ひずみ測定用パターン1Aを印刷した金属材料(以下「本発明例」という。)と、従来の線のみで形成された格子形状のパターンからなる塑性ひずみ測定用パターンを印刷した金属材料(以下「比較例」という。)とを用いて、塑性ひずみ測定の測定精度を比較する実験を行った。
上記実験は、本発明例に係る塑性ひずみ測定用パターンと、比較例に係る塑性ひずみ測定用パターンとを、別々の薄鋼板の表面にそれぞれ印刷しておき、各薄鋼板に対して張出試験を行った。そして、破断後の塑性ひずみ測定用パターンを粘着テープで転写して、その画像を電子計算機に取込み、モニターの画像上において該パターンにおける各エリアの縦及び横の各長さを読取ることにより、本発明例と比較例とに、どの程度の読取り誤差が発生したかを調べた。
なお、上記張出試験は、本発明例及び比較例毎にそれぞれ62回ずつ行い、また、各エリアの縦及び横の各長さを読取りは、同じ測定者が別々の日にそれぞれ2回行った。
本発明例及び比較例の各塑性ひずみ測定用パターンは、いずれも、一辺が2mmの平面視正方形状のエリアからなる格子形状とし、比較例については、エリアを区画する線の幅(太さ)を約0.1mmとした。また、比較例に係るエリアの長さ測定の際には、各エリアを区画する線の内側を測定の起点又は終点とするようにした。
【0039】
この実験の結果、比較例の場合は、平均して0.121mmの読取誤差が生じていることがわかった。これは、塑性ひずみ測定用パターンにおける各エリアの縦・横の長さである2mmに対して約6%程度の誤差が発生していることになる。
一方、本発明例の場合は、読取誤差はほとんど生じなかった。そのため、本発明例は比較例に比べて読取精度が約6%程度向上したことになる。これは、隣接する各エリアが色分けされたことにより、比較例のような各エリアを区画する線の幅方向の取扱い自体が排除されたため、この線の幅分の読取誤差の発生が防止されたためだと考えられる。
以上により、本発明は、金属材料に設けた塑性ひずみ測定用パターンに係るひずみの測定を精度よく且つ安定的に行うことができることがわかった。したがって、金属材料の塑性ひずみの高精度な測定を行うことができることが実証された。
【符号の説明】
【0040】
1A〜1D 塑性ひずみ測定用パターン
2 第1の色のエリア
3 第2の色のエリア
4 境界


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塑性変形させる金属材料の表面に配設されて、該金属材料を塑性変形させた際の塑性ひずみの測定に用いられる、金属材料の塑性ひずみ測定用のパターンにおいて、
上記パターンが、複数のエリアに規則的に区画され、且つこれらの各エリアが、輪郭が相互に線接触した隣接する他のエリアと相互に異なる色でそれぞれ色分けされていることを特徴とする金属材料の塑性ひずみ測定用パターン。
【請求項2】
上記パターンは、塑性ひずみの測定対象となる上記金属材料の表面の色からなるエリアと、該金属材料の表面の色とは異なる他の色により色分けされているエリアとを有していることを特徴とする請求項1に記載の金属材料の塑性ひずみ測定用パターン。
【請求項3】
上記パターンは、相互に異なる2つの色によりエリアが色分けされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の塑性ひずみ測定用パターン。
【請求項4】
金属材料が塑性変形した後の塑性ひずみを、該金属材料の表面に配設したひずみ測定用のパターンのひずみを測定することにより金属材料の塑性ひずみを測定する方法において、
上記パターンとして、複数のエリアに規則的に区画し、且つこれらの各エリアを、輪郭が相互に線接触した隣接する他のエリアと相互に異なる色でそれぞれ色分けした塑性ひずみ測定用パターンを用い、色分けした各エリアの境界部分を基準として該パターンのひずみを測定することを特徴とする金属材料の塑性ひずみ測定方法。
【請求項5】
上記パターンを、塑性ひずみの測定対象となる上記金属材料の表面の色と、該金属材料の表面の色とは異なる別の色とで色分けすることを特徴とする請求項4に記載の金属材料の塑性ひずみ測定方法。
【請求項6】
上記パターンを、相互に異なる2つの色により各エリアを色分けすることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の金属材料の塑性ひずみ測定方法。
【請求項7】
上記パターンを、上記金属材料の塑性変形前に、該金属材料の表面に塗料によって予め印刷しておき、塑性変形後における金属材料の表面に透明な粘着テープを押し付けることにより、該粘着テープに塑性変形後のパターンを転写して該パターンのひずみを測定することを特徴とする請求項4から請求項6のいずれかに記載の金属材料の塑性ひずみ測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−53888(P2013−53888A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191245(P2011−191245)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】