説明

金属条、コネクタ、および金属条の製造方法

【課題】
基板へのはんだ付け性が良好で、保管時およびFPCまたはFFCへのかん合時に、端子部にウィスカが発生しない、鉛フリ-のコネクタに必要な金属条を提供する。
【解決手段】
金属条の母材金属上にNiめっきを施し、その上に光沢剤を含まないSn-(1〜4mass%)Cuめっきを施す。この金属条をSn-(1〜4mass%)Cu合金の融点(固相線)以上の温度で熱処理することにより、Niめっき層の上にCu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層、Cu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層の上にSn層もしくはSn-Cu合金層を形成する。さらに、この金属条を加工してコネクタを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気コネクタを構成する端子、特にFPC(フレキシブル・プリント基板)、FFC(フレキシブル・フラット・ケ-ブル)等の別部材との電気的接続のために、かん合されるコネクタ端子、並びにこれを構成する金属条及びその製造方法に関する。特に無鉛めっきが施された狭ピッチの無鉛めっきコネクタ端子、及びこれを構成する金属条に関する。
【背景技術】
【0002】
コネクタを構成する端子は、基板への取り付けの際にはんだ付けされるため、一般にこれを構成する金属条の全面めっき処理が施されている。低環境負荷の鉛フリ-のめっき処理としては、はんだ付け性、接触信頼性、耐食性の観点から、Ni下地層の上にSn系はんだ層を形成するものや、CuまたはCu合金にSnめっきを施した安価なSnめっき材などが知られている。さらに0.5mmピッチ以下の狭ピッチ・コネクタの場合には、隣のコネクタ端子と接触し、短絡をおこすおそれのあるウィスカの成長も同時に抑制する必要がある。
【0003】
母材金属上にNiめっきを施し、その上にSn-Cuめっきを施すことによって、はんだ付け性、耐食性を確保する方法が提案されている(特許文献1)。また、母材金属上にNiもしくはCuの下地めっきを施し、その上にSn-Biめっきを施すことによって、接続時に接触部からウィスカが発生するのを防止する方法が提案されている(特許文献2)。さらに、母材金属上にNi層、Ni-Sn金属間化合物層、Ni-Sn金属間化合物およびSnからなる混在層、酸化Sn層を順次、有するめっき層を形成することにより、ウィスカ発生防止とはんだ濡れ性を両立する方法も提案されている(特許文献3)。また、CuまたはCu合金の表面に、NiまたはNi合金めっき、Cuめっき、SnまたはSn合金めっきを施し、400〜900℃で熱処理することにより、CuまたはCu合金側から順に、NiまたはNi合金層、CuとSnもしくはCuとSnとNiを主成分とする層、SnまたはSn合金層の順に形成して、良好なはんだ付け性、耐ウィスカ性、耐熱信頼性、成形加工性を提供する方法が提案されている(特許文献4)。
【0004】
【特許文献1】特開2002-164106号公報
【特許文献2】特開2005-56605号公報
【特許文献3】特開2006-49083号公報
【特許文献4】特開2003-293187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、Ni下地めっきの上に単にSn-Cuめっきを施して提供される金属条では、はんだ濡れ性、耐食性は確保されるが、ウィスカ成長を抑制することは困難である。2層めっきをするだけでは、Ni下地めっきとSn-Cuめっきの界面にCu-Sn化合物が形成されず、長期間保存すると、NiがSn-Cuめっき中のSn粒界を選択的に拡散することにより、Ni-Sn化合物がSn粒界に沿って成長し、これに伴う局所的な体積変化により、内部圧縮圧力が生じ、これが最表面のSn酸化膜を破壊し、ウィスカが発生・成長してしまう。
【0006】
また、特許文献2のように、金属条のNiもしくはCuの下地めっきの上にSn-Biめっきを施すだけでは、ウィスカ発生の完全抑止は難しい。NiもしくはCuとSn-BiめっきのSnがリフロ-時に反応し、界面にNi-Sn化合物もしくはCu-Sn化合物が形成され、反応のバリア層が無いために、これらの反応層の形成量は多い。これにより、めっき内部に大きな内部圧縮応力が発生し、ひいては、Ni下地めっき/Sn-Cuめっきより発生頻度は低いが、ウィスカが発生してしまう。
【0007】
さらに、特許文献3のように、Ni層、Ni-Sn金属間化合物層、Ni-Sn金属間化合物およびSnからなる混在層、酸化Sn層を順次、有するめっき層を形成する方法では、Ni-Sn化合物が表面のSn酸化物層まで到達するほど成長してしまっており、多量のNi-Sn化合物生成により、めっき内部に大きな内部圧縮応力が発生し、Ni-Sn化合物の支持柱効果をもってしても、ウィスカが発生してしまう。また、Ni-Sn化合物の一部が表面のSn酸化物層まで到達していることにより、そうでない場合と比べて、はんだ濡れ性も劣る。
【0008】
また、特許文献4については、熱処理することにより、Ni層の上にCu-Sn化合物層が形成されるので、NiとSn-Cuめっき層が接しないため、Ni-Sn化合物の成長を抑制でき、ひいては内部圧縮応力起因のウィスカの成長を抑制しうる。しかし、ウィスカ対策として、めっき膜内部圧縮応力起因のウィスカしか考慮しておらず、400〜900℃と高温で熱処理することにより、めっき膜が非常に硬くなってしまい、コネクタかん合の際に発生する外部圧縮応力起因のウィスカを抑制することができない。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、めっき膜の内部圧縮応力起因ウィスカ成長の抑制(めっき膜内部金属間化合物層の成長抑止)のほか、コネクタかん合の際に発生する外部圧縮応力起因ウィスカ成長をも抑制し、はんだ濡れ性を確保するコネクタ端子、及びこれを構成する金属条を提供するものである。
【0010】
ここで、上記した金属条の利用形態としては主としてコネクタがある。基板の端子間をフレキシブル接続する場合にFPCまたはFFCが一般に使用される。この場合、両方の基板の端子にコネクタをはんだ付けし、両方のコネクタをFPCまたはFFCを介して接続する必要がるが、このコネクタのうち、特に、端子ピッチが0.5mm以下の狭ピッチで、鉛フリ-であるコネクタに対して本発明の金属条を用いることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば次のとおりである。
(1)母材金属と、前記母材金属上に形成されたNi層と、前記Ni層上にされたCu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層と、前記Cu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層上に形成されたSn層もしくはSn-Cu合金層と、を有し、ビッカ-ス硬度が100以下であることを特徴とする金属条である。
(2)(1)1記載の金属条であって、前記Sn層もしくはSn-Cu合金層と前記Cu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層中のSn+Cuの全合計量に対するCu全合計量の割合が1〜4mass%であることを特徴とする金属条である。
(3)金属条の製造方法であって、母材金属上にNi層、Sn-(1〜4mass%)Cu合金層を順次積層させる工程と、前記積層された母材金属を前記Sn-(1〜4mass%)Cu合金の固相線温度以上の温度で熱処理し、前記Ni層上にCu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層、前記Cu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層上にSn層もしくはSn-Cu合金層、を形成する工程と、を有することを特徴とする金属条の製造方法である。
(4)(3)記載の金属条の製造方法であって、前記Sn-(1〜4mass%)Cu合金層は無光沢めっきにより積層させることを特徴とする金属条の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、めっき膜の内部圧縮応力起因ウィスカ成長の抑制(めっき膜内部金属間化合物層の成長抑止)のほか、コネクタかん合の際に発生する外部圧縮応力起因ウィスカ成長をも抑制し、はんだ濡れ性を確保する、金属条、及びこれにより形成されるコネクタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず、本発明に係る金属条の第1の実施形態について、図1を用いて説明する。
図1は、本発明に係る金属条1の層構造の断面を示すものであり、母材金属2上には、Ni層3と、Ni層3上に形成されたCu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層4と、Cu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層4上に形成され、光沢剤を含まないSn層もしくはSn-Cu合金層5とによる積層構造が設けられている。また前記金属条1のビッカース硬度は100以下である。
本構造では、母材金属2と光沢剤を含まないSn層もしくはSn-Cu合金層5との間に2重の反応防止バリア層が形成されることが重要となる。すなわち、これによれば、Cu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層4により、Ni層3と光沢剤を含まないSn層もしくはSn-Cu合金層5の間の反応を抑止でき、また、Ni層3により、母材金属2とCu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層4、光沢剤を含まないSn層もしくはSn-Cu合金層5との間の反応を抑止できるため、めっき膜内のNi-Sn化合物、Cu-Sn化合物、Cu-Ni-Sn化合物成長を防止でき、金属条表面から発生する内部圧縮応力起因のSnウィスカの抑制を図ることができる。一般には母材金属2としてはリン青銅のようなCu合金が多く使用され、このCu合金からのCu供給による化合物化の促進がウィスカの原因となりうるが、上記の通り、Ni層3によりリン青銅からのCu供給は遮断され、母材金属とCu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層4との反応は抑止されるため、本発明の層構造を有する金属条によれば、母材金属を特殊な材料にすることなく、通常のリン青銅を用いることができる。
【0014】
また、本構造では、ビッカ-ス硬度を100以下に設定しているため、FPCまたはFFCとかん合して外部から圧力が印加された場合でも、かん合部には圧縮応力があまり発生せず、外部圧縮応力起因のウィスカ成長も抑制することができる。
【0015】
なお、本構造の Ni層3の厚さは0.05〜1.0μmの範囲とすることが好ましい。Ni層3の厚さが0.05μm未満であると、母材金属2とCu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層4、光沢剤を含まないSn層もしくはSn-Cu合金層5との間の反応抑止機能が十分に機能しなくなり、1.0μmより厚いと、金属条の成形加工性が悪くなるからである。
また、形成されるCu-Sn化合物はCu6Sn5が主で、形成されるCu-Ni-Sn化合物は(Cu, Ni)6Sn5が主であるが、他にCu3Snや(Cu, Ni)3Snが一部形成される場合もある。また、Sn-Cu合金層5中のCu割合は通常、Sn-Cu共晶組成である0.7〜0.9mass%となる。
さらに、表面層(Ni層3、Cu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層4、光沢剤を含まないSn層もしくはSn-Cu合金層5)の合計厚さは、1〜10μmの範囲とすることが好ましい。1μm未満であると、はんだ濡れ性が低下し、10μmを超えると、金属条の成形加工性が悪くなるからである。
【0016】
ここで、本構造では、第1層としてNi層、第2層としてCu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層、第3層として光沢剤を含まないSn層もしくはSn-Cu合金層が形成され、ビッカース硬度が100以下となる金属条を例にとって記載したが、これに限られるものではなく、2重の反応防止バリア層を形成して化合物化の進行を防ぐ構成を取りうる材料の組み合わせであって、ビッカ-ス硬度を100以下に設定したものであれば、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、第2層としてZn-Sn化合物層、第3層としてビッカ-ス硬度100以下のSnとZnとの共晶組成の層を用いても構わない。また、第1層はCo層、Fe層等であってもよい。
【0017】
次に、本発明に係る金属条の製造方法について説明する。
図2は、本発明に係る金属条を製造するために用いる熱処理前の金属条6の第一の積層構造の断面図であり、母材金属2上にNi層3、Ni層3上に無光沢Sn-Cu合金層7を順次めっき等により設けて形成する。ここで、Ni層3上に形成された無光沢Sn-Cu合金層7は、後述の熱処理によりNi層3の直上にCu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層4を形成するために必要となる。
なお、無光沢Sn-Cu合金層7の厚さは1〜5μmの範囲とすることが好ましい。1μm未満であると、はんだ濡れ性が低下し、5μmを超えると、金属条の成形加工性が悪くなるからである。また、Sn-Cu合金層7は、Zn、Al、Si、Mg、Tiのうちの1種以上の金属を1mass%以下含んでいてもよい。これらの酸化しやすい金属を微量含むことにより、後の熱処理時やリフロ-時に、これらの金属が選択的に酸化されるため、最表面のSn-Cu合金層の酸化を最小限に抑えることが可能となり、最表面の酸化Sn層のフタ効果によるめっき膜内部圧縮応力の発生およびこれに伴うウィスカの発生を抑制することができる。
【0018】
以上の層形成処理の後、金属条6を無光沢Sn-Cu合金層7の固相線以上の温度で熱処理することで、無光沢Sn-Cu合金層7が部分的に融ける。これにより無光沢のSn-Cu合金層7中に浮島状に存在していたCu-Sn化合物の一部が融け、これがNi層3の直上に差異析出し、Cu-Sn化合物層が形成される。また、さらに液相線以上の温度まで上げた場合には、無光沢Sn-Cu合金層7が完全に融ける。その後、冷却するとCu-Sn化合物が再析出するが、この時、Niが再析出の核となり、Cu-Sn化合物はNi層3上に析出する。ここで、熱処理温度が液相線温度よりも低い場合には、Cu-Sn化合物が再析出するのみで終わることもあるが、熱処理温度が液相線温度以上の場合には、Cu-Sn化合物が析出すると同時に、Ni層3と反応してNi層3直上にCu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物4が形成される。
【0019】
熱処理後、表面層は光沢剤を含まないSn層もしくはSn-Cu合金層5となる。光沢剤を含まないSn-Cu合金層中のCu割合は通常Sn-Cu共晶組成である0.7〜0.9mass%となる。この場合、表面層には酸化Snが比較的少ないため、その後の接続時のはんだ濡れ性も良好な金属条を提供することができる。
ここで、製造された金属条1のSn層もしくはSn-Cu合金層5とCu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層4の元となる無光沢Sn-Cu合金層7には光沢剤が含まれていないため、金属条1を得るための熱処理を行った後も、金属条1のビッカ-ス硬度は100以下と低いため、FPCやFCC等とのかん合の際に発生する外部圧縮応力起因のウィスカを抑制することができる。
なお、表面層は通常、最も安定した状態であるSn-Cu合金層(Sn-Cu共晶組成)となるが、表面層が極めて薄くなる場合、例えば2μm以下程度となる場合には、表面層はSnとなる場合もある。これは層厚が2μm以下の場合には、Sn-Cu共晶組成の層として存在するよりも、すべてのCu成分が表面層の下層にあるCu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物側に用いられ、表面層がSn層となったほうが安定状態となるためである。
【0020】
ここで、上記の熱処理は350℃以下で行うことが望ましい。350℃以上の温度で熱処理を行うと、ビッカ-ス硬度が100より高くなってしまい、FPCまたはFFCとかん合して、外部から応力が印加された場合に、かん合部に圧縮応力が発生し、ウィスカが発生・成長してしまうほか、表面の酸化度合いが高くなり、はんだ濡れ性が著しく劣化するからである。
【0021】
熱処理温度を350℃以下とするためには、無光沢Sn-Cu合金層7のCuの割合は4mass%以下とする必要がある。また、無光沢Sn-Cu合金層7のCuの割合を1mass%未満とすると、Sn-Cu合金共晶のCu割合0.7〜0.9mass%との差が小さすぎて、Ni層3の上に再析出するCu-Sn化合物もしくはCu-Ni-Sn化合物の量が少なすぎ、Cu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層4の一部にCu-Sn化合物もしくはCu-Ni-Sn化合物が形成されない部分ができて、Ni層3と光沢剤を含まないSn層もしくはSn-Cu合金層5の間の反応を完全に抑止できない。よって、無光沢Sn-Cu合金層7のCuの割合は1〜4mass%とする必要がある。なお、Sn-(1〜4mass%)Cu組成の場合、固相線温度は227℃、液相線温度は約235〜350℃である。
【0022】
すなわち、Ni層3上の無光沢Sn-Cu合金層7のCu割合を1〜4mass%とし、350℃以下の温度で熱処理することにより、金属条1のビッカ-ス硬度は100以下となり、内部応力起因のウィスカ抑制と外部応力起因のウィスカ抑制を両立することができる。
【0023】
なお、一般に上記のように使用する無光沢めっきは光沢めっきと比べてはんだ濡れ性が大きく劣ることが知られているが、350℃以下の低温で熱処理することによって、実用レベルまで改善することができる。
【0024】
また、上記では本発明の金属条を製造するために用いる熱処理前の金属条6として、Ni層3と無光沢Sn-Cu合金層7との積層構造を例に挙げて説明したが、これに限られず、図3に示すように第二の積層構造として、母材金属2上に光沢剤を用いないNi層3とCu層8とSn層9とを順次積層したものを用いても構わない。なお、Sn層9には、Zn、Al、Si、Mg、Tiのうちの1種以上の金属を1mass%以下含んでいてもよい。これらの酸化しやすい金属を微量含むことにより、後の熱処理時やリフロ-時に、これらの金属が選択的に酸化されるため、最表面のSn層7の酸化を最小限に抑えることが可能となり、最表面の酸化Sn層のフタ効果によるめっき膜内部圧縮応力の発生およびこれに伴うウィスカの発生を抑制することができる。
この場合、層形成処理後、金属条をSnの融点以上、少なくともSn-Cu合金の固相線以上350℃以下の温度で熱処理し、Cu層8とSn層9とを完全に反応させることで、Ni層3の直上にCu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層が形成され、表面層にSn層もしくはSn-Cu合金層が形成され、ビッカース硬度が100以下となるので、同様の効果を有する金属条1を製造することができる。
【0025】
以下、具体的な実験の結果を示す。
【0026】
本発明の金属条のサンプル(実施例1〜9)、従来の金属条のサンプル(比較例1〜4)について、ビッカ-ス硬度、ウィスカ(内部応力起因、外部応力起因)発生状況を調べた結果を図4に示す。サンプルには、リン青銅製の母材金属(32mm×15mm×厚さ0.25mm)を使用し、めっき前処理として、電解脱脂処理および酸活性処理を行った後、表面にめっき層を通常の電気めっき法により逐次、形成した。めっき膜厚の測定は蛍光X線膜厚計を用いた。その後、N2中、所定の温度で10秒間保持して、熱処理した。
金属条サンプル表面のビッカ-ス硬度の測定は、マイクロビッカ-ス硬度計を用いて、クリ-プ速度5gf/2s、クリ-プ時間5sで測定した。
【0027】
ウィスカ発生状況の確認は以下のように行った。金属条サンプルを加工して形成したコネクタにFPCをかん合し、室温、相対湿度50%で、1000時間放置後、金属顕微鏡および走査型電子顕微鏡で観察することにより行った。ウィスカ長は最大長さとした。
実施例1〜9では、ビッカ-ス硬度は100以下と比較的軟らかく、内部応力起因のウィスカ発生は見られず、外部応力起因のウィスカも最大長さ20μm以下であった。
【0028】
本発明の金属条のサンプル(実施例1〜9)、従来の金属条のサンプル(比較例1〜4)について、はんだ濡れ性を調べた結果を図5に示す。
はんだ濡れ性の評価はメニスコグラフを用いてゼロクロス時間と最大濡れ力を測定することにより行った。試験サンプルは15mm×3mm×厚さ0.25mmの金属条を用いた。浴はんだにはSn-3Ag-0.5Cuを用い、浴温は240℃とした。下降速度は2.0mm/s、浸漬深さは2.0mm、保持時間は20sとした。試料ははんだ浴に浸漬する前に、25mass% WW Rosin/IPAフラックスに先端を約3mm、5秒間浸漬して、フラックスを塗布した。
【0029】
実施例1〜9では、ゼロクロス時間が比較的短く、最大濡れ力が比較的大きく、良好なはんだ濡れ性が得られた。
従来の金属条サンプルを用いた比較例1〜4では、ウィスカ発生(内部応力起因、外部応力起因)、はんだ濡れ性の何れかに問題が見られた。
実施例、比較例のうち、Sn-Cu合金層の液相線温度以上の温度で熱処理したサンプルのNi層直上にはCu-Ni-Sn化合物層が、液相線温度より低い温度で熱処理したサンプルのNi層直上にはCu-Sn化合物層が形成された。また、Sn-Cuめっき厚さが1.5μmと薄い実施例9のサンプルでは、熱処理後、最表面層がSn-0.75Cu層にはならず、Sn層となった。
【0030】
以上の実験結果から、本発明に係る金属条であれば、耐ウィスカ性(内部応力起因ウィスカ抑制、外部応力起因ウィスカ抑制)、はんだ濡れ性においていずれも良好であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る金属条の層構造の模式的断面図である。
【図2】本発明に係る金属条を製造するために用いる熱処理前の金属条の第一の層構造の模式的断面図である。
【図3】本発明に係る金属条を製造するために用いる熱処理前の金属条の第二の層構造の模式的断面図である。
【図4】本発明の金属条と従来の金属条のウィスカ発生状況を示す図である。
【図5】本発明の金属条と従来の金属条のはんだ濡れ性を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 金属条
2 母材金属
3 Ni層
4 Cu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層
5 光沢剤を含まないSn層もしくはSn-Cu合金層
6 熱処理前の金属条
7 無光沢Sn-Cu合金層
8 Cu層
9 Sn層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材金属と、
前記母材金属上に形成されたNi層と、
前記Ni層上に形成されたCu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層と、前記Cu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層上に形成されたSn層もしくはSn-Cu合金層と、を有し、ビッカ-ス硬度が100以下であることを特徴とする金属条。
【請求項2】
請求項1記載の金属条であって、
前記Sn層もしくはSn-Cu合金層と前記Cu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層中のSn+Cuの全合計量に対するCu全合計量の割合が1〜4mass%であることを特徴とする金属条。
【請求項3】
請求項1又は2記載の金属条であって、
前記Sn層もしくは前記Sn-Cu合金層は最表面層であり無光沢層であることを特徴とする金属条。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の金属条であって、
前記Ni層と前記Sn層もしくは前記Sn-Cu合金層とは、これらの間に形成された前記Cu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層により互いに接していないことを特徴とする金属条。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の金属条であって、
前記Cu-Sn化合物層もしくは前記Cu-Ni-Sn化合物層は、前記Ni層に接して形成されており、前記Sn層もしくは前記Sn-Cu合金層は、前記Ni層には接することはなく、前記Cu-Sn化合物層もしくは前記Cu-Ni-Sn化合物層に接して形成されていることを特徴とする金属条。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の金属条であって、
前記Sn層もしくは前記Sn-Cu合金層および前記Cu-Sn化合物層もしくは前記Cu-Ni-Sn化合物層は、前記Ni層上に積層された光沢剤を含まないSn-Cu合金めっき層を熱処理することにより形成されたものであることを特徴とする金属条。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の金属条であって、
前記母材金属は、Cu合金であることを特徴とする金属条。
【請求項8】
請求項7記載の金属条であって、
前記母材金属は、リン青銅であることを特徴とする金属条。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の金属条を加工して形成したことを特徴とするコネクタ。
【請求項10】
金属条の製造方法であって、
母材金属上にNi層、Sn-(1〜4mass%)Cu合金層を順次積層させる工程と、
前記積層された母材金属を前記Sn-(1〜4mass%)Cu合金の固相線温度以上の温度で熱処理し、前記Ni層上にCu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層、前記Cu-Sn化合物層もしくはCu-Ni-Sn化合物層上にSn層もしくはSn-Cu合金層、を形成する工程と、を有することを特徴とする金属条の製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の金属条の製造方法であって、
前記Sn-(1〜4mass%)Cu合金層は無光沢めっきにより積層させることを特徴とする金属条の製造方法。
【請求項12】
請求項10又は11記載の金属条の製造方法であって、
前記Sn-(1〜4mass%)Cu合金層は、Zn、Al、Si、Mg、Tiのうち1種以上の金属を1mass%以下含むことを特徴とする金属条の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−97053(P2009−97053A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271947(P2007−271947)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】