説明

金属板のアブレーション加工方法

【課題】 エネルギーの拡散及びレーザビームの反射を抑制可能な金属板のアブレーション加工方法を提供することである。
【解決手段】 金属板にレーザビームを照射してアブレーション加工を施す金属板のアブレーション加工方法であって、少なくともアブレーション加工すべき金属板の領域にレーザビームの波長に対して吸収性を有する窒化物の微粉末を混入した液状樹脂を塗布して該微粉末入り保護膜を形成する保護膜形成工程と、該保護膜形成工程を実施した後、該保護膜が形成された金属板の領域にレーザビームを照射してアブレーション加工を施すレーザ加工工程と、を具備したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板にレーザビームを照射してアブレーション加工を施す金属板のアブレーション加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI、LED等の複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され表面に形成されたシリコンウエーハ、サファイアウエーハ等のウエーハは、例えばレーザ加工装置によるアブレーション加工によって個々のデバイスに分割され、分割されたデバイスは携帯電話、パソコン等の各種電気機器に広く利用されている。
【0003】
レーザ加工装置によるアブレーション加工方法では、ウエーハに対して吸収性を有する波長のパルスレーザビームをウエーハに照射してアブレーション加工によりレーザ加工溝を形成する。そして、このレーザ加工溝に沿ってブレーキング装置でウエーハを割断して個々のデバイスへと分割する(例えば、特開平10−305420号公報参照)。
【0004】
また、サファイア基板の上面に積層されたエピタキシャル層(n型半導体とp型半導体からなる発光層)をCu、Mo等の金属板の表面に金錫等のロー剤によって貼り付け、サファイア基板側からレーザビームを照射してサファイア基板とエピタキシャル層との間に介在するバファー層を破壊して、エピタキシャル層を金属板に移し替えるリフトオフと称する技術が知られている。この金属板を分割して形成された裏面に金属板を有するデバイスは、耐熱特性が優れているという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−305420号公報
【特許文献2】特開2007−118011号公報
【特許文献2】特開2004−72052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、半導体ウエーハによってはTEG(Test Element Group)と称するデバイスの特性をテストする電極が分割予定ライン(ストリート)上に形成されている場合がある。TEGのような金属膜(金属板)が形成されていると、レーザビームのエネルギーの拡散及び反射が起こり、レーザビームのエネルギーがアブレーション加工に十分使用されず、TEGの部分でアブレーション加工が遮断されるという問題がある。
【0007】
また、リフトオフ技術により形成された表面にエピタキシャル層を有する金属板にレーザビームを照射して、エピタキシャル層とともに金属板を分割してLED等の発光デバイスを形成すると、金属板においてレーザビームのエネルギーの拡散及びレーザビームの反射が起こりエネルギー損失が大きく、レーザ加工が十分遂行されないという問題がある。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エネルギーの拡散及びレーザビームの反射を抑制可能な金属板のアブレーション加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、金属板にレーザビームを照射してアブレーション加工を施す金属板のアブレーション加工方法であって、少なくともアブレーション加工すべき金属板の領域にレーザビームの波長に対して吸収性を有する窒化物の微粉末を混入した液状樹脂を塗布して該微粉末入り保護膜を形成する保護膜形成工程と、該保護膜形成工程を実施した後、該保護膜が形成された金属板の領域にレーザビームを照射してアブレーション加工を施すレーザ加工工程と、を具備したことを特徴とする金属板のアブレーション加工方法が提供される。
【0010】
好ましくは、窒化物の微粉末の平均粒径はレーザビームのスポット径より小さい。好ましくは、レーザビームの波長は355nm以下であり、窒化物の微粉末は、AlN、ZrN、HfN、六方晶BN及びTiNからなる群から選択された窒化物を含み、液状樹脂はポリビニルアルコールを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属板のアブレーション加工方法は、少なくともアブレーション加工をすべき金属板の領域にレーザビームの波長に対して吸収性を有する窒化物の微粉末を混入した液状樹脂を塗布して保護膜を形成するので、レーザビームが窒化物の微粉末に吸収されてバンドギャップエネルギーに達して原子の結合力が破壊されることによって連鎖的に金属板にアブレーション加工が施され、エネルギーの拡散及びレーザビームの反射が抑制されて金属板基板のアブレーション加工が効率的に円滑に遂行される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のアブレーション加工方法を実施するのに適したレーザ加工装置の斜視図である。
【図2】レーザビーム照射ユニットのブロック図である。
【図3】粘着テープを介して環状フレームにより支持された表面にエピタキシャル層を有する金属板の斜視図である。
【図4】粘着テープを介して環状フレームにより支持されたストリート上にTEGが形成された半導体ウエーハの斜視図である。
【図5】液状樹脂塗布工程を示す斜視図である。
【図6】アブレーション加工工程を示す斜視図である。
【図7】アブレーション加工が終了した状態の粘着テープを介して環状フレームにより支持された表面にエピタキシャル層の形成された金属板の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の金属板のアブレーション加工方法を実施するのに適したレーザ加工装置の概略構成図を示している。
【0014】
レーザ加工装置2は、静止基台4上にX軸方向に移動可能に搭載された第1スライドブロック6を含んでいる。第1スライドブロック6は、ボールねじ8及びパルスモータ10から構成される加工送り手段12により一対のガイドレール14に沿って加工送り方向、すなわちX軸方向に移動される。
【0015】
第1スライドブロック6上には第2スライドブロック16がY軸方向に移動可能に搭載されている。すなわち、第2スライドブロック16はボールねじ18及びパルスモータ20から構成される割り出し送り手段22により一対のガイドレール24に沿って割り出し方向、すなわちY軸方向に移動される。
【0016】
第2スライドブロック16上には円筒支持部材26を介してチャックテーブル28が搭載されており、チャックテーブル28は加工送り手段12及び割り出し送り手段22によりX軸方向及びY軸方向に移動可能である。チャックテーブル28には、チャックテーブル28に吸引保持された金属板をクランプするクランプ30が設けられている。
【0017】
静止基台4にはコラム32が立設されており、このコラム32にはレーザビーム照射ユニット34を収容するケーシング35が取り付けられている。レーザビーム照射ユニット34は、図2に示すように、YAGレーザ又はYVO4レーザを発振するレーザ発振器62と、繰り返し周波数設定手段64と、パルス幅調整手段66と、パワー調整手段68とを含んでいる。
【0018】
レーザビーム照射ユニット34のパワー調整手段68により所定パワーに調整されたパルスレーザビームは、ケーシング35の先端に取り付けられた集光器36のミラー70で反射され、更に集光用対物レンズ72によって集光されてチャックテーブル28に保持されている金属板11に照射される。
【0019】
ケーシング35の先端部には、集光器36とX軸方向に整列してレーザ加工すべき加工領域を検出する撮像ユニット38が配設されている。撮像ユニット38は、可視光によって金属板の加工領域を撮像する通常のCCD等の撮像素子を含んでいる。
【0020】
撮像ユニット38は更に、金属板に赤外線を照射する赤外線照射器と、赤外線照射器によって照射された赤外線を捕らえる光学系と、この光学系によって捕らえられた赤外線に対応した電気信号を出力する赤外線CCD等の赤外線撮像素子から構成される赤外線撮像ユニットを含んでおり、撮像した画像信号はコントローラ(制御手段)40に送信される。
【0021】
コントローラ40はコンピュータによって構成されており、制御プログラムに従って演算処理する中央処理装置(CPU)42と、制御プログラム等を格納するリードオンリーメモリ(ROM)44と、演算結果等を格納する読み書き可能なランダムアクセスメモリ(RAM)46と、カウンタ48と、入力インターフェイス50と、出力インターフェイス52とを備えている。
【0022】
56は案内レール14に沿って配設されたリニアスケール54と、第1スライドブロック6に配設された図示しない読み取りヘッドとから構成される加工送り量検出手段であり、加工送り量検出手段56の検出信号はコントローラ40の入力エンターフェイス50に入力される。
【0023】
60はガイドレール24に沿って配設されたリニアスケール58と第2スライドブロック16に配設された図示しない読み取りヘッドとから構成される割り出し送り量検出手段であり、割り出し送り量検出手段60の検出信号はコントローラ40の入力インターフェイス50に入力される。
【0024】
撮像ユニット38で撮像した画像信号もコントローラ40の入力インターフェイス50に入力される。一方、コントローラ40の出力インターフェイス52からはパルスモータ10、パルスモータ20、レーザビーム照射ユニット34等に制御信号が出力される。
【0025】
図3を参照すると、本発明第1実施形態の被加工物である表面にエピタキシャル層13を有する金属板11の斜視図が示されている。この金属板11の製造方法では、n型半導体及びp型半導体からなるエピタキシャル層13が、図示しないサファイア基板上に積層され、エピタキシャル層13側がCu、Mo等の金属板11の表面に金錫等のロー剤によって貼着される。
【0026】
その後、サファイア基板側からレーザビームを照射してサファイア基板とエピタキシャル層13との間に介在するバッファ層を破壊してエピタキシャル層13をサファイア基板からリフトオフし、エピタキシャル層13を金属板11表面に移し替えるリフトオフ技術により製造される。
【0027】
エピタキシャル層13には、第1のストリートS1と第2のストリートS2とが直交して形成されており、第1のストリートS1と第2のストリートS2とによって区画された領域にLED等の多数の発光デバイスDが形成されている。
【0028】
金属板11は粘着テープであるダイシングテープTに貼着され、ダイシングテープTの外周部は環状フレームFに貼着されている。これにより、金属板11はダイシングテープTを介して環状フレームFに支持された状態となり、図1に示すクランプ30により環状フレームFをクランプすることによりチャックテーブル28上に支持固定される。
【0029】
図4を参照すると、本発明第2実施形態の被加工物である半導体ウエーハWの斜視図が示されている。図3に示したエピタキシャル層13と同様に、半導体ウエーハWの表面には第1のストリートS1と第2のストリートS2とが直交して形成されており、第1のストリートS1と第2のストリートS2とによって区画された領域に多数のデバイスDが形成されている。
【0030】
図4の一部拡大図に示すように、第2のストリートS2には、デバイスDの特性をテストする電極であるTEG(Test Element Group)15が形成されている。第1のストリートS1にも、同様なTEG15が形成されている。図3に示した実施形態と同様に、ウエーハWは粘着テープであるダイシングテープTに貼着され、ダイシングテープTの外周部は環状フレームFに貼着されている。
【0031】
本発明の金属板のアブレーション加工方法を、図3に示す第1実施形態の被加工物である金属板11について以下に説明する。まず、金属板11のアブレーション加工すべき領域にレーザビームの波長に対して吸収性を有する窒化物の微粉末を混入した液状樹脂を塗布する液状樹脂塗布工程を実施する。
【0032】
例えば、図5に示すように、液状樹脂供給源76にはレーザビームの波長(例えば355nm)に対して吸収性を有する窒化物の微粉末(例えばAlN)を混入したPVA(ポリビニルアルコール)等の液状樹脂80が貯蔵されている。
【0033】
ポンプ78を駆動することにより、液状樹脂供給源76に貯蔵されている液状樹脂80を供給ノズル74から金属板11の表面に供給し、液状樹脂80を金属板11の表面に塗布する。そして、この液状樹脂80を硬化させてレーザビームの波長に対して吸収性を有する窒化物の微粉末が混入された保護膜82を形成する。
【0034】
金属板11の表面上への液状樹脂80の塗布方法は、例えば金属板11を回転させながら塗布するスピンコート法を採用可能である。PVA(ポリビニルアルコール)、PEG(ポリエチレングリコール)等の液状樹脂中に混入される窒化物の微粉末として、本実施形態ではAlNを採用した。
【0035】
図5に示す実施形態では窒化物の微粉末を含有する液状樹脂80を金属板11の全面に塗布して保護膜82を形成しているが、液状樹脂80をアブレーション加工すべき領域、即ち第1のストリートS1及び第2のストリートS2のみに塗布して保護膜を形成するようにしてもよい。液状樹脂に混入する窒化物の微粉末の平均粒径はレーザビームのスポット径より小さいのが好ましく、例えば10μmより小さいのが好ましい。
【0036】
本実施形態では、窒化物の微粉末として、AlN、ZrN、HfN、六方晶BN、TiNを採用することができる。表1にこれらの窒化物の消光係数(消衰係数)k及び融点を示す。ちなみに、消光係数kと吸収係数αとの間にはα=4πk/λの関係がある。ここで、λは使用する光の波長である。
【0037】
【表1】

【0038】
液状樹脂塗布工程を実施して金属板11の表面に保護膜82を形成後、アブレーション加工によるレーザ加工工程を実施する。このレーザ加工工程では、図6に示すように、金属板11及び保護膜82中の窒化物の微粉末に対して吸収性を有する波長(例えば355nm)のパルスレーザビーム37を集光器36で集光して金属板11の表面に照射しつつ、チャックテーブル28を図6で矢印X1方向に所定の加工送り速度で移動して、第1のストリートS1に沿ってアブレーション加工によりレーザ加工溝84を形成する。
【0039】
金属板11を保持したチャックテーブル28をY軸方向に割り出し送りしながら、全ての第1のストリートに沿ってアブレーション加工により同様なレーザ加工溝84を形成する。
【0040】
次いで、チャックテーブル28を90度回転してから、第1のストリートS1と直交する方向に伸長する全ての第2のストリートS2に沿ってアブレーション加工により同様なレーザ加工溝84を形成する。全てのストリートS1,S2に沿ってレーザ加工溝84を形成した状態の斜視図が図7に示されている。
【0041】
本実施形態のレーザ加工条件は、例えば以下のように設定されている。
【0042】
光源 :YAGパルスレーザ
波長 :355nm(YAGレーザの第3高調波)
平均出力 :0.5〜10W
繰り返し周波数 :10〜200kHz
スポット径 :φ1〜10μm
送り速度 :10〜100mm/秒
【0043】
図3に示した金属板11に対して説明した保護膜形成工程及びアブレーション加工によるレーザ加工工程は、図4に示すストリートS1,S2にTEG15として金属板を一部に含むウエーハWのアブレーション加工方法にも同様に適用することができる。
【0044】
第1及び第2実施形態のアブレーション加工方法によると、レーザビームの波長に対して吸収性を有する窒化物の微粉末を混入した液状樹脂80を金属板11又はウエーハWの表面に塗布して保護膜82を形成してから、アブレーション加工を実施するので、レーザビームのエネルギーが窒化物の微粉末に吸収されてバンドギャップエネルギーに達し原子の結合力が破壊されることによって連鎖的に金属板11又はウエーハWにアブレーション加工が施される。
【0045】
よって、エネルギーの拡散及びレーザビームの反射が抑制されてアブレーション加工が効率的に円滑に遂行される。液状樹脂中に混入される窒化物の微粉末は、加工促進剤としての作用を成すことになる。
【0046】
全てのストリートS1,S2に沿ってレーザ加工溝84を形成後、良く知られたブレーキング装置を使用して、ダイシングテープTを半径方向に拡張して金属板11又はウエーハWに外力を付与し、この外力により金属板11又はウエーハWをレーザ加工溝84に沿って個々の発光デバイス又はデバイスDに分割する。
【符号の説明】
【0047】
W 半導体ウエーハ
T 粘着テープ(ダイシングテープ)
F 環状フレーム
D 発光デバイス(デバイス)
2 レーザ加工装置
11 金属板
13 エピタキシャル層
15 TEG
28 チャックテーブル
34 レーザビーム照射ユニット
36 集光器
80 微粉末含有液状樹脂
82 保護膜
84 レーザ加工溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板にレーザビームを照射してアブレーション加工を施す金属板のアブレーション加工方法であって、
少なくともアブレーション加工すべき金属板の領域にレーザビームの波長に対して吸収性を有する窒化物の微粉末を混入した液状樹脂を塗布して該微粉末入り保護膜を形成する保護膜形成工程と、
該保護膜形成工程を実施した後、該保護膜が形成された金属板の領域にレーザビームを照射してアブレーション加工を施すレーザ加工工程と、
を具備したことを特徴とする金属板のアブレーション加工方法。
【請求項2】
前記窒化物の微粉末の平均粒径はレーザビームのスポット径より小さいことを特徴とする請求項1記載の金属板のアブレーション加工方法。
【請求項3】
前記レーザビームの波長は355nm以下であり、前記窒化物の微粉末は、AlN、ZrN、HfN、六方晶BN及びTiNからなる群から選択された窒化物を含み、前記液状樹脂はポリビニルアルコールを含むことを特徴とする請求項1又は2の何れかに記載の金属板のアブレーション加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate