説明

金属溶湯への浸漬用耐熱保護紙管及び耐熱保護管、それを用いた溶湯測温プローブ、溶湯試料採取プローブ、溶湯酸素濃度測定プローブ

【課題】耐火性、耐断熱性、耐衝撃性に優れ、製造コストも低い金属溶湯浸漬用の耐熱保護紙管、耐熱保護管を提供する。
【解決手段】耐熱保護紙官1は、細長い筒状の紙管2とその紙管2の先端部所定長さに外装した耐火材層3からなる。 紙管2は、テープ状のクラフト紙を螺旋状に複数層巻き回し、接着剤で重なり部分を接着しながら筒状に巻いて形成したものである。 耐火層3は、珪藻土を主成分として、これに若干の向き助剤を加えたのを有機バインダーで結合させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶湯の測温、試料採取等のために金属溶湯中に浸漬される熱電対リード線、試料採取容器等を高温溶湯から保護するための耐熱保護紙管、及び金属溶湯への浸漬、その他の用途で高熱から被保護物を保護するための耐熱保護管、並びにそれらを用いた溶湯測温プローブ、溶湯試料採取プローブ、溶湯酸素濃度測定プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に金属の溶製過程においては、金属溶湯の温度測定、成分分析のための試料採取が行なわれる。温度測定では補償導線に接続した熱電対を、試料採取では試料採取容器とその保持具を溶湯中に浸漬する必要があり、使用する補償導線、試料採取容器等を高温溶湯から保護するための保護管を必要とする。
【0003】
こうした保護管としては、クラフト紙、ライナー紙等を円筒状に巻いた紙管がその優れた断熱性から現在でも採用されている。しかし、紙管は高温溶湯に浸漬した際に、それに含まれる水分や有機成分が急激に気化して溶湯を飛散させるスプラッシュを発生させるため安全性に難がある。また、スプラッシュの発生に伴って紙管先端部に取り付けた熱電対、試料採取容器等が振動する問題もある。
【0004】
こうした問題の解決策として、紙管に無機質耐火材を外装する技術が開発された。外装材として、当初はアスベストが採用された。その後、アスベストの発癌性が問題視されるようになってからは、セラミック繊維、ガラス繊維等の無機繊維、珪藻土、アルミナやシリカの無機粉体等を主成分とする耐火材に代替えされた。
【0005】
こうした無機質耐火材を紙管に外装したり、それら自体で保護管を形成したりするには、それら耐火材の繊維や粉体を結合させたり紙管に付着させたりするためのバインダーを必要とする。これまでの技術では高温溶湯との関係において静粛性を確保しつつ耐火性能を維持するために、外装材や保護管に占めるバインダーとしての有機物の含有量は可能な限り少ない方がよいとされてきた。そのため外装材や保護管に使用する耐火材に混合するバインダーとしては、専らシリカゾル、アルミナゾル等の無機質バインダーが使用されてきた。本願の発明者等は、先に紙の乾留温度以下の低温度で分解して水を生成する材料を含む耐火材を紙管に外装する技術を開発して開示したが(特許文献1参照)、該技術においても耐火材のバインダーとしては、コロイダルシリカ、ケイ酸ソーダ等の無機質のもののみを使用した。
【0006】
しかし、無機質バインダーは耐火性が高い反面、接着力が弱いため、それを使用した紙管外装材は使用中に脱落することがあり安全性に難がある。また、無機質バインダーを用いた耐火材は柔軟性に乏しく耐衝撃性が低いため反復使用に対応できない問題がある。更に、シリカゾル、アルミナゾル等の無機質バインダーは高価である上、接着力の弱さから多量に使用するため製造コストが高くなる問題もある。加えて、セラミック繊維、ガラス繊維、アルミナ、シリカといった耐火原料にも材料費が高価という問題がある。
【特許文献1】特許第2525250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術のこうした問題点を解決するためになされたもので、その課題は、金属溶湯の測温、試料採取等のために金属溶湯中に浸漬される熱電対リード線、試料採取容器等を高温溶湯から保護するための耐熱保護紙管、及び金属溶湯への浸漬、その他の用途で高熱から被保護物を保護するための耐熱保護管であって、耐火性、耐断熱性、耐衝撃性に優れ、製造コストの安い耐熱保護紙管及び耐熱保護管、並びにそれらを用いた溶湯測温プローブ、溶湯試料採取プローブ、溶湯酸素濃度測定プローブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、金属溶湯の測温、試料採取等のために金属溶湯中に浸漬される熱電対リード線、試料採取容器等を高温溶湯から保護するための耐熱保護紙管であって、紙管の外周面に主成分としての珪藻土を有機バインダーで結合させた耐火材を外装し、乾燥させて成ることを特徴とする耐熱保護紙管である。
【0009】
有機バインダーは接着力が強いため、少ない使用量で珪藻土を強固に結合させることができる。そのため多孔質の珪藻土を有機バインダーで結合させた耐火材を紙管に外装させる本発明の耐熱保護紙管は、耐火性、耐断熱性、耐衝撃性に優れ、内部の紙管が高温溶湯から保護される時間が長くなる。その結果、金属溶湯の測温、試料採取等のために金属溶湯中に浸漬される熱電対リード線、試料採取容器等が高温溶湯から保護される時間も長くなる効果を奏する。また、耐火外装材の主成分に安価な珪藻土を使用するため、製造コストが安くなる利点も有する。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の耐熱保護紙管であって、前記耐火材の成分として珪藻土を83〜88重量%、前記有機バインダーとしてポリ酢酸ビニールを1〜7重量%、無機助剤としてアタパルジャイト、ベントナイト、モンモリロナイトの何れか1種以上とガラス繊維、を含ませたことを特徴とする耐熱保護紙管である。
【0011】
このような成分構成の耐火材を紙管の外装材として使用した耐熱保護紙管は、請求項1に記載の発明と同様の効果を奏する。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の耐熱保護紙管であって、前記有機バインダーがポリ酢酸ビニール、澱粉、ポリビニールアルコール、エストラマー、カゼインの何れか1種以上であることを特徴とする耐熱保護紙管である。
【0013】
これらの有機バインダーは少量で強固な接着力を有する。従って、これらを結合剤として使用した耐火材を紙管の外装材として使用した本構成の耐熱保護紙管は、請求項1に記載の発明と同様の効果を奏する。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の耐熱保護紙管であって、前記耐火材に水酸化アルミニウム又は含水カオリンの何れか又は双方を含ませたことを特徴とする耐熱保護紙管である。
【0015】
水酸化アルミニウム、含水カオリンは高温に加熱されると分解して水を発生させ、発生した水は蒸発して大量の気化熱を奪い耐火材層や紙管を冷却する。また耐火材層表面と金属溶湯との間に水蒸気による断熱層が形成される。こうした蒸散吸熱や断熱層の効果として紙管が炭化温度に加熱されるまでの時間が伸び、耐熱保護紙管の溶湯中への浸漬可能時間が長くなる効果がもたらされる。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至3に記載の耐熱保護紙管であって、前記耐火材に無機鉱物であるワラストナイト又は焼成パーライト発泡体の何れか又は双方を含ませたことを特徴とする耐熱保護紙管である。
【0017】
ワラストナイトも焼成パーライト発泡体も溶鋼のような高温度領域で利用した場合、熱衝撃による結晶の解離や強熱減量による収縮を引き起こすため従来は用いることが出来なかった。しかし、本構成のように断熱性の優れた珪藻土と併用した場合には、熱衝撃や強熱減量が緩和されるため利用することができる。ワラストナイトも焼成パーライト発泡体も廉価であるため、これらの材料を原料の一部として使用することで耐熱性能は若干低下するものの安価な耐熱保護紙管を製造することができる。
【0018】
また、請求項6に記載の発明は、金属溶湯への浸漬、その他の用途で高熱から被保護物を保護するための耐熱保護管であって、主成分としての珪藻土を有機バインダーで結合した耐火材を管状に形成させて成ることを特徴とする耐熱保護管である。
【0019】
有機バインダーは接着力が強いため、少ない使用量で多孔質の珪藻土を強固に結合させることができる。そのため、本構成の耐熱保護管は耐火性、耐断熱性、耐衝撃性に優れ、被保護物を高温から効果的に保護することができる。また、耐火材の主成分に安価な珪藻土を使用するため製造コストが安くなる利点も有する。
【0020】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の耐熱保護管であって、前記耐火材の成分として珪藻土を83〜88重量%、前記有機バインダーとしてポリ酢酸ビニールを1〜7重量%、無機助剤としてアタパルジャイト、ベントナイト、モンモリロナイトの何れか1種以上とガラス繊維、を含ませたことを特徴とする耐熱保護管である。
【0021】
このような成分構成の耐火材で形成した耐熱保護管は、請求項6に記載の発明と同様の効果を奏する。
【0022】
また、請求項8に記載の発明は、請求項5又は6に記載の耐熱保護管であって、前記有機バインダーがポリ酢酸ビニール、澱粉、ポリビニールアルコール、エストラマー、カゼインの何れか1種以上であることを特徴とする耐熱保護管である。
【0023】
これらの有機バインダーは少量で強固な接着力を有する。従って、これらを結合剤として使用した耐火材で形成した耐熱保護管は、請求項6に記載の発明と同様の効果を奏する。
【0024】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1乃至8の何れかに記載の耐熱保護紙管又は耐熱保護管の先端部に溶湯温度測定用熱電対を取り付け、該熱電対の起電力を外部の測定器に導く補償導線を前記管に挿通して成ることを特徴とする溶湯測温プローブである。
【0025】
このような構成の溶湯測温プローブは、内部に挿通された補償導線を高温溶湯から保護できる時間が従来の耐熱保護紙管あるいは耐熱保護管を使用したものより長くなる効果を奏する。
【0026】
また、請求項10に記載の発明は、請求項1乃至8の何れかに記載の耐熱保護紙管又は耐熱保護管の先端部管内に、溶湯を取り込んで収容する耐火性の試料採取容器を収納して成ることを特徴とする溶湯試料採取プローブである。
【0027】
このような構成の溶湯試料採取プローブは、プローブを溶湯内に浸漬しておける時間が従来の耐熱保護紙管あるいは耐熱保護管を使用したものより長くなる効果を奏する。
【0028】
また、請求項11に記載の発明は、請求項1乃至8の何れかに記載の耐熱保護紙管又は耐熱保護管の先端部に溶湯酸素濃度測定用センサを取り付け、該センサの酸素起電力を外部の測定器に導く補償導線を前記管に挿通して成ることを特徴とする溶湯酸素測定プローブである。
【0029】
このような構成の溶湯酸素濃度計測プローブは、プローブを溶湯内に浸漬しておける時間が従来の耐熱保護紙管あるいは耐熱保護管を使用したものより長くなる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明に係る耐熱保護紙管及び耐熱保護管は、紙管の耐火外装材、保護管の耐火材料として珪藻土を主成分に使用し、その結合剤として有機バインダーを積極的に使用した耐火材を使用している点に特徴がある。「背景技術」でも述べたように、従来、有機バインダーは無機バインダーに比べて耐火性が著しく低く、有機バインダーを結合剤として使用した耐火材を金属溶湯に浸漬した場合には有機質が激しく燃焼して焼損消失すると同時に、激しいスプラッシュを発生させると考えられてきた。そのため、その使用量はできる限り抑える手法が採られてきた。
【0031】
これに対して本発明では、珪藻土を耐火材料の主成分とし、その結合剤として有機バインダーをむしろ積極的に使用する手法を採用している。これは、有機バインダー単体の耐火性は低いものの、その接着力は強力であるため多孔質粉体である珪藻土の結合剤として使用した場合には、珪藻土粉体の結合が強固に維持される。その結果として、その耐火材は金属溶湯に浸漬した場合の焼損損耗が少なくなる。加えてスプラッシュの発生も少なくなるという本願発明者等の知見に基づくものである。
【0032】
以下、本発明を実施形態に分けて説明する。
(第1の実施形態)
本実施形態は、耐熱保護紙管としての実施形態である。図1は、その耐熱保護紙管の外形の一例を斜視図で示したものである。本実施形態の耐熱保護紙管1は、細長い筒状の紙管2と、その紙管2の先部所定長さに外装した耐火材層3から成る。
【0033】
この耐熱保護紙管1は、例えば、溶鋼温度測定の際の保護管として使用される。その場合には、先端部分に透明石英管に封入された熱電対と、溶湯突入時の衝撃からそれを保護するための薄い鉄製キャップからなる測温カートリッジが取り付けられる。そして、熱電対に繋がる補償導線が紙管2内を通って外部の起電力測定器に接続される。溶湯中には、耐火材層3の約1/2の長さ部分が浸漬され、耐火材層3と内側の紙管2とにより紙管2内の補償導線が高温溶湯から保護される。
【0034】
紙管2は、テープ状のクラフト紙を螺旋状に複数層巻回し、接着剤で重なり部分を接着しながら筒状に巻いて形成したものである。螺旋状に巻く代わりにクラフト紙を平巻きし、重なり部分を接着剤で接着して筒状に仕上げてもよい。
【0035】
耐火材層3は珪藻土を主成分とし、これに若干の無機助剤を加えたものを有機バインダーで結合させたものである。珪藻土の割合は乾燥固形分の重量比で83〜88重量%、有機バインダーは1〜7重量%、残りが無機助剤である。珪藻土は、藻類の一種である珪藻の化石よりなる堆積物で、その成分は二酸化硅素である。珪藻土は殻を壊さない程度に粉砕したものを用いる。珪藻の殻には微細な孔が多数開いており、珪藻土は体積当たりの重さが非常に小さい。その粒径、即ち、珪藻の殻の大きさは100μmから1mmの間である。このように珪藻土は多孔質粉体であるため耐火性と断熱性に優れている。そのため溶湯の高熱から紙管2を保護する耐火材として好適である。
【0036】
無機助剤としては、アタパルジャイト、ベントナイト、モンモリロナイト等の粘土鉱物と、ガラス繊維、セラミック繊維、カーボン繊維等の無機繊維を用いる。これら助剤は複数種類用いてもよい。アタパルジャイトはMgとAlを含む含水珪酸塩鉱物で、微細な繊維組織を有する。ガラス繊維、セラミック繊維、カーボン繊維等は機械強度に優れた繊維である。それら繊維組織を有する無機助剤を主成分である珪藻土に加えることにより、それら繊維が絡み合って珪藻土の結合度が増し、耐火材層3の耐衝撃性が高まる効果が得られる。ベントナイト、モンモリロナイトは強力なゲル化剤で、製造時の保形性を良好にし、寸法安定性、表面平滑性を向上させる効果がある。
【0037】
有機バインダーは種類を選ばす、例えば、ポリ酢酸ビニール、ポリビニールアルコール、エラストマー、カゼイン、澱粉等を用いることができる。
【0038】
こうした材料を使用して図1に示したような耐火材層3を形成するには、最初に無機助剤と有機バインダーを水に分散させてプレゲル溶液を作り、これに珪藻土を加え混練して粘土状耐火材を得る。次に、耐火材層3の外形に等しい円筒状空間を有する金型内に紙管2を挿入し、紙管2と金型との間隙に粘土状耐火材を圧入して外装させる。外装後、取り出して温風で十分に乾燥させる。乾燥後、端部分を切断して整形し、図1に示したような紙管2の外面に耐火材層3を形成させた耐熱保護紙管1を得る。
【0039】
実施例として、耐火材層3を次のような配合比率で形成した耐熱保護紙管1を試作して性能を確かめた。なお、配合比率は乾燥固形分の重量比である。
(試作品A)焼成珪藻土88%、ポリ酢酸ビニール1%、アタパルジャイト7.5%、ガラス繊維3.5%
(試作品B)焼成珪藻土85%、ポリ酢酸ビニール4.5%、アタパルジャイト7.5%、ガラス繊維3%
(試作品C)焼成珪藻土83%、ポリ酢酸ビニール7%、アタパルジャイト7%、ガラス繊維3%
【0040】
このように配合比率を変えた試作品を実炉の溶鋼中に浸漬して使用してみたが、性能に殆ど差異は認められなかった。耐火材層3の損耗は少なく、耐火材層3の紙管2表面からの脱落も少なくなり、無機バインダーを使用した場合には困難であった複数回使用も可能であることが判明した。また、スプラッシュの発生程度は、有機バインダーであるポリ酢酸ビニールをかなり高い比率で配合した試作品Cにおいても、これまでの無機バインダーを使用した耐熱保護紙管よりも軽微で、溶湯は静粛であった。
【0041】
こうした好結果は次のような理由によるものと考えられる。最大の理由は、有機バインダーの接着力が非常に強いことにある。コンクリートを被接着物とした接着強度試験を行なったところ、通常の一般防火用である建築用耐火被覆材では接着強度が0.4kg/cm2 であったのに対して、試作品Bと同じ耐火材では9.2kg/cm2と20倍以上の強度を示した。このように接着強度が高いため、耐火材層3は紙管2の表面に強固に接着している。従って、高温溶湯による熱衝撃を受けても耐火材層3は紙管2表面から剥離せず、紙管2を高熱から保護し続ける効果がもたらされる。
【0042】
接着力が非常に強いことに加え、有機バインダーは無機バインダーよりも柔軟性を有する。こうした性質から珪藻土を有機バインダーで固めた耐火材の内部では、微細な無数の珪藻の殻が強固且つ柔軟に結合されている。そのため高温溶湯による熱衝撃を受けても、その結合が分解して溶湯中に脱落したり、溶解したりして耐火材が大きく損耗することは起こりにくい。即ち、珪藻の殻が結合した状態で長く留まるため、その多孔質性による断熱性によって耐火材層3の内層部分や紙管2は長く保護される効果がもたらされる。
【0043】
また、有機バインダーで珪藻土を固めた耐火材についてコーンカロリーメータを使用した燃焼テストを行なったところ、表1に示す結果が得られた。このテスト結果より、有機バインダーで珪藻土を固めた耐火材は建築基準に定める不燃材料の要件を完璧に満たしており、既存の防災用耐火断熱材料よりも優れていることが判明した。
【表1】

【0044】
従来、高温下では有機バインダーは燃焼して耐火性を下げると一般には考えられてきたが、逆に、発火速度が抑制される結果を示した。これは有機バインダーの接着力が強力であるため、それで結合された多孔質の珪藻土が断熱性を長く保持して有機バインダーの温度上昇を妨げると共に、外気の酸素が有機バインダーに到達するのを妨げ、その発火を遅らせているためと考えられる。こうした効果は、溶湯中においても同様に発揮されると考えられる。
【0045】
また、溶湯中は大気中と違って酸素が殆ど存在しないため、有機バインダーは酸素の存在しない雰囲気で高温加熱される。このような加熱では、有機バインダーは燃焼するのではなく乾留される。乾留により有機バインダーに含まれる水素、酸素はH2O、COとなって揮散する。しかし、炭素成分が相対的に多く含まれるため、残余の炭素が還元された状態で残り、それが溶湯中に溶け込むまでの間、珪藻土を結合させた状態に維持する。そのため珪藻土の結合した状態が長く継続し、珪藻土の多孔質性による断熱性によって耐火材層3の内層部分や紙管2が長く保護される効果を奏していると考えられる。
【0046】
また、有機バインダーを使用した前記各試作品がこれまでの無機バインダーを使用した耐熱保護紙管よりもスプラッシュの発生が少なく、溶湯が静粛性を保った理由は次のように考えられる。有機バインダーは接着力が強いためその使用量は少なくて済む。そのため有機バインダーの乾留により発生する水蒸気やCOガスの発生量も少ない。そして発生した気体は外側に残る多孔質珪藻殻の微細な隙間を抜け、微細な気泡となって溶湯中に噴出する。このように気体の発生量が少なく、しかもそれが微細な気泡となって溶湯中に噴出するためにスプラッシュの発生が抑制されるものと考えられる。
【0047】
以上、説明したような各種の作用により、珪藻土を有機バインダーで固めた耐火材層3を紙管2に外装した本実施形態の耐熱保護紙管1は、溶湯中に浸漬する保護管として極めて優れた性能を発揮するものである。
なお、上記実施形態では珪藻土の結合強度を高めるため繊維状形態を持つ無機助剤を使用したが、ベントナイトのような粘土鉱物でも良い。又はこれらの無機助剤を使用せずに珪藻土の配合割合をその分だけ増加させてもよい。
【0048】
(第2の実施形態)
本実施形態は、第1の実施形態の耐熱保護紙管1から紙管2を除いて耐火材層3のみとした耐熱保護管である。その外観斜視図を図2に示す。本実施形態の耐熱保護管4の耐火材成分は第1の実施形態の耐火材層3と同じであり、珪藻土を主成分とし、これに若干の無機助剤を加えたものを有機バインダーで結合させたものである。珪藻土の割合は乾燥固形分の重量比で83〜88重量%、有機バインダーは1〜7重量%、残りが無機助剤である。
【0049】
耐熱保護管4の形成方法も第1の実施形態の耐火材層3の形成方法とほぼ同じである。最初に無機助剤と有機バインダーを水に分散させてプレゲル溶液を作り、これに珪藻土を加え混練して粘土状耐火材を得る。この粘土状耐火材を射出成形により円筒状とし、取り出して乾燥させる。乾燥後、端部分を整形して図2に示したような耐熱保護管4を得る。別の形成方法として、第1の実施形態と同じようにして紙管2に耐火材層3を形成させた後、その耐火材層3が乾燥して紙管2に固く接着する前に紙管2を引き抜き、残った耐火材層3を乾燥させて耐熱保護管4としてもよい。この場合は紙管2の代わりに金属性パイプを使用してもよい。
【0050】
この耐熱保護管4は、第1の実施形態の耐熱保護紙管1における耐火材層3と同じく、金属溶湯中に浸漬した場合には優れた耐熱、断熱、耐衝撃性能を発揮する。なお、この耐熱保護管4は金属溶湯に浸漬する保護管としてだけでなく、溶融金属を流すための耐熱管、各種燃焼筒、耐熱性が要求される部分の耐熱管等としても使用できる。
【0051】
(第3の実施形態)
本実施形態は、第1の実施形態の耐熱保護紙管1における耐火材層3の材質に変更を加えたもので、耐火材層3の材質に、水酸化アルミニウム又は含水カオリンの何れか又は双方を加えたものである。水酸化アルミニウム、含水カオリンは、何れも高温に加熱されると分解して水を発生させる性質を有する。
【0052】
本願の発明者等は、先に耐熱保護紙管の耐火材層を構成する材料に紙の乾留温度以下の低温度で分解して水を生成する材料を含ませておく技術を開発して開示した(特許文献1参照)。その際、紙の乾留温度以上の高温度で分解して水を生成する材料を更に加えることにより水が生成される温度領域と発生時間を調整する技術についても開示した。
【0053】
加熱により分解して水を生成する材料を耐火断熱材料に含ませておく理由は、生成された水が蒸発の際に周囲から大量の熱を奪い、耐火材層や紙管の急激な温度上昇を緩和してそれらの焼損を遅らせる効果をもたらすことにある。また、発生した水蒸気が耐火材層表面と金属溶湯との間で適度なスプラッシュを発生させることにより水蒸気による断熱層が形成され、それにより溶湯の熱が耐火材層に伝わるのが妨げられる効果がもたらされることにもある。
【0054】
本実施形態において耐火材の成分として水酸化アルミニウム、含水カオリンを加えるのも同じ理由による。水酸化アルミニウムは約300℃の低温度で分解して水を生成し、蒸散吸熱作用で周囲から大量の熱を奪う。含水カオリンは高い温度で分解して水を生成する。従って、両者の配合割合を調整することで、水の発生する温度領域と発生時間を調整することができる。それらの配合割合は、例えば、珪藻土41%、ポリ酢酸ビニール3%、水酸化アルミニウムと含水カオリンを合わせて50%とし、残りは無機助剤とする。
【0055】
このような配合にしておくと水酸化アルミニウムと含水カオリンが高熱下で分解し、発生した水が蒸発する際に蒸散吸熱作用により周囲より大量の熱を奪う。また耐火材層表面と金属溶湯との間に水蒸気による断熱層が形成される。前述した珪藻土の結合剤に有機バインダーを使用した効果に、そうした水蒸気の発生に伴う冷却、断熱効果が加わり、紙管が炭化温度にまで加熱されるに要する時間が伸びる。それらの総合効果として、耐熱保護紙管の溶湯中への浸漬可能時間が延長される効果がもたらされる。また従来の無機バインダーのガラス化がもたらした発生ガスの閉塞による耐火材破裂の危険性も無くなる。
【0056】
(第4の実施形態)
本実施形態は、第1の実施形態の耐熱保護紙管1における耐火材層3の材料に変更を加えた物で,耐火材層3の増量剤として廉価な無機材料であるワラストナイト又は焼成パーライト発泡体の何れか、または双方を含ませることによって更に製造コストを低減させたものである。この場合、耐火材層中の珪藻殻は断熱材として機能するので、本来は耐火性能の劣るこれら無機材料を利用可能なものとすることができる。実施例では珪藻土と同重量のワラストナイトを加えたところ、材厚3mmもので1,700℃超の溶鋼に10秒以上の使用が可能であった。なお、ワラストナイトはウォラストナイト(和名:珪灰石)とも呼ばれる天然鉱物であり、粉砕すると繊維質粉末になる。繊維質であるため石綿の代替繊維として強い関心が寄せられている鉱物である。焼成パーライト発泡体は、黒曜石やパーライト(岩石)を高温で熱処理してできる発泡体であり、多孔質の特性を有する。
【0057】
(第5の実施形態)
本実施形態は、第1〜第4の実施形態にて説明した耐熱保護紙管1、耐熱保護管4を溶湯の測温用、溶湯試料採取用、及び溶湯酸素濃度測定用のプローブに応用した実施形態である。図3は、耐熱保護紙管1を採用した溶湯測温プローブ6の一例の断面図である。耐熱保護紙管1の先端には、熱電対9を内蔵するU字形石英管10が、そのU字形部を耐熱保護紙管1の先端から突出させるようにして耐火セメント8にて固定してある。石英管10のU字形部は、軟鋼製キャップ11で保護されている。熱電対9の起電力は、耐熱保護紙管1の内部を通る補償導線13により外部の起電力測定器に導かれる。溶湯の測温に要する時間は4〜6秒間である。該作業のために耐熱保護紙管に求められる性能は、その2倍の時間つまり12秒間は本体紙管をその乾留温度以下に維持することである。本体紙管をそのような温度以下に維持すれば、補償導線13は高温溶湯から保護される。熱電対9、それを内蔵する石英管10、及びキャップ11は消耗品である。図3の溶湯測温プローブ6は耐熱保護紙管1を補償導線13の保護に使用した例であるが、代わりに紙管2を有しない前述の耐熱保護管4を使用してもよい。
【0058】
図4は、耐熱保護紙管1を採用した溶湯試料採取プローブ15の一例の断面図である。耐熱保護紙管1の先端部管内に、溶湯を取り込んで収容する試料採取容器16が埋め込んである。試料採取容器16は、鋳鉄製カップ17、セラミック製流入口18、耐火セメント19にて形成してある。溶湯は、耐熱保護紙管1の側壁に穿設された流入口18を通して試料採取容器16に流れ込む。流入口18はセラミック製耐火材で内張りしてある。試料採取容器16内には脱酸用のアルミ細線を入れておくことがある。試料採取に要する時間は数秒〜十数秒間であり、その間、耐熱保護管1は試料採取容器16を保持する役割を果たす。図4に示した溶湯試料採取プローブ15は耐熱保護紙管1を使用した例であるが、代わりに紙管2を有しない前述の耐熱保護管4を使用してもよい。
【0059】
図5は、耐熱保護紙管1を採用した溶湯酸素濃度測定プローブ20の一例の断面図である。溶湯酸素濃度測定プローブ20は、耐熱保護紙管1の先端部に溶湯温度測定用の熱電対9、溶湯に電気的に接触される外部電極21、溶湯に浸漬される酸素センサ22を取り付けた構成になっており、全体が軟鋼製キャップ11で保護されている。酸素センサ22は酸素濃淡電池を構成するものであり、ジルコニアを主体とする固体電解質で形成された有底筒の中に、例えば、Mo粉末とMoO2粉末を混合した基準物質24を充填し、その中に金属電極25が埋め込んで構成してある。金属電極25と外部電極21の電位をリード線26により外部の起電力測定器に導いてその電位差を検出し、その電位差と熱電対9で検出した溶湯温度とから溶湯中の酸素濃度を算出する仕組みになっている。耐熱保護紙管1は、補償導線13とリード線26を高温溶湯から保護する。図5に示した溶湯酸素濃度測定プローブ20は耐熱保護紙管1を使用した例であるが、代わりに紙管2を有しない前述の耐熱保護管4を使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る耐熱保護紙管の斜視図である。
【図2】本発明に係る耐熱保護管の斜視図である。
【図3】溶湯測温プローブの一例の断面図である。
【図4】溶湯試料採取プローブの一例の断面図である。
【図5】溶湯酸素濃度測定プローブの一例の断面図である。
【符号の説明】
【0061】
図面中、1は耐熱保護紙管、2は紙管、3は耐火材層、4は耐熱保護管、6は溶湯測温プローブ、9は熱電対、13は補償導線、15は溶湯試料採取プローブ、16は試料採取容器、20は溶湯酸素濃度測定プローブ、21は外部電極、22は酸素センサを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属溶湯の測温、試料採取等のために金属溶湯中に浸漬される熱電対リード線、試料採取容器等を高温溶湯から保護するための耐熱保護紙管であって、紙管の外周面に主成分としての珪藻土を有機バインダーで結合させた耐火材を外装し、乾燥させて成ることを特徴とする耐熱保護紙管。
【請求項2】
請求項1に記載の耐熱保護紙管であって、前記耐火材の成分として珪藻土を83〜88重量%、前記有機バインダーとしてポリ酢酸ビニールを1〜7重量%、無機助剤としてアタパルジャイト、ベントナイト、モンモリロナイトの何れか1種以上とガラス繊維、を含ませたことを特徴とする耐熱保護紙管。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の耐熱保護紙管であって、前記有機バインダーがポリ酢酸ビニール、澱粉、ポリビニールアルコール、エストラマー、カゼインの何れか1種以上であることを特徴とする耐熱保護紙管。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の耐熱保護紙管であって、前記耐火材に水酸化アルミニウム又は含水カオリンの何れか又は双方を含ませたことを特徴とする耐熱保護紙管。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の耐熱保護紙管であって、前記耐火材にワラストナイト又は焼成パーライト発泡体の何れか又は双方を含ませたことを特徴とする耐熱保護紙管。
【請求項6】
金属溶湯への浸漬、その他の用途で高熱から被保護物を保護するための耐熱保護管であって、主成分としての珪藻土を有機バインダーで結合した耐火材を管状に形成させて成ることを特徴とする耐熱保護管。
【請求項7】
請求項6に記載の耐熱保護管であって、前記耐火材の成分として珪藻土を83〜88重量%、前記有機バインダーとしてポリ酢酸ビニールを1〜7重量%、無機助剤としてアタパルジャイト、ベントナイト、モンモリロナイトの何れか1種以上とガラス繊維、を含ませたことを特徴とする耐熱保護管。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の耐熱保護管であって、前記有機バインダーがポリ酢酸ビニール、澱粉、ポリビニールアルコール、エストラマー、カゼインの何れか1種以上であることを特徴とする耐熱保護管。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかに記載の耐熱保護紙管又は耐熱保護管の先端部に溶湯温度測定用熱電対を取り付け、該熱電対の起電力を外部の測定器に導く補償導線を前記管に挿通して成ることを特徴とする溶湯測温プローブ。
【請求項10】
請求項1乃至8の何れかに記載の耐熱保護紙管又は耐熱保護管の先端部管内に、溶湯を取り込んで収容する耐火性の試料採取容器を収納して成ることを特徴とする溶湯試料採取プローブ。
【請求項11】
請求項1乃至8の何れかに記載の耐熱保護紙管又は耐熱保護管の先端部に酸素濃度測定用センサを取り付け、該センサの酸素起電力を外部の測定器に導く補償導線を前記管に挿通して成ることを特徴とする溶湯酸素濃度測定プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−281378(P2008−281378A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124164(P2007−124164)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【特許番号】特許第4051392号(P4051392)
【特許公報発行日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(507151294)有限会社比土工業 (1)
【Fターム(参考)】