説明

金属溶解炉および金属溶解方法

【課題】炉蓋の開放時における炉内への外気侵入を防止又は抑制して、金属の酸化を極力回避することが可能な金属溶解炉および金属溶解方法を提供する。
【解決手段】金属溶解炉は、底部に出湯口11を有すると共に頭頂部に材料装入口12を有する縦型の炉体10と、材料装入口12を開閉すべく炉体の頭頂部に設けられた炉蓋21と、炉体内に装入された金属材料を加熱溶解すべく炉体の底部付近に設けられた燃焼バーナー16とを備える。炉体10には、燃焼バーナー16よりも高い位置において、炭酸ガスを炉体内に導入するためのガス導入管24が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属溶解炉に関する。より具体的には、鋳鉄等の金属溶湯を作り出すための金属溶解用ガスキュポラ、および、これを用いた金属溶解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炉体に装入された金属材料を燃焼火炎で溶解するガスキュポラが知られている。例えば特許文献1は、炉蓋によって開閉される材料装入口を頭頂部に有する縦型の炉体と、その炉体内の溶解室に配置された複数の酸素燃焼バーナーとを具備した金属溶解炉を開示する。液体又は気体燃料を酸素で燃焼させる酸素燃焼バーナーを用いた金属溶解は、酸素燃焼による高温火炎によって鉄などの高融点金属を溶解することができるという長所のみならず、空気燃焼バーナーの場合のような窒素ガスの加熱という無駄が無いので熱効率が高いという長所がある。
【0003】
他方で、酸素燃焼バーナーを用いた金属溶解炉では、空気燃焼の場合に比べて、燃料量あたりの燃焼ガス発生量がかなり少ないため、稼動時における溶解炉の内圧が大気圧よりも低くなる傾向にある。このため、金属材料を炉内に追加装入すべく炉蓋を開放したときに、炉体頭頂部の材料装入口から炉内に外気(空気)を吸い込む可能性が高く、炉体の気密性保持に多大の注意を払う必要があった。なお、かかる事情を慮って、酸素燃焼バーナーを用いた金属溶解炉の材料装入口付近にエアロック構造(例えば、入口と出口が同時開放されない設計の材料搬送用隔室を設置して空気の進入を極力制限するような構造)を採用するという提案もある。但し、そのようなエアロック構造も比較的高温の排気ガスに曝される環境にあるため、高温耐久性の点で不安がある。
【0004】
また、酸素燃焼バーナーを用いた金属溶解炉では、燃焼ガスが金属材料を包むことで金属が溶解されるが、その際に未燃焼の酸素が金属材料の一部を酸化して金属酸化物を生成することがある。かかる酸化物の生成は金属溶湯の質及び量を低下させ、最終的には材料の損失につながる。このため、高温火炎で金属材料を短時間で溶解すると共に、得られた溶湯を速やかに炉外に搬出できる構造とすることにより、未燃焼酸素との接触時間を短縮して酸化による材料損(一般に「酸化損失」という)を低減するように配慮している。
【0005】
しかしながら、炉体の頭頂部に大きく開口する材料装入口を炉蓋で開閉するタイプの金属溶解炉では、炉蓋の開放時に、相対的に低温の空気が材料装入口から炉内に流れ込むことは避けられない。不可避的に流れ込む空気は、低温であるがための比重の高さゆえに、炉体底部の溶解室(金属材料が燃焼バーナーからの燃焼ガスに直接接触して溶かされる領域)にまで達し易く、その結果、溶解室での酸素濃度を高めて酸化損失を増大させてしまう。
【0006】
もちろん、炉内には比較的高温の排気ガスが充満しており、炉蓋の開放時には、その排気ガスが上昇気流を生じさせ、外気が炉内に侵入するのを阻止するという面もないわけではない。しかしながら、金属材料の円滑な装入のために材料装入口の開口面積を比較的大きく設定している縦型炉にあっては、炉体の内周壁から離れた炉心域では、確かに排気ガスの上昇気流が顕著で結果的に外気侵入が阻止されているものの、材料装入口を区画形成する炉体内周壁に沿った周辺域では、炉心域とは逆に外気を炉内へ引き込むような下降気流が発生する。このため、縦型の溶解炉では、炉蓋の開放時に外気が炉内に流れ込み、溶解室での酸化損失を生じることは避けられなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−274958号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる実情に鑑みてなされものであり、その目的は、構造的に簡素でありながらも炉蓋の開放時(金属材料の装入時)における炉内への外気侵入を防止又は抑制して、金属の酸化を極力回避することが可能な金属溶解炉を提供することにある。また、炉蓋の開放時(金属材料の装入時)における炉内への外気侵入を防止又は抑制して、金属の酸化を極力回避可能な金属溶解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の金属溶解炉および金属溶解方法とは、
即ち、底部に出湯口を有すると共に頭頂部に材料装入口を有する縦型の炉体と、前記材料装入口を開閉すべく前記炉体の頭頂部に設けられた炉蓋と、前記炉体内に装入された金属材料を加熱溶解すべく前記炉体の底部付近に設けられた燃焼バーナーとを備えた金属溶解炉であって、前記炉体には、前記燃焼バーナーよりも高い位置において、空気よりも比重の大きい非酸化ガス、又はそのような非酸化ガスに転化し得る液体もしくは固体を炉体内に導入するための非酸化物質導入部が設けられていることを特徴とする金属溶解炉である。
また、底部に出湯口を有すると共に頭頂部に材料装入口を有する縦型の炉体と、前記材料装入口を開閉すべく前記炉体の頭頂部に設けられた炉蓋と、前記炉体内に装入された金属材料を加熱溶解すべく前記炉体の底部付近に設けられた燃焼バーナーとを備えた金属溶解炉を用いた金属溶解方法であって、前記炉体内に金属材料を装入すべく前記炉蓋を開放するときに、前記燃焼バーナーよりも高い位置において、空気よりも比重の大きい非酸化ガス、又はそのような非酸化ガスに転化し得る液体もしくは固体を炉体内に導入することにより、前記材料装入口を介して炉体内に外気が侵入するのを防止又は抑制することを特徴とする金属溶解方法である。
【0010】
本発明によれば、炉体内に金属材料を装入すべく炉蓋を開放するときに、空気よりも比重の大きい非酸化ガス、又はそのような非酸化ガスに転化し得る液体もしくは固体が炉体内に導入される。なお、前記液体もしくは固体は炉体内に導入されるやいなや、燃焼ガス又は排気ガスの熱により非酸化ガスに転化される。非酸化ガスは、炉体内の燃焼バーナーよりも高い位置に導入されること、及び、それ自体が空気よりも比重の大きいガスであることから、燃焼バーナーからの燃焼ガス(火炎)によって金属材料が溶かされる溶解室の上方に非酸化ガスの層を形成する。そして、この非酸化ガス層が一種のガスバリヤー層となり、炉蓋開放時に、材料装入口を区画形成する炉体内周壁に沿って外気(空気)が炉体の奥深くに侵入しようとするのを極力防止する。こうして、炉蓋の開放時(金属材料の装入時)においても、外気の侵入に起因する溶解室での酸素濃度の増大が防止又は抑制され、金属の酸化、つまりは酸化損失の増大が回避される。
【0011】
本発明の金属溶解炉にあっては、前記出湯口を基準とする前記材料装入口の高さをhとするとき、前記非酸化物質導入部は、h/3〜2h/3の範囲のいずれかの高さに設けられていることは好ましい。
本発明の金属溶解方法にあっては、前記出湯口を基準とする前記材料装入口の高さをhとするとき、前記非酸化ガス又は前記液体もしくは固体は、炉体内のh/3〜2h/3の範囲のいずれかの高さから導入されることは好ましい。
【0012】
非酸化ガス等の炉体内への導入位置をh/3未満の高さ位置に設定すると、燃焼バーナーからの燃焼ガスにより金属材料が直接加熱される溶解室に非酸化ガス等が直接的に導入され、その結果、溶解室の雰囲気温度を低下させて溶解効率を悪くするおそれがあり好ましくない。他方、非酸化ガス等の炉体内への導入位置を2h/3よりも高い位置に設定すると、開放された材料装入口、又は、一般に縦型炉体の上部付近に設置される排気ガス用の排気口から炉外へ非酸化ガスが抜け易くなり、上述したような非酸化ガス層の形成が不十分になるおそれがあり好ましくない。
【0013】
本発明の金属溶解炉にあっては、前記材料装入口を区画形成している炉壁の周囲には、加熱手段が設けられていることは更に好ましい。
本発明の金属溶解方法にあっては、前記炉体内に金属材料を装入すべく前記炉蓋を開放するときに、前記非酸化ガス又は前記液体もしくは固体の炉体内への導入に加えて、前記材料装入口を区画形成している炉壁の周囲に設けられた加熱手段により、前記材料装入口の周囲を加熱することは更に好ましい。
【0014】
このように炉蓋の開放時に、炉体の材料装入口の周囲を加熱して、材料装入口付近において炉内よりも炉外を相対的に高温雰囲気とすることにより、炉の周囲から炉内へ向かう外気の流れが遮断され、外気侵入が更に効果的に防止又は抑制される。
【0015】
[付記]本発明の更に好ましい態様や追加的構成要件を以下に列挙する。
(イ)前記燃焼バーナーは、酸素を助燃剤として燃料ガス又は燃料液体を燃焼させる酸素燃焼バーナーであること。かかる酸素燃焼バーナーでは、空気燃焼バーナーの場合よりも燃料量あたりの燃焼ガス発生量が少なく、溶解炉の内圧が大気圧よりも低くなり易いため、上述したような問題が生じやすく、従って本発明の必要性が高い。
(ロ)前記非酸化ガスは、炭酸ガス又はアルゴンガスであること。これらのガスは、気体状態で空気よりも比重が大きく且つ不活性で金属を酸化せず、又、工業用としての経済性をも備えるため、本発明で使用する非酸化ガスに適している。なお、窒素ガスについては、炉内でNOxを生成する可能性があるため、あまり好ましくない。
(ハ)前記加熱手段は、前記材料装入口を区画形成している炉壁を取り囲むようにリング状に形成された空気燃焼バーナーであること。かかる空気燃焼バーナーによれば、材料装入口の周囲に強力な上昇気流を伴うバーナー火炎を環状に連なった状態で作り出すことができ、これにより、炉体の周囲から炉内へ向かう外気の流れを遮断して、外気侵入を効果的に防止又は抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の金属溶解炉および金属溶解方法によれば、炉蓋の開放時(金属材料の装入時)における炉内への外気侵入を防止又は抑制して、金属の酸化、ひいては酸化損失の発生を極力回避することができる。このため本発明は、鉄等の高融点金属の溶解に適しているほか、アルミニウム等の活性金属の溶解にも適している。
【0017】
本発明の金属溶解炉によれば、炉体に非酸化物質導入部を追加設置するだけなので、従来のエアロック構造に比べて溶解炉の構造を簡素化できるのみならず、エアロック構造の場合に危惧されるような高温耐久性についての不安がほとんどない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に従う金属溶解炉の概略を示す鉛直方向断面図。
【図2】燃焼バーナーの配置の概要を示す水平方向断面図。
【図3】炉体内での高さ位置と温度との関係を模式的に示す温度分布グラフ。
【図4】炉体底部の出湯口の構造の変更例を示す部分断面図。
【図5】第2実施形態に従う金属溶解炉の概略を示す鉛直方向断面図。
【図6】炉壁加熱用の環状バーナーの概略を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のいくつかの実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0020】
[第1実施形態]
図1〜図3を参照して、鋳鉄の溶湯を作り出すための金属溶解炉の一実施形態を説明する。図1に示すように、本実施形態の金属溶解炉は縦型の炉体10を備え、この縦型の炉体10は鉛直方向に沿って直立した有底円筒形状をなしている。炉体10の底部には出湯口11が設けられ、炉体10の頭頂部には、炉体内に装入物Mを装入又は搬入するための材料装入口12が設けられている。この材料装入口12の直径は円筒状炉体10の直径にほぼ対応している。なお、出湯口11の最下部を基準(即ち高さ=0)とした場合において、材料装入口12の最上部の高さはhであり、このhが縦型炉体10の実質的な全高に相当する。
【0021】
炉体10の頭頂部には更に、材料装入口12を開閉するための炉蓋21と、その炉蓋21を開閉駆動するための蓋駆動機構22とが設けられている。図1では、蓋駆動機構22として、炉蓋21を開位置(実線で示す位置)と閉位置(二点鎖線で示す位置)との間で回動させるヒンジ式の駆動機構を採用しているが、これに代えて、炉蓋21を水平方向にスライドさせることで材料装入口を開閉するスライド式の駆動機構を採用してもよい。
【0022】
炉体10内には、金属材料からなる装入物Mを溶解するための溶解室13が区画形成され、この溶解室13の上部は装入物Mを予熱するための予熱室14となっている。溶解室13の底面に相当する炉床面15は、出湯口11に向けて下降する傾斜面として形成されており、溶解室13の最も低い場所に出湯口11が位置している。
【0023】
なお、装入物Mとなる金属材料としては、金属を基材とするスクラップ及び/又は銑鉄インゴットがあげられる。スクラップおよび銑鉄インゴットとしては、鉄系(例えば、鋳鉄、鋳鋼、ステンレス鋼、合金鋼)を例示することができる。装入物Mには、フェロシリコン、フェロマンガン等の合金添加材を適宜添加することができる。
【0024】
図1及び図2に示すように、炉体10の底部付近には、複数基の酸素燃焼バーナー16(本例では3基)が設けられており、これらのバーナー16は溶解室13の中心を指向している。図2は、炉体10を酸素燃焼バーナー16の高さ位置で水平方向に切断したときの断面を模式的に示す。図2に示すように、3基の酸素燃焼バーナー16からなるバーナー群は、炉体10の中心線Xに対して出湯口11付近に片寄った位置に配置されている。それぞれのバーナー16から噴出される燃焼火炎は、円筒に酷似した空洞状をなす空洞状火炎f(図2に二点鎖線で示す)をなす。隣り合う酸素燃焼バーナー16は、それぞれの空洞状火炎fが互いに重なり合うように配置されている。酸素燃焼バーナー16は、助燃ガスとして高濃度の酸素ガス(酸素濃度90%以上)を使用するため、空洞状火炎fの重なり部分の温度は1800℃〜3300℃という高温度に達する。それ故、装入物Mが高融点金属の場合でも、装入物Mを効率的且つ高速に溶解することができる。
【0025】
炉体10の上部には、燃焼火炎に由来する排気ガスを炉外へ導くための煙突状の排気通路17が設けられている。排気通路17の基端部(下端部)は、排気口17aとして炉体10の内壁面に開口している。なお、溶解室13及び予熱室14に装入された装入物Mの間を抜けて上昇してくる排気ガスは、装入物Mとの熱交換の結果、排気口17a付近において約200℃程度になる。また、排気通路17内には、その通路の断面積(即ち開度)を可変調節するためのダンパー18が設けられている。本実施形態では、ダンパー18は蝶型の弁体である。ダンパー18により、炉の内圧が外気に対して正圧(+の圧力)となるように排気通路17の開度を調節することで、外気が出湯口11から炉体10内に侵入するのを防止することができる。
【0026】
炉体10の高さ方向中程には、非酸化物質導入部としてのガス導入管24が設けられている。このガス導入管24は、酸素燃焼バーナー16よりも高い位置で且つ排気通路の排気口17aよりも低い位置に設定されている。より具体的には、ガス導入管24はh/3〜2h/3の範囲の高さに設定されている。その結果、ガス導入管24は、溶解室13の上の予熱室14に開口している。ガス導入管24は、開閉バルブ25を介して、炭酸ガスが貯蔵されたガスボンベ26(気体貯蔵容器)に接続されている。炭酸ガス(二酸化炭素ガス)は空気よりも比重が大きく、しかも金属を酸化しない非酸化ガスである。
【0027】
図1に示す金属溶解炉には、開閉バルブ25の開閉動作を制御する制御手段としての制御盤27が設けられている。この制御盤27の入力側は、蓋駆動機構22に電気的に接続されており、制御盤27の出力側は、開閉バルブ25に電気的に接続されている。制御盤27は、蓋駆動機構22から炉蓋21の開放(即ち炉蓋21の閉位置から開位置への切替え)を知らせる報知信号を受信すると、開閉バルブ25に対し開弁信号を発信して開閉バルブ25を全開状態にする。そして、ガスボンベ26からガス導入管24を介して予熱室14内に炭酸ガスを導入する。他方、制御盤27は、蓋駆動機構22から炉蓋21の閉塞(即ち炉蓋21の開位置から閉位置への切替え)を知らせる報知信号を受信したとき、又は、前記開弁信号の発信から所定時間の経過後に、開閉バルブ25に対し閉弁信号を発信して開閉バルブ25を全閉状態にし、炉内への炭酸ガス導入を遮断する。
【0028】
なお、本実施形態では、非酸化物質導入部としてのガス導入管24、開閉バルブ25、気体貯蔵容器としてのガスボンベ26、及び、制御手段としての制御盤27により、非酸化ガス導入装置が構成されている。
【0029】
本実施形態の金属溶解炉では、炉蓋21の開放に同期して開閉バルブ25が開弁されると、ガス導入管24から炉体内の予熱室14に炭酸ガスが導入される。炉体内に導入された炭酸ガスは、溶解室13(つまり、燃焼火炎で溶解中の金属材料を覆う領域)と予熱室14との境界域に供給され、一種のガスバリヤー層を形成する。特に溶解室13及び予熱室14には金属材料が多層状に堆積しており、これら多層状の金属材料が炭酸ガスの拡散防止に役立つため、両室13,14の境界域付近に炭酸ガスが滞留し易く、ガスバリヤー層の形成が容易になっている。
【0030】
本実施形態のような縦型の金属溶解炉では、炉蓋21の開放時に材料装入口12を区画形成する炉体内周壁に沿って外気(空気)が炉体10の奥深くに侵入しようとするが、上記炭酸ガスのガスバリヤー層は、内周壁に沿って降下する空気が当該ガスバリヤー層を突き破って更に下方に降下するのを阻止し、空気が溶解室13内に混入するのを防止する。それ故、溶解室13では、外気侵入に起因する酸素濃度の増大が防止又は抑制され、金属の酸化、つまりは酸化損失の増大を回避することができる。
【0031】
[実験例]
第1実施形態の金属溶解炉を具体化した実験炉での実証実験について説明する。
実験炉は、炉高(h)=2300mm、炉の直径=600mmであり、スチールスクラップを毎時2トンの割合で溶解処理可能に設計されている。この実験炉の3基の酸素燃焼バーナー16の各々には、13Aガス(都市ガス)と、酸素比λ=1となるような酸素ガスとを毎時72Nm(ノルマル立法メートル)で供給した。ここで、ノルマル立法メートルとは、0℃、1気圧の下での気体の体積を意味する。また、酸素比λ=1とは、燃料ガスの炭素分を100%燃焼するのに必要な理論当量どおりの酸素が併用されたことを意味する。なお、この実験炉の稼動時における炉内の温度分布(即ち炉内の高さ位置と温度との関係)の概要を図3のグラフに示す。図3に示すように、この実験炉では、高さ0〜h/3の範囲が高温帯となり、高さh/3付近から上の領域では炉内温度がほぼ200℃で一定している。それ故、高さ0〜h/3の範囲が溶解室13に相当する。また、この実験炉では、排気口17aはほぼ2h/3の高さに、ガス導入管24はほぼ2/hの高さにそれぞれ設定されており、高さh/3〜2h/3の範囲が予熱室14に相当する。
【0032】
上記実験炉を用いて約1000kgのスチールスクラップを二通りの方法で溶解処理する実験を行った。即ち、第1の実験は、スチールスクラップを炉内に追加供給すべく炉蓋21を開放したときでも、予熱室14に炭酸ガスを全く導入しないというもの(従来法)である。第2の実験は、スチールスクラップを炉内に追加供給すべく炉蓋21を開放する毎に、予熱室14に炭酸ガスを約1Nm(ノルマル立法メートル)導入するというもの(本発明の方法)である。上記第1の実験では、約1000kgのスチールスクラップに対して7%以上の酸化損失を生じた。これに対し、上記第2の実験では、約1000kgのスチールスクラップに対する酸化損失は2〜5%程度にとどまった。このように炉蓋の開放時における炭酸ガス導入の有効性が実験でも確認されている。
【0033】
[第1実施形態のまとめ]
空気燃焼バーナーを使用する通常の金属溶解炉では、助燃ガスとしての空気の約80%が窒素であることから、燃料量1に対して燃焼ガスの発生量が約15倍となり、炉の横断面全体に十分な速度の燃焼ガスを流すことができ、炉蓋の開放時においても外気の侵入をある程度抑制することが出来るという一面がある。これに対し、酸素燃焼バーナーを使用する従来型の金属溶解炉では、燃料量に対する燃焼ガスの発生量が相対的に少ないため、前述したように、炉蓋の開放時に炉の奥まで外気が侵入し易いという問題があった。その一方で、鉄等の高融点金属については空気燃焼バーナーでの高速溶解は難しく、鉄等の高速溶解には、酸素濃度が90%以上の助燃ガスを使用する酸素燃焼バーナーが圧倒的に有利であるという事情がある。この点、本実施形態の金属溶解炉では、酸素燃焼バーナー16を採用すると共に、蓋駆動機構22と連動する非酸化ガス導入装置(24〜27)を併設したことで、鉄等の高融点金属の高速溶解を可能にするという要求と、金属材料補充のための炉蓋開放時に炉の内奥への外気侵入を防止又は抑制するという要求との両立を図ることができる。
【0034】
[第1実施形態の変更例]
図1に示された出湯口11に代えて、図4に示すようなサイホン方式の出湯口31を採用しても良い。即ち、出湯口31は、その上壁31aから下方に向けて突設されたサイホン仕切壁31bと、下壁31cから上方に向けて突設された出口堰31dと、サイホン貯湯空間31eとを備える。そして、サイホン仕切壁31bの下端部よりも出口堰31dの上端部が上方に位置することから、出湯口31は、外気を溶解室13に進入させないサイホン式の外気進入防止構造となっている。この構造によれば、サイホン貯湯空間31eに溶湯が溜まって保持されることで、出湯口31を介した溶解室31への外気侵入が効果的に防止される。
【0035】
[第2実施形態]
図5及び図6は、第2実施形態に従う金属溶解炉を示す。この金属溶解炉は、上記第1実施形態の金属溶解炉に対して加熱手段を追加すると共に、炉底部の出湯口として図4に示したようなサイホン方式の出湯口31を採用したものに相当する。
【0036】
図5及び図6に示すように、炉体10の炉頂部付近であって材料装入口12を区画形成している炉壁の周囲には、加熱手段としての炉頂バーナー33が設けられている。この炉頂バーナー33は、リング状のガス配管34を備え、そのガス配管34の上面側に多数のガス吹出口35をほぼ等間隔で形成してなるものである。このリング状の炉頂バーナー33によれば、ガス吹出口35から上方に向けて噴出する燃料ガスが燃焼することによるバーナー火炎の群によって炉壁の周囲が強力に加熱される。
【0037】
この第2実施形態では、炉体10内に金属材料を装入すべく炉蓋21を開放する際、前記非酸化ガス導入装置(24〜27)による予熱室14への炭酸ガス導入に同期して、炉頂バーナー33が、材料装入口12を区画形成している炉壁の周囲を加熱する。この加熱によって、材料装入口12付近では炉内よりも炉外が相対的に高温雰囲気となること、及び、材料装入口12の周囲に強力な上昇気流を伴うバーナー火炎が環状に連なった状態で出現することの相乗効果により、炉体10の周囲から炉内へ向かう外気の流れが遮断され、外気侵入が効果的に防止又は抑制される。かかる炉頂バーナー33の作用・効果を高めるためには、炉頂バーナー33のタイプとしては、燃焼ガスの発生量が多く外気の遮断効果が大きい空気燃焼バーナーの方が酸素燃焼バーナーよりも好ましい。
【0038】
なお、第2実施形態では、炉頂バーナー33によるバーナー火炎群の作用により、炉の内部から炉外(炉体の上方)に吸い上げるような吸引力が大きくなり、炉底部での負圧が大きくなって出湯口付近からの外気侵入が危惧されるところである。この点、第2実施形態では、出湯口としてサイホン方式の出湯口31を採用しているので、上記吸引力に起因して出湯口31から外気が侵入することはなく、従って溶解室13の温度を低下させるおそれもない。
【0039】
[その他の変更例]上記実施形態を以下のように変更して実施してもよい。
空気よりも比重の大きい非酸化ガスとして、炭酸ガスに代えてアルゴンガスを使用してもよい。また、上記各実施形態では、ガス導入管24を介して炭酸ガスを炉内に導入するようにしたが、これに代えて、ドライアイス(固体)の形で炉内に導入した後、炉内においてドライアイスを炭酸ガスに転化させ、炭酸ガスのガスバリヤー層を形成するようにしてもよい。上記各実施形態では、ガス導入管24を一つとしたが、炉体10に複数のガス導入管24を取り付けてもよい。
【0040】
上記第2実施形態では、加熱手段としてリング状の炉頂バーナー33を用いたが、加熱手段はこれに限定されない。リング状の炉頂バーナー33に代えて、例えば単管状の燃焼バーナーを複数基、炉体10の周囲に配列してもよい。
【符号の説明】
【0041】
10…縦型の炉体
11…出湯口
12…材料装入口
16…酸素燃焼バーナー
17…排気通路
21…炉蓋
22…蓋駆動機構
24…ガス導入管(非酸化物質導入部)
33…炉頂バーナー(加熱手段)
M…装入物(金属材料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に出湯口を有すると共に頭頂部に材料装入口を有する縦型の炉体と、
前記材料装入口を開閉すべく前記炉体の頭頂部に設けられた炉蓋と、
前記炉体内に装入された金属材料を加熱溶解すべく前記炉体の底部付近に設けられた燃焼バーナーとを備えた金属溶解炉であって、
前記炉体には、前記燃焼バーナーよりも高い位置において、空気よりも比重の大きい非酸化ガス、又はそのような非酸化ガスに転化し得る液体もしくは固体を炉体内に導入するための非酸化物質導入部が設けられていることを特徴とする金属溶解炉。
【請求項2】
前記出湯口を基準とする前記材料装入口の高さをhとするとき、前記非酸化物質導入部は、h/3〜2h/3の範囲のいずれかの高さに設けられていることを特徴とする請求項1に記載の金属溶解炉。
【請求項3】
前記材料装入口を区画形成している炉壁の周囲には、加熱手段が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属溶解炉。
【請求項4】
底部に出湯口を有すると共に頭頂部に材料装入口を有する縦型の炉体と、
前記材料装入口を開閉すべく前記炉体の頭頂部に設けられた炉蓋と、
前記炉体内に装入された金属材料を加熱溶解すべく前記炉体の底部付近に設けられた燃焼バーナーとを備えた金属溶解炉を用いた金属溶解方法であって、
前記炉体内に金属材料を装入すべく前記炉蓋を開放するときに、前記燃焼バーナーよりも高い位置において、空気よりも比重の大きい非酸化ガス、又はそのような非酸化ガスに転化し得る液体もしくは固体を炉体内に導入することにより、前記材料装入口を介して炉体内に外気が侵入するのを防止又は抑制することを特徴とする金属溶解方法。
【請求項5】
前記出湯口を基準とする前記材料装入口の高さをhとするとき、前記非酸化ガス又は前記液体もしくは固体は、炉体内のh/3〜2h/3の範囲のいずれかの高さから導入されることを特徴とする請求項4に記載の金属溶解方法。
【請求項6】
前記炉体内に金属材料を装入すべく前記炉蓋を開放するときに、前記非酸化ガス又は前記液体もしくは固体の炉体内への導入に加えて、前記材料装入口を区画形成している炉壁の周囲に設けられた加熱手段により、前記材料装入口の周囲を加熱することを特徴とする請求項4又は5に記載の金属溶解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−230237(P2010−230237A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78034(P2009−78034)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】