説明

金属異形管への防食被膜の形成装置

【課題】金属異形管の外面に亜鉛等からなる防食被膜を、優れた作業環境の下で容易に自動的かつ高能率で形成することが可能な、金属異形管への防食被膜の形成装置を提供する。
【解決手段】金属異形管6の外面に防食被膜を溶射により形成する装置であって、ターンテーブル1と、ターンテーブル1上に、ターンテーブル1の回転方向に沿って間隔をあけて設けられた、それぞれ鉛直軸を中心として回転可能な複数個の金属異形管把持手段と、溶射ガン10が取り付けられたロボット9と、開閉扉12を有し、ロボット9とターンテーブル1の一部を、少なくとも1つの前記金属異形管把持手段とともに遮蔽する集塵ブース11とからなり、ロボット9は、集塵ブース11内の金属異形管の外面に向けて、溶射ガン10から溶射材を溶射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属異形管への防食被膜の形成装置、特に、ダクタイル鋳鉄製または鋼製の曲管、T字管等の金属異形管の外面に亜鉛等からなる防食被膜を、優れた作業環境のもとで容易に自動的かつ高能率で形成することが可能な、金属異形管への防食被膜の形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ダクタイル鋳鉄製の直管は、その形状が2次元に近く、自動溶射装置の制御が比較的容易であることから、自動溶射装置により防食被膜を直管の外面に均一にかつ能率的に形成することは既に行われていた。
【0003】
ダクタイル鋳鉄製の直管の外面に亜鉛等からなる防食被膜を溶射により自動的に形成する装置が特許文献1(特開平5−222511号公報)に開示されている。以下、この鋳鉄管への防食被膜の形成装置を従来装置といい、図面を参照しながら説明する。
【0004】
図5は、従来装置を示す概略斜視図である。
【0005】
図5に示すように、従来装置は、ダクタイル鋳鉄製の直管21の長手方向に沿って敷設されたレール22上を走行可能な台車23と、台車23上に設けられた、直管21をその軸芯回りに回転させる回転ローラ24と、回転ローラ24上に載置された直管21の外面に亜鉛等の溶射材を溶射して防食被膜25を形成する溶射ガン26と、直管21の外面に形成された防食被膜25を局部的に加熱するレーザ照射装置27と、加熱された防食被膜25を押圧する加圧ローラ28とからなっている。溶射ガン26とレーザ照射装置27と加圧ローラ28とは、台車23の走行方向上流側から順次、間隔をあけて、この順番で配置されている。
【0006】
上記従来装置によれば、以下のようにして、直管21の外面に防食被膜25が自動的に形成される。
【0007】
回転ローラ24上に直管21を水平に載置し、台車23を、図中、A矢印方向に走行させるとともに、回転ローラ24により直管21を、図中、B矢印方向に回転させる。そして、溶射ガン26とレーザ照射装置27と加圧ローラ28とをそれぞれ作動させる。これにより、直管21の外面に、溶射ガン26により亜鉛等の溶射材が溶射されて防食被膜25が形成される。この後、防食被膜25は、レーザ照射装置27により局部加熱される。そして、局部加熱された防食被膜25は、加圧ローラ28により押圧される。防食被膜25は、加圧ローラ28により押圧されることによって、防食被膜25に形成されているポーラス部が押し潰される。かくして、水などが浸透しにくい防食性能に優れた防食被膜25が直管21の外面に自動的に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−222511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、上述した従来装置によれば、防食性能に優れた防食被膜25が直管21の外面に自動的に形成されるが、従来装置によって、曲管、T字管等の金属異形管の外面に防食被膜を形成することはできない。なぜなら、金属異形管は、その形状が3次元で複雑であるために、固定した異形管に対して、常に溶射ガンのヘッドを異形管と正対させながら溶射ガンと異形管との間の距離を一定に維持して移動させることが困難であるからである。すなわち、溶射ガンのヘッドの向き、作動経路等を事前にティーチングして、ロボットにより自動溶射を行うには、溶射ガンの移動が複雑であるので、そのティーチングに長時間を要し、特に、小口径のダクタイル鋳鉄製異形管の場合、100種類以上の品種があり、全てに対応させるには困難であるからである。
【0010】
また、防食被膜の形成を手動で行う場合には、溶射ガンのヘッドと異形管との間の距離を一定に維持することが困難である。溶射ガンのヘッドと異形管との距離を一定に維持できないと、防食被膜の密着性が劣り剥離の問題が発生する。
【0011】
さらには、手動の場合、異形管の形状に沿って溶射ガンを一定のスピードで移動させることが困難であるので、防食被膜の厚さを均一に維持することができない。従って、防食性能を保つためには規定値より厚めに防食被膜を形成する傾向にあった。
【0012】
また、手動の場合は、防塵マスクを装着して集塵フードの下で作業を行っても、空気圧により溶融金属を吹き付けるため、ミスト状の微粒子の飛散と溶射時の騒音とにより、劣悪な環境となるので、作業環境の改善が必要であり、しかも、粉塵の回収リサイクル効率も悪いので、この改善も必要である。
【0013】
従って、この発明の目的は、ダクタイル鋳鉄製または鋼製の曲管、T字管等の金属異形管の外面に亜鉛等からなる防食被膜を、優れた作業環境の下で容易に自動的かつ高能率で形成することが可能な、金属異形管への防食被膜の形成装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、下記を特徴とする。
【0015】
請求項1に記載の発明は、金属異形管の外面に防食被膜を溶射により形成する装置であって、ターンテーブルと、前記ターンテーブル上に、前記ターンテーブルの回転方向に沿って間隔をあけて設けられた、それぞれ鉛直軸を中心として回転可能な複数個の金属異形管把持手段と、溶射ガンが取り付けられたロボットと、開閉扉を有し、前記ロボットと前記ターンテーブルの一部を、少なくとも1つの前記金属異形管把持手段とともに遮蔽する集塵ブースとからなり、前記ロボットは、前記集塵ブース内の前記金属異形管把持手段により把持された金属異形管の外面に向けて、前記溶射ガンから溶射材を溶射することに特徴を有するものである。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ロボットは、前記溶射ガンのヘッドを前記金属異形管把持手段により把持された金属異形管と正対させながら、前記溶射ガンのヘッドと前記金属異形管との間の距離を一定に維持しつつ前記溶射ガンを鉛直方向に移動可能であり、前記溶射ガンを鉛直方向に移動させて、1回の溶射が完了したら、前記金属異形管把持手段を所定角度回転させ、2回目の溶射を行うことに特徴を有するものである。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記集塵ブースは、吸引フードを介して吸引機に接続され、金属異形管に付着しなかった前記溶射材の回収が可能であることに特徴を有するものである。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れかに記載の発明において、前記溶射材は、亜鉛と、アルミニウム−マグネシウム合金とからなることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、ダクタイル鋳鉄製または鋼製の曲管、T字管等の金属異形管の外面に亜鉛等からなる防食被膜を、優れた作業環境の下で容易に自動的かつ高能率で形成することが可能な、金属異形管への防食被膜の形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の、金属異形管への防食被膜の形成装置を示す平面図である。
【図2】この発明の、金属異形管への防食被膜の形成装置を示す側面図である。
【図3】この発明の、金属異形管への防食被膜の形成装置の部分拡大図である。
【図4】金属異形管を示す正面図である。
【図5】従来装置を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、この発明の、金属異形管への防食被膜の形成装置の一実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、この発明の、金属異形管への防食被膜の形成装置を示す平面図、図2は、この発明の、金属異形管への防食被膜の形成装置を示す側面図、図3は、この発明の、金属異形管への防食被膜の形成装置の部分拡大図である。
【0023】
図1から図3において、1は、ターンテーブルである。ターンテーブル1は、駆動手段2により車輪3を介して回転する。4は、金属異形管把持手段である。図3に示すように、金属異形管把持手段4は、ターンテーブル1上に、ターンテーブル1の回転方向に沿って間隔をあけて複数個(この例では3個)、設けられ、それぞれ駆動手段5により鉛直軸を中心として回転可能になっている。金属異形管把持手段4は、金属異形管6を把持するスクロールチャックからなり、金属異形管6は、スクロールチャックの複数個の爪7によりターンテーブル1上に垂直に固定される。複数個の爪7は、エアー給排気口8からのエアーの給排気により開閉可能になっている。
【0024】
9は、溶射ガン10が取り付けられたロボットである。ロボット9は、溶射ガン10のヘッド10aを、金属異形管把持手段4により把持されて、定位置に固定された金属異形管6と正対させながら、ヘッド10aと金属異形管6との間の距離を一定に維持しつつ、溶射ガン10を鉛直方向に移動可能になっている。溶射ガン10からは、例えば、亜鉛と、アルミニウム−マグネシウム合金とからなる溶射材が金属異形管6に向けてアーク溶射される。ロボット9は、溶射ガン10を鉛直方向に移動させて、1回の溶射が完了したら、金属異形管把持手段4を所定角度回転させ、2回目の溶射を行う。この操作を繰り返し行うことによって、金属異形管6の全外面に溶射材を溶射し、かくして、金属異形管6の外面に防食被膜を形成する。
【0025】
11は、集塵ブースである。集塵ブース11は、昇降可能な開閉扉12を有し、ロボット9とターンテーブル1の一部を、少なくとも1つ(この例では1つ)の金属異形管把持手段4とともに遮蔽する。集塵ブース11を設置することによって、金属異形管6に付着しなかった溶射材が周囲に飛散することを防止することができるので、作業環境が改善される。また、集塵ブース11に、吸引機(図示せず)に接続された吸引フード13を設けることによって、金属異形管6に付着しなかった溶射材の回収が可能になる。
【0026】
以上のように構成されている、この発明の、金属異形管への防食被膜の形成装置によれば、以下のようにして、金属異形管の全外面に防食被膜が自動的に形成される。
【0027】
先ず、図1に示すように、ターンテーブル1のP3位置の金属異形管把持手段4に金属異形管6をセットする。なお、図4に示すような金属異形管6の場合、その上部が受口で、下部が別の金属異形管の受口内に挿入される挿口であるので、挿口部分には、防食被膜を形成せず、それ以外の外面に防食被膜を形成する。なお、この挿口部分には、樹脂塗装が施される。
【0028】
次いで、集塵ブース11の開閉扉12を開き、ターンテーブル1を回転させて金属異形管6を集塵ブース11内のP1位置に移動させる。この後、集塵ブース11の開閉扉12を閉じる。P1位置は、ロボット9の溶射ガン10と正対している。金属異形管6がP1位置に移動すると、ロボット9は、溶射ガン10をそのヘッド10aを金属異形管6と正対させながら、ヘッド10aと金属異形管6との間の距離を一定に維持しつつ、金属異形管6の上部から下部に沿って鉛直方向に移動させる。これによって、金属異形管6の外面には、一定幅で亜鉛等からなる防食被膜が形成される。
【0029】
このようにして、1回目の溶射が完了したら、金属異形管把持手段4を所定角度回転させ、1回目と同様にして2回目の溶射を行う。2回目の溶射によって、1回目の溶射により形成された防食被膜に隣接して2回目の防食被膜が形成される。
【0030】
以上の操作を繰り返し行うことによって、P1位置の金属異形管6の全外面に防食被膜が自動的に形成される。この間に、P3位置の金属異形管把持手段4に別の金属異形管6をセットする。
【0031】
このように、ロボット9は、ヘッド10aと金属異形管6との間の距離を一定に維持しつつ、金属異形管6の上部から下部に沿って鉛直方向に移動させることを繰り返すのみで済むので、金属異形管6の形状が3次元で複雑であっても、金属異形管6を固定して溶射する場合に比べて、ロボット9の作動経路等のティーチング等が簡素化される。
【0032】
また、集塵ブース11によって、ロボット9と溶射中の金属異形管6とが遮蔽されているので、金属異形管6に付着しなかった溶射材が周囲に飛散することを防止することができ、この結果、作業環境が改善される。しかも、金属異形管6に付着しなかった溶射材は、吸引フード13を介して吸引機(図示せず)により回収されるので、付着しなかった溶射材のリサイクルを図ることができる。
【0033】
このようにして、金属異形管6への防食被膜の形成が完了したら、集塵ブース11の開閉扉12を開き、ターンテーブル1を回転させて、防食被膜の形成が完了したP1位置の金属異形管6をP2位置に移動させる。これによって、防食被膜の形成が完了した金属異形管6は、集塵ブース11外に搬出される。これと同時に、次のP3位置の次の金属異形管6がP1位置に移動するので、同様にして、次の金属異形管6の全外面に防食被膜を形成する。
【0034】
上記操作を繰り返し行うことによって、複数本の金属異形管6の全外面への防食被膜の形成が連続的にかつ自動的に行われる。
【符号の説明】
【0035】
1:ターンテーブル
2:駆動手段
3:車輪
4:金属異形管把持手段
5:駆動手段
6:金属異形管
7:爪
8:エアー給排気口
9:ロボット
10:溶射ガン
10a:ヘッド
11:集塵ブース
12:開閉扉
13:吸引フード
21:直管
22:レール
23:台車
24:回転ローラ
25:防食被膜
26:溶射ガン
27:レーザ照射装置
28:加圧ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属異形管の外面に防食被膜を溶射により形成する装置であって、ターンテーブルと、前記ターンテーブル上に、前記ターンテーブルの回転方向に沿って間隔をあけて設けられた、それぞれ鉛直軸を中心として回転可能な複数個の金属異形管把持手段と、溶射ガンが取り付けられたロボットと、開閉扉を有し、前記ロボットと前記ターンテーブルの一部を、少なくとも1つの前記金属異形管把持手段とともに遮蔽する集塵ブースとからなり、前記ロボットは、前記集塵ブース内の前記金属異形管把持手段により把持された金属異形管の外面に向けて、前記溶射ガンから溶射材を溶射することを特徴とする、金属異形管への防食被膜の形成装置。
【請求項2】
前記ロボットは、前記溶射ガンのヘッドを前記金属異形管把持手段により把持された金属異形管と正対させながら、前記溶射ガンのヘッドと前記金属異形管との間の距離を一定に維持しつつ前記溶射ガンを鉛直方向に移動可能であり、前記溶射ガンを鉛直方向に移動させて、1回の溶射が完了したら、前記金属異形管把持手段を所定角度回転させ、2回目の溶射を行うことを特徴とする、請求項1に記載の、金属異形管への防食被膜の形成装置。
【請求項3】
前記集塵ブースは、吸引フードを介して吸引機に接続され、金属異形管に付着しなかった前記溶射材の回収が可能であることを特徴とする、請求項1または2に記載の、金属異形管への防食被膜の形成装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の発明において、前記溶射材は、亜鉛と、アルミニウム−マグネシウム合金とからなることを特徴とする、請求項1から3の何れかに記載の、金属異形管への防食被膜の形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−49879(P2013−49879A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187459(P2011−187459)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000231877)日本鋳鉄管株式会社 (48)
【Fターム(参考)】