説明

金属積層形シリンダヘッドガスケット

【課題】非対称ビードの曲率半径の相違を利用して、金属積層形シリンダヘッドガスケットのビードの裾部で発生する面圧をバランスさせ、均等化させる。
【解決手段】第1〜第3の金属板11〜13を積層したシリンダヘッドガスケットにおいて、第1金属板11おける燃焼室穴16の周囲に非対称ビード14を形成し、該非対称ビードの凸部側に他の金属板を積層する。上記非対称ビード14は、ビード頂14aより燃焼室穴16側の曲率半径が大のビード部分14bの幅aとビード頂より反対側の曲率半径が小のビード部分14cの幅bとの関係を、a>bとし、該ビードにおける最小の曲率半径Rを、R≧0.5mmとし、上記ビード部分14bの幅aと曲率半径Rとの関係を、a≧2Rとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装される金属積層形シリンダヘッドガスケットに関するものであり、更に詳しくは、燃焼室穴の周囲に設けるシールビードの両裾部に発生する面圧をバランスさせ、シリンダブロックやシリンダヘッドに面圧による圧接痕が生じるのを抑制するようにしたシリンダヘッドガスケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの高性能化に伴って、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間のシール機能を強化するための努力が続けられている。例えば、特許文献1に示されている金属積層形ガスケットでは、図4に示すように、ガスケット30に形成された燃焼室穴31、締結ボルト穴32、冷却水孔33を通る断面において、基板35における燃焼室穴31の周囲に非対称ビード35aが形成されている。そして、該基板35の非対称ビード35aの凸部側に副板36を積層し、それを燃焼室穴31の穴縁で折り返して非対称ビード35aの凹部の途中まで延設し、ウェッジストッパー36aを形成することにより、非対称ビード35aがウェッジストッパー36a(厚み増大部)とそれ以外の一般部(厚み非増大部)を跨いだ構成としている。
【0003】
このように、ビードの両裾部において発生する面圧が相違する非対称ビード35aを用いることは従来から知られているが、図4の既知のガスケットでは、非対称ビードの内側裾部35bはウェッジストッパー36a(厚み増大部)内にあり、外側裾部35cはウェッジストッパー36a以外の一般部(厚み非増大部)にあるため、該非対称ビード35aにより、厚み増大部側のビードの曲率半径を大にしてバネ定数を小とし、厚み非増大部側のビードの曲率半径を小にしてバネ定数を大としても、厚み増大部側のビード裾部の面圧はその厚みに起因して大きくなり、同特許文献に記載されているようにシール機能を強化できるとしても、燃焼室穴の周囲におけるシールビードの両裾部の面圧をバランスさせることについては配慮されていない。
【特許文献1】特開平4−219572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の技術的課題は、上記非対称ビードにおいてビードの両裾部の面圧に差異が生じることを利用し、金属積層形シリンダヘッドガスケットにおける燃焼室穴の周囲に設けるシールビードの両裾部に発生する面圧をバランスさせ、安定したシール性能を得ると同時にシリンダブロックやシリンダヘッドに部分的に作用する大きな面圧による圧接痕が生じるのを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明によれば、少なくとも複数の金属板を積層することにより形成される金属積層形シリンダヘッドガスケットであって、上記金属板のうちの外層に位置する第1の金属板における燃焼室穴の周囲に非対称ビードを形成して、該非対称ビードの凸部側に他の金属板を積層し、上記第1の金属板における非対称ビードは、ビード頂より燃焼室穴側の曲率半径が大のビード部分の幅aとビード頂より反対側の曲率半径が小のビード部分の幅bとの関係を、a>bとし、上記ビードにおける最小の曲率半径Rを、R≧0.5mmとし、上記ビード部分の幅aと曲率半径Rとの関係を、a≧2Rとしたことを特徴とする金属積層形シリンダヘッドガスケットが提供される。
【0006】
上記構成を有する本発明のシリンダヘッドガスケットによれば、後述する圧縮時の面圧についての実験(シミュレーション)結果からわかるように、燃焼室穴の周囲に設ける非対称ビードの両裾部に発生する面圧をバランスさせ、安定したシール性能を得ることができる。
【0007】
本発明に係る金属積層形シリンダヘッドガスケットの好ましい実施形態においては、上記非対称ビードを、燃焼室穴の周囲のうちで、該ビードの両裾部に発生する面圧をバランスさせたい箇所のみに設け、他の箇所に設けたビードとなだらかに連接される。
また、本発明に係る金属積層形シリンダヘッドガスケットの他の好ましい実施形態においては、第1の金属板における非対称ビードの凸部側に積層する金属板を、第2及び第3の金属板として、第1の金属板における燃焼室穴側の穴縁部を他の金属板と非固定とし、第2の金属板を燃焼室穴の穴縁において第3の金属板側に折り返して、その折返し部の先端を第1の金属板における非対称ビードの外側裾部に対応する位置まで延設し、第3の金属板の縁部を該折返し部の先端の外側に位置させたものとして構成される。
【発明の効果】
【0008】
上述した本発明のシリンダヘッドガスケットによれば、上記非対称ビードにおいてビードの両裾部の面圧に差異が生じるのを利用し、金属積層形シリンダヘッドガスケットにおける燃焼室穴の周囲に設けるシールビードの両裾部に発生する面圧をバランスさせ、安定したシール性能を得ると同時にシリンダブロックやシリンダヘッドに部分的に作用する大きな面圧による圧接痕が生じるのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明に係る金属積層形シリンダヘッドガスケットの実施例における要部、すなわち、燃焼室穴16の周囲を断面によって示している。このシリンダヘッドガスケット10は、エンジンのシリンダヘッド21とシリンダブロック22との間に介装され、少なくとも複数の金属板を積層することにより形成されるが、ここに示す実施例では、外層に位置する第1の金属板11と、それに積層した第2の金属板12及び第3の金属板13とにより形成されている。
【0010】
上記第1の金属板11には、燃焼室穴16の周囲に非対称ビード14を形成している。この非対称ビード14は、ビード頂14aより燃焼室穴16側の曲率半径が大きいビード部分14bの幅aと、ビード頂14aより反対側の曲率半径が小さいビード部分14cの幅bとの関係を、a>bとし、更に上記ビードにおける最小の曲率半径Rを、R≧0.5mmとし、上記ビード部分の幅aと曲率半径Rとの関係をa≧2Rとする必要がある。これらの非対称ビード14に関する形成条件は、本発明者が試行錯誤の結果として得たものである。なお、上記曲率半径Rは、0.5mmより小さくすると亀裂が発生する可能性が大になる。
このように構成することにより、後述する圧縮時の面圧についての実験(シミュレーション)結果からわかるように、上記非対称ビード14の内外の両裾部14d,14eに発生する面圧をバランスさせ、安定したシール性能を得ることができる。
【0011】
なお、ここでは、上記ビード頂14aの両側のビード部分14b及びビード部分14cについて、その曲率半径の相対的な大小関係について説明しているが、これは、各ビード部分14b,14cの範囲内で曲率半径がそれぞれ一定であることを意味するものではなく、両範囲内における曲率半径の平均的な大小関係を説明しているのであり、そのため、非対称ビード14を一端から他端まで次第に曲率半径が変わるような曲線的なものにして構成しても差し支えない。
また、上記非対称ビード14は、設置領域が確保できるのであれば、燃焼室穴16の周囲の全体に設けることもできるが、該ビード14の両裾部14d,14eに発生する面圧をバランスさせたい箇所のみに設けることができ、この場合には、燃焼室穴16の周囲の他の箇所に設けたビードとなだらかに連接する必要がある。
【0012】
上記第2及び第3の金属板12,13は、非対称ビード14を形成した第1の金属板11における該非対称ビード14の凸部側に積層している。
第1の金属板11に積層した第2の金属板12は、燃焼室穴16の穴縁において第3の金属板13側、つまり第1の金属板11とは反対側に、厚さや段差調整のためのリング状のシム17を挟んで折り返し、その折返し部12aの先端を第1の金属板11における非対称ビード14の外側裾部14eに対応する位置付近まで延設している。また、第3の金属板13は、その燃焼室穴16側の縁部にビード13aを設け、該縁部を上記第2の金属板12における折返し部12aの先端の外側に、該折返し部12aと重ならないように位置させている。
従って、第1の金属板11は、燃焼室穴16側の穴縁部において、非対称ビード14の凸部側に積層した第2及び第3の金属板12,13とは非固定である。
【0013】
上記構成を有するガスケット10をシリンダヘッド21とシリンダブロック22との間に介装して締結ボルトで締め付けると、燃焼室穴16の周囲では非対称ビード14が圧縮変形し、その圧縮変形に伴って、非対称ビード14の裾部14d,14eにおいて比較的大きな面圧が発生する。
図2のグラフは、図1に示す本発明の非対称ビード14を備えたシリンダヘッドガスケットで、該ビード14の幅を1.7mm、前記ビード頂14aより燃焼室穴16側のビード部分14bの幅aと反対側のビード部分14cの幅bとの比a:bを6:4とし、該非対称ビード14における最小の曲率半径Rを0.5mmとした場合における、該ビードの圧縮による全屈時に発生する面圧を、解析実験(シミュレーション)によって求めた結果を示すものである。一方、比較のために、図3のグラフには、上記非対称ビードに代えてビード幅が1,7mmの対称ビードを備えたガスケットについて、同様にして面圧を求めた結果を示している。
【0014】
図3の比較例のグラフからわかるように、対称ビードを用いた場合には、一般的に、該ビードにおける燃焼室穴側の裾部に発生する面圧が他方の裾部に発生する面圧よりも大きくなるが、図2に示す本発明の実施例についてのビード両裾部の面圧は、ほぼ均等化されている。従って、本発明のシリンダヘッドガスケットによれば、燃焼室穴の周囲に設ける非対称ビードを所定の形成条件の範囲内のものとすることにより、両裾部に発生する面圧をバランスさせ、安定したシール性能を得ることができる。
【0015】
また、このようにビードの両裾部に発生する面圧を均等化できることから、シリンダライナーを嵌着したシリンダブロック22の場合には、該シリンダライナーに作用する面圧を低減させ、シリンダライナーの歪みを減少させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る金属積層形シリンダヘッドガスケットについての、エンジンに未装着の状態を模式的に示す要部拡大縦断面図である。
【図2】本発明に係るシリンダヘッドガスケットを圧縮変形させた場合に発生する面圧分布についての実験(シミュレーション)結果を示すグラフである。
【図3】比較例のガスケット(a=b)を圧縮変形させた場合に発生する面圧分布についての実験(シミュレーション)結果を示すグラフである。
【図4】従来の金属積層形ガスケットの要部拡大縦断面図である。
【符号の説明】
【0017】
10 シリンダヘッドガスケット
11 第1の金属板
12 第2の金属板
12a 折返し部
13 第3の金属板
14 非対称ビード
14a ビード頂
14b,14c ビード部分
14d,14e 裾部
16 燃焼室穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも複数の金属板を積層することにより形成される金属積層形シリンダヘッドガスケットであって、
上記金属板のうちの外層に位置する第1の金属板における燃焼室穴の周囲に非対称ビードを形成して、該非対称ビードの凸部側に他の金属板を積層し、
上記第1の金属板における非対称ビードは、ビード頂より燃焼室穴側の曲率半径が大のビード部分の幅aとビード頂より反対側の曲率半径が小のビード部分の幅bとの関係を、a>bとし、
上記ビードにおける最小の曲率半径Rを、R≧0.5mmとし、
上記ビード部分の幅aと曲率半径Rとの関係を、a≧2Rとし、
ことを特徴とする金属積層形シリンダヘッドガスケット。
【請求項2】
上記非対称ビードを、燃焼室穴の周囲のうちで、該ビードの両裾部に発生する面圧をバランスさせたい箇所のみに設け、他の箇所に設けたビードとなだらかに連接した、
ことを特徴とする請求項1に記載の金属積層形シリンダヘッドガスケット。
【請求項3】
第1の金属板における非対称ビードの凸部側に積層する金属板を、第2及び第3の金属板として、第1の金属板における燃焼室穴側の穴縁部を他の金属板と非固定とし、
第2の金属板を燃焼室穴の穴縁において第3の金属板側に折り返して、その折返し部の先端を第1の金属板における非対称ビードの外側裾部に対応する位置まで延設し、第3の金属板の縁部を該折返し部の先端の外側に位置させた、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の金属積層形シリンダヘッドガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−169703(P2008−169703A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1173(P2007−1173)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(000198237)石川ガスケット株式会社 (57)
【Fターム(参考)】