説明

金属空気二次電池

【課題】良好なサイクル特性を得ることを可能にする金属空気二次電池を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、金属イオンを吸蔵・放出する負極材と、酸素を活物質とする正極材と、前記負極材と前記正極材の間に設置された電解質膜を有する金属空気二次電池において、正極材の一部に、酸素還元と酸素発生の両機能を備える触媒として、粒径が1nm〜30nmの金属粒子または金属酸化物粒子を用いており、1nm〜1μmの細孔径分布において、2nm〜30nmのみに極大細孔径を有する炭素材料を、金属空気二次電池の正極に用いることにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は負極に金属,正極活物質として空気または酸素を用いた金属空気二次電池に関するものであり、更に詳細にはサイクル特性の向上を目的として、触媒の粒径と、導電剤または触媒担体の炭素材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護と省エネルギー化の意識の高まりから、自動車業界においては、従来のガソリンを燃料とした自動車に代わって、駆動源としてガソリンエンジンと、電気で駆動するモータを併用するハイブリッド電気自動車(HEV)や、モータのみで動く電気自動車(EV)の開発競争が激化している。電気エネルギーの供給源である蓄電池の特性は、これらの自動車の性能を大きく左右する。鉛電池やニッケル水素二次電池に比べリチウムイオン二次電池は、その軽量,高出力という特徴から、上記の自動車の蓄電池としての利用が、最も期待されている。しかし、その重量エネルギー密度は、250〜300Wh/kgが理論的上限と考えられている。電気自動車の本格的な普及には、約500Wh/kgの重量エネルギー密度が必要であると言われており、現在、蓄電池の研究開発の中心であるリチウムイオン二次電池とは、作動原理が全く異なり、より大きな重量エネルギー密度が期待できる革新型電池の開発が求められている。リチウムイオン二次電池の重量エネルギー密度を制約している要因の一つとして、コバルト酸リチウムに代表される含リチウム遷移金属酸化物の正極材料がある。その構成元素である遷移金属元素は、重金属であるため、蓄電池として組み込むと重量が増加し、結果として重量エネルギー密度が小さくなってしまう。そこで、正極材料に大気中の酸素を利用し、負極材料に金属を利用する金属空気電池が注目されている。さらに、電力貯蔵用途としても、重量低減によるコスト低減を見込めるため、金属空気電池に対する期待が高まっている。例えば、負極活物質として金属リチウムを用いたリチウム空気二次電池では、以下の反応原理により、電池としての機能を発現する。
【0003】
(放電反応)
(負極側)2Li→2Li++2e- …(1) (正極側)O2+2Li++2e-→Li22 …(2) (全反応)2Li+O2→Li22 …(3) (充電反応)
(負極側)2Li←2Li++2e- …(4) (正極側)O2+2Li++2e-←Li22 …(5) (全反応)2Li+O2←Li22 …(6)
【0004】
金属空気電池においては、これまで補聴器電源の亜鉛空気電池に代表されるように、一次電池としての実用化に留まっており、充放電可能な二次電池としての実用化は未だであった。
【0005】
一次電池としての性能、すなわち放電特性と、触媒担体である炭素材料の物理的特性の関係は、特許文献1において報告されている。特許文献1では、アルカリ賦活処理を行った炭素材料を用いて、その放電特性の評価を行っている。アルカリ賦活処理により、炭素材料に無数の細孔が生成し、その結果、2400m2/gを超える比表面積をもつ。この大きな比表面積と、細孔容積、さらに全細孔容積に占める一次細孔容積が大きい程、大きな放電容量が得られたと報告している。しかしながら、充電反応についての言及はなく、上記の特性とサイクル特性、すなわち二次電池特性との関連についての報告はされていない。
【0006】
二次電池化を阻む大きな障害として、充電時において過電圧が大きいことが挙げられる。例えば、非特許文献1では、理論開回路電圧2.96Vに対して、放電電位が2.5〜2.7Vであるものの、充電電位が4.0V以上と高く、充電過電圧が高いことが報告されている。充電過電圧が高いと、不可逆容量も大きくなり、サイクル特性も悪化すると考えられる。
【0007】
これに対して、非特許文献2において、触媒に白金粒子を、触媒担体にカーボンブラックであるVulcanXC72Rを用いた正極材では、VulcanXC72Rの炭素材料単独正極材に比較して、充電過電圧が約0.7V低減し、充電電位が約3.6Vであったと報告している。しかし、本文献は初期サイクルのみの報告であり、2サイクル目以降のサイクル特性についての報告はない。さらに、触媒担体である炭素材料はVulcanXC72Rのみであり、炭素材料の構造的特徴、例えば比表面積や、細孔径分布,細孔容積の差異による二次電池特性の違いについての言及はない。
さらに、特許文献2では、金属空気二次電池の空気極に用いる触媒として、粒径が2〜500nmのペロブスカイト酸化物を用いており、粒径の規定はあるものの、触媒を担持する炭素材料の細孔または細孔径についての記述はない。
【0008】
以上により、触媒粒子と触媒担体がどのような構造的特徴を有すれば、金属空気電池のサイクル特性が向上するかについて、明らかになっていないと言える。
【0009】
本発明は負極に金属,正極活物質として空気または酸素を用いた金属空気二次電池において、サイクル特性の向上を目的として、触媒の粒径と同時に、導電剤または触媒担体の炭素材料が有する細孔径を規定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−182606号公報
【特許文献2】特開2005−190833号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Takeshi Ogasawara et al,“Rechargeable Li2O2 Electrode for Lithium Batteries”,Journal of the American Chemical Society 2006, 128, 1390-1393
【非特許文献2】Yang Shao-Horn et al, “The Influence of Catalysts on Discharge and Charge Voltages of Rechargeable Li-Oxygen Batteries”Electrochemical and Solid-State Letters 2010, 13(6), A69-A72
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は負極に金属,正極活物質として空気または酸素を用いた金属空気二次電池において、サイクル特性の向上を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、金属イオンを吸蔵・放出する負極材と、酸素を活物質とする正極材と、前記負極材と前記正極材の間に設置された電解質膜を有する金属空気二次電池において、正極材の一部に、酸素還元と酸素発生の両機能を備える触媒として、粒径が1nm〜30nmの金属粒子または金属酸化物粒子を用いており、1nm〜1μmにおける極大細孔径が少なくとも1乃至2つ存在し、且つ2nm〜30nmの範囲に存在する炭素材料を用いることを特徴とする。
【0014】
本発明では、正極材として、1nm〜1μmにおける極大細孔径が2nm〜30nmの領域に存在し、それ以外の領域における微分細孔容積が、前記極大細孔径の微分細孔容積の70%以下である炭素材料を用いることを特徴とする。
【0015】
本発明では、前記炭素材料が、導電剤または触媒の担体であることを特徴とする。
【0016】
本発明では、窒素吸脱着法と水銀ポロシメータにより求めた細孔径を有する炭素材料を用いることを特徴とする。
【0017】
本発明では、酸素還元と酸素発生の両機能を備える触媒として白金微粒子を用いることを特徴とする。
【0018】
本発明では、3.6nm〜200nmにおける累積細孔容積の、3.6nm〜1μmにおける累積細孔容積に対する割合が70%以上である前記炭素材料を用いることを特徴とする。
【0019】
本発明では、触媒に白金粒子を用いた場合、2.0V〜4.0Vの範囲において、作動させることを特徴とする。
また、本発明では、金属イオンを吸蔵・放出する負極材と、酸素を活物質とする正極材と、前記負極材と前記正極材の間に設置された電解質膜を有する金属空気二次電池において、正極材は、粒子径が1nm〜500nmの金属粒子または金属酸化物粒子と、1nm〜1μmの細孔径分布において2nm〜30nmの範囲に極大細孔径が存在する炭素材料と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、負極に金属,正極活物質として空気または酸素を用いた金属空気二次電池において、導電剤または触媒担体の炭素材料が有する細孔径と、触媒の粒径を規定することでサイクル特性の向上を達成することができる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明によるスエジロック型セルの模式図を示す図である。
【図2】本実施例に使用したカーボンAの細孔径分布を示す図である。
【図3】実施例1と比較例1〜4の放電容量維持率の結果を示す図である。
【図4】実施例2と比較例5の放電容量維持率の結果を示す図である。
【図5】各種炭素材料の窒素吸脱着法と水銀ポロシメータ測定の結果(1nm〜1μm)。
【図6】実施例3と参考例のR値の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、一定範囲内のみに極大細孔径を有する導電剤または触媒担体の炭素材料と、一定範囲内の粒径をもつ触媒粒子を用いることにより、良好なサイクル特性に寄与する金属空気二次電池であることを特徴とする。
【0023】
本発明では、1nm〜1μmの細孔径分布において、2nm〜30nmのみに極大細孔径を有する炭素材料を、導電剤または触媒担体として用いる。
【0024】
本発明に用いる金属粒子または金属酸化物粒子は、金属空気二次電池における酸素触媒活性がある物質であればいずれでも構わない。金属では、例えば白金(Pt),金(Au),銀(Ag)などを用いることが可能である。金属酸化物では、二酸化マンガン(MnO2),酸化鉄(FeO,Fe23,Fe34),酸化コバルト(Co34),酸化銀(Ag2O),酸化銅(CuO),ABO3で表わされるペロブスカイト型酸化物,AB24で表わされるスピネル型化合物などが可能である。
金属粒子または金属酸化物粒子は、1nm〜500nmの粒子径が望ましく、特に、1nm〜30nmの粒子径が望ましい。粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定した。本発明に用いる1nm〜30nmの粒子径をもつ金属粒子または金属酸化物粒子を炭素材表面に担持させる方法として、スパッタリング法、蒸着法が挙げられる。特に、白金微粒子については、塩化白金酸(H2PtCl6)を用いた無電解めっき法が有効である。
【0025】
本発明に用いる触媒粒子は、導電剤または触媒担体の炭素材料の表面上に、担持されている構造が、一般的であるが、触媒粒子と上記炭素材料が混合している構造でも構わない。
【0026】
本発明に用いる正極材に含まれる導電剤または担体は、一般に黒鉛,メソフェ−ズ炭素,カーボンブラック,活性炭,非結晶性炭素,炭素繊維,気相成長法炭素繊維,カーボンナノチューブ,ピッチ系炭素質材料,ポリアクリロニトリル系炭素繊維などの導電性を伴う炭素材料であればいずれでも構わない。特に、比表面積が大きい炭素材料を用いることが望ましい。比表面積が大きいと、触媒粒子の分散性が向上し、過電圧の低減とサイクル特性の向上に寄与するからである。比表面積は、1m2/g〜1500m2/g、特に100m2/g〜1500m2/gが望ましい。一次粒子径は、1nm〜100nm、特に1nm〜50nmが望ましい。二次粒子径は、1μm以下であることが望ましい。1μm以上になると、二次粒子間の隙間が細孔として存在する可能性があるからである。ただし、導電剤の役割のみを担う炭素材料については、導電性があれば、細孔径、比表面積に関わらず、用いることができる。
比表面積は、窒素ガス吸脱着法で測定し、粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定した。一次粒子径及び二次粒子径は、それぞれ平均粒子径であり、粉体の粒径分布において,ある粒子径より大きい個数又は体積が,全粉体のそれの50%をしめるときの粒子径で定義される(D50)。粒子の形状が一様でないため、粒径を粒子の輪郭線上の任意の2点間距離のうち、最大の長さとし、平均粒径は30個から求めた平均値とした。
【0027】
本発明における負極金属としては、リチウムの他に、リチウムとの合金を用いても良い。また、金属空気二次電池として使われる負極金属であればいずれでも構わない。
【0028】
本発明に用いる正極材に含まれる導電剤または担体は、バインダと混合後、スラリーを作製してカーボンペーパに塗布するか、または金属性のフォームに含浸しても構わない。
また混合した粉末をペレット成形して正極材として用いても構わない。
【0029】
本発明に用いる電解液としては、一般的にリチウムイオン二次電池などで用いる非水系電解液を用いることができる。例えばプロピレンカーボネート,エチレンカーボネート,ブチレンカーボネート,ビニレンカーボネート,γ−ブチロラクトン,ジメチルカーボネート,ジエチルカーボネート,メチルエチルカーボネート,1,2−ジメトキシエタン,2−メチルテトラヒドロフラン,ジメチルスルフォキシド,1,3−ジオキソラン,ホルムアミド,ジメチルホルムアミド,プロピオン酸メチル,プロピオン酸エチル,リン酸トリエステル,トリメトキシメタン,ジオキソラン,ジエチルエーテル,スルホラン,3−メチル−2−オキサゾリジノン,テトラヒドロフラン,1,2−ジエトキシエタン,クロルエチレンカーボネート,クロルプロピレンカーボネートより選択された一種類の溶媒または複数の混合物でも構わない。望ましくは、高沸点の環状化合物を用いるのが良い。さらに、エチレンオキシド,アクリロニトリル,フッ化ビニリデン,メタクリル酸メチル,ヘキサフルオロプロピレンなどの高分子に保持させた固体電解質や、イオン液体を、非水電解液の代わりに使用しても良い。
【0030】
本発明に用いる電解質としては、一般的にリチウムイオン二次電池などで用いる電解質を用いることができる。例えば、化学式でLiPF6,LiBF4,LiClO4,LiCF3SO3,LiCF3CO2,LiAsF6,LiSbF6,LiTFSI、あるいはリチウムトリフルオロメタンスルホンイミドで代表されるリチウムのイミド塩などの多種類のリチウム塩などが可能である。
【0031】
また、エチレンオキシド,アクリロニトリル,フッ化ビニリデン,メタクリル酸メチル,ヘキサフルオロプロピレンの高分子内に、上述した非水電解液を含浸させたゲル電解質を、使用しても良い。
【0032】
本発明に用いる正極材に含まれる結着材としては、一般的にリチウムイオン二次電池などで用いる結着材を用いることができる。例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂,スチレンブタジエンゴム(SBR)などを用いることが可能である。
【0033】
本発明に用いるセパレータとしては、一般的にリチウムイオン二次電池などで用いるセパレータを用いることができる。例えばポリエチレン,ポリプロピレンなどの多孔質セパレータや、金属イオン導電性を有するガラスセラミックスなどを用いることが可能である。
【0034】
本発明に用いる集電体は、SUSメッシュの他、ニッケルメッシュ,ステンレスメッシュ,金メッシュなど導電性のある金属性のメッシュであればいずれでも構わない。
【0035】
本発明に用いるセルの形体は、金属空気電池反応が確認できるものであれば、スエジロック型,平板型,円筒型などのいずれでも構わない。すなわち本発明は、セルの形体に依存しない。
【0036】
図1に本発明の実施例による金属空気二次電池を示す。以下、負極として金属リチウムを用い、電解液として非水溶媒を用いたリチウム空気二次電池について説明する。
【0037】
以下、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。実施例に相当する炭素材料の一例として、1nm〜1μmの範囲において、2nm〜30nmのみに極大細孔径を有するカーボンAを用いた。実施例1、2は、担体である炭素材の細孔径のみの規定であり、実施例3は、炭素材の細孔径に加えて、触媒の粒径を規定したものである。
【実施例1】
【0038】
本実施例においては、スエジロック型セルのリチウム空気二次電池を作製した。図1に、スエジロック型セルの模式図を示す。セルの組み立ては、グローブボックス内で行った。
【0039】
厚さ370μm,直径12mmのカーボンペーパ1には、白金微粒子,カーボンAとバインダであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)の複合材(カーボン塗布層2)が塗布してある。これをカーボンペーパ正極材3とした。カーボンペーパ正極材3と負極のリチウム金属4は、ポリエチレン製セパレータ5により絶縁した。負極のリチウム金属4は、直径8mm,厚さ1mmにくり抜いたものを使用した。ポリエチレン製セパレータ5は、直径14mmにくり抜いたものを使用した。リチウム金属4の表面と、カーボン塗布層2の表面に、電解液を数滴滴下し、ポリエチレン製セパレータ5に含浸した。電解液は、電解質である1M LiTFSIを含んだエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=3/7を用いた。カーボンペーパ1の反対側には、厚さ1mmのSUS製メッシュ(100メッシュ)からなる集電体6を配置した。リチウム金属の周りにOリング7を配置し、リチウム金属4の後ろから、押さえ板8をあて、その後ろに絞め付けバネ9をおいた。これにより、リチウム金属4−セパレータ5−カーボンペーパ正極材3が密着される構造となる。次に、集電体6の外部から酸素ガス(99.9%)を流量500ml/分でセル内部に流した。約60分酸素ガスを流し、セルに付けた酸素封入弁10を閉じ、セル内部に酸素ガスを封入した。
【0040】
次に、正極の作製方法を詳述する。カーボンA50重量部と、白金微粒子(平均粒径5nm)40重量部,ポリフッ化ビニリデン(PVDF)40重量部,少量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)をメノウ乳鉢に添加し、良くかき混ぜた。生成したスラリー液を、φ12mmのPTFE処理済みのカーボンペーパに塗布し、大気中80℃、1時間乾燥後、さらに真空中120℃、3時間乾燥を行い、カーボンペーパ正極材3とした。
【0041】
上記正極材を組み込んで、作製したセルを端子付きデシケータにいれ、デシケータ内部にアルゴンガスを封入した。デシケータの外側端子を充放電評価装置にとりつけ、セルの充放電評価を実施した。充放電条件は、放電:CC 0.1mA/cm2 2.0Vカットオフ、充電:CC 0.1mA/cm2 4.0Vカットオフ、休止時間は充放電後それぞれ1時間とし、10サイクル試験を行った。
【0042】
〔比較例1〜4〕
実施例1において、正極材の担体であるカーボンAに替えて、カーボンB,カーボンC,カーボンD,VulcanXC72R、のいずれかを用いた以外は同様である。
【実施例2】
【0043】
実施例1において、触媒である白金微粒子に替えて、電解二酸化マンガン粒子(平均粒径3μm)を用いた以外は同様である。
【0044】
〔比較例5〕
実施例2において、正極材の担体であるカーボンAに替えて、カーボンCを用いた以外は同様である。
【0045】
(細孔径分布の測定)
まず、1〜20nmの範囲は窒素ガス吸脱着法を用いて、20nm〜1μmの範囲は水銀ポロシメータを用いることにより、各種担体である炭素材料の細孔径分布を調べた。窒素ガス吸脱着法による測定では、脱着のデータを採用した。表1に、各種炭素材料の比表面積,細孔径分布において極大値を示した細孔径と微分細孔容積,一定の細孔径範囲における累積細孔容積を示す。また、図2に、カーボンAの細孔径分布を示す。二次粒子間の隙間を除くため、1μm以上の細孔径は除外した。この細孔径分布に示すように、カーボンAは3.6nmに極大細孔径を有し、その微分細孔容積は0.81cc/gである。この細孔径以外の領域においては、0.41cc/g以下であり、前記微分細孔容積の70%以下である。このため、カーボンAは、より優先して2〜30nmの領域に細孔が多い材料である。
【0046】
【表1】

【0047】
図3に、実施例1と比較例1〜4の放電容量維持率の結果を、表2に初回サイクルのR値を示す。ここで、R値とは(充電容量/放電容量)×100(%)で定義される値であり、リチウムイオン二次電池における充放電効率に相当する。
【0048】
【表2】

【0049】
カーボンAを用いると、2サイクル目の放電容量維持率は約80%であり、その後も良好なサイクル特性が得られた。その初期サイクルのR値は65%であった。一方、それ以外の炭素材料を用いた場合には、2サイクル目の放電容量維持率は約20%以下、初期サイクルのR値もVulcanXC72Rを除くと20%以下と低く、カーボンAを用いた時と比較して、サイクル特性が良くないことがわかった。カーボンAは1nm〜1μmの細孔径分布において、2〜30nmのみに極大細孔径を有するため、放電生成物であるリチウム酸化物(Li2O,Li22)が細かく分散する。また、3.6nm〜200nmにおける累積細孔容積が、3.6nm〜1μmにおける累積細孔容積の70%以上を占めるため、細かいリチウム酸化物の生成量も多くなる。これらの細かいリチウム酸化物は、充電反応において分解され易いため、サイクル特性が向上したと考えられる。一方、それ以外の炭素材料では、細孔径が30nm以上の大きな細孔を有するため、放電反応において、粗大化したリチウム酸化物が生成する。このリチウム酸化物は絶縁物であるため、充電反応において、これらを分解するために多大なエネルギーを要し、分解されないリチウム酸化物が残存すると考えられる。この原因のため、サイクル特性が悪化したと考えられる。
【0050】
次に、図4に、実施例2と比較例5の放電容量維持率の結果を示す。触媒である二酸化マンガン粒子の平均粒径は3μmであり、図3の白金微粒子程には粒径が細かくないため、粒子が粗大化していると思われる。しかしながら、二酸化マンガンを用いても、実施例2にあるカーボンAの方が、比較例5にあるカーボンCよりもサイクル特性が良い。尚、二酸化マンガンの粒径を1nm〜30nmにすれば、実施例2よりもさらに良好な結果が得られると期待される。従って、触媒の種類,触媒の粒径に関わらず、カーボンAの有効性が証明された。以上により、2nm〜30nmの範囲にのみに、極大細孔径を有する炭素材料を担体に用いることにより、サイクル特性を向上することができる。なお、極大細孔径の数は、1個に限定されるものではなく、上記範囲内に複数存在してもよい。
【実施例3】
【0051】
実施例1、2において、触媒粒径の規定はなかった。透過型電子顕微鏡により触媒である白金粒子を観察したところ、数ナノメートルの微粒子と同時に、100nm以上の粗大粒子も見つかった。そこで、以下のような無電解めっき法を用いることにより、粒径数nmの白金微粒子のみを炭素材表面に担持させた。
1Lビーカーに、カーボンA 1gと純水(イオン交換水)600ccを混合し、超音波を加えながら約30分撹拌した。その後、撹拌しながら、塩化白金酸(H2PtCl6)溶液3.55gを少しずつ添加し、さらに1時間撹拌した。次に、錯化剤であるL−酒石酸0.077gと還元剤である次亜リン酸(H3PO2)1.35gを添加し、1M NaOH水溶液により、PHを4付近に調整した。その後、純水を加えて、全溶液量を500mlにしてから、90℃のウォーターバスに投入し、溶液の温度を90℃に昇温した。そのまま、溶液の温度を90℃に保ちながら、撹拌を4時間続けた。塩化白金酸(H2PtCl6)の還元に伴い、PHが低下するため、1M NaOH水溶液を添加することにより、溶液のPHを4付近に維持した。塩化白金酸(H2PtCl6)が完全に消滅し、反応が終了したら、溶液をろ過し、純水(200ml/回)による洗浄、ろ過を5回以上繰り返した。洗浄後の作製サンプルは、恒温槽にて大気中、80℃で12時間乾燥させた。乾燥後のサンプルは、乳鉢にて粉砕してから、電極作製用に用いた。透過型電子顕微鏡による観察により、カーボンAに担持された白金微粒子の粒径は1nm〜3nmであった。電極作製方法は、実施例1と同様である。
【0052】
〔参考例1〕
実施例1における10サイクルまでのR値を参考例とする。
図6に、実施例3と参考例のR値の推移を示す。実施例3では、参考例に比べて、触媒である白金粒子の粒径が、さらに小さくなったことにより、放電反応に伴って白金粒子表面に生成するリチウム酸化物も、微粒子化される。さらに、白金粒子の微粒子化と同時に、2nm〜30nmの範囲内にある炭素材の細孔径のために、サイクル経過に伴う白金粒子の粗大化も抑制されると考えられる。透過型電子顕微鏡による観察の結果、30サイクル経過後の白金粒子の粒径は、最大30nmであった。以上の効果により、充電反応におけるリチウム酸化物の分解が、円滑に進行するようになった結果、充放電効率に相当するR値の向上につながったと推察される。
【0053】
上述のように、本発明では、金属イオンを吸蔵・放出する負極材と、酸素を活物質とする正極材と、前記負極材と前記正極材の間に設置された電解質膜を有する金属空気二次電池において、正極材は、粒子径が1nm〜500nmの金属粒子または金属酸化物粒子と、1nm〜1μmの細孔径分布において2nm〜30nmの範囲に極大細孔径が存在する炭素材料と、を有することを特徴とする。
本発明によれば、金属粒子又は金属酸化物粒子の粒子径と、炭素材料の細孔径を、上記範囲に規定した正極材を、金属空気二次電池に用いることで、サイクル特性の向上を達成することができる。
なお、炭素材料の極大細孔径は1つに限定されるものではなく、複数存在してもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 カーボンペーパ
2 カーボン塗布層
3 カーボンペーパ正極材
4 負極(リチウム金属)
5 ポリエチレン製セパレータ
6 集電体
7 Oリング
8 押さえ板
9 絞め付けバネ
10 酸素封入弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンを吸蔵・放出する負極材と、酸素を活物質とする正極材と、前記負極材と前記正極材の間に設置された電解質膜を有する金属空気二次電池において、正極材の一部に、酸素還元と酸素発生の両機能を備える触媒として、粒径が1nm〜30nmの金属粒子または金属酸化物粒子を用いており、1nm〜1μmにおける極大細孔径が少なくとも1乃至2つ存在し、且つ、2nm〜30nmの範囲に存在する炭素材料を用いることを特徴とする金属空気二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載の金属空気二次電池において、正極材として、1nm〜1μmにおける極大細孔径が2nm〜30nmの領域に存在し、それ以外の領域における微分細孔容積が、前記極大細孔径の微分細孔容積の70%以下である炭素材料を用いることを特徴とする金属空気二次電池。
【請求項3】
請求項1〜2に記載の金属空気二次電池において、前記炭素材料が、導電剤または触媒の担体であることを特徴とする金属空気二次電池。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の金属空気二次電池において、窒素吸脱着法と水銀ポロシメータにより求めた細孔径を有する炭素材料を用いることを特徴とする金属空気二次電池。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の金属空気二次電池において、酸素還元と酸素発生の両機能を備える触媒として白金微粒子を用いることを特徴とする金属空気二次電池。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の金属空気二次電池において、3.6nm〜200nmにおける累積細孔容積の、3.6nm〜1μmにおける累積細孔容積に対する割合が70%以上である前記炭素材料を用いることを特徴とする金属空気二次電池。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の金属空気二次電池において、触媒に白金粒子を用いた場合、2.0V〜4.0Vの範囲において、作動させることを特徴とする金属空気二次電池。
【請求項8】
金属イオンを吸蔵・放出する負極材と、酸素を活物質とする正極材と、前記負極材と前記正極材の間に設置された電解質膜を有する金属空気二次電池において、
前記正極材は、
粒子径が1nm〜500nmの金属粒子または金属酸化物粒子と、
1nm〜1μmの細孔径分布において2nm〜30nmの範囲に極大細孔径が存在する炭素材料と、
を有することを特徴とする金属空気二次電池。
【請求項9】
請求項8に記載の金属空気二次電池において、前記金属粒子又は金属酸化物粒子は、粒子径が1nm以上30nm以下の範囲にあることを特徴とする金属空気二次電池。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の金属空気二次電池において、前記炭素材料は、極大細孔径が少なくとも1乃至複数存在することを特徴とする金属空気二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−252995(P2012−252995A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178515(P2011−178515)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】