説明

金属箔加工用ローラ

【課題】厚さ数十ミクロン程度の金属箔を加工して、金属箔の表面に、寸法が数ミクロン〜数十ミクロンで、形状がほぼ均一な凸部を、工業的な規模で効率良く形成する。
【解決手段】 少なくとも表層部が、ロックウェル硬度がCスケールでHRC60〜80であり、かつ抗折力が3GPa〜6GPaである金属材料を含有するローラの周面に、複数の凹部を形成して金属箔加工用ローラとする。この金属箔加工用ローラを用いて金属箔を加圧成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔加工用ローラに関する。さらに詳しくは、本発明は、主に、表面に複数の凹部が形成される金属箔加工用ローラを構成する金属材料の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、厚さ数十ミクロンの金属箔の表面に凸部を形成するには、一般的には、めっき法、エッチング法などが利用されている。しかしながら、これらの方法によってミクロン単位の大きさを有する凸部を、金属箔の表面1cm2当り数十〜数百個形成する場合には、多数の工程を有する精密加工が行われ、煩雑な操作が必要になり、長時間を要する。それでも不良品率を十分に低くすることはできない。めっき液、エッチング液などの使用に伴って発生する廃液の処理も、問題になる。また、これらの方法によって形成される凸部は、金属箔との接合強度が十分ではなく、外部から応力が付加されると金属箔から剥落することが多い。したがって、めっき法、エッチング法などは、表面に凸部を有する金属箔を製造する上で、工業的に有利な方法とは言い難い。
【0003】
また、圧接状態にある一対のローラによって形成される圧接ニップ部に金属製板状物を通過させ、該金属製板状物を加圧成形する技術が汎用されている。このような加圧成形技術の代表例として、鋼材の冷間圧延などが挙げられる。
たとえば、クレータ状凹部と、クレータ状凹部の縁に沿って盛り上がった盛り上がり部とが表面に形成されたダルロールが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。ダルロールは、冷間圧延工程と焼鈍工程との間において、冷間圧延された鋼板の表面に、いわゆるダル目を付けるために用いられる。これにより、焼鈍工程がバッチ焼鈍である場合は、鋼板の焼き付きが防止される。また、焼鈍工程が連続焼鈍である場合は、焼鈍炉内で鋼板を搬送する際に、鋼板の蛇行が防止される。
【0004】
また、特許文献1には、ダルロール表面の盛り上がり部が鋼板表面に強く押し付けられることにより、鋼板表面で鋼板材料の局所的な塑性流動が生じ、ダルロールの凹部に鋼板材料が流れ込んで、鋼板が粗面化されることが記載されている。さらに、特許文献1には、表面の平滑なロールを回転させながら、ロール表面にレーザパルスを投射し、ローラ表面を規則的に溶融させて、規則的にクレータ状凹部を形成し、ダルロールを製造することが記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1には、厚さ数百μm〜数mmの冷間圧延鋼板の表面粗さを大きくするための技術が開示されるのみであり、厚さが僅か数十μmの金属箔表面に凸部を形成することについて一切開示がない。また、特許文献1には、ダルロールの材質について特段の記載がないので、ダルローラは一般的な材質によって形成されていると考えられる。一般的な材質とは、たとえば、冷間圧延される鋼板よりも硬質の鋼材である。前記材質のダルロールは、表面のクレータ状凹部が摩耗などにより消失し易いので、工業的な規模での凸部形成には利用できない。また、前記材質のロールにレーザ加工を施してダルロールを製造すると、所望の開口形状を有する凹部を形成できない。たとえば、開口形状が菱形の凹部を形成しようとすると、凹部の開口縁がレーザの余熱によって溶融し、楕円形になる。
【0006】
また、表面に凹凸が形成され、凹部の深さが5〜100μmであり、表面の総面積に対する凸部先端表面の合計面積の割合が10〜80%である圧延ロールが提案されている(たとえば、特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2の技術も、厚さ数百μm〜数mmの冷間圧延鋼板の表面にダル目を付けるものであり、厚さ数十μmの金属箔表面に突起状の凸部を形成するものではない。特許文献2には、圧延ロールの材質について特段の記載がないので、特許文献2の圧延ロールも、特許文献1のダルロールと同様に、工業的な規模での凸部形成に利用できず、かつ所望の開口形状を有する凹部を形成できない。
【0007】
また、周方向に延びる複数の環状凹部(凸条形成環状溝)が形成された第1ワークロールと、周面の平滑な第2ワークロールとを含む圧延装置が提案されている(たとえば、特許文献3参照)。特許文献3の圧延装置では、第1ワークロールと第2ワークロールとを、互いの軸線が平行になるように圧接させて圧接ニップ部を形成している。この圧接ニップ部に長尺状の金属製板状物を通過させることにより、該板状物における厚み方向の一方の表面に複数の突起が形成され、偏平管製造用金属板が得られる。この偏平管製造用金属板に折り曲げ加工などを施すことにより、偏平管が得られる。この偏平管は、コンデンサの冷媒流通管として用いられる。
【0008】
特許文献3には、第1ワークロールの材質として、超硬合金が提案されている。さらに、JIS V10〜60といった超硬合金が記載されている。しかしながら、特許文献3の技術は、厚さ数十μmの金属箔を加工対象にするものではない。また、特許文献3では環状凹部の形成方法として具体的に記載されるのは、刻設のみであり、レーザ加工については一切記載がない。刻設では、ミクロン単位の寸法を有する複数の凹部を、10〜50μm程度の間隔で形成することは非常に困難である。また、レーザ加工により、超硬合金に多数のミクロン単位の凹部を形成する場合でも、凹部の開口形状および開口径が必ずしも均一になるわけではない。さらに、特許文献3において、超硬合金は環状凹部の底面が摩耗するのを防止するためだけに用いられているに過ぎない。
【0009】
一方、レーザ加工により、セラミック製グリーンシート、回路基板などの電子部品に穴を空ける技術は、従来から良く知られている(たとえば、特許文献4参照)。すなわち、レーザ加工を利用して、セラミック層、樹脂層などの表面に凹部を形成することは、しばしば行われている。しかしながら、レーザ加工を利用して、金属表面にミクロン単位の寸法を有する数百から数千万個に及ぶ多数の凹部を形成する技術思想についての提案または報告はない。しかも、レーザ加工により、一般的なステンレス鋼などの金属表面に多数の前記凹部を形成すると、金属表面における凹部の開口形状および開口径が不均一になる。さらに、形成される凹部の機械的強度、耐摩耗性などが低下し、摩耗、変形、破損などが起こり易いという問題がある。
【0010】
さらに、周面に複数の凹部が形成されたセラミックローラを用いて樹脂シートを加圧成形し、樹脂シートの表面にエンボス加工を施すことが一般に行われている。しかしながら、周面に凹部が形成されたセラミックローラを用いて金属箔を加圧成形すると、セラミックローラ周面にクラック、欠け、割れなどが多数発生し、金属箔を連続的に加圧成形できない。
【特許文献1】特開昭63−10013号公報
【特許文献2】特開平10−166010号公報
【特許文献3】特開2005−997号公報
【特許文献4】特開2005−111524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、周面に複数の凹部が形成された金属箔加工用ローラであって、工業的な規模で金属箔を加工しても、凹部の摩耗、変形などが起こり難く、凸部を有する金属箔を効率良く製造できる金属箔加工用ローラを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その過程で、金属材料の種々の特性のうち、ロックウェル硬度および抗折力という2つの特性が、レーザ加工時に凹部の開口形状および開口径に大きな影響を及ぼすことを見出した。本発明者らは、この知見に基づいてさらに研究を重ねた。その結果、特定のロックウェル硬度および抗折力を有する金属材料からなるローラ表面にミクロン単位の凹部を形成する場合には、凹部の個数が数百個〜数千万個に及ぶ多数であっても、開口形状および開口径のばらつきが非常に少なく、ほぼ均一な凹部を形成できることを見出した。また、この凹部は、外部から摩擦力などの応力に対して高い耐久性を有し、摩耗、変形、破損などが起こり難いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、レーザ加工により周面に複数の凹部が形成された金属箔加工用ローラであって、少なくとも凹部の形成される表層部が、ロックウェル硬度がAスケールでHRA81.2〜90.0であり、かつ抗折力が3GPa〜6GPaである金属材料を含有する金属箔加工用ローラに係る。
【0014】
金属箔加工用ローラの周面に垂直な方向における凹部の断面形状は、金属箔加工用ローラ周面から凹部の底面に向けて、断面幅が徐々にまたは連続的に小さくなるテーパ形状であることが好ましい。
金属箔加工用ローラ周面における凹部の開口形状は、ほぼ円形、ほぼ楕円形、ほぼ菱形またはほぼ正多角形であることが好ましい。
金属箔加工用ローラ周面における凹部の開口径は、1μm〜35μmであることが好ましい。
金属箔加工用ローラ周面における該ローラ軸線方向の凹部のピッチは、4μm以上であることが好ましい。
【0015】
金属材料のロックウェル硬度は、AスケールでHRA83.9〜89であることが好ましい。
金属材料の抗折力は、3.3GPa〜5.5GPaであることが好ましい。
金属材料は、超硬合金、サーメット、ハイス鋼、ダイス鋼および鍛鋼よりなる群から選ばれる少なくとも1種の高融点金属材料であることが好ましい。
金属加工用ローラは、凹部の底面と、金属箔の表面とが接触しないように用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の金属箔加工用ローラは、その周面に、レーザ加工により複数の凹部が形成されている。本発明の金属箔加工用ローラにおいて、少なくとも凹部を形成する表層部に上記範囲のロックウェル硬度および抗折力を有する金属材料を含有させることによって、該ローラ周面における開口形状および開口径をほぼ均一に揃えることができる。また、任意の開口形状および開口径に調整できる。たとえば、数ミクロン〜数十ミクロンの大きさの開口径を有する凹部の形成が可能になる。また、ほぼ真円、ほぼ菱形、ほぼ正多角形などの開口形状を有する凹部の形成が可能になる。さらに、このような凹部を10〜50μm程度のピッチで形成することが可能になる。
また、この凹部は外部からの応力に対して非常に高い耐久性を有し、さらに、凹部の内部空間で成長する金属箔の凸部との離型性にも優れている。したがって、金属箔の加工を工業的に連続して実施しても、摩耗、変形などが起こり難く、ほぼ同じ形状を有する凸部を安定的にかつ効率良く形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の金属箔加工用ローラは、たとえば、金属箔を加圧成形し、厚み方向の表面の一方または両方に凸部を有する金属箔(以下「凸部形成金属箔」とする)を得るために用いられる。具体的には、本発明の金属箔加工用ローラと、表面が平滑な金属製ローラとを含む成形加工装置が用いられる。金属箔加工用ローラと、金属製ローラとは、互いの軸線が平行になるように圧接され、圧接ニップ部が形成される。この圧接ニップ部に、凸部を形成しようとする表面が金属箔加工用ローラの周面に接触するように、金属箔を供給して通過させることにより、凸部形成金属箔を得ることができる。また、2本の金属箔加工用ローラを圧接させて用いることにより、両方の表面に凸部を有する凸部形成金属箔を得ることができる。
【0018】
本発明の金属箔加工用ローラにより加圧成形される金属箔は特に制限されず、銅箔、銅合金箔、錫箔、ステンレス鋼箔、 アルミニウム箔、 鉛箔、ニッケル箔、亜鉛箔などが挙げられる。また、本発明の金属箔加工用ローラにより加圧成形される金属箔は、粒界が変形しやすい、焼き鈍し温度が低いといった特性を有していることが好ましい。また、金属箔の厚さは特に制限はないが、好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは10〜50μmである。
【0019】
本発明の金属箔加工用ローラを用いて銅箔、銅合金箔などから得られる凸部形成金属箔は、たとえば、リチウム二次電池における負極集電体として好適に使用できる。銅箔、銅合金箔から得られる凸部形成金属箔の個々の凸部表面には、真空蒸着により、負極活物質を含有し、負極活物質層として機能する柱状体が形成される。このとき、負極活物質としては、たとえば、珪素、珪素酸化物、珪素含有合金、珪素化合物、錫、錫酸化物、錫含有合金、錫化合物などを使用できる。凸部表面に柱状体の負極活物質層を形成することにより、リチウムイオンを吸蔵および放出する際の負極活物質の膨張および収縮に伴って発生する応力が吸収され、負極集電体ひいては負極の変形、負極活物質層の負極集電体からの剥落などが防止される。その結果、充放電サイクル特性、長期的な安全性などに優れたリチウム二次電池が得られる。
また、本発明により得られる凸部形成用金属箔は、たとえば、フレキシブルプリント配線基板における金属箔または金属層、リードフレーム用の金属基板などにも好適に使用できる。
【0020】
本発明の金属箔加工用ローラは、2つの特徴を有している。第1の特徴は、その周面に複数の凹部が形成されていることである。第2の特徴は、少なくとも凹部の形成される表層部が特定の特性を有する金属材料を含有することである。
凹部は、本発明の金属箔加工用ローラの周面(以下単に「ローラ周面」という)に開口を有し、ローラ周面よりもローラの内部に凹んだまたは窪んだ空間領域である。凹部の底面は、ほぼ平坦な平面でも良く、またドーム状などでもよい。
【0021】
個々の凹部は、通常は、それに隣り合う他の凹部とは繋がらないように独立して形成されるが、それに限定されず、部分的に繋がって一体化されてもよく、また全体に繋がって一体化されてもよい。好ましくは、個々の凹部が繋がらないように独立して形成される。
凹部のローラ周面における開口の形状は、特に制限されないが、好ましくは、ほぼ円形、ほぼ楕円形、ほぼ菱形、ほぼ正多角形などである。正多角形は、好ましくは3〜8角形、さらに好ましくは4〜6角形である。
【0022】
凹部のローラ周面における開口径は特に制限されないが、好ましくは1μm〜35μm、さらに好ましくは2〜30μmである。開口径が1μm未満では、個々の凹部の開口径をほぼ均一に揃えることが困難になる。開口径が35μmを超えると、厚さ数十μm程度の金属箔の表面加工には不向きである。また、金属箔を加圧成形する際に付加される応力によって、凹部に摩耗、変形などが発生するおそれがある。なお、開口形状がほぼ円形、ほぼ楕円形またはほぼ正多角形である場合、開口径は、その円形、楕円形または正多角形を内包する最も小さな真円の直径の長さである。開口形状がほぼ菱形である場合、開口径は、その菱形の対角線のうち、長い方の対角線の長さである。
【0023】
凹部の深さは特に制限されず、たとえば、金属箔表面に形成しようとする凸部の高さなどに応じて適宜選択できるが、好ましくは開口径の0.2倍〜1.5倍、さらに好ましくは開口径の0.3倍〜1.2から倍である。凹部の深さが開口径の0.2倍未満では、均一な大きさおよび形状を有する凸部を金属箔表面に形成できなくなるおそれがある。また、凹部の深さが開口径の1.5倍を超えるように形成することは、レーザ加工法では極めて困難である。また切削法では凹部形成に多大な時間を要するかまたは実質的に不可能である。なお、凹部の深さとは、凹部底面の最も凹んだ地点から、凹部の開口に存在すると仮想されるローラ周面に降ろした垂線の長さである。
【0024】
ローラ周面において、凹部が形成されるピッチは、ローラの軸線方向(長手方向)および円周方向共に特に制限されない。凹部の軸線方向のピッチは、凹部の開口径、開口形状、ローラの長さ、得ようとする凸部形成金属箔の設計値などに応じて適宜選択可能であるが、好ましくは4μm以上、さらに好ましくは8〜30μm、特に好ましくは15〜30μmである。凹部の軸線方向のピッチが4μm未満では、レーザ加工法では凹部同士が連結しやすくなる。そのため凹部を仕切るローラ表面の面積が極端に小さくなり、金属箔を加圧成形する際に付加される応力によって、凹部間のしきりが変形するおそれがある。。なお、軸線方向におけるピッチの上限値は、ローラの長さなどに応じて適宜選択すればよい。
【0025】
また、凹部の円周方向のピッチも、凹部の開口径、開口形状、ローラの円周長さ、得ようとする凸部形成金属箔の設計値などに応じて適宜選択可能であるが、好ましくは4μm以上、さらに好ましくは5〜20μm、である。凹部の円周方向のピッチが4μm未満では、レーザ加工法では凹部同士が連結しやすくなる。そのため凹部を仕切るローラ表面の面積が極端に小さくなり、金属箔を加圧成形する際に付加される応力によって、凹部間のしきりが変形するおそれがある。なお、円周方向におけるピッチの上限値は、ローラの円周長さなどに応じて適宜選択すればよい。
【0026】
本明細書において、軸線方向のピッチは、軸線方向に隣り合う2つの凹部の中心を通り、円周方向に延びる2つの平行な直線間の距離(長さ)である。円周方向のピッチは、円周方向に隣り合う2つの凹部の中心を通り、軸線方向に延びる2つの平行な直線間の距離(長さ)である。凹部の中心とは、凹部の開口の中心を意味する。開口の中心とは、凹部の開口形状がほぼ円形、ほぼ楕円形またはほぼ正多角形である場合は、その円形、楕円形または正多角形を内包する最も小さな真円の中心である。また、凹部の開口形状がほぼ菱形である場合、2つの対角線の交点が開口の中心である。
【0027】
ローラの周面に垂直な方向における凹部の断面形状は、ローラ周面から凹部の底面に向けて、断面幅が徐々にまたは連続的に小さくなるテーパ形状であることが好ましい。凹部がテーパ状の断面形状を有することによって、金属箔の加圧成形により金属箔表面に凸部を形成する際に、ローラ周面の凹部と金属箔の凸部との離型性が顕著に向上し、凸部の変形などの不具合が非常に起こり難い。
凹部はレーザ加工により形成されるが、レーザ加工の詳細については、後記する。
【0028】
本発明の金属箔加工用ローラは、少なくとも凹部の形成される表層部が、特定の金属材料を含有する。この金属材料は、ロックウェル硬度がAスケールでHRA81.2〜90.0、好ましくはHRA83.9〜89.0であり、かつ抗折力が3GPa〜6GPa、好ましくは3.3GPa〜5.5GPaである。
【0029】
ロックウェル硬度がAスケールでHRA81.2未満であると、金属箔を加圧成形しても、ローラが扁平化したり、軸方向にたわんだりするため、金属箔に充分な圧力が伝わらず凸部の形成が不十分になり、凸部高さが低くなるか、設計値にほぼ近い大きさおよび形状を有する凸部を均一に形成できないおそれがある。したがって、所望の凸部形成金属箔が得られないおそれがある。また、金属箔加工用ローラ表面が摩耗し、凹部の摩耗、変形などが起こり易くなる。一方、ロックウェル硬度がAスケールでHRA90.0を超えると、金属箔加工用ローラの凹部に割れ、欠け、クラックなどが生じ易くなり、凸部の形状が変形したり、不必要な位置に凸部が形成されるなど、金属箔の加圧成形が不十分になるおそれがある。
【0030】
本明細書において、ロックウェル硬度(HRA)は、JIS Z−2245に基づき、具体的には次の式から算出した値である。
HRA=100−0.5h
〔式中、hはダイヤモンド圧子の侵入深さの差hを示す。〕
ダイヤモンド圧子の侵入深さの差hは、次のようにして求められる。先端の曲率半径が0.2mmで円錐角120°のダイヤモンド圧子を用いて、試料表面に初荷重98.07Nを付加し、次に試験荷重588.4Nを付加し、再び初荷重を付加する。前後2回の初荷重におけるダイヤモンド圧子の侵入深さを求め、その差を求め、ダイヤモンド圧子の侵入深さの差hとする。
【0031】
また、抗折力が3GPa未満であると、金属箔加工用ローラの凹部に割れ、欠け、クラックなどが生じ易くなり、凸部の形状が変形したり、不必要な位置に凸部が形成されるなど、金属箔の加圧成形が不十分になるおそれがある。したがって、金属箔加工用ローラが長期的な使用に耐え得なくなるとともに、使用初期でも凸部の形成が不十分になり、不良品率が増加するおそれがある。一方、抗折力が6GPaを超えると、金属箔を加圧成形しても、ローラが扁平化したり、軸方向にたわんだりするため、金属箔に充分な圧力が伝わらず凸部の形成が不十分になり、凸部高さが低くなるか、設計値にほぼ近い大きさおよび形状を有する凸部を均一に形成できないおそれがある。また、金属箔加工用ローラ表面の耐摩耗性が低下し、凹部の摩耗、変形などが起こり易くなる。また、金属箔の成形加工後に、金属箔加工用ローラと金属箔との離型性が低下し、金属箔加工用ローラによる金属箔の巻き込みなどの不具合が生じるおそれがある。
【0032】
本明細書において、抗折力は、JIS Z−2248に基づき、具体的には次のようにして測定した値である。試験片には、直径Dが13mmで長さが300mmの丸棒を用いる。抗折力測定試験は、万能試験機とそれに付属の曲げ試験装置を用い、支点間距離Lを200mmに設定して3点曲げ試験として実施した。試料が折断するときの荷重を最大荷重Wmaxとすると、抗折力σbは次の式から算出される。
σb=8WmaxL/πD3
【0033】
本発明では、上記に示した所定の数値範囲のロックウェル硬度および抗折力を有する金属材料として、超硬合金、サーメット、ハイス鋼、ダイス鋼および鍛鋼よりなる群から選ばれる少なくとも1種の高融点金属材料を用いることが好ましい。これらの中でも、超硬合金、ハイス鋼、鍛鋼などがさらに好ましく、鍛鋼が特に好ましい。これらの高融点金属材料に属し、かつ所定のロックウェル硬度および抗折力を有する金属材料は、レーザ加工が可能であり、形状および寸法の再現性に非常に優れている。また、このような金属材料にレーザ加工を利用して凹部を形成することにより、金属箔の成形加工を繰返し実施しても、凹部の摩耗、変形、破損などが非常に起こり難く、長期耐用性が高い。被加工物は1種または2種以上の金属材料を含有しても良い。
【0034】
超硬合金の具体例としては公知のものを使用でき、たとえば、元素周期律表4A、5A、6A族の金属の炭化物粒子をFe、Co、Niなどの金属バインダーを用いて焼結した超硬合金などが挙げられる。超硬合金の具体例としては、たとえば、WC−Co系、WC−Cr32−Co系、WC−TaC−Co系、WC−TiC−Co系、WC−NbC−Co系、WC−TaC−NbC−Co系、WC−TiC−TaC−NbC−Co系、WC−TiC−TaC−Co系、WC−ZrC−Co系、WC−TiC−ZrC−Co系、WC−TaC−VC−Co系、WC−TiC−Cr32−Co系、WC−TiC−TaC系、WC−Ni系、WC−Co−Ni系、WC−Cr32−Mo2C−Ni系、WC−Ti(C、N)−TaC系、WC−Ti(C、N)系などの炭化タングステン基超硬合金、Cr32−Ni系どが挙げられる。
【0035】
サーメットの具体例としては公知のものを使用でき、たとえば、TiC−Ni系、TiC−Mo−Ni系、TiC−Co系、TiC−Mo2C−Ni系、TiC−Mo2C−ZrC−Ni系、TiC−Mo2C−Co系、Mo2C−Ni系、Ti(C、N)−Mo2C−Ni系、TiC−TiN−Mo2C−Ni系、TiC−TiN−Mo2C−Co系、TiC−TiN−Mo2C−TaC−Ni系、TiC−TiN−Mo2C−WC−TaC−Ni系、TiC−WC−Ni系、Ti(C、N)−WC−Ni系、TiC−Mo系、Ti(C、N)−Mo系、ホウ化物系(MoB−Ni系、B4C/(W、Mo)B2系など)などが挙げられる。これらの中でも、Ti(C、N)−Mo2C−Ni系、TiC−TiN−Mo2C−Ni系、TiC−TiN−Mo2C−Co系、TiC−TiN−Mo2C−TaC−Ni系、TiC−TiN−Mo2C−WC−TaC−Ni系、Ti(C、N)−WC−Ni系、Ti(C、N)−Mo系などの炭窒化チタン基サーメットが好ましい。
【0036】
ハイス鋼は、鉄にモリブデン、タングステン、バナジウムなどの金属を添加し、さらに熱処理を施して硬度を高めた材料である。ハイス鋼としても公知のものを使用でき、たとえば、鉄を主成分としかつ炭素、タングステン、バナジウム、モリブデンおよびクロムを含有するハイス鋼、鉄を主成分としかつ炭素、タングステン、バナジウム、モリブデン、コバルトおよびクロムを含有するハイス鋼、鉄を主成分としかつ炭素、バナジウム、モリブデンおよびクロムを含有するハイス鋼、鉄を主成分としかつ珪素、マンガン、クロム、モリブデンおよびバナジウムを含有するハイス鋼、鉄を主成分としかつ炭素、珪素、マンガン、クロム、モリブデンおよびバナジウムを含有するハイス鋼、鉄を主成分としかつ炭素、珪素、マンガン、クロム、モリブデン、タングステン、コバルトおよびバナジウムを含有するハイス鋼などが挙げられる。
【0037】
ダイス鋼としては公知のものを使用でき、たとえば、鉄、炭素、タングステン、バナジウム、モリブデンおよびクロムを含有するダイス鋼、鉄、炭素、バナジウム、モリブデンおよびクロムを含有するダイス鋼、鉄、炭素、珪素、マンガン、硫黄、クロム、モリブデンおよび/またはタングステン、バナジウム、ニッケル、銅ならびにアルミニウムを含有するダイス鋼などが挙げられる。
【0038】
鍛鋼は、溶鋼を鋳型に鋳込んで造られた鋼塊またはその鋼塊から製造される鋼片を加熱し、プレスおよびハンマーで鍛造または圧延および鍛造することにより鍛錬成形し、これを熱処理することによって製造された材料である。鍛鋼としても公知のものを使用でき、たとえば、鉄を主成分としかつ炭素、クロムおよびニッケルを含有する鍛鋼、鉄を主成分としかつケイ素、クロムおよびニッケルを含有する鍛鋼、ニッケル、クロムおよびモリブデンを含有する鍛鋼、鉄を主成分としかつ炭素、珪素、マンガン、ニッケル、クロム、モリブデンおよびバナジウムを含有する鍛鋼、鉄を主成分としかつ炭素、珪素、マンガン、ニッケル、クロムおよびモリブデンを含有する鍛鋼などが挙げられる。
これらの高融点金属材料において、含有成分の組成を適宜選択することにより、所定のロックウェル硬度および抗折力を示す金属材料が得られる。また、鍛鋼などの製造工程において熱処理を行う高融点金属材料については、熱処理温度を適宜選択することにより、所望のロックウェル硬度および抗折力を有する材料を得ることができる。
【0039】
本発明の金属箔加工用ローラにおいて、所定のロックウェル硬度および抗折力を示す金属材料を含有する表層部の厚さは特に制限されないが、好ましくは、5〜50mm程度である。
上記のような表層部は、金属材料が高融点金属材料である場合は、たとえば、高融点材料製円筒を芯用ロールに焼き嵌めまたは冷やし嵌めすることによって作製できる。焼き嵌めとは、高融点材料製円筒の内径が芯用ロールの外径よりも僅かに小さくなるように高融点材料製円筒を作製し、この高融点材料製円筒を暖めて膨張させ、芯用ロールに嵌め込むことである。また、冷やし嵌めとは、高融点材料製円筒の内径が芯用ロールの外径よりも僅かに小さくなるように作製した高融点材料製円筒に、冷却により収縮させた芯用ロールを嵌め込むことである。芯用ロールには、たとえば、ステンレス鋼、鉄などからなるロールを使用できる。
なお、本発明の金属箔加工用ローラは、表層部だけでなく、全体が所定のロックウェル硬度および抗折力を示す金属材料で構成されていてもよい。
【0040】
本発明の金属箔加工用ローラ周面に存在する凹部は、レーザ加工により形成される。すなわち、凹部の形成には、従来のレーザを利用した穴あけ加工法を利用できる。レーザ加工には、たとえば、ローラ回転装置、レーザ発振器、加工ヘッド、導光路、マスク部およびアクチュエータを含むレーザ加工装置を使用できる。
ローラ回転装置は、たとえば、ローラ支持台および駆動装置を含む。ローラ支持台は、少なくとも表層部が所定のロックウェル硬度および抗折力を有する金属材料を含有し、周面に凹部が形成されていないローラを、その軸線回りに回転自在に支持する。駆動装置は、ローラ支持台により支持されているローラ(以下、「凹部形成用ローラ」とする)を、その軸線回りに回転駆動させる。
【0041】
レーザ発振器は、レーザ光を出力する装置である。レーザ発振器には、公知のレーザ発振器を使用でき、たとえばYAG結晶(イットリウム、アルミニウム、ガーネット)やYVO4結晶にネオジムイオンを混入してなるレーザ媒体を使用した固体レーザ発振器(Nd:YAGレーザ、Nd:YVO4レーザ)などが挙げられる。これ以外にも、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザなども使用可能である。
レーザ発振器の出力は、たとえば、50mW〜200Wである。また、レーザ光の周波数は、好ましくは100Hz〜100kHzである。レーザ光の照射時間は特に制限されないが、好ましくは、一回当たり10ps〜200nsである。照射時間が10ps未満では、レーザ光の照射による熱伝導が発生せず、原子1層分しか取り除くことができず、凹部の形成が不十分になるおそれがある。一方、200nsを超えると、凹部形成用ローラの回転によりレーザ光が凹部形成用ローラ表面をスイープするおそれがある。
【0042】
加工ヘッドは、レーザ発振器によるレーザ光出力方向において導光路よりも下流側に設けられる部材である。加工ヘッドは、レーザ発振器から出力され、導光路を介して送られて来るレーザ光を集光して凹部形成用ローラの外周面に照射する。加工ヘッドは、たとえば、集光レンズを含む。集光レンズは、レーザ光の進路に直交するように設けられ、導光路を介して送られて来るレーザ光を集光して凹部形成用ローラの外周面に照射する。集光レンズの焦点距離は特に制限はないが、5mm〜200mmの範囲から選択するのが好ましい。また、加工ヘッドには、アシストガスが導入される。アシストガスとしては、たとえば、酸素、窒素、ヘリウム、アルゴン、これらの2種以上の混合ガスなどが挙げられる。アシストガスの圧力は、たとえば、0.1MPa〜1MPaの範囲から選択すればよい。
【0043】
導光路は、レーザ発振器によるレーザ光出力方向においてレーザ発振器よりも下流側に設けられ、レーザ発振器から出力されるレーザ光を加工ヘッドまで導く部材である。導光路は、たとえば、複数の反射ミラーを含んでいる。複数の反射ミラーを適切な位置に配置することにより、レーザ光が反射ミラーにより反射され、加工ヘッドまで導かれる。複数の反射ミラーのうち、加工ヘッドに最も近接し、レーザ光を加工ヘッドに直接導く反射ミラーは、加工ヘッドの往復動に連動するように、往復動可能に設けられている。
【0044】
マスク部は、導光路の途中に設けられ、レーザ光の輪郭を所望形状に整形する部材である。マスク部には、形成しようとする凹部と同じ開口形状を有する貫通孔であるレーザ通過孔が形成されている。レーザ通過孔を通過したレーザ光は、輪郭がレーザ通過孔の開口形状に成形され、加工ヘッドの集光レンズによりレーザ通過孔の開口形状と同じ像が凹部形成用ローラの外周面に結像される。すなわち、レーザ通過孔の開口形状が、凹部の開口形状になる。
【0045】
アクチュエータは、レーザ発振器、加工ヘッド、導光路およびマスク部の鉛直方向下方に設けられ、これらの装置および部材を一体的にかつ往復動可能に支持する。アクチュエータは、これらの装置および部材を凹部形成用ローラの長手方向に平行に往復動させる。
このようなレーザ加工装置は、広く市販されている。また、ローラ回転装置を備えないレーザ加工装置においても、ローラ回転装置を所定の位置に装着することにより、凹部形成のためのレーザ加工を実施できる。
【0046】
レーザ加工装置により、凹部形成用ローラ周面にレーザ光を連続的または間歇的に、好ましくは照射することにより、凹部が形成される。凹部が形成されると、凹部形成用ローラを回転させるか、アクチュエータにより加工ヘッドなどを凹部形成用ローラの長手方向に移動させ、新たに凹部が形成される。この操作を繰り返すことにより、凹部形成用ローラの所望の領域に凹部が形成され、本発明の金属箔加工用ローラが得られる。
なお、レーザ加工により凹部を形成すると、凹部のローラ周面での開口の縁に沿って隆起が形成される場合がある。このような隆起は、たとえば、研磨加工などにより除去するのが好ましい。研磨加工は公知の方法に従って実施できる。たとえば、研磨材としてダイヤモンド粒子を用い、かつ研磨パッドを備える研磨装置を用い、水などの媒体をの供給下に行われる。
【0047】
次に、本発明の金属箔加工用ローラを用いる凸部形成金属箔の製造について、具体的に説明する。図1は金属箔加工装置10の構成を模式的に示す側面図である。図2は図1に示す金属箔加工装置10の要部(加工手段4)の構成を拡大して示す斜視図である。図3は金属箔加工用ローラ1の構成を示す図面である。図3(a)は金属箔加工用ローラ1の外観を示す斜視図である。図3(b)は図3(a)に示す金属箔加工用ローラ1の表面領域1xを拡大して示す斜視図である。
【0048】
凸部形成金属箔2は、表面に凸部が形成された金属箔であり、たとえば、図1に示す金属箔加工装置10により製造できる。金属箔加工装置10は、金属箔供給手段3、加工手段4および金属箔巻取り手段5を含む。
金属箔供給手段3は、具体的には、金属箔供給ローラである。金属箔供給ローラは、図示しない支持手段により軸線回りに回転可能に軸支されている。金属箔供給ローラの周面には、金属箔8が捲回されている。この金属箔8は、加工手段4の圧接ニップ部6に供給される。
【0049】
加工手段4は、図1および図2に示すように、2つの金属箔加工用ローラ1を含んでいる。2つの金属箔加工用ローラ1は、互いの軸線が平行になるように圧接される。これにより、圧接ニップ部6が形成される。圧接ニップ部6は、金属箔8のような薄肉シート状物が通過可能である。また、金属箔加工用ローラ1は、それぞれ、図示しない支持手段により回転可能に軸支され、図示しない駆動手段により軸線回りに回転駆動可能に設けられている。2つの金属箔加工用ローラ1は両方を駆動ローラとしてもよく、または一方を駆動ローラとし、他方を駆動ローラの回転に伴って回転する従動ローラとしてもよい。なお、金属加工用ローラ1がたわみ変形を防止するため、図示しないバックローラがそれぞれの金属加工用ローラ1に圧接されている。金属加工用ローラ1とバックアップローラは、互いの軸線が平行になっている。2つの金属箔加工用ローラ1の回転駆動により、金属箔8が圧接ニップ部6の入口から出口へと導かれ、金属箔8に加圧成形が施される。これにより、金属箔8の表面に凸部9が形成された凸部形成金属箔2が得られる。
【0050】
金属箔加工用ローラ1は、周面に複数の凹部1aが形成された本発明のローラである。
金属箔加工用ローラ1周面における凹部1aの配列パターンは、本実施の形態では次のようになる。図3(b)に示すように、金属箔加工用ローラ1の長手方向に複数の凹部1aがピッチP1で連なった列を1つの行単位7とする。複数の行単位7は、金属箔加工用ローラ1の円周方向にピッチP2で配列されている。ピッチP1およびピッチP2は、任意に設定できる。なお、金属箔加工用ローラ1の円周方向において、1つの行単位7と、それに隣り合う行単位7とは、凹部1aが金属箔加工用ローラ1の長手方向にずれるように配列されている。
本実施の形態では、凹部1aの長手方向のずれは0.5P1であるが、これに限定されず、任意の設定が可能である。また、本実施の形態では、金属箔加工用ローラ1周面における凹部1aの開口形状は、ほぼ円形であるが、これに限定されず、たとえば、ほぼ楕円形、ほぼ菱形、ほぼ正三角形、ほぼ正方形、ほぼ正六角形、ほぼ正八角形などでもよい。
【0051】
凹部1aの金属箔加工用ローラ1周面に垂直な方向の断面は、該断面の金属箔加工用ローラ1周面に平行な方向の幅が金属箔加工用ローラ1周面から凹部1aの底部に向けて徐々に小さくなるテーパ形状を有している。これにより、加圧成形終了後における、凸部形成金属箔2の金属箔加工用ローラ1からの離型性が向上する。
金属箔加工用ローラ1の直径は特に制限されないが、好ましくは30mmから200mm程度である。また、2つの金属箔加工用ローラ1の圧接圧(線圧)は特に制限されないが、好ましくは、5kN・cm〜20kN・cm程度である。
【0052】
なお、本実施の形態では、圧接ニップ部6を形成する2つのローラを本発明の金属箔加工用ローラ1としているが、それに限定されない。たとえば、2つのローラの一方を本発明の金属箔加工用ローラ1とし、他方を、表面に凹部が形成されず、表面が平滑なローラとしてもよい。その場合、厚み方向の一方の表面に凸部が形成された凸部形成用金属箔が得られる。
また、上記のように、圧接ニップ部6に通過させて金属箔8を圧縮加工することにより、凹部1aと金属箔8の表面とで囲まれた密閉空間が形成され、この密閉空間には空気が残留する。金属箔加工用ローラ1による金属箔8への加圧力(圧接圧)が上記に示した適切な範囲にある場合、この密閉空間は、金属箔8が加工されている間維持され、凹部1aの底面と金属箔8の表面とは、残留する空気が介在することにより、非接触状態が保たれる。
【0053】
金属箔巻取り手段5は、具体的には、金属箔巻取りローラである。金属箔巻取りローラは、図示しない支持手段により軸線回りに回転可能に軸支されている。また、金属箔巻取りローラは、図示しない駆動手段により回転駆動される。金属箔巻取りローラは、回転しながら、加工手段4により形成された凸部形成金属箔2をその周面に巻き取る。
金属箔加工装置10によれば、金属箔8を加圧成形することにより、凸部形成金属箔2が製造される。
【実施例】
【0054】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
レーザ加工装置(スペクトラ・フィジックス(株)製)に、レーザ発振器としてNb:YAGレーザを装着した。加工ヘッドから出力されるレーザ光の強度を1回の照射あたり23μJに設定した。また、集光レンズおよび焦点距離を調整して、加工ヘッドの結像倍率を16倍に設定した。すなわち、加工ヘッドの結像サイズは、レーザ加工用マスクの開口の1/16倍になる。レーザ加工用マスクとしては、厚さ0.3mm、寸法22mm×22mmのステンレス鋼板(SUS304)に放電加工を施し、形状がほぼ菱形であるレーザ通過孔を形成したものを用いた。レーザ通過孔の菱形の開口径(長い方の対角線の長さ)は、0.32mmであった。短い方の対角線の長さは0.16mmであった。
【0055】
このレーザ加工装置のローラ回転装置と芯押し台との間に、鍛鋼ローラ(大同マシナリー(株)製、直径50mm、ローラ幅100mm、鍛鋼のロックウェル硬度:AスケールでHRA84.9、抗折力:4.0GPa、鍛鋼組成:重量比率で、炭素1%、シリコン0.24%、マンガン0.36%、クロム1.46%および残部鉄)を装着し、該鍛鋼ローラ表面に、照射時間50ナノ秒、照射間隔1ミリ秒で、レーザ光を照射した。レーザ光の照射後、レーザ光照射領域を鍛鋼ロールの長手方向に20μmまたは円周方向に29μm移動させ、同様にレーザ光を照射した。なお、円周方向の移動は、鍛鋼ローラを回転させることにより行った。円周方向に移動して5400個の凹部を形成した後、長手方向に20μm移動し、円周方向に14.5μm回転させた後、円周方向に5400個の凹部を形成する作業を繰り返した。ローラの幅方向に4500回移動させて90mm加工した。このようにして凹部2430万個を千鳥格子状に形成し、本発明の金属箔加工用ローラを作製した。
【0056】
形成された凹部の開口形状はほぼ菱形であり、開口径(菱形の長い方の対角線の長さ)は20μmであった。菱形の短い方の対角線長さは10μmであった。また、凹部の底面はドーム状であり、凹部の深さは約12μmであった。凹部の長手方向(鍛鋼ロールの幅方向)のピッチは約20μm、短手方向(鍛鋼ロールの円周方向)のピッチは約29μmであった。
【0057】
この金属箔加工用ローラ2本を金属箔加工装置10に装着した。金属箔加工装置10の圧接ニップ部における加圧力を線圧で約14.7kN・cm(1500kgf/cm)に設定し、幅80mm、厚み26μmのタフピッチ銅箔を圧接ニップ部に通過させて加工を行った。加工後の銅箔表面に、金属箔加工用ローラの凹部に対応する凸部が形成された。凸部10個の平均高さをレーザ顕微鏡(商品名:VK−9500、キーエンス社製)で測定した結果、7.0μmであった。銅箔を100m/1巻として20巻で2000m加工を行ったが、銅箔表面に形成された凸部の形状はほぼ同等で、凸部高さも7.0μmであった。金属箔加工用ローラの表面をレーザ顕微鏡で観察した結果、クラックやチッピングは生じていなかった。
【0058】
(実施例2)
超硬合金製ローラ(富士ダイス(株)製、直径50mm、幅100mm、ロックウェル硬度:AスケールでHRA90.0、抗折力:3.1GPa、炭化タングステン粒子およびコバルト(結着剤)を含有)を用いる以外は、実施例1と同様にして本発明の金属箔加工用ローラを作製した。
この金属箔加工用ローラ2本を金属箔加工装置10に装着し、圧接ニップ部における圧力を約14.7kN・cm(1500kgf/cm)から約9.8kN・cm(1000kgf/cm)に変更する以外は、実施例1と同様にして、幅80mm、厚み26μmのタフピッチ銅箔を加工した。加工後の銅箔表面には、金属箔加工用ローラの凹部に対応する凸部が形成されていた。レーザ顕微鏡(VK−9500)での測定による凸部10個の平均高さは、6.5μmであった。銅箔を100m/1巻として10巻で1000m加工を行ったが、銅箔表面に形成された凸部の形状はほぼ均一で、凸部高さは6.7μmであった。また、加工後の金属箔加工用ローラの表面をレーザ顕微鏡で観察した結果、クラックやチッピングの発生は認められなかった。引き続き銅箔を累計2000m加工した。銅箔表面に形成された凸部の形状は初期とほぼ同等で、凸部の高さは6.5μmであった。なお、金属箔加工用ローラの表面を顕微鏡で観察した結果、一部に炭化タングステン粒子が脱落したチッピング箇所が認められた。
【0059】
(実施例3)
超硬ローラ(富士ダイス株式会社製、直径50mm、幅100mm、ロックウェル硬度:AスケールでHRA89.0、抗折力:3.3GPa、炭化タングステン粒子およびコバルト(結着剤)を含有)を用いる以外は実施例1と同様にして本発明の金属箔加工用ローラを作製した。
この金属箔加工用ローラ2本を金属箔加工装置10に装着し、圧接ニップ部における圧力を約14.7kN・cm(1500kgf/cm)から約9.8kN・cm(1000kgf/cm)に変更する以外は、実施例1と同様にして、幅80mm、厚み26μmのタフピッチ銅箔を加工した。加工後の銅箔表面に、金属箔加工用ローラの凹部に対応する凸部が形成されていた。レーザ顕微鏡(VK−9500)で測定による凸部10個の平均高さは、6.3μmであった。さらに、銅箔を100m/1巻として20巻で2000m加工を行ったところ、銅箔表面に形成された凸部の形状は初期とほぼ同じで、凸部10個の平均高さは6.4μmであった。加工後の金属箔加工用ローラの表面を顕微鏡で観察した結果、クラックやチッピングの発生は認められなかった。
【0060】
(実施例4)
鍛鋼ローラ(大同マシナリー(株)製、直径50mm、幅100mm、ロックウェル硬度:AスケールでHRA83.9、抗折力:5.5GPa)を用いる以外は実施例1と同様にして本発明の金属箔加工用ローラを作製した。鍛鋼の組成は重量比率で、炭素1.1%、シリコン0.22%、マンガン0.38%、クロム1.76%および残部鉄であった。
この金属箔加工用ローラ2本を金属箔加工装置10に装着し、圧接ニップ部における圧力を約9.8kN・cm(1000kgf/cm)から約19.6kN・cm(2000kgf/cm)に変更する以外は、実施例1と同様にして、幅80mm、厚み26μmのタフピッチ銅箔を加工した。加工後の銅箔表面には、金属箔加工用ローラの凹部に対応する凸部が形成されていた。レーザ顕微鏡(VK−9500)での測定による凸部10個の平均高さは、5.8μmであった。さらに、銅箔を100m/1巻として20巻で2000m加工を行ったところ、銅箔表面に形成された凸部の形状は初期とほぼ同じで、凸部10個の平均高さは5.7μmであった。加工後の金属箔加工用ローラの表面を顕微鏡で観察した結果、クラックやチッピングは生じていなかった。
【0061】
(実施例5)
ダイス鋼ローラ(大同マシナリー(株)製、直径50mm、ローラ幅100mm、ロックウェル硬度:AスケールでHRA81.2、抗折力:5.8GPa)を用いる以外は実施例1と同様にして本発明の金属箔加工用ローラを作製した。ダイス鋼の組成は、炭素1.4%、シリコン0.4%、マンガン0.6%、クロム11.2%、モリブデン0.9%、バナジウム0.3%および残部鉄であった。
この金属箔加工用ローラ2本を金属箔加工装置10に装着し、実施例4と同様にして、幅80mm、厚み26μmのタフピッチ銅箔を加工した。加工後の銅箔表面には、金属箔加工用ローラの凹部に対応する凸部が形成されていた。レーザ顕微鏡(VK−9500)での測定による凸部10個の平均高さは、4.9μmであった。さらに、銅箔を100m/1巻として20巻で2000m加工を行ったところ、銅箔表面に形成された凸部の形状は初期とほぼ同じで、凸部10個の平均高さは5.0μmであった。加工後の金属箔加工用ローラの表面を顕微鏡で観察した結果、クラックやチッピングは生じていなかった。
【0062】
(比較例1)
超硬合金ローラ(富士ダイス(株)製、直径50mm、幅100mm、ロックウェル硬度:AスケールでHRA94.0、抗折力:1.5GPa、炭化タングステン粒子およびコバルト(結着剤)を含有)を用いる以外は実施例1と同様にして金属箔加工用ローラを作製した。この金属箔加工用ローラ周面の凹部は、開口形状および開口径にばらつきが認められた。特に開口形状は、ほぼ菱形のものも認められたが、楕円形状のものが多数認められた。
【0063】
この金属箔加工用ローラ2本を金属箔加工装置10に装着し、圧接ニップ部における圧力を約14.7kN・cm(1500kgf/cm)から約9.8kN・cm(1000kgf/cm)に変更する以外は、実施例1と同様にして、幅80mm、厚み26μmのタフピッチ銅箔を加工した。加工後の銅箔表面には、金属箔加工用ローラの凹部に対応する凸部が形成されていた。すなわち、凸部の形状にはばらつきがあった。レーザ顕微鏡(VK−9500)での測定による凸部10個の平均高さは、7.2μmであった。さらに、銅箔を100m/1巻として10巻で1000m加工を行ったところ、銅箔表面に形成された凸部には、変形したものが多数認められた。凸部10個の平均高さは6.2μmであった。加工後の金属箔加工用ローラの表面を顕微鏡で観察した結果、炭化タングステン(WC)の粒子が欠け落ちて、凹部の変形やロール表面が荒れている状態が観察された。
【0064】
(比較例2)
ダイス鋼ローラ(大同マシナリー(株)製、直径50mm、幅100mm、ロックウェル硬度:AスケールでHRA78.0、抗折力:8GPa)を用いる以外は実施例1と同様にして本発明の金属箔加工用ローラを作製した。ダイス鋼の組成は、炭素0.4%、シリコン1.1%、マンガン0.5%、クロム5.0%、モリブデン1.0%、バナジウム1.0%および残部鉄であった。この金属箔加工用ローラ周面の凹部は、開口形状および開口径にばらつきが認められた。特に開口形状は、ほぼ菱形のものも認められたが、楕円形状のものが多数認められた。
【0065】
この金属箔加工用ローラ2本を金属箔加工装置10に装着し、圧接ニップ部における圧力を約9.8kN・cm(1000kgf/cm)、約14.7kN・cm(1500kgf/cm)または約19.6kN・cm(2000kgf/cm)に設定する以外は、実施例1と同様にして、幅80mm、厚み26μmのタフピッチ銅箔を加工した。加工後の銅箔表面には、金属箔加工用ローラの凹部に対応する凸部が形成されていた。すなわち、凸部の形状にはばらつきがあった。レーザ顕微鏡(VK−9500)での測定による凸部10個の平均高さはそれぞれ2.2μm(約9.8kN・cm)、2.3μm(約14.7kN・cm)、2.3μm(約19.6kN・cm)であった。圧接ニップ部における圧力を高めても、凸部高さが増加しないことが判明した。これは圧力を高めるほど金属箔加工用ローラが扁平化し、該ローラ表面と銅箔とが接する面積が増加し、銅箔に実際にかかる加重が高まらないためである考えられる。
【0066】
実施例1〜5および比較例1〜2の結果から、本発明の金属箔加工用ローラを用いると、1000m以上の銅箔に対して高さ4μm以上で、形状がほぼ均一な凸部を、数千万個単位で安定的に形成できることが明らかである。本発明の金属箔加工用ローラとは、ロックウェル硬度がAスケールでHRA81.2〜90.0であり、かつ抗折力が3GPa〜6GPaである金属材料を含有するローラに凹部が形成されたものである。
また、ロックウェル硬度がAスケールでHRA81.2以下または抗折力が3GPa以下である金属材料を含有する金属箔加工用ローラを用いると、ローラが扁平化し、圧接ニップ部における圧力を高めても、銅箔に高さ3μm以上の凸部を形成できないことが明らかである。さらに、ロックウェル硬度がAスケールでHRA90.0以上または抗折力6GPa以上である金属材料を含有する金属箔加工用ローラを用いると、チッピングが生じて凹部が変形し、ロール表面が荒れるため、安定して加工が出来ないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の金属箔加工用ローラは、各種金属箔の表面に凸部を形成するために好適に利用できる。特に、本発明の金属箔加工用ローラは、高い耐久性を示すので、凸部を有する金属箔を量産する場合でも、効率良くかつ非常に低い不良品率で製造でき、工業的に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】凸部形成金属箔加工装置の構成を模式的に示す側面図である。
【図2】図1に示す凸部形成金属箔加工装置の要部の構成を拡大して示す斜視図である。
【図3】金属箔加工用ローラの構成を示す図面である。図3(a)は金属箔加工用ローラの外観を示す斜視図である。図3(b)は図3(a)に示す金属箔加工用ローラの表面領域を拡大して示す斜視図である。
【符号の説明】
【0069】
1 金属箔加工用ローラ
1a 凹部
2 凸部形成金属箔
3 金属箔供給手段
4 加工手段
5 金属箔巻取り手段
6 圧接ニップ部
7 行単位
8 金属箔
9 凸部
10 金属箔加工装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ加工により周面に複数の凹部が形成された金属箔加工用ローラであって、少なくとも凹部の形成される表層部が、ロックウェル硬度がAスケールでHRA81.2〜90.0であり、かつ抗折力が3GPa〜6GPaである金属材料を含有する金属箔加工用ローラ。
【請求項2】
金属箔加工用ローラの周面に垂直な方向における凹部の断面形状が、金属箔加工用ローラ周面から凹部の底面に向けて、断面幅が徐々にまたは連続的に小さくなるテーパ形状である請求項1に記載の金属箔加工用ローラ。
【請求項3】
金属箔加工用ローラ周面における凹部の開口形状が、ほぼ円形、ほぼ楕円形、ほぼ菱形またはほぼ正多角形である請求項1または2に記載の金属箔加工用ローラ。
【請求項4】
金属箔加工用ローラ周面における凹部の開口径が1μm〜35μmである請求項1〜3のいずれか1つに記載の金属箔加工用ローラ。
【請求項5】
金属箔加工用ローラ周面における該ローラ軸線方向の凹部のピッチが4μm以上である請求項1〜4のいずれか1つに記載の金属箔加工用ローラ。
【請求項6】
金属材料のロックウェル硬度がAスケールでHRA83.9〜89.0である請求項1〜5のいずれか1つに記載の金属箔加工用ローラ。
【請求項7】
金属材料の抗折力が3.3GPa〜5.5GPaである請求項1〜6のいずれか1つに記載の金属箔加工用ローラ。
【請求項8】
金属材料が超硬合金、サーメット、ハイス鋼、ダイス鋼および鍛鋼よりなる群から選ばれる少なくとも1種の高融点金属材料である請求項1〜7のいずれか1つに記載の金属箔加工用ローラ。
【請求項9】
凹部の底面と、金属箔の表面とが接触しないように用いられる請求項1〜8のいずれか1つの金属箔加工用ローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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