説明

金属粉末および合金の製造および用途

本発明は、反応副生物として生じる塩によって被覆された金属粒子を生成するためにハロゲン化金属、またはハロゲン化金属の混合物の液相還元を使用する、金属粉末または合金粉末の製造方法を対象とする。反応条件を選定することにより、様々な金属粒子サイズを選択でき、塩皮膜により、酸化(または大気中の他のガスとの反応)が防止され、金属粉末を使用して実現するのが従来は難しかった様々な用途が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年7月17日に出願した同時係属中の米国仮特許出願第61/226,367号および2010年5月18日に出願した同時係属中の米国仮特許出願第61/345,823号の優先権を主張するものであり、これらの開示内容は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明は金属粉末の生成およびこれらの金属粉末の用途に関する。
【背景技術】
【0003】
金属粉末は数多くの用途において有用である。しかし、これらの粉末を活用できる程度は、表面が酸化膜に被覆されている場合(および他のガスが金属粒子の表面、または金属粒子体の内部に存在する場合)、制限されることがある。特に、金属粉末を利用する用途は、金属粉末中に存在する酸素分ならびに金属の焼結および他の特性に対するこの影響のために制限されることがある。
【0004】
本発明では、反応副生物として生じる塩によって被覆された金属粒子を生成するために、ハロゲン化金属、またはハロゲン化金属の混合物の液相還元を使用する製造方法が説明されている。反応条件を選定することにより、様々な金属粒子サイズを選択でき、塩皮膜により、酸化(または大気中の他のガスとの反応)が防止され、金属粉末を使用して実現するのが従来は難しかった様々な用途が可能になる。
【0005】
以下の文面では、「金属」とは、少なくとも1種であり2種以上もあり得る金属元素を意味し、「ハロゲン化金属」とは、少なくとも1種であり2種以上もあり得る個別のハロゲン化金属を意味すると理解されたい。さらに、「還元剤」とは、ハロゲン化金属を金属粉末に還元する還元媒体を意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(発明の要旨)
本発明は、金属粉末の生成および様々な使用におけるそれらの用途に関し、これらの用途に対して、生成方法は特によく適しており、経済的にも有利である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の好ましい一方法は、
(a)還元剤、好ましくはアルカリ金属またはアルカリ土類金属、より好ましくはアルカリ土類金属、最も好ましくは金属ナトリウムを含有する反応容器中に液体ハロゲン化金属を導入する工程(ここで、還元剤の量は、所定の限界内に留まり、還元剤が、ハロゲン化金属に対して化学量論的に常に過剰になるように制御される。)、
(b)反応生成物(金属、1種または複数の還元剤ハロゲン化物、および過剰な還元剤の混合物)を反応容器中の還元剤から分離する工程を含む。
【0008】
このように生成された金属は、1種または複数の塩によって封入された金属粉末の形態になっている。典型的な塩は、NaClおよび他のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩である。意図する用途に応じて、金属粉末は、1種または複数の塩から分離することもでき、または1種または複数の塩によって封入されたまま、さらに加工することもできる。
【0009】
この方法によって生成された粒子のサイズは、反応温度、試薬の流速、および、加工している1種または複数の特定の金属を含むいくつもの要因によって制御される。粒子サイズを選択できることは、本発明の重要で魅力的な態様である。
【0010】
この方法によって生成された金属は、焼結すると、酸素、窒素または他のガス(これらはすべて、粉末冶金法により形成される冶金製の部品、素子および物体の冶金特性に対して悪影響を与え得る。)を含まない中実部品を形成できるので、粉末冶金製の部品、素子および機器の作製によく適している。加工は、塩皮膜を着けた状態で行うこともでき、もしくは金属粉末が有害なガス汚染にさらされないように、塩皮膜を除去した後に行うこともでき、または塩皮膜を適切な溶媒(例えば、水)によって除去した後、金属粉末を加工して、溶媒にさらされて生じたすべての表面汚染を除去することにより行うこともできる。
【0011】
この方法によって生成された金属は、多孔質構造の形成にもよく適しており、この形成において、塩で被覆された金属粒子は、金属粒子が互いに物理的に接触するまで一緒にプレスされる。この材料を続いて焼結させた後に洗浄すると、多孔質物体を生成できる。
【0012】
この方法によって生成された金属は、金属皮膜およびシートの形成にもよく適している。塩で被覆された粒子は、基材に塗布することができ、その後には、塩皮膜は、金属粉末(これは焼結してシートまたは皮膜を形成できる。)の皮膜を残す、または塩皮膜内にある金属を焼結させるのに十分な高温において塩の除去を行う場合、金属皮膜を残すように除去することもできる。
【0013】
この方法によって生成された金属は、周知の粉末冶金法を使用して金属粉末をプレスおよび焼結し、所望する最終製品の形状にすることにより、金属部品、素子および物体を形成するのにもよく適している。
【0014】
金属粒子の塩皮膜を例えば水洗によって除去すると、表面が金属酸化物によって被覆された金属粉末を生成できる。この粉末はさらに、金属の焼結前の脱酸素工程により、または、金属酸化物の方が融点が低いことを利用して金属粉末をこの酸化物の存在下で焼結させることにより、例えば、粉末冶金製の部品、物体および素子に加工でき、多孔質素子およびアノードにも加工でき、皮膜またはシートにも加工できる。塩皮膜は、金属粒子を塩の沸点を超えるまで加熱(真空の利用によって促進できるプロセス)することによっても除去できるし、金属に圧力を加えて塩を絞り出すことによっても除去できる。塩を除去する方法の的確な選定は、最終製品の選定および所望の金属純度によるものであり、当業者には明らかである。
【0015】
結合剤は、金属粉末に加えると加工特性を高め、例えば、金属の厚膜をキャストする能力を向上できる。結合剤は、加熱または他の手段により、金属表面が酸化しないようにして金属から除去できるように選定すべきである。
【0016】
最後に、本明細書に記載されたすべての方法は、好ましい液相還元剤の代わりに、気相還元剤を使用して実施できる。
【0017】
したがって、本発明の一実施形態は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属中の液相ハロゲン化金属を溶融金属還元することにより、少なくとも1種のハロゲン化金属の混合物を還元する方法である。好ましくは、少なくとも1種のハロゲン化金属の混合物は、塩化金属の混合物であり、還元剤は金属ナトリウムである。好ましくは、本方法の反応生成物は、少なくとも1種の金属混合物、塩皮膜、および少なくとも0.1%の金属ナトリウムを含む。より好ましくは、本方法の反応生成物は、少なくとも1種の金属混合物、塩皮膜、および少なくとも1%の金属ナトリウムを含む。さらに、過剰なナトリウムは反応生成物から除去できる。
【0018】
本発明の別の実施形態は、上述の反応生成物を使用して、アノードなどの粉末冶金素子を形成することである。アノードには、バルブ金属またはバルブ金属合金を使用するのが好ましい。適切なバルブ金属には、タンタル、ニオブ、アルミニウム、およびこれらの合金、ならびにアルミニウム−ケイ素合金が挙げられる。
【0019】
本発明の別の実施形態は、これらの反応生成物を使用して、アノードから作製したコンデンサを形成することである。
【0020】
本発明の別の実施形態は、これらの反応生成物を使用して、本方法によって生成された金属粉末から金属シートまたはウエハを形成することである。
【0021】
本発明の別の実施形態は、これらの反応生成物を使用して、本方法によって生成された金属粉末からスパッタリングターゲットを形成することである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上述したように、ハロゲン化金属は、化学量論的に過剰な溶融還元剤中に液体として注入され、この中で、還元剤ハロゲン化物によって被覆された粒子状の金属に還元できる。金属粒子の典型的なサイズは、反応の温度、試薬の流速、および金属の拡散特性の関数である。反応条件を慎重に制御することにより、様々な典型的な金属粒子サイズを選択できる。金属の表面積は粒子サイズに関連しており、金属粒子の表面積は、商業的用途における金属の数多くの重要な物理的特性を決定する。
【0023】
金属粒子の元素組成は、ハロゲン化金属の比を選択し、還元剤への注入の前にこれらを混合することによって選定できる。広範な金属合金をこのようにして生成できる。
【0024】
この反応により、わずかな還元剤を取り入れながら、ハロゲン化物塩によって被覆された金属粉末が生じる。この反応生成物は、反応器から除去した後に、塩および還元剤を除去する処理を行うこともできるし、還元剤を不動態化する処理を最初に行うこともできる。
【0025】
後者の場合、還元剤は、塩素処理(または他のハロゲンを使用したハロゲン化)ならびに金属を沸点を超える温度で蒸発させる熱加工を含む様々な手段によって不動態化できる。
【0026】
商業的用途により、反応生成物は、これの塩皮膜と一緒に加工することもでき、または使用する前に、塩皮膜を除去する処理を行うこともできる。以下の代表的ではあるが網羅的ではない実施例により例示されているこの技術には、数多くの商業的用途がある。
【実施例】
【0027】
[実施例1]
塩化鉄、塩化ネオジムおよび塩化ホウ素を、ネオジム鉄ホウ素磁石の生成に適した化学量論比で混合する。これらの塩化物は、化学量論的に過剰な溶融ナトリウム中に150℃から700℃の範囲の温度において液体として注入される。
【0028】
このようにして生成された金属粒子は、鉄、ネオジムおよびホウ素の合金であり、塩化ナトリウムによって被覆されている。金属粒子は例えば、塩で被覆された金属粒子から溶融ナトリウムを分離するのに有効なサイズのフィルターに溶融ナトリウムを通過させることにより、溶融ナトリウムから分離できる。
【0029】
金属粒子は次いで、例えば、塩で被覆された粒子を塩の融点を超えるまで加熱し、その後、例えばベルトフィルターによって金属粒子をろ過して溶融塩を除去することにより、塩皮膜を除去する処理を行うことができる。塩皮膜は、圧力を金属粉末に加えることで塩を流動させ、金属粉末から分離することによって除去することもできる。
【0030】
次に、金属粒子をプレスおよび加熱して、残存の塩を除去し、金属粉末を所望の形状の中実物体に焼結できる。
【0031】
[実施例2]
塩化アルミニウムを溶融して、アルミニウムの融点未満に留まるように制御された温度において、化学量論的に過剰な溶融ナトリウム中に注入する。この反応により、塩化ナトリウムの皮膜を有するアルミニウム粒子が生じ、これらの粒子は、例えば上記実施例1で説明したようにしてナトリウムからろ過できる。
【0032】
分離後、塩で被覆されたアルミニウム粒子を500℃から600℃に加熱し、完全または部分的な(不活性雰囲気の)真空にさらして微量のナトリウムを除去すると、ナトリウムは蒸発し、廃棄または再使用するために収集できる。
【0033】
次に、塩皮膜内にあるアルミニウム粒子をプレスして、所望の形状を形成できる。圧力下、アルミニウムの融点未満の温度においては、塩は流動してアルミニウムから分離し、これにより、塩皮膜がアルミニウム金属から除去される。
【0034】
最後に、アルミニウム金属を加熱して中実物体に焼結し、溶媒(例えば水)によって洗浄して微量の表面塩のすべてを除去できる。
【0035】
[実施例3]
アルミニウムのケイ素に対する比が少なくとも1:1であり、好ましくは3:1を超える塩化アルミニウムおよび塩化ケイ素の混合物を、溶融ナトリウムの沸点未満の温度において化学量論的に過剰な溶融ナトリウム中に注入する。
【0036】
このように形成された金属粒子は、ケイ素およびアルミニウムの合金を含み、例えば、上記実施例1の方法を使用して溶融ナトリウムから分離できる。過剰なナトリウムは、その後、実施例2で説明した真空下において除去できる。
【0037】
金属粒子を次いでプレスして(圧力下で流動する)塩を除去することもでき、所望する最終金属製品(例えば、自動車エンジン部品)の形状に成形することもできる。金属製品は、次いで加熱して金属を焼結させることができ、さらに適切な溶媒によって洗浄して、残存する表面塩の汚染のすべてを除去できる。
【0038】
[実施例4]
実施例2または3の金属粉末は、アノードの形状因子内部に塩を充填した多孔質構造を残しながら、金属粒子を互いに接触させるのに十分な圧力をこの粉末に加えることにより、アノードの形状因子にプレスできる。
【0039】
次に、十分なエネルギーを供給して金属粒子を融合させ、これにより、連結した単一金属構造をアノードの形状因子内部に作り出すことができる。この工程において、供給されるエネルギーは、アノード構造内部の塩に代表される細孔構造を破壊しないように制限すべきである。
【0040】
第三に、このように形成されたアノード構造は、適切な溶媒、例えば水中で洗浄して、塩を除去し、(溶媒の選定によっては)酸化によりアノード構造内部の金属表面を不動態化できる。
【0041】
このようにして作製されたアノードは、次いでさらに加工してコンデンサにすることができ、コンデンサの静電容量は、金属粉末の粒子サイズおよびコンデンサを形成する化成電圧によって決定される。
【0042】
[実施例5]
塩化タンタルおよび塩化ケイ素を金属比1:2で混合し、溶融ナトリウムの沸点未満の温度において溶融ナトリウム中に注入すると、塩によって被覆されたケイ化タンタル金属粒子が形成される。これらの粒子は、例えば実施例1の方法に従ってナトリウムから除去できる。
【0043】
過剰なナトリウムは、完全または部分的な真空下で500℃から700℃まで加熱することによって粒子から除去できる。別法として、塩素ガスを400℃未満の温度において使用して、過剰なナトリウムを塩化ナトリウムに化学変化させることができる。
【0044】
次に、金属粒子は、半導体製造を含む用途むけにスパッタリングターゲットとして使用するのに適した形態にプレスできる。このプレスプロセスにより過剰な塩は除去されるが、加えられる圧力は、金属粉末を中実物体に圧縮するのに十分にすべきである。
【0045】
金属粉末の中実成形体は次に、上記ターゲット形成プロセスを完了するために焼結し、またはホットプレスでき、最終的には、溶媒中で洗浄して残存する表面塩を除去することができ、または完全もしくは部分的な真空下で800℃を超える温度まで加熱して、残存する表面塩のすべてを蒸発させることもできる。
【0046】
[実施例6]
ハロゲン化金属の、四塩化ケイ素およびトリクロロシランを含み、塩化水素および/または他の塩化ケイ素を含むこともあり得る混合物を、150℃から700℃の範囲の温度において、化学量論的に過剰な溶融ナトリウム中に液体として注入する。
【0047】
このように生成された金属粒子は、塩化ナトリウムによって被覆されたケイ素金属である。金属粒子は例えば、塩で被覆された金属粒子から溶融ナトリウムを分離するのに有効なサイズのフィルターにナトリウムを通過させることにより、溶融ナトリウムから分離できる。典型的には、このように生成された金属粒子は、少なくとも1重量パーセントのナトリウムを含有する。
【0048】
ナトリウムは、真空下または不活性ガス流中で、500℃を超える温度において蒸発させることによって除去できる。
【0049】
金属粒子は、次いで塩皮膜を除去する処理を行うことができる。これは、いくつかの方法によって実施できる。例えば、水、アンモニア、または他の極性溶媒などの適切な溶媒を使用して洗浄することにより、塩を除去できる。塩は、塩で被覆された粒子を塩の融点を超えるまで加熱した後、金属粒子を例えばベルトフィルターによってろ過して溶融塩を除去することによっても除去できる。塩皮膜は、金属粉末に圧力を加え、その結果、塩を流動させ金属粉末から分離することによっても除去できる。塩は、1200℃を超える温度まで加熱し、真空または不活性ガススイープを利用して蒸発させることによって除去できる。塩は、前述の方法を組み合わせて除去することもできる。材料を慎重に処理することにより、塩の量は10ppm未満に抑制でき、より注意すれば1ppm未満に抑制できる。
【0050】
最後に、所望であれば、金属粒子をプレスおよび加熱して、金属粉末を所望の形状の中実物体に焼結できる。
【0051】
上記の実施例は、本明細書に記載された本発明によって利用可能になる広範な金属および合金ならびにこれらの用途の例示を意図しているにすぎない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属中の液相ハロゲン化金属の溶融金属還元により、少なくとも1種のハロゲン化金属の混合物を還元する方法。
【請求項2】
少なくとも1種のハロゲン化金属の混合物が、塩化金属の混合物であり、還元剤が金属ナトリウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1種の金属混合物、塩皮膜、および少なくとも0.1%の金属ナトリウムを含む、請求項1に記載の方法による反応生成物。
【請求項4】
少なくとも1種の金属混合物、塩皮膜、および少なくとも1%の金属ナトリウムを含む、請求項1に記載の方法による反応生成物。
【請求項5】
不動態化した後または過剰なナトリウムを除去した後の請求項3または4に記載の反応生成物。
【請求項6】
請求項5に記載の材料から形成される粉末冶金素子。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の方法によって生成された金属粉末によって作製されたアノード。
【請求項8】
金属粉末がバルブ金属またはバルブ金属合金を含む、請求項7に記載のアノード。
【請求項9】
バルブ金属またはバルブ金属合金が、タンタル、ニオブ、アルミニウム、およびこれらの合金、ならびにアルミニウム−ケイ素合金からなる群より選択される、請求項8に記載のアノード。
【請求項10】
請求項7に記載のアノードから作製されたコンデンサ。
【請求項11】
請求項1または請求項2に記載の方法によって生成された金属粉末によって作製された金属シートまたはウエハ。
【請求項12】
請求項1または請求項2に記載の方法によって生成された金属粉末によって作製されたスパッタリングターゲット。

【公表番号】特表2012−533685(P2012−533685A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520804(P2012−520804)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/042209
【国際公開番号】WO2011/009014
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(512012414)ボストン・エレクトロニツク・マテリアルズ・エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】