説明

金属精製方法及び装置、精製金属、鋳造品、金属製品及び電解コンデンサ

【課題】凝固速度が大きな状態で晶出した金属がある程度成長した後に冷却体から剥離する事態を回避して、精製効率の向上を図ることができ、しかも得られる精製金属重量も大きな金属精製方法及び装置等を提供する。
【解決手段】精製すべき溶融金属2中に冷却体3を浸漬し、この冷却体3を回転させながら冷却体表面に高純度金属を晶出させる金属の精製方法において、精製初期前半の冷却体3の最大周速を精製初期以降の平均周速よりも大きく設定し、かつ精製初期後半の冷却体の平均周速を精製初期以降の平均周速よりも小さく設定して精製を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属の精製方法及び装置に関し,更に詳しく言えば、偏析凝固法の原理を利用して共晶不純物を含むアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、鉛、亜鉛等の金属から、共晶不純物の含有量を元の金属よりも少なくし,高純度の金属を製造する方法及び装置に関し、さらには前記方法により精製された金属、この金属を用いた鋳造品、金属製品及び電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
この種金属の精製方法として、精製用溶湯保持炉内に入れられた共晶不純物を含む溶融金属中に回転冷却体を浸漬し、回転冷却体内に冷却流体を供給しつつこの冷却体を回転させてその周面により純度の高い精製金属を晶出させる方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この方法では、冷却体周面への凝固速度が遅いほど、晶出した金属の純度が高くなることがわかっている。ところで、冷却体周面の温度が低い状態のまま冷却体を精製すべき溶融金属中に浸漬すると、その周面への凝固速度が速くなり、その結果晶出した金属の純度が図2のように低くなるという問題がある。また、このような凝固速度が大きな状態で晶出した金属は冷却体との密着性が悪く、回転による遠心力によって非常に剥離しやすい。精製初期に剥離すれば問題はないが、ある程度成長した後に剥離した場合には、得られる精製金属重量が少なくなってしまうものであった。
【0004】
このような剥離に対処する方法として、回転冷却体周面に剥離防止用凹溝を設けることが提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】昭公昭61−3385号公報
【特許文献2】特開昭62−280334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、回転冷却体周面に剥離防止用凹溝を設ける方法だけでは不十分であり、剥離を防ぐことは出来ず、このためある程度成長した後に剥離した場合には、精製金属重量が少なくなってしまうという問題を、依然として解決できなかった。
【0006】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、凝固速度が大きな状態で晶出した金属がある程度成長した後に冷却体から剥離する事態を回避して、精製効率の向上を図ることができ、しかも得られる精製金属重量も大きな金属精製方法及び装置を提供し、さらには前記方法により精製された金属、この金属を用いた鋳造品、金属製品及び電解コンデンサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の手段によって解決される。
(1)精製すべき溶融金属中に冷却体を浸漬し、この冷却体を回転させながら冷却体表面に高純度金属を晶出させる金属の精製方法において、精製初期前半の冷却体の最大周速を精製初期以降の平均周速よりも大きく設定し、かつ精製初期後半の冷却体の平均周速を精製初期以降の平均周速よりも小さく設定し、さらに精製初期後半の冷却体の最大周速が精製初期以降の平均周速を超えないように設定して精製を行うことを特徴とする金属精製方法。
(2)前記精製初期前半が精製開始から全精製時間×0.1まで、前記精製初期後半が精製初期前半の終了から全精製時間×0.1までである前項1に記載の金属精製方法。
(3)前記精製初期前半が精製開始から全精製時間×0.05まで、前記精製初期後半が精製初期前半の終了から全精製時間×0.05までである前項1に記載の金属精製方法。
(4)前記精製初期前半の冷却体の最大周速V1と、前記精製初期後半の冷却体の平均周速V2と、精製初期以降の平均周速V4の関係が、V1≧V4×1.1、V2≦V4×0.9に設定されている前項1〜3のいずれかに記載の金属精製方法。
(5)精製される金属がアルミニウムである前項1〜4のいずれかに記載の金属精製方法。
(6)不純物元素の組成分布が、その不純物平均濃度の70%以上、130%以下の範囲内である金属精製塊。
(7)精製すべき溶融金属を収容する炉体と、前記炉体に収容された溶融金属中に浸漬される冷却体と、前記冷却体を回転させる回転駆動装置と、精製初期前半の冷却体の最大周速が精製初期以降の平均周速よりも大きくなるように、かつ精製初期後半の冷却体の平均周速が精製初期以降の平均周速よりも小さくなるように、さらに精製初期後半の冷却体の最大周速が精製初期以降の平均周速を超えないように、前記回転駆動装置による冷却体の回転速度を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする金属精製装置。
(8)前記精製初期前半が精製開始から全精製時間×0.1まで、前記精製初期後半が精製初期前半の終了から全精製時間×0.1までである前項7に記載の金属精製装置。
(9)前記精製初期前半が精製開始から全精製時間×0.05まで、前記精製初期後半が精製初期前半の終了から全精製時間×0.05までである前項7に記載の金属精製装置。
(10)前記制御手段は、前記精製初期前半の冷却体の最大周速V1と、前記精製初期後半の冷却体の平均周速V2と、精製初期以降の平均周速V4の関係が、V1≧V4×1.1、V2≦V4×0.9となるように、回転駆動装置による冷却体の回転速度を制御する前項7〜9のいずれかに記載の金属精製装置。
(11)請求項1ないし5のいずれかに記載の方法で精製された精製金属。
(12)請求項11に記載の精製金属から製造された鋳造品。
(13)請求項12に記載の鋳造品が圧延されてなる金属製品。
(14)請求項13に記載の金属製品が電極材として用いられている電解コンデンサ。
【発明の効果】
【0008】
前項(1)に記載の発明によれば、精製初期前半の冷却体の最大周速をそれ以降の平均周速よりも大きく設定して精製を行うから、冷却体を精製すべき溶融金属中に浸漬した際の精製初期前半に発生する、凝固速度が大きく純度の低い晶出金属を、回転冷却体から積極的に剥離させ、溶融金属中に再溶解させることができる。こうして、冷却体との密着性が悪い晶出金属はごく初期に除去されるので、凝固速度が大きな状態で晶出した金属がある程度成長した後に冷却体から剥離する事態を回避できる。しかも、精製初期後半の冷却体の平均周速を精製初期以降の平均周速よりも小さく設定し、さらに精製初期後半の冷却体の最大周速が精製初期以降の平均周速を超えないように設定して精製を行うから、精製初期後半に晶出金属に対して作用する回転冷却体の遠心力を小さくでき、このため精製初期前半の積極的剥離後の精製金属を剥離することなく成長させることができ、精製効率の高い晶出金属を重量多く精製することができる。
【0009】
前項(2)に記載の発明によれば、精製効率の安定的な向上、精製重量の安定的な増大を期待できる。
【0010】
前項(3)に記載の発明によれば、精製効率のさらに安定的な向上、精製重量のさらに安定的な増大を期待できる。
【0011】
前項(4)に記載の発明によれば、精製初期前半の冷却体の最大周速V1と、精製初期後半の冷却体の平均周速V2と、精製初期以降の平均周速V4の関係が、V1≧V4×1.1、V2≦V4×0.9に設定されているから、凝固速度が大きく冷却体との密着性が悪い晶出金属の初期の積極的剥離効果と、その後に晶出した金属の剥離防止効果を有効に発揮させることができる。
【0012】
前項(5)に記載の発明によれば、高純度の金属塊となしうる。
【0013】
前項(6)に記載の発明によれば、凝固速度が大きく冷却体との密着性が悪い晶出アルミニウムを精製初期に冷却体から剥離させて、アルミニウム塊の精製効率を向上することができる。
【0014】
前項(7)に記載の発明によれば、凝固速度が大きく冷却体との密着性が悪い晶出金属を精製初期に積極的に剥離させることができ、かつその後に晶出した金属の剥離を防止できる精製装置となしうる。
【0015】
前項(8)に記載の発明によれば、精製効率の安定的な向上、精製重量の安定的な増大を期待できる精製装置となしうる。
【0016】
前項(9)に記載の発明によれば、精製効率のさらに安定的な向上、精製重量のさらに安定的な増大を期待できる精製装置となしうる。
【0017】
前項(10)に記載の発明によれば、凝固速度が大きく冷却体との密着性が悪い晶出金属の初期の積極的剥離効果と、その後に晶出した金属の剥離防止効果を有効に発揮させることができる精製装置となしうる。
【0018】
前項(11)に記載の発明によれば、純度の高い精製金属となしうる。
【0019】
前項(12)に記載の発明によれば、純度の高い鋳造品となしうる。
【0020】
前項(13)に記載の発明によれば、純度の高い圧延金属製品となしうる。
【0021】
前項(14)に記載の発明によれば、純度の高い圧延金属からなる電極材が用いられた電解コンデンサとなしうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明の一実施形態を説明する。
【0023】
図1はこの発明の一実施形態に係る金属精製装置の概略構成と、これを用いた金属精製方法を説明するための図である。
【0024】
図1において、1は溶湯保持炉であり、この溶湯保持炉1の内部に溶融金属2が収容保持されている。保持炉1の上方には回転冷却体3が上下左右移動自在に配置されるとともに、金属精製時には冷却体3が下方移動して、溶湯保持炉1内の溶融金属2中に浸漬されるものとなされている。また、図示は省略したが、溶湯保持炉1と平行する配置で、精製金属掻き落とし装置が設置され、冷却体3に晶出した金属を掻き落として回収することができるものとなされている。さらに、溶湯保持炉1内の溶融金属2は、一定の温度となるよう加熱炉内に配置され、保持炉1の外側から加熱されるようになっている。
【0025】
前記冷却体には、回転軸31を介してモータ等の回転駆動装置4が連結され、冷却体3に回転力を付与できるようになっている。この回転駆動装置4の回転速度、換言すれば冷却体3の回転速度は制御部5により可変制御可能となされており、これにより後述するように、精製初期前半の冷却体3の最大周速を精製初期以降の平均周速よりも大きく設定し、かつ精製初期後半の冷却体3の平均周速を精製初期以降の平均周速よりも小さく設定すること等ができるものとなされている。
【0026】
図1(a)に示すように、前記回転冷却体3を溶湯保持炉1内の溶融金属2に浸漬し、内部に冷却流体を供給しつつ回転させ、冷却体1の周面に精製金属6をゆっくり晶出させる。この順序は特に限定するものではなく、回転冷却体3を回転させながら溶融金属2に浸漬させても問題はない。共晶不純物は液相中に排出されて凝固界面近傍の液相中に共用不純物の不純物濃化層が出来るが、回転冷却体3と溶融金属2との相対速度によって不純物濃化層中の不純物が液相全体に分散させられる。この状態で凝固を進行させると、図1(b)に示すように、冷却体3の周面には元の溶融金属2よりはるかに高純度の金属塊6が得られる。
【0027】
この回転冷却体3の周面の高純度金属塊6は、ある一定時間経過後に溶融金属2から冷却体3と共に引き上げられ、冷却体3から掻き落として回収される。こののち冷却体3は再度溶湯保持炉1内の溶融金属2に浸潰され、金属精製に供される。この工程は繰り返し実施され連統的に金属精製が行われる。
【0028】
この工程において、精製金属掻き落とし後の冷却体は溶融金属の温度より明確に低い温度となる。そのため溶融金属2に再度浸漬した時に冷却体3の同面に接する溶融金属2は、冷却体3への熱拡散により急激に凝固してしまう。このとき凝固した金属は急激に冷却されるため、共晶不純物がほとんど排出されないために純度は悪いものとなる。また冷却体3への密着が悪いため精製途中で精製金属塊6が剥離してしまうことが多く、その場合には一定時間の精製後に得られる精製塊重量が少なってしまう。このように非常に不安定な精製工程となり、結果として生産効率が悪いものとなる。
【0029】
そこで、この発明は、冷却体3の浸漬直後に晶出した純度の低い金属精製塊6を、回転冷却体3の周速を意図的に大きくして金属精製塊6に作用する遠心力を増大させることで、精製初期の短時間の間に積極的に剥離させるものである。つまり、精製初期前半の冷却体の最大周速を精製初期以降の平均周速よりも大きく設定して精製を行うものである。
【0030】
このように、精製初期前半の冷却体の最大周速を精製初期以降の平均周速よりも大きく設定することで、冷却体3の浸漬直後に晶出した純度の低い精製金属は、回転冷却体3の周速が高速であるために大きな遠心力を受けて短時間で剥離する。しかも急激な冷却により凝固した純度の低い晶出金属を積極的に剥離させるから、精製塊全体としての精製効率も向上する。そして、その後の精製初期後半では、冷却体の平均周速を精製初期以降の平均周速よりも小さくし、かつ精製初期後半の冷却体の最大周速が精製初期以降の平均周速を超えないようにすることにより、図1(c)に示すように、積極的剥離後に新たに晶出した金属精製塊6を剥離することなく成長させることができ、安定した精製が可能となり、最終的に得られる精製金属重量も大きくなる。
【0031】
ここで、精製初期前半とは、例えば精製開始から全精製時間×0.1までをいう。全精製時間×0.1の経過後に冷却体の最大周速を大きくしても、晶出した金属精製塊6の剥離タイミングが遅すぎて、生産効率が悪くなる恐れがある。望ましくは、精製初期前半は精製開始から全精製時間×0.05までとするのがよい。
【0032】
具体的には、精製開始から全精製時間×0.05までの冷却体の最大周速V1を、精製初期以降の平均周速V4に対してV1≧V4×1.1に設定して精製を行うのが良いが、更に確実な効果を得るためには、精製開始から全精製時間×0.1までの冷却体3の最大周速V1を、精製初期以降の平均周速V4に対してV1≧V4×1.1に設定して精製を行うのがよい。
【0033】
一方、精製初期後半とは、例えば精製初期前半の終了から全精製時間×0.1までの時間をいう。全精製時間×0.1を超える時間まで平均周速を小さくしても、前記積極的剥離後に新たに晶出した精製金属の剥離防止効果が飽和するのみならず、生産性の低下を招いて最終的に得られる精製金属重量を大きくすることができない恐れがある。また、積極的剥離後の新たな精製金属の剥離防止効果を確実に得るためには、精製初期後半は精製初期前半の終了から全精製時間×0.05までを少なくとも確保するのがよい。
【0034】
具体的には、精製開始から全精製時間×0.05までの冷却体3の平均周速V2を、それ以降の平均周速V4に対してV2≦V4×0.9に設定して精製を行うのが良いが、更に確実な効果を得るためには、精製開始から全精製時間×0.1までの冷却体3の平均周速V2を、それ以降の平均周速V4に対してV2≦V4×0.9に設定して精製を行うのがよい。
【0035】
また、精製初期後半の冷却体3の最大周速V3が精製初期以降の平均周速V4以上であると、たとえ精製初期後半の冷却体3の平均周速V1をそれ以降の平均周速V4よりも小さく設定しても、最大周速によって生じる遠心力により、精製初期前半における積極的剥離操作後に晶出した精製金属が、再度剥離する恐れがあることから、精製初期更新の冷却体3の最大周速V3をそれ以降の平均周速V4を超えないように設定する必要がある。好ましくは、精製初期後半の冷却体3の最大周速V3をそれ以降の平均周速V4の0.95倍以下に設定するのが望ましい。
【0036】
この金属精製装置において、溶湯保持炉1は単独であっても良いし連結樋によって複数の保持炉が互いに連通状に接続されていても構わない。単独の場合は精製を繰り返すと溶融金属の不純物濃度が増すために、精製した金属の純度が悪化してしまう。そのために定期的に溶融金属を入れ替えるのが良い。連結樋によって互いに連結した場合は、一端から新たな溶融金属を注ぎこめば溶融金属2が、隣接する溶湯保持炉1に流出し、高濃度の溶融金属がそのまま溶湯保持炉1に滞留することはなく、このため溶融金属を入れ替える必要がない。また最下流の溶湯保持炉1から流出した溶融金属は、精製に適さない濃度となるので排出される。
【0037】
回転冷却体3は黒鉛、セラミックス製等が望ましいが、これに限るものではない。高温の溶融金属と接触するために回転冷却体3も高温となるので、この高温で溶融せず、極端な強度低下をしないものであれば良く、金属製であっても構わない。
【0038】
回転冷却体3を冷却するための冷媒も特に限定はされず、窒索ガス、二酸化炭素ガス、アルゴンガス、圧縮エアー等を使用できるが、コストの面で圧縮エアーが推奨される。
【0039】
精製金属は、共晶不純物を含むアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、鉛、亜鉛等の金属を挙げうる。特にアルミニウムを精製する際、アルミニウムと包晶を生成する不純物が含まれる場合には、ホウ素添加および撹拌を行うのが良い。ホウ素添加および撹拌を行うことで、ホウ素が溶融金属中に含まれているTi、V、Zr等の包晶不純物と反応してTiB2、VB2、ZrB2等の不溶性ホウ化物が生成される。余剰のホウ素は、共晶不純物にして除去される。上記ホウ化物は、溶湯保持炉1内で冷却体3の回転により生じる遠心力によって冷却体3から遠ざけられ、冷却体3の周面に晶出したアルミニウムに含まれることはない。また、溶湯保持炉1が連結樋によって互いに連通状に接続されている場合は、最上流にホウ素添加用るつぼを配置しておくのがよい。ホウ素は一般的にアルミニウムに添加された母合金ロッドとして溶融金属中に供給される。
【0040】
上記により精製された金属は、高純度であるから、各種の加工や用途に用いることで優れた特性や機能を発揮させることができる。一例を挙げると、精製金属を鋳造に用いて鋳造品を製作しても良いし、この鋳造品を圧延して各種の金属板や金属箔として用いても良い。また、この金属箔を例えばアルミニウム電解コンデンサの電極材として用いてもよい。
【0041】
上記精製金属塊は、図2に示すような不純物元素の組成分布が、その不純物平均濃度の70%以上、130%以下の範囲内に収まるようになり、精製金属塊全体の不純物元素の濃度ばらつきが少ない点で望ましい。
【実施例】
【0042】
[実施例]
不純物として主にFe:500ppm、Si:400ppmが含まれるアルミニウム溶湯を精製保持炉内に入れ、精製炉ヒーターの電力を調整し665℃の温度に保持する。その後、温度を調整した上端部の外径が150mmであるテーパー形状の回転冷却体を溶湯中に浸潰し、以下に示す速度で回転させながら、7分間回転冷却体周面に精製アルミニウムを晶出させた。なお回転冷却体内には圧縮エアーを直接当てて冷却させた。
(1)冷却体の回転数を、精製開始から全精製時間×0.025まで周速V1:3.5m/sec、その後全精製時間×0.05まで平均周速V2:2.7m/sec、最大周速V3:2.9m/sec、それ以降周速3.1m/sec(従って平均周速V4も3.1m/sec)に設定して、5回の精製実験を実施した結果、精製塊重量は平均で6.16kgであった。また、精製中に発生した剥離回数を精製開始後の時間経過とともに調査したところ、表1の通りであり、精製開始から全精製時間×0.05以内での剥離発生率は減少した。
【0043】
また、実験番号3の精製塊の平均組成はFe:101ppm、Si:121ppm、回転冷却体接触部近傍の組成を調査したところ、Fe:130ppm、Si:153ppm、塊外周部近傍の組成を調査したところ、Fe;98ppm、Si:112ppmであった。
【0044】
【表1】

【0045】
(2)冷却体の回転数を、精製開始から全精製時間×0.05まで周速V1:3.5m/sec、その後全精製時間×0.1まで平均周速V2:2.7m/sec、最大周速V3:2.9m/sec、それ以降周速3.1m/sec(従って平均周速V4も3.1m/sec)に設定して、5回の精製実験を実施した結果、精製塊重量は平均で6.18kgであった。また、精製中に発生した剥離回数を精製開始後の時間経過とともに調査したところ、表2の通りであり、精製開始から全精製時間×0.1以内での剥離回数は減少した。
【0046】
【表2】

【0047】
[従来例]
不純物として主にFe:500ppm、Si:400ppmが含まれるアルミニウム溶湯を精製保持炉内に入れ、精製炉ヒーターの電力を調整し665℃の温度に保持する。その後、温度を調整した上端部の外径が150mmであるテーパー形状の回転冷却体を溶湯中に浸潰し、周速3.1m/secの一定速度で回転させながら、7分間回転冷却体周面に精製アルミニウムを晶出させた。なお回転冷却体内には圧縮エアーを直接当てて冷却させた。
【0048】
5回の精製実験を実施した結果、精製塊重量は平均で6.0kgであった。また、精製中に発生した剥離回数を精製開始後の時間経過とともに調査したところ、表3の通りであり、精製開始から全精製時間×0.05までの全ての精製で剥離が発生した。
【0049】
実験番号13の精製塊の回転冷却体接触部近傍の組成を調査したところ、Fe:200ppm、Si:240ppmと極めて純度の悪いものであった。
【0050】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の一実施形態に係る金属精製装置の概略構成と、これを用いた金属精製方法を説明するための図である。
【図2】精製された金属塊の不純物元素の組成分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
1 溶湯保持炉
2 溶融金属(溶湯)
3 冷却体
4 回転駆動装置
5 制御部
6 精製金属塊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製すべき溶融金属中に冷却体を浸漬し、この冷却体を回転させながら冷却体表面に高純度金属を晶出させる金属の精製方法において、
精製初期前半の冷却体の最大周速を精製初期以降の平均周速よりも大きく設定し、かつ精製初期後半の冷却体の平均周速を精製初期以降の平均周速よりも小さく設定し、さらに精製初期後半の冷却体の最大周速が精製初期以降の平均周速を超えないように設定して精製を行うことを特徴とする金属精製方法。
【請求項2】
前記精製初期前半が精製開始から全精製時間×0.1まで、前記精製初期後半が精製初期前半の終了から全精製時間×0.1までである請求項1に記載の金属精製方法。
【請求項3】
前記精製初期前半が精製開始から全精製時間×0.05まで、前記精製初期後半が精製初期前半の終了から全精製時間×0.05までである請求項1に記載の金属精製方法。
【請求項4】
前記精製初期前半の冷却体の最大周速V1と、前記精製初期後半の冷却体の平均周速V2と、精製初期以降の平均周速V4の関係が、V1≧V4×1.1、V2≦V4×0.9に設定されている請求項1〜3のいずれかに記載の金属精製方法。
【請求項5】
精製される金属がアルミニウムである請求項1〜4のいずれかに記載の金属精製方法。
【請求項6】
不純物元素の組成分布が、その不純物平均濃度の70%以上、130%以下の範囲内である金属精製塊。
【請求項7】
精製すべき溶融金属を収容する炉体と、
前記炉体に収容された溶融金属中に浸漬される冷却体と、
前記冷却体を回転させる回転駆動装置と、
精製初期前半の冷却体の最大周速が精製初期以降の平均周速よりも大きくなるように、かつ精製初期後半の冷却体の平均周速が精製初期以降の平均周速よりも小さくなるように、さらに精製初期後半の冷却体の最大周速が精製初期以降の平均周速を超えないように、前記回転駆動装置による冷却体の回転速度を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする金属精製装置。
【請求項8】
前記精製初期前半が精製開始から全精製時間×0.1まで、前記精製初期後半が精製初期前半の終了から全精製時間×0.1までである請求項7に記載の金属精製装置。
【請求項9】
前記精製初期前半が精製開始から全精製時間×0.05まで、前記精製初期後半が精製初期前半の終了から全精製時間×0.05までである請求項7に記載の金属精製装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記精製初期前半の冷却体の最大周速V1と、前記精製初期後半の冷却体の平均周速V2と、精製初期以降の平均周速V4の関係が、V1≧V4×1.1、V2≦V4×0.9となるように、回転駆動装置による冷却体の回転速度を制御する請求項7〜9のいずれかに記載の金属精製装置。
【請求項11】
請求項1ないし5のいずれかに記載の方法で精製された精製金属。
【請求項12】
請求項11に記載の精製金属から製造された鋳造品。
【請求項13】
請求項12に記載の鋳造品が圧延されてなる金属製品。
【請求項14】
請求項13に記載の金属製品が電極材として用いられている電解コンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−174054(P2009−174054A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332050(P2008−332050)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】