金属線入り成形はんだ、およびその製造方法
【課題】電子部品の精度良いはんだ付けに供する、金属線入り成形はんだおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも2本の、所定の硬度Hを有するはんだより融点の高い、ニッケル、銅またはステンレス鋼の線材が、テープ状または板状はんだの表面の線材長手方向に沿った両側端部より各所定の距離ΔT(0.1≦ΔT≦3.5mm)をもって併設位置されており、該併設位置された線材は、上記テープ状または板状はんだの表面において線材長手方向に延在露出する所定の巾Bをもって圧入されていることを特徴とする金属線入り成形はんだおよびその製造方法。
【解決手段】少なくとも2本の、所定の硬度Hを有するはんだより融点の高い、ニッケル、銅またはステンレス鋼の線材が、テープ状または板状はんだの表面の線材長手方向に沿った両側端部より各所定の距離ΔT(0.1≦ΔT≦3.5mm)をもって併設位置されており、該併設位置された線材は、上記テープ状または板状はんだの表面において線材長手方向に延在露出する所定の巾Bをもって圧入されていることを特徴とする金属線入り成形はんだおよびその製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子部品用はんだにおいて、特に金属線入り成形はんだ、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
はんだは、電子部品の接合材料として広く使われている。このはんだ付けにおいては、はんだが少な過ぎることはもちろん、また多すぎても接合強度が弱くなるため、はんだ付け厚さを適度に保つことが重要である。
このことは例えば発熱の大きなパワートランジスタなどの半導体チップやモジュールなどの電子部品と放熱板などの接合においては、電流のオン・オフによって大きな温度差が生じるので特に重要である。放熱の面からは熱伝導性の劣るはんだはできる限り薄い方が良い。
【0003】
一方、はんだが薄くなりすぎると電子部品と放熱板との熱膨張の差により、電子部品に大きな応力が生じ割れに至る恐れがあるので厚い方が良い。なぜなら柔らかい金属であるはんだは、電子部品と放熱板との熱膨張の差を吸収する緩衝材の役目を果たしているからである。また、加えて重要なことは、はんだ厚さ均一に保つことである。電子部品が傾斜して取り付けられると、はんだの厚さは不均一となる。このような状態で熱膨張と熱収縮が繰り返されると、はんだは応力差によって早期に割れを生じさせることになる。このため、はんだ厚さを適度に保ち、かつ電子部品を傾斜させずに取り付ける手段が求められていた。
【0004】
上記の技術的要請に応えるためにいくつかの方法が考案がなされ、使用されている。
これらの方法の一つとして、ソルダペースト中にはんだよりも融点の高い粒子を分散させるものがあり、融点の高い金属粒子は、電子部品と放熱板の間隙を適度に保つためのスペーサの役目を果たす。この溶融しない金属粒子があると電子部品の自重や負荷があっても電子部品は粒子径以上には沈み込まず、はんだ厚さは保たれることになる。また、金属粒子径を選べば適度なはんだ厚さに設定できることになる。
しかし、ソルダペーストは、フラックスとはんだ粒を混合させたものであることから、はんだ付け後にフラックス残漬が残ることは避けらず、フラックス残漬が長期において腐食を生じさせる懸念がある。
【0005】
また、フラックスを用いず、はんだ単体の成形はんだによる還元雰囲気中での接合が行われている。この成形はんだ接合においても、はんだ厚さを適度に保ち、かつ電子部品を傾斜させずに取り付ける手段が求められていた。成形はんだにおいてこの技術的要請に応える手段として、色々の技術が開発されており、成形はんだ中にはんだよりも融点の高い粒子を分散させるもの、成形はんだ内部に高融点金属を帯状、または線状に設けたものなどがある(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−288516号公報
【特許文献2】実開平6−9784号公報
【特許文献3】実開平6−9783号公報
【特許文献4】特開2005−288516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
はんだ中にはんだよりも融点の高い粒子を分散させることは、上述のソルダペーストにおける方法でも、成形はんだにおける方法でも同様に実現できると思われるが、後者は前者ほどで容易ではない。ソルダペーストは、粘度の高いフラックスとはんだ粒子の混合物であり、粒子の比重差があっても撹拝により或程度分散する。
しかしながら、成形はんだでは溶湯状態において比重の異なる金属粒子を分散させることが必要になり、容易ではない。すなわち、高融点粒子の比重が大きければ沈降し、小さければ浮きあがる。この対策として攪拌しながら鋳込む方法が考案されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、この考案をもってしても均一に分散させることは確実ではない。すなわち、溶湯中の攪拌はできても鋳込んだビレット中では攪拌できないため高融点金属粒子のある程度の密度偏析は避けられないものである。このビレットが押出しと圧延工程によって引き伸ばされた板となる際には高融点金属粒子密度の差が拡大されてしまい、粒子密度が低い箇所ではスペーサが不足する可能性があり問題となる。
【0008】
高融点金属粒子の役目は、電子部品の傾きをなくし、はんだ厚さを均一にするものである。例えば方形の電子部品用の成形はんだであれば、方形はんだの四隅に高融点金属粒子が1 個づつあればはんだ厚さを適度に保ち、かつ、電子部品を傾斜させずに取り付けることができる。一方、四隅のうちの一箇所でも高融点金属粒子が配置されないと電子部品が傾斜し、はんだ厚さが一様でなくなる恐れがある。このように方形はんだであれば四隅に高融点金属粒子が、確実に配置されることは必須の条件となる。
【0009】
しかし、高融点金属粒子の分散が不均一であれば圧延材から打ち抜いたペレットはんだには、密度の小さいものと大きいものがあるということになる。密度の小さいペレットはんだでは、四隅の一隅または複数の隅に高融点金属粒子がないものの恐れがある。
そこで最低密度を確保するために、溶湯へ投入する高融点金属粒子の量を増やすことが考えられるが、逆に密度が高すぎる箇所ができてしまい接合に寄与していない部分が増えて、はんだ付け欠陥を生じる恐れがある。
また、高融点金属粒子は、スペーサの役目であることから粒子径の揃ったものを必要とする。このような微小で寸法精度の高い高融点金属粒子は高価格であり、多量に投入することははんだの価格上昇となってしまう嫌いもある。
【0010】
一方、スペーサとして内部に高融点金属を帯状に設けた成形はんだでは、スペーサ効果を得ることが期待できる。しかし、帯状ワイヤ部は、前述した粒子密度が高すぎる箇所に相当し、接合に寄与しない欠陥となり、はんだの接合強度を低下させることになってしまう恐れがある。さらに、スペーサとして内部に高融点金属を線状に設けた成形はんだは、帯状スペーサの欠陥を克服するように思われるが、実用上において大きな問題がある。すなわち、線状スペーサは成形はんだ内部にあるために所定の位置にあるか否かは外観から確認できない。したがって、パワートランジスタなどの半導体チップやモジュールなどの電子部品を実装した後になって、その傾き発生からワイヤが端部にないことが初めてわかるといった事態になる恐れがある。
以上の述べたように、成形はんだにおいては、はんだ厚さを適度に保ち、かつ電子部品を傾斜させずに取り付けるための安価で確実な手段が強く求められている。
本発明は、上記に鑑み、これらの課題を解決するための金属線入り成形はんだおよびその製造方法を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、はんだ厚さを適度に保ち、かつ電子部品を傾斜させずに成形はんだによる接合を行うために、はんだよりも高融点の金属線をスペーサとして金属線を一体化させた成形はんだおよびその製造方法である。なお、金属線は、必ずしも連続している必要はなく、線状に連なっていれば断続線でも良い。また、金属線は、はんだ溶融時にある程度溶解しても目標とする線径以下に減肉しなければ良く、具体的には、ニッケル線、銅線およびステンレス鋼線が好ましい。
【0012】
高融点の金属線をはんだと一体化させる方法としては、4種の方法がある。第1の方法は、テ−プ状はんだ上の長手方向に高融点の金属線を配線した後に圧延することで一体化させる方法である。第2の方法は、2枚のテ−プ状はんだで高融点の金属線を挟んだ後に圧延することで一体化させる方法である。なお、第1および第2の方法で一体化させたテープ状はんだを適当な寸法に切断すれば電子部品を傾斜させない金属線入り成形はんだが得られる。
【0013】
第3の方法は、成形はんだ上に高融点の金属線を配線した後にプレス機により両者を一体化させる方法である。第4の方法は、2枚の成形はんだの間に配線した後にプレス機により3者を一体化させる方法である。
この内、比較的に精度が高く、製造が容易で、安価である第1および3の方法が好ましい。
【0014】
本発明の金属線入り成形はんだは、
1)少なくとも2本の、はんだより融点の高い線材が、テープ状または板状はんだの表面の線材長手方向に沿った両側端部より各所定の距離ΔTをもって併設位置されており、該併設位置された線材が、上記テープ状または板状はんだの表面において線材長手方向に所定の巾Bをもって露出するように圧入されているものであり、
2)上述の1)において、前記所定の距離ΔTを、0.1≦ΔT≦5.0mmであり、前記所定の巾Bが圧入後線材の最大径の3分の1以上としたものであり、
3)上述の1)または2)において、前記線材をニッケル、銅またはステンレス鋼の金属線としたものである。
【0015】
また、本発明の金属線入り成形はんだの製造方法は、
4)少なくとも2本の、はんだより融点の高い線材を、該線材の圧入前の直径d0 と圧延前のテープ状はんだの厚さt0 との比K(K=d0/t0 )を0.25≦K≦0.85として、該テープ状はんだの長手方向表面の両側端部よりの距離ΔTが0.1≦ΔT≦5.0mmをもって緊張して併設位置させる工程と、該併設位置された線材と上記テープ状はんだとを、該線材が該テープ状はんだの表面の長手方向に所定の巾Bが延在露出するように、同時に圧延する工程を有するものであり、
5)少なくとも2本の、はんだより融点の高い線材を、該線材の圧入前の直径d0 とプレス前の板状はんだの厚さt0 との比K(K=d0/t0 )を所定の比K値として、該板状はんだの表面に該表面の両側端部よりの距離ΔTが0.1≦ΔT≦5.0mmをもって緊張して平行に位置させる工程と、該平行に位置された線材と上記板状はんだとを、該線材が該板状はんだの表面に所定の巾Bが露出するように、同時にプレスする工程を有するものであり、
6)上述の5)において、前記所定の比K値を、0.85以下としたものであり、
7)上述の4)〜6)において、前記線材を、ニッケル、銅またはステンレス鋼の金属線としたものである。
【0016】
なお、前述の比K(K=d0/t0 )を0.25≦K≦0.85の特定は、前記圧延前のテープ状はんだの厚さt0 と圧延後のテープ状はんだの厚さt1 とで表される圧下率J(J=(t0 −t1)/t0 )が、0.2≦J≦0.7において、線材を圧入するための圧延条件をJL ≦―0.83K+91として求めたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の成形はんだにより、近年における電子部品のはんだ接合において、はんだ厚さを適度に保ち、かつ電子部品を傾斜させずに確実に取り付けることが可能となり、また本発明の製造方法により該成形はんだを精度良く、かつ安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[実施の形態]
図1は、はんだ厚さを均一にするために高融点金属線3を一対の辺に沿わせて配線させた方形の成形はんだ2による電子部品1とヒートシンク4のはんだ付けを示す平面図および断面図である。
電子部品1の一対の辺内側下部に沿い、かつ外縁に近く高融点金属線3が配線されている。このため四隅に金属粒子を配した場合と同様の効果を示し、電子部品1が高融点金属線3の線径以下に沈みこむことが無くはんだ厚さは均一になる。さらに成形はんだ2の製造工程の面から本発明の実施の形態を説明する。
成形はんだ2は、一般的に長尺の圧延テープを打ち抜きまたは切断することで製造される。
図2は従来の高融点金属粒子6を分散させたテープ状はんだ5を示したものであり、このテープはんだをAl の対線で切断し方形はんだとした場合には、四隅に高融点金属粒子6があり、望ましい配置となっている。しかし、A2の対線で切断した場合には、高融点金属粒子6は方形はんだ中央部に2個あるのみであり、はんだ接合時の電子部品の傾きを抑えることはできない。成形はんだはテープはんだから大量生産されるものであるから、望ましくない配置に切断することが確率的に生じてしまう。
【0019】
これに対し、図3に示す本発明の実施の形態においては、テープはんだ5の長手方向縁部に高融点金属線3が配線されておりこのようなことは生じない。すなわち、A1の対線で切断でもA2の対線で切断しても方形はんだの高融点金属線の配置は変わらない。
どのような切断でも方形はんだの両縁部にはんだ厚さを適度に保ち、かつ電子部品を傾斜させないためのセパレータとなる高融点金属線3が配置されている。なお、高融点金属線3の線径は、高融点金属粒の球径と同様に選択すればよい。
【0020】
さらに、上述のごとく金属線は金属粒に対して機能的に優位であるばかりでなく、経済的にも優位性がある。すなわち、金属粒は方形はんだの四隅に1個づつあれば充分であるが、確実に1個づつ配置させることはできない。このため、面的に数多く振り撒いて四隅に1個配置される確率を高めるしかない。このため必要以上に金属粒を消費することになる。
さらに高融点金属粒子はスペーサの役目であることから粒子径の揃ったものでなくてはならないが、微小で寸法精度の高い高融点金属粒子は高価格である。一方、金属線はペレットはんだ両縁部に一本づつ配置するだけで良く、加えて球に比べて製造コストが安いという利点がある。
【0021】
図4は、テープはんだ5の外縁部に沿って融点の高い高融点金属線3を配線させた後、圧延機により圧延する場合を示すものである。圧延後には、図3に示すように、高融点金属線3がテープ状はんだ5に埋没し一体化する。テープ状はんだの構造は、ペレットはんだの長尺なものといえるものであり、成形はんだは、テープはんだを打ち抜き加工または切断加工によって製造される。なお、金属線は必ずしも連続線でなくても、間隔が密であれば断続線でも良い。
【0022】
本発明は、本発明の金属線入り成形はんだにおいて、如何にハンダ付け工程後のはんだ厚さを適度に保ち、かつ電子部品を傾斜させずに安定確実に取り付けるか、また、それを如何に精度良く、かつ、安価に提供するかをその特徴の1つとしている。
すなわち、電子基板面とヒートシンク面間を接合するはんだに設けスペーサに期待される精度はスペーサ厚さLの10%以下であり、この精度が圧延後の金属線に求められること、および製品としての金属線入り成形はんだにおける金属線の挿入状態が確実に求められ得ることが必要である。
また、如何なる諸元の金属線を、テープ状ハンダ中の如何なる位置に配設するかにより、前記の安定確実さが左右される。これらの適正な条件をはんだの接着容量を阻害しない範囲で特定するところに本発明の特徴がある。
【0023】
強度の異なる各種はんだ材とCu、SUS、Niの各種線材の組合せの加工により、線材の精度、特に扁平精度におよぼす影響を多くの実態試験により特定した。その概要を以下に述べる。
まず、圧入された線材は、テープはんだと一体となって圧延される。すなわち、圧延によりテープ状はんだの厚さが50%になり、その断面積が50%になると線材の断面積も50%になる。ただし、線材の断面形状は当初の円径ではなく、露出上部が平坦となる疑似楕円形状になる。
図5は、圧延後の金属線入りテープ状はんだの断面を示す一例である。なお、擬似楕円の扁平度には、はんだの性状、線材の性状、加工度等が影響を与える。
図6は、ワイヤおよび圧下率Jを一定にした場合の線材の断面変形度合(線材断面径縦横比(b/a))(以下、断面変形度合という)に対する、はんだの引張強さの影響を示したものであるが、はんだの引張強さが大きいほど扁平化し易いことを示す。
図7は、はんだの強度および圧下率を一定にした場合の線材の断面変形度合に対する線材の引張強さの影響を示したものである。
線材の引張強さが大きいほど扁平化し難いことを示す。
図8は、はんだおよび線材をそれぞれ同一にした場合の、線材の断面変形度合に対する、圧下率Jの影響を示したものである。
圧下率が大きくなるにつれ扁平化が進むことを示す。さらに、圧延前線材の直径d0 および圧延前テープ状はんだの厚さt0 の比K(K=d0 /t0 )が、大きいほど圧下率の影響が著しいことも示している。なお、圧下率が大きくなりすぎると、線材がはんだテープを付き抜け切断してしまう現象が生じる。
図9は、比Kと、はんだ切断が生じない限界の圧下率JL の関係を示したものである。
図8でも示したように、比Kが大きいほど限界の圧下率JL は小さくなる。
以上述べたごとく、線材の変形挙動特性を考慮することにより、テープ状はんだに所定の厚さの線材をスペーサとして適正に圧入することができる。
【0024】
圧延前線材の直径d0 および圧延前テープ状はんだの厚さt0 の比K(K=d0 /t0 )は、0.25≦K≦0.85が望ましい。
比Kが0.25未満では、はんだが溶融した場合でもはんだ厚さは一定程度あり、線材がはんだ厚以下となりスペーサの役目を果たすに至らない。また、比Kが0.85を超える場合には、小さな圧下率の圧延でも線材がテープはんだを突き抜け切断させてしまう。すなわち、線材を圧入させ、線材とはんだテープを一体化させるためには20%以上の圧下率を必要とし、比Kが大きすぎると圧延の余地がなくなってしまうことがわかった。
【0025】
上記のごとく、本発明の特徴として、金属線に適度の扁平度を付与するもので、この扁平度を左右する因子を特定する必要がある。すなわち、1は加工度であり、また、2は加工度を左右するはんだの機械的強度である。
このはんだの特性に対して金属線は、適正な範囲が存在し、実用的には銅、ニッケルまたは、鋼であればステンレス鋼が望ましい。
【0026】
また、本発明の特徴として、挿入された金属線がはんだ表面にその一部所定巾Bを露出し、金属線の挿入状態が測定管理可能な形態に構成されている。これにより金属線の状態、すなわち金属線入り成型はんだの製品精度が、特殊な計器を必要とせず目視により精度管理を行うことができる。目視にて線の存在を検知するには、その露出巾Bを金属線径の約0.3倍程度以上とすることが好ましい。
【0027】
さらに、高融点金属線の配線本数は、テープはんだの両外縁部に 1 本づつばかりでなく複数本配線しても良い。複数本を配線したテープ状はんだにおいては、テープ状はんだの幅よりも小さなペレットはんだを切り出してもペレット外縁に高融点金属線の配線を確保できることになる。
また、成形はんだの形状は、方形に限定されるものではなく、円盤形状やリング状などでも良く、配線も、コの字、ロの字または円弧状などでもよい。ただし、このような成形はんだを、テープ状はんだから打ち抜き加工または切断加工によって製造することはかなり困難である。したがってこの場合の製造は、成形はんだの上に配線した後、プレス機による押圧で両者を一体化させる方法となる。
【0028】
なお、上述においては、本発明の特徴として、高融点金属線の配線は、テープ状はんだ1表面側に挿入する場合について記載したが、表面ばかりでなく、配線深さを特定するためにテープ状はんだに設けた溝内に配線しても良く、また2枚のテープ状はんだで挟み圧着することにより内包させることを排除するものではない。
【実施例】
【0029】
[実施例1]
本実施例1は、金属線のスペーサとしての効果を確認するために接合試験を行ったものである。
図10に示すように、線径100μmのニッケル線を圧入したテープ状はんだから切り出し、縦35mm、 横 70mm、厚さ0.2mm のペレットを作成した。このペレット内に圧入された擬似楕円形のニッケル線の短軸(縦径)は60μmである。
配線位置は、一対の辺に平行に縁から2mmである。なお、はんだ成分は Sn−0.7%Cu とした。このペレットを無電解ニッケルメッキした銅製ヒートシンクに載せ、さらにはんだペレットと縦・横寸法が同じ DBA (Direct Brazed Aluminum)基板を重ねた。
次に、図6に示すように、意図的にはんだ厚さが均等になるのを妨げるようにDBA基板の上に5gの錘を載せた後、減圧水素還元雰囲気のリフロー炉を通して接合させ、はんだ厚さを測定した。なお、効果を明確にするため、ニッケル線を内包しないペレットも評価した。
図11中の点線で囲った部分のはんだ厚さを測定した結果を図12に示す。
ニッケル線を内包しない比較例においては、錘を負荷したことではんだ厚さは10μm程度になっている。すなわち、部品が傾き、はんだ厚さが極めて薄い部分が出来てしまっており、割れ発生の原因となり得る。一方、本発明の実施例においては、ニッケル線とほぼ同じ62μmの膜厚が確保できており、部品の傾き、及びはんだ膜厚の極めて薄い部分の発生を抑制できている。以上の結果より、本発明の有効性が確認できた。
【0030】
[実施例2]
本発明における、テープ状はんだ上に配線した場合の金属線入り成形はんだの圧延前後の金属線の状況を調べた。厚さ0.40mm 、板幅82mm 、長さ2m のテープ状はんだにおいて、両縁から7mmの位置に直径 65μmのニッケル線を2本長手方向に直線状に平行配線し、両端部をビニールテープで固定した。なお、テープ状はんだの成分はSn−0.7%Cu とした。
この金属線を配設したテープ状はんだを圧延機により板厚 0.21mmに圧延したところ、金属線はテープ状はんだの長手方向に直線状となり、テープ状はんだの表層部に埋没した。
埋没した金属線の断面を測定したところほぼ楕円状であり、長軸径は177μmであり、短軸径は112μmであることから面積は0.0165 平方mmと計算され、圧延前の直径65μmの面積0.0033平方mmの約半分になった。
これは圧延によりテープ状はんだの板厚が0.40mmから0.21mmになることから長さは約2倍となり、必然的に断面積は約半分になることによるものである。
なお、なお、金属線を圧入後のはんだ状テープの長手方向両縁部を切断することにより、テープ幅70mmの縁からそれぞれ1mmの位置に金属線スペーサが配置されることとなった。
【0031】
[実施例3]
本発明に比較した追加の実施例として、金属線を2枚のテープ状はんだに挟んだ場合の、金属線入り成形はんだにおける圧延前後の金属線の状況を調べた。
はんだ成分をSn−0.7%Cu とし、厚さ0.4mm 、板幅82mm、長さ2mのテープ状はんだ2本において、一本のテープ状はんだの両縁から7mmの位置に直径65μmのニッケル線を2本長手方向に直線状に併設配置し、両端部をビニールテープで固定した後、もう一本のテープ状はんだにより挟み込んだ。このニッケル線を挟んだ2本のテープ状はんだを圧延機により板厚0.2mmに圧延した。
圧延後のニッケル線の状態を観察したところ、テープ状はんだの肉厚の中央部に位置し、図13に示すように断続な直線となって長手方向に伸びていた。
テープ状はんだの一箇所を切断しニッケル断続線中央部の断面を観察したところ、形状はほぼ楕円状であり、長軸径は57μmであり、短軸径は43μmであった。
また、一部の長さに渡って断続線間の空隙間隔を測定したところ、最少間隔25μm、最大359μm、平均146μm 、標準偏差( σ )80μmであった。平均値から3σの離れた数値が386μmであることから、ニッケル線の無い部分の間隔は非常に小さなものであり、スペーサとして問題はないことも分かった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
上述において金属線の断面形状は円形のものについて記載されているが、多角形、太鼓形状等の断面を有する金属線を含む金属線入り成形はんだとして適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の金属線入り成形はんだによる電子部品とヒートシンクのはんだ付け状態を示す平面図および断面図。
【図2】金属粒子分散形の方形成形はんだにおいて、切断位置により粒子分布が異なることを示す平面図。
【図3】本発明の金属線入り成形はんだにおいて、切断位置によらずスペーサー機能があることを示す平面図および断面図。
【図4】本発明の金属線入り成形はんだにおける圧延前の状態を示す平面図および断面図。
【図5】圧延後の金属線入りテープ状はんだの断面の一例を示す図。
【図6】線材強度および圧下率Jを一定にした場合、線材の断面変形度合に対するはんだの引張強さの影響を示した図。
【図7】はんだの強度および圧下率を一定にした場合、線材の断面変形度合に対する線材の引張強さの影響を示した図。
【図8】線材の断面変形度合に対するはんだの圧下率Jの影響を示した図。
【図9】K値をパラメータとして、はんだ切断が生じない限界の圧下率の関係を示した図。
【図10】実施例1における金属線を内包一体化させた成形はんだの平面図および断面図。
【図11】意図的にはんだ厚さが不均等になるようにDBA基板上に荷重を錘を載せた接合試験片の状態を示す平面図。
【図12】本発明の金属線入り成形はんだと金属線を内包しない成形はんだとの接合後のはんだ厚さの比較図。
【図13】実施例3の金属線入り成形はんだにおける圧延後の金属線の状態を示す平面図。
【符号の説明】
【0034】
1 電子部品
2 はんだ
3 高溶融点金属線
4 ヒートシンク
5 テープはんだ
6 高溶融点金属粒子
7 DBA基板
8 錘
A−A 断面図切断線
A1 テープはんだ切断線
A2 テープはんだ切断線
B はんだ厚さ測定位置
【技術分野】
【0001】
本発明は電子部品用はんだにおいて、特に金属線入り成形はんだ、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
はんだは、電子部品の接合材料として広く使われている。このはんだ付けにおいては、はんだが少な過ぎることはもちろん、また多すぎても接合強度が弱くなるため、はんだ付け厚さを適度に保つことが重要である。
このことは例えば発熱の大きなパワートランジスタなどの半導体チップやモジュールなどの電子部品と放熱板などの接合においては、電流のオン・オフによって大きな温度差が生じるので特に重要である。放熱の面からは熱伝導性の劣るはんだはできる限り薄い方が良い。
【0003】
一方、はんだが薄くなりすぎると電子部品と放熱板との熱膨張の差により、電子部品に大きな応力が生じ割れに至る恐れがあるので厚い方が良い。なぜなら柔らかい金属であるはんだは、電子部品と放熱板との熱膨張の差を吸収する緩衝材の役目を果たしているからである。また、加えて重要なことは、はんだ厚さ均一に保つことである。電子部品が傾斜して取り付けられると、はんだの厚さは不均一となる。このような状態で熱膨張と熱収縮が繰り返されると、はんだは応力差によって早期に割れを生じさせることになる。このため、はんだ厚さを適度に保ち、かつ電子部品を傾斜させずに取り付ける手段が求められていた。
【0004】
上記の技術的要請に応えるためにいくつかの方法が考案がなされ、使用されている。
これらの方法の一つとして、ソルダペースト中にはんだよりも融点の高い粒子を分散させるものがあり、融点の高い金属粒子は、電子部品と放熱板の間隙を適度に保つためのスペーサの役目を果たす。この溶融しない金属粒子があると電子部品の自重や負荷があっても電子部品は粒子径以上には沈み込まず、はんだ厚さは保たれることになる。また、金属粒子径を選べば適度なはんだ厚さに設定できることになる。
しかし、ソルダペーストは、フラックスとはんだ粒を混合させたものであることから、はんだ付け後にフラックス残漬が残ることは避けらず、フラックス残漬が長期において腐食を生じさせる懸念がある。
【0005】
また、フラックスを用いず、はんだ単体の成形はんだによる還元雰囲気中での接合が行われている。この成形はんだ接合においても、はんだ厚さを適度に保ち、かつ電子部品を傾斜させずに取り付ける手段が求められていた。成形はんだにおいてこの技術的要請に応える手段として、色々の技術が開発されており、成形はんだ中にはんだよりも融点の高い粒子を分散させるもの、成形はんだ内部に高融点金属を帯状、または線状に設けたものなどがある(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−288516号公報
【特許文献2】実開平6−9784号公報
【特許文献3】実開平6−9783号公報
【特許文献4】特開2005−288516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
はんだ中にはんだよりも融点の高い粒子を分散させることは、上述のソルダペーストにおける方法でも、成形はんだにおける方法でも同様に実現できると思われるが、後者は前者ほどで容易ではない。ソルダペーストは、粘度の高いフラックスとはんだ粒子の混合物であり、粒子の比重差があっても撹拝により或程度分散する。
しかしながら、成形はんだでは溶湯状態において比重の異なる金属粒子を分散させることが必要になり、容易ではない。すなわち、高融点粒子の比重が大きければ沈降し、小さければ浮きあがる。この対策として攪拌しながら鋳込む方法が考案されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、この考案をもってしても均一に分散させることは確実ではない。すなわち、溶湯中の攪拌はできても鋳込んだビレット中では攪拌できないため高融点金属粒子のある程度の密度偏析は避けられないものである。このビレットが押出しと圧延工程によって引き伸ばされた板となる際には高融点金属粒子密度の差が拡大されてしまい、粒子密度が低い箇所ではスペーサが不足する可能性があり問題となる。
【0008】
高融点金属粒子の役目は、電子部品の傾きをなくし、はんだ厚さを均一にするものである。例えば方形の電子部品用の成形はんだであれば、方形はんだの四隅に高融点金属粒子が1 個づつあればはんだ厚さを適度に保ち、かつ、電子部品を傾斜させずに取り付けることができる。一方、四隅のうちの一箇所でも高融点金属粒子が配置されないと電子部品が傾斜し、はんだ厚さが一様でなくなる恐れがある。このように方形はんだであれば四隅に高融点金属粒子が、確実に配置されることは必須の条件となる。
【0009】
しかし、高融点金属粒子の分散が不均一であれば圧延材から打ち抜いたペレットはんだには、密度の小さいものと大きいものがあるということになる。密度の小さいペレットはんだでは、四隅の一隅または複数の隅に高融点金属粒子がないものの恐れがある。
そこで最低密度を確保するために、溶湯へ投入する高融点金属粒子の量を増やすことが考えられるが、逆に密度が高すぎる箇所ができてしまい接合に寄与していない部分が増えて、はんだ付け欠陥を生じる恐れがある。
また、高融点金属粒子は、スペーサの役目であることから粒子径の揃ったものを必要とする。このような微小で寸法精度の高い高融点金属粒子は高価格であり、多量に投入することははんだの価格上昇となってしまう嫌いもある。
【0010】
一方、スペーサとして内部に高融点金属を帯状に設けた成形はんだでは、スペーサ効果を得ることが期待できる。しかし、帯状ワイヤ部は、前述した粒子密度が高すぎる箇所に相当し、接合に寄与しない欠陥となり、はんだの接合強度を低下させることになってしまう恐れがある。さらに、スペーサとして内部に高融点金属を線状に設けた成形はんだは、帯状スペーサの欠陥を克服するように思われるが、実用上において大きな問題がある。すなわち、線状スペーサは成形はんだ内部にあるために所定の位置にあるか否かは外観から確認できない。したがって、パワートランジスタなどの半導体チップやモジュールなどの電子部品を実装した後になって、その傾き発生からワイヤが端部にないことが初めてわかるといった事態になる恐れがある。
以上の述べたように、成形はんだにおいては、はんだ厚さを適度に保ち、かつ電子部品を傾斜させずに取り付けるための安価で確実な手段が強く求められている。
本発明は、上記に鑑み、これらの課題を解決するための金属線入り成形はんだおよびその製造方法を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、はんだ厚さを適度に保ち、かつ電子部品を傾斜させずに成形はんだによる接合を行うために、はんだよりも高融点の金属線をスペーサとして金属線を一体化させた成形はんだおよびその製造方法である。なお、金属線は、必ずしも連続している必要はなく、線状に連なっていれば断続線でも良い。また、金属線は、はんだ溶融時にある程度溶解しても目標とする線径以下に減肉しなければ良く、具体的には、ニッケル線、銅線およびステンレス鋼線が好ましい。
【0012】
高融点の金属線をはんだと一体化させる方法としては、4種の方法がある。第1の方法は、テ−プ状はんだ上の長手方向に高融点の金属線を配線した後に圧延することで一体化させる方法である。第2の方法は、2枚のテ−プ状はんだで高融点の金属線を挟んだ後に圧延することで一体化させる方法である。なお、第1および第2の方法で一体化させたテープ状はんだを適当な寸法に切断すれば電子部品を傾斜させない金属線入り成形はんだが得られる。
【0013】
第3の方法は、成形はんだ上に高融点の金属線を配線した後にプレス機により両者を一体化させる方法である。第4の方法は、2枚の成形はんだの間に配線した後にプレス機により3者を一体化させる方法である。
この内、比較的に精度が高く、製造が容易で、安価である第1および3の方法が好ましい。
【0014】
本発明の金属線入り成形はんだは、
1)少なくとも2本の、はんだより融点の高い線材が、テープ状または板状はんだの表面の線材長手方向に沿った両側端部より各所定の距離ΔTをもって併設位置されており、該併設位置された線材が、上記テープ状または板状はんだの表面において線材長手方向に所定の巾Bをもって露出するように圧入されているものであり、
2)上述の1)において、前記所定の距離ΔTを、0.1≦ΔT≦5.0mmであり、前記所定の巾Bが圧入後線材の最大径の3分の1以上としたものであり、
3)上述の1)または2)において、前記線材をニッケル、銅またはステンレス鋼の金属線としたものである。
【0015】
また、本発明の金属線入り成形はんだの製造方法は、
4)少なくとも2本の、はんだより融点の高い線材を、該線材の圧入前の直径d0 と圧延前のテープ状はんだの厚さt0 との比K(K=d0/t0 )を0.25≦K≦0.85として、該テープ状はんだの長手方向表面の両側端部よりの距離ΔTが0.1≦ΔT≦5.0mmをもって緊張して併設位置させる工程と、該併設位置された線材と上記テープ状はんだとを、該線材が該テープ状はんだの表面の長手方向に所定の巾Bが延在露出するように、同時に圧延する工程を有するものであり、
5)少なくとも2本の、はんだより融点の高い線材を、該線材の圧入前の直径d0 とプレス前の板状はんだの厚さt0 との比K(K=d0/t0 )を所定の比K値として、該板状はんだの表面に該表面の両側端部よりの距離ΔTが0.1≦ΔT≦5.0mmをもって緊張して平行に位置させる工程と、該平行に位置された線材と上記板状はんだとを、該線材が該板状はんだの表面に所定の巾Bが露出するように、同時にプレスする工程を有するものであり、
6)上述の5)において、前記所定の比K値を、0.85以下としたものであり、
7)上述の4)〜6)において、前記線材を、ニッケル、銅またはステンレス鋼の金属線としたものである。
【0016】
なお、前述の比K(K=d0/t0 )を0.25≦K≦0.85の特定は、前記圧延前のテープ状はんだの厚さt0 と圧延後のテープ状はんだの厚さt1 とで表される圧下率J(J=(t0 −t1)/t0 )が、0.2≦J≦0.7において、線材を圧入するための圧延条件をJL ≦―0.83K+91として求めたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の成形はんだにより、近年における電子部品のはんだ接合において、はんだ厚さを適度に保ち、かつ電子部品を傾斜させずに確実に取り付けることが可能となり、また本発明の製造方法により該成形はんだを精度良く、かつ安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[実施の形態]
図1は、はんだ厚さを均一にするために高融点金属線3を一対の辺に沿わせて配線させた方形の成形はんだ2による電子部品1とヒートシンク4のはんだ付けを示す平面図および断面図である。
電子部品1の一対の辺内側下部に沿い、かつ外縁に近く高融点金属線3が配線されている。このため四隅に金属粒子を配した場合と同様の効果を示し、電子部品1が高融点金属線3の線径以下に沈みこむことが無くはんだ厚さは均一になる。さらに成形はんだ2の製造工程の面から本発明の実施の形態を説明する。
成形はんだ2は、一般的に長尺の圧延テープを打ち抜きまたは切断することで製造される。
図2は従来の高融点金属粒子6を分散させたテープ状はんだ5を示したものであり、このテープはんだをAl の対線で切断し方形はんだとした場合には、四隅に高融点金属粒子6があり、望ましい配置となっている。しかし、A2の対線で切断した場合には、高融点金属粒子6は方形はんだ中央部に2個あるのみであり、はんだ接合時の電子部品の傾きを抑えることはできない。成形はんだはテープはんだから大量生産されるものであるから、望ましくない配置に切断することが確率的に生じてしまう。
【0019】
これに対し、図3に示す本発明の実施の形態においては、テープはんだ5の長手方向縁部に高融点金属線3が配線されておりこのようなことは生じない。すなわち、A1の対線で切断でもA2の対線で切断しても方形はんだの高融点金属線の配置は変わらない。
どのような切断でも方形はんだの両縁部にはんだ厚さを適度に保ち、かつ電子部品を傾斜させないためのセパレータとなる高融点金属線3が配置されている。なお、高融点金属線3の線径は、高融点金属粒の球径と同様に選択すればよい。
【0020】
さらに、上述のごとく金属線は金属粒に対して機能的に優位であるばかりでなく、経済的にも優位性がある。すなわち、金属粒は方形はんだの四隅に1個づつあれば充分であるが、確実に1個づつ配置させることはできない。このため、面的に数多く振り撒いて四隅に1個配置される確率を高めるしかない。このため必要以上に金属粒を消費することになる。
さらに高融点金属粒子はスペーサの役目であることから粒子径の揃ったものでなくてはならないが、微小で寸法精度の高い高融点金属粒子は高価格である。一方、金属線はペレットはんだ両縁部に一本づつ配置するだけで良く、加えて球に比べて製造コストが安いという利点がある。
【0021】
図4は、テープはんだ5の外縁部に沿って融点の高い高融点金属線3を配線させた後、圧延機により圧延する場合を示すものである。圧延後には、図3に示すように、高融点金属線3がテープ状はんだ5に埋没し一体化する。テープ状はんだの構造は、ペレットはんだの長尺なものといえるものであり、成形はんだは、テープはんだを打ち抜き加工または切断加工によって製造される。なお、金属線は必ずしも連続線でなくても、間隔が密であれば断続線でも良い。
【0022】
本発明は、本発明の金属線入り成形はんだにおいて、如何にハンダ付け工程後のはんだ厚さを適度に保ち、かつ電子部品を傾斜させずに安定確実に取り付けるか、また、それを如何に精度良く、かつ、安価に提供するかをその特徴の1つとしている。
すなわち、電子基板面とヒートシンク面間を接合するはんだに設けスペーサに期待される精度はスペーサ厚さLの10%以下であり、この精度が圧延後の金属線に求められること、および製品としての金属線入り成形はんだにおける金属線の挿入状態が確実に求められ得ることが必要である。
また、如何なる諸元の金属線を、テープ状ハンダ中の如何なる位置に配設するかにより、前記の安定確実さが左右される。これらの適正な条件をはんだの接着容量を阻害しない範囲で特定するところに本発明の特徴がある。
【0023】
強度の異なる各種はんだ材とCu、SUS、Niの各種線材の組合せの加工により、線材の精度、特に扁平精度におよぼす影響を多くの実態試験により特定した。その概要を以下に述べる。
まず、圧入された線材は、テープはんだと一体となって圧延される。すなわち、圧延によりテープ状はんだの厚さが50%になり、その断面積が50%になると線材の断面積も50%になる。ただし、線材の断面形状は当初の円径ではなく、露出上部が平坦となる疑似楕円形状になる。
図5は、圧延後の金属線入りテープ状はんだの断面を示す一例である。なお、擬似楕円の扁平度には、はんだの性状、線材の性状、加工度等が影響を与える。
図6は、ワイヤおよび圧下率Jを一定にした場合の線材の断面変形度合(線材断面径縦横比(b/a))(以下、断面変形度合という)に対する、はんだの引張強さの影響を示したものであるが、はんだの引張強さが大きいほど扁平化し易いことを示す。
図7は、はんだの強度および圧下率を一定にした場合の線材の断面変形度合に対する線材の引張強さの影響を示したものである。
線材の引張強さが大きいほど扁平化し難いことを示す。
図8は、はんだおよび線材をそれぞれ同一にした場合の、線材の断面変形度合に対する、圧下率Jの影響を示したものである。
圧下率が大きくなるにつれ扁平化が進むことを示す。さらに、圧延前線材の直径d0 および圧延前テープ状はんだの厚さt0 の比K(K=d0 /t0 )が、大きいほど圧下率の影響が著しいことも示している。なお、圧下率が大きくなりすぎると、線材がはんだテープを付き抜け切断してしまう現象が生じる。
図9は、比Kと、はんだ切断が生じない限界の圧下率JL の関係を示したものである。
図8でも示したように、比Kが大きいほど限界の圧下率JL は小さくなる。
以上述べたごとく、線材の変形挙動特性を考慮することにより、テープ状はんだに所定の厚さの線材をスペーサとして適正に圧入することができる。
【0024】
圧延前線材の直径d0 および圧延前テープ状はんだの厚さt0 の比K(K=d0 /t0 )は、0.25≦K≦0.85が望ましい。
比Kが0.25未満では、はんだが溶融した場合でもはんだ厚さは一定程度あり、線材がはんだ厚以下となりスペーサの役目を果たすに至らない。また、比Kが0.85を超える場合には、小さな圧下率の圧延でも線材がテープはんだを突き抜け切断させてしまう。すなわち、線材を圧入させ、線材とはんだテープを一体化させるためには20%以上の圧下率を必要とし、比Kが大きすぎると圧延の余地がなくなってしまうことがわかった。
【0025】
上記のごとく、本発明の特徴として、金属線に適度の扁平度を付与するもので、この扁平度を左右する因子を特定する必要がある。すなわち、1は加工度であり、また、2は加工度を左右するはんだの機械的強度である。
このはんだの特性に対して金属線は、適正な範囲が存在し、実用的には銅、ニッケルまたは、鋼であればステンレス鋼が望ましい。
【0026】
また、本発明の特徴として、挿入された金属線がはんだ表面にその一部所定巾Bを露出し、金属線の挿入状態が測定管理可能な形態に構成されている。これにより金属線の状態、すなわち金属線入り成型はんだの製品精度が、特殊な計器を必要とせず目視により精度管理を行うことができる。目視にて線の存在を検知するには、その露出巾Bを金属線径の約0.3倍程度以上とすることが好ましい。
【0027】
さらに、高融点金属線の配線本数は、テープはんだの両外縁部に 1 本づつばかりでなく複数本配線しても良い。複数本を配線したテープ状はんだにおいては、テープ状はんだの幅よりも小さなペレットはんだを切り出してもペレット外縁に高融点金属線の配線を確保できることになる。
また、成形はんだの形状は、方形に限定されるものではなく、円盤形状やリング状などでも良く、配線も、コの字、ロの字または円弧状などでもよい。ただし、このような成形はんだを、テープ状はんだから打ち抜き加工または切断加工によって製造することはかなり困難である。したがってこの場合の製造は、成形はんだの上に配線した後、プレス機による押圧で両者を一体化させる方法となる。
【0028】
なお、上述においては、本発明の特徴として、高融点金属線の配線は、テープ状はんだ1表面側に挿入する場合について記載したが、表面ばかりでなく、配線深さを特定するためにテープ状はんだに設けた溝内に配線しても良く、また2枚のテープ状はんだで挟み圧着することにより内包させることを排除するものではない。
【実施例】
【0029】
[実施例1]
本実施例1は、金属線のスペーサとしての効果を確認するために接合試験を行ったものである。
図10に示すように、線径100μmのニッケル線を圧入したテープ状はんだから切り出し、縦35mm、 横 70mm、厚さ0.2mm のペレットを作成した。このペレット内に圧入された擬似楕円形のニッケル線の短軸(縦径)は60μmである。
配線位置は、一対の辺に平行に縁から2mmである。なお、はんだ成分は Sn−0.7%Cu とした。このペレットを無電解ニッケルメッキした銅製ヒートシンクに載せ、さらにはんだペレットと縦・横寸法が同じ DBA (Direct Brazed Aluminum)基板を重ねた。
次に、図6に示すように、意図的にはんだ厚さが均等になるのを妨げるようにDBA基板の上に5gの錘を載せた後、減圧水素還元雰囲気のリフロー炉を通して接合させ、はんだ厚さを測定した。なお、効果を明確にするため、ニッケル線を内包しないペレットも評価した。
図11中の点線で囲った部分のはんだ厚さを測定した結果を図12に示す。
ニッケル線を内包しない比較例においては、錘を負荷したことではんだ厚さは10μm程度になっている。すなわち、部品が傾き、はんだ厚さが極めて薄い部分が出来てしまっており、割れ発生の原因となり得る。一方、本発明の実施例においては、ニッケル線とほぼ同じ62μmの膜厚が確保できており、部品の傾き、及びはんだ膜厚の極めて薄い部分の発生を抑制できている。以上の結果より、本発明の有効性が確認できた。
【0030】
[実施例2]
本発明における、テープ状はんだ上に配線した場合の金属線入り成形はんだの圧延前後の金属線の状況を調べた。厚さ0.40mm 、板幅82mm 、長さ2m のテープ状はんだにおいて、両縁から7mmの位置に直径 65μmのニッケル線を2本長手方向に直線状に平行配線し、両端部をビニールテープで固定した。なお、テープ状はんだの成分はSn−0.7%Cu とした。
この金属線を配設したテープ状はんだを圧延機により板厚 0.21mmに圧延したところ、金属線はテープ状はんだの長手方向に直線状となり、テープ状はんだの表層部に埋没した。
埋没した金属線の断面を測定したところほぼ楕円状であり、長軸径は177μmであり、短軸径は112μmであることから面積は0.0165 平方mmと計算され、圧延前の直径65μmの面積0.0033平方mmの約半分になった。
これは圧延によりテープ状はんだの板厚が0.40mmから0.21mmになることから長さは約2倍となり、必然的に断面積は約半分になることによるものである。
なお、なお、金属線を圧入後のはんだ状テープの長手方向両縁部を切断することにより、テープ幅70mmの縁からそれぞれ1mmの位置に金属線スペーサが配置されることとなった。
【0031】
[実施例3]
本発明に比較した追加の実施例として、金属線を2枚のテープ状はんだに挟んだ場合の、金属線入り成形はんだにおける圧延前後の金属線の状況を調べた。
はんだ成分をSn−0.7%Cu とし、厚さ0.4mm 、板幅82mm、長さ2mのテープ状はんだ2本において、一本のテープ状はんだの両縁から7mmの位置に直径65μmのニッケル線を2本長手方向に直線状に併設配置し、両端部をビニールテープで固定した後、もう一本のテープ状はんだにより挟み込んだ。このニッケル線を挟んだ2本のテープ状はんだを圧延機により板厚0.2mmに圧延した。
圧延後のニッケル線の状態を観察したところ、テープ状はんだの肉厚の中央部に位置し、図13に示すように断続な直線となって長手方向に伸びていた。
テープ状はんだの一箇所を切断しニッケル断続線中央部の断面を観察したところ、形状はほぼ楕円状であり、長軸径は57μmであり、短軸径は43μmであった。
また、一部の長さに渡って断続線間の空隙間隔を測定したところ、最少間隔25μm、最大359μm、平均146μm 、標準偏差( σ )80μmであった。平均値から3σの離れた数値が386μmであることから、ニッケル線の無い部分の間隔は非常に小さなものであり、スペーサとして問題はないことも分かった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
上述において金属線の断面形状は円形のものについて記載されているが、多角形、太鼓形状等の断面を有する金属線を含む金属線入り成形はんだとして適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の金属線入り成形はんだによる電子部品とヒートシンクのはんだ付け状態を示す平面図および断面図。
【図2】金属粒子分散形の方形成形はんだにおいて、切断位置により粒子分布が異なることを示す平面図。
【図3】本発明の金属線入り成形はんだにおいて、切断位置によらずスペーサー機能があることを示す平面図および断面図。
【図4】本発明の金属線入り成形はんだにおける圧延前の状態を示す平面図および断面図。
【図5】圧延後の金属線入りテープ状はんだの断面の一例を示す図。
【図6】線材強度および圧下率Jを一定にした場合、線材の断面変形度合に対するはんだの引張強さの影響を示した図。
【図7】はんだの強度および圧下率を一定にした場合、線材の断面変形度合に対する線材の引張強さの影響を示した図。
【図8】線材の断面変形度合に対するはんだの圧下率Jの影響を示した図。
【図9】K値をパラメータとして、はんだ切断が生じない限界の圧下率の関係を示した図。
【図10】実施例1における金属線を内包一体化させた成形はんだの平面図および断面図。
【図11】意図的にはんだ厚さが不均等になるようにDBA基板上に荷重を錘を載せた接合試験片の状態を示す平面図。
【図12】本発明の金属線入り成形はんだと金属線を内包しない成形はんだとの接合後のはんだ厚さの比較図。
【図13】実施例3の金属線入り成形はんだにおける圧延後の金属線の状態を示す平面図。
【符号の説明】
【0034】
1 電子部品
2 はんだ
3 高溶融点金属線
4 ヒートシンク
5 テープはんだ
6 高溶融点金属粒子
7 DBA基板
8 錘
A−A 断面図切断線
A1 テープはんだ切断線
A2 テープはんだ切断線
B はんだ厚さ測定位置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2本のはんだより融点の高い線材が、テープ状または板状はんだの表面の線材長手方向に沿った両側端部より各所定の距離ΔTをもって併設位置されており、該併設位置された線材が、上記テープ状または板状はんだの表面において線材長手方向に所定の巾Bをもって露出するように圧入されていることを特徴とする金属線入り成形はんだ。
【請求項2】
前記所定の距離ΔTが、0.1≦ΔT≦5.0mmであり、前記所定の巾Bが圧入後線材の最大径の3分の1以上であることを特徴とする請求項1に記載の金属線入り成形はんだ。
【請求項3】
前記線材がニッケル、銅またはステンレス鋼の金属線であることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の金属線入り成形はんだ。
【請求項4】
少なくとも2本の、はんだより融点の高い線材を、該線材の圧入前の直径d0 と圧延前のテープ状はんだの厚さt0 との比K(K=d0/t0 )を0.25≦K≦0.85として、該テープ状はんだの長手方向表面の両側端部よりの距離ΔTが0.1≦ΔT≦5.0mmをもって緊張して併設位置させる工程と、該併設位置された線材と上記テープ状はんだとを、該線材が該テープ状はんだの表面の長手方向に所定の巾Bが延在露出するように、同時に圧延する工程を有することを特徴とする金属線入り成形はんだの製造方法。
【請求項5】
少なくとも2本の、はんだより融点の高い線材を、該線材の圧入前の直径d0 とプレス前の板状はんだの厚さt0 との比K(K=d0/t0 )を所定の比K値として、該板状はんだの表面に該表面の両側端部よりの距離ΔTが0.1≦ΔT≦5.0mmをもって緊張して平行に位置させる工程と、該平行に位置された線材と上記板状はんだとを、該線材が該板状はんだの表面に所定の巾Bが露出するように、同時にプレスする工程を有することを特徴とする金属線入り成形はんだの製造方法。
【請求項6】
前記所定の比K値が、0.85以下であることを特徴とする請求項5に記載の金属線入り成形はんだの製造方法。
【請求項7】
前記線材がニッケル、銅またはステンレス鋼の金属線であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の金属線入り成形はんだの製造方法。
【請求項1】
少なくとも2本のはんだより融点の高い線材が、テープ状または板状はんだの表面の線材長手方向に沿った両側端部より各所定の距離ΔTをもって併設位置されており、該併設位置された線材が、上記テープ状または板状はんだの表面において線材長手方向に所定の巾Bをもって露出するように圧入されていることを特徴とする金属線入り成形はんだ。
【請求項2】
前記所定の距離ΔTが、0.1≦ΔT≦5.0mmであり、前記所定の巾Bが圧入後線材の最大径の3分の1以上であることを特徴とする請求項1に記載の金属線入り成形はんだ。
【請求項3】
前記線材がニッケル、銅またはステンレス鋼の金属線であることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の金属線入り成形はんだ。
【請求項4】
少なくとも2本の、はんだより融点の高い線材を、該線材の圧入前の直径d0 と圧延前のテープ状はんだの厚さt0 との比K(K=d0/t0 )を0.25≦K≦0.85として、該テープ状はんだの長手方向表面の両側端部よりの距離ΔTが0.1≦ΔT≦5.0mmをもって緊張して併設位置させる工程と、該併設位置された線材と上記テープ状はんだとを、該線材が該テープ状はんだの表面の長手方向に所定の巾Bが延在露出するように、同時に圧延する工程を有することを特徴とする金属線入り成形はんだの製造方法。
【請求項5】
少なくとも2本の、はんだより融点の高い線材を、該線材の圧入前の直径d0 とプレス前の板状はんだの厚さt0 との比K(K=d0/t0 )を所定の比K値として、該板状はんだの表面に該表面の両側端部よりの距離ΔTが0.1≦ΔT≦5.0mmをもって緊張して平行に位置させる工程と、該平行に位置された線材と上記板状はんだとを、該線材が該板状はんだの表面に所定の巾Bが露出するように、同時にプレスする工程を有することを特徴とする金属線入り成形はんだの製造方法。
【請求項6】
前記所定の比K値が、0.85以下であることを特徴とする請求項5に記載の金属線入り成形はんだの製造方法。
【請求項7】
前記線材がニッケル、銅またはステンレス鋼の金属線であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の金属線入り成形はんだの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−106993(P2009−106993A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283432(P2007−283432)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000111199)ニホンハンダ株式会社 (23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000111199)ニホンハンダ株式会社 (23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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