説明

金属線材加熱装置

【課題】細径の金属線材を特性のばらつきなく効率的に熱処理を行うことができる金属細線加熱装置を提供する。
【解決手段】直線状に配置した金属線材1に対し離接可能であって該金属線材1の長手方向に距離を隔てて金属線材1に接触可能な対の電極10、20と、該電極間に通電する通電装置(交流電源2a、ブリッジ整流回路2b、スイッチ2c)と、前記対の電極10、20間の前記金属線材の周囲を囲む包囲筒体(石英管4)を備える。該装置は、前記電極10、20間の金属線材1に張力を付与する線材張力付与装置(ウェイト7a、引張りライン7b、張力伝達断続部7c)を備えるのが望ましい。加熱、冷却に際し、空気の流れ等による環境の変化を受け難く、均等な熱処理を行うことができ特性のばらつきが小さい金属線材が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属線材を通電加熱によって加熱処理をする金属線材加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイス代替IC検査プローブピンなどに用いられる極細線(例えば径0.1〜0.3mm)の超高硬度合金線は、加熱、冷却の熱処理(時効処理)を経て高い強度特性を得ることができる。例えば、耐食性に優れたNi基合金線は、冷間加工+時効処理により粉末ハイス相当の800〜900Hvもの硬さが得られ、この超高硬度特性によりSUS440Cと同等の優れた耐磨耗性をも示す。すなわち、上記熱処理によってNi基合金線特有の耐食性・非磁性(透磁率μ<1.01)を維持しながら極めて高い硬さを得ることが可能になる。
【0003】
上記した熱処理の一方法としては、バッチ炉加熱により時間をかけて処理する方法(例えば1Hr以上)があるが、処理に長時間を要するという問題がある。これに対し短時間時効処理を可能にするものとして、加熱された管状炉内で線材を走行させて熱処理を行うものが提案されている(例えば特許文献1、特許文献3参照)。また、この他に線材を直接通電加熱することで短時間で熱処理を行う方法も提案されている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−339050号公報(段落0034、段落0037)
【特許文献2】特開平5−70850号公報
【特許文献3】特開2002−129262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、極細線の熱処理では、僅かな環境の変化(空気の流れなど)によっても加熱、冷却状態が変化してしまい、従来の上記方法では、熱処理の結果得られる特性が線方向において不均一になったり、ロットによって特性がばらついたりするという問題がある。また、加熱、冷却によって生じる細線の変形や変形応力などによって細線の直線性が損なわれやすく、矯正処理の負担が大きいという問題がある。
【0005】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、線材を線方向において均一に熱処理することを可能にし、またロット間での特性のばらつきを小さくすることができ、さらには金属線材の直線性を良好に維持することができる金属線材加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の金属線材加熱装置のうち、第1の発明は、直線状に配置した金属線材に対し離接可能であって該金属線材の線方向において距離を隔てて該金属線材に接触可能な対の電極と、該電極間に通電する通電装置と、前記対の電極間の前記金属線材の周囲を囲む包囲筒体とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、直線状に配置した金属線材に、対となる電源を線方向に距離を隔てて接触させて通電装置により通電することで、金属線材が通電加熱され、加熱後冷却により所望の熱処理がなされる。この加熱、冷却に際しては金属線材の周囲が包囲筒体で囲まれているので、空気の流れなどによる環境の変化を受けにくく、安定して金属線材の線方向で均等な熱処理がなされ、特性のばらつきが小さい処理済みの金属線材を得ることが可能になる。なお、包囲筒体は、金属線材の加熱、冷却においても損傷を生じないように耐熱性を有するものが望ましく、石英製などのものを用いることができる。また、包囲筒体は、金属線材の周囲を完全に囲むものの他、一部で開放されているものであってもよいが、周囲の環境の変化を回避するためには、周囲全体を完全に囲むものが望ましい。
【0008】
さらに、第2の発明の金属線材加熱装置は、第1の発明において、少なくとも前記電極への通電時に、前記電極間の金属線材に張力を付与する線材張力付与装置を備えることを特徴とする。
【0009】
上記発明によれば、電極への通電時に、線材張力付与装置によって前記電極間の金属線材に張力を付与することにより、熱処理に際し金属線材による熱変形が生じても金属線材の直線性を良好に維持することができ、後の矯正処理を不要にしたり、矯正処理の負担を軽減する。なお、金属線材に付与する張力は、金属線材の材質や線径に基づいて設定することができる。例えば、0.1mm径の金属線材には0.5kgの張力を付与し、0.5mm径の金属線材には1.0kgの張力を付与するように、線径によって張力を調整することができる。
【0010】
第3の発明の金属線材加熱装置は、第2の発明において、前記対の電極の一方または両方が金属線材を保持して前記線方向に沿って移動可能とされており、前記張力付与装置は、前記移動が可能とされた電極に移動方向に応力を加えて前記張力を付与するものであることを特徴とする。
【0011】
上記発明によれば、金属線材を保持する移動可能な電極に移動応力を与えることで金属線材に容易に張力を付与して金属線材の直線性を維持することができる。なお、応力の付与は、ウェイトの自重を利用したものやサーボモータなどの駆動力を利用したものにより行うことができ、本発明としては特定のものに限定されない。
【0012】
第4の発明の金属線材加熱装置は、第1〜第3の発明において、前記包囲筒体内の強制通気を行う通気装置を備えることを特徴とする。
【0013】
上記発明によれば、熱処理時の冷却に際し、包囲筒体内の昇温された雰囲気を強制的に通気することで金属線材周囲の環境温度を強制的に降温させて冷却効率を高める。
金属線材の周囲に包囲筒体を配置することで上記したように環境の変化を受けにくくなるものの、冷却時には包囲筒体による保温作用が現れて冷却効率が悪くなるが、上記のように強制的な通気によりこれを解消することができる。また、強制的な通気によって、金属線材の冷却が長手方向で均等になされ、熱処理効果の均等性が向上する。
【0014】
第5の発明の金属線材加熱装置は、第4の発明において、前記包囲筒体は部分的に膨出して内容積を大きくした膨出部を有しており、前記通気装置は、前記膨出部内に連通するように該膨出部の筒壁に連結されていることを特徴とする。
【0015】
上記発明によれば、包囲筒体に対する通気装置の作用箇所(連結部分など)で通気が集中して前記線方向で冷却が不均一になるのを回避することができる。該膨出部は、包囲筒体の両端よりも内部に設けることで、包囲筒体による「環境の変化を受けにくくする」という作用を損なわない。なお、本発明としては、膨出部の形成および連結は、一箇所で行ってもよく、また複数箇所で行うことも可能である。
【0016】
第6の発明の金属線材加熱装置は、第1〜第5の発明において、前記通電装置は、直流通電装置であって、少なくとも定常時に電流制御によって前記金属線材の通電加熱を行うものであることを特徴とする。
【0017】
上記発明によれば、交流電源により発生する加熱時の金属線材の微小な振動を回避することができる。該振動は、熱処理のむらなどを生じさせるものであり好ましくない。さらには、上記発明では、通電加熱を行う金属線材の個体差による加熱の差異を小さくし、また、通電加熱による昇温によって抵抗値が変化する際にも安定して金属線材を加熱することができる。
【0018】
なお、本発明で処理の対象となる金属線材の材質については本発明では特に限定されるものではなく、熱処理によって所望の特性を得るものであればよく、必ずしも高強度化を意図するものでなくてもよい。また、金属線材の線径も本発明としては特に限定されるものではないが、本発明の効果が顕著に得られるものとしては、1.0mm以下の線径のものが好適である。
また、本発明で加熱処理をした金属線材の用途は、本発明としては特に限定されるものではなく、例えば、IC検査プローブピンや基板打ち抜きパンチ、ドットピン、歯科用機材などに用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
すなわち本発明によれば、直線状に配置した金属線材に対し離接可能であって該金属線材の線方向において距離を隔てて該金属線材に接触可能な対の電極と、該電極間に通電する電源と、前記対の電極間の前記金属線材の周囲を囲む包囲筒体とを備えるので、加熱、冷却に際し、空気の流れなどによる環境の変化を受けにくくなり、安定して金属線材の長手方向で均等な熱処理を行うことができ、高硬度などの特性のばらつきが小さい金属線材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。
金属線材1を配置する線方向に距離を隔てて接触可能な電極10、20を備えており、これら電極10、20は、それぞれ金属線材1を挟む電極分割材10a、10bと電極分割材20a、20bとに分割されて、前記線方向に沿って移動可能に設置されている。これらの電極分割材10a、10b、20a、20bは、対面側が平面に形成され、反面側は線方向内側が対面側に傾斜したテーパ面によりくさび形状に形成されている。これらの電極分割材10a、10bと電極分割材20a、20bの外側には、それぞれ押さえ部11a、11b、21a、21bが前記電極分割材10a、10b、20a、20bのテーパ面の傾斜に沿って配置されている。
【0021】
上記構成において、電極10、20は、線方向内側に移動させると、押さえ部10a、10b、20a、20bによるくさび作用により、互いの電極分割材10a、10bまた電極分割材20a、20bが接近し、遂には両者間に配置する金属線材1に圧接される。一方、電極10、20を線方向外側に移動させると電極に対するくさび作用が失われ、金属線材1に対する圧接が解消され、外側への離反が可能になる。この場合、該離反が容易になされるように、電極分割材10a、10b間また電極分割材20a、20b間に、互いを離反させる方向に付勢力が作用する弾性材などを設けておくこともできる。
【0022】
また、上記電極10、20には、それぞれブリッジ整流回路2b、スイッチ2cを介してAC電源2aが電気的に接続されており、これらAC電源2aとブリッジ整流回路2bとスイッチ2cとによって直流の通電装置が構成されている。
また、電極10、20間には、前記線方向に沿って前記金属線材1を挿通させる細径の石英管4が包囲筒体として配置されている。該石英管4は、軸方向中央部に内部空間を増大させた膨出部4aがほぼ球状に設けられており、該膨出部4aに排気管5bが接続されている。該排気管5bにはファン5aが介設されており、排気管5bの他端側は適所において大気開放されている。上記ファン5aと排気管5bとによって通気装置が構成されている。
【0023】
また、上記押さえ部のうち、押さえ部21a、21bは、電極20とともに前記線方向に沿って移動可能になっている。さらに、押さえ部21a、21bには、引張りライン7b、張力伝達断続部7cを介して自重を利用したウェイト7aが接続可能になっている。上記ウェイト7a、引張りライン7b、張力伝達断続部7cによって張力付与装置が構成されている。
【0024】
上記によって構成される金属線材加熱装置の作用について図2、3に基づいて説明する。
先ず、電極10、20を押さえ部11a、11b内および押さえ部21a、21b内で線方向外側に退避させておき、張力伝達断続部7cでは、伝達を断にしておく。
適宜組成、適宜線径の金属線材1を用意し、上記石英管4内に挿通して両端側を電極分割材10a、10b間および電極分割材20a、20b間に位置させて直線状に配置する。
上記金属線材1を配置した後、電極10、20を押さえ部11a、11b内および押さえ部21a、21b内で線方向内側に移動させて金属線材1を両側でチャックをする(図2(a))。この際の挙動は、図3(a)に詳細に示すように、電極分割材10a、10bまたは電極分割材20a、20bを線方向内側に移動させると、押さえ部11a、11bまたは押さえ部21a、21bの傾斜した内面に電極分割材の外面のテーパー面が押し当たり、その傾斜に従って電極分割材が次第に内側に押されて電極分割材10a、10b同士また電極分割材20a、20b同士が次第に接近し、遂には電極分割材10a、10b同士また電極分割材20a、20b同士が金属線材1を挟んで圧接され、金属線材1を挟持するようにチャック(保持)する。
【0025】
次いで、張力伝達断続部7cをつないでウェイト7aの自重を引張りライン7bを通して押さえ部21a、21bに加える(図2(b))。すると、押さえ部21a、21bは、図3(b)に詳細を示すように、金属線材1に線方向外側に向けた張力を付与する。
【0026】
上記のようにして張力を付与した状態でスイッチ2cを閉にして通電を開始する(図2(c))。すると交流電源2aからの交流電流は、ブリッジ整流回路2bによって整流され、直流電流が電極10、20を介して金属線材1に流れ、その抵抗によって金属線材1が通電加熱される。この際には、定常時には、所定の電流値となるように電流制御を行って所定時間、所定温度の加熱を行う。この際に、金属線材1は、昇温によって通常は線膨張するが、上記のように張力付与装置で張力が付与されているので、線膨張に伴って押さえ部21a、21bが電極20とともに線方向外側に移動し、金属線材1の直線性を維持する。
その後、スイッチ2cを開にして通電を停止し、ファン5aによって排気管5bを通して石英管4内の強制的な排気を行う(図2(d))。
【0027】
この結果、石英管4内の高温の空気が膨出部4aから排気管5bを通して排気され、石英管4の周囲の常温の空気が石英管4の内部への引き込まれ、高温になっている金属線材1を効率的かつ均等に冷却する。この際に、膨出部4aでは、両側から流れ込む空気の流れが大容積によって緩和されるので、膨出部4a内の金属線材1の一部のみが急速に冷却されるのを防止する。金属線材1の冷却を所定時間行うことにより熱処理を終了する。なお、冷却処理の全時間で、上記の強制通気を行ってもよく、冷却の途中で強制通気を終了することも可能である。また、上記冷却に際しても張力付与装置によって金属線材1に張力を付与したままにしておくのが望ましい。冷却に際しては通常は金属線材の降温によって金属線材1は熱収縮するが、張力断続装置をつないだままにして張力付与を維持しておくことで押さえ部21a、21bが電極20とともに線方向内側に移動しながら金属線材1が真直に収縮し、金属線材1の曲がりなどが防止されて直線性が維持される。
【0028】
冷却後は、張力伝達断続部7cの伝達を断にし、電極10、20を押さえ部11a、11b内および押さえ部21a、21b内で線方向外側に移動させる。これにより電極10、20のくさび作用が失われ、電極分割材10a、10b同士また電極分割材20a、20b同士が離反可能になる。金属線材1を包囲筒体4から抜き去ることで、熱処理を完了した金属線材が得られる。
【0029】
上記によって加熱処理された金属線材は、長手方向においてむらなく熱処理がなされ、特性のばらつきがなく均等な特性(高硬度など)を有しており、ロット間でのばらつきも小さくなる。また、熱処理は効率よくなされている。
以上、本発明について上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定をされるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜の変更が可能である。
【実施例1】
【0030】
上記実施形態における金属線材加熱装置を用いて、質量比で、Cr38%、Al4%、残部Niと不可避不純物からなる組成からなり、径2.2mmと径0.3mmの金属線材について、それぞれ480mmの間隔で上記電極によりチャックし加熱処理を行った。
加熱処理では、金属線材が600℃で120秒間加熱されるように電流制御しつつ通電加熱を行った。通電後、上記した通気装置によって強制的に通気を行い、強制通気を継続して100秒の冷却を行った。
この熱処理を施した金属線材の機械的特性を測定し、下記表1に示した。表1に示されるように、金属線材は良好に熱処理がなされ、優れた機械特性を有していた。
【0031】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態の金属線材加熱装置を示す図である。
【図2】同じく、熱処理工程を示すフロー図である。
【図3】同じく、処理時の工程の一部を詳細に示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 金属線材
2a 交流電源
2b ブリッジ整流回路
4 石英管
4a 膨出部
5a ファン
5b 排気管
7a ウェイト
7b 引張りライン
7c 張力伝達断続部
10 電極
10a 電極分割材
10b 電極分割材
11a 押さえ部
11b 押さえ部
20 電極
20a 電極分割材
20b 電極分割材
21a 押さえ部
21b 押さえ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状に配置した金属線材に対し離接可能であって該金属線材の線方向において距離を隔てて該金属線材に接触可能な対の電極と、該電極間に通電する通電装置と、前記対の電極間の前記金属線材の周囲を囲む包囲筒体とを備えることを特徴とする金属線材加熱装置。
【請求項2】
少なくとも前記電極への通電時に、前記電極間の金属線材に張力を付与する線材張力付与装置を備えることを特徴とする請求項1記載の金属線材加熱装置。
【請求項3】
前記対の電極の一方または両方が金属線材を保持して前記線方向に沿って移動可能とされており、前記張力付与装置は、前記移動が可能とされた電極に移動方向に応力を加えて前記張力を付与するものであることを特徴とする請求項2記載の金属線材加熱装置。
【請求項4】
前記包囲筒体内の強制通気を行う通気装置を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属線材加熱装置。
【請求項5】
前記包囲筒体は部分的に膨出して内容積を大きくした膨出部を有しており、前記通気装置は、前記膨出部内に連通するように該膨出部の筒壁に連結されていることを特徴とする請求項4記載の金属線材加熱装置。
【請求項6】
前記通電装置は直流通電装置であって、少なくとも定常時に電流制御によって前記金属線材の通電加熱を行うものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の金属線材加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−133521(P2008−133521A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321724(P2006−321724)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】