説明

金属膜を有する積層体の製造方法

【課題】本発明は、高温環境下に曝されても基板との優れた密着性を示す金属膜を備えた積層体を簡便に形成しうる、積層体の製造方法を提供することにある。
【解決手段】基板上に、下地層形成用組成物を接触させて、シランカップリング剤含有下地層を形成する下地層形成工程と、シランカップリング剤含有下地層上に、重合性基、および、ポリマー層形成用組成物を接触させた後、エネルギーを付与して、ポリマー層を形成するポリマー層形成工程と、ポリマー層にめっき触媒またはその前駆体を付与する触媒付与工程と、めっき触媒またはその前駆体に対してめっきを行い、ポリマー層上に金属膜を形成するめっき工程と、を備える金属膜を有する積層体の製造方法であって、下地層形成用組成物および/またはポリマー層形成用組成物に、P=O基含有重合性化合物が含まれる、金属膜を有する積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属膜を有する積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、絶縁性基板の表面に金属パターンによる配線を形成した金属配線基板が、電子部品や半導体素子に広く用いられている。
かかる金属パターン材料の作製方法としては、主に、「サブトラクティブ法」が使用される。このサブトラクティブ法とは、基板表面に形成された金属膜上に、活性光線の照射により感光する感光層を設け、この感光層を像様露光し、その後現像してレジスト像を形成し、次いで、金属膜をエッチングして金属パターンを形成し、最後にレジストを剥離する方法である。
【0003】
この方法により得られる金属パターンにおいては、基板表面に凹凸を設けることにより生じるアンカー効果により、基板と金属パターン(金属膜)との間の密着性を発現させている。そのため、得られた金属パターンを金属配線として使用する際、金属パターンの基板界面部の凹凸に起因して、高周波特性が悪くなるという問題点があった。また、基板表面に凹凸化処理するためには、クロム酸などの腐食性の酸で基板表面を処理する必要があるため、基板との密着性に優れた金属パターンを得るためには、煩雑な工程が必要であるという問題点があった。
特に、ガラス基板やセラミックス基板などに対しては、表面を粗化するうまい方法がなく、ガラスフリットに金属粉を混合して焼結するというような方法や、蒸着やスパッタといった真空法を用いることがあった。しかしながら、焼結は非常に高温が必要であり設備や生産性、有機物質とのマッチングの点で問題があり、真空法においても装置や生産性に問題がある上に金属膜の密着が弱いという問題があった。
【0004】
この問題を解決する手段として、シランカップリング剤層を備える基板上に該基板と直接結合したグラフトポリマーを生成させてポリマー層を形成し、このポリマー層に対してめっきを施して、ポリマー層上に得られた金属膜をエッチングする方法が知られている(特許文献1)。該方法によれば、基板表面を粗面化することなく、基板と金属膜との密着性を改良することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−242412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、近年、金属配線基板を備えた半導体素子は、より過酷な高温条件下で使用されることが想定され、そのような環境下に曝されても充分な密着性を示す金属膜の開発が望まれていた。
本発明者らは、特許文献1に開示されている発明を参照し、シランカップリング剤層を使用して金属膜を有する積層体を製造し、昨今要求されるようなより過酷な高温条件に曝された後の金属膜の密着性について検討を行った。その結果、高温条件に曝された後の金属膜には、金属膜の密着が不十分であることに由来して発生する「膨れ」が多く見受けられ、金属膜の密着性は実用上必ずしも満足できる結果ではないことを見出した。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて、高温環境下に曝されても基板との優れた密着性を示す金属膜を備えた積層体を簡便に形成しうる、積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、P=O基を含有する重合性化合物を使用することにより上記課題を解決できることを見出した。
つまり、本発明者らは、以下に示す手段により上記目的を達成しうることを見出した。
【0009】
(1) 基板上に、反応性基を有するシランカップリング剤を含む下地層形成用組成物を接触させて、シランカップリング剤含有下地層を形成する下地層形成工程と、
シランカップリング剤含有下地層上に、重合性基、および、めっき触媒またはその前駆体と相互作用を形成する官能基を有するポリマーを含むポリマー層形成用組成物を接触させた後、エネルギーを付与して、ポリマー層を形成するポリマー層形成工程と、
ポリマー層にめっき触媒またはその前駆体を付与する触媒付与工程と、
めっき触媒またはその前駆体に対してめっきを行い、ポリマー層上に金属膜を形成するめっき工程と、を備える金属膜を有する積層体の製造方法であって、
下地層形成用組成物および/またはポリマー層形成用組成物に、P=O基含有重合性化合物が含まれる、金属膜を有する積層体の製造方法。
【0010】
(2) P=O基含有重合性化合物が、後述する一般式(1)で表される化合物である、(1)に記載の積層体の製造方法。
(3) 前記反応性基が、メタクリロイル基、アクリロイル基、グリシジル基、アミノ基、スチリル基、ビニル基、メルカプト基、ウレイド基、スルフィド基、イソシアネート基、またはカルボキシル基である、(1)または(2)に記載の積層体の製造方法。
(4) ポリマー層形成用組成物に、さらに、反応性基を有するシランカップリング剤が含まれる、(1)〜(3)のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【0011】
(5) 前記ポリマー層形成用組成物に、反応性基を有するシランカップリング剤、および、P=O基含有重合性化合物が含まれる、(1)〜(4)のいずれかに記載の積層体の製造方法。
(6) 前記基板が、ガラス基板、または、セラミックス基板である、(1)〜(5)のいずれかに記載の積層体の製造方法。
(7) めっき工程後に、加熱処理を行う加熱工程を備える、(1)〜(6)のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【0012】
(8) 下地層形成工程において、基板上に下地層形成用組成物を接触させた後、溶媒で前記基板の洗浄を行う、(1)〜(7)のいずれかに記載の積層体の製造方法。
(9) (1)〜(8)のいずれか記載の積層体の製造方法により得られる積層体中の金属膜をパターン状にエッチングして、パターン状金属膜を形成するパターン形成工程を備える、金属パターン材料の製造方法。
(10) (9)に記載の金属パターン材料の製造方法により得られる、金属パターン材料。
(11) (10)に記載の金属パターン材料を含むプリント配線板。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温環境下に曝されても基板との優れた密着性を示す金属膜を備えた積層体を簡便に形成しうる、積層体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)〜(E)は、それぞれ本発明の積層体の製造方法における各製造工程を順に示す基板からパターン状金属膜を有する積層体までの模式的断面図である。
【図2】(A)〜(D)は、パターン状金属膜を有する金属パターン材料の製造工程を順に示す模式的断面図である。
【図3】(A)〜(E)は、パターン状金属膜を有する金属パターン材料の製造工程を順に示す模式的断面図である。
【図4】(A)〜(C)は、パターン状金属膜を有する金属パターン材料の製造工程を順に示す模式的断面図である。
【図5】(A)〜(F)は、パターン状金属膜を有する金属パターン材料の製造工程を順に示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の金属膜を有する積層体の製造方法、および該方法により得られる積層体について説明する。
まず、本発明の従来技術と比較した特徴点について詳述する。
本発明は、シランカップリング剤含有下地層を使用する点、および、P=O基含有重合性化合物をシランカップリング剤含有下地層および/またはポリマー層形成時に使用する点に特徴がある。このような構成をとることにより、基板とシランカップリング剤含有下地層との間の密着性、および、シランカップリング剤含有下地層とポリマー層との間の密着性がより向上し、結果として、高温条件下に曝しても基板と金属膜との間で優れた密着性を示す積層体を得ることができる。
【0016】
本発明の積層体の製造方法は、以下の4つの工程を備え、下地層形成用組成物および/またはポリマー層形成用組成物に、P=O基含有重合性化合物が含まれる。
(1) 基板上に、反応性基を有するシランカップリング剤を含む下地層形成用組成物を接触させて、シランカップリング剤含有下地層を形成する下地層形成工程
(2) シランカップリング剤含有下地層上に、重合性基、および、めっき触媒またはその前駆体と相互作用を形成する官能基を有するポリマーを含むポリマー層形成用組成物を接触させた後、エネルギーを付与して、ポリマー層を形成するポリマー層形成工程
(3) ポリマー層にめっき触媒またはその前駆体を付与する触媒付与工程
(4) めっき触媒またはその前駆体に対してめっきを行い、ポリマー層上に金属膜を形成するめっき工程
以下に、各工程で使用する材料、および、その操作方法について詳述する。
【0017】
<工程(1):下地層形成工程>
工程(1)は、基板上に、反応性基を有するシランカップリング剤を含む下地層形成用組成物を接触させて、シランカップリング剤含有下地層(以後、単に下地層とも称する)を形成する工程である。該工程によって、シランカップリング剤の加水分解性基を介して、基板表面上と化学結合したシランカップリング剤含有下地層を形成することができ、該層は後述するポリマー層の下地層として機能する。なお、該下地層は、後述するポリマー層との間でも反応性基を介して化学結合を形成することができ、結果として、ポリマー層の表面に形成される金属膜と、基板との間に優れた密着性が発現する。
より具体的には、該工程によって、図1(A)に示されるように基板10上にシランカップリング剤含有下地層12が形成される。
まず、本工程で使用される材料(シランカップリング剤、P=O基含有重合性化合物、下地層形成用組成物、基板など)について詳述し、その後該工程の手順について詳述する。
【0018】
(シランカップリング剤)
本工程で使用されるシランカップリング剤は、反応性基を有する。該反応性基は後述するポリマーと反応し、ポリマー層と下地層との間で共有結合を形成することが好ましい。
反応性基の種類としては後述するポリマーと反応すれば特に制限されないが、例えば、メタクリロイル基、アクリロイル基、グリシジル基、アミノ基、カルボキシル基、ビニル基、メルカプト基、スチリル基、ウレイド基、スルフィド基、イソシアネート基などが挙げられる。なかでも、ポリマー層との反応性がよく、金属膜の密着性がより優れる点で、メタクリロイル基、アクリロイル基、グリシジル基、アミノ基、スチリル基、イソシアネート基などが好ましく挙げられる。
反応性基は、シランカップリング剤中に2個以上含まれていてもよい。
【0019】
本工程で使用されるシランカップリング剤の好適態様として、以下の一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0020】
【化1】

【0021】
一般式(3)中、Zaは反応性基を表す。反応性基の定義は、上述の通りである。
Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭化水素基を表す。炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基など。炭素数1〜12が好ましい。)、または芳香族炭化水素基(例えば、フェニル基、ナフチル基など)が挙げられる。なかでも、炭化水素基としては、メチル基、エチル基が好ましい。
Rが複数ある場合は、同一であっても異なっていてもよい。
【0022】
Wは、加水分解性基を表す。具体的には、アルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜8のアルコキシ基。例えば、メトキシ基、エトキシ基など)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アシロキシ基(アセトキシ基、プロパノイルオキシ基など)などが挙げられ、なかでも反応性が良好な点で、メトキシ基、エトキシ基、塩素原子が好ましい。
【0023】
cは、単結合、または、2価の有機基を表す。2価の有機基としては、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基(例えば、アルキレン基。好ましくは炭素数1〜8)、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基(例えば、アリーレン基。好ましくは炭素数6〜12)、−O−、−S−、−SO2−、−N(R)−(R:アルキル基)、−CO−、−NH−、−COO−、−CONH−、またはこれらを組み合わせた基(例えば、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基など)などが挙げられる。
なかでも、アルキレン基、−O−、またはこれらを組み合わせた基が化合物作製の点で好ましい。
単結合の場合、一般式(3)のZaがSiと直接連結することをさす。
【0024】
mは0〜2の整数を表し、nは1〜3の整数を表し、n+m=3の関係を満たす。なかでも、mは0〜1が好ましい。nは、2〜3が好ましい。
【0025】
使用されるシランカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、メタクリル酸3−トリメトキシシリルプロピル、3−(アクリルオキシ)プロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリクロルシランなどが挙げられる。
【0026】
(下地層形成用組成物)
下地層形成用組成物には、上述したシランカップリング剤が含有される。
下地層形成用組成物中におけるシランカップリング剤の含有量は特に制限されないが、取扱い性、下地層の層厚制御の容易性、および、生成した金属膜の密着強度などの点から、組成物全量に対して、0.1〜100質量%が好ましく、0.5〜20質量%がより好ましい。
【0027】
(P=O基含有重合性化合物)
下地層形成用組成物および/または後述するポリマー層形成用組成物には、P=O基含有重合性化合物が含まれる。
P=O基含有重合性化合物は、P=O基(ホスフィンオキシド基)と重合性基とを有する化合物である。該化合物が下地層形成用組成物に含まれる場合、P=O基を介してシランカップリング剤との間で強固な相互作用が形成される共に、該化合物はシランカップリング剤中で均一に分散する。また、重合性基を有することにより、後述するポリマー層との間で強固な共有結合を形成することができる。結果として、密着性に優れた金属膜を備える積層体を得ることができる。
【0028】
P=O基含有重合性化合物には、P=O基と重合性基とが含有されていればよい。
重合性基としては、例えば、ラジカル重合性基、カチオン重合性基などが挙げられる。なかでも、反応性の観点から、ラジカル重合性基が好ましい。ラジカル重合性基としては、例えば、メタクリロイル基、アクリロイル基、イタコン酸エステル基、クロトン酸エステル基、イソクロトン酸エステル基、マレイン酸エステル基、スチリル基、ビニル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基などが挙げられる。なかでも、メタクリロイル基、アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基が好ましく、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基が特に好ましい。
【0029】
P=O基含有重合性化合物の好適態様としては、以下の一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0030】
【化2】

【0031】
一般式(1)中、Xaは、重合性基を表す。重合性基の定義は、上述の通りである。
aは、単結合、または、2価の有機基を表す。有機基の定義は、上述したLcで表される有機基と同義である。
【0032】
aは、水素原子、または、重合性基を有しない置換基を表す。
重合性基を有しない置換基としては、例えば、脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基)、芳香族炭化水素基(例えば、アリール基)またはこれらを組み合わせた基などが挙げられる。なお、該置換基中には、−O−、−CO−、−NH−、またはこれらを組み合わせた基などの2価の有機基が含まれていてもよい。
アルキル基の炭素数は、1〜12が好ましく、1〜9がより好ましく、1〜6がさらに好ましい。アルキル基の具体例として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。アルキル基は、直鎖状であっても分枝状であっても環状であっても構わないが、好ましいのは直鎖アルキル基である。アルキル基は、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基などで置換されていてもよい。
アリール基の炭素数は、6〜14が好ましく、6〜10がより好ましい。アリール基の具体例として、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基が挙げられる。アリール基は、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基などで置換されていてもよい。
【0033】
pは1〜3の整数を表し、qは0〜2の整数を表し、pおよびqは、p+q=3の関係式を満たす。なかでも、pは1または2が好ましく、qは1または2が好ましい。
【0034】
一般式(1)で表される化合物の好適態様としては、一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0035】
【化3】

【0036】
一般式(2)中、Ya、pおよびqの定義は、一般式(1)中の各基と同義である。
一般式(2)中、Xbは、アクリロイル基またはメタクリロイル基を表す。
一般式(2)中、Lbは、アルキレン基、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基、またはこれらの組み合わせた基を表す。
アルキレン基、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基のアルキレン部分の具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基が挙げられる。アルキレン基は、直鎖状であっても分枝状であっても構わないが、好ましいのは直鎖アルキレン基である。
なかでも、金属膜の密着性がより優れるという点で、アルキレン部分の炭素数が2個以上である、アルキレン基、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、またはアルキレンカルボニルオキシ基がLbに含まれることが好ましく、その炭素数は3〜12個であることがより好ましく、5〜8個であることが特に好ましい。
【0037】
P=O基含有重合性化合物としては、例えば、日本化薬(株)製のKAYAMERシリーズ、ユニケミカル(株)製のPhosmerシリーズ等、市販されている化合物をそのまま用いてもよく、新たに合成された化合物を用いてもよい。
以下において、P=O基含有重合性化合物の具体例を示すが、本発明で用いることができるモノマーはこれらに限定されない。
【0038】
【化4】

【0039】
下地層形成用組成物中にP=O基含有重合性化合物が含まれる場合、下地層の基板との密着性および下地層とポリマー層との密着性の点から、下地層形成用組成物中におけるP=O基含有重合性化合物とシランカップリング剤との質量比(P=O基含有重合性化合物/シランカップリング剤)は、1/1000〜1/2が好ましく、1/10〜1/3がより好ましい。
【0040】
(溶媒)
下地層形成用組成物には、必要に応じて、溶媒が含まれていてもよい。
溶媒としては使用されるシランカップリング剤を溶解または分散させることができる溶媒であれば特に制限されないが、例えば、水、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール、プロパノールなど)、ケトン系溶媒(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなど)、アミド系溶媒(例えば、ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなど)、ニトリル系溶媒(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリルなど)、エステル系溶媒(例えば、酢酸メチル、酢酸エチルなど)、カーボネート系溶媒(例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなど)、エーテル系溶媒(例えば、エチレングリコール、グリセリンなど)、ハロゲン系溶媒(例えば、クロロホルムなど)などが挙げられる。
下地層形成用組成物中における溶媒の含有量は特に制限されないが、取扱い性、下地層の層厚制御、および、安定性の点から、下地層形成用組成物中のシランカップリング剤およびP=O基含有重合性化合物の総濃度が、0.1〜50質量%となるように溶媒量を調整することが好ましい。
【0041】
下地層形成用組成物には、必要に応じて、その他添加剤(例えば、酸、塩基等のpH調整剤(例えば、酢酸、りん酸、塩酸、硝酸、硫酸、炭酸、シュウ酸、ギ酸などの酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア水などの塩基))などが含まれていてもよい。
【0042】
(基板)
本発明に用いる基板10としては、従来知られているいずれの基板も使用することができ、後述する処理条件に耐えることのできるものが好ましい。例えば、プラスチック基板、ガラス基板、セラミック基板、金属基板などが挙げられる。なかでも、上記シランカップリング剤との反応性が優れる点で、ガラス基板、セラミック基板が好ましく挙げられる。
プラスチック基板の材料としては、熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂など)または熱可塑性樹脂(例えば、フェノキシ樹脂、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンスルフォンなど)が挙げられる。
セラミック基板の材料としては、例えば、アルミナ、窒化アルミニウム、ジルコニア、シリコン、窒化シリコン、シリコンカーバイドなどが挙げられる。
ガラス基板の材料としては、例えば、ソーダガラス、カリガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、アルミケイ酸ガラス、鉛ガラスなどが挙げられる。
金属基板の材料としては、例えば、アルミニウム、亜鉛、銅などが挙げられる。
【0043】
基板は、半導体パッケージ、各種電気配線基板等への用途を考慮すると、JIS B 0601(1994年)、10点平均高さ法で測定した表面粗さRzが500nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下、最も好ましくは20nm以下である。下限は特に限定されないが、5nm程度が好ましく、0がより好ましい。
【0044】
また、基板は、本発明で形成される金属膜とは別に、その片面または両面に金属配線を有していてもよい。金属配線は、基板の表面に対してパターン状に形成されていてもよいし、全面に形成されていてもよい。代表的には、エッチング処理を利用したサブトラクティブ法で形成されたものや、電気めっきを利用したセミアディティブ法で形成したものが挙げられ、いずれの工法で形成されたものを用いてもよい。
金属配線を構成する材料としては、例えば、銅、銀、錫、パラジウム、金、ニッケル、クロム、タングステン、インジウム、亜鉛、またはガリウムなどが挙げられる。
【0045】
(工程(1)の手順)
基板と反応性基を有するシランカップリング剤を含む下地層形成用組成物とを接触させる方法は特に限定されず、下地層形成用組成物中に基板を浸漬する方法や、下地層形成用組成物を基板上に塗布する方法などが挙げられる。得られる下地層の厚みを制御しやすい点から、組成物を基板上に塗布する方法が好ましい。
塗布の方法は特に制限されず、具体的な方法としては、ダブルロールコータ、スリットコータ、エアナイフコータ、ワイヤーバーコータ、スライドホッパー、スプレーコーチィング、ブレードコータ、ドクターコータ、スクイズコータ、リバースロールコータ、トランスファーロールコータ、エクストロージョンコータ、カーテンコータ、ディップコーター、ダイコータ、グラビアロールによる塗工法、押し出し塗布法、ロール塗布法等の公知の方法を用いることができる。
【0046】
下地層形成用組成物を基板と接触させる場合、下地層とポリマー層との密着性、および、形成される金属膜の密着性の点から、基板への塗布量は、シランカップリング剤量換算で、0.001〜0.1g/m2が好ましく、0.0015〜0.05g/m2がより好ましい。
【0047】
下地層形成用組成物を基板と接触させた後、必要に応じて、溶媒を除去するために基板を加熱処理してもよい。
加熱条件は組成物中に含有される溶媒により適宜最適な温度が選択されるが、加熱温度は30〜200℃が好ましく、加熱時間は1分〜1時間が好ましい。
【0048】
さらに、下地層形成用組成物を基板と接触させた後(または、上記加熱処理を行った後)、溶媒を用いて基板を洗浄することが好ましい。溶媒による洗浄を行うことにより、基板上に堆積した未反応のシランカップリング剤を除去することができ、結果として形成される金属膜の密着性がより向上する。
使用される溶媒は、シランカップリング剤の種類に応じて適宜選択され、例えば、上記下地層形成用組成物中に含有されてもよい溶媒が挙げられる。なかでも、水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒が好ましく挙げられ、特に、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、シクロペンタノン、シクロヘキサノンがよく用いられる。
【0049】
なお、下地層形成用組成物を基板と接触させた後(または、溶媒による洗浄の後)、必要に応じて、基板を乾燥してもよい。乾燥条件は特に制限されないが、温度:20〜100℃で、時間:1分〜1時間乾燥することが好ましい。
【0050】
(シランカップリング剤含有下地層)
上記手順により形成されるシランカップリング剤含有下地層は、主に、上述したシランカップリング剤により形成され、後述するポリマー層の下地層としての役割を果たす。該下地層が基板とポリマー層との間にあることにより、両者の密着性がより向上し、結果として金属膜の密着性も向上する。
下地層の厚みは特に制限されないが、使用されるシランカップリング剤の一分子膜から数分子程度の厚みであることが好ましい。
【0051】
下地層の水に対する接触角は、使用するシランカップリング剤などにより制御することができる。下地層形成用組成物を使用したシランカップリング処理を行い、基板表面の接触角の値が変化することを観察することにより、基板表面に下地層が形成されたかどうか調べることができる。なお、下地層の構成成分と、ポリマー層を構成するポリマー成分との組み合わせによって、基板表面の好ましい接触角は変化する。
なお、接触角は静的な接触角をいい、液滴法による接触角測定装置を使用して27℃において測定した。ここで「静的な接触角」とは、流動等による時間に伴う状態変化が生じない条件における接触角をいう。
【0052】
下地層には上記シランカップリング剤が主成分として含有されることが好ましい。主成分とは、シランカップリング剤の含有量が、下地層全量に対して、50質量%以上であることを指し、70質量%以上であることが好ましい。最大値は100質量%である。
なお、下地層形成用組成物中にP=O基含有重合性化合物が含まれる場合、下地層にはP=O基含有重合性化合物も含まれる。
【0053】
<工程(2):ポリマー層形成工程>
工程(2)は、工程(1)で得られた下地層上に、重合性基、および、めっき触媒またはその前駆体と相互作用を形成する官能基を有するポリマーを含むポリマー層形成用組成物を接触させた後、エネルギーを付与して、ポリマー層を形成する工程である。該工程では、下地層およびポリマー層形成用組成物を有する基板に対して、エネルギーを付与することにより、シランカップリング剤の反応性基、ポリマー中の重合性基、およびP=O基含有重合性化合物中の重合性基が活性化され、ポリマー間の架橋や、下地層とポリマー層との間で共有結合などが形成される。結果として、ポリマー層と下地層間とがより強固に密着する。
より具体的には、図1(B)に示されるように、シランカップリング剤含有下地層12上にポリマー層14aが形成される。
まず、本工程で使用される材料(ポリマー、ポリマー層形成用組成物など)について詳述し、その後該工程の手順について詳述する。
【0054】
(ポリマー)
本発明で使用されるポリマーは、重合性基と、めっき触媒またはその前駆体と相互作用する官能基(以後、適宜、相互作用性基と称する)を有する。
以下、ポリマーに含まれる官能基や、その特性について詳述する。
【0055】
重合性基は、エネルギー付与により、ポリマー同士、または、ポリマーと下地層との間に化学結合を形成しうる官能基である。重合性基の定義は、上記P=O基含有重合性化合物中の重合性基と同義であり、好適な態様も同じである。
【0056】
相互作用性基は、めっき触媒またはその前駆体と相互作用する官能基(配位性基、金属イオン吸着性基)であり、めっき触媒またはその前駆体と静電相互作用を形成可能な官能基、あるいは、めっき触媒またはその前駆体と配位形成可能な含窒素官能基、含硫黄官能基、含酸素官能基などを使用することができる。
相互作用性基としては、例えば、非解離性官能基(解離によりプロトンを生成しない官能基)なども挙げられる。
相互作用性基としてより具体的には、アミノ基、アミド基、イミド基、ウレア基、3級のアミノ基、アンモニウム基、アミジノ基、トリアジン環、トリアゾール環、ベンゾトリアゾール基、イミダゾール基、ベンズイミダゾール基、キノリン基、ピリジン基、ピリミジン基、ピラジン基、ナゾリン基、キノキサリン基、プリン基、トリアジン基、ピペリジン基、ピペラジン基、ピロリジン基、ピラゾール基、アニリン基、アルキルアミン構造を含む基、イソシアヌル構造を含む基、ニトロ基、ニトロソ基、アゾ基、ジアゾ基、アジド基、シアノ基、シアネート基(R−O−CN)などの含窒素官能基;エーテル基、水酸基、フェノール性水酸基、カルボキシル基、カーボネート基、カルボニル基、エステル基、N−オキシド構造を含む基、S−オキシド構造を含む基、N−ヒドロキシ構造を含む基などの含酸素官能基;チオフェン基、チオール基、チオウレア基、チオシアヌール酸基、ベンズチアゾール基、メルカプトトリアジン基、チオエーテル基、チオキシ基、スルホキシド基、スルホン基、サルファイト基、スルホキシイミン構造を含む基、スルホキシニウム塩構造を含む基、スルホン酸基、スルホン酸エステル構造を含む基などの含硫黄官能基;ホスフォート基、ホスフォロアミド基、ホスフィン基、リン酸エステル構造を含む基などの含リン官能基;塩素、臭素などのハロゲン原子を含む基などが挙げられ、塩構造をとりうる官能基においてはそれらの塩も使用することができる。
なかでも、極性が高く、めっき触媒またはその前駆体などへの吸着能が高いことから、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、およびボロン酸基などのイオン性極性基や、エーテル基、またはシアノ基が特に好ましく、カルボキシル基またはシアノ基がさらに好ましい。
相互作用性基としてのこれら官能基は、ポリマー中に2種以上が含まれていてもよい。
【0057】
なお、上記エーテル基としては、以下の式(X)で表されるポリオキシアルキレン基が好ましい。
式(X) *−(L4O)n−Rc
式(X)中、L4はアルキレン基を表し、Rcはアルキル基を表す。nは1〜30の数を表す。*は結合位置を表す。
アルキレン基としては、炭素数1〜3が好ましく、具体的には、エチレン基、プロピレン基が好ましく挙げられる。アルキル基としては、炭素数1〜10が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基が好ましく挙げられる。
nは1〜30の数を表し、好ましくは3〜23である。なお、nは平均値を表し、該数値は公知の方法(NMR)などによって測定できる。
【0058】
ポリマーの重量平均分子量は特に制限されないが、1000以上70万以下が好ましく、更に好ましくは2000以上20万以下である。特に、重合感度の観点から、20000以上であることが好ましい。
また、ポリマーの重合度は特に制限されないが、10量体以上のものを使用することが好ましく、更に好ましくは20量体以上のものである。また、7000量体以下が好ましく、3000量体以下がより好ましく、2000量体以下が更に好ましく、1000量体以下が特に好ましい。
【0059】
(好適態様1)
ポリマーの第1の好ましい態様として、下記式(a)で表される重合性基を有するユニット(以下、適宜重合性基ユニットとも称する)、及び、下記式(b)で表される相互作用性基を有するユニット(以下、適宜相互作用性基ユニットとも称する)を含む共重合体が挙げられる。なお、ユニットとは繰り返し単位を意味する。
【0060】
【化5】

【0061】
上記式(a)および式(b)中、R1〜R5は、それぞれ独立して、水素原子、または置換若しくは無置換のアルキル基を表す。
1〜R5が、置換または無置換のアルキル基である場合、無置換のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、またはブチル基が挙げられる。また、置換アルキル基としては、メトキシ基、塩素原子、臭素原子、またはフッ素原子等で置換された、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
なお、R1としては、水素原子、メチル基、または、臭素原子で置換されたメチル基が好ましい。
2としては、水素原子、メチル基、または、臭素原子で置換されたメチル基が好ましい。
3としては、水素原子が好ましい。
4としては、水素原子が好ましい。
5としては、水素原子、メチル基、または、臭素原子で置換されたメチル基が好ましい。
【0062】
上記式(a)および式(b)中、X、Y、およびZは、それぞれ独立して、単結合、または、置換若しく無置換の2価の有機基を表す。2価の有機基としては、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基(例えば、アルキレン基。好ましくは炭素数1〜8)、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基(例えば、アリーレン基。好ましくは炭素数6〜12)、−O−、−S−、−SO2−、−N(R)−(R:アルキル基)、−CO−、−NH−、−COO−、−CONH−、またはこれらを組み合わせた基(例えば、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基など)などが挙げられる。
置換または無置換の脂肪族炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、若しくはブチレン基、または、これらの基が、メトキシ基、塩素原子、臭素原子、若しくはフッ素原子等で置換されたものが好ましい。
置換または無置換の芳香族炭化水素基としては、無置換のフェニレン基、または、メトキシ基、塩素原子、臭素原子、若しくはフッ素原子等で置換されたフェニレン基が好ましい。
【0063】
X、Y、およびZとしては、単結合、エステル基(−COO−)、アミド基(−CONH−)、エーテル基(−O−)、または置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基などが好ましく挙げられ、より好ましくは単結合、エステル基(−COO−)、アミド基(−CONH−)である。
【0064】
上記式(a)および式(b)中、L1およびL2は、それぞれ独立して、単結合、または、置換若しくは無置換の2価の有機基を表す。2価の有機基の定義としては、上述したX、Y、およびZで述べた2価の有機基と同義である。
1としては、ウレタン結合またはウレア結合を有する二価の有機基が好ましく、ウレタン結合を有する二価の有機基がより好ましく、中でも、総炭素数1〜9であるものが好ましい。なお、ここで、L1の総炭素数とは、L1で表される置換若しくは無置換の二価の有機基に含まれる総炭素原子数を意味する。
1の構造として、より具体的には、下記式(1−1)、または、式(1−2)で表される構造であることが好ましい。
【0065】
【化6】

【0066】
上記式(1−1)および式(1−2)中、RaおよびRbは、それぞれ独立して、炭素原子、水素原子、および酸素原子からなる群より選択される2つ以上の原子を用いて形成される二価の有機基である。好ましくは、置換若しくは無置換の、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、若しくはブチレン基、または、エチレンオキシド基、ジエチレンオキシド基、トリエチレンオキシド基、テトラエチレンオキシド基、ジプロピレンオキシド基、トリプロピレンオキシド基、テトラプロピレンオキシド基が挙げられる。
【0067】
また、L2は、単結合、または、直鎖、分岐、若しくは環状のアルキレン基、芳香族基、またはこれらを組み合わせた基であることが好ましい。該アルキレン基と芳香族基とを組み合わせた基は、更に、エーテル基、エステル基、アミド基、ウレタン基、ウレア基を介していてもよい。中でも、L2は、単結合、または、総炭素数が1〜15であることが好ましく、特に無置換であることが好ましい。なお、ここで、L2の総炭素数とは、L2で表される置換または無置換の二価の有機基に含まれる総炭素原子数を意味する。
具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、フェニレン基、およびこれらの基が、メトキシ基、ヒドロキシ基、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等で置換されたもの、更には、これらを組み合わせた基が挙げられる。
【0068】
上記式(b)中、Wは、めっき触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を表す。該官能基の定義は、上述の通りである。
【0069】
上記式(a)で表される重合性基ユニットの好適態様としては、下記式(c)で表されるユニットが挙げられる。
【0070】
【化7】

【0071】
式(c)中、R1、R2、ZおよびL1は、式(a)で表されるユニット中の各基の定義と同じである。Aは、酸素原子、またはNR(Rは、水素原子またはアルキル基を表し、好ましくは、水素原子または炭素数1〜5の無置換のアルキル基である。)を表す。
【0072】
式(c)で表されるユニットの好適態様として、式(d)で表されるユニットが挙げられる。
【0073】
【化8】

【0074】
式(d)中、R1、R2、およびL1は、式(a)で表されるユニット中の各基の定義と同じである。AおよびTは、酸素原子、またはNR(Rは、水素原子またはアルキル基を表し、好ましくは、水素原子または炭素数1〜5の無置換のアルキル基である。)を表す。
【0075】
上記式(d)において、Tは、酸素原子であることが好ましい。
また、上記式(c)および式(d)において、L1は、無置換のアルキレン基、または、ウレタン結合若しくはウレア結合を有する二価の有機基が好ましく、ウレタン結合を有する二価の有機基がより好ましく、総炭素数1〜9であるものが特に好ましい。
【0076】
また、式(b)で表される相互作用性基ユニットの好適態様としては、下記式(e)で表されるユニットが挙げられる。
【0077】
【化9】

【0078】
上記式(e)中、R5およびL2は、式(b)で表されるユニット中の各基の定義と同じである。Qは、酸素原子、またはNR’(R’は、水素原子、またはアルキル基を表し、好ましくは、水素原子、または炭素数1〜5の無置換のアルキル基である。)を表す。
また、式(e)におけるL2は、直鎖、分岐、若しくは環状のアルキレン基、芳香族基、または、これらを組み合わせた基であることが好ましい。
特に、式(e)においては、L2中の相互作用性基との連結部位が、直鎖、分岐、若しくは環状のアルキレン基を有する二価の有機基であることが好ましく、中でも、この二価の有機基が総炭素数1〜10であることが好ましい。
また、別の好ましい態様としては、式(e)におけるL2中の相互作用性基との連結部位が、芳香族基を有する二価の有機基であることが好ましく、中でも、該二価の有機基が、総炭素数6〜15であることが好ましい。
【0079】
上記重合性基ユニットは、ポリマー中の全ユニットに対して、5〜50モル%で含まれることが好ましく、更に好ましくは5〜40モル%である。5モル%未満では反応性(硬化性、重合性)が落ちる場合があり、50モル%超では合成の際にゲル化しやすく合成しにくい。
また、上記相互作用性基ユニットは、めっき触媒またはその前駆体に対する吸着性の観点から、ポリマー中の全ユニットに対して、5〜95モル%で含まれることが好ましく、更に好ましくは10〜95モル%である。
【0080】
(好適態様2)
ポリマーの第2の好ましい態様としては、下記式(A)、式(B)、および式(C)で表されるユニットを含む共重合体が挙げられる。
【0081】
【化10】

【0082】
式(A)で表されるユニットは上記式(a)で表されるユニットと同じであり、各基の説明も同じである。
式(B)で表されるユニット中のR5、XおよびL2は、上記式(b)で表されるユニット中のR5、XおよびL2と同じであり、各基の説明も同じである。
式(B)中のWaは、後述するVで表される親水性基またはその前駆体基を除く、めっき触媒またはその前駆体と相互作用を形成する官能基を表す。
【0083】
式(C)中、R6は、それぞれ独立して、水素原子、または置換若しくは無置換のアルキル基を表す。アルキル基の定義は、上述したR1〜R5で表されるアルキル基と同義である。
式(C)中、Uは、単結合、または、置換若しく無置換の2価の有機基を表す。2価の有機基の定義は、上述したX、YおよびZで表される2価の有機基と同義である。
式(C)中、L3は、単結合、または、置換若しく無置換の2価の有機基を表す。2価の有機基の定義は、上述したL1およびL2で表される2価の有機基と同義である。
式(C)中、Vは親水性基またはその前駆体基を表す。親水性基とは親水性を示す基であれば特に限定されず、例えば、水酸基、カルボン酸基などが挙げられる。また、親水性基の前駆体基とは、所定の処理(例えば、酸またはアルカリにより処理)により親水性基を生じる基を意味し、例えば、THP(2−テトラヒドロピラニル基)で保護したカルボキシ基などが挙げられる。
親水性基としては、ポリマー層が各種水性処理液やめっき液と濡れ易くなり、本発明の効果がより発現する点で、イオン性極性基であることが好ましい。イオン性極性基としては、具体的には、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ボロン酸基が挙げられる。中でも、適度な酸性(他の官能基を分解しない)という点から、カルボン酸基が好ましい。
【0084】
特に、式(C)で表されるユニットにおいては、適度な酸性(他の官能基を分解しない)、アルカリ水溶液中では親水性を示し、水を乾燥すると環状構造により疎水性を示しやすいという点から、Vがカルボン酸基であり、且つ、L3のVとの連結部に4員〜8員の環構造を有することが好ましい。ここで、4員〜8員の環構造としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、フェニル基が挙げられ、中でも、シクロヘキシル基、フェニル基が好ましい。
また、式(C)で表されるユニットにおいては、適度な酸性(他の官能基を分解しない)、アルカリ水溶液中では親水性を示し、水を乾燥すると長鎖アルキル基構造により疎水性を示しやすいという点から、Vがカルボン酸基であり、且つ、L3の鎖長が6〜18原子であることも好ましい。ここで、L3の鎖長とは、式(C)中のUとVとの距離を表し、UとVとの間が6〜18原子の範囲で離間していることが好ましいことを意味する。L3の鎖長として、より好ましくは6〜14原子であり、更に好ましくは6〜12原子である。
【0085】
上記ポリマーの第2の好ましい態様における各ユニットの好ましい含有量は、以下の通りである。
式(A)で表されるユニットは、反応性(硬化性、重合性)および合成の際のゲル化の抑制の点から、ポリマー中の全ユニットに対して、5〜50モル%で含まれることが好ましく、更に好ましくは5〜30モル%である。
式(B)で表されるユニットは、めっき触媒またはその前駆体に対する吸着性の観点から、ポリマー中の全ユニットに対して、5〜75モル%で含まれることが好ましく、更に好ましくは10〜70モル%である。
式(C)で表されるユニットは、水溶液による現像性と耐湿密着性の点から、ポリマー中の全ユニットに対して、10〜70モル%で含まれることが好ましく、更に好ましくは20〜60モル%であり、特に好ましくは30〜50モル%である。
【0086】
なお、ポリマーの第2の好ましい態様におけるイオン性極性価(イオン性極性基がカルボン酸基の場合は酸価)としては、1.5〜7.0mmol/gが好ましく、1.7〜5.0mmol/gが更に好ましく、特に好ましくは1.9〜4.0mmol/gである。イオン性極性価がこの範囲であることで、水溶液での現像性付与と湿熱経時時の密着力低下の抑制とを両立させることができる。
【0087】
上記ポリマーの具体例としては、ラジカル重合性基と相互作用性基を有するポリマーとして、特開2009−007540号公報の段落[0106]〜[0112]に記載のポリマーが使用できる。また、ラジカル重合性基とイオン性極性基とを有するポリマーとしては、特開2006−135271号公報の段落[0065]〜[0070]に記載のポリマーが使用できる。ラジカル重合性基と、相互作用性基と、イオン性極性基とを有するポリマーとしては、US2010−080964号の段落[0030]〜[0108]に記載のポリマーが使用できる。
また、以下のようなポリマーも挙げられる。
【0088】
【化11】

【0089】
【化12】

【0090】
(ポリマーの合成方法)
上記ポリマーの合成方法は特に限定されず、使用されるモノマーも市販品または公知の合成方法を組み合わせて合成したものであってもよい。例えば、特許公開2009−7662号の段落[0120]〜[0164]に記載の方法などを参照して、上記ポリマーを合成することができる。
より具体的には、重合性基がラジカル重合性基の場合、ポリマーの合成方法としては以下の方法が好ましく挙げられる。
i)ラジカル重合性基を有するモノマー、相互作用性基を有するモノマーを共重合する方法、ii)相互作用性基を有するモノマーおよびラジカル重合性基前駆体を有するモノマーを共重合させ、次に塩基などの処理によりラジカル重合性基を導入する方法、iii)相互作用性基を有するモノマーおよびラジカル重合性基導入のための反応性基を有するモノマーを共重合させ、ラジカル重合性基を導入する方法が挙げられる。
合成適性の観点から、好ましい方法としては、上記ii)および上記iii)の方法である。合成する際の重合反応の種類は特に限定されず、ラジカル重合で行うことが好ましい。
なお、上述した式(A)、式(B)、および式(C)で表されるユニットを含む共重合体を合成する場合は、親水性基またはその前駆体基を有するモノマー、親水性基またはその前駆体基を除く相互作用性基を有するモノマーを使用して、上記i)〜iii)の方法で所望の共重合体を合成することができる。
【0091】
(ポリマー層形成用組成物)
ポリマー層形成用組成物には上記ポリマーが含有される。
ポリマー層形成用組成物中のポリマーの含有量は特に制限されないが、組成物全量に対して、2〜50質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。上記範囲内であれば、組成物の取扱い性に優れ、ポリマー層の層厚の制御がしやすい。
【0092】
ポリマー層形成用組成物には、溶媒が含まれることが好ましい。
使用できる溶媒は特に限定されず、例えば、下地層形成用組成物で使用される溶媒などが挙げられる。なかでも、水、アミド系溶剤、ケトン系溶剤、ニトリル系溶剤、カーボネート系溶剤、アルコール系溶剤が好ましく、具体的には、水、アセトン、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトニトリル、プロピオニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルカーボネート、1−メトキシ−2−プロパノール等が好ましい。
【0093】
ポリマー層形成用組成物中の溶媒の含有量は特に制限されないが、組成物全量に対して、50〜95質量%が好ましく、70〜90質量%がより好ましい。上記範囲内であれば、組成物の取扱い性に優れ、ポリマー層の層厚の制御などがしやすい。
【0094】
(シランカップリング剤)
ポリマー層形成用組成物には、必要に応じて、上記したシランカップリング剤が含まれていてもよい。シランカップリング剤が含まれることにより、下地層とポリマー層との密着性がより向上し、ポリマー層の膜物性を制御がしやすくなる。
使用されるシランカップリング剤の種類は、上述の通りであり、好適な態様も同じである。
【0095】
ポリマー層形成用組成物中にシランカップリング剤が含まれる場合、取扱い性、ポリマー層の下地層との密着性がより優れる、および、金属膜の密着性がより優れるなどの点から、ポリマー層形成用組成物中におけるシランカップリング剤とポリマーとの質量比(シランカップリング剤/ポリマー)は、1/1000〜1/5が好ましく、1/100〜1/10がより好ましい。
【0096】
(P=O基含有重合性化合物)
上述したように、下地層形成用組成物および/または後述するポリマー層形成用組成物には、上記P=O基含有重合性化合物が含まれる。
該化合物がポリマー層形成用組成物に含まれる場合、P=O基を介して下地層との間で強固な相互作用が形成する。さらに、重合性基を介して上記ポリマーと強固な共有結合を形成し、下地層とポリマー層との間の密着性を向上させる役割を果たす。
【0097】
ポリマー層形成用組成物中にP=O基含有重合性化合物が含まれる場合、取扱い性、並びに、ポリマー層の下地層に対する密着性および金属膜に対する密着性がより優れる点から、ポリマー層形成用組成物中におけるP=O基含有重合性化合物とポリマーとの質量比(P=O基含有重合性化合物/ポリマー)は、1/1000〜1/5が好ましく、1/100〜1/10がより好ましい。
【0098】
(工程(2)の手順)
下地層にポリマー層形成用組成物を接触させる方法は特に限定されず、ポリマー層形成用組成物中に基板を浸漬する方法や、ポリマー層形成用組成物を下地層上に塗布する方法などが挙げられる。得られるポリマー層の厚みを制御しやすい点から、組成物を基板上に塗布する方法が好ましい。
塗布の方法としては、上記工程(1)で述べた塗布方法を使用できる。
【0099】
ポリマー層形成用組成物を下地層と接触させる場合、その塗布量は、後述するめっき触媒またはその前駆体との充分な相互作用形成性の観点から、固形分換算で0.1〜10g/m2が好ましく、特に0.5〜5g/m2が好ましい。
なお、本工程においてポリマー層を形成するに際しては、塗布と乾燥との間に、20〜40℃で0.5時間〜2時間放置させて、残存する溶媒を除去してもよい。
【0100】
本工程におけるエネルギー付与方法としては、例えば、加熱や露光等の輻射線照射を用いることができる。例えば、UVランプ、可視光線などによる光照射、ホットプレートなどでの加熱等が可能である。
露光を行う場合の光源としては、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、カーボンアーク灯、LED灯などがある。放射線としては、電子線、X線、イオンビーム、遠赤外線などがある。また、g線、i線、Deep−UV光、高密度エネルギービーム(レーザービーム)も使用される。
加熱を行う場合、例えば、一般の熱ヒートローラー、ラミネーター、ホットスタンプ、電熱板、サーマルヘッド、レーザー、送風乾燥機、オーブン、ホットプレート、赤外線乾燥機、加熱ドラム等を用いることができる。
エネルギー付与に要する時間としては、光源により異なるが、通常、10秒〜5時間の間である。
また、これらのエネルギー付与方法を組み合わせて付与してもよい。例えば、露光と加熱を組み合わせてもよい。
【0101】
なお、エネルギーの付与を露光にて行う場合、その露光パワーは、グラフト重合を容易に進行させるため、また、生成されたグラフトポリマーの分解を抑制するため、10〜8000mJ/cm2の範囲であることが好ましく、100〜3000mJ/cm2の範囲であることがより好ましい。
また、窒素、ヘリウム、二酸化炭素等の不活性ガスによる置換を行い、酸素濃度を600ppm以下、好ましくは400ppm以下に抑制した雰囲気中で照射してもよい。
さらに、必要に応じて、パターン状にエネルギー付与を行ってもよい。
【0102】
さらに、エネルギー付与後に、適宜、エネルギー付与後の組成物から未反応のポリマーを除去してもよい。除去方法としては、溶媒を使用する方法が挙げられ、例えば、ポリマーを溶解する溶剤や、アルカリ可溶性のポリマーの場合はアルカリ系現像液(炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液)などで除去することができる。
【0103】
(ポリマー層)
得られるポリマー層の厚みは特に制限されないが、金属膜の基板への密着性の点から、0.01〜10μmが好ましく、0.05〜5μmがより好ましい。
また、乾燥膜厚で0.05〜20g/m2が好ましく、特に0.1〜6g/m2が好ましい。
さらに、ポリマー層の表面粗さ(Ra)は、配線形状および密着強度の点から、0.01〜0.3μmが好ましく、0.02〜0.15μmがより好ましい。なお、表面粗さ(Ra)は、非接触式干渉法により、JIS B 0601(20010120改訂)に記載のRaに基づき、サーフコム3000A(東京精密(株)製)を用いて測定した。
【0104】
なお、ポリマー層中におけるポリマーの含有量は、ポリマー層全量に対して、2質量%〜100質量%であることが好ましく、更に好ましくは10質量%〜100質量%の範囲である。
【0105】
<工程(3):触媒付与工程>
工程(3)は、工程(2)で得られたポリマー層にめっき触媒またはその前駆体を付与する工程である。本工程においては、ポリマー層中の相互作用性基が、その機能に応じて、付与されためっき触媒またはその前駆体を付着(吸着)する。より具体的には、図1(C)に示されるように、めっき触媒またはその前駆体を付与されたポリマー層14bが形成される。
ここで、めっき触媒またはその前駆体としては、後述する工程(4)における、めっき処理の触媒や電極として機能するものが挙げられる。そのため、めっき触媒またはその前駆体は、工程(4)におけるめっき処理の種類により決定されるが、無電解めっき触媒またはその前駆体であることが好ましい。
まず、本工程で使用される材料(無電解めっき触媒またはその前駆体など)について詳述し、その後該工程の手順について詳述する。
【0106】
(無電解めっき触媒)
本工程において用いられる無電解めっき触媒は、無電解めっき時の活性核となるものであれば、如何なるものも用いることができ、具体的には、自己触媒還元反応の触媒能を有する金属(Niよりイオン化傾向の低い無電解めっきできる金属として知られるもの)などが挙げられる。具体的には、Pd、Ag、Cu、Ni、Pt、Au、Coなどが挙げられる。中でも、触媒能の高さから、Ag、Pd、Pt、Cuが特に好ましい。
この無電解めっき触媒としては、金属コロイドを用いてもよい。一般に、金属コロイドは、荷電を持った界面活性剤または荷電を持った保護剤が存在する溶液中において、金属イオンを還元することにより作製することができる。金属コロイドの荷電は、ここで使用される界面活性剤または保護剤により調節することができる。
【0107】
(無電解めっき触媒前駆体)
本工程において用いられる無電解めっき触媒前駆体とは、化学反応により無電解めっき触媒となりうるものであれば、特に制限なく使用することができる。主には、上記無電解めっき触媒として挙げた金属の金属イオンが用いられる。無電解めっき触媒前駆体である金属イオンは、還元反応により無電解めっき触媒である0価金属になる。無電解めっき触媒前駆体である金属イオンはポリマー層へ付与された後、無電解めっき浴への浸漬前に、別途還元反応により0価金属に変化させて無電解めっき触媒としてもよい。また、無電解めっき触媒前駆体のまま無電解めっき浴に浸漬し、無電解めっき浴中の還元剤により金属(無電解めっき触媒)に変化させてもよい。
【0108】
無電解めっき触媒前駆体である金属イオンは、金属塩を用いてポリマー層に付与することが好ましい。使用される金属塩としては、適切な溶媒に溶解して金属イオンと塩基(陰イオン)とに解離されるものであれば特に制限はなく、M(NO3)n、MCln、M2/n(SO4)、M3/n(PO4)(Mは、n価の金属原子を表す)などが挙げられる。金属イオンとしては、上記の金属塩が解離したものを好適に用いることができる。例えば、Agイオン、Cuイオン、Niイオン、Coイオン、Ptイオン、Pdイオンが挙げられる。中でも、多座配位可能なものが好ましく、特に、配位可能な官能基の種類数および触媒能の点で、Agイオン、Pdイオン、Cuイオンが好ましい。
【0109】
本発明で用いられる無電解めっき触媒またはその前駆体の好ましい例の一つとして、パラジウム化合物が挙げられる。このパラジウム化合物は、めっき処理時に活性核となり金属を析出させる役割を果たす、めっき触媒(パラジウム)またはその前駆体(パラジウムイオン)として作用する。パラジウム化合物としては、パラジウムを含み、めっき処理の際に核として作用すれば、特に限定されないが、例えば、パラジウム(II)塩、パラジウム(0)錯体、パラジウムコロイドなどが挙げられる。
【0110】
また、無電解めっき触媒またはその前駆体としては、銀、または銀イオンが好ましい別の例として挙げられる。
銀イオンを用いる場合、以下に示すような銀化合物が解離したものを好適に用いることができる。銀化合物の具体例としては、硝酸銀、酢酸銀、硫酸銀、炭酸銀、シアン化銀、チオシアン酸銀、塩化銀、臭化銀、クロム酸銀、クロラニル酸銀、サリチル酸銀、ジエチルジチオカルバミン酸銀、ジエチルジチオカルバミド酸銀、p−トルエンスルホン酸銀が挙げられる。この中でも、水溶性の観点から硝酸銀が好ましい。
【0111】
(その他の触媒)
本発明において、ポリマー層に対して無電解めっきを行わず直接電気めっきを行うために用いられる触媒としては、0価金属を使用することができる。この0価金属としては、Pd、Ag、Cu、Ni、Pt、Au、Coなどが挙げられ、中でも、多座配位可能なものが好ましく、特に、相互作用性基に対する吸着(付着)性、触媒能の高さから、Pd、Ag、Cuが好ましい。
【0112】
(水や有機溶媒)
上記のようなめっき触媒またはその前駆体は、分散液または溶液(めっき触媒液)としてポリマー層に付与されることが好ましい。
めっき触媒液の溶媒としては、水や有機溶媒が用いられる。有機溶媒を含有することで、ポリマー層に対するめっき触媒またはその前駆体の浸透性が向上し、相互作用性基に効率よくめっき触媒またはその前駆体を吸着させることができる。
【0113】
めっき触媒液に使用される水としては、不純物を含まないことが好ましく、そのような観点からは、RO水や脱イオン水、蒸留水、精製水などを用いるのが好ましく、脱イオン水や蒸留水を用いるのが特に好ましい。
【0114】
めっき触媒液に使用される有機溶媒としては、ポリマー層に浸透しうる溶媒であれば特に制限は無い。例えば、アセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、エチレングリコールジアセテート、シクロヘキサノン、アセチルアセトン、アセトフェノン、2−(1−シクロヘキセニル)シクロヘキサノン、プロピレングリコールジアセテート、トリアセチン、ジエチレングリコールジアセテート、ジオキサン、N−メチルピロリドン、ジメチルカーボネート、ジメチルセロソルブなどを用いることができる。
特に、めっき触媒またはその前駆体との相溶性、およびポリマー層への浸透性の観点では水溶性の有機溶剤が好ましく、アセトン、ジメチルカーボネート、ジメチルセロソルブ、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルが好ましい。
【0115】
更に、分散液や溶液には、目的に応じて他の添加剤を含有することができる。他の添加剤としては、例えば、膨潤剤や、界面活性剤などが挙げられる。
【0116】
(工程(3)の手順)
めっき触媒またはその前駆体をポリマー層に付与する方法は、特に制限されない。
例えば、金属を適当な分散媒に分散した分散液、または、金属塩を適切な溶媒で溶解し、解離した金属イオンを含む溶液を調製し、その分散液若しくは溶液(めっき触媒液)をポリマー層上に塗布する方法、または、その分散液若しくは溶液中にポリマー層が形成された基板を浸漬する方法などが挙げられる。
ポリマー層とめっき触媒液の接触時間としては、30秒〜24時間程度であることが好ましく、1分〜1時間程度であることがより好ましい。
接触時のめっき触媒液の温度は、5〜80℃程度であることが好ましく、15〜60℃程度であることがより好ましい。
【0117】
上記のようにめっき触媒またはその前駆体を接触させることで、ポリマー層中の相互作用性基に、ファンデルワールス力のような分子間力による相互作用、イオン結合のような静電的相互作用、または、孤立電子対による配位結合による相互作用を利用して、めっき触媒またはその前駆体を吸着させることができる。
このような吸着を充分に行なわせるという観点からは、めっき触媒液中の金属濃度または金属イオン濃度は、0.001〜50質量%の範囲であることが好ましく、0.005〜30質量%の範囲であることがより好ましい。
【0118】
<工程(4):めっき工程>
工程(4)は、工程(3)でめっき触媒またはその前駆体が付与されたポリマー層に対してめっきを行い、ポリマー層上に金属膜を形成する工程である。該工程により形成された金属膜は、優れた導電性、密着性を有する。より具体的には、図1(D)に示すように、ポリマー層14b上に金属膜16が形成され、積層体18が得られる。
本工程において行われるめっき処理の種類は、無電解めっき、電気めっき等が挙げられ、上記工程(3)において、ポリマー層との間に相互作用を形成しためっき触媒またはその前駆体の機能によって、選択することができる。
中でも、ポリマー層中に発現するハイブリッド構造の形成性および密着性向上の点から、無電解めっきを行うことが好ましい。また、所望の膜厚の金属膜16を得るために、無電解めっきの後に、更に電気めっきを行うことがより好ましい態様である。
以下、本工程において好適に行われるめっきについて説明する。
【0119】
(無電解めっき)
無電解めっきとは、めっきとして析出させたい金属イオンを溶かした溶液を用いて、化学反応によって金属を析出させる操作のことをいう。
本工程における無電解めっきは、例えば、無電解めっき触媒が付与された基板を、水洗して余分な無電解めっき触媒(金属)を除去した後、無電解めっき浴に浸漬して行う。使用される無電解めっき浴としては、公知の無電解めっき浴を使用することができる。
また、無電解めっき触媒前駆体が付与された基板を、無電解めっき触媒前駆体がポリマー層に吸着または含浸した状態で無電解めっき浴に浸漬する場合には、基板を水洗して余分な前駆体(金属塩など)を除去した後、無電解めっき浴中へ浸漬させる。この場合には、無電解めっき浴中において、めっき触媒前駆体の還元とこれに引き続き無電解めっきが行われる。ここで使用される無電解めっき浴としても、上記同様、公知の無電解めっき浴を使用することができる。
【0120】
なお、無電解めっき触媒前駆体の還元は、上記のような無電解めっき液を用いる態様とは別に、触媒活性化液(還元液)を準備し、無電解めっき前の別工程として行うことも可能である。触媒活性化液は、無電解めっき触媒前駆体(主に金属イオン)を0価金属に還元できる還元剤を溶解した液で、液全体に対する該還元剤の濃度が0.1〜50質量%が好ましく、1〜30質量%がより好ましい。還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボランのようなホウ素系還元剤、ホルムアルデヒド、次亜リン酸などの還元剤を使用することが可能である。
浸漬の際には、無電解めっき触媒またはその前駆体が接触するポリマー層表面付近の無電解めっき触媒またはその前駆体の濃度を一定に保つ上で、攪拌または揺動を加えながら浸漬することが好ましい。
【0121】
一般的な無電解めっき浴の組成としては、溶剤(例えば、水)の他に、1.めっき用の金属イオン、2.還元剤、3.金属イオンの安定性を向上させる添加剤(安定剤)が主に含まれている。このめっき浴には、これらに加えて、めっき浴の安定剤など公知の添加物が含まれていてもよい。
【0122】
めっき浴に用いられる有機溶剤としては、水に可能な溶媒である必要があり、その点から、アセトンなどのケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類が好ましく用いられる。
【0123】
無電解めっき浴に用いられる金属の種類としては、銅、すず、鉛、ニッケル、金、銀、パラジウム、ロジウムが知られており、中でも、導電性の観点からは、銅、金が特に好ましい。また、上記金属に合わせて最適な還元剤、添加物が選択される。
【0124】
このようにして形成される無電解めっきによる金属膜の膜厚は、めっき浴の金属イオン濃度、めっき浴への浸漬時間、または、めっき浴の温度などにより制御することができるが、導電性の観点からは、0.1μm以上であることが好ましく、0.2〜2μmであることがより好ましい。
ただし、無電解めっきによる金属膜を導通層として、後述する電気めっきを行う場合は、少なくとも0.1μm以上の膜が均一に付与されていることが好ましい。
また、めっき浴への浸漬時間としては、1分〜6時間程度であることが好ましく、1分〜3時間程度であることがより好ましい。
【0125】
以上のようにして得られた無電解めっきによる金属膜は、走査型電子顕微鏡(SEM)による断面観察により、ポリマー層中にめっき触媒やめっき金属からなる微粒子が高密度で分散していること、また更にポリマー層上にめっき金属が析出していることが確認される。ポリマー層と金属膜との界面は、樹脂複合体と微粒子とのハイブリッド状態であるため、ポリマー層と金属膜との界面が平滑であっても、密着性が良好となる。
【0126】
(電気めっき)
本工程おいては、上記工程(3)において付与されためっき触媒またはその前駆体が電極としての機能を有する場合、その触媒またはその前駆体が付与されたポリマー層に対して、電気めっきを行うことができる。
また、前述の無電解めっきの後、形成された金属膜を電極とし、更に、電気めっきを行ってもよい。これにより基板との密着性に優れた無電解めっき膜をベースとして、そこに新たに任意の厚みをもつ金属膜を容易に形成することができる。このように、無電解めっきの後に、電気めっきを行うことで、金属膜を目的に応じた厚みに形成しうるため、金属膜を種々の応用に適用するのに好適である。
【0127】
電気めっきの方法としては、従来公知の方法を用いることができる。なお、電気めっきに用いられる金属としては、銅、クロム、鉛、ニッケル、金、銀、すず、亜鉛などが挙げられ、導電性の観点から、銅、金、銀が好ましく、銅がより好ましい。
【0128】
また、電気めっきにより得られる金属膜の膜厚は、めっき浴中に含まれる金属濃度、または、電流密度などを調整することで制御することができる。
なお、一般的な電気配線などに適用する場合、金属膜の膜厚は、導電性の観点から、0.5μm以上であることが好ましく、1〜30μmがより好ましい。
なお、電気配線の厚みは、電気配線の線幅が狭くなる、すなわち微細化するほどアスペクト比を維持するために薄くなる。従って、電気めっきによって形成される金属膜の層厚は、上記に限定されず、任意に設定できる。
【0129】
<積層体>
上記工程(1)〜(4)を経ることにより、図1(D)に示すように、基板10と、シランカップリング剤含有下地層12と、ポリマー層14bと、金属膜16とをこの順で備える積層体18(金属膜付き積層体)を得ることができる。
得られた積層体18は、例えば、金属配線基板用に使用され、より具体的には、プリント配線板、電磁波防止膜、コーティング膜、2層CCL(Copper Clad Laminate)材料、電気配線用材料等の種々の電子デバイス用途に適用することができる。
【0130】
<任意工程:加熱工程>
上記めっき工程後に、必要に応じて、金属膜を有する積層体に対して加熱処理を行ってもよい(加熱工程)。めっき処理後に加熱処理を行うことにより、めっき工程で形成された金属膜(めっき膜)の密着性がより向上する場合がある。
なお、めっき工程で無電解めっき処理と電気めっき処理とを実施する場合、無電解めっき処理の後に該加熱工程を実施し、電気めっき処理の後に該加熱処理を行ってもよい。
【0131】
加熱工程における加熱条件は使用されるポリマーや金属膜の材料により異なるが、金属膜の密着性をより向上させる点で、加熱温度は80〜200℃が好ましく、100〜140℃がより好ましい。
また、加熱時間は、生産性および密着性向上の点から、5分〜2時間が好ましく、30分〜1時間がより好ましい。
なお、本加熱工程においては、条件の異なる加熱処理を2回以上連続して行ってもよい。
【0132】
<金属パターン材料、およびその製造方法(その1)>
図1(E)に示すように、上記の積層体18表面の金属膜16を、パターン状にエッチングするパターン形成工程を行うことで、パターン状金属膜20を表面に備える金属パターン材料を製造してもよい。
このパターン形成工程について以下に詳述する。
【0133】
(パターン形成工程)
該工程は、上記めっき工程で金属膜をパターン状にエッチングして、パターン状金属膜を形成する工程である。より具体的には、図1(E)に示すように、本工程においては、金属膜16の不要部を除去することにより、パターン状金属膜20がポリマー層14b上に形成される。
このパターンの形成には、如何なる手法も使用することができ、具体的には一般的に知られているサブトラクティブ法(金属膜上にパターン状のマスクを設け、マスクの非形成領域をエッチング処理した後、マスクを除去して、パターン状金属膜を形成する方法)、セミアディティブ法(金属膜上にパターン状のマスクを設け、マスクの非形成領域に金属膜を形成するようにめっき処理を行い、マスクを除去し、エッチング処理して、パターン状金属膜を形成する方法)が用いられる。
【0134】
図2にサブトラクティブ法を用いたパターン形成工程の態様を示す。
まず、上記工程(4)のめっき工程を行うことにより、図2(A)に示す、基板10と、シランカップリング剤含有下地層12と、ポリマー層14bと、金属膜16とを備える積層体18を用意する。図2(A)においては、基板10の片面に金属膜16が設けられているが、両面にあってもよい。
次に、図2(B)に示すように、パターン状のマスク22を金属膜16上に設ける。
その後、図2(C)に示すように、マスク22が設けられていない領域の金属膜16を、エッチング処理(例えば、ドライエッチング、ウェットエッチング)により除去して、パターン状金属膜20を得る。最後に、マスク22を取り除き、金属パターン材料24を得る。
【0135】
マスク22の作製には、公知のレジスト材料を使用することができる。例えば、金属膜上にレジスト層を設けパターン露光、現像により、パターン状金属膜と同じパターンのマスクを形成することができる。レジスト材料としては如何なる材料も使用でき、ネガ型、ポジ型、液状、フィルム状のものが使用できる。
また、エッチング方法としては、公知の方法が何れも使用可能であり、湿式エッチング、ドライエッチング等が使用可能であり、任意に選択すればよい。作業の操作上、湿式エッチングが装置などの簡便性の点で好ましい。エッチング液として、例えば、塩化第二銅、塩化第二鉄等の水溶液を使用することができる。
【0136】
図3にセミアディティブ法を用いたパターン形成工程の態様を示す。
まず、図3(A)に示す、基板10と、シランカップリング剤含有下地層12と、ポリマー層14bと、金属膜16とを備える積層体18を用意する。
次に、図3(B)に示すように、パターン状のマスク22を金属膜16上に設ける。
次に、めっき処理(例えば、電気めっき)を行い、図3(C)に示すように、マスク22が設けられていない領域に金属膜を形成させ、凸部と凹部とを有する金属膜16bを得る。
その後、図3(D)に示すように、マスク22を取り除き、エッチング処理(例えば、ドライエッチング、ウェットエッチング)により金属膜(特に、凹部)の除去を行い、図3(E)に示すようにパターン状金属膜20を備える金属パターン材料24を得る。
レジスト、エッチング液等はサブトラクティブ法と同様な材料が使用できる。また、電気めっき法としては上記記載の手法が使用できる。
【0137】
なお、金属膜の除去と同時に、公知の手段(例えば、ドライエッチング、プラズマアッシング)などによって、シランカップリング剤含有下地層12およびポリマー層14bも合わせて除去してもよい。
【0138】
(用途)
得られた金属パターン材料は、様々な分野において使用することができ、例えば、電気・電子・通信、農林水産、鉱業、建設、食品、繊維、衣類、医療、石炭、石油、ゴム、皮革、自動車、精密機器、木材、建材、土木、家具、印刷、楽器等の幅広い産業分野に使用することができる。
より具体的には、プリンター、パソコン、ワープロ、キーボード、PDA(小型情報端末機)、電話機、複写機、ファクシミリ、ECR(電子式金銭登録機)、電卓、電子手帳、カード、ホルダー、文具等の事務機器、OA機器、洗濯機、冷蔵庫、掃除機、電子レンジ、照明器具、ゲーム機、アイロン、コタツ等の家電機器、TV、VTR、ビデオカメラ、ラジカセ、テープレコーダー、ミニディスク、CDプレーヤー、スピーカー、液晶ディスプレー等のAV機器、コネクター、リレー、コンデンサー、スイッチ、プリント基板、コイルボビン、半導体封止材料、LED封止材料、電線、ケーブル、トランス、偏向ヨーク、分電盤、半導体チップ、配線基板、FPC、COF、TAB、2層CCL(Copper Clad Laminate)材料、電気配線用材料、多層配線基板、マザーボード、アンテナ、電磁波防止膜、時計等の電気・電子部品、および、通信機器等の用途に用いられる。
なお、金属パターン材料を配線基板として使用する場合、金属パターン材料の表面に、さらに絶縁樹脂層(層間絶縁膜)を積層して、その表面にさらなる配線(金属パターン)を形成してもよく、または、金属パターン材料表面にソルダーレジストを形成してもよい。
【0139】
<金属パターン材料の製造方法(その2)>
表面にパターン状金属膜を有する金属パターン材料の製造方法の他の態様として、パターン状のポリマー層を利用する方法が挙げられる。
【0140】
具体的には、まず、図4(A)に示すように、上述した工程(2)において、パターン状にエネルギー付与(例えば、露光)を行い、続いて現像処理を行うことにより、基板10上にシランカップリング剤含有下地層12とパターン状のポリマー層14cを形成する。なお、パターン状にエネルギー付与を行う際には、必要に応じて、所定のマスクを使用してもよい。また、現像処理の方法は特に限定されず、公知の現像液(例えば、重曹水、アルカリ水溶液(例、水酸化ナトリウム水溶液))を使用する方法などが挙げられる。
その後、図4(B)に示すように、ポリマー層14cに対して、上記工程(3)で説明した触媒付与工程を実施し、めっき触媒またはその前駆体が付与されたパターン状のポリマー層14dを得る。
最後に、ポリマー層14dに対して、上記工程(4)で説明しためっき工程を実施することにより、図4(C)に示すように、パターン状金属膜20をポリマー層14d上に形成させる。
【0141】
<金属パターン材料の製造方法(その3)>
表面にパターン状金属膜を有する金属パターン材料の製造方法の他の態様として、以下の方法により金属パターン材料を得ることができる。具体的には、上記工程(1)の後、シランカップリング剤含有下地層にパターン状にエネルギー付与(例えば、露光)を行い、その後、工程(2)を実施して、ポリマー層の現像処理を行うことにより、シランカップリング剤含有下地層上のエネルギー付与がされなかった領域のみにパターン状のポリマー層を得ることができる。該ポリマー層に対して工程(3)および(4)を実施することにより、金属パターン材料が得られる。
なお、この方法は、下地層形成用組成物中にP=O基含有重合性化合物が含まれる場合や、シランカップリング剤中の反応性基がラジカル重合性基などエネルギー付与により失活する場合に有用である。
【0142】
具体的には、まず、図5(A)に示すように、上述した工程(1)を経ることにより、基板10上にシランカップリング剤含有下地層12を形成する。
次に、シランカップリング剤含有下地層12に対して、パターン状にエネルギー付与(例えば、露光)を行う。より具体的には、図5(B)に示すように、所定のパターンのマスク30をシランカップリング剤含有下地層12上に設けて、該マスク30を介して露光処理を行う方法が挙げられる。
次に、図5(C)に示すように、上述した工程(2)を経ることにより、シランカップリング剤含有下地層12上にポリマー層14aを作製する。
【0143】
次に、ポリマー層14aに対して現像処理を行うと、図4(D)に示すように、シランカップリング剤含有下地層12のマスク30によって露光がされていない未露光領域のみにパターン状のポリマー層14cが得られる。露光領域においては、シランカップリング剤含有下地層12中のP=O基含有重合性化合物の重合性基が反応して消失する、または、シランカップリング剤含有下地層12中の反応性基(例えば、ラジカル重合性基)が失活するため、工程(2)を実施してもシランカップリング剤含有下地層12とポリマー層14aとの間で化学結合が生成されない。そのため、シランカップリング剤含有下地層12の露光領域上のポリマー層と、未露光領域上のポリマー層との間で現像処理に対する耐性が異なり、シランカップリング剤含有下地層12の未露光領域に選択的にポリマー層14cを形成することができる。
なお、現像処理の方法は特に限定されず、公知の現像液(例えば、重曹水、アルカリ水溶液(例、水酸化ナトリウム水溶液))を使用する方法などが挙げられる。
【0144】
その後、図5(E)に示すように、ポリマー層14cに対して、上記工程(3)で説明した触媒付与工程を実施し、めっき触媒またはその前駆体が付与されたパターン状のポリマー層14dを得る。
最後に、ポリマー層14dに対して、上記工程(4)で説明しためっき工程を実施することにより、図5(F)に示すように、パターン状金属膜20をポリマー層14d上に形成させる。
【実施例】
【0145】
以下、実施例により、本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0146】
以下に、本実施例で使用するポリマーの合成方法について詳述する。
(合成例1:ポリマーA)
2Lの三口フラスコに酢酸エチル1L、2−アミノエタノール159gを入れ、氷浴にて冷却をした。そこへ、2−ブロモイソ酪酸ブロミド150gを内温20℃以下になるように調節して滴下した。その後、内温を室温(25℃)まで上昇させて2時間反応させた。反応終了後、蒸留水300mLを追加して反応を停止させた。その後、酢酸エチル層を蒸留水300mLで4回洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、さらに酢酸エチルを留去することで原料Aを80g得た。
次に、500mLの三口フラスコに、原料A47.4g、ピリジン22g、酢酸エチル150mLを入れて氷浴にて冷却した。そこへ、アクリル酸クロライド25gを内温20℃以下になるように調節して滴下した。その後、室温に上げて3時間反応させた。反応終了後、蒸留水300mLを追加し、反応を停止させた。その後、酢酸エチル層を蒸留水300mLで4回洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、さらに酢酸エチルを留去した。その後、カラムクロマトグラフィーにて、以下のモノマーMを精製し20g得た。
【0147】
【化13】

【0148】
500mLの三口フラスコに、N,N−ジメチルアセトアミド8gを入れ、窒素気流下、65℃まで加熱した。そこへ、モノマーM:14.3g、アクリロニトリル(東京化成工業(株)製)3.0g、アクリル酸(東京化成製)6.5g、V−65(和光純薬製)0.4gを含むN,N−ジメチルアセトアミド8g溶液を、4時間かけて滴下した。
滴下終了後、更に反応溶液を3時間撹拌した。その後、N,N−ジメチルアセトアミド41gを追加し、室温まで反応溶液を冷却した。上記の反応溶液に、4−ヒドロキシTEMPO(東京化成製)0.09g、DBU54.8gを加え、室温で12時間反応を行った。その後、反応液に70質量%メタンスルホン酸水溶液54g加えた。反応終了後、水で再沈を行い、固形物を取り出し、ポリマーA(重量平均分子量3.7万)(Mw/Mn=1.8)を12g得た。得られたポリマーAの酸価を、電位差自動滴定装置(京都電子工業(株)製)、および滴定液として0.1M水酸化ナトリウム水溶液を用いて測定したところ、このポリマーAの酸価は3.9mmol/gであった。
【0149】
得られたポリマーAの同定をIR測定機((株)堀場製作所製)を用いて行った。測定はポリマーをアセトンに溶解させKBr結晶を用いて行った。IR測定の結果、2240cm-1付近にピークが観測されシアノユニットであるアクリロニトリルがポリマーに導入されている事が分かった。また、酸価測定によりカルボン酸ユニットとしてアクリル酸が導入されていることが分かった。また、重DMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解させ、ブルカー製300MHzのNMR(AV−300)にて測定を行った。シアノ基含有ユニットに相当するピークが2.5−0.7ppm(5H分)にブロードに観察され、重合性基含有ユニットに相当するピークが7.8−8.1ppm(1H分)、5.8−5.6ppm(1H分)、5.4−5.2ppm(1H分)、4.2−3.9ppm(2H分)、3.3−3.5ppm(2H分)、2.5−0.7ppm(6H分)にブロードに観察され、カルボン酸含有ユニットに相当するピークが2.5−0.7ppm(3H分)にブロードに観察され、重合性基含有ユニット:シアノ基含有ユニット:カルボン酸基ユニット=29:30:41(mol%)であることが分かった。
【0150】
【化14】

【0151】
(合成例2:ポリマーB)
1000mlの三口フラスコに、N−メチルピロリドン35gを入れ、窒素気流下、75℃まで加熱した。そこへ、2−ヒドロキシエチルアクリレート(市販品、東京化成製)6.60g、2−シアノエチルアクリレート28.4g、およびV−601(和光純薬製)0.65gを含むN−メチルピロリドン35g溶液を、2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、反応溶液を80℃まで加熱し、更に3時間撹拌した。その後、室温まで、反応溶液を冷却した。
上記の反応溶液に、ジターシャリーブチルハイドロキノン0.29g、ジブチルチンジラウレート0.29g、カレンズAOI(昭和電工(株)製)18.56g、およびN−メチルピロリドン19gを加え、55℃、6時間反応を行った。その後、反応液にメタノールを3.6g加え、更に1.5時間反応を行った。反応終了後、水で再沈を行い、固形物を取り出し、ポリマーBを25g得た。
【0152】
(構造の同定)
ポリマーBを重DMSOに溶解させ、ブルカー製300MHzのNMR(AV−300)にて測定を行った。シアノ基含有ユニットに相当するピークが4.3−4.05ppm(2H分)、2.9−2.8ppm(2H分)、2.5−1.3ppm(3H分)にブロードに観察され、重合性基含有ユニットに相当するピークが7.2−7.3ppm(1H分)、6.4−6.3ppm(1H分)、6.2−6.1ppm(1H分)、6.0−5.9ppm(1H分)、4.3−4.05ppm(6H分)、3.3−3.2ppm(2H分)、2.5−1.3ppm(3H分)にブロードに観察され、重合性基含有ユニット:シアノ基含有ユニット=20:80(mol%)であることが分かった。
【0153】
(分子量の測定)
ポリマーBを、THFに溶解させ、東ソー製高速GPC(HLC−8220GPC)を用いて分子量の測定を行った。その結果、23.75分にピークが現れ、ポリスチレン換算でMw=60000(Mw/Mn=1.9)であることが分かった。
なお、以下のポリマーBの化学式中の数値は、各ユニットのモル%を表す。
【0154】
【化15】

【0155】
<実施例1>
〔シランカップリング剤含有下地層の作製〕
ガラス基板(コーニング社 イーグル2000 (50mm×50mm×0.7mm))上に、3−(アクリルオキシ)プロピルトリメトキシシラン(KBM−5103)とKAYAMER PM−21(日本化薬社製)とを含む下地層形成用組成物X1をスピンコート法により塗布して、110℃で5分間乾燥した。その後、基板をイソプロピルアルコールで洗浄した後、さらに水で洗浄し、エアー乾燥し、シランカップリング剤含有下地層を得た。
なお、3−(アクリルオキシ)プロピルトリメトキシシランとKAYAMER PM−21との質量比は1:0.25であった。また、下地層形成用組成物X1には溶媒としてシクロペンタノンが含まれ、その含有量は組成物全量に対して94質量%であった。
【0156】
ガラス基板の表面水接触角と、上記処理後のガラス基板の表面水接触角とを測定した所、それぞれ3°、25°と測定され、上記処理によりガラス基板上にシランカップリング剤含有下地層が形成されたことが確認された。
【0157】
[ポリマー層の形成]
その後、ポリマーAと3−(アクリルオキシ)プロピルトリメトキシシランとを含むポリマー層形成用組成物Y1をスピンコート法によりシランカップリング剤含有下地層を備える基板上に塗布し、80℃で5分間乾燥した。その後、254nmでUV露光(露光量:12000mJ/cm2)を基板全面に行い、1%重曹水で洗浄した。
これにより、基板上のシランカップリング剤含有下地層と直接結合したポリマー層(厚み:1μm)を得た。
なお、3−(アクリルオキシ)プロピルトリメトキシシランの含有割合は、ポリマーAの全質量に対して、5.7質量%であった。また、ポリマー層形成用組成物Y1には溶媒として水と1−メトキシ−2−プロパノールの混合物(混合質量比率(水/1−メトキシ−2−プロパノール)=2/8)が含まれ、その含有量は組成物全量に対して92.6質量%であった。
【0158】
[触媒の付与]
1質量%硝酸銀水溶液を用意し、これをめっき触媒液とした。
該めっき触媒液に、ポリマー層を有する基板を5分間浸漬した後、純水で洗浄した。
【0159】
〔めっき処理および加熱処理〕
次に、触媒が付与されたポリマー層に対して、無電解銅めっきを行った。無電解めっきはスルカップPGT(上村工業製)を使用した下記組成の無電解めっき浴を用い、浴温度30℃にてポリマー層を浸漬させ、めっき析出厚みが0.5μmとなるように銅めっき膜(金属膜)を形成した。
無電解めっき液の調液順序および原料は以下の通りである。
蒸留水 約60容量%
PGT−A 9.0容量%
PGT−B 6.0容量%
PGT−C 3.5容量%
ホルマリン液* 2.3容量%
最後に、全量が100容量%となるように蒸留水にて液面調整した。
*ここで用いたホルマリンは、和光純薬のホルムアルデヒド液(特級)である。
【0160】
次に、得られた基板に対して、100℃で30分間加熱処理を施した後、さらに140℃で30分間加熱処理を施した。加熱処理後、1質量%硫酸水溶液を用いて金属膜表面を脱脂した。
【0161】
次に、上記で得られた金属層を給電層として、以下の組成の電解銅めっき浴を用いて銅厚が12μmとなるように電解銅めっき(3A/dm2:30分間)を施し、金属膜を有する積層体を得た。
(電解銅めっき浴の組成)
・水 1000重量部
・硫酸銅5水和物 110重量部
・98%硫酸 270重量部
・35%塩酸 0.2重量部
・メルテックス製、カパーグリーム ST−901M 30重量部
【0162】
次に、得られた基板に対して、100℃で30分間加熱処理を施した。
【0163】
<実施例2>
下地層形成用組成物X1の代わりに、下記組成の下地層形成用組成物X2を使用し、ポリマー層形成用組成物Y1の代わりに、下記組成のポリマー層形成用組成物Y2を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、積層体を得た。
【0164】
(下地層形成用組成物X2)
・3−(アクリルオキシ)プロピルトリメトキシシラン 4.8質量%
・シクロペンタノン 95.2質量%
(ポリマー層形成用組成物Y2)
・ポリマーA 7.0質量%
・3−(アクリルオキシ)プロピルトリメトキシシラン ポリマーAに対して5.7質量%
・KAYAMER PM−21 3−(アクリルオキシ)プロピルトリメトキシシランに対して 25質量%
・水と1−メトキシ−2−プロパノールの混合物(混合質量比率(水/1−メトキシ−2−プロパノール)=2/8) 92.5質量%
【0165】
<実施例3>
ポリマー層形成用組成物Y1の代わりに、ポリマー層形成用組成物Y2を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、積層体を得た。
【0166】
<実施例4>
下地層形成用組成物X1およびポリマー層形成用組成物Y2中で使用されている3−(アクリルオキシ)プロピルトリメトキシシランをメタクリル酸3−トリメトキシシリルプロピルに変更した以外は、実施例3と同様の手順に従って、積層体を得た。
【0167】
<実施例5>
ポリマー層形成用組成物Y1の代わりに、下記組成のポリマー層形成用組成物Y3を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、積層体を得た。
【0168】
(ポリマー層形成用組成物Y3)
・ポリマーA 6.9質量%
・3−(アクリルオキシ)プロピルトリメトキシシラン ポリマーAに対して10.0質量%
・KAYAMER PM−21 3−(アクリルオキシ)プロピルトリメトキシシランに対して25質量%
・水と1−メトキシ−2−プロパノールの混合物(混合質量比率(水/1−メトキシ−2−プロパノール)=2/8) 92.2質量%
【0169】
<実施例6>
下地層形成用組成物X1およびポリマー層形成用組成物Y2中で使用されているKAYAMER PM−21をKAYAMER PM−2(日本化薬社製)に変更した以外は、実施例3と同様の手順に従って、積層体を得た。
【0170】
<実施例7>
ポリマー層形成用組成物Y1の代わりに、下記組成のポリマー層形成用組成物Y4を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、積層体を得た。
(ポリマー層形成用組成物Y4)
・ポリマーA 7質量%
・水と1−メトキシ−2−プロパノールの混合物(混合質量比率(水/1−メトキシ−2−プロパノール)=2/8) 93.0質量%
【0171】
<実施例8>
下地層形成用組成物X1およびポリマー層形成用組成物Y2中で使用されている3−(アクリルオキシ)プロピルトリメトキシシランを3−グリシジドキシプロピルトリメトキシシラン(LS2940)に変更した以外は、実施例3と同様の手順に従って、積層体を得た。
【0172】
<実施例9>
ポリマー層形成用組成物Y2中で使用されているポリマーAをポリマーBに変更し、水と1−メトキシ−2−プロパノールの混合物をジメチルカーボネートとアセトニトリルの混合物(混合質量比率:ジメチルカーボネート/アセトニトリル=1/2)に変更した以外は、実施例2と同様の手順に従って、積層体を得た。
【0173】
<実施例10>
ポリマー層形成用組成物Y4中で使用されているポリマーAをポリマーBに変更し水と1−メトキシ−2−プロパノールの混合物をジメチルカーボネートとアセトニトリルの混合物(混合質量比率:ジメチルカーボネート/アセトニトリル=1/2)に変更した以外は、実施例7と同様の手順に従って、積層体を得た。
【0174】
<比較例1>
下地層形成用組成物X1の代わりに、上述した下地層形成用組成物X2を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、積層体を得た。
なお、該比較例1においては、下地層形成用組成物およびポリマー層形成用組成物中のいずれにもP=O基含有重合性化合物が含まれていない。
【0175】
<比較例2>
下地層形成用組成物X1の代わりに、上述した下地層形成用組成物X2を使用し、ポリマー層形成用組成物Y1の代わりに、上述したポリマー層形成用組成物Y4を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、積層体を得た。
なお、該比較例2においては、下地層形成用組成物およびポリマー層形成用組成物中のいずれにもP=O基含有重合性化合物が含まれておらず、かつ、ポリマー層形成用組成物中にはシランカップリング剤も含まれていない。
【0176】
<比較例3>
下地層形成用組成物X1中で使用されるKAYAMER PM−21(日本化薬社製)代わりに、トリエチルフォスフェイト(大八化学社製)を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、積層体の製造を行った。
しかし、上記めっき工程の時点で金属膜が剥がれてしまい、後述する評価をすることができなかった。
【0177】
<評価方法(その1)>
上記で得られた積層体に対して、140℃で1時間加熱処理を行った。得られた積層体の表面(5cm×5cm)を目視、および光学顕微鏡にて25倍に拡大して観察し、表面に膨れがないかを観察した。膨れがある場合、積層体中のいずれかの層間において密着性が十分でなく、結果として金属膜の密着性が劣ることになる。なお、以下の基準に従って評価した。結果を表1に示す。実用上「×」でないことが好ましい。
「○」:膨れがない
「△」:直径5mm以下の膨れが2個以下観察される
「×」:直径5mm以下の膨れが3個以上観察される、または、直径5mm超の膨れが観察される。
なお、膨れが円状でない場合は、円相当径(投影面積円相当径)により上記評価を行う。
【0178】
<評価方法(その2)>
上記評価方法(その1)の時間を1時間から2時間に変更した以外は、上記と同じ基準に従って評価を行った。結果を表1に示す。
【0179】
<評価方法(その3)>
上記評価方法(その1)における140℃で1時間加熱処理条件を、180℃で1時間に変更した以外は、上記と同じ基準に従って評価を行った。結果を表1に示す。
【0180】
なお、表1中、「Si剤」欄は各組成物中におけるシランカップリング剤の有無を表し、含有される場合を「○」、含有されない場合を「×」として表記する。また、表1中、「P=O剤」欄は各組成物中におけるP=O基含有重合性化合物の有無を表し、含有される場合を「○」、含有されない場合を「×」として表記する。
表1中の「−」は未実施であることを意味する。
【0181】
【表1】

【0182】
上記表1の結果から分かるように、本発明の製造方法に従って得られる積層体においては、膨れなどがほとんど観察されず、金属膜が優れた密着性を示すことが確認された。
なかでも、実施例1と7との比較から分かるように、ポリマー層中にシランカップリング剤が含まれることにより、より優れた効果が得られることが確認された。
また、実施例3と6との比較より、一般式(2)中のLbのアルキレン基の長さがより長いP=O基含有重合性化合物を使用することにより、より優れた効果が得られることが確認された。
さらに、実施例3と8との比較より、反応性基としてラジカル重合性基であるアクリロイル基を有するシランカップリング剤を使用すると、より優れた効果が得られることが確認された。
一方、下地層形成用組成物およびポリマー層形成用組成物のいずれにもP=O基含有重合性化合物を含まない比較例1および2においては、所定の効果を示す積層体は得られなかった。
【0183】
<パターン形成>
上記実施例1で得られた積層体の金属膜表面上に、ドライレジストフィルム(日立化成(株)製;RY3315、膜厚15μm)を真空ラミネーター((株)名機製作所製:MVLP−600)で70℃、0.2MPaでラミネートした。次いで、ドライレジストフィルムがラミネートされた基板に、JPCA−ET01に定める櫛型配線(JPCA−BU01−2007準拠)が形成できるガラスマスクを密着させ、レジストを中心波長405nmの露光機にて70mJの光エネルギーを照射した。露光後の基板に、1%Na2CO3水溶液を0.2MPaのスプレー圧で噴きつけ、現像を行なった。その後、基板の水洗・乾燥を行い、銅めっき膜上に、サブトラクティブ法用のレジストパターンを形成した。
レジストパターンを形成した基板を、FeCl3/HCl水溶液(エッチング液)に温度40℃で浸漬することによりエッチングを行い、レジストパターンの非形成領域に存在する銅めっき膜を除去した。
その後、3%NaOH水溶液を0.2MPaのスプレー圧で基板上に噴き付けることで、レジストパターンを膨潤剥離し、10%硫酸水溶液で中和処理を行い、水洗することで櫛型配線(パターン状銅めっき膜)を得た。得られた配線は、L/S=20μm/75μmであった。
その後、プラズマアッシングで配線間のポリマー層および下地層を除去した。
【0184】
さらに、得られた櫛型配線上にソルダーレジスト(PFR800;太陽インキ製造(株)製)を70℃、0.2MPaの条件で真空ラミネートし、中心波長365nmの露光機にて420mJの光エネルギーを照射した。次いで、基板を80℃/10分間の加熱処理を施した後、Na2CO31%水溶液を、スプレー圧0.2MPaで基板表面に噴きつけ現像し、水洗、乾燥した。その後、再度、中心波長365nmの露光機にて1000mJの光エネルギーを、基板に対し照射した。最後に150℃/1hrの加熱処理を行ない、ソルダーレジストに被覆された櫛形配線(配線基板)を得た。
【0185】
<実施例11>
実施例1の〔シランカップリング剤含有下地層の作製〕を実施し、シランカップリング剤含有下地層を有するガラス基板を得た。
【0186】
その後、ポリマー層形成用組成物Y1をスピンコート法によりシランカップリング剤含有下地層を備える基板上に塗布し、80℃で5分間乾燥した。その後、JPCA−ET01に定める櫛型配線(JPCA−BU01−2007準拠)が形成できるガラスマスクを介してパターン状に254nmでUV露光(露光量:12000mJ/cm2)を基板全面に行い、1%重曹水で洗浄した。
これにより、基板上のシランカップリング剤含有下地層と直接結合したパターン状のポリマー層(厚み:1μm)を得た。
【0187】
その後、実施例1の[触媒の付与]および〔めっき処理および加熱処理〕を実施し、パターン状の金属膜を備える積層体を得た。
【0188】
<実施例12>
実施例1の〔シランカップリング剤含有下地層の作製〕を実施し、シランカップリング剤含有下地層を有するガラス基板を得た。
【0189】
次に、JPCA−ET01に定める櫛型配線(JPCA−BU01−2007準拠)が形成できるガラスマスクパターン状に254nmでUV露光(露光量:12000mJ/cm2)をシランカップリング剤含有下地層全面に行った。
その後、実施例1の[ポリマー層の形成]を実施し、パターン状のUV露光が行われていないシランカップリング剤含有下地層の未露光領域のみに、シランカップリング剤含有下地層と直接結合したパターン状のポリマー層(厚み:1μm)を得た。
その後、実施例1の[触媒の付与]および〔めっき処理および加熱処理〕を実施し、パターン状の金属膜を備える積層体を得た。
【0190】
<実施例13>
実施例1で使用されたガラス基板の代わりに、サファイア基板(京セラ株式会社製、SEMIスタンダード)を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、積層体を得た。
得られた積層体を使用して上記評価方法に従って評価を行ったところ、実施例1と同様の結果が得られた。
なお、サファイア基板の代わりに、アルミナ基板(京セラ株式会社製、薄膜用基板)、シリコンウエハー(オプトスター社、単結晶4インチ標準品)を使用した場合も、実施例1と同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0191】
10:基板
12:シランカップリング剤含有下地層
14a、14b、14c、14d:ポリマー層
16、16b:銅含有めっき膜
18:積層体
20:パターン状金属膜
22、30:マスク
24:金属パターン材料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、反応性基を有するシランカップリング剤を含む下地層形成用組成物を接触させて、シランカップリング剤含有下地層を形成する下地層形成工程と、
前記シランカップリング剤含有下地層上に、重合性基、および、めっき触媒またはその前駆体と相互作用を形成する官能基を有するポリマーを含むポリマー層形成用組成物を接触させた後、エネルギーを付与して、ポリマー層を形成するポリマー層形成工程と、
前記ポリマー層にめっき触媒またはその前駆体を付与する触媒付与工程と、
前記めっき触媒またはその前駆体に対してめっきを行い、前記ポリマー層上に金属膜を形成するめっき工程と、を備える金属膜を有する積層体の製造方法であって、
前記下地層形成用組成物および/または前記ポリマー層形成用組成物に、P=O基含有重合性化合物が含まれる、金属膜を有する積層体の製造方法。
【請求項2】
前記P=O基含有重合性化合物が、一般式(1)で表される化合物である、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【化1】

(一般式(1)中、Xaは、重合性基を表す。Laは、単結合、または、2価の有機基を表す。Yaは、水素原子、または、重合性基を有しない置換基を表す。pは1〜3の整数を表し、qは0〜2の整数を表し、pおよびqはp+q=3の関係式を満たす。)
【請求項3】
前記反応性基が、メタクリロイル基、アクリロイル基、グリシジル基、アミノ基、スチリル基、ビニル基、メルカプト基、ウレイド基、スルフィド基、イソシアネート基、またはカルボキシル基である、請求項1または2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記ポリマー層形成用組成物に、さらに、反応性基を有するシランカップリング剤が含まれる、請求項1〜3のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記ポリマー層形成用組成物に、反応性基を有するシランカップリング剤、および、P=O基含有重合性化合物が含まれる、請求項1〜4のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記基板が、ガラス基板、または、セラミックス基板である、請求項1〜5のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記めっき工程後に、加熱処理を行う加熱工程を備える、請求項1〜6のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
前記下地層形成工程において、基板上に前記下地層形成用組成物を接触させた後、溶媒で前記基板の洗浄を行う、請求項1〜7のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか記載の積層体の製造方法により得られる積層体中の金属膜をパターン状にエッチングして、パターン状金属膜を形成するパターン形成工程を備える、金属パターン材料の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の金属パターン材料の製造方法により得られる、金属パターン材料。
【請求項11】
請求項10に記載の金属パターン材料を含むプリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−116130(P2012−116130A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268991(P2010−268991)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】