説明

金属被覆セラミックス繊維の製造方法、成形体の製造方法、複合材の製造方法

【課題】母材金属中にセラミックス繊維を含有する複合材を効率よく且つ低コストで得るべく、金属被覆セラミックス繊維を効率よく且つ低コストで作製する。
【解決手段】セラミックス繊維に対して直流電源の負極のみを電気的に接続した後、前記セラミックス繊維に対し無電解メッキを施すか、又は、前記セラミックス繊維の表面に有機金属塩を付着させた後に前記有機金属塩を熱分解して金属とすることで、前記セラミックス繊維の表面に金属皮膜を設けて金属被覆セラミックス繊維とし、さらに、この金属被覆セラミックス繊維に対して成形加工を施し成形体26とする。なお、成形加工の最中、又は終了後に、成形体26に対して通電を行う。次に、この成形体26に対して金属を溶浸すれば、複合材が得られるに至る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属被覆セラミックス繊維の製造方法、金属被覆セラミックス繊維を用いた成形体の製造方法、及び該成形体を用いた複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスと金属を含む複合材の1種として、母材金属中にセラミックス繊維が分散されたものが広汎に知られている。この種の複合材は、例えば、先ず、セラミックス繊維の成形体を設け、次に、500〜800℃程度に予熱された該成形体に金属を溶浸することで作製される。なお、金属を溶浸する際には、所定の高圧が付加された溶湯が成形体に供給される。このため、成形体に焼成処理を施すことで所定の強度を付与した後、前記の溶浸を行うことが一般的である。
【0003】
ここで、成形体を予熱するとともに溶湯に高圧を付加する理由は、セラミックス繊維の金属溶湯に対する濡れ性がさほど大きくないからである。しかしながら、成形体を高温に予熱することはエネルギ消費となり、コストの高騰を招く。また、高圧の溶湯が供給された際に成形体が崩壊することを回避するための焼成処理にも、昇温・温度保持のためのエネルギが必要であり、この点でもコストが高騰する。また、焼成処理には長時間を要するので、複合材の生産効率も低下してしまう。
【0004】
このような観点から、特許文献1には、メッキによってSiC粒子の表面にNi皮膜、すなわち、金属皮膜を設けることが提案されている。また、特許文献2には、SiC粒子の表面にNiを付着させることが開示されている。両技術は、金属溶湯に接触する粒子表面に金属を存在させることで、金属溶湯に対する濡れ性を向上させることを試みたものである。
【0005】
【特許文献1】特開平2−22430号公報
【特許文献2】特開平3−146627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、セラミックス繊維への金属皮膜形成が今ひとつ効率的であるとは言い難い側面がある。
【0007】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、セラミックス繊維の表面に金属皮膜を効率よく且つ低コストで形成することが可能な金属被覆セラミックス繊維の製造方法、成形体の製造方法、及び複合材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、セラミックス繊維の表面に金属皮膜が形成された金属被覆セラミックス繊維の製造方法であって、
セラミックス繊維に対して直流電源の負極のみを電気的に接続する工程と、
前記セラミックス繊維に対して無電解メッキを施すことで、該セラミックス繊維の表面に金属皮膜を設ける工程と、
を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、セラミックス繊維の表面に金属皮膜が形成された金属被覆セラミックス繊維の製造方法であって、
セラミックス繊維に対して直流電源の負極のみを電気的に接続する工程と、
前記セラミックス繊維の表面に有機金属塩を付着させる工程と、
前記有機金属塩を熱分解して金属とすることで前記セラミックス繊維の表面に金属皮膜を設ける工程と、
を有することを特徴とする。
【0010】
すなわち、本発明においては、セラミックス繊維が直流電源の負極のみに電気的に接続された後、無電解メッキか、又は、その表面に一旦付着された有機金属塩が熱分解されることで、金属皮膜が形成される。直流電源の負極のみに電気的に接続したセラミックス繊維を用いることで、厚みが略均等な金属皮膜を効率的に形成することができる。
【0011】
この理由は、直流電源の負極から負電荷が供給されることで負に帯電したセラミックス繊維が、正イオンである金属イオンや有機金属カチオンを電気的に引き寄せるためであると推察される。また、負電荷が供給されることに伴い、セラミックス繊維の表面に吸着したガス成分が除去されることも有効に作用すると考えられる。
【0012】
なお、金属皮膜の好適な例としては、Cu、Zn、Ni、Feのいずれかを挙げることができる。
【0013】
また、本発明は、セラミックス繊維の表面に金属皮膜が形成された金属被覆セラミックス繊維からなる成形体の製造方法であって、
セラミックス繊維に対して直流電源の負極のみを電気的に接続する工程と、
前記セラミックス繊維に対し無電解メッキを施すか、又は、前記セラミックス繊維の表面に有機金属塩を付着させた後に前記有機金属塩を熱分解して金属とすることで、前記セラミックス繊維の表面に金属皮膜を設けて金属被覆セラミックス繊維とする工程と、
前記金属被覆セラミックス繊維に対し成形加工を施して成形体とする工程と、
を有し、
前記成形加工の最中、又は終了後に前記成形体に対し通電を行うことを特徴とする。
【0014】
すなわち、本発明に係る成形体の製造方法は、上記の製造方法によって得られた金属被覆セラミックス繊維を用いて実施される。そして、この場合、金属被覆セラミックス繊維に通電がなされるので金属皮膜同士の溶着が起こり、これにより、金属被覆セラミックス繊維同士が互いに連結する。その結果、相対密度が18〜40%程度でありながらも高強度を示す成形体が容易に得られる。
【0015】
上記したように、金属皮膜としては、Cu、Zn、Ni、Feのいずれかが好適である。
【0016】
さらに、本発明は、表面に金属皮膜が形成された金属被覆セラミックス繊維からなる成形体に金属が溶浸された複合材の製造方法であって、
セラミックス繊維に対して直流電源の負極のみを電気的に接続する工程と、
前記セラミックス繊維に対し無電解メッキを施すか、又は、前記セラミックス繊維の表面に有機金属塩を付着させた後に前記有機金属塩を熱分解して金属とすることで、前記セラミックス繊維の表面に金属皮膜を設けて金属被覆セラミックス繊維とする工程と、
前記金属被覆セラミックス繊維に対し成形加工を施して成形体とする工程と、
前記成形体に金属を溶浸する工程と、
を有し、
前記成形加工の最中、又は終了後に前記成形体に対し通電を行うことを特徴とする。
【0017】
すなわち、この場合、上記のようにして作製された成形体が使用される。そして、該成形体をなす金属被覆セラミックス繊維の表面に金属皮膜が存在するために金属溶湯に対する濡れ性が良好であるので、該成形体の予熱温度が低く、且つ溶湯圧力が低い場合であっても、金属溶湯が効率よく成形体に浸透する。このため、本発明によれば、エネルギ消費、ひいてはコストが低減する一方、複合材の生産効率が向上する。
【0018】
しかも、通電によって金属被覆セラミックス繊維同士が互いに結合したために高強度を示す成形体を使用するので、成形体の強度を向上させる目的で行う焼成処理を省くこともできる。この点からも、コストの低減と複合材の生産効率の向上を図ることができる。
【0019】
なお、金属被覆セラミックス繊維同士をバインダ樹脂で結合した成形体から複合材を作製するようにしてもよい。すなわち、本発明は、表面に金属皮膜が形成された金属被覆セラミックス繊維からなる成形体に金属が溶浸された複合材の製造方法であって、
セラミックス繊維に対して直流電源の負極のみを電気的に接続する工程と、
前記セラミックス繊維に対し無電解メッキを施すか、又は、前記セラミックス繊維の表面に有機金属塩を付着させた後に前記有機金属塩を熱分解して金属とすることで、前記セラミックス繊維の表面に金属皮膜を設けて金属被覆セラミックス繊維とする工程と、
バインダ樹脂を介して前記金属被覆セラミックス繊維同士を結合することで成形体を設ける工程と、
前記成形体に金属を溶浸する工程と、
を有することを特徴とする。
【0020】
この製造方法においても、金属被覆セラミックス繊維(成形体)の金属溶湯に対する濡れ性が良好であるので、成形体の予熱温度が低く、且つ溶湯圧力が低い場合であっても、金属溶湯が効率よく成形体に浸透する。従って、この場合も、エネルギ消費、ひいてはコストが低減する一方、複合材の生産効率が向上する。
【0021】
なお、溶浸する金属の好適な例としては、Al又はAl合金を挙げることができる。一方、金属被覆セラミックス繊維の金属皮膜としては、上記したように、Cu、Zn、Ni、Feのいずれかが好適である。これらの金属皮膜は、Al又はAl合金に対する濡れ性も極めて良好である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、セラミックス繊維を直流電源の負極のみに電気的に接続するようにしているので、該セラミックス繊維の表面に厚みが略均等な金属皮膜を効率よく形成することができる。
【0023】
また、この金属被覆セラミックス繊維に対し成形加工を行う際、又は終了後に通電を行うことで、相対密度が比較的低いながらも高強度を示す成形体を得ることができる。従って、金属に溶浸を行う前、成形体に対する焼成処理を省くことが可能となる。
【0024】
さらに、金属皮膜を設けた金属被覆セラミックス繊維からなる成形体の金属溶湯に対する濡れ性が良好であるので、該成形体の予熱温度が低く、且つ溶湯圧力が低い場合であっても、金属溶湯が効率よく成形体に浸透する。
【0025】
以上のことから、金属被覆セラミックス繊維やその成形体、さらには複合材を低コストで効率よく作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る複合材の製造方法につき、該複合材を構成する成形体、及び該成形体を構成するセラミックス繊維の各製造方法との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
はじめに、最終製品である複合材につき説明する。この複合材は、金属被覆セラミックス繊維からなる成形体の内部に母材金属が溶浸することで構成されている。
【0028】
金属被覆セラミックス繊維は、セラミックス繊維の表面に金属皮膜が形成されてなる。セラミックス繊維は、特に限定されるものではないが、酸化アルミニウム(アルミナ)、ムライト、ホウ化アルミ、炭化ケイ素等が好適な例として挙げられる。
【0029】
一方、金属皮膜の材質としては、母材金属となる金属溶湯に対する濡れ性が良好なものが選定される。例えば、母材金属がAlないしAl合金である場合、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)等であることが好ましい。
【0030】
前記成形体は、このように構成された金属被覆セラミックス繊維が所定の形状に成形加工されることで作製されている。そして、この成形体の内部に金属溶湯が浸透し、その後に硬化することで、前記成形体の内部に母材金属が溶浸された複合材が構成されている。
【0031】
次に、この複合材の製造方法につき説明する。
【0032】
先ず、上記した金属被覆セラミックス繊維を作製する。ここで、金属被覆セラミックス繊維は、無電解メッキによって金属皮膜を設ける製造方法(以下、第1繊維製造方法という)、又は、有機金属塩からなる皮膜を熱分解することで金属皮膜を設ける製造方法(以下、第2繊維製造方法という)によって製造される。
【0033】
第1繊維製造方法は、セラミックス繊維に対して直流電源の負極のみを電気的に接続する第1−1工程と、前記セラミックス繊維に対して無電解メッキを施す第2−1工程とを有する。
【0034】
第1−1工程では、セラミックス繊維を導電性の容器に収容したり、導電性の載置台に載置した後、前記容器ないし前記載置台に、例えば、リード線を介して直流電源の負極のみを電気的に接続する。すなわち、直流電源の正極は前記容器ないし前記載置台には電気的に接続されず、このため、直流電源とセラミックス繊維とは、電気的に開回路を構成した状態となっている。
【0035】
所定時間が経過した後、セラミックス繊維を直流電源の負極から電気的に遮断する。そして、第2−1工程において、無電解メッキを行う。Cuの金属皮膜を設ける場合、例えば、CuSO4・5H2Oを10g/リットル、酒石酸ナトリウムを50g/リットル、水酸化ナトリウムを10g/リットル、37%ホルマリンを10×10-3g/リットル含むメッキ液を使用すればよい。
【0036】
無電解メッキのみを実施した場合、金属皮膜の形成に比較的長時間を要する。換言すれば、セラミックス繊維の表面上に金属皮膜を効率的に形成することが容易ではない。また、金属皮膜の厚みも概ね不均等である。
【0037】
これに対し、第1−1工程(直流電源の負極への電気的接続)を行った後で第2−1工程(無電解メッキ)を行うと、厚みが略均等な金属皮膜が効率よく形成される。この理由は、直流電源の負極のみが電気的に接続されるとセラミックス繊維に負電荷が供給され、この負電荷が、セラミックス繊維の表面に吸着したガス成分を放出させ、しかも、第2−1工程において正イオンである金属イオンを電気的に引き寄せるためであると推察される。
【0038】
一方、第2繊維製造方法においては、セラミックス繊維に対して直流電源の負極のみを電気的に接続する第1−2工程と、セラミックス繊維の表面に有機金属塩を付着させる第2−2工程と、前記有機金属塩を熱分解して金属皮膜とする第3−2工程とを有する。
【0039】
第1−2工程は、前記第1−1工程と同一である。その後、第2繊維製造方法では、セラミックス繊維の表面に有機金属塩を一旦付着させ、この有機金属塩を金属とすることで金属皮膜が設けられる。
【0040】
Cu被膜を形成する場合、第2−2工程において、例えば、蟻酸銅と酢酸銅のアルコール溶液にセラミックス繊維を浸漬すればよい。この浸漬により、有機金属塩である蟻酸銅及び酢酸銅がセラミックス繊維の表面に付着する。
【0041】
所定時間が経過した後、濾過等を行えば、表面に蟻酸銅及び酢酸銅が付着したセラミックス繊維がアルコール溶液から分離される。このセラミックス繊維に対し、第3−2工程において加熱処理を施せば、蟻酸銅及び酢酸銅が熱分解を起こしてCu皮膜が形成されるに至る。
【0042】
第2繊維製造方法においても、厚みが略均等な金属皮膜を効率よく形成することができる。セラミックス繊維が負に帯電していることで、表面に吸着されたガスが放出されるとともに有機金属カチオンが効率的に引き寄せられるためであると推察される。
【0043】
このようにして作製した金属被覆セラミックス繊維を用い、次に、成形体を作製する。本実施の形態において、成形体は、通電を行いながら成形加工を施す製造方法によって製造される。
【0044】
この成形体製造方法では、例えば、図1に示す成形装置10が使用される。この成形装置10は、円筒形状のダイス12と、該ダイス12を外嵌する金属製の外嵌リング14と、ダイス12の貫通孔内に通される下パンチ16及び上パンチ18を備え、ダイス12と下パンチ16及び上パンチ18とでキャビティ20が形成される。
【0045】
この中、ダイス12は耐摩耗性が良好な絶縁性セラミックスからなり、一方、下パンチ16及び上パンチ18は金属からなる。これら下パンチ16と上パンチ18の互いに対向する先端部には、導電性セラミックスからなる摺接部22、24が連結されている。また、下パンチ16の摺接部22の支持凹部27には、成形体26に貫通孔を設けるための貫通孔形成用中子28が嵌合され、上パンチ18の摺接部24には、この貫通孔形成用中子28の先端部を挿入するための挿入凹部29が形成されている。ここで、貫通孔形成用中子28も、ダイス12と同様に耐摩耗性が良好な絶縁性セラミックスで形成されている。
【0046】
そして、下パンチ16及び上パンチ18は、リード線30a、30bを介して交流電源32に電気的に接続されている。なお、交流電源32に代替して直流電源を採用するようにしてもよい。
【0047】
成形体26を設ける場合、上パンチ18がダイス12から離間している際に、下パンチ16、貫通孔形成用中子28、及びダイス12で形成されるキャビティ20に金属被覆セラミックス繊維を収容する。そして、下パンチ16及び上パンチ18への交流電源32からの通電を行った後、上パンチ18をダイス12に挿入し、下パンチ16及び上パンチ18で金属被覆セラミックス繊維を押圧する。勿論、下パンチ16及び上パンチ18による金属被覆セラミックス繊維の押圧が開始されてからこれら下パンチ16及び上パンチ18に通電を行うようにしてもよい。なお、この押圧の際、摺接部22、24の側壁がダイス12の内壁に摺接する。
【0048】
金属被覆セラミックス繊維が押圧される際、該金属被覆セラミックス繊維に電流が流れる。下パンチ16及び上パンチ18が金属からなり、各先端部に設けられた摺接部22、24が導電性セラミックスからなり、さらに、金属被覆セラミックス繊維が金属皮膜を介して互いに接触しているからである。
【0049】
このように電流が流され、且つ押圧された金属被覆セラミックス繊維は、金属皮膜同士が溶着を起こすことで互いに連結する。その結果、相対密度が18〜40%程度と比較的小さいながらも高強度な成形体26が作製される。
【0050】
又は、成形体26が得られた後に下パンチ16及び上パンチ18を介する成形体26への通電を行うようにしてもよい。さらに、成形体26をキャビティ20から取り出した後に該成形体26に通電を行うようにしてもよい。
【0051】
このようにして得られた成形体26を用い、次に、複合材を製造する。すなわち、成形体26に存在する気孔に金属の溶湯を充填した後、この溶湯を固化することで母材金属とする。この充填(溶浸)を行うためには、例えば、成形体26を砂型に収容した後、ライナを介して前記砂型中の成形体26に溶湯を到達させればよい。
【0052】
ここで、95%Al23−5%SiO2(数字は重量%、以下同じ)繊維が吸引成形法によって40mm×40mm×50mmの直方体形状に成形され、この成形体が1000℃で90分焼成処理されることで形成された焼成体に、Al合金の1種であるADC12の溶浸を行った場合の焼成体の予熱温度、溶湯圧力、相対密度との関係をグラフにして図2に示す。なお、溶湯は不活性ガス雰囲気で調製し、注湯温度は680℃である。
【0053】
この図2から、気孔の残存量が少ない複合材を得るためには、焼成体の予熱温度を高くするとともに溶湯圧力を高くする必要があることが諒解される。
【0054】
一方、図3は、95%Al23−5%SiO2繊維に対して無電解メッキにてCu皮膜を形成した後に上記と同一寸法の成形体を設け、この成形体を焼成処理することなくADC12の溶浸を行った場合の焼成体の予熱温度、溶湯圧力、相対密度との関係を示すグラフである。
【0055】
また、95%Al23−5%SiO2繊維を蟻酸銅/酢酸銅のアルコール溶液に浸漬して溶媒を分離した後、不活性雰囲気中で300℃、60分間加熱して熱分解させることでCu皮膜を設け、さらに、このCu被覆95%Al23−5%SiO2繊維から上記と同一寸法の成形体を設けた。この成形体を焼成処理することなくADC12の溶浸を行い、焼成体の予熱温度、溶湯圧力、相対密度との関係を調べた。結果を、グラフとして図4に示す。
【0056】
これら図3、図4から、Cu皮膜を有する95%Al23−5%SiO2繊維からなる成形体では、予熱温度が50℃と比較的低温で且つ溶湯圧力が300MPaと比較的低圧であっても、気孔の残存率が著しく低く相対密度が高い複合材が得られることが明らかである。このことから、95%Al23−5%SiO2繊維にCu皮膜を設けることによってADC12の溶湯に対する濡れ性が向上しているといえる。
【0057】
しかも、この場合、成形体に対しての焼成処理を省くことも可能となる。
【0058】
すなわち、本実施の形態によれば、エネルギ消費を低減してコストを低廉化することができるとともに、複合材を効率よく製造することができる。その上、成形体が高強度であることに加えてAl又はAl合金等の金属の溶浸時に溶湯を高圧にする必要がないので、成形体が崩壊する懸念が払拭される。
【0059】
なお、溶浸に使用される成形体は、該成形体を作製する最中、又は作製後に通電を行ったものに代え、金属被覆セラミックス繊維同士をバインダ樹脂によって結合させた成形体であってもよい。バインダ樹脂としては、例えば、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂を選定すればよい。
【0060】
すなわち、例えば、金属被覆セラミックス繊維にスチレン樹脂と発泡剤を添加した混合物をニーダ等で混練した後、水蒸気やブタンガス等を供給しながら成形加工を行って発泡成形体とする。
【0061】
次に、この発泡成形体の表面に砂(例えば、ベントナイト40%及び珪砂40%を含むスラリー)を吹き付けた後、砂型に埋設する。この砂型の湯口から金属溶湯を供給すると、スチレン樹脂が気化して除去される一方、金属溶湯が発泡成形体に浸透する。浸透した金属溶湯が冷却固化され、複合材が得られるに至る。
【0062】
発泡剤を使用した場合、発泡成形体に欠陥が入ることが抑制されるとともに、溶湯の湯廻り不良も抑制されるという利点がある。
【0063】
金属皮膜をなす金属と、溶浸される金属とは、互いの濡れ性を考慮して選定すればよく、Cu、Zn、Ni、Feの各皮膜とAl又はAl合金とに特に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】金属被覆セラミックス繊維に対し通電を行いながら成形加工を行うための成形装置の要部概略縦断面図である。
【図2】セラミックス繊維からなる焼成体にADC12の溶浸を行った場合の焼成体の予熱温度、溶湯圧力、相対密度との関係を示すグラフである。
【図3】第1繊維製造方法によって作製された金属被覆セラミックス繊維からなる成形体にADC12の溶浸を行った場合の焼成体の予熱温度、溶湯圧力、相対密度との関係を示すグラフである。
【図4】第2繊維製造方法によって作製された金属被覆セラミックス繊維からなる成形体にADC12の溶浸を行った場合の焼成体の予熱温度、溶湯圧力、相対密度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
10…成形装置 12…ダイス
16…下パンチ 18…上パンチ
20…キャビティ 22、24…摺接部
26…成形体 28…貫通孔形成用中子
32…交流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス繊維の表面に金属皮膜が形成された金属被覆セラミックス繊維の製造方法であって、
セラミックス繊維に対して直流電源の負極のみを電気的に接続する工程と、
前記セラミックス繊維に対して無電解メッキを施すことで、該セラミックス繊維の表面に金属皮膜を設ける工程と、
を有することを特徴とする金属被覆セラミックス繊維の製造方法。
【請求項2】
セラミックス繊維の表面に金属皮膜が形成された金属被覆セラミックス繊維の製造方法であって、
セラミックス繊維に対して直流電源の負極のみを電気的に接続する工程と、
前記セラミックス繊維の表面に有機金属塩を付着させる工程と、
前記有機金属塩を熱分解して金属とすることで前記セラミックス繊維の表面に金属皮膜を設ける工程と、
を有することを特徴とする金属被覆セラミックス繊維の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法において、前記金属皮膜として、Cu、Zn、Ni、Feのいずれかからなる皮膜を設けることを特徴とする金属被覆セラミックス繊維の製造方法。
【請求項4】
セラミックス繊維の表面に金属皮膜が形成された金属被覆セラミックス繊維からなる成形体の製造方法であって、
セラミックス繊維に対して直流電源の負極のみを電気的に接続する工程と、
前記セラミックス繊維に対し無電解メッキを施すか、又は、前記セラミックス繊維の表面に有機金属塩を付着させた後に前記有機金属塩を熱分解して金属とすることで、前記セラミックス繊維の表面に金属皮膜を設けて金属被覆セラミックス繊維とする工程と、
前記金属被覆セラミックス繊維に対し成形加工を施して成形体とする工程と、
を有し、
前記成形加工の最中、又は終了後に前記成形体に対し通電を行うことを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の製造方法において、前記金属皮膜として、Cu、Zn、Ni、Feのいずれかからなる皮膜を設けることを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項6】
表面に金属皮膜が形成された金属被覆セラミックス繊維からなる成形体に金属が溶浸された複合材の製造方法であって、
セラミックス繊維に対して直流電源の負極のみを電気的に接続する工程と、
前記セラミックス繊維に対し無電解メッキを施すか、又は、前記セラミックス繊維の表面に有機金属塩を付着させた後に前記有機金属塩を熱分解して金属とすることで、前記セラミックス繊維の表面に金属皮膜を設けて金属被覆セラミックス繊維とする工程と、
前記金属被覆セラミックス繊維に対し成形加工を施して成形体とする工程と、
前記成形体に金属を溶浸する工程と、
を有し、
前記成形加工の最中、又は終了後に前記成形体に対し通電を行うことを特徴とする複合材の製造方法。
【請求項7】
表面に金属皮膜が形成された金属被覆セラミックス繊維からなる成形体に金属が溶浸された複合材の製造方法であって、
セラミックス繊維に対して直流電源の負極のみを電気的に接続する工程と、
前記セラミックス繊維に対し無電解メッキを施すか、又は、前記セラミックス繊維の表面に有機金属塩を付着させた後に前記有機金属塩を熱分解して金属とすることで、前記セラミックス繊維の表面に金属皮膜を設けて金属被覆セラミックス繊維とする工程と、
バインダ樹脂を介して前記金属被覆セラミックス繊維同士を結合することで成形体を設ける工程と、
前記成形体に金属を溶浸する工程と、
を有することを特徴とする複合材の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7記載の製造方法において、前記金属としてAl又はAl合金を溶浸することを特徴とする複合材の製造方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の製造方法において、前記金属皮膜として、Cu、Zn、Ni、Feのいずれかからなる皮膜を設けることを特徴とする複合材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−7844(P2008−7844A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−182033(P2006−182033)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】