説明

金属製細径管の製造方法

【課題】極細径で、かつ、薄肉の金属製細径管を容易に、かつ、効率よく得ることができる金属製細径管の製造方法を提供する。
【解決手段】引抜き加工によって金属製細径管を得る金属製細径管の製造方法において、内部に流動性物質を封入した金属管に対して引抜き加工を行う金属製細径管の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業資材、医療等のあらゆる分野に用いることができる金属製細径管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、注射針、カテーテル、ステント等様々な器具に金属製の管が用いられており、最近の医療分野の発展に伴い、従来の金属管よりも細い細径管が求められるようになっている。
【0003】
例えば、注射針においては、細径化することにより痛点を刺激しない無痛針と呼ぶ、「蚊にさされた」程度の刺激で注射することが可能になる。一方、カテーテルにおいては、血管の通っている部位でありさえすれば、どこであっても処置ができるようになる。また、ステントにおいては、細い血管までを拡張させることが可能になるため、狭窄により引き起こされる病気の治療を可能にすると考えられている。
【0004】
ここで、現在の注射針などに使用されている金属製細径管は、ステンレス鋼板を曲げ加工により溶接し、その後、空引き、あるいは、心金引きによって製造されている。この方法では、先端医療で求められている極細径で、かつ、薄肉の細径管を得ることはむずかしい。このため、現状の細径管は直径1mm、肉厚0.2mm以上の管が使用されている。
【0005】
一方、太い管から細い管への引抜き加工方法としては、ダイスだけを用いる空引き、心金を併用する心金引き、マンドレルを併用するマンドレル引き、浮きプラグを併用する浮きプラグ引きなどの方法が知られている(非特許文献1)。
【0006】
これらの中で、従来、細径管製造に適しているとされるマンドレル引き法を用いた場合では、外径が1mm以下の細径管が得られたとしても、引抜きによって得られた細径管からマンドレルを抜くという作業が困難となり、実際上、1mm以下の細径管の製造には採用できない。
【非特許文献1】「塑性加工の基礎」 出版社:産業図書 1998年4月出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、極細径で、かつ、薄肉の金属製細径管を容易に、かつ、効率よく得ることができる金属製細径管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の金属製細径管の製造方法は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、引抜き加工によって金属製細径管を得る金属製細径管の製造方法において、内部に流動性物質を封入した金属管に対して引抜き加工を行うことを特徴とする金属製細径管の製造方法である。
【0009】
また、本発明の金属製細径管の製造方法は請求項2に記載の通り、請求項1に記載の金属製細径管の製造方法において、上記流動性物質が、液体あるいは粉体であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の金属製細径管の製造方法は請求項3に記載の通り、請求項1または請求項2に記載の金属製細径管の製造方法において上記流動性物質を封入した金属管の両端のシールが、封止材としての金属棒と封止助剤とを該金属管の端部から挿入した後、スェージング加工することによって行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属製細径管の製造方法によれば、従来、製造が困難であった極細の金属製細径管を高品質でかつ生産性良く製造することができる。また、請求項2に係る本発明の金属製細径管の製造方法によれば、流動性物質の封入が容易であり、安定した生産が可能になる。
【0012】
また、請求項3に係る本発明の金属製細径管の製造方法によれば、流動性物質の封入が容易に、かつ、確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
母材としての金属管としては特に材質を問わず、ステンレス鋼管、炭素鋼管、銅管などの一般的な金属管の他、ニッケル−チタン合金などの形状記憶合金製の金属管なども用いることができる。
【0014】
母材の内径及び外径は最終的に製造する細径管の仕様に合わせて適宜、選択する。なお、本発明の金属製細径管の製造方法によれば厚肉化を効果的に防止することができるので、母材としてはあえて極端に薄肉化したものを使用する必要性はない。
【0015】
本発明で用いるダイスは、一般的な材質と形状のダイスを小径化したものをそのまま用いることができる。
【0016】
本発明では内部に流動性物質を封入した金属管母材に対して引抜き加工を行う。内部に存在する流動性物質により必要とする内径が維持されると共に極端な薄肉化や母材の切断が避けられるので、所望の極細な細径管を得ることができる。さらに、封入された流動性物質は流動性を有しているために引抜き加工終了後には得られた細径管の一端ないし両端のシール部を切断等の手段をこうずると、細径管内部から容易に除去し、取り去ることができる。このように、本発明に用いる流動性物質は、引抜き加工後の細径管内部から除去できる程度の流動性を有することが必要である。
【0017】
このような流動性物質とは、液体や気体(引抜き加工時に充分に内径が維持される圧力となることが必要)などの一般的な流体の他に、微粒子状固体、いわゆる粉体を用いることができる。粉体の場合には得ようとする細径管の内径に対して充分小さい粒径のものを用いる必要があり、また、その形状は球形ないし略球形などの流動性の高い形状であることが好ましい。
【0018】
これら流動性物質のうち、取り扱い性が良好で高い引抜き加工効果が得られる点で、液体あるいは粉体を用いることが望ましく、中でも液体は確実な充填ができ、かつ、除去が容易であることから液体が望ましい。なお、流動性物質は必要に応じて混合して用いることも可能である。
【0019】
このような液体としては、水、メタノールやエタノールなどのアルコール類、植物油や鉱物油などの油類、炭化水素化合物等が挙げられる。また粉体としては、金属、鉱物、穀類などの微粉体を用いることができる。
【0020】
これら流動性物質は母材である金属管内部に、一種のマンドレルとして入れられるが、そのとき、外部に漏れ出ないように封入する。封入量は製造する細径管の内径に大きく影響するので、求められる内径に応じて予め検討を行って適宜決定する。
【0021】
封入は、通常、母材である金属管の一端を封じた後、他端から流動性物質を金属管内部に入れ、そしてこの他端を封じる。このとき、空気が入らないようにすることが望ましく、必要に応じてバイブレーターやポンプ等を併用して充填する。なお、未充填部が生じると、引抜き加工中の管内圧力が低下して管の肉厚が増加することがあるので、充填は均一に行うことが望ましい。
【0022】
このとき、流動性物質を封入した金属管の両端シールは、封止材としての金属棒ないし金属線(本発明ではこれらを併せて「金属棒」と云う)を金属管の端部から挿入したのち、封止材が挿入された部分をスェージング加工することによって行うことができる。
【0023】
封止材とする金属棒の外径は母材である金属管の内径と同等か、若干細いものを用いる。用いる金属棒は硬い材料である方がスェージング加工時のかしめ強度に適合する。しかし、剛性の高い、あるいは、脆い金属管(母材)に硬い金属棒を用いるとスェージング加工時に金属管の破断率が高くなるので、このときには柔らかい金属棒を用いることが好ましい。
【0024】
そこで、母材の金属管が例えばチタン合金などの硬い金属からなる場合には柔らかい、例えば真鍮製で、かつ、スェージング加工長さを超える長さの金属棒を用い、母材が柔らかい金属、たとえばステンレス鋼からなる場合には比較的硬い金属、例えばチタン材やチタン合金材、からなる比較的短い封止材を用いると、スェージング加工時に割れやクラックの発生が抑制され、かつ、確実な封止が可能になる。
【0025】
ここでより高い密封性を得るために封止材とともに、封止助剤を併用することが望ましい。封止助剤としては、樹脂状、ゴム状、あるいはパテ状のシール材が挙げられるが、例えば、不乾性充填材であるポリブテンは確実な封止が得られるので好ましい。このようなポリブテンとしてはセメダイン社などから市販品を入手することができる。母材である金属管を封止するに際して、封止助剤の少量を母材端に詰めたのち、封止材を母材端部に挿入し、その後、スェージング加工などにより封止を行う。
【0026】
引抜き加工は常法による。すなわち、母材表面をエタノール等で充分に洗浄し、次いで、フッ素樹脂などの樹脂系潤滑剤を塗布したのち、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、粉石鹸などの粉末の潤滑材を用いて引抜きを行う。
【0027】
引抜き加工は、例えば1パスリダクション(Re(1回の引抜き成形に伴う外径減少率で表される断面の減少率))を5〜15%として、この操作を数回から数十回行って所定の外径に縮小する。
【0028】
その後、端部を切断して、内部の流動性物質を除去し、必要に応じて内部を洗浄して細径管を得ることができる。
【0029】
ここで図1に本発明の細径管の製造方法をモデル的に示す。図1(a)に示した母材(素管)の一端に封止助剤と封止材とを挿入し、次いで、流動性物質を充填し、さらに素管の他端にも封止助剤と封止材とを挿入し(図1(b)参照)、次いで両端にスェージング加工をおこなって封止する(図1(c)参照)。
【0030】
次いで図1(d)に示すようにダイスを用いて引抜き加工を行い、その後、端部を切って、得られた細径管内部から流動性物質を除去する(図1(e)参照)。
【実施例】
【0031】
以下に本発明の金属製細径管の製造方法の実施例について具体的に説明する。
母材として、形状記憶合金であるニッケル51%−チタン49%(原子存在比)のニッケル−チタン合金管(直径4.0mm、肉厚0.4mm)及びステンレス鋼製のシームレス管(直径4.05mm、肉厚0.5mm)を使用した。
【0032】
封止材としてはこれら母材管内径とほぼ同じ径の真鍮棒(ニッケルチタン合金管の場合)及びチタン棒(ステンレス鋼管の場合)を用い、封止助剤としてポリブテンを少量、封止材の挿入に先立って詰め、その後、ロータリースェージャーを用いて両端にスェージング加工を施して封止を行った。なお、封止助剤を用いない場合には引抜き加工中に流動性物質が漏れることがあったが、封止助剤を用いた場合にはそのような不都合は生じなかった。
【0033】
母材内部に封入する流動性物質としては、液体として水、または、鉱物油(新日本石油社製)を、粉体としては微粒子状の固形潤滑剤をそれぞれ用い、これらを併用した場合も同時に検討した。なおこれら流動性物質の充填は内部に空間ができないように注意深く行った。
【0034】
母材両端を封止したのち、母材表面をエタノールにより表面洗浄し、ついで、樹脂系潤滑剤(三宝化学工業社製AGP−8H)を塗布し、さらにその後、粉末の潤滑剤(共栄化学社製ステアリン酸ナトリウム)を用いて引抜き加工を行う。ダイスは市販の超硬コニカルダイスを使用し,その半角(α)は6°であった。
【0035】
<ステンレス鋼管での検討>
ここで、上記のステンレス鋼管について、引抜き速度は2.5mm/秒一定とし、1パスリダクション(Re)は約10%とし、島津製作所社製引張試験機オートグラフAG−10TBを改造して作製した材料試験機のチャック部に取り付け、引抜き加工を14パスまで繰り返し、トータルリダクション(Rt(総断面減少率))を78.52%とした。
【0036】
その結果、得られた細径管の断面形状とその肉厚を図2に示した。また比較のために、母材の素管(「素管」)、母材内部に何も充填しないで引抜き加工をした細径管(「空引き」)、及び、内部に直径0.38mmのチタン棒をマンドレルとして挿入して引抜き加工を施した細径管(「チタン」)の結果を併せて図2に示した。
【0037】
本発明に係る、粉末として固形潤滑剤の粉体を封入して引抜き加工を行ったサンプル(図中:「粉末」)、液体として水を封入して引抜き加工を行ったサンプル(図中:「液体」)、及び、両者を混合して封入して引抜き加工を行ったサンプル(図中:「粉末+液体」)では、空引きしたサンプルのように肉厚が厚くなることはなかった。なお、チタン製のマンドレルを用いたサンプルは薄肉であったが引抜き後のマンドレルの抜き取りは事実上不可能であったが、前記の実施例ではマンドレル抜きの必要性もなく、引抜き加工後には流動性物質を容易に除去することができた。
【0038】
<ニッケル−チタン合金管>
ステント、カテーテル等の医療用途に適しているとされる形状記憶合金であるニッケル−チタン合金からなるニッケル−チタン合金管についても同様に検討を行った。
【0039】
流動性物質として液体(水)を封入して上記同様に引抜き加工を行った実施例の他、比較のために、母材内部に何も充填しないで引抜き加工をした(「空引き」)比較例、および、外径が0.38mmの7/3真鍮(銅:70重量%、亜鉛:30重量%)のマンドレルを併用した、マンドレル引きを行った比較例(軟質金属7/3黄銅マンドレル引き)について、Rtの変化量と、肉厚の増減との関係を調べた。これらの結果を図3に示した。
【0040】
図3より、医療用途として高い機能性発揮が期待される、ニッケル−チタン合金管においても、本発明の金属製細径管の製造方法によれば、肉厚の増加を引き起こすことなく、細径化が可能であることがわかり、このように、本発明によれば医療分野で特に求められる、肉薄の細径管が得られることができることが理解できる。
【0041】
なお、真鍮のマンドレルを併用した比較例では、引抜き加工後のマンドレル除去ができなかった。
【0042】
医療分野の細径管では、一般に内周面がなめらかであることが求められる。ここで流動性物質として水(液体)を封入してニッケル−チタン合金管の引抜き加工を1〜5回行ったときの内周面の表面粗さ(Ra)の変化について、表面粗さ測定器(ミツトヨ社製)によって調べた。結果を図4に示す。
【0043】
図4より、本発明の金属製細径管の製造方法によれば、内周面の表面粗さは素管の表面粗さと同等であり、引抜き加工によって粗面化が生じることはないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の金属製細径管の製造方法によれば、従来製造が困難であった細径管を容易に製造することができ、そのとき、肉厚の増加や内周面の粗面化が生じないので、この細径管は産業上求められる細径管用途には勿論、注射針、カテーテル、ステントなどの医療用器具分野にも好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の金属製細径管の製造方法をモデル的に示した図である。(a)母材(素管)を示す断面図である。(b)流動性物質を充填すると共に素管の両端に封止材及び封止助剤を挿入した状態を示す図である。(c)、両端にスェージング加工をおこなって封止した状態を示す図である。(d)ダイスを用いた引抜き加工を示す図である。(e)得られた細径管内部から流動性物質を取り出す状態を示す図である。
【図2】ステンレス鋼管での検討結果を示す図である。
【図3】ニッケル−チタン合金管での検討結果を示す図である。
【図4】本発明に係るニッケル−チタン合金の細径管の内周面粗さの変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引抜き加工によって金属製細径管を得る金属製細径管の製造方法において、内部に流動性物質を封入した金属管に対して引抜き加工を行うことを特徴とする金属製細径管の製造方法。
【請求項2】
上記流動性物質が、液体あるいは粉体であることを特徴とする請求項1に記載の金属製細径管の製造方法。
【請求項3】
上記流動性物質を封入した金属管の両端のシールが、封止材としての金属棒と封止助剤とを該金属管の端部から挿入した後、スェージング加工することによって行われることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属製細径管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−181872(P2007−181872A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−2806(P2006−2806)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】