説明

金属部品及び金属部品の成形方法

【課題】表面に高硬度のガラス質コーティングが形成され且つガラス質コーティング層の下層のカラーコート層に変色のない金属部品を提供する。
【解決手段】携帯電話のカバー1は偏平な板材にプレスと打ち抜きによって、窓部2と周縁のカール部3が一体的に成形され、このカバー1はステンレス製基材4の表面にカラーコート層5が形成され、このカラーコート層5の上に低温焼成によって第1ガラス質コーティングガスバリアー層6が形成され、この第1ガラス質コーティングガスバリアー層6の上に高温焼成によって第2ガラス質コーティング高硬度層7が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にガラス質コーティング層が形成された金属部品、ガラス質コーティング層の形成方法および金属部品の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
防汚、傷つき防止などを目的として、金属部品の表面に被膜を形成することが従来から行われている。
例えば特許文献1には、ステンレス鋼を無水クロム酸と硫酸を含む水溶液に浸漬し該ステンレス鋼の電位差を測定し制御することによって酸化被膜を形成し、当該酸化被膜の上に酸化チタン粒子分散液を塗布し加熱して酸化チタン層(光触媒)を形成することが開示されている。
特許文献2には、シラン化合物を含むコーティング組成物を金属表面上に塗布し、得られたコーティング膜を熱により高密度化してガラス質層を形成することが開示されている。
特許文献3には、アルカリシリケートを含むコーティングゾルを金属性支持体に塗布し、このゾルを、第一段階では酸素含有雰囲気または減圧雰囲気で加熱し、第2段階では十分に圧縮されガラス質層が形成されるまで酸素欠乏雰囲気において加熱することが開示されている。
【0003】
特許文献4には、製品基体の表面に、Si含有成分とZr含有成分を含む塗布液を塗布し、熱処理してSi酸化物成分及びZr酸化物成分を有する被膜形成物質からなる第1層を形成し、その上にSi含有成分と、水に溶解若しくは分散するポリマー及び/又はモノマーから選ばれる有機物成分を含む塗布液を塗布し熱処理して、Si酸化物成分と前記有機物成分とを含む第2層を形成して、水垢固着防止コーティング層とする技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−011657号公報
【特許文献2】特表2001−518979号公報
【特許文献3】特表2007−521984号公報
【特許文献4】特開2008−050402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したいずれの先行技術も、高硬度と変色防止を両立することができない。即ち、特許文献1に開示される酸化チタン層は脆く、傷がつきやすい。
【0005】
一方、特許文献2〜4に開示されるガラス質コーティング層の硬度を高めて傷つきにくくするには、焼成温度を高める必要がある。しかしながら、焼成温度を高くすると、金属自体または金属表面の酸化被膜(カラーコート)が更に酸化されて変色してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明に係る金属部品は、表面にカラーコート層が形成され、このカラーコート層の外側にガラス質コーティング層が形成され、このガラス質コーティング層は内側の第1ガラス質コーティングガスバリアー層と外側の第2ガラス質コーティング高硬度層からなり、これら第1ガラス質コーティングガスバリアー層及び第2ガラス質コーティング高硬度層のいずれもポリシラザンまたはアルコキシ金属塩を材料とし、低温焼成で形成された第1ガラス質コーティングガスバリアー層及び高温焼成で形成された第2ガラス質コーティング高硬度層の密度が1.8g/cm以上になっている。
尚、第2ガラス質コーティング高硬度層としてポリシラザンを用いた場合には、更にその上に水溶性金属塩溶液をコートして親水性を付与してもよい。水溶性金属塩溶液としては株式会社日板研究所のMS90或いはSS900が挙げられる。
また、本発明に係る金属部品に対するコーティング層形成方法は、金属部品の表面にスプレー塗装法、メッキ法、陽極酸化法、インコ法、PVD或いはスパッタリング法などでカラーコート層を形成し、このカラーコート層の上にポリシラザン溶液またはアルコキシ金属塩溶液を塗布して150〜250℃程度の温度で焼成して密度1.6g/cm以上の第1ガラス質コーティングガスバリアー層を形成し、この第1ガラス質コーティングガスバリアー層の上にポリシラザン溶液またはアルコキシ金属塩溶液を塗布して250℃以上の温度で焼成して密度1.8g/cm以上の第2ガラス質コーティング高硬度層を形成する。
前記第1ガラス質コーティングガスバリアー層の材料となるポリシラザン溶液中には焼成温度を下げるための触媒としてパラジウム、アミンを添加することが好ましい。
また、更に、前記第2ガラス質コーティング高硬度層の材料となるポリシラザン溶液中には焼成温度を下げるための触媒としてパラジウムを添加することが好ましい。
また、本発明に係る金属部品の成形方法は、先ず平らな金属板の表面にカラーコート層を形成し、このカラーコート層の上にポリシラザン溶液またはアルコキシ金属塩溶液を塗布して150〜250℃程度の温度で焼成して密度1.6g/cm以上の第1ガラス質コーティングガスバリアー層を形成し、この第1ガラス質コーティングガスバリアー層の上にポリシラザン溶液またはアルコキシ金属塩溶液を塗布して250℃以上の温度で焼成して密度1.8g/cm以上の第2ガラス質コーティング高硬度層を形成し、この後、金属板を絞り成形するようにした。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る金属部品および当該金属部品にガラス質コーティング層を形成する方法によれば、内側となる第1ガラス質コーティングガスバリアー層を低温で形成したので、この第1ガラス質コーティングガスバリアー層の下に存在するカラーコート層が熱によって変色することがない。
更に、第2ガラス質コーティング高硬度層は密度1.6g/cm以上の第1ガラス質コーティングガスバリアー層によってカラーコート層を覆った状態で形成するため、高温で焼成してもカラーコート層に酸素が供給されることはなく、熱によって変色することがなく、且つ高温で焼成したことで密度1.8g/cm以上の高硬度(9H以上)が達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1(a)は本発明に係る金属部品の一例としての携帯電話のカバーの平面図、(b)は(a)のB方向矢示図、(c)は(a)のC方向矢示図、図2(a)は本発明に係る金属部品の表層部の拡大断面図、(b)は別実施例を示す表層部の拡大断面図である。
図1に示す携帯電話のカバー1は偏平な板材に絞り成形と打ち抜きによって、窓部2と周縁のカール部3を一体的に成形している。
【0009】
また図2(a)に示すように、カバー1はステンレス製基材4の表面にカラーコート層5が形成され、このカラーコート層5の上に第1ガラス質コーティングガスバリアー層6及び第2ガラス質コーティング高硬度層7が形成されている。基材4としてはステンレスの他にチタン、アルミニウム、マグネシウム合金などでもよい。
【0010】
前記カラーコート層5は100〜10000nmの厚さで形成され、このカラーコート層5には、変性ポリエステルシリコン等の有機・無機ハイブリットシリコンを主原料とするスプレー塗装焼成により形成される着色ガラス層、電解メッキによって形成されるCr層やNi層、無電解メッキによって形成されるNi層、陽極酸化によって形成される酸化アルミニウム層、酸化マグネシウム層、酸化チタン層、或いはインコ法、イオンプレーティング法、PVD法、スパッタリング法によって形成される各種の層が含まれる。
【0011】
尚、陽極酸化によって形成される酸化アルミニウム層(アルマイト処理)や酸化マグネシウム層に着色を施すには、顔料(染料)を含浸させる。
【0012】
前記第1ガラス質コーティング層6は0.4〜10μmの厚さで形成される。この第1ガラス質コーティングガスバリアー層6はポリシラザン溶液を塗布し、150〜250℃程度の温度で加熱することで得られる。ポリシラザン溶液の1回当たりの塗布厚みは2μが限界で、それ以上の厚みをコートする場合は重ね塗りすることで得られる。
反応式は以下の通りである。
【0013】
(SiHNH)+2HO→SiO+NH+2H
またポリシラザン溶液の代わりにSiOを主成分とするアルコキシ金属塩溶液(株式会社 日板研究所 製品番号G−90)を塗布してもよい。
【0014】
また、高温でシリカ薄膜に転化すると、下層のカラーコート層5及び基材4が変色するため、焼成温度はできるだけ低くする。このためにはポリシラザン溶液にパラジウム、アミンなどの触媒を添加することで、焼成温度を200℃以下150℃程度まで下げることができる。
【0015】
前記第2ガラス質コーティング高硬度層7は0.4〜10μmの厚さで形成され、この第2ガラス質コーティング高硬度層7もポリシラザン溶液を塗布し、350℃以上の温度で加熱する。350℃以上の高温加熱で形成されるシリカ薄膜は緻密で密度1.8g/cm以上高硬度(9H以上)のものが得られる。
この第2ガラス質コーティング高硬度層7にパラジウムを触媒として添加した低温硬化ポリシラザン溶液を塗布し、250℃以上の温度で加熱すると、形成されるシリカ薄膜は緻密で密度1.8g/cm以上高硬度(9H以上)のものを得ることができる。
また、高温加熱する際に、カラーコート層5及び基材4は第1ガラス質コーティングガスバリアー層6によって覆われているので、酸素が供給されず、酸化による変色を防止できる。
図2(b)は別実施例を示す表層部の拡大断面図であり、この実施例にあっては、第2ガラス質コーティング層7の上に親水性セラミックコーティング層8(株式会社 日板研究所 製品番号SS−900)を形成している。親水性セラミックコーティング8を形成することで、システムキッチンのシンク等に適用した場合に汚れを簡単に落とすことができる。
前記携帯電話のカバー1となる偏平な板材(基材4)には、前記したように、成形前に既にカラーコート層5、第1ガラス質コーティングガスバリアー層6及び第2ガラス質コーティング高硬度層7、更には任意ではあるが親水性セラミックコーティング層8が形成されており、この状態で絞り成形および打ち抜き成形がなされる。
本発明に係る方法で形成されたガラス質コーティング層は金属と溶着し難く、耐剥離性が高く、プレス成形や打ち抜き成形によって引張力や圧縮力が作用するコーナ部であっても傷や割れ、剥離が生じることがない。したがって、携帯電話のカバー以外にも、例えば自動車のボディなどに用いる場合、成形前にガラス質コーティング層を形成できるので、生産工程が大幅に効率化される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は本発明に係る金属部品の一例としての携帯電話のカバーの平面図(b)は(a)のB方向矢示図(c)は(a)のC方向矢示図
【図2】(a)は本発明に係る金属部品の表層部の拡大断面図(b)は別実施例を示す表層部の拡大断面図
【符号の説明】
【0017】
1…携帯電話のカバー、2…窓部、3…周縁のカール部、4…基材、5…カラーコート層、6…第1ガラス質コーティングガスバリアー層、7…第2ガラス質コーティング高硬度層、8…親水性セラミックコーティング層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最外層にガラス質コーティング層が形成された金属部品であって、この金属部品の表面にはカラーコート層が形成され、このカラーコート層の外側に前記ガラス質コーティング層が形成され、このガラス質コーティング層は内側の第1ガラス質コーティングガスバリアー層と外側の第2ガラス質コーティング高硬度層からなり、これら第1ガラス質コーティングガスバリアー層及び第2ガラス質コーティング高硬度層のいずれもポリシラザンまたはアルコキシ金属塩を材料とし、第1ガラス質コーティングガスバリアー層及び第2ガラス質コーティング高硬度層の密度が1.8g/cm以上になっていることを特徴とする金属部品。
【請求項2】
金属部品の表面にカラーコート層を形成し、このカラーコート層の上にポリシラザン溶液またはアルコキシ金属塩溶液を塗布して250℃以下の温度で焼成して第1ガラス質コーティングガスバリアー層を形成し、この第1ガラス質コーティングガスバリアー層の上にポリシラザン溶液またはアルコキシ金属塩溶液を塗布して250℃以上の温度で焼成して第2ガラス質コーティング高硬度層を形成することを特徴とする金属部品に対するコーティング層形成方法。
【請求項3】
請求項2に記載の金属部品に対するコーティング層形成方法において、前記第1ガラス質コーティングガスバリアー層の材料となるポリシラザン溶液中には焼成温度を下げるための触媒としてパラジウム、アミンが添加されていることを特徴とする金属部品に対するコーティング層形成方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の金属部品に対するコーティング層形成方法において、前記第2ガラス質コーティング高硬度層の材料となるポリシラザン溶液中には焼成温度を下げるための触媒としてパラジウムが添加されていることを特徴とする金属部品に対するコーティング層形成方法。
【請求項5】
金属板の表面にカラーコート層を形成し、このカラーコート層の上にポリシラザン溶液またはアルコキシ金属塩溶液を塗布して250℃以下の温度で焼成して第1ガラス質コーティングガスバリアー層を形成し、この第1ガラス質コーティングガスバリアー層の上にポリシラザン溶液またはアルコキシ金属塩溶液を塗布して250℃以上の温度で焼成して第2ガラス質コーティング高硬度層を形成し、この後、金属板を絞り成形することを特徴とする金属部品の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−132932(P2010−132932A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306956(P2008−306956)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(593001565)ワールドウイング株式会社 (6)
【Fターム(参考)】