説明

金属部材のめっき装置

【課題】めっきの均一性、作業性および安全性に優れ、かつ、構造が簡易である金属部材のめっき装置を提供する。
【解決手段】めっき液を含浸させる含浸部材1と、含浸部材1を外囲する筺体2と、を有する金属部材のめっき装置10であって、含浸部材1が、めっき処理を施すべき被めっき金属部材を内包する。電気めっき装置として用いる場合には、含浸部材1と筺体2との間に陽極電極4が配置され、かつ、金属部材を支持する支持体5を介して通電することが好ましく、陽極電極4が円筒形であり、かつ、金属部材と陽極電極4との距離が一定であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材のめっき装置(以下、単純に「めっき装置」とも称する)に関し、詳しくは、めっきの均一性、作業性および安全性に優れ、かつ、構造が簡易である金属部材のめっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用スチールラジアルタイヤやホース用ワイヤなどに使用されるスチールワイヤは、一般に、ブラスメッキを施した直径0.7〜2.0mm程度の金属鋼線材を湿式伸線工程に通して、最終的に直径が0.1〜0.4mm程度に伸線される。このようにして得られたワイヤは、単線、または、複数本撚り合わせたスチールコードとして用いられる。
【0003】
得られたスチールコードの長手方向には、少なからず溶接部が存在する。この溶接部は、めっき付き金属鋼線材をつなぎ合わせる際に生じる。通常、スチールワイヤの製造は、直径が約1〜2mmのめっき付き金属鋼線材を溶接によりつなぎ合わせて、これを最終伸線に供することにより、連続的に最終伸線が行われる。溶接部は溶接してからバリをとるために研摩することから、金属鋼線材のめっきが剥げる部分が生じる。めっきが剥がれた部分は金属鋼線材の時点は3cm程度であったとしても、これを最終伸線すると、めっきのない部分が1mを超えるスチールワイヤとなることも少なくない。
【0004】
複数本のスチールワイヤを撚り合わせてなる撚りコードでは、めっきのない部位が混入しても大きな問題になることはないが、複数本の素線を撚り合わせずに並列に束ねたコードでは、ゴムとの接着性の低下による耐久性の低下が生じるため、めっきのない部位の混入を避けなければならない。その解決方法として、最終伸線工程に供する前に、溶接部に再度めっきを施すことが考えられる。例えば、特許文献1には、上記部位に、溶接により発生したバリや酸化物を除去した後に、銅めっき、亜鉛めっきを順次施し、次いで熱拡散処理を施すことにより、再度、銅−亜鉛合金めっきを施す技術が開示されている。また、特許文献2には、めっきが剥離した部位に銅めっきを施し、スチールコードとゴムとの接着性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−18892号公報
【特許文献2】特開2003−170214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている方法は、手作業により行われるものであり、作業効率が悪く、また、通電部位が露出しており、作業上の安全性に難があった。さらに、手作業で行われているため、めっき層の均一性を確保することが困難であるという問題を有していた。また、特許文献2に記載されている手法によれば、スチールコードとゴムとの接着性を向上させることができるが、めっきの均一性や現場作業性といった観点から検討がなされておらず、さらなる検討の余地が残されていた。
【0007】
そこで本発明の目的は、めっきの均一性、作業性および安全性に優れ、かつ、構造が簡易である金属部材のめっき装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討をした結果、下記構成とすることにより、上記課題を解決することができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の金属部材のめっき装置は、めっき液を含浸させる含浸部材と、該含浸部材を外囲する筺体と、を有する金属部材のめっき装置であって、
前記含浸部材が、めっき処理を施すべき被めっき金属部材を内包することを特徴とするものである。
【0010】
本発明においては、前記含浸部材と前記筺体との間に陽極電極を配置し、かつ、前記筺体を貫通して配置された前記被めっき金属部材を支持する支持体を介して通電する、電気めっき装置として用いることが好ましい。また、本発明においては、前記陽極電極が円筒形であり、かつ、前記被めっき金属部材と前記陽極電極との距離が一定であることが好ましい。さらに、前記めっき液として合金めっき液を好適に用いることができる。さらにまた、本発明においては、前記被めっき金属部材は金属鋼線材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金属部材のめっき装置を上記構成としたことにより、めっきの均一性、作業性および安全性に優れ、かつ、構造が簡易である金属部材のめっき装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のめっき装置の好適な実施の形態の一例を示す概略図である。
【図2】本発明のめっき装置の筺体の幅方向断面図である。
【図3】本発明のめっき装置を電気めっき装置として用いた場合の、筺体の幅方向断面図である。
【図4】本発明のめっき装置の筺体の端部の長手方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明のめっき装置の好適な実施の形態の一例を示す概略図であり、図2は、本発明のめっき装置の筺体の幅方向断面図である。本発明の金属部材のめっき装置10は、めっき液を含浸させる含浸部材1と、含浸部材1を外囲する筺体2と、を有する。図示例においては、被めっき金属部材として金属鋼線材3を用いており、金属鋼線材3が筺体2を貫通するように配置されている。また、図示例においては、筺体2の両側に支持体5が配置され、筺体2を貫通する金属鋼線3が支持体5により支持されている。さらに、図示例においては、めっき装置10の筺体2に、蝶番のような連結部材6を設け、筺体2を開閉部7において、図中の矢印方向に開閉自在としている。
【0014】
本発明のめっき装置10は、筺体2の内部で被めっき金属部材を、めっき液を含浸させた含浸部材1に内包し、金属部材の表面にめっき被膜を形成するものであり、図示例においては、金属鋼線材3を含浸部材1に内包させ、その表面にめっき層を形成する。これにより、金属鋼線材3の表面にめっき液が均一に接触し、均一なめっき層を形成することが可能となる。本発明のめっき装置10は、スチールワイヤの製造に用いる金属鋼線材のめっきが剥がれた部分の再めっきに好適に用いることができる。この場合、最終伸線前の金属鋼線材の段階でめっき処理を施すことにより、めっき処理を行う被めっき体の被めっき部分の長さを短くすることができるという利点を有している。
【0015】
本発明のめっき装置10を用いることにより、金属部材に対し、化学めっき、浸漬めっき、接触めっき等の湿式めっきを容易に施すことが可能となる。本発明のめっき装置10の含浸部材1としては、めっき溶液を含浸、保持することができるものであれば、特に制限はなく、例えば、ウレタン、フェルト、不織布、織布等を用いることができる。また、図示する本発明のめっき装置10は、筺体2が開閉自在であるため、めっき液の補充や被めっき体である金属部材の設置、取り出しを容易に行うことができる。
【0016】
本発明のめっき装置10を電気めっき装置として用いる場合には、含浸部材1と筺体2との間に陽極電極4を配置し、かつ、筺体2の両端より外部に貫通して配置された被めっき金属部材(図示例では、金属鋼線材3)を支持する支持体5を介して通電することが好ましい。図3は、本発明のめっき装置10を電気めっき装置として用いた場合における筺体2の幅方向断面図であり、図示するように、金属鋼線材3を内包するように含浸部材1が配置され、この含浸部材1の外周に陽極電極4が配置されている。本発明においては、図1に示す様に、支持体5を、筺体2を挟むように両側に配置し、この支持体5を介して通電することが好ましい。筺体2の両側に支持体5を配置することにより、めっき層の均一性を向上させることができる。
【0017】
図4は、本発明のめっき装置の筺体の端部の長手方向の概略断面図である。本発明のめっき装置を電気めっき装置として用いる場合、筺体が導電性である場合は、図4に示す様に、筺体2と金属部材(図示例では、金属鋼線材3)とが接触しないよう絶縁体8や、含浸部材1と筺体2とが接触しないよう絶縁体18を配置することが好ましい。なお、支持体5は、筺体2の側面の一方に配置するだけでも電気めっき処理は可能であるが、めっき厚の均一性の観点からは、やはり、筺体2の両側に支持体5を配置することが好ましい。本発明においては、陽極電極4や支持体5の材質としては、例えば、白金、鉛、チタン、グラファイト、およびフェライト等を挙げることができる。
【0018】
本発明のめっき装置10を電気めっき装置として用いた場合、図3に示す様に、陽極電極4が円筒形状であり、かつ、金属部材(図示例では、金属鋼線材3)と陽極電極4との距離rが一定になるように配置することが好ましい。本発明のめっき装置10を用いて、金属鋼線材3にめっきを施す場合、金属鋼線材3が円筒形状の陽極電極4の中心部を通過するように配置することで、金属鋼線材3と陽極電極4の距離rを一定にすることができる。これにより、めっき層の均一性をさらに向上させることができる。かかる効果を良好に得るためには、陽極電極と金属部材との距離rを5〜50mmとし、陰極電流密度を5〜60A/dmとすることが好ましい。
【0019】
本発明に用いることができるめっき液としては特に制限はなく、公知の物を用いることができる。特に、本発明のめっき装置をスチールワイヤの原料である金属鋼線材のめっきに用いる場合は、銅−亜鉛合金めっき液が好ましい。従来は、まず、銅めっき層を形成し、次いで、亜鉛めっき層を形成し、その後、通電加熱することにより、銅−亜鉛合金めっき層を形成していたが、本発明によれば、以下に説明する銅−亜鉛合金めっき液のような合金めっき液を用いることで、1回で作業を完結することができる。
【0020】
また、本発明のめっき装置を電気めっき装置として使用する場合において、被めっき体として金属鋼線材を用いた場合は、めっき液としては、例えば、銅塩と、亜鉛塩と、ピロリン酸アルカリ金属塩と、アミノ酸またはその塩から選ばれた少なくとも一種とを含有し、pHが8.5〜14である銅−亜鉛合金めっき液を好適に用いることができる。なお、本発明のめっき装置は、スチールワイヤの原料である金属鋼線以外にも使用が可能であるため、めっき液はこれに限られるものではなく、適宜変更して用いることができる。
【0021】
上記銅−亜鉛合金めっき液に用いる銅塩としては、めっき浴の銅イオン源として公知のものであればいずれも使用可能であり、例えば、ピロリン酸銅、硫酸銅、塩化第2銅、スルファミン酸銅、酢酸第2銅、塩基性炭酸銅、臭化第2銅、ギ酸銅、水酸化銅、酸化第2銅、リン酸銅、ケイフッ化銅、ステアリン酸銅、クエン酸第2銅等を挙げることができ、これらのうち1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0022】
上記銅−亜鉛合金めっき液に用いる亜鉛塩としては、めっき浴の亜鉛イオン源として公知のものであればいずれも使用可能であり、例えば、ピロリン酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、スルファミン酸亜鉛、酸化亜鉛、酢酸亜鉛、臭化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、リン酸亜鉛、ケイフッ化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、乳酸亜鉛等を挙げることができ、これらのうち1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0023】
なお、上記銅−亜鉛合金めっき液に溶解している銅および亜鉛の和が、0.03〜0.30mol/Lの範囲であることが好ましい。0.03mol/L未満であると銅の析出が優先されてしまい、良好なめっき層を得ることが難しくなる場合がある。一方、0.30mol/Lを超えるとめっき被膜の表面に光沢が得られなくなってしまう場合がある。
【0024】
上記銅−亜鉛合金めっき液に用いるピロリン酸アルカリ金属塩としては、公知のものであればいずれでも使用可能であり、例えば、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム塩を好適に用いることができる。
【0025】
上記銅−亜鉛合金めっき液に用いるアミノ酸としては、公知のものであればいずれでも使用可能であり、例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、トレオニン、セリン、プロリン、トリプトファン、ヒスチジン等のα−アミノ酸若しくはその塩酸塩、ナトリウム塩等を挙げることができ、好ましくはヒスチジンである。なお、これらのうち1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0026】
上記銅−亜鉛合金めっき液に用いるpHは8.5〜14である。pHが8.5未満であると、光沢のある均一なめっき層が得られず、一方、pHが14を超えると電流効率が低下してしまう。本発明の効果を良好に得るためには、好ましくは10.5〜11.8の範囲である。また、本発明のめっき浴のpH調整には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物および水酸化カルシウムのようなアルカリ土類金属水酸化物を好適に用いることができ、好ましくは水酸化カリウムである。
【0027】
本発明における上記各成分の配合量は特に制限されず、適宜選択することができるが、工業的な取扱いを考慮すると、銅塩を銅換算で2〜40g/L、亜鉛塩を亜鉛換算で0.5〜30g/L、ピロリン酸アルカリ金属塩150〜400g/L、アミノ酸又はその塩を0.2〜50g/L程度とすることができる。
【0028】
本発明のめっき装置は、その構造が単純であるため、装置の小型化が可能である。また、電気めっき装置として用いた場合、めっき液と陽極電極が筺体内で一体化されているため、めっき液が飛散するおそれがなく、さらに、めっき液に作業者が接触することや、作業者が電極を手で触れることもないため安全性に優れ、作業現場における取り扱い性にも優れている。さらにまた、本発明のめっき装置は、電気めっき装置として用いる場合には、既知の手法を用いて、所定の時間に電流が流れるようにすることにより、めっき処理の自動化を図ることもできる。
【0029】
以上、本発明のめっき装置を、被めっき体の金属部材として金属鋼線材を例に挙げて説明してきたが、被めっき体としては、これに限られるものではない。また、めっき処理を行う前には、被めっき金属部材には、常法に従ってバフ研磨、脱脂、希酸浸漬等の通常の前処理を施すことができ、あるいは光沢ニッケルめっき等の下地めっきを施すことも可能である。また、めっき後には、水洗、湯洗、乾燥等の通常行われている操作を行ってもよい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。
図1および3に示すタイプの電気めっき装置を用いて、金属鋼線材3に対して銅−亜鉛合金の電気めっきを施した。金属鋼線材3は、直径1.53mmのブラスめっき付き金属鋼線材を溶接したものを用い、めっき装置中の含浸部材1としてはフェルトを用いた。支持体5はめっき装置10の筺体2の両側面に配置した。陽極電極4および支持体5の材質としては導電性カーボンを用いた。銅−亜鉛合金めっき液の組成、めっき条件は下記のとおりである。
【0031】
硫酸銅5水和物:27.5g/L
硫酸亜鉛7水和物:17.3g/L
ピロリン酸カリウム:145.5g/L
L−ヒスチジン:15.5g/L
pH:11.5
めっき液の温度:30℃
陰極電流密度:20A/dm
陽極電極と金属鋼線材との距離r:10mm
【0032】
上記めっき処理により得られためっき層の組成を分析したところ、Cu63質量%、Zn37質量%であり、良好な銅−亜鉛合金めっき層を得ることができた。本発明のめっき装置は、構造が簡易であり、作業性、安全性に優れ、また、従来のように手作業でめっきを行うものではないため、めっきの均一性にも優れている。
【符号の説明】
【0033】
1 含浸部材
2 筺体
3 金属鋼線材
4 陽極電極
5 支持体
6 連結部材
7 開閉部
8,18 絶縁体
10 めっき装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき液を含浸させる含浸部材と、該含浸部材を外囲する筺体と、を有する金属部材のめっき装置であって、
前記含浸部材が、めっき処理を施すべき被めっき金属部材を内包することを特徴とする金属部材のめっき装置。
【請求項2】
前記含浸部材と前記筺体との間に陽極電極が配置され、かつ、前記筺体を貫通して配置された前記被めっき金属部材を支持する支持体を介して通電する請求項1記載の金属部材のめっき装置。
【請求項3】
前記陽極電極が円筒形であり、かつ、前記被めっき金属部材と前記陽極電極との距離が一定である請求項2記載の金属部材のめっき装置。
【請求項4】
前記めっき液が合金めっき液である請求項1〜3のうちいずれか一項記載の金属部材のめっき装置。
【請求項5】
前記被めっき金属部材が金属鋼線材である請求項1〜4のうちいずれか一項記載の金属部材のめっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−92369(P2012−92369A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238730(P2010−238730)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】