説明

金属酸化物を用いて分光増感された多孔質金属酸化物半導体

2.9eV未満のバンド−ギャップを有する1種もしくはそれより多い金属酸化物又はそれらの混合物を用いて内部及び外部表面上で分光増感された2.9eVより大きいバンドギャップを有する多孔質金属酸化物半導体;2.9eVより大きいバンドギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物を準備し、熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解されると2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物を与える金属化合物又は塩の溶液を適用し、金属塩が適用された2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物を加熱して、塩を熱分解するか又は加水分解し且つ続いて熱分解し、2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物とする段階を含んでなる、2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ多孔質金属酸化物をその内部及び外部表面上で分光増感するための方法;ならびに(i)2.9eVより大きいバンド−ギャップを有する金属酸化物半導体に熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解される金属化合物又は塩ならびに2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物に熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解される金属化合物又は塩を含有する溶液を調製し、(ii)段階(i)で調製された溶液に水溶性ポリマーを加え、(iii)段階(ii)で調製された溶液を支持体上にコーティングし、そして(iv)段階(iii)で調製されたコーティングされた支持体を、水溶性ポリマーがもはやコーティング支持体中に存在しない温度に加熱する段階を含んでなる、2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物をその内部及び外部表面上で分光増感するための第2の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、金属酸化物を用いてその場で分光増感された多孔質二酸化チタンに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
2つの基本的な型の光電気化学的光電池がある。第1の型は、正味の化学変化を後に残さずに光を電力に変換する再生型電池(regenerative cell)である。バンドギャップのエネルギーを超えるエネルギーの光子は、空間−電荷層中に存在する電場により隔てられた電子−正孔対を形成する。負の電荷のキャリヤーは半導体の本体を介して集電装置及び外部回路に移動する。正孔(h)は表面に動かされ、そこでそれらはレドックスリレー分子(R)の還元形態により掃去され、それを酸化する:h+R→O,酸化形態。Oは外部回路から電池に再び入る電子によりRに還元し戻される。第2の型の場合、光合成型電池が、2つのレドックス系:半導体電極の表面において正孔と反応するもの及び対極に入る電子と反応する第2のものがあることを除いて、類似の原理に基づいて働く。そのような電池の場合、典型的には水が半導体光電陽極において酸素に酸化され、陰極において水素に還元される。二酸化チタンはこれらの研究のために好ましい半導体であった。不運なことに、TiOはその大きなバンド−ギャップのために(3〜3.2eV)、太陽光(solar emission)の一部しか吸収せず、従って低い変換効率を有する。Graetzelは2001年に非特許文献1において、TiOの分光応答を可視に移動させる多数の試みがこれまで失敗してきたと報告した。
【0003】
非常に大きい内部表面積を有する微細に構成された材料であるメソスコ−ピック(mesoscopic)又はナノ−多孔質半導体材料は、分光増感する種が吸着できる面積を増加させることにより光捕獲効率を向上させるために、再生型の電池用に開発された。TiO、ZnO、SnO及びNbのような酸化物又はCdSeのようなカルコゲニドのナノ−結晶の列は好ましい中視的半導体材料であり、電気伝導が起こるのを可能にするために相互連結される。作用電極として染料−増感二酸化チタン半導体粒子の多孔質フィルムを有する湿式型太陽電池は、変換効率及びコストにおいて非晶質ケイ素太陽電池より優れていると思われる。これらの基本的方法は1991年にGraetzel et al.により非特許文献2において、ならびに特許文献1、特許文献2及び特許文献3において開示された。Graetzel et al.は、最高で33%の光子から電子への変換効率を有する固体素子染料−増感準多孔質(mesoporous)TiO太陽電池を報告した。
【0004】
特許文献1は、20より大きい粗さ因子を有する表面を持つ多結晶性金属酸化物半導体;ならびに該半導体の該表面上に単分子発色団層を含んでなる再生型光−電気化学的電池を開示している。
【0005】
1995年にTennakone et al.は非特許文献3において、及びO’Regan et al.は非特許文献4において、間に吸収剤を有するp−及びn−型半導体の間の高度に構成されたヘテロ接合(heterojunction)から成り、ここでp−半導体がCuSCN又はCuIであり、n−半導体がナノ−多孔質二酸化チタンであり、吸収剤が有機染料である全−固体素子太陽電池を報告した。
【0006】
さらに1998年にK.Tennakone et al.は非特許文献5において、ナノ多孔質n−TiO/〜23nmセレンフィルム/p−CuCNS光電池を報告し、それは800W/mの擬似日光において〜3.0mA/cmの光電流、〜600mVの光電圧及び〜0.13%の最大エネルギー変換効率を生じた。
【0007】
1994年にHoyer et al.は非特許文献6において、多孔質二酸化チタンフィルムの内表面を隔離された量子点で均一に覆うことができることを報告し、非特許文献7においてVogel et al.は、量子−寸法PbS、CdS、AgS、Sb及びBiを用いる種々のナノ多孔質広−バンドギャップ半導体、特定的にはTiO、Nb、Ta、SnO及びZnOの増感ならびに液絡電池における量子点−増感酸化物半導体の使用を報告した。
【0008】
特許文献4は、電子伝導体及び正孔伝導体を含んでなり、さらに増感半導体を含む場合、該増感が該電子伝導体と該正孔伝導体の間の界面に位置することを特徴とする固体素子p−nヘテロ接合;ならびに固体素子増感光電池におけるその適用を開示している。好ましい態様において、増感半導体は該電子伝導体の表面に吸着された粒子の形態にあり、さらに好ましい態様において、増感半導体は量子点の形態にある。
【0009】
1997年にKung et al.は非特許文献8において、光合成型光電池におけるTiO、SrTiO、BaTiO、Fe、CdO、CdFe、WO、PbFe1219、PbTi1.50.56.5、HgTa及びHgNbの半導性陽極の、水の光補助電気分解に関する電気化学的性質を報告した。
【0010】
1999年にShiyanovskaya et al.は非特許文献9において、光電流発生のための材料としての多孔質三酸化タングステンフィルムの可能性を分析した。彼らは単−成分WO及びTiOフィルムと二成分WO/TiOフィルムの光発生特性(photogeneration properties)を比較した。非晶質WOフィルム及びナノ結晶性TiOフィルムの形態、構造、基本的吸収端、フラットバンドポテンシャル(flatband potential)、振動スペクトル及び光電流応答を測定した。彼らは、二成分WO/TiOフィルムにおいて、高い開放表面エネルギー(open surface energy)を有するWOの多孔質フィルムがナノ結晶性TiOフィルムのための基質として働き、バンドギャップ励起における光電流発生の効率を向上させることができることを見出した。
【0011】
1994年にMartin et al.は特許文献10において、加水分解されたチタン(IV)テトライソプロポキシド及び塩化バナジウム(III)を200〜400℃において焼結することにより調製されるバナジウムがドーピングされた二酸化チタンが、TiO上にVの表面島を生ずることを報告した。二酸化チタンのバナジウムドーピングは、4−クロロフェノールの光−酸化速度を低下させることが見出された。
【0012】
1995年にTaverner et al.は非特許文献11において、混合されたSnO又はTiO及びVのペレットを1200℃で燃焼させ、そうしてバナジウムをSnO及びTiO中にV4+として導入することにより調製されるドーピングされたSnO及びTiOにおけるバナジウムドナーレベルのエネルギーの比較を報告した。
【0013】
Wang et al.は、インターネット公開(非特許文献12)において、ナノ結晶性のチタニアに基づく材料の光触媒活性を報告した。半導体光触媒の基本的原理は光子−生成される電子と正孔を含み、それは表面に移動するとレドックス源として働き、吸着される反応物と反応する。TiOの電子構造の改質及びそれによる光活性の強化における、Fe3+及びNb5+のような選択的ドーパント及び/又は貴金属付着の有効性は、液相におけるクロロホルム及び気相におけるトリクロロエチレンの光−補助酸化に関し、TiO粒子の結晶寸法に強い依存性を有することが注目された。
【0014】
特許文献5は、主に二酸化チタンと関係する(concerned with)半導体材料の焼結圧縮物から成る半導体であること、及び多孔質であることを特徴とする半導体を開示している。特許文献5はさらに基質、基質の上面上に置かれた第1の電極、第1の電極の上面上に置かれた半導体及び半導体の上面上に置かれた第2の電極を含んでなる太陽電池を開示しており、ここで半導体は多孔質であり、且つ本質的に、好ましくは鋭錐石−型結晶構造を有する二酸化チタンから成る二酸化チタンを主成分として含有する半導体材料の焼結本体から成る;好ましくは、半導体は1〜50%の多孔度を有し、半導体の受光面は5nm〜10μmの表面粗さの値(Ra)を有し;且つやはり好ましくは、半導体の構成半導体材料は無機増感剤、例えば酸化Cr、V、Ni、Fe、Mn、Cu、Zn及びNb;焼結助剤、例えばMoO、Bi、PdO、PbO、Sb、TeO、Th;ならびに非−酸化性雰囲気における熱処理により除去されると孔を形成するための有機物質、例えば脂肪及び油、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、種々のワックス、パラフィン、セルロース、デンプン及びフタル酸エステルを含有し;≦900℃の焼結温度で焼結される。発明の実施例において、酸化クロムのみが無機増感剤として例示されている。
【0015】
特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9及び特許文献9は、酸化クロム又はバナジウムのような無機分光増感剤を含有する中視的二酸化チタンの焼結圧縮物からなる優れた光電変換効率を有する半導体を開示しており、2〜2000nmの二酸化チタン粒度及び8x10−6〜2x10−4:1の範囲内の無機分光増感剤対二酸化チタンのモル濃度が好ましく、1.2x10−4〜1.6x10−4のモル濃度範囲が特に好ましい。さらに中視的半導体を分光増感するための方法が開示され、その方法では中視的半導体、例えば二酸化チタン、無機増感剤、例えば酸化クロム(III)、焼結助剤、例えば795℃の融点を有する酸化モリブデン(VI)及び孔の形成のための有機物質、例えばエチレン−酢酸ビニルコポリマーが≦900℃の温度で一緒に焼結された。特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9及び特許文献9の開示は、二酸化チタンの鋭錐石格子中への無機増感剤の導入を示している。
【0016】
特許文献10は、伝導性支持体;半導体微粒子を含有し、その上に染料が吸着している感光層;電荷移動層;及び対極を含んでなる光電変換装置を開示しており、ここで該染料は第4級塩及び溶媒を含む処理溶液で、該半導体微粒子上に該染料を吸着させる前かもしくは後に処理される。
【0017】
無機分光増感剤を用いる二酸化チタンのようなブロード−バンド(broad−band)半導体の分光増感が、そのような分光増感を実現する比較的低温の方法と一緒に必要である。
【特許文献1】米国特許第4,927,721号明細書
【特許文献2】米国特許第5,350,644号明細書
【特許文献3】特公平05−504023号公報
【特許文献4】欧州特許出願公開第1176646号明細書
【特許文献5】特公平13−261436号公報
【特許文献6】特公平13−203375号公報
【特許文献7】特公平13−172079号公報
【特許文献8】特公平13−170496号公報
【特許文献9】特公平13−126782号公報
【特許文献10】欧州特許出願公開第1164603号明細書
【非特許文献1】Graetzel著,Nature,volume 414,2001年,338
【非特許文献2】Graetzel et al.著,Nature,volume 353,1991年,737−740
【非特許文献3】Tennakone et al.著,Semiconductor Sci.Technol.,volume 10,1995年,1689
【非特許文献4】O’Regan et al.著,Chem.Mater.,volume 7,1995年,1349
【非特許文献5】K.Tennakone et al.著,Journal Physics A:Applied Physics,volume 31,1998年,2326−2330
【非特許文献6】Hoyer et al.著,Applied Physics,volume 66,1994年,349
【非特許文献7】Vogel et al.著,Journal of Physical Chemistry,volume 98,3183−3188
【非特許文献8】Kung et al.著,Journal of Applied Physics,volume 48,1977年,2463−2469
【非特許文献9】Shiyanovskaya et al.著,Journal of the Electrochemical Society,volume 146,1999年,243−249
【非特許文献10】Martin et al.著,Journal of Physical Chemistry,volume 98,1994年,13695−13704
【非特許文献11】Taverner et al.著,Physical Review B,volume 51,1995年,6833−6837
【非特許文献12】http://web.mit.edu/cmse/www/Ying99.pdf
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
発明の側面
従って、本発明の一側面は、熱的に安定な分光増感されたブロード−バンド半導体を提供することである。
【0019】
本発明のさらに別の側面は、分光増感されたブロード−バンド半導体の調製法を提供することである。
【0020】
分光増感されたブロード−バンド半導体を含んでなる光起電力装置(photovoltaic device)を提供することも本発明の側面である。
【0021】
本発明のさらなる側面及び利点は、下記の記載から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0022】
驚くべきことに、2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物を用いて、例えば酸化バナジウム(V)、酸化鉄(III)及び酸化銅(II)を用いて、約450℃の温度における焼結を必要とする方法を用い、2.9eVより大きいバンド−ギャップを有する多孔質金属酸化物半導体をそれらの内部及び外部表面上において分光増感できることが見出された。
【0023】
本発明の側面は、また、2.9eV未満のバンド−ギャップを有する1種もしくはそれより多い金属酸化物又はそれらの混合物を用いて内部及び外部表面上で分光増感された2.9eVより大きいバンドギャップを有する多孔質金属酸化物半導体によって実現される。
【0024】
本発明の側面は、また、2.9eVより大きいバンドギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物を準備し、熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解されると2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物を与える金属化合物又は塩の溶液を適用し、金属塩が適用された2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物を加熱して、塩を熱分解するか又は加水分解し且つ続いて熱分解し、2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物とする段階を含んでなる、2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物を分光増感するための方法によって実現される。
【0025】
本発明の側面は、また、(i)2.9eVより大きいバンド−ギャップを有する金属酸化物半導体に熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解される金属化合物又は塩ならびに2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物に熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解される金属化合物又は塩を含有する溶液を調製し、(ii)段階(i)で調製された溶液に水溶性ポリマーを加え、(iii)段階(ii)で調製された溶液を支持体上にコーティングし、そして(iv)段階(iii)で調製されたコーティングされた支持体を、水溶性ポリマーがもはやコーティング支持体(coating support)中に存在しない温度に加熱する段階を含んでなる、2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物をその内部及び外部表面上で分光増感するための方法によって実現される。
【0026】
本発明の側面は、また、2.9eV未満のバンド−ギャップを有する1種もしくはそれより多い金属酸化物又はそれらの混合物を用いて内部及び外部表面上において分光増感された2.9eVより大きいバンドギャップを有する多孔質金属酸化物半導体を含んでなる光電池(photovoltaic cell)によって実現される。
【0027】
本発明の側面は、また、2.9eVより大きいバンドギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物を準備し、熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解されると2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物を与える金属化合物又は塩の溶液を適用し、該金属塩が適用された該2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物を加熱して、該塩を熱分解するか又は加水分解し且つ続いて熱分解し、該2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物とする段階を含んでなる、2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物をその内部及び外部表面上で分光増感するための方法に従って調製される多孔質金属酸化物半導体を含んでなる第2の光電池によって実現される。
【0028】
本発明の側面は、また、i)2.9eVより大きいバンド−ギャップを有する金属酸化物半導体に熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解される金属化合物又は塩ならびに2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物に熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解される金属化合物又は塩を含有する溶液を調製し、(ii)段階(i)で調製された溶液に水溶性ポリマーを加え、(iii)段階(ii)で調製された溶液を支持体上にコーティングし、そして(iv)段階(iii)で調製されたコーティングされた支持体を、該水溶性ポリマーがもはや該コーティング支持体中に存在しない温度に加熱する段階を含んでなる、2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物をその内部及び外部表面上で分光増感するための方法に従って調製される多孔質金属酸化物半導体を含んでなる第3の光電池によって実現される。
【0029】
好ましい態様は従属クレイムにおいて開示される。
発明の詳細な記述
図1は、増感されない、曲線a;AgOで増感された、曲線b;Vで増感された、曲線c;Feで増感された、曲線d;及びCuOで増感された、曲線e:のナノ−多孔質TiO層に関する、nmにおける波長[λ]への吸光度[A]の依存性を示す。
【0030】
図2は、増感されないTiO、曲線a;0.024:1のV対TiOモル比、曲線b;0.048:1のV対TiOモル比、曲線c;0.073:1のV対TiOモル比、曲線d;及び0.097:1のV対TiOモル比、曲線e:に関するnmにおける波長[λ]への吸光度[A]の依存性を示す。
【0031】
図3は、0.073:1のV対TiOモル比を有する多孔質TiO層の暗視野透過型電子顕微鏡写真である。125nmのすじは、大体顕微鏡写真中のテキスト(text)の長さである。
【0032】
定義
多孔質金属酸化物半導体という用語は、その体積の少なくとも15%且つ90%以下の割合になる孔を有する金属酸化物半導体を意味する。
【0033】
ナノ−多孔質金属酸化物半導体という用語は、100nmかもしくはそれ未満の寸法を有する孔を有し、そして少なくとも20m/g且つ300m/g以下の内部表面積を有する金属酸化物半導体を意味する。
【0034】
「2種もしくはそれより多い金属酸化物の混合物」という用語は、それらの単純な混合物、それらの混晶及び金属置き換えによる金属酸化物のドーピングを含む。
【0035】
内部表面という用語は、多孔質材料の内部の孔の表面を意味する。
【0036】
本発明の目的のための分光増感剤という用語は、電磁線、例えば光の波長への、分光増感されている種の応答を向上させる、すなわちそれを分光増感する能力を有する種を意味する。
【0037】
本発明の目的のための水性という用語は、少なくとも60容量%の水、好ましくは少なくとも80容量%の水を含有し、且つ場合により水−混和性有機溶媒、例えばアルコール類、例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、イソ−アミルアルコール、オクタノール、セチルアルコールなど;グリコール類、例えばエチレングリコール;グリセリン;N−メチルピロリドン;メトキシプロパノール;ならびにケトン類、例えば2−プロパノン及び2−ブタノンなどを含有することができることを意味する。
【0038】
「支持体」という用語は「自己支持性材料」を意味し、支持体上にコーティングされ得るがそれ自身は自己支持性でない「層」からそれを区別する。それは支持体への接着に必要な処理又はそれを助けるために適用される層も含む。
【0039】
連続層という用語は、支持体の全領域を覆う1つの平面における層を指し、必ずしも支持体と直接接触してはいない。
【0040】
非−連続層という用語は、支持体の全領域を覆っていない1つの平面における層を指し、必ずしも支持体と直接接触してはいない。
【0041】
コーティングという用語は、カーテンコーティング、ドクター−ブレードコーティングなどのような連続層の形成のためのすべての方法ならびにスクリーン印刷、インキジェット印刷、フレキソグラフィー印刷及び連続層の形成のための方法のような非−連続層の形成のためのすべての方法を含む、層の適用のためのすべての手段を含む一般的用語として用いられる。
【0042】
PEDOTという略語は、ポリ(3,4−エチレンジオキシ−チオフェン)を示す。
【0043】
PSSという略語は、ポリ(スチレンスルホン酸)又はポリ(スチレンスルホネート)を示す。
【0044】
多孔質金属酸化物半導体
本発明の側面は、2.9eV未満のバンド−ギャップを有する1種もしくはそれより多い金属酸化物又はそれらの混合物を用いて内部及び外部表面上で分光増感された2.9eVより大きいバンドギャップを有する多孔質金属酸化物半導体により実現される。
【0045】
本発明に従う2.9eVより大きいバンドギャップを有する多孔質金属酸化物半導体の第1の態様に従うと、多孔質金属酸化物半導体はナノ−多孔質である。
【0046】
本発明に従う多孔質金属酸化物半導体の第2の態様に従うと、2.9eVより大きいバンドギャップを有する多孔質金属酸化物半導体はn−型半導体である。
【0047】
本発明に従う2.9eVより大きいバンドギャップを有する多孔質金属酸化物半導体の第3の態様に従うと、2.9eVより大きいバンドギャップを有する多孔質金属酸化物半導体は酸化チタン、酸化錫、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化タングステン及び酸化亜鉛より成る群から選ばれる。
【0048】
本発明に従う多孔質金属酸化物半導体の第4の態様に従うと、2.9eVより大きいバンドギャップを有する多孔質金属酸化物半導体は二酸化チタンである。
【0049】
本発明に従う多孔質金属酸化物半導体の第5の態様に従うと、多孔質金属酸化物は有機もしくは有機金属分光増感剤を排除する。
【0050】
2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物
本発明に従う多孔質金属酸化物の第6の態様に従うと、2.9eV未満のバンド−ギャップを有する1種もしくはそれより多い金属酸化物又はそれらの混合物対多孔質金属酸化物半導体のモル比は0.001対1の範囲内である。
【0051】
本発明に従う多孔質金属酸化物の第7の態様に従うと、2.9eV未満のバンド−ギャップを有する1種もしくはそれより多い金属酸化物又はそれらの混合物対多孔質金属酸化物半導体のモル比は0.01対0.2の範囲内である。
【0052】
本発明に従う多孔質金属酸化物の第8の態様に従うと、2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物は:酸化カドミウム(II)、酸化パラジウム(I)、酸化白金(II)、酸化ニッケル(II)、酸化マンガン(III)、酸化クロム(III)、酸化バナジウム(V)、酸化バナジウム(III)、酸化鉄(III)、酸化鉛(II,III)及び酸化銅(II)より成る群から選ばれる。
【0053】
本発明に従う多孔質金属酸化物の第9の態様に従うと、2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物は:酸化バナジウム(V)、酸化鉄(III)及び酸化銅(II)より成る群から選ばれる。
【0054】
リン酸又はリン酸塩
本発明に従う多孔質金属酸化物半導体の第10の態様に従うと、多孔質金属酸化物半導体はさらにリン酸又はリン酸塩を含有する。
【0055】
本発明に従う多孔質金属酸化物半導体の第11の態様に従うと、多孔質金属酸化物半導体はさらにオルトリン酸、亜リン酸、次亜リン酸及びポリリン酸より成る群から選ばれるリン酸を含有する。
【0056】
ポリリン酸には二リン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、メタリン酸及び「ポリリン酸」が含まれる。
【0057】
本発明に従う多孔質金属酸化物半導体の第12の態様に従うと、多孔質金属酸化物半導体はさらにオルトリン酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩及びポリリン酸塩より成る群から選ばれるリン酸塩を含有する。
【0058】
ポリリン酸塩は線状ポリリン酸塩、環状ポリリン酸塩又はそれらの混合物である。線状ポリリン酸塩は2〜15個のリン原子を含有し、ピロリン酸塩、二リン酸塩、三リン酸塩及び四リン酸塩を含む。環状ポリリン酸塩は3〜8個のリン原子を含有し、トリメタリン酸塩及びテトラメタリン酸塩及びメタリン酸塩を含む。
【0059】
ポリリン酸は、HPOを十分なP10(無水リン酸)と一緒に加熱することにより、又はHPOを加熱して水を除去することにより製造することができる。72.74%のP10を含有するP10/HO混合物は純粋なHPOに相当するが、通常の商用銘柄の酸はもっと多くの水を含有する。P10含有量と共に、H、ピロリン酸がP〜Pピロリン酸と一緒に生成する。三リン酸は71.7%Pにおいて現れ(H10)、四リン酸(H13)は約75.5%Pにおいて現れる。そのような線状ポリリン酸は2〜15個のリン原子を有し、それらのそれぞれが強く酸性のOH基を有する。さらに、2個の末端P原子はそれぞれ弱く酸性のOH基に結合している。低分子量ポリリン酸から閉環により生成する環状ポリリン酸又はメタリン酸、H3nは、比較的小数の環原子を有する(n=3〜8)。環中の各原子は1個の強く酸性のOH基に結合している。高分子量(high)線状及び環状ポリリン酸は、82%Pより高い酸濃度においてのみ存在する。市販のリン酸は82〜85重量%のP含有率を有する。それは約55%の三リン酸を含み、残りはHPO及び他のポリリン酸である。
【0060】
本発明に従って用いるのに適したポリリン酸は、ACROSにより供給される84%(Pとして)ポリリン酸である(Cat.no.19695−0025)。
【0061】
2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物を用いる
多孔質金属酸化物半導体の分光増感のための方法
本発明の側面は、2.9eVより大きいバンドギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物を準備し、熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解されると2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物を与える金属化合物又は塩の溶液を適用し、金属塩が適用された2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物を加熱して、塩を熱分解するか又は加水分解し且つ続いて熱分解し、2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物とする段階を含んでなる、2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物をその内部及び外部表面上で分光増感するための方法によっても実現される。
【0062】
本発明の側面は、(i)2.9eVより大きいバンド−ギャップを有する金属酸化物半導体に熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解される金属化合物又は塩ならびに2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物に熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解される金属化合物又は塩を含有する溶液を調製し、(ii)段階(i)で調製された溶液に水溶性ポリマーを加え、(iii)段階(ii)で調製された溶液を支持体上にコーティングし、そして(iv)段階(iii)で調製されたコーティングされた支持体を、水溶性ポリマーがもはやコーティング支持体中に存在しない温度に加熱する段階を含んでなる、2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物をその内部及び外部表面上で分光増感するための第2の方法によっても実現される。
【0063】
適した金属化合物にはアルコキシ−誘導体のような有機金属化合物が含まれる。適した金属塩にはハライド、水酸化物、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩及びEDTAとの塩が含まれる。金属塩は水溶液として用いられ、金属化合物は有機溶媒を含有する溶液として用いられる。
【0064】
本発明に従う方法の第1の態様に従うと、水溶液はさらにリン酸又はリン酸塩を含有する。
【0065】
リン酸又はリン酸塩は、例えば、本発明に従う多孔質金属酸化物半導体、例えばナノ−多孔質二酸化チタンが浸漬される金属塩溶液中に存在することができる。リン酸又はリン酸塩は加熱プロセスの間に分解しないが、加熱プロセスの完了後に脱イオン水を用いて除去され得、そうすると多孔質メソスコ−ピック二酸化チタンの多孔度における向上が実現され、従って液体電池中における電解質によるより高い浸透度及びより高い短絡電流が実現される。
【0066】
あるいはまた、リン酸又はリン酸塩は、水溶性ポリマーの存在下で加熱されると多孔質金属酸化物半導体及び2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物に変換される塩を含有する層の加熱の間に存在し、加熱の後に脱イオン水で洗い流され、それにより得られる多孔質金属酸化物半導体の多孔度を向上させることもできる。
【0067】
本発明に従う方法の第2の態様に従うと、水溶液は、2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物に熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解される1種もしくはそれより多いさらに別の金属化合物又は塩を含有する。
【0068】
水溶性ポリマー
本発明の側面は、(i)2.9eVより大きいバンド−ギャップを有する金属酸化物半導体に熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解される金属化合物又は塩ならびに2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物に熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解される金属化合物又は塩を含有する溶液を調製し、(ii)段階(i)で調製された溶液に水溶性ポリマーを加え、(iii)段階(ii)で調製された溶液を支持体上にコーティングし、そして(iv)段階(iii)で調製されたコーティングされた支持体を、水溶性ポリマーがもはやコーティング支持体中に存在しない温度に加熱する段階を含んでなる、2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物をその内部及び外部表面上で分光増感するための方法により実現される。
【0069】
本発明に従う方法において用いるのに適した水溶性ポリマーにはポリビニルピロリドン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、タンパク質性ポリマー、例えばゼラチン、セルロース誘導体ならびに炭水化物、例えばデンプン及び糖類が含まれる。
【0070】
支持体
本発明に従って用いるための支持体には、場合により隣接層への接着を助けるために処理されているか、下塗り層又は他の接着促進手段が設けられていることができるポリマーフィルム、ケイ素、セラミックス、酸化物、ガラス、ポリマーフィルム強化ガラス、ガラス/プラスチック積層物、金属/プラスチック積層物、紙及び積層紙が含まれる。適したポリマーフィルムは、場合によりコロナ放電又はグロー放電により処理されているか、あるいは下塗り層が設けられていることができるポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレート)、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリイミド、セルローストリアセテート、ポリオレフィン及びポリ(塩化ビニル)である。
【0071】
光起電力装置
本発明の側面は、2.9eV未満のバンド−ギャップを有する1種もしくはそれより多い金属酸化物又はそれらの混合物を用いて内部及び外部表面上において分光増感された2.9eVより大きいバンドギャップを有する多孔質金属酸化物半導体を含んでなる光電池によっても実現される。
【0072】
本発明の側面は、2.9eVより大きいバンドギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物を準備し、熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解されると2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物を与える金属化合物又は塩の溶液を適用し、該金属塩が適用された該2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物を加熱して、該塩を熱分解するか又は加水分解し且つ続いて熱分解し、該2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物とする段階を含んでなる、2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物をその内部及び外部表面上で分光増感するための方法に従って調製される多孔質金属酸化物半導体を含んでなる第2の光電池によっても実現される。
【0073】
本発明の側面は、(i)2.9eVより大きいバンド−ギャップを有する金属酸化物半導体に熱分解されるか、又は加水分解され且つ続いて熱分解される金属化合物又は塩ならびに2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物に熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解される金属化合物又は塩を含有する溶液を調製し、(ii)段階(i)で調製された溶液に水溶性ポリマーを加え、(iii)段階(ii)で調製された溶液を支持体上にコーティングし、そして(iv)段階(iii)で調製されたコーティングされた支持体を、該水溶性ポリマーがもはや該コーティング支持体中に存在しない温度に加熱する段階を含んでなる、2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物をその内部及び外部表面上で分光増感するための方法に従って調製される多孔質金属酸化物半導体を含んでなる第3の光電池によっても実現される。
【0074】
本発明に従う分光増感されたナノ−多孔質金属酸化物が導入された光起電力装置は2つの型:正味の化学変化を後に残さずに光を電力に変換し、電流−伝搬電子(current−carrying electron)が陽極及び外部回路に輸送され、正孔が陰極に輸送され、そこでそれらが外部回路からの電子により酸化される再生型ならびに半導体電極の表面で正孔と反応するもの及び対極に入る電子と反応するものの2つのレドックス系があり、例えば水が半導体光電陽極において酸素に酸化され、陰極において水素に還元される光合成型のものであることができる。Graetzel電池により代表されるような再生型の光電池の場合、正孔輸送媒体はレドックス反応を支持する液体電解質、レドックス反応を支持するゲル電解質、2,2’,7,7’−テトラキス(N,N−ジ−p−メトキシフェニル−アミン)9,9’−スピロビフルオレン(OMeTAD)もしくはトリフェニルアミン化合物のような低分子量材料又はポリマー、例えばPPV−誘導体、ポリ(N−ビニルカルバゾール)などであることができる有機正孔輸送材料あるいはCuI、CuSCNなどのような無機半導体であることができる。電荷輸送プロセスは、液体電解質又はゲル電解質の場合のようにイオン的であるか、又は有機もしくは無機正孔輸送材料の場合のように電子的であることができる。
【0075】
そのような再生型光起電力装置は、末端用途に適した多様な内部構造を有することができる。考えられる形態はおおまかに2つの型:両側から光を受ける構造及び片側から光を受ける構造に分けられる。前者の例は、透明的に伝導性の層、例えばITO−層又はPEDOT/PSS−含有層ならびに透明対極電気伝導層、例えばITO−層又はPEDOT/PSS−含有層から作られ、それらの間に感光層及び電荷輸送層がはさまれている構造である。そのような装置は、内部物質の変質又は揮発を防ぐために、好ましくはそれらの面がポリマー、接着剤又は他の手段で密封される。電気伝導性基質及び対極にそれぞれのリード線を介して連結された外部回路は周知である。
【0076】
あるいはまた、本発明に従う分光増感されたナノ−多孔質金属酸化物を、1991年にGraetzel et al.によりNature,volume 353,pages 737−740において、1998年にU.Bach et al.により[Nature,volume 395,pages 583−585(1998)を参照されたい]、及び2002年にW.U.Huynh et al.により[Science,volume 295,pages 2425−2427(2002)を参照されたい]記載されているようなハイブリッド光起電力組成物中に導入することができる。これらのすべての場合、成分(光吸収剤、電子輸送物質又は正孔輸送物質)の少なくとも1つは無機(例えば電子輸送物質としてナノ−TiO、光吸収剤及び電子輸送物質としてCdSe)であり、且つ成分の少なくとも1つは有機(例えば正孔輸送物質としてトリフェニルアミン又は正孔輸送物質としてポリ(3−ヘキシルチオフェン))である。
【0077】
工業的用途
本発明に従う多孔質金属酸化物半導体を再生型及び光合成型光起電力装置の両方において用いることができる。
【0078】
本発明を下記において参照光起電力装置及び本発明の光起電力装置により例示する。これらの実施例において示されるパーセンテージ及び比率は、他にことわらない限り重量による。
【実施例1】
【0079】
ナノ−酸化物粒子のその場調製において用いられる溶液の調製
溶液1:
16.99gの硝酸銀を脱イオン水中に溶解し、脱イオン水を用いて100mLに補足することにより、硝酸銀の1M水溶液を調製した。
溶液2:
15.73gの塩化バナジウム(III)を脱イオン水中に溶解し、脱イオン水を用いて100mLに補足することにより、塩化バナジウム(III)の1M水溶液を調製した。
溶液3:
16.22gの塩化鉄(III)を脱イオン水中に溶解し、脱イオン水を用いて100mLに補足することにより、塩化鉄(III)の1M水溶液を調製した。
溶液4:
13.45gの塩化銅(II)を脱イオン水中に溶解し、脱イオン水を用いて100mLに補足することにより、塩化銅(II)の1M水溶液を調製した。
【0080】
ナノ−多孔質TiO層上におけるナノ−酸化物の有効な吸着
ガラス基質(FLACHGLAS AG)をエタノール中で5分間、超音波により清浄化し、次いで乾燥した。5gのP25、DEGUSSAからの25nmの平均粒度及び55m/gの比表面積を有するナノ−寸法二酸化チタンを15mLの水に加え、次いで1mLのTriton X−100を加えた。得られる二酸化チタンコロイド分散液を氷中で冷却し、5分間超音波処理した。
【0081】
次いで二酸化チタン分散液をガラス基質上にドクターブレードコーティングし、コーティングされた層を450℃に30分間加熱した。レーザープロフィロメトリー(laserprofilometry)(DEKTRAKTM プロフィロメーター)により、ダイアモンド−尖端プローブ(Perthometer)を用いて機械的に、及び干渉測定により立証される通り、2μmの乾燥層厚さが得られた。
【0082】
焼結段階の後、二酸化チタンがコーティングされたガラス板を、150℃におけるホットプレート上にそれらを10分間置くことにより150℃に冷まし、次いですぐに表1に示される特定の金属塩溶液中に1分間浸漬した。溶液中に含有される金属塩は、それにより多孔質二酸化チタンの内部表面上に付着した。次いで金属塩を有する酸化チタンを再び450℃に1時間加熱した。そのような反応条件下で硝酸銀は酸化銀に分解し、塩化バナジウム(III)、鉄(III)及び塩化銅(II)は対応する水酸化物に加水分解され、それらが今度は対応する酸化物に分解され、それらは、焼結された二酸化チタンの18nmの孔−寸法を見ると、おそらく少なくとも部分的にナノ−粒子として存在するであろう。冷却後、ISR−3100積分球(integration sphere)を有するShimadzu UV−3101 PC 分光光度計を用い、反射モードで吸収測定を行なった。
【0083】
得られる吸収スペクトルを図1に、nmにおける波長[λ]への吸光度[A]の依存性として示す:曲線aは増感なしのナノ−多孔質TiO層を示し、曲線bはAgO(溶液1)を用いて増感されたナノ−多孔質TiO層を示し、曲線cはV(溶液2)を用いて増感されたナノ−多孔質TiO層を示し、曲線dはFe(溶液3)を用いて増感されたナノ−多孔質TiO層を示し、曲線eはCuO(溶液4)を用いて増感されたナノ−多孔質TiO層を示す。
【0084】
図1から、溶液2、3及び4中に含有される金属塩から生成する金属酸化物の存在は、焼結された二酸化チタン層において可視光の強い吸収を生じたと結論することができる。Martin et al.は1994年にJournal of Physical Chemistry,volume 98,pages 13695−13704において、加水分解されたチタン(IV)テトライソプロポキシド及び塩化バナジウム(III)の200〜400℃における焼結により調製されるバナジウムがドーピングされた二酸化チタンはTiO上にVの表面島を生じ、V4+イオンはTiO格子中に導入されないと報告した。
【0085】
図1中の曲線cの吸収スペクトルと種々のTiO/V層に関する吸収スペクトルとの比較は、図2の曲線eのモル比と類似のV対TiOモル比、すなわち0.097:1においてVがナノ−多孔質中視的二酸化チタン層中に付着することを示す。
【実施例2】
【0086】
液体光起電力装置における評価
以下の方法により光起電力装置1〜5を製造した:
前面電極(front electrode)の製造
約15オーム/平方の表面伝導度を有する伝導性SnO:F(Pilkington TEC15/3)がコーティングされたガラス板(2x7cm)を、イソプロパノール中で超音波により5分間清浄化し、次いで乾燥した。
【0087】
電極から境界においてテープを剥がし(taped off)、それに中央部分(0.7x4.5cm)において実施例1で記載したP25二酸化チタンコロイド分散液をドクターブレードコーティングし、焼結の後に2.0μmの層厚さを得た。
【0088】
装置2、3及び4のためのそれぞれ前面電極2、3及び4は、実施例1に記載した対応する二酸化チタン層に類似して製造された。装置1のための前面電極1の製造の場合、2回目の焼結の前に溶液の代わりに脱イオン水を用いることを除いて、前面電極2、3及び4の場合と同じ方法を用いた。
【0089】
それにより製造される前面電極を電池の組み立てにおいてすぐに使用した。
電池組み立て
背面電極(back electrode)(電解質の還元を触媒するために白金と一緒に蒸発させたSnO:Fガラス(Pilkington TEC15/3)より成る)を、Surlyn(DuPont)の2つの予備−パターン化された層(2x7cmであり、中央の1x6cmが除去されている)を間にして前面電極と一緒に密封した。これはホットプレート上で100℃より少し高い温度で行なわれた。密封が完了したらすぐに電池を25℃に冷まし、対極中の穴を介して電解質を加えた。用いられる電解質は、アセトニトリル中の0.5M LiI、0.05M I及び0.4M t−ブチルピリジンの溶液であり、電池の組み立ての間に電池中に注入された。次いでSurlyn及び薄いガラス片で穴を密封した。測定の間に電気を集めるために、電池の両方の長面上に伝導性テープを取り付けた。電池組み立ての直後に測定を行なった。
装置の特性化
それにより製造された光電池を、100mW/cmの出力を有するキセノンアーク放電ランプを用いて照射した。Keithley電流計(2420型)を用い、発生する電流を記録した。発生する電流の質から計算される光電池の開路電圧(Voc)、短絡電流密度(Isc)及び充填因子(Fill Factor)(FF)を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
表2から、低いバンド−ギャップの遷移金属酸化物のナノ−粒子を用い、液体光電池における中視的二酸化チタンの分光増感を行い得ることを結論することができる。酸化鉄(III)及び銅(II)を用いる分光増感は、酸化バナジウム(V)を用いる分光増感よりずっと強いようであり、それは少なくとも一部には、酸化バナジウム(III)−増感中視的二酸化チタン層の実質的により低い吸収の故であった。
【実施例3】
【0092】
二酸化チタンの酸化バナジウムとの共沈降
表4に特定の溶液に関して示されている成分を25℃で一緒に混合することにより、以下の溶液を調製した。
【0093】
【表2】

【0094】
これらの溶液を100℃で1時間還流させ、その間に対応するナノ−Ti(V)O分散液が得られた。次いでこれらの分散液をガラス上にコーティングし、450℃で30分間加熱し、約2μmの層厚さを得た。
【0095】
Martin et al.は1994年にJournal of Physical Chemistry,volume 98,pages 13695−13704において、加水分解されたチタン(IV)テトライソプロポキシド及び塩化バナジウム(III)の200〜400℃における焼結により調製されるバナジウムがドーピングされた二酸化チタンはTiO上にVの表面島を生じ、V4+イオンはTiO格子中に導入されないと報告した。従って層はVの表面島を有するTiOから成った。得られるVの表面島を有するTiOの層の吸収スペクトルを、種々のV対TiOのモル比に関して図2に示し、その図において曲線aは増感されないTiOの場合の吸光度の波長への依存性を示し、曲線bは0.024:1のV対TiOのモル比の場合の吸光度の波長への依存性を示し、曲線cは0.048:1のV対TiOのモル比の場合の吸光度の波長への依存性を示し、曲線dは0.073:1のV対TiOのモル比の場合の吸光度の波長への依存性を示し、曲線eは0.097:1のV対TiOのモル比の場合の吸光度の波長への依存性を示す。
【0096】
図2から、可視光の吸収は、焼結された多孔質二酸化チタン層におけるV対TiOのモル比の上昇とともに増加すると結論することができる。
【0097】
図3は、0.073:1のV対TiOのモル比の場合の暗視野透過型電子顕微鏡写真である。125μmのすじは見えないが、大体顕微鏡写真中のテキストと同じ長さである。生成する粒子はナノ−粒子でないように見えるが、ナノ−粒子の凝集物であり得る。粒子の端は酸化バナジウムが濃縮されているようであり、それは上記のMartin et al.の発見を確証している。
【0098】
本発明は、暗黙にもしくは明白に本明細書中で開示されているいずれの特徴又は特徴の組み合わせあるいはそれらの一般化をも、それが現在特許請求されている発明に関連するかどうかに無関係に含むことができる。前記の記述を見て、本発明の範囲内で種々の修正を成し得ることが当該技術分野における熟練者に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】増感されない、及び種々の金属酸化物で増感されたナノ−多孔質TiO層に関するnmにおける波長[λ]への吸光度[A]の依存性を示すグラフ図。
【図2】増感されない、及び種々のV対TiOモル比の場合のTiOに関するnmにおける波長[λ]への吸光度[A]の依存性を示すグラフ図。
【図3】0.073:1のV対TiOモル比を有する多孔質TiO層の暗視野透過型電子顕微鏡写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2.9eV未満のバンド−ギャップを有する1種もしくはそれより多い金属酸化物又はそれらの混合物を用いて内部及び外部表面上で分光増感された2.9eVより大きいバンドギャップを有する多孔質金属酸化物半導体。
【請求項2】
該2.9eVより大きいバンドギャップを有する多孔質金属酸化物半導体がn−型半導体である請求項1に従う多孔質金属酸化物半導体。
【請求項3】
該2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物が酸化バナジウム(V)、酸化鉄(III)及び酸化銅(II)より成る群から選ばれる請求項1又は2に従う多孔質金属酸化物半導体。
【請求項4】
該2.9eV未満のバンド−ギャップを有する1種もしくはそれより多い金属酸化物又はそれらの混合物対該多孔質金属酸化物半導体のモル比が0.2〜0.001対1の範囲内である請求項1〜3のいずれかに従う多孔質金属酸化物半導体。
【請求項5】
該多孔質金属酸化物半導体がさらにリン酸又はリン酸塩を含有する請求項1〜4のいずれかに従う多孔質金属酸化物半導体。
【請求項6】
該多孔質金属酸化物半導体がナノ−多孔質である請求項1〜5のいずれかに従う多孔質金属酸化物半導体。
【請求項7】
該2.9eVより大きいバンドギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物半導体が酸化チタン、酸化錫、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化タングステン及び酸化亜鉛より成る群から選ばれる請求項6に従う多孔質金属酸化物半導体。
【請求項8】
該2.9eVより大きいバンドギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物半導体が二酸化チタンである請求項6又は7に従う多孔質金属酸化物半導体。
【請求項9】
2.9eVより大きいバンドギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物を準備し、熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解されると2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物を与える金属化合物又は塩の溶液を適用し、該金属塩が適用された該2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物を加熱して、該塩を熱分解するか又は加水分解し且つ続いて熱分解し、該2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物とする段階を含んでなる、2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物をその内部及び外部表面上で分光増感するための方法。
【請求項10】
該水溶液がさらにリン酸又はリン酸塩を含有する請求項9に従う方法。
【請求項11】
該水溶液が、2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物に熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解される1種もしくはそれより多いさらに別の金属化合物又は塩を含有する請求項9〜10のいずれかに従う方法。
【請求項12】
(i)2.9eVより大きいバンド−ギャップを有する金属酸化物半導体に熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解される金属化合物又は塩ならびに2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物に熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解される金属化合物又は塩を含有する溶液を調製し、(ii)段階(i)で調製された溶液に水溶性ポリマーを加え、(iii)段階(ii)で調製された溶液を支持体上にコーティングし、そして(iv)段階(iii)で調製されたコーティングされた支持体を、該水溶性ポリマーがもはや該コーティング支持体中に存在しない温度に加熱する段階を含んでなる、2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物をその内部及び外部表面上で分光増感するための第2の方法。
【請求項13】
該水溶液がさらにリン酸又はリン酸塩を含有する請求項12に従う第2の方法。
【請求項14】
該水溶液が、2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物に熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解される1種もしくはそれより多いさらに別の金属化合物又は塩を含有する請求項12又は13のいずれかに従う方法。
【請求項15】
2.9eV未満のバンド−ギャップを有する1種もしくはそれより多い金属酸化物又はそれらの混合物を用いて内部及び外部表面上において分光増感された2.9eVより大きいバンドギャップを有する多孔質金属酸化物半導体を含んでなる光電池。
【請求項16】
2.9eVより大きいバンドギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物を準備し、熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解されると2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物を与える金属化合物又は塩の溶液を適用し、該金属塩が適用された該2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物を加熱して、該塩を熱分解するか又は加水分解し且つ続いて熱分解し、該2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物とする段階を含んでなる、2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物をその内部及び外部表面上で分光増感するための方法に従って調製される多孔質金属酸化物半導体を含んでなる第2の光電池。
【請求項17】
(i)2.9eVより大きいバンド−ギャップを有する金属酸化物半導体に熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解される金属化合物又は塩ならびに2.9eV未満のバンド−ギャップを有する金属酸化物に熱分解されるか又は加水分解され且つ続いて熱分解される金属化合物又は塩を含有する溶液を調製し、(ii)段階(i)で調製された溶液に水溶性ポリマーを加え、(iii)段階(ii)で調製された溶液を支持体上にコーティングし、そして(iv)段階(iii)で調製されたコーティングされた支持体を、該水溶性ポリマーがもはや該コーティング支持体中に存在しない温度に加熱する段階を含んでなる、2.9eVより大きいバンド−ギャップを有するナノ−多孔質金属酸化物をその内部及び外部表面上で分光増感するための方法に従って調製される多孔質金属酸化物半導体を含んでなる第3の光電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−500764(P2006−500764A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−528513(P2004−528513)
【出願日】平成15年7月29日(2003.7.29)
【国際出願番号】PCT/EP2003/050345
【国際公開番号】WO2004/017345
【国際公開日】平成16年2月26日(2004.2.26)
【出願人】(504376795)アグフア−ゲヴエルト (24)
【Fターム(参考)】