説明

金属酸化物膜の製造方法

【課題】本発明は、結晶性や結晶構造の結晶状態が、段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を、簡便な方法により得ることができる金属酸化物膜の製造方法を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、金属源として金属塩または有機金属化合物が溶解し、かつ、金属酸化物膜の結晶状態を変化させる酸の濃度が異なる金属酸化物膜形成用溶液を、上記酸の濃度を変化させつつ、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材に接触させることにより、上記基材上に、結晶状態が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を形成することを特徴とする金属酸化物膜の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性や結晶構造の結晶状態が、段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を、簡便な方法により得ることができる金属酸化物膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属酸化物膜は様々な優れた物性を示すことが知られており、その特性を活かして、透明導電膜、光学薄膜、燃料電池用電解質等、幅広い分野において使用されている。このような金属酸化物膜の製造方法としては、例えば、ゾルゲル法、スパッタリング法、CVD法、PVD法、印刷法、レーザーアブレーション法等が知られている(例えば特許文献1および2)。
【0003】
一方、このような金属酸化物膜を得る別の方法として、スプレー熱分解法が提案されている。スプレー熱分解法は、金属酸化物膜を構成する金属源を含有した溶液を、高温の基材に噴霧することにより金属酸化物膜を得る方法であり、通常500℃程度に加熱した基材を使用することから、瞬時に溶媒が蒸発し、金属源が熱分解反応を起こすため、短時間かつ簡略化された工程で金属酸化物膜を得ることができるという利点を有する。
【0004】
このようなスプレー熱分解法の研究として、例えば、特許文献3においては、TiO前駆体を含む溶液に過酸化水素又はアルミニウムアセチルアセトナートを添加して原料溶液を調製し、500℃程度に高温保持された基材に上記原料溶液を間歇噴霧することによりTiO前駆体をTiOに熱分解し、基材上に多孔質のTiO薄膜を得る方法が開示されている。また、例えば、特許文献4は、特許文献3と同様に熱分解スプレー法により多孔質のTiO薄膜を得る方法であるが、原料溶液に可溶性チタン化合物を加えた溶液を添加することにより、TiO薄膜と基材との密着性向上を図るものであった。
【0005】
このように、スプレー熱分解法は、短時間かつ簡略化された工程で金属酸化物膜を得ることができる方法ではあるものの、得られる金属酸化物膜の結晶性や結晶構造は、材料の金属源の種類等に依存するため、所望の結晶状態を有する金属酸化物膜を得ることができない場合があった。また、例えば、半導体やエレクトロニクス分野における光学薄膜、絶縁/導電膜の界面等においては、金属酸化物膜の基材側表面の結晶性は高いことが好ましく、基材側表面とは反対側の表面の結晶性は低いことが好ましい。このように、積層方向等において、結晶状態が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜が望まれているが、このような金属酸化物膜はこれまで知られていなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2002−348665号公報
【特許文献2】特開平4−361239号公報
【特許文献3】特開2002−145615号公報
【特許文献4】特開2003−176130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、結晶性や結晶構造の結晶状態が、段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を、簡便な方法により得ることができる金属酸化物膜の製造方法を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、これまでの研究により、酸を金属酸化物膜形成用溶液に添加すると、酸を添加していない金属酸化物膜形成用溶液を用いて得られた金属酸化物膜と比較して、結晶状態が変化した金属酸化物膜を得ることができることを見出している。具体的には、金属酸化物膜の結晶性を高めたり、結晶性を低めて非晶質にしたり、あるいは結晶構造を変化させたりする等の膜質調整を行うことが可能であることを明らかにしている。なお、この現象の詳細な原理は必ずしも明らかではないが、酸を添加することにより、金属イオンを取り囲む溶媒の状況が変化し、その結果、金属源が熱分解して形成される金属酸化物膜の結晶状態が変化するからであると考えられる。
【0009】
本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、金属酸化物膜形成用溶液に含まれる酸の濃度を経時的に変化させることにより、結晶性や結晶構造の結晶状態が、段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を形成することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明においては、金属源として金属塩または有機金属化合物が溶解し、かつ、金属酸化物膜の結晶状態を変化させる酸の濃度が異なる金属酸化物膜形成用溶液を、上記酸の濃度を変化させつつ、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材に接触させることにより、上記基材上に、結晶状態が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を形成することを特徴とする金属酸化物膜の製造方法を提供する。
【0011】
本発明によれば、金属酸化物膜形成用溶液を、酸の濃度を変化させつつ、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材に接触させることにより、結晶性や結晶構造の結晶状態が、段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を、簡便な方法により得ることができる。
【0012】
上記発明においては、上記酸が、HF、HCl、HBr、HNO、HNO、HSOまたはHPOであることが好ましい。金属酸化物膜の結晶状態を効果的に変化させることができるからである。
【0013】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、さらにドーピング金属源を含有することが好ましい。ドーピング金属源を用いることにより、機能性酸化物膜を得ることができるからである。
【0014】
上記発明においては、上記金属源を構成する金属元素が、Mg、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、Ca、Cr、Ga、Sr、Nb、Mo、Pd、Sb、Te、Ba、WまたはTaであることが好ましい。種々の用途に有用な金属酸化物膜を得ることができるからである。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、結晶性や結晶構造の結晶状態が、段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を、簡便な方法により得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の金属酸化物膜の製造方法について詳細に説明する。
【0017】
本発明の金属酸化物膜の製造方法は、金属源として金属塩または有機金属化合物が溶解し、かつ、金属酸化物膜の結晶状態を変化させる酸の濃度が異なる金属酸化物膜形成用溶液を、上記酸の濃度を変化させつつ、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材に接触させることにより、上記基材上に、結晶状態が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を形成することを特徴とするものである。
【0018】
なお、本発明において、「結晶状態」とは、結晶性および結晶構造を意味する。金属酸化物膜の結晶性の観点から考えると、本発明においては、酸の濃度を変化させることにより、得られる金属酸化物膜の結晶性を、段階的または連続的に、高めたり、低めたりすることができる。一方、金属酸化物膜の結晶構造の観点から考えると、本発明においては、酸の濃度を変化させることにより、段階的または連続的に、結晶構造が変化した金属酸化物膜を得ることができる。
【0019】
本発明によれば、金属酸化物膜形成用溶液を、酸の濃度を変化させつつ、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材に接触させることにより、結晶性や結晶構造の結晶状態が、段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を、簡便な方法により得ることができる。
【0020】
得られる金属酸化物膜の結晶性を変化させることの利点としては、例えば、基材と金属酸化物膜との密着性を向上させることができる点が挙げられる。例えば、基材上に直接結晶性の高い金属酸化物膜を形成すると、基材および金属酸化物膜の界面における密着性が劣る場合がある。これに対して、金属酸化物膜の基材側表面の結晶性を低くすることで界面における密着性を向上させることができる。その一方で、金属酸化物膜の基材側とは反対側の表面の結晶性を高くすることで、例えば、金属酸化物膜を触媒として利用した場合に、その反応性を向上させることができる。このように、積層方向で金属酸化物膜の結晶性等を段階的または連続的に変化させることにより、密着性および反応性に優れた金属酸化物膜等を得ることができる。
【0021】
また、例えば、光触媒性能を有する酸化チタンなどを基材に設けた積層体においては、金属酸化物膜の基材側表面を非晶質とし、その反対側表面をアナターゼ型結晶とすることで、光触媒活性による基材へのダメージを最小限に抑えつつ、外側(基材側表面とは反対側の表面)では光触媒活性を充分に発揮することが可能となる。
【0022】
得られる金属酸化物膜の結晶構造を変化させることの利点としては、例えば、基材と金属酸化物膜との界面における粒界の発生を抑制することができる点が挙げられる。具体的には、色素増感型太陽電池の酸化チタン(基材)上に設ける透明導電膜(金属酸化物膜)で考えた場合、アナターゼ型結晶を有する酸化チタン上に、立方晶のITO膜を設けると、格子整合性がうまくとれず、界面に粒界が発生して、電子伝導性が劣るだけでなく、密着性も不十分となる。これに対して、酸化チタンとの界面におけるITOが六方晶ITOであれば、立方晶ITOよりも格子整合性が合い、界面に発生する粒界を減少させることが可能となり、電子伝導性や密着性を向上させることができる。一方で、金属酸化物膜の基材側表面とは反対側の表面には、柱状の立方晶ITOが形成されているため、積層方向の電子伝導性が優れ、集電電極までスムーズに電子を伝えることができ、電池の性能を向上させることができる。
【0023】
次に、本発明の金属酸化物膜の製造方法について図面を用いて説明する。図1は、本発明の金属酸化物膜の製造方法の一例を示す説明図である。図1に示す金属酸化物膜の製造方法においては、まずジルコニウムテトラアセチルアセトナートを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aと、ジルコニウムテトラアセチルアセトナートおよび硝酸を含有し、硝酸の濃度が0.001mol/lである金属酸化物膜形成用溶液Bと、ジルコニウムテトラアセチルアセトナートおよび硝酸を含有し、硝酸の濃度が0.01mol/lである金属酸化物膜形成用溶液Cとを用意する(それぞれ、溶液A〜Cと略す)。次いで、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材1に対して、スプレー装置2を用い、溶液A〜Cを順次噴霧することによって、基材1上に金属酸化物膜を形成する方法である。この方法を用いることにより、積層方向に結晶状態が段階的に変化した金属酸化物膜を得ることができる。
【0024】
また、図2は、本発明の金属酸化物膜の製造方法の他の例を示す説明図である。図2に示す金属酸化物膜の製造方法においては、まずジルコニウムテトラアセチルアセトナートを含有する溶液Aと、金属酸化物膜の結晶状態を変化させる酸D(例えば硝酸)とを用意する。次いで、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材1に対して、スプレー装置2を用い、最初は溶液Aを噴霧し、次に溶液Aに対する酸Dの流量を徐々に増加させて噴霧することによって、基材1上に金属酸化物膜を形成する方法である。この方法を用いることにより、積層方向に結晶状態が連続的に変化した金属酸化物膜を得ることができる。
【0025】
また、本発明において、「金属酸化物膜形成温度」とは、金属源に含まれる金属元素が酸素と結合し、基材上に金属酸化物膜を形成することが可能な温度をいい、金属塩、有機金属化合物といった金属源の種類、溶媒等の金属酸化物膜形成用溶液の組成によって大きく異なるものである。本発明において、このような「金属酸化物膜形成温度」は、以下の方法により測定することができる。すなわち、実際に所望の金属源を含有する金属酸化物膜形成用溶液を用意し、基材の加熱温度を変化させて接触させることにより、金属酸化物膜を形成することができる最低の基材加熱温度を測定する。この最低の基材加熱温度を本発明における「金属酸化物膜形成温度」とすることができる。この際、金属酸化物膜が形成したか否かは、通常、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)より得られた結果から判断し、結晶性のないアモルファス膜の場合は、光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB 200i−XL)より得られた結果から判断するものとする。
【0026】
金属酸化物膜形成温度は、上述したように、用いられる金属源等の種類により異なるものであるが、通常200〜600℃の範囲内である。また、本発明において、基材の加熱温度は、金属酸化物膜形成温度以上の温度であれば特に限定されるものではないが、例えば、金属酸化物膜形成温度+300℃以下、中でも金属酸化物膜形成温度+200℃以下、特に金属酸化物膜形成温度+100℃以下であることが好ましい。基材の加熱温度は、通常300〜600℃の範囲内である。
以下、本発明の金属酸化物膜の製造方法について、各構成毎に詳細に説明する。
【0027】
1.金属酸化物膜形成用溶液
まず、本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液について説明する。本発明においては、金属源として金属塩または有機金属化合物が溶解し、かつ、金属酸化物膜の結晶状態を変化させる酸の濃度が異なる金属酸化物膜形成用溶液が用いられる。
【0028】
金属酸化物膜の結晶状態を段階的に変化させる場合、用いられる金属酸化物膜形成用溶液は、通常、2種類以上であり、中でも2種類または3種類であることが好ましい。本発明においては、金属源および酸を含有する金属酸化物膜形成用溶液を少なくとも1種類用いれば良い。そのため、酸を含有しない金属酸化物膜形成用溶液と、酸を含有する金属酸化物膜形成用溶液とを組み合わせて用いても良い。
【0029】
一方、金属酸化物膜の結晶状態を連続的に変化させる場合、用いられる金属酸化物膜形成用溶液は、通常1種類である。この場合、金属酸化物膜形成用溶液に対して、徐々に、酸を添加することにより、結晶状態が連続的に変化した金属酸化物膜が得られる。
以下、まず金属酸化物膜形成用溶液に含まれる金属源について説明し、次いで、酸、溶媒および添加剤について説明する。
【0030】
(1)金属源
まず、本発明に用いられる金属源について説明する。本発明に用いられる金属源は、通常、金属塩または有機金属化合物である。本発明においては、2種類以上の金属源を併用しても良い。
【0031】
本発明においては、上記金属源が、単独で膜を形成可能な単独膜形成可能金属源であることが好ましい。ここで、「単独膜形成可能金属源」とは、以下に示す試験において所定の基準を満たす金属酸化物膜を与える金属源をいう。すなわち、対象となる1種類の金属源、および溶媒(例えばエタノール、トルエンまたはアセチルアセトンを用いることが好ましい。)からなる金属酸化物膜形成用溶液(濃度0.1mol/l)を用意し、この金属酸化物膜形成用溶液を、超音波ネプライザ等を用いて粒径0.5〜20μm程度の液滴とし、金属酸化物膜形成温度から金属酸化物膜形成温度+100℃の範囲内で加熱した基材と1時間接触させることにより、基材上に金属酸化物膜を形成し、その後、得られた金属酸化物膜を常温まで冷却し、1cm程度の金属酸化物膜の領域を圧力0.2Pa程度でウエス等を用いて拭う試験を行う。その結果、剥離を生じない強度を有する金属酸化物膜を与える金属源を、本発明における「単独膜形成可能金属源」とする。なお、基材としては、実際に金属酸化物膜を形成する際に用いられるものを使用する。また、得られる金属酸化物膜が粉体である場合等は、ウエス等で拭った際に容易に剥離するため、単独膜形成可能金属源には該当しない。
【0032】
金属源を構成する金属元素としては、金属酸化物膜を形成可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、Mg、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、Ca、Cr、Ga、Sr、Nb、Mo、Pd、Sb、Te、Ba、WおよびTa等を挙げることができ、中でもAl、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、In、Sn、Ce、Laが好ましい。
【0033】
上記金属塩としては、金属酸化物膜を形成可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、上記金属元素を含む塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩等を挙げることができる。中でも、本発明においては、塩化物、硝酸塩、酢酸塩を使用することが好ましい。これらの化合物は汎用品として入手が容易だからである。さらに、上記金属塩としては、具体的には、塩化マグネシウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、酢酸スカンジウム、四塩化チタン、オキソ硫酸バナジウム、クロム酸アンモニウム、塩化クロム、二クロム酸アンモニウム、酢酸クロム、硝酸クロム、硫酸クロム、酢酸マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン、塩化鉄(I)、塩化鉄(III)、酢酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸アンモニウム鉄(III)、塩化コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、塩化銅、硝酸銅、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸イットリウム、塩化イットリウム、塩化酸化ジルコニウム、硝酸酸化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、塩化銀、酢酸銀、塩化インジウム、酢酸インジウム、塩化スズ、酢酸スズ、硫酸スズ、塩化セリウム、酢酸セリウム、硝酸セリウム、シュウ酸セリウム、硝酸二アンモニウムセリウム、硫酸セリウム、塩化サマリウム、硝酸サマリウム、塩化鉛、酢酸鉛、硝酸鉛、ヨウ化鉛、リン酸鉛、硫酸鉛、塩化ランタン、酢酸ランタン、硝酸ランタン、硝酸ガドリニウム、塩化ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、五塩化ニオブ、りん酸モリブデン酸アンモニウム、硫化モリブデン、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、五塩化アンチモン、三塩化アンチモン、三フッ化アンチモン、テルル酸、亜硫酸バリウム、塩化バリウム、塩素酸バリウム、過塩素酸バリウム、酢酸バリウム、硝酸バリウム、タングステン酸、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、五塩化タンタル、塩化ハフニウム、硫酸ハフニウム等を挙げることができる。
【0034】
上記有機金属化合物としては、金属酸化物膜を形成可能なものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、アセチルアセトナート系錯体を挙げることができる。上記アセチルアセトナート系錯体としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトナート、鉄(III)アセチルアセトナート、ニッケル(II)アセチルアセトナート二水和物、銅(II)アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムモノアセチルアセトナート、トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III)、クロム(III)アセチルアセトナート、コバルトアセチルアセトナート、セリウムアセチルアセトナート、ランタンアセチルアセトナート、チタンアセチルアセトナート、カルシウムアセチルアセトナート、モリブデニルアセチルアセトナート、パラジウムアセチルアセトナート等を挙げることができる。
【0035】
アセチルアセトナート系錯体以外の有機金属化合物としては、例えば、マグネシウムジエトキシド、カルシウムジ(メトキシエトキシド)、グルコン酸カルシウム一水和物、クエン酸カルシウム四水和物、サリチル酸カルシウム二水和物、チタンラクテート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、チタニウムビス(エチルヘキソキシ)ビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンペロキソクエン酸アンモニウム四水和物、ジシクロペンタジエニル鉄(II)、乳酸鉄(II)三水和物、銅(II)ジピバロイルメタナート、エチルアセト酢酸銅(II)、乳酸亜鉛三水和物、サリチル酸亜鉛三水和物、ステアリン酸亜鉛、ストロンチウムジピバロイルメタナート、イットリウムジピバロイルメタナート、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウム(IV)エトキシド、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムアセチルアセトナートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレート、ペンタ−n−ブトキシニオブ、ペンタエトキシニオブ、ペンタイソプロポキシニオブ、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)、テトラエチルすず、酸化ジブチルすず(IV)、トリシクロヘキシルすず(IV)ヒドロキシド、トリ(メトキシエトキシ)ランタン、ペンタイソプロポキシタンタル、ペンタエトキシタンタル、タンタル(V)エトキシド、クエン酸鉛(II)三水和物、シクロヘキサン酪酸鉛、トリフルオロメタンスルホン酸ガリウム(III)、ストロンチウムジピバロイルメタナート等を挙げることができる。
【0036】
また、本発明においては、上記金属源が、ジルコニウム元素を含有するジルコニウム含有金属源であることが好ましい。結晶状態が段階的または連続的に変化した酸化ジルコニウム膜を得ることができるからである。上記ジルコニウム含有金属源としては、ジルコニウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、上述したように、ジルコニウム元素を含有する金属塩であっても良く、ジルコニウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、ジルコニウム元素を含有する有機金属化合物であることが好ましい。特に本発明においては、ジルコニウム含有金属源がジルコニウムアセチルアセトネートであることが好ましい。
【0037】
金属酸化物膜形成用溶液における金属源の濃度としては、特に限定されるものではないが、例えば0.001〜1mol/lの範囲内、中でも0.01〜0.5mol/lの範囲内であることが好ましい。濃度が上記範囲内にあれば、比較的短時間で金属酸化物膜を形成することができるからである。
【0038】
また、本発明においては、金属酸化物膜のドーピングを目的としたドーピング金属源を添加することも可能である。ドーピング金属源を用いることにより、機能性酸化物膜を得ることができる。
【0039】
上記ドーピング金属源の種類は、目的とする金属酸化物膜の種類に応じて適宜選択することが好ましい。例えば固体酸化物型燃料電池の電解質として有用なイットリア安定化ジルコニア膜(YSZ膜)を得る場合は、ジルコニウム元素を有する金属源の他に、ドーピング金属源としてイットリウム元素を有する金属源を用いる。イットリウム元素を有する金属源としては、具体的には、硝酸イットリウム・六水和物等を挙げることができる。すなわち、本発明においては、上記金属源が、ジルコニウム元素を含有するジルコニウム含有金属源と、イットリウム元素を含有するイットリウム含有金属源との組み合わせであることが好ましい。結晶状態が段階的または連続的に変化したYSZ膜を得ることができるからである。なお、ジルコニウム含有金属については、上記の内容と同様である。上記イットリウム含有金属源としては、イットリウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、上述したように、イットリウム元素を含有する金属塩であっても良く、イットリウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、イットリウム元素を含有する金属塩であることが好ましい。特に本発明においては、イットリウム含有金属源が硝酸イットリウムであることが好ましい。金属酸化物膜形成用溶液に含まれる、ジルコニウム含有金属源およびイットリウム含有金属源の割合は、所望のYSZを得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば、ジルコニウム含有金属源を100とした場合に、モル換算で、イットリウム含有金属源が、3〜30の範囲内、中でも5〜20の範囲内であることが好ましい。
【0040】
また、本発明においては、上記金属源が、インジウム元素を含有するインジウム含有金属源と、スズ元素を含有するスズ含有金属源との組み合わせであることが好ましい。結晶状態が段階的または連続的に変化したITO膜を得ることができるからである。なお、上記インジウム含有金属源としては、インジウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、上述したように、インジウム元素を含有する金属塩であっても良く、インジウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、インジウム元素を含有する金属塩であることが好ましい。特に本発明においては、インジウム含有金属源が塩化インジウムであることが好ましい。一方、上記スズ含有金属源としては、スズ元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、上述したように、スズ元素を含有する金属塩であっても良く、スズ元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、スズ元素を含有する金属塩であることが好ましい。特に本発明においては、スズ含有金属源が塩化スズであることが好ましい。
【0041】
金属酸化物膜形成用溶液におけるドーピング金属源の濃度としては、特に限定されるものではないが、例えば0.001〜0.5mol/lの範囲内、中でも0.01〜0.1mol/lの範囲内であることが好ましい。
【0042】
(2)酸
次に、本発明に用いられる酸について説明する。本発明に用いられる酸は、得られる金属酸化物膜の結晶状態を変化させるものである。
【0043】
上記酸の種類としては、金属酸化物膜の結晶状態を変化させることができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、HF、HCl、HBr、HNO、HNO、HSOおよびHPO等を挙げることができ、中でも、HClおよびHNOが好ましい。本発明においては、2種類以上の酸を併用しても良い。
【0044】
金属酸化物膜形成用溶液に含まれる酸の濃度としては、例えば0.001mol/l以上、中でも0.01〜1mol/lの範囲内、特に0.05〜0.5mol/lの範囲内であることが好ましい。濃度が上記範囲に満たない場合は、金属酸化物膜の結晶状態が変化しない可能性があり、濃度が上記範囲を超える場合は、金属源等と反応し、所望の金属酸化物膜が得られない可能性があるからである。
【0045】
本発明においては、金属酸化物膜形成用溶液を塗布する直前に、酸を添加することが好ましい。金属源および酸の副反応を抑制することができるからである。
【0046】
(3)溶媒
次に、本発明に用いられる溶媒について説明する。本発明に用いられる溶媒は、上述した金属源等を溶解することができるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール;トルエン;アセチルアセトン、ジアセチル、ベンゾイルアセトン等のジケトン類;アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル蟻酸エチル等のケトエステル類;およびこれらの混合溶媒等を挙げることができる。なお、原料(金属源)との相性によっては、例えば、メタノールのみを用いた方が成膜速度が速い場合や、アセチルアセトンを混合した方が成膜速度が速い場合がある。そのため、より好ましくは水、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、アセチルアセトンまたはこれらの混合溶媒が好ましい。また、溶媒の全部または一部として、上記ジケトン類および上記ケトエステル類の少なくとも一方を用いることが好ましい。成膜性が向上するからである。
【0047】
(4)添加剤
また、本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液は、セラミックス微粒子および界面活性剤等の添加剤を含有していても良い。
【0048】
上記セラミックス微粒子を用いることにより、上記セラミックス微粒子を取り囲むように金属酸化物膜が形成され、異種セラミックスの混合膜を得ることや金属酸化物膜の体積増加を図ることができる。なお、上記セラミックス微粒子の含有量は、使用する部材の特徴に合わせて適宜選択されることが好ましい。
【0049】
上記セラミックス微粒子の種類としては、例えばITO、アルミニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、珪素酸化物、チタン酸化物、スズ酸化物、セリウム酸化物、カルシウム酸化物、マンガン酸化物、マグネシウム酸化物、チタン酸バリウム等を挙げることができる。
【0050】
また、上記界面活性剤は、上記金属酸化物膜形成用溶液と上記基材表面との界面に作用するものである。上記界面活性剤を用いることにより、金属酸化物膜形成用溶液と基材表面との接触面積を向上させることができ、均一な金属酸化物膜を得ることができる。特に、金属酸化物膜形成用溶液を噴霧により接触させる場合、上記界面活性剤の効果により、金属酸化物膜形成用溶液の液滴と基材表面とを充分に接触させることができるため、好適に使用される。なお、上記界面活性剤の使用量は、使用する金属源等に合わせて適宜選択して使用することが好ましい。
【0051】
上記界面活性剤の種類としては、例えば、サーフィノール485、サーフィノールSE、サーフィノールSE−F、サーフィノール504、サーフィノールGA、サーフィノール104A、サーフィノール104BC、サーフィノール104PPM、サーフィノール104E、サーフィノール104PA等のサーフィノールシリーズ(以上、全て日信化学工業(株)社製)、NIKKOL AM301、NIKKOL AM313ON(以上、全て日光ケミカル社製)等を挙げることができる。
【0052】
2.基材
次に、本発明に用いられる基材について説明する。本発明に用いられる基材は、上記金属酸化物膜を保持するものである。上記基材の材料としては、充分な耐熱性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばガラス、SUS、金属板、セラミック基材、耐熱性プラスチック等を挙げることができ、中でもガラス、SUS、金属板、セラミック基材を使用することが好ましい。汎用性に優れているからである。
【0053】
また、本発明に用いられる基材は、例えば、平滑な表面を有するもの、微細構造部を有するもの、穴が開いているもの、溝が刻まれているもの、多孔質であるもの、多孔質膜を備えたものであっても良い。中でも、平滑な表面を有するもの、微細構造部を有するもの、溝が刻まれているもの、多孔質であるもの、多孔質膜を備えたものが好適に使用される。
【0054】
3.酸の濃度を変化させる方法
次に、酸の濃度を変化させつつ、金属酸化物膜形成用溶液を、加熱した基材に接触させる方法について説明する。本発明において、上記酸の濃度を変化させる方法としては、結晶状態が変化した金属酸化物膜を得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば、上述した図1のように、酸の濃度を段階的に変化させた複数の金属酸化物膜形成用溶液を用いる方法、および上述した図2のように、酸の濃度を連続的に変化させた金属酸化物膜形成用溶液を用いる方法等を挙げることができる。
【0055】
上記酸の濃度を段階的に変化させた複数の金属酸化物膜形成用溶液を用いる方法により、結晶状態が段階的に変化した金属酸化物膜を得ることができる。ここで、この方法の具体例について、金属源のみを含有する金属酸化物膜形成用溶液A(溶液Aと略す。)と、金属源および酸を含有する金属酸化物膜形成用溶液B(溶液Bと略す。)と、溶液Bよりも酸の濃度が高い金属酸化物膜形成用溶液C(溶液Cと略す。)と、を用いて幾つか例示する。
【0056】
例えば、図1に示した装置を用いて、最初に溶液Aを噴霧し、次に溶液Bを噴霧し、最後に溶液Cを噴霧する方法、および最初に溶液Cを噴霧し、次に溶液Bを噴霧し、最後に溶液Aを噴霧する方法等を挙げることができる。
【0057】
一方、上記酸の濃度を段階的に変化させた金属酸化物膜形成用溶液を用いる方法により、結晶状態が連続的に変化した金属酸化物膜を得ることができる。ここで、この方法の具体例について、上述した溶液Aと、金属酸化物膜の結晶状態を変化させる酸Dと、を用いて幾つか例示する。
【0058】
例えば、図2に示した装置を用いて、最初に溶液Aを噴霧し、次に溶液Aに対する酸Dの流量を徐々に増加させて噴霧する方法、最初に溶液Aおよび酸Dの混合溶液を噴霧し、次に溶液Aに対する酸Dの流量を徐々に増加または減少させて噴霧する方法等を挙げることができる。
【0059】
4.基材と金属酸化物膜形成用溶液との接触方法
次に、本発明における基材と金属酸化物膜形成用溶液との接触方法について説明する。上記接触方法としては、上述した基材と上述した金属酸化物膜形成用溶液とを接触させる方法であれば特に限定されるものではないが、金属酸化物膜形成用溶液および基材を接触させた際に、基材の温度を低下させない方法であることが好ましい。基材の温度が低下すると成膜反応が起こらず所望の金属酸化物膜を得ることができない可能性があるからである。このような基材の温度を低下させない方法としては、例えば、金属酸化物膜形成用溶液を液滴として基材に接触させる方法等が挙げられ、中でも上記液滴の径が小さいことが好ましい。上記液滴の径が小さければ、金属酸化物膜形成用溶液の溶媒が瞬時に蒸発し、基材温度の低下をより抑制することができ、さらに液滴の径が小さいことで、均一な膜厚の金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0060】
このような径が小さい金属酸化物膜形成用溶液の液滴を基材に接触させる方法は、特に限定されるものではないが、具体的には、金属酸化物膜形成用溶液を噴霧することにより基材に接触させる方法、金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に基材を通過させる方法等が挙げられる。
【0061】
上記金属酸化物膜形成用溶液を噴霧することにより基材に接触させる方法は、例えばスプレー装置等を用いて噴霧する方法等が挙げられる。上記スプレー装置等を用いて噴霧する場合、液滴の径は、通常0.1〜1000μmの範囲内、中でも0.5〜300μmの範囲内であることが好ましい。液滴の径が上記範囲内にあれば、基材温度の低下を抑制することができ、均一な金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0062】
また、上記スプレー装置の噴射ガスとしては、金属酸化物膜の形成を阻害しない限り特に限定されるものではないが、例えば、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、酸素等を挙げることができ、中でも不活性な気体である窒素、アルゴン、ヘリウムが好ましい。また、上記噴射ガスの噴射量としては、例えば、0.1〜50l/minの範囲内、中でも1〜20l/minの範囲内であることが好ましい。また、上記スプレー装置は固定されていているもの、可動式のもの、回転によって上記溶液を噴射させるもの、圧力によって上記溶液のみを噴射させるもの等であっても良い。このようなスプレー装置としては、一般的に用いられるスプレー装置を用いることができ、例えばハンドスプレー(スプレーガンNo.8012、アズワン社製)、超音波ネプライザー(NE−U17、オムロン社製)等を用いることができる。
【0063】
また、金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に基材を通過させる方法においては、液滴の径は、通常0.1〜300μmの範囲内、中でも1〜100μmの範囲内であることが好ましい。液滴の径が上記範囲内にあれば、基材温度の低下を抑制することができ、均一な金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0064】
また、基材の加熱方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ホットプレート、オーブン、焼成炉、赤外線ランプ、熱風送風機等の加熱方法を挙げることができ、中でも基材温度を上記温度に保持しながら上記金属酸化物膜形成用溶液に接触できる方法が好ましく、具体的にはホットプレート等を使用することが好ましい。
【0065】
次に、本発明における基材と金属酸化物膜形成用溶液との接触方法について、図面を用いて具体的に説明する。上述した金属酸化物膜形成用溶液を噴霧することにより基材に接触させる方法としては、例えば、ローラーによって基材を連続的に移動させ噴霧する方法、固定された基材上に噴霧する方法、パイプのような流路に噴霧する方法等が挙げられる。
【0066】
上記ローラーによって基材を連続的に移動させ噴霧する方法としては、例えば、図3に示すように、上述した溶液Aおよび酸Dを用意し、ローラー3〜5を用いて、基材1を金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱しながら連続的に移動させ、スプレー装置2を用いて最初は溶液Aのみを噴霧し、次に溶液Aに対する酸Dの流量を徐々に増加させて噴霧することにより、金属酸化物膜を形成する方法等が挙げられる。この方法により、金属酸化物膜の積層方向と直交する方向(基材の移動方向)に結晶状態が変化した金属酸化物膜を得ることができる。
【0067】
また、上記固定された基材上に噴霧する方法は、例えば、図1または図2に示すように、ホットプレート等を用いて基材1を金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱し、スプレー装置2を用いて金属酸化物膜形成用溶液を噴霧することにより、金属酸化物膜を形成する方法等が挙げられる。この方法により、金属酸化物膜の積層方向に結晶状態が変化した金属酸化物膜を得ることができる。
【0068】
また、上述した金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に基材を通過させる方法としては、例えば、図4に示すように、ホットプレート等を用いて基材1を金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱し、溶液Aをミスト状にした空間を通過させ、次に、溶液Bをミスト状にした空間を通過させることにより、金属酸化物膜を形成する方法等が挙げられる。この方法により、金属酸化物膜の積層方向において結晶状態が変化した金属酸化物膜を得ることができる。
【0069】
5.その他
また、本発明の金属酸化物膜の製造方法においては、上述した接触方法等により得られた金属酸化物膜の洗浄を行っても良い。上記金属酸化物膜の洗浄は、金属酸化物膜の表面等に存在する不純物を取り除くために行われるものであって、例えば、金属酸化物膜形成用溶液に使用した溶媒を用いて洗浄する方法等を挙げることができる。また、本発明においては、金属酸化物膜の作製中または作製後に、紫外線の照射を行っても良い。紫外線を照射することにより、例えば金属酸化物膜の結晶性を向上させることができる。
【0070】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0072】
[参考例1]
本参考例においては、ジルコニウムテトラアセチルアセトナートを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aと、ジルコニウムテトラアセチルアセトナートおよび硝酸を含有する金属酸化物膜形成用溶液Bとを用いて、それぞれ酸化ジルコニウム膜を作製し、得られた酸化ジルコニウム膜の結晶状態(結晶性および結晶構造)を比較した。
【0073】
まず、溶媒としてエタノール50重量%、トルエン50重量%の混合溶媒を用意した。この混合溶媒に、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート(関東化学社製)を0.1mol/lとなるように溶解させ、100mlの金属酸化物膜形成用溶液Aを得た。一方、上記混合溶媒に、ジルコニウムテトラアセチルアセトナートを0.1mol/l、硝酸(1mol/l水溶液、関東化学社製)を0.005mol/lとなるように溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Bを得た。
【0074】
次に、基材として、シリコンウェハを用意した。この基材をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、金属酸化物膜形成用溶液AおよびBをそれぞれ超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーし、基材上に2種類の金属酸化物膜を得た。
【0075】
得られた2種類の金属酸化物膜を、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)を用いて測定したところ、金属酸化物膜形成用溶液Aにより形成された酸化ジルコニウム膜の結晶構造は、主に正方晶であることが確認され、金属酸化物膜形成用溶液Bにより形成された酸化ジルコニウム膜の結晶構造は、主に正方晶および単斜晶であることが確認された(図5参照)。その結果、硝酸を添加することにより、得られる金属酸化物膜の結晶構造が、正方晶から、正方晶および単斜晶に変化することを確認した。
【0076】
[実施例1−1]
<結晶状態が積層方向に段階的に変化した酸化ジルコニウム膜の作製>
まず、基材として、シリコンウェハを用意した。次に、上述した参考例1で用いた金属酸化物形成用溶液AおよびBを用意した。次に、この基材(シリコンウェハ)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、金属酸化物膜形成用溶液Aを超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーし、続いて、金属酸化物膜形成用溶液Bを同様に100mlスプレーすることにより、基材上に金属酸化物膜を得た。
【0077】
得られた金属酸化物膜を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクサイエンスシステムズ社製、H−9000UHR)を用いて観察したところ、積層方向に2段階で結晶状態が変化している様子が確認された。
【0078】
[実施例1−2]
<結晶状態が積層方向に連続的に変化した酸化ジルコニウム膜の作製>
まず、基材として、シリコンウェハを用意した。次に、上述した参考例1で用いた金属酸化物形成用溶液Aを用意した。次に、この基材(シリコンウェハ)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、金属酸化物膜形成用溶液Aを超音波ネプライザ(オムロン社製)にて300mlスプレーする際、10秒間に0.1mol/lの硝酸を0.01mlずつ添加し、基材上に金属酸化物膜を得た。
【0079】
得られた金属酸化物膜を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクサイエンスシステムズ社製、H−9000UHR)を用いて観察したところ、基材から連続的に結晶状態が変化している(境界がない)様子が確認された。
【0080】
[参考例2]
本参考例においては、ジルコニウムテトラアセチルアセトナートを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aと、ジルコニウムテトラアセチルアセトナートおよび塩酸を含有する金属酸化物膜形成用溶液Bとを用いて、それぞれ酸化ジルコニウム膜を作製し、得られた酸化ジルコニウム膜の結晶状態(結晶性および結晶構造)を比較した。
【0081】
まず、溶媒としてエタノール50重量%、トルエン50重量%の混合溶媒を用意した。この混合溶媒に、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート(関東化学社製)を0.1mol/lとなるように溶解させ、100mlの金属酸化物膜形成用溶液Aを得た。一方、上記混合溶媒に、ジルコニウムテトラアセチルアセトナートを0.1mol/l、塩酸(1mol/l水溶液、関東化学社製)を0.005mol/lとなるように溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Bを得た。
【0082】
次に、基材として、シリコンウェハを用意した。この基材をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、金属酸化物膜形成用溶液AおよびBをそれぞれ超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーし、基材上に2種類の金属酸化物膜を得た。
【0083】
得られた2種類の金属酸化物膜を、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)を用いて測定したところ、金属酸化物膜形成用溶液Aにより形成された酸化ジルコニウム膜の結晶構造は、主に正方晶であることが確認され、金属酸化物膜形成用溶液Bにより形成された酸化ジルコニウム膜の結晶構造は、主に正方晶および単斜晶であることが確認された(図6参照)。その結果、塩酸を添加することにより、得られる金属酸化物膜の結晶構造が、正方晶から、正方晶および単斜晶に変化することを確認した。
【0084】
[実施例2−1]
<結晶状態が積層方向に段階的に変化した酸化ジルコニウム膜の作製>
参考例2で使用した金属酸化物膜形成用溶液AおよびBを用いたこと以外は、実施例1−1と同様にして金属酸化物膜を得た。得られた金属酸化物膜を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクサイエンスシステムズ社製、H−9000UHR)を用いて観察したところ、積層方向に2段階で結晶状態が変化している様子が確認された。
【0085】
[実施例2−2]
<結晶状態が積層方向に連続的に変化した酸化ジルコニウム膜の作製>
参考例2で使用した金属酸化物膜形成用溶液AおよびBを用いたこと以外は、実施例1−2と同様にして金属酸化物膜を得た。得られた金属酸化物膜を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクサイエンスシステムズ社製、H−9000UHR)を用いて観察したところ、基材から連続的に結晶状態が変化している(境界がない)様子が確認された。
【0086】
[参考例3]
本参考例においては、ジルコニウムテトラアセチルアセトナートおよび硝酸イットリウムを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aと、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、硝酸イットリウムおよび塩酸を含有する金属酸化物膜形成用溶液Bとを用いて、それぞれYSZ膜を作製し、得られたYSZ膜の結晶状態(結晶性および結晶構造)を比較した。
【0087】
まず、溶媒としてエタノールを用意した。この溶媒に、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート(関東化学社製)を0.1mol/l、硝酸イットリウム(関東化学社製)を0.02mol/lとなるように溶解させ、100mlの金属酸化物膜形成用溶液Aを得た。一方、上記溶媒に、ジルコニウムテトラアセチルアセトナートを0.1mol/l、硝酸イットリウムを0.02mol/l、硝酸(1mol/l水溶液、関東化学社製)を0.005mol/lとなるように溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Bを得た。
【0088】
次に、基材として、シリコンウェハを用意した。この基材をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、金属酸化物膜形成用溶液AおよびBをそれぞれ超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーし、基材上に2種類の金属酸化物膜を得た。
【0089】
得られた2種類の金属酸化物膜を、SEM(日立製作所製、S‐4500)を用いて観察したところ、金属酸化物膜形成用溶液Aにより形成された金属酸化物膜は膜厚480nmであり、金属酸化物膜形成用溶液Bにより形成された金属酸化物膜は膜厚520nmであった。また、得られた2種類の金属酸化物膜を、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)を用いて測定したところ、金属酸化物膜形成用溶液Aにより形成されたYSZ膜よりも、金属酸化物膜形成用溶液Bにより形成されたYSZ膜の方が、結晶性が高いことが確認された(図7参照)。その結果から、塩酸を添加することにより、得られる金属酸化物膜の結晶性が向上することを確認した。
【0090】
[実施例3−1]
<結晶状態が積層方向に段階的に変化したYSZ膜の作製>
参考例3で使用した金属酸化物膜形成用溶液AおよびBを用いたこと以外は、実施例1−1と同様にして金属酸化物膜を得た。得られた金属酸化物膜を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクサイエンスシステムズ社製、H−9000UHR)を用いて観察したところ、積層方向に2段階で結晶状態が変化している様子が確認された。
【0091】
[実施例3−2]
<結晶状態が積層方向に連続的に変化したYSZ膜の作製>
参考例3で使用した金属酸化物膜形成用溶液AおよびBを用いたこと以外は、実施例1−2と同様にして金属酸化物膜を得た。得られた金属酸化物膜を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクサイエンスシステムズ社製、H−9000UHR)を用いて観察したところ、基材から連続的に結晶状態が変化している(境界がない)様子が確認された。
【0092】
[参考例4]
本参考例においては、塩化インジウムおよび塩化スズを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aと、塩化インジウム、塩化スズおよび硝酸を含有する金属酸化物膜形成用溶液Bとを用いて、それぞれITO膜を作製し、得られたITO膜の結晶状態(結晶性および結晶構造)を比較した。
【0093】
まず、溶媒としてメタノール50重量%、アセト酢酸エチル50重量%の混合溶媒を用意した。この混合溶媒に、塩化インジウム(III)四水和物(関東化学社製)を0.1mol/l、塩化スズ(II)二水和物(関東化学社製)を0.005mol/lとなるように溶解させ、100mlの金属酸化物膜形成用溶液Aを得た。一方、上記混合溶媒に、塩化インジウム(III)四水和物を0.1mol/l、塩化スズ(II)二水和物を0.005mol/l、硝酸(1mol/l水溶液、関東化学社製)を0.01mol/lとなるように溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Bを得た。
【0094】
次に、基材として、スライドガラスを用意した。この基材をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、金属酸化物膜形成用溶液AおよびBをそれぞれ超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーし、基材上に2種類の金属酸化物膜を得た。
【0095】
また、得られた2種類の金属酸化物膜を、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)を用いて測定したところ、金属酸化物膜形成用溶液Aにより形成されたITO膜の結晶構造は、主に立方晶であることが確認され、金属酸化物膜形成用溶液Bにより形成されたITO膜の結晶構造は、主に六方晶および立方晶であることが確認された(図8参照)。その結果から、硝酸を添加することにより、得られる金属酸化物膜の結晶構造が、立方晶から、六方晶および立方晶に変化することを確認した。
【0096】
[実施例4−1]
<結晶状態が積層方向に段階的に変化したITO膜の作製>
参考例4で使用した金属酸化物膜形成用溶液AおよびBを用いたこと以外は、実施例1−1と同様にして金属酸化物膜を得た。得られた金属酸化物膜を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクサイエンスシステムズ社製、H−9000UHR)を用いて観察したところ、積層方向に2段階で結晶状態が変化している様子が確認された。
【0097】
[実施例4−2]
<結晶状態が積層方向に連続的に変化したITO膜の作製>
参考例4で使用した金属酸化物膜形成用溶液AおよびBを用いたこと以外は、実施例1−2と同様にして金属酸化物膜を得た。得られた金属酸化物膜を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクサイエンスシステムズ社製、H−9000UHR)を用いて観察したところ、基材から連続的に結晶状態が変化している(境界がない)様子が確認された。
【0098】
[参考例5]
本参考例においては、基材として、スライドガラスの代わりに、多孔質酸化チタン基材を用いたこと以外は、参考例4と同様にして2種類の金属酸化物膜(ITO膜)を得た。
得られた2種類の金属酸化物膜を、SEM(日立製作所製、S‐4500)を用いて観察したところ、金属酸化物膜形成用溶液Aにより形成された金属酸化物膜は、柱状結晶が得られ、界面に粒界がはっきりと確認され、金属酸化物膜形成用溶液Bにより形成された金属酸化物膜は、界面に粒界がないことが確認された(図9参照)。その結果から、硝酸を添加することにより、金属酸化物膜の結晶状態が変化することを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の金属酸化物膜の製造方法の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の金属酸化物膜の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図3】本発明の金属酸化物膜の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図4】本発明の金属酸化物膜の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図5】参考例1のX線回折測定の結果を示すグラフである。
【図6】参考例2のX線回折測定の結果を示すグラフである。
【図7】参考例3のX線回折測定の結果を示すグラフである。
【図8】参考例4のX線回折測定の結果を示すグラフである。
【図9】参考例5の金属酸化物膜のSEM写真である。
【符号の説明】
【0100】
1 … 基材
2 … スプレー装置
3、4、5 … ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属源として金属塩または有機金属化合物が溶解し、かつ、金属酸化物膜の結晶状態を変化させる酸の濃度が異なる金属酸化物膜形成用溶液を、前記酸の濃度を変化させつつ、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材に接触させることにより、前記基材上に、結晶状態が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を形成することを特徴とする金属酸化物膜の製造方法。
【請求項2】
前記酸が、HF、HCl、HBr、HNO、HNO、HSOまたはHPOであることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項3】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、さらにドーピング金属源を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項4】
前記金属源を構成する金属元素が、Mg、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、Ca、Cr、Ga、Sr、Nb、Mo、Pd、Sb、Te、Ba、WまたはTaであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の金属酸化物膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−120410(P2009−120410A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293260(P2007−293260)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】